説明

【課題】防水性及び蒸れ防止性に優れた靴の提供。
【解決手段】靴2は、アッパー4、底部6及びインナー部材16を備えている。アッパー4は、表材18を有している。インナー部材16は、底面26、側面22,24及び甲部36を有している。底面26、側面22、24及び甲部36が、防水性シートにより形成されている。上記甲部36に貫通孔35が設けられている。好ましくは、インナー部材16の上記甲部36と上記表材18との間にダブルラッセルメッシュ材17が配置される。このダブルラッセルメッシュ材17が、インナー部材16の甲部36に接しつつこの甲部16の上側に積層されている。ダブルラッセルメッシュ材17は、アッパー4の縁部E1にまで延在し、この縁部E1において、ダブルラッセルメッシュ材17又はこのダブルラッセルメッシュ材に隣接して配された通気性部材が、靴2の外部に露出している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴に関する。より詳細には、本発明は、防水性が考慮された靴に関する。
【背景技術】
【0002】
防水性を付与する目的で、インナー部材を設けた靴が知られている。防水性と蒸れ防止性とを両立する観点から、このインナー部材として、水蒸気は通すが水滴は通さない材質が用いられる。
【0003】
防水性を高めるため、このインナー部材を所謂ブーティ構造とされる技術が提案されている。ブーティ構造のインナー部材は、単独で、靴と同じような形状である。
【0004】
ブーティ構造のインナー部材は、所定の形状に裁断された防水性シートを縫合することにより作製される。このインナー部材が記載された文献として、特開平59−160401号公報、特許第3069352号公報、特開2002−142808号公報、特開2000−83707号公報、特開2000−157306号公報、実開平4−32103号公報、特表2006−514875号公報及び特表2006−516211号公報がある。
【特許文献1】特開昭59−160401号公報
【特許文献2】特許第3069352号公報
【特許文献3】特開2002−142808号公報
【特許文献4】特開2000−83707号公報
【特許文献5】特開2000−157306号公報
【特許文献6】実開平4−32103号公報
【特許文献7】特表2006−514875号公報
【特許文献8】特表2006−516211号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
防水性を維持しつつ、蒸れ防止性が更に高い靴が望まれている。
【0006】
本発明の目的は、防水性及び蒸れ防止性に優れた靴の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る靴は、アッパー、底部及びインナー部材を備えている。上記アッパーは、表材を有している。上記インナー部材は、底面、側面及び甲部を有している。上記底面、上記側面及び上記甲部は、防水性シートにより形成されている。上記甲部に貫通孔が設けられている。
【0008】
本発明に係る他の靴は、アッパー、底部及びインナー部材を備えている。上記アッパーは、表材を有している。上記インナー部材は、底面、側面及び甲部を有している。上記底面及び上記側面は、防水性シートにより形成されている。上記甲部の少なくとも一部は、メッシュ材により形成されている。
【0009】
好ましくは、上記インナー部材の上記甲部と上記表材との間にダブルラッセルメッシュ材が配置される。好ましくは、このダブルラッセルメッシュ材は、上記インナー部材の甲部に接しつつこの甲部の上側に積層されている。好ましくは、このダブルラッセルメッシュ材又はこのダブルラッセルメッシュ材に隣接して配された通気性部材が上記アッパーの縁部にまで延在している。好ましくは、この縁部において、上記ダブルラッセルメッシュ材又は上記通気性部材が、靴の外部に露出する露出部を有している。
【0010】
好ましくは、上記露出部は、上記ダブルラッセルメッシュ材の端面であり、この端面が、上記アッパーの鳩目穴の左右方向内側に位置している。
【0011】
好ましくは、上記露出部は、上記ダブルラッセルメッシュ材又は上記通気性部材の端面を覆うように曲がっている曲がり部を有する。
【発明の効果】
【0012】
インナー部材に設けられたメッシュ材又は貫通孔により、通気性が向上しうる。メッシュ材又は貫通孔は甲部に設けられているので、防水性が維持されうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0014】
なお、本願においては、特に説明した場合を除き、「上側」とは靴を単独で接地面P1上に静置した場合の鉛直方向上側を意味し、「下側」とは靴を単独で接地面P1上に静置した場合の鉛直方向下側を意味し、「高さ」とは靴を単独で接地面P1上に静置した場合の当該接地面P1からの高さ(鉛直方向距離)を意味し、「内側」とは靴の内側を意味し、「外側」とは靴の外側を意味する。接地面P1は、水平な平面である。
【0015】
図1は、本発明の第一実施形態に係るゴルフ靴2が示された側面図であり、図2は靴2の一部切り欠き側面図である。図3は、靴2を上からみた平面図である。なお図2及び図3では、靴紐の記載が省略されている。
【0016】
このゴルフ靴2は、アッパー4及び底部6を備えている。底部6は、インソール8、ミッドソール10及びアウトソール12を備える。インソール8は、ミッドソール10と積層されている。ミッドソール10は、アウトソール12と積層されている。アウトソール12は、その下面に、下方に向けて突出する多数の突起14を備えている。インソール8の材質及び構造は、既知のインソールのそれと同等である。ミッドソール10の材質及び構造は、既知のミッドソールのそれと同等である。アウトソール12の材質及び構造は、既知のアウトソールのそれと同等である。
【0017】
なお、図1は、右足用の靴2をインサイド側からみた側面図である。図示しない左足用の靴2は、右足用の靴2が左右反転された構成を有する。
【0018】
図2が示すように、靴2は、インナー部材16を有している。インナー部材16の一部(上側の部分)は、アッパー4の表材18の内側に配置されている。インナー部材16の他の一部(下側の部分)は、インソール8とミッドソール10との間に配置されている。
【0019】
インナー部材16は、履き口19の近傍でのみ表材18と縫合され、他の部分では表材18と縫合されていない。
【0020】
表材18は、人工皮革により形成されている。また表材18には、防水加工が施されている。
【0021】
なお、好ましい表材18の材質は、人工皮革、合成皮革又は天然皮革である。人工皮革として、不織布をベースにした皮革材料が挙げられる。この不織布として、ナイロン繊維又はポリエステル繊維により構成され、発泡ウレタンがバインダーとされた不織布が例示される。表面にウレタン層が設けられた人工皮革であってもよい。人工皮革の具体例として、クラレ社製の商品名「クラリーノ」、帝人社製の商品名「コードレ」等が挙げられる。合成皮革は、織布及び/又は編布がベースとされている。合成皮革の具体例として、ビニルレザーが挙げられる。ビニルレザーは、表面が塩化ビニルよりなる。天然皮革として、例えば、牛革、カンガルー革及び豚革が挙げられる。
