説明

【課題】本発明に係わる靴は、合成樹脂発泡体からなる靴底を有する軽量な靴であって、歩行時や走行時において、適度な反発性及び屈曲性有するとともに安定性に優れた靴底を有する靴に関するものである。
【解決手段】本発明に係わる靴は、合成樹脂発泡体からなる靴底を有する靴であって、靴底の接地面側に、不踏部前方より屈曲部を含む爪先部までの領域に、少なくとも1本のプレートが設けられ、前記プレートは、靴底を構成する合成樹脂発泡体と比べて剛性が高く、高弾性であることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に係わる靴は、合成樹脂発泡体からなる靴底または、アウトソールと合成樹脂発泡体からなるミッドソールとからなる靴底(以下「靴底」という)を有する軽量な靴であって、歩行時や走行時において、屈曲性及び反発性に優れるとともに安定性に優れた靴底を有する靴に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の靴は、歩行時の疲労軽減のためや、走行時のクッション性向上のために、靴底に合成樹脂発泡体が使用されていた。例えば、靴底がミッドソールとアウトソールからなる靴の場合、アウトソールとしては、耐摩耗性や防滑性にすぐれた天然ゴムや合成ゴム等が使用され、ミッドソールとしては、EVA、ポリウレタン、ポリ塩化ビニール等の合成樹脂発泡体が使用されていた。
【0003】
また、靴を軽量化するために、胛皮に軽量化素材を使用し、靴底に使用される合成樹脂発泡体を低密度化する、或いはアウトソールを必要最小限に薄くして使用する等の対応が図られている。しかしながら、胛皮を軽量化することは可能であるが、それによって得られる効果は少ないものであった。また、靴底部の合成樹脂発泡体を低密度化することで軽量化の効果は得られるが、それによって靴底自体の歩行等の屈曲圧力による変形が大きくなると共に、曲げ弾性も低下してしまう傾向にある。そうなると、靴底が足の動きや形状と異なった変形を起こしたり、歩行時等に適度な反発がないために、砂の上を歩いている様な歩きづらいものになったりして好ましくない。靴底が足の動きや形状と異なった変形が発生すると、走行時や歩行時における、正常な足の動きの妨げとなるためである。
【0004】
さらに、幼児や老人等の靴においては、足の屈曲を行う力が弱いために、靴底の屈曲部分に溝を設けたり、屈曲部分を薄くしたりして屈曲性の向上を図る必要がある。しかしながら、そのために、靴底が足の動きや形状と異なった変形を起こしたり、歩行時等に適度な反発がないために、砂の上を歩いている様な歩きづらいものになったりすることが発生しやすくなる。
【0005】
また、別工程でプレス等により成型された靴底を接着剤等で胛皮と一体化する成型靴においては、靴底と胛皮の間に保形用の中底芯材やシャンク等を挿入することにより、前記問題点の多少の改善を図ることは可能であるが、屈曲性の面では低下してしまう傾向にある。
一方、射出成形により靴底を成形すると同時に、胛皮と接着一体化される射出成形靴では、製法上、保形用の中底芯材やシャンク等を使用することが容易でないと共に、射出される靴底の合成樹脂発泡体の低密度化を進めると、屈曲性は向上するが靴底と胛皮との接着性が低下する傾向にある。この射出成形靴において前記問題点を改善するためには、靴底と胛皮の接着性を維持しつつ、合成樹脂発泡体を低密度化するとともに、可塑剤等の添加により合成樹脂の柔軟性をも向上させる事が必要になる。この低密度化と柔軟性の向上により、靴底が長さ方向だけでなく、幅方向にも変形し易くなる傾向となる。このようにすることで、歩行時等における足の形状変化とともに、靴底が変形しやすくなるが、足の動きや形状と異なった変形を起こし易くなり、歩行時等に必要な適度な反発が極端に減少してしまうこととなる。特に走行の際においては、靴底に体重の3〜5倍もの荷重が掛かり、この荷重による靴底の屈曲変形時の影響が強いものとなる。
【0006】
そこで、靴底に要求される屈曲性を阻害せずに、爪先部の横ぶれを防止し、歩行走行安定性を確保するために、アウトソールの上部に発泡ミッドソールを積層し、爪先先端部を上方に傾斜した靴底において、その発泡ミッドソールの積層面に不踏部前方から爪先部にかけて複数の長手方向の溝を並設するとともに、該複数の長手方向の溝の先端部同士及び後端部同士を各々連結した短手方向の溝を設けて嵌合溝を形成し、該嵌合溝に対応したゴム状弾性片を長手方向の溝に伸縮自在の状態で嵌合固着したことを特徴とする靴底が提案されている。(特許文献1参照)
【0007】
