説明

音響情報表示装置およびそのプログラム

【課題】本発明は、リスニングエリア内の様々な位置において、再生音場を客観的に把握できる音響情報表示装置を提供することを課題とする。
【解決手段】音響システム用デジタルスコープ1は、パラメータを設定するパラメータ設定手段10と、パラメータを記憶するパラメータ記憶手段20と、音源信号が入力される音源信号入力手段30と、音源信号の音圧に粒子速度を乗じることで瞬時音響インテンシティを算出する音響インテンシティ算出手段40と、瞬時音響インテンシティベクトルと単位ベクトルとの内積によって到来音エネルギーを算出する到来音エネルギー算出手段50と、演算結果を記憶する演算結果記憶手段60と、瞬時音響インテンシティおよび到来音エネルギーを表示する表示手段70とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響中心点の周囲に予め設定したリスニングエリアに含まれる1以上のリスニングポイントにおいて、1以上の音源を有する音響システムの音響インテンシティと到来音エネルギーとを算出して表示する音響情報表示装置およびそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、5.1chサラウンドシステムなどのマルチチャンネル音響システムが身近になりつつある。このため、マルチチャンネル音響システムにおいて、ラウドネス、瞬時音響インテンシティ、到来音エネルギーなどの音響情報を表示するデジタルスコープが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、マイクロホンを用いた実測により音響情報を可視化する発明が提案されている。この特許文献1に記載の発明は、2次元平面に展開された空間の測定領域において、測定点での周波数の大きさの経時変化を動画として表示する。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、音像定位の位置を確認できるデジタルスコープが提案されている。この特許文献2に記載の発明は、音響中心(以下、「スウィートスポット」)に位置する聴取者を囲むように音源を配置した状態で、音響情報を表示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−290930号公報
【特許文献2】特開平5−304700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1,2に記載の発明には、以下のような問題点が存在していた。
特許文献1,2に記載の発明は、スウィートスポット1点でしか音響情報を表示できず、このスウィートスポット以外の点では、どのような音像が形成されているかわからない。このため、特許文献1,2に記載の発明は、例えば、複数の作業者が関わる放送番組の制作現場において、音声コントロールルームなどのリスニングエリア内の1点でしか音響情報を確認できず、極めて不便である。
【0007】
また、特許文献1,2に記載の発明は、音響情報を算出して表示するために、実際の音場における実測データ(例えば、スタジオのスピーカで音を再生したときの音場の実測データ)を用いる必要があり、放送番組の制作現場に採用することが現実でない。そこで、放送番組の制作現場から、リスニングエリア内の様々な位置での音響情報、すなわち、再生音場を客観的に把握したいという強い要望がある。
【0008】
そこで、本発明は、前記した問題を鑑みて、リスニングエリア内の様々な位置において、再生音場を客観的に把握できる音響情報表示装置およびそのプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するため、本願第1発明に係る音響情報表示装置は、音響中心点の周囲に予め設定したリスニングエリアに含まれる1以上のリスニングポイントにおいて、1以上の音源を有する音響システムの音響インテンシティと到来音エネルギーとを算出して表示する音響情報表示装置であって、音源信号入力手段と、音響インテンシティ算出手段と、到来音エネルギー算出手段と、音響インテンシティ表示手段と、到来音エネルギー表示手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
かかる構成によれば、音響情報表示装置は、音源信号入力手段によって、音源ごとの音源信号が入力される。また、音響情報表示装置は、音響インテンシティ算出手段によって、入力された音源信号の音圧に粒子速度を乗じることで、リスニングポイントごとに音響インテンシティを算出する。つまり、音響インテンシティ算出手段は、リスニングエリア内の様々な位置(リスニングポイント)で、音響インテンシティを算出する。
【0011】
また、音響情報表示装置は、到来音エネルギー算出手段によって、音響インテンシティ算出手段が算出した音響インテンシティを示す音響インテンシティベクトルと、音響インテンシティベクトルの起点である他のリスニングポイントから算出対象リスニングポイントに向いた単位ベクトルとの内積によって、算出対象リスニングポイントごとに到来音エネルギーを算出する。つまり、到来音エネルギー算出手段は、実測データを用いることなく、シミュレーションによって到来音エネルギーを算出する。この到来音エネルギーは、算出対象リスニングポイントに到来する音(到来音)のエネルギーを示している。
【0012】
また、音響情報表示装置は、音響インテンシティ表示手段によって、音響インテンシティ算出手段が算出した音響インテンシティを表示する。そして、音響情報表示装置は、到来音エネルギー表示手段によって、到来音エネルギー算出手段が算出した到来音エネルギーを表示する。
【0013】
また、本願第2発明に係る音響情報表示装置は、音響インテンシティ算出手段が、予め設定された算出時間間隔で音響インテンシティを算出し、到来音エネルギー算出手段が、音響インテンシティを示す音響インテンシティベクトルと単位ベクトルとの内積によって、算出時間間隔で到来音エネルギーを算出し、音響インテンシティ表示手段が、音響インテンシティ算出手段が算出した音響インテンシティをリアルタイム表示し、到来音エネルギー表示手段が、到来音エネルギー算出手段が算出した到来音エネルギーをリアルタイム表示することが好ましい。
【0014】
また、本願第3発明に係る音響情報表示装置は、所定の第1軸と、当該第1軸に直交する第2軸との2次元座標系において、リスニングポイントの位置と、音源の位置とがパラメータとして入力されるパラメータ入力手段をさらに備え、音響インテンシティ算出手段が、リスニングポイントと音源との位置関係から、音源ごとの音源信号の第1軸音圧成分と第2軸音圧成分とを算出し、音源ごとの音源信号の第1軸音圧成分と第2軸音圧成分とをそれぞれ累計して、リスニングポイントごとに第1軸音圧成分と第2軸音圧成分とを算出すると共に、リスニングポイントごとの第1軸音圧成分と第2軸音圧成分とに基づいて粒子速度の第1軸成分および第2軸成分を算出し、音源ごとの音源信号の第1軸粒子速度成分と第2軸粒子速度成分とをそれぞれ累計して、粒子速度の第1軸成分累計値および第2軸成分累計値を算出し、粒子速度の第1軸成分累計値および第2軸成分累計値のそれぞれに音源信号の音圧を乗じて、音響インテンシティの第1軸成分および第2軸成分を算出することが好ましい。
【0015】
また、本願第4発明に係る音響情報表示装置は、所定の第1軸と、当該第1軸に直交する第2軸と、当該第1軸および当該第2軸に直交する第3軸との3次元座標系において、リスニングポイントの位置と、音源の位置とがパラメータとして入力されるパラメータ入力手段をさらに備え、音響インテンシティ算出手段が、リスニングポイントと音源との位置関係から、音源ごとの音源信号の第1軸音圧成分と第2軸音圧成分と第3軸音圧成分とを算出し、音源ごとの音源信号の第1軸音圧成分と第2軸音圧成分と第3軸音圧成分とをそれぞれ累計して、リスニングポイントごとに第1軸音圧成分と第2軸音圧成分と第3軸音圧成分とを算出すると共に、リスニングポイントごとの第1軸音圧成分と第2軸音圧成分と第3軸音圧成分とに基づいて粒子速度の第1軸成分と第2軸成分と第3軸成分とを算出し、音源ごとの音源信号の第1軸粒子速度成分と第2軸粒子速度成分と第3軸粒子速度成分とをそれぞれ累計して、粒子速度の第1軸成分累計値と第2軸成分累計値と第3軸成分累計値とを算出し、粒子速度の第1軸成分累計値と第2軸成分累計値と第3軸成分累計値とのそれぞれに音源信号の音圧を乗じて、音響インテンシティの第1軸成分と第2軸成分と第3軸成分とを算出することが好ましい。
【0016】
また、前記した課題を解決するため、本願第5発明に係る音響情報表示プログラムは、音響中心点の周囲に予め設定したリスニングエリアに含まれる1以上のリスニングポイントにおいて、1以上の音源を有する音響システムの音響インテンシティと到来音エネルギーとを算出して表示するために、コンピュータを、音源信号入力手段、音響インテンシティ算出手段、到来音エネルギー算出手段、音響インテンシティ表示手段、到来音エネルギー表示手段、として機能させることを特徴とする。
【0017】