【0022】
アッパー4は、ダブルラッセルメッシュ材17と、表材18と、補強部材20と、ベロ21とを有している。この補強部材20は、アッパー4の表材18と縫合されている。本実施形態では、靴2のインサイド側に2本の補強部材20が設けられている。図3が示すように、靴2のアウトサイド側にも、2本の補強部材20が設けられている。補強部材20は、アッパー4の形状を保持するのに寄与している。
【0023】
補強部材20は、表材18よりも硬い。補強部材20は、表材18に比べて曲がりにくい。補強部材20は、樹脂よりなる。補強部材20は、アッパー4の剛性を高めうる。図1が示すように、補強部材20は、底部6の土踏まず部付近から斜め前方に延びている。
【0024】
補強部材20の材質として、例えば、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が挙げられる。射出成形が可能であり生産性に優れた熱可塑性樹脂が好ましい。なお、射出成形以外に、熱圧縮成形(シート部材の熱圧縮成形等)も採用されうる。この熱可塑性樹脂として、塩化ビニル、ナイロン、シリコン、ポリエステル、ポリウレタン等が挙げられる。アッパー4の動きに追従しうる柔軟性、耐屈曲性及び耐久性の観点から、より好ましい補強部材20の材質は熱可塑性エラストマーであり、更には好ましくは熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)がよい。補強部材20は、透明性を有していてもよい。
【0025】
図1及び図3が示すように、アッパー4は、鳩目孔23を有している。本実施形態では、左右に5個ずつ、合計10個の鳩目孔23が設けられている。鳩目孔23のそれぞれには、鳩目金具25が取り付けられている。鳩目金具25には、靴紐27が挿通されている。
【0026】
図2が示すように、ダブルラッセルメッシュ材17は、表材18とインナー部材16との間に配置されている。ダブルラッセルメッシュ材17は、インナー部材16の上側に設けられている。ダブルラッセルメッシュ材17は、インナー部材16に接している。
【0027】
図4は、インナー部材16の斜視図である。インナー部材16は、ブーティ構造である。インナー部材16は、履き口以外は開口していない袋状とされている。インナー部材16は、単独で、靴のような形状を呈する。ブーティ構造のインナー部材16により、防水性が高められている。
【0028】
図5は図4のV−V線に沿った断面図であり、図6は図4のVI−VI線に沿った断面図である。図7及び図8は、インナー部材16を構成するシートの平面図である。インナー部材16は、図7で示され2枚のシートと、図8で示された1枚のシートとから構成されている。インナー部材16は、3枚のシートが縫合されてなる。
【0029】
図4、図5及び図6が示すように、インナー部材16は、側面としての右側面22及び左側面24を有している。更にインナー部材16は、底面26及び上面28を有する。
【0030】
図7では、右側シート30と、左側シート32とが示されている。図8では、上側シート34が示されている。これらのシート30、32及び34が縫合されて、インナー部材16が形成されている。
【0031】
右側シート30の底部接合縁30aと、左側シート32の底部接合縁32aとが接合されて、底部縦断境界線k1(図4、図5及び図6参照)が形成されている。この境界線k1は、底面26の長手方向に略沿って延びている。
【0032】
底面26は、右側シート30と左側シート32とにより構成されている。底面26の全てが、右側シート30と左側シート32とにより構成されている。底面26の右側部分は、右側シート30により構成されている。底面26の左側部分は、左側シート32により構成されている。
【0033】
なお、底面26の少なくとも一部が、防水性ガスケット材により構成されていてもよい。好ましい防水性ガスケット材は、不織布に防水加工が施されたものであり、より好ましくは、ホットメルト樹脂によりコーティングされた不織布である。この防水性ガスケット材は、一般に、後述される防水性シートよりも安価である。よって、防水性シートが防水性ガスケット材に置換されることにより、コストダウンが達成されうる。
【0034】
右側シート30の底部前方接合縁30bと、右側シート30の側部前方接合縁30cとが接合されて、底部前方境界線k2(図4参照)が形成されている。
【0035】
左側シート32の底部前方接合縁32bと、左側シート32の側部前方接合縁32cとが接合されて、底部前方境界線k3(図4参照)が形成されている。
【0036】
右側シート30の底部後方接合縁30dと、右側シート30の側部後方接合縁30eとが接合されて、底部後方境界線k4(図4参照)が形成されている。
【0037】
左側シート32の底部後方接合縁32dと、左側シート32の側部後方接合縁32eとが接合されて、底部後方境界線k5(図4参照)が形成されている。
【0038】
右側シート30の爪先部接合縁30fと、左側シート32の爪先部接合縁32fとが接合されて、爪先部境界線k6(図4参照)が形成されている。
【0039】
インナー部材16において、爪先部境界線k6は、上下方向長さを有している。爪先部境界線k6は、右側面22と左側面24との境界を形成している。
【0040】
右側シート30の踵部接合縁30gと、左側シート32の踵部接合縁32gとが接合されて、踵部境界線k7(図4参照)が形成されている。
【0041】
インナー部材16において、踵部境界線k7は、上下方向長さを有している。踵部境界線k7は、右側面22と左側面24との境界を形成している。
【0042】
爪先部境界線k6及び踵部境界線k7により、インナー部材16の側面が立ち上がりやすくなる。即ち、爪先部境界線k6及び踵部境界線k7により、曲がり部b1及び曲がり部b2の形成が確実となり、且つ、曲がり部b1、b2の位置精度が高まる。よってインナー部材16は、ラストに沿いやすい。
【0043】
上側シート34の縁34aと、右側シート30の上側縁30hとが接合されて、上面右側境界線k9(図4及び図5参照)が形成されている。
【0044】
上側シート34の縁34aと、左側シート32の上側縁32hとが接合されて、上面左側境界線k10(図4及び図5参照)が形成されている。
【0045】
インナー部材16では、上面28と他の部分とが、それぞれ別々のシートにより形成されている。よってインナー部材16は、その上面28と側面22、24との境界k9、k10が、シートの継ぎ目とされている。この構成により、上面28と側面22,24との境界k9、k10に折り目が形成されやすくなり、インナー部材16がラストに沿いやすくなる。
【0046】
