説明

音響発生装置および音響システム

【課題】自動二輪車の走行中にも音声を聞き取りやすく、かつ高音質な音響発生装置および音響システムを提供すること。
【解決手段】入力される信号に応じて磁界を発生させるコイル17と、コイル17からの磁界に応じて変形する磁歪素子16と、磁歪素子16およびコイル17が収容されるケース体12と、磁歪素子16と当接すると共に、ケース体12から突出する接触部材11と、ケース体12を被振動部材51に固定するための固定用部品20と、を有し、固定用部品20は、磁歪素子16が接触部材11を介して被振動部材51に当接するよう固定される音響発生装置1としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響発生装置および音響システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車を運転する際には、ヘルメットの装着が義務付けられている。したがって、携帯用音響機器等を用いて、運転者が自動二輪車の運転中に音楽を楽しむためには、イヤホンを耳に装着する必要がある。このため、ヘルメットの着脱時に耳に装着したイヤホンが引っ張られることで耳が痛くなる等の問題があった。また、ヘルメットやチンガードにスピーカを内蔵することも考えられるが、この場合、ヘルメットを改造する必要がある。ヘルメットを改造すると、コードがヘルメットに接続されるため、運転者に該コードが絡まる等、ヘルメット自体の取り扱いが煩雑になる。
【0003】
このような問題を解消するために、振動素子としての圧電素子を内部に格納し、圧電素子の振動を、圧電素子の貼付面を介して板材に伝達させることにより音声を発生させる音響発生装置が知られている(特許文献1を参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2007−110608号公報(要約書)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の音響発生装置をヘルメットに装着すると、音響発生装置が取り付けられた、板材としてのヘルメットの一部あるいは全部が発音する。したがって、自動二輪車のユーザは、イヤホンをすることなく、良好な音声を聴取することができる。しかしながら、自動二輪車の走行速度が高速になるにつれて、風音、エンジン音あるいは路面の走行ノイズ等により、ユーザが音声を聞き取りにくいという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を解決すること、すなわち、自動二輪車の走行中にも音声を聞き取りやすく、かつ高音質な音響発生装置および音響システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る音響発生装置の1側面として、入力される電流に応じて磁界を発生させるコイルと、コイルからの磁界に応じて伸縮する磁歪素子と、磁歪素子およびコイルが収容されるケース体と、磁歪素子と当接すると共に、ケース体から突出する接触部材と、ケース体を被振動部材に固定させるための固定用部品と、を備え、固定用部品は、磁歪素子が接触部材を介して上記被振動部材に当接するように固定する音響発生装置としている。
【0008】
また、他の発明の1側面として、上述の発明に加えて更に、接触部材は、被振動部材との接触部分に倣う形状に形成されるものとしている。
【0009】
また、本発明の他の側面として、上述の発明に加えて更に、ケース体と接触部材との間隙は、異物の進入を防ぐ保護部材で覆われているものとしている。
【0010】
また、他の発明に係る音響システムの1側面は、入力される電流に応じて磁界を生じる第1のコイルと、第1のコイルからの磁界に応じて伸縮する磁歪素子と、磁歪素子および第1のコイルが収容されるケース体と、磁歪素子と当接すると共に、ケース体から突出する接触部材と、ケース体を被振動部材に固定させると共に、磁歪素子が接触部材を介して被振動部材に当接するよう固定される固定用部品と、を備える第1の音響発生装置に加えて、着磁した磁性素子と、磁性素子の周囲から間隙を設けて周回する第2のコイルと、を備える第2の音響発生装置を有し、第2の音響発生装置は、第2のコイルにより生じた磁界に応じて、磁性素子が移動することにより、被振動部材に振動を伝達するものとしている。
【0011】
