説明

音声再生装置、及びその制御方法

【課題】音声信号再生時の信号処理のための頭部伝達関数を、音声信号取得時の音声記録装置の状態に応じて変化させる。
【解決手段】本発明の音声再生装置は、とりわけ、第1取得手段で取得した1以上のマイクロフォンそれぞれの角度及び増幅度に基づいて決定される前記1以上のマイクロフォンそれぞれの仮想的な収音位置の、前記基準位置に対する相対位置を算出する算出手段であって、前記仮想的な収音位置は、前記基準軸に対して前記角度を有して前記原点から延びる軸上の、前記増幅度が大きいほど前記原点から遠く前記増幅度が小さいほど前記原点から近い位置として決定される、算出手段と、前記算出手段で算出した前記1以上のマイクロフォンそれぞれの相対位置に対応する頭部伝達関数を取得する第2取得手段と、前記第2取得手段で取得した頭部伝達関数を用いて、前記第1取得手段で取得した1以上の音声信号から擬似サラウンド化された音声信号を生成する生成手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声再生装置、及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、複数の無指向性マイクロフォンで取得した音声信号からステレオ音声信号を生成する技術が知られている。また、映像音声記録装置(例えば、ビデオカメラ)による映像撮影時に取得された音声信号からステレオ音声信号を生成する場合に、ズーム状態に応じて各音声信号の増幅度を変化させることにより、ステレオ音声信号の指向特性を変化させる技術が知られている。例えば特許文献1には、ズーム倍率が高い場合に、左右に配置されたマイクロフォンよりも中央前方に配置されたマイクロフォンで取得した音声信号の増幅度を大きくすることにより、前方方向の指向性を強めることが記載されている。
【0003】
また、音声信号再生時の臨場感を高めるための技術として、擬似サラウンド音声信号処理技術が知られている。擬似サラウンド音声信号処理は一般的に、頭部伝達関数を用いた演算処理及びクロストークキャンセルにより実現される。頭部伝達関数は、音声の収音位置と音声の聴取位置との位置関係に応じて定まるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−326990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ビデオカメラのズーム状態を変化させたり、マイクロフォンの増幅度を変化させたりすることを、音声の聴取位置を仮想的に変化させることと同じことと見なすこともできるが、従来、そのような発想は存在しなかった。従って、擬似サラウンド音声信号処理のための頭部伝達関数をビデオカメラのズーム状態やマイクロフォンの増幅度に応じて変化させるという発想も従来は存在しなかった。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、音声信号再生時の信号処理のための頭部伝達関数を、音声信号取得時の音声記録装置の状態に応じて変化させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、第1の本発明は、1以上のマイクロフォンを含む音声入力部を備える音声記録装置が当該1以上のマイクロフォンを用いて記録した1以上の音声信号と、前記音声入力部の所定の位置を原点として一方向に延びる基準軸に対する前記1以上のマイクロフォンそれぞれの設置位置の角度と、前記音声記録装置による前記1以上の音声信号の記録時の前記1以上のマイクロフォンそれぞれの音声信号の増幅度と、を取得する第1取得手段と、前記基準軸上の基準位置を決定する決定手段と、前記第1取得手段で取得した前記1以上のマイクロフォンそれぞれの角度及び増幅度に基づいて決定される前記1以上のマイクロフォンそれぞれの仮想的な収音位置の、前記基準位置に対する相対位置を算出する算出手段であって、前記仮想的な収音位置は、前記基準軸に対して前記角度を有して前記原点から延びる軸上の、前記増幅度が大きいほど前記原点から遠く前記増幅度が小さいほど前記原点から近い位置として決定される、算出手段と、前記算出手段で算出した前記1以上のマイクロフォンそれぞれの相対位置に対応する頭部伝達関数を取得する第2取得手段と、前記第2取得手段で取得した頭部伝達関数を用いて、前記第1取得手段で取得した前記1以上の音声信号から擬似サラウンド化された音声信号を生成する生成手段と、を備えることを特徴とする音声再生装置を提供する。
