説明

音声再生装置、映像音声再生装置、及びクロストークキャンセル方法

【課題】従来のバーチャルサラウンド技術では、左右フロントスピーカを利用してクロストークキャンセルを行っているため、サラウンド効果のある周波数領域が制限され、また、スイートスポットが狭い範囲に制限され、また、受聴者がスイートスポットを外れたとき音像定位位置が不自然な位置にずれてしまうという問題があった。
【解決手段】少なくとも左フロントスピーカLと、右フロントスピーカRと、センタスピーカCを備えた音声再生装置において、左の耳で聞くための左フロントスピーカLからの出力信号が右耳に届く信号をキャンセルするキャンセル信号をセンタスピーカCより出力する第1クロストークキャンセル手段と、右の耳で聞くための右フロントスピーカRからの出力信号が左耳に届く信号をキャンセルするキャンセル信号をセンタスピーカCより出力する第2クロストークキャンセル手段とを備えたことを特徴とする音声再生装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステレオ装置などの少なくとも音声を再生することができる音声再生装置、又はテレビジョン受信機などの映像音声再生装置、及びクロストークキャンセル方法に係り、特に少なくとも左右フロントスピーカ及びセンタスピーカを備え、サラウンド効果のある周波数帯域の拡大やスイートスポット(サラウンド効果のある領域)の拡大が可能で、音声聴取位置がスイートスポットから外れた場合でも不自然な音像定位感を低減することのできる音声再生装置、又は映像音声再生装置、及びクロストークキャンセル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
音声再生装置において、前方に設置されたスピーカのみで側方、あるいは後方などに仮想音源を生成して立体音響を再生するバーチャルサラウンド技術が種々提案されている。これらに関する従来技術として、例えば特開平6−189399号公報(特許文献1)、特開平9−322300号公報(特許文献2)、特開平10−66198号公報(特許文献3)、特開平11−252698号公報(特許文献4)などを挙げることができる。
【0003】
これらの従来技術では、前方に設置された2チャンネルスピーカに互いの逆相の音を混入する方法、シュレーダー方式(特許文献3参照)による音像定位法、頭部伝達関数を用いて任意の位置に音像を定位させる方法などが取られている。これらのバーチャルサラウンド技術では、クロストーク(左スピーカ、または右スピーカから聴取者の反対側の耳に達する音)をキャンセルしてスピーカの外側に音像を定位させたり、音像を拡大することができ、これにより立体的な音響空間を実現している。頭部伝達関数を用いて任意の位置に音像を定位させる方法では、恰も任意の位置に設置された仮想スピーカから音声が出力されているように前方に設置された2チャンネルスピーカの音声の大きさ、位相がコントロールされ、このとき音場合成とクロストークキャンセルが同時に行われる。
【特許文献1】特開平6−189399号公報
【特許文献2】特開平9−322300号公報
【特許文献3】特開平10−66198号公報
【特許文献4】特開平11−252698号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のバーチャルサラウンド技術では、サラウンド効果のある周波数領域が制限され、また、スイートスポットが狭い範囲に制限され、また、受聴者がスイートスポットを外れたとき音像定位位置が不自然な位置にずれてしまうという問題があった。
【0005】
これは高周波領域ではクロストークを打ち消すことが困難になり、また、高周波領域になると聴取者の位置がスイートスポットから外れやすくなるためである。また、受聴者がスイートスポットを外れたとき音像定位位置が不自然な位置にずれてしまうのは、2チャンネルスピーカがスイートスポットの両側に跨るように配置されているので、受聴者がスイートスポットを外れたときにセンターよりも聴取者寄りに音像が移動してしまう為である。
【0006】
図6は、従来のバーチャルサラウンド技術の構成の一例を示したものである。
【0007】
