説明

音響信号受信装置

【課題】音響波検出において受信膜に膜厚分布が存在している場合でも、高感度特性を実現することを可能とする技術を提供する。
【解決手段】測定光が入射される第1のミラー、第1のミラーと対向配置されており被検体からの音響波が入射される第2のミラー、第1のミラーおよび第2のミラーに挟まれて設けられた音響波受信層、および、補償層を含む共振器と、音響波の入射による音響波受信層の変形に応じた第1のミラー及び第2のミラーの間の光路長の変化を検出する検出器を有し、補償層における屈折により、音響波受信層の膜厚分布による光路長のばらつきが補償される音響信号受信装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響信号受信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、エックス線、超音波、MRI(核磁気共鳴法)を用いたイメージング装置が医療分野で多く使われている。一方、レーザーなどの光源から照射した光を生体などの被検体内に伝播させ、その伝播光等を検知することで、生体内の情報を得る光イメージング技術を用いた装置の研究も医療分野で積極的に進められている。
【0003】
このような光イメージング技術の一つとして、Photoacoustic Tomography(PAT:光音響トモグラフィー)が提案されている。PATにおいては、光源から発生したパルス光を被検体に照射することで、被検体内で伝播・拡散した光のエネルギーを吸収した生体組織から音響波(以降光音響波とも呼ぶ)が発生する。この光音響波を複数の個所で検出し、それらの信号を解析処理し、被検体内部の光学特性値に関連した情報を可視化することができる。これにより、被検体内の光学特性値分布、特に光エネルギー吸収密度分布を高い解像度で得ることができる。
【0004】
音響波の検出器としては、圧電現象を用いたトランスデューサーが一般に用いられる。また容量の変化を用いたトランスデューサーが一般に供されつつある。
さらに近年、光の共振を用いた検出器が研究報告されている(非特許文献1)。これはファブリーペロー型干渉計の原理に基づいて音響波を検出する技術(以下、FP方式とも称する)であり、広帯域な受信性能を有しており、高精細な画像が得られることが特長である。
【0005】
しかしながら、FP方式は測定時間が長いという課題がある。例えば非特許文献1では、光音響波の二次元分布データを取得する際に、光の反射率を評価するための測定光をガルバノメータによって走査している。つまり、1つのボリュームデータを取得するために、光の共振位置をラスタースキャンさせて各位置でデータ取得する。それと同時に、測定位置毎に最適な波長に設定するために、測定波長を各位置毎に変化させながらデータを取得している。そのため、数ミリメートル角の3次元像を得るために10分以上かかることが報告されている。
【0006】
一般に測定器は、なるべく短時間でデータ取得することが実用の点で重要である。特に測定対象物が生体などの場合、体動の影響などにより被検体の状態が逐次変化してしまうため、データ取得に時間を要すると正しい像が得られなくなってしまう。
そこで、弾性波の二次元分布を一括取得するために、二次元アレイ型センサとしてCCDカメラを用いてFP方式の受信素子にて取得した超音波の音圧を検出した例が報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】E. Zang, J. Laufer, and P. Beard, ”Backward-mode multiwavelength photoacoustic scanner using a planar Fabry-Perot polymer film ultrasound sensor for high-resolution three-dimensional imaging of biological tissues”, Applied Optics, 47, 561-577(2008)
【非特許文献2】M. Lamont, P. Beard,”2D imaging of ultrasound fields using CCD array to map output of Fabry-Perot polymer film sensor”, Electronics Letters, 42, 3, (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記背景で述べたとおり、FP方式の音波検出装置において、CCDなどを用いて二次元面内の光検出を一括取得することは測定時間短縮のために非常に有効である。しかしながら、本発明者らが実用化を視野にいれて鋭意検討したところによると、非特許文献2には記載されていない課題が明らかとなった。
【0009】
FP方式は音響波を受信膜にて受信し、その音圧が到達した際の受信膜の僅かな厚みの変化を光によってモニタし、音圧を検出する方法である。すなわち、成膜された受信膜の膜厚が少しでも設計値と異なると、正しく音圧を測定することが出来なくなる。一般に受信膜の成膜にはプロセスばらつきが存在するため、ひとつの基板上であっても膜厚のばらつきが少なからず存在するが、この膜厚のばらつきが製品の設計許容値以内に収まっていれば実用に供することが可能となる。
【0010】
しかしながら、本発明者らが設計許容値を計算したところによると、FP方式の音響波検出器では数ナノメートルの膜厚分布が存在する場合であっても、受信感度に影響をおよぼすことが明らかとなった。つまり、二次元面内にて一括で正しく信号を受信しようとすると、数ナノメートル以内に膜厚分布を抑える必要がある。ところが現実的な成膜プロセスではこのような厳密な制御を行うことが極めて困難である。
【0011】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、音響波検出において受信膜に膜厚分布が存在している場合でも、高感度特性を実現することを可能とする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の構成を採用する。すなわち、測定光が入射される第1のミラー、前記第1のミラーと対向配置されており被検体からの音響波が入射される第2のミラー、前記第1のミラーおよび第2のミラーに挟まれて設けられた音響波受信層、および、補償層を含む共振器と、音響波の入射による前記音響波受信層の変形に応じた前記第1のミラー及び前記第2のミラーの間の光路長の変化を検出する検出器と、を有し、前記補償層における屈折により、前記音響波受信層の膜厚分布による前記光路長のばらつきが補償されることを特徴とする音響信号受信装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、音響波検出において受信膜に膜厚分布が存在している場合でも、高感度特性を実現することを可能とする技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】従来のファブリーペロー型干渉計の構成の一例を示す図。
