説明

鞍乗り型車両

【課題】他部材の配置等への影響を抑えてコンパクトにABSモジュールを配置すると共に、ABSモジュールに対する外乱の影響等を抑えることができる鞍乗り型車両を提供する。
【解決手段】ABSモジュール61が、エンジン13のクランク軸線C1よりも前方かつ略水平なシリンダ49の最前端F1よりも後方に配置され、かつABSモジュール61の少なくとも一部が、シリンダ軸線C2よりも下方に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車等の鞍乗り型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アンチロックブレーキシステム(Anti-lock Brake System、以下、ABSという)を備えた自動二輪車が知られている(例えば、特許文献1参照)。従来は、ABSを機能させるべくブレーキ液圧の減圧を行うABSモジュールが高価かつ大型であったため、部品スペースが比較的確保し易い大排気量の自動二輪車に適用されてきた。特許文献1記載の車両では、ヘッドパイプ近傍から下方へ延びるダウンフレームの下端部にABSモジュールを支持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−71232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年ではABSモジュールが廉価かつ小型になりつつあることから、種々の車両への搭載が望まれているが、他部品との相対配置のみならず、ABSモジュールに対する外乱の影響や車両の外観性等を考慮することも必要であり、ABSモジュールの搭載方法の工夫が必要とされる。特に、スポーツタイプやスクータ型の車両では、車体がカウル(車体カバー)で覆われることから、前述のようなABSモジュールの搭載が比較的し易いが、カウルの無いネイキッドタイプの車両では対策が必要である。
【0005】
そこで本発明は、他部材の配置等への影響を抑えてコンパクトにABSモジュールを配置すると共に、ABSモジュールに対する外乱の影響等を抑えることができる鞍乗り型車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決手段として、請求項1に記載した発明は、ヘッドパイプ(6)から後方へ延びるメインフレーム(15)と、前記メインフレーム(15)の下方でシリンダ(49)を略水平に配置したエンジン(13)と、車輪(2,9)に制動力を与える液圧式ブレーキ(56,57)と、前記車輪(2,9)のスリップを回避するべく前記液圧式ブレーキ(56,57)に作用する液圧を減圧可能なABSモジュール(61,161)とを備える鞍乗り型車両(1)であって、前記ABSモジュール(61,161)は、前記エンジン(13)のクランク軸線(C1)よりも前方かつ前記シリンダ(49)の最前端(F1)よりも後方に配置され、かつ前記ABSモジュール(61,161)の少なくとも一部が、シリンダ軸線(C2)よりも下方に配置されることを特徴とする。
なお、前記鞍乗り型車両には、運転者が車体を跨いで乗車する車両全般が含まれ、自動二輪車のみならず、三輪(前一輪かつ後二輪の他に、前二輪かつ後一輪の車両も含む)又は四輪の車両も含まれる。
【0007】
請求項2に記載した発明は、前記ABSモジュール(61,161)は、水密可能なモジュールケース(64,164)に収容された状態で配置されることを特徴とする。
請求項3に記載した発明は、前記ABSモジュール(61,161)と前記エンジン(13)との間に遮熱板(69c,71c)を備えることを特徴とする。
請求項4に記載した発明は、前記シリンダ(49)の下面から左右一側方の下方へ延びる排気管(52)を備え、前記ABSモジュール(61,161)は、前記シリンダ(49)の左右他側方に配置されることを特徴とする。
請求項5に記載した発明は、前記ABSモジュール(61)は、側面視で前記シリンダ(49)の下端縁(U1)よりも下方に配置されることを特徴とする。
請求項6に記載した発明は、前記ヘッドパイプ(6)又はその近傍から下方へ延びるダウンフレーム(16)と、前記ダウンフレーム(16)の下端近傍から前記ABSモジュール(61)の下端よりも下方に突出する突部(19)とを備えることを特徴とする。
請求項7に記載した発明は、前記ABSモジュール(161)は、側面視で少なくとも一部が前記シリンダ(49)と重なるように配置されることを特徴とする。