かかる構成によれば、音響情報表示プログラムは、音源信号入力手段によって、音源ごとの音源信号が入力される。また、音響情報表示プログラムは、音響インテンシティ算出手段によって、入力された音源信号の音圧に粒子速度を乗じることで、リスニングポイントごとに音響インテンシティを算出する。つまり、音響インテンシティ算出手段は、リスニングエリア内の様々な位置(リスニングポイント)で、音響インテンシティを算出する。
【0018】
また、音響情報表示プログラムは、到来音エネルギー算出手段によって、音響インテンシティ算出手段が算出した音響インテンシティを示す音響インテンシティベクトルと、音響インテンシティベクトルの起点である他のリスニングポイントから算出対象リスニングポイントに向いた単位ベクトルとの内積によって、リスニングポイントごとに到来音エネルギーを算出する。つまり、到来音エネルギー算出手段は、実測データを用いることなく、シミュレーションによって到来音エネルギーを算出する。この到来音エネルギーは、算出対象リスニングポイントに到来する音(到来音)のエネルギーを示している。
【0019】
また、音響情報表示プログラムは、音響インテンシティ表示手段によって、音響インテンシティ算出手段が算出した音響インテンシティを表示する。そして、音響情報表示プログラムは、到来音エネルギー表示手段によって、到来音エネルギー算出手段が算出した到来音エネルギーを表示する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、以下のような優れた効果を奏する。
本願第1,5発明によれば、リスニングエリア内の様々な位置(リスニングポイント)において、実測データを用いることなく、シミュレーションによって到来音エネルギーを算出して表示する。このため、本願第1,5発明によれば、リスニングエリア内の様々な位置において、再生音場を客観的に把握することができる。
【0021】
本願第2発明によれば、音響インテンシティと到来音エネルギーとをリアルタイムで表示するため、リスニングエリアにおける再生音場の経時変化を把握することができる。
【0022】
本願第3発明によれば、2次元のリスニングエリアにおいて、再生音場を客観的に把握することができる。
本願第4発明によれば、3次元のリスニングエリアにおいて、再生音場を客観的に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1,2実施形態に係る音響システム用デジタルスコープの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態において、リスニングエリアおよびリスニングポイントを説明する図であり、(a)は正方形のリスニングエリアの第1例であり、(b)は正方形のリスニングエリアの第2例であり、(c)は長方形のリスニングエリアの例であり、(d)は円形のリスニングエリアの例であり、(e)は三角形のリスニングエリアの例である。
【図3】本発明の第1実施形態において、音響インテンシティの表示画面の例を示す図である。
【図4】本発明の第1実施形態において、到来音エネルギーの表示画面の例を示す画像である。
【図5】本発明の第1実施形態において、瞬時音響インテンシティの算出の第1例を説明する図である。
【図6】本発明の第1実施形態において、瞬時音響インテンシティの算出の第2例を説明する図である。
【図7】本発明の第1実施形態において、到来音エネルギーの算出を説明する図である。
【図8】本発明の第1実施形態に係る音響システム用デジタルスコープの動作を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第2実施形態において、リスニングエリアを説明する図であり、(a)は立方体のリスニングエリアであり、(b)は球体のリスニングエリアである。
【図10】本発明の第2実施形態において、瞬時音響インテンシティの算出を説明する図である。
【図11】本発明の第2実施形態において、瞬時音響インテンシティの算出を説明する図である。
【図12】本発明の第2実施形態において、瞬時音響インテンシティの算出を説明する図であり、図11をZ軸方向から見た図である。
【図13】本発明の第2実施形態に係る音響システム用デジタルスコープの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の各実施形態について、本発明に係る音響情報表示装置を音響システム用デジタルスコープとして用いた例で説明する。なお、各実施形態において、同一の機能を有する手段には同一の符号を付し、説明を省略した。
【0025】
(第1実施形態:2次元)
[音響システム用デジタルスコープの構成]
以下、図1を参照し、本発明の第1実施形態に係る音響システム用デジタルスコープ1の構成について説明する。
なお、第1実施形態では、第1軸(X軸)を実空間の横方向(左右)とし、第2軸(Y軸)を実空間の奥行方向(前後)とした2次元のリスニングエリアの例で説明する。
【0026】
音響システム用デジタルスコープ(音響情報表示装置)1は、後記するリスニングエリアに含まれる1以上のリスニングポイントにおいて、音響情報として、音響システムの瞬時音響インテンシティと到来音エネルギーとを算出して表示する。このため、音響システム用デジタルスコープ1は、図1に示すように、パラメータ設定手段(パラメータ入力手段)10と、パラメータ記憶手段20と、音源信号入力手段30と、音響インテンシティ算出手段40と、到来音エネルギー算出手段50と、演算結果記憶手段60と、表示手段70とを備える。
【0027】
パラメータ設定手段10は、音響システム用デジタルスコープ1に必要なパラメータが入力されると共に、入力されたパラメータをパラメータ記憶手段20に記憶(設定)する。
【0028】
ここで、パラメータ設定手段10に入力されるパラメータには、例えば、スピーカ位置と、スピーカ数と、音源信号ファイル名と、メッシュグリッド数と、算出時間間隔と、動画フレームレートと、リスニングエリア特定情報と、リスニングポイント位置とが含まれる。これらパラメータは、例えば、作業者によって適切な値が予め決定される。
【0029】
スピーカ位置(Xspi,Yspi)は、音響システムが備える各スピーカの位置を、例えば、2次元座標系(XY座標系)で示すパラメータである。なお、添え字iは、スピーカの番号を示している。
スピーカ数Nは、音響システムが備えるスピーカの数を示すパラメータである。例えば、音響システムがモノラルの場合、スピーカ数N=1となる。また、例えば、音響システムがステレオの場合、スピーカ数N=2となる。また、例えば、音響システムが5.1chサラウンドの場合、スピーカ数N=6となる。また、例えば、音響システムが22.2chサラウンドの場合、スピーカ数N=24となる。
図1では、これらスピーカ位置(Xspi,Yspi)およびスピーカ数Nは、スピーカP(スピーカパラメータ)として図示した。
【0030】
音源信号ファイル名fileは、音響システムが備えるスピーカごとの音源信号を格納した音源信号ファイルの名称を示すパラメータである。ここで、例えば、音源信号ファイル名fileでは、音源信号と同じ数、音源信号ファイルの名称がN個指定される。
メッシュグリッド数mは、リスニングエリアをメッシュ分割する数を示すパラメータである。
算出時間間隔tは、瞬時音響インテンシティを算出する時間間隔を示すパラメータである。
図1では、これら音源信号ファイル名file、メッシュグリッド数mおよび算出時間間隔tは、算出P(算出パラメータ)として図示した。
【0031】
動画フレームレートfは、音響情報をリアルタイム表示(例えば、モニタでの動画表示)する際のフレームレートを示すパラメータである。この動画フレームレートfは、図1では、表示P(表示パラメータ)として図示した。
【0032】
リスニングエリア特定情報は、リスニングエリアの形状および大きさを特定するパラメータである。このリスニングエリア特定情報については、その詳細を後記する。
リスニングポイント位置(Px,Py)は、それぞれのリスニングポイントの位置を、例えば、2次元座標系(XY座標系)で示すパラメータである。
図1では、これらリスニングエリア特定情報およびリスニングポイント位置(Px,Py)は、リスニングエリアP(リスニングエリアパラメータ)として図示した。
【0033】
以下、図2を参照し、リスニングエリアLAおよびリスニングポイントLPを説明した後、パラメータとしてのリスニングエリア特定情報を説明する(適宜図1参照)。
リスニングエリアLAは、瞬時音響インテンシティおよび到来音エネルギーなどの音響情報の表示対象となる領域であり、例えば、音声コントロールルームを表す領域である。また、リスニングエリアLAは、音響中心点であるスウィートスポットSSと、リスニングポイントLPとが含まれる。
リスニングポイントLPは、リスニングエリアLA内での音響情報を算出および表示する位置(点)であり、例えば、音声コントロールルームで音響情報を表示したい位置となる。このリスニングポイントLPは、リスニングエリアLA内において、任意の数で、任意の位置に設定できる。
【0034】