【図2】ファブリーペロー型干渉計の反射特性の一例を示す図。
【図3】本発明のファブリーペロー型干渉計の構成の一例を示す図。
【図4】本発明を適用できるファブリーペロー型探触子の構造の一例を示す図。
【図5】本発明を適用できる生体情報イメージング装置の構成の一例を示す図。
【図6】本発明の実施形態における素子の作製プロセスの一例を示す図。
【図7】本発明の実施形態における制御方法の一例を示す図。
【図8】本発明の実施形態におけるタイムチャートの一例を示す図。
【図9】本発明の実施形態における電極構成の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[受信素子を構成する基本形態]
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、本発明における測定光とは、ファブリーペロー(FP)型干渉計による測定に用いる光のことを指す。FP型干渉計に入射する入射光、およびFP型干渉計で反射しアレイ型光センサに導かれる反射光も全て測定光に含まれる。
【0016】
まず図1を用いて、従来報告されている光の共振を用いた音響波検出素子の説明を行う。この図に示すとおり、平行な反射板の間で光を共振させる構造をFP型干渉計という。今後このFP型干渉計を利用した音響波検出器をFP型探触子と呼ぶことにする。
【0017】
厚みdを持つ高分子膜104が、第1のミラー101と第2のミラー102で挟まれて、共振器103を形成する。図示したように、第1のミラー101と第2のミラー102はキャビティとなるように対向配置されている。第1のミラー101から入射光105を干渉計に照射する。このとき、反射光106の光量Irは次の式(1)のようになる。
【数1】


ここでφは、以下の式(2)で表される。
【数2】

ここで、Iiは入射光105の入射光量、Rは第1のミラー101と第2のミラー102の反射率、λは入射光105、および反射光106の波長、dはミラー間距離、nは高分子膜104の屈折率である。φは二枚のミラー間を往復する際の位相差に相当する。
【0018】
反射率Ir/Iiをφの関数としてグラフ化したものの一例を図2(a)に示す。周期的な反射光量Irの落ち込みが生じ、φ=2mπ(mは自然数)となるときに反射率は最も低くなる。
FP型探触子に音響波107が入射すると、探触子の変形によりミラー間距離dが変化する。これによってφが変化するため反射率Ir/Iiが変化する。反射光量Irの変化をフォトダイオード等で測定することにより、入射した音響波107を検出することができる。反射光量変化が大きいほど、入射した音響波107の強度は大きいということになる。
【0019】
音響波107が入射した際に、反射光量Irが大きく変化するためには、φの変化に対する反射率Ir/Iiの変化率を大きくする必要がある。図2では、φにおいて、一番変化率が大きい、つまり傾きが急であるため、φにおいてもっとも感度が良い素子と言える。
【0020】
反射率Ir/Iiをλの関数としてグラフ化したものを図2(b)に示す。反射率Ir/Iiの変化率が最も大きいλに波長を合わせることが位相差をφに合わせることに相当し、感度が最大になる。
このように、FP型探触子では使用する測定波長が決まれば最適な膜厚が求められる。そこで例えばこの図を参照すれば、単一波長λの光源を用いる場合に、膜厚のばらつきとして概ね±0.05%以内に抑える必要がある。この数値は成膜技術としてかなり高度な精度が要求されることになる。
【0021】
FP型探触子の受信面をxy平面とし、各位置での膜厚をd(x,y)とし、各位置での最適感度を表すφをφ(x,y)とすると、式(3)のように表現される。
【数3】

【0022】
上記に基づいて、本発明の特徴とするところは、膜厚d(x,y)が場所によって変化する場合でも、φが場所によらず一定の値を取ることである。そのために、本発明では屈折率nにxy平面内で分布を持たせ、すべてのxy座標においてφが略一定値となるようにするのが狙いである。そのために本発明では、共振器の間に受信層と補償層との2層を組み込んで干渉計を動作させる。つまりこの光路長は屈折率nと物理的な厚みであるdの積で表せるが、このうちnについてもxy平面内で分布を持たせる。つまり、式(4)で表されるような考え方を導入して、素子全体で光路長を一定にする。
【数4】

【0023】
図3を用いて本発明の補償型FP方式音響波検出素子の説明を行う。基本的な構成は図1のものとほぼ同様である。FP干渉計303は対向配置された2枚のミラー301と302で挟まれている。FP干渉計303において、音響波307を受信する層304の屈折率をn、補償層309の屈折率をn、補償層の支持基板308の屈折率をn、受信層304の膜厚をd、補償層の膜厚をd、補償層の支持基板308の膜厚をdとする。このとき位相差は、式(5)で表される。
【数5】


実質的には音響波受信層および支持基板の屈折率はほぼ一定であるため、式5は以下のように表すことができる。
【数6】


これも図2と同様の特性を示す。FP型探触子に音響波307が入射すると、ミラー間距離dが変化する。これによってφが変化するため、反射率Ir/Iiが変化する。反射光量Irの変化をフォトダイオード等で測定することにより、入射した音響波107を検出することができる。反射光量変化が大きいほど、入射した音響波107の強度は大きいということになる。
【0024】
ここで、測定光の波長λが固定値だとすると、位相差をφに合わせるためには他のパラメータを調整する必要がある。ここでn、nは材料によって決まる物性値であり、d、d、dは製造プロセスによって決まるパラメータである。そこで、本発明では補償層の屈折率nを変調することによって、製造プロセスのばらつきで生じるdの分布に起因する光路長のばらつきを補償する。
補償層の屈折率nの変調だけでは製造ばらつきを吸収しきれない場合には、測定光の波長を1つ増やし、FP探触子の領域を分けて、ある領域では波長λを用い、別の領域では波長λを用いるようにすることで広い面積を補償可能となる。ばらつきの程度によってはこの波長の数をさらに増加させても良い。波長数を増加させると構成が複雑になるが、波長を連続可変するレーザーを用いるよりコストや出力の点で優位であれば採用すれば良い。なお、補償層に用いる材料については後述する。
【0025】
FP型探触子では測定光である入射光105(305)が当たっている位置のみの反射光量変化を測定しているため、入射光のスポット領域が受信感度のある領域となる。よって、入射光をガルバノメータ等でラスタースキャンすることにより、音響波の二次元分布データを得ることができる。ここで得られた音響波の二次元分布データを用いて信号処理を行うことで画像を得る。
本発明の場合、入射光として単一波長を用いることが可能であるため、素子全面に同時に入射光を照射し、反射光をマトリクス型の画像センサを用いることで、ラスタースキャンすることなく高速に画像取得することができる。また、例えば一般に用いられるデジタルカメラ用のCCDやCMOS撮像素子は画素ピッチが数ミクロンであるため、十分高い解像度を得ることが可能である。
【0026】
