説明

音波処理を用いた絹フィブロインのゲル化のための方法

本発明は、超音波処理によって絹フィブロインのゲル化を迅速に生じさせる方法を提供する。適切な条件下において、ゲル化を超音波処理後の2時間以内に起こるよう制御することができる。生存細胞を含む生物学的材料または治療剤を、該方法から形成されたハイドロゲル中に封入し、かつ送達ビヒクルとして使用することができる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)により与えられたTissue Engineering Research Center 助成金番号P41 EB002520号の下で、米国政府支援によりなされた。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
関連出願
本発明は、音波処理を用いた絹フィブロインのゲル化のための方法と題され、かつ参照により組み入れられる、2007年5月29日出願の米国特許仮出願第60/940,554号に関し、かつその優先権を主張する。
【0003】
発明の分野
本発明は、超音波処理によって迅速に絹フィブロインのゲル化を生じさせる方法を提供する。本方法から形成されたハイドロゲルは、例えば生体送達ビヒクルとして有用である。
【背景技術】
【0004】
背景
生体適合性がありかつ生分解性のポリマーハイドロゲルは、組織工学および薬物放出の制御においてなど、生物医学的な適用のための生理活性分子および生理活性細胞を送達するために有用な担体である。精製された天然の絹フィブロインは、詳細なプロセスと環境パラメーターによって影響を受けるゲルの性質とにより、水溶性溶液からβ−シートに富む架橋ハイドロゲル構造を形成する。水溶性の天然絹タンパク質溶液に関して、以前のゲル化時間は、ゲル化動態を増加させる役割を担う高温および低pHを用いて、多くの場合数日間から数週間を要した。それらの条件は、一部の生理活性分子の取り込みに適しているが、活性細胞のおよび不安定な生理活性分子の取り込みには緩慢過ぎる場合がある。
【0005】
したがって、当技術分野において、穏やかな生理学的条件で、迅速に絹フィブロインのゲル化を生じさせる方法が必要である。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、迅速に絹フィブロインのゲル化を生じさせる方法に関する。本方法は、ゲル化を開始させるのに十分な時間の超音波処理を含む処理に、絹フィブロインを曝露する。例えば、特定の条件下で、ゲル化は、超音波処理の24時間以内に起こる。
【0007】
本発明の一つの態様はまた、ゲル化を開始させるのに十分な時間の超音波処理を絹フィブロイン溶液に接触させることによって、絹フィブロインのゲル化時間を制御する方法にも関する。一つの例において、ゲル化時間は2時間を下回る。
【0008】
別の態様は、絹フィブロイン中に物質を封入する方法に関する。本方法は、ゲル化を開始させるための時間の超音波処理に絹フィブロイン溶液を曝露する段階、および絹フィブロイン溶液中で実質的なゲル化が起こる前に、物質を絹フィブロイン溶液に導入し、それによって絹フィブロイン封入された物質を形成する段階を含む。あるいは、物質は、音波処理の前に絹フィブロインに添加されてもよい。物質は、薬物等の治療剤、または細胞等の生物学的材料であり得る。例えば、ヒト骨髄由来の間葉系幹細胞(hMSC)は、音波処理後の絹フィブロインハイドロゲル中に取り込まれ、続いて迅速なゲル化が起こり、かつ細胞機能が維持されることに成功した。
【0009】
本発明の方法により生じるハイドロゲルは、良好な機械的性質およびタンパク質分解プロファイルの双方を示す。例えば、4%、8%および12%(w/v)の絹フィブロイン溶液は、音波処理され、その後、hMSCが添加され、0.5時間〜2時間以内にゲル化した。細胞は、21日間にわたって4%ゲル中で成長かつ増殖した。さらに、ゲル化を促進するために、低濃度のKおよび低pHを使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】様々な音波処理条件下での絹フィブロイン(SF)のゲル化を示す。0.5 mlの水溶性溶液を使用し、20%の振幅および5秒〜30秒の幅のある時間で音波処理を行った。値は、各群に関して、N=3試料の最小値の平均値±標準偏差である。*群の間の有意差を示す(スチューデントt検定、p<0.01)。
【図2】ゲル化プロセスの間の動的な絹β−シート構造の形成を示す。図2Aは、120分間の音波処理後に、8分毎に取得された波長スキャンを用いて、音波処理された2%(w/v)絹フィブロイン水溶性溶液における円偏光二色性(CD)の測定値を示す。図2Bは、時間に対して記録された、217 nm(β−シート構造のピーク)での楕円率増加の図表を示す。図2Cは、絹ゲル化のメカニズムの模式図である。ゲル化プロセスは、以下の二つの動態段階を含む。(a)短い時間枠内で生じるある鎖間の物理的架橋を伴う、ランダムコイルからβ−シートへの構造変化;(b)β−シート構造の拡張、大量の鎖間β−シート架橋の形成、および比較的長い時間枠にわたってゲル網状組織への分子の組織化。
【図3】絹フィブロインのゲル化に対する、塩およびpHの効果を示す。音波処理に先立ち、様々な濃度の溶液を、20 mM〜200 mMの最終濃度にK(図3A)およびCa2+(図3B)を用いて補足した。図3Cは、音波処理前の絹フィブロイン水溶性溶液のpHの調整効果を示す。全ての試料に関して、20%の振幅で15秒間音波処理を行った。値は、各群に関して、N=3試料の最小値の平均値±標準偏差である。*群の間の有意差(スチューデントt検定、p<0.05)。
【図4】絹フィブロインハイドロゲルの機械的性質を解析する図表を提示する。上部二つの図表は、音波処理されていないハイドロゲル由来の公表結果を示し、かつ下部の二つの図表は、本発明に従って音波処理されたハイドロゲルを示す。左側の二つの図表は、圧縮強度の効果を示し、かつ右側の二つの図表は、圧縮率の効果を示す。絹フィブロイン水溶性溶液から調製されたハイドロゲル(上部二つの図表)は様々な温度で行われ、音波処理されたハイドロゲル(下部二つの図表)は様々な音波処理において行われた。値は、N=3試料の最小値の平均値±標準偏差である。
【図5】絹フィブロインハイドロゲルの酵素分解を示す。4%、8%および12%(w/v)のハイドロゲルを音波処理によって調製し、かつPBS pH 7.4(対照)またはPBS中のプロテアーゼXIV(5 U/ml)のいずれかに7日間浸漬した。各時点でのゲルプラグの湿重量を元の湿重量と比較することによって、残留質量を決定した。値は、N=4試料の最小値の平均値±標準偏差である。
【図6】絹フィブロインハイドロゲル中に封入されたhMSCのDNA定量をグラフにより示す。各ゲル群中のDNA含量をPicoGreenアッセイ法を用いて解析し、結果を各ゲルプラグの湿重量によって正規化した。値は、N=4試料の最小値の平均値±標準偏差である。*群の間の有意差(スチューデントt検定、p<0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
詳細な説明
本発明は、本明細書において記載される特定の方法論、プロトコール、および試薬等に限定されず、それらは変動し得ることが理解されるべきである。本明細書において使用される用語は、特定の態様のみを記載する目的のためのものであり、かつ特許請求の範囲によってのみ定義される本発明の範囲を限定することを意図しない。
【0012】
本明細書および特許請求の範囲において使用される場合に、文脈によりそうでないと明確に示されない限り、単数形は複数参照を包含し、かつ逆もまた同様である。操作例以外においてまたは別途示される場合に、本明細書において使用される成分の量または反応条件を表す全ての数値は、全ての場合において「約」という用語によって修飾されるものとして理解されるべきである。
【0013】
全ての特許および同定された他の刊行物は、例えば本発明との関連において使用され得るそのような刊行物において記載される方法論を記載しかつ開示する目的のために、明確に参照により本明細書に組み入れられる。これらの刊行物は、本出願の出願日以前のそれらの開示のためのみに提供される。この点に関して、先行発明によるまたはいかなる他の理由のためのそのような開示に先行する資格を本発明者が与えられないことを承認すると見なされるべきものはない。これらの文書の日付に関する全ての記載または内容に関する表示は、本出願者に利用可能な情報に基づいており、かつこれらの文書の日付または内容の適正さに関してのいかなる承認ともならない。
【0014】
