靴
【課題】歩行・走行時に安定性があると共に地面に対して十分な力を加えられ、足首や周辺の関節部、骨部及び腱部等に無理に過大な負荷が加わることを防止して捻挫その他足に故障の発生を防止し、かつ足の機能を十分確実に発揮できる靴を提供しようとする。
【解決手段】靴1で靴踵部2内側に、足関節部の動きを背屈と底屈以外は制限し得るように囲む両側壁部4と後壁部5をもつヒールカップ部3を設け、靴1の裏底部6に、足の第5中足骨7の基部近傍から第1中足骨8前部近傍に対応する部分にかけて、他より薄肉厚の折曲がり用部9を設け、かつ靴踵部2の外形を、下部へ凸状のほぼ半球状部10に形成する。
【解決手段】靴1で靴踵部2内側に、足関節部の動きを背屈と底屈以外は制限し得るように囲む両側壁部4と後壁部5をもつヒールカップ部3を設け、靴1の裏底部6に、足の第5中足骨7の基部近傍から第1中足骨8前部近傍に対応する部分にかけて、他より薄肉厚の折曲がり用部9を設け、かつ靴踵部2の外形を、下部へ凸状のほぼ半球状部10に形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴の改良に係るものであり、歩行・走行時に安定性があると共に地面に対して十分な力を加えることができ、また足首や周辺の関節部、骨部及び腱部等に過大な負荷が加わって生じる故障・障害を防止し、足の機能を十分に発揮できる構造の靴に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来一般の靴は、靴踵部内および靴踵部外底面が平面状であるものが多い。これは、本来丸みを持った足踵部の形状と異なっている。そのため、歩行または走行時に靴内で、丸みを持った足踵部が内がえしの動き(図14参照)や、外がえしの動き(図15参照)が生じやすい。その結果、靴内で足が不安定であり、上記のような足首や周辺の関節部等に故障・障害が生じやすいし、十分に足へ力を加え難い。
【0003】
また、靴踵部外底面が平面状であるものでは、足首が何かの事情で横方向へ傾いた場合には、下腿軸から加わる圧力が踵骨の一直方向にはならないために〔例えば後記特許文献3の図2や特許第3312340号(特開平2002−101905号)の図34参照〕、足首や周辺の骨部及び腱部に過回動や過大な負荷が加わり、捻挫や肉離れ等の故障を起こし易い。
【0004】
さらに、靴踵部の外底面が平面状のものでは、傾斜した地面等を歩行や走行する場合にも、靴外底面の全体がその傾斜に沿おうとするから、やはり下腿軸から加わる圧力が踵骨の一直方向にはならないため、足首や周辺の関節部の故障・障害を起こし易い。
そこで上記諸問題に対応すべく、従来より幾つか形状・構造の靴が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭39−15597号公報 これは、靴の製造方法に関するものであるが、「靴胛被内即ち足入れ部が足甲および足裏の自然な曲面によく適合する曲線により形成し、足との密着と保持がよく履き心地が良好」な靴として、そこでの図1ないし図7イでその形状が示されている。
【0006】
【特許文献2】実開昭61−55810号公報 これは靴のクッション具であり、「少なくとも足の踵骨に一致する凹部を形成する両側壁、底壁および後壁を有する弾力性ボデーと、上記各壁の外面は、はきものに入れられるように形成されていることと、少なくとも足の踵の重量支持部に相当する領域において、上記ボデーと一体的に上記ボデーから突出している衝撃吸収部とから構成され、上記衝撃吸収部は、弾力性材料でつくられ、上記衝撃吸収部のゆがみと変形とによって、足が受けた衝撃力を吸収するように、はきものの着用者の踵のまわりで、はきものの中に置くことができるようになっている」ものである。
【0007】
【特許文献3】特許第3312340号(特開平2002−101905号)公報) これは、足の形状に合わせて形成された靴底を有する靴であって、そこには、「着用者の足(27)が靴の内部にある時に踵の位置に実質的に対応する位置にある靴底踵領域、着用者の足(27)が靴の内部にある時に足の前部位置に実質的に対応する位置にある靴底前部領域、着用者の足(27)が靴の内部にある時に足の踵と足の前部間の領域に実質的に対応する位置にある靴底中間部領域」を有し、「靴底が足、特に足の側部の自然な形状に合致し、そして左右方向縦平面(図43参照)断面において一定の厚さを有し、それにより足が素足である場合と同様に足が地面と自然に作用しあうことを可能にすると共に、足を保護しかつ緩衝し続けるようにし」たものが記載されている。「靴底(28)が直立かつ無負荷状態の時、左右方向縦平面断面内に見て、靴底(28)の外表面(30)の凹状部」を有する。そこでの図3乃至図44Bに詳細が図示されている。
【0008】
なお、上記特許文献3と関連するものとして同一出願人により、例えば日本国特許としては特許第3049299号、第3060033号、第3293071号等があり、また米国特許としては、US5317819、US5544429、US6629376B1、US6668470B2、US6810606B1、US6877254B2、US7093379B2等がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
a)上記特許文献1に記載のものは、足入れ部が足甲および足裏の自然な曲面によく適合する曲線であるから、足との密着と保持がよくて履き心地も良好になる。しかし、靴の踵部外底面が平面状やそれに近い形状であるため、例えば傾斜した地面の歩行時や走行時で、靴底面に対して斜め方向への力が加わるような場合に、靴部底面がその傾斜に沿おうとして靴が変形したりする。また下腿軸から加わる圧力が踵骨の一直方向にはならないため、靴内の踵部や踵の外底面が平面状のままでは、やはり足首や周辺部の骨部及び腱部に過回動や過大な負荷が加わり、上記のような故障・障害を起こし易いし、かつ地面から十分な反力を受けることができず、足に力が入り難い。
