説明

音響装置及び通話装置

【課題】 エコーの発生を防止することができる音響装置及び通話装置を得ることを目的とする。
【解決手段】 N極とS極が交互にストライプ状に着磁されている永久磁石2,3をそれぞれ振動板1の正面側と背面側に配置するとともに、その永久磁石2,3におけるストライプ状の磁極に沿うように導体回路4を振動板1に配線するように構成する。これにより、エコーの発生を防止することができる効果を奏する。
また、振動板1、永久磁石2,3、導体回路4、スペーサ5、鉄板6,7をバッフル8に収納するようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、携帯電話などの情報通信端末により受信された音声信号にしたがって音声を再生する一方、話者の音声を取り込んで、その音声信号を情報通信端末に出力するハンズフリー機能を有する通話装置と、その通話装置に適用する音響装置とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハンズフリー機能を有する従来の通話装置は、コーン型のスピーカの上にマイクが配置されている構造であり、コーン型のスピーカから携帯電話により受信された通話相手の音声を出力する。
一方、マイクにより取り込まれたユーザの音声は、携帯電話を介して、通話相手の携帯電話等に送信される。
【0003】
ただし、コーン型のスピーカに内蔵されている振動板は、平面形状ではなく、お椀形状であるため、スピーカの正面から出力される音声の周波数特性と、そのスピーカの背面から出力される音声の周波数特性とが異なる。
また、スピーカの正面からマイクまでの距離と、そのスピーカの背面からマイクまでの距離も異なる。
このため、コーン型のスピーカの上にマイクが配置されていても、スピーカの正面から出力される音声と、スピーカの背面から出力される音声とが、マイク入力の際に互いに打ち消されることはない。
したがって、携帯電話により受信された通話相手の音声が、通話相手の携帯電話等に返信されるエコーが発生する。
【0004】
従来の通話装置は、上記のようなエコーの発生を防止するために、マイクにより取り込まれた音声信号を反転する反転回路(エコーキャンセル回路)を内蔵し、その反転回路により反転された音声信号とスピーカから出力された音声信号を合成するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平2−224498号公報(第9頁から第10頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の通話装置は以上のように構成されているので、スピーカから出力された音声信号が反転回路により反転された音声信号に打ち消され、エコーの発生を防止することができる。しかし、反転回路における反転処理の時間分だけ、その反転回路から出力される音声信号の位相がスピーカから出力される音声信号の位相より遅れを生じるため、双方の音声信号の位相特性や周波数特性を完全に一致させることができず、エコーの発生を完全に抑制することが困難であるなどの課題があった。
【0007】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、エコーの発生を防止することができる音響装置及び通話装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る音響装置は、N極とS極が交互にストライプ状に着磁されている磁石板を振動板の正面側と背面側に配置するとともに、その磁石板におけるストライプ状の磁極に沿うように導体回路を振動板に配線するようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、N極とS極が交互にストライプ状に着磁されている磁石板を振動板の正面側と背面側に配置するとともに、その磁石板におけるストライプ状の磁極に沿うように導体回路を振動板に配線するように構成したので、エコーの発生を防止することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による通話装置を示す斜視図である。
図2はこの発明の実施の形態1による音響装置の要部を示す斜視図であり、図3はこの発明の実施の形態1による音響装置の要部を示す断面図である。