図6において、1は左チャンネルLの信号源、2は右チャンネルRの信号源、3はセンタチャンネルCの信号源である。4は左フロントスピーカ、5は右フロントスピーカ、6はセンタスピーカである。7は受聴者である。8〜11はクロストークキャンセル用フィルタであり、左チャンネルLの信号源1から左フロントスピーカ4の間にh、右チャンネルRの信号源2から右フロントスピーカ5の間にh、左チャンネルLの信号源1から右フロントスピーカ5の間にh、右チャンネルRの信号源2から左フロントスピーカ4の間にhとして設定されている。12、13は信号加算器である。
【0008】
各スピーカから受聴者7の耳までの伝達関数はそれぞれ図のようになっている。即ち左フロントスピーカ4から受聴者7の左耳までの伝達関数はhLL、左フロントスピーカ4から受聴者7の右耳までの伝達関数はhLR、右フロントスピーカ5から受聴者7の左耳までの伝達関数はhRL、右フロントスピーカ5から受聴者7の右耳までの伝達関数はhRR、センタスピーカ6から受聴者7の左耳までの伝達関数はhCL、センタスピーカ6から受聴者7の右耳までの伝達関数はhCRである。左仮想フロントスピーカ14から受聴者7の左耳までの伝達関数はhLvL、左仮想フロントスピーカ14から受聴者7の右耳までの伝達関数はhLvR、右仮想フロントスピーカ15から受聴者7の左耳までの伝達関数はhRvL、左仮想フロントスピーカ15から受聴者7の右耳までの伝達関数はhRvR、である。
【0009】
このように左右のフロントスピーカ4、5からの音声は、それぞれのスピーカ側の耳に伝達関数hLL、hRRで到達するものの他に、反対側の耳に伝達関数hLR、hRLでクロスするように到達するものがある。クロストークキャンセル制御は、左右フロントスピーカ4、5から受聴者7の両耳に到達する音声が、左仮想フロントスピーカ14から受聴者7の左耳までの伝達関数はhLvL、左仮想フロントスピーカ14から受聴者7の右耳までの伝達関数はhLvR、右仮想フロントスピーカ15から受聴者7の左耳までの伝達関数はhRvL、左仮想フロントスピーカ15から受聴者7の右耳までの伝達関数はhRvR、で左右仮想スピーカ14、15から到達する音声と同じ音声になるように合成するものである。
【0010】
クロストークキャンセル制御により、左右フロントスピーカ4、5から受聴者7の両耳に到達する音声が、左仮想フロントスピーカ14から受聴者7の左耳までの伝達関数はhLvL、左仮想フロントスピーカ14から受聴者7の右耳までの伝達関数はhLvR、右仮想フロントスピーカ15から受聴者7の左耳までの伝達関数はhRvL、左仮想フロントスピーカ15から受聴者7の右耳までの伝達関数はhRvR、で左右仮想スピーカ14、15から到達した音声と同じ音声として合成されているため、実際のフロントスピーカ4、5より外側に左仮想フロントスピーカ14、右仮想フロントスピーカ15の音像を定位させることができる。
【0011】
図7はクロストークキャンセル制御機能を備えたテレビ受信機の音声を受聴者7が受音するときの、左右のフロントスピーカ4、5による干渉現象を説明する図である。図における寸法(左右フロントスピーカ4、5間の間隔=70[cm]+70[cm]、左右フロントスピーカ4、5から受聴者7までの距離=200[cm])は代表的な一例を示したものである。
【0012】
このような寸法条件において左フロントスピーカ4から正相、右フロントスピーカ5から逆相の正弦波2kHzを出力し、受聴者7が受音位置を点線20に沿って移動したときの音圧特性を測定し、図8に示した。受音位置0[cm]は点線20上であって左右フロントスピーカの中間位置上(センタ位置)にあるときを示す。測定点は左耳、あるいは右耳の位置に相当する点である。この特性は櫛形特性でありセンタ位置付近とセンタ位置から離れた位置では櫛形特性の周期が多少異なっているが、その特性周期は受音位置がセンタ位置付近では約26[cm]となり、クロストークキャンセルが行える範囲は狭い範囲に制限されることがわかる。図8は2kHzについての特性であるが、可聴域周波数帯域の更に高周波を考えると櫛形特性の周期が更に短くなり、ある程度の高周波領域になるとクロストークキャンセルを行うことが困難になる。