図4に、本実施形態におけるFP型探触子の断面構造を説明する基本概念図を示す。第1のミラー401と第2のミラー402の材料としては誘電多層膜や金属膜を用いることができる。ミラーの間には音響波受信膜403が存在する。音響波受信膜403は弾性波がFP型探触子に入射した際のひずみが大きいものが好ましく、例えば有機高分子膜が用いられる。有機高分子膜としてはパリレン、SU8、またはポリエチレンなどを用いることが出来る。音波を受信したときに膜が変形すれば採用可能であるので、無機膜であっても構わない。
【0027】
本発明では上記の従来の構成に加えて、ミラー間に光路長補償層404を設ける。この光路長補償層は前記音響波受信膜403の膜厚分布を補償するように配設されるものである。これら音響波受信膜403と光路長補償層404、および、補償層を支持する基板を含む層405など、ミラー間に存在する層を総合して共振器を形成させる。
【0028】
光路長補償層404は外部からの制御容易性の観点で液晶が好適に用いられる。例えば一般に用いられているネマティック液晶材料では以下のように用いる。まず、ラビング処理などにより一軸平行配向処理された2枚のガラス基板を反平行に組み合わせて液晶セルを作製する。そして、誘電異方性が正の液晶を注入し基板間に十分高い電圧を印加すると、液晶分子が基板に略平行方向から略垂直方向へと配向変形することが知られている。このとき前記一軸配向処理された方向の屈折率(異常光屈折率)は、電圧無印加時にはほぼ液晶分子長軸方向の屈折率を示すのに対し、十分な電圧を印加し液晶分子が基板に垂直になったときにはほぼ液晶分子短軸方向の屈折率を示すことになる。これにより、本液晶素子の一軸配向処理方向に偏光を与えたときの光路長を連続的に変調させることが可能となる。
【0029】
誘電異方性が負の液晶の場合には略垂直配向させ、反平行方向にプレチルト角を付与した基板を用いることにより、電圧印加によって前記と同様に光路長を連続的に変化させることができる。
【0030】
その他に、例えば公知の高分子安定化ブルー相の液晶を用いれば、偏光の方向によらず屈折率を変調させることが可能である。あるいは螺旋ピッチが波長よりも短い強誘電性液晶を用いることも可能である。
屈折率を変調させる機能を有してさえいれば本発明に供することが可能となるため、液晶性を有さない別の材料を用いても構わない。例えば補償層としてショ糖水溶液を用い、音波受信層の膜厚分布に合わせてショ糖の濃度勾配を付与すれば屈折率を変調することができる。あるいはショ糖の代わりに濃度によって屈折率が異なる荷電物質を用いれば、電気泳動を用いて外部から濃度勾配を付与し、屈折率を制御することが可能となる。
こうした補償層の屈折率を外部から変調するために、電極や駆動装置が配設される(図示せず)。
【0031】
FP型探触子全体は保護膜407で保護されている。保護膜407としてはパリレンなどの有機高分子膜やSiOなどの無機膜を薄膜形成した物が用いられる。第1のミラー401が成膜される基板406はガラスやアクリルを用いることができる。その際、基板406内での光の干渉による影響を減らすために、基板406は楔形であることが好ましい。さらに、基板406表面における光の反射を避けるために、ARコート処理408を施すことが好ましい。
【0032】
[システムを構成する基本形態]
図5に、本実施形態におけるイメージング装置の構成例を説明する図を示す。
本実施形態のイメージング装置は、被検体501に照射し光音響波502を励起する励起光503を出射する励起光源504を備える。被検体501が生体である場合には、生体内の腫瘍、血管など、被検体501の内部の光吸収体を画像化することが可能である。あるいは被検体501の表面の光吸収体を画像化できる。これら被検体501の内部もしくは表面における光吸収体が、光のエネルギーの一部を吸収することによって光音響波502が発生する。この光音響波502を検出するための、FP型探触子505を備える。このFP型探触子は、上述の膜厚分布を補償するための補償層が設けられており、外部から制御することが可能である。これを制御するための制御部517を備える。
【0033】
FP型探触子505には、測定光506を照射することによって音圧を検出させることができる。この測定光506を生成するための測定光用光源507を備える。また、測定光用光源を制御するための制御部508を備える。測定光用光源507は単一波長光源を用いてもよいし、波長を切り替えられる光源を用いてもよい。連続的に波長可変できる光源を用いても良い。波長の切り替えや光照射のオンオフを制御部508にて行う。
さらに、FP型探触子505に入射した測定光506の反射光量を測定し、電気信号に変換するためのアレイ型光センサ509を備える。以上により音響信号受信装置が構成される。
【0034】
上記音響信号受信装置に、さらに信号処理部510と画像表示部511を構成することによってイメージング装置を構成する。つまり本実施形態のイメージング装置では、アレイ型光センサ509で得られた電気信号を信号処理部510において解析し、得られた光学特性値分布情報を表示する画像表示部511を備える。
【0035】
測定光506はレンズ512で拡大され、FP型探触子505において反射したのちに、アレイ型光センサ509に入射する。これにより、FP型探触子505上の反射強度分布を得ることが出来る。光学系としてミラー513やハーフミラー514を用いる。光学系は、FP型探触子505における反射率を測定できるような構成であればよく、ハーフミラー514の代わりに偏光ミラーと波長板を用いる構成や、光ファイバーを用いる構成を採ることができる。この光学系により、FP型探触子505上の位置と、アレイ型光セ
ンサ509上のピクセルが対応づけられる。
【0036】
アレイ型光センサ509としては二次元アレイ型、一次元アレイ型の光センサを用いる。例えば、CCDセンサやCMOSセンサを用いることができる。ただし、FP型探触子505に光音響波502が入射した際の、測定光506の反射光量を測定し電気信号に変換できるものであれば、これ以外のアレイ型光センサも使用できる。
【0037】
FP型探触子505のミラー間の距離は位置によりばらつきがあるため、それぞれの位置(アレイ型光センサ509上の対応づけされた各々のピクセル)において補償層を用いて屈折率を調整し、素子面内において光路長を一定にする。
【0038】
被検体501へ照射する励起光503は、被検体501を構成する成分のうち特定の成分に吸収される特性の波長の光を用いる。励起光503はパルス光を用いることが出来る。パルス光は、数ピコから数百ナノ秒オーダーのものであり、被検体が生体の場合には数ナノから数十ナノ秒のパルス光を採用することが好ましい。励起光503を発生する光源504としてはレーザーが好ましいが、レーザーの代わりに発光ダイオードやフラッシュランプなどを用いることも可能である。
【0039】
光音響波励起用レーザーとしては、固体レーザー、ガスレーザー、色素レーザー、半導体レーザーなど様々なレーザーを使用することができる。発振する波長の変換可能な色素やOPO(Optical Parametric Oscillators)やTiS(Titanium Sapphire)を用いれ
