説明

音響素子

【課題】優れた耐熱性を有する新規な音響素子を提供する。
【解決手段】音響素子1は、振動膜11と、圧電層12と、一対の電極13a、13bとを備える。圧電層12は、振動膜11の上に配されている。一対の電極13a、13bは、圧電層12を挟持している。圧電層12は窒化アルミニウム及び窒化スカンジウム・アルミニウムの少なくとも一方を含む。圧電層12の一方側を覆うケーシングをさらに備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクやスピーカーなどの音響素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機やノート型パソコンなどのモバイル機器に搭載可能な小型の音響素子が種々提案されている。例えば、例えば特許文献1では、その一例として、エレクトレットコンデンサマイクロフォンが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−50393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エレクトレットコンデンサマイクロフォンのエレクトレットに蓄積された電荷は、加熱によりエレクトレットから発散してしまう。このため、例えば、リフロー実装などのマイクロフォンが高温になる工程を行うと、電荷が逃げてしまい、マイクロフォンの感度が低下してしまう。従って、エレクトレットコンデンサマイクロフォンは、リフロー実装に耐え得るだけの十分に優れた耐熱性を有していないため、リフロー実装などの熱処理工程を利用することができないという問題を有する。
【0005】
一方、Micro Electro Mechanical Systems(MEMS)マイクは、耐熱性に優れるため、リフロー実装可能である。しかしながら、MEMSマイクでは、振動板に高電圧を常に印加しなければならない。このため、MEMSマイクは、消費電力が大きい。さらに、振動板に高電圧を印加するために、昇圧回路を設ける必要がある場合があり、その場合には、大型化及び高コスト化するという問題がある。また、昇圧回路から発生するノイズが音響特性に影響を与えてしまうという問題もある。
【0006】
本発明は、優れた耐熱性を有する新規な音響素子を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る音響素子は、振動膜と、圧電層と、一対の電極とを備える。圧電層は、振動膜の上に配されている。一対の電極は、圧電層を挟持している。
【0008】
本発明に係る音響素子のある特定の局面では、音響素子は、圧電層を複数備える。
【0009】
本発明に係る音響素子の他の特定の局面では、圧電層が、窒化アルミニウム及び窒化スカンジウム・アルミニウムの少なくとも一方を含む。
【0010】
本発明に係る音響素子の別の特定の局面では、音響素子は、圧電層の一方側を覆うケーシングをさらに備える。ケーシングには、圧電層及び電極の積層方向から視た際に圧電層とは異なる位置に配された開口が形成されている。
【0011】
本発明に係る音響素子のさらに他の特定の局面では、ケーシングは、赤外光を遮蔽する。
【0012】
本発明に係る音響素子のさらに別の特定の局面では、圧電層が窒化スカンジウム・アルミニウムを含む。音響素子は、振動膜及び圧電層の積層体を複数有する。複数の積層体には、圧電層の振動膜に対する方向が反対である積層体が含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた耐熱性を有する新規な音響素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施形態に係る音響素子の略図的断面図である。
【図2】第2の実施形態に係る音響素子の略図的断面図である。
【図3】第3の実施形態に係る音響素子の略図的断面図である。
【図4】スパッタ装置に投入するパワーと形成される窒化スカンジウム・アルミニウム膜(Scの含有量:37at%)の膜応力との関係を表すグラフである。
【図5】第4の実施形態に係る音響素子の略図的断面図である。
【図6】第5の実施形態に係る音響素子の略図的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0016】
また、実施形態等において参照する各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照することとする。また、実施形態等において参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された物体の寸法の比率などは、現実の物体の寸法の比率などとは異なる場合がある。図面相互間においても、物体の寸法比率等が異なる場合がある。具体的な物体の寸法比率等は、以下の説明を参酌して判断されるべきである。
