説明

音声伝送システム

【課題】伝送エラーによる異音の発生を抑制しつつも音声の再現性を向上できる音声伝送システムを提供することにある。
【解決手段】音声伝送システムは、ディジタル音声信号の標本点S,Sk−1の量子化値Q,Qk−1の差分の絶対値Aを算出する第1差分演算手段36と、ディジタル音声信号を符号化してなる音声データを時間軸で分割した一音声フレームについて絶対値Aの最大値Mおよび平均値Vを算出する補正基準値演算手段37と、音声フレームと最大値Mと平均値Vを有するパケットを送信する送信手段34と、パケットを受信する受信手段42と、受信したパケットの音声フレームを復号化してなるディジタル音声信号より算出した絶対値Aが最大値Mを越えた場合に標本点Sの量子化値Qを絶対値Aが平均値Vに等しくなるとともに差分の正負が等しくなる量子化値Q’に補正する異音対策処理手段45とを有する複数の端末装置2を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号線を介して音声信号を伝送する音声伝送システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、音声信号をパケットにより送信する音声送信端末装置と、受信した音声信号に基づいて音声を出力する音声受信端末装置とを備えた音声伝送システムが提供され、例えば、住戸の玄関に設置されたドアホン子器と、住戸内に設置された親機との間で信号線を介して音声信号を送受信するドアホンシステムや、携帯電話機やPHSなどを利用した音声通話システムなどに利用されている。
【0003】
このような音声伝送システムでは、伝送路(例えば、信号線)の伝送損失や外来ノイズなどにより伝送エラーが生じるおそれがある。伝送エラーが生じた場合には、音声送信端末装置が送信する音声信号と、音声受信端末装置が受信した音声信号とが異なってしまい、これによって、音声受信端末装置が出力する音声に異音が混ざってしまうという問題が生じるおそれがあった。
【0004】
そこで、音声送信端末装置から音声受信端末装置に音声信号を送信するにあたっては、例えば、音声信号を情報源符号化して得られた音声データをパケットにより複数回に分けて送信する際に、各パケットに巡回冗長検査(Cyclic Redundancy Check;CRC)などの誤り検出符号を持たせることで、音声受信端末装置にてパケットの音声データに対して誤り検出を行い、誤りが検出された音声データを復号して得られた音声信号を抑圧、例えば、音声信号の大幅に振幅を小さくしたり、0にしたりすることで、当該音声信号に相当する部分の音声を音声受信端末装置より出力させない、所謂ミューティング処理を行うことが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3183490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、音声受信端末装置が出力する音声に異音が混ざってしまうことを低減できる。しかしながら、上記のようなミューティング処理では、音声信号において誤っている箇所だけではなく、音声信号において誤っていない箇所を含む一定範囲の音声信号による音声が抑圧されることになる。そのため、特許文献1のようなミューティング処理では、異音の発生は抑制できるものの、音声伝送システムにおける音声の再現性が悪くなるおそれがあった。
【0006】
本発明は上述の点に鑑みて為されたもので、その目的は、伝送エラーによる異音の発生を抑制しつつも音声の再現性を向上できる音声伝送システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、請求項1の発明では、パケットにより音声信号を送信する音声送信端末装置と、受信した音声信号に基づいて音声を出力する音声受信端末装置とを備えた音声伝送システムであって、音声送信端末装置は、受波した音波を電気信号からなるアナログ音声信号に変換する音声入力手段より得られたアナログ音声信号を所定の標本周波数および量子化幅のディジタル音声信号に変換するA/D変換手段と、ディジタル音声信号の各標本点の量子化値を所定の形式で符号化して音声データを作成する符号化手段と、上記ディジタル音声信号の標本点の量子化値とその一つ前の標本点の量子化値との差分の絶対値を算出する第1差分演算手段と、符号化手段で作成された音声データを時間軸で分割した一音声フレームについて第1差分演算手段で算出された絶対値の最大値および絶対値の平均値を算出する補正基準値演算手段と、音声データの上記一音声フレームと当該一音声フレームについて補正基準値演算手段で算出された最大値および平均値とを有するパケットを作成して音声受信端末装置に送信する送信手段とを備え、音声受信端末装置は、送信手段が送信したパケットを受信する受信手段と、受信手段で受信したパケットが有する音声データの一音声フレームを復号化してディジタル音声信号を得る復号化手段と、復号化手段より得たディジタル音声信号に対して異音対策処理を行う異音対策処理手段と、異音対策処理手段による異音対策処理が行われたディジタル音声信号をアナログ音声信号に変換するD/A変換手段とを備え、異音対策処理手段は、ディジタル音声信号の標本点の量子化値とその一つ前の標本点の量子化値との差分の絶対値を算出する第2差分演算手段と、第2差分演算手段により算出された絶対値と受信したパケットが有する上記最大値とを比較する比較手段と、比較手段により一つ前の標本点の量子化値との差分の絶対値が上記最大値を越えたと判定された標本点の量子化値を、当該量子化値とその一つ前の標本点の量子化値との差分の絶対値がパケットの有する上記平均値に等しくなるとともに差分の正負が同じになる値に補正する補正手段とを備えていることを特徴とする。