請求項8に記載した発明は、前記ヘッドパイプ(6)又はその近傍から下方へ延びるダウンフレーム(16)と、前記エンジン(13)よりも広い左右幅を有して前記ダウンフレーム(16)に取り付けられるガード部材(29)とを備え、前記ABSモジュール(161)は、前記ガード部材(29)の車幅方向外側端(L1)よりも車幅方向内側方に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載した発明によれば、水平シリンダのエンジンにおけるシリンダ周囲の空きスペースをABSモジュールの配置スペースとして有効利用することで、他部材の配置等への影響を抑えてコンパクトにABSモジュールを配置できると共に、ABSモジュールの少なくとも一部がシリンダ軸線よりも下方に位置することで、シリンダからの熱の影響を軽減できる。
【0009】
請求項2に記載した発明によれば、ABSモジュールをモジュールケース内に水密に収容することで、雨や路面からの跳ね上げ等による水掛かりの影響を抑止できる。
請求項3に記載した発明によれば、ABSモジュールに対するエンジン熱の影響を軽減できる。
請求項4に記載した発明によれば、ABSモジュールを排気管を避けて配置できると共に、ABSモジュールに対する排気熱の影響を軽減できる。
請求項5に記載した発明によれば、略水平なシリンダの下方の空きスペースをABSモジュールの配置スペースとして有効利用できる。
請求項6に記載した発明によれば、ABSモジュールの接地を抑止できる。
請求項7に記載した発明によれば、シリンダの側方かつクランクケースの前方の空きスペースをABSモジュールの配置スペースとして有効利用できる。
請求項8に記載した発明によれば、ガード部材により左右バンク時のABSモジュールの接地を抑止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態における自動二輪車の左側面図である。
【図2】上記自動二輪車の車体フレーム等の平面図(上面図)である。
【図3】上記自動二輪車の車体フレーム等の正面図(前面図)である。
【図4】上記自動二輪車のブレーキシステムの構成図である。
【図5】本発明の第一実施形態のABSモジュールの配置を示す、上記自動二輪車のエンジン周辺の左側面図である。
【図6】本発明の第一及び第二実施形態のABSモジュールの配置を示す、上記エンジン周辺の正面図である。
【図7】上記ABSモジュール及びモジュールケースの分解斜視図である。
【図8】本発明の第二実施形態のABSモジュールの配置を示す、上記自動二輪車のエンジン周辺の左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明における前後左右等の向きは、特に記載が無ければ以下に説明する車両における向きと同一とする。また以下の説明に用いる図中適所には、車両前方を示す矢印FR、車両左方を示す矢印LH、車両上方を示す矢印UPが示されている。
【0012】
<第一実施形態>
図1に示す自動二輪車1において、その前輪2は左右フロントフォーク3の下端部に軸支され、左右フロントフォーク3の上部はステアリングステム4及びトップブリッジ4aを介して車体フレーム5前端部のヘッドパイプ6に操向可能に枢支される。トップブリッジ4a上には操向用バーハンドル7が取り付けられる。左右フロントフォーク3間にはフロントフェンダ8が支持される。
【0013】
自動二輪車1の後輪9は、車体後部下側で前後に延びるスイングアーム11の後端部に軸支される。スイングアーム11の前端部は、車体フレーム5下部のピボットパイプ12に上下揺動可能に枢支される。後輪9は、自動二輪車1の原動機であるエンジン13に対し、車体後部左側に配置された例えばチェーン式の伝動機構14を介して連係される。
【0014】
車体フレーム5は、前記エンジン13を取り囲むクレードル形のもので、複数種の鋼材を溶接等により一体に結合してなる。
図2,3を併せて参照し、車体フレーム5は、前記ヘッドパイプ6と、ヘッドパイプ6の後部から下後方へ側面視で比較的緩傾斜をなして延びる単一のメインフレーム15と、メインフレーム15の前端部両側から左右に分岐するように下後方へ側面視で比較的急傾斜をなして延びる左右ダウンフレーム16と、左右ダウンフレーム16の下端部から後方へ湾曲して延びる左右ロアフレーム17と、左右ダウンフレーム16の上部間を連結するフロントアッパクロスパイプ18と、左右ロアフレーム17の前部間を連結するフロントロアクロスパイプ19と、左右ロアフレーム17の後端部間を連結するリアロアクロスパイプ21とを有する。なお、図中符号CLは車体左右中心線を示す。