【0010】
b)上記特許文献2に記載のものは、衝撃吸収性はあるとしても、靴の踵部外底面が平面状である場合には、例えば傾斜した地面の歩行時や走行時で、靴底面に対して斜め方向への力が加わるようなときに、靴部底面がその傾斜に沿おうとして靴が変形したり、また下腿軸から加わる圧力が踵骨の一直方向にはならないために、靴内の踵部や踵の外底面が平面状のままでは、やはり足首や周辺部の骨部及び腱部に過回動や過大な負荷が加わり、上記と同様に故障・障害を起こし易いし、かつ地面から十分な反力を受けることができず、足に力が入り難い。
【0011】
c)上記特許文献3に記載のものは、靴底が足の側部の自然な形状に合致し、左右方向縦平面断面において一定の厚さを有することで、足が素足である場合と同様に足が地面と自然に作用しあうことは認められる。
【0012】
しかし、足首関節部の保持固定に十分な配慮がなされておらず、これではやはり捻挫や肉離れ等の故障を起こし易いし、中足骨の可動が十分に保証されているか疑問が残る。路面の凹凸や傾斜面を歩行・走行時に靴の外裏面で十分な力を加えたり、路面・傾斜面から反力を受けて確実に歩行・走行できるかの点でも問題点が残っている。
【0013】
なお上記した特許文献の他にも、靴の裏底全体を球状にしたものも提案されている(例えば特開2001−87717号公報、実用新案登録第3163582号公報参照)。しかしそれらはリハビリやトレーニングを目的としたもので、本発明とはその構成・目的・課題・効果を異にする。
【0014】
本発明は、上記従来の靴の問題点の解決を課題としたものである。即ち、本発明の目的は、歩行・走行時に安定性があると共に地面に対して十分な力を加えることができ、また足首や周辺の関節部、骨部及び腱部等に無理に過大な負荷が加わることを防止して、上記のような故障・障害の発生を防止でき、かつ足の機能を十分確実に発揮できる靴を提供しようとしている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る靴は、
靴踵部2内側に、足関節部の動きを背屈と底屈以外は制限し得るように囲む両側壁部4と後壁部5をもつヒールカップ部3を設け、靴1の裏底部6に、足の第5中足骨7の基部近傍から第1中足骨8前部近傍に対応する部分にかけて、他より薄肉厚の折曲がり用部9を設け、かつ靴踵部2の外形を下部へ凸状のほぼ半球状部10に形成したものである。
【0016】
上記構成において、靴1の裏底部6は全体が一体成形によるものとし、その材質は衝撃吸収性(クッション性)と耐磨耗性を有するように、ゴム製(例えば天然ゴム、合成ゴム、ラテックスゴム、または発泡ゴムスポンジ)或いは合成樹脂製とするのがよい。また靴踵部2におけるほぼ半球状部10は、無負荷状態時には下方へほぼ半球状であるが(例えば図2,図4参照)、体重その他の荷重が加わった際には、地面gとの接触部分が僅かに偏平状となる(例えば図5,図6参照)程度の硬度と弾力性をもつものとする。
【0017】
ここで外形がほぼ半球状とは、この靴を前方(または後方)からだけでなくて側方から見た際の外形も下方へ凸部のほぼ半球状であることを言う。このほぼ半球状部10は、その高さを厳密に球状の半径と等しくする必要はない。靴踵部2の内部では足の踵部11を係合可能な形状に凹状をなしている(例えば5,図6参照)。
【0018】
そして上記ヒールカップ部3は、その上縁部12がほぼ足のくるぶしの上までの高さを有し、足関節部の動きを背屈と底屈以外は制限し得るように囲む両側壁部4と後壁部5をもつものである。
【0019】
なお、上記の靴1の裏底部6の折曲がり用部9で、第1中足骨8前部に対応する部分とは、換言すれば母趾基節骨13の後部近傍に対応する部分とも言える。本発明と対比するため示した従来例の図において、本発明と対応する各部分には共通の図面符号を付してある。
【発明の効果】
【0020】
上記構成による本発明の靴は、次のような作用・効果を発揮する。
イ)本発明の靴1は、足関節部の動きを背屈と底屈以外は制限し得るように、足の踵部11近傍を囲む両側壁部4と後壁部5をもつヒールカップ部3を形成してある。
【0021】
そのため、この靴1を履いた際には足は靴と一体感を有することは勿論のこと、足関節部は、背屈と底屈以外の動きが制限されることになり、足首を捻じることによって生じる捻挫や肉離れ等の故障・障害を防止することができる。このことは特に、凹凸のある地面gや傾斜状面を歩行・走行する際に、靴底面がそれに沿おうとして靴・足に斜め方向への力が加わるようなときに有効である。
【0022】
即ち、従来の靴では、靴部底面がその傾斜に沿おうとするから、下腿の軸線yから加わる圧力が踵骨の一直方向にはならないため(例えば図17参照)、足首や周辺部の骨部及び腱部に過回動や過大な負荷が加わり、上記のように故障・障害をを起こし易かった。これに対して本発明の靴1では、下腿の軸線yから加わる圧力が踵骨の一直方向になるので(例えば図7,図8,図9参照)、上記のような故障・障害の発生を防止できる。
【0023】
ロ)本発明では上記の如く、靴踵部2の外形を下方へ凸状のほぼ半球状部10に形成してあることにより、踵裏部の地面gへの接触状態は、半球状の曲面のいずれか部分での接触状態となり(例えば図2,図4参照)、足の背屈と底屈以外の動きは靴1の接地面を軸とする動きになる。
【0024】
