説明

音響画像生成装置および音響画像生成方法

【課題】光音響分析法を用いた生体組織の判別において、超音波画像中に表された管腔組織またはコラーゲンや脂肪を含有する組織を精度よく判別することを可能とする。
【解決手段】光音響分析法を用いた生体組織の判別において、管腔領域が血管領域、リンパ管領域および神経領域のいずれの領域に該当するのか、または、組織領域がコラーゲンおよび/または脂肪を含有する組織を表示するものであるか否かの判別を行う判別手段29と、その判別の結果に応じて管腔領域または組織領域が色分けされた超音波画像を合成しこの合成画像を表示させる画像合成手段30とを備え、判別手段29を、ヘモグロビン、脂肪、水またはコラーゲンの吸収係数についての大小関係が相互に異なる複数の測定光のそれぞれに関する光音響データ中のピークデータの有無に基づいて判別するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波画像の生成および光音響データの再構成をすることが可能な音響画像生成装置および音響画像生成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被検体の内部の断層画像を取得する方法としては、超音波が被検体内に照射されることにより被検体内で反射した超音波を検出して超音波画像を生成し、被検体内の形態的な断層画像を得る超音波イメージングが知られている。一方、被検体の検査においては形態的な断層画像だけでなく機能的な断層画像を表示する装置の開発も近年進められている。そして、このような装置の一つに光音響分析法を利用した装置がある。この光音響分析法は、所定の波長を有する光(例えば、可視光、近赤外光又は中間赤外光)を被検体に照射し、被検体内の特定物質がこの光のエネルギーを吸収した結果生じる弾性波である光音響波を検出して、その特定物質の濃度を定量的に計測するものである。被検体内の特定物質とは、例えば血液中に含まれるグルコースやヘモグロビンなどである。このように光音響波を検出しその検出信号に基づいて光音響画像を生成する技術は、光音響イメージング(PAI:Photoacoustic Imaging)或いは光音響トモグラフィー(PAT:Photo Acoustic Tomography)と呼ばれる。
【0003】
光音響イメージングでは、周囲の媒質よりも光吸収係数が大きい光吸収体のイメージングが行われている。例えば、体内における血管の光吸収係数は周囲の媒質よりも大きく、健康管理、診断および手術等に利用することを目的として、この血管をイメージングする研究が広く行われている(特許文献1)。
【0004】
また、近年美容やアンチエイジングの関心が高まっており、皮膚評価においてコラーゲンまたは脂肪の分布およびこれらの組織中の含有量が評価項目とされることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−136887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、超音波画像で撮像することができる生体内の管腔組織としては、前述した血管の他に、リンパ官および神経組織も挙げられる。リンパ管や神経の形態および位置に関する情報も、診断および治療並びに手術前や手術中での有用な情報となるため、これらの管腔組織を超音波画像上で正確に判別できることが望ましい。しかしながら、これらの管腔組織を超音波画像上で精度よく判別できる方法は報告されていない。
【0007】
また、コラーゲンまたは脂肪の分布およびこれらの組織中の含有量を非接触で簡易に測定できれば、皮膚評価において非常に有用である。
【0008】
本発明は上記要望に応えてなされたものであり、光音響分析法を用いた生体組織の判別において、超音波画像中に表された管腔組織を精度よく判別することを可能とする音響画像生成装置および音響画像生成方法を提供することを目的とするものである。
【0009】
本発明は、光音響分析法を用いた生体組織の判別において、超音波画像中に表されたコラーゲンや脂肪を含有する組織を精度よく判別することを可能とする音響画像生成装置および音響画像生成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る第1の音響画像生成装置は、
電気音響変換手段により検出された音響波のうち、電気音響変換手段によって被検体に向けて出射され被検体内で反射した超音波に基づいて超音波画像を生成し、上記音響波のうち、光出射手段が前記被検体に向けて複数の測定光を切り替えて出射したことにより被検体内で発生した光音響波に基づいて光音響データを再構成する画像生成手段と、
管腔組織を表示する超音波画像中の管腔領域が、血管領域、リンパ管領域および神経領域のいずれの領域に該当するのかの判別を行う判別手段と、
上記判別の結果に応じて管腔領域が色分けされた超音波画像を表示させる表示制御手段とを備え、
判別手段が少なくとも、脂肪および水の吸収係数に比べてヘモグロビンの吸収係数が大きい波長帯域に属する第1の波長の測定光に関する光音響データ中の第1のピークデータの有無、および、ヘモグロビンおよび脂肪の吸収係数に比べて水の吸収係数が大きい波長帯域に属する第2の波長の測定光に関する光音響データ中の第2のピークデータの有無に基づいて上記判別を行うものであることを特徴とするものである。
【0011】
本明細書において、「音響波」とは超音波および光音響波を含む意味である。「超音波」とは電気音響変換部の振動に起因して被検体内に発生した弾性波およびその反射波を意味し、「光音響波」とは測定光の吸収による光音響効果に起因して被検体内に発生した弾性波を意味する。
【0012】
「第1の波長の測定光に関する光音響データ」とは、第1の波長の測定光の出射に起因する光音響波に基づく光音響データを意味する。また、「第2の波長の測定光に関する光音響データ」とは、第2の波長の測定光の出射に起因する光音響波に基づく光音響データを意味する。なお、後述するその他の波長の測定光についても同様である。
【0013】
「光音響データ」とは、光音響波を検出して得られた生データに基づいて再構成された光音響信号に関するデータを意味し、再構成直後の信号波形データおよびこの信号波形データを基に加工されたデータを含む意味である。「信号波形データを基に加工されたデータ」とは、例えば、信号波形データが対数処理されたデータや、信号波形データから構築された画像データが挙げられる。
【0014】
そして、本発明に係る第1の音響画像生成装置において、
判別手段は、さらに、水およびヘモグロビンの吸収係数に比べて脂肪の吸収係数が大きい波長帯域に属する第3の波長の測定光に関する光音響データ中の第3のピークデータの有無も考慮するものであることが好ましい。
【0015】
「第3のピークデータの有無も考慮する」とは、第1のピークデータの有無、第2のピークデータの有無および第3のピークデータの有無に基づいて上記判別を行うことを意味する。
【0016】
また、本発明に係る第1の音響画像生成装置において、判別手段は、
第1のピークデータがありかつ第2のピークデータがある場合に、上記管腔領域は血管領域に該当するとの判別を行い、
第1のピークデータがなくかつ第2のピークデータがある場合に、上記管腔領域はリンパ管領域に該当するとの判別を行い、
第1のピークデータがなくかつ第2のピークデータがない場合に、上記管腔領域は神経領域に該当するとの判別を行うものであることが好ましい。
【0017】
また、第1のピークデータの有無および第2のピークデータの有無に基づいて上記判別を行う場合には、第1の波長は700〜820nmの波長帯域に属するものであり、第2の波長は1055〜1075nmの波長帯域に属するものであることが好ましい。
【0018】
本発明に係る第1の音響画像生成装置において第3のピークデータの有無も考慮する場合には、判別手段は、
第1のピークデータがありかつ第3のピークデータがない場合に、上記管腔領域は血管領域に該当するとの判別を行い、
第1のピークデータがなくかつ第2のピークデータがある場合に、上記管腔領域はリンパ管領域に該当するとの判別を行い、
第2のピークデータがなくかつ第3のピークデータがある場合に、上記管腔領域は神経領域に該当するとの判別を行う構成を採用することができる。
【0019】
或いは、本発明に係る第1の音響画像生成装置において、判別手段は、
第1のピークデータがあり、第2のピークデータがありかつ第3のピークデータがない場合に、上記管腔領域は血管領域に該当するとの判別を行い、
第1のピークデータがなく、第2のピークデータがありかつ第3のピークデータがない場合に、上記管腔領域はリンパ管領域に該当するとの判別を行い、
第1のピークデータがなく、第2のピークデータがなくかつ第3のピークデータがある場合に、上記管腔領域は神経領域に該当するとの判別を行う構成を採用することができる。
【0020】
また、第3のピークデータの有無も考慮する場合には、第1の波長は700〜820nmの波長帯域に属するものであり、第2の波長は1055〜1075nmの波長帯域に属するものであり、第3の波長は910〜930nmの波長帯域に属するものであることが好ましい。或いは、この場合には、第1の波長は700〜820nmの波長帯域に属するものであり、第2の波長は1055〜1075nmの波長帯域に属するものであり、第3の波長は1150〜1250nmまたは1700〜1800nmの波長帯域に属するものであることが好ましい。
【0021】
また、本発明に係る第1の音響画像生成装置において、判別手段は、さらに、水およびヘモグロビンの吸収係数に比べて脂肪の吸収係数が大きい波長帯域に属しかつ第3の波長と異なる第4の波長の測定光に関する光音響データ中の第4のピークデータの有無も考慮するものであることが好ましい。
【0022】
本発明に係る第1の音響画像生成装置において第4のピークデータの有無も考慮する場合には、判別手段は、
第1のピークデータがあり、第2のピークデータがあり、第3のピークデータがなくかつ第4のピークデータがない場合に、管腔領域は血管領域に該当するとの判別を行い、
第1のピークデータがなく、第2のピークデータがあり、第3のピークデータがなくかつ第4のピークデータがない場合に、管腔領域はリンパ管領域に該当するとの判別を行い、
第1のピークデータがなく、第2のピークデータがなく、第3のピークデータがありかつ第4のピークデータがある場合に、管腔領域は神経領域に該当するとの判別を行う構成を採用することができる。
【0023】
また、第4のピークデータの有無も考慮する場合には、第1の波長は700〜820nmの波長帯域に属するものであり、第2の波長は1055〜1075nmの波長帯域に属するものであり、第3の波長は910〜930nmの波長帯域に属するものであり、第4の波長は1150〜1250nmまたは1700〜1800nmの波長帯域に属するものであることが好ましい。
【0024】
また、本発明に係る第1の音響画像生成装置において、画像生成手段は、測定光として出射されたパルス光の光強度の時間波形の微分波形である光微分波形を、このパルス光に基づく光音響信号からデコンボリューションする光微分波形逆畳込み手段を有し、光微分波形逆畳込み手段によってデコンボリューションされた信号に基づいて光音響データを再構成するものであることが好ましい。
【0025】
この場合において、光微分波形逆畳込み手段は、
光音響信号をフーリエ変換する第1のフーリエ変換手段と、
光微分波形を所定のサンプリングレートでサンプリングした信号をフーリエ変換する第2のフーリエ変換手段と、
フーリエ変換された光微分波形の逆数を逆フィルタとして求める逆フィルタ演算手段と、
フーリエ変換された光音響信号に逆フィルタを適用するフィルタ適用手段と、
逆フィルタが適用された光音響信号をフーリエ逆変換するフーリエ逆変換手段とを有するものであることが好ましい。
【0026】
本発明に係る第1の音響画像生成方法は、
検出された音響波のうち、被検体に出射され被検体内で反射した超音波に基づいて超音波画像を生成し、
上記音響波のうち、複数の測定光が切り換えられて出射されたことにより被検体内で発生した光音響波に基づいて光音響データを再構成し、
少なくとも、第1の波長の測定光と、第2の波長の測定光とを切り換えて測定光として被検体内に出射することにより被検体内で発生した光音響波を検出し、
少なくとも、脂肪および水の吸収係数に比べてヘモグロビンの吸収係数が大きい波長帯域に属する第1の波長の測定光に関する光音響データ中の第1のピークデータの有無、および、ヘモグロビンおよび脂肪の吸収係数に比べて水の吸収係数が大きい波長帯域に属する第2の波長の測定光に関する光音響データ中の第2のピークデータの有無に基づいて、上記管腔領域が、血管領域、リンパ管領域および神経領域のいずれの領域に該当するのかの判別を行い、
上記判別の結果に応じて上記管腔領域が色分けされた超音波画像を表示することを特徴とするものである。
【0027】
そして、本発明に係る第1の音響画像生成方法において、さらに、水およびヘモグロビンの吸収係数に比べて脂肪の吸収係数が大きい波長帯域に属する第3の波長の測定光に関する光音響データ中の第3のピークデータの有無も考慮することが好ましい。
【0028】
また、本発明に係る第1の音響画像生成方法において、さらに、水およびヘモグロビンの吸収係数に比べて脂肪の吸収係数が大きい波長帯域に属しかつ第3の波長と異なる第4の波長の測定光に関する光音響データ中の第4のピークデータの有無も考慮することが好ましい。
【0029】
本発明に係る第2の音響画像生成装置は、
電気音響変換手段により検出された音響波のうち、電気音響変換手段によって被検体に出射され被検体内で反射した超音波に基づいて超音波画像を生成し、上記音響波のうち、光出射手段が被検体に複数の測定光を切り替えて出射したことにより被検体内で発生した光音響波に基づいて光音響データを再構成する画像生成手段と、
生体組織を表示する超音波画像中の組織領域が、コラーゲンおよび/または脂肪を含有する組織を表示するものであるか否かの判別を行う判別手段と、
上記判別の結果に応じて組織領域が色分けされた超音波画像を表示させる表示制御手段とを備え、