【0015】
また、車体フレーム5は、メインフレーム15の後端部両側から左右に分岐するように下後方へ側面視で比較的急傾斜をなして延びた後に下前方へ湾曲してリアロアクロスパイプ21に接合される左右ミドルフレーム22と、左右ミドルフレーム22の下部前側に接合されるマウントブラケット23と、マウントブラケット23の下部にこれを貫通した状態で接合される前記ピボットパイプ12と、左右ミドルフレーム22の上端部よりも後方でメインフレーム15の後端部両側から左右に分岐するように上後方へ側面視で比較的緩傾斜をなして延びる左右シートフレーム24と、左右ミドルフレーム22の下部湾曲部の後側から上後方へ側面視で比較的急傾斜をなして延びて左右シートフレーム24の前後中間部に接合される左右サポートフレーム25と、左右シートフレーム24の前部間、前後中間部間及び後部間をそれぞれ連結するフロントクロスブラケット26、センタークロスブラケット27及びリアクロスブラケット28とを有する。
【0016】
メインフレーム15は、例えば左右分割体を一体に接合してなり、左右幅に対して上下幅を広げた縦長の断面形状を有し、車体左右中心線CLに沿って前後に延びる。メインフレーム15は、その前後端に渡って左右幅が略一定なのに対し、後側ほど上下幅が狭まるように形成される。メインフレーム15の前端部下側には、側面視で左右ダウンフレーム16に沿うように下方へ突出するガセット部15aが形成される。ガセット部15aの下端部は、フロントアッパクロスパイプ18に上方から接合される。
【0017】
左右ダウンフレーム16は、下側ほど車幅方向(左右方向)外側方へ広がるように下方へ延び、その下端部が左右ロアフレーム17の前部湾曲部に接続される。左右ロアフレーム17は、その前半部が側面視で比較的緩傾斜をなして下後方へ延び、後半部が略水平に後方へ延びる。左右ダウンフレーム16及び左右ロアフレーム17は、それぞれ車体左右毎に丸鋼管に曲げ加工等を施して一体形成される。なお、各クロスパイプ、左右ミドルフレーム22、左右シートフレーム24及び左右サポートフレーム25も、それぞれ丸鋼管に曲げ加工等を施してなる。
【0018】
左右ダウンフレーム16の直前には、側面視でこれに沿うように傾斜したフロントガードバー29が配置される。フロントガードバー29は丸鋼管に曲げ加工等を施してなり、正面視で概ね矩形状に形成される。左右ダウンフレーム16の間でフロントアッパクロスパイプ18の下方にはフロントアッパプレート18aが設けられ、このフロントアッパプレート18aにフロントガードバー29の上部が締結固定される。左右ダウンフレーム16の下端部(左右ロアフレーム17の前部湾曲部)には左右フロントロアブラケット29aが設けられ、これら左右フロントロアブラケット29aにフロントガードバー29の下部が締結固定される。
【0019】
左右ロアフレーム17は、その前半部が後側ほど車幅方向内側方に位置するように平面視で傾斜し、後半部が左右位置を略一定にして前後に延びる。左右ロアフレーム17の前部湾曲部は、車体フレーム5の下部における左右幅が最も広い最幅広部Wを形成する。左右ロアフレーム17の後部の車幅方向外側には左右メインステップブラケット31が固設され、左ロアフレーム17の後端部の車幅方向外側にはサイドスタンド支持ブラケット32が固設される。左右ミドルフレーム22の下端部後側にはメインスタンド支持ブラケット33が固設される。
【0020】
左右ミドルフレーム22は、メインフレーム15の後端部両側から下後方へ左右位置を略一定にして延びる。左右ミドルフレーム22の下部湾曲部には、その内周方からマウントブラケット23が接合される。マウントブラケット23は、その上下にエンジン13のクランクケース48の上端部及び後端部をそれぞれ支持すると共に、上下中間部にピボットパイプ12を挿通保持する。
【0021】
左右シートフレーム24は、側面視では後上がりの直線状をなして後方へ延びる。また、左右シートフレーム24は、その前半部が平面視で後側ほど車幅方向内側方に位置するように傾斜し、後半部が左右位置を略一定にして前後に延びる。なお、図中符号36は左右シートフレーム24とスイングアーム11の左右アームとの間に介設される左右リアクッションを示す。
