説明

音響反射板装置

【課題】 多岐に亘る作業や制御を要せずして所望の音響空間を創ることを可能にする。
【解決手段】 使用時に舞台の客席側となる前側の上方に水平状態に垂下される天井反射板1と、使用時に舞台の奥側寄り位置および舞台の前側寄り位置に選択的に縦状態に立設される正面反射板2とを有してなる音響反射板装置において、天井反射板1が舞台の前側に位置決められる本体部1aと、舞台の奥側寄りに位置決められる起伏部1bとを有し、起伏部1bが本体部1aに対して起伏手段13の配設下に起伏可能とされてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、音響反射板装置に関し、特に、多機能ホールなどの舞台に設けられる舞台装置たる可動型の、つまり、吊り下げ式に設定の音響反射板装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の多機能ホール(多目的ホールあるいは多用途ホールと称されることもある)にあっては、多機能を備えることから、建物自体が大型化される傾向にあると共に、これに伴って、舞台に設けられる舞台装置たる可動型の音響反射板装置についても、これが大型化される傾向にある。
【0003】
その一方で、たとえば、特許文献1に開示されているように、この種の可動型の音響反射板装置にあって、舞台に大規模な音響空間を創る場合とそれより小さい規模の音響空間を創る場合とを選択できるとする提案がある。
【0004】
すなわち、この特許文献1に開示の音響反射板装置は、吊り下げ式に設定され、使用時に、舞台の客席側となる前側の上方に水平状態に垂下される一枚板状の天井反射板と、この天井反射板の舞台の奥に向く後端に舞台の奥側から垂下されて縦状態にして近隣される奥側構成体とを有してなる。
【0005】
ちなみに、使用時の天井反射板と奥側構成体の脇側には客席から見て舞台の両側となる舞台の袖側からの側面反射板が縦状態に近隣されて、これら側面反射板,天井反射板および奥側構成体で所望の音響空間が創られる。
【0006】
そして、この特許文献1に開示の音響反射板装置にあって、奥側構成体は、客席に対向する正面反射板部を有すると共に、この正面反射板部の上方に保持されて舞台の床に向かって起伏可能とされる天井反射板部を有する一方で、正面反射板部がリンク部材によって舞台の客席側寄りとなる前進位置に、あるいは、復帰位置たる後退位置に選択的に立設可能とされる。
【0007】
それゆえ、この音響反射板装置にあっては、一枚板状の天井反射板が下降されて水平状態に維持されると共に、奥側構成体が下降されて舞台のほぼ中央部分に縦状態に立設される一方で、奥側構成体における正面反射板部がリンク部材によって客席側に向かって前進する状態におかれて客席に対向する正面反射板になり、この状態で天井反射板と共に言わば最も小さい音響空間を創る。
【0008】
そして、この音響反射板装置にあっては、天井反射板を下降させたままの状態に維持する一方で、奥側構成体にあってリンク部材を起すようにして正面反射板部を旧状に復帰させて後退位置で正面反射板にし、この状態で天井反射板の後端に隣設されて天井反射板と共に言わば中程度の大きさの音響空間を創る。
【0009】
そしてまた、この音響反射板装置にあっては、天井反射板を下降させたままの状態に維持すると共に奥側構成体を舞台の奥側に後退させるようにして立設しながら正面反射板部を正面反射板にし、この状態で奥側構成体における天井反射板部を舞台の床に向けて倒すことで、この天井反射板部を先の天井反射板に連続させ、この態勢のときに、最も大きくなる音響空間を創る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−314493号公報(特許請求の範囲 請求項1,段落0009,同0013から同0016,図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記した特許文献1に開示の音響反射板装置にあっては、使用時に大中小となる音響空間を創れる点で、基本的に問題がある訳ではないが、利用の実際にあって、些かの不具合があると指摘される可能性がある。
