説明

音響整合層

【課題】超音波流量計において超音波を効率よく送受信するため音響整合層を用いる。音響整合層は密度が軽く、音速の遅い特性が求められるため多孔質体構造が用いられる。しかしながらセラミック多孔質体の作製において焼成時に収縮や反りが発生するという課題がある。
【解決手段】難焼結性のセラミック粉末を有するセラミックススラリーにアクリル球の空孔形成材を混合してゲル化し、得られたゲル状成形体を乾燥、脱脂、空孔形成材の焼き飛ばし、焼成してセラミックス多孔体22の音響整合層を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波送受信装置に用いられ、効率よく超音波を送信または受信するための音響整合層に関するものである。
【背景技術】
【0002】
音響整合層は超音波送信装置から気体中へ効率よく超音波を送信するために用いられる部材で、超音波周波数で振動する圧電振動子の振動を、気体中へ効率よく伝達するため、圧電振動子と気体との間に設けられる。その役割は特許文献1(薄膜構造体に補助材料を混合し、補助材料を蒸発させて空孔形成を行う)に記載されている。また、気体中を伝播してきた超音波を超音波受信装置で受信する場合にも、音響整合層は効率よく受信できるように作用する。
【0003】
従来の音響整合層の製造方法は、特許文献1、特許文献2、特許文献3に記載されている。これらはいずれも無機物であり、多孔体構造とすることで低密度とし、音響整合層に必要とされる特性である低密度・低音速を実現するものである。
【0004】
無機物で構成することで温度による特性変化が小さいことや、耐ガス性が向上する特徴がある。また、多孔体の孔の大きさは超音波が音響整合層中を伝播する際に障害にならないような大きさにされている。
【0005】
特許文献2は、中空球体のマトリクスを組み隣接する中空球体のマトリクスの接点で相互に結合しているが、中空球体間には空隙が存在する構成である。この構造体の音速は約900m/s、音響インピーダンスは約4.5×105kg/m2sと記載されている。音響インピーダンスは密度と音速の掛け算で定義されるので、この中空球体のマトリクスは密度が約0.5g/cm3であると考えられる。
【0006】
一方、特許文献4には無機酸化物の乾燥ゲルからなる音響整合層が記載されている。これも多孔体構造であり、孔の大きさがナノメータの単位で形成されることが記載されている。特許文献3では、このような無機酸化物の乾燥ゲルを用いることが記載されており、これによれば無機酸化物の乾燥ゲルは、密度が0.5g/cm3以下、音速が500m/s以下のものが得られると記載されている。同公報の音響整合層(同公報では「音響整合部材」と記載されている)は、第1層と第2層を有する複合構造で、第1層の音響インピーダンスZ1と第2層の音響インピーダンスZ2とは、Z1>Z2の関係になるようにしており、第2層に無機酸化物の乾燥ゲルを用いている。第1層には同公報の「実施例1」の「(1)多孔質体の形成」に記載されているように、アクリル製微小球とSiO2粉とガラスフリットを混合した粉体をプレスした後に、400℃の熱処理でアクリル製微小球除去して空隙を形成し、さらに900℃の熱処理で焼結させる製造方法で得られた多孔質体を、適切な大きさ(同公報では直径12mm、厚さ0.85mm)に研磨して用いることが記載されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、音響整合層を音響インピーダンスの異なる複数の部材、特に異なる部材によって構成することに有用性があることが記載されている。これを実現するために、前記第1層の音響整合層(多孔質体)にゲル化して乾燥する前の流動性を有する無機酸化物材料を充填してから固形化して前記第2層の音響整合層を形成することが記載されている。この製造方法によれば前記第1層と前記第2層とは一部分の連続性により一体化しているため、物理的形状効果(アンカー効果)があり層間での剥離が起こりにくいと記載されている。
【0008】
図7は前記第1層1と前記第2層2との複合構造の音響整合3の断面構造を示したもので、第1層2の音響整合層(多孔質体)の空隙部分4にも第2整合層2を形成する乾燥ゲルが侵入している。前記第2層は乾燥ゲルのみで形成されている。