【0017】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る音響素子1の略図的断面図である。音響素子1は、例えば、マイクやスピーカーとして使用される素子である。
【0018】
音響素子1は、圧電素子10を備えている。圧電素子10は、振動膜11を備えている。振動膜11は、例えば、ポリイミド樹脂やポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂などの樹脂等の弾性を有する材料により構成することができる。振動膜11に高い耐熱性を付与する観点からは、振動膜11をポリイミド樹脂等の耐熱性の高い樹脂材料により構成することが好ましい。
【0019】
振動膜11の厚みは、例えば、1μm〜100μm程度とすることができる。
【0020】
振動膜11の上には、圧電層12が配されている。圧電層12を構成している圧電材料の種類は特に限定されない。圧電層12は、例えば、窒化アルミニウム、窒化スカンジウム・アルミニウム、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、酸化亜鉛、ニオブ酸カリウムナトリウム、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、ポリ乳酸等の少なくとも一種により構成することができる。なかでも、圧電層12は、鉛を実質的に含まない窒化アルミニウム及び窒化スカンジウム・アルミニウムの少なくとも一方からなることが好ましい。また、窒化アルミニウムや窒化スカンジウム・アルミニウムは、優れた耐熱性と、優れた耐湿性とを兼ね備えている。従って、窒化アルミニウム及び窒化スカンジウム・アルミニウムの少なくとも一方により圧電層12を構成することにより、音響素子1の耐熱性や耐湿性を改善することができる。
【0021】
圧電層12の厚みは、例えば、0.1μm〜10μm程度とすることができる。
【0022】
圧電層12は、第1の電極13aと第2の電極13bとにより挟持されている。第1及び第2の電極13a、13bのそれぞれは、例えば、金、白金、タングステン、アルミニウム、銅、モリブデン、ルテニウム、チタン、クロム、ニッケルなどの少なくとも一種の金属およびそれらの合金などにより構成することができる。
【0023】
第1及び第2の電極13a、13bの厚みは、それぞれ、例えば、0.05μm〜1μm程度とすることができる。
【0024】
なお、本実施形態では、圧電層12と振動膜11との積層体が第1及び第2の電極13a、13bにより挟持されている。但し、本発明は、この構成に限定されない。例えば、圧電層12のみが第1及び第2の電極13a、13bにより挟持されており、振動膜11は、第1及び第2の電極13a、13bにより挟持されていなくてもよい。例えば、振動膜11は、第1または第2の電極13a、13bの圧電層12とは反対側の主面の上に配されていてもよい。さらに振動膜11を金属箔により構成し、第1の電極13aを省略してもよい。アルミニウム箔により振動膜11を構成することにより、圧電素子の製造コストを低減することができる。
【0025】
圧電素子10は、基板22の上に設けられた支持部材21と、基板22に対して固定されたケーシング23の上に設けられた支持部材24とにより挟持されている。圧電素子10は、支持部材21,24により基板22及びケーシング23から離間して支持されている。
【0026】
本実施形態では、支持部材21,24とケーシング23とが、金属などの導電材料により構成されており、支持部材21,24及びケーシング23を介して、基板22の上に配された制御部材25に電気的に接続されている。制御部材25は、基板22の圧電素子10とは反対側の表面上に配された端子電極26に電気的に接続されている。なお、制御部材25は、例えば、ICにより構成することができる。
【0027】
次に、音響素子1がマイクとして使用される場合の音響素子1の動作について説明する。
【0028】
音響素子1に向けて音波が発せられると、ケーシング23にマトリクス状に設けられた複数の開口23aを経由して圧電素子10に音波が到達する。その結果、圧電素子10に音圧が印加され、圧電素子10が振動する。これにより、圧電素子10の圧電層12において電荷が発生する。発生した電荷は、制御部材25において電圧に変換され、端子電極26から音圧に応じた電気信号が出力される。
【0029】
一方、音響素子1がスピーカーとして使用される場合は、制御部材25により、発音させようとする音に応じた電圧が圧電素子10に印加される。その結果、圧電素子10が振動し、音波が発せられる。
【0030】
