説明

音響性外傷を処置するための薬剤

【課題】 リルゾールの新規な用途を提供すること。
【解決手段】 本発明は、音響性外傷、特に異なるタイプの難聴及び耳鳴りを処置するための、リルゾールまたはその製薬学的に許容しうる塩を含有する薬剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響性外傷、特に難聴及び耳鳴りの予防及び/または処置におけるリルゾール(riluzole)またはその製薬学的に許容しうる塩の一つの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
リルゾール(2-アミノ-6-トリフルオロメトキシ-ベンゾチアゾール)は、筋萎縮性側索硬化症の処置のために市販されている。この化合物はまた、抗痙攣薬、抗不安薬及び催眠薬として(特許文献1)、精神分裂病の処置において(特許文献2)、睡眠障害及び鬱病の処置において(特許文献3)、脳血管障害の処置において及び麻酔薬として(特許文献4)、脊椎、頭蓋及び頭蓋脊椎外傷の処置において(特許文献5)、放射線強壮薬(radio restorative)として(特許文献6)、パーキンソン病の処置において(特許文献7)、神経-エイズ(neuro-AIDS)の処置において(特許文献8)、ミトコンドリア疾患(mitochondrial diseases)の処置において(特許文献9)も有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】欧州特許出願公開第50551号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第305276号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第305277号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第282971号明細書
【特許文献5】国際公開第94/13288号
【特許文献6】国際公開第94/15600号
【特許文献7】国際公開第94/15601号
【特許文献8】国際公開第94/20103号
【特許文献9】国際公開第95/19170号
【発明の概要】
【0004】
今回、リルゾールまたはその製薬学的に許容しうる塩の一つが、音響性外傷、詳細には耳鳴り及び難聴、そして特に音響外傷により引き起こされる難聴及び年齢に関係する難聴の予防及び/または処置においても使用できることが見出された。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1a】CAPの振幅(μV)と強さ(dB SPL)の関係を示すグラフ。
【図1b】潜伏期N1(ms)と強さ(dB SPL)の関係を示すグラフ。
【図2】CAPの平均振幅(%)とリルゾール濃度(μm)の関係を示すグラフ。
【図3】聴覚損失(dB)と周波数(kHz)との関係を示すグラフ。
【0006】
哺乳類のコルチ器は2つのタイプの細胞:内有毛細胞(ICC)及び外有毛細胞(OCC)を有する。OCCは、基底膜の振動を増幅する。真の感覚細胞であるICCは、この機械的振動を中枢神経系により解釈することができるメッセージに変換する。
【0007】
強い音響過剰刺激(6kHz、130dB SPLを15分間)にさらされているモルモットの蝸牛の機能状態の評価は、(80dBの次数の)非常に高い聴覚損失を示す。音響性外傷のすぐ後に取り除いた蝸牛の組織学的評価は、有毛細胞に対する機械的損傷だけでなく、ICCの下の一次聴覚ニューロンの樹状突起の破裂も示す。
【0008】
増加する用量のリルゾールの効果を、蝸牛を短時間洗い流す技術により調べた:
200〜400gの重さの10匹のサンショクモルモットをウレタン(1.4g/kg)の腹腔内注射により麻酔し、次に気管を切開し、そして人工的に換気する。拘束装置において耳稜(ear bars)を正しい位置に置くために外耳道を切開する。実験の全期間中、心電図をモニターし、そして中心温度を38.5 ± 1℃で加熱カバーを用いて調節する。防音の、非反響性の、感応電流刺激された(faradized)室で実験を実施する。蝸牛へのアクセスは、腹側接近方法により得られる。鼓室胞の開口後、0.2mm直径の3個の穴を蝸牛の基底回転に手動で切り開く:第一に注入ピペットを入れるための鼓室階(ramp)において、第二に注入した溶液を蝸牛から流出させるための前庭階において、そして第三に記録する電極を入れるための同様に前庭階において。
【0009】
前庭階において記録される蝸牛電位を保存し、次に、聴神経の活性のコントロールである複合活動電位(compound action potential)(CAP)と有毛細胞から得られる受容器電位、すなわちマイクロフォン電位(MP)及び加重電位(SP)を分離するために数値的にフィルターにかける。振幅がN1(第一の負の波動)〜P1(第一の正の波動)の間で測定されるCAP並びに0〜5msの間で測定されるSPを抽出するために2.5kHzの低域フィルターを使用する。MPを抽出するために約8kHz(音響刺激周波数)の帯域フィルターを使用する(6-10kHz、フィルタースロープ:48db/オクターブ)。
【0010】
マイクロマニピュレーターを用いて鼓室階中にピペット(先端で直径約0.1mm)を導入した後、先端近くに置かれたグルーボール(glue ball)によって漏れ止め(leaktightness)を与え、人工外リンパを2.5μl/分の速度で注入する。0.1%のジメチルスルホキシドを含有する人工外リンパの2回目の注入を行う。この2回目の注入が蝸牛電位を改変しない場合、この外リンパは、蝸牛電位に対する増加する用量のリルゾールの効果を調べるための賦形剤として使える。これらの蝸牛電位は、各注入後すぐに記録される。注入の期間は10分である。
