音響整合媒体ユニット
【課題】生体表面と超音波の送受波面との間において音響整合媒体を確実に存在させる。
【解決手段】中空ケース104によって音響整合媒体106が保持される。具体的には、中空ケース104内の一対のフック部材126により、音響整合媒体106の両端部が引っ掛け保持される。中空ケース104には下側開口100が形成され、上方からプローブ19が取り付けられると、その送受波面19Aによって音響整合媒体106の中間部分が上方から押し込まれ、これにより膨出部分112が生じる。音響整合媒体106の両端部が上方の高い位置に位置決められ、またプローブ19によって音響整合媒体106が押し込まれるため、膨出部分112の表面において張力が非常に高められており、その形状保持性が向上されている。
【解決手段】中空ケース104によって音響整合媒体106が保持される。具体的には、中空ケース104内の一対のフック部材126により、音響整合媒体106の両端部が引っ掛け保持される。中空ケース104には下側開口100が形成され、上方からプローブ19が取り付けられると、その送受波面19Aによって音響整合媒体106の中間部分が上方から押し込まれ、これにより膨出部分112が生じる。音響整合媒体106の両端部が上方の高い位置に位置決められ、またプローブ19によって音響整合媒体106が押し込まれるため、膨出部分112の表面において張力が非常に高められており、その形状保持性が向上されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は音響整合媒体ユニットに関し、特に、膝の超音波診断において用いられる膝計測装置で用いられる音響整合媒体ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
変形性膝関節症の患者が増加している。変形性膝関節症は、膝(膝関節)の内部に存在する軟骨に異常(磨耗、変形、欠損等)が認められるものである。その予防及び診断のために、簡便で非侵襲的に膝、特にその内部の軟骨を評価するための装置及び手法の実現が強く要請されている。
【0003】
X線を用いた画像診断では、膝関節の内部に存在する軟骨を画像化することが困難である。一方、超音波を用いた画像診断では、その軟骨を画像化できることが実証されている。そのような画像診断を行うシステムとして、特許文献1,2に開示された膝計測システムがあげられる。
【0004】
特許文献1,2に開示されたシステムにおいては、屈曲した状態にある膝の表面に超音波プローブが当接され、その当接状態を維持しながら円弧状経路に沿って超音波プローブが機械的に走査される。これにより、軟骨を含む三次元計測空間が形成され、その空間から超音波ボリュームデータが取得されている。超音波ボリュームデータに基づいて、例えば、軟骨の三次元画像を形成することが可能である。
【0005】
上記システムにおいて、膝を屈曲させた状態で超音波の送受波を行うのは、大腿骨の遠位端や頸骨の近位端に邪魔されずに、軟骨を観測するためである。また、そのような屈曲状態で観察を行えば、膝蓋骨の位置が水平方向にずれて、前方から軟骨を観測しやすくなるためである。軟骨は、大腿骨と頸骨との接合部分において、大腿骨側及び頸骨側の両方に存在している(特許文献1,2の図1を参照)。その内で、不具合が生じやすいのは大腿骨側の軟骨部分、特に、内足側の軟骨部分であることが知られている。
【0006】
上記システムでは、大腿部から膝下にかけて取り付けられる装着ユニットが用いられている。具体的には、装着ユニットは、その下端を回転軸として、被検者の前方から被検者側に倒れ込み運動するものである。倒れ込み運動の結果、装着ユニットの荷重の一部が被検者の足に及ぶことになる。そのような状態で計測可能な状態が形成される。また、上記システムでは、膝の屈曲形状に沿って変形する平たく細長い音響整合媒体が利用されている。音響整合媒体は、平坦なゴム袋とそれに充填された液体(例えば水)とで構成されている。音響整合媒体が膝の上面から前面までを覆った状態において、音響整合媒体の表面上に超音波プローブが当接され、その当接状態を維持したまま、超音波プローブの機械的走査が実行されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4378552号明細書
【特許文献2】特許第4374470号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような膝の超音波診断においては、重力の作用によって、ゴム袋の下部において液体が溜まりやすく、且つ、ゴム袋の上部において液体が少なくなり易い、という問題が生じる。そこで、上記従来システムでは、ゴム袋の左辺及び右辺を挟み込む硬質の枠体が利用されている。しかし、そのような枠体の形状が体表面の形状に合っていない場合には被検者に対して違和感を与えるおそれがあるし、空気層も生じやすくなる。屈曲状態にある膝の超音波診断に際しては、体表における水平面のみならず垂直面に対してもプローブを的確に当接する必要があり、つまり、どのような姿勢であっても送受波面と生体表面との間において確実な音響伝搬の確保が求められる。このため、重力作用が働いても音響整合媒体の不必要な変形を一定限度までにとどめておける仕組みが求められる。この問題は膝以外の部位に対する超音波診断においても、また、機械走査ではなくマニュアル走査が行われる場合においても、指摘され得る。
【0009】
本発明の目的は、プローブの走査に伴って、プローブの姿勢(つまり生体表面への当接角度)が変化しても、送受波面と生体表面との間における超音波伝搬を確実に確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、プローブが組み付けられた状態で、前記プローブにより定義される電子走査方向に交差する方向へ走査され得る音響整合媒体ユニットであって、前記電子走査方向に伸長した形態を有し、外力により変形する音響整合媒体と、前記電子走査方向に伸長した形態を有し、前記音響整合媒体を部分的に収容する中空部材であって、前記プローブを受け入れる上側開口と、前記音響整合媒体の生体側への部分的なはみ出しを許容することによって膨出部を生じさせる下側開口と、前記音響整合媒体における前記電子走査方向の両端部を保持する保持構造と、を有する中空ケースと、を含むことを特徴とするものである。
【0011】
上記構成によれば、上部開口からプローブが挿入されると、その送受波面によって音響整合媒体の中間部分がその上方から下方に強く押し出され、その部分が中空ケース内から下側開口を介して外部へ強制的に追い出されて膨らみ変形し、それ全体として張力が高められると共に膨出部が生じる。音響整合媒体は電子走査方向に伸長した形態を有しており、その両端部が中空ケースの両端部によって保持されているので、プローブの押し出しによる反作用として、音響整合媒体が中空ケースの内部で膨らもうとするが、中空ケースの内部の隙間は限定されているので、上記の通り、下部開口の外側に膨出部が一定の弾性をもって発生する。このような状態で、更に、プローブを生体側へ押し当てると、その送受波面と生体表面との間の隙間の形状に依存して膨出部が更に潰れ、その張力あるいは弾性作用が更に高まる。プローブと共に音響整合媒体ユニットを体表面上で移動させても膨出部が送受波面の前面側に確実に存在することになるから、そのような移動過程の全部において良好な音響伝搬を確保できる。中空ケースによる容積制限、下側開口による膨らみ部分の制限の下で、プローブセッティングに伴う予備押圧(初期押圧)がなされた上で、プローブ当接に伴う押圧作用が発揮されるので、膨出部の弾性力(形状維持作用)を十分に発生させることが可能となっている。これによりプローブが水平姿勢で当接することになっても音響伝搬を十分に確保できる。また、重力が局所的に過大にあるいはアンバランスで働くことを防止し得る。上記の構成は特に膝計測装置に搭載されるのが望ましいが、他の部位の超音波診断においても利用可能である。
【0012】
望ましくは、前記保持構造は、前記中空ケースにおける右側ケース端部の中に設けられ、前記音響整合媒体における右側媒体端部に引っ掛けられて、当該右側媒体端部が前記下側開口の方へ引き戻されることを防止する右側フックと、前記中空ケースにおける左側ケース端部の中に設けられ、前記音響整合媒体における左側媒体端部に引っ掛けられて、当該左側媒体端部が前記下側開口の方へ引き戻されることを防止する左側フックと、を含む。音響整合媒体としては各種のものを利用可能であるが、望ましくは、音響整合媒体を弾性変形する袋とその内部に充填された液体とで構成するのが望ましい。そのような袋は変形自在であるから各フックに容易に引っ掛かる。しかも耐久性を有するゴム部材あるいは合成部材を利用すればそれが簡単に破れることもない。フック先端を非鋭利な形状としておくのが望ましい。
【0013】
望ましくは、前記右側フックによる前記右側媒体端部の引っ掛けレベル及び前記左側フックによる前記左側媒体端部の引っ掛けレベルは前記組み付けられた状態にあるプローブの送受波面のレベルよりも上方に設定されている。これにより、張力及び中空ケース側への復帰力(送受波面への密着力)を高められる。
【0014】
望ましくは、前記右側フック及び前記左側フックは、それぞれ、前記中空ケースの底面から起立した起立部分と、前記起立部分の先端から外向きに突出した突出部分と、を有する。望ましくは、前記各突出部分の上面と前記中空ケースの天井面との間に前記各媒体端部が挟み込まれる。音響整合媒体を交換可能に構成するのが望ましい。その場合、分割型の中空ケース構造を採用するのが望ましい。
【0015】
望ましくは、前記中空ケースに連結されて前記プローブを保持するホルダを含み、前記ホルダは、横方向から見て、前記プローブの送受波面が前記下側開口よりも下方へ突出するように前記プローブを保持する。この構成によれば、体表面に隆起等があってそれが送受波面に近づいても、中空ケース下面あるいは下側開口縁が生体に接触してしまう可能性を低減できる。
【0016】