さらに、他の発明の1側面は、上述の発明に加えて更に、被振動部材は、ヘルメットの一部であるものとしている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、自動二輪車の走行中にも音声を聞き取りやすく、高音質な音響発生装置および音響システムとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の一実施の形態に係る音響発生装置1について、図1〜3を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施の形態に係る音響発生装置1の斜視図である。
【0015】
音響発生装置1は、被振動部材を振動させることで、音声を再生する装置である。音響発生装置1は、入力される信号を振動に変換する磁歪装置10およびクリップ20を主に有する。また、接触部材11、ケース体12、および、接触部材11とケース体12との接続部を囲む保護部材15は、磁歪装置10の外側に露出している。なお、図1〜図3において、接触部材11の被振動部材に接する面側をZ1方向、そしてZ1方向と逆側をZ2方向とする。また、クリップ20の長手方向のうち、開口側をX2方向、その逆をX1方向とする。そして、クリップ20の短辺方向のうち、紙面奥側をY1方向、紙面手前側をY2方向とする。
【0016】
図2は、音響発生装置1の磁歪装置10をY2方向から見た場合の斜視図である。また、図3は、磁歪装置10を図2に示すW−W線を含むXZ平面で切断した場合の断面図である。
【0017】
磁歪装置10のケース体12は、ケース基体部13および封口部14から主に構成されている。また、そのケース体12には、磁歪素子16およびコイル17が内包されている。磁歪素子16のZ1方向側の面は、接触部材11と当接あるいは接着されている。また、コイル17は、Z軸方向を軸として、磁歪素子16の周囲を周回している。
【0018】
接触部材11は、被振動部材に接触する部分である。具体的には、接触部材11は、接触板11a、支持部11b、および磁歪素子接続部11cをこの順で、Z2方向に有すると共に、接触板11aのZ1方向側の面が、被振動部材に接触する。また、磁歪素子接続部11cのZ2方向側の面は、磁歪素子16のZ1方向側の面に接触している。
【0019】
接触板11a、支持部11bおよび磁歪素子接続部11cは、XY断面が円をなす円柱形であり、支持部11bのXY平面の断面積は、接触板11aよりもXY平面の断面積が小さい。さらに、磁歪素子接続部11cのXY平面の断面積は、支持部11bのXY平面の断面積よりも小さい。また、接触板11aのZ1方向の面は、被振動部材の面に密着できるように、被振動部材の取り付け面と略同一の湾曲率で湾曲している。
【0020】
ケース体12は、円筒形状の外観を有する。ケース体12は、ケース体12の外周と略同一の外周を有するケース基体部13および封口部14を有する。ケース基体部13は、XY平面に面する底部13a、および底部13aの外周部からZ軸方向に立設する側壁13bとを有する。そのため、ケース基体部13は、磁歪素子16およびコイル17を配置するための空間が設けられ、Z1方向側が開口している。さらに、側壁13bのZ1方向側末端には、延出部13cが設けられている。延出部13cの外周と、側壁13bの外周とは、面一である。しかし、延出部13cの径方向への肉厚は、側壁13bの径方向への肉厚よりも薄い。そのため、側壁13bのZ1方向側末端は、外側に向かって凹んでいるように設けられる。
【0021】
封口部14は、ケース基体部13と同一の直径を有し、Z軸方向に貫通する孔14cを有する。孔14cは、磁歪素子16のXY平面の断面と略同一あるいはそれよりも大きい。また、封口部14のZ2方向側には、封口部14のZ1方向側よりもXY断面が小さい挿入部14bが設けられている。挿入部14bの外周は、延出部13cの内周と同一の外周を有する。したがって、ケース基体部13の開口部に封口部14が配置されると、封口部14の挿入部14bが、ケース基体部13の延出部13cの内周側に嵌合される。
【0022】