【0008】
請求項1の発明によれば、復号化手段による復号後のディジタル音声信号の各標本点における量子化値を、その一つ前の標本点の量子化値との差分が、伝送エラーによる異音が発生していない元のディジタル音声信号において許容されている量子化値の差分の絶対値の最大値を越えない値に補正するので、復号後のディジタル音声信号において異音の発生の原因となるような量子化値の急激な変化を抑制できて、伝送エラーによる異音の発生を抑制でき、しかも、異音の原因となっている標本点についてのみ量子化値を補正するので、一定期間音声信号の振幅を大幅に低減したり0にしたりすることで音声を出力しない(ミュートする)ミューティング処理に比べれば、元のディジタル音声信号の波形が残るから、音声の再現性を向上できる。その上、補正手段は、補正対象の標本点における量子化値を、一つ前の標本点における量子化値との差分が、元のディジタル音声信号における量子化値の差分の絶対値の平均値となる値に補正するので、補正後の標本点における量子化値を、元のディジタル音声信号の標本点における量子化値(正しい量子化値)に近づけることができるから、音声の再現性のさらなる向上が図れる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、伝送エラーによる異音の発生を抑制しつつも音声の再現性を向上できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本実施形態の音声伝送システムは、図1(a)に示すように、伝送路となる信号線Lsを介してパケット(以下、「音声伝送用パケット」と称する)により音声信号を送受信する複数台の端末装置2と、信号線Lsにより各端末装置2に接続され、各端末装置2間の呼制御および音声伝送用パケットが格納される後述するタイムスロットTSi(i=1,2,…,n)を規定するための同期信号SYの送信を行う主装置1とを備えている。なお、端末装置2は、それぞれ固有の識別符号(ID)が付与されており、この識別符号によって各端末装置2が識別可能(信号線Lsより取り出す信号の選別が可能)となっている。また、信号線Lsとしては、ペア線などの平衡線路を用いることができるが、この例に限らず、同軸線のような不平衡線路や、エンハンストカテゴリ5あるいはカテゴリ6のLANケーブルの1ペアやCPEVケーブルの1ペアを利用してもよい。
【0011】
本実施形態における端末装置2は、図1(a)に示すように、受波した音波を電気信号からなるアナログ音声信号(図2(a)参照)に変換する音声入力手段であるマイクロホン20aと、マイクロホン20aの出力を増幅するマイクロホンアンプ20bと、入力された音声信号に基づいて音波を送波(音声を出力)する音声出力手段であるスピーカ21aと、スピーカ21aに入力される音声信号を増幅するスピーカアンプ21bとを備えている。なお、マイクロホン20aが出力する音声信号には音声以外の音も含まれるため、厳密な意味では音信号(音響信号)であるが、音声に注目して種々の信号処理を行うから、本実施形態では、音声信号と称する。
【0012】
また、端末装置2は、マイクロホン20aから得られたアナログ音声信号を音声伝送用パケットにより他の端末装置2に送信するための処理を行う送信処理手段3、および他の端末装置2より受信した音声伝送用パケットからアナログ音声信号を得るための処理を行う受信処理手段4とを有する信号処理手段22と、送信処理手段3より出力されるパケット信号(以下、「音声伝送信号」と称する)を増幅する送信アンプ23aと、受信処理手段4に入力される音声伝送信号を増幅する受信アンプ23bとを備えている。
【0013】
送信処理手段3は、図1(b)に示すように、マイクロホンアンプ20bで増幅されたアナログ音声信号を所定の標本周波数および量子化幅のディジタル音声信号に変換するA/D変換手段30と、ディジタル音声信号の各標本点の量子化値を所定の形式(方式)で符号化して音声データを作成する符号化手段31とを備えている。
【0014】
A/D変換手段30は、例えば、図2(a)に示すようなアナログ音声信号を、所定の標本周波数(サンプリング周波数ともいう)、例えば、44.1KHzで標本化して、図2(b)に示すように、標本点S(図示例ではS〜S10)におけるアナログ音声信号の強度を取得し、その後に各標本点Sにおける強度を所定の量子化幅で量子化して、標本点S毎に、例えば、0〜65535の16ビットの量子化値Qを得る(ただし、nは1以上の整数)。符号化手段31は、A/D変換手段30より得られたディジタル音声信号の標本点Sにおける量子化値Qを符号化する、すなわちビット列で表すことで、音声データを作成するものであり、その符号化の方法としては、ADPCM(Adaptive Differential Pulse Code Modulation)符号化を採用している。なお、ADPCM符号化の他に、PCM符号化や、APCM符号化、DPCM符号化などにより符号化を行うようにしてもよい。つまり、本実施形態の音声伝送システムでは、A/D変換手段30と符号化手段31とがアナログ音声信号を情報源符号化(Source Coding)する情報源符号化手段を構成している。
【0015】
また、送信処理手段3は、符号化手段31で作成された音声データを他の端末装置2に送信するために音声データを伝送路符号化(Channel Coding)して音声伝送用パケットを作成する伝送路符号化手段32と、伝送路符号化手段32で作成された音声伝送用パケットを、例えば、BPSK(Binary Phase Shift Keying)、QPSK(QuadraturePhase Shift Keying)、16QAM(Quadrature AmplitudeModulation)、64QAMなどにより変調して、信号線Lsに送出する音声伝送信号を作成する変調手段33とを備えており、伝送路符号化手段32と変調手段33とが、情報源符号化手段で作成された音声データを他の端末装置(すなわち音声受信端末装置として作用している端末装置)2に送信する送信手段34を構成している。
