説明

鞘管構造及びワイヤーハーネス

【課題】屈曲可能な鞘管を使用しても安定した取付形状を維持して、適正な取り付けを実現することができる鞘管構造及びワイヤーハーネスを提供することを目的とする。
【解決手段】
高圧用シールド電線270,270Aの挿通を許容する鞘管を複数隣接して並列配置し、前記並列配置された複数の鞘管のうち少なくとも1本を、前記並列する他の鞘管より硬度の高い高硬度鞘管で構成する。例えば前記鞘管を、屈曲可能な蛇腹形状で形成された長尺の蛇腹管210,220で構成し、前記高硬度鞘管を、前記蛇腹管を屈曲させた屈曲部が少なくとも、前記並列する他の蛇腹管220より硬度の高い高硬度屈曲部である高硬度蛇腹管210で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、導電線を覆って保護する鞘管構造及びその鞘管構造を用いたワイヤーハーネスに関し、例えば、導電線の高周波電流による電磁ノイズが周囲に悪影響を与えることを防止するシールド機能を備えた鞘管構造及びその鞘管構造を用いたワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電気自動車のインバータ装置やモータ駆動電流を供給する導電線は、高周波電流による電磁ノイズが発生することが知られている。そして、この電磁ノイズを遮蔽するため、従来から種々のシールド部材が提案されている。例えば、特許文献1では、車体の外部に露出させて配索される導電線を金属製のパイプ内に挿通させて保護した状態で電磁ノイズをシールドする導電路が提案されている。
【0003】
しかし、このような金属製のパイプを用いる構成では、長尺で重く、柔軟性も低いため取扱い性が悪かった。したがって、車両等に組み付ける際に、定められた車種の取付部の形状のみにしか対応せず、取付形状が若干でも異なる他の車両に適用することはできなかった。
【0004】
このようなことから金属製のパイプに代えて、近年、軽量で可撓性を有する取扱い性に好適な蛇腹管を採用し、この蛇腹管に導電線を挿通させるようにしたシールド部材が提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
このシールド部材は、蛇腹管が可撓性を有しているため自由に変形でき、長尺の蛇腹管を車両等への取り付け部位に適した所望の形状に形作ることができる。このため、取付形状が異なる車種に共通して取り付けることが可能になるとされていた。
しかし、可撓性を有する反面、形作った形状を維持できないため、取り付けに際してはプロテクタ等の補助部材を要するという問題があった。
【0006】
また、1本の蛇腹管に複数本の導電線を挿入させる構成のため導電線を円滑に挿入させることができず、この結果、導電線の取付作業に手間がかかり、作業性が悪くなるという問題も有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−171952号公報
【特許文献2】特開2009−123461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこでこの発明は、屈曲可能な鞘管を使用しても安定した取付形状を維持して適正な取り付けを実現することができる鞘管構造及びその鞘管構造を用いたワイヤーハーネスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、導電線の挿通を許容する鞘管を複数隣接して並列配置し、前記並列配置された複数の鞘管のうち少なくとも1本を、前記並列する他の鞘管より硬度の高い高硬度鞘管で構成した鞘管構造であることを特徴とする。
【0010】
この発明の態様として、前記鞘管を、屈曲可能な蛇腹形状で形成された長尺の蛇腹管で構成し、前記高硬度鞘管を、前記蛇腹管を屈曲させた屈曲部が少なくとも、前記並列する他の蛇腹管より硬度の高い高硬度屈曲部である高硬度蛇腹管で構成することができる。
またこの発明の態様として、前記高硬度屈曲部を、前記屈曲部分における前記蛇腹形状の押し潰しによって形成することができる。
【0011】
またこの発明の態様として、前記蛇腹管に、前記蛇腹管の管端部同士を螺合接続する螺合手段を備え、前記高硬度屈曲部を、前記螺合手段により螺合接続した接続部分を屈曲させて構成することができる。
【0012】
またこの発明の態様として、前記螺合手段を、前記蛇腹管の蛇腹形状が長手方向の螺旋形状となる螺旋蛇腹形状で構成することができる。
またこの発明の態様として、前記鞘管における電磁ノイズのシールド性が要求される部位に電磁ノイズ遮蔽用のシールド部を備えて構成することができる。
【0013】
またこの発明は、上述の鞘管構造における前記鞘管ごとに、それぞれ1本ずつの導電線を挿通し、前記導電線における前記蛇腹管の両端から露出する露出部分の少なくとも一方の端部にコネクタを備えたワイヤーハーネスであることを特徴とする。
またこの発明の態様として、前記露出部分に、その外周を覆う電磁ノイズ遮蔽用のシールド手段を備えて構成することができる。
【0014】
さらにまたこの発明は、低圧用導電線と高圧用導電線とで構成するワイヤーハーネスであって、上述の鞘管構造における各鞘管に対して、前記高圧用導電線を1本ずつ挿通するとともに、前記低圧用導電線を複数本まとめた挿通を許容し、前記高圧用導電線が挿通された前記鞘管のうち少なくとも1本を高硬度鞘管で構成したことを特徴とする。
【0015】
この発明の態様として、前記高圧用導電線を、電磁ノイズ遮蔽用の第1のシールド部材を備えたシールド導電線で構成するとともに、前記シールド導電線の外周を覆う第2のシールド部材を備えることができる。
また、この発明の態様として、前記高圧用導電線における前記鞘管の両端から露出する露出部分の外側に可撓性を有するカバー体を備えることができる。
【0016】
前記高硬度鞘管は、例えば、金属管、後述する高硬度蛇腹管などで構成することができ、導電線を保護できる管であれば材質、形状など特に限定しない。
また、前記高硬度蛇腹管は、長尺の蛇腹管の一部または全部の必要な部位を硬くしたものであり、固定化して形状を維持できる程度に他の蛇腹管に比べて硬度が高い蛇腹管とすることができる。
【0017】
さらにまた、前記高硬度蛇腹管は、例えば、屈曲部と直線部とで構成された蛇腹管である場合、屈曲部のみが高硬度である蛇腹管、全体が高硬度である蛇腹管、屈曲部全部と一部の直線部のみが高硬度な蛇腹管とすることができる。
前記屈曲部は、蛇腹形状の蛇腹管を屈曲させた部分のみならず、その屈曲させた部分につながる前後の所定範囲における部分を含むものとすることができる。
【0018】
前記シールド部材は、銅または銅合金に錫メッキ(以下において、Snメッキとする)を施した導体による編組みや、銅または銅合金にニッケルメッキ(以下において、Niメッキとする)を施した導体による編組みとすることができる。