ば、光学特性値分布の波長による違いを測定することも可能になる。
使用する光源の波長に関しては、生体組織による吸収が少ない700nmから1100nmの領域が好ましい。生体以外の被検体、もしくは生体において観測領域を表面近傍とする場合には、上記の波長領域よりも範囲の広い、例えば400nmから1600nmの波長領域、さらには紫外線領域、テラヘルツ波、マイクロ波、ラジオ波領域の使用も可能である。
【0040】
図5では被検体に対して、FP型探触子505の影にならない方向から励起光503を照射している。しかし、FP型探触子が励起光503の波長を透過する構成にしておけば、FP型探触子を通して励起光503を照射することも可能である。
【0041】
被検体501から生じる光音響波502を効率的にFP型探触子505で検出するために、被検体501とFP型探触子505との間には音響結合媒体を使うことが望ましい。図5では音響結合媒体として水を用いて、水槽515中に被検体501が配置している図を示しているが、被検体501とFP型探触子505との間には音響結合媒体が介していれば良い。例えば、被検体501とFP型探触子505との間に、超音波診断用のマッチングジェルを塗る構成にしてもよい。
【0042】
FP型探触子505は、被検体501に励起光503を照射した際に、励起光503のエネルギーの一部を吸収することで被検体内から発生する光音響波(超音波)502を、測定光506の反射光量変化として検出する。検出された光量はアレイ型光センサ509において電気信号に変換される。アレイ型光センサ509における電気信号の分布は、FP型探触子505上に届く光音響波502の強度分布を表していることになる。これにより、FP型探触子505上に到達する光音響波502の圧力分布を得ることが出来る。
さらに、信号処理部510は抽出したアレイ型光センサ509における電気信号の分布に基づいて、被検体501内の光吸収体の位置や大きさ、あるいは光吸収係数あるいは光エネルギー堆積量分布などの光学特性値分布を計算する。
【0043】
得られた電気信号の分布から光学特性値分布を得るための再構成アルゴリズムとしては
、ユニバーサルバックプロジェクションや整相加算、モデルベース画像再構成などを採用することができる。なおFP型探触子の音響波受信膜403などに異物が存在するなどの理由で膜厚が著しく異常を示す領域は、あらかじめデータとして利用できないことを考慮した上で、画像再構成処理の際にデータ欠損部を補正して画像化することも可能である。
なお、信号処理部510は光音響波502の強度を表す電気信号の時間変化の分布を記憶し、それを演算手段により光学特性値分布のデータに変換できるものであれば、どのようなものを用いてもよい。
【0044】
なお、励起光503として複数の波長の光を用いることもできる。この場合、それぞれの波長に関して生体内の光学係数を算出し、それらの値と生体組織を構成する物質に固有の波長依存性とを比較することにより、生体を構成する物質の濃度分布を画像化することも可能である。生体組織を構成する物質としては、グルコース、コラーゲン、酸化・脱酸化ヘモグロビンなどがある。
また、本発明の実施形態では信号処理により得られた画像情報を表示する画像表示部511を備えることが望ましい。
【0045】
上記のように示された生体情報イメージング装置を用いることで、FP型探触子505を用いて、短時間に高精細な光音響画像を得ることが可能となる。
【0046】
[補償層の実施形態−1]
続いて本発明の各種の実施形態について、補償層に関わる事柄を中心に説明する。ここでは補償層を動作させながら用いる方法について述べる。
図6に本実施形態に用いる素子の作製プロセスの一例を示す。以下の順で成膜を行うことで素子を得ることができる。ここで、透明電極は受信有効エリア全面に成膜したものを用いる。図6(a)、(b)はそれぞれ素子1、素子2に対応し、図6(c)はそれらを合わせたセルに対応する。
【0047】
《素子の作製》
(基板1)
1:透明電極(603)付きガラス基板(601)を用い、透明電極の裏面上にパリレン(602)を成膜する。
2:パリレン(602)上に誘電多層膜ミラー(604)を形成する。
3:誘電多層膜ミラー(604)上に保護膜(606)を成膜する。
4:透明電極(603)上に水平配向膜(605)を成膜し、配向処理(607)を行う。
【0048】
(基板2)
1:ガラス基板上(610)に誘電多層膜ミラー(611)を成膜する。
2:誘電多層膜ミラー(611)上に透明電極(612)を成膜する。
3:透明電極(612)上に水平配向膜(613)を成膜し、配向処理(614)を行う。
【0049】
(セル組み)
1:基板1(609)上に直径数ミクロンのスペーサビーズ(617)を散布する。
2:基板2(615)の周囲にシール材(616)を塗布する。
3:基板1(609)と基板2(615)の配向処理方向が反平行となるように組み合わせ、貼り合わせる。
4:熱処理を行い、シール材(616)を熱硬化させる。
5:液晶注入口(図示せず)から誘電異方性が正のネマティック液晶材料(618)を注入し、注入口を封止する。
6:上下基板の透明電極(603,612)から電極線(619)を取り出し、交流電圧源(620)と接続する。
【0050】
本素子では、電圧の変調により液晶層の光路長を変化させることができるため、この素子を用いて反射特性を測定し、横軸を電圧、縦軸を反射率でプロットすると、図2と同様のプロファイルを得ることができる。これにより、式5におけるn(x,y)が電圧により変調可能となる。なお一般的なディスプレイ用途の液晶材料では、nの最小値は液晶分子単軸方向の屈折率nである1.5程度、最大値は液晶分子長軸方向の屈折率nである1.6程度のものが用いられている。また、屈折率異方性Δnの数値としては0.1程度のものが広く用いられる。材料によってはΔnが0.3以上の数値を示すものも開発されている。本発明では適宜、至適の条件となるように層厚を調整すればよいため、いずれの液晶材料を用いても良い。
【0051】
《補償量の調整》
上記プロセスによって得られたセルであるFP素子(621)については、パリレン(602)の膜厚分布および補償層である液晶層(618)自身のセル厚分布によって、光干渉の際の光路長に素子面内で分布を有する。この分布を補償するために液晶に印加する電圧量の調整を行う。
またこの素子は液晶の屈折率異方性の影響により測定光の偏光軸によって値が変わる。そのため、予め偏光板を使用することにより測定光の偏光軸方向と、液晶の配向処理方向(異常光屈折率方向)を一致させておく。こうすることで液晶分子長軸方向と偏光軸とを合わせることができるため、液晶層への電圧印加により光路長を変化させることが可能となる。
【0052】
分布量はアレイ型光センサ(509)の画素毎に測定することが好ましいが、複数の画素毎に行っても構わない。
所定の波長の測定光をFP型探触子(505)に照射し、その反射光をアレイ型光センサ(509)で測定する。このとき交流印加電圧を変化させながらセンサに入射する光量を測定し、電圧−反射率プロファイルを測定する。これによりφを与える電圧値を求めることができる。
