説明

音響波取得装置およびその制御方法

【課題】光音響測定に用いる探触子の受信素子間の受信特性のばらつきを把握し補正するための技術を提供する。
【解決手段】光を照射された被検体から発生する音響波を取得して被検体情報を算出する音響波取得装置であって、光源と、音響波を受信して受信信号を生成する複数の受信素子と、光源からの光が複数の受信素子に照射されたときに発生する音響波より生成される複数の受信信号から、複数の受信素子の受信特性を求めるとともに、光源からの光が被検体に照射されたときに発生する音響波から生成される複数の受信信号を、受信特性を用いて補正する補正部と、補正された受信信号を用いて被検体情報を算出する処理部を有する音響波取得装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響波取得装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光源から被検体に光を照射することで得られる被検体内の情報を画像データとして生成する光イメージング技術の研究が医療分野で進められている。この光イメージング技術の一つとして、光音響トモグラフィ(PAT:Photoacoustic Tomography)の技術を用いた光音響測定がある。
【0003】
非特許文献1によれば、光音響測定においては、光源から発生したパルス光を被検体に照射する。そして探触子により、被検体内で伝播・拡散した光のエネルギーを吸収した生体組織から発生した音響波の時間による変化を、被検体を取り囲む複数の個所で検出する。そして情報処理装置により、得られた信号に数学的解析処理(画像再構成処理)を施し、被検体内部の光学特性値に関連した情報を可視化する。これにより、被検体内の被検体情報、例えば初期音圧、光学特性値(特に光エネルギー吸収密度や吸収係数)およびそれらの分布を得ることができ、生体内の吸収体の分布や悪性腫瘍場所の特定などに利用できる。
【0004】
光音響トモグラフィにおいて、被検体内部の初期音圧発生点(光吸収体)で発生する初期音圧pは、以下の式(1)で表わされる。
=(βc/C)μF=ΓA …(1)
ここで、βは体積膨張係数[K-1]、cは被検体内の音速[cm/sec]、Cpは
比熱[J/K・kg]である。また、μは光吸収係数[cm-1]、Fは光強度(フル
ーエンス)[J/cm]、Aは単位体積あたりの蓄積エネルギー[J/cm]である。Γはグルネイゼン係数であり、Γ=βc/Cpである。
【0005】
式(1)で分かるように、光音響トモグラフィにおいて、初期音圧pは光強度Fに比例する。
さらに、非特許文献2においては、光音響トモグラフィにより、円弧上に配置されたマルチ探触子でマウス体内の血液や臓器を観察している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M,Xu, L.V.Wang “Photoacoustic imaging in biomedicine”, Review of scientific instruments, 77, 041101(2006)
【非特許文献2】Fairway Medical, A.A.Oraevsky “Whole-body three-dimensional optoacoustic tomography system for small animals” Journal of Biomedical Optics 146, 064007 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光音響トモグラフィにおいて、一般に、音響波の受信には超音波用の探触子が用いられる。具体的には、複数の個所からの信号検出を効率的に行なうことを目的として、複数の受信素子が配置されたマルチ探触子が一般的に用いられる。ここで、探触子の受信素子は圧電素子などで形成されており、各受信素子はその工作精度によって受信特性にばらつきが生じる。また、MEMS技術を用いた超音波受信素子においても、半導体プロセスを用いて製造するとしても、各受信素子の受信特性のばらつきが生じる。
【0008】
さらに、生体等の被検体に対して受信素子を用いた計測を実施する場合にも各受信素子の受信特性にばらつきが生じうる。一般的な光音響計測において音響波の反射を抑えるために、被検体と受信探触子の間にゲルや水などの音響整合剤を満たすことがある。例えば非特許文献2では、被検体と探触子を水槽の中へ入れ、水中で光音響測定を実施している。この場合、探触子表面は常に音響整合剤と接触することを避けられない。そのため、経時的な使用による探触子表面の劣化が生じ、各受信素子の受信特性のばらつきが生じる。