保護部材15は、封口部14の孔14cの内周面と磁歪素子16の外周面との間隙から、異物として、水や塵埃等が入らないようにするための部材である。保護部材15は、封口部14のZ1方向の面と、接触部材11の支持部11bのZ2方向の面とに当接し、接触部材11の周囲をZ1軸を軸として周回する。保護部材15のZ2側の末端の外周は、孔14cの大きさよりも大きい。一方、保護部材15のZ1側の末端の外周は、保護部材15のZ2側の外周よりも小さくなっている。保護部材15は、磁歪素子16の伸縮により生じる接触部材11の振動を妨げないように、例えば、ゴムなどの弾性体で構成されている。さらに、保護部材15は、内側が中空の階段状に構成されている。そのため、保護部材15は、Z軸方向に容易に伸縮できる。接触部材11の振動に追随して保護部材15がZ軸方向に伸縮できるため、封口部14と接触部材11との間に間隙が生じにくいものとすることができる。
【0023】
磁歪素子16は、周囲の磁界により、Z軸方向に主に伸縮する素子である。磁歪素子16は、例えば、大きな磁気モーメントを有するテルビウムなどのランタノイド系元素および鉄元素等の金属化合物から構成されることが好ましい。そのような金属化合物は、磁界による伸縮量が大きく、かつ、磁界に対する応答速度が高速である。本実施の形態では、磁歪素子16は、Z軸方向に長い円柱形状であり、そのZ1方向末端は、接触部材11の自歪素子接続部11cと当接あるいは接着されている。
【0024】
コイル17は、中空のボビン(不図示)と巻線(不図示)とを有する。例えば、巻回軸に相当する部分が中空である樹脂製のボビンに、銅製の極細線を巻回してなる。巻線の両末端を引き出し、巻線の末端より電気信号を入力すると、その電気信号に対応してコイル17が磁界を発生させる。このコイル17から発せられる可変磁界が、磁歪素子16を貫くことで、その可変磁界の強さに対応して磁歪素子16が伸縮する。本実施の形態では、ボビンの中空部に、磁歪素子16が配置されている。すなわち、磁歪素子16の周りを周回するように巻線が巻回され、コイル17が構成されている。
【0025】
クリップ20は、弾性変形可能な金属や樹脂等の棒状部材を折り曲げて一体に形成したバネ状の部材である。なお、クリップ20を折り曲げ形成ではなく、成形により形成するようにしても良い。クリップ20は、接触部材11のZ1方向の面と略平行に接触するように形成されており、略U字形状を有する。クリップ20の一端側には、ケース体12の外周と略同一の外周を有する穴部21が設けられていて、その穴部21には、磁歪装置10のケース体12部分がはめ込まれ、接着されている。
【0026】
以上のように構成された音響発生装置1は、クリップ20と接触部材11によって被振動部材を挟み込むことで、音響発生装置1を被振動部材に容易に着脱できる。また、接触部材11は、被振動部材に倣うような曲面を有しているため、音響発生装置1を被振動部材に装着すると、接触部材11と被振動部材とが密着した状態となる。したがって、音響発生装置1を被振動部材に確実に固定できるので、接触部材11を介して被振動部材を振動させることができる、すなわち、被振動部材を振動面として音声を再生させることが可能となる。
【0027】
また、音響発生装置1では、接触部材11を被振動部材に接触させ、磁歪素子16の伸縮により生じる振動を、接触部材11を介して被振動部材に伝達させて音声を再生している。このため、音楽鑑賞等を行う場合にのみ音響発生装置1を被振動部材に装着すれば良く、様々な環境に応じて適宜使用することができる。
【0028】
また、磁歪素子を有する音響発生装置1は、自動二輪車に搭乗し走行した状態で、良好な音声を聴取することが可能となる。なぜなら、後述の実施例で説明するように、約1KHz以上10KHz以下付近の周波数帯域において、本発明にかかる音響発生装置1の音圧の方が、磁歪素子16以外の振動素子を用いる音響発生装置の音圧よりも大きくなるためである。
【0029】
次に、音響システム100について説明する。
【0030】
図4は、音響発生装置1,1がヘルメット60に装着された音響システム100を示す斜視図である。
【0031】
ヘルメット50は、顔の前面を覆うバイザー51を有する一般的なものである。バイザー51は、例えば、ポリカーボネイト等の透明な樹脂からなる。バイザー51は、その表面が対向する音響発生装置1の接触部材11の面と略同一の曲面形状を有する凸面を備えているので、接触部材11の面の少なくとも一部と接触するように形成されている。そして、顔の正中線から対称となるようにバイザー51の左右にそれぞれ一つずつの音響発生装置1,1が装着されている。具体的には、クリップ20の一端と、クリップ20の他端に設けられた音響発生装置1の接触部材11との間にバイザー51が挟み込まれて固定されている。これによって、バイザー51が接触部材11に接触した状態となる。このため、コード52を介して音楽信号・音声信号が入力されたコイル17が磁界を発し、その磁界に応じて磁歪素子16が伸縮振動することにより、その振動が接触部材11を介してバイザー51に伝達され音声が再生される。