その靴1が履かれて体重等で荷重が加わった場合に、地面gとの接触状態は面接触になるが、その面接触はごく小さい面積での面接触状態になるだけである(例えば図5,図6参照)。しかも、地面gの傾斜が左または右、或いは前または後に傾斜したいずれの場合でも、靴踵部2と地面gとの接触はほぼ半球状部10の曲面のいずれかの部分での接触である(例えば図7,図8,図9参照)。
【0025】
従来の靴では、靴踵部2が平面的であるために身体の傾きや地面gの傾斜等により、靴踵部2と地面gとの接触状態が急に変化して不安定になるが(例えば図17と図18参照)、本発明の靴では上記の如く靴踵部2と地面gとの接触がほぼ半球状の曲面のいずれかの部分での接触であるため、地面gの傾斜や身体の傾き等に係わらず靴踵部2から加わる力の変化は常に無段階の滑らかなものになり(例えば図7,図8,図10,図12a,b,c,図13参照)、足関節に急激な変化や力が加わることを無くすことができる。
【0026】
ハ)同じく、靴踵部2と地面gとの接触がほぼ半球状の曲面のいずれかの部分が接触するものであることから、地面gに靴踵部2が接した状態で身体を縦軸の周りに回した場合、従来のものと異なり、膝関節等に負担がかからない。即ち、従来の平面的な靴踵部2をもつものでは、平面的な靴踵部2が地面gに対して言わば固定状態にあるから(例えば図20a参照)、身体を回すと固定状態にある踵骨・距骨18に対して上部に連結した脛骨・腱骨19が足の軸線yの周りに回ろうとする(例えば図20b参照)から、足首や膝関節等に無理な力が加わり、負担をかけて故障・障害が生じていた。
【0027】
これに対して本発明の靴1では、靴踵部2はほぼ半球状部10の小さい面積で地面gに接触しているから、身体を回した場合に靴踵部2は地面との接触点を軸とした回転が可能である(例えば図11参照)。そのため、身体を縦軸の周りに回して脛骨・腱骨19が足の軸線yの周りに回る際に、踵骨・距骨18も軸線yの周りに追従して回ることになるから、従来の平面的な靴踵部2の靴と異なり、足首や膝関節に無理な力が加わらず、負担を無くし故障・障害が起きることを無くせる。
【0028】
ニ)同じく、靴踵部2が下方へ凸状のほぼ半球状部10であることにより、歩行・走行時に、従来の平面状の靴踵部2をもつ靴と異なって足の運びをスムーズに行えるから、従来の平面状の靴踵部2をもつ靴と異なり、じん帯やアキレス腱等の負担・損傷を防止できる。
【0029】
即ち、従来の靴1では、歩行・走行時に靴踵部2の後端部が接地すると直ぐに平面状の靴踵部2全体が接地するから、靴の裏底面全体が接地することになり、足の裏面と足の軸線yとがなす角度αが急に大きく変化して、足首のじん帯やアキレス腱を伸縮させる力の変化が急で、足の負担や疲労が大きかった。
【0030】
これに対して本発明の靴1では、靴踵部2がほぼ半球状部10であるから、歩行・走行時にまず該半球状部10の後部寄り部分が接地し(例えば図12a参照)、この際の接地点PはP1 であるが、その後に接地点Pは靴踵部2のほぼ半球状部10の曲面に沿って徐々に前方へP2,P3 と移動しながら接地していく(例えば図12b参照)。
【0031】
これを図13に基づいて少し詳しく説明する(この図は靴踵部2のほぼ半球状部10を基準に描いており、地面gは同一の水平面である)当初、靴踵部2の後部が地面gに接した際の接地点Pはほぼ半球状部10の曲面の後部寄りのP1 の位置であり、その後に身体の前進移動に伴って靴1の裏底面6が地面gに近づくが、その際のほぼ半球状部2の接地点PはP2 の位置になり、さらに、靴1の裏底面6が接地する状態(例えば図12b参照)でのほぼ半球状部2の接地点PはP3 の位置へ前進移動する。
【0032】
その後さらに身体が前方へ移動すると、靴裏底面前部寄りの折曲がり用部17が曲がると共に、ほぼ半球状部10の接地は終わり、靴踵部2が持ち上がる(例えば図12c参照)。上記の各接地点P1,P2,P3 における足の軸線yと足底面とがなす角度αは、従来のものと異なり、常にほぼ90度が維持されることになっている(上記図12のa,b,c,図13参照)。したがって、本発明の靴では、歩行・走行時に足首周辺のじん帯やアキレス腱を伸縮させる力の変化が少なくなっており、足の負担や疲労も小さくできるものである。
【0033】
ホ)本発明の靴で靴踵部2以外の裏底部6には、第5中足骨の基部近傍から第1中足骨の前部(または母趾基節骨の後部)近傍に対応する部分にかけて、薄肉厚の折曲がり用部9を有している。そのため、踵骨を基盤とする足後部の足根部に対して、中央部から前部にかけての部分は、独立して折曲がるように可動である。
【0034】
これにより、足の踵部11と母趾球部14と小趾球部15の3点(図16で二点斜線を付した部分参照)がバランスをとってうまく体重その他の荷重を支えることができる。そのため、いわゆる3点支持が可能となるから、平坦な地面1では勿論のこと、凹凸や傾斜のある地面gでも足関節に過大や荷重や過度の負荷をかけることなく歩行・走行することができる。
【0035】
ヘ)このように本発明の靴は、上記ヒールカップ部3と、折曲がり用部9と、靴踵部2に下方へ凸状のほぼ半球状部10とを有する構成の相乗作用により、地面gの凹凸や傾斜にかかわらず常に3点支持が可能となって、足には局部的に無理で過大な力が加わることが無くなっている。その結果として、歩行・走行時に安定性があると共に地面に対して十分な力を加えることができ、また足首や周辺の関節部や骨部、及びじん帯や腱部等に無理に過大な負荷が加わることを防止して、足の故障・障害の発生を防止でき、かつ足の機能を十分確実に発揮できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る靴の実施例を示す斜視図である。
