説明

鞍乗型車両

【課題】走行フィーリングを犠牲にすることなく、ライダーがシフトアップすることなく走行することを抑制できる鞍乗型車両を提供する。
【解決手段】鞍乗型車両は、エンジン12と、エンジン12に空気を導入する吸気管33と、スロットルバルブ32と、変速装置11と、エンジン回転速度検出部21または車速検出部23と、エンジン回転速度検出部21によって検出されるエンジン回転速度Rが設定回転速度RSn以上もしくは車速検出部23によって検出される車速Vが所定車速V以上になると、スロットルバルブ32の開度を減少させる燃料供給制御部28と、を備えている。燃料供給制御部28は、変速装置11のギア段が、少なくとも最高段よりひとつ下のギア段で、検出されるエンジン回転速度Rが設定回転速度RSn以上もしくは検出される車速Vが設定車速V以上のとき、変速装置11のシフトアップを促す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
鞍乗型車両において、エンジン回転速度または車両速度が規定値に達すると、エンジン回転速度または車両速度が規定値を超えないようにする技術が知られている。このような技術として、例えば、下記特許文献1に記載された技術が知られている。
【0003】
下記特許文献1に記載の技術は、電子制御スロットルを備えた自動二輪車であって、エンジン回転速度または車両速度が規定値に達すると、スロットルバルブの開度をアクセル操作量に応じたスロットルバルブの標準開度よりも減少させるようにしている。その結果、吸入空気量が絞られてエンジン出力が制限される。これにより、エンジン回転速度または車両速度は規定値を超えないように制限される。また、これにより、走行フィーリングを向上させることができるとしている。
【特許文献1】特開2006−104953号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の鞍乗型車両では、エンジン回転速度または車両速度が規定値に達しても、点火カットを行わないため、ライダーは規定値に達したことに気がつきにくい。そのため、最高段のギア段以外では、シフトアップされずに走行を続けてしまうおそれがある。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、走行フィーリングを犠牲にすることなく、ライダーがシフトアップすることなく走行することを抑制できる鞍乗型車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エンジンと、前記エンジンに空気を導入する吸気通路と、前記吸気通路に配置された電子制御式のスロットル弁と、有段式の変速装置と、前記エンジンの回転速度または車両速度を検出する検出装置と、前記検出装置によって検出される回転速度または車両速度である検出速度が所定速度以上になると、前記スロットル弁の開度を減少させるスロットル弁制御装置と、前記変速装置のギア段が、最高段以外の少なくとも最高段よりひとつ下のギア段で前記所定速度以上のときに前記変速装置のシフトアップを促すシフトアップ促進部と、を備えた鞍乗型車両である。
【発明の効果】
【0007】
以上のように、本発明によれば、走行フィーリングを犠牲にすることなく、ライダーがシフトアップすることなく走行することを抑制できる鞍乗型車両を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
《実施形態1》
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0009】
本発明の実施形態における鞍乗型車両の一例として、自動二輪車1を図1に示す。自動二輪車1は、所謂モータサイクルタイプの自動二輪車である。なお、本発明の実施形態における鞍乗型車両は、例えば、ロードレーサタイプ、オフロードタイプ、スクータータイプ、所謂モペットタイプの自動二輪車であってもよい。また、本発明の実施形態における鞍乗型車両は、ATV、四輪バギー等であってもよい。以下の説明では、左右の方向は、特に限定した記載のない限り、自動二輪車1のシート9に着座したライダーから見た左右の方向をいうものとする。図1に示すように、本発明の実施形態に係る自動二輪車1は、ヘッドパイプ2aを有する車体フレーム2を備えている。車体フレーム2には、燃料タンク30およびシート9が支持されている。
【0010】
ヘッドパイプ2aには、フロントフォーク3が旋回可能に支持されている。フロントフォーク3の上部には、ハンドル4が取り付けられている。フロントフォーク3の下部には、前輪5が回転自在に支持されている。
【0011】
エンジン12は、車体フレーム2に懸架されている。本実施形態では、エンジン12は燃料にガソリンを用いた、V型2気筒の4サイクルエンジンである。ただし、エンジン12の気筒数や型式は限定されない。エンジン12は、2サイクルでもよい。また、エンジン12は空冷式であっても水冷式であってもよい。