【0009】
図8は複合構造の音響整合3を用いた超音波送信、または受信装置の断面構造を示したものである。送信の場合は、端子5,6間に信号が印加されると、振動子7が励振され複合構造の音響整合3を伝播して、気体8中に超音波が放射される。受信の場合は、これとは反対に気体8中から進入した超音波は、複合構造の音響整合3を伝播して振動子7が励振されることで、端子5,6間に電圧が発生する。
【0010】
このように音響整合層には無機材料からなる多孔質体を用いているが、この多孔質体の製造にはさまざまな方法がある。
【0011】
音響整合層としてではないが、特許文献5に記載されている方法もセラミックス多孔体の製造方法の一つである。これは難焼結性のセラミックス粉末を有する含気泡セラミックススラリーをゲル化して得たゲル状多孔質成型体を乾燥、脱脂、焼成してセラミックス多孔体を得る製造方法で、開気孔率60%以上のものを得ることが出来ることが記載されている。この方法は、セラミックススラリーに界面活性剤を加えて攪拌することで気泡を導入した後、ゲル化剤を加えてスラリーをゲル化するものである。
【特許文献1】特開2002−51398号公報
【特許文献2】特開平2−177799号公報
【特許文献3】特開2004−45389号公報
【特許文献4】特開2002−262394号公報
【特許文献5】特開2001−261463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献3に述べられる、前記従来の構成で製造された、多孔質体(セラミックス多孔体)の音響整合層(第1層)は熱処理で焼結させた後に、適切な大きさ(同公報では直径12mm、厚さ0.85mm)に研磨する必要があり、手間がかかるという課題があった。研磨作業の必要性は、アクリル製微小球とSiO2粉とガラスフリットを混合した粉体をプレスしたときの大きさが、直径17.62mm、厚さ3.11mm、体積758mm3の円盤であるのに対して、焼成後は直径12.5mm、厚さ1.95mm、体積239mm3と焼成前体積の約1/3に収縮し、反りが発生するために生じる。反りの原因はアクリル製微小球が均一に分散していないためと考えられる。
【0013】
特許文献5に述べられる、難焼結性のセラミックス粉末を有する含気泡セラミックススラリーをゲル化して得たゲル状多孔質成型体を乾燥、脱脂、焼成してセラミックス多孔体を得る製造方法は、ゲル状多孔質成型体と、それを乾燥、脱脂、焼成して得られたセラミックス多孔体との寸法を比較すると数%の寸法変化しか発生しない。
【0014】
このため、例えば、長さ100mm、直径13mmの棒状のゲル状多孔質成型体を作り、これを焼成して得られたセラミックス多孔体は寸法が数%大きくなるだけなので大きな反りがない。得られた棒状セラミックス多孔体を任意の厚さで切断にすることで、音響整合層を作ることができる。このため、アクリル製微小球とSiO2粉とガラスフリットを混合した粉体をプレスして焼成させてアクリル製微小球を蒸発させてセラミックス多孔体を作る方法に比べて、きわめて生産が合理的に行える。
【0015】
しかしながら、難焼結性のセラミックス粉末を有する含気泡セラミックススラリーをゲ
ル化して得たゲル状成型体を乾燥、脱脂、焼成してセラミックス多孔体を得る製造方法には一つの課題がある。これは、セラミックススラリーに界面活性剤を加えて攪拌することで気泡を導入する方法に起因するもので、まれに大きな気泡が混入することである。大きな気泡とは直径が0.5mmより大きなもので2mm近いものもある。このような大きな気泡がセラミックス多孔体の空隙となると、超音波の伝播に支障をきたすという課題がある。また、空隙径の中心値を100μm以下になるようにすることも困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記従来の課題を解決するために、本発明の音響整合層は難焼結性のセラミック粉末と空孔形成材を有するセラミックススラリーをゲル化して得たゲル状成形体を乾燥、脱脂、空孔形成材の焼き飛ばし、焼成してセラミックス多孔体を得るようにしたものである。