図において、振動板1は上面及び下面のうち、少なくとも一方の面に導体回路4が形成(例えば、プリント配線)されている平板である。
第1の磁石板である永久磁石2は振動板1の正面側(図2及び図3の例では上側)に配置され、N極とS極が交互にストライプ状に着磁されているとともに、複数の穴2aが施されている。
第2の磁石板である永久磁石3は振動板1の背面側(図3の例では下側)に配置され、永久磁石2と磁極の配置が一致するように、N極とS極が交互にストライプ状に着磁されているとともに、複数の穴3aが施されている。
【0011】
導体回路4は振動板1に形成されているプリント配線基板であり、導体回路4は永久磁石2,3におけるストライプ状の磁極に沿うように振動板1に配線されている。
具体的には、導体回路4は永久磁石2,3におけるN極とS極の境界部分に対応する位置(永久磁石2,3の穴2a,3aに対応する位置)に配線されており、N極が左側でS極が右側に位置する配線の方向と、S極が左側でN極が右側に位置する配線の方向とが逆方向である。
スペーサ5は振動板1と永久磁石2,3が接触しないように、永久磁石2と永久磁石3を支持している。
第1の鉄板6は永久磁石2の正面側(図2及び図3の例では上側)に配置され、複数の穴6aが施されている。
第2の鉄板7は永久磁石3の(図3の例では下側)に配置され、複数の穴7aが施されている。
ただし、鉄板6,7は永久磁石2,3と密着するように配置されている。
【0012】
バッフル8は振動板1、永久磁石2,3、導体回路4、スペーサ5、鉄板6,7を収納しているケースであり、バッフル8には複数の穴8aが施されている。
マイク9はバッフル8の正面側の表面からの距離とバッフル8の背面側の表面からの距離とが一致する位置に配置されており、図1の例では、マイク9の指向方向が上方向であるため、マイク9がバッフル8の上部に配置されている。例えば、マイク9の指向方向が右方向であれば、マイク9がバッフル8の右側部に配置され、マイク9の指向方向が左方向であれば、マイク9がバッフル8の左側部に配置される。
ただし、振動板1や永久磁石2,3等がバッフル8に収納されていない場合には、鉄板6の表面からの距離と鉄板7の表面からの距離とが一致する位置にマイク9が配置される。
【0013】
回路部10はアンプを内蔵しており、そのアンプはマイク9により取り込まれた音声信号を増幅して、その音声信号を携帯電話11に出力する一方、その携帯電話11により受信された音声信号を増幅して、その音声信号を導体回路4に出力するなどの処理を実施する。
情報通信端末である携帯電話11は通話相手の音声信号を受信して、その音声信号を回路部10のアンプに出力する一方、回路部10のアンプにより増幅された音声信号を通話相手の携帯電話等に送信する。
【0014】
次に動作について説明する。
携帯電話11は、通話相手の携帯電話等から送信された音声信号を受信すると、その音声信号を回路部10のアンプに出力する。
回路部10のアンプは、携帯電話11から通話相手の音声信号を受けると、その音声信号を増幅して、増幅後の音声信号を導体回路4に出力する。
これにより、導体回路4には、例えば、図2及び図3に示すような向きで電流が流れる。
【0015】
図2及び図3に示すような向きで電流が流れた場合、永久磁石2,3及び鉄板6,7によって磁場が形成されているため、フレミングの左手の法則により、振動板1の上方向に力が作用して、振動板1が上方向に振動する。
一方、図2及び図3に示す向きと逆向きで電流が流れた場合、フレミングの左手の法則により、振動板1の下方向に力が作用して、振動板1が下方向に振動する。
この振動板1の振動現象により、通話相手の音声信号が再生され、永久磁石2、鉄板6及びバッフル8の穴2a,6a,8aを通じて、通話相手の音声が出力されると同時に、永久磁石3、鉄板7及びバッフル8の穴3a,7a,8aを通じて、通話相手の音声が出力される。
【0016】
ここで、マイク9は、図1に示すように、バッフル8の正面側の表面からの距離とバッフル8の背面側の表面からの距離とが一致する位置に配置されており、また、振動板1の形状が平面形状であるため、図4に示すように、永久磁石2、鉄板6及びバッフル8の穴2a,6a,8aから出力されて、マイク9に入力される音声の音圧周波数特性と、永久磁石3、鉄板7及びバッフル8の穴3a,7a,8aから出力されて、マイク9に入力される音声の音圧周波数特性とが一致する。