【0012】
すなわち、上記した特許文献1に開示の提案にあっては、使用時に水平状態に垂下される天井反射板が言わば一枚板状に形成されるのに対して、天井から垂下されて舞台に立設される奥側構成体が言わば複雑に形成されるから、規模の異なる音響空間を創るための編成作業が煩雑になる不具合がある。
【0013】
つまり、上記した特許文献1に開示の提案にあって、奥側構成体は、客席に対向する正面反射板とされる正面反射板部を有すると共に、この正面反射板部の上方に保持されて舞台の床に向かって起伏可能とされて天井反射板とされる天井反射板部を有し、さらに、正面反射板部が当初の立設位置たる言わば後退位置に立設される場合と、リンク部材によって舞台の客席側寄りとなる言わば前進位置に立設される場合との選択を可能にする構成とされて、言わば複雑な構成となる。
【0014】
それゆえ、音響反射板装置において、舞台に規模の異なる音響空間を創るために編成変えをするのに際しては、奥側構成体において、正面反射板部がリンク部材によって前進して正面反射板になる態勢と、正面反射板部がリンク部材によって後退されて正面反射板になる態勢と、正面反射板部が後退状態に維持されて正面反射板になると共に、天井反射板部が倒されて天井反射板に連続する態勢となる三つの態勢のいずれかが選択される。
【0015】
そのため、この編成変えを、たとえば、コンピューターを利用するなどの機械力によるとしても、その作業を多岐にして煩雑にする不具合がある。
【0016】
この発明は、上記した事情を鑑みて創案されたものであって、その目的とするところは、多岐に亘る作業や制御を要せずして所望の音響空間を創ることを可能にして、その汎用性の向上を期待するのに最適となる音響反射板装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記した目的を達成するために、この発明による音響反射板装置の構成を、基本的には、使用時に舞台の客席側となる前側の上方に水平状態に垂下される天井反射板と、使用時に舞台の奥側寄り位置および舞台の前側寄り位置に選択的に縦状態に立設される正面反射板とを有してなる音響反射板装置において、天井反射板が舞台の前側に位置決められる本体部と、舞台の奥側寄りに位置決められる起伏部とを有し、起伏部が本体部に対して起伏手段の配設下に起伏可能とされてなるとする。
【0018】
そして、上記の音響反射板装置において、より具体的には、天井反射板が本体部の背面にこの天井反射板の吊持を可能にする吊り部材を有すると共に、この吊り部材が起伏部の本体部に対する起伏を可能にする起伏手段を有してなるとする。
【発明の効果】
【0019】
それゆえ、この発明による音響反射板装置にあっては、使用時に水平状態に垂下される天井反射板が舞台の前側に位置決められる本体部と、舞台の奥側寄りに位置決められる起伏部とを有してなるから、音響空間の規模を大小させる編成変えに際して、天井反射板が本体部に起伏部を連続させた状態のままの言わば全体使用される場合と、天井反射板が本体部に対して起伏部を起した状態、すなわち、折り畳んだ状態の言わば部分使用される場合とを選択し得ることになり、たとえば、オーケストラ向きとなる大規模な音響空間の創成を可能にし、また、ピアノリサイタルや弦楽四重奏向きとなるより小さい規模の音響空間の創成を可能にする。
【0020】
このとき、音響反射板装置における編成変えに際して、天井反射板において本体部に対する起伏部の起伏を選択すること、および、正面反射板において立設位置を前進位置あるいは後退位置のいずれかに選択することの作業のみで足り、たとえば、いわゆる機械力利用で天井反射板を変態させ、また、正面反射板の立設位置を選択する作業を言わば簡単に実践し得る。
【0021】