【0016】
さらに、送信処理手段3は、A/D変換手段30により得られたディジタル音声信号を標本点1つ分の時間だけ遅延させたディジタル音声信号、つまり標本点Sにおける量子化値点がQとなるディジタル音声信号に対して、標本点Sにおける量子化値がQk−1となるディジタル信号からなる遅延信号を得る遅延信号作成手段35と、A/D変換手段30により得られたディジタル音声信号と遅延信号作成手段35より得られた遅延信号とを用いてディジタル音声信号の標本点Sの量子化値Qとその一つ前の標本点Sk−1の量子化値Qk−1との差分Δ(=Q−Qk−1)の絶対値A(=|Δ|)を算出する第1差分演算手段36と、符号化手段31で作成された音声データを時間軸で分割した一音声フレーム(図2(a)に示す例では、所定期間Tにおける音声信号より作成された音声データの一部)について第1差分演算手段36で算出された絶対値Aの最大値Mおよび絶対値Aの平均値Vを算出する補正基準値演算手段37とを備えている(ただし、kは2以上の整数)。補正基準値演算手段37では、例えば、音声データの上記一音声フレームに標本点S〜S10が含まれている場合は、絶対値A〜A10よりその最大値Mが選択される。また、平均値Vは、最初の標本点をS、標本点の総数をmとすれば(l,mはいずれも整数)、(A+Al+1+…+Al+m−1)/mであるから、(A+A+A+A+A+A+A+A+A10)/9である。
【0017】
伝送路符号化手段32は、符号化手段31より得られた音声データを有する音声伝送用パケットを作成し、変調手段33に送出するものであって、例えば、ヘッダ部と、ヘッダ部の後ろに配置されたデータ部とを有する音声伝送用パケットを作成するように構成されている。ヘッダ部は、例えば、プリアンブル、送信元の端末装置2を示す識別符号(ID)、パケット種別、変調方式(変調手段33における変調方式、すなわち本実施形態では、BPSK、QPSK、16QAM、64QAMのいずれか)、およびデータ長(パケットのデータ長)が、プリアンブル、識別符号、パケット種別、変調方式、データ長の順に並べられてなるデータ列と、当該データ列の後に配置された上記データ列用の誤り検出符号とで構成される。一方、データ部は、符号化手段31より得られた音声データの上記一音声フレームと、当該一音声フレームについて補正基準値演算手段37で算出された最大値Mと、音声データおよび最大値M用の誤り検出符号とにより構成されている。本実施形態における端末装置2では、誤り検出方法としてCRCを利用しており、ヘッダ部およびデータ部それぞれにおける誤り検出符号は、CRCに対応する誤り検出符号(CRC符号)である。なお、その他の誤り検出方法を採用してもよいが、リアルタイムで通話を行うという要求がある以上、できるだけ冗長性の低い誤り検出符号を用いることが望ましい。
【0018】
このように本実施形態における送信手段34は、音声データの上記一音声フレームと当該一音声フレームについて補正基準値演算手段37で算出された最大値Mおよび平均値Vとを有するパケットを作成して他の端末装置2に送信する。
【0019】
受信処理手段4は、図1(c)に示すように、受信アンプ23bで増幅された音声伝送信号を復調して音声伝送用パケットを得る復調手段40と、復調手段40で得た音声伝送用パケットを伝送路復号化して音声データなどを取り出す伝送路復号化手段41とを備えており、復調手段40と、伝送路復号化手段41とが、他の端末装置(すなわち音声送信端末装置として作用している端末装置)2の送信手段が送信した音声伝送用パケットを受信する受信手段42を構成している。
【0020】
また、受信処理手段4は、伝送路復号化手段41で音声伝送用パケットから取り出された音声データの一音声フレームを復号化してディジタル音声信号を得る復号化手段43と、受信した音声データの一音声フレームに対して誤り検出を行う誤り検出手段44と、復号化手段43より得たディジタル音声信号に対して異音対策処理を行う異音対策処理手段45と、異音対策処理手段45による異音対策処理が行われたディジタル音声信号をアナログ音声信号に変換するD/A変換手段46とを備えている。
【0021】
誤り検出手段44は、復調手段40により得られた音声伝送用パケットのヘッダ部の誤り検出符号、およびデータ部の誤り検出符号それぞれを用いて、ヘッダ部およびデータ部の誤り検出を行い、その結果を、異音対策処理手段45に通知するように構成されている。なお、本実施形態では、上述したように誤り検出符号としてCRCに対応するものを利用しているから、誤り検出手段44ではCRCによる誤り検出が行われる。また、ヘッダ部に誤りが検出された際には、その音声伝送用パケットは破棄される。
【0022】
異音対策処理手段45は、遅延信号作成手段35と同様に、復号化手段43より得られたディジタル音声信号を標本点1つ分の時間だけ遅延させたディジタル音声信号、つまり標本点Sにおける量子化値点がQとなるディジタル音声信号に対して、標本点Sにおける量子化値がQk−1となるディジタル信号からなる遅延信号を得る遅延信号作成手段45aと、復号化手段43より得られたディジタル音声信号と遅延信号作成手段45aより得られた遅延信号とを用いてディジタル音声信号の標本点Sの量子化値Qとその一つ前の標本点Sk−1の量子化値Qk−1との差分Δ(=Q−Qk−1)の絶対値A(=|Δ|)を算出する第2差分演算手段45bと、伝送路復号化手段41で音声伝送用パケットより得た最大値Mおよび平均値Vを記憶する補正基準値保持手段45cとを備えている。
