音響透過性材料、並びに、当該材料を用いた建築用途を含む音響調整面構造、マイクロホン用風防、保護用グリル、音響透過性映写スクリーン及びスピーカ
【課題】 繊維を交絡してなる材料を用いて、自立性を有すると共に高性能な音響透過性を有する、音響透過性材料の提供。
【解決手段】 繊維が互いに交絡してなる音響透過性材料であって、前記音響透過性材料は、テーバーこわさが5mN・m以上、曲げ抗力が100mN以上、空隙率が50%以上、且つ、厚みが3mm以下であることを特徴とする音響透過性材料。
【解決手段】 繊維が互いに交絡してなる音響透過性材料であって、前記音響透過性材料は、テーバーこわさが5mN・m以上、曲げ抗力が100mN以上、空隙率が50%以上、且つ、厚みが3mm以下であることを特徴とする音響透過性材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維材料が交絡してなる音響透過性材料に関し、より詳細には自立性を有する音響透過性材料に関する。更に、本発明は、当該音響透過性材料を応用した建築用途を含む音響調整面構造、マイクロホン用風防、保護用グリル、音響透過性映写スクリーン及びスピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
建築、電子機器等の様々な分野において、音響を透過する材料が求められている。音響透過性材料としては、例えばスピーカのサランネットなどのメッシュ構造物や、建築壁面に用いられる有孔板などが挙げられる。
【0003】
これら従来の音響透過性材料とは異なり、外見上は、硬い質感を有し、且つ開口が無いか、或いはあっても視認できないため透過性ではないように見えるものの、音響をほぼ完全に透過する材料として、音響透過性の板状部材やシート状部材が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、板状の音響透過性材料として、硬質板に、外観上視認できない程度の微細孔を面積当たり多数設けることにより、音響透過性が得られることが報告されている(特許文献1、2、非特許文献1)。当該音響透過性材料により、硬質の音響透過性材料が得られるため、映画のスクリーンとして応用し、スクリーン背面にスピーカを設置して、臨場感を高めることなどが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−59658号公報
【特許文献2】特開2010−210778号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】中井,川上,和田,佐野「多孔板の音響特性」,日本音響学会 建築音響研究会資料(AA2009-18), 2009.03.11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
建築材料等の用途において、音響透過性材料を立設した場合に、補助機構などを設けなくとも、音響透過性材料そのもの強度によって立った状態を保持する自立性が求められることがある。特許文献1の音響透過性材料によれば、音響透過性材料に対して自立性を持たせようとすると、音響透過性が損なわれる問題があった。また、特許文献2、非特許文献1の音響透過性材料によれば、自立性を有するものの、微細孔を多数設ける必要があるため特殊穿孔技術や熟練工養成により、製造コストが高くなるという問題があった。そこで本発明は、繊維を交絡してなる材料を用いて、自立性を有すると共に高性能な音響透過性を有する、音響透過性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、自立性と音響透過性を両立する繊維材料を検討した結果、自立性を担保しようとして繊維材料に用いる繊維量を多くすることにより、繊維の密度が高くなりすぎて音響透過が妨げられてしまうほどに密に繊維が交絡してしまうことに問題が所在することを見出した。
【0009】
つまり、材料境界面における音響エネルギー反射率|r2|(ここにrは音圧反射率)は、以下の式(1)で示される。
【数1】
【0010】
音響エネルギー反射率|r2|は材料表面のノーマル音響インピーダンスZnがZn=ρc(ρcは空気の特性インピーダンス)、或いは、固有音響インピーダンスζ(Znをρcで割った値)がζ≡Zn/(ρc)=1の時、最小値|r2|=0となり、入射音エネルギーは全て材料内部に進入、みかけ上、吸音率α=1−|r2|は最大値1となる(子安勝「吸音の基礎事項」音響技術No.71/sep.1990)。この条件、Zn=ρcは材料の条件が空気に等しいということであり、材料に含まれる空気の量、即ち空隙率(ポロシティ=porosity(多孔度);材料の見かけの容積に対する内部に含まれる空気量。具体的な定義は後述)が大きいほど材料内への入射音エネルギーの量は大きくなる。従って、材料内部の条件、例えばflow resistivity(単位厚さ流れ抵抗) やtortuosity(迷路度)など(中川 博「音響材料について(その3)」日東紡エンジニアリング技術ニュース)の条件が等しければ、材料内部で吸収されるエネルギーEhも一定となり、空隙率が大きいほど背後に抜ける音響エネルギーの量、つまり透過率τ(τ=|t|2 =Et/Ei;入射エネルギーEiに対する透過エネルギーEtの割合。tは音圧透過率)を最大(τ≒1)、つまり、スピーカやマイクロホンの直前に設置した場合の挿入損失(試料が無いときとある時のレベル差(dB))を最小にでき、全音響透過性に近い条件が実現できることがわかったわけである(図12参照)。
【0011】
更に、自立性を有する材料においては、十分な音響透過性を得るためには、使用する材料の空隙率だけでなく、その厚みとの関係が重要であることを見出し、更に、空隙率が高く、所定値以下の厚みの材料であれば、十分に高い音響透過性を発現することを見出した。
【0012】
すなわち、本発明(1)は、繊維が互いに交絡してなる音響透過性材料であって、
前記音響透過性材料は、テーバーこわさが5mN・m以上、曲げ抗力が100mN以上、空隙率が50%以上、且つ、厚みが3mm以下であることを特徴とする音響透過性材料である。
【0013】
本発明(2)は、前記繊維が、金属繊維である、前記発明(1)の音響透過性材料である。
【0014】
本発明(3)は、挿入損失が63Hz〜8kHzの各1/1オクターブ帯域で5dB以下である、前記発明(1)又は(2)の音響透過性材料である。
【0015】
本発明(4)は、前記音響透過性材料が、金属繊維を圧縮成形して得られる材料である、前記発明(1)〜(3)のいずれか一つの音響透過性材料である。
【0016】
本発明(5)は、前記発明(1)〜(4)のいずれか一つの音響透過性材料(例えば、図1における音響透過性材料2)と、
その背面に設置された吸音性構造及び/又は反射性構造を有する音響調整機構(例えば、図1における音響調整機構3)と
