説明

音源定位制御プログラムおよび音源定位制御装置

【課題】移動するキャラクタなどの音源が停止したことを定位位置の制御によって強調することが可能な音源定位制御装置を提供する。
【解決手段】音声が入力される音声入力部と、音声の音源の位置を取得する音源位置取得部と、音声の特性を所定の定位位置から特定の受音点に到達した場合の特性に加工する処理部であって、音源の移動中および停止中は音源の位置を定位位置とし、音源が停止したとき、所定時間、その停止位置近傍で定位位置を移動させる定位感強調処理を行う定位制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、音声の発生源である音源の聴感上の位置を制御する音源定位制御プログラムおよび音源定位制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲーム機やパソコンなどで実行されるビデオゲームは、必ず音声を伴っている。特に、対戦相手の敵キャラクタが発する声などの音声はゲームにおいて重要である。そこで、従来より、ゲーム装置では、これらの音声をその発音位置に定位させるように特性を制御して出力することで、音響的なリアリティを実現している(たとえば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−245984号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなゲーム装置では、キャラクタが移動するとき、それに伴って音声の定位も移動するため、キャラクタの移動を聴覚的に認識することができるが、キャラクタが停止すると、それに伴って音声の定位も移動を停止するのみであるため目立たず、キャラクタの停止を聴覚的に認識することが困難であった。しかし、例えば音声を発するキャラクタがゲーム映像から外れた位置にいる場合など、ゲームの進行上、キャラクタが停止したことを強調したい場合もある。
【0005】
この発明は、移動するキャラクタなどの音源が停止したことを定位位置の制御によって強調することが可能な音源定位制御プログラムおよび音源定位制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明の第1の側面によって提供される音源定位制御プログラムは、コンピュータを、音声を入力する音声入力手段、該音声の音源の位置を取得する音源位置取得手段、前記音声の特性を、該音声が所定の定位位置から特定の受音点に到達した場合の特性に加工する手段であって、前記音源が停止することを契機として定位感強調処理を施す定位制御手段、として機能させることを特徴とする。
【0007】
上記発明において、コンピュータを仮想の空間を生成する仮想空間生成手段としてさらに機能させ、前記音源の位置および前記受音点の位置を、前記仮想の空間内の位置としてもよい。
【0008】
本願発明の第2の側面によって提供される音源定位制御プログラムは、コンピュータを、仮想の空間を生成する仮想空間生成手段、前記仮想の空間内で活動するオブジェクトの位置を取得するオブジェクト位置取得手段、該オブジェクトが発する音声を入力する音声入力手段、前記音声の特性を、該音声が所定の定位位置から特定の受音点に到達した場合の特性に加工する手段であって、前記オブジェクトが停止することを契機として定位感強調処理を施す定位制御手段、として機能させることを特徴とする。
【0009】
上記発明において、受音点を移動させてもよく、この場合に、音源の停止を音源及び受音点の相対速度に基づいて判定したり、定位感強調処理を、音源及び受音点の相対位置について行うようにしてもよい。また、定位感強調処理は、種々の態様で行うことが可能であるが、定位位置を振動させるようにしてもよい。
【0010】
上記発明において、定位制御手段は、音源(オブジェクト)の移動中および停止中はその音源(オブジェクト)の位置を前記定位位置とし、その音源(オブジェクト)が停止したとき、その停止位置近傍で前記定位位置を移動させるようにしてもよい。
【0011】
