説明

音響分配装置及び音響を分配するためのシステム

トレーニング用のダミー内で生理学的な音を分配するためのシステムにおいて使用される音響分配装置であって、このシステムは、少なくとも一の、例えばスピーカーのような音源(5,6)を備え、信号発生装置からの電気信号を音響信号へ変換するように構成されている。この音響分配装置は、例えば可撓性の箔からなるポーチ又はブラダーのような空気充填された構造体(17〜23)であり、音源に結合するための、例えば空気充填された音響伝導体(14〜16)のような結合手段を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は請求項1の前文に記載された音響分配器、及び、その後の請求項6の前文に記載されたような、トレーニング用ダミー(training manikin)における生理学的な音を分配するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療従事者は、患者の身体の様々な部分の音を聞くことによって、患者の生理学的状態の実質的な情報を得る。この聴診は通常聴診器を用いてなされている。
【0003】
医療従事者のトレーニングを容易とするために、ダミーが身体の様々な領域で音を放出するようにデザインされてきた。音のタイプは異なる生理学的な状態を表わすように選択することができる。このために、スピーカーがダミーの皮膚の下の様々な場所に配置されている。スピーカーは、一般的には左肺の上部、左肺の下部、右肺の上部、右肺の下部、心臓、腸、及び腕に配置される。これらの位置のそれぞれに、一以上のスピーカーがあっても良い。このように配置されたスピーカーを備えるダミーは、ラエルダールメディカルAS(Laerdal Medical AS)からSimMan(商標)の下で販売されている。
【0004】
このダミーを用いていくつかの生理学的状態をシミュレートする(simulate)ことができる。生理学的状態には、表1に挙げるようなものがある。
【0005】
【表1】

【0006】
トレーニングのためのダミーの使用は、人間を使っては容易に達成し得ないトレーニングを可能にする。人間を使用すると、トレーニングに望ましい生理学的状態そのものを有する患者を見つけるのが難しい場合がある。また、状態が重篤である場合には、人間でトレーニングするのは危険である場合がある。さらに、人間でトレーニングするのは時間の浪費である。なぜなら、トレーニングされる医療従事者は、別々の場所にいるであろう患者から患者へ渡り歩かなければならないからである。
【0007】
ダミーを使うと、一の生理学的状態から別の一の生理学的状態に切り替えるのは簡単であり、重篤な状態を解析することができる。そのような重篤な状態では、人間には直ちに専門的な手当てが必要であり、トレーニングされていない従事者がその患者でトレーニングすることは許されない。
【0008】
SimMan(商標)が多くのヘルスケア従事者に貴重なトレーニングを提供してきたにもかかわらず、そのような解析をもっと本当の生体に近づけるように機能を改良することが求められている。
【0009】
また、音響システムをダミーの中にもっと簡単に取付けできるようにすること、中でも、システムを柔軟な皮膚を有するダミーに取付けることを可能とすることが求められている。
【0010】
現在のダミーでは、スピーカーは胸の皮膚の下にしばしば取付けられ、音は肺及び心臓が位置している領域から聞こえてくる。また、スピーカーを胃の領域に取付けることも知られている。胃の領域は相対的に軟らかい領域であり、スピーカーは、トレーニング中に加えられる外部からの力によって損傷されないように、固い材料で作られたプレートで覆われなければならない。
【0011】
SimMan(商標)は貴重なトレーニングを多くのヘルスケア従事者に提供している。これらのトレーニングの性能を他のダミーにも組み入れ、この種のトレーニングをさらに多くのヘルスケア従事者が利用できるようにすることが望まれている。また、ダミーの中の音響分配装置の制御をより簡単にする技術を提供することが望まれている。
【0012】
また、例えば、柔軟な胸の皮膚を有するダミーの胸のような、ダミーの柔軟な部分にチャンバー及びスピーカーを取付けるのは困難である。胸は、例えば、心臓を収縮させるための胸の収縮力を受けている。これらの力は、スピーカー又はチャンバーをたやすく損傷し、あるいはチャンバーが、近くの装置の方に押され、これらを損傷するであろう。
【0013】
さらに、現状のシステムでは、音の広がりを制御することは難しい。