【0012】
車体フレーム2の後端部には、スイングアーム6が揺動可能に取り付けられている。スイングアーム6の後端部には、後輪7が回転可能に取り付けられている。
【0013】
自動二輪車1は、複数段の変速段を有する変速装置11を備えている。変速装置11により、自動二輪車1は、所定の変速比で以って走行することができる。つまり、変速装置11は、エンジン12の回転速度を所定の回転速度に変更する。変速装置11は、車両速度やエンジン回転速度に応じて自動的に変速比が変更される、いわゆるAT(Automatic Transmission)の形態でもよい。また、変速装置11は、ライダーの操作により変速比が変更されるMT(Manual Transmission)の形態でもよい。自動二輪車1は、エンジン12と変速装置11とで、パワーユニット14を構成している。本実施形態において、変速装置11は、5段の変速段を有している。ただし、変速装置11の変速段数は限定されない。変速装置11の変速段数は、自動二輪車1の走行において、必要な変速比が得られる段数であればよい。
【0014】
自動二輪車1の後輪7は、動力伝達機構13を介して、エンジン12に接続している。後輪7は、エンジン12の回転に基づいて駆動する。エンジン12の回転は、変速装置11を経て、動力伝達機構13を介し、後輪7へ伝達する。動力伝達機構13の形態は、特に限定されない。動力伝達機構13は、エンジン12の回転をベルトにより後輪7に伝達するベルトドライブの機構を有していてもよい。また、動力伝達機構13は、エンジン12の回転をチェーンにより後輪7に伝達するチェーンドライブの機構でもよく、シャフトの回転により伝達するシャフトドライブの機構を有していてもよい。
【0015】
図2は、自動二輪車1のフロントフォーク3の上部に取り付けられるハンドル4を示している。ハンドル4は、ヘッドパイプ2aに接続されたハンドルバー4dを備えている。ハンドル4は、ハンドルバー4dの左端部に位置する左グリップ部4aと、ハンドルバー4dの右端部に位置する右グリップ部4bとを備えている。右グリップ部4bは、ハンドルバー4dに対して回転可能である。ライダーが、この右グリップ部4bを回転させることで、スロットルバルブ32(図3参照)が操作され、スロットル開度が調整される。本実施形態において、右グリップ部4bをアクセルグリップ4bと呼称する。なお、アクセルグリップ4bには、アクセル開度センサ44(図3参照)が取り付けられている。アクセルグリップ4bの操作量は、アクセル開度センサ44によって検出される。
【0016】
また、図3に示すように、燃料供給装置31は、燃料タンク30にある燃料をエンジン12に供給する。燃料供給装置31は、吸気管33に燃料を直噴する形態のものでもよい。また、燃料供給装置31は、吸気管33の空気の流れより燃料を吸い上げて混合気を作り出す形態のものでもよい。吸気管33には、スロットルバルブ32が配置されている。このスロットルバルブ32は、吸気管33の流路面積を調整することにより、吸気管33を流れる空気量または燃料量を調整するためのものである。スロットルバルブ32は、アクセルグリップ4b(図2参照)の操作に基づいて駆動される。アクセルグリップ4bの操作により、スロットルバルブ32が開かれ、吸気管33を流れる吸気量が増大する。それに従い、エンジン12は、出力が変化する。
【0017】
また、例えば、スロットルバルブ32には、スロットル開度センサ42が取り付けられている。スロットルバルブ32の開度は、スロットル開度センサ42によって、検出される。
【0018】
また、エンジン12には、図示しない点火プラグおよび吸気バルブ等を含む点火装置61が設けられている。吸気管33を伝って、吸気バルブよりエンジン12の燃焼室に流入する燃料および空気は、点火装置61により点火され、燃焼する。
【0019】
燃焼された燃料および空気は、排ガスとなってエンジン12の外部へ排出される。排ガスは、図示しないエンジン12の排気バルブから、排気通路38を伝ってエンジン12の外部へ排出される。排ガスの排気速度、および、排気温度等で、エンジン12の出力が変化する。また、排気通路38には、触媒39が備えられている。排ガスは、触媒39により浄化される。
【0020】
図3は、本実施形態に係るシフトアップ促進の制御システムを示している。自動二輪車1は、制御装置としてのECU10を備えている。ECU10は、自動二輪車1の走行状態またはエンジン12の出力状態を検出する検出装置として、エンジン回転速度検出部21、スロットル開度検出部22、車速検出部23、アクセル開度検出部24、変速段検出部25を有している。また、ECU10は、自動二輪車1の走行に必要なデータ等を記憶したメモリ19を備えている。
【0021】