【0019】
前記可撓性を有するカバー体とは、樹脂製コルゲートパイプ(以下において、樹脂COTとする)等の樹脂製カバーやゴム製カバーとすることができる。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、屈曲可能な鞘管構造を使用しても安定した取付形状を維持して適正な取り付けを実現することができる鞘管構造及びその鞘管構造を用いたワイヤーハーネスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(A)は高硬度蛇腹管の一例を示す側面図、(B)は通常の蛇腹管の一例を示す側面図。
【図2】(A)は蛇腹管の取付状態を示す側面図、(B)は並列する蛇腹管の取付状態を示す平面図。
【図3】(A)は蛇腹管の縦断面図、(B)は導電線を挿通した並列する蛇腹管の取付状態を示す要部縦断面図。
【図4】(A)は蛇腹管の一部縦断面図、(B)は蛇腹管の押し潰し例を示す要部拡大縦断面図、(C)は蛇腹管の高硬度屈曲部の一例を示す要部側面図、(D)は蛇腹管の高硬度屈曲部の他の例を示す要部側面図。
【図5】(A)は螺旋状蛇腹管を示す側面図、(B)は螺旋状蛇腹管の接続状態を示す要部縦断面図、(C)は螺旋状蛇腹管における高硬度屈曲部の一例を示す要部縦断面図、(D)は螺旋状蛇腹管における高硬度屈曲部の他の例を示す要部側面図、(E)は中継ぎ螺合管により左右の螺旋状蛇腹管を螺合接続する状態を示す要部縦断面図。
【図6】実施形態1のワイヤーハーネスの取付状態を示す説明図。
【図7】実施形態2のワイヤーハーネスの取付状態を示す説明図。
【図8】実施形態3のワイヤーハーネスの取付状態を示す説明図。
【図9】実施形態4のワイヤーハーネスの取付状態を示す説明図。
【図10】実施形態5のワイヤーハーネスの取付状態を示す説明図。
【図11】実施形態6のワイヤーハーネスの取付状態を示す説明図。
【図12】実施形態7のワイヤーハーネスの取付状態を示す説明図。
【図13】実施形態8のワイヤーハーネスの取付状態を示す説明図。
【図14】実施形態9のワイヤーハーネスの取付状態を示す説明図。
【図15】実施形態9のワイヤーハーネスにおける金属管についての説明。
【図16】4種類の蛇腹管別のシールド性能の結果を比較して示す図表。
【図17】ワイヤーハーネスの梱包状態を示す平面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて説明する。
本実施形態の鞘管構造を、車両、特に電気自動車などの大電流を流すワイヤーハーネスが配索された車両に適用した場合について説明する。
【0023】
前記鞘管構造は、図1及び図2に示すような鞘管構造で構成することができる。
詳しくは、この鞘管構造100は、屈曲可能な蛇腹形状で形成された長尺の蛇腹管を左右に隣接させて並列配置し、前記並列配置された2本の蛇腹管210,220のうち少なくとも1本を、前記並列する他の蛇腹管220より硬度の高い高硬度蛇腹管210で構成したことを特徴とする。
【0024】
図1(A)は高硬度蛇腹管210を示し、この高硬度蛇腹管210は車両床下の定められた取付位置の凹凸形状に応じて取り付けられる適合形状230に形作られる。
【0025】
この高硬度蛇腹管210は、可撓性を有する樹脂製の蛇腹管を素材であり、その全体を通常硬度蛇腹管220に比べて高硬度化して作ってもよく、部分的に高硬度化することにより高硬度化してもよい。具体的には、通常硬度蛇腹管220に比べて硬度の高い樹脂で樹脂製蛇腹管を構成してもよく、あるいは蛇腹管の外径は変えずに肉厚を変えて高硬度化した樹脂製蛇腹管を組合せて構成してもよい。
【0026】
また、その他の例として、この高硬度蛇腹管210を、金属鞘管(蛇腹管、螺旋蛇腹管、直管)の材料硬度を調質して硬度の異なる金属管を組合わせて構成してもよく、あるいは金属鞘管の外径は変えずに肉厚を変えて高硬度化した金属管を組合せて構成してもよい。このように高硬度蛇腹管210を構成することにより高硬度蛇腹管210と通常硬度蛇腹管220が並走する形態とすることができる。
【0027】
例えば蛇腹管の全体を高硬度化する例として、樹脂材を用いて可撓性を有する蛇腹管を成形し、その外表面に電磁ノイズのシールド性高めるアルミコルゲート等のシールド層を施して作ることができる。
【0028】
また、部分的に高硬度化して全体を高硬度化する例として、高硬度蛇腹管210が屈曲する各屈曲部分の硬度を他の部位の硬度より高くした高硬度屈曲部240(後述)を作ることができる。この際は、高硬度部が増えて一層安定した適合形状230が得られる。
【0029】
また、高硬度屈曲部240の形成に際して、高硬度屈曲部240のみを高硬度化し、他の部分を通常硬度で構成している。このほか、全体の硬度を高めた状態から屈曲部をさらに高硬度化した高硬度屈曲部240を構成することもできる。
【0030】
そして、高硬度屈曲部240を形作ることによって、この屈曲部分で異方向に延びる一方と他方の蛇腹管の向きを所望の向きに硬く固定して形作ることができる。これにより、高硬度蛇腹管210に軸方向の剛性を付与することができる。このため、高硬度蛇腹管210は長尺であっても全体の形状が安定し、高硬度化した部位の形成数に比例して全体の形状が安定する。
【0031】
なお、図1(A)においては、高硬度蛇腹管210に、前部側に緩やかな傾斜屈曲部を2ヶ所と、後部側に略直角のL型屈曲部を2ヶ所形成した例を示している。また、蛇腹管の両端にはコネクタ250が取り付けられている。
【0032】
長尺の蛇腹管を所定の形状に曲げて適合形状230に形作られた高硬度蛇腹管210が通常硬度蛇腹管220の基準の取付形状となり、この高硬度蛇腹管210の形状に沿って、図1(B)に示す可撓性を有する通常硬度蛇腹管220を同形状に沿わせて取り付けるものである。
この通常硬度蛇腹管220は、樹脂材を用いて可撓性を有する蛇腹管で形成している。なお、その外表面に薄いアルミコルゲート等のシールド層を施して作ることができる。
【0033】
この通常硬度蛇腹管220は高硬度部分を要しないため硬度が低く全長に亘って可撓性が得られる。このため、形が決まっている高硬度蛇腹管210の適合形状230に一致するように曲げて容易に対応させることができる。これにより、並列する蛇腹管の一方のみに高硬度化を施せばよく、他方の蛇腹管の高硬度化を省略できる。
【0034】
また、図2に示すように、蛇腹管の並列接続に際しては、左右に並ぶ2本の蛇腹管210,220を軸方向に一定間隔ごとにテープ260等で巻き付けて固定するとよい。これにより、両者を並列に取り付けてなる鞘管構造100を形作ることができる。
【0035】
図3は鞘管構造100の取付例を示し、図3(A)に示すように、高硬度蛇腹管210または通常硬度蛇腹管220に対し、その何れにも、図3(B)に示すように、それぞれ1本の高圧用シールド電線270が挿通される。
【0036】