【0032】
このように音響発生装置1をヘルメット50のバイザー51に装着した場合には、従来のようにイヤホンを使用して耳に直接音源を入れる必要がないので、ヘルメット50の脱着時に耳を痛めることがなくなる。また、接触部材11がバイザー51と接離可能とされているので、ヘルメット50を直接改造する必要もなく、従来からあるヘルメット50を使用することができる。さらに、音楽鑑賞等をしない状況でヘルメット50を装着する場合は、音響発生装置1をヘルメット50に装着する必要がないため、コード52などの邪魔になるものがヘルメット50に付属しなくなる。このため、ヘルメット50の取り扱いが容易となる。また、バイザー51が振動することによって音が再生するため、自動二輪車の搭乗者は十分な音量を確保でき、周囲への音漏れを極めて少なくすることができる。
【0033】
(第2の実施の形態)
次に、第2の実施の形態に係る、音響システム200を説明する。なお、第2の実施の形態に係る音響システム200において、第1の実施の形態と共通する部分については、同一の符号を付すと共に、その説明を省略または簡略化する。
【0034】
図5は、音響発生装置1,1および音響発生装置90がヘルメット50に装着された状態を示す斜視図である。
【0035】
第2の実施の形態に係る音響システム200では、第1の実施の形態の音響システム100と同様に、音響発生装置1,1をヘルメット50のバイザー51に取り付ける。また、音響発生装置1とは別に、音響発生装置90が、ヘルメット50の後頭部に配置されている。さらに、音響発生装置1,1および音響発生装置90から延出するコード52が、接続部53に接続されている。
【0036】
音響発生装置90は、いわゆる、ムービングコイル型の音響発生装置である。図6は、図5のT−T線を含む音響発生装置90とヘルメット50との貼り付け面に垂直な面で、音響発生装置90を切断した場合の断面図である。また図7は、図6の断面を含む音響発生装置90の切断斜視図である。
【0037】
図5に示すように、音響発生装置90は、略円盤状のものであり、磁気回路61およびボイスコイル62等が収納されるケース63を有している。また、磁気回路61は、永久磁石71、内プレート72、外プレート73により主に構成されている。ケース63は、有底円筒状のケース本体64およびこのケース本体64の開口部を塞ぐベース板65にて主に構成されている。
【0038】
ケース本体64の内周側底部には、円盤状の設置部64aが突出形成されている。設置部64aには、円盤状の永久磁石71が載置されている。永久磁石71には、円盤状の内プレート72が配置されている。また、ケース本体64の内周側側面には、リング状の外プレート73が配置されている。内プレート72と外プレート73とは、リングの外周方向に、磁気隙間Sを隔てて固定されている。また、磁気隙間Sには、筒状のボイスコイル62が、配置されている。
【0039】
ボイスコイル62の外周部には、2つのリング状のダンパー74,75が、ボイスコイル62の軸方向に離間して取り付けられている。ダンパー74,75の外周部は、ケース本体64の内面に固定されている。これにより、ボイスコイル62は、磁気隙間S内の所定位置からずれることなく保持されている。なお、ダンパー74,75には、周方向および径方向に所定間隔でスリットが形成されている。また、ボイスコイル62の一端部(図6および図7において上端部)は、ベース板65の下面に突設された円板状の凸部65dに外側から嵌め込まれ、これによって、ボイスコイル62はベース板65に接続されている。
【0040】
ケース本体64の開口内周部と、ベース板65の外周部との間には、弾性部材で形成されたリング状のパッキン76が設けられている。このパッキン76によってケース本体64内への塵埃等の侵入を防止している。
【0041】