を備える、音響調整面構造(例えば、図1における音響調整面構造1)である。
【0017】
本発明(6)は、前記音響調整機構が、吸音性構造及び/又は反射性構造の配置比率を変化させることが可能な可変音響調整機構である、前記発明(5)の音響調整面構造。
【0018】
本発明(7)は、建物の壁面及び/又は天井の内装における音響調整面構造であって、
前記音響透過性材料が、前記建物の壁面及び/又は天井との間に空間が形成されるように配置され(例えば、図3における音響透過性材料2)、
前記可変音響調整機構(例えば、可変音響調整機構610)が、前記空間に配された、開閉可能に構成されたカーテン又は吸音ブラインドを有し(例えば、カーテン613)、
前記カーテン又はブラインドの開閉よって面の吸音特性を調整する、前記発明(6)の音響調整面構造(例えば、残響可変壁600)である。
【0019】
本発明(8)は、建物の壁面及び/又は天井の内装における音響調整面構造であって、
前記音響透過性材料が、前記建物の壁面及び/又は天井との間に空間が形成されるように配置され(例えば、図4における音響透過性材料2)、
前記音響調整機構は、前記空間に配された、吸音性構造及び/又は反射性構造を有する(例えば、吸音材701、空気層702、合板704、空間A)、前記発明(5)の音響調整面構造(例えば、残響調整壁700)である。
【0020】
本発明(9)は、前記発明(5)〜(8)のいずれか一つの音響調整面構造を有する、建築物の内装構造である。
【0021】
本発明(10)は、マイクロホンの風切音を軽減するためのマイクロホン用風防において、
前記風防が、マイクロホンに対する風を遮る位置に配された音響透過性材料を有し、
前記音響透過性材料が、前記発明(1)〜(4)のいずれか一つの音響透過性材料である、マイクロホン用風防である。
【0022】
本発明(11)は、マイクロホン又はスピーカの前面に配置される保護用グリルにおいて、
前記グリルが、前記発明(1)〜(4)のいずれか一つの音響透過性材料で構成されている、保護用グリルである。
【0023】
本発明(12)は、前面投影型の映写投射面を有し、該映像投射面の背後にスピーカを配置して音が出るように構成して使用される音響透過性映写スクリーンにおいて、
少なくとも前記映像投射面が、前記発明(1)〜(4)のいずれか一つの音響透過性材料で構成されている、音響透過性映写スクリーンである。
【0024】
本発明(13)は、スピーカボックス、及び、ウーハユニットを有するスピーカにおいて、
前記発明(1)〜(4)のいずれか一つの音響透過性材料、前記音響透過性材料の背後に配置された多孔質吸音材料からなる吸音材、及び、前記吸音材の背後に配置された空気層を有する吸音構造を前記スピーカボックス内に備え、前記吸音構造が前記スピーカボックスの内壁に設けられていることを特徴とする、スピーカである。
【0025】
本発明(14)は、前記スピーカが、密閉型である、前記発明(13)のスピーカである。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る音響透過性材料によれば、テーバーこわさが5mN・m以上、曲げ抗力が100mN以上、空隙率が50%以上、且つ、厚みが3mm以下とすることによって、自立性を有すると共に高性能な音響透過性を有する材料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1(a)は本発明の音響調整面構造の断面図であり、図1(b)は本発明の音響調整面構造の分解図である。
【図2】図2は、音響調整面構造を建築内装に使用した場合を示す概略構成図である。
【図3】図3は、外観が変化しない残響可変壁600の概略構成図である。
【図4】図4は、外観が変化しない残響調整壁700の概略構成図である。
【図5】図5は、音響透過性材料を用いた球形風防(音場マイクロホン用)の概略構成図である。
【図6】図6は、円筒形風防付き表面音圧測定用マイクロホン装置の概略構成図を示す。
【図7】図7は、測定方法1における音響透過性を評価するための挿入損失△(dB)測定方法の概要を示す。
【図8】図8は、測定方法2に関する補助説明図である。
【図9】図9は、音響透過性材料(TTP)有りと無しによる背後吸音材(GW)の吸音率α0の比較試験の結果を示す。
【図10】図10は、各試料の音響透過性を測定方法2において測定した結果を示す。
【図11】図11(A)は風切音低減試験を行った系統の概略を示し、図11(B)は風切音低減試験の結果を示すグラフである。
【図12】図12は、背後に抜ける音響エネルギーの量に関する補足説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、繊維が互いに交絡してなる音響透過性材料である。すなわち、本発明の音響透過性材料は、テーバーこわさが5mN・m以上、曲げ抗力が100mN以上である。当該範囲であることによって音響透過性材料は、自立性を有する。また、このように、自立性を有する音響透過性材料において、空隙率を50%以上、厚さ3mm以下に設定することで、高い音響透過性を有する材料が得られる。
【0029】
本発明の音響透過性材料のテーバーこわさは、5mN・m以上であり、8mN・m以上が好適であり、10mN・m以上がより好適である。テーバーこわさの上限値は特に限定されないが、例えば、100mN・mである。当該範囲のテーバーこわさを有することにより、自立性を有する材料が得られる。テーバーこわさは、JIS−P8125に従って測定する。なお、テーバーこわさの値は、当業者の知識に基づいて、使用する繊維の硬さや、音響透過性材料の密度や、圧縮成形における圧力によって調整することができる。
【0030】
本発明の音響透過性材料の曲げ抗力は、100mN以上であり、150mN以上が好適であり、200mN以上がより好適である。曲げ抗力の上限は特に限定されないが、例えば、2000mNである。当該範囲のテーバーこわさを有することにより、自立性を有する材料が得られる。曲げ抗力は、JIS−P8125のテーバーこわさ試験に従って測定して得られた値である。なお、曲げ抗力の値は、当業者の知識に基づいて、使用する繊維の硬さや、音響透過性材料の密度や、圧縮成形における圧力によって調整することができる。
【0031】
本発明の音響透過性材料の空隙率は、50%以上であり、60〜90%が好適であり、70〜90%がより好適である。空隙率の上限は特に限定されないが、例えば、95%である。繊維が交絡してなる材料において、空隙率が当該範囲内に含まれる材料を選択することによって、自立性を有しつつ、音響透過性が担保されるという効果を奏する。また好適な範囲、より好適な範囲においては空隙率が高すぎないため、壁材などとして用いた場合にも、音響透過性材料を介して反対側が透視できないようにすることができる。
【0032】
