説明

音響測定システムおよび音響収録装置

【課題】再生システムの音響特性を収録する際におけるマイク位置の変動、あるいは再生システムにおいて原音場の音響特性を再現する際における聴取者の耳位置の変動等を考慮して、特定空間における音響特性の測定を多数のマイクを用いて測定すること。
【解決手段】 音響収録装置1は、音響空間の測定対象位置に設置されるダミーヘッドあるいは聴取者の耳部2位置を基準として頭部側面6より房出した一定の閉空間8を確保可能な房出基部3と、房出基部3の外表面9に配設される複数のマイク10とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響測定システムおよび音響収録装置に関し、より詳細には、特定の音響空間に設置されたスピーカより出力される音響信号を複数のマイクで測定することにより、前記音響空間における各スピーカから各マイクへの音響特性を測定する音響測定システムおよび音響収録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ある空間(原音場)の音響特性を収録(測定)した後、その空間とは異なる空間において測定した原音場の音響特性を仮想的に再現する音場再現方法が提案されている。空間的に音場を再現する方法として、例えば、多チャンネル−多点制御による境界音場制御方法(例えば、特許文献1)などの方法が知られている。
【0003】
特許文献1等に示される方法では、原音場で収録した音響特性に基づいて音場再現を行うための音場再現フィルタを算出し、算出された音場再現フィルタを用いて音源の畳み込み演算処理(例えば、FIRフィルタを用いた畳み込み演算処理)を行うことによって、異なる空間において仮想的に原音場を再現する構成となっている。このフィルタ算出の詳細な方法については、特許文献2等において開示されている。このような音場再現方法を用いることによって、聴取者はあたかも原音場で聴取しているかのような感覚を異なる空間で得ることが可能となっている。
【0004】
一方で、上述したような方法を用いた場合であっても、オーディオ帯域全体に対して、良好な再現精度を得ることは容易ではない。
【0005】
例えば、音場再現を行なう際に、再現の対象となる音場(原音場)と、再現を行なうための再生システム(再生音場)の音響特性を収録する必要がある。このように音響特性を収録する際には、現実に聴取者(人間)が聴取する音に準じた音響特性を取得するために、ダミーヘッドを聴取位置に配置し、ダミーヘッド(HATS(Head And Torso Simulator)を含む)の耳たぶ近傍位置にマイクを設けることにより、再現環境において出力される音(例えばインパルス入力音)を収録する方法が用いられる。
【0006】
さらに、ダミーヘッドに対して人間と同様に耳たぶおよび耳穴を形成し、耳穴の奥にマイクを設置することによって、耳穴における音の伝達状態を考慮した音響特性の測定を行う方法も用いられる。このように、ダミーヘッドの耳部にマイクを設置して音響特性を収録することにより、現実に聴取者がその場所に位置する場合と同様の音響特性を取得することができる。
【特許文献1】特開2008−118559号公報
【特許文献2】特開2005−249989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ダミーヘッドの耳部に設置されるマイクは、耳穴の奥あるいは、耳たぶ近傍位置に局所的に設置されることが多い。このため、原音場の音響特性を再生システムで再現する際に、聴取者の耳位置がこのマイク位置より大きくずれてしまうと、良好な再現精度を得ることができないという問題があった。また、マイクの位置が局所的であるため、聴取ポイントはほぼ「点」となってしまう。このため、再生システムの音響特性を収録するときのマイク位置と、再現音場において聴取者が実際に音を聴取するときの耳位置とにズレが存在する場合には、その位置ズレの影響が顕著に現れるという問題があった。
【0008】
このようなマイクの位置ズレによる影響を低減させるために、特許文献1に開示される方法では、ダミーヘッドの頭部を覆うようにして複数のマイクを配置することにより、音場環境の測定を広範囲に行う方法が提案されている。このように頭部を覆うようにして複数のマイクを設置することにより、広範囲にわたる良好な音場の再現を実現することが可能である。しかしながら、この方法では、頭部の周囲を覆うように無数のマイクを設置する必要が生じ、また、オーディオ帯域全体を良好に再現するために、複数のマイクを密に配置する必要が生じるため、現実に用いることは容易ではないという問題があった。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、再生システムの音響特性を収録する際におけるマイク位置の変動、あるいは再生システムにおいて原音場の音響特性を再現する際における聴取者の耳位置の変動等を考慮して、特定空間における音響特性の測定を多数のマイクを用いて測定することが可能な音響測定システムおよび音響収録装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る音響測定システムは、特定の音響空間に設置された複数のスピーカより出力される音響信号を複数のマイクで収録することにより、前記音響空間における各スピーカから各マイクへの音響特性を測定する音響測定システムであって、前記音響空間の測定対象位置に設置されるダミーヘッドあるいは聴取者の耳部位置を基準として当該ダミーヘッドあるいは当該聴取者の頭部側面より房出した一定の閉空間を確保可能な房出基部と、該房出基部の外表面に配設される前記複数のマイクとを有する音響収録装置と、前記音響空間の前記測定対象位置に設置された前記ダミーヘッドあるいは当該聴取者の頭部を撮影する撮影装置と、該撮影装置により撮影された前記頭部の状態を、前記測定対象位置において視認可能に表示する表示装置とを備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る音響収録装置は、特定の音響空間に設置されたスピーカより出力される音響信号を複数のマイクで収録することにより、前記音響空間における各スピーカから各マイクへの音響特性を測定する音響収録装置であって、前記音響空間の測定対象位置に設置されるダミーヘッドあるいは聴取者の耳部位置を基準として当該ダミーヘッドあるいは当該聴取者の頭部側面より房出した一定の閉空間を確保可能な房出基部と、該房出基部の外表面に配設される前記複数のマイクとを有することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る音響測定システムおよび音響収録装置では、音響収録装置を構成するマイクが、聴取者の耳部位置を基準としてダミーヘッドあるいは聴取者の頭部側面より房出した一定の閉空間を確保可能な房出基部の外表面に配設されている。このため、本発明に係る音響測定システムおよび音響収録装置を用いて特定の音響空間における音響特性を測定した場合には、房出基部の外表面に3次元的に配置された複数のマイク位置における音響特性を求めることが可能となり、このマイク位置を制御ポイントとして音場を制御することにより、頭部側面と房出基部とによって囲まれた閉空間全体が実質的な制御エリアとなり、閉空間内の音響特性が原音場と等価であると判断することが可能となる。