【0013】
図9は図6から左フロントスピーカ4に関するクロストークキャンセル制御部分を取り出して示したものである。21はスイートスポットと呼ばれている領域で、立体音響を再現できる領域を示している。このとき左仮想フロントスピーカ14の音像が左フロントスピーカ4の更に左に定位される。
【0014】
図10は受聴者7が図9の位置から右方向にずれて、スイートスポット21の領域から外れてしまった場合を示している。この場合にはクロストークはキャンセルされず、立体音響は再現されない。左右フロントスピーカ4、5の音声合成により、左右フロントスピーカのほぼ中間位置(中間位置より多少受聴者7に近いスピーカ側に寄る)に左仮想フロントスピーカ14’が定位し、音像定位位置が不自然になる。
【0015】
このように、従来のバーチャルサラウンド技術では、サラウンド効果のある周波数領域が制限され、また、スイートスポット21が狭い範囲に制限され、また、受聴者7がスイートスポット21を外れたとき音像定位位置が不自然な位置にずれてしまうという問題があった。
【0016】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、サラウンド効果のある周波数領域が拡大され、また、スイートスポットの範囲が拡大され、また、受聴者がスイートスポットを外れたとき音像定位位置が不自然な位置にならないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の音声再生装置は、少なくとも左フロントスピーカと、右フロントスピーカと、前記左フロントスピーカと前記右フロントスピーカのほぼ中間位置に配置されたセンタスピーカを備えた音声再生装置において、前記左フロントスピーカからの出力信号が両耳に届く信号を仮想スピーカからの出力信号と同じに合成する信号を前記センタスピーカより出力する第1クロストークキャンセル手段と、前記右フロントスピーカからの出力信号が両耳に届く信号を仮想スピーカからの出力信号と同じに合成する信号を前記センタスピーカより出力する第2クロストークキャンセル手段と、を備えたことを特徴とする。
また、本発明の音声再生装置は、前記第1クロストークキャンセル手段が、第1信号源と前記左フロントスピーカの間に具備する第1のクロストークキャンセル用フィルタと前記第1信号源と前記センタスピーカの間に具備する第2のクロストークキャンセル用フィルタとを備え、前記第2クロストークキャンセル手段が、第2信号源と前記左フロントスピーカの間に具備する第3のクロストークキャンセル用フィルタと前記第2信号源と前記センタスピーカの間に具備する第4のクロストークキャンセル用フィルタとを備えたことを特徴とする。
また、本発明の音声再生装置は、前記第1と第3のクロストークキャンセル用フィルタは同一構成のクロストークキャンセル用フィルタであり、前記第2と第4のクロストークキャンセル用フィルタは同一構成のクロストークキャンセル用フィルタであることを特徴とする。
また、本発明の音声再生装置は、前記第1信号源は左チャンネルの信号源であり、前記第2信号源は右チャンネルの信号源であることを特徴とする。
また、本発明の音声再生装置は、前記第1クロストークキャンセル手段が、第3信号源と前記左フロントスピーカの間に具備する第5のクロストークキャンセル用フィルタと前記第3信号源と前記センタスピーカの間に具備する第6のクロストークキャンセル用フィルタとを備え、前記第2クロストークキャンセル手段が、第4信号源と前記左フロントスピーカの間に具備する第7のクロストークキャンセル用フィルタと前記第4信号源と前記センタスピーカの間に具備する第8のクロストークキャンセル用フィルタとを備えたことを特徴とする。
また、本発明の音声再生装置は、前記第5と第7のクロストークキャンセル用フィルタは同一構成のクロストークキャンセル用フィルタであり、前記第6と第8のクロストークキャンセル用フィルタは同一構成のクロストークキャンセル用フィルタであることを特徴とする。
また、本発明の音声再生装置は、前記第3信号源は左サラウンドチャンネルの信号源であり、前記第4信号源は右サラウンドチャンネルの信号源であることを特徴とする。