図4から図7において二点鎖線b1で示されているのは、右側面22と底面26との間の境界を形成する曲がり部である。図4から図7において二点鎖線b2で示されているのは、左側面24と底面26との間の境界を形成する曲がり部である。曲がり部b1は、右側シート30が曲げられて形成されている。曲がり部b1は、実際には、線として視認されない。曲がり部b2は、左側シート32が曲げられて形成されている。曲がり部b2は、実際には、線として視認されない。
【0047】
右側シート30、左側シート32及び上側シート34は、防水性シートである。この防水性シートは、防水フィルムを含む。
【0048】
上記防水性シートは複数層とされている。この複数層のうちの1層が、防水フィルムにより構成された防水フィルム層である。この複数層の防水性シートは、内層と外層と防水フィルム層とを有する。防水フィルム層は内層と外層との間に設けられている。透湿性を損なわないようにする目的で、防水フィルム層と他の層との接着は、点接着によりなされるのが好ましい。防水性シートの内層及び外層に用いられうる材質として、織物、ニット、メッシュ材、不織布、フェルト等が挙げられる。
【0049】
防水フィルム層の内側に設けられた内層は、足に当接する。このため内層としては、吸水性及び吸湿性に優れたものが好ましく、例えばナイロンメッシュ材が用いられる。最内層(ナイロンメッシュ材層)と防水フィルム層との間に、ウレタン発泡スポンジ層が設けられてもよい。このウレタン発泡スポンジ層は、足当たりを良好にするのに寄与する。好ましくは、このウレタン発泡スポンジ層の厚みは、2〜3mmとされる。
【0050】
防水フィルム層の外側に設けられる外層として、ナイロントリコット材層が好ましい。このナイロントリコット材として、例えば、3030ナイロントリコット材が挙げられる。
【0051】
上記防水フィルムは、防水性と透湿性とを兼ね備えている。この防水フィルムの材質として、ポリテトラフルオロエチレン及びポリウレタンが例示される。この防水フィルムは、水蒸気は通すが、水滴は通さない。
【0052】
この防水フィルムの機能に起因して、上記防水性シートは、水蒸気は通すが、水滴は通さない。この防水性シートは、防水性と透湿性とを兼ね備えている。
【0053】
図4、図5及び図8が示すように、上側シート34には、貫通孔35が設けられている。貫通孔35は、複数設けられている。貫通孔35は、通気孔として機能しうる。インナー部材16の甲部36に貫通孔35が設けられている。
【0054】
貫通孔35は、水滴を通過させうる。ただし、貫通孔35の外側には、表材18が存在する(図2参照)。この表材18が、外部からの水の侵入を抑制しうる。図2が示すように、貫通孔35の外側に配置されているアッパー4(表材18)には、靴の外部に露出する縫い目N1が存在しない。よって、貫通孔35の外側に配置されているアッパー(表材18)には、外部にまで貫通する貫通孔が存在しない。図1及び図2が示すように、アッパー4には、靴の外部に露出している縫い目N1が存在するが、この縫い目N1は、貫通孔35の外側には存在しない。図2において、縫い目N1は、太線で示されている。よって、靴2の外部から貫通孔35への水の侵入が抑制されている。
【0055】
貫通孔35は、通気孔として機能しうる。貫通孔35により、通気性が高められ得る。貫通孔35により、蒸れ防止性能が向上しうる。
【0056】
人間の動作(歩行動作等)に伴い、靴は、地面への接触と地面からの離間とを繰り返す。地面から離間する際に、中底表面37(図2及び図3参照)と足との間に隙間が発生しうる。地面へ接触する際(踏み込みの際)には、体重により、中底表面37と足との間の隙間に存在する空気が押圧される。この押圧により、この隙間の空気が、上方に移動しうる。上方に移動した空気は、貫通孔35を内側から外側に向かって通過しうる。この空気の流れにより、靴2の内部の湿気が効果的に排出されうる。
【0057】
一般に、靴2の甲部に付着する水滴は水圧が低い。したがって、貫通孔35がインナー部材16の甲部に設けられている場合であっても、この貫通孔35からの水の侵入は起こりにくい。貫通孔35の外部には表材18が設けられている。この表材18は、靴2の外部から貫通孔35への水の侵入を抑制しうる。表材18には防水処理が施されているので、靴2の防水性は高い。更に、前述したように、貫通孔35の外側に配置されているアッパー4(表材18)には、靴の外部に露出する縫い目N1が存在しない。よって、靴2の防水性が更に高められている。
【0058】
図2において両矢印Hhで示されているのは、最も下側にある貫通孔35の高さである。防水性を高める観点から、高さHhは、4cm以上が好ましく、4.5cm以上がより好ましく、5cm以上が更に好ましい。靴2の大きさを考慮すると、高さHhは、通常、9cm以下、より好ましくは8cm以下である。
【0059】
前述したように、インナー部材16は、3枚の防水性シート30、32及び34を繋げて形成されている。右側シート30は、インナー部材16の右側面22と、底面26の右側部分とを構成している。前述したように、この右側シート30は、曲がり部b1を形成している。同様に、左側シート32は、曲がり部b2を形成している。これらの曲がり部b1、b2が、インナー部材16の底面とインナー部材16の側面との間の境界を形成している。
【0060】
以下において、インナー部材16の底面26とインナー部材16の側面22、24との間の境界が、底面境界ksとも称される。
【0061】
靴が使用されると、靴は繰り返し屈曲される。この屈曲により、インナー部材16の継ぎ目に負担がかかる。靴の屈曲によりインナー部材の継ぎ目が破れた場合、水が靴の内部に侵入しやすくなる。本発明者は、靴の屈曲により、インナー部材16の底面境界ksには特に大きな負担がかかることを見いだした。底面境界ksに継ぎ目が存在する場合、この継ぎ目は、他の継ぎ目よりも破れやすい。また、底面境界ksに破れが生じた場合、浸水が発生しやすい。なぜならこの底面境界ksは、靴底に近い位置、即ち低い位置にあるからである。
【0062】
本実施形態では、インナー部材16を形成するためのシートとして、右側シート30及び左側シート32を用いた。これにより、底面境界ksに配置される継ぎ目が少なくされている。換言すれば、底面境界ksの少なくとも一部が、曲がり部b1、b2とされている。曲がり部b1により、底面境界ksに存在するシートの継ぎ目が少なくなる。よって、インナー部材16は、屈曲耐久性に優れる。
【0063】
なお、本発明において、インナー部材16を構成するシートの形状(裁断パターン)は、限定されない。例えば、前述した右側シート30と左側シート32とが一体とされた一枚のシートが用いられてもよい。インナー部材は、1枚のシートからなるものでもよいし、2枚のシートを接合してなるものでもよいし、上記インナー部材16の如く3枚のシートを接合してなるものでもよいし、4枚以上のシートを接合してなるものでもよい。
【0064】