本願発明の第3の側面によって提供される音源定位制御装置は、音声が入力される音声入力部と、前記音声の音源の位置を取得する音源位置取得部と、前記音声の特性を、該音声が所定の定位位置から特定の受音点に到達した場合の特性に加工する処理部であって、前記音源が停止することを契機として定位感強調処理を施す定位制御部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、音源や音声を発するオブジェクトが停止したこと、及び、その停止位置が、音声の振動によって強調される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のゲームプログラムによって生成される仮想空間を説明する図である。
【図2】ゲームプログラムがインストールされるゲーム機の外観図である。
【図3】ゲーム機のブロック図である。
【図4】ゲームプログラムとゲーム機で構成されるゲーム装置の構成を示す図である。
【図5】音源から聴取者に到達する音声の経路を説明する図である。
【図6】定位感強調処理を説明する図である。
【図7】ゲーム装置の動作を示すフローチャートである。
【図8】停止判定処理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照してこの発明の実施形態であるゲームプログラムおよび該ゲームプログラムとゲーム機(ハードウェア)によって構成されるゲーム装置(ゲームシステム)について説明する。この実施形態では、ゲームプログラムのうち音声を発するオブジェクトの移動とその音声の定位制御について説明する。ゲームプログラムによって実行されるゲームは、通常、ユーザ(プレイヤ)操作に応じてオブジェクトが移動し、敵と戦闘したりゴールに向けて走ったりすることで進行するが、本実施形態では、ゲームの進行についての説明は省略する。
【0015】
図1はこの実施形態であるゲーム装置によって生成されるゲーム空間100を説明する図である。後述のゲーム機1でゲームプログラム50(後述)が実行されることにより、ゲーム空間100が生成される。ゲーム空間100は、三次元(3D)であり、たとえば建物の中や野原など、そのゲームのステージが展開される空間として生成される。
【0016】
ゲーム空間100内に、音声を発するオブジェクト120が生成される。オブジェクト120は、たとえば敵キャラクタやノンプレイヤキャラクタなどであり、その活動に伴って音声126を発する。すなわち、オブジェクト120は音源125でもある。音声126は、たとえば鳴き声や移動に伴う足音や走行音などである。なお、この実施形態では、音源125を外観を有するオブジェクト120と一体のものとしているが、音源125を外観を持たない発音源(sound source)のみのものとしてもよい。オブジェクト120は、ゲーム空間100内を所定の制御によって移動する。移動経路は例えば曲線121のようであり、自由に移動/停止を繰り返す。
【0017】
また、ゲーム空間100内に、受音点110および仮想のカメラ130が設定される。カメラ130は、ゲーム空間100を撮影する仮想のカメラである。撮影された映像がゲーム映像としてディスプレイに表示される。
【0018】
受音点110は、オブジェクト120が発生した音声126などのゲーム空間100内で発生する音声を集音する仮想マイクの設置位置である。受音点110は、位置情報(座標)と方向(マイクの向き)の属性を有する。オブジェクト120が発生した音声126は、オブジェクト120から受音点110へ到達したようにその周波数特性、音量、タイミング等が調整されてスピーカ等に出力される。
【0019】
なお、受音点110は、ずっと停止している必要はなく、移動可能であってよい。また、受音点110は、他のオブジェクトから独立して設定されてもよいが、特定のオブジェクト、例えば、プレイヤキャラクタを受音点110としてもよい。この場合、受音点110はプレイヤキャラクタとともに移動する。また、受音点110をカメラ130と一体に設けてもよい。
【0020】
図2はゲームプログラム50がインストールされるゲーム機1の外観図である。このゲーム機1は携帯型ビデオゲーム機である。ゲーム機1は、下部筐体2、上部筐体3がヒンジで接続された見開きの形態を有している。下部筐体2の中央にディスプレイ10Aを備え、上部筐体3の中央にディスプレイ10Bを備えている。ディスプレイ10A,10Bともにカラー液晶のディスプレイであり、下部筐体2のディスプレイ10Aの表面にはタッチパネル11が設けられている。ディスプレイ10Aに表示されたアイコンやボタン等をタッチペンや指先でタッチすると、このタッチがタッチパネル11によって検出され、制御部20(後述)に入力される。