そして、機械力を利用して天井反射板および正面反射板を昇降させて舞台の所定位置に位置決める場合には、特に、正面反射板を舞台の所定位置に人手によって位置決める作業を不要にし、言わば重量物となる正面反射板を人手で移動させる際に、作業員の負担を軽減するのはもちろんのこと、作業員数の削減を可能にして、経費の削減を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明による音響反射板装置の使用状態の一例を示す概略縦断面図である。
【図2】この発明による音響反射板装置の使用状態の他例を図1と同様に示す図である。
【図3】この発明による音響反射板装置の不使用時における正面反射板の収納状態を図1と同様に示す図である。
【図4】この発明による音響反射板装置の不使用時の収納状態を図1と同様に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図示した実施形態に基づいて、この発明を説明するが、この発明による音響反射板装置は、詳しくは図示しないが、多機能ホールなどの舞台に設けられる舞台装置を構成するもので、図示するところでは、吊り下げ式の可動型に設定される。
【0024】
ここで、以下の説明において、舞台なる語は、舞台床Sを指す場合と、この舞台床Sの上方の空間(符示せず)を指す場合と、舞台床Sと空間とを合体して指す場合とがあるが、必要な場合を除き、明確に区別することなく使用することがあることを断っておく。
【0025】
また、図中の右側に符号Gで示すのは、客席であって、この客席Gから見る舞台の左右方向が間口方向であり、図示しないが、この舞台の間口方向の端部に袖と称されて、基本的には、客席からの視界の外となる空間が設けられる。
【0026】
そして、この舞台の袖にあっては、同じく図示しないが、この袖の上方にこの発明における音響反射板装置を構成する側面反射板が不使用時に垂下される。
【0027】
ちなみに、側面反射板については、この実施形態では、特に、正面反射板2と別体に形成されて、不使用時には、舞台の袖の上方に縦状態に垂下される設定とするが、これに代えて、正面反射板2に連結されて、不使用時には、縦状態のまま収納される正面反射板2と一緒に舞台の奥の上方に垂下されるとしても良い。
【0028】
なお、この発明による音響反射板装置にあって、側面反射板は、凡そこの種の音響反射板装置において、従来から選択される構成に形成されてなり、また、従来から採用される手段で昇降され、かつ、舞台で移動可能とされるものであれば足りるので、要する場合を除き、側面反射板についての説明を省略する。
【0029】
ところで、この種の舞台にあっては、舞台の最上端を構成する天井(符示せず)の下方に支持棚たる簀の子Tを有し、この簀の子Tを介するようにして、天井側に設けたバトン装置(図示せず)におけるワイヤなどの牽引部材が垂下される。
【0030】
ちなみに、この発明による音響反射板装置を構成する牽引部材たるワイヤW1〜W5は、一端が上記の天井側に連結されると共に、中間部が上記の簀の子Tに保持された滑車(符示せず)に掛け回されて延在方向が転向されると共に天井反射板1側あるいは正面反射板2側に掛け回され、他端が上記の天井側に配設されるウインチM1〜M5に巻装される。
【0031】
そして、この音響反射板装置にあって、少なくとも、上記のワイヤおよびウインチが音響反射板を昇降させる吊り下げ手段(符示せず)を構成するもので、図示する実施形態では、舞台の間口方向の両側部、つまり、両袖部分に設けられる。
【0032】
そこで、以下の説明において、要する場合を除き、上記のワイヤおよびウインチについて詳述せずして、単に吊り下げ手段と称して説明を簡略化することがあることを断っておく。
【0033】
ところで、天井側に配設される吊り下げ手段を構成するウインチM1〜M5は、舞台に居る操作者による遠隔操作で、あるいは、操作室に居る操作者によるコンピューターを通じての操作で適宜に駆動されてワイヤW1〜W5を送り出しあるいは巻き取って、天井反射板1を昇降させ、また、天井反射板1における折り畳みを可能にし、さらに、正面反射板2を昇降させると共に水平方向に移動、すなわち、舞台の奥側と舞台の客席G側との間で前進させあるいは後退させる。