【0014】
音は、近くの装置に伝わり、したがってある距離を伝播し、意に反して別の場所で発せられる場合がある。
【0015】
また、現在のシステムを既存のダミーに取付けるのは困難である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上述の問題点の一以上を解決することを目的としている。この目的は音響分配装置によって達成されており、該音響分配装置はトレーニング用ダミーの生理学的な音を分配するシステムの中で使われている。このシステムは、例えばスピーカーのような少なくとも一の音源を備えてなり、信号発生装置からの電気信号を音響信号に変換するように構成され、音響分配装置は、音源に結合するための結合手段を備えた、空気充填された構造体である。
【0017】
これは、音響分配装置の配置に大変良好な適応性を与える。
【0018】
好ましい実施形態によると、取付け手段は空気充填された音響伝導体である。この結果、音響伝導体の配線の融通性が高くなり、また、伝導体を簡単に短く、又は、長くできるようになっている。
【0019】
本発明の特定の実施形態によると、音響分配装置は可撓性のある箔からなるポーチ(pouch)又はブラダー(bladder)である。これは、製作が簡単で、ダミーの中に配置するのが簡単な、安価な音響分配装置を提供している。
【0020】
好ましくは、音響分配装置は容積維持装置を含んで、音響分配装置の空気容積をそのままに維持し、容積維持装置は発泡性プラスチックのマット、布のマット、羊膜嚢(bow)、枠組み(framework)又はそれに類するものである。これによって、音響分配装置は、力が加えられたときに永久に陥没することがない。
【0021】
好ましくは、容積維持装置は、発泡性プラスチックのマット、布のマット、羊膜嚢、枠組み又はそのようなものである。こうすれば、安価で実施しやすい容積維持装置を提供できる。
【0022】
また、本発明は、トレーニング用ダミーの中に生理学的な音を分配するシステムを規定しており、このシステムは、例えばスピーカーのような少なくとも一の音源を備えてなり、信号発生装置からの電気信号を音響信号に変換するように構成され、音源は少なくとも一の空気充填された音響伝導体の第1の端部に結合され、第2の端部は音響分配装置に結合され、音響信号を、音源から所定の距離をおいて配置された音響分配装置に伝導している。
【0023】
この結果、融通性の高い音響分配システムが提供され、このシステムは取付けやすく、後付けされることができる。
【0024】
好ましくは、音響伝導体は、例えば、内径が音の波長より小さいプラスチックホースのような可撓性のホースである。これによって高い適応性と良好な音響伝導性とを有する安価なシステムが得られる。
【0025】
音響分配装置は柔軟な、空気充填された構造体である。これによって、音響分配装置の配置の自由度を増すことができる。
【0026】
有利なことに、音響伝導体は音を一の音源から複数の音響分配装置に伝えるように分岐されている。これによって、音を一の音源からダミーの様々な領域に誘導することが可能となっている。
【0027】
有利なことに、システムは、複数の音源を備え、これらの音源の各々が個々に箱状の構造体に配置されており、この箱状の構造体がスタック状に互いに結合されている。これによって、小型のユニットとすることができ、電気伝導体と、音響伝導体との簡単な配線が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明は、添付の図に示された模範的な実施形態を参照しつつ、より詳細に説明される。添付の図において、図1は本発明に係る音響システムを設置されたダミーの上部部分を図表的に示し、図2は本発明の好ましい実施形態による、音響ポーチ又はブラダーを有する胸の皮膚、及び、スピーカーのスタック(stack)であり、図3は本発明の好ましい実施形態による音響ポーチ又はブラダーの詳細を示す。
【0029】
最初に図1を参照すると、図1はダミー1の上部部分を図表的に示している。ダミー1は頭部2、胸部3及び腕部4を有している。また、ダミー1は身体の下部部分を有しても良いが、必ず有しなければならないわけではない。また、図1は本発明による音響システムを図表的に示す。この音響システムは、この場合3つのスピーカ5,6,7を備えている。スピーカー5,6,7はそれぞれの音響チャンバー8,9,10中に配置され、音響チャンバーは箱状構造体11,12,13の中に形成されている。スピーカーは、(図示されない)伝導体を介して、従来の方法で増幅器に接続されている。
