説明

音響波測定装置および音響波測定装置の制御方法

【課題】ユーザが行う設定作業を簡便化し、優先度順に複数の関心領域間の走査経路を決定することができる音響波測定装置を提供する。
【解決手段】音響波測定装置は、音響波探触子と、二つ以上の関心領域を設定する関心領域設定手段と、設定された関心領域に対して優先度を設定する優先度設定手段と、設定された優先度ごとに、優先度が設定された関心領域を包含する包含領域を決定する領域算出手段と、各包含領域に、音響波探触子を走査方向に移動させてできる矩形である走査ストライプを、包含領域が有する関心領域を全て含むように割り当てる走査方法決定手段と、音響波探触子の移動距離が短くなるように、同一優先度における複数の走査ストライプの走査順序を決定する走査経路特定手段と、音響波探触子を移動させることにより、優先度順に、決定された走査順序に従って走査ストライプを走査する走査手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響波測定装置および音響波測定装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波を生体に対して送波し、反射してきた超音波を解析することで、生体内の構造を画像化する超音波測定装置が医療現場で運用されている。超音波を生体に送波すると、生体内の音響インピーダンスの異なる境界面で超音波の反射が起こる。超音波測定装置は、この反射波を解析し、境界面を検出することで、生体内の形態情報を画像化する。
【0003】
また近年では、生体にレーザ光を照射し、生体内部からレーザ照射に起因する音響波(光超音波)を発生させ、この音響波を解析することで、生体表面および内部の構造・状況を解析する技術が考案されている(特許文献1)。これは、光音響波計測とも呼ばれ、非侵襲で検査が行えるため、人体内部の検査のために医療転用する動きもみられている。
【0004】
上記二方式の装置では共に、超音波を受信するための音響波探触子が使用されている。音響波探触子は、測定したい領域、すなわち関心領域付近の皮膚に手で押しつけて使用するハンディタイプのものや、機械走査機構を導入し、生体の皮膚表面上を機械的に走査するものなどがある。
【0005】
現在の音響波探触子は、生産歩留まりやコストの関係で、X線撮影装置のような大開口のセンサを製作することは困難である。そのため、必要な検査対象領域よりも小さなサイズの音響波探触子を用い、自動または手動によって走査させることで検査対象領域をカバーする使い方が一般的である。
【0006】
音響波探触子を機械的に駆動する測定装置は、ユーザが関心領域を設定するための入力設定部を有している。入力設定部は、たとえばキーボードやマウス、タッチペンといったデバイスで構成され、測定詳細設定を入力、または測定位置を指定することによって関心領域を設定する。前記装置の中には、タッチペンを利用するなどして、ユーザによって探触子の走査軌道を細かく指定できるものもある(特許文献2)。測定装置は、指示された走査軌道をトレースするように音響波探触子を移動させながら測定を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,840,023号明細書
【特許文献2】特開2006−000185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の測定装置には、光超音波測定、超音波測定のいずれにおいても、被検体の測定に時間を要するという問題がある。例えば、乳がんの検診を行うマンモグラフィでは、測定のために被検部位を圧迫固定するが、被検者に圧迫による負担をかける時間は短い方が好ましい。
【0009】
実際、圧迫固定に対して負担を感じる度合いには個人差があり、被検者によっては長い時間の圧迫固定に耐えられない場合がある。一般的に、超音波および光超音波を用いた測定においては、被検部位の厚みが浅いほど高い検査精度を得ることができる。そのため、必要な検査精度を確保するためには、ある程度の圧迫保持が必要となる。
【0010】
上記の事情から、測定時間は少しでも短いことが望まれる。しかし、設定された関心領域が複数ある場合、音響波探触子がすべての領域を走査しながら巡回するため、移動距離が大きくなり、走査順序によっては無駄な時間が発生するという問題がある。
【0011】
また、仮に途中で測定を中断した場合であっても、測定優先度の高い場所のデータはなるべく取れていることが好ましい。複数の関心領域が指定されている場合、複数の関心領域毎に優先度をつけ、優先度順に走査を行うことで、このようなケースに対応することができる。しかし、従来の装置において上記課題に対応するためには、ユーザ自らが、上記事情を意識して、優先度の高い箇所から順に走査軌道を指定する必要があり、操作が複雑になっていた。
【0012】
本発明は、上記課題を鑑み、ユーザが行う設定作業を簡便化し、優先度順に複数の関心領域間の走査経路を決定することができる音響波測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る音響波測定装置は、音響波探触子と、被検体に対して二つ以上の関心領域を設定するための関心領域設定手段と、前記設定された関心領域に対して優先度を設定するための優先度設定手段と、前記設定された優先度ごとに、当該優先度が設定された関心領域を包含する包含領域を決定する領域算出手段と、前記各包含領域に、前記音響波探触子を走査方向に移動させてできる矩形である走査ストライプを、当該包含領域が有する関心領域を全て含むように割り当てる走査方法決定手段と、前記音響波探触子の移動距離が短くなるように、同一優先度における複数の前記走査ストライプの走査順序を決定する走査経路特定手段と、前記音響波探触子を移動させることにより、前記優先度順に、前記決定された走査順序に従って前記走査ストライプを走査する走査手段と、を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る音響波測定装置の制御方法は、音響波探触子を有する音響波測定装置の制御方法であって、被検体に対して二つ以上の関心領域の指定を受け付けるステップと、前記指定された関心領域に対して優先度の指定を受け付けるステップと、前記指定された優先度ごとに、前記関心領域を包含する包含領域を決定するステップと、前記各包含領域に、前記音響波探触子を走査方向に移動させてできる矩形である走査ストライプを、当該包含領域が有する関心領域を全て含むように割り当てるステップと、前記音響波探触子の移動距離が短くなるように、同一優先度における複数の前記走査ストライプの走査順序を決定するステップと、を含み、前記音響波探触子を移動させることにより、前記優先度順に、前記決定された走査順序に従って前記走査ストライプを走査することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ユーザが行う設定作業を簡便化し、優先度順に複数の関心領域間の走査経路を決定することができる音響波測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る光音響測定装置のシステム構成図。