判別手段が、1700〜1800nmの波長帯域に属する第5の波長の測定光に関する光音響データ中の第5のピークデータの有無、および、1700〜1800nmの波長帯域に属しかつ第5の波長と異なる第6の波長の測定光に関する光音響データ中の第6のピークデータの有無に基づいて上記判別を行うものであることを特徴とするものである。
【0030】
そして、本発明に係る第2の音響画像生成装置において、第5の波長は1725nmであり、第6の波長は1730nmであることが好ましい。
【0031】
また、本発明に係る第2の音響画像生成装置において、画像生成手段は、測定光として出射されたパルス光の光強度の時間波形の微分波形である光微分波形を、このパルス光に基づく光音響信号からデコンボリューションする光微分波形逆畳込み手段を有し、光微分波形逆畳込み手段によってデコンボリューションされた信号に基づいて光音響データを再構成するものであることが好ましい。
【0032】
本発明に係る第2の音響画像生成方法は、
検出された音響波のうち、被検体に出射され被検体内で反射した超音波に基づいて超音波画像を生成し、
上記音響波のうち、複数の測定光が切り換えられて出射されたことにより被検体内で発生した光音響波に基づいて光音響データを再構成し、
1700〜1800nmの波長帯域に属する第5の波長の測定光に関する光音響データ中の第5のピークデータの有無、および、1700〜1800nmの波長帯域に属しかつ第5の波長と異なる第6の波長の測定光に関する光音響データ中の第6のピークデータの有無に基づいて、上記組織領域が、コラーゲンおよび/または脂肪を含有する組織を表示するものであるか否かの判別を行い、
上記判別の結果に応じて組織領域が色分けされた超音波画像を表示することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る第1の音響画像生成装置および第1の音響画像生成方法は、脂肪および水の吸収係数に比べてヘモグロビンの吸収係数が大きい波長帯域に属する第1の波長の測定光と、ヘモグロビンおよび脂肪の吸収係数に比べて水の吸収係数が大きい波長帯域に属する第2の波長の測定光とが切り換えられて被検体に出射されたことにより被検体内で発生した光音響波を検出し、第1の波長の測定光に関する光音響データ中の第1のピークデータの有無、および、第2の波長の測定光に関する光音響データ中の第2のピークデータの有無に基づいて、上記管腔領域が、血管領域、リンパ管領域および神経領域のいずれの領域に該当するのかの判別を行い、この結果を色分けして超音波画像に表示するものである。このように本発明では、少なくとも2つの異なる所定の波長を使用して取得した複数の光音響データを指標として管腔領域の判別を行うから、光音響分析法を用いた生体組織の判別において、超音波画像中に表された管腔組織を精度よく判別することが可能となる。
【0034】
また、本発明に係る第2の音響画像生成装置および第2の音響画像生成方法は、1700〜1800nmの波長帯域に属する第5の波長の測定光と、1700〜1800nmの波長帯域に属しかつ第5の波長と異なる第6の波長の測定光とが切り換えられて被検体に出射されたことにより被検体内で発生した光音響波を検出し、第5の波長の測定光に関する光音響データ中の第5のピークデータの有無、および、第6の波長の測定光に関する光音響データ中の第6のピークデータの有無に基づいて、上記組織領域が、コラーゲンおよび/または脂肪を含有する組織を表示するものであるか否かの判別を行い、この結果を色分けして超音波画像に表示するものである。このように本発明では、2つの異なる所定の波長を使用して取得した複数の光音響データを指標として組織領域の判別を行うから、光音響分析法を用いた生体組織の判別において、超音波画像中に表された生体組織を精度よく判別することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】第1の実施形態の音響画像生成装置の構成を示す概略図である。
【図2】酸素化ヘモグロビン、脱酸素化ヘモグロビン、脂肪および水それぞれの吸収スペクトルを示すグラフである。
【図3】実施形態における超音波探触子の構成を示す概略斜視図である。
【図4】ポリエチレンの吸収スペクトルを示すグラフである。
【図5】第2の実施形態の音響画像生成装置の構成を示す概略図である。
【図6】第2の実施形態の音響画像生成装置における光微分波形逆畳込み手段の構成を示すブロック図である。
【図7A】再構成後の光音響信号を示す波形図である。
【図7B】FFT後の光音響信号FFTを示す波形図である。
【図7C】光パルス微分波形(h)を示す波形図である。
【図7D】FFT後の光パルス微分波形FFT(fft_h)を示す波形図である。
【図7E】光パルス微分波形FFTフィルタを示す波形図である。
【図7F】デコンボリューション後のFFT波形を示す波形図である。
【図7G】逆変換された光音響信号を示す波形図である。
【図8A】再構成後デコンボリューション前の光音響信号に基づいて生成した光音響画像を示す図である。
【図8B】デコンボリューション後の光音響信号に基づいて生成した光音響画像を示す図である。
【図9】光音響画像生成の動作手順を示すフローチャートである。
【図10】第3の実施形態の音響画像生成装置における光微分波形逆畳込み手段の構成を示すブロック図である。
【図11A】400MHzのサンプリングレートでサンプリングした光パルス微分波形を示す波形図である。
【図11B】40MHzのサンプリングレートでサンプリングした光パルス微分波形を示す波形図である。
【図12】第4の実施形態の音響画像生成装置における光微分波形逆畳込み手段の構成を示すブロック図である。
【図13A】光音響信号(周波数領域)を示すグラフである。
【図13B】ゼロパディング後の光音響信号を示すグラフである。
【図14】第5の実施形態の音響画像生成装置における光微分波形逆畳込み手段の構成を示すブロック図である。
【図15A】光パルス微分波形(周波数領域)を示すグラフである。
【図15B】高周波成分サンプル点が除去された光パルス微分波形を示すグラフである。
【図16】第6の実施形態の音響画像生成装置の構成を示す概略図である。
【図17】ポリエチレンおよびトリメチルペンタンそれぞれの吸収スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0037】
「第1の実施形態」
まず、本発明の第1の音響画像生成装置および方法の実施形態について説明する。図1は、本実施形態の音響画像生成装置10aの基本構成を示すブロック図である。この音響画像生成装置10は、超音波探触子(プローブ)11、超音波ユニット12、レーザ光源ユニット13および表示手段14を備えている。なおこの音響画像生成装置10は、超音波画像と光音響画像との双方を生成可能に構成されている。
【0038】
そして、本実施形態の音響画像生成方法は、被検体に向けて出射され被検体内で反射した超音波を検出し、検出された超音波に基づいて超音波画像を生成し、管腔組織を表示する管腔領域を超音波画像から抽出し、第1の波長の測定光(中心波長756nm)と、第2の波長の測定光(中心波長1064nm)と、第3の波長の測定光(中心波長920nm)とを切り換えて測定光として被検体内に向けて出射させることにより被検体内で発生した光音響波を検出し、第1の波長の測定光に関する光音響データ中の第1のピークデータの有無、第2の波長の測定光に関する光音響データ中の第2のピークデータの有無、および第3の波長の測定光に関する光音響データ中の第3のピークデータの有無に基づいて、上記管腔領域が、血管領域、リンパ管領域および神経領域のいずれの領域に該当するのかの判別を行い、上記判別の結果に応じて上記管腔領域が色分けされた超音波画像を表示することを特徴とするものである。
【0039】
レーザ光源ユニット13は、被検体に出射すべきレーザ光を測定光として出射する。このレーザ光源ユニット13が本発明における光出射手段に相当する。レーザ光源ユニット13は、例えば、血液、脂肪または水の吸収ピークに含まれる波長のレーザ光を発生させる1以上の光源を有する。光源として、特定の波長成分又はその成分を含む単色光を発生する半導体レーザ(LD)、固体レーザ、ガスレーザ等の発光素子を用いることができる。例えば本実施形態においてレーザ光源ユニット13は、励起光源であるフラッシュランプ35とレーザ発振を制御するQスイッチレーザ36とを含むものである。レーザ光源ユニット13は、制御手段34がフラッシュランプトリガ信号を出力すると、フラッシュランプ35を点灯し、Qスイッチレーザ36を励起する。
【0040】
本発明では、レーザ光として、脂肪および水の吸収係数に比べてヘモグロビン(酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビン)の吸収係数が大きい波長帯域に属する第1の波長の測定光(中心波長が第1の波長である測定光。以下同様である。)と、ヘモグロビンおよび脂肪の吸収係数に比べて水の吸収係数が大きい波長帯域に属する第2の波長の測定光と、水およびヘモグロビンの吸収係数に比べて脂肪の吸収係数が大きい波長帯域に属する第3の波長の測定光とを使用する。第1の波長の測定光に関して「脂肪および水の吸収係数に比べてヘモグロビンの吸収係数が大きい波長帯域」とは、言い換えれば、ヘモグロビン、脂肪および水のそれぞれの吸収係数に関して、ヘモグロビンの吸収係数が最も高い値を示す波長帯域ということである。第2の波長の測定光および第3の波長の測定光についても同様である。通常、測定光はスペクトル分布(例えばガウス分布等)を有し、ピークの半値幅は5〜15nmであることが好ましく、例えば10nmであることが好ましい。ヘモグロビン、脂肪および水の吸収係数の大小関係が異なる3つの波長を使用することにより、主として光音響効果を発現する生体物質(吸収物質)を変えるためである。図2は、酸素化ヘモグロビン、脱酸素化ヘモグロビン、脂肪および水それぞれの吸収スペクトルを示すグラフである。このグラフにおいて、横軸は波長、縦軸は吸収係数(μ)である。このグラフから、第1の波長は700〜820nmであることが好ましく、745〜765nmまたは790〜810nmであることが好ましい。また、第2の波長は1055〜1075nmであることが好ましく、1060〜1070であることが好ましい。また、第3の波長は910〜930nmであることが好ましく、915〜925nmであることが好ましい。本実施形態では、例えば、第1の波長は756nmであり、第2の波長は1064nmであり、第3の波長は920nmである。
【0041】
レーザ光源ユニット13は、レーザ光として1〜100nsecのパルス幅を有するパルス光を出力するものであることが好ましい。そして、上記レーザ光の出力は、レーザ光と光音響波の伝搬ロス、光音響変換の効率および現状の検出器の検出感度等の観点から、10μJ/cm〜数10mJ/cmであることが好ましい。さらに、パルス光出力の繰り返しは、画像構築速度の観点から、10Hz以上であることが好ましい。また、レーザ光は上記パルス光が複数並んだパルス列とすることもできる。レーザ光源ユニット13から出力されたレーザ光は、図3に示されるように、例えば光ファイバ、導光板、レンズおよびミラー等の導光手段を用いてプローブ11まで導光され、プローブ11から被検体に向けて出射される。
【0042】
プローブ11は、被検体に向けて超音波を出射し、被検体内を伝搬する音響波を検出するものである。このプローブ11が本発明における電気音響変換手段に相当する。すなわち、プローブ11は、被検体に対する超音波の照射(送信)、および被検体から反射して戻って来るその超音波の反射波の検出(受信)を行う。さらにプローブ11は、被検体内の撮像対象物がレーザ光を吸収することにより被検体内で発生した光音響波の検出も行う。なお本明細書において、「音響波」とは超音波および光音響波を含む意味である。ここで、「超音波」とは電気音響変換部の振動により被検体内に発生した弾性波およびその反射波を意味し、「光音響波」とは測定光の吸収による光音響効果により被検体内に発生した弾性波を意味する。そのためにプローブ11は、例えば一次元または二次元に配列された複数の超音波振動子11aから構成される振動子アレイを有する。超音波振動子11aは、例えば、圧電セラミクス、またはポリフッ化ビニリデン(PVDF)のような高分子フィルムから構成される圧電素子である。超音波振動子11aは、音響波を受信した場合にその受信信号を電気信号に変換する機能を有している。この電気信号は後述する受信回路21に出力される。このプローブ11は、セクタ走査対応、リニア走査対応、コンベックス走査対応等の中から診断部位に応じて選択される。
【0043】
本実施形態のプローブ11は、図3に示されるように、複数の超音波振動子11a、光ファイバ50および導光板52を備える。光ファイバ50は、レーザ光源ユニット13からのレーザ光を導光板52にまで導く。導光板52は、振動子アレイの周囲に配置され、レーザ光はこの導光板52から出射される。プローブ11を上記のように構成することにより、同じ撮像範囲の超音波画像および光音響画像を精度よく生成することができる。これにより、超音波画像と光音響画像の位置合わせが不要となる場合もある。
【0044】
レーザ光の照射は部分領域ごとに行ってもよい。例えば導光板52は、領域A、領域B、及び領域Cのそれぞれに対応して設けられる。その場合、領域Aに対応する導光板52aは領域Aの選択時にレーザ光を領域Aに照射する。また、領域Bに対応する導光板52bは領域Bの選択時にレーザ光を領域Bに照射する。そして、領域Cに対応する導光板52cは領域Cの選択時にレーザ光を領域Cに照射する。例えばプローブ11は、192ch分の超音波振動子11aを有している。192ch分の超音波振動子11aに対応する幅は、光音響画像生成に関連して例えば3つの部分領域(領域A〜C)に分割されており、各部分領域の幅は64ch分の超音波振動子11aに相当する幅であるとする。このような場合、192chの超音波振動子11aに対応する生体組織の幅が57.6mmであったとすると、各部分領域の幅は19.2mmとなる。つまり、音響画像生成装置10は、光音響画像生成の際に、分割された19.2mm幅の部分領域への光照射およびデータ収集を3回繰り返し行い、全192ch分のデータを取得する。
【0045】