また、本発明の映像音声再生装置は、映像表示手段と、上記音声再生装置を備えたことを特徴とする。
また、本発明のクロストークキャンセル方法は、少なくとも左フロントスピーカと、右フロントスピーカと、前記左フロントスピーカと前記右フロントスピーカのほぼ中間位置に配置されたセンタスピーカを備えた音声再生装置のクロストークキャンセル方法において、前記左フロントスピーカから両耳に届く信号を前記センタスピーカからの出力信号で仮想スピーカからの出力信号と同じに合成し、前記右フロントスピーカから両耳に届く信号を前記センタスピーカからの出力信号で仮想スピーカからの出力信号と同じに合成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、サラウンド効果のある周波数領域が拡大され、また、スイートスポットの範囲が拡大され、また、受聴者がスイートスポットを外れたとき音像定位位置が不自然な位置にならないようにできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0020】
(第1の実施の形態)
図1は本発明による音声再生装置の第1の実施の形態を示すものである。
図1において、1は左チャンネルLの信号源、2は右チャンネルRの信号源、3はセンタスチャンネルCの信号源である。4は左フロントスピーカ、5は右フロントスピーカ、6はセンタスピーカである。センタスピーカ6は左フロントスピーカ4と右フロントスピーカ5のほぼ中間位置に配置される。テレビ受信機などの表示装置があるものは左フロントスピーカ4と右フロントスピーカ5のほぼ中間位置であって、表示装置の上側又は下側に設けられる。7は受聴者である。また、22は左サラウンドチャンネルLsの信号源、23は右サラウンドチャンネルRsの信号源である。24〜27はクロストークキャンセル用フィルタであり、左サラウンドチャンネルLsの信号源22から左フロントスピーカ4の間にh、右サラウンドチャンネルRsの信号源23から右フロントスピーカ5の間にh、左サラウンドチャンネルLsの信号源22からセンタースピーカ6の間にh、右サラウンドチャンネルRsの信号源23からセンタスピーカ6の間にhとして設定されている。28、29、30は信号加算器である。
【0021】
各スピーカから受聴者7の耳までの伝達関数はそれぞれ図のようになっている。即ち左フロントスピーカ4から受聴者7の左耳までの伝達関数はhLL、左フロントスピーカ4から受聴者7の右耳までの伝達関数はhLR、右フロントスピーカ5から受聴者7の左耳までの伝達関数はhRL、右フロントスピーカ5から受聴者7の右耳までの伝達関数はhRR、センタスピーカ6から受聴者7の左耳までの伝達関数はhCL、センタスピーカ6から受聴者7の右耳までの伝達関数はhCRである。
【0022】
31、32は左右サラウンドチャンネルL、Rの信号をクロストークキャンセル用フィルタ24〜27を通して左右フロントスピーカ4、5、センタースピーカ6から音声出力することにより実現される仮想サラウンドスピーカであり、左仮想サラウンドスピーカ31、右仮想サラウンドスピーカ32を示す。各仮想サラウンドスピーカ31、32から受聴者7の耳までの伝達関数は、左仮想サラウンドスピーカ31から受聴者7の左耳まではhLsL、左仮想サラウンドスピーカ31から受聴者7の右耳まではhLsR、右仮想サラウンドスピーカ32から受聴者7の左耳まではhRsL、右仮想サラウンドスピーカ32から受聴者7の右耳まではhRsRである。
【0023】
例えば左仮想サラウンドスピーカ31を図1の位置に定位させるには下記の関係を満足するようにクロストークキャンセル用フィルタ24、26の伝達関数h、hを設定する。
【0024】
hLsL*Ls=(h1*hLL+h2*hCL)*Ls
hLsR*Ls=(h1*hLR+h2*hCR)*Ls
【0025】
このとき右仮想サラウンドスピーカ32に関するクロストークキャンセル用フィルタ25、27の伝達関数h、hも対称性を利用して同様に設定でき、左仮想サラウンドスピーカ31と対称な位置に定位する。なお、上記伝達関数hLL、hLR、hRL、hRR、hCL、hCR、hLsL、hLsR、hRsL、hRsRは実測により求めることができる。
【0026】