例えば、図2(a)に示すように、リスニングエリアLAは、スウィートスポットSSを中心とし、正方形に設定することができる。この場合、リスニングポイントLPは、正方形のリスニングエリアLAにおいて、左前、右前、左後および右後の4点に設定することができる。また、図2(b)に示すように、リスニングポイントLPは、正方形のリスニングエリアLAにおいて、マトリクス状に多数設定することもできる。
【0035】
また、リスニングエリアLAは、正方形以外の形状で設定することもできる。例えば、図2(c)に示すように、リスニングエリアLAは、長方形に設定することができる。また、例えば、図2(d)に示すように、リスニングエリアLAは、スウィートスポットSSを中心とし、円形に設定することができる。さらに、例えば、図2(e)に示すように、リスニングエリアLAは、スウィートスポットSSを中心とし、正三角形に設定することができる。
【0036】
パラメータとしてのリスニングエリア特定情報について説明する。
前記したように、リスニングエリア特定情報は、リスニングエリアLAの形状および大きさを特定する情報である。例えば、図2(a)および図2(b)のようにリスニングエリアLAが正方形の場合、リスニングエリア特定情報は、例えば、リスニングエリアLAの左前点の座標と、リスニングエリアLAの一辺の長さとが含まれる。また、図2(c)のようにリスニングエリアLAが長方形の場合、リスニングエリア特定情報は、例えば、リスニングエリアLAの左前点の座標と、リスニングエリアLAの長辺(横方向の辺)の長さと、リスニングエリアLAの短辺(縦方向の辺)の長さとが含まれる。また、図2(d)のようにリスニングエリアLAが円形の場合、リスニングエリア特定情報は、例えば、リスニングエリアLAの中心点の座標と、リスニングエリアLAの半径とが含まれる。また、図2(e)のようにリスニングエリアLAが正三角形の場合、リスニングエリア特定情報は、例えば、リスニングエリアLAの中心点の座標と、リスニングエリアLAの一辺の長さとが含まれる。
【0037】
なお、図2(c)〜図2(e)において、図面を見やすくするためリスニングポイントLPの図示を省略したが、リスニングポイントLPは、図2(c)〜図2(e)のリスニングエリアLAにおいても、任意の数で任意の位置に設定できる。
また、リスニングエリアLAの形状は、図2(a)〜図2(e)の例に限定されないことは言うまでもない。
【0038】
なお、スウィートスポットSSは、スピーカで再生する音を最も良い条件で聴くことができる点である。例えば、5.1chサラウンドにおいて、全スピーカを同心円上に配置した場合、スウィートスポットSSは、その同心円の中心点となる。このことから、図2(a)〜図2(e)に示すように、スウィートスポットSSは、リスニングエリアLAの中心に位置することが好ましい。その一方、リスニングエリアLAの形状またはスピーカの配置によっては、スウィートスポットSSが、リスニングエリアLAの中心に位置することが適切でない場合もある。この場合、スウィートスポットSSは、リスニングエリアLAに含まれていればよい。
【0039】
以下、図1に戻り、音響システム用デジタルスコープ1の構成について説明を続ける。
パラメータ記憶手段20は、前記したパラメータを記憶するメモリ、HDDなどの記憶装置である。
【0040】
音源信号入力手段30は、スピーカごとの音源信号が入力されると共に、入力された音源信号を音響インテンシティ算出手段40に出力する。例えば、音源信号入力手段30は、音源信号ファイル名fileで指定されたN個の音源信号ファイルを開く。そして、音源信号入力手段30は、N個の音源信号ファイルを読み込んで、音源信号ファイルのそれぞれに格納された音源信号のデータサイズdを求める。さらに、音源信号入力手段30は、求めたデータサイズdだけ、音源信号ファイルのそれぞれから音源信号を読み込んで、N個の音源信号を音響インテンシティ算出手段40に出力する。
【0041】
音源信号入力手段30に入力される音源信号としては、例えば、楽音、Vn単音、風景音、ノイズまたはsin波(トーン)がある。
【0042】
音響インテンシティ算出手段40は、音源信号入力手段30から音源信号が入力されると共に、入力された音源信号の音圧に粒子速度を乗じることで、リスニングポイントごとに瞬時音響インテンシティを算出する。
【0043】
まず、音響インテンシティ算出手段40は、瞬時音響インテンシティを算出するための前処理を行う。例えば、音響インテンシティ算出手段40は、パラメータ記憶手段20から、瞬時音響インテンシティの算出に必要なパラメータを読み出す。また、音響インテンシティ算出手段40は、X軸方向に2m×Y軸方向に2mのリスニングエリアを、メッシュグリッド数m=100個のメッシュに分割して、このリスニングエリアに101×101点をプロットする。そして、音響インテンシティ算出手段40は、リスニングポイント(プロットされた各点)までの時間遅れを算出する。さらに、音響インテンシティ算出手段40は、算出した時間遅れを考慮して、音源信号の音圧(算出時間間隔の中心時刻における音源信号の音圧)を用いて、リスニングポイントごとに音圧分布を算出する。
ここでは、リスニングエリア内に多数のリスニングポイント(音場の各点)が、プロットされた各点と一致するように設定されている(図2(b)参照)。
【0044】
そして、前処理を終了したら、音響インテンシティ算出手段40は、算出した音圧分布と粒子速度とに基づいて、リスニングポイントごとに、算出時間間隔t(例えば、0.05秒単位)で瞬時音響インテンシティを算出する。本実施形態では、音響インテンシティ算出手段40は、瞬時音響インテンシティのX軸成分(第1軸成分)およびY軸成分(第2軸成分)をそれぞれ算出する。その後、音響インテンシティ算出手段40は、算出した瞬時音響インテンシティを到来音エネルギー算出手段50に出力すると共に、演算結果記憶手段60に記憶する。
なお、瞬時音響インテンシティの算出については、その詳細を後記する。
【0045】
到来音エネルギー算出手段50は、音響インテンシティ算出手段40から瞬時音響インテンシティが入力されると共に、入力された瞬時音響インテンシティを示す瞬時音響インテンシティベクトルと、瞬時音響インテンシティベクトルの起点である他のリスニングポイントから算出対象リスニングポイントに向いた単位ベクトルとの内積によって、算出対象リスニングポイントごとに到来音エネルギーを算出する。ここで、到来音エネルギー算出手段50は、算出時間間隔tで到来音エネルギーを算出する。そして、到来音エネルギー算出手段50は、算出した到来音エネルギーを演算結果記憶手段60に記憶する。
なお、到来音エネルギーの算出については、その詳細を後記する。
【0046】
演算結果記憶手段60は、演算結果として、音響インテンシティ算出手段40が算出した瞬時音響インテンシティ(図1では「音響インテンシティ」)と、到来音エネルギー算出手段50が算出した到来音エネルギーとを記憶するメモリ、HDDなどの記憶装置である。
【0047】
表示手段70は、演算結果記憶手段60が記憶する演算結果を、図示を省略したモニタにグラフィック表示するものであり、音響インテンシティ表示手段71と、到来音エネルギー表示手段73とを備える。
【0048】
音響インテンシティ表示手段71は、演算結果記憶手段60に記憶された瞬時音響インテンシティをモニタにグラフィック表示する。ここで、音響インテンシティ表示手段71は、例えば、動画フレームレートfでモニタの表示画面を更新して、瞬時音響インテンシティをリアルタイムでグラフィック表示する。
【0049】
以下、図3を参照し、瞬時音響インテンシティの表示画面について説明する(適宜図1参照)。
図3の例では、リスニングエリアLAは、正方形であると共に、その中心がスウィートスポットSSであるとする。また、リスニングポイントLPは、スウィートスポットSSを中心として、X軸方向に5個およびY軸方向に5個、合計25個が一定間隔で並んでいるとする。つまり、スウィートスポットSSは、リスニングエリアLAの中心に位置するリスニングポイントLPに重なっている。また、図3では、X軸およびY軸の数値は、リスニングエリアLAの中心位置からの距離を示している。
【0050】
図3に示すように、瞬時音響インテンシティの表示画面には、25個のリスニングポイントLPについて、それぞれの瞬時音響インテンシティが表示されている。この瞬時音響インテンシティの表示画面では、瞬時音響インテンシティが瞬時音響インテンシティベクトルItとして表示されている。つまり、瞬時音響インテンシティベクトルItは、X軸方向の長さItxが、音響インテンシティ算出手段40によって算出された瞬時音響インテンシティのX軸成分を示している。また、瞬時音響インテンシティベクトルItは、Y軸方向の長さItyが、音響インテンシティ算出手段40によって算出された瞬時音響インテンシティのY軸成分を示している。
【0051】
このように、瞬時音響インテンシティの表示画面によって、作業者が、各リスニングポイントLPにおける瞬時音響インテンシティを容易に確認できる。例えば、作業者は、それぞれの瞬時音響インテンシティベクトルItの向きおよび大きさが近似するほど、リスニングエリアLAにおける再生音場が良好であると判断できる。
【0052】