音響透過の角度依存性を考慮すると、音響透過性材料の空隙率は、80〜90%であることが特に好適である。このような範囲とすることで、材料に対する音の入射角度に依存ほとんど依存しない、高い音響透過性を発揮することができる。
【0033】
空隙率は、音響透過性材料の体積に対して繊維が存在しない空間の割合で、音響透過性材料の体積と重量及び繊維素材の比重から算出される。
空隙率(%)=(1−音響透過性材料の重量/(音響透過性材料の体積×繊維の比重))×100
なお、空隙率の値は、当業者の知識に基づいて、使用する繊維の太さ、量や、繊維が交絡した材料の密度や、圧縮成形における圧力によって調整することができる。
【0034】
ここで、音響透過性材料の厚さは、3mm以下であり、50μm〜2000μmがより好適であり、100μm〜1500μmが更に好適であり、500μm〜1000μmが特に好適である。上記の空隙率を有する材料において、当該範囲の厚みとすることにより、高い音響透過性を有する材料が得られる。
【0035】
本発明に係る音響透過性材料は、繊維を交絡させてなる。音響透過性材料に用いられる繊維としては、金属繊維、又はフッ素繊維が挙げられる。これらの中でも、金属繊維を用いることにより、自立性を担保しやすくなる。
【0036】
金属繊維としては、特に限定されないが。ステンレス、アルミニウム、真ちゅう、銅、チタン、ニッケル、金、白金、鉛等の金属材料を素材とする繊維から選択される1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0037】
フッ素繊維としては、熱可塑性フッ素樹脂から選択されることが好適であり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)、パーフルオロエーテル(PFE)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー(FEP)、テトラフルオロエチレンとエチレン又はプロピレンとのコポリマー(ETFE)、フッ化ビニリデン系樹脂(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)、フッ化ビニル系樹脂(PVF)が挙げられる。
【0038】
また、本発明の音響透過性材料に用いられる繊維の径は、特に限定されないが、例えば、0.1〜100μmが好適であり、0.5〜50μmがより好適であり、1〜40μmが更に好適である。このような範囲の繊維径とすることにより、繊維の強度を高めることができると共に、適度な音響透過性を得やすくなる。
【0039】
当該音響透過性材料は、繊維を圧縮成形する方法や、繊維を含んで構成される原料を湿式抄造法で抄紙することによって得られる。
【0040】
圧縮成形により、金属繊維又はフッ素繊維を用いて本発明の音響透過性材料を製造する場合には、まずは繊維をまとめ、予備的に圧縮等することでウェブを形成する。または繊維間の結合を付与するために繊維間にバインダーを含浸させてもよい。かかるバインダーとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤などの有機系バインダーの他に、コロイダルシリカ、水ガラス、ケイ酸ソーダなどの無機質接着剤を用いることができる。なお、バインダーを含浸する代わりに、繊維の表面に熱接着性樹脂を予め被覆しておき、金属繊維の集合体を積層した後に加熱し接着してもよい。バインダーの含浸量は、シートの面重量1000g/m2に対して、5〜130gが好適であり、20〜70gがより好適である。
【0041】
金属繊維の集合体を加熱下で加圧してシートが形成される。加熱条件は使用するバインダーや熱接着性樹脂の乾燥温度や硬化温度を考慮して設定されるが、加熱温度は通常50〜1000℃程度である。加圧圧力は繊維の弾力性、音響透過性材料の厚さ、音響透過性材料の光透過率を考慮して調節される。なお、スプレー法によりバインダーを含浸させる場合には、スプレー処理する前に金属繊維層をプレス加工等により所定厚さに成形するのが好ましい。
【0042】
金属繊維を用いた場合の音響透過性材料は、金属繊維を含んで構成されるスラリーを湿式抄造法によりシート形成することができる。なお、金属繊維を含むスラリーを製造する場合、金属繊維の水中での分散性が悪くなることがあるので、増粘作用のあるポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の高分子水溶液を少量添加してもよい。また、抄造方法は、例えば、長網抄紙、円網抄紙、傾斜ワイヤ抄紙等、必要に応じて種々の方法を採用することができる。
【0043】
湿式抄造法を用いる際には、網上の水分を含んだシートを形成している前記金属繊維を互いに交絡させる繊維交絡処理工程を経て製造されることが好適である。ここで、繊維交絡処理工程としては、例えば、抄紙後の金属繊維シート面に高圧ジェット水流を噴射する繊維交絡処理工程を採用するのが好ましく、具体的には、シートの流れ方向に直交する方向に複数のノズルを配列し、この複数のノズルから同時に高圧ジェット水流を噴射することにより、シート全体に亘って金属繊維同士を交絡させることが可能である。
【0044】
また、金属繊維材料の製造方法は、上述した湿式抄造工程後、得られた金属繊維材料を真空中または非酸化雰囲気中で金属繊維の融点以下の温度で焼結する焼結工程を含むことが好ましい。金属繊維が交絡しているので、焼結後の金属繊維材料の強度を高めることが可能となる。
【0045】
フッ素繊維を用いた場合の音響透過性材料の製造方法は、フッ素繊維と自己接着機能を有する物質とを湿式抄造法により混抄し乾燥して得たフッ素繊維混抄紙材料を、フッ素繊維の軟化点以上で熱圧着してフッ素繊維の繊維間を熱融着させた後、自己接着機能を有する物質を溶媒により溶解除去し、必要により再乾燥することにより製造することができる。ここで、自己接着機能を有する物質としては、通常製紙用として用いられる木材、綿、麻、わら等の植物繊維からなる天然パルプ、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエステル、芳香族ポリアミド、アクリル系、ポリオレフィン系の熱可塑性合成高分子からなる合成パルプや合成繊維、更に天然高分子や合成高分子からなる製紙用紙力増強剤等を用いることができるが、自己接着性の機能があってフッ素繊維と混在して水に分散できるものであればこれらに限定されるものではない。
【0046】
(物性)
音響透過性
本発明に係る音響透過性材料は、以下の測定方法1に従い測定された周波数特性の差(以下、「挿入損失」とする。)が中心周波数63Hz〜8kHzの各1/1オクターブ帯域で5dB以内(好適には2dB以内)となる性質を有することが好適である。なお、音響透過性材料は、中心周波数31.5Hz〜16kHzの各1/3オクターブ帯域で6dB以内(好適には3dB以内)、であることが好適である。連続正弦波スイープを用いる場合は1/3オクターブ帯域で評価する場合に準じるものとする。