【0011】
ジメチルスルホキシド(0.1%)を含有する同じ外リンパ中に希釈した累積的な増加する用量のリルゾール(50〜500μM)の注入は、蝸牛に加えた用量に依存する聴神経の複合活動電位(CAP)の減少及びこの電位の潜伏期N1の増加を引き起こす(図1a及び1b、閉じた丸:外リンパのみ、開いた丸:外リンパ + ジメチルスルホキシド、四角:250μMのリルゾールを含有する外リンパ、三角:350μMのリルゾールを含有する外リンパ、六角形:450μMのリルゾールを含有する外リンパ及びひし形:500μMのリルゾールを含有する外リンパ)。IC50は300μMの用量で認められる(図2)。全ての動物において、CAPの完全な消失が500μMの用量で得られる。
【0012】
音響性外傷に対する防御効果を10匹の動物で試験し、これらには人工外リンパの予備注入を10分間実施する。聴力の閾値の評価後、人工外リンパのみ(5匹の動物:コントロール群)または500μMのリルゾールを含有する外リンパ(5匹の動物)のいずれかの2回目の35分の注入を実施する。2回目の注入の開始後10分で、音響過剰刺激(6kHz、130dB SPL)を15分間加える。最後に、人工外リンパの3回目の注入により蝸牛をすすぐ。次いで聴力の閾値を記録する。音響にさらすことにより引き起こされる各周波数の聴覚損失は、音響に過剰にさらされる前及び後に記録された聴力の閾値の差として定義される。
【0013】
コントロール群は、8〜16kHzの間の周波数に対して、500μMのリルゾールで処置した群よりはるかに高い聴覚損失を示す(図3、閉じた丸:外リンパのみ、開いた丸:500μMのリルゾールを含有する外リンパ)。
【0014】
電子顕微鏡検査による蝸牛の組織学的研究は、コントロール群において蝸牛神経繊維の終末の完全な破壊を、そしてリルゾールで処置した群において実質的に正常な神経支配を示す。
【0015】
リルゾールの製薬学的に許容しうる塩として、特に、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸のような無機酸、または酢酸、プロピオン酸、コハク酸、シュウ酸、安息香酸、フマル酸、マレイン酸、メタン-スルホン酸、イセチオン酸、テオフィリン酢酸、サリチル酸、フェノールフタリン酸(phenolphthalinate)、メチレン-ビス-β-オキシ-ナフトエ酸もしくはこれらの誘導体の置換誘導体のような有機酸との付加塩を挙げることができる。
【0016】
薬剤は、遊離形態または製薬学的に許容しうる酸との付加塩の形態、純粋形態または不活性もしくは生理学的に活性であることができるあらゆる他の製薬学的に適合性の生成物と組み合わされる組成物の形態の少なくともリルゾールからなる。本発明の薬剤は、経口、非経口、直腸または局所経路により用いることができる。
【0017】
経口投与のための固体組成物として、錠剤、丸剤,散剤、(ゼラチンカプセル剤、カシェ剤)または顆粒剤を用いることができる。これらの組成物において、本発明の有効成分は、アルゴン気流下で、澱粉、セルロース、ショ糖、ラクトースまたはシリカのような1つまたはそれ以上の不活性希釈剤と混合される。これらの組成物はまた、希釈剤以外の物質、例えばステアリン酸マグネシウムもしくはタルクのような1つもしくはそれ以上の潤滑剤、着色剤、コーティング(糖衣錠)または光滑剤を含んでなることもできる。
【0018】
経口投与のための液体組成物として、水、エタノール、グリセロール、植物油またはパラフィン油のような不活性希釈剤を含有する製薬学的に許容しうる溶液、懸濁剤、乳剤、シロップ剤及びエリキシル剤を用いることができる。これらの組成物は、希釈剤以外の物質、例えば湿潤剤、甘味料、増粘剤、香料または安定剤を含んでなることができる。
【0019】
非経口投与のための滅菌した組成物は、好ましくは、水性もしくは非水性である溶液、懸濁剤または乳剤であることができる。溶媒または賦形剤として、水、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、特にオリーブ油、注入可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルまたは他の適当な有機溶媒を用いることができる。これらの組成物はまた添加剤、特に湿潤剤、等張化剤、乳化剤、分散助剤及び安定剤を含有することもできる。滅菌はいくつかの方法で、例えば無菌濾過により、滅菌剤を組成物中に含むことにより、放射線照射によりまたは加熱することにより実施することができる。それらはまた、使用時に滅菌水またはあらゆる他の注入可能な滅菌媒質に溶解することができる滅菌した固体組成物の形態で製造することもできる。
【0020】
直腸投与のための組成物は座薬または直腸投与カプセルであり、これらは活性生成物に加えて、ココアバター、半合成グリセリドまたはポリエチレングリコールのような賦形剤を含有する。
【0021】
局所投与のための組成物は、例えば、クリーム、ローション、洗眼薬、うがい薬、点鼻薬またはエーロゾルであることができる。
【0022】
用量は、所望の効果、処置の期間及び使用する投与経路により決まり;一般に、25〜200mgに及ぶ活性物質の単位用量で成人に対して経口経路により1日当たり50〜400mgの間である。
【0023】