【0034】
このように、吊り下げ手段にあって、機械力を利用することで、たとえば、天井反射板1にあっては、その昇降および折り畳みはもちろんのこと、垂下される状態(図4参照)とほぼ水平に配設される状態(図1参照)との間における態勢の変更が言わば居ながらにして実現可能とされる。
【0035】
そして、正面反射板2にあっても、その昇降はもちろんのこと、縦状態に垂下される状態(図4参照)と縦状態のまま垂直に立設される状態(図1および図2参照)との間における態勢の変更が言わば居ながらにして実現可能とされる。
【0036】
なお、側面反射板にあっても、上記の天井反射板1や正面反射板2と同様にして、垂下される状態と垂直に立設される状態との間における態勢の変更が実現可能とされる。
【0037】
そしてまた、いわゆる機械力を利用して吊り下げ手段を作動させる場合、すなわち、機械力を利用して天井反射板1および正面反射板2を昇降させて舞台の所定位置に位置決める場合には、特に、正面反射板2を舞台の所定位置に人手によって位置決める作業を不要にし、作業者の負担を軽減する上で有利となる。
【0038】
ちなみに、この発明による音響反射板装置にあっては、側面反射板の昇降はともかく、側面反射板の舞台での前進および後退となる水平方向の移動を人力によるとしても良い。
【0039】
また、図示しないが、客席Gの上方にある音響反射板仕様の天井G1と舞台の上方との間に出現するいわゆる空間を埋めるように舞台の前側の上方にあるの垂れ壁Wに沿って昇降プロセニアムが昇降可能に配設されるとし、この昇降プロセニアムも上記の簀の子Tなどに配設のウインチなどに吊持されても良い。
【0040】
以上のような前提の下に、この発明による音響反射板装置は、図1および図2に示すように、使用時に舞台の客席G側となる図中での右側たる前側の上方に水平状態に垂下される言わば一枚板状の天井反射板1と、使用時に縦状態のまま舞台の図中での左側となる奥側寄り位置に立設され(図1参照)、あるいは、使用時に舞台の前側寄り位置に立設される(図2参照)一枚板状の正面反射板2とを有してなる。
【0041】
そして、この発明による音響反射板装置は、図示しないが、上述したように、使用時に舞台の袖側にあって天井反射板1および正面反射板2に隣設するように立設される一対の側面反射板をも有してなる。
【0042】
このとき、側面反射板を含む天井反射板1および正面反射板2たる音響反射板は、所望の音響効果を発揮し得るように周知の構造に形成され、たとえば、多くの場合に、プラスターを基本材料にするなどして、硬い音響反射面(符示せず)を有し、この音響反射面を客席G側に向けるように配慮される。
【0043】
尤も、この種の音響反射板にあっては、客席G側に向く音響反射面がプラスターなどの硬質材料で形成されるが、いわゆる背面側は、可能な限りの軽量化を果たすために、たとえば、フレーム構造に形成されたりする。
【0044】
ところで、この発明による音響反射板装置にあって、天井反射板1は、図1に示すように、水平状態に垂下される使用時に舞台の前側寄りに位置決められる本体部1aと、舞台の奥側寄りに位置決められる起伏部1bとを有していわゆる折り畳み可能に形成されてなる。
【0045】
このとき、この天井反射板1にあって、起伏部1bは、ヒンジ構造(符示せず)で本体部1aに連結されて、この天井反射板1の図中で上方側となる背面側で起伏可能とされる(図2参照)。
【0046】
ちなみに、図1に示すように、使用時に舞台の前側の上方に下降された天井反射板1は、水平状態におかれるが、このとき、実際には、図中で右端となる客席G側に臨む先端が図中で左端となる後端に比較して高く位置決められ、図中で下面となる音響反射面を客席Gに向けて言わば仰向け傾向にする。
【0047】