【0047】
音響透過性に関する評価方法としては、種々の方法が想定される。より具体的には、無響室、或いは高度吸音性の室に、マイクとスピーカを前者が後者に対し直接音領域(直接音が間接音(反射音・残響音)より十分大きい音源近領域)になるように対向して設置し、その間に当該試料を基準線(マイクとスピーカを結ぶ線)に直角に置いた時と、試料を置かない時の、スピーカに対するマイクの応答のレベル差(dB)を挿入損失△(dB)として評価する。因みに、スピーカから発音する信号は正弦波・ピンクノイズ・震音(FM音)のいずれでも良く、また継続時間についても連続・短音のいずれでも良く、更には、帯域制限するためのフィルタは音源側でも受音側でも、或いは短音でも連続周波数スイープ音でも良い。同時に、試料の位置もスピーカ直前・マイク直前・両者中間のいずれでも良く、これらは測定系を線形系とみなす限りほぼ同一の結果となる性質のものである。因みに、ここでは試料は基準線に直角において評価するよう規定したが、必要に応じて試料を基準線に対し角度を持たせて設置し、その角度依存性を評価することもできる。なお、測定方法により結果に違いが生じる場合には、明細書における音響透過性においては、下記の測定方法1の方法により得られた結果を優先することとする。
【0048】
測定方法1:挿入損失を最も簡便に測定する方法としては、無響室、またはこれに準じる高度吸音性の室において、スピーカとマイクを結ぶ軸(以下「スピーカ‐マイク軸」とする。)と、音響透過材料の法線方向のなす角度θ=0°(図7のような状態を角度θ=ゼロとする。)として、20Hzから20kHz間の連続正弦波スイープ音(バックグラウンドノイズに対してS/N比で20dB以上の音)を放射し、このスピーカから数10cm〜数m(好適には30cm〜5m程度)離隔した位置に設置されたマイクロホン、または騒音計などで受音した後、レベルレコーダなどに記録した時の周波数応答特性と、スピーカ或いはマイクロホンの直前、または両者の中間に該部材を設置した場合の周波数応答特性の差を測定し、これを挿入損失△(dB)とする。
【0049】
本発明に係る音響透過性材料は、以下の測定方法2に従い測定された挿入損失により評価することで、音の入射角の依存性を評価することができる。
【0050】
測定方法2:スピーカ‐マイク軸と、音響透過材料の法線方向のなす角度θ(図7のような状態を角度θ=ゼロとする。)とし、θ=0〜90度の任意の角度ごとに挿入損失△(dB)を測定したり、代表角度θiごとに隣接±△θ内に含まれるn個の挿入損失のエネルギー平均値(dB平均)をもってその角度ごとの平均挿入損失△(―)i(dB)としたりすることもできる(図8)。これにより角度による挿入損失の依存性を評価できる。例えば、i=15度,45度,75度の各角度の隣接±10度ごとの3角度のエネルギー平均値(dB平均)をとる場合は、下記式(a)〜(c)又は(d)〜(f)により求めることができる。
【数2】
【数3】
(上記式(e)〜(f)において、L’5、L5等はそれぞれθ=5度における該部材を設置した時のマイクの周波数応答(dB)、設置前の周波数応答(dB)である。)この例では、様々な角度から評価することができるので、本発明に係る材料の評価には好適である。
【0051】
風切音低減効果
本発明に係る風防は、風切音低減効果評価方法において、風速2.7m/sの風に対し、1/1オクターブ帯域でΔ20dBA以上の風切音低減効果を有することが好適である。ここで、風切音低減効果評価試験では、無響室において送風機などから2.7m/sの風速(風切音の発生が認められ、または風切音の低減が観測できる範囲)で風を送り、風防無しで観測されるマイクロホン出力応答に対し、当該風防を装着した状態で測定した応答が騒音レベル(dBA)でS(dBA)低減した場合、風切音低減効果△S(dBA)とする。
【0052】
(建築物の内壁に用いられる音響調整面構造)
図1は、本発明の音響調整面構造の概略構成図である。図1(a)は、本発明の音響調整面構造の断面図であり、図1(b)は、本発明の音響調整面構造の分解図である。本発明の音響調整面構造1は、化粧板として用いられる板状に成形された上記の音響透過性材料2と、当該音響透過性材料の背後に配された吸音性構造及び/又は反射性構造を有する音響調整機構3とを有する。音響調整面構造の化粧板として本発明の音響透過性材料を使用することによって、音響透過の特性のみならず、その材料自体が自立性を有するため表面は硬質無孔板と同等の質感を呈し、いわゆる「固い吸音材」の成果を提供し、美術館の壁面などへ適用して静謐な空間を構成することができる。また、必要に応じては当該音響透過性材料の背後に、ハニカム構造やエクスパンドメタル等の金属メッシュなど音響透過性に影響が及ばないような材料・構造により補強を行っても良い。
【0053】
音響調整機構3における吸音性構造は、例えば、吸音材を配置することによって実現できる。吸音材としては、公知の材料を用いることができるが、例えば、グラスウール、ニードルフェルト、ウレタンフォーム、スポンジ、岩綿板等を用いることができる。また、吸音性構造は、吸音材及び該吸音材の背後に配置された空気層を有していても良い。このように空気層を設けることによって、低音域まで吸音力を拡張することが可能となる。
【0054】
音響調整機構3における反射性構造は、例えば、何も配置しない又は反射材を配置することによって実現できる。反射材としては、公知の材料を用いることができるが、例えば、合板、石膏板、コンクリート板、フレキシブルボード等、孔が形成されていない板が挙げられる。
【0055】
これらの音響調整面構造は、その構造を支えるため、音響調整機構3を収納する空間41と、音響透過性材料2を固定するための固定面421が形成された支柱42と、を有する骨格4を更に有していることが好適である(図1(b))。このようなパネル化により、例えば鳴き竜のような音響障害が起きている室に後付けで簡易に取り付け、問題解決を図ることができる。
【0056】
また、骨格4が設けられている場合、音響調整面構造1は、骨格4と、当該骨格4の空間41内に収納された音響調整機構3と、骨格の支柱42の固定面421に装着された音響透過性材料2とを有する。骨格4には、必要に応じて中間に胴縁43や間柱44を設け全体を補強しても良い(図2参照)。この場合も上記と同様、吸音材の背後に適宜、空気層を設けても良い。
【0057】
本発明の音響調整面構造の作用としては、音は、本発明の音響調整面構造に到達して、音響透過性材料透過し、吸音性構造に到達して吸収される、又は、反射性構造に到達して反射される。この際、本発明の音響透過性材料を用いることで、壁面表面での音の跳ね返りを防ぐことができるため、音響透過性材料の背後に配置された物の音響特性を反映させやすくなるため、オフィスビルの会議室の音響障害を簡易に解決できる音響改善パネルや、住宅のオーディオルーム・AVルームなどにおける音場調整パネルとして有効に利用することができる。