【0017】
この方法で得られたセラミックス多孔体は空隙の大きさが空孔形成材の大きさで決まるので、直径が0.5mmより大きな空隙を作らないようにすることが容易くなる。
【0018】
また、直径が100μm以下の空孔形成材を用いれば、空隙径の中心値を100μm以下にすることができる。
【0019】
また、セラミック粉末にSiCおよび空孔形成材にアクリルの微小球を使用し、水、分散材を加えてセラミックススラリーを作ることで、球体状のアクリルが均一に分布する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の音響整合層は、難焼結性のSiCを主としたセラミック粉末を有するセラミックススリーに空孔形成材としてアクリルの微小球をもちいることにより、これをゲル化して得られたゲル状成形体は、セラミックススラリーの粘性とSiCやアクリルの密度の関係から、アクリル微小球を均一に分散させることができる。ゲル化して得たゲル状成形体を、乾燥、脱脂し、アクリル微小球を焼き飛ばして、さらに焼成して得られたセラミックス多孔体は、ゲル状成形体に比べて収縮はするものの、棒状の形状に大きな反りが発生するほどではなく、その後の加工が容易になるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
第1の発明は、難焼結性のセラミック粉末を有するセラミックススラリーに空孔形成材を混合してゲル化し、得られたゲル状成形体を乾燥、脱脂、空孔形成材の焼き飛ばし、焼成して得られたセラミックス多孔体の音響整合層とすることにより、低密度、低音速の音響整合層とすることができる。また、多孔体の空隙の大きさは空孔形成材で制御することができる。
【0022】
第2の発明は、セラミック粉末にSiCおよび空孔形成材にアクリルを使用することにより、セラミックススラリーの粘性とSiCやアクリルの密度の関係から、アクリルを均一に分散することができる。もともとSiCを用いたセラミックススラリーをゲル化して成形体にして焼成した場合、ゲル化した成形体と焼成体の寸法差異が数%程度と小さいという特性に加え、アクリルの分布が均一なことから、アクリルを焼き飛ばす段階で大きな反りが発生せず、また、SiCを焼成したときの寸法変化が小さいので、その後の音響整合層を作るための加工が容易になるという効果がある。
【0023】
第3の発明は、アクリルは重量比でセラミックススラリー重量の80%以下とすることで、アクリル量の最適化をはかることができる。80%より多くいれても、アクリルを焼き飛ばす段階で収縮の度合いが大きくなり焼成後の密度低減効果は少なくなる。
【0024】
第4の発明は、難焼結性のセラミック粉末を有するセラミックススラリーに空孔形成材
を混合してゲル化し、得られたゲル状成形体を乾燥、脱脂、空孔形成材の焼き飛ばし、焼成して得られたセラミックス多孔体(第1の多孔質体)とセラミックス多孔体の空隙にそれよりも密度が軽く音速の遅い多孔質体である無機酸化物の乾燥ゲル(第2の多孔質体)を複合することで、強度の弱い第2の多孔質体を第1の多孔質体で保護することができる。
【0025】
第5の発明は、焼成後のセラミックス多孔体の空隙の大きさが中心値で100μm以下になるように制御することで、第2の多孔体の保護作用が向上する。
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、この実施の形態において本発明が限定されるものではない。
【0027】
(実施の形態1)
図1(a)は、本発明の第1の実施の形態における音響整合層の構造を示す断面図である。
【0028】
この音響整合層は、形状が直径10.8mm、厚さ0.8mmの円盤型で、空隙20と骨格21を有するセラミックス多孔体22である。このセラミックス多孔体22は難焼結性のセラミック粉末(例えばSiC粉末)を有するセラミックススラリーに空孔形成材を混合してゲル化して得たゲル状成形体を乾燥、脱脂、空孔形成材の焼き飛ばし、焼成して得られる。
【0029】
セラミックススラリーの中に分布する空孔形成材分が焼成後の空隙となる。空隙はいくつかが連なって連通孔となっている。