【図2】図1で示した靴の縦断側面図である。
【図3】図1で示した靴の底面図である。
【図4】図1で示した靴の踵部の縦断背面図である。
【図5】図1で示した靴を履いた場合の縦断側面図である。
【図6】図1で示した靴を履いた場合の踵部の縦断背面図である。
【図7】図1で示した靴を傾斜面で履いた場合の踵部縦断背面図である。
【図8】図1で示した靴を図7とは逆の傾斜面で履いた場合の踵部縦断背面図である。
【図9】図1で示した靴を凹凸の有る場所で履いた場合の縦断側面図である。
【図10】図1で示した靴を履いて身体を傾けた場合の縦断背面図である。
【図11】図1で示した靴を履いて身体を回した場合の縦断背面図である。
【図12】a,b,cの各図は、図1で示した靴を履いて歩行時の接地状態を示す概略側面図である。
【図13】図1で示した靴を履いて歩行時に、靴踵部のほぼ半球状部と地面との接地点Pの移動を示す縦断側面図である。
【図14】足首を内がえした状態の足の動きを示す概略斜視図である。
【図15】足首を外がえした状態の足の動きを示す概略斜視図である。
【図16】足の骨の名称を示す平面図である。
【図17】従来の靴を履いて身体をやや傾けた際の縦断背面図である。
【図18】図17で示した状態から身体をさらに傾けた際の縦断背面図である。
【図19】従来の靴を履いて傾斜面に接地した状態の縦断背面図である。
【図20】aは従来の靴を履いて静止時の縦断背面図、bは身体を回した時の縦断背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
靴踵部2内側に、足関節部の動きを背屈と底屈以外は制限し得るように囲む両側壁部4と後壁部5をもつヒールカップ部3を設け、靴1の裏底部6に、足の第5中足骨7の基部近傍から第1中足骨8前部近傍に対応する部分にかけて、他より薄肉厚の折曲がり用部9を設け、かつ靴踵部2の外形を、下部へ凸状のほぼ半球状部10に形成する。
【実施例1】
【0038】
図1ないし図13は、本発明に係る靴をランニングシューズとした場合の実施例を示すが、ここでは近時の多くの靴と同様に、セメンテッド製法によりアッパー部の胛被16とソール部の裏底部6とを接着剤で貼り合わせたものであり、上部後方に開口した履口部を設けて靴形状に形成してある。
【0039】
上記靴1の裏底部6は、ここでは合成ゴム製としているが、衝撃吸収性や耐磨耗性をもつものとする。靴踵部2に形成した下方へ凸状のほぼ半球状部10の外形は、図4,図5,図6で示すように無負荷時にはそのまま下方へ凸状のほぼ半球状をしており、体重その他の荷重が加わった際に、接触部分で僅かに偏平する程度の硬度と弾力性をもつように設定してある。
【0040】
上記靴形状としたものの靴踵部2の内側には、図5,図6で示す如く、足関節部の動きを背屈と底屈以外は制限し得るように囲む両側壁部4と後壁部5をもつヒールカップ部3を設けてある。そしてその上端縁は、足のくるぶしの上部近傍まである高さに形成してある。
【0041】
上記靴踵部2の裏底は、外形が下方へ凸状のほぼ半球状部10に形成してある。ここでほぼ半球状部10は、図2,図3,図4で示す如く、靴の正面から見ても背面から見てもほぼ半球状をしている。ここではその大きさを、最大外径が約80mmで高さが約40mmのほぼ半球状になるようにしてある。
【0042】
このほぼ半球状部10は、外形は上記の如くほぼ半球状であるが、靴踵部2内の上面は図2,図4で示すように、該靴踵部2に足踵部11を係合可能に凹面状にしてある。
【0043】
また靴踵部2以外の裏底部6は、足の第5中足骨の基部7近傍から第1中足骨8の前部(または母趾基節骨の後部)近傍に対応する部分にかけて、薄肉厚として折曲がり用部9を形成してある。これによってこの靴1は、この折曲がり用部9と上記のヒールカップ部3と靴踵部2のほぼ半球状部10との相乗作用で、地面の凹凸や傾斜面にかかわらず常に3点支持が可能となって、足に無理なく歩行・走行できるようになり、靴として有用な機能を発揮する。
【0044】
17は別の折曲がり用部を示し、上記折曲がり部9に加えて、足の中足骨と趾骨をつなぐ関節であるMP関節に対応する位置に形成してある。
【0045】
この構成により、上記発明の効果の欄で述べたような有益な作用・効果を発揮できる靴となっている(ここでは重複を避けて記載の省略する)。
【0046】
なお上記実施例では、本発明の靴をランニングシューズとした例で説明したが、それに限らず、例えば一般的なシューズや広くスポーツシューズ、アウトドアシューズ、リハビシューズ等にも応用できることは言うまでもない。また上記で示した材質・寸法・製法等は例示であってそれに限定するものでないことは勿論である。
【符号の説明】
【0047】
1−靴
2−靴踵部
3−ヒールカップ部
4−側壁部
5−後壁部
6−裏底部
7−第5中足骨
8−第1中足骨
9−折曲がり部
10−ほぼ半球状部
11−足の踵部
12−上縁部
13−母指基節骨
14−母趾球部
15−小趾球部
16−胛被
17−折曲がり部
18−脛骨・腱骨
19−踵骨・距骨
g 地面
P,P1,P2,P3 −接地点
y−足の軸線
α−角度
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴の改良に係るものであり、歩行・走行時に安定性があると共に地面に対して十分な力を加えることができ、また足首や周辺の関節部、骨部及び腱部等に過大な負荷が加わって生じる故障・障害を防止し、足の機能を十分に発揮できる構造の靴に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来一般の靴は、靴踵部内および靴踵部外底面が平面状であるものが多い。これは、本来丸みを持った足踵部の形状と異なっている。そのため、歩行または走行時に靴内で、丸みを持った足踵部が内がえしの動き(図14参照)や、外がえしの動き(図15参照)が生じやすい。その結果、靴内で足が不安定であり、上記のような足首や周辺の関節部等に故障・障害が生じやすいし、十分に足へ力を加え難い。