【図2】領域指定部による関心領域の設定画面例。
【図3】第一の実施形態に係る制御装置部の処理フローチャート。
【図4】関心領域を複数設定した場合の概要図。
【図5】第一の実施形態に係る関心領域に対する包含領域の概要図。
【図6】第一の実施形態に係る包含領域に対するストライプ割り当ての一例。
【図7】第一の実施形態に係る注目ストライプにおける走査領域判定の概要図。
【図8】制御装置部の処理フローチャートの詳細説明図。
【図9】音響波探触子の連続走査によるデータ積算の概要図。
【図10】第二の実施形態に係る関心領域同士の重複領域と積算データの概要図。
【図11】第三の実施形態に係る余剰なデータ測定領域が発生するケースの概要図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態をより詳細に説明する。なお、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、説明を省略する。
【0018】
(システム構成)
まず、システム構成図である図1を参照しながら、本発明を適用できる音響波測定装置の構成を、光音響測定装置を例に説明する。本発明の実施形態における光音響測定装置は、被検体の内部の情報を取得(特に画像化)する光音響イメージング装置である。光音響測定装置は、悪性腫瘍や血管疾患などの診断や化学治療の経過観察などを目的として、被検体である生体の情報を画像化することができる。生体の情報とは、光照射によって生じた音響波の発生源分布であり、生体内の初期音圧分布あるいはそれから導かれる光エネルギー吸収密度分布を示す。
【0019】
本発明の実施形態における光音響測定装置は、大きく分類して、測定装置100および操作装置200で構成される。測定装置100は、光音響によって測定を行う装置であり、操作装置200は、測定装置100を操作するための装置である。測定装置100は、レーザ光源101、光学系102と光源駆動部106、圧迫板103aおよび103b、音響波探触子104と探触子駆動部105、装置制御部107、カメラ108、信号処理部109を有する。また、操作装置200は、領域指定部201、画像生成部202、画像表示部203、システム制御部204を有する。以下、それぞれの構成を説明しながら、被検体の計測方法について説明する。
【0020】
生体などの被検体(不図示)は、検査部を両側から圧迫固定する圧迫板103a、103bに固定される。なお、圧迫板103aと103bを区別する必要がない場合は、まとめて圧迫板103と表記する。レーザ光源101は、被検体に照射するレーザ光を発生させる手段であり、駆動手段である光源駆動部106によって2次元方向に平面的に移動することができる。レーザ光源101によって生成されたレーザ光は、例えばレンズやミラー、光ファイバなどで構成された光学系102によって、圧迫板103a表面に導かれ、拡散パルス光となり被検体に照射される。
【0021】
被検体の内部を伝搬した光のエネルギーの一部が血管などの光吸収体に吸収されると、その光吸収体から熱膨張により音響波が発生する。音響波とは、典型的には超音波であり、音波、超音波、光音響波、光超音波などと呼ばれる音響波を含む。すなわち、パルス光の吸収により、光吸収体の温度が上昇し、その温度上昇により体積膨張が起こり、音響波が発生する。
【0022】
この現象は一般に、光音響効果と呼ばれ、光照射によって生じた音響波の発生源分布や、被検体内の初期音圧分布、あるいは初期音圧分布から導かれる光エネルギー吸収密度分布や、吸収係数分布、組織を構成する物質の濃度分布が取得できる。物質の濃度分布とは、例えば酸素飽和度分布や酸化・還元ヘモグロビン濃度分布などである。
【0023】
音響波を検出するための音響波探触子104は、被検体内で発生または反射した音響波を検出する、複数の受信素子からなる検出器に相当する。検出器は、被検体内で発生した音響波を検出し、アナログ信号である電気信号に変換する。この検出器から取得される検出信号は、光音響信号と呼ばれる。音響波探触子104もまた、駆動機構である探触子駆
動部105によって2次元方向に平面的に移動することができる。
【0024】
なお、本発明の実施形態では、光音響波によって被検体の情報を取得しているが、音響波探触子104に、被検体に超音波を送波するための超音波源を内蔵させ、被検体内部で反射した超音波を受信することによって被検体情報を取得してもよい。この場合、取得される被検体情報とは、被検体内部の組織の音響インピーダンスの違いを反映した情報となる。
【0025】
信号処理部109は、光音響信号から被検体内部の情報を取得する手段である。音響波探触子104から取得した光音響信号は、受信アンプによって増幅され、A/Dコンバータによってデジタル信号に変換される。このデジタル信号は、通信線を介して操作装置200に伝えられ、画像再構成処理によって三次元情報に演算処理がなされた後、画像情報として画像表示部203に表示される。
【0026】
本発明の実施形態では、以上に加え、ユーザによる関心領域指定手段(不図示)と、被検体に対する関心領域を指定する際に、参照する被検体の観察画像を提供するカメラ108と、測定装置100の動作を制御するための装置制御部107を有する。レーザ光源101、光学系102、圧迫板103、音響波探触子104、カメラ108、領域指定部201について、さらに詳細な説明を以下に行う。
【0027】
<レーザ光源101>