従来技術が左右のフロントスピーカ4、5でクロストークキャンセルを行っていたのに対し、本実施の形態では左フロントスピーカ4とセンタースピーカ6、及び右フロントスピーカ5とセンタースピーカ6によりクロストークキャンセルを行う点が異なっている。このため、従来技術では信号源22からの左サラウンドチャンネルLsの信号をクロストークキャンセル用フィルタ26を通して信号加算器29から右フロントスピーカ5に受聴者7の両耳に合成する信号を出力するところ、本実施の形態では信号源22からの左サラウンドチャンネルLsの信号をクロストークキャンセル用フィルタ26を通して信号加算器30からセンタスピーカ6に受聴者7の両耳に合成する信号を出力する。右サラウンドチャンネルの信号源23に関しても同様にセンタスピーカ6から受聴者7の両耳に合成する信号を出力する。
【0027】
このようにクロストークキャンセルを行った場合の音圧特性を、従来の音圧特性と比較して図2に示した。図2において点線で示したものは左フロントスピーカ4と右フロントスピーカ5によりクロストークキャンセルしたときの音圧特性(従来技術)であり、実線で示したものは本実施の形態による左フロントスピーカ4とセンタスピーカ6によりクロストークキャンセルしたときの音圧特性である。この音圧特性は櫛形の特性を示している。
【0028】
図2をみると、クロストークキャンセルを行う場合、センタースピーカ6から逆相信号を出力したほうが、受音位置がずれた場合の変動の周期が約2倍程度と大きいことがわかる。これは、受音位置が左右にずれても、受聴者7が感じる音圧の変動が小さいことを意味しており、結果としてスイートスポットの領域が広くなる。
【0029】
逆に、音圧の櫛形特性の周期が、右フロントスピーカ5から逆相信号を出力した場合(従来技術)と同じになる周波数は、スピーカの間隔と信号波長の相対的な関係から約2倍の周波数になることがわかる。即ち、スイートスポットが同じであれば、センタースピーカ6でクロストークキャンセルを行うことにより、左フロントスピーカ4と右フロントスピーカ5でクロストークキャンセルを行う従来技術の場合に比べ、本実施の形態では制御可能な周波数帯域が約2倍程度拡大することがわかる。
【0030】
(第2の実施の形態)
図3は本発明による音声再生装置の第2の実施の形態を示すものである。
【0031】
本実施の形態では左右仮想サラウンドスピーカ31、32を生成する他に、実際の左右フロントスピーカ4、5の位置より外側に左右仮想フロントスピーカ33、34を生成する。
【0032】
図3において、1は左チャンネルLの信号源、2は右チャンネルRの信号源、3はセンタチャンネルCの信号源である。4は左フロントスピーカ、5は右フロントスピーカ、6はセンタスピーカである。センタスピーカ6は左フロントスピーカ4と右フロントスピーカ5のほぼ中間位置に配置される。テレビ受信機などの表示装置があるものは左フロントスピーカ4と右フロントスピーカ5のほぼ中間位置であって、表示装置の上側又は下側に設けられる。7は受聴者である。また、22は左サラウンドチャンネルLsの信号源、23は右サラウンドチャンネルRsの信号源である。24〜27および38〜41はクロストークキャンセル用フィルタであり、左サラウンドチャンネルLsの信号源22から左フロントスピーカ4の間にh、右サラウンドチャンネルRsの信号源23から右フロントスピーカ5の間にh、左サラウンドチャンネルLsの信号源22からセンタスピーカ6の間にh、右サラウンドチャンネルRsの信号源23からセンタスピーカ6の間にhとして設定されている。
【0033】
また、左チャンネルLの信号源1から左フロントスピーカ4の間にh、右チャンネルRの信号源2から右フロントスピーカ5の間にh、左チャンネルLの信号源1からセンタースピーカ6の間にh、右チャンネルRの信号源2からセンタスピーカ6の間にhとして設定されている。35、36、37は信号加算器である。
【0034】
各スピーカから受聴者7の耳までの伝達関数はそれぞれ図のようになっている。即ち左フロントスピーカ4から受聴者7の左耳までの伝達関数はhLL、左フロントスピーカ4から受聴者7の右耳までの伝達関数はhLR、右フロントスピーカ5から受聴者7の左耳までの伝達関数はhRL、右フロントスピーカ5から受聴者7の右耳までの伝達関数はhRR、センタスピーカ6から受聴者7の左耳までの伝達関数はhCL、センタスピーカ6から受聴者7の左耳までの伝達関数はhCRである。