【0058】
本発明の音響調整面構造1は、例えば、建築物の内装構造として使用することにより従来に無かった「固い吸音面」を提供し、平坦で硬質の内装面が必要な空間を効果的に吸音処理することができる。
【0059】
図2は、本発明の音響調整面構造1を使用した建築物の内装構造の概略構成を示す図である。内装構造6は、音響調整面構造1が横に並べられた構造を有し、必要に応じて中間に胴縁43や間柱44を設け全体を補強しても良いし、また上記のように吸音材の背後に空気層を設けて低域側へ吸音力を伸ばしても良い。
【0060】
内装構造6は、例えば、壁面を構成することができ、音響調整面構造1の高さを、壁面の床端Fから天井端Rまでの長さとしてもよい。本発明の音響透過性材料を用いることでこのように連続して形成される面が大きくなる場合であっても、自立性を有するため施工しやすく、また、施工後もシワやタルミが形成されにくくなる。
【0061】
当然のことながら、当該音響調整面構造の表面は連続していても良い。中間に本発明の音響透過性材料を用いた全く同じ表面を持ち、且つ背後に吸音材を持たない反射性の構造(図9(0)参照)、或いは表面化粧材としての本発明の音響透過性材料の背後に合板や石膏板などの材料を置いた反射性の構造、などの面を配して室内の総吸音力を調整することにより、室内意匠を全く変えることなく室の用途に応じた最適な残響特性を提供することができる。
【0062】
また、内装構造6の背後吸音材を省略し、図3のように表面材、即ち本発明の音響透過性材料のみで構成し、背後にカーテンや吸音ブラインド(吸音ルーバー)などの可変吸音機構を設け室内意匠を全く変えることなく残響可変壁や残響可変天井を構成し、室内の残響特性を自在に変化させるように構成してもよい。室内意匠が変化しないため、在室者や(ホールの場合など)観客・演奏者に違和感を与えることがないので、音響効果の可変手段としてはまことに好適である。
【0063】
より具体的には、図3は、本発明の音響透過性材料を表面材として利用した音響調整面構造の応用例として、残響可変壁600を示す。図3は、ホールや住宅のAVルーム、或いは録音スタジオや音楽リハーサル室などでの利用を意図した、残響可変壁の例である。表面部材として本発明の音響透過性部材を用いているので、表面の意匠を変えることなく背後の可変音響調整機構を操作して壁面・天井面の吸音力を変化させ、室の残響時間特性を変化させることができる。当該構造によれば、音響条件が変化するのに表面の意匠が変わらないという効果を奏する。
【0064】
さらに詳細には、図3に残響可変壁600の概略構成図を示し、当該図は、部屋の上方視点から見た断面図である。残響可変壁600は、壁面一面に設けられた音響透過性材料2と、当該音響透過性材料の背後に配置された可変音響調整機構610とを有する。
【0065】
可変音響調整機構610は、例えば、前記音響透過性材料2の背後の空間の天井部に設けられたカーテンレールに取り付けられた音吸収性を有するカーテン613と、前記カーテンを収納するカーテンボックス615と、を有する。カーテン613は、電動で開閉可能にする開閉機構を有していてもよい。
【0066】
上記の可変音響調整機構610は、音響透過材料の背後に配されたカーテン613を開閉することによって、壁面の音響特性を変化させることができる。すなわち、壁面の見た目は、音響透過性材料の存在により、変わらないにもかからず、カーテンが開け閉めされることによって吸音性の材料の占める面積が変化するため、残響可変壁600の音響特性が変化する。すなわち、従来は、音響特性を変化さるためには、吸音材や、反射材を設置しなければならず、外観が大きく変化したが、外観を変化させることなく音響特性を変化させることができる。当該残響可変壁600は、特に、コンサートホール、映画館などの外観のデザインに制約される空間において、高い効果を発揮する。
【0067】
本発明の音響透過性材料を表面材として利用した音響調整面構造の応用例として、残響調整壁を示す。図4は、本発明に係る残響調整壁700の概略構成図である。当該構成により、表面の意匠を統一したまま完全反射面から完全吸音面までを提供することができる。
【0068】
残響調整壁700は、壁の前面に空間を形成して配された音響透過性材料2と、音響透過性材料の背後に形成された前記空間に配された吸音性構造及び/又は反射性構造とを有する。例えば、音響透過性材料2の背後に吸音材701及び空気層702からなる吸音性構造を配することにより、吸音面を形成することができる。また、音響透過性材料2の背後に合板704からなる反射性構造を配することにより、強反射面を形成することができる。あるいは、音響透過性材料2の背後に反射性構造として空間A(背後材料を省略する)を配することにより、弱反射面を形成することができる。このようにして音響透過性材料の背後の材料を選択することにより、意匠性を考慮することなく自在の吸音特性を実現することができる。なお、吸音面の背後に、空気層はあってもなくても良いが、設けることにより吸音面の吸音性をより低音域まで拡張することができる。
【0069】
(マイクロホン用風防)
本発明の音響透過性材料は、その特殊な構造により、電気信号の直流成分に相当する風は効果的にブロックし、交流信号に相当する音響信号はその主旨に沿いロス無く通過させるハイパスフィルタのような機能があるので、効果的にマイクロホン用風防(windscreen)を構成することができる。マイクロホン用風防は、マイクロホンに対する風を遮るものであれば、その構造は特に限定されない。本発明の音響透過性材料は、テーバーこわさ、曲げ抗力、空隙率、厚みが所定の範囲であることにより、自立性及び音響透過性を両立できるが、これにより風切音を効果的に低減することができる。更に、当該材料が自立性を有することで、従来のような(スポンジ製やウレタン製の)充填型風防ではなく、球形・直方体・円錐形・球欠体型・流線型などの形態の表面に本発明の音響透過性材料を配することにより、中空構造の風防を構成することができる。
【0070】
中空構造の風防200の概略構成図を図5に示す。中空構造の風防200は、本発明に係る音響透過性材料により構成されるスクリーン部210と、防水保護用キャップ部220とを有する。このようにスクリーン部210と防水保護用キャップ部220とを組み合わせて風防200を構成する(図5(b))。このように構成して、防水保護用キャップ部220にマイクを挿入して使用する。
【0071】
防水保護用キャップ部220は、本発明に係る音響透過性材料から構成されるマイクロホンの集音部を覆う先端キャップ部221と、金属筒等の硬質の円筒形材料で構成されており、且つ、マイクロホンの胴体部に密着する胴体キャップ部222とを有する。また、胴体キャップ部222の周囲には、スクリーン部210の位置を定めるための円形鍔223が設けられていても良い。