インナー部材16の製造方法の一例は、次の工程を含む。
(工程1)防水性シートを裁断して複数枚のシート(右側シート30、左側シート32及び上側シート34)を得る。
(工程2)上側シート34に貫通孔35を設ける。
(工程3)複数の防水性シート30、32及び34を接合して、靴のような形状のインナー部材16を得る。
【0065】
工程3において、各シート同士の接合は、縫合である。継ぎ目に段差が生じないようにするために、継ぎ目においてシート同士は重ねられない。即ち、シート同士は、互いに突き合わされた状態で縫合される(図2、図5及び図6を参照)。この縫合の形態として、例えば、千鳥縫いやオーバーロック縫いが用いられる。
【0066】
インナー部材16の内部への水の侵入を抑制する観点から、シート同士を縫合する縫い糸は、吸水性が低くされるのが好ましい。インナー部材16の内部への水の侵入を抑制する観点から、シート同士の縫い目には、シーリングが施されているのが好ましい。このシーリングの方法として、加熱によるシーリング(熱シーリング)が好適である。熱シーリングには、熱可塑性ホットメルト型接着フィルムが好適に用いられ、この接着フィルムがコーティング又はラミネートされた接着テープも好適に用いられる。
【0067】
図3において、ダブルラッセルメッシュ材17の輪郭線が波線で示されている。ダブルラッセルメッシュ材17は、靴2の甲部から鳩目孔23の周囲にまで延在している。ダブルラッセルメッシュ材17は、鳩目孔23の左右方向内側にまで延在している。この「左右方向」とは、靴2の左右方向を意味する。鳩目孔23の左右方向内側には、アッパー4の縁部E1が存在する(図2及び図3参照)。ダブルラッセルメッシュ材17は、この縁部E1にまで延在している。
【0068】
この縁部E1において、ダブルラッセルメッシュ材17の端面T1が、靴2の外部に露出している(図2及び図3参照)。本実施形態では、この端面T1が露出部Rである。なお、アッパー4の縁部E1は、鳩目穴23の左右方向内側の他、靴2の履き口19にも存在する。
【0069】
なお、ダブルラッセルメッシュ材17の端面T1の配置は限定されない。端面T1は、靴の外部に露出していてばよい。端面T1は、鳩目穴23の左右方向内側の他、例えば、靴2の履き口に配置されてもよい。またダブルラッセルメッシュ材17の端面T1が、鳩目穴23の内周面とされてもよい。この場合、鳩目金具25を設けない構成により、端面T1が靴の外部に露出しうる。
【0070】
図2において両矢印Htで示されているのは、上記端面T1の最低点の高さである。防水性の観点から、高さHtは、5cm以上が好ましく、6cm以上がより好ましく、7cm以上が更に好ましい。靴の大きさを考慮すると、高さHtは、通常、15cm以下、更には13cm以下とされる。
【0071】
図9は、ダブルラッセルメッシュ材17の平面図である。ダブルラッセルメッシュ材17には、鳩目孔23に対応した位置に、孔39が設けられている。孔39は、アッパー4の厚み方向において鳩目穴23の一部を形成している。
【0072】
図9が示すように、ダブルラッセルメッシュ材17の外周に存在する側面(断面)が、端面T1である。この端面T1のうちの一部が、靴2の外部に露出している。この端面T1のうちの一部が、アッパー4の縁部E1において靴2の外部に露出している。
【0073】
靴2の外部に露出する端面T1により、靴2の通気性が高められ得る。この通気性の向上は、ダブルラッセルメッシュ材17の機能に起因する。ダブルラッセルメッシュ材17は、その層内における通気性(層内通気性)が高い。この層内通気性は、ダブルラッセルメッシュ材17の構造に起因する。
【0074】
図示しないが、ダブルラッセルメッシュ材17は、表側メッシュ層と、裏側メッシュ層と、中間層とから構成されている。中間層は、表側メッシュ層と裏側メッシュ層との間に設けられている。中間層は、表側メッシュ層と裏側メッシュ層とを連結している。典型的なダブルラッセルメッシュ材は、一体的な編み物である。即ち、表側メッシュ層と裏側メッシュ層と中間層とが一体的に編成されている。
【0075】
複数のメッシュ層及び中間層の存在により、ダブルラッセルメッシュ材17の層内通気性が奏される。特に中間層は、層内通気性を高めるのに寄与している。
【0076】
なお、ダブルラッセルメッシュ材17の表側メッシュ層及び裏側メッシュ層は、メッシュ材により構成されている。これらのメッシュ材は、ラッセル編みで形成された編み物である。これらのメッシュ材は、多数の貫通孔を有している。これらのメッシュ材は、通気性及び柔軟性に優れる。ダブルラッセルメッシュ材17も、通気性及び柔軟性に優れる。
【0077】
インナー部材16の貫通孔35から排出された空気は、ダブルラッセルメッシュ材17の内部に入る。ダブルラッセルメッシュ材17の内部に入った空気は、ダブルラッセルメッシュ材17の層内を移動しうる。換言すれば、ダブルラッセルメッシュ材17の内部に入った空気は、ダブルラッセルメッシュ材17の内部を、ダブルラッセルメッシュ材17の表面に対して略平行な方向に移動しうる。この空気は、ダブルラッセルメッシュ材17の層内を移動して、端面T1に至り、この端面T1から靴2の外部へと排出される。このように、ダブルラッセルメッシュ材17により、通気性が高められている。図9に波線矢印で示されているのは、ダブルラッセルメッシュ材17の層内における空気の流れの一例である。
【0078】
ダブルラッセルメッシュ材17に縫合がなされると、この縫合部分においてダブルラッセルメッシュ材17が圧縮され、層内通気性が減少する。ダブルラッセルメッシュ材17の層内における通気性を高める観点から、ダブルラッセルメッシュ材17は、その端面T1を両端とする縫合線を有さないのが好ましい。端面T1から湿気が排出されやすくする観点から、端面T1から5mmの範囲においてダブルラッセルメッシュ材17は縫合されていないのが好ましく、端面T1から10mmの範囲においてダブルラッセルメッシュ材17は縫合されていないのがより好ましく、端面T1から15mmの範囲においてダブルラッセルメッシュ材17は縫合されていないのが更に好ましい。
【0079】
ダブルラッセルメッシュ材17の材質として、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維及びポリプロピレン繊維が挙げられる。
【0080】
図10は、本発明の第二実施形態に係る靴40の一部切り欠き側面図である。この靴40は、アッパー4と、底部6と、インナー部材42とを有する。アッパー4は、ダブルラッセルメッシュ材17を有する。
【0081】
前述した第一実施形態の靴2と靴40との相違は、インナー部材の構成のみである。前述した靴2のインナー部材16と、本実施形態に係るインナー部材42との相違は、上面の構成のみである。
【0082】
図11は、インナー部材42の斜視図である。インナー部材42の上面44は、メッシュ材46と、上側シート48とを有する。上側シート48は、前述した防水性シートによりなる。
