説明

【課題】先芯内蔵靴を製造する際のつり込み作業を省くことができる靴の構造、先芯の未使用を含め硬質または軟質の先芯を選択的に使用することができる靴を提供すること。
【解決手段】靴底と当該靴底上に設けられるアッパー体を有した靴であって、アッパー体は、足先部を除く足の甲部およびその周辺を覆う外被と、当該外被の内面に取り付けられるとともに少なくとも前記足先部を覆うように形成された内被と、前記足先部を覆う内被の表面を覆うゴムまたは合成樹脂製のカバー体を有している。カバー体の内面が後端部において前記外被の先端部表面に縫着されるとともに、当該カバー体の内面と前記内被との間に空間が形成され、当該空間には軟質の先芯や硬質の先芯が選択的に挿入できるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴の先端を覆うカバー体を装着した靴に関するものである。
【背景技術】
【0002】
靴には、歩行という基本的な機能の他に、使用状況に応じた機能が要求される。例えば、衝撃や摩耗からつま先部分を保護する必要がある場合には、特許文献1記載の靴用つま先保護具等が用いられる。その他、足先の保護機能を有する靴としては靴先端の甲被内に硬質の先芯を内蔵したものがある。
硬質の先芯を内蔵した靴では、甲被に皺や撓みを生じさせないように内蔵した先芯の表面に甲被を密着させる必要がある。そのため甲被を引っ張って先芯の表面に密着させ、同時に当該甲被の下端部を中底の裏面に接着する所謂つり込み作業が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−121726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した天然被革で甲被を形成する場合に必要なつり込み作業は、専用の機械設備および所定工数の作業を必要とするものであるから、作業工数の削減やコスト低減の観点において省きたい作業の一つとなっている。
また、硬質の先芯を内蔵した靴は足先の保護機能を重視した靴であるが、一方において外観上の寸法形状を同一にしたまま硬質の先芯を内蔵しない靴が求められる場合がある。例えば、消防隊やレスキュー隊等が災害現場で使用するに靴には、隊員の安全性を向上させる観点から硬質の先芯を内蔵した靴が用いられる。しかし、一方において靴は消耗品であるから、訓練で使用する靴については現場で使用する靴に近い仕様でありながら低コストであることが望ましく、さらに日々の訓練で使用すものであるから履き心地がよくできるだけ耐久性が高いことが望ましい。
さらに、従来一般の安全靴は、概ね天然皮革によって甲被を形成しているので、靴先部が硬いものにぶつかったり擦り付けられたりすると、硬質の先芯の表面に緊張した状態で張られた甲被が削れたり裂けるなどして先芯が露出してしまう場合があった。
本発明は上記の点に鑑み発明されたものであって、硬質の先芯を内蔵した靴と同一の外観を有する靴でありながら、硬質の先芯に代わり安価、履き心地および耐久性を向上させることができる軟質素材の先芯を設けた靴の提供を課題とするものである。さらに、先芯内蔵靴を製造する際のつり込み作業を省くことができる靴の構造および当該靴を形成するための部品を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係る第1の手段は以下の構成を有する。すなわち、
靴底と当該靴底上に設けられるアッパー体を有した靴であって、
前記アッパー体は、足先部を除く足の甲部およびその周辺を覆う外被と、当該外被の内面に取り付けられるとともに少なくとも前記足先部を覆うように形成された内被と、前記足先部を覆う内被の表面を覆うゴムまたは合成樹脂製のカバー体を有しており、
前記カバー体の内面が後端部において前記外被の先端部表面に縫着されるとともに、当該カバー体の内面と前記内被との間に空間が形成されるようになっていることを特徴とする。
【0006】
また、本発明に係る第2の手段は、前記の靴において以下の構成を有する。すなわち、
前記カバー体と内被との間に形成された空間に、ゴムまたは合成樹脂製による殻体として形成した軟質の先芯を装着したことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る第3の手段は、前記第1の手段を有する靴において以下の構成を有する。
すなわち、
前記カバー体と内被との間に形成された空間に、鋼または硬質の合成樹脂による殻体として形成した硬質の先芯を装着したことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る第4の手段は、前記第1乃至第3の手段を有する靴において以下の構成を
有する。すなわち、