望ましくは、当該音響整合媒体ユニットは、膝の内部に存在する軟骨を超音波診断するために、屈曲状態におかれた前記膝の表面に沿って円弧状に機械的に走査されるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、プローブの走査に伴って、プローブの姿勢(つまり生体表面への当接角度)が変化しても、送受波面と生体表面との間における超音波伝搬を確実に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る膝計測システムの全体構成を示す図である。
【図2】図1に示した膝計測装置の第1の斜視図である。
【図3】図1に示した膝計測装置の第2の斜視図である。
【図4】使用例を示す第1の斜視図である。
【図5】使用例を示す第2の斜視図である。
【図6】計測機構の構成を示す側面図である。
【図7】計測機構の第1の斜視図である。
【図8】計測機構の第2の斜視図である。
【図9】音響整合媒体ユニットの斜視図である。
【図10】中空ケースにおける部分的な構成を示す分解斜視図である。
【図11】プローブが取り付けられていない状態における音響整合媒体ユニットを示す部分断面図である。
【図12】プローブが取り付けられた後の状態における音響整合媒体ユニットの部分断面図である。
【図13】回転体の回転に伴う膨出部分の変形を説明するための図である。
【図14】脛当てに関する機構を説明するための図である。
【図15】他の実施形態に係るシステム構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1には、本発明に係る膝計測システムの好適な実施形態が示されており、図1はその全体構成を示す図である。この膝計測システムは医療の分野において用いられ、膝の内部に存在する軟骨を超音波診断するためのシステムである。
【0021】
図1において、膝計測システム10は、大別して、計測部としての膝計測装置12と、椅子14と、図示されていない超音波診断装置本体と、によって構成される。超音波診断装置本体は制御部及び信号処理部として機能するものであり、超音波診断装置本体において受信信号に基づいて超音波画像が形成される。本実施形態においては、特に膝に対して三次元計測が実行されており、これによって得られたボリュームデータに基づいて軟骨の三次元画像が形成されている。
【0022】
膝計測装置12は、被検者のいずれか一方の膝に対して位置決められる計測機構18を有する。図1においては、椅子14に座った被検者の内で特に一方の足16が概念的に描かれている。足16における膝部分に対して計測機構18が位置決められる。膝計測装置12は、更に、アーム機構20及びベース22を有している。ベース22はフロア面上に設置されているものである。ベース22には取っ手24が設けられている。
【0023】
アーム機構20は、計測機構18を支持あるいは保持する機構である。アーム機構20によって計測機構18の三次元位置及び姿勢を自在に調整することが可能である。アーム機構20について以下に詳述する。昇降部26は、ベース22内に設けられたスライド機構によって図においてX方向にスライド可能に設けられている。昇降部26は支柱32を上下方向に位置決める機構であり、その際にはハンドル28がユーザーにより操作される。レバー30は、図示例では、昇降部26におけるX方向のスライド位置をロックするためのものであり、レバー30の操作と同時に昇降部26による支柱32の位置決めがロックされるようにしてもよい。支柱32の上端部分には第1旋回機構34が設けられ、それを介してアーム部材36の一端部が連結されている。アーム部材36は、水平方向に伸長した部材であり、その他端部には第2旋回機構38が設けられている。レバー40を操作することにより、第1旋回機構34及び第2旋回機構38の両者の動作をロックすることが可能である。2つの旋回機構34,38が設けられているので、ベース22に対する計測機構18の水平方向の位置を自在かつ容易に調整することが可能である。また昇降部26によって計測機構18の高さを自在に設定することが可能である。
【0024】
図1には、アーム機構20において1つの水平アーム部材36が設けられていたが、複数の水平アーム部材を設けるようにしてもよく、また斜めに伸長したアーム部材等を用いることも可能である。
【0025】
第2旋回機構38は吊り下げ軸を回転自在に保持するものであり、その吊り下げ軸には計測機構18が連結されている。アーム部材36に対して計測機構18の垂直軸回りにおける回転角度を自在に設定することが可能である。計測機構18は計測ヘッドを構成し、計測機構18によってプローブ19が着脱可能に保持されている。プローブ19は、本実施形態において電子走査方向に配列された複数の振動素子からなるアレイ振動子を有している。そのようなアレイ振動子によって超音波ビームが形成され、その超音波ビームが電子走査方向に電子走査される。これによってビーム走査面が形成される。プローブ19を電子走査方向と平行な回転軸回りにおいて円弧運動させることにより、複数の走査面が形成され、それらの集合体として三次元エコーデータ取込空間を構築することができる。本実施形態においては、プローブ19の回転中心軸(水平軸)は膝の中央部を貫通する仮想である。ちなみに、図1において、X方向が第1水平方向であり、第2水平方向がY方向となる。そのY方向は計測機構18が原点位置及び原形姿勢にある場合において電子走査方向であり、計測機構18の左右方向として観念することもできる。Z方向は垂直方向である。
【0026】
椅子14は被検体を座位の姿勢において載置するものであり、特に計測対象となる足を屈曲させた状態を保持することが可能な機能を備えている。図1においては、足16が屈曲状態となっており、大腿部における中心軸と膝より下の部分における中心軸とがなす角度θは、例えば45度であり、望ましくは20度〜90度の範囲内に設定される。足16の屈曲角度を保持するため及び足16が不用意に左右運動しないように脛当て54が設けられている。座部48は被検体における臀部を載置する部分であり、符号50は背もたれを示している。座部48及び背もたれ50は昇降機構52によって斜め方向に上下にスライド運動させることができ、かつ任意の位置に停止させることができる。昇降機構52はベース44から斜め上方に起立したフレーム46に取り付けられている。ちなみに、右足及び左足の両足に対して同じ膝計測装置12を利用して膝の超音波診断を実行することが可能である。
【0027】
図1に示されるように、計測機構18は、アーム機構20の作用端部において吊り下げられつつ保持されている。これにより、足16特に膝下の前方が開放されている。すなわち足16の前方近傍に複雑な機構等が存在しておらず、足16から少し離れた位置に昇降部等が存在している。したがって被検者における圧迫感を緩和することが可能である。また、計測機構18の荷重はそのほとんどがアーム機構20によって支えられており、このため、膝あるいは足に対して不必要な荷重が加わらないという利点が得られる。アーム機構20は、計測機構18を空中に位置決め可能であり、また位置決められた三次元位置及び姿勢を固定することが可能である。その状態においてプローブ16の機械走査によりボリュームデータを取得することが可能である。
【0028】
図2には、図1に示した膝計測装置12の第1の斜視図が示されている。上述したように、膝計測装置12は、空中において保持される計測機構18と、それを吊り下げ支持するアーム機構20とを有している。図3には、膝計測装置12の第2の斜視図が示されている。図4及び図5には、参考図として足に対して計測機構18を位置決めた状態が斜視図として示されている。
【0029】
次に、図6乃至図8を用いて計測機構18について詳述する。図6において、計測機構18は、アーム部材36の端部に設けられた第2旋回機構38を介してアーム部材36によって吊り下げ保持されている。具体的には、第2旋回機構38は吊り下げ軸を回転自在に保持しており、その吊り下げ軸の下端部側に計測機構18が連結されている。計測機構18は、後に詳述するように、本体58と回転体60とを有している。回転体60は、本体58に対して相対的な回転運動を行うものである。図においてはそれが矢印として示されている。本体58の上部には後に説明するベースフレームに取り付けられたスライド機構70が設けられている。このスライド機構70は計測機構18を図6において左右方向すなわち計測機構18における前後方向に微調整するための機構であり、その際においてはつまみ70Aが操作される。上述したアーム機構によって計測機構18の三次元位置を設定可能であるが、特定方向に微調整が必要な場合には、このようなスライド機構が利用される。回転体60は、符号56で示される水平回転軸回りにおいて回転運動をする回転フレーム100を有している。この回転フレーム100には、後に説明するように音響整合媒体ユニット102が取り付けられる。より具体的には、回転フレーム100と音響整合媒体ユニット102との間にスライド機構80が設けられている。このスライド機構80は、計測機構18における左右方向すなわち電子走査方向に音響整合媒体ユニット102を相対的にスライド運動させるための機構であり、その際においはつまみ80Aが操作される。このスライド機構80も微調整機構である。
【0030】
ちなみに、後に説明するように、本実施形態においては、複数の走査面データを取得する際には、まず最初に回転体60がもっとも下方に倒れ込んだ位置に設定され、そこから上方へ回転しながら起き上がる運動が実行される。その際において、所定の角度位置ごとに回転体60が一時停止されており、各一時停止位置において1回の超音波ビームの電子スキャンが実施され、これによって走査面データ(フレームデータ)が取得される。例えば1回の回転体60の起き上がり運動において100枚程度の走査面データすなわちフレームデータが取得される。それらの集合体としてボリュームデータが構成されることになる。ちなみに、個々のフレームデータは電子走査方向に並ぶ複数のビームデータで構成され、各ビームデータは深さ方向に並ぶ複数のエコーデータにより構成される。本実施形態においては以上のように回転体60の回転運動により、メカニカルなコンケーブ走査が実現されている。上述した回転体60の回転動作にあたっては、個々の可動機構が全てロックされ、後に説明するように膝が左右からクランプされ、このような状態設定により位置的誤差や対象物のブレが極めて少ないデータ取得が実現されている。