【0022】
左右ミドルフレーム22、左右シートフレーム24の前半部及び左右サポートフレーム25は、側面視逆三角形状の空間を形成する。前記空間の左側にはエンジン吸気部品であるエアクリーナボックス37が配置され、前記空間の右側には車載電源であるバッテリ38が配置される。前記空間の車幅方向外側方は、合成樹脂製の左右サイドカバー39によりそれぞれ覆われる。
【0023】
車体上部前側には、メインフレーム15及び左右シートフレーム24の前部に支持される燃料タンク41が配置される。車体上部後側であって燃料タンク41の後方には、左右シートフレーム24に支持される鞍乗りシート42が配置される。鞍乗りシート42は、運転者用の前シートと後部同乗者用の後シートとを一体に有する。車体上後端部には、後シートの後端部の外方を囲うように形成されたグラブレール43が配設されると共に、後シートの後方及び左右下方を外方から覆うように形成されたテールカウル44が配設される。
【0024】
グラブレール43は例えば丸鋼管に曲げ加工等を施してなり、その後方には各種鋼材からなるリアキャリア45が接合される。テールカウル44の内方には、後輪9の上方を間隔を空けて覆うリアフェンダ(不図示)が配置される。前記リアフェンダの後部からは、テールカウル44よりも下方で後輪9の上後方を間隔を空けて覆う後尾フェンダ47が延出する。テールカウル44、前記リアフェンダ及び後尾フェンダ47はそれぞれ合成樹脂製とされる。
【0025】
側面視でメインフレーム15、ミドルフレーム22、ダウンフレーム16及びロアフレーム17に囲まれる部位には、前記エンジン(内燃機関)13が搭載される。
エンジン13は、クランクシャフト(不図示)の回転中心軸線(クランク軸線)C1を左右方向(車幅方向)に沿わせた空冷単気筒エンジンであり、クランクケース48の前端部からシリンダ49を略水平に(詳細にはやや前上がりに傾斜させて)前方に突出させた構成を有する。なお、図中符号C2はシリンダ49の突出方向に沿うシリンダ軸線を示す。シリンダ49は、側面視でシリンダ軸線C2の延長線が前輪2と交差する範囲で傾斜する。
【0026】
シリンダ49は、前記突出方向でクランクケース48側から順にシリンダ本体49a、シリンダヘッド49b及びヘッドカバー49cを有する。シリンダ本体49a内にはピストン(不図示)が往復動可能に嵌装され、このピストンの往復動がクランクケース48前部内の前記クランクシャフトの回転動に変換される。クランクシャフトの回転動力は、クランクケース48後部内のクラッチ及びトランスミッション(何れも不図示)を介してクランクケース48の後部左側に出力され、前記チェーン式の伝動機構14を介して後輪9に伝達される。
【0027】
シリンダ49の上方には、キャブレター(吸気調整装置)51が吸気通路を略水平にして配置される。キャブレター51は、車体左右中央部(平面視でメインフレーム15と重なる位置)に配置され、その前端部が下方に向けて湾曲する接続管51aを介してシリンダヘッド49b上側の吸気ポートに接続される。キャブレター51の後端部には、前記エアクリーナボックス37から前方へ延びるコネクティングチューブ37aが接続される。なお、キャブレター51に代わりスロットルボディを用いた構成としてもよい。
【0028】
シリンダヘッド49b下側の排気ポートには、排気管52の基端部が接続される。前記排気ポートは、シリンダヘッド49b下側で右下方に向けて斜めに開口する。排気管52は、前記排気ポートからシリンダヘッド49bの右下方に向けて延びた後に後方へ湾曲し、右ロアフレーム17の車幅方向外側方を略水平に後方へ延びる。排気管52の後端部は、車体下部右側でやや後上がりに傾斜して延在する筒状のサイレンサ52aの前端部に接続される。
【0029】
なお、図中符号53はシリンダ49の上方かつメインフレーム15の下方に配置される物品収納ボックスを、符号31aは左右ロアフレーム17の後部に支持される運転者用の左右メインステップを、符号54aは左右メインステップ31aの後方に離間して配置される左右ピリオンステップを、符号54はピボットパイプ12の左右端部及び左右サポートフレーム25の中間部に支持されて後端部に左右ピリオンステップ54aを支持する左右ピリオンステップブラケットを、符号55は車体後部左側に配置されて左シートフレーム24及び左ピリオンステップブラケット54に支持されるドレスガードを、符号55aはドレスガード55の下端部と左ピリオンステップブラケット54の後端部との間に介在して車幅方向外側方に張り出す足置きをそれぞれ示す。