プローブ11は、音響波を効率よく検出するために音響整合層を振動子アレイの表面に備えてもよい。一般に圧電素子材料と生体では音響インピーダンスが大きく異なるため、圧電素子材料と生体が直接接した場合には、界面での反射が大きくなり音響波を効率よく検出することができない。このため、圧電素子材料と生体の間に中間的な音響インピーダンスを有する音響整合層が配置されることにより、音響波を効率よく検出することができる。音響整合層を構成する材料の例としては、エポキシ樹脂や石英ガラスなどが挙げられる。
【0046】
超音波ユニット12は、受信回路21、AD変換手段22、受信メモリ23、データ分離手段24、光音響画像再構成手段25a、光音響画像再構成手段25aからの信号を受信する検波・対数変換手段26a、光音響画像を構築する光音響画像構築手段27a、超音波画像再構成手段25b、超音波画像再構成手段25bからの信号を受信する検波・対数変換手段26b、超音波画像を構築する超音波画像構築手段27b、抽出手段28、判別手段29、画像合成手段30、送信制御回路33および制御手段34を有している。制御手段34は、超音波ユニット12内の各部を制御する。光音響画像再構成手段25a、検波・対数変換手段26a、光音響画像構築手段27a、超音波画像再構成手段25b、検波・対数変換手段26b、超音波画像構築手段27bが、全体として本発明における画像生成手段に相当する。
【0047】
受信回路21は、プローブ11から出力された音響波の電気信号を受信する。AD変換手段22はサンプリング手段であり、受信回路21が受信した電気信号を例えばクロック周波数40MHzのADクロック信号に同期してサンプリングしてデジタル信号に変換する。AD変換手段22は、例えば制御手段34或いは外部から入力されるADクロック信号に同期して、所定のサンプリング周期で上記電気信号をサンプリングする。
【0048】
AD変換手段22は、サンプリングしたデジタル信号(サンプリングデータ)を受信メモリ23に格納する。受信メモリ23に格納されたサンプリングデータは、光音響波に関するデータ(光音響データ)、超音波に関するデータ(超音波データ)またはこれらの混合データである。
【0049】
データ分離手段24は、受信メモリ23に格納されたサンプリングデータを光音響データと超音波データとに分離する。サンプリングデータを分離する方法は特に限定されない。例えば、超音波の照射とレーザ光の照射とを時間的にずらして実施した場合には、サンプリングデータをある時刻で分けることによりサンプリングデータを光音響データと超音波データとに分離することができる。また例えば、光音響データおよび超音波データそれぞれに関する周波数や遅延量の違いを利用してもサンプリングデータを光音響データと超音波データとに分離することができる。データ分離手段24は、分離された光音響データを光音響画像再構成手段25aに入力し、超音波データを超音波画像再構成手段25bに出力する。
【0050】
光音響画像再構成手段25aは、例えばプローブ11の64個の超音波振動子の各出力信号から得られた上記光音響データを、超音波振動子の位置に応じた遅延時間で加算し、1ライン分のデータを生成する(遅延加算法)。なお、この光音響画像再構成手段25aは、遅延加算法に代えて、CBP法(Circular Back Projection)により再構成を行うものでもよい。あるいは光音響画像再構成手段25aは、ハフ変換法又はフーリエ変換法を用いて再構成を行うものでもよい。光音響画像再構成手段25aは、上記のようにして加算整合された光音響データを検波・対数変換手段26aに出力する。
【0051】
検波・対数変換手段26aは、光音響画像再構成手段25aから出力された光音響データの包絡線を生成し、次いでその包絡線を対数変換してダイナミックレンジを広げる。そして、検波・対数変換手段26aは、上記のようにして信号処理した光音響データを光音響画像構築手段27aに出力する。
【0052】
光音響画像構築手段27aは、対数変換が施された各ラインの光音響データに基づいて、断層画像(光音響画像)を構築する。光音響画像構築手段27aは、例えば光音響データの時間軸の位置を、断層画像における深さを表す変位軸の位置に変換して光音響画像を構築する。構築された光音響画像は抽出手段28へ送信される。
【0053】
一方、超音波画像再構成手段25bは、例えばプローブ11の64個の超音波振動子の各出力信号から得られた上記超音波データを、超音波振動子の位置に応じた遅延時間で加算し、1ライン分のデータを生成する(遅延加算法)。なお、この超音波画像再構成手段25bは、遅延加算法に代えて、CBP法(Circular Back Projection)により再構成を行うものでもよい。あるいは超音波画像再構成手段25bは、ハフ変換法又はフーリエ変換法を用いて再構成を行うものでもよい。超音波画像再構成手段25bは、上記のようにして加算整合された超音波データを検波・対数変換手段26bに出力する。
【0054】
検波・対数変換手段26bは、超音波画像再構成手段25bから出力された超音波データの包絡線を生成し、次いでその包絡線を対数変換してダイナミックレンジを広げる。そして、検波・対数変換手段26bは、上記のようにして信号処理した超音波データを超音波画像構築手段27bに出力する。
【0055】
超音波画像構築手段27bは、対数変換が施された各ラインの超音波データに基づいて、断層画像(超音波画像)を構築する。超音波画像構築手段27bは、例えば超音波データの時間軸の位置を、断層画像における深さを表す変位軸の位置に変換して超音波画像を構築する。構築された超音波画像は抽出手段28へ送信される。
【0056】
制御手段34は、レーザ光源ユニット13にフラッシュランプトリガ信号及びQスイッチトリガ信号を出力し、レーザ光源ユニット13からレーザ光を出射させる。また、制御手段34は、送信制御回路33に超音波送信トリガ信号を出力し、プローブ11から超音波を出力させる。更に、制御手段34は、レーザ光の照射又は超音波送信と同期してAD変換手段22に対してサンプリングトリガ信号を出力し、AD変換手段22におけるサンプリングを開始させる。
【0057】
制御手段34は、レーザ光源ユニット13に対してレーザ光の出力を指示するフラッシュランプトリガ信号を出力する。これによりレーザ光源ユニット13では、フラッシュランプトリガ信号に応答してフラッシュランプ35が点灯し、レーザ励起が開始される。その後、制御手段34は、所定のタイミングでQスイッチトリガ信号を出力する。これによりレーザ光源ユニット13では、Qスイッチレーザ36のQスイッチがQスイッチトリガ信号に応答してON状態となり、レーザ光が出力されて、被検体にレーザ光が照射される。フラッシュランプ35の点灯からQスイッチレーザ36が十分な励起状態となるまでに要する時間は、Qスイッチレーザ36の特性などから見積もることができる。制御手段34からQスイッチを制御するのに代えて、レーザ光源ユニット13内において、Qスイッチレーザ36を十分に励起させた後にQスイッチをON状態にしてもよい。その場合は、QスイッチをON状態にした旨を示す信号を超音波ユニット12側に通知してもよい。制御手段34は、上記の処理を756nm、1064nmおよび920nmの3つの波長のそれぞれにおいて実施するよう制御する。光源の制御方法は、レーザ光源の種類によって適宜選択される。このような方法としては、例えば、複数の波長を発信可能なレーザ光源の発信波長を切り替える方法や、波長の異なる複数種類のレーザ光源を順次駆動させる方法が挙げられる。
【0058】
また制御手段34は、超音波送信を指示する超音波トリガ信号を送信制御回路33に出力する。送信制御回路33は、上記超音波トリガ信号を受けると、プローブ11から超音波を送信させる。制御手段34は、先にフラッシュランプトリガ信号を出力し、その後超音波トリガ信号を出力する。つまり制御手段34は、フラッシュランプトリガ信号の出力に後続して、超音波トリガ信号を出力する。フラッシュランプトリガ信号が出力されることで被検体に対するレーザ光の照射および光音響波の検出が行われた後、超音波トリガ信号が出力されることで被検体に対する超音波の送信およびその反射波の検出が行われる。
【0059】
制御手段34はさらに、AD変換手段22に対して、サンプリング開始を指示するサンプリングトリガ信号を出力する。光音響データを生成する場合には、このサンプリングトリガ信号は、上記フラッシュランプトリガ信号が出力された後で、かつ超音波トリガ信号が出力される前、より好ましくは被検体に実際にレーザ光が照射されるタイミングで出力される。そのためにサンプリングトリガ信号は、例えば制御手段34がQスイッチトリガ信号を出力するタイミングに同期して出力される。AD変換手段22は上記サンプリングトリガ信号を受けると、プローブ11にて検出された上記電気信号のサンプリングを開始する。
【0060】
また、制御手段34は、光音響画像を様々な形態で表示手段14に表示するように、プローブ11、超音波ユニット12、レーザ光源ユニット13および表示手段14を制御する。
【0061】
例えば、制御手段34は、測定光が照射された領域と同じ領域に、超音波を照射するようにプローブ11を制御し、被検体内で反射した超音波を検出してこの超音波を電気信号に変換するようにプローブ11を制御し、この電気信号に基づいて超音波画像を生成するように超音波ユニット12を制御し、光音響画像と超音波画像とを重畳して表示するように表示手段14を制御することもできる。
【0062】
なお、「測定光が照射された領域と同じ領域に」超音波を照射するとは、測定光を照射して得られた光音響画像の撮像範囲と、超音波を照射して得られた超音波画像の撮像範囲とが少なくとも一部において重畳するように、超音波を照射することを意味する。
【0063】
抽出手段28は、管腔組織を表示する管腔領域を超音波画像から抽出するものである。本発明では、管腔組織とは、血管、リンパ管および神経組織を意味する。管腔領域の抽出は特に限定されず公知の手法を使用することができる。超音波画像から注目すべき管腔領域を予め抽出することにより、光音響画像中のピークデータの有無を判断する領域を、その抽出された管腔領域に対応する領域に限定でき、演算処理が減らすことができるという利点がある。しかしながら、管腔領域の抽出は本発明において必須ではない。例えば、特定の管腔領域を抽出しない場合には、超音波画像と光音響データが取得できた範囲とが重畳する領域内の画素ごとに、ピークデータの有無を判断しかつ色分けすればよい。
【0064】
判別手段29は、抽出された管腔領域が、血管を表示する血管領域、リンパ管を表示するリンパ管領域および神経組織を表示する神経領域のいずれの領域に該当するのかの判別を行う。
【0065】
上記判別は具体的には次のようにして行われる。
【0066】
まず、判別手段29は、光音響画像構築手段27aから、756nm、1064nmおよび920nmの3つの波長のそれぞれに基づいた3つの光音響データを取得する。光音響データは、光音響画像再構成手段25aによって再構成された信号波形データ、検波・対数変換手段26aによって対数処理されたデータ、および光音響画像構築手段27aによって信号波形データから構築された画像データのいずれでもよい。ただし、本実施形態では光音響データは、光音響画像構築手段27aによって信号波形データから構築された画像データであるとする。次に判別手段29は、波長が756nm(第1の波長)の光に関する画像データ(つまり光音響データ)の中に、上記管腔領域に対応する部分の第1のピーク輝度が存在するか否かを判断し、その判断結果を記憶する。なお、ピーク輝度は、周辺に比べて輝度が高い部分を意味し、本発明におけるピークデータに相当する。また、波長が1064nm(第2の波長)の光に関する画像データの中に、上記管腔領域に対応する部分の第2のピーク輝度が存在するか否かを判断し、その判断結果を記憶する。また、波長が920nm(第3の波長)の光に関する画像データの中に、上記管腔領域に対応する部分の第3のピーク輝度が存在するか否かを判断し、その判断結果を記憶する。
【0067】
管腔領域に対応する画像データ部分は、超音波画像の画素位置と光音響画像の画素位置とを空間的に対比することにより判断される。本実施形態の場合、図3に示されるようなプローブを使用しているため、プローブを動かすことなく超音波画像および光音響画像を取得することができる。したがって、位置合わせをしなくても、超音波画像全体に対する管腔領域の位置と、光音響画像全体に対する当該管腔領域に対応する画像データ部分の位置とはほぼ一致している。
【0068】
そして、ピーク輝度の有無についての3つの上記判断結果に基づいて、下記の表1で表されるテーブルデータを参照して、管腔領域が、血管領域、リンパ管領域および神経領域のいずれの領域に該当するのかの判別を行う。
【0069】
【表1】

【0070】
表1において、「+」記号はその波長においてピーク輝度(ピークデータ)が存在したことを表し、「−」記号はその波長においてピーク輝度(ピークデータ)が存在しなかったことを表す。なお、ピークデータの有無の判断は、所定の閾値を基準に判断する。つまり、ピークデータと思われる信号があったとしても上記閾値未満の信号は、本発明においてピークデータとして取り扱わない。当該閾値は、血管、リンパ管および神経組織の項目間で同じ結果とならないように波長ごとに適宜設定される。
【0071】
つまり、表1は、第1のピークデータがあり、第2のピークデータがありかつ第3のピークデータがない場合に、上記管腔領域は血管領域に該当するとの判別が行われることを示す。これは、血管中にヘモグロビンおよび水が存在することから、血管全体の吸収係数が、第1の波長帯域(脂肪および水の吸収係数に比べてヘモグロビンの吸収係数が大きい波長帯域)および第2の波長帯域(ヘモグロビンおよび脂肪の吸収係数に比べて水の吸収係数が大きい波長帯域)において相対的に大きくなり、第3の波長帯域(水およびヘモグロビンの吸収係数に比べて脂肪の吸収係数が大きい波長帯域)において相対的に小さくなることを利用している。また、表1は、第1のピークデータがなく、第2のピークデータがありかつ第3のピークデータがない場合に、上記管腔領域はリンパ管領域に該当するとの判別が行われることを示す。これは、リンパ管中にヘモグロビンおよび脂肪が存在せず水が存在することから、リンパ管全体の吸収係数が、第2の波長帯域において相対的に大きくなり、第1および第3の波長帯域において相対的に小さくなることを利用している。また、表1は、第1のピークデータがなく、第2のピークデータがなくかつ第3のピークデータがある場合に、上記管腔領域は神経領域に該当するとの判別が行われることを示す。これは、神経組織中にヘモグロビンおよび水が存在せず神経鞘が脂肪から構成されていることから、神経組織全体の吸収係数が、第3の波長帯域において相対的に大きくなり、第1および第2の波長帯域において相対的に小さくなることを利用している。
