説明

音響処理装置

【課題】楽曲の演奏中であっても、演奏のテンポを変更させるための操作をするとエフェクト処理の内容を変更させる。
【解決手段】制御部100は、識別情報Idで識別される楽曲データMdを要求する旨の制御信号Cm1を記憶部15に送り、記憶部15からこの楽曲データMdを取得して検査し、基準ディレイ量Dp0と標準テンポTp0とを特定する。また、制御部100は、テンポ操作子18から制御信号Im1を受け取ると、これに含まれる数値Raを抽出する。そして、制御部100は、抽出した数値Ra、標準テンポTp0、および予め定められた係数ktを用いてTp=kt×Tp0×Raに従い、演奏部17に指定するテンポTpを算出する。そして、制御部100は、特定した基準ディレイ量Dp0、数値Ra、および予め定められた係数kdを用いてDp=kd×Dp0/Raに従い、エフェクタ12に対して指定するディレイ量Dpを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力された音響信号に対してエフェクト処理を施す技術に関する。
【背景技術】
【0002】
楽曲とマイクから入力された利用者の歌声(ボーカル音)とをリアルタイムで合成してスピーカから出力するいわゆるカラオケ装置において、ボーカル音にエコー等の各種エフェクトを付与することが知られている。ところで、音にエフェクトを付与する場合には、その音とともに演奏される楽曲との調和が問題となる。特許文献1には、テンポクロック発生手段を設け、楽音のエコー効果と自動伴奏とを同期させ、エコー効果の周期を1小節の長さに合致させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−94180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の発明においては、楽曲の演奏中に再生テンポを変えた場合に、楽音のエコー効果が適切に反映されなくなる。
【0005】
本発明は、楽曲の演奏中であっても、演奏のテンポを変更させるための操作をするとエフェクト処理の内容を変更させることができる音響処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明に係る音響処理装置は、第1操作子と、楽曲データに応じた演奏を行う演奏手段であって、演奏中に前記第1操作子への操作があった場合には、当該演奏のテンポを当該操作の内容に応じたテンポに変更して演奏を行う演奏手段と、エフェクト処理に用いるディレイ量であって、前記第1操作子への操作の内容に応じて変更されたテンポが速くなると小さくなる前記ディレイ量を決定する決定手段と、前記演奏手段による演奏中に収音手段から出力される音響信号に対し、前記決定手段により決定された前記ディレイ量を用いたエフェクト処理を施して放音手段に出力するエフェクト処理手段とを具備することを特徴とする。
【0007】
好ましくは、ディレイ量を調整するための第2操作子を具備し、前記エフェクト処理手段は、前記演奏手段による演奏中に前記第2操作子への操作があった場合には、前記第1操作子への操作の内容に応じたディレイ量を前記第2操作子への操作の内容に応じたディレイ量に変更してエフェクト処理を施すとよい。
【0008】
また、好ましくは、前記演奏手段の演奏に用いられる前記楽曲データを取得する取得手段と、前記取得手段により取得された前記楽曲データに基づいて、前記ディレイ量の基準となる基準ディレイ量を特定する特定手段とを具備し、前記決定手段は、前記特定手段により特定された前記基準ディレイ量に対し、前記第1操作子への操作の内容に応じて変更されたテンポが速くなると小さい量に変化するような演算を行って、前記ディレイ量を決定するとよい。
【0009】
また、本発明に係る音響処理装置は、第1操作子と、楽曲データに応じた演奏を行う演奏手段であって、演奏中に前記第1操作子への操作があった場合には、当該演奏のテンポを当該操作の内容に応じたテンポに変更して演奏を行う演奏手段と、楽音に周期的な特徴を与えるエフェクト処理の周期であって、前記第1操作子への操作の内容に応じて変更されたテンポが速くなるほど短くなる前記周期を決定する決定手段と、前記演奏手段による演奏中に収音手段から出力される音響信号に対し、前記決定手段により決定された前記周期を用いたエフェクト処理を施して放音手段に出力するエフェクト処理手段とを具備することを特徴とする。