【0009】
ここで各受信素子の受信特性、例えば音響波の周波数帯の感度特性がばらつくと、各受信素子で受信する光音響波の信号強度がばらつく。非特許文献2においては、各受信素子間の感度特性の補正を行なったという記述は無く、受信素子間の受信特性は均一であると仮定して画像再構成が行なわれている。受信素子の受信特性がばらつくのであれば、その結果、再構成後の画面上に強度むらを生じることとなり、測定の再現性が失われる原因となる。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、光音響測定に用いる探触子の受信素子間の受信特性のばらつきを把握し補正するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の構成を採用する。すなわち、
光を照射された被検体から発生する音響波を取得して前記被検体内部の特性を表す被検体情報を算出する音響波取得装置であって、
光源と、
音響波を受信して受信信号を生成する複数の受信素子と、
前記光源からの光が前記複数の受信素子に照射されたときに前記複数の受信素子から発生する音響波より生成される複数の受信信号から、前記複数の受信素子の受信特性を求めるとともに、前記光源からの光が前記被検体に照射されたときに前記被検体から発生して前記複数の受信素子が受信する音響波から生成される複数の受信信号を、前記受信特性を用いて補正する補正部と、
前記補正部により補正された受信信号を用いて前記被検体情報を算出する処理部と、
を有することを特徴とする音響波取得装置である。
【0012】
本発明はまた、以下の構成を採用する。すなわち、
光源と、音響波を受信して受信信号を生成する複数の受信素子と、補正部と、処理部とを有する音響波取得装置の制御方法であって、
前記光源が、前記複数の受信素子に光を照射するステップと、
前記補正部が、前記複数の受信素子から発生する音響波より生成される複数の受信信号から、前記複数の受信素子の受信特性を求めるステップと、
前記光源が、被検体に光を照射するステップと、
前記補正部が、前記被検体から発生して前記複数の受信素子が受信する音響波から生成される複数の受信信号を、前記受信特性を用いて補正するステップと、
前記処理部が、前記補正部が補正した受信信号を用いて、前記被検体内部の特性を表す被検体情報を算出するステップと、
を有することを特徴とする音響波取得装置の制御方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光音響測定に用いる探触子の受信素子間の受信特性のばらつきを把握し補正するための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明における音響波取得装置の構成を示す図。
【図2】本発明における信号処理部の構成を示す図。
【図3】本発明における受信特性の算出のフロー図。
【図4】本発明における信号の補正のフロー図。
【図5】本発明の実施形態8における音響波取得装置の構成を示す図。
【図6】本発明の実施形態3と4における音響波取得装置の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を参照しつつ、本発明の好ましい実施形態について説明する。ただし、発明の範囲はこれらに限定されるものではない。本発明の音響波取得装置は、被検体に光(電磁波)を照射したときに、光音響効果により被検体内の各初期音圧発生点(光吸収体)で発生した、初期音圧を持つ音響波を、探触子の受信素子により受信してアナログの電気信号である受信信号に変換する。そして、信号処理部によって受信信号を増幅、AD変換してデジタル化する。従って本発明の受信信号とはアナログの電気信号とデジタルの電気信号を含む概念であり、双方を区別する必要があれば「アナログの受信信号」または「デジタルの受信信号」と呼ぶ。信号処理部はまた、デジタルの受信信号に画像再構成を行い、初期音圧発生点ごとの被検体情報を生成する。なお音響波とは、音波、超音波などと呼ばれる弾性波を含むものであり、光音響効果により発生した音響波は特に、光音響波や光超音波と呼ばれる。
【0016】
被検体情報は、初期音圧や、それに基づく「光吸収係数値」、「酸素飽和度値」、「光エネルギー吸収密度」等の「光学特性値」、さらに生体構成成分の濃度情報も含む。濃度情報とは、例えば、酸素飽和度や酸化・還元ヘモグロビン濃度、グルコース濃度などである。また、「初期音圧分布」、「光吸収係数分布」や「酸素飽和度分布」等、「特性分布」を表す「画像」や、画像を生成するための画像データも得られる。あるいは、生体組織を光音響測定により可視化することを目的として体外から投与された光音響用造影剤の濃度分布も含みうる。