この場合、1本の蛇腹管に1本の高圧用シールド電線270を挿通させる構成のため、高圧用シールド電線270の挿入操作が円滑になり、高圧用シールド電線270の取付作業が容易になる。
【0037】
そして、図3(B)に示すように、左右に並ぶ2本の蛇腹管210,220を例えばU字形状の取付金具280で取付面290に螺着して取り付ける。この際は、図2に示すように、取付金具280を蛇腹管の全長に渡って一定間隔ごとに取り付けるとよい。
【0038】
前記高硬度蛇腹管210における部位を確実に高硬度化する例として、図4(A)に示すように、樹脂材を用いて独立した山部211及び谷部212が交互に管の軸方向に複数設けてなる蛇腹管に成形した後、その外表面にアルミコルゲート等のシールド層、あるいは金属メッキ等を施せば、確実に硬度を高めることができる。
【0039】
このほか、図4(B)に示すように、高硬度蛇腹管210となる高硬度化すべき部位を環状締付具400で外周囲より包み込むように圧縮して締め付け、該蛇腹管210の山部211を押し潰して局部的に硬度を高めることができる。環状締付具400による加圧手段としては、例えば2つ割の筒体を設け、その外側より図示しないねじ締め部により締め付けて加圧することで構成することができる。
【0040】
これにより、蛇腹管が持つ本来の可撓性を許容する蛇腹状の空間が潰されて、なくなり、この押し潰された部分が厚肉になって強度が高まる。この結果、環状締付具400を取り付けた部分を高硬度化することができる。
【0041】
また、図4(C)に示すように、この環状締付具400を高硬度屈曲部240の近傍に取り付ければ、その屈曲部分を高硬度化して高硬度屈曲部240を形作ることができる。
【0042】
さらに、図4(D)に示すように、L型状の屈曲部分の全体を2つ割の環状締付具410で締め付けて蛇腹管の山部211を押し潰せば、屈曲部分における全体が高硬度化した高硬度屈曲部240を形作ることができる。
【0043】
さらに、高硬度蛇腹管210に蛇腹管の管端部同士を螺合接続するように構成することもできる。このときの螺合手段としては、一方の蛇腹管の管端部に形成されている外周の小径螺旋部を他方の蛇腹管の管端部に形成されている内周の大径螺旋部にねじ込んで螺合接続させれば、新たな連結部材を要せずに両側の蛇腹管を直接連結することができる。このようにして接続された部分は厚さが2重になり、高硬度化することができる。
【0044】
図5は蛇腹管に代えて螺旋蛇腹管500を採用したものである。この螺旋蛇腹管500は、図5(A)に示すように、蛇腹管の蛇腹形状が長手方向の螺旋形状となる螺旋蛇腹形状で構成したものである。したがって、管端部では内周面が雌ねじとなり、外周面が雄ねじとなる螺合機能を有している。
【0045】
例えば、図5(B)に示すように、一方の螺旋蛇腹管510の管端を雄ねじ用に若干小径にし、他方の螺旋蛇腹管520の管端を雄ねじ用に若干大径にして、双方の管端同士を突き合わせた状態で、一方の螺旋蛇腹管510の管端を他方の螺旋蛇腹管520の管端に螺入することで螺合接続することができる。
【0046】
また、図5(C)に示すように、一方の螺旋蛇腹管510と他方の螺旋蛇腹管520とを螺合接続した後、屈曲させれば、その屈曲部分を高硬度化して高硬度屈曲部240を形作ることができる。この場合も、新たな連結部材を要せずに連結することができる。
【0047】
このほか、図5(D)に示すように、管端部に螺旋接続可能な雌ねじを備えたL型筒体530を設け、このL型筒体530の水平方向と垂直方向との両側の管端部に、それぞれ螺旋蛇腹管510をねじ込んで螺合接続することもできる。また、このL型筒体530は、これに限らず、屈曲部分の全体を断面半円状に2つ割りしたL型カバーにしてもよい。この場合も、屈曲部分における全体が高硬度化した高硬度屈曲部240を形作ることができる。
【0048】
さらに、図5(E)に示すように、両管端部に、螺旋蛇腹管510と螺合する雌ねじを有する中継螺旋管540を設ける。この中継螺旋管540は一方を螺旋方向が他方と反対方向となるようにした逆ねじで構成している。そして、中継螺旋管540の両端開口部より各螺旋蛇腹管510をそれぞれねじ込んだ状態で、中継螺旋管540を一方の回転方向に回転させることで左右の螺旋蛇腹管510を同時に効率よく螺合接続するという構成も可能である。
また、蛇腹管210,220や螺旋蛇腹管510の代わりに、アルミニウム等で構成された表面が平滑な金属パイプで鞘管構造100を構成してもよい。
【0049】
(実施形態1)
図6は、蛇腹管210,220による鞘管構造100を用いた実施形態1に係るワイヤーハーネス600を示す。このワイヤーハーネス600は、螺旋蛇腹形状に形成された高硬度蛇腹管210と通常硬度蛇腹管220のそれぞれに例えば高電圧を導通する高圧用シールド電線270を1本ずつ挿通し、その端部にコネクタ250を2本の高圧用シールド電線270の一端側のそれぞれを接続している。
【0050】
さらに、ワイヤーハーネス600は、高硬度蛇腹管210と通常硬度蛇腹管220との2本を並列配置した状態で、適宜バンド350或いはテープなどで長さ方向において所定間隔ごとに結束している。
【0051】
さらにまた、ワイヤーハーネス600は、並列配置した2本の蛇腹管210,220(2本の高圧用シールド電線270)に対して、ノイズを発生しない複数本の低圧用導電線610(例えば、12V系の導電線)を、付随的に並列配置している。
なお、複数本の低圧用導電線610は、集合配線化した状態でバンド350或いはテープなどで束ねられている。
【0052】
詳しくは、ワイヤーハーネス600は、2本の蛇腹管210,220の長さ方向の両端部分を除く中間部分において、低圧用導電線610を並列配置した構成である。なお、2本の蛇腹管210,220と低圧用導電線610とは、クランプ620、バンド350などでひとまとめに束ねられている。
【0053】
この接続に際して、接続部分でのシールド漏れを確実に防止するためにシールドシェルを配置してもよい(図示省略)。このシールドシェルは、高硬度蛇腹管210及び通常硬度蛇腹管220とコネクタ250との接続部分を跨ぐ態様でコネクタ250の外周囲を覆うように配置する。これにより、コネクタ部付近のシールド性を向上させることができる。
【0054】
詳しくは、前記シールドシェルは、例えば断面半円状の2枚一組の金属部品であり、コネクタ部付近をシールドシェルで閉じた際に、押圧して蛇腹管の端末部付近の螺旋の山部を加締めることで安定して接続することができる。この場合、締め付けた際に山部が変形して固定されるため、コネクタ部付近のシールド性を簡単に向上することができる。
【0055】
以下、上述した実施形態1とは他の実施形態2から9について説明するが、実施形態1の構成と同様の構成については、同一の符号を付してその説明を省略するものとする。
【0056】