【0072】
或いは、ピーク輝度の有無についての3つの上記判断結果に基づいて、下記の表2で表されるテーブルデータを参照して、管腔領域が、血管領域、リンパ管領域および神経領域のいずれの領域に該当するのかの判別を行うことも可能である。
【0073】
【表2】

【0074】
表2は、第1のピークデータがありかつ第3のピークデータがない場合に、上記管腔領域は血管領域に該当するとの判別が行われることを示す。これは、血管中にヘモグロビンが存在し脂肪が存在しないことから、血管全体の吸収係数が、第1の波長帯域において相対的に大きくなり、第3の波長帯域において相対的に小さくなることを利用している。また、表2は、第1のピークデータがなくかつ第2のピークデータがある場合に、上記管腔領域はリンパ管領域に該当するとの判別が行われることを示す。これは、リンパ管中にヘモグロビンが存在せず水が存在することから、リンパ管全体の吸収係数が、第2の波長帯域において相対的に大きくなり、第1の波長帯域において相対的に小さくなることを利用している。また、表2は、第2のピークデータがなくかつ第3のピークデータがある場合に、上記管腔領域は神経領域に該当するとの判別が行われることを示す。これは、神経組織中に水が存在せず神経鞘が脂肪から構成されていることから、神経組織全体の吸収係数が、第3の波長帯域において相対的に大きくなり、第2の波長帯域において相対的に小さくなることを利用している。上記のように、管腔領域に対する判別は、各項目それぞれにおいて、2つの組み合わせの波長を考慮するだけで行うことも可能である。このような手法は、例えばある波長においてピークデータの有無の判断自体を行えなかった場合等に有効である。
【0075】
或いは、ピーク輝度の有無についての3つの上記判断結果に基づいて、下記の表3で表されるテーブルデータを参照して、管腔領域が、血管領域、リンパ管領域および神経領域のいずれの領域に該当するのかの判別を行うことも可能である。
【0076】
【表3】

【0077】
表3は、第1のピークデータがありかつ第2のピークデータがある場合に、上記管腔領域は血管領域に該当するとの判別が行われることを示す。これは、血管中にヘモグロビンおよび水が存在することから、血管全体の吸収係数が、第1および第2の波長帯域において相対的に大きくなることを利用している。また、表3は、第1のピークデータがなくかつ第2のピークデータがある場合に、上記管腔領域はリンパ管領域に該当するとの判別が行われることを示す。これは、リンパ管中にヘモグロビンが存在せず水が存在することから、リンパ管全体の吸収係数が、第2の波長帯域において相対的に大きくなり、第1の波長帯域において相対的に小さくなることを利用している。また、表3は、第1のピークデータがなくかつ第2のピークデータがない場合に、上記管腔領域は神経領域に該当するとの判別が行われることを示す。これは、神経組織中にヘモグロビンおよび水が存在しないことから、神経組織全体の吸収係数が、第1および第2の波長帯域において相対的に小さくなることを利用している。上記のように、管腔領域に対する判別は、第1の波長の測定光および第2の波長の測定光それぞれに関するピーク輝度の有無の結果のみによって行うことも可能である。このような手法も、例えばある波長においてピークデータの有無の判断自体を行えなかった場合等に有効である。さらに、上記のことは、第3の波長の測定光に関する光音響データを取得せずとも、第1の波長の測定光および第2の波長の測定光それぞれに関する光音響データのみで、管腔領域についての判別を行えることを意味する。このような手法は、第3の波長の測定光を照射する必要がないためコストを低減する場合等に有効である。なお、2つの波長の組合せは第1の波長および第3の波長でもよく、上記同様に、2つの波長の測定光それぞれに関する光音響データのみで、管腔領域についての判別が行える。
【0078】
画像合成手段30は、画像構築手段27aおよび27bにそれぞれ構築された光音響画像および超音波画像に基づいて、上記判別の結果に応じて上記管腔領域が色分けされた画像を生成する。或いは、予め管腔領域が抽出されていなければ、超音波画像の画素ごとに、血管領域、リンパ管領域および神経領域のいずれの領域に該当するのかの判別を行って色分けすることができる。色分けは、特に限定されず、それぞれ異なる色度(色相および明度)を血管領域、リンパ管領域および神経領域に割り当てることにより実施される。さらに、画像合成手段30は、上記で色分けが付された画像に必要な処理(例えばスケールの補正等)を施して表示手段14に表示するための最終的な画像(表示画像)を生成する。画像合成手段30は、本発明の表示制御手段に相当する。画像合成手段28は、生成した表示画像を表示手段14に表示させる。なお、本発明では、色分けされた超音波画像を表示できればよいため、光音響画像の表示は必要ではないが、対比観察するために超音波画像と共に光音響画像を表示してもよい。
【0079】
以上より、本実施形態に係る音響画像生成装置および音響画像生成方法は、少なくとも、脂肪および水の吸収係数に比べてヘモグロビンの吸収係数が大きい波長帯域に属する第1の波長の測定光と、ヘモグロビンおよび脂肪の吸収係数に比べて水の吸収係数が大きい波長帯域に属する第2の波長の測定光とを切り換えて測定光として被検体内に照射することにより被検体内で発生した光音響波を検出し、少なくとも、第1の波長の測定光に関する光音響データ中の第1のピークデータの有無、第2の波長の測定光に関する光音響データ中の第2のピークデータの有無に基づいて、上記管腔領域が、血管領域、リンパ管領域および神経領域のいずれの領域に該当するのかの判別を上記管腔領域に対して行うものである。このように本発明では、少なくとも2つの異なる所定の波長を使用して取得した少なくとも2つの光音響データを指標として管腔領域の判別を行うから、光音響分析法を用いた生体組織の判別方法において、超音波画像中に表された管腔組織を精度よく判別することが可能となる。
【0080】
<設計変更>
第1の実施形態では、3つの異なる波長を使用して管腔組織についての判別を行い、また、2つの異なる波長を使用しても管腔組織についての判別が可能であること説明した。しかしながら、本発明は下記のように、水およびヘモグロビンの吸収係数に比べて脂肪の吸収係数が大きい波長帯域に属しかつ第3の波長と異なる第4の波長の測定光を使用すれば、さらに判別の精度を向上させることができる。
【0081】
図4は、脂肪と共通する構造(CHボンド)を有するポリエチレン(polyethilene)の吸収スペクトルを示すグラフである。このグラフを考慮すると、上記第4の波長としては、1150〜1250nmまたは1700〜1800nmの波長帯域に属する波長を使用することができる。実際に、上記の波長帯域ではヘモグロビンおよび水の吸収係数は脂肪の吸収係数より小さい。例えば、第4の波長は1730nmまたは1765nmであることが好ましい。この場合に、ピーク輝度の有無についての4つの判断結果に基づいて、下記の表4で表されるテーブルデータを参照して、管腔領域が、血管領域、リンパ管領域および神経領域のいずれの領域に該当するのかの判別を行うことが可能である。
【0082】
【表4】

【0083】
つまり、表4は、第1のピークデータがあり、第2のピークデータがあり、第3のピークデータがなくかつ第4のピークデータがない場合に、上記管腔領域は血管領域に該当するとの判別が行われることを示す。また、表4は、第1のピークデータがなく、第2のピークデータがあり、第3のピークデータがなくかつ第4のピークデータがない場合に、上記管腔領域はリンパ管領域に該当するとの判別が行われることを示す。また、表4は、第1のピークデータがなく、第2のピークデータがなく、第3のピークデータがありかつ第4のピークデータがある場合に、上記管腔領域は神経領域に該当するとの判別が行われることを示す。これらは、表1における説明と同様の理由による。
【0084】
「音響画像生成装置および方法の第2の実施形態」
次に音響画像生成装置の第2の実施形態について説明する。本実施形態は、超音波ユニット12が光微分波形逆畳込み手段38および補正手段39を有する点で第1の実施形態と異なる。したがって、第1の実施形態と同様の構成要素の説明は特に必要がない限り省略する。
【0085】
図5は、本実施形態の音響画像生成装置10bの構成を示す概略図である。この音響画像生成装置10bは、プローブ11、超音波ユニット12、レーザ光源ユニット13および表示手段14を備えている。なおこの音響画像生成装置10bも、超音波画像と光音響画像との双方を生成可能に構成されている。
【0086】
そして、本実施形態の音響画像生成方法は、被検体に向けて出射され被検体内で反射した超音波を検出し、検出された超音波に基づいて超音波画像を生成し、管腔組織を表示する管腔領域を超音波画像から抽出し、第1の波長の測定光(中心波長756nm)と、第2の波長の測定光(中心波長1064nm)と、第3の波長の測定光(中心波長920nm)とを切り換えて測定光として被検体内に向けて出射させることにより被検体内で発生した光音響波を検出し、再構成された光パルス微分波形をデコンボリューションした光音響信号を測定光ごとに生成し、デコンボリューションされた光音響信号に基づいて測定光ごとに光音響データを生成し、第1の波長の測定光に関する光音響データ中の第1のピークデータの有無、第2の波長の測定光に関する光音響データ中の第2のピークデータの有無、および第3の波長の測定光に関する光音響データ中の第3のピークデータの有無に基づいて、上記管腔領域が、血管領域、リンパ管領域および神経領域のいずれの領域に該当するのかの判別を行い、上記判別の結果に応じて上記管腔領域が色分けされた超音波画像を合成し、合成された超音波画像を表示することを特徴とするものである。
【0087】
プローブ11およびレーザ光源ユニット13については、前述した通りである。
<超音波ユニット>
本実施形態の超音波ユニット12は、第1の実施形態の超音波ユニットの構成に加えて、光微分波形逆畳込み手段38、補正手段39を有する。
【0088】
光微分波形逆畳込み手段38は、再構成された光音響信号から被検体に照射された光の光強度の時間波形の微分波形である光パルス微分波形(パルスレーザ光についての光微分波形)をデコンボリューションした光音響信号を生成する。光パルス微分波形をデコンボリューションすることで、t≠0に再構成した圧力分布から、t=0に再構成した圧力分布、すなわち吸収分布を求めることができる。光微分波形逆畳込み手段38は、再構成前の光音響信号に対してデコンボリューションを行ってもよい。デコンボリューションの詳細な説明は後述する。
【0089】
補正手段39は、光パルス微分波形がデコンボリューションされた信号を補正し、光パルス微分波形がデコンボリューションされた信号から、プローブ11における超音波振動子の受信角度依存特性の影響を除去する。また、補正手段39は、受信角度依存特性に加えて、又はこれに代えて、光パルス微分波形がデコンボリューションされた信号から被検体における光の入射光分布の影響を除去する。補正手段39を省き、これらの補正を行わずに、光音響画像の生成を行ってもよい。
【0090】
画像合成手段30は、第1の実施形態で説明した機能の他、それぞれの位置で取得されかつ光パルス微分波形がデコンボリューションされた光音響信号および位置情報を使用して、ボリュームデータを生成する機能も有する。ボリュームデータの生成は、それぞれの光音響信号の信号値をこれに関連付けられた位置情報に従って、計算上の空間(仮想空間)に割り当てることにより行う。信号値を割り当てる際に、割り当てる場所が重複する場合には、その重複する場所の信号値として例えばそれらの信号値の平均値またはそれらのうちの最大値が採用される。また、必要に応じて、割り当てられる信号値がない場合には、その周辺の信号値を用いて補間することが好ましい。補間は、例えば、最近接点から順に4つの近接点の重み付き平均値を補間場所に割り当てることにより行う。これにより、より自然な形のボリュームデータを生成することができる。さらに、画像合成手段30は、生成されたボリュームデータに必要な処理(例えばスケールの補正およびボクセル値に応じた色付け等)を施す。そして、例えばユーザから指定された観察方法(例えば2次元方式又は3次元方式)に従って生成された光音響画像が、表示手段14に表示するための最終的な画像(表示画像)となる。
【0091】
図6に、光微分波形逆畳込み手段38の詳細な構成を示す。光微分波形逆畳込み手段38は、フーリエ変換手段41、42と、逆フィルタ演算手段43と、フィルタ適用手段44と、フーリエ逆変換手段45とを有する。フーリエ変換手段(第1のフーリエ変換手段)41は、離散フーリエ変換により、再構成された光音響信号を時間領域の信号から周波数領域の信号へと変換する。フーリエ変換手段(第2のフーリエ変換手段)42は、離散フーリエ変換により、光パルス微分波形を所定のサンプリングレートでサンプリングした信号を時間領域の信号から周波数領域の信号へと変換する。フーリエ変換のアルゴリズムにはFFT(高速フーリエ変換:Fast Fourier Transform)を用いることができる。
【0092】
ここで、本発明におけるデコンボリューションの基本アルゴリズムについて概説する。
【0093】
従来、圧力分布画像に代えて、吸収分布画像を生成する技術がこれまでにいくつか知られている。例えば特開平3−156362号公報(以下、特許文献2)には、試料の熱的インパルス応答から光音響画像の分解能劣化を修復する逆フィルタを求め、得られた光音響画像に逆フィルタを作用させることで、理想的な光音響画像、すなわち試料表面の点光源によって励起され、検出されるその点(無限小)における熱的インピーダンス情報(=無限小なる点熱源の集合)を得ることが記載されている。