エンジン回転速度検出部21は、エンジン回転速度センサ41にて検出されるエンジン12の回転速度に基づく信号を入力する。例えば、自動二輪車1には、エンジン回転速度センサ41が設けられている。エンジン回転速度センサ41は、エンジン12の回転速度を直接的または間接的に検出する。エンジン回転速度センサ41が間接的にエンジン12の回転速度を検出する場合、エンジン回転速度検出部21は、算出等の機能を有する。この場合、エンジン回転速度検出部21は、エンジン12の出力状態より、エンジン回転速度を算出する。もしくは、ECU10が図示しない算出部を有し、算出部にてエンジン回転速度が算出されることにしてもよい。この場合、算出部は、エンジン12の出力状態より、エンジン回転速度を算出する。エンジン回転速度検出部21は、算出されたエンジン回転速度に基づく信号を入力する。
【0022】
スロットル開度検出部22は、スロットルバルブ32の開度に基づく信号を入力する。図3では、自動二輪車1には、スロットル開度センサ42が設けられている。スロットル開度センサ42は、スロットルバルブ32の開度を検出する。
【0023】
車速検出部23は、車速センサ43にて検出される自動二輪車1の車両速度に基づく信号を入力する。図3では、自動二輪車1には、動力伝達機構13に車速センサ43が設けられている。ただし、車速センサ43は、図3に示す動力伝達機構13に取り付けられることに限定されない。車速センサ43は、エンジン12に取り付けられ、エンジン12の出力状態を読み取ることにしてもよい。車速センサ43は、変速装置11に取り付けられ、変速装置11の回転を読み取ることにしてもよい。また、車速センサ43は、後輪7または前輪5(図1参照)に取り付けられ、前輪5または後輪7の回転速度を読み取ることにしてもよい。車速センサ43は、自動二輪車1の車速を間接的に検出する。それにより、車速検出部23は、算出等の機能を有し、エンジン12の出力状態または前輪5の回転速度または後輪7の回転速度より、車速を算出する。もしくは、ECU10が図示しない算出部を有し、算出部にて車速が算出されることにしてもよい。この場合、車速検出部23は、算出された車速に基づく信号を入力する。
【0024】
アクセル開度検出部24は、アクセルグリップ4bの開閉に基づく信号を入力する。前述したように、アクセルグリップ4bには、アクセル開度センサ44が取り付けられている。アクセル開度センサ44は、アクセルグリップ4bの操作量を検出する。
【0025】
変速段検出部25は、変速装置11の現在の変速段に基づく信号を入力する。変速装置11の現在の変速段は、変速段センサ45にて検出される。図3では、変速段センサ45は、変速装置11に取り付けられている。
【0026】
記憶装置19は、自動二輪車1の運転等に必要なデータを記憶している。本実施形態に本実施形態において、記憶装置19は、以下に記載するマップM(以下の説明において、添字は変速装置11における変速段数を表すものとする)を少なくとも記憶している。
【0027】
図4示すように、本実施形態に係るマップMは、エンジン回転速度R、スロットル開度TH、アクセル開度Gの値を設定している。マップMは、変速装置11に係る変速段ごとに設定されている。本実施形態において、変速装置11は、5段の変速段を有している。そのため、マップMは、第1速から第5速まで、5つ設定されている。以下において、第1速のマップは、マップMで示す。第2速から第5速まで、順に、マップM、マップM、マップM、および、マップMで示す。自動二輪車1の走行において使用されるマップMは、変速装置11における各変速段に応じて切り替えられる。
【0028】
図4は、マップMを示している。図4(a)に示すように、マップMを含め、本実施形態に係るマップMは、エンジン回転速度R、スロットル開度TH、アクセル開度Gの値を設定している。一方、図4(b)は、アクセル開度Gが90°である場合について、エンジン回転速度Rとスロットル開度THとの二次元を例として示す。それぞれの単位は、例えば、エンジン回転速度Rが、(r/min)、スロットル開度THおよびアクセル開度Gが、(deg)で表される。ただし、それぞれの単位は、前記のように設定されることに限定されない。それぞれの単位は、例えば、エンジン回転速度Rが、(m/s)、スロットル開度THおよびアクセル開度Gが、(%)で表されていてもよい。前記の記号について、rは回転数、minは時間(分)、degは角度、mは長さ(メートル)、および、sは時間(秒)である。
【0029】
図4(a)および図4(b)に示すように、エンジン回転速度Rが、所定の値を超えると、スロットル開度THは、所定のアクセル開度G以上では減少していく。このときの、所定のエンジン回転速度Rを設定回転速度RS5と称する。本実施形態において、設定回転速度RS5は、7500r/minに設定されている。設定回転速度RS5は、アクセル開度Gによらず一定値である。
【0030】