【0010】
好ましくは、周期を調整するための第2操作子を具備し、前記エフェクト処理手段は、前記演奏手段による演奏中に前記第2操作子への操作があった場合には、前記第1操作子への操作の内容に応じた周期を前記第2操作子への操作の内容に応じた周期に変更してエフェクト処理を施すとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、楽曲の演奏中であっても、演奏のテンポを変更させるための操作をするとエフェクト処理の内容を変更させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】発明の第1実施形態に係る音響処理装置の基本的な機能構成を表す図である。
【図2】制御部により算出されるテンポとディレイ量を示す図である。
【図3】発明の第2実施形態に係る音響処理装置の基本的な機能構成を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.第1実施形態
1−1.構成
図1は、発明の第1実施形態に係る音響処理装置1の基本的な機能構成を表す図である。同図に示すように、音響処理装置1は、マイク10とA/Dコンバータ11と、エフェクタ12と、D/Aコンバータ13と、ミキサ14と、記憶部15と、スピーカ16と、演奏部17と、テンポ操作子18と、制御部100とを含む。特にスピーカ16を含むこの音響処理装置1は、カラオケ装置として機能する。
【0014】
マイク10は、例えば利用者(歌唱者)に把持されるコンデンサマイクなどの収音手段であって、歌唱音声を入力し、その歌唱音声に応じたアナログ音声信号をA/Dコンバータ11へ出力する。
【0015】
A/Dコンバータ11は、マイク10から入力されたアナログ音声信号をデジタル音声信号Sv0に変換しエフェクタ12へ出力する。
【0016】
テンポ操作子18は、軸を中心として回転するダイヤル型の操作子であり、利用者により操作されると、その操作によって回転させられた量(以下、操作量という)に応じた数値Ra(Ra>0)を含む操作信号Im1を制御部100に出力する。テンポ操作子18は、例えば、目印が付された所定の位置(以下、基準位置という)のまま操作されないときには数値Raを1.0に設定する。そして、利用者がこの基準位置にあるテンポ操作子18を、利用者から見て反時計回りに回転させると、テンポ操作子18は、数値Raを0よりも大きく1.0よりも小さい値に設定する。逆に、利用者がこの基準位置にあるテンポ操作子18を、利用者から見て時計回りに回転させると、テンポ操作子18は、数値Raを1.0よりも大きい値に設定する。
【0017】
記憶部15はハードディスク等の記憶装置であって、楽曲を構成する音の音高、音色、音量、およびタイミング等の楽曲の演奏に係る情報(以下、楽曲情報という)を含む複数の楽曲データMd(例えばMIDI(Musical Instrument Digital Interface;登録商標)形式のデータ)をその識別情報Idごとに記憶する。記憶部15は、識別情報Idを指定して要求された楽曲データMdを制御部100に供給する。
【0018】
制御部100は、CPU(Central Processing Unit)などの各種プロセッサと、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などのメモリとを含む。制御部100は、音響処理装置1の各部や図示しない電源等を制御するほか、以下の4つの機能を有する。
【0019】
制御部100の第1の機能は、楽曲を選んで指定する選曲機能である。具体的には、制御部100は、図示しない操作子の操作により選択された楽曲を示す楽曲データMdの識別情報Idを特定する。そして、制御部100は、識別情報Idで識別される楽曲データMdを要求する旨の制御信号Cm1を記憶部15に送り、記憶部15からこの楽曲データMdを取得する。
【0020】
制御部100の第2の機能は、選曲された楽曲に基準となるディレイ量Dp0(Dp0>0:以下、基準ディレイ量Dp0という)が含まれていた場合に、この基準ディレイ量Dp0を特定する特定機能である。具体的には、制御部100は、記憶部15から取得した楽曲データMdを検査し、基準ディレイ量Dp0が含まれている場合にはこれを特定する。なお、ディレイ量とは、エコーやリバーブといった音響効果において、原音に基づく音を遅延させて原音に重ねて再生させる際に用いられる遅延時間であり、例えばmsec(ミリ秒;1000分の1秒)と呼ばれる単位で表される。