【0013】
従って、従来のようにダミーヘッドの耳位置に単独のマイクが設置される場合に比べて広範囲における音響特性を制御ポイントとして取得することが可能になると共に、従来のように頭部全体を覆うようにしてマイクを配置して頭部周辺の広範囲の音響特性を測定する方法に比べて、容易かつより現実的な方法で所定範囲の音響特性の算出を行うことが可能となる。
【0014】
さらに、閉空間を構成する一定範囲の音響特性を求めることができるので、従来のようにダミーヘッドあるいは直接聴取者を用いて音響特性を測定する場合に比べて、ダミーヘッドの種類による個体差や聴取者の耳形状などによる個体差(個人差)の影響を受けにくい音響特性を求めることが可能となる。
【0015】
また、本発明に係る音響測定システムは、ダミーヘッドあるいは聴取者の頭部を撮影する撮影装置と、撮影された頭部の状態を、測定対象位置において視認可能に表示する表示装置とを備えているため、音響収録装置を用いてスピーカから出力される音響信号をマイクで収録する場合において、頭部位置、つまり音響収録装置の設置位置を確認することが可能となる。このため、マイク位置が大きく変動してしまうことを抑制することができ、マイク位置の変動に伴う音響特性の精度低下を抑制することが可能となる。
【0016】
さらに、マイク位置の変動を抑制して測定対象位置における音響特性の精度を向上させることにより、再生システムにおいて原音場の音響特性を再現する場合における再現対象位置の再現精度を向上させることができる。
【0017】
また、上述する音響測定システムは、前記音響測定システムを用いて再生システムにおける音響空間の音響特性を測定することにより、該再生システムの音響特性と、原音場の音響空間において測定された音響特性とに基づいて、前記再生システムにおいて前記原音場の音響環境を再現するための音場再現フィルタが算出される場合において、前記再生システムにおいて音響信号を出力するための複数のスピーカを有し、該複数のスピーカは、前記原音場において前記音響特性の測定が行われたマイク位置を基準とする音響信号の入力方向および入力される前記音響信号の高音圧レベルの方向に対応させて、前記再生システムの前記測定対象位置を基準とする方向に配置されるものであってもよい。
【0018】
このように、本発明に係る音響測定システムでは、再生システムに設置される複数のスピーカが、原音場において音響特性の測定が行われたマイク位置を基準とする音響信号の入力方向および高音圧レベルの方向に対応させて、測定対象位置を基準とする方向に配置されるので、原音場における音響信号の入力方向および入力される音響信号の高音圧レベルの方向を、再生システムにおいてより精度高く再現することが可能となる。このため、原音場における音響信号の出力環境・出力状態に、再現音場における音響信号の出力環境・出力状態を近づけることができ、原音場における定位感などの音響再現性の向上を、再現音場において実現することが可能となる。
【0019】
さらに、上述した音響測定システムは、前記房出基部の外表面に配設される前記複数のマイクの隣接する他のマイクとの間隔が、前記マイクで収録される音響信号の測定対象とする上限周波数の1/2波長以下の間隔となるように設定されるものであってもよい。
【0020】
このように、本発明に係る音響測定システムでは、隣接する他のマイクとの間隔が、測定対象とする上限周波数の1/2波長以下の間隔に設定されるため、この上限周波数を上限とする周波数帯域の音響特性を確実に求めることが可能となる。このため、例えば、人間が聴取可能な上限の周波数である20kHzの音の1/2波長である約0.85cm以下の間隔に隣接するマイクの間隔を規定することによって、人間が聴取可能な全ての周波数帯域に対応する音響特性を測定することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る音響測定システムおよび音響収録装置によれば、音響収録装置を構成するマイクが、聴取者の耳部位置を基準としてダミーヘッドあるいは聴取者の頭部側面より房出した一定の閉空間を確保可能な房出基部の外表面に配設されているため、3次元的に配置された複数のマイク位置における音響特性を求めることが可能となり、このマイク位置を制御ポイントとして音場を制御することにより、頭部側面と房出基部とに囲まれた閉空間全体が実質的な制御エリアとなり、閉空間内の音響特性が原音場と等価であると判断することが可能となる。
【0022】
このため、従来のようにダミーヘッドの耳位置に単独のマイクが設置される場合に比べて広範囲における音響特性を制御ポイントとして取得することが可能になると共に、従来のように頭部全体を覆うようにしてマイクを配置して頭部周辺の広範囲の音響特性を測定する方法に比べて、容易かつより現実的な方法で所定範囲の音響特性の算出を行うことが可能となる。
【0023】
さらに、閉空間を構成する一定範囲の音響特性を求めることができるので、従来のようにダミーヘッドあるいは直接聴取者を用いて音響特性を測定する場合に比べて、ダミーヘッドの種類による個体差や聴取者の耳形状などによる個体差(個人差)の影響を受けにくい音響特性を求めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係る音響測定システムおよび音響収録装置について、図面を用いて詳細に説明を行う。なお、本実施の形態に係る音響測定システムでは、音場再現手法として境界音場制御方法を用いるものとする。境界音場制御方法とは、再現音場で出力音の聴取を行う際に、聴取者の耳位置近傍に複数の制御ポイント(マイク)を設置し、この制御ポイントにおいて原音場の特性が再現されるように音場を制御して、聴感的に原音場を知覚させる方法である。このマイクの設置を実現するために、本発明に係る音響測定システムでは、ヘッドフォン構造を備えた音響収録装置を用いる。
【0025】
[音響収録装置の構成]
図1(a)は、本実施の形態に係る音響収録装置を示した側面図であり、図1(b)は、音響収録装置を示した正面図であり、図1(c)は、図1(b)におけるA−A断面を示した断面図である。
【0026】
音響収録装置1は、図1(a)〜(c)に示すように、耳2を覆うようにして形成された略半球状に外表面が房出した基部(房出基部)3と、左右の基部3,3をつなぐためのアーチ部4とにより構成されており、一般的なヘッドフォンなどと同様の構造となっている。基部3の内部には耳2を収納できるように凹所5が形成されており、この凹所5に耳2を内包することにより、頭部側面(顔の側面)6と基部3の外表面9との間に、耳2を覆う閉空間8を確保することが可能となっている。