被検体が生体の場合、光源から、生体を構成する成分のうち特定の成分に吸収される特定の波長の光を照射する。光源としては数ナノから数百ナノ秒のパルス光を発生可能なパルス光源が好ましく、5ナノから50ナノ秒のパルス光を発生可能なパルス音源を少なくとも一つ備える。光源としては、大きな出力が得られるレーザが好ましいが、レーザのかわりに発光ダイオードなどを用いることも可能である。レーザとしては、固体レーザ、ガスレーザ、色素レーザ、半導体レーザなど様々なレーザを使用することができる。
【0028】
また、光は音響波探触子側から照射してもよく、音響波探触子と反対側から照射してもよい。さらに、被検体の両側から照射してもよい。また、本発明の実施形態においては、単一の光源の例を示しているが、複数の光源を用いても良い。複数光源の場合は、生体に照射する光の照射強度を上げるため、同じ波長を発振する光源を複数用いても良いし、光学特性値分布の波長による違いを測定するために、発振波長の異なる光源を複数個用いても良い。なお、光源として、発振する波長の変換可能な色素やOPO(Optical Parametric Oscillators)を用いることができれば、光学特性値分布の波長による違いを測定することも可能になる。
【0029】
光とは、可視光線や赤外線を含む電磁波を示し、具体的には波長が500nm以上1300nm以下の範囲の光を用い、生体内において吸収が少ない700nmから1100nmの領域が好ましい。ただし、比較的生体表面付近の生体組織の光学特性値分布を求める場合は、上記の波長領域よりも範囲の広い、例えば400nmから1600nmの波長領域を使用することも可能である。前記範囲内の光のうち、測定対象とする成分により特定の波長を選択するとよい。
【0030】
また、レーザ光源は、通常、照射周波数が決まっている。照射周波数は、単位時間に行える光音響測定の回数に影響するため、高いものほど好ましい。本発明の実施形態においては、レーザ光源の照射周波数は10Hzとする。
【0031】
<光学系102>
光学系102は、例えば光を反射するミラーや、光を集光したり拡大したり形状を変化
させるレンズ、光を分散・屈折・反射するプリズム、光を伝搬させる光ファイバ、拡散板などが挙げられる。光源から照射された光は、レンズやミラーなどの光学部材を用いて被検体に導き、また、光ファイバなどの光学部材を用いて伝搬させることも可能である。このような光学部材は、光源から発せられた光が被検体に所望の形状で照射されれば、どのようなものを用いても構わない。
【0032】
なお、一般的に光はレンズで集光させるより、ある程度の面積に広げる方が、診断領域を広げられるという観点で好ましい。また、光を被検体に照射する領域(照射領域と称する)は移動可能であることが好ましい。照射領域が移動可能とすることで、より広範囲に光を照射することができる。また、照射領域は、音響波探触子104と同期して移動するとさらに好ましい。照射領域を移動させる方法としては、可動式ミラー等を用いる方法や、光源自体を機械的に移動させる方法などがあり、いずれが用いられてもよい。
【0033】
<圧迫板103>
圧迫版103は、被検体の少なくとも一部の形状を一定に保ち、被検体と音響波探触子104との間に設けられる。圧迫板で両側から被検体を挟持すると、測定中での位置が固定され、体動などによる位置誤差を低減することができる。また、圧迫することにより、被検体の深部まで光を効率よく到達させることができる。保持部材としては、光の透過率が高く、かつ、被検体や音響波探触子との音響整合性が高い部材を用いることが好ましい。音響整合性を高めることを目的に、圧迫板と被検体、圧迫板と音響波探触子との間にジェルなどの音響整合材を介在させてもよい。
【0034】
<音響波探触子104>
音響波探触子104は、音響波を検知し、電気信号に変換する装置である。生体から発生する光音響波は、100kHzから100MHzの超音波である。そのため、音響波検出器104には上記の周波数帯を受信できる超音波検出器が用いられる。なお、圧電現象を用いたトランスデューサ、光の共振を用いたトランスデューサ、容量の変化を用いたトランスデューサなど、音響波信号を検知し、電気信号に変換できるものであれば、どのようなものを用いてもよい。なお検出器は、複数の受信素子が2次元的に配置されたものが好ましい。
【0035】
このような2次元配列素子を用いることで、同時に複数の場所で音響波を検出することができ、検出時間を短縮できると共に、被検体の振動などの影響を低減できる。本発明の実施形態においては、受信素子ピッチは2mm間隔で、受信素子配列は主走査方向(音響波探触子が走査しながら移動する方向)に5素子、副走査方向(主走査方向に直交する方向)に5素子が配列されているものとする。
【0036】
<カメラ108>
本発明の実施形態における光音響測定装置は、ユーザが関心領域を指定する際に参照する画像を提供するために、カメラ108を有している。カメラ108は、被検体を圧迫保持する保持板に対して直交する方向に設置されており、撮影された画像は操作装置200に送信され、観察画像として表示される。カメラの視野は、光音響測定可能範囲が一覧できる視野角で設置されていることが好ましい。圧迫保持されている被検体を観察できるように設置されており、ユーザは圧迫保持されている被検体を観察しながら関心領域の指定ができるようになっている。
【0037】
<領域指定部201>
本発明の実施形態に係る光音響測定装置は、ユーザが関心領域を撮影するための領域を指定する手段である領域指定部201を有する。ユーザは、表示装置に表示される圧迫保持された被検体の観察画像を参照しながら、マウスなどの入力手段によって、関心領域を
撮影するための領域を指定する。入力手段はマウスやキーボードに限らず、タブレットタイプのものや、表示装置表面に取り付けたタッチスクリーンでもよい。本発明の実施形態では、複数の関心領域を指定することが可能である。
【0038】
本発明の実施形態においては、観察画像と音響波探触子の走査面とを対応づけるため、被検体に対して音響波探触子を走査する面と平行な面の観察画像が撮れるようにカメラ108が設置されている。ユーザはカメラで撮影した観察画像を参照しながら、測定を行いたい位置に対応する場所に二次元の矩形(測定指示領域)を設定することで、探触子を走査する領域を指定することができる。なお、測定指示領域は矩形以外の形状であってもよい。