他にそうでないと定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者に一般的に理解されるものと同一の意味を有する。任意の公知の方法、装置および材料が本発明の実施または試験において使用され得るが、この点において、方法、装置および材料は本明細書において記載される。
【0015】
本発明は、迅速に絹フィブロインのゲル化を生じさせる方法に関する。該方法は、ゲル化を開始させるのに十分な時間の超音波処理を含む処理に絹フィブロインを曝露する。このアプローチは、時間的に制御可能な様式において、ゾル−ゲル遷移を促進するために使用される超音波処理に基づく方法を提供する。使用される音波処理パラメーター(エネルギー出力、持続時間等)と生理学的に妥当な条件内での絹フィブロイン濃度とに基づいて、ゲル化時間を数分間〜数時間まで制御することができる。音波処理後に、絹フィブロインは、ゲル化に対応するランダムコイルからβ−シートへの迅速な構造変化を受ける。例えば、治療剤または生物学的作用物質等の物質を、音波処理の前、間または後のいずれかに添加し、ゲル化の際に封入することができる。したがって、本発明は、細胞の封入が時間感受性であるもの等の様々な生物医学的適用に有用な方法を提供する。
【0016】
ハイドロゲルは、通常30%超の高い水分含量のために、組織工学および細胞の治療的適用のためなどの、細胞および生理活性分子の封入ならびに送達のための有用な足場であると考えられる(ParkおよびLakes, BIOMATS: INTRO.(2nd ed., Plenum Press, NY,1992))。これらの種類の適用において使用されるハイドロゲルは、一部の組織および細胞外マトリックス(ECM)に類似する機械的性質および構造的性質を有し、したがって、それらは組織の再生または治療因子の局所的放出のために移植され得る。細胞を封入しかつ送達するために、ハイドロゲルは、好ましくは、細胞を損傷することなく形成されるべきであり、細胞および周辺組織に対して無毒であるべきであり、生体適合性であるべきであり、栄養および代謝産物の拡散を可能にする適切な質量輸送能力を有するべきであり、移植に関連する操作に耐える十分な機械的統合性および強度を有するべきであり、制御可能な寿命を有するべきであり、かつ用途に依存して移植後の適度な時間、ゲル容量を維持すべきである(DruryおよびMooney, 24 Biomats. 4337−51 (2003))。
【0017】
ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(アクリル酸)(PAA)、ポリ(フマル酸プロピレン−エチレングリコール共重合体)(P(PF−co−EG))、およびアガロース、アルジネート、キトサン、コラーゲン、フィブリン、ゼラチンおよびヒアルロン酸(HA)のような天然由来の材料等の様々な合成材料が、ハイドロゲルを形成するために使用されている。ゲル化は、化学試薬(例えば、架橋剤)または物理的刺激(例えば、pHおよび/または温度)によって引き起こされる網状組織中にポリマー鎖が化学的または物理的のいずれかで架橋する際に起こる。合成ポリマーから形成されたハイドロゲルは、特定の分子量、ブロック構造、および架橋様式の使用によって、制御可能でかつ再生可能なゲル化およびゲルの性質の利点を提供する。一般に、天然由来のポリマーのゲル化は、それらの高分子性質が細胞外マトリックスにより密接に並べられ、かつ分解産物が無毒であるため、組織工学および移植可能な医療装置に関して、細胞および生理活性分子の担体として有用である傾向があるが、より制御不可能である(Lee et al., 221 Int'l J. Pharma. 1−22 (2001); Smidsrod et al., 8 Trends Biotech. 71−78 (1990))。
【0018】
天然の蚕繊維中の自己集合性構造タンパク質である絹フィブロインタンパク質は、その優れた機械的性質、生体適合性、制御可能な分解速度、および誘導可能な結晶性β−シート構造網状組織形成のため、天然由来の生物学的材料の中でも研究されてきた(Altman et al., 24 Biomats. 401−16 (2003); JinおよびKaplan, 424 Nature 1057−61 (2003); Horan et al., 26 Biomats. 3385−93 (2005); Kim et al., 26 Biomats. 2775−85 (2005); Ishida et al., 23 Macromolecules 88−94 (1990); Nazarov et al., 5 Biomacromolecules 718−26 (2004))。絹フィブロインは、フィルム、三次元多孔質の足場、エレクトロスパン繊維ならびに組織工学適用および薬物放出制御の適用の双方のための微粒子を含む様々な材料様式に製造されている(Jin et al., 5 Biomacromolecules 711−7 (2004); Jin et al., 3 Biomacro−molecules, 1233−39 (2002); Hino et al., 266 J. Colloid Interface Sci. 68−73 (2003); Wang et al., 117 J. Control Release, 360−70 (2007))。米国特許出願第11/020,650号;同第10/541,182号;同第11/407,373号;および同第11/664,234号;PCT/US07/020789;PCT/US08/55072も参照のこと。
【0019】
自然界では、絹フィブロイン水溶性溶液は、蚕分泌腺の後側区画中で産生され、続いて30%(w/v)までの濃度で中央区画に貯蔵され、かつ高い含量のランダムコイルまたはαへリックス構造を含む。空中への紡糸の間に、高いせん断力および伸長流によって、自己集合およびβ−シート構造への構造遷移が誘導され、強固な繊維の形成がもたらされる(VollrathおよびKnight, 410 Nature, 541−48 (2001))。金属イオンの存在と分泌腺の異なる区画におけるpHの変化とによって、この遷移が影響を受ける(Chen et al., 3 Biomacromolecules 644−8 (2002); Zhou et al., 109 J. Phys. Chem. B 16937−45 (2005); Dicko et al., 5 Biomacromolecules 704−10 (2004); Terry et al., 5 Biomacromolecules 768−72 (2004))。インビトロでは、精製された絹フィブロイン水溶性溶液は、β−シート構造への自己集合を起こし、かつハイドロゲルを形成する。このゾル−ゲル遷移は、温度、pH、およびイオン強度によって影響を受ける(Wang et al., 36 Int'l J. Biol. Macromol. 66−70 (2005); Kim et al., 5 Biomacromolecules 786−92 (2004); Matsumoto et al., 110 J. Phys. Chem. B 21630−38 (2006))。絹ハイドロゲルの圧縮強度および圧縮率は、絹フィブロイン濃度の増加および温度の上昇と共に増加する(Kim et al., 2004)。
【0020】
絹フィブロインのハイドロゲルは、多くの生物医学的適用の対象である。例えば、フィブロインのハイドロゲルは、ウサギ大腿遠位の臨界サイズの海綿状欠損を治癒する骨充填生体材料として使用され、そこで絹ゲルは、ポリ(D, Lラクチド−グリコリド)対照材料よりもより優れた骨折治癒を示した(Fini et al., 26 Biomats. 3527−36 (2005))。
【0021】
多くの細胞に基づく適用のために、ゲル化は、比較的短時間で(数時間以内に)穏やかな条件下で誘導されなくてはならない。しかしながら、天然の絹フィブロインタンパク質に対する化学修飾がない場合に非生理学的処理(低pH、高温、添加剤等)が考慮されない限り、絹のゲル化時間が極めて長い可能性がある。0.6%〜15%(w/v)までの絹フィブロイン濃度に関して、室温または37℃でのゾル−ゲル遷移のために数日から数週間が必要とされる(Kim et al., 2004; Matsumoto et al., 2006; Fini et al., 2005)。生理学的レベルを上回る濃度で塩を添加することによっては、ゲル化動態は有意に変化されない(Kim et al., 2004)。pHの低下(pH 5未満)または温度の上昇(60℃超)によって、ゲル化時間は数時間まで減少し得るが(Kim et al., 2004; Fini et al., 2005; Motta et al., 15 J. Biomater. Sci. Polymer. Edu. 851−64 (2004))、これらの条件は、細胞機能を改変しかつ細胞生存率に影響を及ぼす可能性がある。