【0023】
また、異音対策処理手段45は、誤り検出手段44により音声伝送用パケットのデータ部に誤りが検出されたときに、第2差分演算手段45bにより算出された絶対値Aと、受信したパケットが有する最大値Mとを比較し、絶対値Aが最大値Mを越えた場合には補正信号を出力する比較手段45dと、比較手段45dの補正信号が入力されるとディジタル音声信号の補正を行う補正手段45eとを備えている。つまり、異音対策処理手段45は、受信した音声伝送用パケットのデータ部に誤りが検出されたとき(伝送エラーが生じたとき)に、ディジタル音声信号に対して補正を行い、音声伝送用パケットのデータ部に誤りが検出されなかったときには、ディジタル音声信号に対して補正を行わないようになっている。
【0024】
補正手段45eは、比較手段45dの補正信号が入力されると、比較手段45dにより一つ前の標本点Sk−1の量子化値Qk−1との差分Δの絶対値Aが上記最大値Mを越えたと判定された標本点S、つまり補正対象の標本点Sの量子化値Qを、当該量子化値Qとその一つ前の標本点Sk−1の量子化値Qk−1との差分Δの絶対値Aが平均値Vに等しくなるとともに差分Δの正負が反転しない値Q’(つまりQ>Qk−1であればQ’=Qk−1+V、Q<Qk−1であればQ’=Qk−1−V))に補正する。
【0025】
また、第2差分演算手段45bは、補正手段45eの補正によって標本点Sの量子化値QがQ’に補正された際には、次の標本点Sk+1における絶対値Ak+1を算出するにあたっては、遅延信号作成手段45aより得られた遅延信号の量子化値Qの代わりに、補正手段45eで補正された量子化値Q’を採用するようになっており、したがって、次の標本点Sk+1についての絶対値Ak+1は、|Qk+1−Q’|となり、その結果が、比較結果に出力される。
【0026】
このような異音対策処理手段45では、例えば、受信した音声伝送用パケットの音声フレームから復号化手段43により図3に示すような標本点S20〜S30からなるディジタル音声信号(図3ではアナログ音声信号に補間したものも図示している)が得られた場合には、最初に標本点S20に対する絶対値A20が算出されて最大値Mと比較され、その後は、順次、絶対値A21,A22,…が算出されて最大値Mと比較される。ここで、絶対値A20〜A24のいずれもがM以下であれば、各標本点S20〜S24それぞれにおける量子化値Q20〜Q24については補正手段45eによる補正は行われない。なお、音声フレームにおける最初の標本点S20に対する絶対値A20を算出するにあたっては、標本点S19の量子化値Q19が必要となるが、このような量子化値Q19は一つ前の音声フレーム(前回受信した音声伝送用パケットの音声フレーム)より得ればよい。
【0027】
一方、伝送エラーによって標本点S25の量子化値Q25が急激に大きくなっており、その絶対値A25がMを越えているとすると、標本点S25における量子化値Q25は、Q25>Q24であるから、図3に示すように、量子化値Q25から量子化値Q25’(=Q24+V)に補正される。この場合、次の標本点S26に対する絶対値A26は、|Q26−Q25’|となり、ここで絶対値A26<Mであるとすると、標本点S26における量子化値Q26に対しては補正が行われない。その次の標本点S27に対する絶対値A27は、直前の標本点S26における量子化値Q26が補正されなかったために、|Q27−Q26|となり、絶対値A27<Mであるとすると、標本点S27における量子化値Q27に対しても補正は行われず、以下、同様に、標本点S28〜S30それぞれに対する絶対値A28〜A30が算出され、いずれの絶対値A28〜A30もM以下であれば、各標本点S28〜S30それぞれにおける量子化値Q28〜Q30については補正手段45eによる補正は行われない。
【0028】
したがって、異音対策処理手段45の補正手段45eからは、標本点S21〜S30それぞれにおける量子化値がQ21〜Q30であるようなディジタル音声信号(図3において一部を破線で示すもの)の代わりに、標本点S21〜S30それぞれにおける量子化値がQ21〜Q24,Q25’,Q26〜Q30であるようなディジタル音声信号(図3において実線で示すもの)が出力される。異音対策処理手段45より出力されるディジタル音声信号では、標本点S25における量子化値がQ25からQ25’に補正され、これによって、異音の原因と考えられる標本点S25における量子化値の急激な変化が抑制されている。
【0029】
以上述べた異音対策処理手段45は、量子化値Qが急激に変化して異音の原因になると考えられる標本点Sを含む復号後のディジタル音声信号(つまり受信側となる端末装置2の復号化手段43で作成されたディジタル音声信号)を、量子化値Qの変化が元のディジタル音声信号(つまり送信側となる端末装置2のA/D変換手段30で作成されたディジタル音声信号)における量子化値Qの差分Δの絶対値Aの最大値Mを越えないディジタル音声信号に補正する。つまり、異音対策処理手段45では、復号後のディジタル音声信号の各標本点Sにおける量子化値Qを差分Δが、伝送エラーによる異音が発生していない元のディジタル音声信号における量子化値Qの差分Δの絶対値Aの最大値Mを越えないように補正することで、復号後のディジタル音声信号において異音の発生の原因となるような量子化値Qの急激な変化を抑制しており、この場合、異音の原因となっている標本点Sについてのみ量子化値Qをするから、一定期間音声信号の振幅を大幅に低減したり0にしたりすることで音声を出力しない(ミュートする)ミューティング処理に比べれば、元のディジタル音声信号の波形が残るので、音声の再現性を向上できる。
【0030】