【0094】
特許文献2では、より詳細には、まず、試料の熱インパルス応答h(x,y)を計算し、次いで光音響画像p(x,y)を構成する。熱的インパルス応答は、無限小なる一点の温度変化が試料表面の微小変位に変換されるまでの伝達関数と定義されている。その後、熱インパルス応答h(x,y)と光音響画像p(x,y)とをそれぞれフーリエ変換し、フーリエ変換像H(μ,υ)、P(μ,υ)を得る。1/H(μ,υ)を逆フィルタとして用い、Q(μ,υ)=P(μ,υ)・(1/H(μ,υ))により、Q(μ,υ)を計算する。そのようにして計算されたQ(μ,υ)をフーリエ逆変換することで、理想的な光音響画像q(x,y)が得られる。
【0095】
上記特許文献の他にも、Yuan Xu, et al., IEEE Transactions on Medical Imaging, Volume 21 (2002), p.823-828(以下、非特許文献1)には、論理的には、有限の時間幅を持つ光パルスη(t)をフーリエ変換したものη(k)としたとき、その微分をiη(k)として考慮することが記載されている。実験的には、超音波検出素子であるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)での検出帯域以内に励起光パルス波形が入るようにパルス幅を長くしたマイクロ波を被検体に照射し、通常のPZTプローブで光音響信号を検出し、吸収分布を再構成している。
【0096】
また、Yi Wang, et al., Physics in Medicine and Biology, Volume 49 (2004), p.3117-3124(以下、非特許文献2)には、被写体中の微小要素からの圧力波形と光パルス微分関数と装置インパルス応答関数とを合わせたミクロ波形と、吸収分布とを、観測圧力波形に関連付けることが記載されている。吸収像再構成は、光微分とシステム応答とを含むpd0を測定して、各素子の圧力波形からpd0をデコンボリューションしたのちに、フィルタ補正逆投影法(Filtered Backprojection法)を用いて行う。実験的には、パルス幅の短いパルスレーザ光で励起し、超音波の検出帯域を通常の超音波診断装置よりも広げて、ハイドロホン+オシロスコープで光音響信号を検出し、吸収分布を再構成する。
【0097】
しかしながら、非特許文献1では、光パルスをフーリエ変換したη(k)を位置依存の関数η(r,kとして扱っていない。このため、t=0に再構成できる(検出した波形を基に時間を遡って光が入射した瞬間(t=0)に発生した圧力分布を推定する計算を行うことができる)場合には正確な吸収分布を得ることができるものの、t≠0に再構成した場合(光が入射した瞬間(t=0)の圧力分布を再構成できずに、時刻t=0からしばらく時間が経った後の圧力分布を推定することになる場合)には、光パルス幅成分が除去できず、圧力分布となる。
【0098】
また、非特許文献1及び2では、励起レーザと超音波検出装置とのどちらかを実用的な範囲から外してレーザ発光時間と超音波検出時とを合わせて再構成している。このため、非特許文献1及び2では問題は明確には現れないものの、実用的な装置構成を考えた場合、非特許文献1及び2の手法では、t=0とする再構成が困難である。すなわち、例えば実用的な装置構成として、
・サンプリング周波数100MHz以下で、PZTなどを利用した狭帯域プローブを用いた超音波検出装置
・強い光音響信号が出る1−100nsオーダーの光パルス幅を持つ励起レーザ
を用いた場合、レーザパルス発光が超音波検出時間と比較して短時間の現象のため、t=0に相当する状態(吸収分布と圧力分布とが比例する時間帯)に正確に再構成できない。
【0099】
ここで、「時刻t=0の圧力分布」は「吸収分布」を表すので、時刻t=0圧力分布が求められれば吸収分布を得ることができる。しかし、一般的な超音波検出装置のサンプリング間隔は25ns程度であり、光が当たった瞬間の時刻t=0のつもりで計算しても、実際はt=±12.5ns程度の時間幅でずれが生じる。例えば光パルス幅が100nsと長い場合には、上記のずれ(±12.5ns)は誤差と考えればよいものの、光パルス幅が10nsであれば、上記のずれは誤差とは呼べなくなり、光が当たった瞬間の圧力分布というよりも圧力波の伝播過程の圧力分布に移行することとなる。その「圧力波の伝播過程の圧力分布」は、「吸収分布」に一致しない。
【0100】
更に、実験的な生体等のサンプルにおいては、t=0の圧力分布を定義することが困難である。生体内の音速を例えば1530m/sと仮定し、検出時刻とレーザ照射時刻との差を伝播時間とすると、伝播時間から伝播距離が求める。生体内の音速が1530m/sで一定であれば、伝播時間から求めた伝播距離は実際の伝播距離と一致する。しかし、実際には、音速は生体内で一様ではなく、計算上の伝播距離と実際の伝播距離とにずれが生じる。従って、検出信号から伝播距離を推定する場合には、音速差に起因する伝搬距離のあいまいさが残る。生体内の伝播距離のあいまいさを伝播時間のあいまいさと捉えると、時刻t=0も曖昧性を持つことになり、t=0の圧力分布というのもあいまいになり、定義が困難となる。t=0の分布が吸収分布であるのに対し、t>0の分布は伝播時の圧力分布であり、これらが混ざると吸収分布とは言えなくなる。
【0101】
そこで、本発明者は、実用的な装置においても検出信号から吸収分布を求めることを試みた。
【0102】
光吸収体であるミクロ吸収粒子を考え、このミクロ吸収粒子がパルスレーザ光を吸収して圧力波(光音響圧力波)が生じることを考える。時刻をtとして、位置rにあるあるミクロ吸収粒子から発生する光音響圧力波を、位置Rで観測した場合の圧力波形pmicro(R,t)は、[Phys. Rev. Lett. 86(2001)3550.]より、以下の球面波となる。
【数1】

【0103】
ここで、I(t)は励起光の光強度の時間波形であり、係数kは、粒子が光を吸収して音響波を出力する際の変換係数であり、vは被検体の音速である。また、位置r、Rは、空間上の位置を示すベクトルである。ミクロ吸収粒子から発生する圧力は、上記式に示すように、光パルス微分波形に比例した球面波となる。
【0104】
実際にイメージングする対象から得られる圧力波形は、よりマクロな吸収体のサイズを有しているため、上記のミクロ吸収波形を重ね合わせた波形になると考える(重ね合わせの原理)。ここで、マクロな光音響波を発する粒子の吸収分布をA(r−R)とし、そのマクロな吸収体からの圧力の観測波形をpmacro(R,t)とする。観測位置Rでは、各時刻において、観測位置Rから半径vtに位置する吸収粒子からの光音響波が観測されることになるため、観測波形pmacro(R,t)は、以下の圧力波形の式で示される。
【数2】

【0105】
上記式(1)からわかるように、観測波形は、光パルス微分のコンボリューション型を示す。
【0106】
非特許文献2では、上記式に更に装置インパルス応答をコンボリューションした式を基本に考え、観測波形pmacroから、光パルス微分と装置インパルス応答をデコンボリューション操作後に、吸収分布A(r−R)の再構成をフィルタ補正逆投影法で行うことを提案している。非特許文献2では、光パルス微分の影響よりも装置インパルス応答を考慮することを重視しており、それゆえに、装置として十分S/N比(Signal to Noise Ratio)が取れていない周波数帯域まで強調され、処理後の画像ノイズが増加する。そのため、非特許文献2では、高周波フィルタを含めて処理することが必要になる。
【0107】
非特許文献2のように帯域が広い超音波プローブを用いるならば上記の方法でもよい。しかし、実用的な狭帯域プローブを用いた場合には、装置のインパルス応答に対して検出する超音波信号の周波数が低いため、通常の超音波プローブで検出する信号(低周波)に対してデコンボリューションする波形の帯域が広くなり、適切にデコンボリューションすることができず、画像として破たんが生じる。そこで、吸収分布を得る上で重要なのは光パルス微分項を考慮することであるため、本発明では、デコンボリューション処理において、光パルス微分項のみを考慮してデコンボリューションを行うこととする。
【0108】
更に、本発明では、従来の超音波システムにおいても用いられている圧力分布を求める再構成(FTA法、DnS法、BP法など)を適用後に、再構成後の画像がt≠0の圧力分布、すなわち圧力波の伝播過程の圧力分布であることを認識の上で、これを吸収分布に変換することを考えた。圧力分布再構成の基本的な考え方としては、検出位置R=(x,y,0)の再構成後の圧力分布prec(R,t)は、各時刻tにおける、Rの検出軸(r−R)上の|r−R|位置に存在する吸収体から発生する球面波を、周囲の圧電素子の信号も含めて足し合わせてその位置における圧力強度を計算して得られる。従って、検出軸(r−R)に存在するミクロの吸収体から発生し、伝播する光音響波を重ねあわせたprec(R,t)は以下のように表記できる。
【数3】

【0109】
このように吸収分布を1次元で考えて良くなることで、上記式のような圧力表記が可能となる。上記式(2)は、検出軸(r−R)をz軸、検出素子からの距離|r−R|をzとすると、下記のように表すことができる。
【数4】

【0110】
更に、式(3)から積分とは関係ないx,yは表記を省略し、z軸を時間で表記すると、上記式は、下記式のように表すことができる。
【数5】

【0111】
このように、(x,y,0)に位置する検出素子における1軸(時間軸又はz’軸)のコンボリューション表記が可能となる。
【0112】
上記式(4)の両辺をフーリエ変換し、周波数軸において、圧力分布のフーリエ係数を光パルスの時間微分のフーリエ係数で割ることで、光パルス微分をデコンボリューションすることができる。
【数6】

【0113】
デコンボリューション後、得られた式を、フーリエ逆変換することで、A(x,y,vt)を求め、吸収分布を画像化することができる。ここで求めたA(x,y,vt)には、検出素子受信角度依存性D(x,y,z)や、プローブ帯域の固有振動が重畳されている可能性がある。例えば、装置関数D(x,y,z)を事前に求めておいた上でその逆数をA(x,y,vt)に掛けることで、検出素子受信角度依存性の影響を除去できる。また、帯域の固有振動に関してはヒルベルト変換や直交検波処理により強度画像化すれば、その影響を除去することができる。更に、検体に入射する光空間分布L(x,y,z)を別に観測やシミュレーションにより求め、吸収係数に比例する画素値μ(x,y,z)を、μ(x,y,z)=A(x,y,vt)/L(x,y,z)により求めてもよい。この場合、より生体組織と密接な関係のある物理量である吸収係数の分布画像を得ることができる。
【0114】
以上を踏まえ、光パルス微分波形のデコンボリューションの手順について説明する。
【0115】
まず、再構成後の光音響信号を入力し、再構成後の光音響信号をフーリエ変換手段41においてFFTによりフーリエ変換する。図7Aに再構成後の光音響信号を示し、図7BにFFT後の光音響信号FFTを示す。フーリエ変換することで、図7Aに示す時間領域の信号が、図7Bに示すような周波数領域の信号に変換される。なお、図7Bでは、光音響信号FFTの絶対値を示しているが、実際の処理では複素数のまま処理される。
【0116】
そして、光パルス微分波形hをフーリエ変換手段42においてFFTによりフーリエ変換する。図7Cに光パルス微分波形(h)を示し、図7DにFFT後の光パルス微分波形FFT(fft_h)を示す。フーリエ変換することで、図7Cに示す時間領域の信号(波形)が、図7Dに示す周波数領域の信号に変換される。なお、図7Cにおける黒丸は、光パルス微分波形におけるサンプリング点を表している。また、図7Dでは、光パルス微分波形FFTの絶対値を示しているが、実際の処理では複素数のまま処理される。
【0117】
そして、逆フィルタ演算手段43によって、上記で得られたFFT後の光パルス微分波形FFT(fft_h)の逆数を、光パルス微分波形FFTフィルタ(逆フィルタ)として求める。光パルス微分波形FFTフィルタは、具体的にはconj(fft_h)/abs(fft_h)2で求めることができる。ここで、conj(fft_h)はfft_hの共役複素数、abs(fft_h)はfft_hの絶対値を表す。図7Eに、光パルス微分波形FFTフィルタを示す。図7Dに示す光パルス微分波形FFTの逆数を求めることで、図7Eに示すような光パルス微分波形FFTフィルタを得ることができる。
【0118】
上記のようにして求めた光パルス微分FFTフィルタと、再構成後の光音響信号FFTとをフィルタ適用手段44によって要素ごとに乗算し、光音響信号FFTから光パルス微分波形をデコンボリューションする。図7Fに、デコンボリューション後のFFT波形を示す。図7Bに示す光音響信号FFTと図7Eに示す光パルス微分波形FFTフィルタとの乗算を行うことで、図7Fに示すFFT波形が得られる。
【0119】
そして、光パルス微分波形をデコンボリューションしたFFT波形を、フーリエ逆変換手段45において逆FFTによりフーリエ逆変換し、周波数領域の信号を時間領域の信号に戻す。図7Gは、逆変換された光音響信号を示す。図7Fに示すFFT波形(周波数領域の信号)を逆FFTすることで、図7Gに示すデコンボリューション後の光音響信号(時間領域の信号)が得られる。このデコンボリューション後の光音響信号は、光吸収分布に光パルス微分波形(図7C)がコンボリューションされた再構成後の光音響信号(図7A)から、光パルス微分波形をデコンボリューションした吸収分布に相当する。
【0120】
図8Aに、再構成後デコンボリューション前の光音響信号(図7A)に基づいて生成した光音響画像を示し、図8Bに、デコンボリューション後の光音響信号(図7G)に基づいて生成した光音響画像を示す。図8Aに示す、再構成後の光音響信号に基づいて生成した光音響画像は、実質的に圧力分布を画像化したものであり、1本の血管が二重に表示されるなど、画像判定上、血管の位置が確認しづらい。これに対し、図8Bに示すデコンボリューション後の光音響信号に基づいて生成した光音響画像は、光パルス微分波形をデコンボリューションしていることで吸収体の分布を画像化できており、血管の位置を確認しやすくなっている。これにより、超音波画像中の管腔領域について血管領域であるとする判別の精度も向上することになる。