【0021】
下部筐体2のディスプレイ10Aの右側には、電源スイッチ12およびボタン群13が設けられている。ボタン群13は、Aボタン、Bボタン、XボタンおよびYボタンからなり、ゲームの場面に応じてそれぞれ各種の機能が割り当てられる。下部筐体2のディスプレイ10Aの左側には、方向キー14およびタッチパッド15が設けられている。方向キー14およびタッチパッド15は、カーソルをディスプレイ10内で移動させる場合などに使用される操作部である。
【0022】
また、上部筐体3のディスプレイ10Bの左側にはスピーカ16が設けられている。また、下部筐体2の下辺側面にはイヤホンジャック17が設けられている。このイヤホンジャック17は、ステレオミニジャックである。このイヤホンジャックにユーザのステレオイヤホンが接続される。また、下部筐体2の背面側にはゲームメディア5を挿入するためのカードスロット18が形成されている。
【0023】
図3は、同ゲーム機1の電子回路のブロック図である。ゲーム機1は、バス26上に、制御部20、操作部30、メディアインタフェース31および無線LAN通信部32を有している。制御部20は、CPU21、ROM22、RAM23、画像プロセッサ24および音声プロセッサ25を含んでいる。画像プロセッサ24には、ビデオRAM(VRAM)40が接続され、VRAM40には表示部41が接続されている。表示部41は、上述のディスプレイ10を含んでいる。音声プロセッサ25には、D/Aコンバータを含むアンプ42が接続され、アンプ42には、上述のスピーカ16およびイヤホン端子17が接続されている。
【0024】
操作部30は、上述のタッチパネル11、ボタン群13、方向キー14およびタッチパッド15を含み、ユーザの操作を受け付けて、その操作内容に応じた操作信号を発生する。この操作信号はCPU21によって読み取られる。
【0025】
メディアインタフェース31は上述のメディアスロット18を含み、メディアスロット18にセットされたゲームメディア5にアクセスしてゲームプログラム50を読み出す。なお、ゲームプログラム50は、ゲームの進行に必要なゲームデータを含んでいる。ゲームデータとしては、オブジェクト120の外観を生成するためのポリゴンデータ、オブジェクト120が発する音声を生成するための音声データなどが含まれる。ゲームメディア5としては専用の半導体メモリが用いられる。ただし、ゲームメディア5は、専用の半導体メモリに限定されず、汎用の半導体メモリ、光ディスクなどでも構わない。
【0026】
RAM23には、ゲームメディア5から読み込まれたゲームプログラム50を格納するロードエリア、および、CPU20がゲームプログラム50を実行する際に使用するワークエリアが設定される。ROM22には、ゲーム機1がゲームメディア5からゲームプログラム50を読み込んでゲームを実行するための基本プログラムが記憶されている。
【0027】
画像プロセッサ24は、GPU(Graphics Processing Unit,グラフィックス・プロセッシング・ユニット)を有し、ゲーム映像を生成するプロセッサである。画像プロセッサ24は、図1に示したゲーム空間100を生成するとともに、このゲーム空間100にオブジェクト120などのオブジェクトを配置し、このゲーム空間100を仮想のカメラ130で撮影した画像をVRAM40上に描画する。画像プロセッサ24による画像の描画は、30FPS又は60FPSの動画の周期で行われる。この動画映像が表示部41のディスプレイ10にゲーム映像として表示される。
【0028】
音声プロセッサ25は、DSP(Digital Signal Processor, デジタル・シグナル・プロセッサ)を有し、ゲーム音声を生成するプロセッサである。音声プロセッサ25は、オブジェクト120の活動に応じてそのオブジェクトが発する音声126の音声データを再生する。そして、この音声126を所定の位置に定位させる定位処理を行ってアンプ42に出力する。アンプ42は、この音声信号を増幅してスピーカ16およびイヤホン端子17に出力する。