【0030】
図4に示すように、自動二輪車1は、油圧式(液圧式)の前後輪ブレーキ56,57を備える。
前輪ブレーキ56は、前輪2のハブ部右側に一体回転可能に設けられるフロントディスク56aと、右フロントフォーク3の下部に支持されてフロントディスク56aを挟圧可能なフロントキャリパ56bとを有する。フロントキャリパ56bは、油圧の供給によりフロントディスク56aを挟圧して前輪2の回転を制動する。フロントキャリパ56bに油圧を供給するフロントマスターシリンダ58は、操向用バーハンドル7の右グリップ近傍に取り付けられる。フロントマスターシリンダ58が発生する油圧は、前上流油圧配管58a、ABSモジュール61の油圧回路部、及び前下流油圧配管58bを介してフロントキャリパ56bに供給される。
【0031】
後輪ブレーキ57は、後輪9のハブ部右側に一体回転可能に設けられるリアディスク57aと、スイングアーム11の右アームの後部に支持されてリアディスク57aを挟圧可能なリアキャリパ57bとを有する。リアキャリパ57bは、油圧の供給によりリアディスク57aを挟圧して後輪9の回転を制動する。リアキャリパ57bに油圧を供給するリアマスターシリンダ59は、車体下部右側の右メインステップ31a近傍に取り付けられる。リアマスターシリンダ59が発生する油圧は、後上流油圧配管59a、ABSモジュール61の油圧回路部、及び後下流油圧配管59bを介してリアキャリパ57bに供給される。
【0032】
すなわち、自動二輪車1は、フロントマスターシリンダ58とフロントキャリパ56bとの間、並びにリアマスターシリンダ59とリアキャリパ57bとの間に、共通(単一)のABSモジュール61を備える。ABSモジュール61は、前後輪2,9の制動時のスリップ(ロック)を検出した際にこれを回避するべく対応するキャリパへの供給油圧を減圧し、当該キャリパへの油圧供給が間欠的となるように制御する。
【0033】
図5〜7を参照し、ABSモジュール61は、水密可能なモジュールケース64に収容された状態で、シリンダ49の左側部の下方(側面視でシリンダ軸線C2よりも下方)に配置される。ABSモジュール61(モジュールケース64)は、左右方向では車体左右中心線CLよりも左方に位置すると共に左ロアフレーム17前側の車幅方向外側端(車体フレーム5下部の前記最幅広部W)よりも右方に位置し、前後方向ではエンジン13のクランク軸線C1よりも前方に位置すると共にシリンダ49の最前端F1よりも後方に位置し、上下方向ではシリンダ49の下端縁U1よりも下方に位置すると共に排気管52の最下端U2及び車体フレーム5(左右ロアフレーム17)の最下端U3よりも上方に位置するように配置される。
【0034】
図7を参照し、ABSモジュール61は、例えば右側から順に直方体状の電子制御部61a、同じく直方体状の油圧回路部61b、及び円柱状の電動モータ61cを並べて一体のユニットとした構成を有する。電子制御部61aの左側部後側には左方に向けてコネクタ61dが突設され、このコネクタ61dに不図示のメインハーネスから延びる電気配線61eが接続される。電動モータ61cの中心軸線C3は左右方向と平行になるように配置される。
【0035】
油圧回路部61bの左側面(電動モータ61c側の側面)の前部には前マスターポート62aが開口し、この前マスターポート62aにフロントマスターシリンダ58から延びる前上流油圧配管58aがニップル及び中継配管66a並びに配管ターミナル66を介して接続される。油圧回路部61bの左側面の後部には後マスターポート63aが開口し、この後マスターポート63aにリアマスターシリンダ59から延びる後上流油圧配管59aがニップル及び中継配管66a並びに配管ターミナル66を介して接続される。
【0036】
油圧回路部61bの上面の前部には前キャリパポート62bが開口し、この前キャリパポート62bにフロントキャリパ56bから延びる前下流油圧配管58bがニップル及び中継配管66a並びに配管ターミナル66を介して接続される。油圧回路部61bの上面の後部には後キャリパポート63bが開口し、この後キャリパポート63bにリアキャリパ57bから延びる後下流油圧配管59bがニップル及び中継配管66a並びに配管ターミナル66を介して接続される。