【0021】
制御部100の第3の機能は、操作に応じた演奏のテンポを指定して演奏部17に楽曲を演奏させる演奏制御機能である。ここで演奏のテンポとは、単位時間当たりの拍子の数であり、例えばbpm(Beats Per Minute;1分あたりの拍子の数)と呼ばれる単位で表される。制御部100は、テンポ操作子18から制御信号Im1を受け取ると、これに含まれる数値Raを抽出する。また、制御部100は、記憶部15から取得した楽曲データMdから、その楽曲データMdが示す楽曲の標準的なテンポである標準テンポTp0(Tp0>0)を抽出する。そして、制御部100は、抽出した数値Ra、標準テンポTp0、および予め定められた係数kt(kt>0)を用いて次の式(1)に従い、演奏部17に指定するテンポTpを算出する。
【0022】
Tp=kt×Tp0×Ra・・・(1)
【0023】
式(1)によれば、テンポTpは正の数値であり(Tp>0)、テンポ操作子18の操作量に応じた数値Raが大きいほど、テンポTpは大きい値として算出されるので、演奏部17に指定する演奏のテンポは速くなる。制御部100は、算出したテンポTpを楽曲データMdに含ませて演奏部17に出力する。
【0024】
制御部100の第4の機能は、演奏のテンポに応じてディレイ量Dpを決定する決定機能である。制御部100は、特定機能により特定した基準ディレイ量Dp0、テンポ操作子18の操作量に応じた数値Ra、および予め定められた係数kd(kd>0)を用いて次式(2)に従い、エフェクタ12に対して指定するディレイ量Dpを算出する。
【0025】
Dp=kd×Dp0/Ra・・・(2)
【0026】
式(2)によれば、ディレイ量Dpは正の数値であり(Dp>0)、テンポ操作子18の操作量に応じた数値Raが大きいほど、ディレイ量Dpは小さい値として決定される。上述したとおり、数値Raが大きいほど、制御部100が演奏部17に指定する演奏のテンポが速くなるのであるから、すなわち、制御部100が演奏部17に指定する演奏のテンポが速くなるほど、ディレイ量Dpは小さくなるように決定される。言い換えると、制御部100は、特定された基準ディレイ量に対し、テンポ操作子18(第1操作子)への操作の内容に応じて変更されたテンポが速くなると小さい量に変化するような演算を行って、ディレイ量を決定する。制御部100は、決定したディレイ量Dpによりエフェクト処理を行う旨の制御信号Cm2をエフェクタ12に出力する。
【0027】
エフェクタ12は、少なくとも遅延回路を含むデジタル信号処理回路(DSP:Digital Signal Processor)を有し、制御部100から送られる制御信号Cm2の指示するディレイ量Dpを用いて、入力されたデジタル音声信号Sv0に対してエフェクト処理を施し、デジタル音声信号Sv1を生成する。そして、エフェクタ12は、生成したデジタル音声信号Sv1をD/Aコンバータ13に出力する。
【0028】
D/Aコンバータ13は、入力されたデジタル音声信号Sv1をアナログ音声信号Sv2に変換してミキサ14に出力する。
【0029】
演奏部17は、楽曲データMdに基づいて演奏を行う。具体的には、演奏部17は音源を有するミュージックシーケンサー等であり、制御部100から取得した楽曲データMdから楽曲情報を逐次読み出して演奏を行う。そして、演奏部17は、この演奏の結果、生成されたアナログの音響信号である楽音信号Smをミキサ14に出力する。ここで、制御部100によって指定されたテンポTpが楽曲データMdに含まれている場合には、演奏部17は、指定されたテンポTpが示す速度で演奏を行う。
【0030】
ミキサ14は、音声信号処理回路を有し、エフェクタ12でエフェクト処理されD/Aコンバータ13により出力されるアナログ音声信号Sv2と、演奏部17から出力される楽音信号Smとを所定の増幅率で増幅して合成し、合成された音響信号Soutをスピーカ16へ出力する。
【0031】
スピーカ16は、ミキサ14から入力された音響信号Soutに基づいて音響波を生成し放音する。この結果、音響処理装置1では、歌唱された音声(ボーカル音)に各種音響効果が付与されて楽曲音とともに歌唱者および聴衆の耳に届くことになる。
