説明

音響半導体装置

【課題】大きなインダクタンスをもつインダクタ素子を実現する音響半導体装置を提供する。
【解決手段】実施形態によれば、素子部と、第1端子と、を備えた音響半導体装置が提供される。前記素子部は、半導体結晶を含み音響定在波が励起可能な音響共振部を含む。前記第1端子は、前記素子部と電気的に接続される。前記第1端子を介して、前記音響定在波と同期する電気的信号を前記音響共振部から出力する、及び、前記音響定在波と同期する電気的信号を前記音響共振部に入力する、の少なくもいずれかを実施可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、音響半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタは、電気回路における基本的な素子の一つである。インダクタは、チョークコイル、共振回路、同調回路、変圧器、各種センサ、無線電源回路、変・復調器、インピーダンス整合回路、周波数フィルター及び発振回路などに広く用いられる。
【0003】
大きなインダクタンスをもつインダクタを実現するためには、コイルの巻き数を増やすが必要であるため、素子の小型化は困難である。
大きなインダクタンスをもつ新規なインダクタ素子が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】“Acoustodynamic Effects in Semiconductors,” Gabriel Weinreich, Physical Review Vol. 104, No. 2, pp321-324 (1956).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態は、大きなインダクタンスをもつインダクタ素子を実現する音響半導体装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態によれば、素子部と、第1端子と、を備えた音響半導体装置が提供される。前記素子部は、半導体結晶を含み音響定在波が励起可能な音響共振部を含む。前記第1端子は、前記素子部と電気的に接続される。前記第1端子を介して、前記音響定在波と同期する電気的信号を前記音響共振部から出力する、及び、前記音響定在波と同期する電気的信号を前記音響共振部に入力する、の少なくもいずれかを実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1(a)及び図1(b)は、第1の実施形態に係る音響半導体装置示す模式図である。
【図2】実験に用いた半導体装置の構成を示す模式図である。
【図3】実験に用いた半導体装置の構成を示す等価回路図である。
【図4】音響半導体装置の特性の測定結果を示すグラフ図である。
【図5】音響半導体装置の特性の測定結果を示すグラフ図である。
【図6】実験で用いた半導体装置の特性の解析に用いた等価回路を示す回路図である。
【図7】図7(a)及び図7(b)は、実験で用いた半導体装置の特性に対応する等価回路の特性を示すグラフ図である。
【図8】図8(a)及び図8(b)は、音響半導体装置の特性をモデル的に示す模式図である。
【図9】電荷の疎密と結晶変形の関係のモデルを示す模式図である。
【図10】第1の実施形態に係る音響半導体装置を示す模式的断面図である。
【図11】図11(a)及び図11(b)は、第1の実施形態に係る音響半導体装置を示す回路図である。
【図12】実験に用いた半導体装置を示す模式的平面図である。
【図13】音響半導体装置の特性の測定結果を示すグラフ図である。
【図14】音響半導体装置の特性の測定結果を示すグラフ図である。
【図15】音響半導体装置の特性の測定結果を示すグラフ図である。
【図16】音響半導体装置の特性の評価結果を示すグラフ図である。
【図17】音響半導体装置の特性の評価結果を示すグラフ図である。
【図18】図18(a)及び図18(b)は、第2の実施形態の音響半導体装置を例示する模式図である。
【図19】第2の実施形態に係る音響半導体装置を示す等価回路図である。
【図20】図20(a)及び図20(b)は、第2の実施形態に係る音響半導体装置の動作を示す模式図である。
【図21】第2の実施形態に係る音響半導体装置の特性を示すグラフ図である。
【図22】第2の実施形態に係る音響半導体装置の特性を示すグラフ図である。
【図23】第2の実施形態に係る音響半導体装置の動作を示す模式図である。
【図24】第2の実施形態に係る音響半導体装置の動作を示すグラフ図である。
【図25】第2の実施形態に係る別の音響半導体装置を示す模式図である。
【図26】図26(a)及び図26(b)は、第3の実施形態に係る音響半導体装置を示す模式図である。
【図27】図27(a)及び図27(b)は、第4の実施形態に係る音響半導体装置を示す模式図である。
【図28】第5の実施形態に係る音響半導体装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0009】
(第1の実施形態)
図1(a)及び図1(b)は、第1の実施形態に係る音響半導体装置の構成を例示する模式図である。
図1(a)は模式的平面図である。図1(b)は、図1(a)のA1−A2線断面に相当する模式的断面図である。
図1(a)及び図1(b)に表したように、本実施形態に係る音響半導体装置111は、素子部150と、第1端子160と、を備える。
【0010】
素子部150は、半導体結晶を含む。素子部150は、音響定在波が励起可能な音響共振部155を含む。第1端子160は、素子部150と電気的に接続される。
【0011】
第1端子160を介して、上記の音響定在波と同期する電気的信号を音響共振部155から出力することが可能である。上記の音響定在波と同期する電気的信号を音響共振部155に入力することが可能である。
【0012】
この例では、素子部150として、電界効果トランジスタに類似の構成が用いられる。例えば、図1(a)及び図1(b)に表したように、p形基板11aの上に素子領域12が設けられる。素子領域12の周りには素子分離部13sが設けられる。
【0013】
例えば、p形基板11aの上に、空乏層11bが設けられ、空乏層11bの上にディープNウェル層11cが設けられる。ディープNウェル層11cの上に空乏層11dが設けられ、空乏層11dの上にPウェル層11eが設けられる。Pウェル層11eの上にPウェル領域11fが設けられる。Pウェル領域11fの上に、絶縁層16iが設けられ、絶縁層16iの上にゲート電極16が設けられる。この例では、Pウェル領域11fの周りに第1素子分離領域13aが設けられ、Pウェル層11eの周りに第2素子分離領域13bが設けられ、ディープNウェル層11cの周りに第3素子分離領域13cが設けられている。
【0014】
ここで、説明の便宜上、p形基板11aからゲート電極16に向かう方向をZ軸方向とする。Z軸に対して垂直な1つの軸をX軸とする。Z軸及びX軸に対して垂直な軸をY軸とする。ゲート電極16の延在軸をX軸とする。
【0015】
すなわち、音響共振部155は、半導体結晶共振層を含む。半導体結晶共振層は、第1不純物拡散部12a(例えばソース領域)と、第2不純物拡散部12b(ドレイン領域)と、第1不純物拡散部12aと第2不純物拡散部12bとの間に設けられた中間部12c(例えばPウェル領域11fに相当する)と、を有する。半導体結晶共振層は、半導体結晶を含む。すなわち、半導体結晶共振層は、素子領域12に相当する。
【0016】
そして、素子部150は、中間部12cの上に設けられた電極を含む。この例では、この電極として、ゲート電極16が用いられる。
【0017】
第1端子160は、上記の第1不純物拡散部12a、第2不純物拡散部12b、中間部12c及び電極(ゲート電極16)の少なくともいずれかに電気的に接続されている。
【0018】
この例では、第1端子160は、Pウェル層11eに接続されており、チャネル部に相当する中間部12c(Pウェル領域11f)に電気的に接続されている。一方、p形基板11a及びディープNウェル層11cは接地されている。
【0019】
音響半導体装置111は、基体(この例では、p形基板11a)と、この基体の上に設けられた素子分離部13sと、をさらに備えている。
【0020】
半導体結晶共振層(素子領域12)は、この基体の上に設けられる。半導体結晶共振層(素子領域12)の側面は、素子分離部13sに接している。素子領域12は、素子分離部13sに取り囲まれる。素子分離部13sの音響インピーダンスは、半導体結晶共振層の音響インピーダンスとは異なる。
【0021】
この例では、素子分離部13sには、絶縁層(例えばSiO層など)が用いられる。ただし、実施形態はこれに限らず、素子分離部13sの構成は任意である。例えば、素子分離部13sとして、空洞層(空気などの層)を用いても良い。
【0022】
素子分離部13sを設けることで、半導体結晶共振層(素子領域12)においては、音響定在波が励起され共振器として動作する。
【0023】
このような構成を有する音響半導体装置111によれば、大きなインダクタンスをもつ新規なインダクタ素子を実現する音響半導体装置が提供できる。実施形態に係る上記の構成は、発明者が独自に行った実験により見出した以下の現象に基づいて構築されている。以下、この実験について説明する。
【0024】
この実験では、CMOSトランジスタと類似の構造を有する、新しい共振回路を作製し、その特性を測定した。
図2は、実験に用いた半導体装置の構成を示す模式図である。
図2は、本実験に用いた素子201のレイアウトパターンを示している。
図3は、実験に用いた半導体装置の構成を示す等価回路図である。