これらの被検体情報は、被検体の内部に関する情報である。したがって本発明の音響波取得装置は、被検体情報取得装置と呼ぶこともできる。
【0017】
<実施形態1>
まず、図1を参照しながら本実施形態にかかる音響波取得装置の構成を説明する。本実施形態の音響波取得装置は、光音響波から取得した被検体情報に基づく画像データにより、被検体内部を画像化する装置である。被検体が生体の場合、音響波取得装置は、悪性腫瘍や血管疾患などの診断や化学治療の経過観察および、生体内に投与した光音響用造影剤の分布の把握などを目的として、被検体情報を画像化する。
【0018】
(装置構成)
本実施形態の音響波取得装置は、ハード構成として、光源100、光学系101、探触子103、受信特性算出部104、信号処理部105、画像表示部106、制御部107を有する。光学系101から光(拡散パルス光)102が被検体または探触子に照射される。生体などの被検体(不図示)は探触子に接触する位置におかれる。必要に応じて被検体を保持する保持板を設けても良い。
【0019】
(光源)
被検体が生体の場合、光源からは生体のうち特定の成分(例えば血液や光音響用造影剤などの光吸収体)に吸収される特定の波長の光を照射する。光源としては数ナノから数百ナノ秒オーダーのパルス光を発生可能なパルス光源が好ましい。光源としてはレーザが好ましいが、レーザのかわりに発光ダイオードなどを用いることも可能である。レーザとしては、固体レーザ、ガスレーザ、色素レーザ、半導体レーザなど様々なレーザを使用する
ことができる。
なお、本実施形態においては、単一の光源の例を示しているが、複数の光源を用いても良い。複数の光源を用いる状況としては、まず、生体に照射する光の照射強度を上げるため、同じ波長を発振する光源を複数用いる場合がある。また、光学特性値分布の波長による違いを測定するために、発振波長の異なる光源を複数個用いる場合がある。なお、光源として、発振する波長を変換可能な色素やOPO(Optical Parametric Oscillators)を用いたレーザを使用すれば、光学特性値分布の波長による違いを測定することも可能になる。使用する波長に関しては、生体内において吸収が少ない700nmから1100nmの領域が好ましい。ただし、比較的生体表面付近の生体組織の光学特性値分布を求める場合は、上記の波長領域よりも範囲の広い、例えば400nmから1600nmの波長領域を使用することも可能である。
このときの光パルスの時間幅は、光吸収体に吸収エネルギーを効率に閉じ込めるために、熱・ストレス閉じ込め条件が当てはまる程度にすることが好ましい。典型的には1ナノ秒から200ナノ秒程度である。
光吸収体が光エネルギーを吸収すると、光吸収体の温度が上昇し、その温度上昇により体積膨張が起こり、音響波が発生する。
【0020】
(光学系)
光学系は光源からのパルス光を被検体に導く、レンズ、ミラー、光ファイバなどの光学部品である。複数の光源がある場合、それぞれの光源に対して光ファイバを使用して、生体表面に光を導くことも可能であるし、それぞれの光源からの光を一本の光ファイバに導くことで、すべての光を生体に導いても良い。また、光を反射するミラーや、光を集光したり拡大したり、形状を変化させたりするレンズなどの光学部品も使用できる。このような光学部品は、光源から発せられた光が被検体表面の光照射領域に所望の形状で照射されれば、どのようなものを用いてもかまわない。
【0021】
(探触子)
探触子103は、音響波を受信して電気信号に変換するものである。生体から発生する光音響波計測には、100KHzから100MHzの超音波帯域が一般に用いられる。そのため探触子103には上記の周波数帯を受信できる超音波検出器を用いることが望ましい。具体的にはPZT(lead zirconate titanate)やPVDF(PolyVinylideneDiFluoride)のような圧電体による圧電現象を用いたトランスデューサを好適に利用できる。他にも、光の共振を用いたトランスデューサ、静電容量の変化を用いたトランスデューサなど、音響波を検出できるものであれば、どのような探触子を用いてもよい。また、上記の探触子以外にも、探触子表面保護膜や音響整合剤などが形成されていて、それによって照射光強度に応じた音響波を発生させ、検出することのできる探触子であれば、本発明における感度特性の補正に用いることが可能である。