【0008】
なお、その他の本発明の特徴は、添付図面及び以下の発明を実施するための形態における記載によって更に明らかになるものである。
【発明の効果】
【0009】
以上の構成により、本発明によれば、音声信号再生時の信号処理のための頭部伝達関数を、音声信号取得時の音声記録装置の状態に応じて変化させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1に係る音声再生装置200の構成を示すブロック図
【図2】実施例1におけるマイクロフォンの配置例、仮想聴取位置、及び収音位置の例を示す図
【図3】実施例1において、音声記録装置100内の制御部16、及び音声再生装置200内の制御部25が実行する音声信号再生処理を示すフローチャート
【図4】記録されている頭部伝達関数の選択候補、及びそこからの選択を説明する図
【図5】実施例1に係る擬似サラウンド音声信号処理を説明する図
【図6】実施例2に係る音声再生装置700の構成を示すブロック図
【図7】実施例2において、音声記録装置600内の制御部16、及び音声再生装置700内の制御部25が実行する映像音声信号再生処理を示すフローチャート
【図8】実施例2におけるマイクロフォンの配置例、仮想聴取位置、及び収音位置の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態について説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、実施例1に係る音声再生装置200の構成を示すブロック図である。音声再生装置200は、例えば、音声再生機能を有するパーソナルコンピューターやクレードルなどに適用可能である。音声再生装置200は、音声記録装置100から音声信号等を取得する。音声記録装置100は、マイクロフォンなどを用いて音声を収音し、音源が発する音声を音声信号としてHDDなどの磁気デバイスや、SSDなどの半導体デバイスなどの記録媒体に記録する。音声記録装置100は、例えば、ICレコーダやPDA、音声録音機能付携帯電話などに適用可能である。
【0013】
以下、音声記録装置100、及び音声再生装置200について具体的に説明する。音声記録装置100は、音声入力部10、指向性処理部11、指向性設定部12、記録部13、音声信号出力部14、指向性情報送信部15、及び制御部16を備える。また、音声再生装置200は、音声信号入力部20、指向性情報受信部21、頭部伝達関数設定部22、音声信号処理部23、音声再生部24、及び制御部25を備える。音声信号入力部20及び指向性情報受信部21は、第1取得手段として機能する。
【0014】
音声入力部10は、1以上の無指向性マイクロフォンを備え、音声記録装置100周辺の音声を収音し、音声信号として後段の指向性処理部11へ供給する。マイクロフォンの個数は、指向性処理部11にて行う指向性信号処理の内容に応じて適宜決定される。一例として、図2に示すように音声入力部10は5つのマイクロフォンを備える。各マイクロフォンは、原点から一方向(音声記録装置100の前方方向)に延びる基準軸Rに対して一定の角度を持って配置される。
【0015】
指向性処理部11は、音声入力部10から受信した音声信号に対して指向性信号処理(特に、各マイクロフォンから受信した音声信号の増幅処理)を行う。指向性信号処理は、指向性設定部12から指示された指向性情報に基づいて行われる。指向性信号処理は、無指向性マイクロフォンが収音した音声信号に対し、指向性設定部12にて設定された指向性情報に応じて所定の係数を乗算及び加算して生成して行うものとする。係数はマイクロフォンの個数や配置等から周知技術によって予め算出するものとする。
【0016】