図2及び図3に表したように、本実験に用いた素子201は、二重ウェル構造202の内部に設けられたゲート203、ドレイン204及びソース205を有する。この構造は、例えば、NMOSトランジスタの構造に類似している。p形ウェルから取り出したGSG端子206(Gnd端子206a、Gnd端子206c及びPウェル端子206b)を、高周波信号を同軸ケーブルと同軸プローブとを用いて測定するためのプローブ端子とした。また、ゲート203、ドレイン204及びソース205に対しては、直流バイアス電圧を印加できる端子(ゲート端子203e、ドレイン端子204e及びソース端子205e))をそれぞれ配置した。この素子201は、CMOSプロセスにより作製された。
【0025】
素子201において、ゲート端子203e及びドレイン端子204eに、電圧印加用のプローブを当てていない状態で、Pウェルに接続したSGS端子206について、共振特性を測定した。
【0026】
図4は、音響半導体装置の特性の測定結果を示すグラフ図である。
同図の横軸は周波数fである。左側の縦軸は、得られたインピーダンス(Z=R+jX)の実数部Rであり、右側の縦軸は、虚数部Xである。
図4に表したように、上記の素子201において、ゲート203及びドレイン204に電圧を印加していない状態で、共振現象が観測されることが分かった。すなわち、実数部Rにおいて、周波数f=100MHz〜200MHz付近に共振ピークが観測された。
【0027】
図5は、音響半導体装置の特性の測定結果を示すグラフ図である。
同図は、図4に示した測定結果に基づいて、実数部Rと虚数部との関係を表した図である。横軸は、実数部Rであり、縦軸は虚数部(jX)である。
図5から分かるように、インピーダンスの特性が円を描いている。このことは、素子201が共振特性を有することを示している。さらに、特定の周波数範囲において、虚数成分(虚数部X)が正である。このことから、この特性がインダクタンス成分に対応することがわかった。
【0028】
さらに、この素子201の電流−電圧特性を半導体パラメータアナライザを用いて測定した。この結果、素子201は、トランジスタとして見た場合に増幅器として機能することが分かった。すなわち、この素子201単体で(トランジスタ単体)で、共振特性と共に増幅作用も観測された。
【0029】
発振器は、増幅器と共振器とにより形成される。上記の測定結果から、この素子201(MOSFET単体)は、発振器として機能することが分かった。
【0030】
上記の共振特性の測定結果を解析した。すなわち、素子201をLCR等価回路で表し、上記の測定結果と比較した。
【0031】
図6は、実験で用いた半導体装置の特性の解析に用いた等価回路を示す回路図である。 図6に表したように、素子201に対応する等価回路において、抵抗R0とキャパシタC0とが直列接続され、これらに電気的電流Ielが流れる。そして、インダクタL1と抵抗R1とキャパシタC1とが直列に接続され、これらに音響的電流Iawが流れる。これらは並列に接続され、さらに、抵抗Rsが直列に接続される。抵抗Rsには、全体の電流Iallが流れる。このような等価回路を用いて、測定結果と対応する特性値(パラメータ)を求めた。
【0032】
図7(a)及び図7(b)は、実験で用いた半導体装置の特性に対応する等価回路の特性を例示するグラフ図である。
図7(a)は、インピーダンス特性(Z=R+jXの特性)を表ししている。図7(b)は、アドミッタンス特性(Y=G+jBの特性)を表している。これらの図は、上記の等価回路中の要素の特性値を、実験値の共振特性と合うように、合わせこみを実施した結果を例示している。これらの図において、実線は測定値であり、破線は、上記の等価回路を用いたシミュレーション値である。
【0033】
合わせ込みの結果、Rs=96オーム(Ω)、R0=13Ω、C0=7.4ピコファラッド(pF)、L1=396ナノヘンリー(nH)、R1=32.6Ω、C1=9.6pFが得られた。
【0034】
図7(a)及び図7(b)に表したように、150MHz以下の低い周波数fの領域において、インピーダンス特性及びアドミッタンス特性のシミュレーション値は、測定値と良く一致する。すなわち、素子201の特性は、図6に示した等価回路の特性を有している。
【0035】
キャパシタC0は、Pウェル層11eとディープNウェル層11cとの間、Pウェル層11eと第1不純物拡散部12aとの間、及び、Pウェル層11eと第2不純物拡散部12bとの間のpn接合容量であると解釈することができる。そして、抵抗R0は、Siの寄生抵抗であると解釈することができる。一方、等価回路中のLCR直列共振回路において、インダクタL1、キャパシタC1及び抵抗R1は、音響的な共振により発生していると考えられる。
【0036】
この等価回路において、インダクタL1の値(396nH)は、非常に大きい。このため、この値が、例えば、CMOS上の回路素子(または配線の寄生成分)に基づくインダクタに対応するものであると考えることは難しい。
【0037】
一般的に、CMOS基板上にスパイラルインダクタを作製しても、そのインダクタンスは、最大でも、5nH〜10nH程度である。観測された共振周波数が100MHz程度と低いことから、この特性は、音響波の伝播速度が電磁波の速度に比べて何桁も小さいことに対応すると考えられる。
【0038】
上記の等価回路と、圧電共振器の等価回路と、の間には類似性が見られる。圧電共振器においては、音響的な共振がLCR等価回路で表現され、このような等価回路で表した場合、インピーダンスの周波数特性の実測値を大変良く一致させることができる。
【0039】
従って、pn接合において何らかの電気的なエネルギーと機械的なエネルギーとの間の結合が生じていると仮定すれば良いと考えられるが、Siの結晶はその対称性から原理的に圧電効果は発生しないはずである。
【0040】
従って、残る可能性として、半導体中の電荷と音響波との間における相互作用が考えられる。すなわち、半導体中の電荷と音響波との間において、弱いながらも変形ポテンシャルを介して、相互作用が発生し、これにより音響波が発生したと考えられる。このことが、この実験において396nHと著しく大きいインダクタンスの値が得られたことの源であると考えられる。
【0041】
このように、発明者は、上記の構成の半導体装置において、大きなインダクタンスが得られる現象を実験的に観測した。この現象は、半導体中の伝導キャリアと音響波との間の相互作用に応じて電気的に音響波が発生ことに基づいていると考えられる。実施形態においては、この現象を利用した音響半導体装置の具体的な構成が構築されている。
【0042】
実施形態によれば、大きなインダクタンスをもつ新規なインダクタ素子を実現する音響半導体装置が提供できる。
【0043】
このような特性が得られる動作機構に関しての解釈の一例について説明する。
実施形態に係る音響半導体装置においては、半導体結晶中に音響波が伝播する領域が設けられ、さらにその音響波の伝播に沿って同じ方向に電荷が移動するための構成が設けられている。
【0044】
この構成においては、音響波の伝播と電荷の伝播とが結合し、音響波の伝播に伴って電荷が移動する。すなわち、音響波の伝播に伴って電流が発生する。このようにして発生する電流(音響電流)は、音響波が特定の方向に伝播する限り、それと同じ方向に流れ続けようとする性質をもつ。すなわち、この構成は、電気的な等価回路で表せば、インダクタンスに対応する。
【0045】
通常、電気回路におけるインダクタンス成分は、電流と磁界との間の電磁気的な結合により生じる。電磁気的な結合により、自己インダクタンス、及び、相互インダクタンスが生じる。すなわち、電流が流れることによって生じた磁界が、同じ方向に電流を流し続けようと作用するために、自己インダクタンスが生じる。回路の他の部分の電流を変化させようと作用するために、相互インダクタンスが生じる。
【0046】
一方、音響波によって生じる等価的なインダクタンスは、半導体中の音響波に結合した電荷が、音響波が特定方向に伝播している限り、電荷も同じ方向に移動しようとすることによって発生する。音響波の伝播速度は電磁波の伝播速度と比較して極めて遅い。このことを反映して、このようにして生じるインダクタンスにおいて、等価回路的に表したときの等価的インダクタンスは、極めて大きな値を示す。
これにより、実施形態においては、大きなインダクタンスが得られる。
【0047】
従来、大きなインダクタンスをもつ素子の小型化は一般に困難であった。例えば、半導体集積回路上のインダクタとして、通常スパイラルインダクタが用いられているが、半導体集積回路内の限られた面積中に大きなインダクタンス成分をもつインダクタ素子を形成するのは困難である。例えば、CMOSプロセスでスパイラルインダクタを形成しても、実現可能なインダクタンスの最大値は、10nH程度である。
【0048】
これに対し、実施形態によれば、上記のように、396nHのように非常に大きなインダクタンスを小さい面積で実現できる。
【0049】
さらに、実施形態に係る音響半導体装置111において、音響波の影響は、音響波が及ぶ範囲に限定される。このため、同じ半導体基板上に形成された他の部分の回路に対して、所望しない電荷の移動を生じさせ難い。すなわち、雑音を生じ難い。
【0050】
従来、半導体基板上にインダクタを形成すると、インダクタが発生する磁界の影響により半導体基板中に渦電流が発生し、インダクタとしての損失が大きくなる。また、インダクタが発生する電磁ノイズが、他の回路部品に対して雑音源として作用する。
【0051】
これに対し、実施形態においては、音響波が及ぶ範囲が限定されるため、このような問題が回避される。
【0052】