【0027】
基部3の外表面9には、複数のマイク(マイク素子)10が配置されている。基部3は略半球状に形成されているため、その外表面9は3次元的な曲面によって構成されている。マイク10は、この3次元的な曲面に沿うようにして3次元的にM/2個ずつ(左右合わせてM個)配置されており、隣接する互いのマイク10との間隔が0.8cm以下の間隔を保つように設置されている。マイク10の個数(M個)は、互いのマイク10の間隔が0.8cm以下に設定されるため、外表面9の広さにより決定されることになる。
【0028】
なお、人間が聴き取り可能な音の上限周波数は20kHz程度までといわれており、この音の1/2波長は、約0.85cmとなる。本実施の形態に係る音響収録装置1では、隣接するマイク10の間隔が0.8cm以下に規定されているため、人間が聴取可能な音の周波数帯域である20Hz〜20kHzの帯域の音を収録することが可能になる。また、より高い周波数帯域の音を収録する場合には、その上限周波数の波長の少なくとも1/2以下の間隔でマイク10を配置することにより、その上限周波数を含む音の収録を行うことが可能となる。
【0029】
図1に示すように、基部3の外表面9に複数のマイク10を設けることにより、各マイク10の3次元的な設置位置を基準として音響特性の制御ポイントを確保することが可能となる。このように3次元的な制御ポイントを密に確保することにより、外表面9上の制御ポイントにおいて音場を忠実に再現することが可能となる。
【0030】
また、外表面9上の制御ポイントで原音場の特性が忠実に再現されていれば、頭部側面(顔の側面)6と基部3の外表面9とにより囲まれた閉空間8の音場を原音場と等価であると考えることができる。このため、図1(c)に示すように、頭部側面6と基部3の外表面9とにより囲まれた閉空間8を実質的な制御可能エリアとすることができ、原音場の音響特性を再生環境において再現する場合に聴取者の耳位置が動いてしまっても、耳位置の移動範囲がこの閉空間8内であるならば、原音場の音響特性を忠実に再現することができる。
【0031】
さらに、本実施の形態に係る音響収録装置1を用いることにより、耳を覆った状態(閉空間8に耳が位置する状態)で音場の測定を行うことができ、さらにこの状態で音場を再現することが可能となるため、音場特性の収録作業におけるダミーヘッドや聴取者の耳位置や耳形状等の個体差(個人差)による影響を、最小限にすることが可能となる。
【0032】
次に、本実施の形態に係る音響収録装置1を用いて、原音場の音響特性を測定する処理、再生システムにおける音響特性を測定する処理を説明し、さらに、測定された音響特性より求められる音場再現フィルタを用いて、再生システムにおいて原音場の音響環境を再現する処理について説明する。
【0033】
[原音場における音響特性の測定]
図2は、再現を望む音響空間(原音場)において音響特性を測定するための原音場測定システムの概略構成を示した図である。
【0034】
原音場測定システム20は、図2に示すように、再現を望む音響空間(原音場)21に設置されたスピーカ部22と、スピーカ部22に対して音声出力を行う音声出力装置23と、音声出力装置23に対して評価音を出力するコンピュータ24と、原音場21に設置されるダミーヘッドDと、ダミーヘッドDに装着される音響収録装置1と、音響収録装置1のマイク10により収音された収録音の入力を行う音声入力装置26とによって概略構成されている。
【0035】
本実施の形態では、車室内の音響環境を原音場21の一例として用いている。このように車室空間を原音場21として用いることにより、車室内の音響環境を後述する再生システムで忠実に再現することができる。このため、原音場測定システム20によりあらかじめ測定された車室内の音響特性を用いることによって、再生システムでそれらの車室内の音場を再現することが可能となる。
【0036】
スピーカ部22は、図2に示すように、車両30の前席側の右側ドア位置に設置される前右スピーカFRと、前席側の左側ドア位置に設置される前左スピーカFLと、後席側の右側ドア位置に設置される後右スピーカRRと、後席側の左側ドア位置に設置される後左スピーカRLとを有している。各スピーカFR,FL,RR,RLは、一般的な車両30に用いられる一般的なスピーカである。
【0037】
音声出力装置23は、コンピュータ24より出力された評価音を、スピーカ部22の各スピーカFR,FL,RR,RLに出力する役割を有している。なお音声出力装置23は、評価音の出力先をコンピュータ24の制御命令に従ってスピーカFR,FL,RR,RLへと個別に出力することが可能となっている。なお、評価音とは、音響収録装置1のマイク10および音声入力装置26を介して収音された収録音に基づいて原音場21の音響特性を算出するために用いられる出力音であり、具体的には、収音された収録音をインパルス応答として測定することに適した音(例えば、M系列信号や時間伸張パルス(TSP:Time Stretched Pulse)信号)が該当する。
【0038】
音響収録装置1は、図1を示して説明したように、複数(具体的にはM個)のマイク10を有している。音響収録装置1は、車室内の運転席31位置であって、運転者の頭部位置を想定した高さに位置するようにして設置されるダミーヘッドDの頭部に取り付けられている。このように、音響収録装置1を運転席31に設置し、音響収録装置1のマイク10で評価音を測定することによって、運転者を主体とした車室内の音響特性を測定することが可能となる。
【0039】
音声入力装置26は、音響収録装置1によって測定されたスピーカ部22の出力音をコンピュータ24に出力する役割を有している。ここで、音響収録装置1には複数のマイク10が設置されているが、音声入力装置26において入力される音響収録装置1の音響信号は複数のマイク10により同時に入力される入力信号となるため、マルチチャンネルの音響信号として入力が行われることになる。
【0040】
コンピュータ24は、車室内の音響特性を測定するために、上述した評価音を生成すると共に、音響収録装置1により収音された収録音に基づいて原音場21の音響特性を算出する機能を有している。
【0041】
コンピュータ24は、評価音生成部35と、インパルス応答演算部36と、インパルス応答記録部37と、制御部38とによって概略構成されている。評価音生成部35は、上述したインパルス応答を収音するための評価音を生成する機能を有している。評価音生成部35は、制御部38の制御命令に応じて評価音を生成し、制御部38を介して音声出力装置23に評価音を出力する。
【0042】
インパルス応答演算部36は、音響収録装置1および音声入力装置26を介して収音された収録音に基づいて評価音に対するインパルス応答を算出する。ここで算出されるインパルス応答は、音声出力装置23において選択された評価音の出力先のスピーカFR,FL,RR,RLに応じてスピーカ毎に算出されることになる。