【0031】
図7及び図8を用いて計測機構18について更に詳述する。上記のように、計測機構18は、本体58と回転体60とにより構成されるものである。本体58は、ベースフレーム62を有する。ベースフレーム62は上部に設けられた水平プレート64と、その右側に連結された垂直プレートとしての右プレート66と、水平プレート64の左側に連結された垂直プレートしての左プレート68と、を有する。ベースフレーム62は、このように膝の両側に跨がるようなブリッジ形状あるいはアーチ形状を有している。
【0032】
水平プレート64は2つのプレート66,68を連結する中間台として機能し、その水平プレート64上には上述したスライド機構70が搭載されている。水平プレート64の中央に上述した吊り下げ軸が連結されている。その吊り下げ軸の中心線を延長した地点に計測機構18の重心位置が設定されている。
【0033】
左プレート68の生体側すなわち内側面にはクランプ部材78が設けられている。一方、右プレート66における生体側面すなわち内側面にもクランプ部材が設けられている。但し、それは図7において表れていない。クランプ部材78は生体に対して接離可能な運動を行う当接面78Aを有している。当接面78Aは硬質部材あるいは弾性体によって構成され、クランプ部材78の内部に設けられたパンタグラフ機構によって進退運動を行う。同様に、右プレート66上に設けられたクランプ部材も当接面を有しており、それも伸退運動を行うものである。
【0034】
計測機構18を計測対象となる膝にセッティングする場合には、膝がベースフレーム62の間に差し込まれ、計測機構18についての三次元位置及び姿勢が調整された上で、それらがロックされ、その上で当接面78Aを運動させることにより、具体的には前進させることにより、膝の左側及び右側の両側からその膝をクランプすることが可能である。つまり、そのクランプによって計測機構18を適正に位置決めすることができ、換言すれば、計測機構18と膝とを一体化して、膝の不必要な相対的動きを押さえ込むことが可能となる。2つの当接面の前後方向の位置は独立して定めることができ、軟骨における主たる関心部分に送受波領域の中心が位置するようにそれぞれの当接面の位置を定めればよい。但し、図6に示したように、回転体60には左右方向へのスライド運動を行わせるスライド機構が設けられているため、2つの当接面の位置決めを行った上で、そのようなスライド機構を利用してプローブの位置つまり走査面を膝に対して事後的に調整することも可能である。
【0035】
図7においては当接面78Aが平坦な面として描かれているが、それを球面あるいは他の形状をもった面として構成することも可能である。その面を構成する部材としてあまり柔らかい部材を採用しない方がよい。被検者に対して苦痛あるいは違和感を与えない限りにおいて、硬質な部材をもって当接面78Aを構成するのが望ましい。
【0036】
左プレート68には以下に説明する駆動機構76が搭載されている。右プレート66の外側には軸受け部72が設けられている。その軸受け部72は回転体60の回転角度を検出するセンサであるエンコーダを有している。そのエンコーダの出力信号が超音波診断装置本体に送られ、送受信及びデータ処理において利用されている。
【0037】
回転体60は、上述したように回転フレーム100を有し、その回転フレーム100は音響整合媒体ユニット102を搭載している。音響整合媒体ユニット102はプローブを搭載している。別の見方をすれば、プローブに対して音響整合媒体ユニット102が取り付けられている。
【0038】
図8には、計測機構18を別の角度から見た拡大斜視図が示されている。図8においては、右プレートの内面上に設けられたクランプ部材80が表れており、そのクランプ部材80は当接面84を有している。当接面84Aは膝に対して接離方向に運動可能なものであり、もう一方のクランプ部材との協働により、膝を左右から押さえ込む位置決め作用を発揮する。駆動機構76は、左プレートの外側に取り付けられており、具体的には、駆動機構76は、クラッチ82、ハンドルとしての回転板84、ラチェット機構86、等を有している。駆動機構76が有するケースの内部には、弾性力を蓄えるバネ部材、速度を調整するためのダンパ機構等が設けられている。
【0039】
膝に対して計測機構の位置決め及び位置固定が完了し、膝のクランプも完了した場合、ユーザーによって、回転板84が回転駆動される。すると、回転体を構成する上記の回転フレーム及び音響整合媒体ユニットが下側に倒れ込む回転運動を行う。所定の傾斜角度まで倒れ込んだ状態において、クラッチ82を操作すると、具体的にはバネに蓄積された力を解放させる操作を行うと、ダンパ機構によって速度が調整されながら、回転体が起き上がり回転運動を開始する。その際において、ラチェット機構86は所定の角度ピッチで間欠的に回転体の回転運動を一時停止させる。各一時停止位置において電子走査が1回実行される。角度ピッチは例えば0.8度であり、例えば60〜120度の回転運動が行われると、数十枚から百数十枚のフレームデータ取り込まれることになる。もちろん、高速の電子走査を連続的に繰り返し実行しながら、間欠的な一時停止を行うことなく連続的に回転運動を行わせるようにしてもよい。上述したラチェット機構86は、垂直方向に設けられたピンと、ピンの先端が嵌まり込む多数の切り欠きを有する回転プレートと、を備えている。その天板については図示されていない。クラッチ82におけるノブを差し込む位置を選択することにより、回転角度範囲を自在にユーザーにより設定することが可能である。図8に示す構成例は一例であって、他の機構によって回転体の回転駆動を行わせるようにしてもよい。例えば電動モータ等を利用してもよい。ただし、本実施形態の構成によればバネの復帰作用を利用しているため安全性を高められるという利点が得られる。すなわち電気的なエラーあるいは暴走といった問題が生じない。
【0040】
次に、図9〜図13を用いて音響整合媒体ユニットについて詳述する。
【0041】
図9において、音響整合媒体ユニット102は、上述した回転体の一部を構成するものである。音響整合媒体ユニット102は、中空ケース104、音響整合媒体106等を備えている。中空ケース104は、電子走査方向に伸長した円筒状の中空体であり、それは上ケース114と下ケース116とからなる。更にそれは側面板118,120を有している。上ケース114の中央部には上側開口108が形成されており、その上側開口108を介してプローブ19におけるヘッドを中空ケース104の内部に差し込むことが可能である。プローブ19は図示されていないホルダによって保持され、そのホルダが上述した回転フレームに対して連結される。また、そのホルダに対しては中空ケース104が連結される。プローブ19は、電子リニアプローブであるが、他の方式のプローブを利用することも可能である。
【0042】
音響整合媒体106は、具体的には、平坦な袋状のゴム袋と、その内部に充填された液体(例えば水)と、からなるものである。ゴム袋は原形状態において平べったいプレート状の形態を有し、その長手方向の長さは中空ケース104の軸方向の長さにほぼ等しい。もちろん、それよりも短く設定することが可能である。ゴム袋の短手方向の長さは適宜定めればよく、後に説明するように膨出部分112が十分に形成されるようにゴム袋の幅や厚みを設定するのが望ましい。また液体の充填量も同様の条件の下で設定するのが望ましい。
【0043】
下ケース116には、上側開口108よりも大きなサイズをもった下側開口110が形成されている。ゴム袋内には多量の液体が充填されるので、これによって音響整合媒体106の一部分が下側開口110から下方に突出して膨出部分112を生じさせる。また、後に説明するように、中空ケース104の両端部内には一対のフック部材が設けられ、音響整合媒体106の両端部を上方につり上げながらそれらが引っ掛けられているので、そのような作用によって、それに加えて、プローブ19が上方から差し込まれて音響整合媒体106の中間部分が下方に押し込まれるために、下方へ膨らみ出た膨出部分112が生じる。膨出部分112を中心としてゴム袋全体として張力が高められており、膨出部分112の弾力性は十分に高められている。つまり膨出部分112の形状保持性が高められている。同時に、プローブ19における送受波面との密着性が高められている。
【0044】
図10には、下ケース116の分解斜視図が示されている。上述したように、下ケース116は比較的大きな下側開口110を有している。その両端部には部材122,124を介して側面板118,120が取り付けられる。注目すべきことは、中空ケースの内部に一対のフック部材126,130が設けられている点である。各フック部材126は、下ケース116の内底面上に固定的に配置されている。各フック部材126,130は、下端部分126A,130A、それに連なる起立部分126B,130B、及び、それに連なる上端分126C,130Cを有する。下端部分126A,130Aが上述した内底面上に固定されており、そこから起立した起立部分126B,130Bの端部が上端部分126C,130Cを構成している。それらは外側に突出した形態を有している。これによってゴム袋の端部を引っ掛けることが可能となっている。
【0045】