実施形態に係る音響半導体装置111においては、音響波と電荷とを効率よく結合させるために、半導体結晶の領域中に電荷の通路が設けられる。この電荷の通路においては、音響波が伝播すると想定される方向と同じ方向に電荷の移動が可能であり、それ以外の方向には伝播し難い。
【0053】
このような電荷の通路は、一次元的に細長いものであることが望ましい。ただし、実施形態はこれに限らず、電荷の通路は、二次元的な平面に基づくこともできる。
【0054】
このような電気的な通路は、例えば、細長い通路の側面を、その通路の導電形とは異なる導電形を有する構造体により区切ることで得られる。例えば、通路がp形であるときは、n形の構造体が通路の側面に対向する。通路がn形であるときは、p形の構造体が通路の側面に対向する。
【0055】
実施形態において、電荷の通路の側面の一部または全部は、絶縁体(例えばSiOなど)または空洞により区切られていても良い。さらに、電荷の通路の側面上に薄い絶縁膜を介して電極などが設けられていても良い。
【0056】
以下、実施形態に係る音響半導体装置の動作の例について説明する。この動作においては、音響波と電荷との間の相互作用により、半導体中を伝播する音響波の速度が変化する。
【0057】
半導体中を伝播する音響波と電荷との相互作用の現れ方の一形態として、変形ポテンシャル“Deformation Potential”が知られている。すなわち、半導体の結晶が歪むことにより、伝導電子の挙動が影響を受ける。
【0058】
変形ポテンシャルによる電子のポテンシャルエネルギー変化δEnkは、結晶の体積の膨張(dilatation)δV/Vに対して近似的に比例する(第1式)。
【数1】


ここで、ankは、体積変形ポテンシャルに関する比例定数である。
【0059】
図8(a)及び図8(b)は、音響半導体装置の特性をモデル的に示す模式図である。 図8(a)は、変形ポテンシャルによる、結晶変形及び電子ポテンシャル変化の様子を概念的に示している。図2(b)は、半導体中を伝播する音響波と電荷との相互作用を示している。
【0060】
図8(a)に表したように、結晶の変形DC(Deformation of Crystal)において、体積膨張VEまたは体積収縮VDが生じる。これに連動して、例えば電子のポテンシャルエネルギーPP(Potential of a Particle)が変化する。
【0061】
音響波と電荷との上記相互作用の現れ方の逆の形態として、電荷から結晶への影響が存在する。すなわち、変形ポテンシャルの逆効果として、電荷密度の分布に疎密があれば結晶を変位させる効果が生じる。この効果は、ある特定の条件下では電子による音響波の放射(radiation)の原因となる。すなわち、電荷の疎密は、音響波の発生・増幅・減衰を駆動する力となる。
【0062】
図8(b)に表したように、半導体中を音響波AW(弾性波)が伝播する際、半導体結晶内には、膨張する部分(体積膨張VE)と、収縮する部分(体積収縮VD)と、が周期的に形成される。第1式で示された変形ポテンシャルにより、膨張した部分と収縮した部分とでは、その部分に存在する電子のポテンシャルエネルギーPPに変化が生じる。ポテンシャルエネルギーPPの高低によって存在確率の分布が生じ、音響波AWの波長と同じ周期で、電子密度CDの疎密(例えば電荷集中CP)が生じる。
【0063】
電荷密度に疎密がある状態において、音の伝播方向と同じ方向に直流的な電界を加えると、電界により電荷は加速され、ドリフト速度が速くなる。十分に高い電界の下、電荷のドリフト速度が音響的な波の伝播速度よりも速くなると、音響波の振幅は次第に増幅されると同時に、音響波の伝播速度が速くなる。このように、音響フォノンと電子との相互作用を利用することにより、音響波の速度を変えることができる。従って、半導体結晶中に励起される音響定在波の共振周波数を変えることにより、発振周波数を制御できる。
【0064】
また、n形半導体またはp形半導体において、不純物準位から伝導に寄与するキャリア(すなわち電子またはホール)が励起された状態の半導体結晶中を伝播する音響波の速度は、キャリア密度に依存する。キャリア密度が高いと、音響波が伝播する速度が遅くなる。キャリア密度が低いと、音響波が伝播する速度が速くなる。従って、音響波が伝播する半導体結晶中のキャリア密度を変化させることにより、音響波の速度を変えることができる。そして、半導体結晶中に励起される音響定在波の共振周波数を変えることにより、発振周波数を制御できる。
【0065】
実施形態に係る音響半導体装置111は、半導体基板上の特定領域に励起される音響定在波の共振周波数と同期した電気的な発振信号を出力する。
【0066】
図1(a)及び図1(b)に表したように、このような音響半導体装置として、電界効果トランジスタと、ゲート端子、ソース端子、ドレイン端子、及び、バックゲート端子と、を用いることができる。
【0067】
電界効果トランジスタは、その特定領域上に設けられたソース領域及びドレイン領域と、ソース領域及びドレイン領域との間のチャネル領域と、そのチャネル領域の上に設けられたゲート電極と、を含む。ゲート端子、ソース端子及びドレイン端子は、それぞれ、ゲート電極、ソース領域及びドレイン領域に接続される。バックゲート端子には、上記のチャネル領域に電気的に接続される基板端子、または、ウェル端子が用いられる。
【0068】
実施形態おいて、音響波と電荷との相互作用を用いて導体の結晶中を伝播する音響波と同じ方向に伝導性キャリアが移動できる領域には、上記のトランジスタのウェル領域を用いることができる。
【0069】
また、伝導性キャリアの密度を変調させるための電界を印加する電界印加部として、素子領域に形成されるチャネル領域を有する電界効果トランジスタのゲート電極、ドレイン電極またはウェル端子を用いることができる。
【0070】
実施形態に係る音響半導体装置111によれば、半導体基板上に集積化が容易で、かつ、大きいインダクタンス成分を有するインダクタ素子が実現できる。これにより、例えば、半導体基板上に集積化が容易で、かつ、大きいインダクタンス成分を有する共振器を実現できる。そして、このインダクタ成分を用いて、高い周波数精度を有する発振器として機能する音響半導体装置を提供することができる。
【0071】
このように、実施形態によれば、他の電子回路との集積化が容易で、かつ、大きなインダクタンス成分を有する、インダクタンスまたは共振器として機能する半導体装置が提供できる。
【0072】
一般に、固体中を伝播する音響波の速度は、温度や圧力が一定の条件下では、材料に特有の値を示す。一方、実施形態においては、半導体中を伝播する音響波の速度を、半導体中の伝導キャリアと音響波との間の相互作用を利用することにより、電気的に制御する。
【0073】
実施形態に係る半導体音響素子は、例えば、単独でチョークコイルなどとして用いられる。また、容量素子と組み合わされて共振回路や同調回路にも応用できる。また、特定の周波数成分を取り出すための周波数フィルターや発振回路にも応用できる。また、音響的な信号を電気的な信号に変換して検出する各種センサにも応用できる。また、電圧や電流を変換するための変圧器にも応用できる。また、エネルギーを供給するための各種エネルギー源にも応用できる。また、信号を変調・復調する回路に用いることができる。また、インピーダンス整合回路に用いることができる。
【0074】
以下、実施形態に係る半導体音響素子の特性に関係して、半導体結晶中を伝播する音響波が、電子やホールなどのキャリアに対して与える影響の例について説明する。
【0075】
音響波(例えば縦波)が半導体結晶中を伝播すると、半導体結晶の圧縮と膨張とが空間的及び時間的に周期的に繰り返される。半導体結晶の圧縮と膨張とにより、電荷(伝導帯に励起された電子やホール)が感じるポテンシャルが、高くなるまたは低くなる効果(変形ポテンシャル)が生じる。
【0076】
通常、結晶中の音の伝播速度よりも、電荷(キャリア)の移動速度のほうが十分大きい。このため、電荷は音響波で生じたポテンシャルの低い所に集まり、電荷の空間的な疎密が生じる。
【0077】
図8(b)に例示したように、音の進行波が結晶中を伝播すると、それに連れてポテンシャルの低い箇所が音速で移動する。このため、電荷の疎密もそれに追従して移動する。このように、音の伝播により結晶中の電荷が移動し、電流が流れる。音響波の伝播に伴って生じるので、この電流をここでは「音響電流」と呼ぶことにする。
【0078】
電気的な交流信号を半導体結晶中に加えれば、電気的なインピーダンスに応じて、周期的に電気的な電流が流れる。電気的信号に伴う電流と音響電流という原因の異なる二種類の交流電流の間には、重ね合わせの原理が成り立つ。このため、もし位相が一致すれば電流は強め合い、位相が逆ならば弱め合う。
【0079】
すなわち、電気的インピーダンスの周波数特性において、音響波の位相と電気信号の位相とが一致した周波数では、インピーダンスは小さく見えて、逆位相の場合にはインピーダンスが大きく見る。すなわち、直列共振と並列共振とが観測される。
このように、半導体結晶中に音響的な定在波が励起されていると仮定すれば、インピーダンスが共振特性を示す理由を説明することができる。
【0080】
しかしながら、圧電性も持たないはずのSi結晶中に、電気的な信号によって音響波(結晶の疎密)が発生するのか、もし、発生するとしたらそれは何故か、という疑問が残る。
【0081】
この点については、次のように考えることができる。様々な物理現象において、エネルギー変換効果(例えば圧電効果)には、必ずその逆効果(例えば逆圧電効果)が存在する。Si結晶中において変形ポテンシャルが生じるならば、その逆効果もあるはずである。それは、電荷の疎密が原因で、結果として結晶の疎密すなわち音響波が発生するような現象である。