所定のアクセル開度G以上において、設定回転速度RS5を超えてエンジン回転速度Rが上昇した後、スロットル開度THは、規定のエンジン回転速度Rで一定となる。このときの、規定のエンジン回転速度Rを規定回転速度RL5と称する。規定回転速度RL5は、エンジン12の運転性能または自動二輪車1の走行性能に基づく規定車速Vに対応した値である。また、図4(a)および図4(b)に示すように、本実施形態において、規定回転速度RL5は、8500r/minに設定されている。規定回転速度RL5は、マップM上において、アクセル開度Gによらず、一定値として設定されている。また、規定回転速度RL5を超え、一定値となるスロットル開度THを収束開度THC5と称する。第5速における収束開度THC5は、自動二輪車1の加速が可能な加速可能開度THA5よりも小さいスロットル開度THである。そのため、自動二輪車1は、規定回転速度RL5を超えて走行する場合は、加速することができない。
【0031】
図5は、マップMを示している。図5(a)は、エンジン回転速度R、スロットル開度TH、アクセル開度Gの値を示す三次元マップである。一方、図5(b)は、アクセル開度Gが90°である場合について、エンジン回転速度Rとスロットル開度THとの二次元を例として示す。
【0032】
図5(a)および図5(b)に示すように、エンジン回転速度Rが、所定の値を超えると、スロットル開度THは、所定のアクセル開度G以上では減少していく。このときの、所定のエンジン回転速度Rを設定回転速度RS4と称する。本実施形態において、設定回転速度RS4は、9000r/minに設定されている。設定回転速度RS4は、アクセル開度Gによらず一定値である。ただし、第5速における設定回転速度RS5と第4速における設定回転速度RS4とは、互いに異なった値である。
【0033】
所定のアクセル開度G以上において、設定回転速度RS4を超えてエンジン回転速度Rが上昇した後、スロットル開度THは、規定のエンジン回転速度Rで一定となる。このときの、規定のエンジン回転速度Rを規定回転速度RL4と称する。規定回転速度RL4は、エンジン12の運転性能または自動二輪車1の走行性能に基づく規定車速Vに対応した値である。本実施形態において、規定回転速度RL4は、10000r/minに設定されている。規定回転速度RL4は、マップM上において、アクセル開度Gによらず、一定値として設定されている。また、規定回転速度RL4を超え、一定値となるスロットル開度THを収束開度THC4と称する。第4速における収束開度THC4は、自動二輪車1の加速が可能な加速可能開度THA4よりも大きいスロットル開度THである。そのため、自動二輪車1は、規定回転速度RL4を超えて走行する場合も、加速することができる。
【0034】
このように、スロットル開度THが調整されることにより、エンジン12の出力が変化する。エンジン12の出力の変化および変速装置11での変速比に基づき、自動二輪車1の車速Vが変化する。
【0035】
また、点火制御部27は、前記各検出部にて検出された値に基づき、点火装置61の点火時期を制御する。点火制御部27は、エンジン回転速度検出部21より、エンジン回転速度に基づく信号を入力する。同様に、燃料供給制御部28は、スロットル開度検出部22より、スロットル開度に基づく信号を入力し、車速検出部23より、車速に基づく信号を入力し、アクセル開度検出部24より、アクセル開度に基づく信号を入力し、変速段検出部25より、現在の変速段に基づく信号を入力する。点火装置61は、前記各検出部にて検出された値に基づく信号を点火制御部27より入力する。点火装置61は、前記信号に基づき、燃料の点火を実行する。エンジン12の内部で燃料が燃焼することにより、エンジン12に出力が発生する。
【0036】
燃料供給制御部28は、前記各検出部にて検出された値、および、メモリ19に記憶されたマップMにおけるエンジン回転速度R、スロットル開度TH、アクセル開度G等に基づき、スロットルバルブ32のスロットル開度THを制御する。ここで、マップM上の各点におけるエンジン回転速度R、アクセル開度G、およびスロットル開度THについて、マップM上の設定値として、R、G、THPとして示す。燃料供給制御部28は、メモリ19より、所定のマップMを入力する。また、燃料供給制御部28は、エンジン回転速度検出部21より、エンジン回転速度に基づく信号を入力する。同様に、燃料供給制御部28は、スロットル開度検出部22より、スロットル開度に基づく信号を入力し、車速検出部23より、車速に基づく信号を入力し、アクセル開度検出部24より、アクセル開度に基づく信号を入力し、変速段検出部25より、現在の変速段に基づく信号を入力する。スロットルバルブ32は、マップMおよび前記各検出部にて検出された値に基づく信号を燃料供給制御部28より入力する。スロットルバルブ32は、前記信号に基づき、バルブの開度が調整される。これにより、エンジン12への吸気量が調整される。エンジン12は、スロットルバルブ32の開閉により調整された吸気量に基づき、出力が変化する。
【0037】