【0043】
インパルス応答記録部37では、スピーカFR,FL,RR,RL毎に算出されたインパルス応答を音響特性として記録する。なお、インパルス応答記録部37は、一般的なハードディスク等であってもよく、また、フラッシュメモリ等で構成されているものであってもよい。
【0044】
制御部38は、原音場21におけるスピーカFR,FL,RR,RL毎の音響特性を求めるために必要な処理を行う役割を有しており、演算制御処理を主として行うCPU(Central Processing Unit)、原音場21における音響特性を測定するためのプログラム等が記録されるROM(Read Only Memory)、ワークエリア等に使用されるRAM(Random Access Memory)等の一般的な演算処理器によって構成されている。
【0045】
制御部38は、上述したように評価音生成部35に対して評価音を生成させると共に、生成された評価音を音声出力装置23に出力する役割を有している。また、制御部38は、音声出力装置23に対して制御命令を出力することによって、音声出力装置23が出力する評価音の出力先のスピーカFR,FL,RR,RLを切り替え制御する役割を有している。さらに、制御部38は、音声入力装置26より入力される収録音に基づいてインパルス応答演算部36においてスピーカ毎のインパルス応答を算出させると共に、算出されたスピーカ毎のインパルス応答を原音場21における音響特性として、インパルス応答記録部37に記録させる役割を有している。
【0046】
図3は、制御部38における原音場21の音響特性測定処理を示したフローチャートである。
【0047】
上述したように構成される原音場測定システム20において、制御部38は、評価音生成部35に対して評価音を生成させる旨の制御命令を出力する(ステップS.1)。評価音生成部35では、制御部38の制御命令に応じて評価音を生成して制御部38に出力する。
【0048】
次に制御部38は、音声出力装置23に選択させる評価音の出力先スピーカ(出力チャンネル)を決定する(ステップS.2)。具体的に制御部38は、評価音を前右スピーカFRに出力するか、前左スピーカFLに出力するか、後右スピーカRRに出力するか、後左スピーカRLに出力するかを決定する。そして制御部38は、音声出力装置23に対して決定された出力先スピーカ情報を出力し(ステップS.3)、音声出力装置23に対して評価音を出力する(ステップS.4)。
【0049】
音声出力装置23では、制御部38より受信した出力先スピーカ情報に従って、評価音の出力先を指定されたスピーカに設定し、評価音の出力を行う。音響収録装置1では、指定されたスピーカより出力された出力音を複数(M個)のマイク10で収音し、収音された収録音を音声入力装置26に出力する。音声入力装置26では、音響収録装置1より取得した収録音を制御部38へと出力する。
【0050】
制御部38では、音声入力装置26より収録音を取得し(ステップS.5)、取得した収録音に基づいて、インパルス応答演算部36にインパルス応答の演算処理命令を出力してインパルス応答の演算処理を行わせる(ステップS.6)。そして、インパルス応答演算部36により演算処理されたインパルス応答を、評価音が出力されたスピーカに関連づけてインパルス応答記録部37に記録させる(ステップS.7)。
【0051】
その後、制御部38は、全てのスピーカについて評価音の出力処理を行ったか否かを判断し(ステップS.8)、まだ評価音の出力処理を行っていないスピーカが存在する場合(ステップS.8においてNoの場合)には、処理をステップS.2に移行して、まだ評価音の出力処理が行われていない出力先のスピーカを決定し(ステップS.2)、上述した処理を繰り返し実行する。
【0052】
全てのスピーカについて評価音の出力処理を行った場合(ステップS.8においてYesの場合)、本実施の形態においては、前右スピーカFR、前左スピーカFL、後右スピーカRR、後左スピーカRLのそれぞれに対して評価音の出力を行った場合、制御部38は、原音場測定システム20における原音場21の音響特性測定処理を終了する。
【0053】
このようにして制御部38が原音場21における音響特性を測定することによって、各スピーカFR,FL,RR,RLと各マイク10との間の音響特性D(iはマイク数)をスピーカFR,FL,RR,RL毎に求めることが可能となる。このようにして求められた音響特性Dは、インパルス応答記録部37において、前右スピーカFRの音響特性D(FR)、前左スピーカFLの音響特性D(FL)、後右スピーカRRの音響特性D(RR)、後左スピーカRLの音響特性D(RL)の4種類の音響特性として記録されることとなる。
【0054】
[再生システムにおける音響特性の測定]
次に、再生システムにおける音響特性を測定するための再生音場測定システムについて説明する。本実施の形態では、実験室を再生システムの一例として用いている。このように実験室を再生システムとして用いることによって、上述した車室内(原音場21)の音響環境を実験室内で忠実に再現することができる。このため、異なる車両30の音響特性を上述した原音場測定システム20を用いて測定することにより、1つの実験室(再生システム)であらゆる車両の音響環境を再現することが可能となる。
【0055】
図4に示すように、再生音場測定システム40は、実験室(再生システム41)に設置されたスピーカ部42と、スピーカ部42に対して音声出力を行う音声出力装置23と、音声出力装置23に対して評価音を出力するコンピュータ24と、再生システム41に設置される音響収録装置1と、音響収録装置1により収音された収録音の入力を行う音声入力装置26と、音響収録装置1の設置位置を前方および左右側方から撮影するためのカメラ(撮影装置)44a〜44cと、カメラ44a〜44cにより撮影された画像の処理を行う画像処理部43と、画像処理部43により画像処理された画像を表示するためのモニタ(表示装置)45とによって概略構成されている。なお、音響収録装置1と、カメラ44a〜44cと、モニタ45と、スピーカ部42とは、本発明に係る音響測定システムに該当する。
【0056】
ここで、再生音場測定システム40に用いられる音声出力装置23と、音響収録装置1と、コンピュータ24と、音声入力装置26とは、上述した原音場測定システム20において用いられる音声出力装置23と、音響収録装置1と、コンピュータ24と、音声入力装置26と同一の構成であって同一の機能を備えるものであるため、その詳細な説明は省略する。なお、音響収録装置1は、再現音場試聴時の聴取者Mの頭部位置を想定した高さに位置するようにして設置されるダミーヘッドDの頭部に取り付けられている。
【0057】