図11には、中空ケース104内に音響整合媒体106を装着した初期状態が示されている。音響整合媒体106の両端部は上述したフック部材によって中空ケース104の両端部内で引っ掛けられている。図11においては、右端部が断面図として示されているので、右端部を代表してフック部材126の作用を説明する。音響整合媒体106の右端部134は、フック部材126を乗り越えて中空ケース104の右端部132内にまで伸びている。中空ケース104の中間部分と右端部132との間にフック部材126が設けられ、その上端部分の上面と上ケース114の内面との間の隙間は極めて小さく、事実上その隙間に右端部132が挟み込まれたような状態となる。フック部材126の上端部分は外側に突出しており、また音響整合媒体106の右端部134には若干の液体が収容されているため、その部分は肥大しており、そのようなことからあるいはフック部材126の形状により、媒体106における右端部134がフック部材126によって引っ掛け固定されることになる。中空ケース104における左端部においても同様の作用が発揮される。以上の状態においては、上側開口108を介して音響整合媒体106の上面部分が若干上方へ膨らみ出て、また、下側開口110を介して音響整合媒体106の下側部分が下方に比較的大きく膨らみ出て、その部分が膨出部分112を構成する。フック部材126により音響整合媒体の端部が上方に引き上げられつつ、その中間部分が下方へ押し込まれた状態となるので、音響整合媒体18、特にゴム袋における張力が高められる。
【0046】
ちなみに、上ケース114の上側開口108の周縁には複数のピン136が設けられている。それらのピンは以下に説明するホルダを位置決めするためのピンである。垂直に起立したピン136は、横ピン140を左右方向に運動させるための操作ピンであり、横ピン140がホルダの横穴に挿入されると、中空ケース104とホルダとが固定連結される。ただし、両者は互いに着脱可能である。
【0047】
図12には、プローブ19が中空ケース104に対して取り付けられた状態が示されている。中空ケース104上にはホルダ142が連結されており、そのホルダ142は枠144と、その一方側開口を閉めるカバー146と、により構成されている。ホルダ142によってプローブ19が確実に保持されている。ホルダ142の位置決めにあたっては上述した複数のピン136が機能しており、またホルダ142に形成された複数の横穴には複数の横ピン140が差し込まれている。
【0048】
プローブ19における下面すなわち送受波面19Aが音響整合媒体106における上面部分中央を上方から下方へ強く押し込んでおり、その結果、大きな膨出部分112が生じている。複数のフック部材によって音響整合媒体の両端部がクリップされた状態において上述のように音響整合媒体の中間部分が上方から下方へ押し込まれるならば、膨出部分112がより大きく膨らみ出て、同時にそれを包み込むゴム袋の張力が大きく高められる。その状態では、音響整合媒体106の上面と送受波面19Aとの密着度は十分に高められる。必要に応じて、両者間にゼリーのような音響整合材を設けるようにしてもよい。このような状態において、膝の超音波診断に際して、膝150の表面に膨出部分112が当接されるならば、膝150の表面形状に沿って膨出部分112が変形すると同時に、それ自体も横方向に膨らみ変形し(符号112A参照)、また、中空ケース104の内部に部分的に音響整合媒体106が膨らみ出て(134A参照)、ゴム袋の張力がより高められることになる。中空ケースの内部は有限であり、音響整合媒体106がはみ出る空間サイズは制限されているため、専ら膨出部分112に張力が集中することになる。その結果、プローブ19がどのような姿勢にあっても、その送受波面19Aと膝の表面との間に確実に音響整合媒体を介在させることが可能となる。すなわち重力が働いていても、膨出部分112の形状保持作用が高められているので、超音波の伝搬経路上に液体を十分に満たすことが可能となる。
【0049】
ちなみに、図12において、音響整合媒体106の両端部を引っ掛ける高さは、プローブ19における送受波面19Aの高さよりも上方に設定されている。送受波面19Aの高さは、側面方向から見た場合に、下側開口よりも下方に位置しており、すなわち下側開口のレベルよりも送受波面のレベルの方が低い。その結果、下側開口と生体との間の距離が小さくなった場合においても、下側開口の開口縁が生体に衝突したりあるいは中空ケース104の他の部分が生体に衝突したりすることを効果的に防止可能である。
【0050】
図13には側面図が示されている。ホルダ142は上方から見てコ字状の形態を有する枠144と、その一方面側を塞ぐカバー146と、により構成されている。符号152で示されるように、膝の表面上においてプローブ19が回転運動を行うと、膨出部分112が当初の変形状態から更に変形することになるが(符号112B)、上述したように形状保持作用が十分に高められているため、生体と送受波面との間における超音波ビーム経路上に液体を十分に満たすことが可能となっている。
【0051】
次に、図14を用いて、脛当て54に関する機構について説明する。脛当て54は、図14における座部48の下方に設けられている。具体的には、傾斜状態で位置決められるプレートと、プレート154上に設けられ半円筒形状をもった2つのパッド158,160と、が設けられている。2つのパッド158,160の間に事実上の谷部が形成されている。谷部に脛が位置決められる。プレート154は回転軸156上に取り付けられており、その回転軸156は回転軸162に取り付けられている。回転軸162は、座部48の下部中央に設けられ、奥側から前方方向に伸長している。回転軸162周りにおいて回転軸156が右側及び左側へ倒れ込み運動可能であり、図14においては右側に倒れ込んだ状態が実線で描かれている。回転軸156を左側に倒し、更にプレート160を反転させると、符号54Aで示すように左足用の計測状態を構築することができる。すなわち脛当て54は左右兼用である。プレート158の角度を調整できるように構成してもよい。軸160は座部48に取り付けられており、座部48の上下方向の運動に伴って軸160も上下運動している。図示された膝当て54以外の構造をもったものを利用するようにしてもよい。
【0052】
図15には、他の実施形態に係る膝測定システムの構成例が示されている。このシステム164は、膝測定装置166と椅子168とからなり、膝測定装置166はアーム機構172と計測機構174とを有している。それらの構成は図1に示したものと同様である。アーム機構172は前後方向に大型化されたベース170に搭載されている。
【0053】
一方、椅子168はベース176に搭載されており、ベース176とベース170は連結用の2つのスライド用ポール178によって相互に連結されている。このように、計測装置166と椅子168とを一体化するようにしてもよい。上記以外の構成例としては、計測機構174を天井から吊す態様が考えられる。あるいは、椅子168の後ろ側から上方空間を経由してアームによって計測機構174を保持する態様が考えられる。横方向から計測機構174を保持するようにしてもよい。いずれにしても、膝の前方空間をできる限り解放することにより、被検者における心理的な圧迫感を軽減することが可能である。また、計測機構174を吊り下げることにより、あるいはアーム機構によって支持することにより、被検者に対する荷重負担を大幅に軽減することが可能である。
【0054】
上述した実施形態に示された音響整合媒体ユニットは膝の測定以外の部位の測定においても利用可能である。上述した実施形態においては機械的にプローブが走査されていたが、マニュアルでプローブを走査する場合においても上述したユニットを利用することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
10 膝計測システム、12 膝計測装置、14 椅子、18 計測機構、19 プローブ、20 アーム機構、102 音響整合媒体ユニット、104 中空ケース、126,130 フック部材。
【技術分野】
【0001】
本発明は音響整合媒体ユニットに関し、特に、膝の超音波診断において用いられる膝計測装置で用いられる音響整合媒体ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
変形性膝関節症の患者が増加している。変形性膝関節症は、膝(膝関節)の内部に存在する軟骨に異常(磨耗、変形、欠損等)が認められるものである。その予防及び診断のために、簡便で非侵襲的に膝、特にその内部の軟骨を評価するための装置及び手法の実現が強く要請されている。
【0003】
X線を用いた画像診断では、膝関節の内部に存在する軟骨を画像化することが困難である。一方、超音波を用いた画像診断では、その軟骨を画像化できることが実証されている。そのような画像診断を行うシステムとして、特許文献1,2に開示された膝計測システムがあげられる。
【0004】
特許文献1,2に開示されたシステムにおいては、屈曲した状態にある膝の表面に超音波プローブが当接され、その当接状態を維持しながら円弧状経路に沿って超音波プローブが機械的に走査される。これにより、軟骨を含む三次元計測空間が形成され、その空間から超音波ボリュームデータが取得されている。超音波ボリュームデータに基づいて、例えば、軟骨の三次元画像を形成することが可能である。
【0005】
上記システムにおいて、膝を屈曲させた状態で超音波の送受波を行うのは、大腿骨の遠位端や頸骨の近位端に邪魔されずに、軟骨を観測するためである。また、そのような屈曲状態で観察を行えば、膝蓋骨の位置が水平方向にずれて、前方から軟骨を観測しやすくなるためである。軟骨は、大腿骨と頸骨との接合部分において、大腿骨側及び頸骨側の両方に存在している(特許文献1,2の図1を参照)。その内で、不具合が生じやすいのは大腿骨側の軟骨部分、特に、内足側の軟骨部分であることが知られている。
【0006】
上記システムでは、大腿部から膝下にかけて取り付けられる装着ユニットが用いられている。具体的には、装着ユニットは、その下端を回転軸として、被検者の前方から被検者側に倒れ込み運動するものである。倒れ込み運動の結果、装着ユニットの荷重の一部が被検者の足に及ぶことになる。そのような状態で計測可能な状態が形成される。また、上記システムでは、膝の屈曲形状に沿って変形する平たく細長い音響整合媒体が利用されている。音響整合媒体は、平坦なゴム袋とそれに充填された液体(例えば水)とで構成されている。音響整合媒体が膝の上面から前面までを覆った状態において、音響整合媒体の表面上に超音波プローブが当接され、その当接状態を維持したまま、超音波プローブの機械的走査が実行されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4378552号明細書
