説明

音響発生装置

【課題】低ノイズ自動車の快適さを損なわずに、自動車が走行していることを歩行者に感知させやすくする。
【解決手段】搭載された自動車から取得した車速情報に基づいて音量を設定する音量設定部と、車速情報に基づいて和音を設定する和音設定部と、設定された和音を、設定された音量で再生する再生部とを備え、和音設定部は、車速に応じて和音の構成音の音程関係が変化するように設定する音響発生装置。和音設定部は、所定の車速範囲内において、車速が速くなるにつれて、和声音から構成される和音からテンション・ノートを含む和音に変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響発生装置に係り、特に、車載され自動車が走行していることを歩行者に感知させる音響発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車、電気自動車等のモータ走行自動車は、従来のエンジン自動車と比較して走行音が非常に小さく、特に低速走行中にはほとんど音がしないため、歩行者が自動車の接近に気が付かないという問題が指摘されている。
【0003】
例えば、速度25kmの中速度で背後から接近してくる場合には、タイヤノイズ、風切り音が大きくなるため、モータ走行自動車であっても、従来のエンジン自動車と同様に、歩行者が容易に気付くことができるが、時速10km以下の低速度で背後から接近してくる場合には、従来のエンジン自動車ではほとんどの人が気付いたのに対して、モータ走行自動車では誰も気付かなかったことが、独立行政法人交通安全研究所が行なった実験で示されている。
【0004】
このため、モータ走行自動車に、自動車が走行していることを想起させる音、例えば、録音や合成されたエンジン音等を発音する音響発生装置を搭載し、低速走行時に発音させることにより、歩行者に自動車の接近を感知させることが従来から提案されている。
【0005】
一般に、歩行者は、自動車の走行音により、自動車が接近してくることのみならず、その自動車のおおよその速さを経験的に判断している。そこで、音響を発して歩行者に気付かせる場合に、エンジン自動車と類似した音響傾向となるように、車速が速くなるにしたがって音量を大きくするとともに音質を変化させることも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−136831号公報
【特許文献2】特開平7−322403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
低速走行時のモータ走行自動車に擬似エンジン音等を付加することは、歩行者の安全確保の観点から必要であると考えられる。一方で、ハイブリッド自動車、電気自動車等のモータ走行自動車は、走行音が静かで快適であることが特徴の1つとしてあげられることから、低ノイズのモータ走行自動車に人為的に擬似エンジン音等を発音させることは本末転倒であり、低ノイズの自動車の快適さが損なわれるという考え方もある。
【0008】
このため、擬似エンジン音に代えて、調和して鳴り響く協和音等の不快感の少ない音響を発音させることも考えられるが、単に不快感の少ない音響は、歩行者の注意を喚起しにくいという問題が生じる。
【0009】
そこで、本発明は、低ノイズ自動車の快適さを損なわずに、自動車が走行していることを歩行者に感知させやすい音響発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の音響発生装置は、搭載された自動車から取得した車速情報に基づいて音量を設定する音量設定部と、前記車速情報に基づいて和音を設定する和音設定部と、設定された和音を、設定された音量で再生する再生部とを備え、前記和音設定部は、車速に応じて和音の構成音の音程関係が変化するように設定することを特徴とする。
【0011】
ここで、前記和音設定部は、所定の車速範囲内において、車速が速くなるにつれて、和声音から構成される和音からテンション・ノートを含む和音に変化させることができる。
【0012】
具体的には、前記和声音から構成される和音は、長三和音とし、前記テンション・ノートを含む和音は、根音に対して短3度と減5度の音を加えた和音とすることができる。
【0013】
また、前記音量設定部は、所定の車速範囲内において、車速が速くなるにつれて、音量が小さくなるように設定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低ノイズ自動車の快適さを損なわずに、自動車が走行していることを歩行者に感知させやすい音響発生装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る音響発生装置の構成を示すブロック図である。