しかしながら、この靴底は、屈曲部にゴム状弾性片が存在するために、歩行時等に適度な反発を得ることが可能であり、また走行時等による経時的な爪先部分の変形防止は可能であっても、靴底の低密度化と屈曲溝等の形成とにより、靴底の屈曲部が足の動きに伴う足の形状変化と異なった変形を起こすのを防止することができないものであった。
また、射出成形靴においては、特許文献1に記載されているような構造を成形することは容易に行えるものではなく、生産効率を低下させてしまうものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−000473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
解決しようとする問題点は、靴の軽量化のために、靴底に使用される合成樹脂発泡体を低密度化することにより、またさらに、靴底の屈曲部に溝等を設けたりすることで、走行時、歩行時等における足の形状変化の動きと異なった変形を起こしたり、走行時、歩行時等に適度な反発性がないために、走り難く、歩き難い靴となってしまう点である。
【0010】
本発明は、歩行時、走行時に適度な靴底の反発性と屈曲性が得られるとともに、走行時、歩行時等における足の形状変化の動きに追従して靴底が形状変化することで、安定性のある靴を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係わる靴は、合成樹脂発泡体からなる靴底を有する靴であって、靴底の接地面側に、不踏部前方より屈曲部を含む爪先部までの領域に、少なくとも1本のプレートが設けられ、前記プレートは、靴底を構成する合成樹脂発泡体と比べて高剛性、高弾性であることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明に係わる靴において、前記プレートは、合成樹脂発泡体からなる靴底に接する面が、靴底の接地面側より広幅になっていることが好ましい。
プレートの靴底に接する面が、靴底の接地面側より広幅になっているとは、断面が台形状であっても良いし、靴底に接する面のみが広幅になっていてもよいものである。このような形状にすることにより、靴底への接着力を増加すると共に、靴底接地面の意匠性も向上させることができ、さらにプレート自体の剛性を高めることができ、靴底の変形防止を向上させ、靴底の反発性を高めることが可能となる。
【0013】
なお、前記プレートは、靴底の接地面に対して凹んだ状態で設けられていることが好ましい。プレートが靴底接地面の意匠面より凹んだ状態であると、プレートが直接接地する事がないので、靴底のミッドソール等の衝撃吸収性を阻害しない。また、プレートが直接接地する事がないので、プレートの材料選択において、防滑性、摩耗性等の物性を考慮する必要がなく、靴底接地面の機能を阻害する可能性もない。凹み量としては、靴底接地面の意匠やプレート形状によって適宜選択されるが、例えば意匠面の高さを基準とすると、プレートの表面が1〜5mm低くなっていることが好ましい。
【0014】
靴底の変形だけを考慮すれば、靴底の接地面側に、不踏部前方より屈曲部を含む爪先部までの全面に1枚のプレートを設ければよいが、そうすることで、靴としての屈曲性が阻害される虞がある。そのため、本発明においては、棒状のプレートとすることが好ましい。
前記プレートは、靴底の長さ方向の中心線に対して左右対称な位置に1本づつ設けられていることが好ましい。
このように靴底の接地面側に、不踏部前方より屈曲部を含む爪先部までの領域に、2本のプレートを設けることで、屈曲性への影響を最小限に留めて、より効率的に変形を防止できる。この2本のプレートは同じ形状・寸法のものを使用してもよいし、異なった形状・寸法のものを使用してもよい。例えば、靴底や靴の構造から、靴の外側の変形が大きい場合は、外側のプレートを大きくして、内側を小さくしたものを使用する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の靴は、軽量で柔軟な合成樹脂発泡体からなる靴底を有するものであって、靴底の接地面側に、不踏部前方より屈曲部を含む爪先部までの領域に、少なくとも1本のプレートが設けられ、前記プレートは、靴底を構成する合成樹脂発泡体と比べて高剛性、高弾性であるために、靴底が足の動きや形状と異なった変形をすることなく、歩行時、走行時等に適度な反発性および屈曲性が得られるものである。
また、プレートを靴底の接地意匠面より凹んだ状態で設けることにより、合成樹脂発泡体からなる靴底の衝撃吸収性を効率的に発揮すると共に、靴底自体の耐摩耗性や防滑性を阻害することがなく、プレート自体の素材選択幅を広くすることが可能となる。