【0121】
本実施形態においては、光音響信号のサンプリングレートと光パルス微分波形のサンプリングレートとは等しいものとする。例えば光音響信号はFs=40MHzのサンプリングクロックに同期してサンプリングされており、光微分パルスも、Fs_h=40MHzのサンプリングレートでサンプリングされている。フーリエ変換手段41は、40MHzでサンプリングされた光音響信号を、例えば1024点のフーリエ変換でフーリエ変換する。また、フーリエ変換手段42は、40MHzでサンプリングされた光パルス微分波形を1024点のフーリエ変換でフーリエ変換する。
【0122】
図9は、本実施形態における音響画像生成方法における動作手順を示す。
【0123】
制御手段34は、レーザ光源ユニット13に対してフラッシュランプトリガ信号を出力する。レーザ光源ユニット13は、フラッシュランプトリガ信号を受けてフラッシュランプ35を点灯する。制御手段34は、所定のタイミングでQスイッチトリガ信号を出力する。レーザ光源ユニット13は、Qスイッチトリガ信号が入力されると、Qスイッチレーザ36をONにし、パルスレーザ光を出射する。出射したパルスレーザ光は、例えばプローブ11まで導光され、プローブ11から被検体に照射される(Step1)。
【0124】
プローブ11は、レーザ光の照射後、レーザ光の照射により被検体内で発生した光音響信号を検出し、この時のプローブ11の位置情報を例えば磁気センサ等の位置センサで取得する(Step2)。超音波ユニット12の受信回路21は、プローブ11で検出された光音響信号を受信する。そして、プローブ11が走査され(Step3)、光音響画像として撮像する対象となる領域すべてに対して走査を行った場合には、光音響信号の検出および位置情報の取得を終了する(Step4)。制御手段34は、被検体に対する光照射のタイミングに合わせてAD変換手段22にサンプリングトリガ信号を送る。AD変換手段22は、サンプリングトリガ信号を受けて光音響信号のサンプリングを開始し、光音響信号のサンプリングデータを受信メモリ23に格納する(Step5)。このとき、位置情報も一緒に受信メモリ23に格納される。
【0125】
光音響画像再構成手段25aは、受信メモリ23から光音響信号のサンプリングデータを読み出し、読み出した光音響信号のサンプリングデータに基づいて、光音響信号を再構成する(Step6)。光微分波形逆畳込み手段38は、再構成された光音響信号から、被検体に照射されたパルスレーザ光の光強度の時間波形を微分した光パルス微分波形をデコンボリューションする(Step7)。このデコンボリューションにより、吸収分布を示す光音響信号が得られる。
【0126】
補正手段39は、光パルス微分波形がデコンボリューションされた信号を、検出素子受信角度依存性や被検体における光の入射分布で補正する。検波・対数変換手段26aは、補正手段39で補正された光音響信号の包絡線を求め、求めた包絡線を対数変換する。光音響画像構築手段27aは、対数変換が施された各ラインのデータに基づいて、ある断面における光音響画像を生成する。この光音響画像は、吸収分布をデータ化した吸収分布画像である。つまり本実施形態では、管腔領域についての判別は、この吸収分布をデータ化した光音響データに基づいて行われる。
【0127】
一方、画像合成手段30はこれらの光音響画像および位置情報を使用してボリュームデータを生成する(Step8)。さらに、ボリュームデータの表示態様が決められる(Step9)。表示手段14は、表示画面上に、所定の表示態様による吸収分布を表す光音響画像を表示する(Step10)。
【0128】
本実施形態では、ひとまず、光音響画像再構成手段25aにて、通常の再構成法により発光時刻(t=0)の圧力分布として光音響信号(光音響画像)を再構成する。つぎに、実際は、光の発光時間は有限の長さであることから、再構成時にt=0としていた時刻を、有限の時間と考え、光微分波形逆畳込み手段38にて、再構成後の光音響画像から光パルス微分波形をデコンボリューションする。光パルス微分波形をデコンボリューションすることで、吸収分布を得ることができ、吸収分布画像を生成することができる。このような手法を採用することで、実用的な光パルス幅と実用的な超音波システム、或いは実際の生体を観測した場合でも、吸収分布を画像化することができる。これは、現状システムの検出器の帯域やADサンプリングを使用できる利点がある。また、本実施形態においては光音響画像の再構成で圧力分布を一度出しているため、既存の超音波アルゴリズム、装置との親和性が高い。
【0129】
以上のように、本発明に係る音響画像生成装置および音響画像生成方法は、特に、測定光の光強度の時間波形の微分波形である光微分波形を光音響波の光音響信号からデコンボリューションし、デコンボリューションされた光音響信号と空間情報とを使用して、光音響信号についてのボリュームデータを生成することを特徴とする。したがって、従来の圧力波の伝搬過程における圧力分布を表す光音響信号を、光吸収体の吸収分布を表す光音響信号に変換することができる。この結果、光音響イメージングにおいて、光吸収体の吸収分布を表す光音響画像を光音響信号から生成することが可能となる。この結果、超音波画像中の管腔領域について血管領域であるとする判別の精度が向上する。
【0130】
「音響画像生成装置および方法の第3の実施形態」
次に、本発明の音響画像生成装置の第3の実施形態を詳細に説明する。第2の実施形態では、光音響信号のサンプリングレートと光パルス微分波形のサンプリングレートとが一致しており、双方の信号を同じデータ点数でフーリエ変換した。本実施形態では、光音響信号を低速サンプリングする一方で、光パルス微分波形を高速サンプリングする。つまり、光パルス微分波形のサンプリングレートを光音響信号のサンプリングレートよりも高く設定する。例えば光音響信号のサンプリング間隔(サンプリングレートの逆数)は、被検体に照射される光のパルス時間幅よりも長く設定される。フーリエ変換に際しては、低サンプリングレートでサンプリングされた光音響信号を、光パルス微分波形のサンプリングレートと同じサンプリングレートでリサンプル(アップサンプル)した上で、フーリエ変換を行う。したがって、音響画像生成装置の構成自体は、光微分波形逆畳込み手段を除き、第2の実施形態と同様である。本実施形態の説明では、光微分波形逆畳込み手段以外の要素については、図5に示された符号を援用している。第2の実施形態と同様の構成要素についての詳細な説明は、特に必要がない限り省略する。
【0131】
図10は、本実施形態における光微分波形逆畳込み手段38aを示す。本実施形態における光微分波形逆畳込み手段38aは、図6に示す第2実施形態における光微分波形逆畳込み手段38の構成に加えて、リサンプル手段46及び47を有する。リサンプル手段46は、アップサンプル手段であり、低いサンプリングレートでサンプリングされた光音響信号のサンプリングデータを、光パルス微分波形のサンプリングレートと同じサンプリングレートでリサンプルする(アップサンプル)。リサンプル手段46は、例えば、低サンプリングレートでサンプリングされた光音響信号のサンプル点間にゼロを付加し、アップサンプル前のナイキスト周波数でカットするローパスフィルタをかけることでアップサンプルを行う。
【0132】
例えば、AD変換手段22における光音響信号のサンプリングレート(第1のサンプリングレート)が40MHzであり、光パルス微分波形のサンプリングレート(第2のサンプリングレート)が400MHzであったとする。この場合、リサンプル手段46は、40MHzの光音響信号を400MHzの信号にアップサンプルする。フーリエ変換手段41は、リサンプル手段46でアップサンプルされた光音響信号をフーリエ変換する。光音響信号をフーリエ変換するフーリエ変換手段41と、光パルス微分波形をフーリエ変換するフーリエ変換手段42とは、同じデータ点数でフーリエ変換を行う。例えばフーリエ変換手段41は光音響信号を8192点の周波数領域の信号に変換し、フーリエ変換手段42は光パルス微分波形を8192点の周波数領域の信号に変換する。
【0133】
フィルタ適用手段44は、アップサンプルされた光音響信号をフーリエ変換した信号に対して逆フィルタを適用する。フーリエ逆変換手段45は、逆フィルタが適用された信号を、周波数領域の信号から時間領域の信号(吸収分布)へと変換する。時間領域の信号に戻された吸収分布信号は、例えば400MHzにアップサンプルされた状態の信号となっている。リサンプル手段47は、吸収分布信号が、光音響信号の元のサンプルリングレートに、吸収信号をダウンサンプルする。リサンプル手段47は、例えば400MHzの吸収信号を40MHzの吸収信号にダウンサンプルする。ダウンサンプリングは、例えばダウンサンプル後のナイキスト周波数でカットするローパスフィルタをかけた後に、サンプル点を間引くことで行う。
【0134】
図11Aに、400MHzのサンプリングレートでサンプリングした光パルス微分波形を示し、図11Bに、40MHzのサンプリングレートでサンプリングした光パルス微分波形を示す。サンプリングレート400MHzでは、図11Aに示すように、光パルス微分波形を正確に再現できる。一方、光パルス微分波形のサンプリングレートを光音響信号のサンプリングレートに合わせ、40MHzでサンプリングすると、図11Bに示すように、光パルス微分波形を正確に再現できなくなる。
【0135】
フィルタ適用手段44にて光音響信号をフーリエ変換した信号に逆フィルタを適用する際には、双方のデータ点数が揃っている必要がある。光音響信号のサンプリングレートに合わせて光パルス微分波形のサンプリングレートを設定すると、図11Bに示したように、波形変化に対してサンプリング周波数が低すぎ、光パルス微分波形が正確に再現できない。このような光パルス微分波形から求めた逆フィルタを適用した場合、光パルス微分項を正確にデコンボリューションできずに、吸収分布を正しく求められないこともある。
【0136】
一方、光パルス微分波形を正確に再現するために光パルス微分波形のサンプリングレートを例えば400MHzに設定し、光音響信号のサンプリングレートを400MHzに合わせるとした場合は、光パルス微分項を正確にデコンボリューションでき、吸収分布を正しく求めることができる。しかしながら、その場合、AD変換手段22には高速なAD変換器が要求され、また、サンプリングデータの総数が増えることから、受信メモリ23に要求されるメモリ容量が増大する。更に、光音響画像再構成手段25aで取り扱うデータが増えるため、再構成に要する時間も長くなる。
【0137】
本実施形態では、リサンプル手段46で、事後的に光音響信号のサンプリングデータをリサンプルする。本実施形態では、検出後の光音響信号を信号処理でアップサンプルしているため、光音響の検出から再構成までは低速サンプリングしつつも、光パルス微分項を正確にデコンボリューションすることができる。本実施形態では、AD変換手段22に高速なAD変換器は不要であり、受信メモリ23に必要なメモリ容量も増大しない。また、光音響信号の再構成に要する時間も増大せず、光音響信号の検出時に高いサンプリングレートでサンプリングする場合に比して、処理時間を短縮することができる。
【0138】
「音響画像生成装置および方法の第4の実施形態」
次に、本発明の音響画像生成装置の第4の実施形態を詳細に説明する。本実施形態では、第3の実施形態と同様に、光パルス微分波形のサンプリングレートを光音響信号のサンプリングレートよりも高く設定する。第3の実施形態では、低サンプリングレートでサンプリングされた光音響信号をアップサンプルし、双方の信号を同じデータ点数でフーリエ変換した。本実施形態では、光パルス微分波形のフーリエ変換を、光音響信号のフーリエ変換のデータ点数よりも多いデータ点数で行い、フーリエ変換された光音響信号に対して、データ点数の差の分だけ中央(高周波成分領域)にゼロ点を付加する。したがって、音響画像生成装置の構成自体は、光微分波形逆畳込み手段を除き、第2の実施形態と同様である。本実施形態の説明では、光微分波形逆畳込み手段以外の要素については、図5に示された符号を援用している。第2の実施形態と同様の構成要素についての詳細な説明は、特に必要がない限り省略する。
【0139】
図12は、本実施形態における光微分波形逆畳込み手段38bを示す。本実施形態における光微分波形逆畳込み手段38bは、図6に示す第2の実施形態における光微分波形逆畳込み手段38の構成に加えて、ゼロパディング手段48とゼロ点除去手段49とを有する。例えば、光音響信号のサンプリングレート(第1のサンプリングレート)は40MHzであり、光パルス微分波形のサンプリングレート(第2のサンプリングレート)は320MHzであるとする。フーリエ変換手段41は、例えば40MHzの光音響信号を1024点(第1のデータ点数)の周波数領域の信号に変換し、フーリエ変換手段42は、320MHzの光パルス微分波形を8192点(第2のデータ点数)の周波数領域の信号に変換する。第2のデータ点数は、第1のデータ点数に、第2のサンプリングレートと第1のサンプリングレートとの比を乗じたデータ点数と等しいか、又はそれよりも多い。
【0140】
ゼロパディング手段48は、フーリエ変換手段41から周波数領域の信号に変換された光音響信号を入力する。ゼロパディング手段48は、フーリエ変換された光音響信号に対して、フーリエ変換後の光音響信号と光パルス微分波形のデータ点数の差の分だけ中央にゼロ点(信号値ゼロの点)を付加する。ゼロパディング手段48は、例えば周波数領域で表されたデータ点数1024点の光音響信号を、ナイキスト周波数(サンプリング周波数の1/2)で2つに分割し、分割した2つの周波数領域の間にデータ点数の差の分だけゼロ点を付加し、周波数領域で表された光パルス微分波形のデータ点数と同じデータ点数8192点の光音響信号を生成する。ゼロ点の付加は、周波数領域におけるアップサンプリングに相当する。
【0141】