(実施形態2)
図7は、蛇腹管210,220による鞘管構造100を用いた実施形態2に係るワイヤーハーネス700を示す。このワイヤーハーネス700は、螺旋蛇腹形状に形成された高硬度蛇腹管210と通常硬度蛇腹管220のそれぞれに1本ずつの高圧用シースレスシールド電線270Aを挿通し、その端部から露出する編組線730の露出部分を介してコネクタ250に接続したものである。
【0057】
詳しくは、高圧用シールド電線270は、元々、実施形態1の高圧用シールド電線270のように、中心部分に配したコア電線(中心電線)に対して内側シールド部(樹脂被覆部)、前記編組線730及び外側シールド部のそれぞれをこの順に径外方向に被覆した構成であるが(図示省略)、実施形態2の高圧用シースレスシールド電線270Aは、実施形態1の高圧用シールド電線270の最外層に相当する外側シールド部を除去し、編組線730が最外層として露出する部分となるシースレスシールド電線で構成している。
【0058】
なお、高圧用シースレスシールド電線270Aは、外側シールド部を除去して構成したものに限らず、高圧用シースレスシールド電線270Aの製造工程において内側シールド部の外周側に編組線730を編み込んで、外側シールド部を元々被覆せずに構成したもの、或いは、前記コア電線と前記内側シールド部とで電線を構成し、後加工でシールド部を編組線730で被覆した構成であってもよい。
前記ワイヤーハーネス700は、蛇腹管210,220から挿通した2本の高圧用シースレスシールド電線270Aの長さ方向の両端部分が突出し、長さ方向の両端部分において編組線730が露出した構成である。
【0059】
前記ワイヤーハーネス700においても、実施形態1のワイヤーハーネス600と同様に、複数本の低圧用導電線610を、2本の高圧用シースレスシールド電線270Aの長さ方向の両端部分を除く部分、すなわち、編組線730が露出する部分を除く蛇腹管210,220を配した部分において付随的に並列配置した状態になるよう適宜クランプ620、バンド350などで取り付けてひとまとめに束ねた構成である。
【0060】
なお、高圧用シースレスシールド電線270Aは、長さ方向全長に亘って編組線730が露出した構成に限らず、長さ方向の一部分のみを、最外層に被覆した外側シールド部を除去して編組線730が露出した構成であってもよい。例えば、前記ワイヤーハーネス700は、高圧用シースレスシールド電線270Aの長さ方向における、コネクタ250と接続される端部側部分(蛇腹管210,220からの突出部分)のみを、編組線730が露出する構成としている。
【0061】
(実施形態3)
図8は、蛇腹管210,220による鞘管構造100を用いた実施形態3に係るワイヤーハーネス800を示す。このワイヤーハーネス800は、図6に示すワイヤーハーネス600と同様に、螺旋蛇腹形状に形成された高硬度蛇腹管210と通常硬度蛇腹管220のそれぞれに例えば高圧用シールド電線270を1本ずつ挿通し、その端部にコネクタ250を2本の高圧用シールド電線270の一端側のそれぞれを接続している。
【0062】
さらに、ワイヤーハーネス800は、電磁ノイズのシールド性が要求される長さ方向の一端側(図8中、高圧用シールド電線270の長さ方向の右側部分)の接続部位に短尺状の高硬度蛇腹管210と通常硬度蛇腹管220を配して構成している。
【0063】
詳しくは、高圧用シールド電線270の長さ方向における一端側部分(図8中、高圧用シールド電線270の長さ方向の右側部分)には、室内側と室外側との境界部分に設置される鍔状のグロメット320が取り付けられ、ワイヤーハーネス800のグロメット320の取付け箇所に対して図8中、右側端部部分を室内配索部分(in)に設定し、図8中、左側端部部分を室外配索部分(out)に設定している。
【0064】
そして、ワイヤーハーネス800は、2本の高圧用シールド電線270の室外配索部分(out)を、2本を並列配置した状態で、適宜バンド350或いはテープなどで長さ方向において所定間隔ごとに結束した高硬度蛇腹管210と通常硬度蛇腹管220とに挿通している。
【0065】
さらに、2本の高圧用シールド電線270の室内配索部分(in)をそれぞれ短尺状の高硬度蛇腹管210と通常硬度蛇腹管220で覆って、適宜シールドしている。すなわち、実施形態3のワイヤーハーネス800では、室外配索部分(out)では長尺状の高硬度蛇腹管210と通常硬度蛇腹管220を利用し、室内配索部分(in)では端弱状の高硬度蛇腹管210と通常硬度蛇腹管220を利用した構成である。
【0066】
なお、ワイヤーハーネス800においても、実施形態1のワイヤーハーネス600と同様に、複数本の低圧用導電線610を、室外配索部分(out)で付随的に並列配置した状態になるよう適宜クランプ620、バンド350などで取り付けてひとまとめに束ねた構成である。
【0067】
(実施形態4)
図9は、蛇腹管210,220による鞘管構造100を用いた実施形態4に係るワイヤーハーネス900を示す。このワイヤーハーネス900は、電磁ノイズのシールド性が要求される長さ方向の一端側の接続部位に短尺状の高硬度蛇腹管210と通常硬度蛇腹管220を配して構成している。
【0068】
ワイヤーハーネス900は、2本の高圧用シールド電線270の室内配索部分(in)をそれぞれ短尺状の高硬度蛇腹管210と通常硬度蛇腹管220で覆って、適宜シールドすることができる。すなわち、実施形態4のワイヤーハーネス900は、高硬度蛇腹管210と通常硬度蛇腹管220の部分的な利用として、蛇腹管210,220を、短尺状に構成し、高圧用シールド電線270の例えば、リアシート裏側などの室内配索部分(in)に部分的に備えた構成である。
また、この場合も、ノイズを発生しない低電圧の別の低圧用導電線610をクランプ620で取り付けて付随的に沿設して集合配線化状態にして配索した例を示している。
【0069】
なお、実施形態1から4における通常硬度蛇腹管220は、例えばアルミニウム管に鉄系のパイプを被せたもの、あるいは鉄系のパイプで置き換えたもの、あるいはアルミ製パイプに鉄系のメッキを施したパイプとすると好ましい。
【0070】
また、図6,7に示す実施形態1及び2の場合でも、必要に応じて長さ方向の一端側の接地部位における室内配索部分においてアルミニウム管に鉄系のパイプを被せたもの、鉄系のパイプで置き換えたもの、アルミ製パイプに鉄系のメッキを施したパイプを設けてもよい。
【0071】
このように蛇腹管210,220による鞘管構造100を用いた実施形態1から4のワイヤーハーネス600,700,800,900は、鞘管構造100によるシールド性、形状保持性及び取扱い性を有している。
【0072】
(実施形態5)
図10は、金属管310による鞘管構造100を用いた実施形態5に係るワイヤーハーネス1000を示す。