【0072】
当該風防を用いたマイクロホン装置250は、円筒状の胴体部2511を有し、該胴体部の先端に集音部2512が形成されているマイクロホン251と、当該マイクロホンを覆う防水保護用キャップ部220と、少なくとも前記集音部2512を覆う中空構造のスクリーン部210と、前記スクリーン部210と、スクリーン内部に気密性を持たせるための気密ゴムパッキン253と、前記スクリーン部210と、防水用キャップ部220とを前記ゴムパッキンを介して固定する金属プレート254とを有する(図5(a))。
【0073】
また、本発明に係る音響透過性材料を用いる場合、上記のように自立性を利用した中空型の風防を構成することができるので、中でも特に、表面音圧測定用マイクロホンの風防として使用されることが好適である。本発明の音響透過性材料を用いることで、風速の大きな強風下でも表面の防風層がはためいたり、共鳴したりすることなく効果的に風の侵入を低減〜遮断することができるので、特に低音域の風防、強風下で使用する風防を構成するのに最も好適である。
【0074】
(円筒形風防付き表面音圧測定用マイクロホン装置)
図6は、本発明に係る円筒形風防付き表面音圧測定用マイクロホン装置300の概略構成図である。本発明に係る表面音圧測定用マイクロホン装置300は、枠体321と、当該枠体の上面に形成された音響透過性材料322とを有する風防320と、当該風防の内部に設けられたマイクロホン330とを有する。また、枠体321の外縁には、風を滑らかに流動させるため流線縁部323が設けられていてもよい。ここで、枠体321の形状は、特に限定されないが、例えば円筒形状等が挙げられる。また枠体321の高さhは特に限定されないが、これまでの研究(川上福司,稲本進,寺薗信一,井上保雄,佐野隆之「低周波音測定用の防水型風防の開発」日本音響学会研究発表会予稿集,2011.03,頁36,(1-12-23))から円形(球欠体の場合)や円筒の直径dには最適なバランスがあり高さh=10mmの場合はd≒70mm前後が最適であることがわかっている。低域まで風防効果を延長したい場合は、特に他の理由が無い限り、この基本バランス(高さh:直径d=1:7)を保ったままd,hを1オクターブ(低域まで効果延長)あたり倍増する形で大きくするのが好適である。
【0075】
一般的な用途では、筒の高さhは、1mm〜数10mmの範囲が好適であり、1mm〜50mmの範囲がより好適であり、10mm〜30mmの範囲が更に好適である。また高さhが、1mmより低い場合には風切音防止効果が十分に得られないため好ましくない。また高さhが数10cmより高い場合には、風防周辺部で空気の乱流により新たな風切音が発生したり、いわゆる障壁効果(防音塀効果)における経路差(障壁がある場合と無い場合の音源から受音点にいたる距離の差)が生じ、挿入損失が拡大したり、音源位置つまり入射角により異なることになり、結果として指向性が発生してしまったりするため好ましくない。このため、周辺部の形状は直角三角形や1/4円の断面を持つ粘土などの充填型傾斜材〜コーキング処理により図6の流線縁部323のように流線形の断面にすることが好ましい。この措置を講じた場合は、特に、枠体の高さを10mm前後、或いはそれ以上とすることによって、マイクロホンと風防との間に適切な空間が形成されて風切音が顕著に低減されることが確認されている。また、本発明に係る枠体321を複数重ね合わせることによって、当該高さを調整することができる(図6(a)〜(c))。
【0076】
枠体の形状は円筒状であることが好適であり、円筒の直径dは、特に限定されないが、上記のように高さhに応じ略相似形態を保ちつつ用途(低域の風切音低減限界)に合わせ変化させることが好ましい。一般的には5mm以上が好適であり、30mm以上がより好適であり、70mm以上が更に好適であるが、径の拡大に応じて高さhも大きくするのが好ましい。円筒径の上限は特に限定されないが、例えば、200mm程度である。
【0077】
本発明に係る表面マイクロホン装置300は、自動車や、飛行機などの機体や車体の表面Bに貼り付けて移動中の騒音を測定することができるほか、ダクト管壁表面に設置して、風切音の影響を受けずにダクト伝播騒音を収音できるため、ANC(アクティブノイズコントロール)などに用いた場合、効果的な制御・大きな騒音低減効果を提供することができる。
【0078】
本発明に係る音響透過性材料は、マイクロホン又はスピーカの前面に配置される保護用グリルとして使用することができる。また、スピーカに前面に配置する場合、スピーカのみならず、前面バッフルに形成されているバフレスポート等の穴や、可変アッテネータのノブを隠す化粧板として使用してもよい。
【0079】
また、音響透過性及び自立性を利用して、本発明に係る音響透過性材料を映画用のスクリーンとして使用することができる。この場合、本発明に係る音響透過性材料により、前面投影型の映写投影面を形成して、当該音響透過性材料の背後にスピーカを配置して使用することが好適である。このようにして、スクリーンの背面にスピーカを配置しても、本発明に係る音響透過性材料を用いることで遮音されず、音が透過するため、音の定位性が高まる。
【0080】
本発明に係る音響透過性材料を利用して、低音域の吸音構造を構築することができる。すなわち、当該吸音構造は、本発明の音響透過性材料、前記音響透過性材料の背後に配置された多孔質吸音材料からなる吸音材、及び、前記吸音材の背後に配置された空気層を有する。従来のグラスウール単体では低音域の吸収は難しかったが、このような構造を有することによってさらに低音域までの吸音が可能となる。なお、多孔質吸音材料としては、グラスウール、発泡ウレタン等が挙げられる。
【0081】
密閉型、或いはこれに準じる形態のスピーカボックスを有するスピーカにおいて、従来はグラスウールなど中高音域の吸音にしか寄与しなかったボックス内の吸音材に代わり、本発明の音響透過性材料で中空構造、或いはその内部をグラスウールなどの多孔質吸音材で充填した構造を採用することにより、主として低音域において大きな吸音力を有し前面から放出される音の質(音質)、量(音量)の向上を図ることができる。ここで、低音域とは、スピーカにおいて放出される音の音域において、特に、スピーカユニット(例えばウーハユニット)前面から出る音(ここでは仮に順相音とする)と、スピーカユニットの背面から出る音(ここでは仮に逆相音とする)とで干渉による打ち消しあいが問題となる音域を意味し、より具体的には、例えば500Hz以下の音域を意味する。このように低音域においては、スピーカ背面から放出される逆相音は、密閉型スピーカボックス内では、音の反射や回り込みによって、スピーカユニットのコーン等の要素を介して前面に放出されるといわれている。この場合には、スピーカユニット前面から放出される順相音と、逆相音が交わり、音を打ち消しあうことになる。本発明に係る吸音構造をスピーカボックス内に配置することによって、逆相音が吸音されるため、順相音との干渉による打消しを防止して、音の量感及び質を高めることが可能となる。