また、コンピュータ24を概略構成する評価音生成部35と、インパルス応答演算部36と、インパルス応答記録部37と、制御部38も、上述した原音場測定システム20のコンピュータ24を概略構成する評価音生成部35と、インパルス応答演算部36と、インパルス応答記録部37と、制御部38と同一の構成であって同一の機能を備えるものであるため、その詳細な説明は省略する。
【0058】
スピーカ部42は、図4に示すように、音響収録装置1を中心として等距離を保つように円形に配設された複数(本実施の形態ではN個)のスピーカ46によって構成されている。このスピーカ46は、音声出力装置23より出力された評価音を出力することが可能となっている。
【0059】
また、スピーカ46は、原音場21におけるスピーカ部22の配置位置を参考にして、原音場21における音源の出力方向あるいは音源の音圧レベルが高い方向に対して密になるように設置される。例えば、本実施の形態に係る原音場測定システム20では、原音場21において4つのスピーカ(スピーカFR,FL,RR,RL)が設けられており、音響収録装置1の設置位置(運転席位置)を基準として、右前方向、左前方向、右後方向および左後方向に、各スピーカ(スピーカFR,FL,RR,RL)がそれぞれ配置されている。このため、再生音場測定システム40に配置されるスピーカ46は、図4および図5に示すように、原音場21におけるスピーカの配置方向に密に配置されるようにして配置位置(配置方向)の調整が行われる。
【0060】
図5に示すように、原音場21となる車両30の各ドアスピーカ方向にスピーカ46を密に配置することにより、原音場の音源方向と再生システムにおける音源方向とを共通させることができるので、再生システムにおける原音場の再現性を高めることが可能となり、定位感等の再現精度を向上させることができる。再現対象の変更の度にスピーカ46の配置を変更することは現実的ではないが、再現の対象とする音場の音源方向がほぼ固定される場合には、あらかじめその音源方向(例えば、車室内の音場の再現においては、ドアスピーカ、ツィーター、センタースピーカの方向など)にスピーカ46を密に配置しておくことが考えられる。
【0061】
また、図4および図5に示したスピーカ46の配置位置は、2次元的(平面的)にスピーカ46を配置する場合を示しているが、スピーカ46の配置位置は2次元的な配置には限定されず、3次元的にスピーカ46を配置するものであってもよい。3次元的にスピーカ46を配置する場合においても、原音場21の音源方向または音圧レベルの高い方向に密にスピーカ46配置することにより、再現精度の向上を図ることが可能になる。
【0062】
例えば、車両30の左右前後位置に設置されるスピーカは、一般的にドア部分の下部(足下近傍)に設置されることが多い。一方で、ツイーターなどのスピーカは、車両のAピラー(フロント窓の左右柱部分)に設置されることが多く、ドア部分の下部(足下近傍)に設置されるスピーカよりもオーディオ信号出力位置が高い場所に位置することになる。このため、スピーカ46を、ツイーター設置位置を想定して高い位置に設置したり、ドア設置用スピーカを想定して低い位置に設置したりすることによって再現精度の向上を図ることが可能となる。
【0063】
音声出力装置23は、上述した原音場測定システム20の音声出力装置23と同様に、評価音の出力先をコンピュータ24の制御命令に従って各スピーカ46へと個別に出力することが可能となっている。
【0064】
ここで、本実施の形態に係る音響収録装置1では、半球状の基部3の外表面9にマイク10を複数配置する構成であるため、頭部側面(顔の側面)6と基部3の外表面9とにより形成される閉空間8の範囲であれば、聴取者Mの耳位置にズレが生じた場合であっても、再現精度の良い音響環境を確保することが可能である。しかしながら、本実施の形態に係る音響収録装置1では、制御エリアを耳元近傍に限定しているため、聴取者Mの聴取位置が大きくずれて耳位置が閉空間8の範囲を超えてしまうと、音響特性の再現精度が大きく劣化するおそれがある。一方で、音響収録装置1でインパルス応答に対応する音を収録する場合において、再生システム41で音響特性を測定する場合のマイク10位置と、求められた音場再現フィルタを用いて再生システム41で原音場21の音響環境を再現する場合の聴取者Mの耳位置とにズレが生じないように調整を行うことにより、再生システム41で原音場21の音響環境を再現する場合における聴取者Mの耳位置の変動範囲を、閉空間8に精度良く対応させることが可能となる。
【0065】
このため、本実施の形態に係る再生音場測定システム40では、図4に示すように、聴取者Mの聴取位置(音響収録装置1の設置位置)と同一水平面上の正面方向、左方向、右方向の3箇所に、頭部・耳位置撮影用のカメラ44a〜44cが設定されている。具体的に、カメラ44a〜44cは、スピーカ46が配置される等距離環状位置であって、聴取者の頭部高さ位置に設置されている。カメラ44aは、聴取者の正面位置に設けられており、カメラ44bは、聴取者の左側面位置に設けられており、カメラ44cは、聴取者の右側面位置に設けられている。
【0066】
カメラ44aにより撮影された聴取者の正面画像と、カメラ44bにより撮影された聴取者の左側面画像と、カメラ44cにより撮影された聴取者の右側面画像とは、画像処理部43に出力される。
【0067】
画像処理部43は、カメラ44a〜44cより撮影された画像を取得し、見やすさを考慮して取得された各画像を左右逆さまに(ミラーに表示されたように)修正すると共に、取得された画像を聴取者が容易に対比できるように1画像に集約する。さらに、画像処理部43では、聴取者がモニタ45を介して耳位置の位置合わせを容易に行えるようにするために、図6に示すように、耳位置および顔の中心位置を示すためのガイド線47、48および耳位置用のマーカー49を正面画像および左右側面画像に付加する。
【0068】
モニタ45は、聴取者Mの正面位置に設置されており、このモニタ45には、画像処理部43で画像処理がなされた聴取者Mの正面画像および左右側面画像が表示される。聴取者Mは、モニタ45に表示される正面画像および左右側面画像を確認し、この画像のガイド線47、48およびマーカー49に基づいて顔の中心位置および耳位置を合わせることによって、最適な位置でインパルス入力を聴取することが可能となる。
【0069】
図7は、制御部38における再生システム41の音響特性測定処理を示したフローチャートである。
【0070】
上述したようにして構成される再生音場測定システム40において、制御部38は、評価音生成部35に対して評価音を生成させる旨の制御命令を出力する(ステップS.11)。評価音生成部35では、制御部38の制御命令に応じて評価音を生成して制御部38に出力する。
【0071】
次に制御部38は、音声出力装置23において選択される評価音の出力先スピーカ(出力チャンネル)を決定する(ステップS.12)。具体的に制御部38は、評価音を前述のN個のスピーカ46のいずれに出力するのかを決定する。そして制御部38は、音声出力装置23に対して決定された出力先スピーカ情報を出力し(ステップS.13)、音声出力装置23に対して評価音を出力する(ステップS.14)。