ワイヤーハーネス1000は、室外配索部分(out)においては、高電圧系の導線線270Aと複数の低電圧系の導線線610とを、上述した実施形態と同様の形態で並列配置しているが、実施形態5における導線線270Aは、長さ方向全長に亘って編組線730が露出したシースレスシールド電線で構成している。
【0073】
ワイヤーハーネス1000は、合計4本の短尺状の金属パイプ310Sを備えている。詳しくは、4本の金属パイプ310Sのうち2本の金属パイプ310Sa,310Sbは、2本の高圧用シースレスシールド電線270Aにおける低圧用導電線610が並列配置する部分の長さ方向のコネクタ250側部分に備えるとともに、4本の金属パイプ310Sのうち残り2本の金属パイプ310Sa,310Sbは、長さ方向のグロメット320側部分に備えている。
【0074】
なお、本実施形態においては、4本の金属パイプ310Sを設けているが、金属パイプ310Sの本数は4本に限定されず、ワイヤーハーネス1000を取り付ける車両の条件に応じて金属パイプ310Sの数を4本以上に増やしてもよい。
【0075】
これら4本の金属パイプ310Sは、それぞれ2本の高圧用シースレスシールド電線270Aを挿通した状態で2本ずつ並列配置され、並列配置した金属パイプ310Sのうち一方の金属管を高硬度金属パイプ310Saで構成し、他方の金属管を通常硬度金属パイプ310Sbで構成している。
【0076】
特に、ワイヤーハーネス1000の長さ方向のおける少なくとも室内配索部分(in)においては、前記導線線270Aを構成する編組線730を、以下のいずれかの実施形態で構成している。
【0077】
(実施形態A)銅または銅合金に、Snメッキをした導体を編組した編組線730A
(実施形態B)銅または銅合金に、Niメッキをした導体を編組した編組線730B
(実施形態C)実施形態A,Bの導体の双方を用いて二重構造に編組した編組線730C
なお実施形態Cの編組線730Cは、実施形態Aの導体、実施形態Bの導体のうち、いずれを上下に配して編組してもよいし、上下交互に配して編組してもよい。
【0078】
上述したワイヤーハーネス1000は、以下の作用、効果を奏することができる。
前記ワイヤーハーネス1000は、室内配索部分(in)の編組線730を、メッキ化した構成、詳しくは、上述した実施形態AからCのいずれかの構成としているため、シールド特性をより一層向上させることができる。また、振動等による異音の発生を抑制することができる。
【0079】
このように金属パイプ310Sを、高圧用シースレスシールド電線270Aにおける低圧用導電線610との並列配置部分の両端側に配するとともに、並列配置した2本の短尺状の金属パイプ310Sのうち少なくとも一方を高硬度金属パイプ310Saで構成することにより、ワイヤーハーネス1000を、低圧用導電線610を含めて所望の配索形状に効率的に固定することができる。
【0080】
さらに金属パイプ310Sを、導電線の長さ方向における室内配索部分(in)を除いた室外配索部分(out)に配することにより、振動等による異音、騒音の発生を抑制することができ、軽量化も図ることができる。
また、高圧用シースレスシールド電線270Aを、シースレスシールド電線で構成したので、軽量化、異音発生の抑制を図ることができる。
【0081】
実施形態5では、金属パイプ310Sを、2本の高圧用シースレスシールド電線270Aにおける低圧用導電線610が並列配置する部分(並列配置部分)の長さ方向の両端部分の各端部側において、2本ずつ並列配置した状態で備えている。
【0082】
このため、前記並列配置部分の長さ方向の各側に配した2本の金属パイプ310Sの間には、金属パイプ310Sで覆われていない高圧用シースレスシールド電線270Aによる屈曲自在な部分を確保することができる。よって、ワイヤーハーネス1000は、適宜この部分を屈曲させることにより、優れた梱包性、輸送性、組み付け性を得ることができる。
【0083】
また、実施形態5では、鞘管を金属パイプ310Sで構成することで、シールド性能の向上に加えて優れた高圧用シースレスシールド電線270Aのプロテクト機能を得ることができる。詳しくは、金属パイプ310Sは、強度に優れるため、ワイヤーハーネスを床下に配した場合でも高圧用シースレスシールド電線270Aを飛び石などからしっかりと保護することができる。
【0084】
さらに、鞘管を金属パイプ310Sで構成することで、優れた放熱、耐熱、及び遮熱機能を得ることができる。詳しくは、金属パイプ310Sは、優れた熱伝導性を有するため、管内部の熱を放熱させることができ、例えば、夏季においても挿通した導電線を管外側の熱から保護することができる。
【0085】
加えて、鞘管を金属パイプ310Sで構成することで、優れた形状付与性(成形性、組み付け性、加工性)を得ることができる。詳しくは、予め屈曲形状に成形した金属パイプ310Sを配することにより、ワイヤーハーネス1000を所望の形状で配索した状態で固定することができる。
【0086】
なお、金属パイプ310Sは、必要に応じて該金属パイプ310Sの長さ方向の一方の端末部分、両端末部分或いは中央部分を、全周または部分的に縮径させ、高圧用シースレスシールド電線270Aに対して固定する構成であってもよい。また、金属パイプ310Sは、ワイヤーハーネス1000が所望の配索形状になるよう必要に応じて曲げ加工を付与した屈曲形状で構成してもよい。
【0087】
(実施形態6)
図11は、金属管310による鞘管構造100を用いた実施形態6に係るワイヤーハーネス1100を示す。
ワイヤーハーネス1100は、金属パイプ310Lの構成以外は、実施形態5のワイヤーハーネス1000と同様の構成で構成している。
【0088】
詳しくは、ワイヤーハーネス1100は、合計2本の長尺状の金属パイプ310Lを備えている。2本の金属パイプ310Lは、2本の高圧用シースレスシールド電線270Aにおける低圧用導電線610とが並列配置する部分の長さ方向全長に亘って備えている。
【0089】
2本の金属パイプ310Lのうち一方は、2本の高圧用シースレスシールド電線270Aのうち一方を覆った状態で配した高硬度金属パイプ310Laである。
2本の金属パイプ310Lのうち他方は、2本の高圧用シースレスシールド電線270Aのうち他方を覆った状態で配した普通硬度金属パイプ310Lbである。
【0090】
上述した構成のワイヤーハーネス1100は、実施形態5のワイヤーハーネス1000が奏する作用、効果に加えて、特に、金属パイプ310Lが上述しように長尺状である構成であることに起因して、以下の効果を得ることができる。
【0091】
ワイヤーハーネス1100は、高圧用シースレスシールド電線270Aにおける低圧用導電線610との並列配置部分の長さ方全長に亘ってこれら高圧用シースレスシールド電線270Aを覆うことができるため、上述したシールド性能、導電線のプロテクト機能、放熱機能、形状付与機能をより一層、顕著に得ることができる。