【0032】
第1の機能を有する制御部100は、演奏手段の演奏に用いられる楽曲データを取得する取得手段の一例である。
第2の機能を有する制御部100は、取得された楽曲データに基づいて、ディレイ量の基準となる基準ディレイ量を特定する特定手段の一例である。
【0033】
第3の機能を有する制御部100と演奏部17は、楽曲データに応じた演奏を行う演奏手段であって、演奏中にテンポ操作子18(第1操作子)への操作があった場合には、この演奏のテンポをこの操作の内容に応じたテンポに変更して演奏を行う演奏手段の一例である。
【0034】
第4の機能を有する制御部100は、エフェクト処理に用いるディレイ量であって、テンポ操作子18(第1操作子)への操作の内容に応じて変更されたテンポが速くなると小さくなるディレイ量を決定する決定手段の一例である。
【0035】
A/Dコンバータ11と、エフェクタ12と、D/Aコンバータ13と、ミキサ14とは、演奏手段による演奏中にマイク10(収音手段)から出力される音響信号に対し、決定手段により決定されたディレイ量を用いたエフェクト処理を施して放音手段に出力するエフェクト処理手段の一例である。
【0036】
1−2.動作
以下、エフェクト処理としてエコー(反響音)処理を実行する場合を例にとって、音響処理装置1の動作を説明する。
図2は、テンポ操作子18により指示される数値Raに応じて制御部100により算出されるテンポTpとディレイ量Dpを示す図である。ここでは、選択された楽曲の楽曲データMdには、基準ディレイ量Dp0として10msecが、標準テンポTp0として60bpmが、それぞれ含まれている。また、予め定められた定数kt、kdはいずれも1.0である。
【0037】
利用者がテンポ操作子18を全く動かさなかった場合、テンポ操作子18により指示される数値Raは1.0になる。その結果、制御部100が演奏部17に指定するテンポTpは60bpmになり、エフェクタ12に対して指定するディレイ量Dpは10msecになる。
【0038】
利用者がテンポ操作子18を反時計回りに回転させることで、テンポ操作子18により指示される数値Raは0.5になったと仮定する。その結果、制御部100が演奏部17に指定するテンポTpは30bpmになり、エフェクタ12に対して指定するディレイ量Dpは20msecになる。30bpmは60bpmに比べて非常にゆっくりとしたテンポである。演奏のテンポを元のテンポに比べてゆっくりしたテンポに変更すると、演奏される各音の間隔が広くなるので、元のディレイ量Dpのままでエコーを行うとエコーによる遅延が足りないと感じる場合がある。音響処理装置1では、ディレイ量Dpは10msecから20msecに増加しているので、テンポの変更前に比べてより長い遅延のエコーを施すことができる。
【0039】
一方、利用者がテンポ操作子18を時計回りに回転させることで、テンポ操作子18により指示される数値Raは2.0になったと仮定する。その結果、制御部100が演奏部17に指定するテンポTpは120bpmになり、エフェクタ12に対して指定するディレイ量Dpは5msecになる。120bpmは60bpmに比べて非常に速いテンポである。演奏のテンポを元のテンポに比べて速いテンポに変更すると、演奏される各音の間隔が狭くなるので、元のディレイ量Dpのままでエコーを行うとエコーによる遅延によって、原音とエフェクト処理された音とが重なり合い、聴く者に乱雑な印象を与える場合がある。音響処理装置1では、ディレイ量Dpは10msecから5msecに減少しているので、テンポの変更前に比べてより短い遅延のエコーを施すことができ、原音とエフェクト処理された音との干渉を抑制することができる。
【0040】
2.第2実施形態
図3は、発明の第2実施形態に係る音響処理装置1aの基本的な機能構成を表す図である。音響処理装置1aは、制御部100に代えて制御部100aを備えている点とエフェクト操作子19(第2操作子)を備えている点とが第1実施形態に係る音響処理装置1と異なる。音響処理装置1aのうち音響処理装置1と同じ構成には同じ符号を付して説明を省略する。なお、以下において、音響処理装置1aを、音響処理装置1と区別しない場合には単に音響処理装置1と呼び、制御部100aを、制御部100と区別しない場合には単に制御部100と呼ぶ。
【0041】