【0037】
モジュールケース64は例えば合成樹脂製のもので、上方に開放する容器形状のケース本体64aと、ケース本体64aの上部開口を閉塞する蓋体64bとを有する。ケース本体64a及び蓋体64bの合わせ部には、前記電気配線61eを水密状態で挿通保持するグロメット65と、前記各油圧配管58a,58b,59a,59bをケース外方から接続可能とする配管ターミナル66とが、それぞれ水密状態で保持される。
【0038】
配管ターミナル66には、前記各ポート62a,62b,63a,63bから延びる複数の中継配管66aがケース内方から接続される。この配管ターミナル66により、モジュールケース64にABSモジュール61を収容した状態で、各油圧配管58a,58b,59a,59bをABSモジュール61の各ポート62a,62b,63a,63bに接続可能となる。
【0039】
モジュールケース64の下壁部は、油圧回路部61bの下面に、上方を指向するボルト67aによりラバーブッシュ67を介して締結される(何れも不図示)。モジュールケース64の前壁部は、油圧回路部61bの前面に、後方を指向するボルト67bによりラバーブッシュ67を介して締結される。
【0040】
モジュールケース64は、フレーム側ステー(不図示)を介して左ロアフレーム17及びフロントロアクロスパイプ19に支持される。前記フレーム側ステーは鋼板に曲げ加工等を施してなり、車体フレーム5に溶接又は締結等により固定されてモジュールケース64を支持する。
ここで、図5,6に示すように、本実施形態のフロントロアクロスパイプ19は、ABSモジュール61(モジュールケース64)を下方から囲うと共に排気管52を避けるように正面視で前下方に凸のU字形状に湾曲している。この場合、フロントロアクロスパイプ19の下端が車体フレーム5の最下端となることがある。
【0041】
図6を参照し、モジュールケース64とシリンダ49との間には、左ロアフレーム17及びフロントロアクロスパイプ19に跨って固定されて(又は前記フレーム側ステーに固定されて)モジュールケース64の上部及び右側部を覆う遮熱板69cが配置される。これにより、シリンダ49近傍に位置するABSモジュール61へのエンジン熱の影響が軽減される。なお、前記フレーム側ステーがモジュールケース64の上部及び右側部を覆うように形成されて遮熱板を兼ねる構成であってもよい。
【0042】
また、フロントロアクロスパイプ19がモジュールケース64の下方を囲うように形成されることで、モジュールケース64(ABSモジュール61)のグランドヒット等、下方からの外乱が直接ABSモジュール61に及ぶことが抑止される。なお、フロントロアクロスパイプ19に代わりロアフレーム17等からモジュールケース64よりも下方に突出するガード板等を設けた構成としてもよい。
【0043】
さらに、モジュールケース64の前方にはフロントガードバー29の下辺部が位置し、モジュールケース64(ABSモジュール61)への障害物の衝突等、前方からの外乱が直接ABSモジュール61に及ぶことも抑止される。
【0044】
以上説明したように、上記第一実施形態における自動二輪車1は、ヘッドパイプ6から後方へ延びるメインフレーム15と、前記メインフレーム15の下方でシリンダ49を略水平に配置したエンジン13と、前後輪2,9に制動力を与える液圧式の前後輪ブレーキ56,57と、前記前後輪2,9のスリップを回避するべく前記前後輪ブレーキ56,57に作用する液圧を減圧可能なABSモジュール61とを備える鞍乗り型車両であって、前記ABSモジュール61が、水密可能なモジュールケース64に収容された状態で、前記エンジン13のクランク軸線C1よりも前方かつ前記シリンダ49の最前端F1よりも後方に配置され、かつ前記ABSモジュール61の少なくとも一部が、シリンダ軸線C2よりも下方に配置されることを特徴とする。
【0045】
この構成によれば、水平シリンダのエンジン13におけるシリンダ49周囲の空きスペースをABSモジュール61の配置スペースとして有効利用することで、他部材の配置等への影響を抑えてコンパクトにABSモジュール61を配置できると共に、ABSモジュール61をモジュールケース64内に水密に収容することで、雨や路面からの跳ね上げ等による水掛かりの影響を抑止でき、かつABSモジュール61の少なくとも一部がシリンダ軸線C2よりも下方に位置することで、シリンダ49からの熱の影響を軽減できる。