【0035】
左仮想サラウンドスピーカ31、右仮想サラウンドスピーカ32は左右サラウンドチャンネルLs、Rsの信号をクロストークキャンセル用フィルタ24〜27を通して左右フロントスピーカ4、5、センタースピーカ6から音声出力することにより実現される仮想スピーカである。
【0036】
例えば左仮想サラウンドスピーカ31を図1の位置に定位させるには下記の関係を満足するようにクロストークキャンセル用フィルタ24、26の伝達関数h、hを設定する。
【0037】
hLsL*Ls=(h1*hLL+h2*hCL)*Ls
hLsR*Ls=(h1*hLR+h2*hCR)*Ls
【0038】
このとき右仮想サラウンドスピーカ32に関するクロストークキャンセル用フィルタ25、27の伝達関数h、hも対称性を利用して同様に設定でき、左仮想サラウンドスピーカ31と対称な位置に定位する。
【0039】
また、左仮想フロントスピーカ33、右仮想フロントスピーカ34は左右チャンネル信号をクロストークキャンセル用フィルタ38〜41を通して左右フロントスピーカ4、5、センタースピーカ6から音声出力することにより実現される仮想スピーカである。各仮想フロントスピーカ33、34から受聴者7の耳までの伝達関数は、左仮想フロントスピーカ33から受聴者7の左耳まではhLL’、左仮想フロントスピーカ33から受聴者7の右耳まではhLR’、右仮想フロントピーカ34から受聴者7の左耳まではhRL’、右仮想フロントスピーカ34から受聴者7の右耳まではhRR’である。
【0040】
例えば左仮想フロントスピーカ33を図3の位置に定位させるには下記の関係を満足するようにクロストークキャンセル用フィルタ38、40の伝達関数h、hを設定する。
【0041】
hLL'*L=(h3*hLL+h4*hCL)*L
hLR'*L=(h3*hLR+h4*hCR)*L
【0042】
このとき右仮想フロントスピーカ34に関するクロストークキャンセル用フィルタ39、41の伝達関数h、hも対称性を利用して同様に設定でき、左仮想フロントスピーカ33と対称な位置に定位する。上記伝達関数hLL、hLR、hRL、hRR、hCL、hCR、hLsL、hLsR、hRsL、hRsR、LL’、hLR’、hRL’、hRR’LL’、hLR’、hRL’、hRR’は実測により求めることができる。
【0043】
従来技術が左右フロントスピーカ4、5でクロストークキャンセルを行っていたのに対し、本実施の形態では左フロントスピーカ4とセンタースピーカ6、及び右フロントスピーカ5とセンタースピーカ6によりクロストークキャンセルを行う点が異なっている。
このため、従来は図3のように、信号源22からの左サラウンドチャンネルLsの信号をクロストークキャンセル用フィルタ26を通して信号加算器36から右フロントスピーカ5に受聴者7の両耳に合成する信号を出力するところ、本実施の形態では信号源22からの左サラウンドチャンネルLsの信号をクロストークキャンセル用フィルタ26を通して信号加算器37からセンタスピーカ6に受聴者7の両耳に合成する信号を出力する。右サラウンドチャンネルの信号源23に関しても同様にセンタスピーカ6から受聴者7の両耳に合成する信号を出力する。
【0044】
また、左右チャンネル1、2についても同様に、信号源1からの左チャンネルLの信号をクロストークキャンセル用フィルタ40を通して信号加算器36から右フロントスピーカ5に受聴者7の両耳に合成する信号を出力するところ、本実施の形態では信号源1からの左チャンネルLの信号をクロストークキャンセル用フィルタ40を通して信号加算器37からセンタスピーカ6に受聴者7の両耳に合成する信号を出力する。右チャンネルRの信号源2に関しても同様にセンタスピーカ6から受聴者7の両耳に合成する信号を出力する。
【0045】
図4、図5は受聴者7がスイートスポット42の領域からはずれた場合の左仮想フロントスピーカ33の音像定位位置を説明するものである。
【0046】