【0029】
無線LAN通信部32は、IEEE802.11g(いわゆるWi−Fi)に準拠したパケット通信を行い、無線通信を介してローカル・エリア・ネットワーク(LAN)に接続する。制御部20は、この無線LAN機能を用いて、他のゲーム機1とデータの交換を行ったり、ネットワーク上のサーバ装置からプログラムをダウンロードするなどの通信を行う。
【0030】
次に、ゲーム機1(ハードウェア)にゲームメディア5のゲームプログラム50が読み込まれることによって実現されるゲーム装置(ゲームシステム)200について説明する。図4は、ゲーム装置200の機能ブロック図である。上述したように、この実施形態では、ゲームプログラム50がゲーム機1に読み込まれることによって実現されるゲーム装置200のうち、ゲーム映像の生成および音声126の定位制御に係る部分のみ説明する。
【0031】
ゲームシステム200は、オブジェクト動作制御部210、オブジェクト生成部220、ゲーム空間生成部230、ゲーム画像生成部240、視点設定部250、定位位置決定部260、定位処理部270、音声発生部280、および、受音点設定部290を有している。
【0032】
ゲーム空間生成部230は、図1に示した仮想のゲーム空間100を生成する。ゲーム空間100は、オブジェクト120やプレイヤキャラクタなどが活動しゲームが展開する場所として設計された空間であり、そのときのゲームの進行に応じて種々の空間が生成される。
【0033】
オブジェクト動作制御部210は、所定の動作制御機能に基づいて図1に示したオブジェクト120の動作を制御する。ここで、動作とはオブジェクト120の移動(位置の変更)や姿勢などの要素である。オブジェクト生成部220は、この要素に基づいてオブジェクトの外観を生成する。また、所定の動作制御機能とは、ゲームプログラム50によって定められた行動パターンやユーザの操作などである。
【0034】
オブジェクト生成部220は、オブジェクト動作制御部210から入力されたオブジェクト120の位置や姿勢などの要素に応じてオブジェクト120の外観を生成する。オブジェクト120の外観の生成は、様々の形状のポリゴンを組み合わせることによって行われる。生成されたオブジェクト120は、ゲーム空間生成部230によって生成されたゲーム空間100の所定位置に配置される。
【0035】
視点設定部250は、ゲーム空間100内に設置される仮想のカメラ130の視点を設定する。カメラ130の視点は、位置、向き、および、ズーミングの要素を含んでいる。カメラ130の視点は、ゲームプログラム50によりゲームの展開に応じた視点に自動設定されるほか、ユーザの操作によっても変更される。ゲーム画像生成部220は、仮想のカメラ130によってゲーム空間を撮影し、ゲーム空間100の二次元画像を生成する。この画像の生成は、30fpsまたは60fpsの周期で行われ、この連続した画像が動画(ゲーム映像)として出力される。なお、画像生成の周期は、30fpsまたは60fpsに限定されない。また、処理負荷に応じてフレームレートが可変であってもよい。
【0036】
音声発生部280は、オブジェクト生成部220によって生成されたオブジェクト120が発する音声126を発生させる。この音声126は、オブジェクト120自身が発生する鳴き声などの音声やオブジェクト120が移動など活動することによって発生する飛行音や足音などの音声である。
【0037】
受音点設定部290は、ゲーム空間100内に配置される受音点110の位置と向きを設定する。設定された受音点110の位置および向きは定位処理部270に入力される。受音点110は、ゲーム空間100内の任意の位置に設定してよいが、たとえばプレイヤキャラクタ(ユーザによって操作されるキャラクタ)を受音点としてもよく、仮想のカメラ130を受音点としてもよい。すなわち、受音点は固定されている必要はなく、オブジェクト120のように移動する点であってよい。
【0038】