【0039】
なお、測定指示領域の指定方法については、キーボード入力による座標指示であってもよい。座標指示方法は、測定領域を特定するため、所定の測定領域サイズの中心座標を指示するものであってもよいし、表示装置に表示された参照画像上に複数の頂点座標を指定することで測定指示領域を設定するものであってもよい。いずれの場合においても、参照画像上に二次元の矩形領域として測定指示領域を設定することが可能である。
【0040】
本発明の実施形態における光音響測定装置は、指定された測定指示領域に基づき、カメラの画像座標系を、装置座標系に変換し、実物の被検体において対応する位置に探触子を移動するよう制御する。
【0041】
測定指示領域を指定する画面のイメージを図2に示す。図中、301は被検体に対する特定方向からの観察画像で、302は、前記観察画像を参照しながらユーザが指定した測定指示領域である。測定指示領域302に関しては、事前に設定されたサイズの矩形を配置、ポインティングデバイスで矩形を入力、などの操作によって、任意サイズの領域が指定できるようになっている。
【0042】
また、複数箇所の測定指示領域を指定するための機能も有する。たとえば、複数選択ボタンを具備し、前記ボタンを押しながら測定指示領域を指定することで、ボタンを押している間に選択された測定指示領域が複数箇所記憶されるようにしてもよい。他にも、画面に「次の領域を選択」といったメニューを用意し、測定指示領域指定の都度、前記メニューを選択することで、逐次関心領域を指定できるようにしてもよい。いずれの方法においても、指定した測定指示領域の一部または全部の指定を解除する手段を用意することが好ましい。
【0043】
また、本発明の実施形態では、複数の測定指示領域の設定後、改めてポインティングデバイスで各測定指示領域を選択し、個別に走査優先度を指定することが可能となっている。この場合、複数の領域に同じ走査優先度を指定しても良いし、測定指示領域を設定した順に高い走査優先度が設定されても良い。
【0044】
これらの処理は、領域指定部201およびシステム制御部204によって実行され、本発明を適用できる音響波測定装置における関心領域設定手段、および優先度設定手段に該当する。
【0045】
(第一の実施形態)
第一の実施形態に係る光音響測定装置の動作を、図を参照しながら詳細に説明する。
<関心領域の指定>
領域指定部201を介して、ユーザにより複数の測定指示領域、いわゆる関心領域が指定される。ユーザによる測定指示領域指定の具体例を図4に示す。図中、406は、観察画像に対応する領域であり、音響波探触子が走査することができる平面の範囲である。4
01〜405は、ユーザによって指定された測定指示領域である。401〜403は、高い優先度(優先度1とする)が設定されている領域であり、404、405は低い優先度(優先度2とする)が設定されている領域である。図に示すように、優先度の設定に関わらず、測定指示領域は互いに重なった状態で指定することも可能である。指定された関心領域は、システム制御部204に記憶される。
【0046】
またこのとき、光音響測定の測定条件設定も可能である。本実施形態では、測定領域を測定するにあたり、同じ座標位置における光音響データの取得回数(積算回数)が設定できる。ここでは、積算回数には10回が設定されているものとする。
【0047】
ユーザが、測定開始の指示を行うと、システム制御部204から、装置制御部107へ測定依頼メッセージが送信される。以下、本実施形態における測定装置100の処理内容について、制御装置部107の処理フローチャートである図3を参照しながら説明する。
【0048】
<測定のための走査速度の算出>
装置制御部107が測定依頼メッセージを受信すると、まず、測定のための走査速度と、ユーザが希望する積算回数を得るために必要な走査回数を算出する(S1)。音響波探触子の主走査方向の素子数をEnx、素子のピッチをEp(mm)、希望する光音響測定の積算回数をMn、レーザ光源の発光周波数をLHz(Hz)とする。説明を簡便にするため、積算回数Mnが素子数Enxの倍数であるとすると、音響波探触子およびレーザ光源の主走査方向の走査速度Vx(mm毎秒)および必要な走査回数Snは次式(1)および(2)で算出される。ステップS1の処理が、本発明を適用できる音響波測定装置における移動速度取得手段に該当する。
Vx=Ep×LHz … (1)
Sn=Mn/Enx … (2)
【0049】
本実施形態の場合は、音響波探触子104の素子数が走査方向に5素子並んでいるため、音響波探触子104を、被検体表面で移動させることで5回の積算ができ、一往復させることで合計10回の積算が行えることがわかる。また、素子ピッチが2mm、レーザ光源の発光周波数10Hzであるため、測定時の走査速度は20mm毎秒となる。
【0050】
以上の走査速度の算出例は、光音響測定を用いた場合の例である。被検体に超音波を送信し、反射波を受信するタイプの音響波測定装置に適用した場合、測定時の移動速度は、音響波探触子の駆動周波数および音響波探触子の主走査方向の素子ピッチより同様に算出することができる。
【0051】
上記のようにして求めた、測定のための走査速度および走査回数は、以降で説明する走査領域の算出や、測定順序の決定で使用される。
【0052】
<走査領域の算出>
次に、装置制御部107は、音響波探触子が実際に走査を行う領域である走査領域の算出を行う。走査領域の算出は、高い走査優先度を持つ測定指示領域から、走査優先度順に行う。まず、指定された複数の測定指示領域のうち、着目する走査優先度の測定指示領域をすべて包含する包含領域を算出する(S2)。すなわち、前記測定指示領域を全て内包する領域で、最小サイズとなる矩形領域を包含領域として求める。以下、走査優先度を単に優先度と称する。
【0053】
図5に、優先度1における包含領域のイメージを示す。図5に示した領域401,402,403が、優先度1を持つ測定指示領域であり、矩形504が、測定指示領域から算出された、包含領域である。
【0054】