これをすべての画素において実施することでルックアップテーブル(LUT)を作成し、記憶媒体に保存する。用いる液晶の特性が温度によって変化しやすいものである場合、温度を変化させて同様のLUTを作成する。
【0053】
《補償型FP探触子の利用》
上記LUTにおいて、最適電圧値が同一の値となる画素を一つのグループとして、各グループ毎に音響波のデータを取得する。この場合、φを与える電圧と完全には同一電圧でなく多少ずれていても音響波の測定は可能である。そのため、装置の要求精度が高くない場合には、電圧−光量曲線の谷の範囲に入るような電圧値であれば同じグループとみなして測定してもよい。
つまり、設定する電圧値を細かく制御すれば概ねφ条件で常に測定可能となり、常に良好な感度となるが、分割する電圧数が増加するために測定時間がかかる。逆に電圧値を粗く制御すれば感度ばらつきは大きくなるが測定時間は短時間で済む。こうしたトレード・オフ関係に配慮して、デバイスとしての至適条件に設計を行うことが好ましい。
【0054】
図7を用いて測定シーケンスを説明する。図7(a)はFP探触子の上面図である。図中の円形の点線はFP探触子内の光路長に関する等高線である。中央部では光路長が長い、すなわち膜厚が厚く、端部では光路長が短い、すなわち膜厚が薄いという膜厚分布を有している。これの断面を簡略化した図が、図7(b)から(e)である。この等高線に従って、電圧印加グループを設定する。
【0055】
第一の光音響信号励起用レーザーを照射し、そこで得られた光音響波を第一のグループに相当する画素にて撮像する。すなわち、図7(a)および(b)の丸数字1で示した領域の撮像を行う。以降、丸数字1のことは(1)と記載する。丸数字2〜4についても同様に(2)〜(4)と記載する。液晶層の配向状態は(1)以外の領域でも(1)と同様の配向状態を示しているが、画像処理には使用しないので無視して良い。つまり素子上面からアレイ型光センサで光強度を読み取り、画像処理する際に(1)に相当する画素の情報のみを使用し、(2)〜(4)の情報を利用しない。
【0056】
次いで、第二の光音響信号励起用レーザーを照射し、そこで得られた光音響波を第二のグループに相当する画素にて撮像する。すなわち、図7(a)および(c)の(2)で示した領域の撮像を行う。液晶層の配向状態は(2)以外の領域でも(2)と同様の配向状態を示しているが、画像処理には使用しないので無視して良い。つまり素子上面からアレイ型光センサで光強度を読み取り、画像処理する際に(2)に相当する画素の情報のみを使用し、(1)、(3)、(4)の情報を利用しない。
【0057】
同様に(3)と(4)の領域についても撮像を行うことによって、(1)〜(4)それぞれの領域でほぼ最適な光路長に設定し音響波を受信することが可能となる。このようにして、複数の領域ごとの液晶層の配向、言い換えると光路長の補償量に対応する複数回の音響波受信が行われる。これらをデータ解析の際に総合して素子面全体の信号を得る。
【0058】
この例では領域を4分割したが、任意の領域数(N領域)に分割して同様の手法でデータを取得すれば良い。光音響信号励起用レーザーのパルス繰り返し周波数をf(Hz)とすると、ひとつのデータはf/N(Hz)の周波数で取得できる。
アレイ型光センサが十分高速に画像取得でき、音波の振動に追随してデータ取得できるのであれば、f/N(Hz)のフレーム周波数で連続的に画像取得できる。
【0059】
一方、アレイ型光センサの画像入力が低速で音波振動に追従しない場合には、測定光をパルス光とし、ストロボ撮影の原理によりデータを取得すれば良い。図8にストロボ撮影のタイミングチャートを示す。光音響信号励起用レーザーはN(Hz)で照射されている。撮影の間は被検体が動かないものとすると、光音響信号も同じ強度や位相で繰り返し出力される。
そこで光音響信号励起用レーザーの出力をトリガ信号として、測定光用パルスレーザーのFP探触子への照射タイミングを少しずつずらしながら照射しデータ取得することにより、異なるタイミングでの音圧を測定することができる。
【0060】
つまり図8の最上段は光音響励起用レーザーの出力を示している。光音響励起用レーザーを照射された吸収体からは、ある所定の時間だけ遅延して光音響信号が探触子に到達する。これを図8の上から2段目に記した波形で示している。
図8の上から3段目は、測定光用パルスレーザーの波形である。つまりこの瞬間だけ光がFP探触子に照射されることになるため、その反射光がアレイ型光センサに到達することになる。アレイ型光センサに到達する光強度を図8の最下段に示す。ここでは簡単のため、反射光強度は光音響波信号に比例するものとしている。このように受信した反射光の二次元分布を画像メモリに蓄積する。
【0061】
次の測定では、測定用パルスレーザーの照射タイミングを、前回の測定と比べてトリガから少し遅らせて、反射光強度の測定を行う。光音響波信号は繰り返し同じ波形が発生しているため、測定光用パルスレーザー照射のタイミングをずらすことによって、異なるタイミングでの反射光の二次元分布を得ることができる。
【0062】
さらにタイミングをずらして測定光を照射する過程を繰り返し、それぞれのデータをメモリに蓄積することによって1周期分の光音響波信号を取得することができる。これを整理すると、各画素におけるFP探触子からの反射光強度の時間変化を得ることができる。光音響信号をストロボによって観察する際の分割数をDとすると、データの取得はf/(N×D)(Hz)で得ることになる。
【0063】
なお一ヶ所あたり信号をm回平均化する場合には、データの取得はf/(N×D×m)(Hz)となる。このため、高速に繰り返し照射できる光音響信号励起用レーザーを使用することにより、実用的な速度でデータ取得することが可能となる。
【0064】
[補償層の実施形態−2]
《素子の作製》
本実施形態では、基板1および基板2に用いる基板としてストライプ状にパターニングした透明電極付きガラス基板を用いる。それ以外は上記実施形態−1と同一のプロセスでセルを作成する。セル組の際には2枚の基板のストライプ電極を直交させて貼りあわせ、単純マトリクス構成とする。ここでは図9に示すように、基板1の電極をコモン(COM)電極901とし、基板2の電極をセグメント(SEG)電極902とする。
【0065】
本実施形態では一般にスーパーツイステッドネマティック(STN)液晶などで用いられる単純マトリクス液晶用ドライバを用いて駆動を行うことができる。基板1に対してCOMドライバを、基板2にSEGドライバを実装する。
マトリクス電極が交差する領域を液晶の画素と定義すると、液晶の画素と2D撮像素子の画素とが1対1対応することが好ましい。ただし、液晶層は膜厚分布を補償するのが目的であるので、膜厚分布が緩やかに変化する場合には撮像素子の画素より粗くても構わない。
【0066】
《補償量の調整》
実施形態−1と同様にして、電圧−反射率プロファイルを測定する。これを用いて、ルックアップテーブル(LUT)を作成し、記憶媒体に保存する。
用いる液晶の特性が温度によって変化しやすいものである場合、温度を変化させて同様のLUTを作成する。