エフェクト操作子19は、利用者が直接的にディレイ量を調整するための操作子である。具体的には、エフェクト操作子19は、軸を中心として回転するダイヤル型の操作子であり、利用者により操作されると、その操作によって回転させられた量(以下、操作量という)に応じた数値Rb(Rb>0)を含む操作信号Im2を制御部100aに出力する。エフェクト操作子19は、例えば、目印が付された基準位置のまま操作されないときには数値Rbを1.0に設定する。
【0042】
制御部100aは、音響処理装置1aの各部や図示しない電源等を制御するとともに第1〜3の機能を有する点において、音響処理装置1の制御部100と同じであるが、第4の機能については以下の点が異なっている。
すなわち、制御部100aの第4の機能は、エフェクト操作子19の操作量または演奏のテンポに応じてディレイ量Dpを決定する決定機能である。演奏部17が演奏を開始した後において、制御部100aは、利用者からエフェクト操作子19を介した操作がない間、すなわち操作信号Im2が入力されていないときには、制御部100と同じように動作する。
【0043】
一方、演奏部17による楽曲の演奏中に、エフェクト操作子19に対する利用者の操作があったとき、すなわち操作信号Im2が入力されたときには、制御部100aは、予めROM等に記憶されている固定ディレイ量Dp2(Dp2>0)と、エフェクト操作子19の操作量に応じた数値Rbとを用いて次式(3)に従い、エフェクタ12に対して指定するディレイ量Dpを算出する。
【0044】
Dp=Dp2×Rb・・・(3)
【0045】
式(3)によれば、ディレイ量Dpは正の数値であり(Dp>0)、エフェクト操作子19の操作量に応じた数値Rbに比例した数値として決定される。制御部100aは、決定したディレイ量Dpによりエフェクト処理を行う旨の制御信号Cm2をエフェクタ12に出力する。
【0046】
これにより、利用者がエフェクト操作子19を操作した場合には、その操作が優先され、エフェクト操作子19に対する操作量に応じたエフェクト処理がエフェクタ12により行われる。つまり、エフェクタ12は、演奏部17(演奏手段)による演奏中にエフェクト操作子19(第2操作子)への操作があった場合には、テンポ操作子18(第1操作子)への操作の内容に応じたディレイ量をこのエフェクト操作子19への操作の内容に応じたディレイ量に変更してエフェクト処理を施すエフェクト処理手段の一例である。
【0047】
3.変形例
以上が実施形態の説明であるが、この実施形態の内容は以下のように変形し得る。また、以下の変形例を組み合わせてもよい。
(1)上記の第2実施形態では、利用者がエフェクト操作子19を操作した場合には、その操作が優先され、エフェクト操作子19に対する操作量に応じたエフェクト処理が行われていたが、エフェクト処理は、エフェクト操作子19とテンポ操作子18の両方に対する操作に応じて行われてもよい。この場合、例えば、利用者がエフェクト操作子19を操作すると、制御部100aは、次式(4)に従ってディレイ量Dpを算出すればよい。
【0048】
Dp=(kd×Dp0/Ra)×Rb・・・(4)
【0049】
ここで、式(4)の右辺は式(1)の右辺である(kd×Dp0/Ra)に、Rbを乗じたものである。従って、例えば、エフェクト操作子19が操作されずに上記の基準位置にあり、数値Rbが1.0であるときには、式(4)に従った結果は式(1)に従った結果に等しい。この場合、式(4)において(kd×Dp0/Ra)は、エフェクト操作子19を操作するときの基準となる値である。すなわち、エフェクタ12は、テンポ操作子18(第1操作子)への操作の内容に応じたディレイ量を基準としてエフェクト操作子19(第2操作子)への操作の内容に応じたディレイ量に変更してエフェクト処理を施せばよい。これにより、テンポ操作子18を操作することで調整したエフェクト処理を、エフェクト操作子19を操作することで変更するときに生じる変化は滑らかになる。
【0050】