【0082】
以下、一例として、n形半導体における電荷の疎密と結晶変形との関係について説明する。
図9は、電荷の疎密と結晶変形の関係のモデルを示す模式図である。
図9の右図は、電子密度が疎の領域の状態を例示し、図9の左図は、電子密度が密な領域の状態を例示している。例えば、n形半導体において、全ての不純物原子から電子が励起され、しかも、何らかの理由により空間的に電子密度の疎密が生じた状態を想定する。
【0083】
図9の左図に表したように、電荷301が密の領域では、変形ポテンシャルの逆効果により体積膨張の力fv(fv>0)が発生する。一方、図9の右図に表したように、逆に電荷301が疎の領域では、変形ポテンシャルの逆効果により体積収縮の力fv(fv<0)が発生する。
【0084】
この結果、同一の半導体結晶の内部に、何らかの理由により電荷の疎密が生じると、その電荷密度の傾きに比例するように、結晶には並行移動の原因となるような力Fxが発生する。
【0085】
通常、このような変形ポテンシャルの逆効果が問題とならないのは、先にも述べたように、音響波(結晶の疎密)が伝播する速度よりも、電子の移動速度のほうが大きいからだと考えられる。電荷の移動が速いため、変形ポテンシャルの逆効果によって結晶が変形(圧縮・膨張)が発現するよりも前に電荷密度は平均化し、音響波の発生源となるような力は中和される。結晶を構成する原子は結晶内で束縛されているので動きにくく、またその質量は、電子の質量よりも大きいので速くは変形できない。
【0086】
しかしながら、もし何らかの理由で、半導体結晶中のキャリアの移動速度が音の伝播速度よりも遅くなるような状況が実現しているならば、電荷の疎密により、半導体結晶が変形する、すなわち音響波が発生する可能性がある。
【0087】
図10は、第1の実施形態に係る音響半導体装置の構成を例示する模式的断面図である。
図10は、上記の実験に用いられた素子201の構成にも対応する。
図10に表したように、上記の実験で共振現象が観測された素子201では、二重ウェル構造を有する。素子領域においてPウェル層11eが設けられ、Pウェル層11eの下方にディープNウェル層11cが配置されている。さらに、ゲート電極16の下部においては、両側をソース領域とドレイン領域に挟まれた、細長いPウェル領域11fが形成されている。
【0088】
細長いPウェル領域11fを通過する電荷にとって、電気的な抵抗は、高くなり易い。しかも、これらの層(Pウェル層11e及びディープNウェル層11c)は、上下左右とも、空乏層11b及び空乏層11dで挟まれている。
【0089】
図11(a)及び図11(b)は、第1の実施形態に係る音響半導体装置の構成を例示する回路図である。
図11(a)は、Pウェル層11eからみたインピーダンスのCR等価回路モデルを示している。図11(b)は、簡略化した等価回路を示す。
【0090】
図11(a)に表したように、Pウェル層11e、ディープNウェル層11c及び空乏層11dは、長い距離のCR回路と見なすことができる。このような構成において、電荷が移動する際には、これらの空乏層の容量成分を充電しながら、長い距離を進行する。すなわち、半導体結晶中を移動する電荷密度の伝播速度は、CR時定数の程度であるということができる。
【0091】
インピーダンスの周波数特性の実際の測定結果から、このPウェル層11eのCR時定数を具体的に見積もった。ここで、実際には、図11(a)に例示した等価回路のように、抵抗及びキャパシタは分布していると考えられるが、この見積もりにおいては、単純化のため、図11(b)に例示した集中定数的な等価回路を仮定した。
【0092】
計算値が、インピーダンスの測定結果の値と、100MHz以下の低周波領域で一致するように、上記のCR等価回路でフィッティングした結果、C=17pFで、R=126Ωが得られた。これらの値から、CR遮断周波数fCRを、次の第2式で見積もると、約85MHzであった。
【数2】


この遮断周波数fCRは、音響共振により生じていると考えている直列共振周波数(約80MHz)及び並列共振周波数(約120MHz)とほぼ同程度か、やや小さい。
【0093】
このことは、Pウェル層11e中を伝播する電荷の移動速度が、音響波の伝播速度よりも遅いことを示している。これにより、結晶変形が引き起こされる状況が得られる。すなわち、電荷の疎密が生じると電気的には解消し難いような環境が整う。
【0094】
結論として、例えば、上下左右が逆の伝導極性にサンドイッチされた細くて長い一次元的な構造の半導体層では、外部から電気的な交流信号を与えることにより、周期的な結晶変形が生じる。すなわち、このような半導体層においては、電気信号が音響波と結合し易い。
【0095】
音響波と電荷との結合があるならば、類似現象である圧電共振とのアナロジーにより、共振波形から結合係数を見積もることができる。圧電的な電気機械結合の場合は、結合係数kの定義は、電気的入力エネルギーに対する機械的に蓄積されるエネルギーの比として定義される。結合係数kは、実験的には、直列共振の周波数の並列共振の周波数に対する比で求めることができる。
【0096】
既に図7(a)及び図7(b)に関して説明したように、実験値に合うような等価回路のシミュレーション値として、Rs=96Ω、R0=13Ω、C0=7.4pF、L1=396nH、R1=32.6Ω、C1=9.6pFが得られる。さらに、これらの値から、直列共振周波数fsr及び並列共振周波数fprを以下の第3式及び第4式により求めた。
【数3】


【数4】


図12は、実験に用いた半導体装置の構成を示す模式的平面図である。
図12に表したように、素子201の素子領域のサイズ(W×LSDG)は、40μm×199μmである。なお、図10は、図12のA1−A2線断面図に相当する。
【0097】
図13は、音響半導体装置の特性の測定結果を示すグラフ図である。
同図は、Pウェル端子からみたアドミッタンスを極座標で表示している。この図で、実線は実測値を示し、破線は、合わせ込みのための等価回路によるシミュレーション値を示す。このアドミッタンス円において、図中の上半分は容量性のアドミッタンスに対応し、下半分は誘導性のアドミッタンスに対応する。
【0098】
図13に表したように、約81MHzでアドミッタンスの虚数成分が一度ゼロとなる。そして、約123MHzでは再度ゼロとなるが、その間の周波数範囲では、Pウェル層11eが等価的にインダクタとして振る舞うことを示している。等価回路上では、前者は直列共振周波数fsrに相当し、後者は並列共振周波数fprに相当する。
【0099】
このように、上記の第3式及び第4式により求めた直列共振周波数fsr及び並列共振周波数fprは、図13に示したアドミッタンス円から直接見積もられる周波数とほぼ一致している。
【0100】
これらの周波数から、結合係数kを以下の第5式により見積もった。
【数5】


この値は、圧電材料として広く使用されているPZT系セラミックスに匹敵するほど大きな値である。
【0101】
さらに、直列共振周波数fsr=81MHzと、素子のサイズの幅W=40μmと、から、以下の第6式により、音速Vを見積もった。
【数6】


第6式において、Wを2倍するのは、一周期に相当する時間において、音の波は、素子のサイズ(距離)を往復するからである。このように、この実験においては、音速Vは約6.53×10(cm/s)であった。
【0102】
表1は、Si単結晶中を伝播する音速の一覧である。
【表1】


表1においては、伝搬方向PDのそれぞれに対するモード(MODE)において、音速を表す式と、その値と、が示されている。
【0103】
表1から分かるように、実験で求めた音速V=6.53×10(cm/s)は、[100]方向に伝播する縦波の速度とほぼ一致している。
【0104】
最も低い共振周波数(81MHz)が、長方形の素子サイズの長辺(199μm)の方向ではなく、短辺(40μm)の方向で共振している点が注目される。
【0105】
これは、長辺方向の断面では複数のソース・ドレイン領域を横切るために、Pウェル層の厚さが不均一であるのに対して、短辺方向の断面ではPウェル層11eの厚さがほぼ一定であるためであると考えられる。
【0106】
さらに、素子領域のサイズの異なる別の素子201a(図示せず)でも同様の測定を行った。素子201aの素子領域のサイズ(W×LSDG)は、36.1μm×144.4μmである。素子201aにおいては、約94MHzの共振周波数が得られた。同様にして音速Vを見積もると、以下の第7式のように、6.78×10(cm/s)が得られた。
【数7】


表2に、上記の2つの素子の特性をまとめて示す。
【表2】


表2に示すように、素子領域のサイズが異なる上記の2つの素子201及び素子201aにおいて、音速Vがほぼ一致する。すなわち、素子サイズの幅Wと直列共振周波数fsrとは、反比例の関係にあり、その比例係数が音速Vに相当する。
【0107】
さらに、素子201(素子サイズの幅=40μm)において、Pウェル端子に直流のバイアス電圧Vbiasを印加しながら、インピーダンス(アドミッタンス)の周波数特性を測定し、解析した。
【0108】
図14及び図15は、音響半導体装置の特性の測定結果を示すグラフ図である。
図14は、アドミッタンスYの実数部G=Re(Y)を表し、図15は、アドミッタンスYの虚数部B=im(Y)を表す。これらの図の横軸は、周波数fである。
これらの図においては、Pウェル端子へ印加するバイアス電圧Vbiasを0ボルト(V)〜−0.8Vの範囲で変化させたときの実数部G及び虚数部Bの実測値が示されている。
【0109】
図14及び図15に表したように、周波数fが約80MHzにおいて直列共振Rsrが生じ、周波数fが約110MHzにおいて並列共振Rprが生じる。そして、バイアス電圧Vbiasを変化させると特性が変化する。