【0067】
またこのときに単純マトリクス駆動を行うための駆動条件を求める。各画素への電圧印加法は、一般的な液晶ディスプレイに用いられている単純マトリクス液晶の駆動方法で良い。この場合、式7に従って電圧のオンオフ比が決定されることが知られている。
【数7】


このためCOMのライン数が増加するとパリレンの膜厚を補償するための十分なオンオフ比、すなわち光路長差を確保することが出来なくなる。
【0068】
そのため素子の作製の際に、COMライン数とパリレン膜厚分布に鑑み、至適な補償量を確保するために必要な液晶セル厚に設定する。つまり、本実施形態の水平配向液晶の場合、光路長の最大値はn(VOFF)・d、最小値はn(VON)・dとなる。このため、補償可能な光路長の範囲は{n(VON)−n(VOFF)}・dとなる。ここでn(VOFF)はマトリクス駆動におけるオフ状態のときの液晶層の平均的な異常光屈折率であり、測定光の偏光方向と配向処理方向とを一致させたときに光路長に寄与する成
分である。n(VON)も同様に、オン状態の異常光屈折率を表すものである。このため、dを大きく設定することで補償範囲を確保することができる。ただし大きくし過ぎると応答速度が低下する問題があるので至適条件を採用することが好ましい。
【0069】
上述のとおり走査線数とオンオフ比とはトレード・オフの関係にある。そのためFP探触子領域全面において十分なオンオフ比が確保できない場合には、実効的なCOMライン数を減らし駆動デューティ比を増加させることが有効である。ひとつは、膜厚がほぼ一定のラインについては同時に駆動する方法がある。つまり事前の測定により膜厚分布が少ない領域については所定のCOMライン群を同時に選択し、同一の電圧で補償しても構わない。これにより駆動の際のデューティ数を減らせるためオンオフ比を高めることが可能となる。
【0070】
あるいは、素子全体をNブロックに分割して、ひとつの画像を形成するためにNフィールドを使うことで全体の画像を形成する方法もある。つまり画像取得の際にCOMラインをNブロックに分割して駆動する。各フィールドではCOMライン全体のN分の1のライン数で駆動される。一つのフィールドごとに画像センサで光量を測定し、これをN回別々の場所で画像を取得することで、補償量を決定する。
【0071】
それでもなお補償量が不足するときには、前述の場合と同様にして、測定光の波長数を1つもしくは複数増やしてもよい。
上記のように駆動方法と補償量を決定して、これをLUTとして記憶媒体に記録する。
【0072】
《補償型FP探触子の利用》
上記の単純マトリクス駆動方法にて補償層を駆動し、光路長をFP探触子面内で均一に保った上で、音響波を検出することができる。Nブロックに分割した場合には分割エリア毎に単純マトリクス駆動を行い、そのエリアの音響波信号を受信し、メモリに記憶する。これを他のブロックにおいても音響信号の受信を行い、Nフィールド分のデータを用いてひとつの素子全体の画像を形成する。
アレイ型光センサの画像取得が低速である場合にストロボによって観察可能であることは実施形態−1と同様である。
【0073】
[補償層の実施形態−3]
《素子の作製》
本実施形態では、基板1に用いる基板として、薄膜トランジスタ(TFT)素子が配設された液晶ディスプレイ用アクティブマトリクス基板を用い、基板2に用いる基板として全面に透明電極が成膜された基板を用いる。それ以外は実施形態−1と同一のプロセスでセルを作成する。ここでは基板1の行方向にはゲート電極、列方向にはソース電極が形成されている。
【0074】
本実施形態の液晶層の構成は、一般的なアクティブマトリクス駆動液晶素子と同様の素子構成である。TFT素子が配設された基板には、ツイステッドネマティック(TN)液晶を駆動する場合と同様に、透明電極がパターニングされた2枚の基板間でセル厚方向に電圧を印加するために、基板1の行方向にゲートドライバを、列方向にソースドライバを実装する。基板2はTFT駆動において至適条件となる電位に保たれている。
【0075】
配向処理方向や用いる液晶材料は前述の実施形態−1および実施形態−2と同様である。
液晶層の画素とアレイ型光センサの画素とが1対1対応することが好ましいが、液晶層は膜厚分布を補償するのが目的であるので、膜厚分布が緩やかに変化する場合には撮像素子の画素より粗くても構わない。
【0076】
《補償量の調整》
実施形態1と同様にして、最適電圧印加量を求め、各液晶画素毎にLUTとして記憶媒体に記録する。
【0077】
《補償型FP探触子の利用》
本実施形態に用いたセルを、アクティブマトリクス駆動し、光路長をFP探触子面内で均一に保った上で、音響波を検出することができる。アレイ型光センサの画像取得が低速である場合にストロボによって観察可能であることは実施形態−1と同様である。
【0078】
[補償層の実施形態−4]
実施形態2や3では、液晶層の画素ひとつにつき1種類の補償電圧が印加される構成を示した。しかし、液晶の画素が大きい、すなわち、パリレンの膜厚分布の変化量に対して画素が粗いために画素内で最適補償量が異なってしまう場合、ひとつの液晶画素の中を複数フィールドに分けてデータを取得しても良い。これは実施形態−2や実施形態−3のセル構成を用いて素子全体を空間分割し、実施形態−1の概念を導入して1つの画素の中を時分割で領域別にデータ取得するものであり、よりきめ細やかな補償を行うことが可能となる。
なお、これにはアレイ型光センサの画素ピッチが液晶画素のものよりも小さいことが必要である。
【0079】
[補償層の実施形態−5]
これまでの実施形態では一般に用いられている液晶ディスプレイ用のネマティック液晶を利用可能なものであり、実際に使用する際に電圧を印加しながら用いていた。本実施形態では作製プロセスにおいて補償層の条件をつくり込み、その状態を固定して用いる方法について述べる。
【0080】
《素子の作製》
実施形態−2または3に記載のマトリクス電極を使用する。用いる液晶材料として、高温側から、等方相−ネマティック相−スメクティックA相、という相系列を有する液晶材料を用いる。
素子を作製し、温度を上昇させ液晶をネマティック相とし、パリレンの膜厚を補償しうる至適条件において駆動を行い、駆動電圧を印加しながらスメクティックA相へと相転移させる。この相転移時にスメクティック層構造が発現する際に、基板からの液晶分子傾斜角に関して、ネマティック相における液晶分子の方向とスメクティックA相における分子の方向とが若干ずれる場合がある。このときバトネ(ネマティック相からスメクティック相への一次相転移の際にスメクティック層の結晶成長にともなって層放線方向に形成される略楕円状の海島構造体)が成長して層形成されることがあるので、材料の特性を鑑みて電圧印加条件を定めれば良い。
【0081】
《補償型FP探触子の利用》
電圧を印加しながら徐冷し、スメクティックA相へと相転移させると、層構造によって配向が安定化されるので電圧を切ってもその状態が維持される。そのため、補償電圧を印加することなく、FP探触子として使用することができる。