【0082】
より具体的には、スピーカボックス、及び、ウーハユニットを有するスピーカにおいて、本発明の音響透過性材料、前記音響透過性材料の背後に配置された多孔質吸音材料からなる吸音材、及び、前記吸音材の背後に配置された空気層を有する吸音構造を前記スピーカボックス内に備える。当該吸音構造は、前記スピーカボックスの内壁に設けられており、スピーカの内壁から、空気層、吸音材、音響透過性材料の順に積層されている。
【0083】
その他、本発明に係る音響透過性材料はその音響透過性を利用して、様々な分野での使用が可能である。
【実施例】
【0084】
実施例1
ステンレスAISI316Lの線径30μmの繊維を使用し、それを均一になるように重ね合わせて綿状のウェブを作成した。このウェブを目付けが950g/m2になるように量り取り、厚みが800μmになるように平板間で圧縮した。この圧縮し、板状になったものを焼結炉に入れ、真空雰囲気中で1100℃に加熱し、焼結させサンプルとした。
【0085】
実施例2
ステンレスAISI316Lの線径6.5μmと12μmの繊維を使用し、それぞれを実施例1と同様にウェブを作成した。このウェブを7:3の重量比で表裏に合わせる。この表裏を合わせたウェブを目付けが850g/m2になるように量り取り、厚みが400μmになるように平板間で圧縮した。これらの条件以外は実施例1と同様の工程でサンプルを作成した。
【0086】
実施例3
銅の線径30μmの繊維を使用し、実施例1と同様にウェブを作成した。このウェブを目付けが1100g/m2になるように量り取り、厚みが800μmになるように平板間で圧縮した。この圧縮し、板状になったものを焼結炉に入れ、真空雰囲気中で900℃に加熱し、焼結させサンプルとした。
【0087】
実施例4
アルミニウムの線径30μmの繊維を使用し、実施例1と同様にウェブを作成した。このウェブを目付けが800g/m2になるように量り取り、厚みが1000μmになるように平板間で圧縮した。この圧縮し、板状になったものを焼結炉に入れ、水素雰囲気中で800℃に加熱し、焼結させサンプルとした。
【0088】
比較例1
アルミニウムを原料とし、溶融紡糸法で線径100μmの繊維を作成し、この繊維の場合は、繊維作成時に綿状になるため、その綿状のものを目付けが1650g/m2になるように量り取り、厚みが5000μmになるようにロール間で圧縮しサンプルとした。
【0089】
比較例2
アルミニウムの線径100μmの繊維を使用し、実施例1と同様にウェブを作成した。このウェブを目付けが1500g/m2になるように量り取り、厚みが1000μmになるように平板間で圧縮した。この圧縮し、板状になったものを焼結炉に入れ、真空雰囲気中で900℃に加熱し、焼結させサンプルとした。
【0090】
比較例3
フッ素繊維シート「トミーファイレックF」R-250 (新巴川製紙所 製)をサンプルとした。
【0091】
比較例4
ステンレス繊維シート「トミーファイレックSS」SS8-50M (新巴川製紙所 製)をサンプルとした。
【0092】
【表1】
【0093】
(自立性)
5cm角の試料の端部を持って逆の端部を持ちあげて、折曲がらない場合には自立性「有」とし、折れ曲がる場合には自立性「無」として評価した。
【0094】
(テーバーこわさ・曲げ抗力)
テーバーこわさ試験(JIS−P8125)に従って測定した。
【0095】
(厚み)
マイクロメーターにて測定した。
【0096】
(空隙率)
試料の外寸から算出した体積と、試料全体の質量と繊維の比重から、下記の式より空隙率を算出した。
空隙率(%)=(1−音響透過性材料の重量/(音響透過性材料の体積×繊維の比重))×100
【0097】
(音響透過性)
測定方法1
本願明細書中で説明した測定方法1に基づいて、音響透過性を評価した。伝送周波数特性については連続正弦波スイープ・FM短音・定常態ピンクノイズ・FM震音を用いるなど種々の方法があるが、ここでは図7に示すように、有効径10数cmのスピーカaを取り付けた約2250cm3の発音装置から連続正弦波スイープ音を放出し、その前面に、各実施例及び各比較例の音響透過性材料bを設置して、スピーカa前面より約1500mmの位置に設置したマイクcで測定される音圧応答の実効値を伝送周波数特性としレベルレコーダ等に記録した。その状態で音響透過性材料bの有り、無しの変化を挿入損失△(dB)として測定・確認した。スピーカaから放出した音源には、20Hzから20kHzまで、周波数変調を掛けない連続正弦波スイープを信号として用いた。ここで使用する音は、バックグラウンドノイズに対してS/N比で20dB以上とした。挿入損失は下記の式により求めた。
挿入損失△(dB)=試料の無い時のマイクロホンの周波数応答(dB)−試料を置いた時の周波数応答(dB)
【0098】
ここで、音の透過性は、挿入損失△(dB)が中心周波数63Hz〜8kHzの各1/1オクターブ帯域で2dB以内の場合、または、中心周波数31.5Hz〜16kHzの各1/3オクターブ帯域で3dB以内の場合は「良」、それぞれ5dB以内、6dB以内のいずれかである場合は「やや劣る」、それぞれ5dB越え、及び6dB越えである場合には「劣る」とした。また、連続正弦波スイープを用いたので上記1/1及び1/3オクターブ帯域で評価した。
【0099】
測定方法2
スピーカ‐マイク軸と、音響透過材料の法線方向のなす角度θ=0°,15°おける音響透過性の評価を、当該角度及び音源としてFM短音を用いた以外は上記測定方法1と同じ条件で、下記の音響透過材料P〜Rを用いて行った。結果を図10に示した。ここで使用した音響透過性材料P〜Rの詳細は以下の通りである。
【0100】
P: 実施例1の音響透過性材料を用いた。
Q: 空隙率が74%、厚さが1.10mmとした以外は実施例1と同様の方法で作成した音響透過性材料を用いた。
S: 実施例2の音響透過性材料を用いた。
R: 空隙率が65%、厚さが1.03mmとした以外は実施例1と同様の方法で作成した音響透過性材料を用いた。
【0101】
なお、上記のQ、Rと表記したサンプルについては、音響透過性材料に加えて、金属メッシュを張り付けて補強した材料を使用した。
【0102】
測定方法2による音響透過性評価の結果、試料Pにおいては、θ=15°の場合であっても、高い音響透過性を示すことが分かった。すなわち、実施例1の材料は、音響透過性において、音響の入射角度の依存性がほとんど見られないことが分かった。
【0103】
(吸音構造の実施試験:音響透過性材料(TTP)有りと無しによる背後吸音材(GW)の吸音率α0の比較)