図4は図3から左フロントスピーカ4に関するクロストークキャンセル制御部分を取り出して示したものである。42はスイートスポット領域で、立体音響を再現できる領域を示している。このとき左仮想フロントスピーカ33の音像が左フロントスピーカ4の更に左に定位される。
【0047】
図5は受聴者7が図4の位置から右方向にずれて、スイートスポット42の領域から外れてしまった場合を示している。この場合にはクロストークはキャンセルされず、立体音響は再現されない。この場合、左フロントスピーカ4とセンタスピーカ6との音声合成により、左フロントスピーカ4とセンタスピーカ6のほぼ中間位置に左仮想フロントスピーカ33’が定位する。この定位位置はセンタスピーカ6の左側であり、図10に示した従来技術による音像定位位置と比べ本来の仮想スピーカの定位位置に近く、より自然な音響空間になる。
【0048】
このように、本実施の形態によれば、サラウンド効果のある周波数領域が拡大され、また、スイートスポット42の範囲がより拡大され、また、受聴者7がスイートスポット42を外れたときでも音像をより自然な位置に定位させることができる。
【0049】
以上、具体的な実施の形態によって本発明を説明したが、本発明は前方に設置された2チャンネルスピーカに互いの受聴者の両耳に合成する音を混入する方法、シュレーダー方式による音像定位法、頭部伝達関数を用いて任意の位置に音像を定位させる方法に適用できるがこれに限定されず、クロストークキャンセル制御を使うものに適用できる。また、上記実施の形態では音声再生装置について詳細に説明したが、映像表示装置と音声再生装置を備えたテレビ受信機などにも適用できる。また、本発明は上記実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更して実施することができることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、クロストークキャンセル制御を行うステレオ装置、テレビジョン受信機などの音声再生装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1の実施の形態としての音声再生装置の構成図、及びスピーカ、受聴者、仮想スピーカの位置関係を説明する図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態としての音声再生装置でクロストークキャンセル制御を行ったときの音圧特性を示す図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態としての音声再生装置の構成図、及びスピーカ、受聴者、仮想スピーカの位置関係を説明する図である。
【図4】受聴者がスイートスポット内にいるときの、本発明のクロストークキャンセルを説明する図である。
【図5】受聴者がスイートスポット外にいるときの、本発明のクロストークキャンセルを説明する図である。
【図6】従来技術による音声再生装置の構成図、及びスピーカ、受聴者、仮想スピーカの位置関係を説明する図である。
【図7】従来技術の音声再生装置でクロストークキャンセルを説明する図である。
【図8】従来技術の音声再生装置でクロストークキャンセル制御を行ったときの音圧特性を示す図である。
【図9】従来技術の音声再生装置で、受聴者がスイートスポット内にいるときの、本発明のクロストークキャンセルを説明する図である。
【図10】従来技術の音声再生装置で、受聴者がスイートスポット外にいるときの、本発明のクロストークキャンセルを説明する図である。
【符号の説明】
【0052】
1・・・左チャンネルLの信号源
2・・・右チャンネルRの信号源
3・・・センタチャンネルCの信号源
4・・・左フロントスピーカ
5・・・右フロントスピーカ
6・・・センタスピーカ
7・・・受聴者
8〜11、24〜27、38〜41・・・クロストークキャンセル用フィルタ
12、13、28〜30、35〜37・・・信号加算器
14、33・・・左仮想フロントスピーカ
15、34・・・右仮想フロントスピーカ
21、42・・・スイートスポット
22・・・左サラウンドチャンネルLsの信号源
23・・・右サラウンドチャンネルRsの信号源
31・・・左仮想サラウンドスピーカ