【0022】
本発明において、プロセスを加速しかつ絹フィブロインのゲル化を制御する新規の方法が、超音波処理によって達成される。より具体的には、時間的に制御可能な様式において、ゾル−ゲル遷移を加速する新規の超音波処理に基づく方法が提示される。機械論的には、該プロセスは、フィブロインタンパク質鎖の疎水性水和作用における変化を介して、物理的なβ−シート架橋を誘導する。これにより、音波処理後の細胞の添加、その後の迅速なゲル化を可能にする。使用される音波処理パラメーター(エネルギー出力および持続時間)ならびに絹フィブロイン濃度に基づいて、ゲル化時間を数分間から数時間までに制御することができる。本方法は、ゲル化に対するpHおよび塩濃度の影響の操作と、ゲル化後の動的な絹構造の変化と、絹ゲル中のヒト骨髄由来の間葉系幹細胞(hMSC)等の封入された細胞の挙動とをさらに提供する。
【0023】
本発明に従って、任意の種類の絹フィブロインが使用されてもよい。ボンビクス・モリ(Bombyx mori)等の蚕によって産生される絹フィブロインが、最も一般的であり、かつ地球に優しい再生可能な資源の代表となる。生物から生じた蚕の繭は、市販されている。しかしながら、クモ絹糸、トランスジェニック絹糸、遺伝工学的絹糸およびそれらの変種を含む、代替的に使用され得る多数の異なる絹糸が存在する。水溶性絹フィブロイン溶液は、当技術分野において公知の技術を使用して、蚕の繭から調製されてもよい。絹フィブロイン溶液を調製するための適切な方法は、例えば、米国特許出願第11/247,358号;国際公開公報第2005/012606号;およびPCT/US07/83605において開示されている。例えば、絹生物ポリマーにおいて使用される絹は、B. モリ(B. mori)の繭由来のセリシンを抽出することによって得られてもよい。
【0024】
実質的なゲル化は、通常、超音波処理後の24時間以内に起こる。例えば、絹フィブロインゲルは、超音波処理後の2時間未満のような超音波処理後の4時間未満で生じる。特定の態様において、絹フィブロインは、超音波処理後の約5分〜約2時間までの範囲の時間でゲル化する。したがって、必要条件に依存して、溶液の調製に使用される超音波処理に基づくゲル化は数分間〜数時間までに起こり得る。
【0025】
超音波処理は、当技術分野において公知である。この適用のために、「超音波処理」および「音波処理」という用語は互換的に使用され、かつ同一の意味を持つ。超音波処理は、超音波処理を絹フィブロインに適用する当技術分野において公知の任意の様式で行われてもよい。超音波処理は、絹フィブロインを音波処理に一回曝露する段階を包含しても、または複数の別個の曝露を包含してもよい。音波処理は、タンパク質構造変化との関連で研究されており(Meinel et al., 71 J. Biomed. Mater. Res. A 25−34 (2004); Meinel et al., 88 Biotechnol. Bioeng. 379−91 (2004))、かつ大量の液気界面、局所的加熱効果、機械応力/せん断応力、およびフリーラジカル反応を引き起こすために使用されている。対照的に、ペプチドのゲル化に関連する他の研究において、ゲル中の集合ペプチドのナノ繊維は、音波処理によってより小さい断片に破壊された(Hung et al., 32 Ann. Biomed. Eng. 35−49 (2004))。ポリマーのゾル−ゲル遷移という状況において、音波処理は、典型的に、ゲル網状組織を破壊するためにかつハイドロゲルを再液化するために使用されている。本発明は、絹のゾル−ゲル遷移を誘導するために、音波処理の新規の使用を提供する。
【0026】
超音波処理は、ゲル化プロセスを開始させるために十分な時間持続すべきであるが、ハイドロゲルの機械的性質を損なうほど長くはない。典型的に、超音波処理は、使用される絹フィブロインの量、溶液の濃度、および当業者によって認識される他の因子に依存して、約5秒〜約60秒まで持続してもよい。例えば、超音波処理は約15秒〜約45秒まで持続する。ゲル化は典型的に、超音波処理の開始時に始まり、処理の終了後も継続する。
【0027】
超音波処理は、ゲル化プロセスを支援するための他の処理を包含してもよい。例えば、処理は、塩溶液を包含してもよい。塩溶液がゲル化の誘導において支援することは、当技術分野において公知である。カリウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、銅および/または亜鉛のイオンを含む典型的な塩溶液が、使用されてもよい。カリウムは、この状況における塩溶液において有利である場合がある。
【0028】
本処理はまた、水溶性のフィブロイン溶液のpHを調整する段階を包含する。当技術分野において公知であるように、水溶性溶液のpHの調整は、ゲル化の誘導において支援し得る。とりわけ、より高いかまたはより低いpHのいずれかにpHを調整することは効果的であり得る。したがって、例えば、約pH 4もしくはそれより低いpH、または約pH 7.5もしくはそれより高いpHを有する水溶性溶液が使用されてもよい。
【0029】
とりわけ、低濃度のかつ低pHのカリウム塩溶液を使用することは、多くの場合に効果的である。特定の態様は、塩濃度が100 mM未満であり、かつ溶液のpHが約pH 4またはそれより低いカリウム塩の使用に対するものである。
【0030】
本発明はまた、ゲル化が約2時間以内に起こる条件下で、ゲル化を開始させるのに十分な時間の超音波処理に絹フィブロイン溶液を接触させる段階によって、絹フィブロインのゲル化時間を制御する方法も提供する。音波処理プロセスは、絹フィブロイン鎖間の相互作用をもたらす。特定の態様は、絹フィブロインが超音波処理後の約5分間〜約2時間までの範囲の時間でゲル化するよう、ゲル化時間を制御する方法を提供する。
【0031】
さらに、様々な他の因子が、ゲル化時間を制御するために使用され得る。例えば、ゲル化時間は、超音波の振幅および絹フィブロイン溶液の濃度によって制御することができる。例えば、振幅は約25%〜約35%までの範囲の出力(典型的に、7ワット〜10ワット)であり、かつ絹フィブロインの濃度は約10%〜約15%(w/v)までの範囲である。別の態様において、振幅は約25%〜約55%までの範囲の出力(典型的に、7ワット〜21ワット)であり、かつ絹フィブロインの濃度は約5%〜約10%(w/v)までの範囲である。本出願を踏まえて、当業者は、所望のゲル化レベルおよびゲル化が起こる所望の時間枠をもたらすために、超音波処理の振幅および絹フィブロイン溶液の濃度を変更することが可能である。
【0032】
また、塩溶液を添加しかつ絹フィブロイン溶液の濃度および塩溶液の濃度を調整することによって、ゲル化時間を制御してもよい。塩溶液は、カリウムイオンを包含してもよいが、他の塩溶液を使用してもよい。特定の態様において、絹フィブロインの濃度は4%(w/v)であるかまたはそれより低く、かつカリウム塩溶液の濃度は、20 mM〜100 mMまでの範囲である。
【0033】
さらに、塩溶液がカリウムイオンを含む場合に特に、塩溶液の濃度およびpHを調整することによって、ゲル化時間を制御してもよい。特定の態様において、塩溶液は、pHが約pH 4のまたはそれより低いカリウム塩溶液である。例えば、カリウム塩溶液は、20 mM〜100 mMの濃度を有する。
【0034】
本発明はまた、絹フィブロイン中に、少なくとも一つの物質を封入する方法にも関する。本方法は、以下の段階を含む:
(a)ゲル化を開始させるための時間の超音波処理に絹フィブロイン溶液を曝露する段階;および
(b)絹フィブロイン中で実質的なゲル化が起こる前に、物質を絹フィブロイン中に導入し、それゆえに絹フィブロイン封入された物質を形成する段階。
物質は、超音波処理の前、間、または後に絹フィブロイン溶液中に導入されてもよい。
【0035】
物質は、絹フィブロインゲル中に封入されることが可能な任意の材料を表し得る。例えば、物質は、小分子および薬物等の治療剤、または細胞(幹細胞を含む)、タンパク質、ペプチド、核酸(DNA、RNA、siRNA)、PNA、アプタマー、抗体、ホルモン、増殖因子、サイトカインもしくは酵素等の生物学的材料であってもよい。封入された産物は、生物医学的目的に使用され得るため、治療剤または生物学的材料のいずれかを封入することが望ましい。
【0036】