一般に、医師が、処置する被検体に特有の年齢、体重及び全ての他の因子に従って適切な投薬量を決定する。
【実施例】
【0024】
以下の実施例は本発明の薬剤を例示する。
【0025】
実施例A
以下の組成を有する50mg用量の活性生成物を含有する錠剤を通常の技術に従って製造する:
- リルゾール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50mg
- マンニトール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64mg
- 微晶質セルロース・・・・・・・・・・・・・・・・・50mg
- ポリビドン賦形剤・・・・・・・・・・・・・・・・・12mg
- ナトリウムカルボキシメチル澱粉・・・・・・・・・・16mg
- タルク・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4mg
- ステアリン酸マグネシウム・・・・・・・・・・・・・ 2mg
- 無水コロイドシリカ・・・・・・・・・・・・・・・・ 2mg
- メチルヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコール6000、
二酸化チタンの混合物(72-3.5-24.5) 適当量
1個の完成フィルム被覆錠剤の重量 245mg
【0026】
実施例B
以下の組成を有する50mg用量の活性生成物を含有するゼラチンカプセル剤を通
常の技術に従って製造する:
- リルゾール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50mg
- セルロース・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18mg
- ラクトース・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55mg
- コロイドシリカ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1mg
- ナトリウムカルボキシメチル澱粉・・・・・・・・・・10mg
- タルク・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10mg
- ステアリン酸マグネシウム・・・・・・・・・・・・・ 1mg
【0027】
実施例C
以下の組成を有する10mgの活性生成物を含有する注入可能な溶液を製造する:
- リルゾール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10mg
- 安息香酸・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・80mg
- ベンジルアルコール・・・・・・・・・・・・・・・0.06cm3
- 安息香酸ナトリウム・・・・・・・・・・・・・・・・80mg
- 95%のエタノール・・・・・・・・・・・・・・・・ 0.4cm3
- 水酸化ナトリウム・・・・・・・・・・・・・・・・・24mg
- プロピレングリコール・・・・・・・・・・・・・・ 1.6cm3
- 水・・・・・・・・・・・・・・・・・ 適当量 4cm3
【0028】
本発明はまた、リルゾールまたはこの化合物の製薬学的に許容しうる塩を一つまたはそれ以上の適合性の製薬学的に許容しうる希釈剤及び/または添加剤と混合することにある音響性外傷、詳細には耳鳴り及び難聴、そして特に音響外傷により引き起こされる難聴及び年齢に関係する難聴の予防及び/または処置において有用な薬剤の製造方法にも関する。
【0029】
本発明はまた、リルゾールまたはその製薬学的に許容しうる塩の一つを患者に投与することにある音響性外傷、詳細には耳鳴り及び難聴、そして特に音響外傷により引き起こされる難聴及び年齢に関係する難聴を予防及び/または処置する方法にも関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リルゾールまたはその製薬学的に許容しうる塩を有効成分として含有することを特徴とする音響性外傷の処置のための薬剤。
【請求項2】
耳鳴りの処置のための請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
難聴の処置のための請求項1に記載の薬剤。
【請求項4】
音響外傷により引き起こされる難聴の処置のための請求項1に記載の薬剤。
【請求項5】
年齢に関係する難聴の処置のための請求項1に記載の薬剤。
【請求項6】
25〜200mgのリルゾールを含んでなる請求項1〜5のいずれかに記載の薬剤。
【請求項7】
聴神経の複合活動電位を低下させるためのリルゾールまたはその製薬学的に許容しうる塩の使用。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−219497(P2011−219497A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155955(P2011−155955)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【分割の表示】特願2000−587767(P2000−587767)の分割
【原出願日】平成11年12月13日(1999.12.13)
【出願人】(591156825)アベンテイス・フアルマ・ソシエテ・アノニム (7)
【氏名又は名称原語表記】Aventis Pharma S.A.
【Fターム(参考)】