前記アッパー体の底面を形成する中底には表裏を電気的に導通させる導電部材が設けられるとともに、前記靴底およびカバー体を導電性を有するゴム若しくは合成樹脂素材によって形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る靴は、天然皮革や合成皮革で形成した甲被によって靴先部を覆う代わりに、ゴムまたは軟質合成樹脂等で形成したカバー体によって靴先部を覆うように構成したものである。したがって、靴先部には皺や撓みが生じるおそれがないので、天然皮革や合成皮革を用いる場合に必要なつり込み作業が不要であるという製造上の効果を有する。
また、前記カバー体の内面には先裏となる内被との間に隙間(空間)が設けられているので、当該隙間に軟質の先芯若しくは硬質の先芯を選択的に装着することができるようになっている。したがって、同一の生産ライン上において、先芯の有無若しくは先芯の選択を行うだけで仕様の異なる靴を形成することができるという効果を有している。
また、前記仕様において硬質の先芯を装着した場合であっても、靴先に形成したカバーには張力が作用していないので、硬いものにぶつかっても一気に裂け口を広げて先芯を露出させるようなことがない。
さらに、靴底およびカバー体を導電性を有する素材によって構成するとともに、靴の内面に露出する中底表面と靴底に接する中底裏面とを導電性部材によって導通させることにより、着用者に帯電した静電気を靴底若しくはカバー体を介して地面に逃がすことができるという効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る靴の一例を表した側面図である。
【図2】本発明に用いるカバー体の説明図である。
【図3】本発明に用いる各部品の分解図である。
【図4】本発明に係る靴の作成手順に関する説明図である。
【図5】本発明に係る靴のアッパー体の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明を実施するための形態を図を用いて説明する。図1は、本実施の形態に係る靴の一例を表した側面図である。
図1に示した靴1は、消防隊が災害現場や訓練で使用する足首部を長く形成した靴である。当該靴1は、先端に足先を覆うゴム製のカバー体2を取り付けたアッパー体3と、当該アッパー体3の下面に設けた靴底4によって形成されたものである。
【0012】
図2(a)は、前記アッパー体3の靴先部(つま先部)に取り付けられるカバー体2の外観斜視図を表している。
当該カバー体2は、所定の肉厚を有するゴム製の碗状体として一体的に形成されたもの
であり、靴先となる先端部から甲面および左右両側面に向かう湾曲面5を有するとともに後端に開口6を、底面に開口7を形成したものとなっている。前記開口7を形成したカバー体2の下端縁には、フランジ状の所定幅の折曲片9が内側に向かうように設けられている。当該折曲片9によって囲まれた領域が開口7となっている。
また、本実施の形態におけるカバー体2は、最適な実施例としてカーボンブラック等の導電性素材を混入したゴムを用いて一体成形することにより導電性を有するように形成されている。なお、当該カバー体2を構成する素材は、ゴムに限るものではなく当該ゴム相当の強度、導電性を有する柔軟性を有するものであれば、合成樹脂や他の素材を用いても差し支えない。
上記構成のカバー体2は、天然皮革や合成皮革で形成した甲被部(後述する外被15)の先端部に縫い糸により縫着されるものであり、従来全体を天然皮革や合成皮革によって形成していた甲被の一部を、独立して形状が維持できかつ耐久性のある素材によって形成したものに代えて設けられたものである。
【0013】
湾曲面5の表面には、後端に形成した前記開口6に沿って幅および深さが0.5〜1mm程度の溝8が形成されている。当該溝8は、前記アッパー体3との縫合位置および縫い糸の収容部を構成する部位となっている。なお、当該溝8は前記幅および深さが0.5〜1mm程度の凹条としてカバー体2の肉厚を薄くすることにより形成する場合の他、溝8となる部位の両側若しくは片側の肉厚を厚く盛り上げて高低差を設けることで形成してもよいものである。
前記溝8は、ミシンを用いてカバー体2とアッパー体3とを結合(縫合)する際にミシン針を誘導するガイドとして機能する他、縫い付けた糸の露出を防止して擦り切れたりするのを防止する作用を有する。したがって、溝8の形態は、角型溝、V型溝等、前記機能または前記作用を有するものであればその形態に限定はない。
【0014】
前記折曲片9は、後に先芯11を装着する場合の位置決め手段として使用するものである。この機能を強固なものとするため、当該折曲片9の内面および開口6に添った内面には、図2(b)に示すように凸条10が設けられている。当該凸条10は、装着した先芯11の外周縁に当接するように設けられており、これにより先芯11を装着した後の位置ズレを防止するようになっている。