大多数の治療剤は、音波処理によって不利な影響を受けないため、治療剤が封入される場合、治療剤は、超音波処理の前、間、または後に絹フィブロイン溶液中に導入され得る。それに対して、生物学的材料が封入される場合、生物学的材料は、音波処理によって不利な影響を受ける可能性があり、かつ典型的に、超音波処理の後まで絹フィブロイン溶液中に導入されてはならない。これは、全ての生物学的材料に関して必要ではない場合があるが、音波処理は、生存細胞を損傷するかまたは破壊することが公知であり、そのため慎重に適用される場合がある。
【0037】
超音波処理後に物質が導入される場合、超音波処理後しばらくしてゲル化が起こるように、超音波処理の条件が調整されてもよい。超音波処理の間またはそのすぐ後にゲル化が起こる場合、絹フィブロイン溶液中に物質を導入するための時間量が不十分である可能性がある。例えば、超音波処理後に物質が導入される場合には、絹フィブロインは、超音波処理後の約5分〜約2時間までの範囲の時間でゲル化する。
【0038】
超音波処理の前または間に物質が導入される場合、ゲル化は、超音波処理の間に、そのすぐ後に、または超音波処理後の時間に起こり得る。したがって、物質が超音波処理の前または間に導入される場合は、絹フィブロインは、超音波処理後の約2時間以内にゲル化してもよい。
【0039】
治療剤または生物学的材料を絹フィブロインに導入する場合、当技術分野において公知の他の材料も、物質と共に添加されてもよい。例えば、物質の増殖を促進する(生物学的材料に関して)ための、封入体から放出された後の物質の機能性を促進するための、または物質の封入期間中の有効性を残存させるもしくは保持する能力を増加させるための材料を添加することが望ましい場合がある。細胞増殖を促進することが公知の材料は、Dulbecco's Modified Eagle Medium(DMEM)、ウシ胎仔血清(FBS)、非必須アミノ酸および抗生物質等の細胞増殖培地を包含し、かつ繊維芽細胞増殖因子(FGF)、形質転換増殖因子(TGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、インスリン様増殖因子(IGF−I)、骨形成増殖因子(BMP)、神経成長因子および関連タンパク質等の増殖因子ならびに形態形成因子が使用されてもよい。ゲルを介する送達に対するさらなる選択肢は、DNA、siRNA、アンチセンス、プラスミド、リポソームおよび遺伝物質の送達のための関連システム;細胞シグナルカスケードを活性化するペプチドおよびタンパク質;無機化または細胞由来の関連事象を促進するペプチドおよびタンパク質;ゲル−組織界面を改善する接着ペプチドおよびタンパク質;抗菌ペプチド;ならびにタンパク質および関連の化合物を包含する。
【0040】
絹フィブロイン封入された治療剤または生物学的材料は、生体送達装置に適切である。絹フィブロインを生体送達装置として使用するための技術は、例えば、米国特許出願第10/541,182号;同第11/628,930号;同第11/664,234号;同第11/407,373号;PCT/US207/020789;PCT/US08/55072中に見出され得る。
【0041】
絹フィブロインのハイドロゲル構造によって、生体送達ビヒクルの放出の制御が可能になる。放出の制御によって、制御された放出の動態を有する、時間経過とともに投与される投薬処置が可能になる。一部の場合においては、治療剤または生物学的材料の送達は、処置が必要とされる部位に、例えば数週間に渡って継続する。好ましい処置を得るために、例えば数日間もしくは数週間またはそれより長い経時放出制御によって、治療剤または生物学的材料の継続的な送達が可能となる。制御送達ビヒクルは、例えばプロテアーゼによる体液および組織中のインビボでの分解から治療剤または生物学的材料を保護するので、都合がよい。
【0042】
さらに、音波処理を使用して絹のゲル形成を誘導するアプローチに関して、1%、2%、6%および20%(w/v)の濃度の0.5 mL絹フィブロイン水溶性溶液の試料を、下記のように音波処理した。出力を一定(20%の振幅)に保持した場合、絹フィブロインのゲル化時間は、音波処理時間の増加に伴い減少した(図1)。1%〜6%(w/v)までの絹濃度の増加毎に、ゲル化時間は有意に減少した(p<0.01 図1中の試料の間)。20%(w/v)試料は、6%(w/v)試料と同様かまたはさらにより長いゲル化時間を有した(図1)。20%試料に関するこの結果は、溶液の高い粘性による可能性が高く、したがって、音波処理の波が溶液中で効率的に伝播し得なかった。30%の振幅を上回る出力を用いた場合には、音波処理によって密集した泡沫が生成され、絹フィブロインは、均一な様式でゲル化しなかった。
【0043】
音波処理のための容量を5 mlに増加した場合には、55%の振幅ほどの高い出力レベルにおいてさえこの泡沫は観察されなかった。しかしながら、より高い濃度の溶液を5 mlを超える容量で音波処理した場合には、不均一なゲル化が起こった。少量の絹溶液(オートクレーブなし)を、音波処理の最適化およびゲルの性質決定(pH、塩効果およびCD測定)に使用し、かつオートクレーブした絹溶液を、機械性研究、分解研究および細胞封入研究に用いた。興味深いことに、元の溶液と比較した場合、オートクレーブ処理によって、使用された音波処理パラメーターおよび関連するゲル化時間が有意には変化せず、これは絹フィブロインタンパク質が、その元の溶液状態の構造の重要な性質、およびオートクレーブ後にゲルを形成する際にβ−シート状態への構造遷移能力を保持することを示唆した。オートクレーブ処理による構造変化をさらに調査してもよいが、この局面によって、薬学的生成物の商業的調製における簡便さが提供される。
【0044】
絹フィブロインのゲル化の間に、CD測定値の変化を観察することによってゾル−ゲル遷移をβ−シート形成の増加に関連付けた(図2A)。217 mmでの楕円率の増加に基づいて、音波処理後に迅速なβ−シート構造の形成、それに続くより遅い遷移が観察された(図2B)。絹フィブロインのゲル化は、初期の迅速なβ−シート構造の形成が遅くなったこの遷移点で起こった。この遷移は、以前に行われた研究(Matsumoto et al., 2006)と一致しており、類似のメカニズムが包含され得ることを示唆している。β−シート構造の形成は、疎水性相互作用の変化、およびその後の物理的架橋の変化に起因する。この初期段階には、初期の音波処理誘導性の変化と比較して、比較的長い時間枠内でのより遅い鎖の組織化およびゲル網状組織の形成が続く。この二段階の絹のゲル化メカニズムは、図2Cに模式的に示される。
【0045】
ゲル化の速度に影響を及ぼすように研究されたパラメーターは、天然の蚕の紡糸プロセスを再現する方法としてみなされ得る。重要なプロセスパラメーターは、蚕分泌腺の前方区分で増加したせん断力のための模倣としての音波処理の効果、陽イオンの種類および濃度、ならびにpHを包含する。
【0046】
音波処理において、機械的振動によって泡の形成および崩壊が引き起こされることが認められている。この空洞化の結果として、培地は、以下の極端な局所的効果:加熱(10,000 K)、高圧(200 bar)および高い歪み速度(107s-1)を受ける可能性がある(PaulusseおよびSijbesma, 44 J. Polym. Sci.−Polym. Chem. 5445−53 (2006); Kemmere et al., 290 Macromol. Mater. Eng. 302−10 (2005))。これらの物理的現象は、N−イソプロピルアクリルアミド/アクリル酸コポリマーの自己集合およびゲル化(Seida et al., 90 J. Appl. Polym. Sci. 2449−52 (2003))、メタル化ペプチドを含む有機液体(Isozaki 119 Angew Chem. 2913−15 (2007))ならびに合成自己集合ペプチド(Yokoi et al., 102 Proc Nat Acad Sci USA 8414−19 (2005))を含む様々な適用において、活用されている。ペプチドとは別に、ヒト血清アルブミンおよびミオグロビン等のタンパク質が、疾患状態に関連する凝集および自己集合を特徴付けるためのアプローチとして、音波処理を用いて研究されている(Stathopulous et al., 13 Protein Sci. 3017−27 (2004); MasonおよびPeters, PRACTICAL SONOCHEM: USES & APPL. ULTRASOUND (2nd ed., Chichester, West Sussex, UK (2002))。
【0047】