(2)上記の実施形態では、テンポ操作子18の操作量に応じた数値Raが大きいほどディレイ量Dpを小さくするために、ディレイ量Dpが数値Raに反比例するようにディレイ量Dp算出のための数式を定めていたが、この数式はディレイ量Dpが数値Raに対して単調減少するような数式であれば、どのような数式であってもよく、例えば対数関数や指数関数等を含んでいてもよい。また、この数式は連続関数である必要はなく、定義域が複数に区分されていてもよい。また、記憶部15により、数値Raとこの数値Raが大きくなるほど小さくなるディレイ量Dpとを対応付けている対応表を記憶させ、制御部100がこの対応表を参照して数値Raに対応するディレイ量Dpを読み出すことにより、ディレイ量を決定してもよい。要するに、制御部100が演奏部17に指定する演奏のテンポが速くなるほど、ディレイ量Dpは小さくなるように決定されればよい。
【0051】
(3−1)上記実施形態では、エフェクト処理の対象となる音については特に限定がなく、どのような高さの音もデジタル音声信号Sv0に含まれている音はエフェクト付与の対象とされていたが、音の高さに応じてエフェクト処理の内容を変更してもよい。すなわち、音高ごとにエフェクト処理の内容を異ならせてもよい。
【0052】
(3−2)また、ディレイ量Dpのようなエフェクトパラメータ決定のためのアルゴリズムや関数を音高(または音高領域)ごとに予めメモリに記憶しておいて、処理対象の音高に応じて適切なアルゴリズムや関数を用いてもよい。
【0053】
(3−3)ディレイ量Dpのようなエフェクトパラメータは1種類には限らず、2種類以上であってもよい。たとえば、リバーブの場合、更にリバーブレベルとリバーブ時間とを対応付けたテーブルをメモリに記憶させておき、演奏のテンポに応じてリバーブレベルとリバーブ時間とを決定してもよい。
【0054】
(4)上記実施形態では、制御部100は、記憶部15から取得した楽曲データMdを検査し、基準ディレイ量Dp0が含まれている場合にはこれを特定していたが、基準ディレイ量Dp0が含まれている場合には、予め定められた数値を記憶部15から読み出して、読み出したこの数値により基準ディレイ量Dp0を特定してもよい。また、制御部100は、楽曲データMdからその楽曲のジャンルを示すジャンル情報を抽出して、そのジャンルごとに定められた基準ディレイ量Dp0を特定してもよい。この場合、ジャンルと基準ディレイ量Dp0との対応表をROMや記憶部15から読み出せばよい。また、楽曲データから楽曲の構成を解析し、例えば2つの音高を交互に4回以上連続して演奏するような構成が見つかった場合には、この部分をトレモロと判断して基準ディレイ量Dp0を増減させる等の調整をしてもよい。
【0055】
(5)上記実施形態では、制御部100は、記憶部15から取得した楽曲データMdを検査し、基準ディレイ量Dp0が含まれている場合にはこれを特定していたが、第2実施形態のようにエフェクト操作子19を備えている場合には、楽曲データMdに基準ディレイ量が含まれていないときには、エフェクト操作子19に対する利用者の操作に基づいてディレイ量を決定してもよい。これにより、音響処理装置1は、楽曲データに基準ディレイ量を含むものと含まないものの両方を取り扱うことができる。
【0056】
(6)上記実施形態では、スピーカ16を含む音響処理装置1は、カラオケ装置として機能していたが、音響処理装置1にスピーカ16は含まれていなくてもよい。この場合、音響処理装置1は、ミキサ14が合成した音響信号Soutを出力する端子があればよい。
【0057】
(7−1)演奏のテンポに応じて変更されるエフェクト処理の内容は、上述した残響(反響)音を付与するものに限られず、音声信号全体の音量のレベルを変更するもの(リミッタなど)、特定の周波数領域について選択的に音量レベルを変更するもの(イコライザなど)、増幅や歪みを付与するもの(オーバードライブなど)、低周波成分を変調するもの(コーラスなど)、音程を変化させるもの(ピッチシフタなど)、ノイズを減らすもの(ノイズゲートなど)などのエフェクト処理の内容であってもよい。また、これらのエフェクトを組み合わせたものであってもよい。例えば、演奏のテンポに応じてリバーブについてのパラメータであるリバーブレベルとイコライザについてパラメータである変更すべき周波数領域および変更量とを決定し、エフェクタ12を決定した内容でそれぞれリバーブおよびイコライザとして動作させてもよい。
【0058】
(7−2)また、特に、エフェクタ12が楽音に周期的な特徴を与えるエフェクト処理を施す場合にあっては、制御部100は、ディレイ量Dpに加えて、又はこれに追加してこのエフェクト処理に用いるエフェクトパラメータとして周期Tを決定してもよい。この場合、制御部100は、例えば、記憶部15から取得した楽曲データMdを検査し、基準周期T0が含まれている場合にはこれを特定する。そして、制御部100は、特定した基準周期T0、テンポ操作子18の操作量に応じた数値Ra、および予め定められた係数k(k>0)を用いて次式(5)に従い、エフェクタ12に対して指定する周期Tを算出する。