【0003】
また、靴踵部外底面が平面状であるものでは、足首が何かの事情で横方向へ傾いた場合には、下腿軸から加わる圧力が踵骨の一直方向にはならないために〔例えば後記特許文献3の図2や特許第3312340号(特開平2002−101905号)の図34参照〕、足首や周辺の骨部及び腱部に過回動や過大な負荷が加わり、捻挫や肉離れ等の故障を起こし易い。
【0004】
さらに、靴踵部の外底面が平面状のものでは、傾斜した地面等を歩行や走行する場合にも、靴外底面の全体がその傾斜に沿おうとするから、やはり下腿軸から加わる圧力が踵骨の一直方向にはならないため、足首や周辺の関節部の故障・障害を起こし易い。
そこで上記諸問題に対応すべく、従来より幾つか形状・構造の靴が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭39−15597号公報 これは、靴の製造方法に関するものであるが、「靴胛被内即ち足入れ部が足甲および足裏の自然な曲面によく適合する曲線により形成し、足との密着と保持がよく履き心地が良好」な靴として、そこでの図1ないし図7イでその形状が示されている。
【0006】
【特許文献2】実開昭61−55810号公報 これは靴のクッション具であり、「少なくとも足の踵骨に一致する凹部を形成する両側壁、底壁および後壁を有する弾力性ボデーと、上記各壁の外面は、はきものに入れられるように形成されていることと、少なくとも足の踵の重量支持部に相当する領域において、上記ボデーと一体的に上記ボデーから突出している衝撃吸収部とから構成され、上記衝撃吸収部は、弾力性材料でつくられ、上記衝撃吸収部のゆがみと変形とによって、足が受けた衝撃力を吸収するように、はきものの着用者の踵のまわりで、はきものの中に置くことができるようになっている」ものである。
【0007】
【特許文献3】特許第3312340号(特開平2002−101905号)公報) これは、足の形状に合わせて形成された靴底を有する靴であって、そこには、「着用者の足(27)が靴の内部にある時に踵の位置に実質的に対応する位置にある靴底踵領域、着用者の足(27)が靴の内部にある時に足の前部位置に実質的に対応する位置にある靴底前部領域、着用者の足(27)が靴の内部にある時に足の踵と足の前部間の領域に実質的に対応する位置にある靴底中間部領域」を有し、「靴底が足、特に足の側部の自然な形状に合致し、そして左右方向縦平面(図43参照)断面において一定の厚さを有し、それにより足が素足である場合と同様に足が地面と自然に作用しあうことを可能にすると共に、足を保護しかつ緩衝し続けるようにし」たものが記載されている。「靴底(28)が直立かつ無負荷状態の時、左右方向縦平面断面内に見て、靴底(28)の外表面(30)の凹状部」を有する。そこでの図3乃至図44Bに詳細が図示されている。
【0008】
なお、上記特許文献3と関連するものとして同一出願人により、例えば日本国特許としては特許第3049299号、第3060033号、第3293071号等があり、また米国特許としては、US5317819、US5544429、US6629376B1、US6668470B2、US6810606B1、US6877254B2、US7093379B2等がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
a)上記特許文献1に記載のものは、足入れ部が足甲および足裏の自然な曲面によく適合する曲線であるから、足との密着と保持がよくて履き心地も良好になる。しかし、靴の踵部外底面が平面状やそれに近い形状であるため、例えば傾斜した地面の歩行時や走行時で、靴底面に対して斜め方向への力が加わるような場合に、靴部底面がその傾斜に沿おうとして靴が変形したりする。また下腿軸から加わる圧力が踵骨の一直方向にはならないため、靴内の踵部や踵の外底面が平面状のままでは、やはり足首や周辺部の骨部及び腱部に過回動や過大な負荷が加わり、上記のような故障・障害を起こし易いし、かつ地面から十分な反力を受けることができず、足に力が入り難い。
【0010】
b)上記特許文献2に記載のものは、衝撃吸収性はあるとしても、靴の踵部外底面が平面状である場合には、例えば傾斜した地面の歩行時や走行時で、靴底面に対して斜め方向への力が加わるようなときに、靴部底面がその傾斜に沿おうとして靴が変形したり、また下腿軸から加わる圧力が踵骨の一直方向にはならないために、靴内の踵部や踵の外底面が平面状のままでは、やはり足首や周辺部の骨部及び腱部に過回動や過大な負荷が加わり、上記と同様に故障・障害を起こし易いし、かつ地面から十分な反力を受けることができず、足に力が入り難い。
【0011】
c)上記特許文献3に記載のものは、靴底が足の側部の自然な形状に合致し、左右方向縦平面断面において一定の厚さを有することで、足が素足である場合と同様に足が地面と自然に作用しあうことは認められる。
【0012】
しかし、足首関節部の保持固定に十分な配慮がなされておらず、これではやはり捻挫や肉離れ等の故障を起こし易いし、中足骨の可動が十分に保証されているか疑問が残る。路面の凹凸や傾斜面を歩行・走行時に靴の外裏面で十分な力を加えたり、路面・傾斜面から反力を受けて確実に歩行・走行できるかの点でも問題点が残っている。