音波処理に応答するポリマーシステムの挙動の幅広さを考慮すると、局所的な温度の増加、機械的な力/せん断力および気液界面の上昇を含む音波処理に関連するいくつかの物理的因子が、絹フィブロインの迅速なゲル化プロセスに影響を及ぼす可能性が高い。とりわけ、音波処理で誘導される疎水性水和作用における変化は、β−シート形成に関連する初期の鎖相互作用等の加速した物理的架橋の形成をもたらすと考えられる。本研究においては、音波処理プロセスの間に、溶液温度が短時間(5分〜6分)で室温から40℃〜71℃まで上昇し、これは局所温度の一過的なスパイクを反映する。過去の研究において、音波処理なしで全部の試料が60℃で維持された場合にゲル化に数日間を要した(Kim et al., 2004)。したがって、局所的な温度効果は、増加したゲル化の動態に寄与する可能性が高いが、見出された短期間の反応を担っているだけではない。一過的な温度上昇によって影響される、疎水鎖の水和状態における局所的な鎖のダイナミクスおよび変化が、疎水性物理的架橋の形成を担っている可能性が高い。
【0048】
鎖内相互作用および鎖間相互作用の制御における水の重要な役割のため、絹フィブロイン鎖中の固有の疎水性ブロック配列の特徴は、この種の技術にとりわけ適切である(Jin et al., 2003)。音波処理制御された鎖集合プロセスに対する鎖化学的性質の影響を決定するために、この技術を他の生体ポリマーシステムに拡張することは、有用であり得る。再集合の研究を促進するために鎖を断片化する方法として、超音波処理に関連するコラーゲン分解が報告されている(Giraud−GuilleおよびBesseau, 113 J. Struct. Biol. 99−106 (1994))。本アプローチにおいては、SDS−PAGE解析に基づき、使用された短期間の音波処理プロセスのために有意な鎖分解をもたらさなかったことに留意されるべきである。
【0049】
音波処理に先立ち、絹フィブロインの水溶性溶液を、KおよびCa2+を用いて生理学的に妥当な様々な濃度まで補足した。図3Aに示されるように、低いK濃度(20 mM〜50 mM)では、K濃度の上昇に伴いゲル化時間が有意に減少した(p<0.05 *試料の間)。しかしながら、高いK濃度(100 mM〜200 mM)ではゲル化が阻害された(図3A)。これらの結果は、0.5%〜8%(w/v)の範囲の絹フィブロイン濃度に関して観察された。8%超では、ゲル化が全ての試料において急速に起こったため(2分未満)、いかなる塩効果も観察されなかった。Kと比較して、同一濃度のCa2+において、より遅い絹フィブロインのゲル化が誘導された(図3Aおよび3Bを比較のこと)。Ca2+濃度を20 mMから200 mMまで増加した場合に、絹フィブロインのゲル化時間は有意に減少した(p<0.05 図3B中の*試料の間)。対照的に、本アプローチにおける観察とは異なる結果であるが、以前の研究においては、Kはいかなる効果も有しなかったが、Ca2+は絹フィブロインのゲル化を促進した(Kim et al., 2004)。
【0050】
ゲル化に対する効果を決定するために、絹フィブロイン水溶性溶液のpHを音波処理に先立って調整した。pHの減少またはpHの増加のいずれかによって、ゲル化が促進された(p<0.05 図3C中の*試料の間)。ゲル化の誘導においては、以前の研究と一致して(Kim et al., 2004; Matsumoto et al., 2006)、より低いpH(pH 4未満)の効果が、より高いpH(pH 9超)よりもより顕著であった(p<0.05 図3C中の試料の間)。
【0051】
ゲルに対する機械性試験にもたらされた応力/歪み曲線は、定常領域の前で直線性を示し、これは亀裂形成によって永続的な損傷が誘導された後に、ゲルが大規模(約5%〜10%の歪み)のかつおそらく粘弾性の性質を有することを示唆している。本研究において製作されたゲルは、対応する絹フィブロイン濃度が降伏強さ(図4A)および「慣習的」弾性率(図4B)の双方に関して類似の値を得たという点において、以前の研究(Kim et al., 2004)において研究されたゲルと同様に機能した。両者の測定基準は、絹のゲル濃度に正に関連付けられるように見受けられた。検査によると、音波処理条件による変動よりもむしろ、絹フィブロイン濃度の相違(w/v)が最終的なハイドロゲルの機械的性質のより有意な決定因子であった(図4Aおよび4B)。同様に、平衡率の値は、絹ゲルの濃度に正に関連付けられているように見受けられた(図4C)。
【0052】
アルジネート、アガロース、ポリエチレングリコール架橋されたゲル、フィブリノゲン、および他のシステム等の他の分解可能な細胞封入性ハイドロゲルと比較される場合(AlmanyおよびSeliktar 26(15) Biomats. 4023−29 (2005); Kong et al., 24(22) Biomats. 4023−29 (2003); Hung et al., 2004; Bryant et al., 86(7) Biotechnol Bioeng 747−55 (2004); Kang et al. 77(2) J. Biomed. Mater. Res. A 331−39 (2006); Rowley et al., 20(1) Biomats. 45−53 (1999); Broderick et al., 72 J. Biomed. Mater. Res. B−Appl Biomater. 37−42 (2004); Zhang et al., 15 J. Mater. Sci. Mater. Med. 865−75 (2004))、高濃度の迅速に形成する絹ハイドロゲルは、優れた機械的性質を示した(表1)。「慣習的」な値または平衡率の値のいずれかが決定された、細胞封入プロトコールと機械性試験プロトコールと間の類似性に基づいて、データが収集された。
【0053】
(表1)細胞封入のために使用された分解可能ポリマー由来のゲルシステム間の機械的性質の比較

a5 mm直径×5 mm高さ。1.5 mm/分の変形速度、応力−歪み曲線のより低い部分(15%未満)の平均の傾きに基づく率。
b6 mm直径×2.4 mm高さ。2 mm/分の変形速度、応力−歪み曲線の初期部分の平均の傾きに基づく率。
c5 mm直径×1 mm高さ。荷重制御された40〜100 mN/分の変形速度。
d12.5 mm直径×1.5 mm高さ。荷重制御された25 mN/分の変形速度、初期の事前荷重力0.01 N〜0.25 Nの間で得られた傾きの絶対値と同等のヤング率。
e6 mm直径。0.5 mm/分の変形速度、応力−歪み曲線のより低い部分の平均の傾きに基づく率。
f12.7 mm直径×2 mm高さ。1 mm/分の変形速度。弾性率は、最初の10%の歪みに限定された応力対歪み曲線の傾きから得られた。
g10%の歪みにおいて平衡応力および初期の切断面領域から算出された平衡率。
【0054】
絹フィブロインフィルムの酵素(プロテアーゼXIV)分解、多孔質の固形足場、および絹フィブロイン撚り糸が、以前に研究された(Horan et al., 2005; Kim et al., 2005; Jin et al., 2005)。同一濃度のプロテアーゼ(5 U/mL)を使用して、全ての絹フィブロインハイドロゲルは、最初の4日間で約80%の質量損失、その後はかなりより遅い分解速度を伴う、迅速な分解を示した(図5)。ハイドロゲルの分解は、絹フィブロイン濃度に依存的であった。濃度を4%〜12%(w/v)までに増加した際、50%の質量損失に達する分解時間は、1.5日間〜3日間に増加した(図5)。プロテアーゼの代わりにPBS中で保温された絹フィブロインハイドロゲルの対照試料は、保温期間を通して安定であった(図5)。タンパク質分解プロセスによる絹ハイドロゲルの迅速な分解(数日以内の)は、創傷治癒シナリオまたは迅速な薬物送達の場合等の、一部の適用に適切であり得る。しかしながら、本明細書において議論されるタンパク質分解の分解時間はインビトロにおいてであり、対照的に、インビボの寿命は一般的により長く、かつ時間枠が組織特異的であると考えられることに留意されるべきである。
【0055】