さらにまた、プレートを靴底の長さ方向の中心線に対して左右対称な位置に1本づつ設けることで、屈曲性への影響を最小限に留めて、より効率的に変形を防止できる。
特に幼児や老人用に軽量化と共に屈曲性を向上させた溝等を設けて、反発性が低下した靴底構造を有する靴に使用することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は本発明の実施形態の一例である靴底図面である。
【図2】図2(a)はプレート2の平面図である。図2(b)はプレート2の幅方向断面図である。図2(c)はプレート2の長さ方向断面図である。図2(d)はプレート2の底面図である。
【図3】図3(a)はプレート22の平面図である。図3(b)はプレート22の幅方向断面図である。図3(c)はプレート22の長さ方向断面図である。図3(d)はプレート22の底面図である。
【図4】図4(a)は踵プレート3の正面図である。図4(b)は踵プレート3の幅方向断面図である。図4(c)は踵プレート3の長さ方向断面図である。図4(d)は踵プレート3の底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係わる靴は、合成樹脂発泡体からなる靴底を有する靴であって、靴底1の接地面側に、不踏部前方より屈曲部を含む爪先部までの領域に、少なくとも1本のプレートが設けられ、前記プレートは、靴底を構成する合成樹脂発泡体と比べて高剛性、高弾性であることを特徴とするものである。例えば、図1に示すように、不踏部前方より屈曲部を含む爪先部までの領域に2本のプレート2,22が、靴底の長さ方向の中心線に対して左右対称な位置に1本づつ設けられている。
本発明における合成樹脂発泡体からなる靴底を有する靴とは、靴底全体が合成樹脂発泡体であるものや、ミッドソールとアウトソールからなる靴底の場合において、少なくともミッドソールが合成樹脂発泡体からなるものである。
【0018】
前記合成樹脂発泡体としては、一般的に靴に使用される発泡体であれば使用でき、例えば、エチレン酢酸ビニル共重合体系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等を発泡剤等により発泡したものである。本発明は、軽量化された靴に適しており、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂を使用した靴底であれば、密度0.4〜0.9g/cmで、硬度がJIS A 35〜65°であり、エチレン酢酸ビニル共重合体系樹脂を使用した靴底であれば、密度0.15〜0.6g/cmで、硬度がJIS C 40〜70°である靴に好ましく適用できる。
【0019】
また、本発明の靴は、靴底を射出成形すると共に、胛皮と一体化する射出成形靴であっても、靴底を予め作成しておき、胛皮と接着剤等により一体化する靴においても使用できる。
特に、靴を軽量化するために靴底を低密度化しようとすると、足の動きや形状と異なった変形を起こし易くなり、適度な反発が極端に減少してしまう傾向にあった射出成形靴において、本発明は好ましく適用できる。
【0020】
本発明に使用されるプレートとしては、靴底に使用される合成樹脂発泡体よりも、高剛性、高弾性のものが使用される。剛性に関しては、使用される素材や形状により、設定することができるが、靴の屈曲部の屈曲時に足の屈曲形状と異なる変形を防止できる程度に剛性が高いもので、靴の屈曲性を阻害しない範囲であればよい。
また、弾性に関しても、靴の屈曲部を90°屈曲させて、元の状態にもどる速度を測定して、プレートの無いものと比較して、5〜30%の速度の向上があるものが好ましく使用できる。
使用される素材として、オレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、各種エンプラ樹脂等を使用することができる。成形性がよく、硬質プラスチックのような強靱性を持ち、ゴムのような弾性力を有しているエラストマー樹脂が好ましく、例えば熱可塑性ポリウレタンエラストマーで、硬度JIS A 60°〜D 50°のものが好適に使用できる。
【0021】