なお本実施形態ではスメクティック液晶相を用いたが、配向を決定した後にその配向状態が固定されるものであれば他の液晶層や固体相を用いても構わない。例えば、ディスコティック液晶、側鎖型高分子液晶、主鎖型高分子液晶などの液晶材料を用いることができる。これらは液晶相において用いてもよいが、固体相で用いる場合には、液晶相における配向状態が固体相に相転移した後にもそのまま維持されるよう、結晶化転移ではなくガラス化転移により固体相へと相転移する材料を用いることが好ましい。
【0082】
また上で述べたように、液晶性を有さない材料であっても、屈折率分布を付与し補償することが可能である。例えば、音波受信層の膜厚分布に合わせてショ糖などの有機物の濃度勾配を付与したり、濃度によって屈折率が異なる荷電物質を用い、電気泳動を用いて外部から濃度勾配を付与したりすることにより屈折率分布を付与し補償することができる。こうした材料を用いる際には、液体状態であると対流や拡散によって濃度分布が消失するおそれがあるため、所定の間隔で隔壁を設けて拡散しないようにするか、濃度分布を付与したらすぐに寒天などで固めて屈折率分布状態を保存させた上で使用することが好ましい。
【0083】
以上、5つの実施形態を述べたが、上記実施形態に限らず、これに派生してさまざまな材料を用いることができる。例えば液晶を用いる場合には、本実施形態1〜4では平行配向のECB(Electrically Controlled Birefringence)型液晶を用いた。しかし、VA
(Vertical Alignment)方式、Bend配向方式、HAN(Hybrid Aligned Nematic)方式など、様々な液晶モードが利用可能である。
【0084】
また、上記の補償量の調整に関して、経時変化の影響を受ける場合があると考えられる。そのため、工場出荷時だけでなく使用時にも定期的にLUTを見直すことが好ましい。
また、本実施形態では音響信号受信層と補償層との積層構成としたが、ミラー光学系を組み、音響信号受信部と補償部を別の素子を用いて構成することも可能である。
このような構成の生体情報イメージング装置を用いることで、高速に高解像な光音響像を得ることが可能となる。
【0085】
なお、医療用途に用いる際は、図5のように水槽は使用せず、被検体つまり患部に音響インピーダンスマッチングジェルを塗り、その上にFP型探触子505を接するように配置してイメージングを行う。この際、マッチングジェルに限らず、患部とFP型探触子505との間に音響マッチングがとれるものであれば用いることが可能である。
【0086】
また本実施形態の中では光音響波信号の受信を中心に述べたが、弾性波であれば検知可能である。そのため、医療用超音波エコー用探触子、非破壊検査用超音波探傷子もしくは探触子などにも適用可能である。またこの素子は広帯域であるので、可聴域の音波振動を検知するためのマイクや聴診器などにも適用可能である。
【実施例1】
【0087】
本実施例は、実施形態1に記した構成からなる。
本実施例は、本発明を用いて、被検体としてイントラリピッド1%水溶液を寒天により固め、その中に光を吸収する直径300μmのゴムワイヤーを配置したサンプルをイメージングするものである。サンプルは水中に配置されている。
【0088】
FP型探触子の第1のミラーと第2のミラーには誘電多層膜を用いる。この誘電多層膜は900−1200nmにおいて反射率が95%以上となるように設計される。また、FP型探触子の基板はBK7を用い、基板の誘電多層膜が成膜されている面と逆側の面には、900−1200nmにおいて反射率が1%以下になるようにARコート処理が施されている。ミラー間のスペーサー膜はパリレンCを用い、膜厚は30μmである。さらに、探触子の保護膜としてパリレンCを用いる。
【0089】
補償層に用いる液晶材料として、MLC−6608(メルク社製)を用いる。これは誘電異方性が負の液晶材料であるため、用いる配向膜は垂直配向膜とし、2枚の基板が互いに反平行となるように配向処理を行い、セル組を行う。セル厚は10ミクロンとする。交流電圧源は0Vから10Vまでを変調可能である。
FP型探触子の反射光量を測定するための測定光を出射する測定光用光源として、波長915nmにおいて連続発振できるレーザーダイオードを用いる。
【0090】
アレイ型光センサとして、高速CCDカメラを用いる。この画素数は100×100画素である。
このとき、測定光を照射し、適宜電圧を変化させながらCCDに検知される光量をモニタする。電圧−反射率特性を記録し、最適状態となる電圧値をもとめ、各CCD画素においてLUTを作成する。
その後、励起光を被検体に照射し、光音響波の測定を開始する。被検体に照射する励起光源はチタンサファイヤーレーザーである。出射するパルス光の繰り返し周波数は10Hz、パルス幅は10nsであり、波長は797nmである。
【0091】
本実施例で作製されるパリレンの膜厚には100nm程度の分布が発生している。そのため、素子上で領域を10ブロックに分けてデータ取りがなされる。
測定後得られる光音響信号の分布を用いて、ユニバーサルバックプロジェクションアルゴリズムにより、画像再構成を行う。再構成の際、ボクセルピッチは0.5mmとする。これにより、直径2cmの撮像領域において、光拡散媒体であるイントラリピッド1%寒天中のゴムワイヤーがイメージングされる。
【0092】
本実施例では上記実施形態に記載の手法にしたがって、至適条件にて駆動できるので、良好な感度で音響信号のデータ取得が可能である。
また本実施例の撮影時間は1分以内であり、従来報告されているラスタースキャン方式よりも高速であることがわかる。
【実施例2】
【0093】
本実施例は、実施形態2に記したFP探触子構成からなる。
本実施例に用いる装置構成や被検体は実施例1に記したものと同じである。液晶層は100×100画素に分割され、単純マトリクス駆動される。
本実施例で作製されるパリレンの膜厚には100nm程度の分布が発生している。そのため、素子上で領域を10ブロックに分けてデータ取りがなされる。
測定後得られる光音響信号の分布を用いて、ユニバーサルバックプロジェクションアルゴリズムにより、画像再構成を行う。再構成の際、ボクセルピッチは0.5mmとする。これにより、直径2cmの撮像領域において、光拡散媒体であるイントラリピッド1%寒天中のゴムワイヤーがイメージングされる。
【0094】
本実施例では上記実施形態に記載の手法にしたがって、至適条件にて駆動できるので、良好な感度で音響信号のデータ取得が可能である。
また本実施例の撮影時間は30秒以内であり、従来報告されているラスタースキャン方式よりも高速であることがわかる。
【実施例3】
【0095】
本実施例は、実施形態3に記したFP探触子構成からなる。
本実施例に用いる装置構成や被検体は実施例1に記したものと同じである。液晶層は100×100画素に分割され、アクティブマトリクス駆動される。
本実施例で作製されるパリレンの膜厚には100nm程度の分布が発生している。そのため、素子上で領域を10ブロックに分けてデータ取りがなされる。
測定後得られる光音響信号の分布を用いて、ユニバーサルバックプロジェクションアルゴリズムにより、画像再構成を行う。再構成の際、ボクセルピッチは0.5mmとする。これにより、直径2cmの撮像領域において、光拡散媒体であるイントラリピッド1%寒天中のゴムワイヤーがイメージングされる。