【0046】
また、上記自動二輪車1は、前記ABSモジュール61と前記エンジン13との間に遮熱板69cを備えることで、ABSモジュール61に対するエンジン熱の影響を軽減できる。
【0047】
また、上記自動二輪車1は、前記シリンダ49の下面から右下方へ延びる排気管52を備え、前記ABSモジュール61が前記シリンダ49の左下方に配置されることで、ABSモジュール61を排気管52を避けて配置できると共に、ABSモジュール61に対する排気熱の影響を軽減できる。
【0048】
また、上記自動二輪車1は、前記ABSモジュール61が、側面視で前記シリンダ49の下端縁U1よりも下方に配置されることで、略水平なシリンダ49の下方の空きスペースをABSモジュール61の配置スペースとして有効利用できる。
【0049】
また、上記自動二輪車1は、前記ヘッドパイプ6又はその近傍から下方へ延びるダウンフレーム16と、前記ダウンフレーム16の下端近傍から前記ABSモジュール61の下端よりも下方に張り出すフロントロアクロスパイプ19とを備えることで、ABSモジュール61の接地を抑止できる。
【0050】
<第二実施形態>
次に、本発明の第二実施形態について、図6,8を参照して説明する。
この実施形態は、前記第一実施形態に対して、シリンダ49の左側方にモジュールケース164に収容されたABSモジュール161が配置される点で特に異なる。その他の、第一実施形態と同一構成には同一符号を付して詳細説明は省略する。
【0051】
ABSモジュール161は、モジュールケース164に収容された状態で、側面視でほぼ全体がシリンダ49と重なるように配置される。ABSモジュール161は、左右方向では車体左右中心線CLよりも左方に位置すると共にフロントガードバー29の左側辺部の車幅方向外側端L1よりも車幅方向内側方に位置し、前後方向ではエンジン13のクランク軸線C1よりも前方に位置すると共にシリンダ49の最前端F1よりも後方に位置し、上下方向ではシリンダ49の下端縁U1よりも上方に位置すると共に下半部がシリンダ軸線C2よりも下方に位置するように配置される。なお、ABSモジュール161及びモジュールケース164自体の構成は第一実施形態のABSモジュール61及びモジュールケース64の構成に準ずる。
【0052】
モジュールケース164は、フレーム側ステー71を介して左ダウンフレーム16に支持される。フレーム側ステー71は鋼板に曲げ加工等を施してなり、車体フレーム5に溶接又は締結等により固定されてモジュールケース164を支持する。モジュールケース164とシリンダ49との間には、例えばフレーム側ステー71に取り付けられてモジュールケース164の右側方を覆う遮熱板71cが配置される。これにより、シリンダ49近傍に位置するABSモジュール161へのエンジン熱の影響が軽減される。なお、フレーム側ステー71自体がモジュールケース164の右側部を覆うように形成されて遮熱板を兼ねる構成であってもよい。ここで、シリンダ49の左側には不図示のカムチェーン室が設けられ、この点でもABSモジュール161への熱影響が抑制される。
【0053】
以上説明したように、上記第二実施形態では、第一実施形態の特徴構成及び作用効果に加え、前記ABSモジュール161の少なくとも一部が、側面視で前記シリンダ49と重なるように配置されることで、シリンダ49の側方かつクランクケースの前方の空きスペースをABSモジュール161の配置スペースとして有効利用できる。
【0054】
また、上記第二実施形態では、前記ヘッドパイプ6又はその近傍から下方へ延びるダウンフレーム16と、前記エンジン13よりも広い左右幅を有して前記ダウンフレーム16に取り付けられるフロントガードバー29とを備え、前記ABSモジュール161は、前記フロントガードバー29の車幅方向外側端L1よりも車幅方向内側方に配置されることで、フロントガードバー29により左右バンク時のABSモジュール161の接地を抑止できる。
【0055】
なお、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、前後輪ブレーキの一方のみ等、複数の液圧式ブレーキの一部のみに対応するABSモジュールを有する鞍乗り型車両や、液圧式のドラムブレーキを有する車両にも適用可能である。ここで、前記鞍乗り型車両には、運転者が車体を跨いで乗車する車両全般が含まれ、自動二輪車のみならず、三輪(前一輪かつ後二輪の他に、前二輪かつ後一輪の車両も含む)又は四輪の車両も含まれる。