【0013】
なお上記した特許文献の他にも、靴の裏底全体を球状にしたものも提案されている(例えば特開2001−87717号公報、実用新案登録第3163582号公報参照)。しかしそれらはリハビリやトレーニングを目的としたもので、本発明とはその構成・目的・課題・効果を異にする。
【0014】
本発明は、上記従来の靴の問題点の解決を課題としたものである。即ち、本発明の目的は、歩行・走行時に安定性があると共に地面に対して十分な力を加えることができ、また足首や周辺の関節部、骨部及び腱部等に無理に過大な負荷が加わることを防止して、上記のような故障・障害の発生を防止でき、かつ足の機能を十分確実に発揮できる靴を提供しようとしている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る靴は、
靴踵部2内側に、足関節部の動きを背屈と底屈以外は制限し得るように囲む両側壁部4と後壁部5をもつヒールカップ部3を設け、靴1の裏底部6に、足の第5中足骨7の基部近傍から第1中足骨8前部近傍に対応する部分にかけて、他より薄肉厚の折曲がり用部9を設け、かつ靴踵部2の外形を下部へ凸状のほぼ半球状部10に形成したものである。
【0016】
上記構成において、靴1の裏底部6は全体が一体成形によるものとし、その材質は衝撃吸収性(クッション性)と耐磨耗性を有するように、ゴム製(例えば天然ゴム、合成ゴム、ラテックスゴム、または発泡ゴムスポンジ)或いは合成樹脂製とするのがよい。また靴踵部2におけるほぼ半球状部10は、無負荷状態時には下方へほぼ半球状であるが(例えば図2,図4参照)、体重その他の荷重が加わった際には、地面gとの接触部分が僅かに偏平状となる(例えば図5,図6参照)程度の硬度と弾力性をもつものとする。
【0017】
ここで外形がほぼ半球状とは、この靴を前方(または後方)からだけでなくて側方から見た際の外形も下方へ凸部のほぼ半球状であることを言う。このほぼ半球状部10は、その高さを厳密に球状の半径と等しくする必要はない。靴踵部2の内部では足の踵部11を係合可能な形状に凹状をなしている(例えば5,図6参照)。
【0018】
そして上記ヒールカップ部3は、その上縁部12がほぼ足のくるぶしの上までの高さを有し、足関節部の動きを背屈と底屈以外は制限し得るように囲む両側壁部4と後壁部5をもつものである。
【0019】
なお、上記の靴1の裏底部6の折曲がり用部9で、第1中足骨8前部に対応する部分とは、換言すれば母趾基節骨13の後部近傍に対応する部分とも言える。本発明と対比するため示した従来例の図において、本発明と対応する各部分には共通の図面符号を付してある。
【発明の効果】
【0020】
上記構成による本発明の靴は、次のような作用・効果を発揮する。
イ)本発明の靴1は、足関節部の動きを背屈と底屈以外は制限し得るように、足の踵部11近傍を囲む両側壁部4と後壁部5をもつヒールカップ部3を形成してある。
【0021】
そのため、この靴1を履いた際には足は靴と一体感を有することは勿論のこと、足関節部は、背屈と底屈以外の動きが制限されることになり、足首を捻じることによって生じる捻挫や肉離れ等の故障・障害を防止することができる。このことは特に、凹凸のある地面gや傾斜状面を歩行・走行する際に、靴底面がそれに沿おうとして靴・足に斜め方向への力が加わるようなときに有効である。
【0022】
即ち、従来の靴では、靴部底面がその傾斜に沿おうとするから、下腿の軸線yから加わる圧力が踵骨の一直方向にはならないため(例えば図17参照)、足首や周辺部の骨部及び腱部に過回動や過大な負荷が加わり、上記のように故障・障害をを起こし易かった。これに対して本発明の靴1では、下腿の軸線yから加わる圧力が踵骨の一直方向になるので(例えば図7,図8,図9参照)、上記のような故障・障害の発生を防止できる。
【0023】
ロ)本発明では上記の如く、靴踵部2の外形を下方へ凸状のほぼ半球状部10に形成してあることにより、踵裏部の地面gへの接触状態は、半球状の曲面のいずれか部分での接触状態となり(例えば図2,図4参照)、足の背屈と底屈以外の動きは靴1の接地面を軸とする動きになる。
【0024】
その靴1が履かれて体重等で荷重が加わった場合に、地面gとの接触状態は面接触になるが、その面接触はごく小さい面積での面接触状態になるだけである(例えば図5,図6参照)。しかも、地面gの傾斜が左または右、或いは前または後に傾斜したいずれの場合でも、靴踵部2と地面gとの接触はほぼ半球状部10の曲面のいずれかの部分での接触である(例えば図7,図8,図9参照)。
【0025】
従来の靴では、靴踵部2が平面的であるために身体の傾きや地面gの傾斜等により、靴踵部2と地面gとの接触状態が急に変化して不安定になるが(例えば図17と図18参照)、本発明の靴では上記の如く靴踵部2と地面gとの接触がほぼ半球状の曲面のいずれかの部分での接触であるため、地面gの傾斜や身体の傾き等に係わらず靴踵部2から加わる力の変化は常に無段階の滑らかなものになり(例えば図7,図8,図10,図12a,b,c,図13参照)、足関節に急激な変化や力が加わることを無くすことができる。
【0026】
ハ)同じく、靴踵部2と地面gとの接触がほぼ半球状の曲面のいずれかの部分が接触するものであることから、地面gに靴踵部2が接した状態で身体を縦軸の周りに回した場合、従来のものと異なり、膝関節等に負担がかからない。即ち、従来の平面的な靴踵部2をもつものでは、平面的な靴踵部2が地面gに対して言わば固定状態にあるから(例えば図20a参照)、身体を回すと固定状態にある踵骨・距骨18に対して上部に連結した脛骨・腱骨19が足の軸線yの周りに回ろうとする(例えば図20b参照)から、足首や膝関節等に無理な力が加わり、負担をかけて故障・障害が生じていた。