【0072】
音声出力装置23では、制御部38より受信した出力先スピーカ情報に従って、評価音の出力先を指定されたスピーカ46に設定し、評価音の出力を行う。音響収録装置1では、指定されたスピーカ46より出力された出力音を複数(M個)のマイク10で収音し、収音された収録音を音声入力装置26に出力する。音声入力装置26では、音響収録装置1のマイク10より取得した収録音を制御部38へと出力する。
【0073】
制御部38では、音声入力装置26より収録音を取得し(ステップS.15)、取得した収録音に基づいて、インパルス応答演算部36にインパルス応答の演算処理命令を出力してインパルス応答の演算処理を行わせる(ステップS.16)。そして、インパルス応答演算部36により演算処理されたインパルス応答を、評価音が出力されたスピーカ46に関連づけてインパルス応答記録部37に記録させる(ステップS.17)。
【0074】
その後、制御部38は、全てのスピーカ46について評価音の出力処理を行ったか否かを判断し(ステップS.18)、まだ評価音の出力処理を行っていないスピーカ46が存在する場合(ステップS.18においてNoの場合)には、処理をステップS.12に移行して、まだ評価音の出力処理が行われていない出力先のスピーカ46を決定し(ステップS.12)、上述した処理を繰り返し実行する。
【0075】
全てのスピーカ46について評価音の出力処理を行った場合(ステップS.18においてYesの場合)、つまり、N個のスピーカ46のそれぞれに対して評価音の出力を行うことによってスピーカ46毎にインパルス応答の演算処理を行った場合、制御部38は、再生音場測定システム40における再生システム41の音響特性測定処理を終了する。
【0076】
なお、再生音場測定システム40において測定される音響特性は、スピーカ部42のN個の各スピーカ46と音響収録装置1のM個のマイク10との間における多数のインパルス応答に基づいて求められており、この全てのインパルス応答に基づいて求められる音響特性Ai-jが(iはマイク10の数、jは再生システム41のスピーカ46の数)、インパルス応答記録部37に記録される。
【0077】
[音場再現フィルタの算出]
次に、原音場測定システム20において算出された各スピーカFL、FR、RR、RLの音響特性Dと、再生音場測定システム40において算出された音響特性Ai-jとに基づいて、再生システム41において原音場21の音響環境を実現するための音場再現フィルタを算出する処理について説明する。
【0078】
図8(a)は、音場再現フィルタを算出するためのフィルタ算出装置50を示したブロック図である。
【0079】
フィルタ算出装置50は、フィルタ算出処理部51と、原音場特性記録部52と、再生音場特性記録部53と、フィルタ情報記録部54とにより概略構成されている。
【0080】
原音場特性記録部52には、原音場21において測定された各スピーカFL、FR、RR、RLの音響特性Dが記録されており、インパルス応答記録部37と同様に、ハードディスクや、フラッシュメモリ等の一般的な記録装置によって構成されている。また、同様に、再生音場特性記録部53には、再生システム41において測定された音響特性Ai-jが記録されており、ハードディスク等の一般的な記録装置によって構成されている。
【0081】
フィルタ情報記録部54は、フィルタ算出処理部51によって算出された音場再現フィルタが記録される記録媒体である。フィルタ情報記録部54も、原音場特性記録部52や再生音場特性記録部53と同様に、一般的な記録装置によって構成されている。
【0082】
フィルタ算出処理部51は、原音場特性記録部52に記録される音響特性Dと、再生音場特性記録部53に記録される音響特性Ai-jとに基づいて、スピーカFL、FR、RR、RL毎の音場再現フィルタQを算出する処理を行う。なお、フィルタ算出処理部51は、演算制御処理を主として行うCPU(Central Processing Unit)、音場再現フィルタを算出するためのプログラム等が記録されるROM(Read Only Memory)、ワークエリア等に使用されるRAM(Random Access Memory)等の一般的な演算処理器によって構成されている。
【0083】
フィルタ算出処理部51は、以下の連立方程式(式1)を解くことによって音場再現フィルタQjを算出する。
【数1】

【0084】
ここで、行列Aの要素Ai-jは、再生システムにおけるスピーカjとマイクiとの間の音響特性を示しており、行列Qは、求める音場再現フィルタを示しており、行列Dは原音場の音響特性を示している。
【0085】
また、iは音響収録装置1に設置されるマイク10の数を示しており、本実施の形態における音響収録装置1にはM個のマイク10が設置されているので、
i=1,2,・・・・,Mとなる。
【0086】
さらに、jは再生システムにおけるスピーカ数を示しており、本実施の形態における再生システム41のスピーカ部42にはN個のスピーカ46が設置されているので、
j=1,2,・・・,Nとなる。
【0087】
フィルタ算出処理部51は、図8(b)に示すフローチャートに従って、上述した式1に基づいてスピーカ部22の各スピーカFR,FL,RR,RLに対応する音場再現フィルタQ(Q〜Q)を求める(ステップS.21)。
このとき、フィルタ算出処理部51は、再生システム41の音響特性Ai-jに基づいて、
(1)原音場21の音響特性D(FR)に対する音場再現フィルタQ(FR)と、
(2)原音場21の音響特性D(FL)に対する音場再現フィルタQ(FL)と、
(3)原音場21の音響特性D(RR)に対する音場再現フィルタQ(RR)と、
(4)原音場21の音響特性D(RL)に対する音場再現フィルタQ(RL)と
を算出する。
【0088】
そして、フィルタ算出処理部51は、算出された音場再現フィルタQ(FR),Q(FL),Q(RR),Q(RL)をフィルタ情報記録部54に記録させ(ステップS.22)、音場再現フィルタの算出処理を終了する。なお、図8(b)に示すフローチャートでは、便宜上、1つの音響特性Dに対する1つの音場再現フィルタQの算出処理しか示していないが、上述したように、原音場21の各音響特性(上述した(1)〜(4)の音響特性D(FR)、音響特性D(FL)、音響特性D(RR)、音響特性D(RL))に対する各音場再現フィルタ(上述した(1)〜(4)の音場再現フィルタQ(FR)、音場再現フィルタQ(FL)、音場再現フィルタQ(RR)、音場再現フィルタQ(RL))をそれぞれ算出して、フィルタ情報記録部54に記録させる。
【0089】
[再生システムにおける原音場の音響環境再現処理]