次に、優先度1における包含領域の内部に、走査ストライプを割り当てる(S3)。走査ストライプとは、音響波探触子および光源(以下、測定系と称する)を、主走査方向に移動させてできる矩形の領域を指す。本実施形態では、音響波探触子の走査平面における走査ストライプの主走査方向の幅は、音響波探触子で測定しながら走査した長さとなり、副走査方向の幅は、音響波探触子の全素子領域の副走査方向の長さとなる。以降、走査ストライプのことを単にストライプと称する。
【0055】
実際には、前記光音響測定が行われる領域は、奥行き方向を含む三次元領域であるが、特に断りがない限りは、測定系の走査面における二次元の投影面をストライプと表記する。
【0056】
図6に、ストライプ割り当ての一例を示す。ストライプ601a、601bは、それぞれ、優先度1が設定された包含領域504に割り当てられたストライプである。本実施形態では、包含領域504に対し、上から順にストライプを敷き詰める形で割り当てを行っているが、測定指示領域を全てストライプに含むことができれば、ストライプの割り当てはどのような方法を用いてもよい。
【0057】
次に、処理対象のストライプ(以降、注目ストライプと称する)を、実走査領域と、非走査領域に分割する(S4)。実走査領域とは、測定指示領域を測定するために音響波探触子が実際に走査を行う領域であり、非走査領域とは、それ以外の領域を指す。実走査領域は、ストライプが有する領域のうち、測定指示領域を包含する領域である。
【0058】
図7は、注目ストライプを分割した例である。701は注目ストライプであり、702、703、704は、優先度1を持つ測定指示領域401、402、403のうち、注目ストライプ701と重なる領域である。この領域を包含する705および706が実走査領域となり、中間の領域が非走査領域となる。
【0059】
次に、注目ストライプについて走査領域判定を行う(S5)。走査領域判定は、ストライプ内の分割された領域が、下記3種類のいずれに分類されるかを判定する処理である。(1)音響波を取得しながら測定系を主走査方向に連続的に移動(連続走査)することで光音響測定が行われる領域(連続走査領域)。
(2)測定系を移動するだけで光音響測定を行わない領域(移動領域)。
(3)測定系を停止させて測定(固定測定)する領域(固定測定領域)。
【0060】
ステップS5では、上記実走査領域について、連続走査で測定するか、固定測定の繰り返しで測定するかを判定する。また、非走査領域について、測定を行わずに音響波探触子を移動させるか、連続走査を行うかを判定する。具体的には、注目ストライプの測定および移動処理にかかる時間が最も短くなるように各領域の走査もしくは移動方式を決定する。
【0061】
領域を連続走査領域にした場合の処理時間は、走査距離を前記連続走査速度Vxで除することで算出することができる。また、固定測定領域にした場合の処理時間は、レーザ照射周波数を積算回数で除することで算出することができる。また、移動領域の処理時間は、移動距離を駆動装置の単純移動速度で除することで算出することができる。ステップS2の処理が、本発明を適用できる音響波測定装置における領域算出手段に該当し、ステップS3〜S5の処理が、走査方法決定手段に該当する。
【0062】
走査領域判定の具体的な計算例を、図7を参照しながら説明する。707は音響波探触子の初期位置である。
【0063】
本計算例では、音響波探触子の素子ピッチを2mm、音響波探触子の素子領域を10mm四方、測定時の走査速度を20mm毎秒、単純移動速度を50mm毎秒、光源の発光周波数を10Hz、積算回数を5回とする。なお、注目ストライプ701の主走査方向の長さを50mm、実走査領域705は20mm、実走査領域706は10mmとする。
なお、連続走査を行う場合、音響波探触子が移動しながら測定するため、音響波探触子の移動距離が、実走査領域の長さよりも若干長くなる場合がある(図9参照)。本実施形態では、音響波探触子の素子領域分の距離(10mm)を加えて走査距離を計算している。
【0064】
まず、実走査領域705を測定した後、非走査領域を通過して実走査領域706の手前まで音響波探触子を移動させる場合を考える。
実走査領域705を連続走査した場合、705を走査するために必要な距離は30mm、非走査領域の単純移動距離は10mmとなる。そのため、走査時間は30÷20=1.5秒、移動時間は10÷50=0.2秒となり、所要時間は1.7秒と計算することができる。
【0065】
一方、実走査領域705を固定測定した場合、10mmの単純移動が合計4回、所要0.5秒の測定が2回となる。そのため、測定時間は0.5×2=1秒、移動時間は40÷50=0.8秒となり、所要時間は1.8秒と計算することができる。よって、実走査領域705に対する測定は、連続走査としたほうが早いことがわかる。
【0066】
続いて、実走査領域706を測定した後、注目ストライプ外まで音響波探触子を移動させる場合を考える。
実走査領域706を連続走査した場合、706を走査するために必要な距離は20mmであるため、必要な時間は1秒と計算することができる。一方、実走査領域706を固定測定した場合、10mmの単純移動が合計2回、所要0.5秒の測定が1回なる。そのため、測定時間は0.5秒、移動時間は20÷50=0.4秒となり、所要時間は0.9秒と計算することができる。よって、実走査領域706に対する測定は、固定測定としたほうが早いことがわかる。
【0067】
すなわち、実走査領域705を連続走査領域、指定測定706を固定測定領域とした場合が、最も走査が早くなることがわかる。残った部分は移動領域となる。なお、上記は、走査を一回行った場合の例であるが、例えば往復で2回走査するなど、走査回数が複数回である場合も同様のロジックで測定に要する時間を得ることができる。
【0068】
上記の、走査領域を算出する工程(ステップS4〜S5)を全ストライプで繰り返し、包含領域全体の走査領域算出を行う。
【0069】
また、上記ステップS2〜S5の処理をさらに優先度順に行い、設定された優先度毎に同様の走査領域を算出する。
【0070】
<走査軌道の決定>
次に、装置制御部107は、優先度毎に算出した走査領域それぞれについて、実走査領域間の走査順序を決定する(S6)。決定のための基準は、全優先度の測定領域の総測定時間の短縮であって、測定系の移動量が短くなるように順序を決定する。ステップS6の処理が、本発明を適用できる音響波測定装置における走査経路特定手段に該当する。
【0071】