【0092】
(実施形態7)
図12は、金属管構造を用いた実施形態7に係るワイヤーハーネス1200を示す。
ワイヤーハーネス1200は、金属管310の構成以外は、実施形態5のワイヤーハーネス1000と同様の構成で構成している。
【0093】
ワイヤーハーネス1200は、合計2本の短尺の金属パイプ310Sを備えている。詳しくは、2本の金属パイプ310Sは、いずれの金属管も短尺状の高硬度金属パイプ310Saで構成し、該2本の金属パイプ310Sのうち一方の高硬度金属パイプ310Saを、2本の高圧用シースレスシールド電線270Aにおける低圧用導電線610が並列配置する部分の長さ方向の一方の端部側に備えるとともに、他方の高硬度金属パイプ310Saを、長さ方向の他方の端部側に備えている。
【0094】
なお、本実施形態においては、2本の高硬度金属パイプ310Saを設けているが、高硬度金属パイプ310Saの本数は2本に限定されず、ワイヤーハーネス1200を取り付ける車両の条件に応じて高硬度金属パイプ310Saの数を2本以上に増やしてもよい。
【0095】
これら2本の高硬度金属パイプ310Saは、2本の高圧用シースレスシールド電線270Aのうちいずれか一方に対して長手方向に異なる箇所を覆う状態で配しており、2本の高圧用シースレスシールド電線270Aのうち他方には、高硬度金属パイプ310Saを配していない。
【0096】
上述した構成のワイヤーハーネス1200は、実施形態5のワイヤーハーネス1000が奏する作用、効果に加えて、特に、高硬度金属パイプ310Saを一方の高圧用シースレスシールド電線270Aのみに配した構成であることに起因して、以下の効果を得ることができる。
【0097】
ワイヤーハーネス1200は、2本の高圧用シースレスシールド電線270Aのうち一方に2本の高硬度金属パイプ310Saを配して所望の配索形状に固定し、該一方の高圧用シースレスシールド電線270Aに対して、高硬度金属パイプ310Saを配していない形状保持性に乏しい他方の高圧用シースレスシールド電線270Aを並列配置した状態で一体化した構成であるから、ワイヤーハーネス1200全体として効率的に所望の配索形状に固定することができる。
【0098】
(実施形態8)
図13は、金属管構造を用いた実施形態8に係るワイヤーハーネス1300を示す。
ワイヤーハーネス1300は、金属パイプ310Lの構成以外は、実施形態5のワイヤーハーネス1000と同様の構成で構成している。
【0099】
ワイヤーハーネス1300は、1本の長尺状の高硬度金属パイプ310Laを備えている。詳しくは、1本の高硬度金属パイプ310Laは、2本の高圧用シースレスシールド電線270Aにおける低圧用導電線610が並列配置する部分の長さ方向全長に亘って備えている。
【0100】
1本の高硬度金属パイプ310Laは、2本の高圧用シースレスシールド電線270Aのうちいずれか一方を覆った状態で配しており、高硬度金属パイプ310Laで構成している。すなわち、2本の高圧用シースレスシールド電線270Aのうち他方には、高硬度金属パイプ310Laを配していない。
【0101】
上述した構成のワイヤーハーネス1300は、実施形態5のワイヤーハーネス1000が奏する作用、効果に加えて、特に、高硬度金属パイプ310Laを一方の高圧用シースレスシールド電線270Aのみに配した構成であることに起因して、以下の効果を得ることができる。
【0102】
ワイヤーハーネス1300は、2本の高圧用シースレスシールド電線270Aのうち一方に高硬度金属パイプ310Laを配して所望の配索形状に固定し、形状保持性に乏しい他方の高圧用シースレスシールド電線270Aに、形状保持性に優れた一方の高圧用シースレスシールド電線270Aを並列配置した状態で一体化した構成であるから、ワイヤーハーネス1300全体として効率的に所望の配索形状に固定することができる。
【0103】
なお、上述した実施形態5から8において並列配置する2本の金属管310は、双方を高硬度金属パイプ310Sa,Laで構成してよく、或いは双方を通常硬度金属パイプ310Sb,Lbで構成してよい。
【0104】
実施形態5から9では、鞘管として金属パイプ310S,310Lを用いたが、金属製に限らず、導電線を保護できる鞘管としての機能(強度等)を有するものであれば、材質、形態は限定しない。例えば、鞘管として金属管の代わりに上述した蛇腹管210,220で構成してもよい。
【0105】
(実施形態9)
図14は、蛇腹管210,220を用いた鞘管構造100を用いた実施形態9に係るワイヤーハーネス1400を示す。
ワイヤーハーネス1400は、中心部分に配したコア電線(中心電線)710に対して内側シールド部(樹脂被覆部)720、前記編組線730及び外側シールド部740のそれぞれをこの順に径外方向に被覆した構成である2本の高圧用シールド電線270と、並列配置した複数本の低圧用導電線610とで構成している。
【0106】
そして、室外配索部分(out)における端部側の所定長さ部分を露出させ、中間部分を長尺の蛇腹管210,220で囲繞している。
詳しくは、2本の高圧用シールド電線270のうち1本を高硬度蛇腹管210に挿通し、他方の高圧用シールド電線270を通常硬度蛇腹管220に挿通している。つまり、高圧用シールド電線270はそれぞれ1本ずつ蛇腹管210,220に挿通している。これに対して、複数本の低圧用導電線610は、高圧用シールド電線270が挿通された通常硬度蛇腹管220より大径の通常硬度蛇腹管220にまとめて挿通している。そして、高硬度蛇腹管210と2本の通常硬度蛇腹管220とを並列配置した状態で、適宜バンド350或いはテープなどで長さ方向において所定間隔ごとに結束している。
【0107】
なお、蛇腹管210,220は、硬度(ビッカース硬度)が30〜40のアルミ製の金属鞘管であり、熱伝導性、成形性や保形性などの加工性、或いは防食性の観点より、高硬度蛇腹管210は板厚0.5〜0.8mmの高硬度鞘管で構成し、通常硬度蛇腹管220は板厚0.4〜0.3mm以下の硬度鞘管で構成している。
【0108】
また、高硬度蛇腹管210と通常硬度蛇腹管220とは、板厚が異なるものの、図15に示すように、外径寸法、内径寸法及びピッチは同じように形成している。
さらにまた、蛇腹形状を構成する外径寸法と内径寸法の差を、高硬度蛇腹管210で1.9〜1.3mmとし、通常硬度蛇腹管220で2.0〜2.4mmに設定している。
このように、高硬度蛇腹管210は、通常硬度蛇腹管220に対し、外径、内径、ピッチを固定して、板厚だけを厚くすることで高硬度化している。
【0109】
そして、図14においてグロメット320より右側の室内配索部分(in)における高圧用シールド電線270には、外側シールド部740の外周を第2編組線750で覆い、さらにその外側を樹脂COT760で覆っている。
【0110】