【図2】音響発生装置の使用態様を模式的に示す図である。
【図3】音響発生装置の動作を説明するフローチャートである。
【図4】ガソリンエンジン自動車およびモータ走行自動車の車速と騒音レベルとの関係を示すグラフである。
【図5】車速に応じた音量設定の例を示す図である。
【図6】車速に応じた和音設定の第1例について説明する特性図である。
【図7】車速に応じた和音設定の第1例について説明する譜面である。
【図8】車速に応じた和音設定の第2例について説明する特性図である。
【図9】車速に応じた和音設定の第2例について説明する譜面である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る音響発生装置の構成を示すブロック図である。本図に示すように音響発生装置100は、制御部110、音源格納部120、増幅部130、スピーカ140を備えている。音響発生装置100は、低ノイズの自動車、特に、ハイブリッド自動車、電気自動車等のモータ走行自動車に載置されて用いられる。
【0017】
音源格納部120は、異なる音程の複数の音から構成される和音を再生するための音源データを格納する記憶領域である。音源データは、FM音源、PCM音源等種々の形式を用いることができる。本実施形態では、第1和音音源、第2和音音源…第n和音音源等のように異なる複数種の和音毎に音源データが格納されているものとする。ただし、単音の音源データを格納しておき、異なる音程の複数の単音を同時に再生することにより和音を生成するようにしてもよい。この場合、単音の波形を操作することにより、任意の音程の音を生成することができる。
【0018】
制御部110は、CPU、RAM、ROM、DSP(Digital Signal Processor)等により構成され、載置された自動車から車速情報を取得し、車速に応じた和音を車速に応じた音量で再生し、増幅部130に出力する。この処理を行なうため、制御部110は、音量設定部111、和音設定部112、再生部113を備えている。
【0019】
音量設定部111は、取得した車速情報に応じて、音源格納部120に格納された音源に基づく再生の音量を設定する。和音設定部112は、取得した車速情報に応じて、再生する和音の種類を設定する。具体的には、所定の車速範囲内において、車速が速くなるにつれて、和声音から構成された心地良い和音から、テンション・ノートを含んだ不快感を与えずに緊張感を与える和音に変化させる。ここで、テンション・ノートは、非和声音であるが、同時に鳴らすことで和音の響きに緊張感を与える機能を有する音である。再生部113は、和音設定部112が設定した和音に対応する音源データを音源格納部120から読み出して、音量設定部111で設定された音量で再生し、音声信号として増幅部130に出力する。
【0020】
増幅部130は、制御部110から出力された音声信号を増幅し、スピーカ140に出力する。なお、増幅部130、スピーカ140は、音響発生装置100の外部に備えるようにしてもよい。
【0021】
図2は、音響発生装置100の使用態様を模式的に示す図である。本図に示すように、音響発生装置100は、自動車300に載置され、制御部110と音源格納部120とは、例えば、運転席付近に配置され、増幅部130とスピーカ140とは、例えば、前面付近に配置される。スピーカ140を自動車300の前面付近に配置することで、スピーカ140から発音される音響が歩行者に認識されやすくなる。
【0022】
次に、上記構成の音響発生装置100の動作について図3のフローチャートを参照して説明する。本図に示すように、音響発生装置100は、動作を開始すると、載置されている自動車300から車速情報を取得する(S101)。そして、取得した車速が所定速度以下でなければ(S102:No)、音響の発音は行なわずに、速度情報の取得処理(S101)に戻る。
【0023】
ここで、所定の速度は、例えば、時速20kmとすることができる。これは、図4に示した、ガソリンエンジン自動車およびモータ走行自動車の車速と騒音レベルとの関係を示すグラフから分かるように、車速が時速20kmを超えると、タイヤノイズ、風切り音が大きくなるため、ガソリンエンジン車とモータ走行自動車の騒音レベルがほとんど変わらなくなり、音響を発音する必要がなくなるためである。ただし、車速にかかわらず、音響を発音するようにしてもよい。
【0024】
取得した車速が所定速度以下であれば(S102:Yes)、音量設定部111が、取得した車速に応じた音量の設定を行なう(S103)。ここで、車速に応じた音量は、例えば、図5(a)に示すように、車速が速くなるにつれて音量レベルが大きくなるように設定することができる。これは、車速が速くなるにつれて騒音レベルが大きくなっていくエンジン自動車の傾向を模した設定である。