また、開口6に沿って設けられた凸条10は、一方においては前述のように先芯11の後端縁に当接するようになっているが、他方においても後述する甲被部(外被15の先端縁)と当接するようになっている。すなわち、当該凸条10は、甲被部とカバー体2との位置決め手段となるものであり、製造時において縫製による両者の結合作業を円滑に行わせるとともに、靴の品質を安定させるという効果を有しているものである。
【0015】
本実施の形態に係る靴1は、先芯11として硬質の先芯または軟質の先芯の何れであっても装着することができるものである。また、先芯11を装着しないことも可能である。硬質の先芯を装着した場合には、安全靴として足先を保護することができる靴を形成することができる。また、軟質の先芯を装着した場合には前記の仕様と比較して、履き心地がよく軽量でありかつコストの低い靴を形成することができるものである。これらの両仕様の靴は、何れも同じ設備を用いて製造する事ができるものである。
本実施例で示した消防隊用の靴の場合、実際の災害現場で使用するものは耐熱、耐火性の素材によってアッパーを構成し、硬質の先芯を装着したものである。
一方、日々の訓練に使用する訓練靴は、ほふく前進によって靴先がアスファルト等の地面に擦りつけられたり、片膝をついた放水訓練等でつま先部が酷使されたり、ホースやロープとの摩擦が繰り返されるという災害現場とは異なる耐久性と、長時間の着用を考慮した履き心地が要求される場合がある。本実施例において示した訓練用の靴は、靴先をゴム等によって形成し、さらにその内部に軟質の先芯若しくは空間を形成しているので、靴先損傷の軽減と履き心地の向上が実現されるものとなっている。
【0016】
以下、靴1の構造を製造手順に沿って説明する。
図3は、靴1のアッパー体3を構成するいくつかの部材を表している。当該アッパー体3は、主な構成部材として甲被部12、舌片13、首部14、中底21そして前述したカバー体2を有している。
甲被部12は、表面部分を構成する外被15と内面側に設けられる内被16の2層構造になっている。外被15は、天然皮革、合成皮革、木綿やナイロン等の強度の高い繊維素材を用いたものであり、靴先部を除く足の甲部および側面部を覆うことができる形状に裁断されたものである。また、内被16は前記外被15の内面に接着剤によって貼り付けられ、さらに縫製によって固定される布体である。この内被16は、使用者の足に接触する部分であり、木綿や不織布等の通気性のある布が使用される。
前記外被15は、前述したように靴先部を覆うことなく、途中で切断されたような先端部の形状を有している。これに対して内被16には、つま先部(靴先部)を覆う部分が立体的に形成されている。この内被16のつま先部分は、後に先芯の内面に貼り付けられる等される部分であり、通称先裏とも称される部分である。
なお、前記外被15および内被16は、単一のシート素材によって形成するのみならず、それぞれ適宜の素材を積層させた多層構造の複合的なシートによって形成しても差し支えのないものである。また、内被16は、外被15の内面全てと重ね合わされている必要はなく、少なくとも前記つま先部(靴先部)を覆う部分を形成することが出来る程度に重ね合わされていればよい。
【0017】
前記舌片13は、靴ひもを使用する靴に設けられるものであって、通称ベロと称される部材である。舌片13は、その先端部が前記甲被部12の上部後端側に縫着されるようになっており、甲被部12の後端側から連続的に足首前部、脛前面部を覆うようになっているものである。
首部14は、踵、踝、当該踝から少し上の部分までを覆う前面が開口した筒状体として形成されたものであり、前面側の左右に前記舌片13を覆う羽根片17、17を設けたものとなっている。左右の各羽根片17、17の端縁には、靴ひも(図示せず)を挿通させる孔18が複数個設けられている。
また、本実施の形態における首部14は、側面に上下方向に亘るスライド式ファスナー19が設けられており、当該スライド式ファスナー19の開閉によって首部14の側面を開き、靴の履き脱ぎをすることができるようになっている。また、スライド式ファスナー19の上端部には、当該スライド式ファスナー19のつまみ部分を覆い隠す蓋片20が設けられている。当該蓋片20は、スライド式ファスナー19のつまみ部分を覆うことで、自重または他の部分との接触によるスライダーの移動を防止しスライド式ファスナー19が開くのを防止する作用を有するものである。
【0018】
次に前記アッパー体3を形成する順序を説明する。前述した甲被部12、舌片13、首部14によってアッパー体3を構成するにあたり、まず最初に甲被部12と舌片13を縫着し、次いで甲被部12の下端縁に中底21を縫着する。これにより、つま先部のみを覆う袋状の部分が形成されたことになる(図4(a))。