指向性設定部12は、音声信号に対して指向性信号処理を行うために必要な指向性情報の設定を行う。指向性情報には、各マイクロフォンの音声信号に対する増幅度、及び指向性信号処理後の音声信号チャンネル数が含まれる。指向性設定部12は、指向性情報を予め定められた単位時間ごとに設定し、音声信号に付随するメタ情報として記録部13へ記録する。また、指向性情報の設定変更指示をユーザが手動で行ってもよいし、指向性設定部12が音源に追従して自動で指向性情報の設定を変更してもよい。
【0017】
記録部13は、HDDなどの磁気デバイスやSSDなどの半導体デバイスなどを含み、指向性処理部11にて指向性信号処理を行った音声信号と単位時間毎の指向性情報とを記録する。
【0018】
音声信号出力部14は、記録部13に記録されている音声信号を音声再生装置200内の音声信号入力部20へ供給する。音声信号は例えば、HDMI、IEEE1394、光伝送などのデジタル信号伝送、又はアナログ信号伝送などが用いて伝送される。
【0019】
指向性情報送信部15は、指向性設定部12で設定され記録部13に記録された指向性情報を、音声再生装置200内の指向性情報受信部21へ供給する。指向性情報は例えば、HDMI又はIEEE1394などを用いて音声信号とともに伝送される。或いは、音声記録装置100と音声再生装置200とがアナログ信号伝送によって接続されている場合、メタ情報を伝送するための専用線を用いて指向性情報が伝送されてもよい。
【0020】
制御部16は、音声記録装置100の動作を中央制御する。具体的には制御部16は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、及びROM(Read Only Memory)などを有する。制御部16は、ユーザが操作部(不図示)に対して行った操作に対応する操作信号に従って、音声信号記録操作、指向性情報変更操作、及び音声信号出力操作などを行うための制御信号を各構成部へ供給する。
【0021】
次に、音声再生装置200について説明する。音声信号入力部20は、音声記録装置100内の音声信号出力部14から供給された音声信号を受信する。指向性情報受信部21は、音声記録装置100内の指向性情報送信部15から供給された指向性情報を受信する。
【0022】
頭部伝達関数設定部22は、指向性情報受信部21が受信した指向性情報に基づき、メモリ(不図示)に予め記録されている頭部伝達関数の中から最適な頭部伝達関数を選択し、音声信号処理部23へ供給する。
【0023】
音声信号処理部23は、頭部伝達関数設定部22から供給された頭部伝達関数を乗算することにより、擬似サラウンド音声信号処理を行う。ここで、擬似サラウンド音声信号処理にはクロストークキャンセル信号処理も含まれてもよい。擬似サラウンド音声信号処理後の音声信号は、音声再生部24へ供給される。
【0024】
音声再生部24は、音声信号処理部23から供給された音声信号を音声として出力するための増幅部とスピーカとを含む。音声再生部24は、音声信号を増幅部で増幅したのち、スピーカから音声として出力する。
【0025】
制御部25は、音声再生装置200の動作を中央制御する。制御部25は、ユーザの操作に基づく操作信号に従って、音声信号の再生操作、及び擬似サラウンド音声信号処理設定操作などを行うための制御信号を各構成部へ供給する。
【0026】
次に、音声記録装置100内の制御部16、及び音声再生装置200内の制御部25が実行する音声信号再生処理について、図3のフローチャートを参照して説明する。本フローチャートの処理は、制御部16及び制御部25が制御プログラムを実行することにより実現される。
【0027】
S300で、制御部25は、ユーザからの音声再生開始指示に従い、音声記録装置100の制御部16へ音声信号の出力を指示する。この指示により音声信号出力部14は、音声信号入力部20へ音声信号を供給する。ここで、ユーザは、音声再生開始指示を音声記録装置100に対して直接行ってもよい。音声信号入力部20へ供給された音声信号は、後段の音声信号処理部23へ送られる。
【0028】