また、定位位置決定部260は、音声発生部280が発生した音声126の発音位置である音源125の定位位置を決定して定位処理部270に指示する。定位位置決定部260は、通常は、オブジェクト120の位置を音源125の定位位置とする。すなわち、通常は、オブジェクト120の視覚上の位置と、そのオブジェクトが発生する音声126の聴覚上の位置とを一致させる。オブジェクト120が停止したとき、定位位置決定部260は、短時間だけ、音源125の定位位置をオブジェクト120から分離させ、オブジェクト120の停止位置近傍で振動させる。この振動により、オブジェクト120が停止したこと、および、その停止位置が強調される。定位位置を振動させる方式の詳細は後述する。
【0039】
なお、オブジェクト120がカメラ130の視野から外れている場合、ゲーム映像にオブジェクト120は映らないが、そのオブジェクト120の音声126は定位処理部270から出力される。したがって、オブジェクト120がカメラ130の視野から外れていても、音源125の定位位置を振動させることによって、オブジェクト120が停止したことをユーザに知らせることができる。
【0040】
定位処理部270は、音声126が、定位位置(たとえばオブジェクト120の位置)から受音点110に到達した音声に聴こえるように、音声126の周波数特性等の特性を処理する。すなわち、図5に示すように、受音点110が聴取者111の頭部である場合、聴取者の右前方にある音源125から発せられた音声126は、右耳111Rには音源125からほぼダイレクトに到達するが、左耳111Lには聴取者111の顔、鼻などによりフィルタリングされたのち到達する。これにより、右耳111R、左耳111Lに到達する音声は、それぞれ音量、周波数特性が微妙に異なる。また、音源125から右耳111R、左耳111Lまでの距離が異なるため、音声126の到達タイミングが微妙に異なる。聴取者111は、左右の耳111L/Rに聴こえてくる音声126の音量、周波数特性、および、タイミングなどの特性の微妙な相違を聴き分けてその音声の到来方向や距離などを推定する。また、聴取者111の後方にある音源125′から到来する音声は、左右の耳介によってフィルタリングされるため、聴取者111は、その音声が後方から到来したものであることを認識する。
【0041】
このように、音声を2チャンネルステレオ化する際に、左右チャンネルの信号を、指定された定位位置の方向や距離に応じた特性に加工することにより、この音声を指定された定位位置に定位させることができる。このフィルタリング処理をバイノーラル処理と言う。なお、バイノーラル処理された音声は、スピーカ16で聴くよりもイヤホンジャック17に接続されたステレオイヤホンで聴いたほうが定位感を明瞭に感じることができる。
【0042】
なお、この実施形態では音声を2チャンネル(両耳受聴)のステレオ信号として出力する場合について説明しているが、チャンネル数や聴取方式は上記に限定されない。たとえば、5.1チャンネルサラウンド信号として出力してもよく、片耳受聴用の信号として出力してもよい。この場合、定位方式および伝送方式は、採用されるチャンネル数などに応じて適宜選択される。
【0043】
定位位置決定部260および定位処理部270が、本発明の定位制御部(定位制御手段)に対応する。
【0044】
上述したように、オブジェクト120が停止したとき、停止したこと及び停止位置を強調するために、音声の定位位置をオブジェクト120の停止位置近傍で振動させる。図6を参照して、定位位置の振動による定位感強調処理について説明する。
【0045】
図6(A)は、オブジェクト120の停止直前の軌道を示す図である。オブジェクト120が、通過点144−149の軌道で移動し、停止点150で停止したとする。通過点144−149および停止点150は、ゲーム映像の1フレーム間隔の位置を示している。オブジェクト120が停止点150で停止すると、その5フレーム前である通過点145の座標から停止点150の座標までの方向ベクトル170を停止直前の移動方向と移動速度とする。なお、停止直前の移動方向および移動速度の決定方法はこれに限定されない。
【0046】
方向ベクトル170が求められると、この方向ベクトル170の大きさ(スカラ)に基づいて振動の最大振幅Lが求められる(図6(B)参照)。音源125の定位位置を、この最大振幅Lの振動範囲171(図6(A)参照)で方向ベクトル170の方向および逆方向に振動するように移動させることにより、定位感を強調する。最大振幅Lは、停止緒くっ接続の移動速度、即ち方向ベクトル170の大きさに応じて決定してもよく、停止直前の移動速度に無関係に一定またはランダムであってもよい。ユーザが、定位を知覚する過程において、定位の移動を知覚できるか否かの弁別閾付近の移動量とするのが好適である。この最大振幅Lが、本発明における「停止位置近傍」の範囲に対応する。