中底21は、フェルトを押し固めたシート状の素材を足底形に裁断したものであり、本実施の形態ではさらに導電性素材で形成した帯状のリボン22が表裏連通するように設けている。当該導電性リボン22は、人体が帯電した静電気を当該導電性リボン22、さらに当該導電性リボン22と接する導電性素材を含有した靴底若しくはカバー体2を介して地面に逃がすために設けたものである。なお、導電性リボン22の代わりに、導電性のある縫い糸を用いて表裏に糸が表出するように縫い目を設けてもよい。
【0019】
そして、甲被部12を構成する外被15の先端部をカバー体2内面の凸条10に当接させて位置決めした後に、重ね合わせた部分を接着剤によって仮り止めし、カバー体2の溝
8全周に沿ってミシン針を誘導しつつ内被16を含む甲被部12とカバー体2を縫着する(図4(b))。
また、上記の状態では、カバー体2は後端の溝8部分で固定されているだけであるから、これを後方に向かってめくり上げ、カバー体2を裏返して内被(先裏)16を表出させることができる。この作業は、内被16内に靴型を装着した状態で行われ、この際表出した内被16の表面に硬質の先芯11a若しくは当該硬質の先芯11aと同形状のゴム製の軟質先芯11bが装着される。なお、先芯を装着しない場合には、当該工程は不要である。
【0020】
前記先芯11a若しくは11bを内被16表面に装着した後、裏返したカバー体2を元に戻して先芯11a若しくは11bに被せることでこれら先芯の装着を完了する。また、この際、先芯11a若しくは11bの内部には接着剤が塗布され、先芯11a若しくは11bの内面に内被16が接着される。
上記工程の後、甲被部12の後端および残余の中底21外周と首部14の各端縁を縫着し、足入れ部としてのアッパー体3の作成を完了する(図5)。
【0021】
次に、上記工程によって形成したアッパー体3の底面に靴底4を形成する。当該靴底4は、カーボンブラック等の導電性を有する素材を混入したゴムにより、加圧成形若しくは射出成形によって形成される。靴底4は、カバー体2の下端部にも接着されるので、靴底4とカバー体2は電気的にも導通した状態となっている。これにより、着用者に帯電した静電気を靴底4とカバー体2の双方から地面に逃がすことができるようになっている。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、各種作業靴に利用することができる。
【符号の説明】
【0023】
1 靴
2 カバー体
3 アッパー体
4 靴底
5 湾曲面
6、7 開口
8 溝
9 折曲片
10 凸条
11 先芯
12 甲被部
13 舌片
14 首部
15 外被
16 内被
17 羽根片
18 孔
19 スライド式ファスナー
20 蓋片
21 中底
22 導電性リボン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴底と当該靴底上に設けられるアッパー体を有した靴であって、
前記アッパー体は、足先部を除く足の甲部およびその周辺を覆う外被と、当該外被の内面に取り付けられるとともに少なくとも前記足先部を覆うように形成された内被と、前記足先部を覆う内被の表面を覆うゴムまたは合成樹脂製のカバー体を有しており、
前記カバー体の内面が後端部において前記外被の先端部表面に縫着されるとともに、当該カバー体の内面と前記内被との間に空間が形成されるようになっていることを特徴とする靴。
【請求項2】
前記カバー体と内被との間に形成された空間に、ゴムまたは合成樹脂製による殻体として形成した軟質の先芯を装着したことを特徴とする請求項1記載の靴。
【請求項3】
前記カバー体と内被との間に形成された空間に、鋼または硬質の合成樹脂による殻体として形成した硬質の先芯を装着したことを特徴とする請求項1記載の靴。
【請求項4】
前記アッパー体の底面を形成する中底には表裏を電気的に導通させる導電部材が設けられるとともに、前記靴底およびカバー体を導電性を有するゴム若しくは合成樹脂素材によって形成したことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項記載の靴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−178775(P2010−178775A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22439(P2009−22439)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(391009372)ミドリ安全株式会社 (201)
【Fターム(参考)】