【0030】
音がスピーカー内に発生する方式は従来どおりであり、ここでは詳細に説明しない。
【0031】
チャンバー8,9,10からは、柔軟な筒状部材(例えばホース)14,15,16が延びている。ホース14,15,16はホース15a,15b,15c,16a,16b,16cに分岐している。それぞれのホース又は分岐体は、音響ポーチ又はブラダー17,18,19,20,21,22,23にチャンバーとは反対の端部で接続されている。
【0032】
音がスピーカー5の中に発生するとき、その音はチャンバー8からホース14の中に伝えられ、音響ポーチ又はブラダー20から放出される。例えば、聴診器でポーチ又はブラダー20に近接した領域内を聴く人はスピーカー5によって発生された音を聞く。
【0033】
音がスピーカー6の中に発生するとき、音はチャンバー9からホース15へ伝わり、さらに分岐したホース15a,15b,15cの中へ伝わり、ポーチ又はブラダー17,18,19から放出される。これは、どのポーチ又はブラダー17,18,19の周りであっても、その領域内を聴く人には音が聞こえることを意味する。
【0034】
同様に、スピーカー7内に発生した音はホース16及び分岐ホース16a,16b,16cを介してポーチ又はブラダー21,22に伝わり、どのポーチ又はブラダー17,18,19の周りであっても、その領域内を聴く人には音が聞こえる。
【0035】
図1はポーチ又はブラダーのいくつかの可能な配置を示している。いかなる合理的な数のポーチ又はブラダーが特定のスピーカーに結合しても良く、いかなる合理的な数のスピーカーが使用されても良い。また、二以上のスピーカーが同じブラダーに接続されることもできる。
【0036】
スピーカーはダミーのどこに配置されることもでき、利用できるスペースはダミーの中のどこにあっても使用できるようにされている。また、スピーカーをダミーの外側に配置することも可能である。
【0037】
図2はダミーの柔軟な胸の皮膚の内側を示している。また、胸の内側部分25も示されている。
【0038】
ここには4つの音響ポーチ又はブラダー26,27,28,29が示され、これらは外側の胸の皮膚24と胸の内側部分25との間に部分的に配置されている。ポーチ又はブラダーはホース31を介して3つのスピーカーからなるセットに接続されている。スピーカー30はそれぞれのチャンバー32の中に配置され、チャンバー32は箱状構造体33によって形成されている。この実施形態においては、箱状構造体33はスタック状の互いの上面に配置されている。箱状構造体は円状の断面を有し、この断面は円状のスピーカーよりわずかに大きいだけであり、できるだけ場所をふさがないようにされている。各々の箱状構造体は3つのラグを周縁に沿った異なる場所に備え、これらのラグに所定のボルトが挿入されることができ、箱状構造体のスタック33を保持している。このようにすることによって、スタック全体がダミーの一の場所に配置されることができる。増幅器からのすべての配線35は同じ経路を通じて配線されることができるので、スタック全体がダミーの一の場所に配置されることは配線を容易にする。また、ホース31も同じ経路を通じて部分的に導かれても良い。
【0039】
図3は本発明の好ましい実施形態による音響ブラダー26を示している。ブラダー26は、外形四角形状であるが、他のどんな形でも良く、形状及び大きさは、望ましい音の広がりに依存する。
【0040】
ブラダー26は薄い柔軟な材料から作られるのが好ましく、例えば、2つにおられたプラスチック箔のシートを溶接、糊付け、又は他の方法で端部を合わせて2枚の箔の側面の間に閉塞された容積を形成している。ブラダーの内側は、ブラダーのくぼみを望ましい容積に保持し、箔の両側面が永久に押しつぶされるのを防止する手段となっている。容積を維持する手段は、発泡性プラスチックのマット(図3に示すような)、布、プラスチックの羊膜嚢または枠組みであってよく、箔の両側面の間に配置される。
【0041】
チューブ31は開口部36を通じてブラダーに接続される。接続はエアタイト(air tight)であってよいが、たとえ接続がエアタイトでなくても音はブラダーの中に伝わる。
【0042】
ブラダーは胸の皮膚又はダミーの別の部分に、両面テープ、接着剤、留め金、及びループ(VelcroTM)のような実行可能な方法によってしっかり留められても良く、ポーチは胸の皮膚の中に作られ、又はブラダーの中の小さな穴によって形成され、胸の皮膚上に形成された釘がこれらを通じて挿入されても良い。