ボイスコイル62に音響信号を入力するコード25は、ケース本体62の上端部に形成された溝77からケース本体64内に挿入され、ボイスコイル62の巻き線に接続されるようになっている。また、図5に示すように、コード52はアンプやプレイヤーからのコード25に接続するためのジョイントに接続されている。なお、ボイスコイル62の巻き線は、2層、1回路としているが、L/R信号を混合して音楽再生する場合は、巻き線を4層、2回路とすればよい。
【0042】
ベース板65のヘルメット50に対向する面は、凹曲面とされている。曲面は取付対象物であるヘルメット50の外周曲面(凸曲面)に倣う形状に形成されている。例えば、ベース板65のヘルメット50に対向する面は、ヘルメットの外周曲面が球面の一部である場合、その球面とほぼ同一の曲率を有する凹曲面に形成されている。ここで、ベース板65やヘルメット50は、金属や硬質樹脂等の硬い素材で形成されているため、ベース板65のヘルメット50に対向する面とヘルメット50の外周曲面とを完全に密着させることは難しい。そこで、ベース板65のヘルメット50に対向する面をヘルメット50の外周曲面に密着されるための膜材78が設けられている。この膜材78としては、例えば、柔軟性を有する両面接着テープが好適に使用される。そして、膜材を介在させることで、ベース板65の凹曲面がヘルメット50の外周曲面に密着固定される。
【0043】
上記のような構成の音響発生装置90をヘルメット50に装着する場合、膜材78によって、ベース板65の凹曲面をヘルメット50の外周曲面に密着固定することで十分な固定強度が得られ、十分な音楽特性を得られる。
【0044】
また、音響発生装置90は、野外使用、天候などを考慮し、より信頼性を高めるために、固定部材77により、ヘルメット50の壁面に固定されても良い。固定部材77は、第1の音響発生装置1の固定部材20と同様に、弾性変形可能な金属や樹脂等の棒状部材を折り曲げて一体に形成した、いわゆるクリップ状の部材である。したがって、音響発生装置90を、ヘルメット50へ容易に脱着できる。また、音響発生装置90から延出するコード52は、接続部53に接続される。
【0045】
以上のように構成された音響システム200は、より幅広い周波数領域の音声を保ちつつ、走行時に音声を聞きやすいものとなる。なぜなら、マグネット62及びプレート64が振動すると、ケース70全体が振動して被振動部材が共振、すなわちヘルメット50に振動が伝達することで、ヘルメット50が共振する。そして、音響発生装置90は、ヘルメット50を振動板として利用することで、低音(例えば、1KHz以下の音域の音声)をヘルメット50の後頭部分より発する。また、音響発生装置1,1は、バイザー51側から高音(例えば、1KHz以上の音域の音声)を発する。
【0046】
また、音響発生装置1,1を、ヘルメット50のバイザー51部分に取り付けることで、高音を発しやすいものとなる。なぜなら、バイザー51は、ヘルメット50よりも薄いために、微細な振動を伝播しやすいためである。一方、音響発生装置90を、ヘルメット50の本体側に取り付けることで、低音を発する被振動部材と、高音を発するための被振動部材とが別部材になるため、立体感のある高音質な音声が再現できる。
【実施例1】
【0047】
(実施例1)
図8は、本発明の一実施の形態に係る音響発生装置1、すなわち、振動素子として磁歪素子16を用いた音響発生装置1(実施装置A)と、振動素子として圧電素子を用いた音響発生装置(比較装置B)の周波数特性を示す図である。音圧は、ヘルメット50に実施装置Aおよび比較装置Bをそれぞれ取り付けて、ダミーヘッドで無響室にて測定した。
【0048】
図8に示すように、4Hz以下の領域では、実施装置Aの音圧は、比較装置Bの音圧と比較して大差がない。しかし、約4Hz以上10KHz以下付近の周波数帯域(図8の「C」で示した周波数帯域)に着目すると、実施装置Aの音圧の方が、比較装置Bの音圧よりも大きくなった。すなわち、3〜4KHz以上では、比較装置Bの音圧が顕著に下がり始め、高域においては明らかに実施装置Aの方が音質に優れていることが分かった。また、実際に自動二輪車で走行しながら両装置の音声を試聴した結果、実施装置の方が、比較装置Bに比べて音質に優れていた。
【0049】
以上の実験結果から、圧電素子を振動素子として用いた音響発生装置よりも、磁歪素子16を振動素子として用いた音響発生装置1を用いることで、約1KHz以上10KHz以下付近の音声出力を向上させることができ、その結果、自動二輪車で走行しながら試聴した場合に良好な音声を聴取できることがわかった。