hMSCは、組織修復または組織再生、および長期間の薬物放出に関するこの細胞の可能性のため、ポリエチレングリコール、アガロース、コラーゲンおよびアルジネート等の様々なハイドロゲルシステム中に封入されることに成功している(Nuttelman et al., 24 Matrix Biol. 208−18 (2005); Nuttelman et al., 27 Biomats. 1377−86 (2006); Mauck et al., 14 Osteoarthr. Cartilage 179−89 (2006); LewusおよびNauman, 11 Tissue Eng. 1015−22 (2005); Majumdar et al., 185 J. Cell Physiol. 98−106 (2000); Boison, 27 Trends Pharmacol. Sci. 652−58 (2006)を参照のこと)。4%(w/v)未満のタンパク質を含む絹ハイドロゲルは、物理的限界のため操作することが困難であった。したがって、hMSCの封入のために、4%、8%および12%(w/v)の絹フィブロインハイドロゲルを用いた。全ての三つのゲル濃度において、1日目には、細胞は元の円形および均一な分布を保持した。6日目に、12%ゲル中の一部の細胞で欠損が出現し、かつ細胞形態が変化した。21日目に、4%ゲル中の細胞は1日目と比較して不変であったが、8%および12%ゲル中の細胞は大部分が変形し、かつ凝集した。組織学的解析によって、4%ゲルのマトリックス内部のhMSCは円形を保持し、かつ研究の間中ずっと凝集しなかったが、ゲルの表面近傍のものはゲル外部に増殖し、かつ6日目から、円形状から紡錘体様形状に形態を変化させた。生存−死亡アッセイにおける緑色蛍光によって観察されるように、ゲル表面近傍の紡錘体様形状のもの、またはゲル中に封入された円形状のもののいずれも全てのhMSCが生存していた。したがって、少なくとも21日間、hMSCは、4%絹ハイドロゲルシステムにおいてその活性および機能を維持した。しかしながら、8%および12%ゲル中のhMSC1は大部分が形態的に変化し、かつ組織学的画像における空の空洞および生存−死亡アッセイにおいてほとんど存在しない緑色蛍光スポットによって観察されるように、それらの多数は死亡し、凝集し、かつ/または溶解した。いかなる細胞も封入されていない対照の絹ゲルは、生存−死亡アッセイにおいて、死細胞由来の赤色蛍光を蔽う強い赤色蛍光バックグラウンドを示した。
【0056】
これらの観察および結論は、DNAの定量化(PicoGreenアッセイ)によってさらに支持された(図6)。細胞は、最初の6日間に渡って、全ての三つのハイドロゲル中で有意に増殖した(p<0.05 図6中の*試料の間)。4%ゲルに関しては、6日後に細胞数の増加が停止したが、これは細胞増殖のための最大ゲル容量に達したことを示している。PEGおよびアルジネート等の他のハイドロゲルシステムにおいて、同様の現象が観察された(Nuttleman et al., 2006; Ramdi et al., 207 Exp. Cell Res. 449−54 (1993))。8%および12%ゲルに関して、細胞数は6日後に減少し、顕微鏡的観察結果、組織学的観察結果、および生存−死亡観察結果と一致していた。より高い濃度のゲル中での活性損失は、質量輸送限界による可能性が高いが、これらのより高いゲル濃度で加えられる機械的制限によるものでもある可能性がある。4%、8%および12%の絹ゲルの上部で増殖するhMSCは、対照細胞培養プレート上で増殖するものと同様の増殖速度を有し、かつ細胞形態(紡錘体形状)が全ての群の間で類似していたため、絹ゲルがhMSCに対して毒性であった可能性は排除され得る。より低いゲル濃度(1%および2%)を安定化させるための条件の最適化は、本明細書において提供される教示に続いて探索されてもよく、かつ様々な濃度の絹ゲルを介しての酸素および栄養素の拡散速度が、詳細に研究されてもよい。
【0057】
絹フィブロインハイドロゲルの迅速な形成を可能にする、超音波処理に基づく新規の方法が、本明細書において提供される。ゲル化は、音波処理の出力および持続時間に依存して、数分間〜数時間で誘導されることができた。疎水性水和作用における変化のため、ゲル化にはβ−シート構造の形成を伴った。低濃度のKおよび低pHによってゲル化速度が加速され、一方Ca2+の存在および高濃度のKによってゲル化が妨げられた。絹フィブロインのハイドロゲルは、圧縮率に基づいて、369〜1712 kPaの範囲において、以前に報告されたものよりも優れた機械的性質を有した。絹フィブロイン溶液濃度の増加に伴い、ゲルの機械的強度が増加した。4%(w/v)絹フィブロインのハイドロゲルは、hMSCの封入に適切であり、数週間にわたる静的培養条件において、細胞は生存力および増殖能を保持した。
【0058】
本発明は、態様の例証であることが意図される以下に続く実施例によって、さらに特徴付けられると考えられる。
【0059】
実施例
実施例1.絹フィブロイン溶液
絹フィブロイン水溶性貯蔵溶液を、以前に記載されたように調製した(Sofia et al., 54 J. Biomed. Mater. Res. 139−48 (2001))。簡単に、0.02 M炭酸ナトリウムの水溶性溶液中で、B. モリの繭を40分間煮沸し、続いて純水で完全にリンスした。乾燥後、抽出された絹フィブロインを60℃で4時間、9.3 M LiBr溶液中で溶解し、20%(w/v)溶液を得た。塩を除去するために、Slide−a−Lyzer透析カセット(MWCO 3,500, Pierce, Rockford, IL)を使用して、この溶液を蒸留水に対して2日間透析した。透析後、溶液は光学的に透明であり、繭に存在する通常は環境混入物由来の、プロセスの間に形成された少量の絹凝集物を除去するために、溶液を遠心分離した。絹フィブロイン水溶性溶液の最終濃度は、およそ8%(w/v)であった。乾燥後に公知の溶液容量の残留固形物を計量することによって、この濃度を決定した。水を用いて8%溶液を希釈し、より低濃度の絹溶液を調製した。より高濃度の絹溶液を得るために、Slide−a−Lyzer透析カセット(MWCO 3,500, Pierce)中の8%溶液を、10%(w/v)PEG(10,000 g/mol)溶液に対して室温で少なくとも24時間透析した(JinおよびKaplan, 2003; Kim et al., 2004)。所望の濃度に達するように、水を用いて容量を調整した。使用前には、全ての溶液を4℃で保存した。
【0060】
実施例2.様々な塩濃度およびpHを有する絹溶液
絹のゲル化に対する塩濃度の影響を決定するために、1 M KCl貯蔵溶液および1 M CaCl2貯蔵溶液を、20 mM〜200 mMの最終塩濃度に達するよう絹溶液に添加した。ゲル化に対するpHの影響を決定するために、絹溶液を1 M HClまたは1 M NaOH溶液を用いて滴定し、かつpHメーターを用いてpHをモニタリングした。
【0061】
実施例3.絹のゲル化条件に関するスクリーニング
様々な音波処理条件下での絹のゲル化を決定するために、1.5 mlエッペンドルフチューブ中の0.5 mLの絹(水)溶液を、Model 450 Power Supply、Converter(部品番号101−135−022)、1/2” Externally Threaded Disruptor Horn(部品番号101-147-037)および1/8”直径のTapered Microtip(部品番号101−148−062)からなるBranson 450 超音波細胞破砕装置(Branson Ultrasonics Co., Danbury, CT)を用いて音波処理した。出力は、10%〜50%の振幅(3ワット〜21ワット)で変動させ、かつ音波処理時間は、5秒〜30秒で変動させた。ゲル化に対する塩およびpHの効果を決定するため、上に記載されるように調製された0.5 mlの絹溶液を、20%の振幅(7ワット)で、かつ15秒音波処理した。音波処理後に溶液を37℃で保温し、チューブを回転させかつ溶液の不透明度変化を確認することによって、ゾル−ゲル遷移を視覚的にモニタリングした(Matsumoto et al.)。
【0062】
予備結果に基づいて、12%(w/v)までの絹フィブロイン濃度をより低い粘度を維持するために使用し、かつ12%溶液は、8%および4%試料よりもより急速にゲル化した。これらの結果は、以下の表2に示される。
【0063】
(表2)音波処理後の大容量(5 ml〜7 ml)絹フィブロイン水溶性溶液に関するゲル化時間

注意:少なくとも二回の独立実験に基づいてゲル化時間を予測し、平均化した。
【0064】
実施例4.円偏光二色性(CD)
2%絹(水)溶液の0.5 mlアリコートを、20%の振幅(7ワット)で30秒間音波処理し、直ちに0.01 mmの経路長のサンドイッチ石英セル(Nova Biotech, El Cajon, CA)にローディングした。Jasco−720 CD分光光度計(Jasco Co., Japan)を用いて、CD測定を実施した。100 nm/分の速度で4秒の蓄積時間を用い、37℃で全ての試料をスキャンし、4回の反復実験から結果を平均化した。絹のβシート構造形成の動態測定に関して、10秒毎のサンプリングで2.5時間、217 nmでの楕円率変化をモニタリングした。