次に、再生システム41である実験室において原音場21である車室内の音響環境(音場)を再現する処理について説明する。再生システム41における原音場21の音響環境の再現は、音場再現システムによって実現される。
【0090】
図9は、音場再現システム60の概略構成を示したブロック図である。音場再現システム60は、図9に示すように、再生システム41である実験室内に設置されたスピーカ部42と、スピーカ部42に対して音声出力を行う音声出力装置61と、音声出力装置61に対して評価音を出力するコンピュータ62と、マルチチャンネルの音響信号を出力することが可能なオーディオ機器63と、オーディオ機器63によって再生される音響信号をコンピュータ62に出力する音声入力装置26と、音場再現システム60において音楽の聴取を行う聴取者Mの頭位置を前方および左右側方から撮影するためのカメラ44a〜44cと、カメラ44a〜44cにより撮影された画像の処理を行う画像処理部43と、画像処理部43により画像処理された画像を表示するためのモニタ45とによって概略構成されている。
【0091】
ここで、音場再現システム60に用いられる音声入力装置26と、スピーカ部42と、カメラ44a〜44cと、画像処理部43と、モニタ45とは、再生音場測定システム40において用いられる音声入力装置26と、スピーカ部42と、カメラ44a〜44cと、画像処理部43と、モニタ45と同一の構成であって同一の機能を備えるものであるため、その詳細な説明は省略する。
【0092】
音声出力装置61は、コンピュータ62より出力されたオーディオ信号を、スピーカ部42の各スピーカ46に出力する役割を有している。なお、音声出力装置61は、評価音を全てのスピーカ46に対して同時に出力することが可能となっている。
【0093】
オーディオ機器63は、CD(Compact Disc)、DVD、MD(MiniDisc)等の記録媒体に記録される音楽情報を読み出して音響信号として出力する装置である。オーディオ機器63では、マルチチャンネルの音響信号を出力することが可能となっており、例えば、DVDに記録される5.1チャンネルの音響信号のようなマルチチャンネルの音声を再生させることも可能である。なお、本実施の形態に係るオーディオ機器63では、記録媒体に記録された2チャンネル(ステレオ音源)の音響信号を出力する場合について説明する。
【0094】
オーディオ機器63(例えば車載オーディオ機器)では、記録媒体に記録された2チャンネル(ステレオ音源)の音響信号を読み取り、ステレオ音源を原音場21に設置されたスピーカ部22の各スピーカFR、FL、RR、RLに対応した4チャンネルの音響信号に分配する。具体的には、ステレオ音源のRight成分はスピーカFR、RRに、Left成分はスピーカFL、RLへと分配され、図10に示すように、スピーカFRより発せられる音響信号S(FR)と、スピーカFLより発せられる音響信号S(FL)と、スピーカRRより発せられる音響信号S(RR)と、スピーカRLより発せられる音響信号S(RL)として出力される。なお、このときオーディオ機器63側の設定によっては、4チャンネルの各チャンネルに対してイコライザ等の音響信号処理が行なわれた音響信号がオーディオ機器63より出力される。
【0095】
コンピュータ62は、オーディオ機器63によって再生される4チャンネルの音響信号を、音声入力装置26を介して取得し、取得した音響信号に音響処理を施すことによって、再生システム41において出力される音響信号を、原音場21において出力される音響信号と同一の音響特性を備えるように処理する役割を有している。
【0096】
コンピュータ62は、制御部65と、畳み込み演算処理部66と、音場再現フィルタ記録部67とによって概略構成されている。音場再現フィルタ記録部67には、上述したフィルタ算出装置50によって算出された音場再現フィルタが記録されている。音場再現フィルタ記録部67は、一般的な記録装置によって構成されている。
【0097】
畳み込み演算処理部66は、制御部65の制御命令に応じて、音声入力装置26によって入力された音響信号に対し、音場再現フィルタ記録部67に記録される音場再現フィルタを用いて畳み込み演算処理を行い、スピーカ部42のN個のスピーカ46より出力される音響信号に音響処理を施す。具体的には、図10に示すように、音声入力装置26を介してオーディオ機器63より入力された4チャンネルの音響信号(音響信号S(FR)、音響信号S(FL)、音響信号S(RR)、音響信号S(RL))は、畳み込み演算処理部66によって、チャンネル毎にそのチャンネルに対応する音場再現フィルタ(音場再現フィルタQ(FR)、音場再現フィルタQ(FL)、音場再現フィルタQ(RR)、音場再現フィルタQ(RL)のいずれか)を用いた畳み込み演算処理70〜73が行われる。
【0098】
畳み込み演算された各チャンネルの音響信号は、それぞれの音場再現フィルタによって畳み込み演算された同一チャンネルの音響出力毎に加算器K1〜加算器KNで加算されて再生システム41のスピーカ46数に対応するN個のチャンネル成分の音響信号に音響処理される。そして、畳み込み演算処理部66によって、N個のチャンネル成分を備えた音響信号は、制御部65より音声出力装置61へと出力され、音声出力装置61によって、各チャンネル(1〜Nチャンネル)に対応するN個のスピーカ46から同時に出力される。
【0099】
このようにして、各スピーカ46より出力される音響信号を、音場再現システム60の聴取位置で聴取者Mが聴取することにより、再生システム41において原音場21の音響環境を再現することが可能となる。また、聴取者Mが音響信号を聴取する場合において、原音場21の音響環境を再現可能な制御範囲は、耳2位置近傍における閉空間8に該当するエリアとなるため,聴取者が着座状態においてわずかに動いてしまった場合であっても、十分に再現性の高い音響環境を確保することが可能となる。
【0100】
さらに、音場再現システム60には、再生音場測定システム40と同様に、カメラ44a〜44c、画像処理部43、モニタ45が設けられている。このため、図11に示すように、音楽を聴取する聴取者Mが、モニタ45に示される画像に基づいて、左右の耳位置および顔の中心位置を確認することが可能となっている。このようにモニタ45に表示される画像を確認することによって、最適な音響環境を得ることが可能な頭部位置を確認することができるので、閉空間8により確保される制御ポイントの対象範囲と相まって、最適な音響環境の再現をより確実に実現することが可能となる。
【0101】
以上、本発明に係る音響測定システムおよび音響収録装置について、図面を用いて詳細に説明したが、本発明に係る音響測定システムおよび音響収録装置は上述した実施の形態に限定されるものではない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0102】