【特許文献2】特許第4374470号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような膝の超音波診断においては、重力の作用によって、ゴム袋の下部において液体が溜まりやすく、且つ、ゴム袋の上部において液体が少なくなり易い、という問題が生じる。そこで、上記従来システムでは、ゴム袋の左辺及び右辺を挟み込む硬質の枠体が利用されている。しかし、そのような枠体の形状が体表面の形状に合っていない場合には被検者に対して違和感を与えるおそれがあるし、空気層も生じやすくなる。屈曲状態にある膝の超音波診断に際しては、体表における水平面のみならず垂直面に対してもプローブを的確に当接する必要があり、つまり、どのような姿勢であっても送受波面と生体表面との間において確実な音響伝搬の確保が求められる。このため、重力作用が働いても音響整合媒体の不必要な変形を一定限度までにとどめておける仕組みが求められる。この問題は膝以外の部位に対する超音波診断においても、また、機械走査ではなくマニュアル走査が行われる場合においても、指摘され得る。
【0009】
本発明の目的は、プローブの走査に伴って、プローブの姿勢(つまり生体表面への当接角度)が変化しても、送受波面と生体表面との間における超音波伝搬を確実に確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、プローブが組み付けられた状態で、前記プローブにより定義される電子走査方向に交差する方向へ走査され得る音響整合媒体ユニットであって、前記電子走査方向に伸長した形態を有し、外力により変形する音響整合媒体と、前記電子走査方向に伸長した形態を有し、前記音響整合媒体を部分的に収容する中空部材であって、前記プローブを受け入れる上側開口と、前記音響整合媒体の生体側への部分的なはみ出しを許容することによって膨出部を生じさせる下側開口と、前記音響整合媒体における前記電子走査方向の両端部を保持する保持構造と、を有する中空ケースと、を含むことを特徴とするものである。
【0011】
上記構成によれば、上部開口からプローブが挿入されると、その送受波面によって音響整合媒体の中間部分がその上方から下方に強く押し出され、その部分が中空ケース内から下側開口を介して外部へ強制的に追い出されて膨らみ変形し、それ全体として張力が高められると共に膨出部が生じる。音響整合媒体は電子走査方向に伸長した形態を有しており、その両端部が中空ケースの両端部によって保持されているので、プローブの押し出しによる反作用として、音響整合媒体が中空ケースの内部で膨らもうとするが、中空ケースの内部の隙間は限定されているので、上記の通り、下部開口の外側に膨出部が一定の弾性をもって発生する。このような状態で、更に、プローブを生体側へ押し当てると、その送受波面と生体表面との間の隙間の形状に依存して膨出部が更に潰れ、その張力あるいは弾性作用が更に高まる。プローブと共に音響整合媒体ユニットを体表面上で移動させても膨出部が送受波面の前面側に確実に存在することになるから、そのような移動過程の全部において良好な音響伝搬を確保できる。中空ケースによる容積制限、下側開口による膨らみ部分の制限の下で、プローブセッティングに伴う予備押圧(初期押圧)がなされた上で、プローブ当接に伴う押圧作用が発揮されるので、膨出部の弾性力(形状維持作用)を十分に発生させることが可能となっている。これによりプローブが水平姿勢で当接することになっても音響伝搬を十分に確保できる。また、重力が局所的に過大にあるいはアンバランスで働くことを防止し得る。上記の構成は特に膝計測装置に搭載されるのが望ましいが、他の部位の超音波診断においても利用可能である。
【0012】
望ましくは、前記保持構造は、前記中空ケースにおける右側ケース端部の中に設けられ、前記音響整合媒体における右側媒体端部に引っ掛けられて、当該右側媒体端部が前記下側開口の方へ引き戻されることを防止する右側フックと、前記中空ケースにおける左側ケース端部の中に設けられ、前記音響整合媒体における左側媒体端部に引っ掛けられて、当該左側媒体端部が前記下側開口の方へ引き戻されることを防止する左側フックと、を含む。音響整合媒体としては各種のものを利用可能であるが、望ましくは、音響整合媒体を弾性変形する袋とその内部に充填された液体とで構成するのが望ましい。そのような袋は変形自在であるから各フックに容易に引っ掛かる。しかも耐久性を有するゴム部材あるいは合成部材を利用すればそれが簡単に破れることもない。フック先端を非鋭利な形状としておくのが望ましい。
【0013】
望ましくは、前記右側フックによる前記右側媒体端部の引っ掛けレベル及び前記左側フックによる前記左側媒体端部の引っ掛けレベルは前記組み付けられた状態にあるプローブの送受波面のレベルよりも上方に設定されている。これにより、張力及び中空ケース側への復帰力(送受波面への密着力)を高められる。
【0014】
望ましくは、前記右側フック及び前記左側フックは、それぞれ、前記中空ケースの底面から起立した起立部分と、前記起立部分の先端から外向きに突出した突出部分と、を有する。望ましくは、前記各突出部分の上面と前記中空ケースの天井面との間に前記各媒体端部が挟み込まれる。音響整合媒体を交換可能に構成するのが望ましい。その場合、分割型の中空ケース構造を採用するのが望ましい。
【0015】
望ましくは、前記中空ケースに連結されて前記プローブを保持するホルダを含み、前記ホルダは、横方向から見て、前記プローブの送受波面が前記下側開口よりも下方へ突出するように前記プローブを保持する。この構成によれば、体表面に隆起等があってそれが送受波面に近づいても、中空ケース下面あるいは下側開口縁が生体に接触してしまう可能性を低減できる。
【0016】
望ましくは、当該音響整合媒体ユニットは、膝の内部に存在する軟骨を超音波診断するために、屈曲状態におかれた前記膝の表面に沿って円弧状に機械的に走査されるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、プローブの走査に伴って、プローブの姿勢(つまり生体表面への当接角度)が変化しても、送受波面と生体表面との間における超音波伝搬を確実に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る膝計測システムの全体構成を示す図である。
【図2】図1に示した膝計測装置の第1の斜視図である。
【図3】図1に示した膝計測装置の第2の斜視図である。
【図4】使用例を示す第1の斜視図である。
【図5】使用例を示す第2の斜視図である。
【図6】計測機構の構成を示す側面図である。
【図7】計測機構の第1の斜視図である。
【図8】計測機構の第2の斜視図である。
【図9】音響整合媒体ユニットの斜視図である。
【図10】中空ケースにおける部分的な構成を示す分解斜視図である。
【図11】プローブが取り付けられていない状態における音響整合媒体ユニットを示す部分断面図である。
【図12】プローブが取り付けられた後の状態における音響整合媒体ユニットの部分断面図である。
【図13】回転体の回転に伴う膨出部分の変形を説明するための図である。
【図14】脛当てに関する機構を説明するための図である。
【図15】他の実施形態に係るシステム構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1には、本発明に係る膝計測システムの好適な実施形態が示されており、図1はその全体構成を示す図である。この膝計測システムは医療の分野において用いられ、膝の内部に存在する軟骨を超音波診断するためのシステムである。
【0021】
図1において、膝計測システム10は、大別して、計測部としての膝計測装置12と、椅子14と、図示されていない超音波診断装置本体と、によって構成される。超音波診断装置本体は制御部及び信号処理部として機能するものであり、超音波診断装置本体において受信信号に基づいて超音波画像が形成される。本実施形態においては、特に膝に対して三次元計測が実行されており、これによって得られたボリュームデータに基づいて軟骨の三次元画像が形成されている。
【0022】
膝計測装置12は、被検者のいずれか一方の膝に対して位置決められる計測機構18を有する。図1においては、椅子14に座った被検者の内で特に一方の足16が概念的に描かれている。足16における膝部分に対して計測機構18が位置決められる。膝計測装置12は、更に、アーム機構20及びベース22を有している。ベース22はフロア面上に設置されているものである。ベース22には取っ手24が設けられている。
【0023】
アーム機構20は、計測機構18を支持あるいは保持する機構である。アーム機構20によって計測機構18の三次元位置及び姿勢を自在に調整することが可能である。アーム機構20について以下に詳述する。昇降部26は、ベース22内に設けられたスライド機構によって図においてX方向にスライド可能に設けられている。昇降部26は支柱32を上下方向に位置決める機構であり、その際にはハンドル28がユーザーにより操作される。レバー30は、図示例では、昇降部26におけるX方向のスライド位置をロックするためのものであり、レバー30の操作と同時に昇降部26による支柱32の位置決めがロックされるようにしてもよい。支柱32の上端部分には第1旋回機構34が設けられ、それを介してアーム部材36の一端部が連結されている。アーム部材36は、水平方向に伸長した部材であり、その他端部には第2旋回機構38が設けられている。レバー40を操作することにより、第1旋回機構34及び第2旋回機構38の両者の動作をロックすることが可能である。2つの旋回機構34,38が設けられているので、ベース22に対する計測機構18の水平方向の位置を自在かつ容易に調整することが可能である。また昇降部26によって計測機構18の高さを自在に設定することが可能である。