【0025】
あるいは、図5(b)に示すように、車速が速くなるにつれて音量レベルが小さくなるように設定してもよい。この場合、図4に示したモータ走行自動車の騒音レベルに、発音する音響の音圧レベルを加えた音圧レベルが、ガソリンエンジン自動車の騒音レベルと同程度となるような特性とすることができる。
【0026】
次に、和音設定部112が、取得した車速に応じた和音の設定を行なう(S104)。ここで、車速に応じた和音設定の第1例について説明する。図6は、車速に応じた和音設定の第1例を示す特性図である。本例では、3つの音からなる和音を発音し、最低速度では、例えば、262Hz、330Hz、392Hzの音からなる和音とする。
【0027】
ここで、3つの音の周波数は、最低音に対して、1.260倍、1.496倍となっており、最低音に対して、長3度、完全5度の関係となっている。この関係であれば、262Hz、330Hz、392Hzの組合せに限られない。また、例えば、262Hzの音は、基本周波数が262Hzの音、すなわち、262Hzの音程と認識できれば足り、任意の周波数成分を含めた音色で構成することができる。
【0028】
そして、図6(a)に示すように、車速が速くなるにつれて、最低音は周波数を変化させず、中音と最高音は周波数が低くなっていくように変化させる。ただし、図6(b)に示すように、例えば、時速0〜5kmの間は、周波数を変化させず、その後、車速に応じて変化させるようにしてもよい。また、周波数の変化は連続的であっても非連続的であってもよい。
【0029】
この変化の特性は、音響を発音する基準となる所定速度、すなわち、時速20kmで、3つの音が262Hz、311Hz、370Hzの音からなる和音となるように定められている。この3つの音の周波数は、最低音に対して、1.187倍、1.142倍となっており、最低音に対して、短3度、減5度の関係となっている。
【0030】
すなわち、第1例では、最低速度から所定速度までの間に、図7の譜面に示すような関係の和音に変化する。ここで、最低速度のときの和音は、ドミソの長三和音であり、安定した響きの心地良い和音である。
【0031】
一方、所定速度のときの和音は、最低音と中音とが短3度の関係にあり、さらに、最高音が減5度であり、緊張感を高める、いわゆるテンション・ノートとなっている。このため、不快感を与えることなく緊張感を与える和音となる。ただし、いずれの和音も、図7に示した音構成に限られず、転回したり、同音を重ねたりしてもよい。
【0032】
このように、第1例では、車速が速くなるにつれて非和声音のテンション・ノートを含んだ緊張感が高まっていく和音に変化し、車速が遅くなるにつれて安定感が高まっていく和音に変化するように設定される。したがって、低ノイズ自動車の快適さを損なわずに、自動車が走行していることを歩行者に感知させやすくすることができる。
【0033】
次に、車速に応じた和音設定の第2例について説明する。図8は、車速に応じた和音設定の第2例を示す特性図である。本例では、4つの音からなる和音を発音し、最低速度では、例えば、311Hz、392Hz、622Hz、784Hzの音からなる和音とする。以下では、低い方から最低音、中低音、中高音、最高音と称す。
【0034】
ここで、4つの音の周波数は、最低音に対して、1.260倍、2倍、2.521倍となっており、最低音に対して中低音が長3度、中高音が1オクターブ上、中低音に対して最高音が1オクターブ上の関係となっている。この関係であれば、311Hz、392Hz、622Hz、784Hzの組合せに限られない。また、例えば、311Hzの音は、基本周波数が311Hzの音、すなわち、311Hzの音程と認識できれば足り、任意の周波数成分を含めた音色で構成することができる。
【0035】
そして、図8(a)に示すように、車速が速くなるにつれて、中高音は変化させずに、最低音と中低音は同じ割合で周波数が高くなり、最高音は最低音と中低音よりも低い割合で周波数が高くなっていくように変化させる。ここで、図中の最高音と中高音付近の破線は、参考のため、最低音および中低音と同じ割合で高くなった場合の周波数を示している。
【0036】
この変化は、車速を最低速度から所定速度まで上昇させたとき、基本となる最低音と中低音とを全音分の1.122倍に高めながら、最高音を、その半音下となる1.122/1.059倍に高めるようにし、中高音は変化させないようにしている。この場合、速度vのときの最低音、中低音、中高音、最高音の周波数F1(v)、F2(v)、F3(v)、F4(v)は、以下の式により求めることができる。
【数1】

ここで、f1、f2、f3、f4は、最低速度0kmのときの最低音、中低音、中高音、最高音の周波数である。ただし、図8(b)に示すように、例えば、時速0〜5kmの間は、周波数を変化させず、その後、車速に応じて変化させるようにしてもよい。また、周波数の変化は連続的であっても非連続的であってもよい。