【0110】
すなわち、80MHz付近の周波数fにおいて観測される直列共振周波数fsrは、バイアス電圧Vbias依存性を示す。さらに、等価回路におけるパラメータ値を合わせ込んだところ、音響的な振動を表すと考えられる直列共振回路の容量とインダクタとが、ともにバイアス電圧Vbias依存性をもつことがわかった。
【0111】
ここで、直列共振周波数fsrは、素子サイズの幅W=40μmを音響波が往復するのに必要な時間で決まると仮定する。そして、それぞれのバイアス電圧Vbiasに対して、音速Vを見積もった。
【0112】
図16は、音響半導体装置の特性の評価結果を示すグラフ図である。
同図は、音速Vとバイアス電圧Vbiasとの関係に関する実測値を示している。さらに、同図には、Si[100]方向に伝播する縦波の音速の値(8.43×10m/s)と、横波の音速の値(5.84×10m/s)と、が破線で示されている。
【0113】
バイアス電圧Vbiasが負の領域で音速Vは速くなり、音速Vは、Si[100]方向に伝播する縦波の音速の値(8.43×10m/s)に近づく傾向が見られた。
【0114】
一方、200MHz以下の周波数領域について、共振特性を等価回路で合わせ込んだ。 図17は、音響半導体装置の特性の評価結果を示すグラフ図である。
同図は、200MHz以下の周波数領域について、共振特性を等価回路で合わせ込んだときの、等価回路のパラメータ値(キャパシタC0、C1、Ctotal、及び、インダクタL1)を示す。横軸は周波数fである。
【0115】
図17に示すように、等価回路の容量成分であるキャパシタC0及びC1は、負バイアス側で減少する傾向が見られた。そして、インダクタL1は、負バイアス側で増大する傾向が見られた。容量の減少は、pn接合の空乏層の容量の変化に対応していると考えられる。
【0116】
(第2の実施の形態)
図18(a)及び図18(b)は、第2の実施形態の音響半導体装置の構成を例示する模式図である。
図18(a)は平面図である。図18(b)は、図18(a)のA1−A2線断面図である。
【0117】
図18(a)及び図18(b)に表したように、本実施形態に係る音響半導体装置112においては、例えば、半導体層11が設けられる。半導体層11には、例えば、シリコンの半導体基板が用いられる。実施形態はこれに限らず、半導体層11には、例えば、絶縁層の上に設けられた半導体の層を用いても良い。
【0118】
半導体層11(半導体基板)に、素子領域12が設けられている。素子領域12は、素子分離領域13で囲まれている。素子分離領域13は、例えば絶縁膜である。素子分離領域13は、例えば、酸化珪素膜で形成される。素子分離領域13は、音響反射層となる。
【0119】
素子領域12は、素子分離領域13の音響反射層に囲まれる。素子領域12は、例えば、長方形であり、第1長さLxの第1辺(例えば、X軸に沿う辺)と、第2長さLyの第2辺(例えばY軸に沿う辺)と、を有している。
【0120】
また、素子領域12上には、電界効果トランジスタ100が形成されている。この電界効果トランジスタ100は、ゲート電極16及びソース・ドレイン領域15を有する。
【0121】
ソース・ドレイン領域15は、ゲート電極16の両側の素子領域12に形成される。ソース・ドレイン領域15には、例えば、半導体層11(半導体基板)とは逆の導電形を有する不純物拡散層が用いられる。素子領域12において、複数のソース・ドレイン領域15どうしの間に、チャネル領域が形成される。
【0122】
ゲート電極16は、素子領域12のチャネル領域上に設けられる。チャネル領域と、ゲート電極16との間には、図示しないゲート絶縁膜が設けられる。
【0123】
この例では、ゲート電極16は、X軸に沿って延びる。この例では、複数のゲート電極16が設けられる。複数のゲート電極16は、Y軸方向に並ぶ。この例では、5つのゲート電極16が設けられているが、実施形態においてゲート電極16の数は、任意である。
【0124】
ゲート電極16に電圧を印加するゲート端子32が設けられる。
複数のソース・ドレイン領域15のそれぞれに電圧を印加するソース端子18及びドレイン端子17が設けられている。ソース端子18とドレイン端子17とは、交互に配置される。
【0125】
半導体層11(半導体基板)に出力端子19が設けられる。出力端子19は、半導体層11(半導体基板)を介して、チャネル領域と電気的に接続されている。この例では、出力端子19は、第1端子160に相当する。
【0126】
図19は、第2の実施形態に係る音響半導体装置の構成を例示する等価回路図である。 図19に表したように、ソース端子18とゲート端子32との間に、ゲート電圧Vgsを印加し、ソース端子18とドレイン端子17との間にドレイン電圧Vdsを印加する。すなわち、ソース端子18とゲート端子32との間にゲート電圧Vgsを印加する直流電圧源21が接続される。ソース端子18とドレイン端子17との間にドレイン電圧Vdsを印加する直流電圧源22が接続される。
【0127】
電界効果トランジスタ100のしきい値電圧をVthとする。そして、以下の第8式を満たすように、ゲート電圧Vgs及びドレイン電圧Vdsを設定する。
【数8】


そして、出力端子19から、発振する基板電流を信号として出力する。
【0128】
本願明細書においては、基板電流とは、電界効果トランジスタにおいて、チャネル領域でのインパクトイオン化を主因として、基板またはウェル中に生成される電流を指す。
【0129】
図20(a)及び図20(b)は、第2の実施形態に係る音響半導体装置の動作を例示する模式図である。
これらの図は、実施形態に係る音響半導体装置112における異なるタイミングの状態を、モデル的に例示している。これらの図は、音響半導体装置112の断面図と、音響的な定在波と、を例示している。
【0130】
図20(a)及び図20(b)に表したように、音響半導体装置112においては、上記の直流電圧を印加することにより、素子領域12に、音響定在波(音響波AW)と、それに同期した電荷密度(例えば電子密度CD)の高低が励起される。例えば、音響波AWに基づいて結晶の変形DCが生じ、これに伴い、例えば電子のポテンシャルエネルギーPPに、疎STrの領域と、密STtの領域と、が形成される。すなわち、部分的に電荷集中CPが生じる。
【0131】
素子領域12に励起された音響定在波の周期に同期して、素子領域12に形成された電界効果トランジスタのチャネル領域では、インパクトイオン化の確率が時間的に変化する。インパクトイオン化により発生した電子・ホール対は、高いエネルギーをもつため、その一部は基板電流として半導体基板(Pウェル)に達する。音響定在波に同期して周期的なPウェル電流の変化が生じるため、音響半導体装置の出力端子19からは、周期的な電気信号72を検出することができる。
【0132】
図21は、第2の実施形態に係る音響半導体装置の特性を例示するグラフ図である。
同図は、音響半導体装置112のインピーダンス測定の結果の一例を示している。すなわち、同図は、ネットワークアナライザを用い、音響半導体装置112のドレイン端子17側から見たときのインピーダンス(Z22)の周波数依存性の測定結果を示している。横軸は周波数fを示す。左側の縦軸は、インピーダンスの実数部Re(Z22)を示し、右側の縦軸は、インピーダンスの位相Phase(Z22)を示す。同図において、丸印及び四角印は実測値を示す。破線は、これらの実測値を繋いだものである。また、図21には、等価回路を使ったシミュレーション値が実線で示されている。
【0133】
図21に示すように、この測定例では、830MHz、1.07GHz、1.32GHz、1.56GHz及び1.80GHzの周期的な間隔で、インピーダンスの発振ピークが観測されている。このように、実測及びシミュレーションによって、基板電流が周期的に変化し発振することが確認される。
【0134】
さらに、本実施形態に係る音響半導体装置として、素子領域12のサイズが異なる試料に関して、共振特性を評価した。ここでは、3種類の試料を用いた。1つの試料における素子領域12のサイズ(W×LSDG)は、40μm×7.18μmである。別の試料における素子領域12のサイズは、40μm×10.78μmである。さらに別の試料における素子領域12のサイズは、40μm×17.98μmである。すなわち、これらの試料においては、サイズの幅Wが同じで、長さLSDGが互いに異なる。
【0135】
図22は、第2の実施形態に係る音響半導体装置の特性を示すグラフ図である。
同図は、音響半導体装置に関する上記の3種類の共振特性の測定結果を示している。横軸は波数Nw(整数)であり、縦軸は、観測された発振ピークの周波数fpである。すなわち、この図は、観測された発振ピークの周波数fpに対して、適当な波数Nw(整数)を割り当ててプロットしたものである。
【0136】
図22から分かるように、3つの試料において、ほぼ同じ周波数fpに発振ピークが観測されている。これらの試料においては、素子領域12の長さLSDG(第2辺の第2長さLy)が異なるが、幅W(第1辺の第1長さLx)が同じである。このことから、素子領域12の形状の幅W(Lx)で決まる発振ピークを有する音響定在波が励起されていることを示唆している。
【0137】
図23は、第2の実施形態に係る音響半導体装置の動作を例示する模式図である。
すなわち、同図は、音響定在波の励起の条件の例をモデル的に示している。
半導体基板中を伝播する音速Vの値は、材料に特有な物性値である。既に表1に示したように、例えば、シリコン半導体単結晶基板中を(100)方向に伝播する縦波の場合には、V=8.43×10cm/sである。