【0050】
(実施例2)
図9は、本発明の第2実施の形態に係る音響システム200を構成する音響発生装置1(実施装置A)および音響発生装置90(音響装置M)の周波数特性を示す図である。音圧は、実施例1と同様の方法で測定した。
【0051】
図9に示すように、5KHz以下の低域では、音響装置Mが担当し、音響装置Mでは音圧が急に落ちる5KHz以上の周波数領域では、実施装置Aが高い音圧を保っていることが分かる。したがって、実施装置Aと音響装置Mこれらを組み合わせたシステムにおいては全体として良好な音圧が得られることになる。実際に自動二輪車で走行しながら音声を試聴した結果、高速で走行した場合にも音声が聞き取れる他、低速あるいは停車した場合に聴取できる音の質感が向上した。
【0052】
以上の実験結果から、ムービングマグネット式の音響発生装置90と磁歪装置10を用いる音響発生装置1とを両方設けることで、高速走行中にも低速走行中にも視聴者が音声を聞くことができる他、低速走行中には、聞こえる音声の音質を向上することができることがわかった。
【0053】
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本発明は上述の形態に限定されることなく、種々変形した形態にて実施可能である。
【0054】
例えば、上述の実施の形態では、被振動部材に音響発生装置1および音響発生装置90を取り付ける手段として固定用部品であるクリップ20あるいは固定用部品77を採用したが、固定用部品はクリップ20および固定用部品77に限定されるものではない。例えば、吸盤、マグネットまたはネジ止め固定等の他の手段を採用しても良い。
【0055】
また、上述の実施の形態では、磁歪装置10は、保護部材15を備えているが、保護部材15は、必須ではない。しかし、保護部材15があることで、防水あるいは防塵に優れた音響発生装置1とすることができる。
【0056】
また、上述の実施の形態では、磁歪装置10のケース体12は、円筒形の外観を有しているが、このような形態に限らない。音響発生装置1を、音響発生装置1において生じる空気の抵抗を減らすことのできる形状、例えば、流線型状等にしてもよい。
【0057】
また、第2の実施の形態において、接続部53を設けているが、接続部53は、必須ではない。しかし、接続部53を設けることで、音響発生装置1あるいは音響発生装置90をヘルメット50等に装着した状態で、ヘルメット50を着脱する際に、複数のコード52を挿抜する必要がないため好ましい。また、接続部53は、音声信号を増幅するアンプあるいは、音域毎に音声信号を分別する分配器として機能するようなものとしてもよい。
【0058】
また、上述の実施の形態では、音響発生装置1が有するクリップ20は、バイザーに磁歪装置10をバイザー51固定するために用いられるものとしたが、クリップ20に他の用途があってもよい。例えば、クリップ20は、バイザー51に付着した水滴あるいは汚れを除去する機能を有していても良い。
【0059】
また、上述の実施の形態では、音響システム100あるいは音響システム200において、2個の音響発生装置1をバイザー51に取り付けているが、このような形態に限らない。1個の音響発生装置1を取り付けても良いし、3個以上の音響発生装置1をバイザー51に取り付けても良い。
【0060】
また、上述の実施の形態では、音響発生装置1はヘルメット50に装着する場合を例として示しているが、音響発生装置1はヘルメット50以外にも、例えば、自動二輪車のカウルや室内に設置された板材等の他の部材に装着するようにしても良い。また、自動二輪車以外の移動体に設けても良い。また、自動二輪車用のヘルメット50以外のヘルメット50に用いられてもよい。例えば、騒音の大きい工事現場等にて装着するためのヘルメットに用いられてもよい。また、バイザー51を有していないヘルメットに音響発生装置1を設けるようにしてもよい。
【0061】