以上説明したように、音響素子1では、音圧の電荷への変換が圧電層12により行われる。圧電層12は、例えば、エレクトレット等と比べて優れた耐熱性を有する。圧電層12は、エレクトレットとは異なり、高温になっても音圧−電荷変換機能が低下しない。従って、音響素子1は、優れた耐熱性を有しており、リフロー実装することが可能である。
【0031】
また、MEMSマイクとは異なり、振動膜11に電圧を印加しておく必要が必ずしもない。従って、音響素子1の駆動電圧を低くし得るため、低消費電力化を実現できる。
【0032】
以上のように、音響素子1によれば、優れた耐熱性と、低い駆動電圧との両立を図ることができる。
【0033】
耐熱性をさらに改善する観点からは、圧電層12が窒化アルミニウム及び窒化スカンジウム・アルミニウムの少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0034】
さらに、音響素子1では、MEMSマイクにおいてノイズ発生の原因となっている昇圧素子を設ける必要が必ずしもない。従って、音響素子1では、MEMSマイクと比較して、低ノイズを実現することができる。
【0035】
以下、本発明の好ましい実施形態の他の例について説明する。以下の説明において、上記第1の実施形態と実質的に共通の機能を有する部材を共通の符号で参照し、説明を省略する。
【0036】
(第2及び第3の実施形態)
図2は、第2の実施形態に係る音響素子2の略図的断面図である。図3は、第3の実施形態に係る音響素子3の略図的断面図である。音響素子2,3は、第1の実施形態に係る音響素子1と、圧電素子10の構成において異なる。
【0037】
図2に示されるように、第2の実施形態に係る音響素子2では、圧電素子10は、圧電層を複数備える。具体的には、圧電素子10は、分極方向が互いに逆向きである圧電層12aと圧電層12bとを有する。圧電層12aと圧電層12bとの間には、第1の電極13aが配されている。圧電層12aの第1の電極13aとは反対側の表面の上と、圧電層12bの第1の電極13aとは反対側の表面の上とを覆うように、横断面形状が略U字状の振動膜11aが配されている。振動膜11aの外側には、横断面形状が略U字状の第2の電極13bが配されている。さらに、第2の電極13bの外側には、横断面形状が略U字状の振動膜11bが配されている。
【0038】
図3に示されるように、第3の実施形態に係る音響素子3においても、圧電素子10は、分極方向が互いに逆向きである圧電層12aと圧電層12bとを有する。圧電層12aは、振動膜11aの上に配されている。圧電層12a及び振動膜11aは、一対の電極13a1,13b1により挟持されている。圧電層12bは、振動膜11bの上に配されている。圧電層12b及び振動膜11bは、一対の電極13a2,13b2により挟持されている。電極13b2と電極13b1とは電気的に接続されている。
【0039】
音響素子2,3のように、複数の圧電層12a、12bを設けることにより、圧電素子10において生じる電荷の量を多くすることができる。従って、マイクとして用いる場合の音響素子2,3の高感度化や、スピーカーとして用いる場合の音響素子2,3の高出力化を図ることができる。
【0040】
図4は、スパッタ装置に投入するRFパワーと形成される窒化スカンジウム・アルミニウム膜(Scの含有量:37at%)の膜応力との関係を表すグラフである。正の値は引張り応力、負の値は圧縮応力を示す。図4に示されるように、例えば、スカンジウムを含まない窒化アルミニウム膜であれば、スパッタ装置に投入するRFパワーを調整することにより、膜応力を実質的にゼロにすることができる。このため、例えば非常に薄く、高い可撓性を有する振動膜の上に窒化アルミニウムからなる圧電層を形成する場合でも、圧電層の形成条件を調整することにより、反りの発生を抑制することができる。
【0041】
それに対して、窒化スカンジウム・アルミニウム膜は、スパッタ装置に投入するRFパワーを変化させても形成される膜の膜応力がほとんど変化しない。スパッタ装置に投入するRFパワーに関わらず、窒化スカンジウム・アルミニウム膜には膜応力が発生することとなる。従って、窒化スカンジウム・アルミニウムを含む圧電層を、振動膜の上に形成すると、振動膜と圧電層との積層体が大きく反る。特に圧縮応力膜は振動板のたるみを発生させるため、その結果、音響特性に影響が生じる場合がある。
【0042】
ここで、第2及び第3の実施形態では、振動膜及び圧電層の積層体が複数設けられている。複数の積層体には、圧電層の振動膜に対する方向が反対である積層体が含まれている。従って、振動膜に対する方向が反対である圧電層の膜応力が打ち消し合い、振動膜、圧電層及び一対の電極を含む積層体の反りが抑制されている。
【0043】