【0059】
T=k×T0/Ra・・・(5)
【0060】
これにより、テンポ操作子18の操作量に応じた数値Raが大きいほど、周期Tは短い値として決定されるので、制御部100が演奏部17に指定する演奏のテンポが速くなるほど、周期Tは短くなるように決定される。すなわち、この場合の制御部100は、楽音に周期的な特徴を与えるエフェクト処理の周期であって、テンポ操作子18(第1操作子)への操作の内容に応じて変更されたテンポが速くなるほど短くなる周期を決定する決定手段の一例である。なお、周期的な特徴を与えるエフェクト処理の例としては、コーラスやフランジャー、ワウ等が挙げられる。
【0061】
(8)上記実施形態においては、音響処理装置をカラオケ装置に実装した例を説明したが、本発明の音響信号制御処理の実装は、カラオケ装置に限られない。例えば、音声信号を入力するためのマイク10の代わりに、エレクトリックギター等の電子楽器を用いてもよい。この場合、エレクトリックギターに備えられたピックアップにより弦の振動がアナログ音響信号に変換され、変換されたアナログ音響信号は音響処理装置に供給される。記憶部15が記憶する楽曲データMdにはエレクトリックギター以外の楽器による楽曲情報が含まれている。そのため、利用者はテンポ操作子18により指定したテンポで他の楽器のパートを演奏部17に演奏させて、エレクトリックギターのパートの練習をすることができ、且つ、その練習で自ら演奏したエレクトリックギターのパートを、そのテンポに適したエフェクト処理を施した上で聴くことができる。
【0062】
(9)制御部100によって実行される各プログラムは、磁気テープや磁気ディスクなどの磁気記録媒体、光ディスクなどの光記録媒体、光磁気記録媒体、半導体メモリなどの、コンピュータ装置が読み取り可能な記録媒体に記憶された状態で提供し得る。また、このプログラムを、インターネットのようなネットワーク経由でダウンロードさせることも可能である。なお、上記制御部100によって例示した制御手段としてはCPU以外にも種々の装置を適用することができ、例えば、専用のプロセッサなどを用いてもよい。また、制御部100の機能は、独立したプロセッサやモジュールによって実現されてもよいし、一つのプロセッサによって実現されてもよい。すなわち、本発明において、制御部100の機能を実現するにあたりハードウェアやソフトウェアをどのように実装するのかについては特に限定されない。
【0063】
(10)上記実施形態において、定数kt、kdはいずれも1.0であったが、定数kt、kdは0よりも大きい実数であればどのように定められていてもよい。また、これらの定数は、それぞれ楽曲ごと、あるいは楽曲のジャンルごとに定められていてもよい。
【0064】
(11)上記実施形態において、演奏部17は音源を有するミュージックシーケンサー等であったが、制御部100から取得した楽曲データMdから楽曲情報を読み出して演奏を行うものであれば何であってもよい。例えば、演奏部17は、自動演奏を行う自動演奏楽器であってもよい。具体的には、演奏部17は、音源に代えてまたは加えて、ピアノやギター等の楽器そのものを有するミュージックシーケンサーやコンピュータ等であり、楽曲データMdから楽曲情報を逐次読み出して、読み出した楽曲情報に応じて鍵盤や弦に対し、物理的な力を加える。その結果、この自動演奏楽器が演奏部17として制御部100により指定された楽曲を指定されたテンポで演奏すればよい。この場合であっても、演奏のテンポに応じてマイクやピックアップ等が出力する音響信号に対して施すエフェクト処理は変化させられる。すなわち、自動演奏楽器が演奏するテンポが速くなると、そのエフェクト処理において用いられるディレイ量は小さくなり、また周期は短くなる。
【0065】