一方、この音響反射板装置にあって、天井反射板1は、図1中で上方面となる背面に、特に、上記の本体部1aの背面に吊り部材11の下端部を連結させ、この吊り部材11が牽引部材たるワイヤW3およびワイヤW4で吊持されることで、舞台上方の天井側に吊持される。
【0048】
そして、図示するところにあって、この天井反射板1は、上記の本体部1aにおける図中で右側となる先端側部(符示せず)が舞台の間口方向に延びる桁部材12の配設下にワイヤW5によって舞台上方の天井側に吊持される。
【0049】
ちなみに、桁部材12は、天井反射板1における本体部1aが舞台における客席G側から舞台の奥側に向う方向となる奥行き方向に比較して間口方向を長くして、自己支持性などの所定の機械的強度を有するとしても、言わば脆弱化される傾向にあるところを補う目的で設けられる。
【0050】
それゆえ、天井反射板1の本体部1aにおける機械的強度が充分に保障される場合には、この桁部材12の配設を省略しても良く、また、この天井反射板1を昇降させる吊り下げ手段への契合の観点からすると、この桁部材12が設けられている方が好ましいとされることもある。
【0051】
なお、図示する実施形態では、天井反射板1における本体部1aが、結果的には、図1中で左右となる一対のワイヤW3,W4およびW5で吊持される態勢になるが、これは、特に、起伏部1bが図2に示すように起き上がった状態のときに、ワイヤW3,W4だけでこの天井反射板1を吊持する場合には、天井反射板1における重量バランスが狂い、傾くことになる不具合の発生を阻止するためである。
【0052】
上記の吊り部材11は、起伏部1bの起伏を可能にする起伏手段13を有し、この起伏手段13は、図示しないが、たとえば、小型のワイヤ巻き取り式のウインチを有し、このウインチが遠隔操作で駆動されることで、起伏部1bの起伏を実現する。
【0053】
ちなみに、この起伏手段13については、要は、本体部1aに対する起伏部1bの起伏を可能にするものであれば良く、それゆえ、これが小型のウインチからなることに代えて、図示しないが、たとえば、減速器を備えるモータや電動シリンダからなるとしても良く、特に、電動シリンダからなる場合には、流体圧源を有することなく起伏部1bの起伏が可能になる点で有利となる。
【0054】
そして、上記したワイヤW3は、一端が舞台の天井側に連結され、他端が天井側に配設のウインチM3に連結され、中間部が吊り部材11に保持される滑車11a(図1参照)に掛け回される。
【0055】
また、上記したワイヤW4は、一端が天井側に配設のウインチM4に連結され、他端が吊り部材11に、すなわち、図示するところでは、吊り部材11が有するブラケット11b(図1参照)に連結される。
【0056】
さらに、上記したワイヤW5は、一端が舞台の天井側に連結され、他端が天井側に配設のウインチM5に連結され、中間部が桁部材12に保持される滑車12a(図1参照)に掛け回される。
【0057】
なお、上記のウインチM3は、舞台の奥側となる上方の天井側に配設され、上記のウインチM4は、舞台のほぼ中央となる上方の天井側に配設され、その結果、ワイヤW3とワイヤW4とはV字状を呈する(図1,図2および図3参照)。
【0058】
そして、上記ウインチM5は、舞台の前側となる上方の天井側に配設され、したがって、ワイヤW5は、天井反射板1を水平状態に垂下するとき、天井側より真っ直ぐ垂下される態勢になる(図1,図2および図3参照)。
【0059】
次に、正面反射板2は、上端に有するブラケット21に滑車22を保持し、この滑車22にワイヤW1およびワイヤ2の中間部を掛け回し、ワイヤW1およびワイヤW2の各一端は、それぞれ天井側に連結され、ワイヤW1における他端は、天井側に配設のウインチM1に、また、ワイヤW2における他端は、天井側に配設のウインチM2にそれぞれ巻装される。
【0060】