フィルタ適用手段44は、ゼロパディング手段48でゼロパディングが施された信号に対して逆フィルタを適用する。ゼロ点除去手段49は、逆フィルタが適用された信号からゼロパディング手段48で“0”が付加された周波数帯域を除去する。例えばゼロパディング手段48にてデータ点数1024点の光音響信号(周波数領域)がデータ点数8192点の信号に変換されていたとき、ゼロ点除去手段49は、フィルタ適用後の信号(データ点数8192点)をデータ点数1024点の信号に戻す。ゼロ点の除去は、周波数領域におけるダウンサンプリングに相当する。フーリエ逆変換手段45は、データ点数1024点に戻された信号を、周波数領域の信号から時間領域の信号へと変換する。
【0142】
図13Aに、フーリエ変換された光音響信号を示し、図13Bに、ゼロパディング後の光音響信号を示す。例えば、AD変換手段22における光音響信号のサンプリングレートが40MHzであるとき、その光音響信号をフーリエ変換した信号は、図13Aに示すように、0MHzから40MHzまでの周波数帯域の信号となる。この信号を、中心周波数である20MHzを境に2つの領域A、Bに2分割する。ゼロパディング手段48は、図13Bに示すように、2つの領域の間にゼロ点を8192−1024=7168個挿入する。ゼロ点が付加された結果、領域Bの信号は、300MHzから320MHzの周波数領域に対応した信号となる。
【0143】
本実施形態では、低サンプリングレートでサンプリングされた光音響信号を周波数領域の信号に変換し、変換された周波数領域の信号の高周波成分の領域のゼロ点を付加する。本実施形態と第3の実施形態との相違点は、第3の実施形態では、光音響信号をアップサンプルするのに対し、本実施形態では、光音響信号を周波数領域でアップサンプルする点である。時間領域に代え、周波数領域において、双方の信号の帯域差を埋めるようにリサンプル(アップサンプル)を行う場合も、第3の実施形態と同様に、光音響の検出から再構成までは低速サンプリングしつつも、光パルス微分項を正確にデコンボリューションすることができる。
【0144】
「音響画像生成装置および方法の第5の実施形態」
次に、本発明の音響画像生成装置の第5の実施形態を詳細に説明する。本実施形態においても、第3及び第4の実施形態と同様に、光パルス微分波形のサンプリングレートを光音響信号のサンプリングレートよりも高く設定する。本実施形態では、光パルス微分波形を、光音響信号のフーリエ変換のデータ点数よりも多いデータ点数で行い、フーリエ変換された光微分波形から高周波成分サンプル点を除去し、その逆数を逆フィルタとして求める。したがって、音響画像生成装置の構成自体は、光微分波形逆畳込み手段を除き、第2の実施形態と同様である。本実施形態の説明では、光微分波形逆畳込み手段以外の要素については、図5に示された符号を援用している。第2の実施形態と同様の構成要素についての詳細な説明は、特に必要がない限り省略する。
【0145】
図14は、本実施形態における光微分波形逆畳込み手段38cを示す。本実施形態における光微分波形逆畳込み手段38cは、図6に示す第2の実施形態における光微分波形逆畳込み手段38の構成に加えて、高周波成分サンプル点除去手段50を有する。例えば、光音響信号のサンプリングレート(第1のサンプリングレート)は40MHzであり、光パルス微分波形のサンプリングレート(第2のサンプリングレート)は320MHzであるとする。フーリエ変換手段41は、例えば40MHzの光音響信号を1024点(第1のデータ点数)の周波数領域の信号に変換し、フーリエ変換手段42は、320MHzの光パルス微分波形を8192点(第2のデータ点数)の周波数領域の信号に変換する。第2のデータ点数は、第1のデータ点数に、第2のサンプリングレートと第1のサンプリングレートとの比を乗じたデータ点数と等しいか、又はそれよりも多い。
【0146】
高周波成分サンプル点除去手段50は、フーリエ変換手段42から周波数領域の信号に変換された光パルス微分波形を入力する。高周波成分サンプル点除去手段50は、フーリエ変換された光パルス微分波形から、フーリエ変換後の光音響信号と光パルス微分波形のデータ点数の差の分だけ高周波成分サンプル点を除去する。高周波成分サンプル点除去手段50は、例えば周波数領域で表されたデータ点数8192点の光パルス微分波形から高周波成分に相当する中央のデータ点を削除し、周波数領域で表された光音響信号のデータ点数と同じデータ点数1024点の光パルス微分波形を生成する。高周波成分サンプル点の除去は、周波数領域における光パルス微分波形のダウンサンプリングに相当する。
【0147】
図15Aに、フーリエ変換された光パルス微分波形を示し、図15Bに、高周波成分サンプル点が除去された光パルス微分波形を示す。例えば、光パルス微分波形のサンプリングレートが320MHzであるとき、その光パルス微分波形をフーリエ変換した信号(データ点数8192点)は、図15Aに示すように、0MHzから320MHzまでの周波数帯域の信号となる。この信号を、1番目のデータ点から512番目までの領域(領域A)、513番目のデータ点から7680番目のデータ点までの領域(領域B)、及び、7681番目のデータ点から8192番目のデータ点までの領域(領域C)の3つの領域に分け、領域Bのデータ点を除去する。図15Bに示すように、領域Aと領域Cとをつなげることで、0MHzから40MHzまでの周波数帯域に対応したデータ点数1024点の光パルス微分波形が得られる。
【0148】
逆フィルタ演算手段43は、周波数領域で表されかつ高周波成分サンプル点が除去された光パルス微分波形の逆数を逆フィルタとして求める。逆フィルタ演算手段43は、例えばデータ点が8192点から1024点に削減された光パルス微分波形の逆数を逆フィルタとして求める。フィルタ適用手段44は、例えば周波数領域で表されたデータ点数1024点の光音響信号と逆フィルタとを要素ごとに乗算する。フーリエ逆変換手段45は、逆フィルタが適用された信号を、周波数領域の信号から時間領域の信号へと変換する。
【0149】
ここで、第5の実施形態では、フィルタ適用手段44は、図13Bに示す高周波成分の領域にゼロ点が付加された光音響信号と、図15Aに示す光パルス微分波形の逆数とを乗算する。光音響信号の高周波成分領域の値は“0”であるため、光パルス微分波形の高周波成分(図15Aの領域B)は、逆フィルタ適用後の光音響信号に影響を与えない。従って、本実施形態のように、光パルス微分波形の周波数領域の信号から高周波成分サンプル点を除去し、高周波成分を除去した光パルス微分波形から逆フィルタを求め、求めた逆フィルタを周波数領域で表された光音響信号に適用しても、得られる結果は第4の実施形態と同じ結果となる。つまり、本実施形態においても、第4の実施形態と同様な効果が得られる。
【0150】
なお、上記各実施形態では、光音響信号及び光パルス微分波形を周波数領域の信号に変換し、周波数領域でデコンボリューション後に時間領域の信号に戻しているが、これには限定されない。光パルス微分波形のデコンボリューションを時間領域で行うことも可能である。また、光微分波形逆畳込み手段38は、デコンボリューション時に、光音響信号に対して何らかのフィルタをかける処理をおこなってもよい。例えば光微分波形逆畳込み手段38が、デコンボリューション時に、ノイズ増幅周波数帯をフィルタリングするようにしてもよい。
【0151】
上記各実施形態では、光音響信号から光微分波形をデコンボリューションした後に光音響データ(または光音響画像)を生成することとしているが、これに加えて、又はこれに代えて、光微分波形をデコンボリューションせずに光音響データを生成してもよい。例えば、ユーザが、スイッチや表示モニタ上で操作を行うことで、デコンボリューション処理の有無を選択できるようにしておき、ユーザがデコンボリューション処理の実施を選択したときには光微分波形のデコンボリューションを行った上で光音響データを生成し、ユーザがデコンボリューション処理の不実施を選択したときは光微分波形のデコンボリューションを行わずに光音響データを生成してもよい。例えば、光音響画像を表示手段14に表示する場合において、光微分波形のデコンボリューションを行ったときは、光音響信号を赤・黒の色に対応付けて表示し、デコンボリューションなしのときは、光音響信号を青・黒の色に対応付けて表示してもよい。
【0152】
また、デコンボリューションなしの場合の光音響データを生成し、コンピュータがその光音響データを解析することで、血管部分が2本に分かれているか否かを判定し、血管が2本に分かれていると判定されたときに、その血管部分のみを対象に光微分波形のデコンボリューション処理を行うようにしてもよい。
【0153】
「音響画像生成装置および方法の第6の実施形態」
次に、本発明の音響画像生成装置の第6の実施形態を詳細に説明する。本実施形態の音響画像生成装置10cは、判別手段62が、生体組織を表示する超音波画像中の組織領域が、コラーゲンおよび/または脂肪を含有する組織を表示するものであるか否かの判別を行う点で、第1の実施形態の装置と異なる。したがって、第1の実施形態と同様の構成要素についての詳細な説明は、特に必要がない限り省略する。
【0154】
図16は、本実施形態の音響画像生成装置10cの基本構成を示すブロック図である。この音響画像生成装置10cは、プローブ11、超音波ユニット12、レーザ光源ユニット13および表示手段14を備えている。なおこの音響画像生成装置10cは、超音波画像と光音響画像との双方を生成可能に構成されている。
【0155】
そして、本実施形態の音響画像生成方法は、被検体に向けて出射され被検体内で反射した超音波を検出し、検出された超音波に基づいて超音波画像を生成し、生体組織を表示する組織領域を超音波画像から抽出し、1700〜1800nmの波長帯域に属する第5の波長の測定光と、1700〜1800nmの波長帯域に属しかつ第5の波長と異なる第6の波長の測定光とを切り換えて測定光として被検体内に向けて出射させることにより被検体内で発生した光音響波を検出し、第5の波長の測定光に関する光音響データ中の第5のピークデータの有無、および、第6の波長の測定光に関する光音響データ中の第6のピークデータの有無に基づいて、上記組織領域が、コラーゲンおよび/または脂肪を含有する組織を表示するものであるか否かの判別を行い、上記判別の結果に応じて上記組織領域が色分けされた超音波画像を合成し、合成された超音波画像を表示することを特徴とするものである。
【0156】
図17は、脂肪と共通する構造(CHボンド)を有するポリエチレン(polyethilene)およびコラーゲンと共通する構造(CHボンド)を有するトリメチルペンタン(trimethylpentane)それぞれの吸収スペクトルを示すグラフである。このグラフにおいて、横軸は波長、縦軸は吸収係数(μ)である。このグラフから、CHボンド構造を有する脂肪は、およそ1730nmでコラーゲンの吸収係数よりも大きな吸収係数を有し、CHボンド構造を有するコラーゲンは、およそ1725nmで脂肪の吸収係数よりも大きな吸収係数を有することがわかる。本実施形態の音響画像生成装置10cは、この波長ごとの吸収係数の違いを利用するものである。
【0157】
レーザ光源ユニット13は、1700〜1800nmの波長帯域に属する第5および第6の波長を出力可能なQスイッチレーザを有する点で、第1の実施形態のものと異なる。第5および第6の波長は互いに異なり、例えば本実施形態では第5の波長が1725nmであり、第6の波長が1730nmである。Qスイッチレーザは、第5および第6の波長の光を別個に出力する2つの光源であってもよく、第5および第6の波長を包含する広帯域の光を出力する1つの光源であってもよい。
【0158】
抽出手段61は、形態的に特徴的な生体組織(例えば真皮や皮下組織等)を表示する組織領域を超音波画像から抽出するものである。組織領域の抽出は特に限定されず公知の手法を使用することができる。超音波画像から組織領域を予め抽出することにより、光音響画像中のピークデータの有無を判断する領域を、その抽出された組織領域に対応する領域に限定できるという利点がある。しかしながら、組織領域の抽出は本発明において必須ではない。
【0159】
判別手段62は、抽出された組織領域が、コラーゲンおよび/または脂肪を含有する組織を表示するものであるか否かの判別を行う。
【0160】
上記判別は具体的には次のようにして行われる。
【0161】
まず、判別手段62は、光音響画像構築手段27aから、1725nmおよび1730nmの2つの波長のそれぞれに基づいた2つの画像データ(つまり光音響データ)を取得する。次に判別手段62は、波長が1725nm(第5の波長)の光に関する画像データの中に、抽出された上記組織領域に対応する部分の第5のピーク輝度が存在するか否かを判断し、その判断結果を記憶する。また、波長が1730nm(第6の波長)の光に関する画像データの中に、抽出された上記組織領域に対応する部分の第6のピーク輝度が存在するか否かを判断し、その判断結果を記憶する。
【0162】
上記組織領域に対応する画像データ部分は、超音波画像の画素位置と光音響画像の画素位置とを空間的に対比することにより判断される。本実施形態の場合、図3に示されるようなプローブを使用しているため、プローブを動かすことなく超音波画像および光音響画像を取得することができる。
【0163】
そして、ピーク輝度の有無についての2つの上記判断結果に基づいて、下記の表5で表されるテーブルデータを参照して、抽出された組織領域が、コラーゲンおよび/または脂肪を含有する組織を表示するものであるか否かの判別を行う。
【0164】
【表5】

【0165】
表5において、「+」記号はその波長においてピーク輝度(ピークデータ)が存在したことを表し、「−」記号はその波長においてピーク輝度(ピークデータ)が存在しなかったことを表す。なお、ピークデータの有無の判断は、所定の閾値を基準に判断する。つまり、ピークデータと思われる信号があったとしても上記閾値未満の信号は、本発明においてピークデータとして取り扱わない。当該閾値は、コラーゲンおよび脂肪の項目間で同じ結果とならないように波長ごとに適宜設定される。
【0166】
つまり、表5は、第5のピークデータがなくかつ第6のピークデータがある場合に、上記組織領域は、脂肪をより多く含有する組織を表示するものであるとの判別が行われることを示す。また表5は、第5のピークデータがありかつ第6のピークデータがない場合に、上記組織領域は、コラーゲンをより多く含有する組織を表示するものであるとの判別が行われることを示す。これは、脂肪の吸収係数が、1725nmにおいてコラーゲンの吸収係数よりも小さく、1730nmにおいてコラーゲンの吸収係数よりも大きいためである。また、第5のピークデータおよび第6のピークデータがどちらも所定の閾値以上である場合には、上記組織領域は、同程度の量のコラーゲンおよび脂肪を含有する組織を表示するものであるとの判別が行われてもよい。