【0138】
実際に素子領域12に励起される音響波は縦波とは限らず、異なるモードを有する可能性が考えられる。例えば、励起モードは、シリコン単結晶とシリコン酸化物の界面を伝播する界面波である可能性も考えられる。この場合、実測した素子領域12のサイズの幅(Lx=40μm)から、音速Vを次の第9式により求めることができる。
【数9】


ここで、第9式において、発振の次数をNとし、N次の発振周波数をfとした。
【0139】
測定結果から求めた一波数あたりの発振周波数f/Nの値は、約120MHzであり、これは、Pウェルにおいて測定したインピーダンスの周波数特性において観測された並列共振周波数fprとほぼ一致する。
【0140】
図24は、第2の実施形態に係る音響半導体装置の動作を例示するグラフ図である。
すなわち、同図は、音響半導体装置112における直流印加電圧と、自発的に発生する音響定在波のモードと、の関係の例を示している。同図の横軸は、ドレイン電圧Vdsであり、縦軸はゲート電圧Vgsである。
【0141】
図24に表したように、ゲート電圧Vgsがしきい値電圧Vthよりも低い場合、電界効果トランジスタ100はオフ状態STOFFである。このとき、ドレイン−ソース間のチャネルにドレイン電流は流れない。従って、インパクトイオン化は生じない。
【0142】
ゲート電圧Vgsがしきい値電圧Vthよりも高いときに、オン状態STONとなる。
そして、ゲート電圧Vgsが十分に高い線形領域RON−Lにおいては、チャネル全域がオン状態となり、ドレイン電流が流れるが、チャネルを流れる電子に高い電界が加わらないためインパクトイオン化が生じず、音響的定在波は励起されない。
【0143】
そして、電界効果トランジスタ100のドレイン電流が飽和する飽和領域RON−Sのバイアス電圧条件下では、チャネルの一部がピンチオフする。そして、電子が加速されてインパクトイオン化現象が生じ、電子・ホール対が発生する。このとき、極めて高いエネルギーをもつ電子において、半導体の結晶に衝突するためエネルギーの一部が、結晶の格子振動に変換される。この格子振動のエネルギーの一部は、半導体領域に音響的な定在波を励起するために使用される。
【0144】
従って、音響的な定在波を励起するために、本実施形態に係る音響半導体装置112においては、上記の第8式に示した電圧条件が用いられる。
【0145】
実用的な使用において好ましい電圧条件は、例えば、図24中に示したハッチングされた領域(mode−X及びmode−Y)の条件である。この条件において、発振ピークが確実に観測される。この領域は、上記の第8式に対応する領域よりもやや狭い。
【0146】
集積回路に使用されるシリコン単結晶は純度が高く、しかも結晶欠陥が少ないため、音響波の伝播にあたり減衰は比較的少ないと考えられる、しかしながら、音響波のエネルギーの一部は散逸してわずかに減衰する可能性がある。この減衰の影響で、実際の観測では、素子領域12に定在波が励起されるためのドレイン電圧Vds及びゲート電圧Vgsの条件の範囲は、トランジスタが飽和するドレイン電圧Vds及びゲート電圧Vgsの範囲より狭くなっている可能性が考えられる。
【0147】
このことを考慮して、実際の使用条件は、図24に例示したハッチングされた領域の条件を用いることがさらに、好ましい。
【0148】
図24において、第1モード(mode−X)の条件においては、ゲート電極16の延在方向に対して平行な方向において、音響モードが励起される。図24において、第2モード(mode−Y)の条件においては、第1モード(mode−X)に加えて、第1モードとは異なる音響モードも励起されると考えられる。
【0149】
例えば、音響半導体装置112を発振器として用いる場合、発振条件の中でも、複数のモードが励起されず、単一のモードが励起される範囲で使用することが好ましい。
【0150】
実施形態に係る音響半導体装置112において、図18に示すように、互いに平行に並び互いに接続された複数のゲート電極16を設けることが望ましい。そして、素子領域12の、ゲート電極16の延在方向に沿う長さ(第1長さLx、すなわち幅W)が一定であることが望ましい。
【0151】
上述のように、音響定在波の発振ピークが素子領域12の辺の長さに依存すると示唆される。従って、複数のゲート電極16のそれぞれの下で発生する音響波を、同じ周波数の音響定在波とするためには、基板電流の発振周波数に対応する長さ(第1長さLx)が一定であることが望ましい。
【0152】
また、大きなドレイン電流が流れるような、ゲート電極16とドレイン領域との間に加える直流電圧の条件では、チャネルの抵抗成分により発熱が生じることがある。チャネルの温度が上昇すると半導体結晶中を伝播する音響波の音速が変化し、発振周波数が変動する可能性がある。従って、発熱を抑制して発振周波数を安定化するための観点から、ゲート電極16に加える電圧は低いほうが望ましい。
【0153】
実施形態に係る音響半導体装置112には、電界効果トランジスタの構成が用いられるため、他の電子回路との集積化が容易である。
【0154】
また、実施形態によれば、電子回路と集積化される従来の発振器と比較して、高い周波数精度を有する発振器として機能する半導体装置を提供することができる。
【0155】
例えば、実施形態によれば、インバータを用いたリング発振器等に比べ、発振周波数の温度依存性が小さくなる。リング発振器では、トランジスタの発振周波数がドレイン電流に依存し、ドレイン電流の温度による変化量は、音響波の音速の温度による変化量に比べ大きい。実施形態においては、ドレイン電流量の変化は、発振周波数には直接には影響しない。このため、実施形態においては、発振周波数の温度依存性が小さい。
【0156】
さらに、実施形態によれば、インバータを用いたリング発振器等に比べ、発振周波数の加工寸法依存性も小さくなる。トランジスタのドレイン電流は、ゲート長の精度に依存し、リング発振器等では、このドレイン電流が発振周波数に影響する。従って、発振周波数がトランジスタのゲート長の加工精度に依存することになる。
【0157】
これに対し、実施形態においては、発振周波数は、素子領域の辺の長さに依存する。例えば、上記の第1モード(mode−X)においては、発振周波数は、トランジスタのゲート幅に依存する。通常、トランジスタのゲート幅はゲート長の10倍以上100倍以下で設計される。このため、同じ量だけ加工がばらついたとしても、ゲート幅の変動の割合は、ゲート長の変動の割合よりも小さい。従って、実施形態においては、発振周波数の加工寸法依存性が従来と比べて小さくなる。
【0158】
このように、本実施形態に係る音響半導体装置112は、第2端子を備える。第2端子には、ゲート端子32、ソース端子18、ドレイン端子17、及び、半導体層11に電気的接続された端子(例えば出力端子19)の少なくともいずれかが用いられる。
【0159】
すなわち、第2端子には、第1不純物拡散部12a、第2不純物拡散部12b、中間部12c及び、ゲート電極16のいずれかと電気的に接続された端子を用いることができる。第2端子は、例えば、第1端子160とは電気的に接続されていない。
【0160】
また、第2端子は、半導体結晶共振層の側面に設けられた絶縁層を介して、半導体結晶共振層と電気的に接続されても良い。
【0161】
また、第2端子は、半導体結晶共振層の側面に設けられ、半導体結晶共振層の導電形とは異なる導電形を有する半導体結晶を含む層に電気的に接続されても良い。
【0162】
第2端子に入力される信号に応じて、音響共振部155中を伝播する電子及びホールの少なくともいずれかの伝導キャリアの密度及びドリフト速度の少なくともいずれかが変化する。これにより、音響共振部155中を伝播する音響波の速度が変化する。
この第2端子に入力される信号は、例えば、直流バイアス電圧である。
【0163】
このように、本実施形態に係る音響半導体装置は、導体基板と、その半導体基板中の特定領域に形成された音響定在波を励起するための音響共振器(音響共振部155)と、その音響共振器の共振周波数と同期した電気的な発振信号を出力するための第1端子160と、を備える。そして、音響波-電子相互作用を用いて音響共振器中を伝播する電子及びホールの少なくとも一方の伝導キャリアの密度及びドリフト速度の少なくともいずれかを制御することにより、音響波の伝播速度を電気的に変化させる。
【0164】
音響定在波を励起させるための半導体基板上の特定領域としては、例えば、半導体基板上に形成される素子分離領域13(例えば埋め込み型絶縁層)域に囲まれた素子領域12が用いられる。
【0165】
具体的には、半導体基板上の特定領域に音響定在波を励起し、かつ、共振周波数と同期した電気的な発振信号を出力するための構成として、電界効果トランジスタと、端子と、を用いることができる。この電界効果トランジスタは、素子領域12上に形成されたゲート電極16と、ゲート電極16の両側の素子領域12に設けられたソース・ドレイン領域15と、ソース・ドレイン領域15に挟まれた素子領域12に設けられたチャネル領域と、を有する。端子は、例えば、ゲート電極16と接続されたゲート端子、ソース・ドレイン領域15と接続されたソース端子18及びドレイン端子17、並びに、チャネル領域に空乏層を介して隣接する基板端子(例えば出力端子19)の少なくともいずれかを含む。
【0166】
本実施形態に係る音響半導体装置112において、ソース・ドレイン領域15は、半導体基板中に形成されたウェル構造の内部に設けられる。
【0167】
本実施形態に係る音響半導体装置112は、特定領域に励起された音響定在波と同期して振動する、ドレイン電圧、ドレイン電流、基板電圧、及び、基板電流の少なくともいずれか出力することで発振器として機能する。