【0024】
図1には、アーム機構20において1つの水平アーム部材36が設けられていたが、複数の水平アーム部材を設けるようにしてもよく、また斜めに伸長したアーム部材等を用いることも可能である。
【0025】
第2旋回機構38は吊り下げ軸を回転自在に保持するものであり、その吊り下げ軸には計測機構18が連結されている。アーム部材36に対して計測機構18の垂直軸回りにおける回転角度を自在に設定することが可能である。計測機構18は計測ヘッドを構成し、計測機構18によってプローブ19が着脱可能に保持されている。プローブ19は、本実施形態において電子走査方向に配列された複数の振動素子からなるアレイ振動子を有している。そのようなアレイ振動子によって超音波ビームが形成され、その超音波ビームが電子走査方向に電子走査される。これによってビーム走査面が形成される。プローブ19を電子走査方向と平行な回転軸回りにおいて円弧運動させることにより、複数の走査面が形成され、それらの集合体として三次元エコーデータ取込空間を構築することができる。本実施形態においては、プローブ19の回転中心軸(水平軸)は膝の中央部を貫通する仮想である。ちなみに、図1において、X方向が第1水平方向であり、第2水平方向がY方向となる。そのY方向は計測機構18が原点位置及び原形姿勢にある場合において電子走査方向であり、計測機構18の左右方向として観念することもできる。Z方向は垂直方向である。
【0026】
椅子14は被検体を座位の姿勢において載置するものであり、特に計測対象となる足を屈曲させた状態を保持することが可能な機能を備えている。図1においては、足16が屈曲状態となっており、大腿部における中心軸と膝より下の部分における中心軸とがなす角度θは、例えば45度であり、望ましくは20度〜90度の範囲内に設定される。足16の屈曲角度を保持するため及び足16が不用意に左右運動しないように脛当て54が設けられている。座部48は被検体における臀部を載置する部分であり、符号50は背もたれを示している。座部48及び背もたれ50は昇降機構52によって斜め方向に上下にスライド運動させることができ、かつ任意の位置に停止させることができる。昇降機構52はベース44から斜め上方に起立したフレーム46に取り付けられている。ちなみに、右足及び左足の両足に対して同じ膝計測装置12を利用して膝の超音波診断を実行することが可能である。
【0027】
図1に示されるように、計測機構18は、アーム機構20の作用端部において吊り下げられつつ保持されている。これにより、足16特に膝下の前方が開放されている。すなわち足16の前方近傍に複雑な機構等が存在しておらず、足16から少し離れた位置に昇降部等が存在している。したがって被検者における圧迫感を緩和することが可能である。また、計測機構18の荷重はそのほとんどがアーム機構20によって支えられており、このため、膝あるいは足に対して不必要な荷重が加わらないという利点が得られる。アーム機構20は、計測機構18を空中に位置決め可能であり、また位置決められた三次元位置及び姿勢を固定することが可能である。その状態においてプローブ16の機械走査によりボリュームデータを取得することが可能である。
【0028】
図2には、図1に示した膝計測装置12の第1の斜視図が示されている。上述したように、膝計測装置12は、空中において保持される計測機構18と、それを吊り下げ支持するアーム機構20とを有している。図3には、膝計測装置12の第2の斜視図が示されている。図4及び図5には、参考図として足に対して計測機構18を位置決めた状態が斜視図として示されている。
【0029】
次に、図6乃至図8を用いて計測機構18について詳述する。図6において、計測機構18は、アーム部材36の端部に設けられた第2旋回機構38を介してアーム部材36によって吊り下げ保持されている。具体的には、第2旋回機構38は吊り下げ軸を回転自在に保持しており、その吊り下げ軸の下端部側に計測機構18が連結されている。計測機構18は、後に詳述するように、本体58と回転体60とを有している。回転体60は、本体58に対して相対的な回転運動を行うものである。図においてはそれが矢印として示されている。本体58の上部には後に説明するベースフレームに取り付けられたスライド機構70が設けられている。このスライド機構70は計測機構18を図6において左右方向すなわち計測機構18における前後方向に微調整するための機構であり、その際においてはつまみ70Aが操作される。上述したアーム機構によって計測機構18の三次元位置を設定可能であるが、特定方向に微調整が必要な場合には、このようなスライド機構が利用される。回転体60は、符号56で示される水平回転軸回りにおいて回転運動をする回転フレーム100を有している。この回転フレーム100には、後に説明するように音響整合媒体ユニット102が取り付けられる。より具体的には、回転フレーム100と音響整合媒体ユニット102との間にスライド機構80が設けられている。このスライド機構80は、計測機構18における左右方向すなわち電子走査方向に音響整合媒体ユニット102を相対的にスライド運動させるための機構であり、その際においはつまみ80Aが操作される。このスライド機構80も微調整機構である。
【0030】
ちなみに、後に説明するように、本実施形態においては、複数の走査面データを取得する際には、まず最初に回転体60がもっとも下方に倒れ込んだ位置に設定され、そこから上方へ回転しながら起き上がる運動が実行される。その際において、所定の角度位置ごとに回転体60が一時停止されており、各一時停止位置において1回の超音波ビームの電子スキャンが実施され、これによって走査面データ(フレームデータ)が取得される。例えば1回の回転体60の起き上がり運動において100枚程度の走査面データすなわちフレームデータが取得される。それらの集合体としてボリュームデータが構成されることになる。ちなみに、個々のフレームデータは電子走査方向に並ぶ複数のビームデータで構成され、各ビームデータは深さ方向に並ぶ複数のエコーデータにより構成される。本実施形態においては以上のように回転体60の回転運動により、メカニカルなコンケーブ走査が実現されている。上述した回転体60の回転動作にあたっては、個々の可動機構が全てロックされ、後に説明するように膝が左右からクランプされ、このような状態設定により位置的誤差や対象物のブレが極めて少ないデータ取得が実現されている。
【0031】
図7及び図8を用いて計測機構18について更に詳述する。上記のように、計測機構18は、本体58と回転体60とにより構成されるものである。本体58は、ベースフレーム62を有する。ベースフレーム62は上部に設けられた水平プレート64と、その右側に連結された垂直プレートとしての右プレート66と、水平プレート64の左側に連結された垂直プレートしての左プレート68と、を有する。ベースフレーム62は、このように膝の両側に跨がるようなブリッジ形状あるいはアーチ形状を有している。
【0032】
水平プレート64は2つのプレート66,68を連結する中間台として機能し、その水平プレート64上には上述したスライド機構70が搭載されている。水平プレート64の中央に上述した吊り下げ軸が連結されている。その吊り下げ軸の中心線を延長した地点に計測機構18の重心位置が設定されている。
【0033】
左プレート68の生体側すなわち内側面にはクランプ部材78が設けられている。一方、右プレート66における生体側面すなわち内側面にもクランプ部材が設けられている。但し、それは図7において表れていない。クランプ部材78は生体に対して接離可能な運動を行う当接面78Aを有している。当接面78Aは硬質部材あるいは弾性体によって構成され、クランプ部材78の内部に設けられたパンタグラフ機構によって進退運動を行う。同様に、右プレート66上に設けられたクランプ部材も当接面を有しており、それも伸退運動を行うものである。
【0034】
計測機構18を計測対象となる膝にセッティングする場合には、膝がベースフレーム62の間に差し込まれ、計測機構18についての三次元位置及び姿勢が調整された上で、それらがロックされ、その上で当接面78Aを運動させることにより、具体的には前進させることにより、膝の左側及び右側の両側からその膝をクランプすることが可能である。つまり、そのクランプによって計測機構18を適正に位置決めすることができ、換言すれば、計測機構18と膝とを一体化して、膝の不必要な相対的動きを押さえ込むことが可能となる。2つの当接面の前後方向の位置は独立して定めることができ、軟骨における主たる関心部分に送受波領域の中心が位置するようにそれぞれの当接面の位置を定めればよい。但し、図6に示したように、回転体60には左右方向へのスライド運動を行わせるスライド機構が設けられているため、2つの当接面の位置決めを行った上で、そのようなスライド機構を利用してプローブの位置つまり走査面を膝に対して事後的に調整することも可能である。
【0035】
図7においては当接面78Aが平坦な面として描かれているが、それを球面あるいは他の形状をもった面として構成することも可能である。その面を構成する部材としてあまり柔らかい部材を採用しない方がよい。被検者に対して苦痛あるいは違和感を与えない限りにおいて、硬質な部材をもって当接面78Aを構成するのが望ましい。
【0036】
左プレート68には以下に説明する駆動機構76が搭載されている。右プレート66の外側には軸受け部72が設けられている。その軸受け部72は回転体60の回転角度を検出するセンサであるエンコーダを有している。そのエンコーダの出力信号が超音波診断装置本体に送られ、送受信及びデータ処理において利用されている。
【0037】
回転体60は、上述したように回転フレーム100を有し、その回転フレーム100は音響整合媒体ユニット102を搭載している。音響整合媒体ユニット102はプローブを搭載している。別の見方をすれば、プローブに対して音響整合媒体ユニット102が取り付けられている。