詳しくは、高圧用シールド電線270を構成する編組線730は、銅または銅合金に、Snメッキを施した導体による編組みであり、外側シールド部740とともに、電磁波シールドの役目を担っている。
これに対して、第2編組線750は、銅または銅合金にNiメッキを施した導体による編組みであり低周波シールドの役目を担っている。
【0111】
このように構成されたワイヤーハーネス1400は、蛇腹管210,220部分が車両床下部分に、クランプで取り付けられ、室外配索部分(out)における高圧用シールド電線270及び低圧用導電線610の露出部分はエンジンルーム内に配索される。さらに、室内配索部分(in)はリアシート下部に配索される。
【0112】
このような構成を有し、上述したような取り付け方法で車両に取り付けられたワイヤーハーネス1400は、以下に示すような、さまざまな効果を有する。
まずは、これまでに説明した実施形態のワイヤーハーネス600〜1300と同様に、高硬度蛇腹管210と通常硬度蛇腹管220とで構成する鞘管構造100によって、ワイヤーハーネス1400は、ワイヤーハーネス1400の配索経路に応じた所望の形状に形作ることができるとともに、その形状を維持できるため、配索経路へのワイヤーハーネス1400の取り付け容易性を向上することができる。
【0113】
また、室外配索部分(out)における車両床下部分では、高圧用シールド電線270及び低圧用導電線610ともに蛇腹管210,220に挿通されているため、ワイヤーハーネス1400に対するアンダーカバー等のプロテクタを要しない。また、飛び石等のワイヤーハーネス1400が損傷を受けるような危険の少ないエンジンルームや室内配索部分(in)における高圧用シールド電線270及び低圧用導電線610は、蛇腹管210,220で覆われていないため、ワイヤーハーネス1400が損傷を受けるおそれに対する防護機能を確保しながら、軽量化することができる。
【0114】
また、例えば、室内配索部分(in)における高圧用シールド電線270を蛇腹管210,220で覆った場合、振動によってフロアパネル等の金属との接触音が生じるが、室内配索部分(in)における高圧用シールド電線270を可撓性のある樹脂COT760で囲繞しているため、上述した接触音の発生を抑制することができる。また、接触音が発生した場合であっても、金属同士の接触音に対して、樹脂COT760の場合、樹脂と金属との接触となり、その接触音は響かず、接触音によって利用者が感じる不快感を抑えることができる。
【0115】
なお、上述の説明においては、室内配索部分(in)において、蛇腹管210,220から露出した高圧用シールド電線270に樹脂COT760を装着したが、室外配索部分(out)においてエンジンルーム内に配置される高圧用シールド電線270の蛇腹管210,220からの露出部分に樹脂COT760を装着してもよい。
【0116】
また、特に、床下部分において、高圧用シールド電線270及び低圧用導電線610を挿通する上記蛇腹形状の蛇腹管210,220によって、低圧用導電線610や高圧用シールド電線270で発生する熱の放熱性を高めるとともに、エンジン等の外部から熱の遮熱性を向上することができるため、低圧用導電線610や高圧用シールド電線270の必要耐熱性能を低減することができる。したがって、低圧用導電線610や高圧用シールド電線270のサイズダウンやスペックダウンを図ることができ、軽量化やコストダウンを図ることができる。
【0117】
さらには、編組線730を内部に有する高圧用シールド電線270の外側に更なる第2編組線750を備えたため、高周波から低周波までの広い周波数の電磁波に対するシールド性能を向上することができる。
【0118】
なお、上述の説明では、高圧用シールド電線270における室内配索部分(in)部分に第2編組線750を備えたが、高圧用シールド電線270全体に第2編組線750を設けてもよい。さらには、Niメッキを施した導体による編組みで編組線730を構成し、Snメッキを施した導体による編組みで第2編組線750を構成してもよい。また、Niメッキを施した導体による編組みで構成した第2編組線750の外側に、さらに、Snメッキを施した導体による編組みを備えてもよい。
また、高硬度蛇腹管210の代わりに高硬度金属パイプ310Laを、通常硬度蛇腹管220の代わりに普通硬度金属パイプ310Lbを用いてもよい。さらには、蛇腹管210,220の代わりに、螺旋蛇腹管510を用いてもよい。
【0119】
なお、ワイヤーハーネス600〜1400は、高圧用シールド電線270や高圧用シースレスシールド電線270A2本を並列配置する構成に限定せず、3本以上を並列配置した構成であってもよい。また、低圧用導電線610の本数も限定せず、取り付け車両に応じた本数を備えればよく、1本の低圧用導電線610であってもよい。
【0120】
次に、鞘管として蛇腹管を用いた場合において、該蛇腹管の外表面にシールド性を高めるためのアルミコルゲートを施した構成について行なったシールド性の比較試験について図16を用いて説明する。
【0121】
図16は蛇腹管の外表面にシールド性を高めるためのアルミコルゲートを施した場合のシールド性の比較試験結果を示す。このアルミコルゲートには屈曲性、耐腐食性、耐振動性等の特性を有している。
【0122】
ここに用いられる試験対象となる蛇腹管として、アルミコルゲートを薄く施した可撓性を有する薄アルミコルゲート蛇腹管2010と、アルミコルゲートを厚く施した比較的硬い厚アルミコルゲート蛇腹管2020との2種類を比較試験に用いた。これらは前記図6で述べた蛇腹管のうち、薄アルミコルゲート蛇腹管2010が通常硬度蛇腹管220に対応し、厚アルミコルゲート蛇腹管2020が高硬度蛇腹管210に対応している。
【0123】
そして、薄アルミコルゲート蛇腹管2010と、厚アルミコルゲート蛇腹管2020との比較参考例とした編組シールドを備えた蛇腹管2030と、銅メッキコルゲートを施した蛇腹管2040とを用いて比較試験を実施した。その結果、各アルミコルゲートを施した蛇腹管2010,2020は、図10示すグラフから明らかなように編組シールドを備えた蛇腹管2030より高いシールド性能が得られることが認められた。
【0124】
特に、100MHz以下の周波数、具体的には1MHzを超えたあたりで最も電磁ノイズのシールド性が高く、銅メッキコルゲートを施した蛇腹管2040より電磁ノイズのシールド性が高くなることが認められた。したがって、前記薄アルミコルゲート蛇腹管2010と、厚アルミコルゲート蛇腹管2020は蛇腹管を高硬度化して取付作業性の向上を図ることができるだけでなく、蛇腹管の外表面にアルミコルゲート等のシールド処理を施せば、シールド性を有する蛇腹管として利用できる。
【0125】
図17はワイヤーハーネス1500の梱包状態を示している。このワイヤーハーネス1500は長尺の高硬度蛇腹管210と通常硬度蛇腹管220との鞘管構造100に別の導電線1510を並列して構成している。