【0168】
図25は、第2の実施形態に係る別の音響半導体装置の構成を例示する模式図である。 すなわち、同図は、本実施形態に係る音響半導体装置112aの等価回路図である。
図25に表したように、音響半導体装置112aは、既に説明した音響半導体装置112に加え、増幅器25(増幅回路部)を、さらに備える。増幅器25は、出力端子19に接続される。
【0169】
増幅器25としては、例えば、トランジスタに基づく、シングル増幅回路、プッシュプル増幅回路及び差動増幅回路等の電子回路を用いることができる。
【0170】
音響半導体装置112aによれば、発振する基板電流が微弱な場合でも、電気信号72が増幅され、電気信号72の振幅よりも大きい振幅を有する電気信号74を得ることができる。
【0171】
このように、本実施形態に係る音響半導体装置112aは、電界効果トランジスタのゲート端子、ソース端子、ドレイン端子及びベース端子(基板端子またはウェル端子)の少なくともいずれかから出力される発振信号の振幅強度を増幅するための増幅回路(増幅器25)をさらに備える。この増幅回路は、上記の電界効果トランジスタが設けられる半導体層(例えば半導体基板)の一部に上に設けられることができる。
【0172】
すなわち、音響半導体装置112aは、半導体結晶共振層(素子領域12)が設けられる基体(この例では、p形基板11a)の上に設けられた増幅回路部(増幅器25)をさらに備える。第1端子160を介して、音響定在波と同期する電気的信号が音響共振部155から出力される。増幅回路部は、第1端子160から出力される電気的信号を増幅する。
【0173】
(第3の実施形態)
図26(a)及び図26(b)は、第3の実施形態に係る音響半導体装置の構成を例示する模式図である。
図26(a)は、平面図である。図26(b)は、図26(a)のB1−B2線断面図である。
図26(a)及び図26(b)に表したように、本実施形態に係る音響半導体装置113においては、ゲート間電極26がさらに設けられている。ゲート間電極26は、複数のゲート電極16どうしの間に設けられる。すなわち、ゲート間電極26は、チャネル領域の上において、複数のゲート電極16どうしの間に設けられる。ゲート間電極26は、ゲート電極16の延在軸に沿って延在する。ゲート間電極26は、例えば、ダミーゲート電極である。これ以外の構成は、音響半導体装置112と同様である。第2の実施形態と重複する内容については、記載を省略する。
【0174】
音響半導体装置113において、ゲート電極16とゲート電極16との間に、例えば、複数のゲート間電極26を配置する。これらのゲート間電極26は、直流電圧源と接続されずに、例えば接地電位に接続される。これにより、チャネル領域の抵抗成分により生じる発熱源の配置を分散させることができる。これにより、電界効果トランジスタ100の温度上昇を抑制することができる。
【0175】
チャネル領域の温度が上昇すると、半導体結晶中を伝播する音響波の音速が変化し、発振周波数が変動する可能性がある。このとき、音響半導体装置113によれば、発熱による温度上昇が抑制されるため、発振周波数が安定する。これにより、発振器に応用する際に好ましい音響半導体装置が実現できる。
【0176】
(第4の実施形態)
図27(a)及び図27(b)は、第4の実施形態に係る音響半導体装置の構成を例示する模式図である。
図27(a)は、平面図である。図27(b)は、図27(a)のC1−C2線断面図である。
図27(a)及び図27(b)に表したように、本実施形態に係る音響半導体装置114においては、ゲート電極16どうしの間に設けられるゲート間電極26の数が、一定ではなく、変化している。さらに、素子領域12の形状が、音響半導体装置113の場合とは異なる。これ以外は、音響半導体装置113と同じである。第3の実施形態と重複する内容については、記載を省略する。
【0177】
音響半導体装置114においては、ゲート電極16とゲート電極16との間に、複数のゲート間電極26を配置する点では第3の実施形態と同様であるが、ゲート電極16どうしの間のゲート間電極26の本数は一定ではなく、互いに異なる。
【0178】
さらに、素子領域12の形状が長方形ではない。素子領域12の、ゲート電極16と交わらない辺は、傾斜(この場合は階段状に傾斜)している。これにより、ゲート電極16の延在軸に対して垂直な軸(Y軸)に沿う素子領域12の長さが一定ではない。これにより、ゲート電極16の延在軸に対して垂直な軸(Y軸)に沿う音響定在波の励起を抑制することができる。
【0179】
これにより、単一モードの音響定在波が励起される。これにより、発振器に応用する際に好ましい音響半導体装置を提供することができる。
【0180】
(第5の実施形態)
図28は、第5の実施形態に係る音響半導体装置の構成を例示する模式図である。
図28に表したように、本実施形態に係る音響半導体装置115は、電界効果トランジスタ100に加え、温度補償回路84をさらに備える。温度補償回路84には、例えば、オープンループ型温度補償回路が用いられる。温度補償回路84は、環境温度に応じた電気信号を第2端子160に出力する。
【0181】
音響半導体装置115において、温度補償回路84は、例えば、電界効果トランジスタ100のゲート電極16と、ドレイン端子17と、に接続される。そして、温度補償回路84には、絶対温度比例電流源(Proportional To Absolute Temperature:PTAT)と、絶対温度相補型電流源(Complementary To Absolute. Temperature:CTAT)と、が接続される。これにより、温度依存性補償ドレイン電圧源Vd(T)と温度依存性補償ゲート電圧源Vg(T)と、が作製される。
【0182】
例えば、上記の音響半導体装置114(ゲート電極16の延在軸に対して垂直な軸(Y軸)に沿う音響定在波の励起を抑制することで、単一モードの音響定在波が励起される半導体装置)のドレイン端子17及びゲート端子32に、これらの電圧を供給する。
【0183】
ゲート端子32に供給する温度依存性補償ゲート電圧源Vg(T)により、音響共振器中を伝播する電子及びホールの少なくとも一方の伝導キャリアの密度が制御される。
【0184】
ドレイン端子17に供給する温度依存性補償ドレイン電圧源Vd(t)により、音響共振器中を伝播する電子及びホールの少なくとも一方の伝導キャリアのドリフト速度が制御される。
【0185】
これにより、電子とフォノンとの相互作用を利用して半導体中を伝播する音響波の速度を電気的に変化させることができる。これにより、温度依存性が向上した発振周波数を得ることができる。
【0186】
以上のように、実施形態に係る半導体装置は、半導体結晶中を伝播する電荷と音響波との結合させるための機構を有する。
【0187】
実施形態に係る音響半導体装置は、例えば、半導体基板と、その半導体基板中の特定の領域に音響波を励起するための手段と、音響波の周期に同期して変動する電気的な信号を入出力するための電気的端子を備える。
【0188】
また、実施形態に係る音響半導体装置は、例えば、半導体基板と、その半導体基板中の特定の領域に形成された音響定在波を励起するための音響共振器と、その音響共振器の共振周波数と同期した電気的な信号を入出力するための端子を備える。
【0189】
実施形態に係る音響半導体装置においては、半導体基板の特定の結晶領域に音響定在波を励起するための共振器を形成する。このような音響的な共振器は、半導体基板の一部を、共振器とは音響インピーダンスの異なる材質の素子分離部13sを用いて区切ることにより実現することができる。例えば、半導体の結晶がSiの場合には、素子分離部13sには、SiO層、例えば、空洞層などを用いることができる。例えば、半導体基板上に形成される埋め込み型絶縁層の素子分離領域13に囲まれた領域(素子領域12)に、音響定在波を励起することができる。
【0190】
音響波と電荷の移動を効率よく結合させるために、音響定在波が励起され伝播する方向と同じ方向に電荷が移動できるような電気的な通り路を設けることが好ましい。このように音響定在波が励起して電荷と結合した場合、この素子は等価回路的に共振器として動作する。
【0191】
また、実施形態に係る音響半導体装置は、例えば、音響共振器中を伝播する電子及びホールの少なくともいずれかの伝導キャリアの密度及びドリフト速度を制御することにより、半導体中を伝播する音響波の速度を変化させることができる制御機構をさらに備える。これにより、半導体中を伝播する音響波の速度を変化させることができるので、等価的なインダクタンス及び共振周波数の少なくともいずれかを制御することができる。
【0192】
この制御機構として、例えば、電気的な信号を入出力するための上記の端子に直流的なバイアス電圧を印加する構成を用いることができる。また、この制御機構として、上記の音響共振器に隣接して設けられ、音響共振器の導電形とは逆の導電形を有する層に直流的なバイアス電圧を印加する構成を用いることができる。また、この制御機構として、上記の音響共振器と、薄い絶縁膜を介して並置された電極に直流的なバイアス電圧を印加する構成を用いることができる。
【0193】
実施形態に係る音響半導体装置は、発振器として利用できる。一般的に、音響的な共振器を用いた発振器において、発振周波数を変えるためには共振器のサイズを変化させるか、または、媒体中を伝播する音響波の速度を変化させるか、少なくともどちらかの方法で共振周波数を変える。これに対し、実施形態に係る音響半導体装置においては、半導体中を伝播する音響波の速度を電気的に制御する。
【0194】