【0065】
実施例5.機械性試験
機械性試験に適合させるために、大容量の絹ゲルを音波処理によって調製した。ガラスフラスコ中の4%、8%および12%(w/v)の絹溶液を、121℃で20分オートクレーブした。各々0.135 g/mlおよび0.037 g/mlの濃度まで、無菌Dulbecco's Modified Eagle Medium 粉末(DMEM粉末, Invitrogen, Carlsbad, CA)および炭酸水素ナトリウム(Sigma−Aldrich, St. Louis, MO)を用いて、オートクレーブした溶液を補足した。溶液の得られたpHは、pHメーターで確認し、pH 7.4であった。15 mlのFalconプラスチックチューブに7 mlのアリコートを添加し、続いて20%、30%、40%の振幅(各々、7ワット、10ワット、15ワット)で30秒間音波処理した。音波処理された溶液の6mlを小型培養皿に添加し(BD Falcon(商標),番号35−3001, BD Biosciences, Palo Alto, CA)、ゲル表面上の不透明な特徴および凝縮に基づきゲル化が完了するまで、細胞培養パラメーターを見積もるために37℃インキュベーター中で視覚的にモニタリングした。続いて、ゲル化後すぐに、機械性試験のために9.525 mm直径のプラグ(2 mm〜3 mmの高さ)を穿孔した。試験に先立ち1時間超、完全DMEM溶液(Gibco/Invitrogen)中でゲルプラグを事前に適当な状態にした。
【0066】
保存のため、全ての試料をDMEM中に浸漬し、24時間以内に試験した。非拘束圧縮圧盤および100 N 荷重変換器が装備された3366 Instron装置(Norwood, MA)で、試料を評価した。1 mm/分の伸張速度で、圧縮伸張方法を用いた。圧縮応力および歪みを決定し、半自動的技術に基づいて弾性率を算出した。ダイアグラムの初期の直線状部分を超えて設定されたカットオフ応力レベル以下で、応力−歪みダイアグラムを8つの区画に分割した。最小二乗フィッティングを使用して、これらの8つの区画の中で最も高い傾きを、試料の圧縮率と定義した。オフセット降伏アプローチを使用して、圧縮強度を決定した。該率の線に対して平行に直線を引いたが、試料の標準長の0.5%分オフセットであった。オフセット線が応力−歪み曲線と交差する対応する応力値を、足場の圧縮強度と定義した。ASTM法F451−95に基づく改変に従って、この試験を行った。
【0067】
機械的性能に対する音波処理条件の影響を評価するために、二つの非拘束圧縮試験体制を追究した。第一に、慣習的な材料剛性の性質を引き出すために、かつ損傷応答を観察するために、歪み損傷試験を用いた(AlmanyおよびSeliktar 26(15) Biomats. 2467−77 (2005); Kong et al., 24(22) Biomats. 4023−29 (2003))。第二に、Hung らの試験パラメーターに基づいて平衡率の性質を評価するために、応力弛緩試験を用いた(32 Ann. Biomed. Eng. 35−49 (2004))。総合して、これらの測定法によって、細胞の封入のために使用される他の分解可能なハイドロゲルの公表された性質に対する、広範な比較が提供される。報告された各群に関して、N=4の試料を評価し、非拘束圧縮圧盤および100 N 荷重変換器が装備された3366 Instron装置(Norwood, MA)で試験し、試料データをBluehill Software Version 2.0を使用して移出した。
【0068】
歪み損傷試験に関しては、規準自重荷重に到達し、かつ試料の高さが記録された後に開始され、1 mm/分の伸張制御された速度で各試料を圧縮した。試料の幾何学的配置に対して正規化することによって、圧縮応力および歪みを決定し、各々の応力/歪み曲線の5%の歪み部分で確立される接線の傾きとして、「慣習的」弾性率を算出した。2%の歪みによる接線に平行な線をオフセットすることによって、降伏強さを決定した。ここで応力/歪み反応と交差するオフセット線を、降伏強さ(損傷発生と一致する)と定義した。応力弛緩試験に関して、試料をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に浸漬し、規準自重荷重下で200秒間放置した。その後10%の歪みに達するまで、試料を1 mm/秒で圧縮し、20分間保持した。10%の歪みによる弛緩応力を正規化することによって、平衡率を算出した。
【0069】
実施例6.絹ゲルのインビトロ酵素分解
4%、8%、12%(w/v)の絹ゲルプラグ(直径=4 mm;高さ=2 mm〜3 mm)を上に記載されるように調製し、続いて24ウェルプレート中で1 mLのプロテアーゼXIV(Sigma−Aldrich)溶液に浸漬した。5 U/mLの濃度に達するように酵素粉末をPBSに溶解することによって、プロテアーゼ溶液を新たに調製し、24時間毎に新規調製された溶液と置換した。また24時間毎に新調される1 mLのPBSに、対照プラグを浸漬した。全ての試料を、37℃で保温した。1日目、2日目、3日目、4日目および7日目に、4個のプラグを水で洗浄し、ゲル表面上の過剰な水を除去するためにティッシュペーパーで拭き取り、計量した。
【0070】
実施例7.絹ゲル中でのhMSC播種および培養
以前に記載されたように、同意ドナー由来の新しい全骨髄吸引液(Clonetic−Poietics, Walkersville, MD)からhMSCを単離し(Meinel et al., 71 J. Biomed. Mater. Res. A 25−34 (2004); Meinel et al., 88 Biotechnol. Bioeng. 379−91 (2004))、90% DMEM、10%ウシ胎仔血清(FBS)、0.1 mM非必須アミノ酸、100 U/mLペニシリン、1000 U/mLストレプトマイシン、0.2%ファンギゾン抗真菌剤、および1 ng/mL塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含む増殖培地中で培養拡大した。使用の前に、継代数3〜4回の細胞を培養フラスコからトリプシン処理し、5×107細胞/mLの細胞密度を得るためにDMEMで再懸濁した。15 mLの4%、8%および12%(w/v)の絹溶液を蒸気滅菌(オートクレーブ)し、上に記載されるようにDMEM粉末および炭酸水素ナトリウムを用いて補足した。15 mLファルコンプラスチックチューブに、5 mLのアリコートを添加し、各絹濃度に関して合計で二つのチューブ(対照および播種された細胞)を調製した。50%の振幅で30秒間、層流フード中で4%(w/v)絹溶液(5 mL)を音波処理し、30分間の保温の後、溶液を同一条件下で再度音波処理した。二回目の音波処理の後、5分〜10分以内に溶液を室温に冷却し、続いて50 mLの細胞懸濁液を添加し、5×105細胞/mLの最終濃度に達するように音波処理された絹溶液と混合した。同一の様式で対照試料を音波処理したが、細胞懸濁液の代わりに50 mLのDMEMを音波処理後に添加した。各試料群に関して調製された合計3つのウェルを用いて、混合物の1.5 mLアリコートを、12ウェル細胞培養プレートに迅速にピペット分注した。8%および12%(w/v)溶液を、各々、40%および30%の振幅で、30秒間一回音波処理した。hMSC懸濁液の50 mlアリコートを添加し、上に記載されるように混合物をプレートした。続いて、全てのプレートを37℃および5% CO2で保温した。
【0071】
0.5時間〜2時間以内にプレート中で絹がゲル化した後は、小型プラグ(直径=4 mm;高さ=2〜3 mm)をゲルから穿孔し、新規の24ウェルプレートのウェルに配置した。続いて、90% DMEM、10% FBS、0.1 mM非必須アミノ酸、100 U/mLペニシリン、1000 U/mLストレプトマイシン、0.2%ファンギゾン抗真菌剤を含む1 mLの増殖培地中で、プラグを37℃および5% CO2で培養した。顕微鏡画像化のために、0.5 mLの容量の絹ゲルに封入されたhMSCを24ウェルプレート中で調製し、1 mLの同一増殖培地中で、かつ上と同一条件下で培養し、所望の時点で画像を取得した。
【0072】
実施例8.絹ゲル中に封入されたhMSCの解析
位相差顕微鏡−
培養の2日目、6日目、14日目および21日目で、Sony Exwave HAD 3CCDカラービデオカメラが装備された位相差光学顕微鏡(Carl Zeiss, Jena, Germany)によって、細胞形態をモニタリングした。
【0073】
細胞増殖−