本実施形態の探触子103は、複数の受信素子が2次元的に配置されたものを用いる。このような2次元配列素子を用いることで、同時に複数の場所で音響波を検出することができ、被検体の計測領域の機械走査を一部または全部省略することができる。そのために検出時間を短縮できると共に、被検体の振動などの影響を低減することができる。また、音響波検出器103と被検体との間には、音波の反射を抑えるためのゲルや水などの音響整合剤を使うことが望ましい。
本発明の課題は、使用中の経時的な感度特性の低下などに起因する、各受信素子間における受信特性のばらつきに対処することである。
【0022】
(信号処理部、画像表示部および制御部)
信号処理部105は、探触子103が生成した受信信号の強度が小さい場合は増幅処理を施す。また、アナログの受信信号をAD変換器によってデジタルの受信信号に変換する
。信号処理部105は更に、デジタルの受信信号に対して画像再構成処理を行って被検体内部の被検体情報を表す画像データを生成する。以上のように、信号処理部は受信信号に対して、信号処理機能と画像再構成機能を有している。信号処理部は、各機能を実現する回路の集合であっても良いし、情報処理装置上で各機能を実現するソフトウェアとして構成されても良い。
画像表示部110には、画像データに基づいて形成された、被検体内部の画像が表示される。
また、音響波取得装置の全ての構成要素は、制御部107によって、不図示の制御線を経由して制御されている。
【0023】
(受信特性の算出の概要)
探触子の受信素子ごとの受信特性を算出する手順の概要は次のとおりである。まず、強度分布が既知の光を探触子に照射する。光の照射を受けて探触子の圧電体あるいは探触子表面の保護膜や音響整合剤から発生した光音響波は、探触子の受信素子にて受信される。
【0024】
なお、照射する光の強度分布は、ビームプロファイラ等の光電変換素子やレーザパワーメータにより事前に測定しておく。
探触子に直接照射する光として、光音響測定に用いる拡散パルス光を用いることもできる。しかし、拡散パルス光の光エネルギーは一般にガウシアン分布を持つため、光学系において、拡散板による拡散や、フラットトップ成形等の、均一化処理を施すことが望ましい。均一化光を探触子表面に一様に照射することにより、複数の受信素子に同じ強度の光を照射することができる。
【0025】
均一化光を照射された探触子から発生した音響波に基づき、各受信素子で受信信号が生成され、信号処理部における処理を経て、受信特性算出部104に転送される。受信特性算出部は、受信信号から受信素子ごとの受信特性を算出する。
ここで、「受信特性」としては、各受信素子の感度特性や、周波数特性が例示できる。本実施形態では、受信特性算出部104が感度特性を算出する場合について説明する。感度特性の場合、強度既知の光に対する受信信号の最大振幅を計算する。それぞれのパルス光は強度分布が既知であり、特に均一化光を用いている場合には等しい光量で照射しているため、各探触子が受信する音響波の音圧は等しい。そのため、各受信素子に由来する受信信号の最大振幅を比較すれば、感度特性のばらつきを把握することができる。
これにより、複数の受信素子の受信特性のばらつきを、音響波取得装置特有の簡便な構成で把握することができる。
【0026】
(受信信号の補正の概要)
取得した受信特性に基づいて受信信号を補正する処理の概要を説明する。基本的な考えとしては、受信素子の間で感度特性のばらつきがあると受信信号の強度が正確ではなくなり、被検体情報を正確に取得できないので、感度の低い受信素子の受信信号強度を増幅することで、ばらつきを減少させるような補正を行う。
具体的には、受信特性算出部で算出した受信特性に基づいて受信信号に対する補正値を求める。そして、当該補正値によって受信信号を補正する演算を行う。例えば受信特性として感度特性を求めた場合、受信素子の感度の逆数を補正値として、当該受信素子の受信信号に乗算する。なお本発明では、個々の受信素子に対する補正値の集合したものを補正データと呼ぶ。
【0027】
(具体的な手順)
動作フローを参照しつつ、受信特性の測定、補正データの生成、および受信信号の補正について具体的に説明する。
図2に本実施形態における信号処理部105の内部ブロックを示す。信号処理部105
は、増幅器201、A/D変換器202、補正部203、再構成部204から構成される。
【0028】
図3に本実施形態における受信特性算出の動作フローを示す。ここでは、受信特性のうち感度特性の補正に用いるデータを取得する。