ステップS6の処理を、さらに詳細に説明したのが図8のフローチャートである。ステップS6が開始されると、一番高い優先度を持つストライプを対象に処理を開始する。ま
ず、走査を行うべき実走査領域を決定する(S11)。初回の処理においては、走査を行うべき実走査領域とは、音響波探触子に一番近い実走査領域である。
【0072】
次に、当該実走査領域の情報を、測定軌道リストに追加する(S12)。測定軌道リストには、少なくとも、測定開始座標、測定方法(連続走査測定または固定測定)、走査距離の情報が記録される。なお、同一のストライプに複数の実走査領域がある場合、全ての実走査領域が測定軌道リストに追加される。
【0073】
同じ優先度を持つ未処理の領域が残っている場合、追加した実走査領域の測定終了座標に対して、距離が一番近い実走査領域を次の移動先として、同様の処理を行う。
【0074】
同一の優先度を持つ全てのストライプについて処理が完了すると、一つ低い優先度について、同様の処理を行う。このように処理を行うことで、走査を行うべき実走査領域の情報が走査実行順に列挙され、優先度毎に記憶される。
【0075】
装置制御部107は、上記手順で記憶した測定軌道リストを参照し、実走査領域間を移動しながら測定を実行する(S7)。ステップS7の処理が、本発明を適用できる音響波測定装置における走査手段に該当する。
【0076】
本実施形態に係る光音響測定装置は、ユーザが指定した測定指示領域および優先度に基づき、優先度順に測定系が走査する領域を算出し、測定系を移動させる軌道を決定したうえで光音響測定を行う。これにより、ユーザは、走査軌道を設定する必要がなくなり、関心領域の指定に集中することができる。
【0077】
また、本実施形態に係る光音響測定装置は、連続走査速度を算出するための移動速度取得手段や、測定のためにかかる時間を判定して走査領域を決定する領域算出手段、測定以外の移動距離を判定条件とした走査経路特定手段を具備している。これにより、全領域を連続走査するなどの単純な走査スケジューリングを行う場合と比較して、効率的に走査できる軌道を算出でき、測定時間を短くすることができる。
【0078】
なお、移動速度取得手段(ステップS1)については、移動速度や積算回数が定まっており、算出する必要が無い場合はこれを省略してもよい。また、走査方法決定手段の一部(ステップS4〜S5)については、同一優先度内での走査領域判定を行う必要が無い場合は、これを省略してもよい。このように構成した場合であっても、ユーザが指定した優先度順に複数の関心領域間の走査を行うことができ、かつ測定時間が短縮できるという効果を得ることができる。
【0079】
なお、音響波探触子の受信素子は、本実施形態のような碁盤目状ではなく、ハニカム状や、千鳥格子状など、多様な配置が考えられる。探触子の移動速度の決定に関しては、本実施形態で例示した方法に限らず、測定条件や、装置構成に依存して、走査速度を調整するために様々なアルゴリズムを適用してもよい。また、本実施形態における、走査速度算出機能は、測定のための探触子移動速度を求めることが目的であるので、参照パラメータやアルゴリズムは、本実施形態で記述している方式に限らない。
【0080】
(第二の実施形態)
第二の実施形態は、第一の実施形態にて示した走査領域を分割するステップ(S4)において、異なる優先度を持つ領域との重複部分を検出し、領域の形状を最適化する形態である。ステップS4以外の処理、ならびにシステム構成は第一の実施形態と同様である。
【0081】
図9は、音響波探触子を移動させながら撮影した領域の、データ積算の様子を示した図
である。図中、向かって右方向が主走査方向である。升目状の矩形は、主走査方向に音響波探触子を一素子分ずつずらしながら光音響測定を行ったときに、音響波探触子の受信素子があった場所を表している。音響波探触子の受信素子を一素子ずつ主走査方向に移動させながら光音響測定を行うため、図に示すように走査領域は、音響波探触子の素子サイズの升目で隙間なく埋められたような格好となっている。なお、本実施形態においては、積算回数には5回が設定されているものとする。
【0082】
升目の中の数字は、その場所において、何回光音響測定が行われたか、つまり光音響測定の積算回数を示している。領域801は実走査領域であり、5回の積算が行われる領域である。音響波探触子を、主走査方向に1素子ずつずらしながら走査、積算を行うため、測定対象の実走査領域の前後に、4素子分の余剰データが常に発生することになる。
【0083】
図10は、高い優先度(第一の優先度)を持つ領域と、低い優先度(第二の優先度)を持つ領域が重なり合っている場合の例である。図10(a)に示すように、高い優先度を持つ測定済みの領域801に重なるように、低い優先度を持つ未測定領域901が設定されているとする。この場合、前述したように、領域801の測定時に得られた、積算回数が5回に満たないデータが存在する。
【0084】
つまり、異なる優先度を持つ実走査領域同士が重なっていた場合、低い優先度を持つ領域については、高い優先度を持つ領域を走査した際のデータを再利用することで、実走査領域を縮小することができる。具体的には、積算が5回済んでいる領域に加え、4素子分をさらに縮小し、図10(b)に示す領域902のようにすることができる。領域902に対して連続走査を行うと、同様に右側4素子分のデータを取得することができるため、すべての領域に対して5回の積算回数を得ることができる。つまり、縮小した8素子分の移動を行う必要がなくなり、測定時間を短縮することができる。
【0085】
上記機能を実現するために、本実施形態においては、第一の実施形態に係る光音響波測定装置について、実走査領域を音響波探触子の素子ピッチでさらに分割し、分割された各領域の積算回数をマッピングした記憶領域をさらに具備させる。
【0086】
そして、ステップS4の処理を行う際、測定に伴う積算予定回数を、分割された各領域にマッピングしていく。低い優先度のスケジューリングを行う際には、その測定領域の判定に関して、既に所定の回数の積算が完了している部分に関しては実走査領域から除外する。また、所定回数未満であっても、既に計測した領域と重複していれば、計測済みデータが再利用できる部分と判断し、実走査領域から除外する。すなわち、計測していない領域のみを含むように実走査領域を縮小する。
【0087】