(12)上記実施形態において、演奏部17はアナログの音響信号である楽音信号Smをミキサ14に出力していたが、演奏部17はデジタルの音響信号を出力するものであってもよい。この場合、演奏部17から出力されるデジタルの音響信号を、所定のD/Aコンバータによりアナログの音響信号に変換し、ミキサ14に出力すればよい。また、D/Aコンバータ13にデジタルの音響信号をミキシングする機能があれば、演奏部17から出力されるデジタルの音響信号をD/Aコンバータ13に出力してもよい。この場合、D/Aコンバータ13は演奏部17から出力されたデジタルの音響信号と、エフェクタ12から出力されたデジタル音声信号Sv1とをミキシングする演算を行い、この演算により生成したデジタルの音響信号をアナログの音響信号に変換してスピーカ16へ出力すればよい。なお、この場合には、ミキサ14はなくてもよい。
【0066】
(13)上記実施形態において、演奏部17は制御部100と別体であったが、制御部100が楽曲データMdから楽曲情報を読み出して演奏を行ってもよい。この場合、制御部100が演奏部17として機能することで、楽音信号Smをミキサ14に出力すればよい。
【符号の説明】
【0067】
1…音響処理装置、10…マイク、100…制御部、11…A/Dコンバータ、12…エフェクタ、13…D/Aコンバータ、14…ミキサ、15…記憶部、16…スピーカ、17…演奏部、18…テンポ操作子、19…エフェクト操作子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1操作子と、
楽曲データに応じた演奏を行う演奏手段であって、演奏中に前記第1操作子への操作があった場合には、当該演奏のテンポを当該操作の内容に応じたテンポに変更して演奏を行う演奏手段と、
エフェクト処理に用いるディレイ量であって、前記第1操作子への操作の内容に応じて変更されたテンポが速くなると小さくなる前記ディレイ量を決定する決定手段と、
前記演奏手段による演奏中に収音手段から出力される音響信号に対し、前記決定手段により決定された前記ディレイ量を用いたエフェクト処理を施して放音手段に出力するエフェクト処理手段と
を具備することを特徴とする音響処理装置。
【請求項2】
ディレイ量を調整するための第2操作子を具備し、
前記エフェクト処理手段は、前記演奏手段による演奏中に前記第2操作子への操作があった場合には、前記第1操作子への操作の内容に応じたディレイ量を前記第2操作子への操作の内容に応じたディレイ量に変更してエフェクト処理を施す
ことを特徴とする請求項1に記載の音響処理装置。
【請求項3】
前記演奏手段の演奏に用いられる前記楽曲データを取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された前記楽曲データに基づいて、前記ディレイ量の基準となる基準ディレイ量を特定する特定手段と
を具備し、
前記決定手段は、前記特定手段により特定された前記基準ディレイ量に対し、前記第1操作子への操作の内容に応じて変更されたテンポが速くなると小さい量に変化するような演算を行って、前記ディレイ量を決定する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の音響処理装置。
【請求項4】
第1操作子と、
楽曲データに応じた演奏を行う演奏手段であって、演奏中に前記第1操作子への操作があった場合には、当該演奏のテンポを当該操作の内容に応じたテンポに変更して演奏を行う演奏手段と、
楽音に周期的な特徴を与えるエフェクト処理の周期であって、前記第1操作子への操作の内容に応じて変更されたテンポが速くなるほど短くなる前記周期を決定する決定手段と、
前記演奏手段による演奏中に収音手段から出力される音響信号に対し、前記決定手段により決定された前記周期を用いたエフェクト処理を施して放音手段に出力するエフェクト処理手段と
を具備することを特徴とする音響処理装置。
【請求項5】
周期を調整するための第2操作子を具備し、
前記エフェクト処理手段は、前記演奏手段による演奏中に前記第2操作子への操作があった場合には、前記第1操作子への操作の内容に応じた周期を前記第2操作子への操作の内容に応じた周期に変更してエフェクト処理を施す
ことを特徴とする請求項4に記載の音響処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−215363(P2011−215363A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83252(P2010−83252)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】