実施形態に係る音響半導体装置において、上記の周波数制御機構を利用することにより、音響半導体装置の製造工程において生じる周波数誤差を補正する回路をさらに備えることができる。これにより、製造工程の変動によって生じる周波数誤差を補正し、高精度の周波数を得ることができる。
【0195】
さらに、上記の周波数制御機構を利用することにより、環境温度変化に対して、発振周波数を一定に保つための温度補償回路をさらに備えることできる。これにより、温度変化に対しても安定した高精度の周波数が得られる。
【0196】
上記の実施形態のいずれにおいても、電子をキャリアとするn形MOSトランジスタ(n形MISトランジスタ)、及び、正孔をキャリアとするp形MOSトランジスタ(p形MISトランジスタ)を用いることができる。
【0197】
また、上記の実施形態においては、素子領域12及び素子領域12内の電界効果トランジスタ100を半導体基板上に形成する構成について述べたが、実施形態はこれに限らない。例えば、素子領域12及び素子領域12内の電界効果トランジスタ100を、半導体基板中に設けられた基板とは異なる導電形を有するウェルに形成することも可能である。この場合には、音響定在波に同期した電気信号をチャネル領域の存在するウェルに接続した出力端子で検出することができる。
【0198】
実施形態によれば、例えば、半導体基板上に容易に形成することができ、かつ、スパイラルインダクタでは従来実現することが困難であった大きなインダクタンスをもつインダクタができ共できる。また、例えば、大きなインダクタンス成分をもつ共振回路を実現することができる。また、例えば、半導体基板上にインダクタ成分が音響的に実現されることにより、回路の他の部分と電磁界的に結合しにくく、雑音源として作用しにくいインダクタンス素子を提供できる。
【0199】
実施形態によれば、大きなインダクタンスをもつ新規なインダクタ素子を実現する音響半導体装置が提供される。
【0200】
なお、本願明細書において、「垂直」及び「平行」は、厳密な垂直及び厳密な平行だけではなく、例えば製造工程におけるばらつきなどを含むものであり、実質的に垂直及び実質的に平行であれば良い。
【0201】
以上、具体例を参照しつつ、本発明のいくつかの実施形態について説明した。しかし、本発明の実施形態は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、音響半導体装置に含まれる素子部、端子、トランジスタ、不純物拡散部、中間部、電極、増幅回路部及び温度制御回路などの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0202】
その他、本発明の実施の形態として上述した音響半導体装置を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての音響半導体装置も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0203】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0204】
11…半導体層、 11a…p形基板、 11b…空乏層、 11c…ディープNウェル層、 11d…空乏層、 11e…Pウェル層、 11f…Pウェル領域、 12…素子領域、 12a…第1不純物拡散部、 12b…第2不純物拡散部、 12c…中間部、 13…素子分離領域、 13a、13b、13c…第1、第2、第3素子分離領域、 13s…素子分離部、 15…ソース・ドレイ領域、 16…ゲート電極、 16i…絶縁層、 17…ドレイン端子、 18…ソース端子、 19…出力端子、 21、22…直流電圧源、 25…増幅器(増幅回路部)、 26…ゲート間電極、 32…ゲート端子、 72、74…電気信号、 84…温度補償回路、 100…電界効果トランジスタ、 111、112、112a、113、114、115…音響半導体装置、 150…素子部、 155…音響共振部、 160…第1端子、 201、201a…素子、 202…二重ウェル構造、 203…ゲート、 203e…ゲート端子、 204…ドレイン、 204e…ドレイン端子、 205…ソース、 205e…ソース端子、 206…SGS端子、 206a、206c…Gnd端子、 206b…Pウェル端子、 301…電子、 302…不純物イオン、 AW…音響波、 C0、C1…キャパシタ、 CD…電子密度、 CP…電荷集中、 DC…結晶の変形、 Fx…力、 G…実数部、 Iall…電流、 Iaw…音響的電流、 Iel…電気的電流、 L1…インダクタ、 LSDG…長さ、 Lx…第1長さ、 Ly…第2長さ、 Nw…波数、 PD…伝搬方向、 PP…ポテンシャルエネルギー、 R…実数部、 R0、R1…抵抗、 RON−L…線形領域、 RON−S…飽和領域、 Rpr…並列共振、 Rs…抵抗、 Rsr…直列共振、 STOFF…オフ状態、 STON…オン状態、 STr…疎、 STt…密、 VD…体積膨張、 VE…体積収縮、 V、V…音速、 Vbias…バイアス電圧、 Vd…温度依存性補償ドレイン電圧源、 Vds…ドレイン電圧、 Vg…温度依存性補償ゲート電圧源、 Vgs…ゲート電圧、 Vth…しきい値電圧、 W…幅、 X…虚数部、 Y…アドミッタンス、 f、fp…周波数、 fpr…並列共振周波数、 fsr…直列共振周波数、 fv…力、 mode−X…第1モード、 mode−Y…第2モード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体結晶を含み音響定在波が励起可能な音響共振部を含む素子部と、
前記素子部と電気的に接続された第1端子と、
を備え、
前記第1端子を介して、前記音響定在波と同期する電気的信号を前記音響共振部から出力する、及び、前記音響定在波と同期する電気的信号を前記音響共振部に入力する、の少なくもいずれかを実施可能なことを特徴とする音響半導体装置。
【請求項2】
前記音響共振部は、第1不純物拡散部と、第2不純物拡散部と、前記第1不純物拡散部と前記第2不純物拡散部との間に設けられた中間部と、を有する半導体結晶を含む半導体結晶共振層を含み、
前記素子部は、前記中間部の上に設けられた電極を含み、
前記第1端子は、前記第1不純物拡散部、前記第2不純物拡散部、前記中間部及び前記電極の少なくともいずれかに電気的に接続されていることを特徴とする請求項1記載の音響半導体装置。
【請求項3】
基体と、
前記基体の上に設けられた素子分離部と、
をさらに備え、
前記半導体結晶共振部は、前記基体の上に設けられ、前記半導体結晶共振層の側面は、前記素子分離部に接し、
前記素子分離部の音響インピーダンスは、前記半導体結晶共振層の音響インピーダンスとは異なることを特徴とする請求項2記載の音響半導体装置。
【請求項4】
前記素子分離部は、絶縁層及び空洞層の少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項3記載の音響半導体装置。
【請求項5】
前記第1不純物拡散部、前記第2不純物拡散部、前記中間部及び前記電極のいずれかと電気的に接続された第2端子をさらに備え、
前記第2端子に入力される信号に応じて、前記音響共振部中を伝播する電子及びホールの少なくともいずれかの伝導キャリアの密度及びドリフト速度の少なくともいずれかが変化し、前記音響共振部中を伝播する音響波の速度が変化することを特徴とする請求項2〜4のいずれか1つに記載の音響半導体装置。
【請求項6】
第2端子をさらに備え、
前記第2端子は、
前記半導体結晶共振層の側面に設けられた絶縁層を介して前記半導体結晶共振層前記と電気的に接続される、または、
前記半導体結晶共振層の側面に設けられ、前記半導体結晶共振層の導電形とは異なる導電形を有する半導体結晶を含む層に電気的に接続され、
前記第2端子に入力される信号に応じて、前記音響共振部中を伝播する電子及びホールの少なくともいずれかの伝導キャリアの密度及びドリフト速度の少なくともいずれかが変化し、前記音響共振部中を伝播する音響波の速度が変化することを特徴とする請求項2〜5のいずれか1つに記載の音響半導体装置。
【請求項7】
前記第2端子に入力される信号は、直流バイアス電圧であることを特徴とする請求項5または6に記載の音響半導体装置。
【請求項8】
環境温度に応じた電気信号を前記第2端子に出力する温度補償回路をさらに備えたことを特徴とする請求項5〜6のいずれか1つに記載の音響半導体装置。
【請求項9】
前記基体の上に設けられ、前記第1端子と接続された増幅回路部をさらに備え、
前記第1端子を介して、前記音響定在波と同期する電気的信号が前記音響共振部から出力され、
前記増幅回路部は、前記第1端子から出力される前記電気的信号を増幅することを特徴とする請求項3〜8のいずれか1つに記載の音響半導体装置。
【請求項10】
前記電極は複数設けられ、
前記複数の電極の延在方向は互いに平行であることを特徴とする請求項2〜9のいずれか1つに記載の音響半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図8】
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【図14】
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【図15】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−204870(P2012−204870A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64855(P2011−64855)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】