【0047】
この実施形態では、図6(C)に示すような形態で、音源125の定位位置を減衰振動させる。ここでは半周期(原点(停止位置)から振幅のピークで折り返して原点に戻ってくるまで)を1回の行程としてカウントする。この実施形態では、1行程を10フレームで行う。第1行程(行程1)は、原点の位置(position)150から、移動方向に行き過ぎた最大振幅の位置151で折り返して原点の位置152に戻って来る振動である。この行程1の最大振幅は、上述のLである。第2行程(行程2)は、原点の位置152から、逆方向に戻りすぎた最大振幅の位置153で折り返して原点の位置154に戻って来る振動である。この行程2の最大振幅は、行程1から20パーセント減衰した0.8Lである。
【0048】
この実施形態では、行き過ぎの振動、戻りすぎの振動を交互に繰り返して音声の定位を5回振動させるが、振動を繰り返すごとに最大振幅が前回から20パーセント減衰させ、減衰振動になるようにしている。したがって、第3行程の最大振幅は、行き過ぎ方向に0.64Lであり、第4行程の最大振幅は、戻り過ぎ方向に0.512Lであり、第5行程の最大振幅は、行き過ぎ方向に0.4096Lである。
【0049】
なお、1フレームが1/30秒であれば、1行程は0.3秒程度の時間であり、5行程の減衰振動全体で1.7秒程度である。また、1フレームが1/60秒の場合には、それぞれこの半分の時間になる。1行程の周期、定位感強調処理における全行程数は任意であるが、この実施形態のように、ユーザが、聴感上無意識的に定位位置の揺れを感じるが、意識的に定位位置の動きを認識できない程度の周期および時間であることが好ましい。
【0050】
なお、この実施形態では、振動の波形を三角波にしているが、波形はこれに限定されない。たとえば正弦波などでもよい。
【0051】
また、定位感強調処理は、オブジェクト120の停止点150近傍で定位位置を移動させればよく、停止直前の移動方向に沿って往復する減衰振動に限定されない。すなわち、振動を減衰させなくてもよく、また、振動方向が停止直前の移動方向に沿っていなくてもよい。また、さらに、運動の形態が振動でなく、停止点150近傍での楕円運動やブラウン運動のようなランダムな運動であってもよい。なお、この実施形態では、定位位置の振動を1秒前後の短時間継続するようにしているが、振動時間は、上記の時間に限定されない。たとえば、より短くてもよく、より長くてもよい。停止している時間中ずっと振動させるようにしてもよい。これらの振動(移動)方式および振動(移動)時間を、ゲームの場面に応じて変更するようにしてもよい。
【0052】
図7のフローチャートを参照して定位位置決定部260の処理動作を説明する。この処理は、1フレーム毎に実行される。オブジェクト動作制御部210からオブジェクト120の位置を示す座標値を入力する(S10)。これを用いて過去の座標値の履歴を更新する(S11)。この過去の座標値は、停止の判定や、図6(A)に示すように停止時の方向ベクトルを求めるために使用される。そして、入力された座標値と過去の座標値とを比較してオブジェクト120が停止したか否かの停止判定を行う(S12)。オブジェクト120の停止判定は、たとえば、前回入力された座標値が直前の座標値と同じ又は所定の誤差の範囲であれば停止したと判定するのが基本的で簡略であるが、停止判定の方式はこれに限定されない。
【0053】
オブジェクト120が停止したと判定されれば(S13でYES)、停止フラグがセットされているかを判定する(S14)。停止フラグは、オブジェクト120が停止したと判定されたときセットされるフラグであり、S14において、停止フラグがセットしている場合は、既に停止している状態を示し、S14において停止フラグがセットしていなければ今回の動作で初めて停止が判定されたことを示している。
【0054】