【0083】
図12は、メッシュ材46及び上側シート48の平面図である。上面44は、メッシュ材46の後方縁46aと、上側シート48の前方縁48aとが接合されてなる。この後方縁46aと前方縁48aとの接合により、上面横断境界線k8(図11参照)が形成されている。境界線k8は、メッシュ材46と上側シート48との境界である。
【0084】
図13は、メッシュ材46の設置範囲が波線ハッチングで示された靴40の側面図である。なお前述したように、メッシュ材46は、表材18の内部に配置されており、靴40の外部から視認されない。
【0085】
メッシュ材46は、通気性に優れる。このメッシュ材46により、インナー部材42の通気性が向上しうる。
【0086】
メッシュ材46を内側から外側へと透過した空気は、ダブルラッセルメッシュ材17の内部に入る。ダブルラッセルメッシュ材17の内部に入った空気は、ダブルラッセルメッシュ材17の層内を移動しうる。換言すれば、ダブルラッセルメッシュ材17の内部に入った空気は、ダブルラッセルメッシュ材17の内部を、ダブルラッセルメッシュ材17の表面に対して略平行な方向に移動しうる。この空気は、ダブルラッセルメッシュ材17の層内を移動して、端面T1に至り、この端面T1から靴40の外部へと排出される。このように、ダブルラッセルメッシュ材17により、通気性が高められている。メッシュ材46により、靴40の内部からダブルラッセルメッシュ材17への通気が良好となるので、靴40の蒸れ防止性が向上しうる。
【0087】
メッシュ材46は、水滴を通過させうる。ただし、メッシュ材46の外側には、表材18が存在する(図10参照)。この表材18が、外部からの水の侵入を抑制しうる。図10及び図13が示すように、メッシュ材46の外側に配置されているアッパー4(表材18)には、靴40の外部に露出する縫い目N1が存在しない。よって、メッシュ材46の外側に配置されているアッパー4(表材18)には、外部にまで貫通する貫通孔が存在しない。図10及び図13が示すように、アッパー4には、靴の外部に露出している縫い目N1が存在するが、この縫い目N1は、メッシュ材46の外側には存在しない。よって、靴40の外部からメッシュ材46への水の侵入が抑制されている。
【0088】
人間の動作(歩行動作等)に伴い、靴は、地面への接触と地面からの離間とを繰り返す。地面から離間する際に、中底表面37(図10参照)と足との間に隙間が発生しうる。地面へ接触する際(踏み込みの際)には、体重により、中底表面37と足との間の隙間に存在する空気が押圧される。この押圧により、この隙間の空気が、上方に移動しうる。上方に移動した空気は、メッシュ材46の内側から外側へと透過しうる。この空気の流れにより、靴40の内部の湿気が効果的に排出されうる。
【0089】
一般に、靴40の甲部に付着する水滴は水圧が低い。したがって、メッシュ材46が靴40の甲部に設けられている場合であっても、外部からの水の侵入は起こりにくい。メッシュ材46の外部には表材18が設けられている。この表材18は、靴40の外部からメッシュ材46への水の侵入を抑制しうる。表材18には防水処理が施されているので、靴40の防水性は高い。更に、前述したように、メッシュ材46の外側に配置されているアッパー4(表材18)には、靴の外部に露出する縫い目N1が存在しない。よって、靴40の防水性が更に高められている。
【0090】
メッシュ材46は、柔軟性及び伸縮性に優れる。よって、インナー部材42の甲部にメッシュ材46が用いられることにより、インナー部材42の前方部(爪先寄りの部分)がラストに沿いやすくなる。
【0091】
図13において両矢印Hmで示されているのは、メッシュ材46の最低点の高さである。防水性を高める観点から、高さHmは、4cm以上が好ましく、4.5cm以上がより好ましく、5cm以上が更に好ましい。靴40の大きさを考慮すると、高さHmは、通常、9cm以下、更には8cm以下が好ましい。
【0092】
図14は、本発明の第三実施形態に係る靴50の一部切り欠き側面図である。靴50は、アッパー4と、底部6と、インナー部材52とを有する。図15は、インナー部材52の斜視図である。図16は、このインナー部材52に用いられている上側シート54、透水性部材56及びシーリング58を示す斜視図である。この靴50と靴40との相違点は、以下の(a)、(b)、(c)及び(d)のみであり、他の構成は靴40と同じである。
【0093】
(a)上側シート54の前端部54aが上側に曲げられている。
(b)この前端部54aの上側(内側)に、透水性部材56が配置されている。
(c)上側シート54とメッシュ材46とは、互いに突き合わされて縫合されているのではなく、メッシュ材46の上側に上側シート54が重ねられた状態で縫合されている(図14参照)。
(d)上側シート54とメッシュ材46との縫合部分に、シーリング58が設けられている(図16参照)。
【0094】
図14から図16が示すように、上側シート54の前端部54aは上側に曲げられている。上側シート54は、前方にいくほど下がるように傾斜している。よって、前端部54aは、上側シート54の下端部である。上側に曲げられた前端部54aにより、上側シート54の表面にある水滴がメッシュ材46に流れることが抑制される。前端部54aにより捕捉された水滴は、前端部54aの左右両端から側面22、24へと流れる。この前端部54aにより、防水性がより一層向上しうる。
【0095】
透水性部材56は、棒状の部材である。透水性部材56は、前端部54aが上側に曲げられてなる形状を保持する役割を果たす。この透水性部材56により、通水路が確保される。また透水性部材56自体が吸水性を有する場合、この吸水性により、メッシュ材46への水の流下が抑制される。
【0096】
なお、透水性部材56の材質は限定されない。透水性部材56の材質として、スポンジ、メッシュ等が挙げられる。また、透水性部材56として、多孔性の材質よりなる管等も採用されうる。なお、透水性部材56は設けられなくてもよい。
【0097】
シーリング58は、上側シート54とメッシュ材46との縫い目N2を塞ぐ役割を果たす。縫い目N2は、図14において太線で示されている。図16では、縫い目N2の位置が波線で示されている。シーリング58の材質等は、前述した通りである。なお、図14では、シーリング58の断面の記載が省略されている。シーリング58により、縫い目N2からの水の侵入が防止される。
【0098】
図17は、本発明の第四実施形態に係る靴60を上から見た平面図である。靴60は、アッパー62を有している。アッパー62は、ダブルラッセルメッシュ材64を有している。前述した靴2と靴60との相違は、アッパーの縁部E1におけるダブルラッセル材の形態及び後述する縫い目N3、N4の存在であり、この相違を除き、靴60の構成は靴2と同じである。
【0099】