【0167】
画像合成手段30は、画像構築手段27aおよび27bにそれぞれ構築された光音響画像および超音波画像に基づいて、上記判別の結果に応じて上記組織領域が色分けされた画像を生成する。さらに、それぞれのピークデータ値の大きさに応じてコラーゲンおよび脂肪がどれだけ含有されているかを色分けによって超音波画像上に表示してもよい。
【0168】
以上より、本実施形態に係る音響画像生成装置および音響画像生成方法は、1700〜1800nmの波長帯域に属する第5の波長の測定光と、1700〜1800nmの波長帯域に属しかつ第5の波長と異なる第6の波長の測定光とが切り換えられて被検体に向けて出射されたことにより被検体内で発生した光音響波を検出し、第5の波長の測定光に関する光音響データ中の第5のピークデータの有無、および、第6の波長の測定光に関する光音響データ中の第6のピークデータの有無に基づいて、上記組織領域が、コラーゲンおよび/または脂肪を含有する組織を表示するものであるか否かの判別を行い、この結果を色分けして超音波画像に表示するものである。このように本発明では、2つの異なる所定の波長を使用して取得した複数の光音響データを指標として組織領域の判別を行うから、光音響分析法を用いた生体組織の判別において、超音波画像中に表された生体組織を精度よく判別することが可能となる。
【符号の説明】
【0169】
10a、10b、10c 音響画像生成装置
11 超音波探触子(プローブ)
12 超音波ユニット
13 レーザ光源ユニット
14 表示手段
21 受信回路
22 AD変換手段
23 受信メモリ
24 データ分離手段
25a 光音響画像再構成手段
25b 超音波画像再構成手段
26a 検波・対数変換手段
26b 検波・対数変換手段
27a 光音響画像構築手段
27b 超音波画像構築手段
28、61 抽出手段
29、62 判別手段
30 画像合成手段
33 送信制御回路
34 制御手段
38、38a、38b、38c 光微分波形逆畳込み手段
39 補正手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気音響変換手段により検出された音響波のうち、前記電気音響変換手段によって被検体に向けて出射され該被検体内で反射した超音波に基づいて超音波画像を生成し、前記音響波のうち、光出射手段が前記被検体に向けて複数の測定光を切り換えて出射したことにより前記被検体内で発生した光音響波に基づいて光音響データを再構成する画像生成手段と、
管腔組織を表示する前記超音波画像中の管腔領域が、血管領域、リンパ管領域および神経領域のいずれの領域に該当するのかの判別を行う判別手段と、
前記判別の結果に応じて前記管腔領域が色分けされた前記超音波画像を表示させる表示制御手段とを備え、
前記判別手段が少なくとも、脂肪および水の吸収係数に比べてヘモグロビンの吸収係数が大きい波長帯域に属する第1の波長の測定光に関する前記光音響データ中の第1のピークデータの有無、および、ヘモグロビンおよび脂肪の吸収係数に比べて水の吸収係数が大きい波長帯域に属する第2の波長の測定光に関する前記光音響データ中の第2のピークデータの有無に基づいて前記判別を行うものであることを特徴とする音響画像生成装置。
【請求項2】
前記判別手段が、さらに、水およびヘモグロビンの吸収係数に比べて脂肪の吸収係数が大きい波長帯域に属する第3の波長の測定光に関する前記光音響データ中の第3のピークデータの有無も考慮するものであることを特徴とする請求項1に記載の音響画像生成装置。
【請求項3】
前記判別手段が、
前記第1のピークデータがありかつ前記第2のピークデータがある場合に、前記管腔領域は血管領域に該当するとの判別を行い、
前記第1のピークデータがなくかつ前記第2のピークデータがある場合に、前記管腔領域はリンパ管領域に該当するとの判別を行い、
前記第1のピークデータがなくかつ前記第2のピークデータがない場合に、前記管腔領域は神経領域に該当するとの判別を行うものであることを特徴とする請求項1に記載の音響画像生成装置。
【請求項4】
前記第1の波長が700〜820nmの波長帯域に属するものであり、
前記第2の波長が1055〜1075nmの波長帯域に属するものであることを特徴とする請求項1または3に記載の音響画像生成装置。
【請求項5】
前記判別手段が、
前記第1のピークデータがありかつ前記第3のピークデータがない場合に、前記管腔領域は血管領域に該当するとの判別を行い、
前記第1のピークデータがなくかつ前記第2のピークデータがある場合に、前記管腔領域はリンパ管領域に該当するとの判別を行い、
前記第2のピークデータがなくかつ前記第3のピークデータがある場合に、前記管腔領域は神経領域に該当するとの判別を行うものであることを特徴とする請求項2に記載の音響画像生成装置。
【請求項6】
前記判別手段が、
前記第1のピークデータがあり、前記第2のピークデータがありかつ前記第3のピークデータがない場合に、前記管腔領域は血管領域に該当するとの判別を行い、
前記第1のピークデータがなく、前記第2のピークデータがありかつ前記第3のピークデータがない場合に、前記管腔領域はリンパ管領域に該当するとの判別を行い、
前記第1のピークデータがなく、前記第2のピークデータがなくかつ前記第3のピークデータがある場合に、前記管腔領域は神経領域に該当するとの判別を行うものであることを特徴とする請求項2に記載の音響画像生成装置。
【請求項7】
前記第1の波長が700〜820nmの波長帯域に属するものであり、
前記第2の波長が1055〜1075nmの波長帯域に属するものであり、
前記第3の波長が910〜930nmの波長帯域に属するものであることを特徴とする請求項2、5および6いずれかに記載の音響画像生成装置。
【請求項8】
前記第1の波長が700〜820nmの波長帯域に属するものであり、
前記第2の波長が1055〜1075nmの波長帯域に属するものであり、
前記第3の波長が1150〜1250nmまたは1700〜1800nmの波長帯域に属するものであることを特徴とする請求項2、5および6いずれかに記載の音響画像生成装置。
【請求項9】
前記判別手段が、さらに、水およびヘモグロビンの吸収係数に比べて脂肪の吸収係数が大きい波長帯域に属しかつ前記第3の波長と異なる第4の波長の測定光に関する前記光音響データ中の第4のピークデータの有無も考慮するものであることを特徴とする請求項2に記載の音響画像生成装置。
【請求項10】
前記判別手段が、
前記第1のピークデータがあり、前記第2のピークデータがあり、前記第3のピークデータがなくかつ前記第4のピークデータがない場合に、前記管腔領域は血管領域に該当するとの判別を行い、
前記第1のピークデータがなく、前記第2のピークデータがあり、前記第3のピークデータがなくかつ前記第4のピークデータがない場合に、前記管腔領域はリンパ管領域に該当するとの判別を行い、
前記第1のピークデータがなく、前記第2のピークデータがなく、前記第3のピークデータがありかつ前記第4のピークデータがある場合に、前記管腔領域は神経領域に該当するとの判別を行うものであることを特徴とする請求項9に記載の音響画像生成装置。
【請求項11】
前記第1の波長が700〜820nmの波長帯域に属するものであり、
前記第2の波長が1055〜1075nmの波長帯域に属するものであり、
前記第3の波長が910〜930nmの波長帯域に属するものであり、
前記第4の波長が1150〜1250nmまたは1700〜1800nmの波長帯域に属するものであることを特徴とする請求項9または10に記載の音響画像生成装置。
【請求項12】
前記画像生成手段が、測定光として出射されたパルス光の光強度の時間波形の微分波形である光微分波形を、該パルス光に基づく光音響信号からデコンボリューションする光微分波形逆畳込み手段を有し、該光微分波形逆畳込み手段によってデコンボリューションされた信号に基づいて前記光音響データを再構成するものであることを特徴とする請求項1から11いずれかに記載の音響画像生成装置。
【請求項13】
前記光微分波形逆畳込み手段が、
前記光音響信号をフーリエ変換する第1のフーリエ変換手段と、
前記光微分波形を所定のサンプリングレートでサンプリングした信号をフーリエ変換する第2のフーリエ変換手段と、
フーリエ変換された前記光微分波形の逆数を逆フィルタとして求める逆フィルタ演算手段と、
フーリエ変換された前記光音響信号に前記逆フィルタを適用するフィルタ適用手段と、
前記逆フィルタが適用された前記光音響信号をフーリエ逆変換するフーリエ逆変換手段とを有するものであることを特徴とする請求項12に記載の音響画像生成装置。
【請求項14】
検出された音響波のうち、被検体に向けて出射され該被検体内で反射した超音波に基づいて超音波画像を生成し、
前記音響波のうち、複数の測定光が切り換えられて出射されたことにより前記被検体内で発生した光音響波に基づいて光音響データを再構成し、
少なくとも、脂肪および水の吸収係数に比べてヘモグロビンの吸収係数が大きい波長帯域に属する第1の波長の測定光に関する前記光音響データ中の第1のピークデータの有無、および、ヘモグロビンおよび脂肪の吸収係数に比べて水の吸収係数が大きい波長帯域に属する第2の波長の測定光に関する前記光音響データ中の第2のピークデータの有無に基づいて、前記管腔領域が、血管領域、リンパ管領域および神経領域のいずれの領域に該当するのかの判別を行い、
前記判別の結果に応じて前記管腔領域が色分けされた前記超音波画像を表示することを特徴とする音響画像生成方法。
【請求項15】
さらに、水およびヘモグロビンの吸収係数に比べて脂肪の吸収係数が大きい波長帯域に属する第3の波長の測定光に関する前記光音響データ中の第3のピークデータの有無も考慮することを特徴とする請求項14に記載の音響画像生成方法。
【請求項16】
さらに、水およびヘモグロビンの吸収係数に比べて脂肪の吸収係数が大きい波長帯域に属しかつ前記第3の波長と異なる第4の波長の測定光に関する前記光音響データ中の第4のピークデータの有無も考慮することを特徴とする請求項15に記載の音響画像生成方法。
【請求項17】
電気音響変換手段により検出された音響波のうち、前記電気音響変換手段によって被検体に向けて出射され該被検体内で反射した超音波に基づいて超音波画像を生成し、前記音響波のうち、光出射手段が前記被検体に向けて複数の測定光を切り替えて出射したことにより前記被検体内で発生した光音響波に基づいて光音響データを再構成する画像生成手段と、
生体組織を表示する前記超音波画像中の組織領域が、コラーゲンおよび/または脂肪を含有する組織を表示するものであるか否かの判別を行う判別手段と、
前記判別の結果に応じて前記組織領域が色分けされた前記超音波画像を表示させる表示制御手段とを備え、
前記判別手段が、1700〜1800nmの波長帯域に属する第5の波長の測定光に関する前記光音響データ中の第5のピークデータの有無、および、1700〜1800nmの波長帯域に属しかつ前記第5の波長と異なる第6の波長の測定光に関する前記光音響データ中の第6のピークデータの有無に基づいて前記判別を行うものであることを特徴とする音響画像生成装置。
【請求項18】
前記第5の波長が1725nmであり、
前記第6の波長が1730nmであることを特徴とする請求項17に記載の音響画像生成装置。
【請求項19】
前記画像生成手段が、測定光として出射されたパルス光の光強度の時間波形の微分波形である光微分波形を、該パルス光に基づく光音響信号からデコンボリューションする光微分波形逆畳込み手段を有し、該光微分波形逆畳込み手段によってデコンボリューションされた信号に基づいて前記光音響データを再構成するものであることを特徴とする請求項17または18に記載の音響画像生成装置。
【請求項20】
検出された音響波のうち、被検体に向けて出射され該被検体内で反射した超音波に基づいて超音波画像を生成し、
前記音響波のうち、複数の測定光が切り換えられて出射されたことにより前記被検体内で発生した光音響波に基づいて光音響データを再構成し、
1700〜1800nmの波長帯域に属する第5の波長の測定光に関する前記光音響データ中の第5のピークデータの有無、および、1700〜1800nmの波長帯域に属しかつ前記第5の波長と異なる第6の波長の測定光に関する前記光音響データ中の第6のピークデータの有無に基づいて、前記組織領域が、コラーゲンおよび/または脂肪を含有する組織を表示するものであるか否かの判別を行い、
前記判別の結果に応じて前記組織領域が色分けされた前記超音波画像を表示することを特徴とする音響画像生成方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16】
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【図17】
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【図2】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7F】
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【図7G】
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【図8A】
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【図8B】
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【公開番号】特開2013−63259(P2013−63259A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−182960(P2012−182960)
【出願日】平成24年8月22日(2012.8.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】