【0027】
これに対して本発明の靴1では、靴踵部2はほぼ半球状部10の小さい面積で地面gに接触しているから、身体を回した場合に靴踵部2は地面との接触点を軸とした回転が可能である(例えば図11参照)。そのため、身体を縦軸の周りに回して脛骨・腱骨19が足の軸線yの周りに回る際に、踵骨・距骨18も軸線yの周りに追従して回ることになるから、従来の平面的な靴踵部2の靴と異なり、足首や膝関節に無理な力が加わらず、負担を無くし故障・障害が起きることを無くせる。
【0028】
ニ)同じく、靴踵部2が下方へ凸状のほぼ半球状部10であることにより、歩行・走行時に、従来の平面状の靴踵部2をもつ靴と異なって足の運びをスムーズに行えるから、従来の平面状の靴踵部2をもつ靴と異なり、じん帯やアキレス腱等の負担・損傷を防止できる。
【0029】
即ち、従来の靴1では、歩行・走行時に靴踵部2の後端部が接地すると直ぐに平面状の靴踵部2全体が接地するから、靴の裏底面全体が接地することになり、足の裏面と足の軸線yとがなす角度αが急に大きく変化して、足首のじん帯やアキレス腱を伸縮させる力の変化が急で、足の負担や疲労が大きかった。
【0030】
これに対して本発明の靴1では、靴踵部2がほぼ半球状部10であるから、歩行・走行時にまず該半球状部10の後部寄り部分が接地し(例えば図12a参照)、この際の接地点PはP1 であるが、その後に接地点Pは靴踵部2のほぼ半球状部10の曲面に沿って徐々に前方へP2,P3 と移動しながら接地していく(例えば図12b参照)。
【0031】
これを図13に基づいて少し詳しく説明する(この図は靴踵部2のほぼ半球状部10を基準に描いており、地面gは同一の水平面である)当初、靴踵部2の後部が地面gに接した際の接地点Pはほぼ半球状部10の曲面の後部寄りのP1 の位置であり、その後に身体の前進移動に伴って靴1の裏底面6が地面gに近づくが、その際のほぼ半球状部2の接地点PはP2 の位置になり、さらに、靴1の裏底面6が接地する状態(例えば図12b参照)でのほぼ半球状部2の接地点PはP3 の位置へ前進移動する。
【0032】
その後さらに身体が前方へ移動すると、靴裏底面前部寄りの折曲がり用部17が曲がると共に、ほぼ半球状部10の接地は終わり、靴踵部2が持ち上がる(例えば図12c参照)。上記の各接地点P1,P2,P3 における足の軸線yと足底面とがなす角度αは、従来のものと異なり、常にほぼ90度が維持されることになっている(上記図12のa,b,c,図13参照)。したがって、本発明の靴では、歩行・走行時に足首周辺のじん帯やアキレス腱を伸縮させる力の変化が少なくなっており、足の負担や疲労も小さくできるものである。
【0033】
ホ)本発明の靴で靴踵部2以外の裏底部6には、第5中足骨の基部近傍から第1中足骨の前部(または母趾基節骨の後部)近傍に対応する部分にかけて、薄肉厚の折曲がり用部9を有している。そのため、踵骨を基盤とする足後部の足根部に対して、中央部から前部にかけての部分は、独立して折曲がるように可動である。
【0034】
これにより、足の踵部11と母趾球部14と小趾球部15の3点(図16で二点斜線を付した部分参照)がバランスをとってうまく体重その他の荷重を支えることができる。そのため、いわゆる3点支持が可能となるから、平坦な地面1では勿論のこと、凹凸や傾斜のある地面gでも足関節に過大や荷重や過度の負荷をかけることなく歩行・走行することができる。
【0035】
ヘ)このように本発明の靴は、上記ヒールカップ部3と、折曲がり用部9と、靴踵部2に下方へ凸状のほぼ半球状部10とを有する構成の相乗作用により、地面gの凹凸や傾斜にかかわらず常に3点支持が可能となって、足には局部的に無理で過大な力が加わることが無くなっている。その結果として、歩行・走行時に安定性があると共に地面に対して十分な力を加えることができ、また足首や周辺の関節部や骨部、及びじん帯や腱部等に無理に過大な負荷が加わることを防止して、足の故障・障害の発生を防止でき、かつ足の機能を十分確実に発揮できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る靴の実施例を示す斜視図である。
【図2】図1で示した靴の縦断側面図である。
【図3】図1で示した靴の底面図である。
【図4】図1で示した靴の踵部の縦断背面図である。
【図5】図1で示した靴を履いた場合の縦断側面図である。
【図6】図1で示した靴を履いた場合の踵部の縦断背面図である。
【図7】図1で示した靴を傾斜面で履いた場合の踵部縦断背面図である。
【図8】図1で示した靴を図7とは逆の傾斜面で履いた場合の踵部縦断背面図である。
【図9】図1で示した靴を凹凸の有る場所で履いた場合の縦断側面図である。
【図10】図1で示した靴を履いて身体を傾けた場合の縦断背面図である。
【図11】図1で示した靴を履いて身体を回した場合の縦断背面図である。
【図12】a,b,cの各図は、図1で示した靴を履いて歩行時の接地状態を示す概略側面図である。
【図13】図1で示した靴を履いて歩行時に、靴踵部のほぼ半球状部と地面との接地点Pの移動を示す縦断側面図である。
【図14】足首を内がえした状態の足の動きを示す概略斜視図である。
【図15】足首を外がえした状態の足の動きを示す概略斜視図である。
【図16】足の骨の名称を示す平面図である。
【図17】従来の靴を履いて身体をやや傾けた際の縦断背面図である。
【図18】図17で示した状態から身体をさらに傾けた際の縦断背面図である。
【図19】従来の靴を履いて傾斜面に接地した状態の縦断背面図である。