以下、図1に戻り、音響システム用デジタルスコープ1の構成について説明を続ける。
到来音エネルギー表示手段73は、演算結果記憶手段60に記憶された到来音エネルギーをモニタにグラフィック表示する。ここで、到来音エネルギー表示手段73は、例えば、動画フレームレートfでモニタの表示画面を更新して、到来音エネルギーをリアルタイムでグラフィック表示する。
【0053】
以下、図4,図5を参照し、到来音エネルギーの表示画面について説明する(適宜図1参照)。
ここでは、図5に示すように、音響システムがステレオの例で説明する。リスニングエリアLAは、X軸方向に2m×Y軸方向に2mの正方形とする。また、スウィートスポットSSは、リスニングエリアLAの中心に位置する。また、スピーカSP1は、スウィートスポットSSから左前方3mに位置し、スピーカSP2は、スウィートスポットSSから右前方3mに位置する。ここで、スピーカSP1,SP2の距離も3mとする。つまり、スウィートスポットSSを中心とした半径3mの円Crを描くと、スピーカSP1,SP2は、この円Crの円周上に位置する。
【0054】
ここで、リスニングエリアLA内にリスニングポイントLPを多数設定する(図2(b)参照)。これらリスニングポイントLPのうち、左前、右前、左後および右後に位置する4個を代表的なリスニングポイントとする。このとき、図4には、代表的なリスニングポイントでの到来音エネルギーの表示画面を示した。つまり、図4上段左側の画像が、左前のリスニングポイントでの到来音エネルギーの表示画面であり、図4上段右側の画像が、右前のリスニングポイントでの到来音エネルギーの表示画面である。また、図4下段左側の画像が、左後のリスニングポイントでの到来音エネルギーの表示画面であり、図4下段右側の画像が、右後のリスニングポイントでの到来音エネルギーの表示画面である。
【0055】
図4に示すように、到来音エネルギーの表示画面では、代表的なリスニングポイントでの到来音エネルギーがカラートーンで表示されている。このカラートーンは、例えば、到来音エネルギーが大きい方から小さい方までを順に、赤色、黄色、緑色、水色、紺色で表している。また、到来音エネルギーの表示画面において、「x」,「y」は、リスニングポイントのX軸方向およびY軸方向の位置を示している。つまり、図4の到来音エネルギーの表示画面は、音場各点(図2(b)のように多数設定したリスニングエリアの各点)から1点のリスニングポイントに到来する音のエネルギーについて、その1点のリスニングポイント方向の成分分布を示している。このように、到来音エネルギーの表示画面では、作業者が、色の分布により、各リスニングポイントLPでの到来音エネルギーを容易に確認できる。
【0056】
以下、図5,図6を参照し、瞬時音響インテンシティの算出について、第1例および第2例をあげて詳細に説明する(適宜図1参照)。
【0057】
<瞬時音響インテンシティの算出:第1例>
まず、図5を参照して、瞬時音響インテンシティの算出について、第1例を説明する。ここでは、説明を簡易にするため、1個のリスニングポイントLPについて説明する。
【0058】
ある1点での瞬時音響インテンシティIは、下記の式(1)に示すように、音圧pと粒子速度uとの積によって求めることができる。
【0059】
【数1】

【0060】
音響インテンシティ算出手段40は、下記の手順でリスニングポイントLPの瞬時音響インテンシティを算出する。まず、音響インテンシティ算出手段40は、パラメータ記憶手段20から、瞬時音響インテンシティの算出に必要なパラメータ(例えば、スピーカ位置およびリスニングポイント位置)を読み出す。そして、音響インテンシティ算出手段40は、スピーカSP1について、リスニングポイントLPとスピーカSP1との位置関係から、音源信号のX軸音圧成分(第1軸音圧成分)とY軸音圧成分(第2軸音圧成分)とを算出する。
【0061】
具体的には、音響インテンシティ算出手段40は、リスニングポイントLPを通過するY軸方向の軸線と、スピーカSP1の位置(Xsp1,Ysp1)からリスニングポイントLPの位置(Px,Py)までの線分とのなす角θ1を算出する。そして、音響インテンシティ算出手段40は、なす角θ1および三角関数を用いて、スピーカSP1の音響信号の音圧からX軸音圧成分とY軸音圧成分とを算出する。つまり、音響インテンシティ算出手段40は、sinθ1の値と、スピーカSP1の音響信号の音圧絶対値|p1(t)|とを乗じて、X軸音圧成分sinθ1*|p1(t)|を算出する。また、音響インテンシティ算出手段40は、cosθ1の値と、スピーカSP1の音響信号の音圧絶対値|p1(t)|とを乗じて、Y軸音圧成分cosθ1*|p1(t)|を算出する。
【0062】
また、音響インテンシティ算出手段40は、スピーカSP1と同様、スピーカSP2についても、リスニングポイントLPの位置(Px,Py)とスピーカSP2の位置(Xsp2,Ysp2)との関係から、音源信号のX軸音圧成分とY軸音圧成分とを算出する。つまり、音響インテンシティ算出手段40は、スピーカSP2について、X軸音圧成分sinθ2*|p2(t)|と、Y軸音圧成分cosθ2*|p2(t)|を算出する。
【0063】
ここで、リスニングポイントLPとスピーカSP1,SP2との距離が離れるほど、音には遅延が生じる。そこで、音響インテンシティ算出手段40は、この遅延を瞬時音響インテンシティに反映させるべく、リスニングポイントLPとスピーカとの距離に応じて、スピーカSP1,SP2のp1(t),p2(t)を遅延させる。
【0064】
次に、音響インテンシティ算出手段40は、スピーカSP1,SP2のX軸音圧成分とY軸音圧成分を累計して、リスニングポイントLPのX軸音圧成分とY軸音圧成分とを算出する。ここで、音響システム用デジタルスコープ1では、リスニングポイントLPへの到来音を扱う。このため、音響インテンシティ算出手段40は、X軸方向では、左方向(図5左側)からリスニングポイントLPに到来する音を正(+)の符号とし、右方向(図5右側)からリスニングポイントLPに到来する音を負(−)の符号として累計する。また、音響インテンシティ算出手段40は、Y軸方向では、後方向(図5下側)からリスニングポイントLPに到来する音を正(+)の符号とし、前方向(図5上側)からリスニングポイントLPに到来する音を負(−)の符号として累計する。
【0065】
この場合、図5に示すように、音響インテンシティ算出手段40は、リスニングポイントLPの左側に位置するスピーカSP1について、そのX軸音圧成分の符号を正(+)とする。また、音響インテンシティ算出手段40は、リスニングポイントLPの右側に位置するスピーカSP2について、そのX軸音圧成分の符号を負(−)とする。そして、音響インテンシティ算出手段40は、下記の式(2)で示すように、スピーカSP1,S2のX軸音圧成分を累計して、リスニングポイントLPのX軸音圧成分を算出する。なお、式(2)では、正(+)の符号を省略した。
【0066】
【数2】

【0067】
また、音響インテンシティ算出手段40は、スピーカSP1,SP2の両方がリスニングポイントLPの前方向(図5上側)に位置するので、Y軸音圧成分の符号を負(−)とする。そして、音響インテンシティ算出手段40は、下記の式(3)で示すように、スピーカSP1,S2のY軸音圧成分を累計して、リスニングポイントLPのY軸音圧成分を算出する。
【0068】
【数3】

【0069】
次に、音響インテンシティ算出手段40は、リスニングポイントLPのX軸音圧成分とY軸音圧成分とに基づいて粒子速度のX軸成分およびY軸成分を算出し、スピーカSP1,SP2の音源信号のX軸粒子速度成分(第1軸粒子速度成分)とY軸粒子速度成分(第2軸粒子速度成分)とをそれぞれ累計して、粒子速度のX軸成分累計値ux(t)およびY軸成分累計値uy(t)を算出する。具体的には、音響インテンシティ算出手段40は、下記の式(4)に示すように、空気の固有抵抗ρcの逆数にリスニングポイントLPのX軸音圧成分を乗じて粒子速度のX軸成分累計値ux(t)を算出する。また、音響インテンシティ算出手段40は、空気の固有抵抗ρcの逆数にリスニングポイントLPのY軸音圧成分を乗じて粒子速度のY軸成分累計値uy(t)を算出する。
【0070】
【数4】

【0071】
その後、音響インテンシティ算出手段40は、粒子速度のX軸成分累計値ux(t)およびY軸成分累計値uy(t)のそれぞれに音源信号の音圧を乗じて、瞬時音響インテンシティのX軸成分およびY軸成分を算出する。具体的には、音響インテンシティ算出手段40は、下記の式(5)に示すように、粒子速度のX軸成分累計値ux(t)と音源信号の音圧p(t)とを乗じて瞬時音響インテンシティのX軸成分Ix(t)を算出する。また、音響インテンシティ算出手段40は、粒子速度のY軸成分累計値uy(t)と音源信号の音圧p(t)とを乗じて瞬時音響インテンシティのY軸成分Iy(t)を算出する。なお、式(5)において、音圧p(t)は、音響インテンシティ算出手段40に入力されたN個の音源信号の音圧合計値である。つまり、瞬時音響インテンシティは、あるリスニングポイントLPにおいて、粒子速度ベクトルの累積値と、そのリスニングポイントLPに対して各チャンネルから到来する音の音圧合計値とを乗じたものとなる。