【0126】
このうち鞘管構造100に対しては、その外表面にさらにアルミコルゲートを施してシールド性を高めている。この際、例えば0.3ミリ程度の薄いシールド層の場合は比較的柔らかい鞘管構造100となり、梱包に好適である。また、アルミコルゲートのシールド層を0.8ミリ程度の場合は比較的硬い鞘管構造100となり、鞘管構造100の強度が増し、さらに形状維持性能が高まる。
【0127】
特に、薄いシールド層の場合は、このワイヤーハーネス1500を梱包して運ぶ際に、その全長を丸めて小さな楕円状に曲げることができるため、例えば横長の箱形状のポリコンテナ等の容器1520に収納することができ、運搬が容易になる。
【0128】
上述のように、鞘管構造は蛇腹管自体が軽量で可撓性を有するため取扱い性に優れ、また蛇腹構造のため薄くても十分な強度が得られる。さらに、蛇腹管を自由に屈曲できるため車両の床下形状などに容易に対応させることができる。このため、1つの鞘管構造であっても多車種に共通利用できる。
【0129】
また、鞘管構造の取り付けに際しては、1本の高硬度蛇腹管210が硬く、形状を維持できるため、金属パイプのごとく扱うことができ、この高硬度蛇腹管に他の蛇腹管や別の導電線を沿わせて並列させることができる。
【0130】
さらに、蛇腹管で導電線を全て覆うようにすれば、編組みを使わなくてもシールド性が得られる。また、防水性も得られる。さらに、鞘管構造を車両の床下に配索した場合は、蛇腹管で導電線を保護するため、車両走行時に石ハネの影響を受けず、振動を受けても共振せず、音も低減する。
【0131】
以上、この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明の鞘管は、高硬度蛇腹管210、通常高度蛇腹管220、或いは金属管310(310La,310Sa,310Lb,310Sb)に対応し、以下同様に、
他の蛇腹管は、通常高度蛇腹管220に対応し、
螺合手段は、螺旋蛇腹管510,520と、L型筒体530と、中継蛇腹管540に対応し、
螺旋蛇腹形状は、螺旋蛇腹管500に対応し、
電磁ノイズ遮蔽用のシールド部は、環状締付具400と、螺旋蛇腹管520と、L型筒体530に対応し、
低圧用導電線は、低圧用導電線610に対応し、
高圧用導電線またはシールド導電線は、高圧用シールド電線270または高圧用シースレスシールド電線270Aに対応し、
第1のシールド部材は、編組線730に対応し、
第2のシールド部材は、第2編組線750に対応し、
カバー体は、樹脂COT760に対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、請求項に記載される技術思想に基づいて多くの実施の形態を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0132】
導電線から発生する電磁ノイズのシールドを必要とする電気自動車などの車両等の全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0133】
100…鞘管構造
210…高硬度蛇腹管
220…通常高度蛇腹管
240…高硬度屈曲部
250…コネクタ
270…高圧用シールド電線
270A…高圧用シースレスシールド電線
310(310La,310Sa,310Lb,310Sb)…金属パイプ
400,410…環状締付具
500,510,520…螺旋蛇腹管
530…L型筒体
540…中継蛇腹管
610…低圧用導電線
730…編組線
750…第2編組線
760…樹脂COT
600,700,800,1000,1100,1200,1300,1400,1500…ワイヤーハーネス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電線の挿通を許容する鞘管を複数隣接して並列配置し、
前記並列配置された複数の鞘管のうち少なくとも1本を、
前記並列する他の鞘管より硬度の高い高硬度鞘管で構成した
鞘管構造。
【請求項2】
前記鞘管を、
屈曲可能な蛇腹形状で形成された長尺の蛇腹管で構成し、
前記高硬度鞘管を、
前記蛇腹管を屈曲させた屈曲部が少なくとも、前記並列する他の蛇腹管より硬度の高い高硬度屈曲部である高硬度蛇腹管で構成した
請求項1に記載の鞘管構造。
【請求項3】
前記高硬度屈曲部を、
前記屈曲部分における前記蛇腹形状の押し潰しにより形成した
請求項2に記載の鞘管構造。
【請求項4】
前記蛇腹管に、
前記蛇腹管の管端部同士を螺合接続する螺合手段を備え、
前記高硬度屈曲部を、
前記螺合手段により螺合接続した接続部分を屈曲させて構成した
請求項2に記載の鞘管構造。
【請求項5】
前記螺合手段を、
前記蛇腹管の蛇腹形状が長手方向の螺旋形状となる螺旋蛇腹形状で構成した
請求項4に記載の鞘管構造。
【請求項6】
前記鞘管における電磁ノイズのシールド性が要求される部位に電磁ノイズ遮蔽用のシールド部を備えた
請求項1〜5の何れか1項に記載の鞘管構造。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の鞘管構造における前記鞘管ごとに、それぞれ1本ずつの前記導電線を挿通し、
前記導電線における前記鞘管の両端から露出する露出部分の少なくとも一方の端部にコネクタを備えた
ワイヤーハーネス。
【請求項8】
前記露出部分に、その外周を覆う電磁ノイズ遮蔽用のシールド手段を備えた
請求項7に記載のワイヤーハーネス。
【請求項9】
低圧用導電線と高圧用導電線とで構成するワイヤーハーネスであって、
請求項1〜6の何れか1項に記載の鞘管構造における各鞘管に対して、
前記高圧用導電線を1本ずつ挿通するとともに、前記低圧用導電線を複数本まとめた挿通を許容し、
前記高圧用導電線が挿通された前記鞘管のうち少なくとも1本を高硬度鞘管で構成した
ワイヤーハーネス。
【請求項10】
前記高圧用導電線を、電磁ノイズ遮蔽用の第1のシールド部材を備えたシールド導電線で構成するとともに、
前記シールド導電線の外周を覆う第2のシールド部材を備えた
請求項9に記載のワイヤーハーネス。
【請求項11】
前記高圧用導電線における前記鞘管の両端から露出する露出部分の外側に可撓性を有するカバー体を備えた
請求項9または10に記載のワイヤーハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図17】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−138740(P2011−138740A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77103(P2010−77103)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】