S14において、停止フラグがセットしていない場合には、S15に進み、音源125の定位位置を図6(C)に示すように振動させるためのパラメータを設定する(S15)。パラメータは、停止位置150の座標、方向ベクトル170などである。このパラメータを用いて振動する座標値を計算し(S16)、この座標値を音源125の定位位置として定位処理部270に出力する(S17)。こののち停止フラグをセットして(S18)リターンする。
【0055】
S14において、停止フラグが既にセットしていた場合には、既にパラメータが設定されているため、そのパラメータを用いて、今回のフレームにおける座標値を計算し(S19)、この座標値を音源125の定位位置として定位処理部270に出力する(S20)。そしてリターンする。
【0056】
一方、S13において、オブジェクト120が停止していないと判定された場合には(S13でNO)、停止フラグをリセットするとともに(S21)、現在のオブジェクト120の位置を示す座標値を音源125の定位位置として定位処理部270に出力して(S22)リターンする。
【0057】
S12で行われる停止判定は、上述したように今回のフレームの座標値と前回のフレームの座標値とを比較する方式以外に種々の方式を採用することができる。たとえば;
今回のフレームの座標値と複数フレーム前の座標値との直線距離daが所定値以下であれば、オブジェクト120が停止したと判定する方式(方式1:図8(A)参照)
1つ前のフレームからの移動距離dnを複数フレーム分積算し、この積算値dsが所定値以下であれば、オブジェクト120が停止したと判定する方式(方式2:図8(B)参照)
また、方式1と方式2を組み合わせた方式などを採用することも可能である。またさらに、方式1、方式2の判定において、判定に用いるフレーム数を長短複数種類(たとえば10フレームと3フレーム)用い、これらに基づく判定を組み合わせて停止判定を行ってもよい。
【0058】
停止判定の方式は上に述べたものに限定されない。いずれにしても、ゆっくりした移動を停止と誤判定しない、実質的に停止している微動を移動と判定しない、および、急停止したときの停止判定が遅れないような判定方式が好適である。
【0059】
図6を参照した定位感強調処理および図7のフローチャートの停止判定処理(S12)は、受音点110が停止している場合について説明したが、たとえば、プレイヤキャラクタが受音点110になっている場合など、受音点110が移動する場合も考えられる。このような場合には、以下のような処理が考えられる。
【0060】
(方式1)停止判定、定位感強調処理ともに、受音点110の移動を考慮せずオブジェクト120の絶対速度に基づいて行う。
(方式2)停止判定は、受音点110とオブジェクト120との相対速度について判定し、定位感強調処理は、オブジェクト120の絶対速度に基づいて行う。
(方式3)停止判定、定位感強調処理ともに、受音点110とオブジェクト120の相対速度に基づいて行う。すなわち、図6(A)の移動経路144−150は移動する受音点110から見たオブジェクト120の移動経路となる。
いずれの方式も本発明の技術的思想の範囲である。
【0061】
また、定位感強調処理は、オブジェクト120が停止したとき毎回行う必要はなく、強調したい場面のみ行うようにしてもよい。たとえば、オブジェクト120がカメラ130の視界から外れている場合などである。また、場面に応じて強調の程度(たとえば、振幅、1行程の周期、全行程の時間など)を変更するようにしてもよい。
【0062】
なお、上記実施形態では、オブジェクト120の停止が判定されたとき、音源125の定位を移動させる定位強調処理を行っているが、停止する直前に定位強調処理を行ってもよい。たとえば、停止することが予め判明している場合、停止することが十分予測される場合などには、停止する直前に定位強調処理を行うことが可能である。また、停止したのち若干の時間をおいてから定位強調処理を開始してもよい。本発明の「停止することを契機として」は、「停止したとき」、「停止する直前」および「停止したのち」を含んでいる。
【0063】
以上の実施形態では、音源125の定位を軌道と異なる経路で移動(振動)をさせることによって定位感を強調しているが、停止直前の音源125の加速度を軌道上で適宜変更することで定位感を強調してもよい。また、移動の形態で定位感を強調する以外に、たとえば、停止直前に音源125から発せられる音声の音量を一瞬大きくして定位感を強調するなど、音量に変化を持たせることで定位感を強調するようにしてもよい。