しかも、補正手段45eは、差分Δの絶対値Aが最大値Mを越える標本点Sにおける量子化値Qを、一つ前の標本点Sにおける量子化値Qk−1との差分Δが、平均値Vとなる量子化値Q’に補正するので、補正後の標本点Sにおける量子化値Q’を、元のディジタル音声信号の標本点Sにおける量子化値Q(正しい量子化値Q)に近づけることができるから、音声の再現性のさらなる向上が図れる。
【0031】
ところで、端末装置2は、上記構成の他に、CPUを主構成要素とし信号処理手段22などを制御する制御手段24と、主装置1との間で信号線Lsを介して制御信号を送受信する制御信号送受信手段25と、送信アンプ23aから出力される音声伝送信号と制御信号送受信手段25から出力される制御信号を周波数分割多重化して信号線Lsに送出する機能(多重化機能)および信号線Lsから取り込まれた信号から音声伝送信号と制御信号を分離して音声伝送信号を受信アンプ23bに制御信号を制御信号送受信手段25にそれぞれ出力する機能(分離機能)を有する分離多重手段26とを備えている。
【0032】
また、端末装置2には、他の端末装置2を呼び出すための呼出釦からなる呼出手段(図示せず)と、他の端末装置2による呼び出しに応答するための応答釦からなる応答手段(図示せず)と、信号線Lsに接続されている全端末装置2を呼び出すための一斉呼出釦(図示せず)とが設けられている。なお、制御手段24および制御信号送受信手段25は後述する動作(図5および図6に示す動作)が行えるように構成されており、このような制御手段24および制御信号送受信手段25の構成は従来周知であるから詳細な説明を省略する。
【0033】
主装置1は、CPUを主構成要素とする制御手段10と、端末装置2との間で制御信号を送受信する制御信号送受信手段11と、制御手段10から与えられる後述の同期データを含むパケット(以下、「同期用パケット」と称する)を変調(例えば、BPSK、QPSK、16QAM、64QAMなどにより変調)して同期信号SYを生成する変調手段12と、変調手段12で生成された同期信号SYと制御信号送受信手段11から出力された制御信号とを周波数分割多重化して信号線Lsに送出する機能および信号線Lsから取り込まれた信号から制御信号を分離して制御信号送受信手段11に出力する分離多重手段13とを備えている。なお、制御手段10および制御信号送受信手段11は後述する動作(図5および図6に示す動作)が行えるように構成されており、このような制御手段10および制御信号送受信手段11の構成は従来周知であるから詳細な説明を省略する。
【0034】
ところで、同期用パケットは、例えば、ヘッダ部と、ヘッダ部の後ろに配置されたデータ部とを有している。ヘッダ部は、例えば、プリアンブル、パケット種別、変調方式(変調手段12における変調方式、すなわち本実施形態では、BPSK、QPSK、16QAM、64QAMのいずれか)、およびデータ長(同期用パケットのデータ長)が、プリアンブル、パケット種別、変調方式、データ長の順に並べられてなるデータ列と、当該データ列の後に配置された上記データ列用の誤り検出符号とで構成されている。データ部は、前述の実際は空である同期データと、当該同期データ用の誤り検出符号とで構成されている。
【0035】
主装置1並びに端末装置2においては、図4に示すように、同期信号SYの立ち下りから所定時間が経過した時点を先頭のタイムスロットTS1の開始時点とし、次の同期信号SYが立ち上がるまでの期間(信号送信期間)内に複数(n個)のタイムスロットTS1,TS2,…,TSnを配置している。つまり、端末装置2間では、時分割多重化アクセス(Time Division Multiplexing Access;TDMA)により音声信号の送受信が行われる。なお、本実施形態の音声伝送システムでは、信号送信期間内にn個のタイムスロットTSiを配置しているから、最大n/2台の端末装置2が1対1で音声信号を送受信できるようになっている。
【0036】
次に、本実施形態の伝送システムの動作、例えば、2台の端末装置2間で一対一の通話(個別通話)を行う場合の動作について図5を参照して説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて2台の端末装置2を区別するために、端末装置2を端末装置A、端末装置Bでそれぞれ表す。
【0037】
まず、端末装置Aにおいて、端末装置Bを呼び出すための呼出釦が操作されると、端末装置Aの制御手段24は、相手の端末装置Bを呼び出すための呼出(呼確立)要求データと、自己の識別符号(端末装置Aの識別符号)と、相手側の識別符号(端末装置Bの識別符号)とを含む制御データ(呼出要求用制御データ)を作成して制御信号送受信手段25に出力し、制御信号送受信手段25は、制御手段24より得た呼出要求用制御データを変調(例えば、BPSK、QPSK、16QAM、64QAMなどにより変調)して制御信号(呼出要求用制御信号)を生成し、分離多重手段26を介して信号線Lsに送出する(図5中矢印F1)。
【0038】
主装置1の制御信号送受信手段11は、信号線Lsを通じて上記呼出要求用制御信号を受信すると、当該呼出要求用制御信号に含まれる呼出要求データと、呼出元(要求元)の識別符号である端末装置Aの識別符号と、呼出先(要求先)の識別符号である端末装置Bの識別符号とを制御手段10に送り、制御手段10は、上記呼出先の識別符号を宛先とし上記呼出要求データを含む制御データ(呼出要求通知用制御データ)を作成して制御信号送受信手段11に出力する。制御信号送受信手段11は、制御手段10より得た呼出要求通知用制御データを変調して制御信号(呼出要求通知用制御信号)を生成し、分離多重手段13を介して信号線Lsに送出する(図5中矢印F2)。
【0039】