また、燃料供給制御部28は、前記各検出部にて検出された値、および、メモリ19に記憶されたマップMにおけるエンジン回転速度R、スロットル開度TH、アクセル開度G等に基づき、燃料供給装置31のエンジン12への燃料供給量を制御する。燃料供給装置31は、前記信号に基づき、エンジン12への燃料の供給量を調整する。エンジン12は、燃料供給装置31より供給される燃料量に基づき、出力が変化する。
【0038】
このように、燃料供給制御部28の制御に基づき、エンジン12の出力が変化する。そのため、エンジン12の出力を抑制する場合、燃料供給装置31の燃料供給量を低減または停止させることが有用である。本実施形態において、燃料の供給を停止する制御は、マップMにおける設定回転速度RS4以上のエンジン回転速度Rの領域で実行される。また、燃料供給制御部28が、燃料の供給を停止する制御を実行する場合、燃料供給制御部28は、シフトアップ促進部として作動することができる。ただし、燃料供給制御部28が燃料の供給を停止する制御では、完全に燃料の供給が停止されることはない。燃料供給制御部28が燃料の供給を停止する制御は、燃料の供給が停止されることと、燃料の供給が実施されることとが、所定の間隔で繰り返して実行されることである。
【0039】
(作用および効果)
前述したように、設定回転速度RS4以上のエンジン回転速度Rの領域で燃料の供給が停止されることにより、前記領域では、エンジン12の内部で燃料の燃焼が行われない。これにより、エンジン12の出力が抑制される。そのため、ライダーによるアクセルグリップ4bの操作に対し、エンジン12の出力は上昇しない。自動二輪車1に乗車するライダーは、燃料供給が停止されるとき、つまり、エンジン回転速度Rが前記領域に突入したとき、規定車速Vに達したようなフィーリングを得る。そのため、燃料の供給を停止する制御は、第4速より第5速へシフトアップを促す手段として有用である。前記領域において、燃料の供給が停止される開始時点は、規定回転速度RL4よりも小さい設定回転速度RS4である。そのため、規定回転速度RL4において、突然、燃料供給が停止され、スロットル開度THが減少する場合に比べ、図4に示すマップMにおいては、自動二輪車1の走行フィーリングを損なうことが抑制される。また、前記領域において、変速装置11でシフトアップが行われる場合、エンジン12の出力は、さらに抑制される。
【0040】
また、設定回転速度RSnは、規定回転速度RLnよりも小さい値でマップM上に設定されている。燃料供給制御部28は、変速装置11のギア段が最高段以外のギア段でエンジン回転速度検出部21にて検出されるエンジン回転速度Rが規定回転速度RLn以上の場合、もしくは、車速検出部23にて検出される車速Vが規定車速V以上の場合、スロットルバルブ32の開度を加速走行が可能な開度に維持する。例えば、変速装置11のギア段が、第4速であるとき、エンジン回転速度検出部21にて検出されるエンジン回転速度Rが、規定回転速度RL4以上の場合、図5に示すスロットルバルブ32の開度THを加速可能開度THA4に維持する。このように、最高段以外のギア入力段では、自動二輪車1は、加速走行が可能である。つまり、自動二輪車1に乗車するライダーのアクセルグリップ4bの操作により、自動二輪車1は、加速走行が可能である。したがって、最高段以外のギア入力段では、自動二輪車1の走行フィーリングを損なうことが抑制される。
【0041】
図5に示すように、収束開度THCnは、マップMにおいて、他の加速可能な領域に比べ、低い値である。さらに、収束開度THCnは、マップMにおいて、一定値である。そのため、収束開度THCnの領域では、エンジン12の出力が抑制される。また、自動二輪車1に乗車するライダーは、エンジン回転速度Rが設定回転速度RSnの領域に突入したとき、アクセルグリップ4bの操作量に対して、自動二輪車1の加速度が小さいようなフィーリングを得る。ただし、このとき、スロットル開度THは、一定の開度、つまり、収束開度THCnが保たれており、走行フィーリングが犠牲にされることはない。これにより、ライダーは、アクセルグリップ4bの操作に対し、操作応答が素早く適切な変速装置11のギア入力段を選択する。つまり、設定回転速度RSnが所定値として設定されていることにより、燃料供給制御部28は、ライダーへのシフト操作を促す手段として有用である。
【0042】