【0030】
図1(b)は、セラミックス多孔体22を音響整合層として用いた超音波送受信装置の構造を示した断面図である。端子23は、導電性材料25を介して振動子26の一端の電極に電気的に接続されている。また、端子24は金属製のケース27に接触しているので、金属ケースを介して振動子26の他端の電極に電気的に接続されている。端子23と24の間に信号を印加すると、振動子26が励振され、その振動が音響整合層であるセラミックス多孔体22を伝播して気体28中に放射される。
【0031】
図2は、本発明の第1の実施の形態における音響整合層の製造工程を示した工程図である。
【0032】
工程31の混合・粉砕はSiC粉を粉砕して粒子の大きさをそろえながら、水・モノマーとの混合材料をつくる工程である。工程32の空孔形成材混合は、10μm程度のアクリル球を混合する工程である。SiCの密度は3g/cm3程度で、アクリル球の密度は1g/cm3程度であるが、水・モノマーとの混合材料の粘性の関係からアクリル球をきわめて均一に分散することができる。
【0033】
工程33の脱気・N2置換は投入材料34の触媒、ゲル化剤が酸素のある雰囲気では反応しにくいため雰囲気から空気を取り除き窒素に置換する工程である。この工程は、必ずしも必要なものではないがゲル化の時間短縮やゲル化剤の確実な反応のためには有効な工程である。
【0034】
投入材料34を入れて攪拌した後は、長さ100mm程度の棒状型に空孔形成剤を含むセラミックススラリーを鋳込みゲル化を待つ(工程35)。ゲル化して固まった成形体は型から取り出し工程36の乾燥を行う。これは空気雰囲気中で行える。工程37の空孔形成材の焼き飛ばしは、ゆっくりと温度を上げて行い、アクリルを蒸発させていく。その後
さらに温度を上げて、SiC粉末とそれらをつなぐガラスとを焼成する。工程38の形状加工・洗浄は棒状焼成体を任意の厚さに加工して洗浄する工程である。
【0035】
以上のようにして作られたセラミックス多孔体は、超音波の伝播を阻害しない大きさの空隙を有し、その空隙の量は全体積の約80%を占め、密度が約0.43g/cm3程度のものとすることができ、音速は2000m/sから3000m/s程度である。
【0036】
アクリル球の空孔形成剤を含むセラミックススラリーをゲル化し、得られた成形体を焼成して得られるセラミック多孔体の密度を、アクリル球を含まないセラミックススラリー重量に対する、アクリル球の重量をパラメータにした場合の密度特性を図3に示す。同図に示されるように、セラミック多孔体の密度はセラミックススラリー重量に対するアクリル球の相対量を増やしても0.43g/cm3程度で飽和している。これはアクリル球を焼き飛ばし、かつ焼成した場合に焼成体の収縮がおこり、結果としてアクリル球の相対量を増やしても密度が減少しないためである。但し、加工ができないほどの大きな反りは発生していない。従って、セラミック多孔体の密度低減にはアクリル球の量は、重量割合でアクリル球を含まないセラミックススラリー重量の80%以下が有効で、それ以上はアクリル球の量を増やしても無駄である。
【0037】
(実施の形態2)
図4(a)は、本発明の第2の実施の形態における音響整合層の構造を示す断面図である。
【0038】
この音響整合層44は、形状が直径10.8mm、厚さ1.8mmの円盤型で、空隙と骨格を有するセラミックス多孔体である第1の多孔質体42と、第1の多孔質体42の空隙に設けた第2の多孔質体43からなる複合型である。第1の多孔質体42の空隙の大きさは、およそ20μmで、第2の多孔質体43の空隙の大きさは、およそ100nmである。セラミックス多孔体42は(実施の形態1)と同様に、難焼結性のセラミック粉末(例えばシリコンカーバイド粉末)を有するセラミックススラリーに空孔形成材であるアクリル球を混合してゲル化し、得たゲル状成形体を乾燥、脱脂、空孔形成材の焼き飛ばし、そして焼成してつくられる。
【0039】