そして、ウインチM1は、天井反射板1用のウインチM3と同様に、舞台の奥側となる上方の天井側に配設され、ウインチM2は、天井反射板1用のウインチM4と同様に、舞台のほぼ中央となる上方の天井側に配設され、その結果、ワイヤW1とワイヤW2とは、いわゆる舞台の袖側から見ると、V字状を呈する(図1および図2参照)。
【0061】
そしてまた、ウインチM1とウインチM3とが舞台の奥側となる上方の天井側に配設され、ウインチM2とウインチM4とが舞台のほぼ中央となる上方の天井側に配設され、さらに、ウインチM1の方がウインチM3より舞台の奥寄りに配置され、また、ウインチM2の方がウインチM4より舞台の奥側寄りに配置されることで、この音響反射板装置の不使用時における収納時に、天井反射板1に比較して、正面反射板2の方が舞台の奥寄りに垂下される(図3および図4参照)と共に、正面反射板2を舞台の奥の上方に垂下するとき、この正面反射板2に沿うように天井反射板1を垂下させる(図4参照)ことが可能になる。
【0062】
以上のように配設されるウインチM1〜M5、すなわち、吊り下げ手段は、図示しないが、舞台の間口方向の両側にそれぞれ配設され、それぞれに連結されるワイヤW1〜W5の中間部がそれぞれの言わば下方に配設される滑車22,11a,12aに巻装されると共に天井側に連結される。
【0063】
このように、ウインチ,ワイヤおよび滑車からなる吊り下げ手段が舞台の間口方向の両側に配設される構成とすることで、その間となるいわゆる舞台の中央部におけるバトン装置の作動を妨げないようにすることが可能になる。
【0064】
ちなみに、吊り下げ手段が舞台の間口方向の両側に配設されるのに代えて、図示しないが、ウインチが舞台の間口方向のいずれか一方側に配設されて、このウインチに連結されるワイヤが間口方向の両方の滑車に掛け回されるとする選択もなし得るが、この場合には、ワイヤの絶対長さが大きくなり過ぎ、ワイヤにおける伸びの影響を制御し難くなること考慮すると、好ましい選択とは言い得ない。
【0065】
以上のように形成されたこの発明による音響反射板装置にあっては、以下のようにして、所望の規模の音響空間を舞台に創ることが可能になる。
【0066】
先ず、図4に示す音響反射板装置の収納状態から、天井側に配設の吊り下げ手段におけるウインチM3の駆動でワイヤW3を送り出し、天井反射板1を下降させる。
【0067】
このとき、ワイヤW5による吊り長さ、すなわち、天井側からの長さが、図3に示すいわゆる定尺になるように天井側に配設のウインチM5で巻き取られ、天井反射板1が垂直状態から水平状態になるように態勢を変更する。
【0068】
そして、図3に示すように、ワイヤW5がいわゆる真っ直ぐになるまで、天井反射板1を下降させるとき、天井反射板1がワイヤW3およびワイヤW4およびワイヤW5で所定の吊持態勢になる。
【0069】
次に、図3に示す状態から、天井側に配設のウインチM1の駆動でワイヤW1を送り出し、正面反射板2を縦状態のまま下降させ、好ましくは、正面反射板2の下端が舞台床Sに接触しない態勢のときに、天井側に配設のウインチM2の駆動でワイヤW2を緊張傾向にして、正面反射板2を舞台における客席G側に水平移動、すなわち、前進させる。
【0070】
そして、舞台における客席G側に水平移動した正面反射板2の上端側を既に下降している天井反射板1の言わば後端に隣設させながら正面反射板2を最下降させて下端を舞台床Sに接触させていわゆる不動にして、この状態で正面反射板2を立設させることで、音響空間を創れる(図1参照)。
【0071】
ちなみに、このとき、天井反射板1および正面反射板2に隣設するように側面反射板が配設されて、所望の音響空間が出現するが、この音響空間を、たとえば、オーケストラ向きとなる大規模な音響空間とする。
【0072】
上記に対して、たとえば、ピアノリサイタルや弦楽四重奏向きのより規模の小さい音響空間を創る場合には、図1に示す態勢から、図2に示すように、天井反射板1において、この下降状態のまま、起伏手段13の駆動で本体部1aに対して起伏部1bを起立させていわゆる折り畳む。