S301で、制御部25は、音声記録装置100に対して、指向性情報の出力を指示する。この指示により指向性情報送信部15は、指向性情報受信部21へ指向性情報を供給する。指向性情報受信部21は指向性情報を単位時間ごとに読み込む。ここでは読み込んだ時刻tにおける指向性情報をM(t)と表記することとする。
【0029】
S302で、制御部25は、時刻tにおける指向性情報M(t)が直前の指向性情報M(t−1)から変化したか否かを判定する。なお、t=0では直前の指向性情報が無いため、制御部25は、「指向性情報が変化した」と判断する。指向性情報が変化した場合、処理はS303に進み、そうでない場合、処理はS306に進む。
【0030】
S303で、制御部25は、指向性情報の詳細解析を行う。指向性情報には、音声信号記録時の各マイクロフォンの増幅度、各マイクロフォンの設置位置の基準軸Rに対する角度、及び音声信号チャンネル数などの情報が含まれる。
【0031】
S304で、制御部25は、決定手段、算出手段、及び第2取得手段として機能し、詳細解析した指向性情報を基にメモリ(不図示)内から最適な頭部伝達関数を選択する。頭部伝達関数は、音声信号記録時に想定される指向性状態を基に予め測定又はシミュレーション等で算出したものをテーブル化し、音声再生装置200内のメモリに保存されている。なお、頭部伝達関数は、音声再生装置200と接続しうる音声記録装置100における指向性制御仕様に従って測定又は算出される。
【0032】
ここで、頭部伝達関数の選択に関する基本的な考え方を説明する。図2に示すように、基準軸Rに対する角度が0度であるマイクロフォン1を、基準マイクロフォンとして使用する。基準マイクロフォンの増幅度が高い場合は、より遠方の音源から音声を収音可能であるため、基準軸R上で基準マイクロフォンから離れた位置(図2においては、基準位置P)を、音声の仮想的な聴取位置(基準位置)とする。反対に、基準マイクロフォンの増幅度が低い場合は、基準軸R上で基準マイクロフォンに近い位置を、仮想的な聴取位置とする。また、基準マイクロフォン以外のマイクロフォンについては、各マイクロフォンの角度だけ基準軸Rから回転した方向に、増幅度に応じた距離だけ離れた位置(図2においては、位置A)の音声を収音しているものと見なす。図2の例では、基準位置Pは、原点から距離Lhighだけ離れた基準軸R上の点である。また、位置Aは、基準軸Rから角度θだけ回転した方向に、原点から距離Llowだけ離れた点である。
【0033】
マイクロフォン2が収音した音声は、基準位置Pにおいて位置Aから聴こえる音声として認識可能なように処理される。基準位置Pに対する位置Aの相対位置は、図2に示すように、角度θ及び距離Lによって表される。角度θ及び距離Lは、下記の式(1)及び式(2)に従って算出される。
【0034】
【数1】

【0035】
【数2】

【0036】
頭部伝達関数の選択候補は、図4に示すように、基準位置Pに対する相対位置ごとにメモリ内に記録されている。基準軸の右側の各位置における頭部伝達関数については、左耳用の値と右耳用の値とが逆転するだけであるため、記録の必要がない(従って、図示も省略している)。図4において、式(1)及び式(2)に基づいて算出された角度θ及び距離Lに対応する位置はH5であり、この位置に対応して記録されている頭部伝達関数が、マイクロフォン2のための頭部伝達関数(左耳用はH5LL、右耳用はH5LR)として選択される。他のマイクロフォンについては、マイクロフォン2と同様であるため、説明を省略する。
【0037】
図3に戻り、S305で、制御部25は頭部伝達関数設定部22に対して、S304で選択した頭部伝達関数を音声信号処理部23に設定するように指示する。
【0038】
S306で、生成手段としての音声信号処理部23は、S305で設定された頭部伝達関数を用いて擬似サラウンド音声信号処理を実行し、擬似サラウンド化された音声信号を音声再生部24へ出力する。
【0039】