通常、比較的高いエンジン回転速度Rの領域では、エンジン12へ供給される燃料と空気との割合(空燃比)は、燃料の濃度が高く設定される。このことは、本実施形態においても、通常と同様である。そのため、高いエンジン回転速度Rの領域では、エンジン12にて燃焼されずに残った燃料の成分が、低いエンジン回転速度Rの領域に比べ、排気通路38へ多量に流れ込む。また、本実施形態のように、燃料供給制御部28によって燃料を停止する制御が開始されるエンジン回転速度Rでは、エンジン12の内部での燃料と空気と(混合気)の燃焼において、不安定な状態が発生し、燃料の供給を停止しない場合に比べ、排気通路38へ燃料の成分が流れ込む。排気通路38へ比較的多量の燃料の成分が流れ込む場合、触媒39は、燃料の成分を含んだ状態になる。また、燃料供給制御部28によって燃料を停止する制御が実行される場合、排気通路38へは、多量の空気が流れ込む。この場合、触媒39に含まれる燃料の成分は、流れ込む空気と反応する。その結果、触媒39の温度が上昇する。しかし、本実施形態において、燃料供給制御部28によって燃料を停止する制御は、最高段以外のギア段で規定回転速度RLn以上のエンジン回転速度Rで開始される。規定回転速度RLn以上のエンジン回転速度Rでは、スロットル開度THは、一定の開度、つまり、収束開度THCnが保たれている。収束開度THCnの状態では、スロットル開度THが全開状態の場合と比べ、空燃比は、燃料の濃度が低く設定される。そのため、排気通路38へ流れ込む燃料の成分は、スロットル開度THが全開状態の場合と比べて少なくなる。その結果、スロットル開度THが全開状態の場合と比べ、触媒39は、燃料の成分をそれほど含まない状態となる。この状態では、排気通路38へ流れ込む空気と、触媒39に含まれる燃料の成分との反応は少なくなる。したがって、本実施形態によれば、触媒39の温度の上昇を低減させることができる。
【0043】
また、燃料供給制御部28は、変速装置11のギア段が最高段のギア段で、エンジン回転速度検出部21にて検出されるエンジン回転速度Rが規定回転速度R以上のとき、スロットルバルブ32の開度を収束開度THC5まで減少させる。収束開度THC5は、加速走行が不能な開度である。このため、自動二輪車1は、変速装置11において最高段のギア入力段で走行する場合、最高速度が規制される。
【0044】
また、燃料供給制御部28は、前記各検出部にて検出された値およびマップMに設定された値に基づき、燃料供給装置31の燃料供給を停止させる。これにより、スロットル開度THが減少する制御と合わせ、燃料供給制御部28は、ライダーへのシフト操作を促す手段として有用である。
【0045】
変速装置11において最高段のギアが入力されているとき、燃料供給装置31の燃料供給を停止させる制御は実行されない。このとき、エンジン回転速度Rが設定回転速度RS5を超える場合、自動二輪車1には、過大なエンジンブレーキが掛かることが防止されている。つまり、このときの自動二輪車1は、走行フィーリングを損なうことが抑制されている。
【0046】
また、自動二輪車1において、スロットル開度THが設定回転速度RSnを超えたとき、スロットルバルブ32の開度を減少させる制御は、マップMに設定された値に従って実行される。このため、スロットル開度THを所定の値に調整する場合、フィードバック制御のような余計な制御応答を必要としない。それゆえ、自動二輪車1は、スロットル開度THの開度調整において、制御速度の向上を図ることができる。また、マップMに設定されるデータが精度の高いものであれば、それだけ、比較的精度の高い制御を実行することができる。マップMに設定されるデータを高い精度で設定することは、自動二輪車1において実際の制御場面で高い精度を保持するのに比べ、コストパフォーマンスに優れており、また、容易に設定することができる。
【0047】
《実施形態2》
前記実施形態において、エンジン12は、燃料供給制御部28の制御に基づき、燃料の供給が停止されることで、出力が抑制されていた。しかし、エンジン12の出力が抑制される手段は、以下の点火装置61により燃料の点火がカットされる制御であってもよい。
【0048】
前述したように、点火制御部27の制御に基づき、エンジン12の出力が変化する。そのため、エンジン12の出力を抑制する場合、点火装置61における燃料の点火をカットすることで、その効果が得られる。本実施形態において、燃料の点火をカットする制御は、マップMにおける設定回転速度RS4以上のエンジン回転速度Rの領域で実行される。また、点火制御部27が、燃料の点火をカットする制御を実行する場合、点火制御部27は、シフトアップ促進部として作動することができる。
【0049】
設定回転速度RS4以上のエンジン回転速度Rの領域で、点火装置61による点火がカットされることにより、前記領域では、エンジン12の内部で燃料の燃焼が行われない。これにより、エンジン12の出力が抑制される。そのため、ライダーによるアクセルグリップ4bの操作に対し、エンジン12の出力は上昇しない。自動二輪車1に乗車するライダーは、点火がカットされるとき、つまり、エンジン回転速度Rが前記領域に突入したとき、エンジン回転速度Rまたは車速Vが規定値に達したようなフィーリングを得る。そのため、点火をカットする制御は、第4速より第5速へシフトアップを促す手段として有用である。前記領域において、点火がカットされる開始時点は、規定回転速度RL4よりも小さい設定回転速度RS4である。そのため、規定回転速度RL4において、突然、点火装置61での点火がカットされ、スロットル開度THが減少する場合に比べ、図4に示すマップMにおいては、自動二輪車1の走行フィーリングを損なうことが抑制される。また、前記領域において、変速装置11でシフトアップが行われる場合、エンジン12の出力は、さらに抑制される。