【0073】
そして、正面反射板2を図中で右行させるように前進させて起伏部1bが起立された天井反射板1における本体部1aの後端に正面反射板2の上端部を隣設させて言わば中規模の音響空間を創る。
【0074】
このとき、この発明にあっては、言わば一枚板の天井反射板1において、本体部1aと起伏部1bとを有して、折り畳み可能に形成されるから、図示しないが、たとえば、天井反射板が本体部に相当する部分と、起伏部に相当する部分とを別体形成されて、それぞれを昇降可能にする構成の音響反射板装置に比較して、音響反射板の昇降制御や昇降操作を単一にでき、あるいは、少なくできる点で有利となる。
【0075】
また、この発明にあっては、天井反射板1が下降されて水平状態に垂下されている態勢のときに、起伏部1bの本体部1aに対する起伏、すなわち、折り畳みを可能にし得るから、起伏部1bをいわゆる起すか寝かせるかの選択のみで、大規模な音響空間とより小規模な音響空間との間の変成を迅速に実践し得る利点がある。
【0076】
一方、以上のようにして使用状態におかれた音響反射板装置を、不使用時たる収納状態にするには、基本的には、上記したところと逆の手順を辿れば良いが、簡単に説明すると、たとえば、図1に示す状態から、先ずは、正面反射板2を天井側に配設のウインチM1の駆動で吊り上げ、図3に示すように、正面反射板2を舞台の奥の上方に垂下する。
【0077】
ちなみに、このとき、ワイヤW2については、これを天井側に配設のウインチM2の駆動で巻き取るようにしても良いが、正面反射板2を確実に舞台の奥の上方に垂下させることからすれば、ワイヤW2をいたずらに緊張させない方が良く、また、再度正面反射板2を利用する場合のことを考慮すると、いわゆる長いままにしておいても良いと言い得る。
【0078】
次に、天井反射板1を舞台の奥の上方に垂下させるが、この場合には、図3に示す状態から、天井反射板1をワイヤW3およびワイヤW4で吊り下げた状態のまま、図示しないが、天井側に配設のウインチW5の駆動でワイヤW5を送り出し、天井反射板1において、先端部を下方に下げ、全体を縦状態にする。
【0079】
そして、天井反射板1が縦状態になったとき、天井側に配設のウインチM3を駆動してワイヤW3を巻き取り、図4に示すように、ウインチM3の下方に天井反射板1が位置決められるように垂下する。
【0080】
このとき、天井反射板1を吊り下げるワイヤW4については、これが天井側に配設のウインチM4の駆動で巻き取られるとしても良いが、天井反射板1を可能な限り舞台の奥の上方に垂下させることからすれば、ワイヤW4をいたずらに緊張させない方が良く、また、再度天井反射板1を利用する場合のことを考慮すると、いわゆる長いままにしておいても良いと言い得る。
【0081】
以上のように、この発明による音響反射板装置にあっては、使用時に水平状態に垂下される天井反射板1が舞台の前側に位置決められる本体部1aと、舞台の奥側寄りに位置決められる起伏部1bとを有してなるから、音響空間の規模を大小させる編成変えに際して、天井反射板1が本体部1aに起伏部1bを連続させた状態のままの言わば全体使用される場合と、天井反射板1が本体部1aに対して起伏部1bを起した状態、すなわち、折り畳んだ状態の言わば部分使用される場合とを選択し得ることになり、たとえば、オーケストラ向きとなる大規模な音響空間の創成を可能にし、また、ピアノリサイタルや弦楽四重奏向きとなるより小さい規模の音響空間の創成を可能にする。
【0082】
このとき、音響反射板装置における編成変えに際して、天井反射板1において本体部1aに対する起伏部1bの起伏を選択すること、および、正面反射板2において立設位置を前進位置あるいは後退位置のいずれかに選択することの作業のみで足り、たとえば、いわゆる機械力利用で天井反射板1を変態させ、また、正面反射板2の立設位置を選択する作業を言わば簡単に実践し得る。
【0083】