図4(b)は、複合型の音響整合層44を音響整合層として用いた超音波送信装置の構造を示した断面図である。ちなみに超音波受信装置も同等な構成である。端子23は、導電性材料25を介して振動子26の一端の電極に電気的に接続されている。また、端子24は金属製のケース27に接触しているので、金属ケースを介して振動子26の他端の電極に電気的に接続されている。端子23と24の間に信号を印加すると、振動子26が励振され、その振動が音響整合層44を伝播して気体28中に放射される。
【0040】
以上のようにして作られた音響整合層44は、第1の多孔体42と第2の多孔体43とからなる複合構造とし、第2の多孔体43は第1の多孔体42よりも密度が軽く空隙の微小な材料を用いる構成とすることで超音波送信装置に用いた場合に(実施の形態1)に比べて超音波出力を増大させることができる。これは、音響整合層44の気体と接触する面に存在する空隙の大きさが小さくなることで、表面粗さが小さくなり、振動で気体を押したり引いたりするときの効率がよくなるからと考えられる。第2の多孔質体43に用いる密度が軽く空隙の微小な材料については後述するが、密度を軽くすることで、一般的に強度的に弱くなり、それ単独では扱いにくくなる。このため、第1の多孔質体42であるセラミックス多孔体の空隙に、このような材料を充填することで、その材料の機械的な保護が可能になる。そして、第1の多孔質体42の空隙が小さいほうがより保護しやすくなる。
【0041】
(実施の形態3)
図5は、本発明の第3の実施の形態における複合構造の音響整合層の第2の多孔質体(乾燥ゲル)の製造工程を示した工程図である。
【0042】
原料準備51は主原料であるテトラエトキシシランと、これを加水分解するための水、エタノール、触媒の塩酸を加えて混合溶液を作る工程である。モノマー重合52は前工程で得られた混合溶液にアンモニア触媒を加えてゲル化する工程である。
【0043】
表面加水分解53は、水、エタノールを加えることで、ゲル化で得られたシリカ骨格の一部を加水分解する工程である。ゲル骨格増強54は、テトラエトキシシラン、水、エタノール、アンモニア触媒を加えることで、ゲル化で得られたシリカ骨格を補強する(重量を増やす)工程である。この工程では溶液濃度、反応時間、温度の管理によってゲルが任意の密度になるように制御される。反応停止55は、溶液をイソプロピルアルコールに置換することで、ゲルの骨格増強のための反応が停止させる。
【0044】
シラン処理56はシランカップリング液を用いた疎水化処理で、最終的に得られる乾燥ゲルが、吸湿しないようにするための処理である。反応停止57は溶液をイソプロピルアルコールに置換することでシラン処理反応を停止させる。
【0045】
乾燥58はイソプロピルアルコールを蒸発させて、乾燥ゲルを作る最終工程である。
【0046】
このような製造工程で作製されたシリカ乾燥ゲルは密度が0.3g/cm3程度に調整され、その音速は、500m/sec程度となるので、この乾燥ゲルの音響インピーダンスは、第1の多孔質体のセラミックス多孔体の音響インピーダンスよりも小さい。また、空隙の大きさは数nmから100nmである。密度が小さいためもろく、シリカ乾燥ゲル単独では扱いにくい欠点があるが、疎水化していることや空隙が小さいことから、空隙内部に水、ミスト、油煙が浸入することや、ゴミ、ホコリ、砂、粉塵が浸入しにくい利点がある。
【0047】
図6は、セラミックス多孔体である第1の多孔質体42の空隙に第2の多孔質体であるシリカ乾燥ゲルを容器内で形成する様子を示した容器断面図である。載置型61に第1の多孔質体42を配置して容器62に入れ、図5で示した工程をこの容器62の中で実行する。第2の多孔質体であるシリカ乾燥ゲルの原料は、テトラエトキシシランをはじめとしすべて液体であるので、第1の多孔質体42のセラミックス多孔体の空隙に浸透してこれらを埋める。そして、以降の工程を実行することでセラミックス多孔体の空隙にシリカ乾燥ゲルを形成することができる。
【0048】
