説明

音波増幅器

【課題】 本発明は、音波において位相、波長のそろった高指向性な音波増幅器を得ることを目的にしている。
【解決手段】 基板1上に音波を伝搬する音波導波路2を形成すると共に、音波導波路2を挟んだ両側に光を伝搬する光導波路3を形成し、音波発生器11から音波導波路2に音波を導入して増幅する音波増幅器であって、音波導波路2には入射端と出射端に音波の反射板14、15を設け、両反射板14、15間で音波によりグレーティングを形成し、各光導波路3、4には音波の振動数に合致した位相差を有する異なる波長の光をそれぞれ伝搬させ各光の作用により音波の誘導放出を連続的に発生させ、増幅する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコヒーレントな音波を発生する音波増幅器に関し、より詳細には光導波路の光の作用により音波誘導放出を発生させて、音波を増幅する音波増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電体などを用いて音波を発生させる音波発生器は良く知られている。しかし、従来の音波発生器では、位相や波長のそろったコヒーレントな音波を発生させることはできなかった。また、出射強度もあまり大きくできなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
電磁波においては、LASERやMASERがあって、位相、波長のそろったコヒーレントな光等を得ることができる。音波においても、指向性があってコヒーレントな音波であって、かつ出射強度の大きい音波増幅器の開発が期待される。
【0004】
本発明は、音波において位相、波長のそろった高指向性な音波増幅器を得ることを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明に係る音波増幅器は、基板上に音波を伝搬する音波導波路を形成すると共に、該音波導波路を挟んだ両側に光を伝搬する光導波路を形成し、音波発生器から上記音波導波路に音波を導入して増幅する音波増幅器であって、
上記音波導波路には入射端と出射端にそれぞれ音波の反射板を設け、該両反射板間で上記音波によりグレーティングを形成し、上記各光導波路は上記音波の振動数に合致した位相差を有する異なる波長の光がそれぞれ伝搬されるように設定し、該各光の作用により上記音波の誘導放出を連続的に発生させ、増幅することを特徴として構成されている。
【0006】
また、本発明に係る音波増幅器は、上記基板はLiNbO3からなり、上記音波導波路及び光導波路はTi:LiNbO3からなると共に、上記音波の反射板はアコースティックインピーダンスまたは音速の異なる媒質を音波の伝搬波長の1/4の厚さで交互に積層してなることを特徴として構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の音波増幅器によれば、各光導波路の光が音波により形成されたグレーティングによって位相整合を起こし、それによって音波の誘導放出を発現しているので、従来の音波発生器では得られなかった位相、波長のそろった高指向性でかつ出射強度の大きい音波を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の実施形態について図面に沿って詳細に説明する。図1には本実施形態における音波増幅器の基本的な概念図を示す。図1に示す音波増幅器は、音波に対する増幅器なので、光に対する増幅器であるLASERに対し、SASER(Sonic Amplification by Stimulated Emission of Radiation)と称する。
【0009】
図1に示すように、音波増幅器の基本的構成としては、音波導波路の両側にそれぞれ第1の光導波路と第2の光導波路を設け、音波導波路の音波の入射端、出射端の両方に部分反射板を、設けている。
【0010】
音波導波路内に導入された周波数ωで波数qの音波は、両端の各反射板間において反射を繰り返す。音波は、空気の粗密波であるから、空気の密度差による所定のパターンが形成されることになる。このパターンは、光導波路内の光からは屈折率差グレーティングと見ることができる。
【0011】
ここで、第1の光導波路は周波数がω1で伝搬定数がβ1の光を導入し、一方で第2の光導波路は周波数がω2で伝搬定数がβ2の光を伝搬できるように設定する。第1の光導波路の光と、第2の光導波路の光、及び音波導波路に形成されるグレーティングにおける位相整合条件は、β1=q+β2(式1)とω1=ω+ω2(式2)の両方を満たすことである。式1は運動量保存を、式2はエネルギー保存をそれぞれ表している。これらの条件を満たすことで、光導波路により伝搬される光に位相整合が生じる。このように光導波路に伝搬される光による位相整合を生じさせることにより、音波の誘導放出がなされる。
【0012】