【0038】
図8には、計測機構18を別の角度から見た拡大斜視図が示されている。図8においては、右プレートの内面上に設けられたクランプ部材80が表れており、そのクランプ部材80は当接面84を有している。当接面84Aは膝に対して接離方向に運動可能なものであり、もう一方のクランプ部材との協働により、膝を左右から押さえ込む位置決め作用を発揮する。駆動機構76は、左プレートの外側に取り付けられており、具体的には、駆動機構76は、クラッチ82、ハンドルとしての回転板84、ラチェット機構86、等を有している。駆動機構76が有するケースの内部には、弾性力を蓄えるバネ部材、速度を調整するためのダンパ機構等が設けられている。
【0039】
膝に対して計測機構の位置決め及び位置固定が完了し、膝のクランプも完了した場合、ユーザーによって、回転板84が回転駆動される。すると、回転体を構成する上記の回転フレーム及び音響整合媒体ユニットが下側に倒れ込む回転運動を行う。所定の傾斜角度まで倒れ込んだ状態において、クラッチ82を操作すると、具体的にはバネに蓄積された力を解放させる操作を行うと、ダンパ機構によって速度が調整されながら、回転体が起き上がり回転運動を開始する。その際において、ラチェット機構86は所定の角度ピッチで間欠的に回転体の回転運動を一時停止させる。各一時停止位置において電子走査が1回実行される。角度ピッチは例えば0.8度であり、例えば60〜120度の回転運動が行われると、数十枚から百数十枚のフレームデータ取り込まれることになる。もちろん、高速の電子走査を連続的に繰り返し実行しながら、間欠的な一時停止を行うことなく連続的に回転運動を行わせるようにしてもよい。上述したラチェット機構86は、垂直方向に設けられたピンと、ピンの先端が嵌まり込む多数の切り欠きを有する回転プレートと、を備えている。その天板については図示されていない。クラッチ82におけるノブを差し込む位置を選択することにより、回転角度範囲を自在にユーザーにより設定することが可能である。図8に示す構成例は一例であって、他の機構によって回転体の回転駆動を行わせるようにしてもよい。例えば電動モータ等を利用してもよい。ただし、本実施形態の構成によればバネの復帰作用を利用しているため安全性を高められるという利点が得られる。すなわち電気的なエラーあるいは暴走といった問題が生じない。
【0040】
次に、図9〜図13を用いて音響整合媒体ユニットについて詳述する。
【0041】
図9において、音響整合媒体ユニット102は、上述した回転体の一部を構成するものである。音響整合媒体ユニット102は、中空ケース104、音響整合媒体106等を備えている。中空ケース104は、電子走査方向に伸長した円筒状の中空体であり、それは上ケース114と下ケース116とからなる。更にそれは側面板118,120を有している。上ケース114の中央部には上側開口108が形成されており、その上側開口108を介してプローブ19におけるヘッドを中空ケース104の内部に差し込むことが可能である。プローブ19は図示されていないホルダによって保持され、そのホルダが上述した回転フレームに対して連結される。また、そのホルダに対しては中空ケース104が連結される。プローブ19は、電子リニアプローブであるが、他の方式のプローブを利用することも可能である。
【0042】
音響整合媒体106は、具体的には、平坦な袋状のゴム袋と、その内部に充填された液体(例えば水)と、からなるものである。ゴム袋は原形状態において平べったいプレート状の形態を有し、その長手方向の長さは中空ケース104の軸方向の長さにほぼ等しい。もちろん、それよりも短く設定することが可能である。ゴム袋の短手方向の長さは適宜定めればよく、後に説明するように膨出部分112が十分に形成されるようにゴム袋の幅や厚みを設定するのが望ましい。また液体の充填量も同様の条件の下で設定するのが望ましい。
【0043】
下ケース116には、上側開口108よりも大きなサイズをもった下側開口110が形成されている。ゴム袋内には多量の液体が充填されるので、これによって音響整合媒体106の一部分が下側開口110から下方に突出して膨出部分112を生じさせる。また、後に説明するように、中空ケース104の両端部内には一対のフック部材が設けられ、音響整合媒体106の両端部を上方につり上げながらそれらが引っ掛けられているので、そのような作用によって、それに加えて、プローブ19が上方から差し込まれて音響整合媒体106の中間部分が下方に押し込まれるために、下方へ膨らみ出た膨出部分112が生じる。膨出部分112を中心としてゴム袋全体として張力が高められており、膨出部分112の弾力性は十分に高められている。つまり膨出部分112の形状保持性が高められている。同時に、プローブ19における送受波面との密着性が高められている。
【0044】
図10には、下ケース116の分解斜視図が示されている。上述したように、下ケース116は比較的大きな下側開口110を有している。その両端部には部材122,124を介して側面板118,120が取り付けられる。注目すべきことは、中空ケースの内部に一対のフック部材126,130が設けられている点である。各フック部材126は、下ケース116の内底面上に固定的に配置されている。各フック部材126,130は、下端部分126A,130A、それに連なる起立部分126B,130B、及び、それに連なる上端分126C,130Cを有する。下端部分126A,130Aが上述した内底面上に固定されており、そこから起立した起立部分126B,130Bの端部が上端部分126C,130Cを構成している。それらは外側に突出した形態を有している。これによってゴム袋の端部を引っ掛けることが可能となっている。
【0045】
図11には、中空ケース104内に音響整合媒体106を装着した初期状態が示されている。音響整合媒体106の両端部は上述したフック部材によって中空ケース104の両端部内で引っ掛けられている。図11においては、右端部が断面図として示されているので、右端部を代表してフック部材126の作用を説明する。音響整合媒体106の右端部134は、フック部材126を乗り越えて中空ケース104の右端部132内にまで伸びている。中空ケース104の中間部分と右端部132との間にフック部材126が設けられ、その上端部分の上面と上ケース114の内面との間の隙間は極めて小さく、事実上その隙間に右端部132が挟み込まれたような状態となる。フック部材126の上端部分は外側に突出しており、また音響整合媒体106の右端部134には若干の液体が収容されているため、その部分は肥大しており、そのようなことからあるいはフック部材126の形状により、媒体106における右端部134がフック部材126によって引っ掛け固定されることになる。中空ケース104における左端部においても同様の作用が発揮される。以上の状態においては、上側開口108を介して音響整合媒体106の上面部分が若干上方へ膨らみ出て、また、下側開口110を介して音響整合媒体106の下側部分が下方に比較的大きく膨らみ出て、その部分が膨出部分112を構成する。フック部材126により音響整合媒体の端部が上方に引き上げられつつ、その中間部分が下方へ押し込まれた状態となるので、音響整合媒体18、特にゴム袋における張力が高められる。
【0046】
ちなみに、上ケース114の上側開口108の周縁には複数のピン136が設けられている。それらのピンは以下に説明するホルダを位置決めするためのピンである。垂直に起立したピン136は、横ピン140を左右方向に運動させるための操作ピンであり、横ピン140がホルダの横穴に挿入されると、中空ケース104とホルダとが固定連結される。ただし、両者は互いに着脱可能である。
【0047】
図12には、プローブ19が中空ケース104に対して取り付けられた状態が示されている。中空ケース104上にはホルダ142が連結されており、そのホルダ142は枠144と、その一方側開口を閉めるカバー146と、により構成されている。ホルダ142によってプローブ19が確実に保持されている。ホルダ142の位置決めにあたっては上述した複数のピン136が機能しており、またホルダ142に形成された複数の横穴には複数の横ピン140が差し込まれている。
【0048】
プローブ19における下面すなわち送受波面19Aが音響整合媒体106における上面部分中央を上方から下方へ強く押し込んでおり、その結果、大きな膨出部分112が生じている。複数のフック部材によって音響整合媒体の両端部がクリップされた状態において上述のように音響整合媒体の中間部分が上方から下方へ押し込まれるならば、膨出部分112がより大きく膨らみ出て、同時にそれを包み込むゴム袋の張力が大きく高められる。その状態では、音響整合媒体106の上面と送受波面19Aとの密着度は十分に高められる。必要に応じて、両者間にゼリーのような音響整合材を設けるようにしてもよい。このような状態において、膝の超音波診断に際して、膝150の表面に膨出部分112が当接されるならば、膝150の表面形状に沿って膨出部分112が変形すると同時に、それ自体も横方向に膨らみ変形し(符号112A参照)、また、中空ケース104の内部に部分的に音響整合媒体106が膨らみ出て(134A参照)、ゴム袋の張力がより高められることになる。中空ケースの内部は有限であり、音響整合媒体106がはみ出る空間サイズは制限されているため、専ら膨出部分112に張力が集中することになる。その結果、プローブ19がどのような姿勢にあっても、その送受波面19Aと膝の表面との間に確実に音響整合媒体を介在させることが可能となる。すなわち重力が働いていても、膨出部分112の形状保持作用が高められているので、超音波の伝搬経路上に液体を十分に満たすことが可能となる。
【0049】