端末装置Bの制御信号送受信手段25は、信号線Lsを通じて上記呼出要求通知用制御信号を受信すると、当該呼出要求通知用制御信号に含まれる呼出要求データを制御手段24に送り、制御手段24は、スピーカ21aより報知音(呼出音)を鳴動させる。
【0040】
このようにして報知音(呼出音)が鳴動された後に、所定時間が経過する前に端末装置Bにおいて応答釦が操作されると、端末装置Bの制御手段24は、呼出元の端末装置Aと個別通話することを了解した旨の肯定応答データと自己の識別符号(端末装置Bの識別符号)とを含む制御データ(肯定応答用制御データ)を作成して制御信号送受信手段25に出力し、制御信号送受信手段25は、制御手段24より得た肯定応答用制御データを変調して制御信号(肯定応答用制御信号)を生成し、分離多重手段26を介して信号線Lsに送出する(図5中矢印F3)。
【0041】
主装置1の制御信号送受信手段11は、信号線Lsを通じて上記肯定応答用制御信号を受信すると、当該肯定応答用制御信号に含まれる肯定応答データと、呼出先(要求先)の識別符号である端末装置Bの識別符号とを制御手段10に送り、制御手段10は、呼出元の識別符号(端末装置Aの識別符号)を宛先とし呼出先より肯定応答データを得たことを示す呼確立通知データを含む制御データ(呼確立通知用制御データ)を作成して制御信号送受信手段11に出力する。制御信号送受信手段11は、制御手段10より得た呼確立通知用制御データを変調して制御信号(呼確立通知用制御信号)を生成し、分離多重手段13を介して信号線Lsに送出する(図5中矢印F4)。
【0042】
また、制御手段10は、制御データ(呼確立通知用制御データ)を作成した後には、呼出元の端末装置Aおよび呼出先の端末装置Bそれぞれに対してタイムスロットTSiを割り当て、その結果を通知するための制御データ(タイムスロット割り当て用制御データ)を作成して制御信号送受信手段11に出力する。制御信号送受信手段11は、制御手段10より得たタイムスロット割り当て用制御データを変調して制御信号(タイムスロット割り当て用制御信号)を生成し、分離多重手段13を介して信号線Lsに送出する(図5中矢印F5)。
【0043】
端末装置2の制御信号送受信手段25は、信号線Lsを通じて上記タイムスロット割り当て用制御信号を受信すると、当該タイムスロット割り当て用制御データを制御手段24に送り、制御手段24は、上記タイムスロット割り当て用制御データに基づいて、分離多重手段26の制御を行う。また、制御手段24は、マイクロホン20aや、マイクロホンアンプ20b、スピーカ21a、スピーカアンプ21b、信号処理手段22、送信アンプ23a、受信アンプ23bなどを起動する。
【0044】
その後に、例えば、呼出元の端末装置Aのマイクロホン20aに音声が入力されると、マイクロホン20aは上記音声を元にアナログ音声信号を作成してマイクロホンアンプ20bに出力し、マイクロホンアンプ20bはアナログ音声信号を増幅して信号処理手段22の送信処理手段3に出力する。送信処理手段3では、上述したように音声伝送信号を作成して送信アンプ23aに出力する。送信アンプ23aは、送信処理手段3が出力した音声伝送信号を増幅して分離多重手段26に出力する。
【0045】
分離多重手段26は、同期信号SYを受信すると(図5中矢印F6)、予め割り当てられたタイムスロットTSiに合わせて音声伝送信号を信号線Lsに送出する。
【0046】
一方、呼出先の端末装置Bの分離多重手段26は、送信元が端末装置Aである音声伝送信号を受信すると、当該音声伝送信号を受信アンプ23bに出力し、受信アンプ23bは音声伝送信号を増幅して信号処理手段22の受信処理手段4に出力し、受信処理手段4では上述したようにアナログ音声信号を出力し、受信処理手段4が出力したアナログ音声信号はスピーカアンプ21bにて増幅された後にスピーカ21aに入力され、スピーカ21aは入力されたアナログ音声信号に基づいて音声の出力を行う。
【0047】
上述の動作は呼出先の端末装置Bより呼出元の端末装置Aに音声信号が送信される場合にあっても同様であり、2台の端末装置A,Bは互いに別のタイムスロットTSiを使用して音声信号の送受信を行い、これによって端末装置A,B間の個別通話が行われる。
【0048】
次に、本実施形態の伝送システムの動作、例えば、3台の端末装置2間で多対多の通話(一斉通話)を行う場合の動作について図6を参照して説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて3台の端末装置2を区別するために、端末装置2を端末装置A、端末装置B、端末装置Cでそれぞれ表す。
【0049】
まず、端末装置Aにおいて、信号線Lsに接続されている全端末装置2を呼び出すための一斉呼出釦が操作されると、端末装置Aの制御手段24は、他の端末装置B,Cを一斉に呼び出すための一斉呼出要求データと、自己の識別符号(端末装置Aの識別符号)とを含む制御データ(一斉呼出要求用制御データ)を作成して制御信号送受信手段25に出力し、制御信号送受信手段25は、制御手段24より得た一斉呼出要求用制御データを変調して制御信号(一斉呼出要求用制御信号)を生成し、分離多重手段26を介して信号線Lsに送出する(図6中矢印G1)。
【0050】
主装置1の制御信号送受信手段11は、信号線Lsを通じて上記一斉呼出要求用制御信号を受信すると、当該一斉呼出要求用制御信号に含まれる一斉呼出要求データと、呼出元(要求元)の識別符号である端末装置Aの識別符号とを制御手段10に送り、制御手段10は、呼出先の識別符号それぞれを宛先とし上記一斉呼出要求データを含む制御データ(一斉呼出要求通知用制御データ)、すなわち端末装置Bを宛先とする一斉呼出要求通知用制御データと、端末装置Cを宛先とする一斉呼出要求通知用制御データとを作成して、制御信号送受信手段11に出力する。制御信号送受信手段11は、制御手段10より得た一斉呼出要求通知用制御データそれぞれを変調して制御信号(一斉呼出要求通知用制御信号)を生成し、分離多重手段13を介して信号線Lsに送出する(図6中矢印G2,G3)。