ここで、図5を参照して擬似サラウンド音声信号処理を説明する。時刻tにおける左チャンネル音声信号(基準軸Rの左側のマイクロフォンで取得した音声信号)をSinL(t)とし、時刻tにおける右チャンネル音声信号(基準軸Rの右側のマイクロフォンで取得した音声信号)をSinR(t)とする。また、時刻tにおける中央チャンネル(基準軸R上のマイクロフォンで取得した音声信号)をSinC(t)とする。例えば、マイクロフォン2に対応するSin(t)に対しては、左耳用にH5LLを、右耳用にH5LRをそれぞれ乗じる。これにより、左耳用の出力音声信号SoutL(t)及び右耳用の出力音声信号SoutR(t)が得られる。また、頭部伝達関数の乗算後に、クロストークキャンセル信号処理が行われてもよい。図5には、頭部伝達関数としてH5LL、H5LR、H5RL、及びH5RRを例示したが、これらは実際には、図4を参照して説明したように各マイクロフォンの角度及び増幅度に応じて変化する。
【0040】
図3に戻り、S307で、制御部25は、ユーザから音声再生停止指示を受信したか否かを判定する。音声再生停止指示を受信した場合、本フローチャートの処理は終了する。音声再生停止指示を受信していない場合、S308において制御部25は再生時刻Tを更新し、S302からの処理を繰り返す。
【0041】
以上説明したように、本実施例によれば、音声再生装置200は、各マイクロフォンの角度及び増幅度に応じた頭部伝達関数を用いて擬似サラウンド音声信号処理を行う。これにより、ユーザは、音声再生時により高い臨場感を味わうことができる。
【実施例2】
【0042】
実施例2では、音声記録装置としてビデオカメラなどの映像音声記録装置(映像撮影機能を持つ音声記録装置)を利用する場合について説明する。実施例1では基準軸上のマイクロフォンの増幅度を利用して基準位置を決定したが、実施例2では、映像音声記録装置による映像撮影時の被写体の位置を基準位置とする。被写体の位置は、例えば、ビデオカメラのズーム距離及びフォーカス距離に基づいて算出可能である。
【0043】
図6は、実施例2に係る音声再生装置700の構成を示すブロック図である。音声再生装置700は、音声記録装置600から音声信号等を取得する。図6において、図1と同一又は同様の機能を持つブロックには同一の符号を付し、説明を省略する。音声再生装置700は、例えば、テレビなどに適用可能である。音声記録装置100は、例えば、ビデオカメラなどに適用可能である。
【0044】
音声記録装置600内の映像入力部67は、映像撮像部及び信号処理部を含む。映像撮像部へ入力された映像は信号処理部にて映像信号に変換され、後段の記録部13へ供給される。また、映像入力部67は、制御部16の指示に応じて映像撮像部を制御する。具体的には、映像の拡大及び縮小を行うズーム制御や、被写体にフォーカスを合わせるフォーカス制御などが行われる。また、映像撮像部から被写体までの距離は、ズーム制御信号及びフォーカス制御信号の設定値に応じた値を持つテーブルとして、音声記録装置600内のメモリ(不図示)に予め保持されている。
【0045】
なお、実施例2において、指向性設定部12が出力する指向性情報は、映像撮像部のズーム操作情報、及びフォーカス操作情報に基づいて決定するようにしてもよい。また、指向性情報の設定変更指示をユーザが手動で行ってもよいし、被写体に追従したズーム操作による焦点距離や、フォーカシング位置に関する情報などに基づいて、指向性設定部12が音源に追従して自動で指向性情報の設定を変更してもよい。
【0046】
映像信号出力部68は、記録部13に記録されている映像信号を音声再生装置700へ出力する。映像信号は、例えば、HDMI、IEEE1394などを用いたデジタル信号伝送、又はアナログ信号伝送などによって伝送可能である。
【0047】
音声再生装置700内の映像信号入力部76は、音声記録装置600内の映像信号出力部68から出力された映像信号を受信する。映像信号処理部77は、映像信号入力部76から受信した映像信号に対し、高画質処理や画角変更処理などの映像信号に関する信号処理を行う。映像信号処理部77にて画角変更処理が行われた場合は、画角変更内容に応じて音声の指向性設定を行ってもよい。この場合、指向性情報受信部21が受信した指向性情報ではなく、画角変更処理に応じて決定された指向性情報に基づいて頭部伝達関数を設定することとする。
【0048】