また、第2の実施の形態では、音響発生装置1,1は、バイザー51に固定され、音響発生装置90は、ヘルメット50のバイザー51ではない部分に固定されているが、このような形態に限らない。例えば、バイザー51に音響発生装置1,1およびバイザー51を設けても良いし、バイザー51以外の部分にそれらが固定されるようにしてもよい。また、音響発生装置1および音響発生装置90以外の音響発生装置を備えるような音響システムとしてもよい。例えば、圧電素子を用いる音響発生装置を、中音域の音声を発するミッドレンジとして用いてもよい。また、音響発生装置1は、高音域のみでなく中音域あるいは低音域の音声を発しても良いし、同様に、音響発生装置90が低音域以外の音声を発してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の音響発生装置は、各種音響機器あるいは自動二輪車を製造する産業等において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る音響発生装置の斜視図である。
【図2】図1の磁歪装置の外観を示す斜視図である。
【図3】図1のW−W線を含むXZ平面で磁歪装置を切断した場合の断面図である。
【図4】図1に示す音響発生装置を用いる音響システムの外観を示す斜視図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る音響システムの外観を示す斜視図である。
【図6】第2の音響発生装置を図5のT−T線を含む面で切断した場合の、断面図である。
【図7】図6の断面で音響発生装置を切断した状態の斜視図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係る音響発生装置と、従来の音響発生装置の周波数特性を示す図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係る音響システムを構成する2種類の音響発生装置の周波数特性を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1…音響発生装置(音響発生装置、第1の音響発生装置)、11…接触部材(接触部材)、12…ケース体、16…磁歪素子(振動素子)、17…コイル(コイル、第1のコイル)、20…クリップ(固定用部品)、34a…張付面、35…板材(被振動部材)、50…ヘルメット(被振動部材)、51…バイザー(被振動部材)、62…マグネット(磁性素子)、67…ボイスコイル(第2のコイル)90…音響発生装置(第2の音響発生装置)、100,200…音響システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される電流に応じて磁界を発生させるコイルと、
上記コイルからの磁界に応じて伸縮する磁歪素子と、
上記磁歪素子および上記コイルが収容されるケース体と、
上記磁歪素子と当接すると共に、上記ケース体から突出する接触部材と、
上記ケース体を被振動部材に固定させるための固定用部品と、を有し、
上記固定用部品は、上記磁歪素子が上記接触部材を介して上記被振動部材に当接するよう固定されることを特徴とする音響発生装置。
【請求項2】
前記接触部材は、前記被振動部材との接触部分に倣う形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の音響発生装置。
【請求項3】
前記ケース体と前記接触部材との間隙は、異物の進入を防ぐ保護部材で覆われていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の音響発生装置。
【請求項4】
入力される電流に応じて磁界を生じる第1のコイルと、
上記第1のコイルからの磁界に応じて伸縮する磁歪素子と、
上記磁歪素子および上記第1のコイルが収容されるケース体と、
上記磁歪素子と当接すると共に、上記ケース体から突出する接触部材と、
上記ケース体を被振動部材に固定させると共に、上記磁歪素子が上記接触部材を介して上記被振動部材に当接するよう固定される固定用部品と、
を備える第1の音響発生装置に加えて、
着磁した磁性素子と、
上記磁性素子の周囲から間隙を設けて周回する第2のコイルと、
を備える第2の音響発生装置を有し、
上記第2の音響発生装置は、上記第2のコイルにより生じた磁界に応じて、上記磁性素子が移動することにより、上記被振動部材に振動を伝達することを特徴とする音響システム。
【請求項5】
前記被振動部材は、ヘルメットの一部であることを特徴とする請求項4に記載の音響システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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