DNAアッセイによって細胞増殖を評価した。簡単に、各時点で、各群由来の4個のゲルプラグを、PBS、pH 7.4を用いて洗浄し、計量し(湿重量)、氷中でマイクロシザーを用いて細断した。製造者の使用説明書に従いPicoGreenアッセイ(Molecular Probes, Eugene, OR)を使用して、DNA含量(N=4)を測定した。480 nmの励起波長および528 nmの発光波長で、試料を蛍光定量的に測定した。同一アッセイで得られた標準曲線に基づいてDNA含量を算出し、各ゲルプラグの湿重量によってさらに正規化した。
【0074】
細胞生存率:
ゲルプラグ中のhMSCの生存率を、生存/死亡アッセイ(Molecular Probes, Eugene, OR)によって検査した。簡単に、培養終了時に、hMSCが播種された各群のゲルプラグをPBSで洗浄し、二等分に切断し、PBS中の2 mMカルセインAM(生存細胞の染色)および 4 mMエチジウムホモダイマー(EthD−1、死細胞の染色)中で、37℃で30分間保温した。Lasersharp 2000ソフトウェアを有する共焦点顕微鏡(Bio−Rad MRC 1024, Hercules, CA)によって、切断されたゲルの切片を画像化した(励起/発光〜495 nm/〜515 nm)。一連の水平切片から深度投影顕微鏡写真を獲得し、明確に定義された細胞コロニーの全高に基づいて、互いに様々な距離で(1μm〜10μmの漸増)画像化した。様々な深度での静止画像を取り込み、「z軸積み重ね」編集画像に関して、後に一連の顕微鏡写真を組み合わせた。
【0075】
組織学
細胞を播種された絹ゲルをPBS中で洗浄し、組織学的解析の前に、10%中性緩衝ホルマリン中で2日間固定した。一連の段階的エタノールによって試料を脱水し、パラフィン中に包埋し、5 mmの厚さで薄片に切断した。組織学的評価のために、切片を脱パラフィン化し、一連の段階的エタノール処理によって再水和し、ヘマトキシリンおよびエオシン(HおよびE)を用いて染色した。
【0076】
実施例9.統計
スチューデントt検定を使用して、統計学的解析を行った。pp0.05の場合、差異が有意であると見なされ、かつpp0.01の場合は、極めて有意であると見なされた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、迅速に絹フィブロインのゲル化を生じさせる方法:
実質的な絹フィブロインのゲル化が超音波処理後の24時間未満で生じる、
ゲル化を開始させるのに十分な時間の超音波処理を含む処理に絹フィブロインを曝露する段階。
【請求項2】
絹フィブロインのゲル化が、超音波処理後の2時間未満で生じる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
絹フィブロインが、超音波処理後の約5分間〜約2時間までの範囲の時間でゲル化する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記処理が塩溶液をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
塩溶液が、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、銅、亜鉛およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるイオンを含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
絹フィブロインが、約pH 4もしくはそれより低いpH、または約pH 7.5もしくはそれより高いpHを有する水溶性溶液の形態である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
塩がカリウムであり、
塩濃度が100 mM未満であり、かつ
塩濃度のpHが約pH 4またはそれより低い、
請求項5記載の方法。
【請求項8】
以下の段階によって、絹フィブロインのゲル化時間を制御する方法:
絹フィブロインが約2時間以内に実質的にゲル化する、
ゲル化を開始させるのに十分な時間の超音波処理に絹フィブロイン溶液を接触させる段階。
【請求項9】
絹フィブロインが、超音波処理後の約5分間〜約2時間までの範囲の時間でゲル化する、請求項8記載の方法。
【請求項10】
超音波処理の振幅および絹フィブロイン溶液の濃度によって、ゲル化時間を制御する、請求項8記載の方法。
【請求項11】
前記処理が塩溶液をさらに含む、請求項8記載の方法。
【請求項12】
絹フィブロイン溶液の濃度および塩溶液の濃度によってゲル化時間を制御する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
絹フィブロインの濃度が4wt%またはそれより低く、
塩溶液がカリウムイオンを含み、かつ
カリウム塩溶液の濃度が20 mM〜100 mMまでの範囲である、
請求項12記載の方法。
【請求項14】
塩溶液の濃度およびpHによってゲル化時間を制御する、請求項11記載の方法。
【請求項15】
塩溶液がカリウムイオンを含み、
カリウム塩溶液の濃度が20 mM〜100 mMに及び、かつ
溶液のpHがpH 4またはそれより低い、
請求項14記載の方法。
【請求項16】
以下の段階を含む、少なくとも一つの物質を絹フィブロイン中に封入する方法:
ゲル化を開始させるための時間の超音波処理に絹フィブロイン溶液を接触させる段階;および
絹フィブロイン溶液中で実質的なゲル化が起こる前に、絹フィブロイン溶液に該物質を導入して、絹フィブロイン封入された物質を形成する段階。
【請求項17】
前記物質が、治療剤もしくは生物学的材料またはその両者である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記物質が、細胞、タンパク質、ペプチド、核酸、PNA、アプタマー、抗体、ホルモン、増殖因子、サイトカイン、酵素、抗菌性化合物、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも一つの生物学的材料である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記細胞が幹細胞である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
細胞増殖培地が、生物学的材料と共に絹フィブロイン中に導入される、請求項18記載の方法。
【請求項21】
前記物質が、小分子、薬物およびそれらの組み合わせからなる群より選択される治療剤である、請求項17記載の方法。
【請求項22】
絹フィブロイン封入された生物学的材料が、生体送達装置に適切である、請求項16記載の方法。
【請求項23】
実質的なゲル化が約2時間以内に起こる、請求項16記載の方法。
【請求項24】
実質的なゲル化が、約5分間〜約2時間までの範囲の時間内に起こる、請求項16記載の方法。
【請求項25】
前記処理が塩溶液をさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項26】
絹フィブロインが、約pH 4もしくはそれより低いpH、または約pH 7.5もしくはそれより高いpHを有する水溶性溶液の形態である、請求項16記載の方法。
【請求項27】
以下の段階を含む、少なくとも一つの物質を絹フィブロイン中に封入する方法:
絹フィブロイン溶液に該物質を導入する段階;および
ゲル化を開始させるための時間の超音波処理に絹フィブロイン溶液を接触させて、絹フィブロイン封入された物質を形成する段階。
【請求項28】
前記物質が、小分子、薬物およびそれらの組み合わせからなる群より選択される治療剤である、請求項27記載の方法。
【請求項29】
実質的なゲル化が約2時間以内に起こる、請求項27記載の方法。
【請求項30】
実質的なゲル化が約5分間〜約2時間までの範囲の時間内に起こる、請求項27記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−529230(P2010−529230A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510483(P2010−510483)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際出願番号】PCT/US2008/065076
【国際公開番号】WO2008/150861
【国際公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(303043726)トラスティーズ オブ タフツ カレッジ (26)
【Fターム(参考)】