通常の測定処理においては、領域801の枠外のような、測定条件で設定された積算回数に満たない領域、つまり余剰なデータに関しては消去される。しかし、本実施形態においては、全ての測定が完了するまでは、全ての積算データをその座標毎に保存するため、低い優先度を持つ実走査領域の測定時に流用することが可能となり、測定効率を向上させることができる。
【0088】
なお、本実施形態では、1回でも既に積算されている領域があれば実走査領域から除外したが、除外の判断は本実施形態に例示したものに限られない。例えば、データ積算回数や探触子の形状、感度分布などによって、基準となる積算回数などを変更しても構わない。
【0089】
また、本実施形態では、走査領域を分割するステップS4にて領域の重複を判断したが、異なる優先度間での領域の重複を除外できる処理であれば、他のステップで行ってもよ
い。たとえば、優先度ごとに包含領域を決定するステップS2で実行することも可能である。
【0090】
(第三の実施形態)
第三の実施形態は、包含領域にストライプを割り当てるステップ(S3)において、割り当ての方法を変更した形態である。包含領域にストライプを割り当てる際に、できるだけ少ない走査距離において全優先度の領域に対する測定が完了できるよう、ストライプの配置位置を調整する。なお、ステップS3以外の処理、ならびにシステム構成は第二の実施形態と同様である。
【0091】
第一および第二の実施形態に係る光音響測定装置は、ストライプ単位で光音響測定を行うため、ユーザに指定された測定指示領域が算出された実走査領域の高さより小さい場合、余剰な領域が測定されることになる。測定指示領域が測定できれば、余剰な領域はどのような場所にあっても良いため、ストライプは余剰領域の幅の分だけ副走査方向に移動させることができる。
【0092】
図11は、余剰なデータ測定領域が発生するケースの説明図である。図11(a)の図中、領域1001、1002は、高い優先度(優先度1)が指定された実走査領域であり、領域1003は、低い優先度(優先度2)が指定された実走査領域である。ストライプ1004および1005は、優先度1が指定された実走査領域を測定するために割り当てられたストライプを示す。第一および第二の実施形態においては、優先度毎の包含領域に対して上側から順にストライプを割り当てるので、ストライプの配置は図示したような形となる。
【0093】
領域1001,1002を測定した後、優先度の低い領域1003を測定しようとした場合、未測定の領域は図11(b)のような逆コの字型で表される。つまり、優先度の低い領域1003を全て測定するためには、領域1007〜1009に対して新たな測定を行う必要がある。仮に、領域1007,1009の横幅を25mm、領域1008の横幅を10mmとすると、新たに測定を行う必要がある距離は25+10+25=60mmとなる。
【0094】
一方、領域1001,1002を測定する際に、図11(c)のようにストライプをずらして配置することができる。このケースでは、領域1003の未測定領域は、図11(d)のようなL字型で表される。つまり、領域1003を全て測定するためには、領域1010〜1012に対して新たな測定を行う必要がある。図11(b)の場合と同様に計算すると、新たな測定のために必要な距離は10+10+25=45mmとなるため、調整を行わない場合と比較すると、優先度の低い領域を測定する際の走査距離を15mm短縮することができる。なお、連続走査を行う場合、測定対象領域の長さと、音響波探触子の走査距離は若干異なるが、本説明では同一としている。
【0095】
本実施形態におけるステップS3は、所定の優先度を持つ包含領域に対してストライプを配置した後、一つ低い優先度を持つ領域と重複する領域があることを判定する。ここで、重複する領域がある場合には、配置したストライプを副走査方向にずらし、優先度の低い領域を測定した場合の走査距離が短くなる位置を検出する。
【0096】
以下に、ストライプをずらす方法の一例を説明する。本説明においては、主走査方向をx軸、副走査方向をy軸とする。
【0097】
図11(a)において、d1は、優先度1を有する領域1001の測定領域の余剰部分の副走査方向の距離である。領域1001は、走査に2ストライプ分の高さが必要である
ため、探触子の副走査方向の素子数をEnyとし、素子ピッチをEpとすると、必要な走査ストライプの高さは2×Eny×Epと計算できる。
【0098】
ここで、優先度1が指定された領域の最上部のy座標をUy1、最低部のy座標をLy1とすると、領域1001の副走査方向の余剰範囲d1は、(2×Eny×Ep−Uy1−Ly1)となる。なお、図11の場合、Uy1は領域1001の最上部のy座標、Ly1は領域1001の最低部のy座標となる。
【0099】
図11(a)において、d2は、優先度2を持つ領域の最上部と、優先度1を持つ領域の最上部との差分量である。ここで、優先度2が指定された領域の最上部のy座標をUy2とすると、d2はUy2−Uy1と表せる。よって、d1>0かつ、d2>0であれば、副走査方向上部にストライプ位置の調整余地があることになる。
【0100】
次に、d1およびd2が、下記3条件のいずれかに当てはまるかを判定する。
【0101】
<条件1>
d2がEny×Epの整数倍(N倍)以上の距離がある場合、つまり、d2≧N×Eny×Epを満たす場合、優先度2の領域1003の測定領域上部にN個のストライプが配置される。このとき、(d2−N×Eny×Ep)≦d1である場合、優先度1を持つ領域を測定するためのストライプを、上方向に(d2−N×Eny×Ep)だけずらす。
【0102】
<条件2>
d1≧d2の場合、優先度1を持つ領域を測定するためのストライプを、上方向にd2だけずらした位置、すなわち優先度2を持つ領域1003の上端までずらす。
【0103】
<条件3>
d2<Eny×Epの場合、優先度1を持つ領域を測定するためのストライプの上限位置を、優先度1を持つ領域の上限位置と同じ位置までずらす。優先度2を持つ領域を測定するためのストライプの上端は、優先度2を持つ領域の上限と同じ位置から開始され、その測定領域は、優先度1を持つ領域と重複することになる。
【0104】
上記の方法で、優先度1を持つ領域を測定するためのストライプのずらし位置の候補が決定される。ずらし位置の候補が決定したら、低い優先度を持つ領域を測定する際の走査距離を算出し、ストライプをずらす前後で走査距離が短くなるか否かを判断したうえで、最終的なストライプの位置を決定する。