具体的には、第2の実施形態に係る音響素子2では、圧電層12aは、振動膜11aの圧電層12aが形成された部分のz1側に位置している一方、圧電層12bは、振動膜11aの圧電層12bが形成された部分のz2側に位置している。従って、圧電層12aの膜応力と圧電層12bの膜応力が打ち消し合う。よって、振動膜11a、11b、圧電層12a、12b及び電極13a、13bを含む積層体の反りが抑制されている。
【0044】
また、第3の実施形態に係る音響素子3では、圧電層12aは、振動膜11aのz1側に位置している一方、圧電層12bは、振動膜11bのz2側に位置している。従って、圧電層12aの膜応力と圧電層12bの膜応力が打ち消し合う。よって、振動膜11a、11b、圧電層12a、12b及び電極13a、13bを含む積層体の反りが抑制されている。
【0045】
このように、音響素子2,3では、反りが抑制されているため、より優れた音響特性が得やすい。
【0046】
(第4の実施形態)
図5は、第4の実施形態に係る音響素子4の略図的断面図である。
【0047】
音響素子4は、第1の実施形態に係る音響素子1と、圧電素子10の支持態様において異なる。
【0048】
音響素子4では、支持部材21がリング状に形成されており、支持部材24が、支持部材21の外径よりも大きな内径を有する部分とを有している。圧電素子10は、支持部材21と支持部材24とによりかしめ止めされている。この場合、圧電素子10の固定に、振動を阻害する接着剤を必ずしも要さない。従って、音響素子4の特性をさらに改善することができる。
【0049】
(第5の実施形態)
図6は、第5の実施形態に係る音響素子5の略図的断面図である。
【0050】
音響素子5は、第1の実施形態に係る音響素子1と、制御部材25の配置において異なる。音響素子1では、圧電素子10の積層方向であるz軸方向において、制御部材25は、圧電素子10と重なるように配されている。それに対して、音響素子5では、z軸方向において、制御部材25と圧電素子10とが重なっていない。z軸方向から視た際に、制御部材25と圧電素子10とが異なる位置に配されている。このようにすることにより、音響素子5の薄型化を図ることができる。
【0051】
また、音響素子1では、z軸方向において、開口23aが圧電素子10と重なっている。それに対して、音響素子5では、z軸方向から視た際に、開口23aが圧電素子10とは異なる位置に設けられている。圧電素子10は、可視光や赤外光などの光を遮蔽するケーシング23により覆われている。
【0052】
このため、赤外光などが圧電素子10に入射しにくい。よって、圧電素子10が焦電性を有する場合であっても、赤外光に起因するノイズの発生を抑制することができる。
【0053】
また、z軸方向から視た際に、開口23aが圧電素子10とは異なる位置に設けられているため、圧電素子10にゴミ等が付着しにくい。従って、ゴミ等の付着に起因するノイズの発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0054】
1〜5…音響素子
10…圧電素子
11、11a、11b…振動膜
12、12a、12b…圧電層
13a、13a1,13a2,13b、13b1,13b2…電極
21,24…支持部材
22…基板
23…ケーシング
23a…開口
25…制御部材
26…端子電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動膜と、
前記振動膜の上に配された圧電層と、
前記圧電層を挟持する一対の電極と、
を備える、音響素子。
【請求項2】
前記圧電層を複数備える、請求項1に記載の音響素子。
【請求項3】
前記圧電層が、窒化アルミニウム及び窒化スカンジウム・アルミニウムの少なくとも一方を含む、請求項1または2に記載の音響素子。
【請求項4】
前記圧電層の一方側を覆うケーシングをさらに備え、
前記ケーシングには、前記圧電層及び前記電極の積層方向から視た際に前記圧電層とは異なる位置に配された開口が形成されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の音響素子。
【請求項5】
前記ケーシングは、赤外光を遮蔽する、請求項4に記載の音響素子。
【請求項6】
前記圧電層が窒化スカンジウム・アルミニウムを含み、
前記振動膜及び前記圧電層の積層体を複数有し、
前記複数の積層体には、前記圧電層の前記振動膜に対する方向が反対である積層体が含まれる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の音響素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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