音響整合層の特性は音響インピーダンス(音速×密度)で現される。超音波送信装置から効率よく超音波を空気などの物質中に放射するための音響整合層の最適な音響インピーダンスは、空気などの物質により決まるが、従来のものは最適値よりも大きな音響インピーダンスを持つか、あるいは、最適値に近い音響インピーダンスを持っていても超音波の伝播損失が大きいものがほとんどで、超音波を効率よく放射することが難しい。音響インピーダンスを小さくするために、音響整合層を構成する物質の密度を軽くすると、一般的に、物質を形成する粒子(あるいは分子)間の結合が弱くなることで、物質が柔らかくなり、また、もろくなったりするため超音波の伝播が減衰する。
【0049】
この点を考えると、シリカなどの無機酸化物の乾燥ゲルは密度が軽いが、硬い(粒子あるいは分子間の結合は強い)ので超音波の伝播がよい。しかしながら非常な低密度のため、折れやすく割れやすい。このため、無機酸化物の乾燥ゲルを保護する構造が必要となる。このため、強度的に優位なセラミックス多孔体を無機酸化物の乾燥ゲルを保護するため
に用いること有効である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上のように、本発明にかかる音響整合層は気体と振動子との音響インピーダンスの整合をとり、超音波発生装置からの超音波出力を向上し、また、気体を伝播する超音波を受信する超音波受信装置の受信出力を向上させることができるので、天然ガスや液化石油ガス流量を測定する業務用や家庭用の超音波式ガス流量測定装置(ガスメータ)や、水素のように音速が早く、振動子との音響インピーダンスの整合をとりにくいガスの流量を測定する超音波式の流量測定装置の用途に展開できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】(a)本発明の実施の形態1における音響整合層の構造を示す断面図(b)本発明の実施の形態1における音響整合層を用いた超音波送受信装置の構造を示す断面図
【図2】本発明の実施の形態1におけるセラミックス多孔体の製造工程を示した工程図
【図3】本発明の第1の実施の形態におけるセラミック多孔体の密度特性図
【図4】(a)本発明の第2の実施の形態における音響整合層の構造を示す断面図(b)本発明の実施の形態2における音響整合層を用いた超音波送受信装置の構造を示す断面図
【図5】本発明の実施の形態3における複合構造の音響整合層の第2の多孔体(乾燥ゲル)の製造工程を示した工程図
【図6】本発明の実施の形態2における音響整合層を製造する容器の断面図
【図7】従来の音響整合層の構造を示した断面図
【図8】従来の音響整合層を用いた超音波送受信装置の断面図
【符号の説明】
【0052】
22 セラミックス多孔体
42 第1の多孔質体
43 第2の多孔質体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難焼結性のセラミック粉末を有するセラミックススラリーに空孔形成材を混合してゲル化し、得られたゲル状成形体を乾燥、脱脂、空孔形成材の焼き飛ばし、焼成して得られたセラミックス多孔体の音響整合層。
【請求項2】
セラミック粉末にSiCおよび空孔形成材にアクリルを使用した請求項1記載の音響整合層。
【請求項3】
アクリルは重量割合でアクリルを含まないセラミックススラリー重量の80%以下とした請求項2記載の音響整合層。
【請求項4】
第1の多孔質体と、前記第1の多孔質体の空隙に形成される第2の多孔質体からなり、前記第1の多孔質体は、難焼結性のセラミック粉末を有するセラミックススラリーに空孔形成材を混合してゲル化し、得られたゲル状成形体を乾燥、脱脂、空孔形成材の焼き飛ばし、焼成して得られたセラミックス多孔体とし、前記第2の多孔質体は前記セラミックス多孔体よりも密度が軽く音速の遅い多孔質体である無機酸化物の乾燥ゲルとした音響整合層。
【請求項5】
焼成後のセラミックス多孔体の空隙の大きさは中心値が100μm以下になるように空孔形成材で制御された請求項4記載の音響整合層。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−160636(P2008−160636A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349160(P2006−349160)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】