【図20】aは従来の靴を履いて静止時の縦断背面図、bは身体を回した時の縦断背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
靴踵部2内側に、足関節部の動きを背屈と底屈以外は制限し得るように囲む両側壁部4と後壁部5をもつヒールカップ部3を設け、靴1の裏底部6に、足の第5中足骨7の基部近傍から第1中足骨8前部近傍に対応する部分にかけて、他より薄肉厚の折曲がり用部9を設け、かつ靴踵部2の外形を、下部へ凸状のほぼ半球状部10に形成する。
【実施例1】
【0038】
図1ないし図13は、本発明に係る靴をランニングシューズとした場合の実施例を示すが、ここでは近時の多くの靴と同様に、セメンテッド製法によりアッパー部の胛被16とソール部の裏底部6とを接着剤で貼り合わせたものであり、上部後方に開口した履口部を設けて靴形状に形成してある。
【0039】
上記靴1の裏底部6は、ここでは合成ゴム製としているが、衝撃吸収性や耐磨耗性をもつものとする。靴踵部2に形成した下方へ凸状のほぼ半球状部10の外形は、図4,図5,図6で示すように無負荷時にはそのまま下方へ凸状のほぼ半球状をしており、体重その他の荷重が加わった際に、接触部分で僅かに偏平する程度の硬度と弾力性をもつように設定してある。
【0040】
上記靴形状としたものの靴踵部2の内側には、図5,図6で示す如く、足関節部の動きを背屈と底屈以外は制限し得るように囲む両側壁部4と後壁部5をもつヒールカップ部3を設けてある。そしてその上端縁は、足のくるぶしの上部近傍まである高さに形成してある。
【0041】
上記靴踵部2の裏底は、外形が下方へ凸状のほぼ半球状部10に形成してある。ここでほぼ半球状部10は、図2,図3,図4で示す如く、靴の正面から見ても背面から見てもほぼ半球状をしている。ここではその大きさを、最大外径が約80mmで高さが約40mmのほぼ半球状になるようにしてある。
【0042】
このほぼ半球状部10は、外形は上記の如くほぼ半球状であるが、靴踵部2内の上面は図2,図4で示すように、該靴踵部2に足踵部11を係合可能に凹面状にしてある。
【0043】
また靴踵部2以外の裏底部6は、足の第5中足骨の基部7近傍から第1中足骨8の前部(または母趾基節骨の後部)近傍に対応する部分にかけて、薄肉厚として折曲がり用部9を形成してある。これによってこの靴1は、この折曲がり用部9と上記のヒールカップ部3と靴踵部2のほぼ半球状部10との相乗作用で、地面の凹凸や傾斜面にかかわらず常に3点支持が可能となって、足に無理なく歩行・走行できるようになり、靴として有用な機能を発揮する。
【0044】
17は別の折曲がり用部を示し、上記折曲がり部9に加えて、足の中足骨と趾骨をつなぐ関節であるMP関節に対応する位置に形成してある。
【0045】
この構成により、上記発明の効果の欄で述べたような有益な作用・効果を発揮できる靴となっている(ここでは重複を避けて記載の省略する)。
【0046】
なお上記実施例では、本発明の靴をランニングシューズとした例で説明したが、それに限らず、例えば一般的なシューズや広くスポーツシューズ、アウトドアシューズ、リハビシューズ等にも応用できることは言うまでもない。また上記で示した材質・寸法・製法等は例示であってそれに限定するものでないことは勿論である。
【符号の説明】
【0047】
1−靴
2−靴踵部
3−ヒールカップ部
4−側壁部
5−後壁部
6−裏底部
7−第5中足骨
8−第1中足骨
9−折曲がり部
10−ほぼ半球状部
11−足の踵部
12−上縁部
13−母指基節骨
14−母趾球部
15−小趾球部
16−胛被
17−折曲がり部
18−脛骨・腱骨
19−踵骨・距骨
g 地面
P,P1,P2,P3 −接地点
y−足の軸線
α−角度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴1で靴踵部2内側に、足関節部の動きを背屈と底屈以外は制限し得るように囲む両側壁部4と後壁部5をもつヒールカップ部3を設け、靴1の裏底部6に、足の第5中足骨7の基部近傍から第1中足骨8前部近傍に対応する部分にかけて、他より薄肉厚の折曲がり用部9を設け、かつ靴踵部2の外形を、下部へ凸状のほぼ半球状部10に形成したことを特徴とする靴。
【請求項1】
靴1で靴踵部2内側に、足関節部の動きを背屈と底屈以外は制限し得るように囲む両側壁部4と後壁部5をもつヒールカップ部3を設け、靴1の裏底部6に、足の第5中足骨7の基部近傍から第1中足骨8前部近傍に対応する部分にかけて、他より薄肉厚の折曲がり用部9を設け、かつ靴踵部2の外形を、下部へ凸状のほぼ半球状部10に形成したことを特徴とする靴。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2013−42891(P2013−42891A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182087(P2011−182087)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【特許番号】特許第4916586号(P4916586)
【特許公報発行日】平成24年4月11日(2012.4.11)
【出願人】(307034209)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【特許番号】特許第4916586号(P4916586)
【特許公報発行日】平成24年4月11日(2012.4.11)
【出願人】(307034209)
【Fターム(参考)】
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