プレートとしては、縦長の棒状の物が好ましく、幅が3〜30mmで、長さが20〜100mm、厚さが3〜10mm程度のものが好適である。形状としては、直線状、曲線状等であってもよく、断面形状として、四角状、台形状等のいかなる形状であってもよいが、靴底に接する面が、靴底の接地面側より広幅になっていることが好ましい。プレートの靴底に接する面が、靴底の接地面側より広幅になっているとは、断面が台形状であっても良いし、靴底に接する面のみが広幅になっていてもよいものである。このような形状にすることにより、靴底への接着力を増加すると共に、靴底接地面の意匠性も向上させることができ、さらにプレート自体の剛性を高めることができ、靴底の変形防止を向上させ、靴底の反発性を高めることが可能となる。
【0022】
このようなプレートを靴底の屈曲部を中心として不踏部前方から爪先部に、少なくとも1本が設けられればよいが、幅の広いものを1本で使用するよりも、幅の狭いものを複数本にして、幅方向に並べた状態で使用した方が、屈曲性を阻害せずに、変形防止効果を向上させることが可能となる。例えば、図1に示すように、靴底1の長さ方向の中心線に対して左右対称な位置に、プレート2,22を1本づつ設けることができる。
【0023】
なお、前記プレート2,22は、靴底1の接地面に対して凹んだ状態で設けられていることが好ましい。プレート2,22が靴底接地面の意匠面より凹んだ状態であると、プレート2,22の材料選択において、防滑性、摩耗性等の物性を考慮する必要がなく、靴底接地面の機能を阻害する可能性もなく、好ましい。凹み量としては、靴底接地面の意匠やプレート形状によって適宜選択されるが、例えば意匠面の高さを基準とすると、プレート2,22の表面が1〜5mm低くなっていることが好ましい。
【0024】
プレートを靴底に設ける方法としては、ほぼ完成した靴の靴底に、接着剤等で一体化して設けても良いが、靴底を成形する段階で、インサート成形等により一体化した方がより好ましい。接着剤等で一体化する場合には、靴底にプレートが収まる溝を設けておいても良い。
例えば射出成形靴の場合は、図2及び図3に示すような形状の部品(プレート2,22)を予め成形した後に、この部品(プレート2,22)を靴底1の合成樹脂が射出されるモールド内に載置し、その合成樹脂を射出すれば、図1に示すような靴底1とプレート2,22が一体化された靴が成形される。図2及び図3に示されるプレートのように、プレートの周辺部に溝を成形しておくことで、射出された合成樹脂とプレートとの接触面積を増加させ、くさび効果もでるために、靴底とより強固に一体化することができ、さらに、屈曲性を阻害せずにプレートの剛性も向上させることが可能となる。
【0025】
図1に示すように、踵部から不踏部に至る図4に示すような踵プレート3を設けても良い。この踵プレート3を設けることにより、歩行時等の踵部の捻れによる変形を防止し、歩行時等の安定性をより向上させることが可能となる。踵プレート3の素材としては、プレート2,22と同じ剛性のものを使用してもよいし、踵部における屈曲性は屈曲部ほど必要ないために、より剛性の高いものを使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明に係わる靴は、靴底に合成樹脂発泡体が使用されて軽量化された靴、またさらに幼児用や老人用の屈曲性を向上させた靴に適したものである。
【符号の説明】
【0027】
1 靴底
2、22 プレート
3 踵プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂発泡体からなる靴底を有する靴において、靴底の接地面側に、不踏部前方より屈曲部を含む爪先部までの領域に、少なくとも1本のプレートが設けられ、前記プレートは、靴底を構成する合成樹脂発泡体と比べて高剛性、高弾性であることを特徴とする靴。
【請求項2】
前記プレートは、合成樹脂発泡体からなる靴底に接する面が、靴底の接地面側より広幅になっていることを特徴とする請求項1記載の靴。
【請求項3】
前記プレートは、靴底の接地面に対して凹んだ状態で設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の靴。
【請求項4】
前記プレートは、靴底の長さ方向の中心線に対して左右対称な位置に1本づつ設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の靴。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−194219(P2011−194219A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4749(P2011−4749)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】