【0051】
一斉呼出先の端末装置B,Cそれぞれの制御信号送受信手段25は、信号線Lsを通じて上記一斉呼出要求通知用制御信号を受信すると、当該一斉呼出要求通知用制御信号に含まれる一斉呼出要求データを制御手段24に送り、制御手段24は、スピーカ21aより報知音(呼出音)を鳴動させる。このようにして報知音(呼出音)が鳴動された後に、所定時間が経過する前に端末装置B,Cにおいて応答釦が操作されると、端末装置B,Cの制御手段24は、一斉呼出元の端末装置Aと個別通話することを了解した旨の肯定応答データと自己の識別符号(端末装置B,Cの識別符号)とを含む制御データ(肯定応答用制御データ)を作成して制御信号送受信手段25に出力し、制御信号送受信手段25は、制御手段24より得た肯定応答用制御データを変調して制御信号(肯定応答用制御信号)を生成し、分離多重手段26を介して信号線Lsに送出する(図6中矢印G4,G5)。
【0052】
主装置1の制御信号送受信手段11は、信号線Lsを通じて端末装置B,Cそれぞれから上記肯定応答用制御信号を受信すると、当該肯定応答用制御信号に含まれる肯定応答データと、一斉呼出先(要求先)の識別符号である端末装置B,Cの識別符号とを制御手段10に送り、制御手段10は、一斉呼出元の識別符号(端末装置Aの識別符号)を宛先とし呼出先より肯定応答データを得たことを示す呼確立通知データを含む制御データ(呼確立通知用制御データ)を作成して制御信号送受信手段11に出力する。制御信号送受信手段11は、制御手段10より得た呼確立通知用制御データを変調して制御信号(呼確立通知用制御信号)を生成し、分離多重手段13を介して信号線Lsに送出する(図6中矢印G6)。
【0053】
また、制御手段10は、制御データ(呼確立通知用制御データ)を作成した後には、端末装置A,B,Cそれぞれに対してタイムスロットTSiを割り当て、その結果を通知するための制御データ(タイムスロット割り当て用制御データ)を作成して制御信号送受信手段11に出力する。制御信号送受信手段11は、制御手段10より得たタイムスロット割り当て用制御データを変調して制御信号(タイムスロット割り当て用制御信号)を生成し、分離多重手段13を介して信号線Lsに送出する(図6中矢印G7)。
【0054】
端末装置2の制御信号送受信手段25は、信号線Lsを通じて上記タイムスロット割り当て用制御信号を受信すると、当該タイムスロット割り当て用制御データを制御手段24に送り、制御手段24は、上記タイムスロット割り当て用制御データに基づいて、分離多重手段26の制御を行う。また、制御手段24は、マイクロホン20aや、マイクロホンアンプ20b、スピーカ21a、スピーカアンプ21b、信号処理手段22、送信アンプ23a、受信アンプ23bなどを起動する。
【0055】
その後に、例えば、呼出元の端末装置Aのマイクロホン20aに音声が入力されると、マイクロホン20aは上記音声を元にアナログ音声信号を作成してマイクロホンアンプ20bに出力し、マイクロホンアンプ20bはアナログ音声信号を増幅して信号処理手段22の送信処理手段3に出力する。送信処理手段3では、上述したように音声伝送信号を作成して送信アンプ23aに出力する。送信アンプ23aは、送信処理手段3が出力した音声伝送信号を増幅して分離多重手段26に出力する。
【0056】
分離多重手段26は、同期信号SYを受信すると(図6中矢印G8)、予め割り当てられたタイムスロットTSiに合わせて音声伝送信号を信号線Lsに送出する。
【0057】
一方、一斉呼出先の端末装置B,Cそれぞれの分離多重手段26において、送信元が端末装置Aである音声伝送信号を受信されると、当該音声伝送信号は、受信アンプ23bを経て受信処理手段4に送られ、受信処理手段4は上述したようにアナログ音声信号を出力し、受信処理手段4が出力したアナログ音声信号はスピーカアンプ21bにて増幅された後にスピーカ21aに入力され、スピーカ21aは入力されたアナログ音声信号に基づいて音声の出力を行う。
【0058】
上述の動作は端末装置Bが音声信号を送信する場合や、端末装置Cが音声信号を送信する場合であっても同様であり、3台の端末装置A,B,Cは互いに別のタイムスロットTSiを使用して音声信号の送受信を行い、これによって端末装置A,B,C間の一斉通話が行われる。
【0059】
ところで、以上の説明では、端末装置B,Cそれぞれは、一斉呼出要求通知用制御信号を受信した際に、報知音を鳴動させ、その後に応答釦が操作されることで、肯定応答用制御信号を信号線Lsに送出する送信するようになっており、応答釦が操作されることで、端末装置A,B,C間の通話が可能となっているが、このような応答釦の操作を省略した構成としてもよい。上記の例でいえば、端末装置B,Cそれぞれは、一斉呼出要求通知用制御信号を受信した際に、報知音を鳴動させることなく、一定時間、音声の入出力が行えるように、信号処理手段22などを起動するようにしてもよい。なお、上記一定時間は、音声伝送信号の受信時に延長される。
【0060】
この場合、図6に矢印G4,G5で示す肯定応答、および矢印G6で示す呼確立通知が省略され、主装置1より矢印G2,G3で示す一斉呼出要求通知が行われた後は、矢印G7で示すタイムスロットの割り当て通知が行われることになる。なお、上記のように応答釦の操作を省略する構成は、図5に示す例にも採用でき、この場合、矢印F3で示す肯定応答、矢印F4で示す呼確立通知が省略される。
【0061】