【0072】
【数5】

【0073】
<瞬時音響インテンシティの算出:第2例>
この第2例では、音響システムが5.1chサラウンドの例で説明する。具体的には、図6に示すように、スピーカSP1は、スウィートスポットSSから左前方3mに位置し、スピーカSP2は、スウィートスポットSSから右前方3mに位置する。また、スピーカSP3は、スウィートスポットSSから右後方3mに位置し、スピーカSP4は、スウィートスポットSSから真後3mに位置する。そして、スピーカSP5は、スウィートスポットSSから左後方3mに位置する。つまり、スウィートスポットSSを中心とした半径3mの円Crを描くと、スピーカSP1〜SP5は、この円Crの円周上に位置する。ここでは、説明を簡易にするため、重低音担当(0.1ch)のスピーカを省略した。
【0074】
また、図6に示すように、リスニングエリアLAは、X軸方向に2m×Y軸方向に2mの正方形とする。また、リスニングポイントLPは、リスニングエリアLAの左前側に位置する。ここでは、説明を簡易にするため、1個のリスニングポイントLPについて説明する。
【0075】
音響インテンシティ算出手段40は、スピーカSP1,SP2と同様、スピーカSP3についても、リスニングポイントLPとスピーカSP3との位置関係から、音源信号のX軸音圧成分とY軸音圧成分とを算出する。具体的には、音響インテンシティ算出手段40は、スピーカSP3について、X軸音圧成分sinθ3*|p3(t)|と、Y軸音圧成分cosθ3*|p3(t)|を算出する。そして、音響インテンシティ算出手段40は、スピーカSP4について、X軸音圧成分sinθ4*|p4(t)|と、Y軸音圧成分cosθ4*|p4(t)|を算出する。さらに、音響インテンシティ算出手段40は、スピーカSP5について、X軸音圧成分sinθ5*|p5(t)|と、Y軸音圧成分cosθ5*|p5(t)|を算出する。
【0076】
次に、音響インテンシティ算出手段40は、スピーカSP1〜S5のX軸音圧成分とY軸音圧成分を累計して、リスニングポイントLPのX軸音圧成分とY軸音圧成分とを算出する。このとき、音響インテンシティ算出手段40は、スピーカSP1,SP2と同様、スピーカSP3〜SP5のX軸音圧成分およびY軸音圧成分について、その符号を求める。
【0077】
ここで、音響インテンシティ算出手段40は、リスニングポイントLPの右側に位置するスピーカSP3,SP4について、そのX軸音圧成分の符号を負(−)とする。また、音響インテンシティ算出手段40は、リスニングポイントLPの左側に位置するスピーカSP5について、そのX軸音圧成分の符号を正(+)とする。その後、音響インテンシティ算出手段40は、下記の式(6)で示すように、スピーカSP1〜S5のX軸音圧成分を累計して、リスニングポイントLPのX軸音圧成分を算出する
【0078】
【数6】

【0079】
また、音響インテンシティ算出手段40は、スピーカSP3〜SP5がリスニングポイントLPの後方向(図5下側)に位置するので、Y軸音圧成分の符号を正(+)とする。その後、音響インテンシティ算出手段40は、下記の式(7)で示すように、スピーカSP1〜S5のY軸音圧成分を累計して、リスニングポイントLPのY軸音圧成分を算出する。
【0080】
【数7】

【0081】
次に、音響インテンシティ算出手段40は、第1例と同様、リスニングポイントLPのX軸音圧成分とY軸音圧成分とに基づいて粒子速度のX軸成分およびY軸成分を算出し、スピーカSP1〜SP5の音源信号のX軸粒子速度成分とY軸粒子速度成分とをそれぞれ累計して、粒子速度のX軸成分累計値ux(t)およびY軸成分累計値uy(t)を算出する。具体的には、音響インテンシティ算出手段40は、下記の式(8)に示すように、空気の固有抵抗ρcの逆数にリスニングポイントLPのX軸音圧成分を乗じて粒子速度のX軸成分累計値ux(t)を算出する。
【0082】
【数8】

【0083】
また、音響インテンシティ算出手段40は、下記の式(9)に示すように、空気の固有抵抗ρcの逆数にリスニングポイントLPのY軸音圧成分を乗じてY軸成分累計値uy(t)を算出する。
【0084】
【数9】

【0085】
その後、音響インテンシティ算出手段40は、前記した式(5)を用いて、粒子速度のX軸成分累計値ux(t)およびY軸成分累計値uy(t)のそれぞれに音源信号の音圧p(t)を乗じて、瞬時音響インテンシティのX軸成分Ix(t)およびY軸成分Iy(t)を算出する。
【0086】
なお、第1例および第2例では、リスニングポイントLPが1個の例で説明したが、音響インテンシティ算出手段40は、リスニングエリアLA内の全てのリスニングポイントLPで瞬時音響インテンシティを算出することは言うまでもない。
また、スピーカの位置および数が、第1例および第2例に限定さないことは言うまでもない。
【0087】
<到来音エネルギーの算出>
以下、図7を参照し、到来音エネルギーの算出について詳細に説明する(適宜図1,図3参照)。
図7では、算出対象リスニングポイントLP1は、到来音エネルギーの算出対象となっているリスニングポイントである。また、他のリスニングポイントLP2は、算出対象リスニングポイントLP1以外のリスニングポイント、つまり、到来音エネルギーの算出対象外のリスニングポイントである。
【0088】
例えば、図3のように、25個のリスニングポイントについて、瞬時音響インテンシティを算出したとする。この場合、到来音エネルギー算出手段50は、25個のリスニングポイントの中で何れか1個を、算出対象リスニングポイントLP1として選択する。つまり、他のリスニングポイントLP2は、25個のリスニングポイントのうち、算出対象リスニングポイントLP1として選択されなかった24個のリスニングポイントである。そして、到来音エネルギー算出手段50は、選択した算出対象リスニングポイントLP1について、到来音エネルギーを算出する。その後、到来音エネルギー算出手段50は、25個のリスニングポイントの中で、まだ到来音エネルギーを算出していないリスニングポイントを、新たな算出対象リスニングポイントLP1として選択する。そして、到来音エネルギー算出手段50は、新たな算出対象リスニングポイントLP1について、到来音エネルギーを算出する。このように、到来音エネルギー算出手段50は、リスニングエリア内の全リスニングポイントで到来音エネルギーを算出するまで、算出対象リスニングポイントLP1の選択と、到来音エネルギーの算出とを繰り返す。
【0089】
説明を簡易にするため、図7に示すように、他のリスニングポイントLP2が1個の場合を考える。ここで、他のリスニングポイントLP2について、瞬時音響インテンシティは、他のリスニングポイントLP2を起点とした瞬時音響インテンシティベクトルItとして表すことができる。また、他のリスニングポイントLP2について、単位ベクトルnは、瞬時音響インテンシティベクトルItの起点である他のリスニングポイントLP2から、算出対象リスニングポイントLP1に向いた単位長さの法線ベクトルとして表すことができる。さらに、瞬時音響インテンシティベクトルItと単位ベクトルnとのなす角をθとして表すことができる。
【0090】
到来音エネルギー算出手段50は、瞬時音響インテンシティベクトルItと単位ベクトルnとの内積によって、算出対象リスニングポイントLP1での到来音エネルギーを算出する。具体的には、到来音エネルギー算出手段50は、下記の式(10)に示すように、瞬時音響インテンシティベクトルItの大きさと、単位ベクトルnの大きさと、cosθの値との積によって、算出対象リスニングポイントLP1での到来音エネルギーを算出する。なお、式(10)では、I(t)が瞬時音響インテンシティベクトルItである。
【0091】
【数10】

【0092】
なお、図7では、他のリスニングポイントLP2が1個として説明したが、到来音エネルギー算出手段50は、算出対象リスニングポイントLP1以外の全リスニングポイントから、算出対象リスニングポイントLP1への到来音エネルギーを算出することは言うまでもない。
【0093】
[音響システム用デジタルスコープの動作]
以下、図8を参照して、音響システム用デジタルスコープ1の動作について説明する(適宜図1参照)。
【0094】
まず、音響システム用デジタルスコープ1は、パラメータ設定手段10によって、音響システム用デジタルスコープ1に必要なパラメータが入力されると共に、入力されたパラメータをパラメータ記憶手段20に記憶する(ステップS1)。
【0095】
また、音響システム用デジタルスコープ1は、音源信号入力手段30によって、N個の音源信号ファイルを読み込んで、音源信号ファイルのそれぞれに格納された音源信号のデータサイズdを求める(ステップS2)。そして、音響システム用デジタルスコープ1は、音源信号入力手段30によって、求めたデータサイズdだけ、音源信号ファイルのそれぞれから、N個の音源信号を読み込む(ステップS3)。
【0096】