【0037】
この変化の特性は、音響を発音する基準となる所定速度、すなわち、時速20kmで、4つの音が349Hz、440Hz、622Hz、830Hzの音からなる和音となるように定められている。この3つの音の周波数は、最低音に対して、1.260倍、1.782倍、2.378倍となっており、最低音に対して、長3度、短7度、増9度の関係となっている。
【0038】
すなわち、第2例では、最低速度から所定速度までの間に、図9の譜面に示すような関係の和音に変化する。なお、最低音の311Hzの音は、実際はミ♭の音であるが、ここでは便宜的にハ長調の譜面で示している。
【0039】
第2実施例では、最低速度のときの和音はドミの長3度がオクターブ重なった和音であり、安定した響きの心地良い和音である。
【0040】
一方、所定速度のときの和音は、最低音と中低音とは長3度を保ったまま、全音分上昇しているのに対し、中高音は変化しないため、最低音との関係が完全8度から短7度に変化する。また、最高音は半音だけしか上昇せずに、最低音と関係が増9度に変化する。この音は非和声音であり、テンション・ノートとなる。この結果、この和音も、不快感を与えることなく緊張感を与える和音となる。
【0041】
このように、第2例でも、車速が速くなるにつれて緊張感が高まっていく和音に変化し、車速が遅くなるにつれて安定感が高まっていく和音に変化するように設定される。したがって、低ノイズ自動車の快適さを損なわずに、自動車が走行していることを歩行者に感知させやすくすることができる。
【0042】
図3のフローチャートの説明に戻って、処理(S104)で、和音が設定されると、再生部113は、設定された和音に対応する音源データを音源格納部120から読み出して、処理(S103)で設定された音量で再生し、音声信号として増幅部130に出力する(S105)。この場合、例えば、時速0kmから時速20kmまで、時速1km毎に対応する和音の音源データを用意しておくことができる。あるいは、DSP等を用いた音源データの波形操作により、設定された和音の構成音を生成し、それらを同時に再生するようにしてもよい。この場合は、音源格納部120に1種類のPCM音源等を格納しておけば足りる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態によれば、車速の上昇に伴い、音響の音量を変化させるのに加え、和音を構成する音の組合せを変化させるため、具体的には、和声音から構成された安定感のある和音から、テンション・ノートを含む緊張感をもった和音に変化させるため、不快感や騒音感を与えずに歩行者に自動車接近の注意を促すことができるようになる。
【符号の説明】
【0044】
100…音響発生装置
110…制御部
111…音量設定部
112…和音設定部
113…再生部
120…音源格納部
130…増幅部
140…スピーカ
300…自動車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搭載された自動車から取得した車速情報に基づいて音量を設定する音量設定部と、
前記車速情報に基づいて和音を設定する和音設定部と、
設定された和音を、設定された音量で再生する再生部とを備え、
前記和音設定部は、車速に応じて和音の構成音の音程関係が変化するように設定することを特徴とする音響発生装置。
【請求項2】
前記和音設定部は、所定の車速範囲内において、車速が速くなるにつれて、和声音から構成される和音からテンション・ノートを含む和音に変化させることを特徴とする請求項1に記載の音響発生装置。
【請求項3】
前記和声音から構成される和音は、長三和音であり、前記テンション・ノートを含む和音は、根音に対して短3度と減5度の音を加えた和音であることを特徴とする請求項1または2に記載の音響発生装置。
【請求項4】
前記音量設定部は、所定の車速範囲内において、車速が速くなるにつれて、音量が小さくなるように設定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の音響発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−111343(P2012−111343A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261630(P2010−261630)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(308036402)株式会社JVCケンウッド (1,152)
【Fターム(参考)】