【0064】
本発明における音源125は、外観および境界線を持たないオブジェクト120と共に移動するものであってもよい。あるいは、音源125は、オブジェクト120を伴わず、音源125のみで移動するものであってもよい。この場合、音源125が停止したとき、音声126の定位が音源125の停止位置近傍で振動することになる。
【0065】
以上の実施形態では、仮想のゲーム空間100内で仮想のオブジェクト120が発する音声の定位を制御する例について説明したが、ユーザが音声を受聴している実空間に定位される音像について本発明を適用し、定位感を強調してもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 ゲーム機
20 制御部
100 ゲーム空間
110 受音点
120 オブジェクト
121 オブジェクトの移動経路
125 音源
126 音声(音波)
130 仮想のカメラ
200 ゲーム装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを、
音声を入力する音声入力手段、
該音声の音源の位置を取得する音源位置取得手段、
前記音声の特性を、該音声が所定の定位位置から特定の受音点に到達した場合の特性に加工する手段であって、前記音源が停止することを契機として定位感強調処理を施す定位制御手段、
として機能させる音源定位制御プログラム。
【請求項2】
前記コンピュータを、仮想の空間を生成する仮想空間生成手段としてさらに機能させ、
前記音源の位置、および、前記受音点の位置は、前記仮想の空間内の位置である請求項1に記載の音源定位制御プログラム。
【請求項3】
前記定位制御手段は、前記音源の移動中は該音源の位置を前記定位位置とし、前記音源が停止したとき、その停止位置近傍で前記定位位置を移動させる請求項1または請求項2に記載の音源定位制御プログラム。
【請求項4】
コンピュータを、
仮想の空間を生成する仮想空間生成手段、
前記仮想の空間内で活動するオブジェクトの位置を取得するオブジェクト位置取得手段、
該オブジェクトが発する音声を入力する音声入力手段、
前記音声の特性を、該音声が所定の定位位置から特定の受音点に到達した場合の特性に加工する手段であって、前記オブジェクトが停止することを契機として定位感強調処理を施す定位制御手段、
として機能させる音源定位制御プログラム。
【請求項5】
前記定位制御手段は、前記オブジェクトの移動中は該オブジェクトの位置を前記定位位置とし、前記オブジェクトが停止したとき、その停止位置近傍で前記定位位置を移動させる請求項4に記載の音源定位制御プログラム。
【請求項6】
前記受音点は移動する点であり、前記音源の停止は、前記音源及び受音点の相対速度に基づいて判定される請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の音源定位制御プログラム。
【請求項7】
前記定位感強調処理は、前記音源及び受音点の相対位置について行われる請求項6に記載の音源定位制御プログラム。
【請求項8】
前記定位感強調処理は、定位位置を振動させる処理である請求項1乃至請求項7に記載の音源定位制御プログラム。
【請求項9】
音声が入力される音声入力部と、
前記音声の音源の位置を取得する音源位置取得部と、
前記音声の特性を、該音声が所定の定位位置から特定の受音点に到達した場合の特性に加工する処理部であって、前記音源が停止することを契機として定位感強調処理を施す定位制御部と、
を備えた音源定位処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−34107(P2013−34107A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169299(P2011−169299)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000129149)株式会社カプコン (192)
【出願人】(502115028)株式会社アーニス・サウンド・テクノロジーズ (1)
【Fターム(参考)】