図18は、図17のA−A線に沿った断面図である。なお図18には、ベロ21よりも外側(上側)の部分のみが示されている。ダブルラッセルメッシュ材64は、アッパーの縁部E1にまで延在している。ダブルラッセルメッシュ材64の端部と、表材18の端部とが、縫い目N3により縫合されている。表材18は、端面18aを有する。ダブルラッセルメッシュ材64は、端面66を有する。ダブルラッセルメッシュ材64の端面66と、表材18の端面18aとが略面一とされた状態で、ダブルラッセルメッシュ材64と表材18とが縫合されている。更に表材18とダブルラッセルメッシュ材64とは、縫い目N4により縫合されている。縫い目N4は、縫い目N3と比較して、端面66から離れている。縫い目N4は、縫い目N3と比較して、端面18aから離れている。
【0100】
図18において符号Lで示されるのは、端面18aから最も離れている点において露出部Rの外面に接する接線である。上記縫い目N4に代えて、縫い目N41が設けられても良い。縫い目N41は、接線Lよりも端面18aに近い。縫い目N41は、露出部Rにより隠されている。縫い目N41は、外部から視認されない。又は、縫い目N41は、外部から視認されにくく、目立たない。縫い目N41が設けられた形態では、縫い目が目立たなくなるため、外観性が向上しうる。
【0101】
図18が示すように、ダブルラッセルメッシュ材64の端部は、折り返されつつ表材18の上側に縫合されている。ダブルラッセルメッシュ材64は、靴60の外部に露出する露出部Rを有する。表材18の縁が、ダブルラッセルメッシュ材64により覆われている。露出部Rは、ダブルラッセルメッシュ材64の端面66を覆うように曲がっている曲がり部m1を有する。端面66は、露出部Rの内側に位置している。露出部Rにより、端面66が隠蔽されている。端面18aは、露出部Rの内側に位置している。露出部Rにより、端面18aが隠蔽されている。図17が示すように、露出部Rは、鳩目穴23の左右方向内側に位置している。露出部Rは、鳩目穴23の左右方向内側に位置するアッパーの縁部E1に沿って延在している。このようなダブルラッセルメッシュ材64の縁部の形態は、パイピングとも称される。ダブルラッセルメッシュ材64の縁部はパイピング処理されている。表材18の縁部が、ダブルラッセルメッシュ材64によってパイピングされている。
【0102】
図19は、図18の実施形態の変形例の断面図である。なお図19には、ベロ21よりも外側(上側)の部分のみが示されている。図19(a)に係る靴は、ダブルラッセルメッシュ材68と、表材18と、通気性部材70とを有する。図19(a)に係る靴は、上記靴60におけるダブルラッセルメッシュ材64の縁部が通気性部材70によって置換された形態を有しており、その他の構成は上記靴60と同じである。通気性部材70は、一端面70aと他端面70bとを有する。ダブルラッセルメッシュ材68は、端面68aを有する。
【0103】
通気性部材70は、ダブルラッセルメッシュ材68に隣接している。通気性部材70とダブルラッセルメッシュ材68とは突き合わされている。通気性部材70の端面70bとダブルラッセルメッシュ材68の端面68aとが突き合わされている。好ましい通気性部材70は、ダブルラッセルメッシュ材よりなる。ダブルラッセルメッシュ材68と通気性部材70とは互いに別部材である。端面68aと端面70bとの接触面を、空気が透過しうる。湿気を含んだ空気は、ダブルラッセルメッシュ材68から通気性部材70へと移動しうる。
【0104】
通気性部材70は、アッパーの縁部E1にまで延在している。通気性部材70の一端部と表材18の端部とが、縫い目N3により縫合されている。通気性部材70の端面70aと表材18の端面18aとが略面一とされた状態で、通気性部材70と表材18とが縫合されている。更に通気性部材70の他端部と表材18とは、縫い目N4により縫合されている。縫い目N4は、縫い目N3と比較して、端面70aから離れている。縫い目N4は、縫い目N3と比較して、端面18aから離れている。
【0105】
図19(a)において符号Lで示されるのは、端面18aから最も離れている点において露出部Rの外面に接する接線である。上記縫い目N4に代えて、縫い目N41が設けられても良い。縫い目N41は、接線Lよりも端面18aに近い。縫い目N41は、露出部Rにより隠されている。縫い目N41は、外部から視認されない。又は、縫い目N41は、外部から視認されにくく、目立たない。縫い目N41が設けられた形態では、縫い目が目立たなくなるため、外観性が向上しうる。
【0106】
図19(a)が示すように、通気性部材70は、折り返されつつ表材18の上側に縫合されている。通気性部材70は、靴の外部に露出する露出部Rを有する。通気性部材70は、その端面70aを覆うように曲げられている。露出部Rは、通気性部材70の端面70aを覆うように曲がっている曲がり部m1を有する。表材18の縁は、通気性部材70により覆われている。端面70aは、露出部Rの内側に位置している。露出部Rにより、端面70aが隠蔽されている。端面18aは、露出部Rの内側に位置している。露出部Rにより、端面18aが隠蔽されている。端面68a及び端面70bの上側には、表材18が存在する。端面68a及び端面70bは、表材18により隠蔽されている。露出部Rは、鳩目穴23の左右方向内側に位置している。露出部Rは、鳩目穴23の左右方向内側に位置するアッパーの縁部E1に沿って延在している。このような通気性部材70の縁部の形態は、パイピングとも称される。通気性部材70の縁部はパイピング処理されている。表材18の縁部が、通気性部材70によってパイピングされている。
【0107】
図19(b)は、図19(a)の形態の変形例の断面図である。図19(b)に係る靴は、ダブルラッセルメッシュ材69と、表材18と、通気性部材71とを有する。図19(b)に係る靴において、ダブルラッセルメッシュ材69と通気性部材71とは、端面同士が突き合わされているのではなく、重ねられている。即ち図19(b)の形態は、ダブルラッセルメッシュ材69と通気性部材71とが重ねられた重複部y1を有する。この重複部y1において、ダブルラッセルメッシュ材69は通気性部材71の上側(外側)に位置している。図19(b)の形態では、縫い目N4が、重複部y1と表材18とを縫い合わせている。以上の構成を除き、図19(b)の構成は、図19(a)の構成と同じである。湿気を含んだ空気は、ダブルラッセルメッシュ材69から、重複部y1を経て通気性部材71へと移動しうる。
【0108】
図20は、本発明の第五実施形態に係る靴72を上から見た平面図である。図21は、図20のB−B線に沿った断面図である。なお図21には、ベロ21よりも外側(上側)の部分のみが示されている。この靴72と上記靴2との相違は、縫い目N5の有無のみである。靴2において説明したように、ダブルラッセルメッシュ材17の端面T1が靴の外部に露出している。縫い目N5は、ダブルラッセルメッシュ材17の層内通気性を完全に妨げない。縫い目N5が存在している場合であっても、ダブルラッセルメッシュ材17の内部を移動してきた空気は、縫い目N5を通過し、端面T1から靴72の外部に排出されうる。よってこの靴72は、通気性に優れる。