(ステップS301)音響波取得装置を起動する。本動作フローは通常、装置の起動後、実際に光音響測定を行う前の準備段階に実行されるものである。ただし本動作フローを光音響測定の途中に行うことも可能である。
(ステップS302)強度分布が既知の光を探触子に直接照射する。すると、探触子表面の部材や音響整合層、あるいは保護膜にて光音響効果により音響波が発生する。この音響波を探触子で受信し、アナログの受信信号に変換する。本動作フローにおいては、光強度分布が既知の均一化光を探触子表面に一様に照射する。こうすることで一度のレーザ照射にて感度特性の補正データが算出可能となる。
(ステップS303)信号処理部105は、信号増幅器201によってアナログの受信信号を増幅した後、AD変換器202によってデジタルの受信信号に変換する。変換後の受信信号は、受信特性算出部104に送られる。
(ステップS304)受信特性算出部104は、探触子の各受信素子に対応する受信信号ごとに振幅の最大値を検出する。これにより、各受信素子で得られた受信信号の最大強度が算出される。
(ステップS305)受信特性算出部104は、それぞれの受信信号における最大強度の逆数を計算し、受信特性データ(本実施形態の場合は感度特性)として記憶しておく(記憶部は不図示)。なお、受信特性算出部が外部のメモリと通信して情報を格納する構成でも良い。また、受信特性算出部104は最大強度を求めるだけにして、補正部203や再構成部204に感度補正のための演算処理手段および記憶部を設けるという構成にしても構わない。この手順においては、信号処理部と受信特性算出部が協働して本発明の補正部の機能を実現する。
【0029】
本実施形態において、上で測定した受信特性を用いて、実際の計測信号を補正するための動作フローを図4に示す。
(ステップS401)光源から、光強度分布が既知の光を被検体に照射する。そして、探触子が、被検体内部の光吸収体で発生した音響波を受信してアナログの電気信号である受信信号に変換する。
(ステップS402)信号処理部の信号増幅器201がアナログの受信信号を増幅した後、AD変換器202がデジタルの受信信号に変換する。
(ステップS403)補正部203にて、受信特性算出部104に記憶されている受信特性データを取得する。そして受信特性データ、この場合は受信素子ごとの感度特性に基づいて補正データを生成する。そして、補正データを用いて受信信号を補正する。具体的には、各受信素子について、信号強度に補正値を乗算する。補正値は感度の逆数であるため、感度の低い受信素子ほど乗数が大きくなる。その結果、受信素子間の感度の差が補正され、ばらつきが低減される。補正後の受信信号は再構成部204に送られる。
(ステップS404)再構成部204は、受信信号に基づき画像再構成を行う。再構成においては、整相加算やバックプロジェクション法など、既知の手法を適用できる。再構成部は本発明の処理部に相当する。
(ステップS405)画像表示部106にて、再構成された画像が表示される。
【0030】
以上述べたように、本実施形態の手法により、探触子の感度ばらつきの影響を低減し、光音響測定でより正確な被検体情報を取得することができる。そのため、これを画像化する場合、より精度の高い画像が得られ、確度の高い診断が可能となる。
【0031】
<実施形態2>
本実施形態では、受信特性算出部が、受信素子の受信特性として、周波数特性を求める例について説明する。実施形態1では最大信号強度を用いて補正値を算出したが、本実施形態では、受信特性算出部104において、受信信号の最大強度を算出するのではなく、FFTなどの周波数解析を行って、受信信号の周波数ごとの信号強度(パワースペクトル)を算出する。このパワースペクトルの逆数を計算することで周波数ごとに補正値が求められるので、周波数特性を考慮した補正データが得られる。
【0032】
この周波数依存の補正データは、次のように実際の測定結果に適用される。実施形態1において図4のS403では、感度の補正値は各受信素子について1個ずつ存在し、これを各受信素子の信号強度に乗じた。一方、本実施形態の受信特性は周波数特性であり、補正データも周波数に依存している。そこで、取得した受信信号にFFTなどの周波数解析を行い、パワースペクトルの逆数を取って補正データを求める。そして、周波数解析を行った受信信号と補正データを、対応する周波数ごとに乗算する。得られた周波数依存の感度補正を行った受信信号データを、逆FFTなどにより時間軸上の受信信号データへと戻す。これにより、周波数依存の感度特性を補正することで受信信号のばらつきを低減し、正確な被検体情報を生成することが可能となる。