ちなみに、図12において、音響整合媒体106の両端部を引っ掛ける高さは、プローブ19における送受波面19Aの高さよりも上方に設定されている。送受波面19Aの高さは、側面方向から見た場合に、下側開口よりも下方に位置しており、すなわち下側開口のレベルよりも送受波面のレベルの方が低い。その結果、下側開口と生体との間の距離が小さくなった場合においても、下側開口の開口縁が生体に衝突したりあるいは中空ケース104の他の部分が生体に衝突したりすることを効果的に防止可能である。
【0050】
図13には側面図が示されている。ホルダ142は上方から見てコ字状の形態を有する枠144と、その一方面側を塞ぐカバー146と、により構成されている。符号152で示されるように、膝の表面上においてプローブ19が回転運動を行うと、膨出部分112が当初の変形状態から更に変形することになるが(符号112B)、上述したように形状保持作用が十分に高められているため、生体と送受波面との間における超音波ビーム経路上に液体を十分に満たすことが可能となっている。
【0051】
次に、図14を用いて、脛当て54に関する機構について説明する。脛当て54は、図14における座部48の下方に設けられている。具体的には、傾斜状態で位置決められるプレートと、プレート154上に設けられ半円筒形状をもった2つのパッド158,160と、が設けられている。2つのパッド158,160の間に事実上の谷部が形成されている。谷部に脛が位置決められる。プレート154は回転軸156上に取り付けられており、その回転軸156は回転軸162に取り付けられている。回転軸162は、座部48の下部中央に設けられ、奥側から前方方向に伸長している。回転軸162周りにおいて回転軸156が右側及び左側へ倒れ込み運動可能であり、図14においては右側に倒れ込んだ状態が実線で描かれている。回転軸156を左側に倒し、更にプレート160を反転させると、符号54Aで示すように左足用の計測状態を構築することができる。すなわち脛当て54は左右兼用である。プレート158の角度を調整できるように構成してもよい。軸160は座部48に取り付けられており、座部48の上下方向の運動に伴って軸160も上下運動している。図示された膝当て54以外の構造をもったものを利用するようにしてもよい。
【0052】
図15には、他の実施形態に係る膝測定システムの構成例が示されている。このシステム164は、膝測定装置166と椅子168とからなり、膝測定装置166はアーム機構172と計測機構174とを有している。それらの構成は図1に示したものと同様である。アーム機構172は前後方向に大型化されたベース170に搭載されている。
【0053】
一方、椅子168はベース176に搭載されており、ベース176とベース170は連結用の2つのスライド用ポール178によって相互に連結されている。このように、計測装置166と椅子168とを一体化するようにしてもよい。上記以外の構成例としては、計測機構174を天井から吊す態様が考えられる。あるいは、椅子168の後ろ側から上方空間を経由してアームによって計測機構174を保持する態様が考えられる。横方向から計測機構174を保持するようにしてもよい。いずれにしても、膝の前方空間をできる限り解放することにより、被検者における心理的な圧迫感を軽減することが可能である。また、計測機構174を吊り下げることにより、あるいはアーム機構によって支持することにより、被検者に対する荷重負担を大幅に軽減することが可能である。
【0054】
上述した実施形態に示された音響整合媒体ユニットは膝の測定以外の部位の測定においても利用可能である。上述した実施形態においては機械的にプローブが走査されていたが、マニュアルでプローブを走査する場合においても上述したユニットを利用することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
10 膝計測システム、12 膝計測装置、14 椅子、18 計測機構、19 プローブ、20 アーム機構、102 音響整合媒体ユニット、104 中空ケース、126,130 フック部材。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブが組み付けられた状態で、前記プローブにおける電子走査方向に交差する方向へ走査され得る音響整合媒体ユニットであって、
前記電子走査方向に伸長した形態を有し、外力により変形する音響整合媒体と、
前記電子走査方向に伸長した形態を有し、前記音響整合媒体を部分的に収容する中空部材であって、前記プローブを受け入れる上側開口と、前記音響整合媒体の生体側への部分的なはみ出しを許容することによって膨出部を生じさせる下側開口と、前記音響整合媒体における前記電子走査方向の両端部を保持する保持構造と、を有する中空ケースと、
を含むことを特徴とする音響整合媒体ユニット。
【請求項2】
請求項1記載のユニットにおいて、
前記保持構造は、
前記中空ケースにおける右側ケース端部の中に設けられ、前記音響整合媒体における右側媒体端部に引っ掛けられて、当該右側媒体端部が前記下側開口の方へ引き戻されることを防止する右側フックと、
前記中空ケースにおける左側ケース端部の中に設けられ、前記音響整合媒体における左側媒体端部に引っ掛けられて、当該左側媒体端部が前記下側開口の方へ引き戻されることを防止する左側フックと、
を含むことを特徴とする音響整合媒体ユニット。
【請求項3】
請求項2記載のユニットにおいて、
前記右側フックによる前記右側媒体端部の引っ掛けレベル及び前記左側フックによる前記左側媒体端部の引っ掛けレベルは前記組み付けられた状態にあるプローブの送受波面のレベルよりも上方に設定されている、
ことを特徴とする音響整合媒体ユニット。
【請求項4】
請求項2又は3記載のユニットにおいて、
前記右側フック及び前記左側フックは、それぞれ、前記中空ケースの底面から起立した起立部分と、前記起立部分の先端から外向きに突出した突出部分と、を有する、
ことを特徴とする音響整合媒体ユニット。
【請求項5】
請求項4記載のユニットにおいて、
前記各突出部分の上面と前記中空ケースの天井面との間に前記各媒体端部が挟み込まれる、
ことを特徴とする音響整合媒体ユニット。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のユニットにおいて、
前記中空ケースに連結されて前記プローブを保持するホルダを含み、
前記ホルダは、正面方向から見て、前記プローブの送受波面が前記下側開口よりも下方へ突出するように前記プローブを保持する、
ことを特徴とする音響整合媒体ユニット。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のユニットにおいて、
当該音響整合媒体ユニットは、膝の内部に存在する軟骨を超音波診断するために、屈曲状態におかれた前記膝の表面に沿って円弧状に機械的に走査されるものである、ことを特徴とする音響整合媒体ユニット。
【請求項1】
プローブが組み付けられた状態で、前記プローブにおける電子走査方向に交差する方向へ走査され得る音響整合媒体ユニットであって、
前記電子走査方向に伸長した形態を有し、外力により変形する音響整合媒体と、
前記電子走査方向に伸長した形態を有し、前記音響整合媒体を部分的に収容する中空部材であって、前記プローブを受け入れる上側開口と、前記音響整合媒体の生体側への部分的なはみ出しを許容することによって膨出部を生じさせる下側開口と、前記音響整合媒体における前記電子走査方向の両端部を保持する保持構造と、を有する中空ケースと、
を含むことを特徴とする音響整合媒体ユニット。
【請求項2】
請求項1記載のユニットにおいて、
前記保持構造は、
前記中空ケースにおける右側ケース端部の中に設けられ、前記音響整合媒体における右側媒体端部に引っ掛けられて、当該右側媒体端部が前記下側開口の方へ引き戻されることを防止する右側フックと、
前記中空ケースにおける左側ケース端部の中に設けられ、前記音響整合媒体における左側媒体端部に引っ掛けられて、当該左側媒体端部が前記下側開口の方へ引き戻されることを防止する左側フックと、
を含むことを特徴とする音響整合媒体ユニット。
【請求項3】
請求項2記載のユニットにおいて、
前記右側フックによる前記右側媒体端部の引っ掛けレベル及び前記左側フックによる前記左側媒体端部の引っ掛けレベルは前記組み付けられた状態にあるプローブの送受波面のレベルよりも上方に設定されている、
ことを特徴とする音響整合媒体ユニット。
【請求項4】
請求項2又は3記載のユニットにおいて、
前記右側フック及び前記左側フックは、それぞれ、前記中空ケースの底面から起立した起立部分と、前記起立部分の先端から外向きに突出した突出部分と、を有する、
ことを特徴とする音響整合媒体ユニット。
【請求項5】
請求項4記載のユニットにおいて、
前記各突出部分の上面と前記中空ケースの天井面との間に前記各媒体端部が挟み込まれる、
ことを特徴とする音響整合媒体ユニット。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のユニットにおいて、
前記中空ケースに連結されて前記プローブを保持するホルダを含み、
前記ホルダは、正面方向から見て、前記プローブの送受波面が前記下側開口よりも下方へ突出するように前記プローブを保持する、
ことを特徴とする音響整合媒体ユニット。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のユニットにおいて、
当該音響整合媒体ユニットは、膝の内部に存在する軟骨を超音波診断するために、屈曲状態におかれた前記膝の表面に沿って円弧状に機械的に走査されるものである、ことを特徴とする音響整合媒体ユニット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−85565(P2013−85565A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225777(P2011−225777)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
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