【0109】
図21の実施形態では、端面T1が露出している。この露出は外観上好ましくない場合がある。これに対して図18の実施形態では、端面66が隠蔽されているので、外観が良好である。図19(a)の実施形態でも、端面70aが隠蔽されているので、外観が良好である。
【0110】
図18の実施形態及び図19の実施形態では、曲げられてなる露出部Rにより、露出面積が広い。よって図18及び図19の実施形態では、露出部Rからの排気性に優れる。図18及び図19の実施形態は、通気性に優れる。
【0111】
図21の実施形態の実施形態は、パイピング処理が不要である。生産性及びコストの観点からは、図21の実施形態は、図18の実施形態及び図19の実施形態よりも優れる。
【0112】
完成された靴において、縫い目N3は、ダブルラッセルメッシュ材68又は通気性部材70により囲まれている。よって、図18の実施形態及び図19の実施形態において、縫い目N3は、縫い目N4よりも先に形成される必要がある。即ち、図18及び図19の実施形態の製造方法は、以下の工程を含む。
(工程1)縫い目N3が形成される。
(工程2)縫い目N3により表材18と縫合された縫合部材が折り返され、この縫合部材が表材18の下側に配置される。
(工程3)折り返された上記縫合部材と表材18とが縫合され、縫い目N4が形成される。
なお、上記縫合部材とは、ダブルラッセルメッシュ材64又は通気性部材70である。
【0113】
図18の実施形態では、上記縫合部材がダブルラッセルメッシュ材64である。この場合、縫い目N3によりダブルラッセルメッシュ材64が縫合された表材18が形成され(上記工程1)、次いでダブルラッセルメッシュ材64の全体を折り返してダブルラッセルメッシュ材64を表材18の下側に入れ(上記工程2)、次いで縫い目N4が形成される(上記工程3)。ダブルラッセルメッシュ材64が大きい場合、上記工程2の作業は面倒である。また図17が示すように、縫い目N3及び縫い目N4は左右両方の縁部E1に形成されることとなるので、ダブルラッセルメッシュ材64の形態によっては、上記工程2が困難となりうる。この困難性を克服するためには、ダブルラッセルメッシュ材64を分割する必要が生じうる。また、ダブルラッセルメッシュ材64が大きい場合、ダブルラッセルメッシュ材64と表材18との接合(別接合)が、上記縫い目N3及び縫い目N4以外にもなされる場合があるが、この別接合は、縫い目N3が形成された後になされる必要がある。この別接合の工程やその他の靴製造工程において、ダブルラッセルメッシュ材64と表材18とが接合されてなる部材を取り扱うことにより、作業性が低下しうる。これに対して、図19の実施形態では、縫い目N3及び縫い目N4により通気性部材70が縫合されてなる表材18を予め形成しておくことができる。この通気性部材70付きの表材18は、取り扱いしやすい。このように、図19の実施形態の実施形態は、図18の実施形態と比較して、生産性に優れうる。
【0114】
図19の実施形態の実施形態では、通気性部材70の材質や色が選択されうる。この選択により、デザインの自由度が向上しうる。通気性部材70により、靴のデザイン性が向上しうる。
【0115】
なお通気性部材70は、通気性を有していればよい。通気性部材70の材質として、織物、編物及び不織布が例示されるが、織物又は編物が好ましく、メッシュ材がより好ましく、ダブルラッセルメッシュ材が更に好ましい。
【0116】
図18の実施形態、図19の実施形態及び図21の実施形態の3種を比較すると、生産性及びコストを重視する場合には図21の実施形態及び図18の実施形態が好ましく、図21の実施形態がより好ましい。一方、外観性を重視する場合、上記3種のうち、図18の実施形態又は図19の実施形態が好ましく、図19の実施形態がより好ましい。また、生産性、コスト及び外観性を総合的に考慮すると、上記3種のうち図18の実施形態が最も好ましい。
【0117】
図18の実施形態、図19の実施形態及び図21の実施形態において、ダブルラッセルメッシュ材又は通気性部材の内側(下側)に他の層が付加されてもよい。この付加層は、通気性部材又はダブルラッセルメッシュ材を保護しうる。この付加層は、通気性部材又はダブルラッセルメッシュ材の汚れや目詰まりを防止しうる。この付加層は、靴紐による応力が作用しやすい鳩目穴近傍部分を補強しうる。この付加層の材質は限定されず、例えば表材に用いられうる材質として前記した全ての材質が使用可能であり、好ましくは、織布、不織布、人工皮革、合成皮革又は天然皮革である。付加層が特に人工皮革、合成皮革又は天然皮革である場合、この付加層は通気性部材又はダブルラッセルメッシュ材における下面fからの排気を抑制しうるが、本発明では、露出部が存在するため、通気性が良好である。付加層が存在する場合、露出部による排気効果がより一層顕在化する。
【実施例】
【0118】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0119】
[実施例]
図1等で示される上記第一実施形態の靴2と同じ靴を作製した。表材として、防水加工が施された人工皮革が使用された。防水性シートに内装されている防水フィルムの材質は、ポリウレタンとされた。この防水フィルムとして、JIS L 1099Bに準拠して測定された透湿性が約10000g/m・24h以上の防水フィルムが用いられた。JIS L 1092に準拠して測定されたこの防水フィルムの耐水圧は、10000mm以上であった。防水性シートの内層として、JIS L 1018のバイレック法で測定された吸水性が60mm以上であるナイロンメッシュ材が用いられた。更に、このナイロンメッシュ材と防水フィルムとの間に、2.5mmの厚みを有するウレタン発泡スポンジ層が配置された。防水性シートの外層は、3030ナイロントリコット材とされた。透湿性が損なわれないようにする観点から、ナイロンメッシュ材とウレタン発泡スポンジ層とはフレームラミネーションにより張り合わされ、ウレタン発泡スポンジ層と防水フィルムとはフレームラミネーションにより張り合わされ、防水フィルムとナイロントリコット材とは点接着により張り合わされた。
【0120】
3枚の防水性シートが裁断された。次に、打ち抜きにより上側シートに貫通孔が設けられた。貫通孔の直径は7mmとされ、貫通孔同士の間隔は7mmとされた。これら3枚のシートが、互いに突き合わされつつ縫合された。この縫合により、図4で示されるブーティ構造のインナー部材を得た。この縫合は、千鳥縫いによりなされた。防水性を高める観点から、この縫合の縫い糸として、JIS L 1018のバイレック法で測定された吸水性が5mm以下である糸が用いられた。この縫合の縫い目には、シーリングが施された。このシーリングには、ウレタン系ホットメルトタイプ接着シートがラミネートされたナイロントリコット製接着テープが用いられた。このナイロントリコット製接着テープを熱プレスすることにより、シーリングが形成された。