映像再生部78は、映像信号処理部77から受信した映像信号を映像信号出力デバイスに表示する。この映像信号出力デバイスは、PDP、LCD、SED、有機ELなどを用いたものであってよい。ここで、SEDは、Surface-Conduction Electron-emitter Displayの略語である。また、ELはElectro Luminescenceの略語である。
【0049】
次に、音声記録装置600内の制御部16、及び音声再生装置700内の制御部25が実行する映像音声信号再生処理について、図7のフローチャートを参照して説明する。本フローチャートの処理は、制御部16及び制御部25が制御プログラムを実行することにより実現される。図7において、図3と同一又は同様の処理が行われるステップには同一の符号を付し、説明を省略する。
【0050】
S700で、制御部25は、ユーザからの映像音声再生開始指示に従い、音声記録装置600の制御部16へ映像信号及び音声信号の出力を指示する。この指示により音声信号出力部14は、音声信号入力部20へ音声信号を供給する。また、映像信号出力部68は、映像信号入力部76へ映像信号を供給する。ここで、ユーザは、映像音声再生開始指示を音声記録装置600に対して直接行ってもよい。音声信号入力部20へ供給された音声信号は、後段の音声信号処理部23へ送られる。また、映像信号入力部76へ供給された映像信号は後段の映像信号処理部77へ送られる。
【0051】
S701で、制御部25は、音声記録装置100に対して、指向性情報の出力を指示する。実施例1とは異なり、指向性情報には、各マイクロフォンの角度及び増幅度に加えて、映像入力部67から被写体までの距離を示す情報(例えば、ズーム状態及びフォーカス状態を示す情報)が含まれる。この指示により指向性情報送信部15は、指向性情報受信部21へ指向性情報を供給する。指向性情報受信部21は指向性情報を単位時間ごとに読み込む。ここでは読み込んだ時刻tにおける指向性情報をM(t)と表記することとする。
【0052】
S704で、制御部25は、詳細解析した指向性情報を基にメモリ(不図示)内から最適な頭部伝達関数を選択する。図8を参照して、S704における選択の、図3のS304における選択と異なる部分について説明する。
【0053】
図8に示すように、実施例2においては、基準位置P(仮想聴取位置)は、原点から距離Lzmだけ離れた基準軸R上の点である。Lzmは、映像入力部67から被写体までの距離に対応する。例えば基準位置Pに対するマイクロフォン2の収音位置Aの相対位置を表す角度θ及び距離Lは、前述の式(1)及び式(2)の代わりに、下記の式(3)及び式(4)によって算出される。
【0054】
【数3】

【0055】
【数4】

【0056】
S706で、音声信号処理部23は、S305で設定された頭部伝達関数を用いて擬似サラウンド音声信号処理を実行し、擬似サラウンド化された音声信号を音声再生部24へ出力する。また、映像信号処理部77は、映像信号を映像再生部78へ出力する。擬似サラウンド音声信号処理は、実施例1と同様(図5参照)である。但し、実施例1ではマイクロフォン1の収音位置は常に基準位置Pと一致していたが、実施例2では、増幅度に応じて基準軸R上を移動する。従って、マイクロフォン1のための頭部伝達関数も、増幅度に応じて変化する。
【0057】
S707で、制御部25は、ユーザから映像音声再生停止指示を受信したか否かを判定する。映像音声再生停止指示を受信した場合、本フローチャートの処理は終了する。音声再生停止指示を受信していない場合、S308において制御部25は再生時刻Tを更新し、S302からの処理を繰り返す。
【0058】
以上説明したように、本実施例によれば、音声再生装置700は、各マイクロフォンの角度及び増幅度、並びに被写体距離に応じた頭部伝達関数を用いて擬似サラウンド音声信号処理を行う。これにより、ユーザは、音声再生時により高い臨場感を味わうことができる。
【0059】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、実施例1に示した音声記録装置100及び音声再生装置200は1つの筐体内に収まっていてもよい。また、実施例2に示す音声再生装置700に関して、音声再生部24と映像再生部78とが分離して別筐体に収まっていてもよい。