32・・・右仮想サラウンドスピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも左フロントスピーカと、右フロントスピーカと、前記左フロントスピーカと前記右フロントスピーカのほぼ中間位置に配置されたセンタスピーカを備えた音声再生装置において、
前記左フロントスピーカからの出力信号が両耳に届く信号を仮想スピーカからの出力信号と同じに合成する信号を前記センタスピーカより出力する第1クロストークキャンセル手段と、
前記右フロントスピーカからの出力信号が両耳に届く信号を仮想スピーカからの出力信号と同じに合成する信号を前記センタスピーカより出力する第2クロストークキャンセル手段と、
を備えたことを特徴とする音声再生装置。
【請求項2】
前記第1クロストークキャンセル手段は、第1信号源と前記左フロントスピーカの間に具備する第1のクロストークキャンセル用フィルタと前記第1信号源と前記センタスピーカの間に具備する第2のクロストークキャンセル用フィルタとを備え、
前記第2クロストークキャンセル手段は、第2信号源と前記左フロントスピーカの間に具備する第3のクロストークキャンセル用フィルタと前記第2信号源と前記センタスピーカの間に具備する第4のクロストークキャンセル用フィルタとを備えたことを特徴とする請求項1に記載の音声再生装置。
【請求項3】
前記第1と第3のクロストークキャンセル用フィルタは同一構成のクロストークキャンセル用フィルタであり、前記第2と第4のクロストークキャンセル用フィルタは同一構成のクロストークキャンセル用フィルタであることを特徴とする請求項2に記載の音声再生装置。
【請求項4】
前記第1信号源は左チャンネルの信号源であり、前記第2信号源は右チャンネルの信号源であることを特徴とする請求項2又は請求項3のいずれかに記載の音声再生装置。
【請求項5】
前記第1クロストークキャンセル手段は、第3信号源と前記左フロントスピーカの間に具備する第5のクロストークキャンセル用フィルタと前記第3信号源と前記センタスピーカの間に具備する第6のクロストークキャンセル用フィルタとを備え、
前記第2クロストークキャンセル手段は、第4信号源と前記左フロントスピーカの間に具備する第7のクロストークキャンセル用フィルタと前記第4信号源と前記センタスピーカの間に具備する第8のクロストークキャンセル用フィルタとを備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の音声再生装置。
【請求項6】
前記第5と第7のクロストークキャンセル用フィルタは同一構成のクロストークキャンセル用フィルタであり、前記第6と第8のクロストークキャンセル用フィルタは同一構成のクロストークキャンセル用フィルタであることを特徴とする請求項5に記載の音声再生装置。
【請求項7】
前記第3信号源は左サラウンドチャンネルの信号源であり、前記第4信号源は右サラウンドチャンネルの信号源であることを特徴とする請求項5又は請求項6のいずれかに記載の音声再生装置。
【請求項8】
映像表示手段と、請求項1乃至請求項7のいずれか一項の音声再生装置を備えたことを特徴とする映像音声再生装置。
【請求項9】
少なくとも左フロントスピーカと、右フロントスピーカと、前記左フロントスピーカと前記右フロントスピーカのほぼ中間位置に配置されたセンタスピーカを備えた音声再生装置のクロストークキャンセル方法において、
前記左フロントスピーカから両耳に届く信号を前記センタスピーカからの出力信号で仮想スピーカからの出力信号と同じに合成し、
前記右フロントスピーカから両耳に届く信号を前記センタスピーカからの出力信号で仮想スピーカからの出力信号と同じに合成することを特徴とするクロストークキャンセル方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−92534(P2008−92534A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−274222(P2006−274222)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】