【0033】
<実施形態3>
本実施形態では、受信特性を求める際に、光音響測定用のレーザ光源とは別の第二の光源を設けて、任意の光強度分布の光を探触子に直接照射する場合について説明する。この場合、被検体に光を照射するための光源を第一の光源と呼ぶ。
本実施形態の音響波取得装置は、図6に示すように、受信特性の情報を取得する際に探触子表面に光を照射するための、光音響測定用の光源100とは別の、第二の光源108を持つ。第二の光源としては、上述の光源やレーザーダイオード、ホロカソードランプなどの他に、積分球光源などの均一化光を照射可能な光源を用いることも可能である。また、必ずしも均一化光に限らず、ビームプロファイラ等の光電変換素子を用いることにより光強度分布が既知の光を用いることもできる。既知の光強度分布を持つ光を探触子表面に照射することにより、各受信素子に照射された光強度分布に応じた信号を受信することができる。これにより各受信素子における受信特性が得られ、それを基に感度の補正値を求めることができる。
【0034】
<実施形態4>
本実施形態では、受信特性を求める際に、任意の強度既知の光を各受信素子に対して順次照射する場合について説明する。
本実施形態の音響波取得装置は、図6に示すように、探触子移動手段109を備えている。探触子移動手段によって探触子を移動させることで、探触子の複数の受信素子に順番に光強度既知の光を照射し、光音響波を受信することができる。探触子と光のサイズに応じて、探触子移動手段を複数回用いることで、全ての受信素子について、光強度既知の光を照射した場合の光音響波を受信することができる。
なお、移動手段は照射光に対して探触子位置を相対的に移動できるものであればよい。例えば、探触子の位置は固定しておき、照射光を導くための光学系が駆動される構成を取ることも可能である。さらに、実施形態3のように受信特性算出のための第二の光源を設け、第二の光源を探触子に対して相対的に移動させる構成とすることも可能である。
これにより各受信素子における受信特性が得られ、それを基に感度の補正値を求めることができる。
【0035】
<実施形態5>
本実施形態では、受信特性を求める際に、探触子表面に単位時間当たりに照射される光の量を均一化する手法について説明する。
すなわち、光音響測定に用いるレーザ光源、あるいは実施形態3で受信特性を評価する
ために設けた光源から、ビームスキャナ等の公知の光走査方法を用いて、探触子表面で任意の時間走査させつつ、光を照射する。これにより、探触子表面に単位時間当たりに照射される光量を均一化できる。そして任意の時間の間に検出された受信信号を積算して、その積分値の大きさから各受信素子における受信特性データが得られ、それを基に感度の補正を行うことができる。
【0036】
<実施形態6>
本実施形態では、各受信素子での受信信号の閾値を任意に設定することにより、より正確な被検体情報を求める手法について説明する。また、探触子の経時的な性能劣化を確認する方法についても説明する。
本実施形態では、強度分布が既知の光を探触子に直接照射して受信特性を把握する際に、各受信素子で得られる受信信号の強度に任意の閾値を設定しておく。そして、画像再構成において、受信信号の強度が設定した閾値より小さい受信素子を排除し、被検体情報を求めるのに使わないことにする。すると、感度特性が所定の閾値より低い受信素子は、被検体情報の算出から除外される。
これにより、ある程度の感度を有する受信素子が生成した受信信号のみが画像再構成に使用されるので、再構成後の光学特性値分布の強度むらを低減させることが可能となる。また、この操作を任意の時間間隔で行うことにより、受信素子の経時的な性能劣化を確認することができる。受信特性を求める操作の時間間隔は所定の間隔であっても良く、利用者の指示に応じて行われても良い。
【0037】
<実施形態7>
本実施形態では、各受信素子に任意の光強度範囲内で出力を変化させた光を照射し、その際の受信信号強度から受信素子間の受信信号の補正を行うとともに、出力変化に対して探触子応答を確認する方法について説明する。
この場合、強度分布が既知の光を探触子に直接照射して各受信素子での受信特性を把握する際に、照射光の光強度の出力を任意に変化させることで、受信特性を詳細に測定することができる。具体的には、各受信素子は直接照射された光強度分布に応じた強さの音響波を受信するため、照射光の光強度を任意の範囲で変化させることにより、各受信素子の受信信号が線形性を有する感度特性の情報を取得することができる。これにより、任意の範囲の受信特性を有する受信素子のみを画像再構成に用いることができるようになるので、再構成後の光学特性値分布の強度むらを低減させることが可能となる。また、この操作を任意の時間間隔で行うことにより、探触子の経時的な性能劣化を確認することができる。