【0060】
[その他の実施例]
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上のマイクロフォンを含む音声入力部を備える音声記録装置が当該1以上のマイクロフォンを用いて記録した1以上の音声信号と、前記音声入力部の所定の位置を原点として一方向に延びる基準軸に対する前記1以上のマイクロフォンそれぞれの設置位置の角度と、前記音声記録装置による前記1以上の音声信号の記録時の前記1以上のマイクロフォンそれぞれの音声信号の増幅度と、を取得する第1取得手段と、
前記基準軸上の基準位置を決定する決定手段と、
前記第1取得手段で取得した前記1以上のマイクロフォンそれぞれの角度及び増幅度に基づいて決定される前記1以上のマイクロフォンそれぞれの仮想的な収音位置の、前記基準位置に対する相対位置を算出する算出手段であって、前記仮想的な収音位置は、前記基準軸に対して前記角度を有して前記原点から延びる軸上の、前記増幅度が大きいほど前記原点から遠く前記増幅度が小さいほど前記原点から近い位置として決定される、算出手段と、
前記算出手段で算出した前記1以上のマイクロフォンそれぞれの相対位置に対応する頭部伝達関数を取得する第2取得手段と、
前記第2取得手段で取得した頭部伝達関数を用いて、前記第1取得手段で取得した前記1以上の音声信号から擬似サラウンド化された音声信号を生成する生成手段と、
を備えることを特徴とする音声再生装置。
【請求項2】
前記決定手段は、前記1以上のマイクロフォンのうち前記基準軸上に設置された1つのマイクロフォンの増幅度に基づいて、当該増幅度が大きいほど前記原点から遠く当該増幅度が小さいほど前記原点から近い前記基準軸上の位置を、前記基準位置として決定することを特徴とする請求項1に記載の音声再生装置。
【請求項3】
前記音声記録装置は撮像手段を備え、
前記第1取得手段は、前記音声記録装置による前記1以上の音声信号の記録時に前記撮像手段で撮像した前記基準軸上の被写体の位置を更に取得し、
前記決定手段は、前記第1取得手段で取得した前記被写体の位置を前記基準位置として決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の音声再生装置。
【請求項4】
音声再生装置の制御方法であって、
1以上のマイクロフォンを含む音声入力部を備える音声記録装置が当該1以上のマイクロフォンを用いて記録した1以上の音声信号と、前記音声入力部の所定の位置を原点として一方向に延びる基準軸に対する前記1以上のマイクロフォンそれぞれの設置位置の角度と、前記音声記録装置による前記1以上の音声信号の記録時の前記1以上のマイクロフォンそれぞれの音声信号の増幅度と、を取得する第1取得工程と、
前記基準軸上の基準位置を決定する決定工程と、
前記第1取得工程で取得した前記1以上のマイクロフォンそれぞれの角度及び増幅度に基づいて決定される前記1以上のマイクロフォンそれぞれの仮想的な収音位置の、前記基準位置に対する相対位置を算出する算出工程であって、前記仮想的な収音位置は、前記基準軸に対して前記角度を有して前記原点から延びる軸上の、前記増幅度が大きいほど前記原点から遠く前記増幅度が小さいほど前記原点から近い位置として決定される、算出工程と、
前記算出工程で算出した前記1以上のマイクロフォンそれぞれの相対位置に対応する頭部伝達関数を取得する第2取得工程と、
前記第2取得工程で取得した頭部伝達関数を用いて、前記第1取得工程で取得した前記1以上の音声信号から擬似サラウンド化された音声信号を生成する生成工程と、
を備えることを特徴とする制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−120028(P2011−120028A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275939(P2009−275939)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】