【0050】
《その他の変形例》
前記実施形態1において、燃料の供給を停止する制御は、変速装置11において、最高段より一つ下の第4速に入力されている場合である。つまり、燃料の供給を停止する制御は、エンジン回転速度Rが、マップMにおける設定回転速度RS4以上の場面で実行される。ただし、燃料の供給を停止する制御は、最高段より一つ下の入力段に限定されない。燃料の供給を停止する制御は、エンジン12の運転性能または自動二輪車1の走行性能に応じ、必要な場合、最高段より一つ下以外の変速段でも実行されることにしてもよい。例えば、燃料の供給を停止する制御は、変速装置11が第1速から第6速までギア段を持つ場合、第5速のみにおいて実行されることに限定されない。変速装置11が第1速から第6速までギア段を持つ場合、燃料の供給を停止する制御は、第3速、第4速、および、第5速において実行されることにしてもよい。
【0051】
また、前記実施形態2において、点火装置61における点火をカットする制御は、変速装置11において、最高段より一つ下の第4速に入力されている場合である。つまり、点火装置61における点火をカットする制御は、エンジン回転速度Rが、マップMにおける設定回転速度RS4以上の場面で実行される。ただし、点火装置61における点火をカットする制御は、最高段より一つ下の入力段に限定されない。点火装置61における点火をカットする制御は、エンジン12の運転性能または自動二輪車1の走行性能に応じ、必要な場合、最高段より一つ下以外の変速段でも実行されることにしてもよい。例えば、点火をカットする制御は、変速装置11が第1速から第6速までギア段を持つ場合、第5速のみにおいて実行されることに限定されない。変速装置11が第1速から第6速までギア段を持つ場合、点火をカットする制御は、第3速、第4速、および、第5速において実行されることにしてもよい。
【0052】
また、シフトアップを促す手段は、燃料供給を停止する制御および点火をカットする制御に限定されない。シフトアップを促す手段は、図3に示す前記各検出部により検出された値に基づき、図示しない警告灯が点灯または点滅する形態であってもよい。前記警告灯の点灯または点滅により、自動二輪車1に乗車するライダーに対してシフトアップが促進される。前記警告灯は、例えば、図1に示すメータパネル100に設けられる。自動二輪車1に乗車するライダーは、メータパネル100に設けられた前記警告灯により、シフトアップの必要性を視認することができる。
【0053】
前記各実施形態において、燃料供給を停止する制御および点火をカットする制御は、エンジン回転速度R、スロットル開度TH、アクセル開度Gが設定されたマップMに基づいて実行されていた。しかし、マップは、車速V、スロットル開度TH、アクセル開度Gが設定されている形態のものでもよい。この車速V、スロットル開度TH、アクセル開度Gが設定されているマップは、マップM´と便宜的に表記する。マップM´は、マップMと同様に、変速装置11の変速段ごとに切り替えられる。そのため、マップM´は、第1速から第5速まで、5つ設定されている。第1速のマップは、マップM´で示す。第2速から第5速まで、順に、マップM´、マップM´、マップM´、および、マップM´で表される。
【0054】
マップM´には、規定車速Vが所定値として設定されている。規定車速Vは、マップM´において、規定回転速度RLnに対応した値で設定されている。規定回転速度Rは、エンジン12の運転性能または自動二輪車1の走行性能に基づく値である。また、マップM´には、規定車速Vよりも小さい値である設定車速Vが所定値として設定されている。そのため、変速装置11において、減速比の大きいギア段(例えば、第1速から第2速)では、規定車速Vおよび設定車速Vに到達し得ない。この場合、マップM´において、実質的に規定車速Vおよび設定車速Vが設定されていないマップM´がある。規定車速Vおよび設定車速Vが設定されていないマップM´は、例えば、マップM´とマップM´である。
【0055】
図3に示す燃料供給制御部28は、前記各検出部にて検出された値およびマップMn´に設定された値に基づき、スロットルバルブ32の開度を調整する制御を実行する。また、燃料供給制御部28は、前記各検出部にて検出された値およびマップM´に設定された値に基づき、燃料供給装置31において燃料供給を停止させる制御を実行する。もしくは、燃料供給制御部28は、前記各検出部にて検出された値およびマップM´に設定された値に基づき、点火装置61において点火をカットする制御を実行する。
【0056】
このように、エンジン回転速度Rに代えて車速Vを用いても、前記実施形態と同様の制御を行うことができる。それにより、前述の効果を得ることが可能である。