以上述べた本実施形態の音声伝送システムによれば、復号後のディジタル音声信号の各標本点Sにおける量子化値Qを差分Δが、伝送エラーによる異音が発生していない元のディジタル音声信号において許容されている(つまり、異音が発生しないと考えられる)量子化値Qの差分Δの絶対値Aの最大値Mを越えないように補正することで、復号後のディジタル音声信号において異音の発生の原因となるような量子化値Qの急激な変化を抑制するので、伝送エラーによる異音の発生を抑制でき、その上、異音の原因となっている標本点Sについてのみ量子化値Qを補正するから、一定期間音声信号の振幅を大幅に低減したり0にしたりすることで音声を出力しない(ミュートする)ミューティング処理に比べれば、元のディジタル音声信号の波形が残るので、音声の再現性を向上できる。
【0062】
しかも、補正手段45eは、差分Δの絶対値Aが最大値Mを越える標本点Sにおける量子化値Qを、一つ前の標本点Sにおける量子化値Qk−1との差分Δが、平均値Vとなる量子化値Q’に補正するので、補正後の標本点Sにおける量子化値Q’を、元のディジタル音声信号の標本点Sにおける量子化値Q(正しい量子化値Q)に近づけることができるから、音声の再現性のさらなる向上が図れる。
【0063】
ところで、本実施形態における端末装置2は、信号処理手段22が送信処理手段3と受信処理手段4とを有していることにより、マイクロホン20aが入力された音声を元に出力する音声信号を音声データに変換して音声伝送用パケットにより送信する音声送信端末装置としての機能と、受信した音声伝送用パケットに含まれる音声データより得た音声信号に基づいてスピーカ21aに音声を出力させる音声受信端末装置としての機能との両方の機能を有している。なお、端末装置2の構成は、上記の構成に限定されるものではなく、音声送信端末装置としての機能のみを有しているものであってもよいし、音声受信端末装置としての機能のみを有しているものであってもよく、要は、信号線Lsで接続された端末装置2のなかに、音声送信端末装置としての機能を有する端末装置2の他に、音声受信端末装置としての機能を有する端末装置2が存在していればよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】(a)は本発明の一実施形態の音声伝送システムのブロック図、(b)は送信処理手段のブロック図、(c)は受信処理手段のブロック図である。
【図2】(a)はアナログ音声信号の説明図、(b)はディジタル音声信号の説明図である。
【図3】同上における補正方法の説明図である。
【図4】同上における同期信号およびタイムスロットのタイムチャートである。
【図5】同上における動作説明図である。
【図6】同上における動作説明図である。
【符号の説明】
【0065】
2 端末装置(音声送信端末装置、音声受信端末装置)
20a マイクロホン(音声入力手段)
30 A/D変換手段
31 符号化手段
34 送信手段
36 第1差分演算手段
37 補正基準値演算手段
42 受信手段
43 復号化手段
45 異音対策処理手段
45b 第2差分演算手段
45d 比較手段
45e 補正手段
46 D/A変換手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パケットにより音声信号を送信する音声送信端末装置と、受信した音声信号に基づいて音声を出力する音声受信端末装置とを備えた音声伝送システムであって、
音声送信端末装置は、受波した音波を電気信号からなるアナログ音声信号に変換する音声入力手段より得られたアナログ音声信号を所定の標本周波数および量子化幅のディジタル音声信号に変換するA/D変換手段と、ディジタル音声信号の各標本点の量子化値を所定の形式で符号化して音声データを作成する符号化手段と、上記ディジタル音声信号の標本点の量子化値とその一つ前の標本点の量子化値との差分の絶対値を算出する第1差分演算手段と、符号化手段で作成された音声データを時間軸で分割した一音声フレームについて第1差分演算手段で算出された絶対値の最大値および絶対値の平均値を算出する補正基準値演算手段と、音声データの上記一音声フレームと当該一音声フレームについて補正基準値演算手段で算出された最大値および平均値とを有するパケットを作成して音声受信端末装置に送信する送信手段とを備え、
音声受信端末装置は、送信手段が送信したパケットを受信する受信手段と、受信手段で受信したパケットが有する音声データの一音声フレームを復号化してディジタル音声信号を得る復号化手段と、復号化手段より得たディジタル音声信号に対して異音対策処理を行う異音対策処理手段と、異音対策処理手段による異音対策処理が行われたディジタル音声信号をアナログ音声信号に変換するD/A変換手段とを備え、
異音対策処理手段は、ディジタル音声信号の標本点の量子化値とその一つ前の標本点の量子化値との差分の絶対値を算出する第2差分演算手段と、第2差分演算手段により算出された絶対値と受信したパケットが有する上記最大値とを比較する比較手段と、比較手段により一つ前の標本点の量子化値との差分の絶対値が上記最大値を越えたと判定された標本点の量子化値を、当該量子化値とその一つ前の標本点の量子化値との差分の絶対値がパケットの有する上記平均値に等しくなるとともに差分の正負が同じになる値に補正する補正手段とを備えていることを特徴とする音声伝送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−292961(P2008−292961A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141129(P2007−141129)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)