【0038】
<実施形態8>
本実施形態では、較正用の探触子を介して各受信素子間の受信特性を補正する方法について説明する。
図5が、本実施形態の音響波取得装置を示す図である。補正対象の第1の探触子103とは異なる較正用の第二の探触子503を設け、較正用の探触子503の信号応答を基に探触子103の受信信号を補正する。具体的には、第1の探触子103に直接照射される光強度分布が既知の光102の一部もしくは全部を、光学系501により較正用の第二の探触子503に導く。そして、光強度に対応した探触子の信号応答を較正用探触子の信号応答を基にして規格化して補正する。なお、502は強度分布既知の照射光、505は較正用探触子の信号処理部である。
【符号の説明】
【0039】
100:光源、103:探触子、104:受信特性算出部、105:信号処理部、203:補正部、204:再構成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を照射された被検体から発生する音響波を取得して前記被検体内部の特性を表す被検体情報を算出する音響波取得装置であって、
光源と、
音響波を受信して受信信号を生成する複数の受信素子と、
前記光源からの光が前記複数の受信素子に照射されたときに前記複数の受信素子から発生する音響波より生成される複数の受信信号から、前記複数の受信素子の受信特性を求めるとともに、前記光源からの光が前記被検体に照射されたときに前記被検体から発生して前記複数の受信素子が受信する音響波から生成される複数の受信信号を、前記受信特性を用いて補正する補正部と、
前記補正部により補正された受信信号を用いて前記被検体情報を算出する処理部と、
を有することを特徴とする音響波取得装置。
【請求項2】
前記受信特性とは、強度が既知の光を照射されたときに前記複数の受信素子が生成する受信信号の強度に基づいて求められる感度特性である
ことを特徴とする請求項1に記載の音響波取得装置。
【請求項3】
前記処理部は、感度特性が所定の閾値より低い受信素子が生成した受信信号を、被検体情報の算出に用いない
ことを特徴とする請求項2に記載の音響波取得装置。
【請求項4】
前記受信特性とは、前記複数の受信素子が生成する受信信号のパワースペクトルに基づいて求められる周波数特性である
ことを特徴とする請求項1に記載の音響波取得装置。
【請求項5】
前記光源は、前記被検体に光を照射する第一の光源と、前記受信特性を求めるために前記複数の受信素子に光を照射する第二の光源を含んでいる
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の音響波取得装置。
【請求項6】
前記受信特性を求めるために前記複数の受信素子に照射される光には、光強度分布の均一化処理が施されている
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の音響波取得装置。
【請求項7】
前記補正部は、前記複数の受信素子の受信特性を所定の時間間隔で求める
ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の音響波取得装置。
【請求項8】
光源と、音響波を受信して受信信号を生成する複数の受信素子と、補正部と、処理部とを有する音響波取得装置の制御方法であって、
前記光源が、前記複数の受信素子に光を照射するステップと、
前記補正部が、前記複数の受信素子から発生する音響波より生成される複数の受信信号から、前記複数の受信素子の受信特性を求めるステップと、
前記光源が、被検体に光を照射するステップと、
前記補正部が、前記被検体から発生して前記複数の受信素子が受信する音響波から生成される複数の受信信号を、前記受信特性を用いて補正するステップと、
前記処理部が、前記補正部が補正した受信信号を用いて、前記被検体内部の特性を表す被検体情報を算出するステップと、
を有することを特徴とする音響波取得装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−103022(P2013−103022A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249985(P2011−249985)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】