【0057】
《本明細書における用語等の定義》
「規定車速V」の値は特に限定されないが、例えば、鞍乗型車両の最高速度よりも小さい車両速度である。最高速度は、例えば、自主的に規制された上限速度、すなわち、リミッター車速である。自動二輪車1が規定車速Vに到達することがあっても、リミッター車速には到達しない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は鞍乗型車両に関して有用である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】自動二輪車の左側面図である。
【図2】ハンドルを示す概略図である。
【図3】自動二輪車の制御ブロック図である。
【図4】変速装置における第5速のマップを示す図であり、(a)は、エンジン回転速度、スロットル開度、アクセル開度の三次元で表される図であり、(b)は、エンジン回転速度、スロットル開度の二次元で表される図である。
【図5】変速装置における第4速のマップを示す図であり、(a)は、エンジン回転速度、スロットル開度、アクセル開度の三次元で表される図であり、(b)は、エンジン回転速度、スロットル開度の二次元で表される図である。
【符号の説明】
【0060】
1 自動二輪車
4b アクセルグリップ(アクセル操作子)
7 後輪
10 ECU(制御装置)
11 変速装置
12 エンジン
13 動力伝達機構
14 パワーユニット
19 メモリ(記憶装置)
21 エンジン回転速度検出部(検出装置)
23 車速検出部(検出装置)
27 点火制御部(シフトアップ促進部)
28 燃料供給制御部(スロットル弁制御装置)(シフトアップ促進部)
30 燃料タンク
31 燃料供給装置
32 スロットルバルブ(スロットル弁)
33 吸気管(吸気通路)
38 排気通路
39 触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンに空気を導入する吸気通路と、
前記吸気通路に配置された電子制御式のスロットル弁と、
有段式の変速装置と、
前記エンジンの回転速度または車両速度を検出する検出装置と、
前記検出装置によって検出される回転速度または車両速度である検出速度が所定速度以上になると、前記スロットル弁の開度を減少させるスロットル弁制御装置と、
前記変速装置のギア段が、最高段以外の少なくとも最高段よりひとつ下のギア段で前記所定速度以上のときに前記変速装置のシフトアップを促すシフトアップ促進部と、
を備えた鞍乗型車両。
【請求項2】
前記所定速度は規定速度よりも小さい値で設定され、
前記スロットル弁制御装置は、前記変速装置のギア段が最高段以外のギア段で前記検出速度が前記規定速度以上のとき、前記スロットル弁の開度を加速走行が可能な開度に維持する、
請求項1に記載の鞍乗型車両。
【請求項3】
前記スロットル弁制御装置は、前記変速装置のギア段が最高段以外のギア段で前記検出速度が前記規定速度以上のとき、前記スロットル弁の開度を一定開度に維持する、
請求項2に記載の鞍乗型車両。
【請求項4】
前記エンジンからの排ガスを導出する排気通路と、
前記排気通路に配置された触媒と、
前記エンジンに対して燃料を供給する燃料供給装置と、
をさらに備え、
前記シフトアップ促進部は、前記燃料供給装置の燃料供給を停止させる燃料カット手段である、
請求項3に記載の鞍乗型車両。
【請求項5】
前記スロットル弁制御装置は、前記変速装置のギア段が最高段のギア段で前記検出速度が前記規定速度以上のとき、前記スロットル弁の開度を加速走行が不能な開度にまで減少させる、
請求項1に記載の鞍乗型車両。
【請求項6】
前記エンジンに対して燃料を供給する燃料供給装置をさらに備え、
前記シフトアップ促進部は、前記燃料供給装置の燃料供給を停止させる燃料カット手段である、
請求項1に記載の鞍乗型車両。
【請求項7】
前記燃料供給装置は、前記変速装置のギア段が最高段のギア段で前記検出速度が前記規定速度以上の場合、燃料供給を停止しない、
請求項6に記載の鞍乗型車両。
【請求項8】
前記スロットル弁を操作するためのアクセル操作子と、
前記アクセル操作子の開度であるアクセル開度と、前記スロットル弁の開度であるスロットル開度と、前記検出速度とに関する変速ギア段ごとのマップを記憶した記憶装置と、をさらに備え、
前記スロットル弁制御装置は、前記スロットル弁の開度を減少させる制御を前記マップに従って実行する、
請求項1に記載の鞍乗型車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−257268(P2009−257268A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−109761(P2008−109761)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】