そして、機械力を利用して天井反射板1および正面反射板2を昇降させて舞台の所定位置に位置決める場合には、特に、正面反射板2を舞台の所定位置に人手によって位置決める作業を不要にし、言わば重量物となる正面反射板2を人手で移動させる際に、作業員の負担を軽減するのはもちろんのこと、作業員数の削減を可能にして、経費の削減を可能にする。
【0084】
そして、この発明による天井反射板装置にあっては、不使用時たる収納時に、正面反射板2および天井反射板1が舞台の奥の上方に縦状態に垂下されるから、舞台にデッドスペースを出現させずして、舞台の奥側の有効利用を可能にするのはもちろんのこと、たとえば、天井反射板1が舞台の前側の上方に垂下されないから、この舞台の前側の上方への他の舞台装置たる、たとえば、昇降プロセニアムの垂下を妨げない。
【0085】
前記したところでは、天井反射板1は、本体部1aと起伏部1bとを有してなるが、これに代えて、図示しないが、天井反射板1において、本体部1aがこの本体部1aより音響面積を小さくする補助板を有し、この補助板が昇降可能とされる一方で、正面反射板2もこの正面反射板2より音響反射面を小さくする補助板を有し、この補助板が進退可能とされることで、この両方の補助板を利用してのいわゆる小規模の音響空間の創成を可能にしても良い。
【0086】
そして、前記したところでは、ウインチM1〜M5およびこの各ウインチM1〜M5から送り出されるワイヤW1〜W5の掛け回しを許容する簀の子Tに配設の滑車については、これらが天井側および簀の子Tに固定状態に配設されてなるとしたが、この発明が意図するところからすると、これに代えて、図示しないが、ウインチM1〜M5が天井側に、また、滑車が簀の子Tに移動可能に配設されてなるとしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0087】
多機能ホールなどの舞台に設けられる舞台装置たる吊り下げ式の可動型に設定の音響反射板装置にあって、舞台に大規模な音響空間を創る場合と、それより小さい規模の音響空間を創る場合とを選択可能にするのに向く。
【符号の説明】
【0088】
1 天井反射板
1a 本体部
1b 起伏部
2 正面反射板
11 吊り部材
11a,12a,22 滑車
12 ダンパ
13 起伏手段
21 ブラケット
G 客席
M1,M2,M3,M4,M5 ウインチ
S 舞台床
W1,W2,W3,W4,W5 ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用時に舞台の客席側となる前側の上方に水平状態に垂下される天井反射板と、使用時に舞台の奥側寄り位置および舞台の前側寄り位置に選択的に縦状態に立設される正面反射板とを有してなる音響反射板装置において、天井反射板が舞台の前側に位置決められる本体部と、舞台の奥側寄りに位置決められる起伏部とを有し、起伏部が本体部に対して起伏手段の配設下に起伏可能とされてなることを特徴とする音響反射板装置。
【請求項2】
天井反射板が本体部の背面にこの天井反射板の吊持を可能にする吊り部材を有すると共に、この吊り部材が起伏部の本体部に対する起伏を可能にする起伏手段を有してなる請求項1に記載の音響反射板装置。
【請求項3】
正面反射板が一枚板状に形成されてなる請求項1に記載の音響反射板装置。
【請求項4】
不使用時の収納時に、正面反射板が舞台の奥の上方に縦状態に垂下されると共に、天井反射板が正面反射板に沿うようにして縦状態に垂下されてなる請求項1に記載の音響反射板装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−80906(P2012−80906A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226800(P2010−226800)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(304039065)カヤバ システム マシナリー株式会社 (185)