そして、上記実施形態における構成は本発明の一例であり、当該発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 自動二輪車(鞍乗り型車両)
2 前輪(車輪)
6 ヘッドパイプ
9 後輪(車輪)
13 エンジン
15 メインフレーム
16 ダウンフレーム
19 フロントロアクロスパイプ(突部)
29 フロントガードバー(ガード部材)
49 シリンダ
52 排気管
56 前輪ブレーキ(液圧式ブレーキ)
57 後輪ブレーキ(液圧式ブレーキ)
61,161 ABSモジュール
64,164 モジュールケース
69c,71c 遮熱板
C1 クランク軸線
C2 シリンダ軸線
F1 最前端
U1 下端縁
L1 車幅方向外側端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドパイプ(6)から後方へ延びるメインフレーム(15)と、前記メインフレーム(15)の下方でシリンダ(49)を略水平に配置したエンジン(13)と、車輪(2,9)に制動力を与える液圧式ブレーキ(56,57)と、前記車輪(2,9)のスリップを回避するべく前記液圧式ブレーキ(56,57)に作用する液圧を減圧可能なABSモジュール(61,161)とを備える鞍乗り型車両(1)であって、
前記ABSモジュール(61,161)は、水密可能なモジュールケース(64,164)に収容された状態で、前記エンジン(13)のクランク軸線(C1)よりも前方かつ前記シリンダ(49)の最前端(F1)よりも後方に配置され、かつ前記ABSモジュール(61,161)の少なくとも一部が、シリンダ軸線(C2)よりも下方に配置されることを特徴とする鞍乗り型車両。
【請求項2】
前記ABSモジュール(61,161)は、水密可能なモジュールケース(64,164)に収容された状態で配置されることを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り型車両。
【請求項3】
前記ABSモジュール(61,161)と前記エンジン(13)との間に遮熱板(69c,71c)を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の鞍乗り型車両。
【請求項4】
前記シリンダ(49)の下面から左右一側方の下方へ延びる排気管(52)を備え、
前記ABSモジュール(61,161)は、前記シリンダ(49)の左右他側方に配置されることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の鞍乗り型車両。
【請求項5】
前記ABSモジュール(61)は、側面視で前記シリンダ(49)の下端縁(U1)よりも下方に配置されることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の鞍乗り型車両。
【請求項6】
前記ヘッドパイプ(6)又はその近傍から下方へ延びるダウンフレーム(16)と、前記ダウンフレーム(16)の下端近傍から前記ABSモジュール(61)の下端よりも下方に突出する突部(19)とを備えることを特徴とする請求項5に記載の鞍乗り型車両。
【請求項7】
前記ABSモジュール(161)は、側面視で少なくとも一部が前記シリンダ(49)と重なるように配置されることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の鞍乗り型車両。
【請求項8】
前記ヘッドパイプ(6)又はその近傍から下方へ延びるダウンフレーム(16)と、前記エンジン(13)よりも広い左右幅を有して前記ダウンフレーム(16)に取り付けられるガード部材(29)とを備え、
前記ABSモジュール(161)は、前記ガード部材(29)の車幅方向外側端(L1)よりも車幅方向内側方に配置されることを特徴とする請求項7に記載の鞍乗り型車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−71586(P2013−71586A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211853(P2011−211853)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】