【0121】
補強部材は、透明なTPUを射出成形することにより得た。表材は、アッパーに対応した形状に裁断された。また表材の補強部材取り付け部分は、補強部材の形状に対応して裁断された。補強部材の周縁部に表材を重ね合わせ、これらを縫合し、さらにベロを縫合して、アッパー用縫合部材を得た。このアッパー用縫合部材と、ブーティ構造の上記インナー部材とを、履き口部分で裏合わせに縫合した。次に、インナー部材を裏返した。次に、上記アッパー用縫合部材の裏側に、ダブルラッセルメッシュ材が取り付けられた。ダブルラッセルメッシュ材は、縫合及び接着によりアッパー用縫合部材に取り付けられた。ただし、端面T1から湿気が排出されやすくする観点から、鳩目穴の左右方向内側に位置するアッパーの縁部から10mmの範囲では、ダブルラッセルメッシュ材の縫合は実施されなかった。次に、インナー部材にラストを挿入し、インナー部材の底部に中底を装着し、アッパー用縫合部材の縁部を釣り込み、ミッドソールとアウトソールとを予め接着剤で接着してなる部材を接着剤で貼り合わせた。その後、ラストを抜き取り、靴の中にインソールを挿入し、靴紐を装着して、実施例に係る右足用の靴を得た。靴のサイズは25インチとされた。
【0122】
なお、上記中底は、ミッドソールの上側に配置される。上記中底は、インナー部材の下側に配置される。アッパーの端部は、中底とミッドソールとの間に配置される。
【0123】
[比較例]
インナー部材に上記貫通孔が設けられなかった他は実施例と同様にして、比較例に係る靴を得た。
【0124】
[通気性試験]
JIS L 1099Bに準拠して測定された透湿性が約10000g/m・24hである防水フィルムを袋状とし、この中に200ccの水を入れて密封し、水袋を得た。この水袋を、靴の内部に挿入し、更に、履き口から鳩目にかけての靴の開口部分を塩化ビニル製フィルムで密封して、試験体を得た。この試験体を35℃の恒温槽に入れ、4時間放置した。恒温槽に入れてから1時間経過後の試験体の総質量W1と、恒温槽に入れてから4時間経過後の試験体の総質量W2とが測定された。総質量の差(W1−W2)は、実施例の靴が1.9gであったのに対して、比較例の靴は1.2gであった。差(W1−W2)は、3時間の間に靴の内部から放出された水分量である。実施例は、比較例よりも通気性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明は、登山靴、トレッキングシューズ、ゴルフ靴等の運動靴をはじめ、あらゆる靴に適用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】図1は、本発明の第一実施形態に係る靴の側面図である。
【図2】図2は、図1の一部切り欠き側面図である。
【図3】図3は、図1の靴を上から見た平面図である。
【図4】図4は、第一実施形態の靴に係るインナー部材の斜視図である。
【図5】図5は、図4のV−V線に沿った断面図である。
【図6】図6は、図4のVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】図7は、インナー部材を構成するシートを展開した平面図である。
【図8】図8は、インナー部材を構成する他のシートを展開した平面図である。
【図9】図9は、図1の靴に係るダブルラッセルメッシュ材の平面図である。
【図10】図10は、本発明の第二実施形態に係る靴の一部切り欠き側面図である。
【図11】図11は、第二実施形態に係るインナー部材の斜視図である。
【図12】図12は、図11のインナー部材の上面を構成するシートの平面図である。
【図13】図13は、図10の靴の側面図である。
【図14】図14は、本発明の第三実施形態に係る靴の一部切り欠き側面図である。
【図15】図15は、第三実施形態に係るインナー部材の斜視図である。
【図16】図16は、第三実施形態に係るインナー部材の部分構成を説明するための分解斜視図である。
【図17】図17は、本発明の第四実施形態に係る靴を上から見た平面図である。
【図18】図18は、図17のA−A線に沿った断面図である。
【図19】図19は、図18の実施形態の変形例の断面図である。
【図20】図20は、本発明の第五実施形態に係る靴を上から見た平面図である。
【図21】図21は、図20のB−B線に沿った断面図である。
【符号の説明】
【0127】
2、40、50、60、72・・・靴
4、62・・・アッパー
6・・・底部
8・・・インソール
10・・・ミッドソール
12・・・アウトソール
14・・・突起
16、42、52・・・インナー部材
17、64、68・・・ダブルラッセルメッシュ材
18・・・表材
20・・・補強部材
22・・・右側面(側面)
23・・・鳩目穴
24・・・左側面(側面)
25・・・鳩目金具
26・・・底面
27・・・靴紐
28、44・・・インナー部材の上面
30・・・右側シート
32・・・左側シート
34・・・上側シート
35・・・貫通孔
36・・・インナー部材の甲部
46・・・メッシュ材
54・・・上側シート
56・・・透水性部材
58・・・シーリング
70・・・通気性部材
R・・・露出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アッパー、底部及びインナー部材を備えており、
上記アッパーが、表材を有しており、
上記インナー部材が、底面、側面及び甲部を有しており、
上記底面、上記側面及び上記甲部が、防水性シートにより形成されており、
上記甲部に貫通孔が設けられている靴。
【請求項2】
アッパー、底部及びインナー部材を備えており、
上記アッパーが、表材を有しており、
上記インナー部材が、底面、側面及び甲部を有しており、
上記底面及び上記側面が、防水性シートにより形成されており、
上記甲部の少なくとも一部が、メッシュ材により形成されている靴。
【請求項3】
上記インナー部材の上記甲部と上記表材との間にダブルラッセルメッシュ材が配置され、
このダブルラッセルメッシュ材が、上記インナー部材の甲部に接しつつこの甲部の上側に積層されており、
このダブルラッセルメッシュ材又はこのダブルラッセルメッシュ材に隣接して配された通気性部材が上記アッパーの縁部にまで延在しており、この縁部において、上記ダブルラッセルメッシュ材又は上記通気性部材が、靴の外部に露出する露出部を有している請求項1又は2に記載の靴。
【請求項4】
上記露出部が、上記ダブルラッセルメッシュ材の端面であり、この端面が、上記アッパーの鳩目穴の左右方向内側に位置している請求項3に記載の靴。
【請求項5】
上記露出部は、上記ダブルラッセルメッシュ材又は上記通気性部材の端面を覆うように曲がっている曲がり部を有する請求項3に記載の靴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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