【0105】
なお、どのようにずらしても、低い優先度を持つ領域を測定するための走査距離が変わらない場合は、ストライプの位置はそのままとなる。
【0106】
上記の処理を、第二の実施形態におけるステップS3の処理に追加して行うことで、低い優先度を持つ領域に対する走査距離を減らすことができ、測定にかかる時間を短縮することが可能となる。
【0107】
なお、本実施形態は、優先度が最も高い実走査領域を処理する際の例であるが、一つ下の優先度が存在していれば、どのような優先度に対して適用してもよい。また、本実施形態では、一つ下の優先度を持つ領域との重複を判定し、ストライプの位置を調整したが、優先度が三つ以上ある場合、さらに下の優先度を持つ領域との重複を判定してもよい。
【0108】
また、ストライプのずらし方は、本実施形態に例示したものに限られない。例えば、データ積算回数や探触子の形状、感度分布などによって、副走査方向にストライプが重なる
ようにスケジューリングしたほうが、測定の精度が高まり、走査時間の短縮化が行える場合もある。また、本実施形態では、ストライプを割り当てたのちに配置位置を移動させる形態をとったが、ストライプの割り当て前に最適な位置を計算し、直接割り当てを行ってもよい。
【0109】
また、ストライプをずらす量をあらかじめ定義し、全てのパターンについて計算を行ってもよい。例えば、ストライプの調整余地が5mmである場合、1mmずつずらして5回計算を行ったうえで、走査距離が最短となるものを採用してもよい。また、本実施形態では、優先度の低い領域を測定した場合の走査距離が短くなるようにストライプの位置を調整したが、走査距離のかわりに走査時間を判断基準としてもよい。
【0110】
上記の実施形態はあくまでも一例であって、本発明はその要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施しうるものである。
【符号の説明】
【0111】
100・・・光音響測定装置
104・・・音響波探触子
105・・・探触子駆動部
107・・・装置制御部
108・・・カメラ
200・・・光音響システム操作装置
201・・・領域指定部
204・・・システム制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響波探触子と、
被検体に対して二つ以上の関心領域を設定するための関心領域設定手段と、
前記設定された関心領域に対して優先度を設定するための優先度設定手段と、
前記設定された優先度ごとに、当該優先度が設定された関心領域を包含する包含領域を決定する領域算出手段と、
前記各包含領域に、前記音響波探触子を走査方向に移動させてできる矩形である走査ストライプを、当該包含領域が有する関心領域を全て含むように割り当てる走査方法決定手段と、
前記音響波探触子の移動距離が短くなるように、同一優先度における複数の前記走査ストライプの走査順序を決定する走査経路特定手段と、
前記音響波探触子を移動させることにより、前記優先度順に、前記決定された走査順序に従って前記走査ストライプを走査する走査手段と、
を有することを特徴とする、音響波測定装置。
【請求項2】
音響波探触子が測定しながら移動する際の速度を算出する移動速度取得手段
をさらに有し、
前記走査方法決定手段は、前記割り当てた各走査ストライプを分割し、前記走査ストライプを走査する時間が短くなるように、前記分割した各領域に対して、音響波探触子を移動させながら測定、音響波探触子を停止して測定、測定せずに音響波探触子を移動、のいずれを実行するかを決定する
ことを特徴とする、請求項1に記載の音響波測定装置。
【請求項3】
第一の優先度を持つ関心領域と、前記第一の優先度より低い第二の優先度を持つ関心領域が重複している場合、
前記走査手段は、前記第二の優先度を持つ関心領域を走査する際に、前記重複した領域を除外して走査を行い、前記重複した領域から取得されるべき情報については、前記第一の優先度を持つ関心領域を走査した際に取得した情報を使用する
ことを特徴とする、請求項2に記載の音響波測定装置。
【請求項4】
前記走査方法決定手段が、第一の優先度を持つ前記包含領域に走査ストライプを割り当てるときに、
前記第二の優先度を持つ関心領域を測定する際の走査距離が短くなるように走査ストライプの割り当て位置を決定する
ことを特徴とする、請求項3に記載の音響波測定装置。
【請求項5】
前記音響波探触子は、被検体に超音波を送波する超音波源をさらに有し、被検体からの反射波を受信し、
前記移動速度取得手段は、音響波探触子の駆動周波数および音響波探触子の主走査方向の素子ピッチより、音響波探触子が測定しながら移動する際の速度を算出する
ことを特徴とする、請求項2ないし4のいずれか1項に記載の音響波測定装置。
【請求項6】
被検体に光を照射する光源をさらに有し、
前記音響波探触子が、前記光源からの光音響効果によって被検体から発生する光音響信号を受信し、
前記移動速度取得手段は、光源の発光周波数と、音響波探触子の主走査方向の素子ピッチより、音響波探触子が測定しながら移動する際の速度を算出する
ことを特徴とする、請求項2ないし4のいずれか1項に記載の音響波測定装置。
【請求項7】
音響波探触子を有する音響波測定装置の制御方法であって、
被検体に対して二つ以上の関心領域の指定を受け付けるステップと、
前記指定された関心領域に対して優先度の指定を受け付けるステップと、
前記指定された優先度ごとに、前記関心領域を包含する包含領域を決定するステップと、
前記各包含領域に、前記音響波探触子を走査方向に移動させてできる矩形である走査ストライプを、当該包含領域が有する関心領域を全て含むように割り当てるステップと、
前記音響波探触子の移動距離が短くなるように、同一優先度における複数の前記走査ストライプの走査順序を決定するステップと、
を含み、
前記音響波探触子を移動させることにより、前記優先度順に、前記決定された走査順序に従って前記走査ストライプを走査する
ことを特徴とする、音響波測定装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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