また、音響システム用デジタルスコープ1は、音響インテンシティ算出手段40によって、入力された音源信号の音圧に粒子速度を乗じることで、リスニングポイントごとに瞬時音響インテンシティを算出する。このとき、音響システム用デジタルスコープ1は、音響インテンシティ算出手段40によって、リスニングポイントとスピーカとの位置関係から、スピーカごとに音源信号のX軸音圧成分とY軸音圧成分とを算出する。そして、音響システム用デジタルスコープ1は、音響インテンシティ算出手段40によって、スピーカごとのX軸音圧成分とY軸音圧成分とを累計して、リスニングポイントのX軸音圧成分とY軸音圧成分とを算出する。さらに、音響システム用デジタルスコープ1は、音響インテンシティ算出手段40によって、リスニングポイントのX軸音圧成分とY軸音圧成分とに基づいて粒子速度のX軸成分およびY軸成分を算出し、スピーカごとの音源信号のX軸粒子速度成分とY軸粒子速度成分とをそれぞれ累計して、粒子速度のX軸成分累計値およびY軸成分累計値を算出する。その後、音響システム用デジタルスコープ1は、音響インテンシティ算出手段40によって、粒子速度のX軸成分累計値およびY軸成分累計値のそれぞれに音源信号の音圧を乗じて、瞬時音響インテンシティのX軸成分およびY軸成分を算出する(ステップS4)。
【0097】
また、音響システム用デジタルスコープ1は、到来音エネルギー算出手段50によって、瞬時音響インテンシティベクトルと、瞬時音響インテンシティベクトルの起点である他のリスニングポイントからリスニングポイントに向いた単位ベクトルとの内積によって、リスニングポイントごとに到来音エネルギーを算出する。つまり、音響システム用デジタルスコープ1は、到来音エネルギー算出手段50によって、前記した式(10)を用いて、リスニングポイントごとに到来音エネルギーを算出する(ステップS5)。
【0098】
また、音響システム用デジタルスコープ1は、音響インテンシティ表示手段71によって、瞬時音響インテンシティをモニタにグラフィック表示する。このとき、音響システム用デジタルスコープ1は、音響インテンシティ表示手段71によって、瞬時音響インテンシティをリアルタイムでグラフィック表示する(ステップS6)。
【0099】
また、音響システム用デジタルスコープ1は、到来音エネルギー表示手段73によって、到来音エネルギーをモニタにグラフィック表示する。このとき、音響システム用デジタルスコープ1は、到来音エネルギー表示手段73によって、到来音エネルギーをリアルタイムでグラフィック表示する(ステップS7)。
【0100】
以上のように、本発明の第1実施形態に係る音響システム用デジタルスコープ1は、2次元のリスニングエリア内の様々な位置(リスニングポイント)において、到来音エネルギーを算出して表示する。これによって、音響システム用デジタルスコープ1は、作業者が、リスニングエリア内の様々な位置において、再生音場を客観的に把握することができる。
【0101】
また、音響システム用デジタルスコープ1は、実際の音場における実測データを用いて到来音エネルギーなどの音響情報を算出する従来技術に比べて、実測データを用いることなく、シミュレーションによって到来音エネルギーを算出するため、放送番組の制作現場で利用し易くなる。
【0102】
さらに、音響システム用デジタルスコープ1は、音響インテンシティと到来音エネルギーとをリアルタイムで算出してグラフィック表示するため、リスニングエリアにおける再生音場の経時変化を把握することができる。例えば、音源信号として楽曲を入力した場合、音響システム用デジタルスコープ1は、作業者が、楽曲の先頭部分、中間部分および終了部分などで、リスニングエリアにおける再生音場がどのように変化するか把握できる。
【0103】
従って、音響システム用デジタルスコープ1は、例えば、放送番組、ラジオ番組および音楽コンテンツの効率的な制作支援を可能とする。この他、音響システム用デジタルスコープ1は、例えば、音響空間や音響システムの客観的な評価にも利用することができる。
【0104】
(第2実施形態:3次元)
[音響システム用デジタルスコープの構成]
以下、図1に戻り、本発明の第2実施形態に係る音響システム用デジタルスコープ1Bの構成について、第1実施形態と異なる点を説明する。
なお、第2実施形態では、第1軸(X軸)を実空間の横方向(左右)とし、第2軸(Y軸)を実空間の奥行方向(前後)とし、第3軸(Z軸)を実空間の高さ方向(上下)とした3次元のリスニングエリアの例で説明する。
【0105】
音響システム用デジタルスコープ1Bは、図1に示すように、パラメータ設定手段(パラメータ入力手段)10Bと、パラメータ記憶手段20と、音源信号入力手段30と、音響インテンシティ算出手段40Bと、到来音エネルギー算出手段50Bと、演算結果記憶手段60と、表示手段70Bとを備える。
【0106】
パラメータ設定手段10Bは、音響システム用デジタルスコープ1Bに必要なパラメータが入力されると共に、入力されたパラメータをパラメータ記憶手段20に記憶(設定)する。
【0107】
パラメータ設定手段10Bに入力されるパラメータを説明する。
スピーカ位置(Xspi,Yspi,Zspi)は、音響システムが備える各スピーカの位置を、例えば、3次元座標系(XYZ座標系)で示すパラメータである。
リスニングポイント位置(Px,Py,Pz)は、それぞれのリスニングポイントの位置を、例えば、3次元座標系(XYZ座標系)で示すパラメータである。
【0108】
以下、図9を参照し、リスニングエリアLAの一例を説明した後、パラメータとしてのリスニングエリア特定情報を説明する(適宜図1参照)。
【0109】
図9(a)に示すように、リスニングエリアLAは、スウィートスポットSSを中心とし、立方体に設定することができる。この場合、図示を省略したリスニングポイントは、例えば、上側左前、上側右前、上側左後および上側右後の4点、および、下側左前、下側右前、下側左後および下側右後の4点(合計8点)、に設定することができる。
【0110】
また、図9(b)に示すように、リスニングエリアLAは、スウィートスポットSSを中心とし、X軸、Y軸およびZ軸の3方向で同一半径の球体に設定することができる。
なお、リスニングエリアは、これ以外、直方体、楕円体などの任意の形状に設定することができる(不図示)。また、リスニングポイントは、任意の場所に任意の数設定できることは言うまでもない。
【0111】
ここで、パラメータとしてのリスニングエリア特定情報について説明する。
リスニングエリア特定情報は、第1実施形態と同様、リスニングエリアLAの形状および大きさを特定する情報である。例えば、図9(a)のようにリスニングエリアLAが立方体の場合、リスニングエリア特定情報は、例えば、リスニングエリアLAの上側左前点の座標と、リスニングエリアLAの一辺の長さとが含まれる。また、図9(b)のようにリスニングエリアLAが球体の場合、リスニングエリア特定情報は、例えば、リスニングエリアLAの中心点の座標と、リスニングエリアLAの半径とが含まれる。
なお、スピーカ数と、音源信号ファイル名と、メッシュグリッド数と、算出時間間隔と、動画フレームレートとは、第1実施形態と同様のため、説明を省略する。
【0112】
以下、図1に戻り、音響システム用デジタルスコープ1Bの構成について説明を続ける。
音響インテンシティ算出手段40Bは、音源信号入力手段30から音源信号が入力されると共に、入力された音源信号の音圧に粒子速度を乗じることで、リスニングポイントごとに瞬時音響インテンシティを算出する。ここで、音響インテンシティ算出手段40Bは、瞬時音響インテンシティのX軸成分、Y軸成分およびZ軸成分を算出する。そして、音響インテンシティ算出手段40Bは、算出した瞬時音響インテンシティのX軸成分、Y軸成分およびZ軸成分を到来音エネルギー算出手段50Bに出力すると共に、演算結果記憶手段60に記憶する。
なお、瞬時音響インテンシティの算出については、詳細を後記する。
【0113】
到来音エネルギー算出手段50Bは、音響インテンシティ算出手段40Bから瞬時音響インテンシティが入力されると共に、入力された瞬時音響インテンシティを示す瞬時音響インテンシティベクトルと、単位ベクトルとの内積によって、リスニングポイントごとに到来音エネルギーを算出する。ここで、到来音エネルギー算出手段50Bは、到来音エネルギー算出手段50と同様、前記した式(10)を用いて、到来音エネルギーを算出する。そして、到来音エネルギー算出手段50は、算出した到来音エネルギーを演算結果記憶手段60に記憶する。
【0114】
なお、到来音エネルギー算出手段50Bは、瞬時音響インテンシティベクトルが2次元のベクトルであるか、3次元のベクトルあるか以外、到来音エネルギー算出手段50と同様のため、詳細な説明を省略する。
【0115】
表示手段70Bは、演算結果記憶手段60の演算結果を参照し、図示を省略したモニタに音響情報をグラフィック表示するものであり、音響インテンシティ表示手段71Bと、到来音エネルギー表示手段73Bとを備える。
【0116】
音響インテンシティ表示手段71Bは、演算結果記憶手段60に記憶された瞬時音響インテンシティをモニタにグラフィック表示する。ここで、音響インテンシティ表示手段71Bは、図3の表示画面をZ軸方向に拡張して、リスニングポイントごとの瞬時音響インテンシティを3次元のベクトルでグラフィック表示する(不図示)。
【0117】