【0043】
また、音響分配装置はいくつかの小さい構造体からなっていて良く、この小さい構造体は柔軟であっても硬くても良く、共に結合されており、その間に音響チャネルを有している。
【0044】
また、ダミー本体中への配置によっては、音響分配装置は剛性を有しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る音響システムを設置されたダミーの上部部分を図表的に示す。
【図2】本発明の好ましい実施形態による、音響ポーチ又はブラダーを有する胸の皮膚、及び、スピーカーのスタック(stack)である。
【図3】本発明の好ましい実施形態による音響ポーチ又はブラダーの詳細を示す。
【符号の説明】
【0046】
1・・・ダミー
2・・・頭部
3・・・胸部
4・・・腕部
5,6,7・・・スピーカー
8,9,10・・・チャンバー
11,12,13・・・構造体
14,15,16・・・ホース
17,18,19,20,21,22,23・・・ポーチ又はブラダー
24・・・胸の皮膚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレーニング用のダミー内で生理学的な音を分配するため、信号発生装置からの電気信号を音響信号へ変換するように構成された少なくとも一の、例えばスピーカーのような音源を備えたシステムにおいて使用される音響分配装置であって、
前記音源に結合するための結合手段を備えていることを特徴とする音響分配装置。
【請求項2】
前記結合手段は、空気充填された音響伝導体であることを特徴とする請求項1に記載の音響分配装置。
【請求項3】
可撓性の金属箔からなるポーチ又はブラダーを備えたこと特徴とする請求項1又は請求項2に記載の音響分配装置。
【請求項4】
装置の空気容積を一定に維持するための容積維持装置を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の音響分配装置。
【請求項5】
前記容積維持装置は発泡性プラスチックからなるマット、布のマット、羊膜嚢、枠組み、又はそれに類するものであることを特徴とする請求項4に記載の音響分配装置。
【請求項6】
少なくとも一の、例えばスピーカーのような音源を備え、信号発生装置からの電気信号を音響信号に変換するように構成されたトレーニング用のダミーの中の生理学的な音を分配するためのシステムであって、
前記音源は少なくとも一の空気充填された音響伝導体の第1の端部に結合され、前記音響伝導体の第2の端部は音響分配装置に結合され、前記音響信号を、前記音源から所定の距離を置いて配置された前記音響分配装置へ導くことを特徴とするシステム。
【請求項7】
前記音源はチャンバーを形成している構造体内に位置することを特徴とする請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記音響伝導体は、例えば、プラスチックのホースのような可撓性のホースであり、前記音の波長より小さい内径を有していることを特徴とする請求項6又は7に記載のシステム。
【請求項9】
前記音響分配装置は柔軟性のある空気充填された構造体であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項10】
前記音響伝導体は一の音源から複数の音響分配装置へ音を導くために分岐されていることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
複数の音源を備え、これら音源の各々が別々の構造体の中に配置され、前記構造体は、例えばスタック状に互いに結合されていることを特徴とする請求項6〜10のいずれか1項に記載のシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2007−522522(P2007−522522A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−553079(P2006−553079)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【国際出願番号】PCT/NO2005/000052
【国際公開番号】WO2005/078683
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(506260076)レーダル・メディカル・エーエス (3)
【Fターム(参考)】