【0096】
本実施例では上記実施形態に記載の手法にしたがって、至適条件にて駆動できるので、良好な感度で音響信号のデータ取得が可能である。
また本実施例の撮影時間は20秒以内であり、従来報告されているラスタースキャン方式よりも高速であることがわかる。
【0097】
以上の各実施例で説明したように、本発明の構成によれば、受信膜の成膜プロセスのばらつき等によって膜厚分布が存在している場合でも、共振に必要な光学長を二次元面内で略一定に保つことができる。そのため反射率の傾きが急峻な条件で測定することができるため、高感度特性を実現することが可能となる。
【0098】
また光路長が均一であれば測定光に用いる波長が単一で済ませることが可能となる。もしくは補正量が不十分で測定波長を複数用いる場合であったとしても、補償層を用いない場合と比較すれば波長数を大幅に減少させることができる。これにより装置の低コスト化に寄与する。あるいは同じ価格であれば高い出力の光源を採用できるため、高感度化に寄与する。
【0099】
また本発明は成膜ばらつきの補償だけでなく、環境温度が変化したときの特性ばらつき、素子の経時変化による特性変化、本素子を装置として作り込む際の組み付け誤差などの様々な変動要因を吸収することができるため、安定な装置を提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上、本明細書中では生体を被検体とした生体情報イメージング装置に関する構成例を中心に述べた。これによると、腫瘍や血管疾患などの診断や化学治療の経過観察などのため、生体内の光学特性値分布及び、それらの情報から得られる生体組織を構成する物質の濃度分布の画像化が可能となり、医療用画像診断機器として利用可能である。
さらに被検体として非生体物質を対象とした非破壊検査などに応用することは当業者にとって容易に実現することができる。
以上より、本発明は広く検査装置として用いることが可能である。
【符号の説明】
【0101】
301・302:ミラー,303:FP干渉計(共振器),304:音響波受信層,309:補償層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定光が入射される第1のミラー、前記第1のミラーと対向配置されており被検体からの音響波が入射される第2のミラー、前記第1のミラーおよび第2のミラーに挟まれて設けられた音響波受信層、および、補償層を含む共振器と、
音響波の入射による前記音響波受信層の変形に応じた前記第1のミラー及び前記第2のミラーの間の光路長の変化を検出する検出器と、
を有し、
前記補償層における屈折により、前記音響波受信層の膜厚分布による前記光路長のばらつきが補償される
ことを特徴とする音響信号受信装置。
【請求項2】
前記補償層を制御する制御部をさらに有し、
前記制御部は、前記音響波受信層の膜厚分布による前記光路長のばらつきを、前記補償層の屈折率を変化させることにより補償する
ことを特徴とする請求項1に記載の音響信号受信装置。
【請求項3】
前記検出器は、前記測定光の波長、前記音響波受信層および前記補償層の膜厚および屈折率、ならびに、前記測定光の反射光量の変化を用いて、前記光路長の変化を検出するものであり、
前記制御部は、前記音響波受信層の膜厚分布に応じて前記補償層の屈折率を変化させることにより、前記光路長のばらつきを補償するものである
ことを特徴とする請求項2に記載の音響信号受信装置。
【請求項4】
前記補償層は、前記音響波受信層と積層構成である
ことを特徴とする請求項2または3に記載の音響信号受信装置。
【請求項5】
前記検出器により検出された光路長の変化に基づいて前記被検体からの音響波の強度を求める信号処理部をさらに有する
ことを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1項に記載の音響信号受信装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記音響波受信層をその膜厚分布に応じて複数の領域に分割し、同一の領域の中では前記光路長が略一定となるように、前記補償層の屈折率を領域ごとに決定するものである
ことを特徴とする請求項5に記載の音響信号受信装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記補償層の屈折率が、前記複数の領域ごとに決定された複数の屈折率のそれぞれとなるように順に制御を行い、
前記検出器は、前記制御部により制御されたそれぞれの屈折率において測定を行い、
前記信号処理部は、前記被検体からの音響波の強度を求める際に、前記複数の領域のそれぞれにおける光路長の変化として、前記補償層が当該領域に対応する屈折率であるときに前記検出器により測定された値を用いる
ことを特徴とする請求項6に記載の音響信号受信装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記補償層の屈折率が、前記音響波受信層の複数の領域に対応する領域ごとに異なる屈折率となるように制御を行うことにより、前記光路長のばらつきを補償する
ことを特徴とする請求項6に記載の音響信号受信装置。
【請求項9】
前記補償層は、単純マトリクス駆動またはアクティブマトリクス駆動される液晶であり

前記制御部は、前記補償層の各画素への電圧印加を制御するものである
ことを特徴とする請求項8に記載の音響信号受信装置。
【請求項10】
前記補償層は、前記音響波受信層の膜厚分布に応じた屈折率の分布を有することにより、前記膜厚分布による前記光路長のばらつきを補償する
ことを特徴とする請求項1に記載の音響信号受信装置。
【請求項11】
前記補償層は、液晶分子の配向状態が固定される液晶材料から形成される
ことを特徴とする請求項10に記載の音響信号受信装置。
【請求項12】
前記補償層は、濃度勾配に応じて屈折率が異なる有機物または荷電物質から形成されることを特徴とする請求項10に記載の音響信号受信装置。
【請求項13】
前記被検体からの音響波とは、励起光が被検体に出射された際に発生する光音響波である
ことを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1項に記載の音響信号受信装置。
【請求項14】
トリガとなる前記励起光は所定の周波数で前記被検体に出射されるものであり、
前記検出器は、前記励起光が出射される周期の中で、前記測定光をトリガから所定のタイミングずつ遅らせながら前記検出器に入射させることにより前記光音響波の測定を行うことを特徴とする請求項13に記載の音響信号受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−245100(P2012−245100A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117942(P2011−117942)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】