到来音エネルギー表示手段73Bは、演算結果記憶手段60に記憶された到来音エネルギーをモニタにグラフィック表示する。ここで、到来音エネルギー表示手段73Bは、図4の表示画面をZ軸方向に拡張して、リスニングポイントごとの到来音エネルギーを3次元方向でグラフィック表示する(不図示)。
【0118】
<瞬時音響インテンシティの算出>
以下、図10〜図12を参照し、瞬時音響インテンシティの算出について説明する。
【0119】
図10の例では、聴取者の頭部中心(不図示)を基準として、X軸、Y軸およびZ軸を設定した。また、スピーカSPは、半径3mの球体面上に位置している。図10では、X軸方向で半径3mの円cr2、Y軸方向で半径3mの円Cr1、Z軸方向で半径3mの円Cr3を破線で図示した。
【0120】
図10に示すように、リスニングエリアLAは、X軸方向に2m×Y軸方向に2m×Z軸方向に2mの大きさの立方体となっている。ここで、説明を簡易にするため、立方体のリスニングエリアLAのうち、Z軸の値が聴取者の頭部中心の高さに一致するX−Y平面上に該当する部分のみをリスニングエリアLA’とする。
また、スピーカSPを1個とし、リスニングポイントLPが聴取者の頭部中心(スウィートスポット)であるとする。つまり、リスニングポイントLPは、リスニングエリアLA’上に位置する。
【0121】
図10のリスニングエリアLA’において、リスニングポイントLPとスピーカSPとの位置関係を簡略化すると、図11に示すようになる。この図11では、なす角Φは、X―Y平面と、スピーカSPの位置(Xspi,Yspi,Zspi)からリスニングポイントLPの位置(Px,Py,Pz)までの線分とのなす角である。また、なす角θは、Y−Z平面と、スピーカSPの位置(Xspi,Yspi,Zspi)からリスニングポイントLPの位置(Px,Py,Pz)までの線分とのなす角である。
【0122】
まず、音響インテンシティ算出手段40Bは、リスニングポイントLPとスピーカSPとの位置関係から、スピーカSPの音響信号のZ軸音圧成分(第3軸音圧成分)を算出する。図11に示すように、音響インテンシティ算出手段40Bは、音源信号の音圧をp(t)とすると、スピーカSPについて、音響信号のZ軸音圧成分sinΦ*|p(t)|を算出する。ここで、ベクトルV1は、スピーカSPの音響信号のZ軸音圧成分を図示したものである。
【0123】
また、音響インテンシティ算出手段40Bは、リスニングポイントLPとスピーカSPとの位置関係から、スピーカSPの音響信号のX軸音圧成分およびY軸音圧成分を算出する。このため、音響インテンシティ算出手段40Bは、スピーカSPからX―Y平面に到る垂線と、X―Y平面との交点を求める。そして、音響インテンシティ算出手段40Bは、この交点からリスニングポイントLPまでの線分と同じ向きで、このリスニングポイントLPを始点としたベクトルV2を求める。このベクトルV2は、cosΦ*|p(t)|と表される。
【0124】
そして、図12に示すように、音響インテンシティ算出手段40Bは、ベクトルV2を用いて、スピーカSPの音響信号のX軸音圧成分およびY軸音圧成分を算出する。この場合、音響インテンシティ表示手段71Bは、スピーカSPについて、音響信号のX軸音圧成分cosΦcosθ*|p(t)|と、音響信号のY軸音圧成分cosΦsinθ*|P(t)|とを算出する。ここで、ベクトルV3は、スピーカSPの音響信号のY軸音圧成分cosΦsinθ*|p(t)|と表される。また、ベクトルV4は、スピーカSPの音響信号のX軸音圧成分cosΦcosθ*|p(t)|と表される。
【0125】
次に、音響インテンシティ算出手段40Bは、音響インテンシティ算出手段40と同様、スピーカSPのX軸音圧成分、Y軸音圧成分およびY軸音圧成分について、その符号(正または負)を求める。ここで、音響システム用デジタルスコープ1Bでは、リスニングポイントLPへの到来音を扱う。このため、音響インテンシティ算出手段40Bは、Z軸方向では、下方向(図10,図11下側)からリスニングポイントLPに到来する音を正(+)の符号とし、上方向(図10,図11上側)からリスニングポイントLPに到来する音を負(−)の符号として累計する。例えば、音響インテンシティ算出手段40Bは、スピーカSPがリスニングポイントLPの上側に位置するので、Z軸音圧成分の符号を負(−)とする。その後、音響インテンシティ算出手段40Bは、求めた符号を用いて、スピーカSPごとのX軸音圧成分とY軸音圧成分とZ軸音圧成分とをそれぞれ累計して、リスニングポイントのX軸音圧成分とY軸音圧成分とZ軸音圧成分とを算出する。
【0126】
また、音響インテンシティ算出手段40Bは、リスニングポイントのX軸音圧成分とY軸音圧成分と軸音圧成分とに基づいて粒子速度のX軸成分とX軸成分とZ軸成分とを算出し、スピーカSPごとの音源信号のX軸粒子速度成分とY軸粒子速度成分とZ軸粒子速度成分(第3軸粒子速度成分)とをそれぞれ累計して、粒子速度のX軸成分累計値とY軸成分累計値とZ軸成分累計値とを算出する。ここで、スピーカSPが1個であることから、音響インテンシティ算出手段40Bは、下記の式(11)に示すように、粒子速度のX軸成分累計値ux(t)、Y軸成分累計値uy(t)およびZ軸成分累計値uz(t)を算出する。
【0127】
【数11】

【0128】
その後、音響インテンシティ算出手段40Bは、粒子速度のX軸成分累計値ux(t)、Y軸成分累計値uy(t)およびZ軸成分累計値uz(t)のそれぞれに音源信号の音圧を乗じて、瞬時音響インテンシティのX軸成分およびY軸成分を算出する。具体的には、音響インテンシティ算出手段40Bは、下記の式(12)に示すように、粒子速度のX軸成分累計値ux(t)と音源信号の音圧p(t)とを乗じて瞬時音響インテンシティのX軸成分Ix(t)を算出する。また、音響インテンシティ算出手段40Bは、粒子速度のY軸成分累計値uy(t)と音源信号の音圧p(t)とを乗じて瞬時音響インテンシティのY軸成分Iy(t)を算出する。さらに、音響インテンシティ算出手段40Bは、粒子速度のZ軸成分累計値uz(t)と音源信号の音圧p(t)とを乗じて瞬時音響インテンシティのZ軸成分Iz(t)を算出する。
【0129】
【数12】

【0130】
なお、スピーカSPが複数の場合、第1実施形態と同様に、音響インテンシティ算出手段40Bは、スピーカSPごとに音源信号のX軸音圧成分、Y軸音圧成分およびZ軸音圧成分を求める。そして、音響インテンシティ算出手段40Bは、これらX軸音圧成分、Y軸音圧成分およびZ軸音圧成分を累計し、リスニングポイントLPごとにX軸音圧成分とY軸音圧成分とZ軸音圧成分とを算出することは言うまでもない。
また、Z軸方向におけるリスニングポイントLPの位置が、聴取者の頭部の高さであるとして説明したが、これに限定されないことは言うまでもない。
【0131】
[音響システム用デジタルスコープの動作]
以下、図13を参照して、音響システム用デジタルスコープ1Bの動作について説明する(適宜図1参照)。
【0132】
まず、音響システム用デジタルスコープ1Bは、パラメータ設定手段10Bによって、音響システム用デジタルスコープ1Bに必要なパラメータが入力されると共に、入力されたパラメータをパラメータ記憶手段20に記憶する(ステップS11)。
【0133】
また、音響システム用デジタルスコープ1Bは、音源信号入力手段30によって、N個の音源信号ファイルを読み込んで、音源信号ファイルのそれぞれに格納された音源信号のデータサイズdを求める(ステップS12)。そして、音響システム用デジタルスコープ1Bは、音源信号入力手段30によって、求めたデータサイズdだけ、音源信号ファイルのそれぞれから、N個の音源信号を読み込む(ステップS13)。
【0134】
また、音響システム用デジタルスコープ1Bは、音響インテンシティ算出手段40Bによって、入力された音源信号の音圧に粒子速度を乗じることで、リスニングポイントごとに瞬時音響インテンシティを算出する。このとき、音響システム用デジタルスコープ1Bは、音響インテンシティ算出手段40Bによって、リスニングポイントとスピーカとの位置関係から、スピーカごとに音源信号のX軸音圧成分とY軸音圧成分とZ軸音圧成分とを算出する。そして、音響システム用デジタルスコープ1Bは、音響インテンシティ算出手段40Bによって、スピーカごとのX軸音圧成分とY軸音圧成分とZ軸音圧成分とをそれぞれ累計して、リスニングポイントのX軸音圧成分とY軸音圧成分とZ軸音圧成分とを算出する。さらに、音響システム用デジタルスコープ1Bは、音響インテンシティ算出手段40Bによって、リスニングポイントのX軸音圧成分とY軸音圧成分と軸音圧成分とに基づいて粒子速度のX軸成分とY軸成分とZ軸成分とを算出し、スピーカごとの音源信号のX軸粒子速度成分とY軸粒子速度成分とZ軸粒子速度成分とをそれぞれ累計して、粒子速度のX軸成分累計値とY軸成分累計値とZ軸成分累計値とを算出する。その後、音響システム用デジタルスコープ1Bは、音響インテンシティ算出手段40Bによって、粒子速度のX軸成分累計値とY軸成分累計値とZ軸成分累計値とのそれぞれに音源信号の音圧を乗じて、瞬時音響インテンシティのX軸成分とY軸成分とZ軸成分とを算出する(ステップS14)。
【0135】