この状態では音波導波路の両端に設けられた音波の反射板間において、LASERにおけるファブリペロー共振器条件に相当する条件を満たすことで、音波の発振が励起される。このようにして発振・増幅された音波を、音波増幅器の出射端に設けられた音波半反射板から出射することにより、誘導放出により位相、波長のそろった音波が得られる。
【0013】
図2には本実施形態における音波増幅器の具体的な構成図を示す。この図に示すように本実施形態における音波増幅器は、基板1上に音波導波路2を形成し、この音波導波路2を挟むように第1の光導波路3と第2の光導波路4をそれぞれ形成し、さらに音波発生器11とレーザ12を設けてなるものである。
【0014】
基板1は、LiNbO3によって形成され、音波導波路2及び光導波路3については、Ti:LiNbO3によって形成されている。また、音波導波路2における音波の入射端及び出射端にはそれぞれ音波の反射板14、15が設けられる。音波導波路2の音波の入射端には、音波を部分反射させる反射板14が設けられ、音波導波路2の音波の出射端には、音波の一部を反射させる反射板15が設けられる。これらの反射板14、15は、アコースティックインピーダンスまたは音速の異なる媒質を、発生させたい音波周波数に対応する伝搬波長の1/4の厚さで交互に積層してなるものである。積層数により反射率をコントロールすることができる。
【0015】
音波発生器11は、従来と同様のものであって、圧電素子等により周波数がωで音波導波路中波数がqの音波を発生させるものである。この音波発生器11から発生した音波は、音波導波路2に対し反射板14を通過して導入される。これにより導入された音波は、音波導波路2内において両反射板14、15間で反射を繰り返し、光に対するグレーティングを構成する。
【0016】
レーザ12は、通常の半導体レーザである。レーザ12により発生した周波数ω1の光L1は、第1の光導波路3に導かれる。また、周波数ω2の光L2は、第2の光導波路4に導かれる。
【0017】
ここで、光L1,L2の波長を数μmに設定した場合、誘導放出によって増幅することのできる音波周波数は数GHzであって、音波導波路長は数十μm程度以上に形成する。音波の周波数は光の周波数に比べて無視できる程度に小さいので、周波数の整合条件(式2)については、ほぼ自動的に満たされる。音波導波路2を数μm程度に形成した場合、誘導放出によって増幅することのできる音波は、周波数が数GHzであって、波長は数μmのものとなる。
【0018】
この状態で音波導波路2の両端の音波の反射板14、15間において、ファブリペロー共振条件を満たすことにより、音波の発振が励起される。このようにして誘導放出で音波を増幅することにより、位相、波長のそろった高指向性で出射強度の大きい音波を得ることができる。
【0019】
本発明に係る音波増幅器は、コヒーレントな超音波を発振する音源として応用することができる。このような音源は、超音波を用いて音波と物質の相互作用を調べる実験等において用いられることが想定される。以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の適用は本実施形態には限られず、その技術的思想の範囲内において様々に適用されうるものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態における音波増幅器の基本概念図である。
【図2】本発明の実施形態における音波増幅器の斜視図である。
【符号の説明】
【0021】
1 基板
2 音波導波路
3 第1の光導波路
4 第2の光導波路
11 音波発生器
12 レーザ
14 反射板
15 反射板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に音波を伝搬する音波導波路を形成すると共に、該音波導波路を挟んだ両側に光を伝搬する光導波路を形成し、音波発生器から上記音波導波路に音波を導入して増幅する音波増幅器であって、
上記音波導波路には入射端と出射端にそれぞれ音波の反射板を設け、該両反射板間で上記音波によりグレーティングを形成し、上記各光導波路は上記音波の振動数に合致した位相差を有する異なる波長の光がそれぞれ伝搬されるように設定し、該各光の作用により上記音波の誘導放出を連続的に発生させ、増幅することを特徴とする音波増幅器。
【請求項2】
上記基板はLiNbO3からなり、上記音波導波路及び光導波路はTi:LiNbO3からなると共に、上記音波の反射板はアコースティックインピーダンスまたは音速の異なる媒質を音波の伝搬波長の1/4の厚さで交互に積層してなることを特徴とする請求項1記載の音波増幅器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−5631(P2006−5631A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179353(P2004−179353)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】