例えば、上述した実施の形態では、フィルタ算出装置50で音場再現フィルタを算出した後に、算出した音場再現フィルタを音場再現フィルタ記録部67に記録させて畳み込み演算処理部66で畳み込み演算を行う構成であったが、音場再現フィルタの算出を音場再現システム60において行う構成であってもよい。
【0103】
また、上述した実施の形態では、画像処理部43をコンピュータ24、62と別に設けて、コンピュータ24、62の制御部38、65の制御に関係なく、カメラ44a〜44cで撮影された画像の画像処理を行ってモニタ45より出力する構成としたが、画像処理部43をコンピュータ24、62の機能部の一つとして一体に構成し、制御部38、65の制御に応じて画像処理部43が画像処理などを行う構成とするものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】実施の形態に係る音響収録装置の概略構成を示す図であって、(a)は側面図、(b)は正面図、(c)は断面図を示している。
【図2】実施の形態に係る原音場測定システムの概略構成を示した図である。
【図3】実施の形態に係る原音場測定システムの制御部における原音場の音響特性測定処理を示したフローチャートである。
【図4】実施の形態に係る再生音場測定システムの概略構成を示した図である。
【図5】実施の形態に係る再生音場測定システムにおけるスピーカの配置位置と原音場測定システムにおけるスピーカの配置位置との対応を示した図である。
【図6】実施の形態に係る再生音場測定システムのモニタに示される画像例を示した図である。
【図7】実施の形態に係る再生音場測定システムの制御部における再生システムの音響特性測定処理を示したフローチャートである。
【図8】(a)は、本実施の形態に係るフィルタ算出装置の概略構成を示したブロック図であり、(b)は、実施の形態に係るフィルタ算出装置のフィルタ算出処理部における音場再現フィルタの算出処理を示したフローチャートである。
【図9】実施の形態に係る音場再現システムの概略構成を示したブロック図である。
【図10】実施の形態に係る畳み込み演算処理部による畳み込み演算処理を説明するための説明図である。
【図11】実施の形態に係る音場再現システムのモニタに示される画像例を示した図である。
【符号の説明】
【0105】
1 …音響収録装置(音響収録装置、音響測定システム)
2 …耳
3 …(音響収録装置の)基部(房出基部)
4 …(音響収録装置の)アーチ部
5 …(基部の)凹所
6 …頭部側面
8 …閉空間
9 …(基部の)外表面
10 …(音響収録装置の)マイク
20 …原音場測定システム
21 …原音場
22、42 …スピーカ部
23、61 …音声出力装置
24、62 …コンピュータ
26 …音声入力装置
30 …車両
31 …運転席
35 …評価音生成部
36 …インパルス応答演算部
37 …インパルス応答記録部
38、65 …(コンピュータの)制御部
40 …再生音場測定システム
41 …再生システム
43 …画像処理部
44a〜44c …カメラ(撮影装置、音響測定システム)
45 …モニタ(表示装置、音響測定システム)
46 …スピーカ(スピーカ、音響測定システム)
47、48 …ガイド線
49 …マーカー
50 …フィルタ算出装置
51 …(フィルタ算出装置の)フィルタ算出処理部
52 …(フィルタ算出装置の)原音場特性記録部
53 …(フィルタ算出装置の)再生音場特性記録部
54 …(フィルタ算出装置の)フィルタ情報記録部
60 …音場再現システム
63 …オーディオ機器
66 …畳み込み演算処理部
67 …音場再現フィルタ記録部
70〜73 …畳み込み演算処理
D …ダミーヘッド
M …聴取者
K1〜KN …加算器
i-j …(再生システムの)音響特性
i …(原音場の)音響特性
j …音場再現フィルタ
FL …前左スピーカ
FR …前右スピーカ
RL …後左スピーカ
RR …後右スピーカ
S(FR)、S(FL)、S(RR)、S(RL) …音響信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の音響空間に設置された複数のスピーカより出力される音響信号を複数のマイクで収録することにより、前記音響空間における各スピーカから各マイクへの音響特性を測定する音響測定システムであって、
前記音響空間の測定対象位置に設置されるダミーヘッドあるいは聴取者の耳部位置を基準として当該ダミーヘッドあるいは当該聴取者の頭部側面より房出した一定の閉空間を確保可能な房出基部と、
該房出基部の外表面に配設される前記複数のマイクと
を有する音響収録装置と、
前記音響空間の前記測定対象位置に設置された前記ダミーヘッドあるいは当該聴取者の頭部を撮影する撮影装置と、
該撮影装置により撮影された前記頭部の状態を、前記測定対象位置において視認可能に表示する表示装置と
を備えることを特徴とする音響測定システム。
【請求項2】
前記音響測定システムを用いて再生システムにおける音響空間の音響特性を測定することにより、該再生システムの音響特性と、原音場の音響空間において測定された音響特性とに基づいて、前記再生システムにおいて前記原音場の音響環境を再現するための音場再現フィルタが算出される場合において、
前記再生システムにおいて音響信号を出力するための複数のスピーカを有し、
該複数のスピーカは、前記原音場において前記音響特性の測定が行われたマイク位置を基準とする音響信号の入力方向および入力される前記音響信号の高音圧レベルの方向に対応させて、前記再生システムの前記測定対象位置を基準とする方向に配置されること
を特徴とする請求項1に記載の音響測定システム。
【請求項3】
前記房出基部の外表面に配設される前記複数のマイクは、隣接する他のマイクとの間隔が、前記マイクで収録される音響信号の測定対象とする上限周波数の1/2波長以下の間隔となるように設定されること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の音響測定システム。
【請求項4】
特定の音響空間に設置されたスピーカより出力される音響信号を複数のマイクで測定することにより、前記音響空間における各スピーカから各マイクへの音響特性を測定する音響収録装置であって
前記音響空間の測定対象位置に設置されるダミーヘッドあるいは聴取者の耳部位置を基準として当該ダミーヘッドあるいは当該聴取者の頭部側面より房出した一定の閉空間を確保可能な房出基部と、
該房出基部の外表面に配設される前記複数のマイクと
を有することを特徴とする音響収録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−136027(P2010−136027A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309070(P2008−309070)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000001487)クラリオン株式会社 (1,722)
【Fターム(参考)】