また、音響システム用デジタルスコープ1Bは、到来音エネルギー算出手段50Bによって、瞬時音響インテンシティベクトルと、瞬時音響インテンシティベクトルの起点である他のリスニングポイントからリスニングポイントに向いた単位ベクトルとの内積によって、リスニングポイントごとに到来音エネルギーを算出する。つまり、音響システム用デジタルスコープ1Bは、到来音エネルギー算出手段50Bによって、前記した式(10)を用いて、リスニングポイントごとに到来音エネルギーを算出する(ステップS15)。
【0136】
また、音響システム用デジタルスコープ1Bは、音響インテンシティ表示手段71Bによって、瞬時音響インテンシティをモニタにグラフィック表示する。このとき、音響システム用デジタルスコープ1Bは、音響インテンシティ表示手段71Bによって、瞬時音響インテンシティをリアルタイムでグラフィック表示する(ステップS16)。
【0137】
また、音響システム用デジタルスコープ1Bは、到来音エネルギー表示手段73Bによって、到来音エネルギーをモニタにグラフィック表示する。このとき、音響システム用デジタルスコープ1Bは、到来音エネルギー表示手段73Bによって、到来音エネルギーをリアルタイムでグラフィック表示する(ステップS17)。
【0138】
以上のように、本発明の第2実施形態に係る音響システム用デジタルスコープ1Bは、3次元のリスニングエリア内の様々な位置(リスニングポイント)において、到来音エネルギーを算出して表示する。これによって、音響システム用デジタルスコープ1Bは、作業者が、リスニングエリア内の様々な位置において、再生音場を客観的に把握することができる。
【0139】
また、音響システム用デジタルスコープ1Bは、実際の音場における実測データを用いて到来音エネルギーなどの音響情報を算出する従来技術に比べて、実測データを用いることなく、シミュレーションによって到来音エネルギーを算出するため、放送番組の制作現場で利用し易くなる。
【0140】
さらに、音響システム用デジタルスコープ1Bは、音響インテンシティと到来音エネルギーとをリアルタイムで算出してグラフィック表示するため、リスニングエリアにおける再生音場の経時変化を把握することができる。例えば、音源信号として楽曲を入力した場合、音響システム用デジタルスコープ1Bは、作業者が、楽曲の先頭部分、中間部分および終了部分などで、リスニングエリアにおける再生音場がどのように変化するか把握できる。
【0141】
なお、第1,2実施形態では、本発明に係る音響システム用デジタルスコープを独立した装置として説明したが、本発明では、一般的なコンピュータのハードウェアを、前記した各手段として協調動作させるプログラムによって実現できる。このプログラムは、通信回線を介して配布しても良く、CD−ROMやフラッシュメモリ等の記録媒体に書き込んで配布しても良い。
【符号の説明】
【0142】
1,1B 音響システム用デジタルスコープ
10,10B パラメータ設定手段(パラメータ入力手段)
20 パラメータ記憶手段
30 音源信号入力手段
40,40B 音響インテンシティ算出手段
50,50B 到来音エネルギー算出手段
60 演算結果記憶手段
70B 表示手段
71,71B 音響インテンシティ表示手段
73,73B 到来音エネルギー表示手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響中心点の周囲に予め設定したリスニングエリアに含まれる1以上のリスニングポイントにおいて、1以上の音源を有する音響システムの音響インテンシティと到来音エネルギーとを算出して表示する音響情報表示装置であって、
前記音源ごとの音源信号が入力される音源信号入力手段と、
前記音源信号の音圧に粒子速度を乗じることで、前記リスニングポイントごとに前記音響インテンシティを算出する音響インテンシティ算出手段と、
前記音響インテンシティ算出手段が算出した音響インテンシティを示す音響インテンシティベクトルと、当該音響インテンシティベクトルの起点である他のリスニングポイントから前記リスニングポイントに向いた単位ベクトルとの内積によって、前記リスニングポイントごとに前記到来音エネルギーを算出する到来音エネルギー算出手段と、
前記音響インテンシティ算出手段が算出した音響インテンシティを表示する音響インテンシティ表示手段と、
前記到来音エネルギー算出手段が算出した到来音エネルギーを表示する到来音エネルギー表示手段と、
を備えることを特徴とする音響情報表示装置。
【請求項2】
前記音響インテンシティ算出手段は、予め設定された算出時間間隔で前記音響インテンシティを算出し、
前記到来音エネルギー算出手段は、当該音響インテンシティを示す音響インテンシティベクトルと前記単位ベクトルとの内積によって、前記算出時間間隔で前記到来音エネルギーを算出し、
前記音響インテンシティ表示手段は、当該音響インテンシティ算出手段が算出した音響インテンシティをリアルタイム表示し、
前記到来音エネルギー表示手段は、当該到来音エネルギー算出手段が算出した到来音エネルギーをリアルタイム表示することを特徴とする請求項1に記載の音響情報表示装置。
【請求項3】
所定の第1軸と、当該第1軸に直交する第2軸との2次元座標系において、前記リスニングポイントの位置と、前記音源の位置とがパラメータとして入力されるパラメータ入力手段をさらに備え、
前記音響インテンシティ算出手段は、
前記リスニングポイントと前記音源との位置関係から、前記音源ごとの前記音源信号の第1軸音圧成分と第2軸音圧成分とを算出し、前記音源ごとの前記音源信号の第1軸音圧成分と第2軸音圧成分とをそれぞれ累計して、前記リスニングポイントごとに第1軸音圧成分と第2軸音圧成分とを算出すると共に、
前記リスニングポイントごとの第1軸音圧成分と第2軸音圧成分とに基づいて前記粒子速度の第1軸成分および第2軸成分を算出し、前記音源ごとの前記音源信号の第1軸粒子速度成分と第2軸粒子速度成分とをそれぞれ累計して、前記粒子速度の第1軸成分累計値および第2軸成分累計値を算出し、前記粒子速度の第1軸成分累計値および第2軸成分累計値のそれぞれに前記音源信号の音圧を乗じて、前記音響インテンシティの第1軸成分および第2軸成分を算出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の音響情報表示装置。
【請求項4】
所定の第1軸と、当該第1軸に直交する第2軸と、当該第1軸および当該第2軸に直交する第3軸との3次元座標系において、前記リスニングポイントの位置と、前記音源の位置とがパラメータとして入力されるパラメータ入力手段をさらに備え、
前記音響インテンシティ算出手段は、
前記リスニングポイントと前記音源との位置関係から、前記音源ごとの前記音源信号の第1軸音圧成分と第2軸音圧成分と第3軸音圧成分とを算出し、前記音源ごとの前記音源信号の第1軸音圧成分と第2軸音圧成分と第3軸音圧成分とをそれぞれ累計して、前記リスニングポイントごとに第1軸音圧成分と第2軸音圧成分と第3軸音圧成分とを算出すると共に、
前記リスニングポイントごとの第1軸音圧成分と第2軸音圧成分と第3軸音圧成分とに基づいて前記粒子速度の第1軸成分と第2軸成分と第3軸成分とを算出し、前記音源ごとの前記音源信号の第1軸粒子速度成分と第2軸粒子速度成分と第3軸粒子速度成分とをそれぞれ累計して、前記粒子速度の第1軸成分累計値と第2軸成分累計値と第3軸成分累計値とを算出し、前記粒子速度の第1軸成分累計値と第2軸成分累計値と第3軸成分累計値とのそれぞれに前記音源信号の音圧を乗じて、前記音響インテンシティの第1軸成分と第2軸成分と第3軸成分とを算出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の音響情報表示装置。
【請求項5】
音響中心点の周囲に予め設定したリスニングエリアに含まれる1以上のリスニングポイントにおいて、1以上の音源を有する音響システムの音響インテンシティと到来音エネルギーとを算出して表示するために、コンピュータを、
前記音源ごとの音源信号が入力される音源信号入力手段、
前記音源信号の音圧に粒子速度を乗じることで、前記リスニングポイントごとに前記音響インテンシティを算出する音響インテンシティ算出手段、
前記音響インテンシティ算出手段が算出した音響インテンシティを示す音響インテンシティベクトルと、当該音響インテンシティベクトルの起点である他のリスニングポイントから前記リスニングポイントに向いた単位ベクトルとの内積によって、前記リスニングポイントごとに前記到来音エネルギーを算出する到来音エネルギー算出手段、
前記音響インテンシティ算出手段が算出した音響インテンシティを表示する音響インテンシティ表示手段、
前記到来音エネルギー算出手段が算出した到来音エネルギーを表示する到来音エネルギー表示手段、
として機能させるための音響情報表示プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−39206(P2012−39206A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175127(P2010−175127)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】