スピーカがコーン型である場合、図5に示すように、スピーカの表面から出力されて、マイクに入力される音声の音圧周波数特性と、スピーカの裏面から出力されて、マイクに入力される音声の音圧周波数特性とが一致しない。
【0017】
この実施の形態1では、永久磁石2、鉄板6及びバッフル8の穴2a,6a,8aから出力されて、マイク9に入力される音声の音圧周波数特性と、永久磁石3、鉄板7及びバッフル8の穴3a,7a,8aから出力されて、マイク9に入力される音声の音圧周波数特性とが一致するため、図6に示すように、マイク9に入力される際に双方の音声信号が相互に打ち消しあうようになる。
よって、通話相手の音声は、スピーカから出力されても、マイク9には入力されず、エコーが発生しない。
【0018】
一方、ユーザの音声は、マイク9により取り込まれ、回路部10のアンプがマイク9により取り込まれた音声信号を増幅して、その音声信号を携帯電話11に出力する。
これにより、携帯電話11がアンプにより増幅された音声信号を通話相手の携帯電話等に送信するため、ユーザの音声が通話相手に届けられる。
【0019】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、N極とS極が交互にストライプ状に着磁されている永久磁石2,3をそれぞれ振動板1の正面側と背面側に配置するとともに、その永久磁石2,3におけるストライプ状の磁極に沿うように振動板1に配線するように構成したので、エコーの発生を防止することができる効果を奏する。
【0020】
また、この実施の形態1では、振動板1、永久磁石2,3、導体回路4、スペーサ5、鉄板6,7をバッフル8に収納するようにしているので、鉄板6,7の穴6a,7aから出力される音声の音圧周波数特性の広帯域化を図ることができる効果を奏する。
即ち、振動板1、永久磁石2,3、導体回路4、スペーサ5、鉄板6,7をバッフル8に収納していない場合、図7の点線が示すように、周波数が低い領域では、音声の音圧周波数特性が劣化して、ユーザには金属音的な声が聞こえるようになる。
一方、振動板1、永久磁石2,3、導体回路4、スペーサ5、鉄板6,7をバッフル8に収納している場合、図7の実線が示すように、周波数が低い領域でも、音声の音圧周波数特性が劣化しないため、通話相手の音声が忠実に再現されてユーザに聞こえるようになる。
【0021】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、指向方向が上方向であるマイク9がバッフル8の上部に配置されているものについて示したが、図8に示すように、指向方向が振動板1の平面方向であるマイク9が、その振動板1の中央部に施されている穴1aに配置されているようにしてもよい。
指向方向が上方向であるマイク9がバッフル8の上部に配置されている場合、例えば、天井の材質や形状、天井までの距離によっては、天井による反響音の影響で、マイク9における音声信号の打ち消し精度が劣化することがある。
【0022】
しかし、マイク9を振動板1の中央部に施されている穴1aに配置する場合(図8の例では、バッフル8の振動の影響を軽減するため、緩衝材12の上にマイク9が配置されている)、振動板1から出力されてマイク9に直接入力される音声の大きさが、天井の反響音に比べて極めて大きくなるため、マイク9における音声信号の打ち消し精度の劣化を防止することができる。
よって、この実施の形態2によれば、上記実施の形態1よりも、エコーの発生の抑圧精度を高めることができる効果を奏する。
【0023】
なお、図8の例では、マイク9の指向方向が上方向であるものについて示しているが、指向方向が振動板1の平面方向であればよく、例えば、マイク9の指向方向が右方向、左方向、あるいは、下方向でもよい。
また、図8の例では、正面画から見たバッフル8の形状が四角形であるものについて示したが、これに限るものではなく、例えば、円形であってもよい。
また、図8の例では、バッフル8を1つにしているが、バッフル8を複数集め、その中央にマイク9を配置するようにしてもよい。
【0024】
実施の形態3.
上記実施の形態1,2では、回路部10のアンプが携帯電話11と接続されているものについて示したが、これに限るものではなく、例えば、回路部10のアンプがインターフォンと接続されていてもよい。
この場合、回路部10のアンプは、マイク9により取り込まれたユーザの音声信号を増幅して、その音声信号をインターフォンに出力する。
これにより、例えば、家の門などに設置されているインターフォンを通じて、ユーザの音声を来客者に届けることができる。
一方、そのインターフォンにより取り込まれた来客者の音声信号を増幅して、その音声信号を導体回路4に出力する。
これにより、上記実施の形態1と同様に、エコーの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の実施の形態1による通話装置を示す斜視図である。
【図2】この発明の実施の形態1による音響装置の要部を示す斜視図である。
【図3】この発明の実施の形態1による音響装置の要部を示す断面図である。
【図4】振動板1から出力されてマイクに入力される音声の音圧周波数特性を示す説明図である。
【図5】コーン型のスピーカから出力されてマイクに入力される音声の音圧周波数特性を示す説明図である。
【図6】エコーキャンセルを示す説明図である。
【図7】バッフルに収納されている場合と収納されていない場合の音声の音圧周波数特性を示す説明図である。
【図8】この発明の実施の形態2による通話装置を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0026】
1 振動板、1a 穴、2 永久磁石(第1の磁石板)、2a 穴、3 永久磁石(第2の磁石板)、3a 穴、4 導体回路、5 スペーサ、6 鉄板(第1の鉄板)、6a 穴、7 鉄板(第2の鉄板)、7a 穴、8 バッフル(ケース)、8a 穴、9 マイク、10 回路部、11 携帯電話(情報通信端末)、12 緩衝材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板の正面側に配置され、N極とS極が交互にストライプ状に着磁されているとともに、複数の穴が施されている第1の磁石板と、上記振動板の背面側に配置され、上記第1の磁石板と磁極の配置が一致するように、N極とS極が交互にストライプ状に着磁されているとともに、複数の穴が施されている第2の磁石板と、上記第1及び第2の磁石板におけるストライプ状の磁極に沿うように上記振動板に配線されている導体回路と、上記第1の磁石板の正面側に配置され、複数の穴が施されている第1の鉄板と、上記第2の磁石板の背面側に配置され、複数の穴が施されている第2の鉄板と、上記第1の鉄板の表面からの距離と上記第2の鉄板の表面からの距離とが一致する位置に配置されているマイクとを備えた音響装置。
【請求項2】
導体回路は、第1及び第2の磁石板におけるN極とS極の境界部分に対応する位置に配線され、N極が左側でS極が右側に位置する配線の方向と、S極が左側でN極が右側に位置する配線の方向とが逆方向であることを特徴とする請求項1記載の音響装置。
【請求項3】
振動板、導体回路、第1及び第2の磁石板、第1及び第2の鉄板がケースに収納されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の音響装置。
【請求項4】
指向方向が上方向であるマイクがケースの上部に配置されていることを特徴とする請求項3記載の音響装置。
【請求項5】
指向方向が振動板の平面方向であるマイクが、その振動板の中央部に施されている穴に配置されていることを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載の音響装置。
【請求項6】
振動板の平面方向周囲に板状のバッフルを配置したことを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載の音響装置。
【請求項7】
振動板の正面側に配置され、N極とS極が交互にストライプ状に着磁されているとともに、複数の穴が施されている第1の磁石板と、上記振動板の背面側に配置され、上記第1の磁石板と磁極の配置が一致するように、N極とS極が交互にストライプ状に着磁されているとともに、複数の穴が施されている第2の磁石板と、上記第1及び第2の磁石板におけるストライプ状の磁極に沿うように上記振動板に配線されている導体回路と、上記第1の磁石板の正面側に配置され、複数の穴が施されている第1の鉄板と、上記第2の磁石板の背面側に配置され、複数の穴が施されている第2の鉄板と、上記第1の鉄板の表面からの距離と上記第2の鉄板の表面からの距離とが一致する位置に配置されているマイクとを有する音響装置と、上記マイクにより取り込まれた音声信号を増幅して、その音声信号を情報通信端末に出力する一方、その情報通信端末により受信された音声信号を増幅して、その音声信号を上記導体回路に出力するアンプとを備えた通話装置。
【請求項8】
振動板の正面側に配置され、N極とS極が交互にストライプ状に着磁されているとともに、複数の穴が施されている第1の磁石板と、上記振動板の背面側に配置され、上記第1の磁石板と磁極の配置が一致するように、N極とS極が交互にストライプ状に着磁されているとともに、複数の穴が施されている第2の磁石板と、上記第1及び第2の磁石板におけるストライプ状の磁極に沿うように上記振動板に配線されている導体回路と、上記第1の磁石板の正面側に配置され、複数の穴が施されている第1の鉄板と、上記第2の磁石板の背面側に配置され、複数の穴が施されている第2の鉄板と、上記第1の鉄板の表面からの距離と上記第2の鉄板の表面からの距離とが一致する位置に配置されているマイクとを有する音響装置と、上記マイクにより取り込まれた音声信号を増幅して、その音声信号をインターフォンに出力する一方、そのインターフォンにより取り込まれた音声信号を増幅して、その音声信号を上記導体回路に出力するアンプとを備えた通話装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−81859(P2007−81859A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−267371(P2005−267371)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【出願人】(591036457)三菱電機エンジニアリング株式会社 (419)
【Fターム(参考)】