試料は約1mm厚の音響透過性材料(実施例4)及びグラスウール(GW)を用いて吸音試験を行った。結果を図9に示す。ここで、横軸は周波数(Hz)、縦軸は垂直直入射吸音率α0である。
[a]は30mm厚グラスウール(GW)単体の音響透過性材料(TTP)無し(1)・有り(2)のα0実測値を示す。
[b]は25mm厚グラスウール(GW)単体のTTP無し(1’)・有り(2’)のα0実測値を示す。ここで本構造においては、TTPとGWの間に空気層5mmを形成した。
これらの結果によれば、表面に本発明の音響透過性材料(TTP)を配した(2)(2’)共に、GW単体の(1)(1’)と同等、或いはそれ以上の値を示し、全音響透過性を有していることを示唆している。因みに、(0)はTTP単体のα0で0.2以下、反射性の部位として残響可変に利用できる。
【0104】
(風切音低減試験)
図11(A)に示した系統で、風切音低減試験を行った。なお、ここでは風速は、2.7m/sとした。ここで、風切音低減効果評価試験では、室内の風の跳ね返りを無視できる程度に壁から離れた位置において送風機(FAN)から風を送り、風防無しで観測されるマイクロホン出力応答に対して、当該音響透過性材料で製作した風防を装着した状態で測定した応答の低減度S(dB)を1/1オクターブ帯域ごとに求め、これを風切音低減効果△S(dBA)と示すことにした。結果を図11(B)に示した。また、実施例1〜4、比較例1〜4の試料においても(b1)に示す系統で同様に風切音低減試験を行った。表1中の評価で、「優」は、Δ30dBA以上、「良」はΔ20dBA以上、「劣る」は、Δ20dBA未満とした。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明によれば、自立性を有しつつ、高い音響透過性を有する材料が得られるので、吸音性の壁面構造の表面部材などとして使用することができる。産業上の利用可能性の一例として、マイクロホン用風防、保護用グリル、音響透過性映写スクリーン及びスピーカを示した。
【符号の説明】
【0106】
1 : 音響調整面構造
2 : 音響透過性材料
3 : 音響調整機構
4 : 骨格
41 : 空間
42 : 支柱
421: 固定面
6 : 内装構造
300 : 表面音圧測定用マイクロホン装置
600 : 残響可変壁
700 : 残響調整壁
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維材料が交絡してなる音響透過性材料に関し、より詳細には自立性を有する音響透過性材料に関する。更に、本発明は、当該音響透過性材料を応用した建築用途を含む音響調整面構造、マイクロホン用風防、保護用グリル、音響透過性映写スクリーン及びスピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
建築、電子機器等の様々な分野において、音響を透過する材料が求められている。音響透過性材料としては、例えばスピーカのサランネットなどのメッシュ構造物や、建築壁面に用いられる有孔板などが挙げられる。
【0003】
これら従来の音響透過性材料とは異なり、外見上は、硬い質感を有し、且つ開口が無いか、或いはあっても視認できないため透過性ではないように見えるものの、音響をほぼ完全に透過する材料として、音響透過性の板状部材やシート状部材が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、板状の音響透過性材料として、硬質板に、外観上視認できない程度の微細孔を面積当たり多数設けることにより、音響透過性が得られることが報告されている(特許文献1、2、非特許文献1)。当該音響透過性材料により、硬質の音響透過性材料が得られるため、映画のスクリーンとして応用し、スクリーン背面にスピーカを設置して、臨場感を高めることなどが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−59658号公報
【特許文献2】特開2010−210778号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】中井,川上,和田,佐野「多孔板の音響特性」,日本音響学会 建築音響研究会資料(AA2009-18), 2009.03.11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
建築材料等の用途において、音響透過性材料を立設した場合に、補助機構などを設けなくとも、音響透過性材料そのもの強度によって立った状態を保持する自立性が求められることがある。特許文献1の音響透過性材料によれば、音響透過性材料に対して自立性を持たせようとすると、音響透過性が損なわれる問題があった。また、特許文献2、非特許文献1の音響透過性材料によれば、自立性を有するものの、微細孔を多数設ける必要があるため特殊穿孔技術や熟練工養成により、製造コストが高くなるという問題があった。そこで本発明は、繊維を交絡してなる材料を用いて、自立性を有すると共に高性能な音響透過性を有する、音響透過性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、自立性と音響透過性を両立する繊維材料を検討した結果、自立性を担保しようとして繊維材料に用いる繊維量を多くすることにより、繊維の密度が高くなりすぎて音響透過が妨げられてしまうほどに密に繊維が交絡してしまうことに問題が所在することを見出した。
【0009】
つまり、材料境界面における音響エネルギー反射率|r2|(ここにrは音圧反射率)は、以下の式(1)で示される。
【数1】
【0010】
音響エネルギー反射率|r2|は材料表面のノーマル音響インピーダンスZnがZn=ρc(ρcは空気の特性インピーダンス)、或いは、固有音響インピーダンスζ(Znをρcで割った値)がζ≡Zn/(ρc)=1の時、最小値|r2|=0となり、入射音エネルギーは全て材料内部に進入、みかけ上、吸音率α=1−|r2|は最大値1となる(子安勝「吸音の基礎事項」音響技術No.71/sep.1990)。この条件、Zn=ρcは材料の条件が空気に等しいということであり、材料に含まれる空気の量、即ち空隙率(ポロシティ=porosity(多孔度);材料の見かけの容積に対する内部に含まれる空気量。具体的な定義は後述)が大きいほど材料内への入射音エネルギーの量は大きくなる。従って、材料内部の条件、例えばflow resistivity(単位厚さ流れ抵抗) やtortuosity(迷路度)など(中川 博「音響材料について(その3)」日東紡エンジニアリング技術ニュース)の条件が等しければ、材料内部で吸収されるエネルギーEhも一定となり、空隙率が大きいほど背後に抜ける音響エネルギーの量、つまり透過率τ(τ=|t|2 =Et/Ei;入射エネルギーEiに対する透過エネルギーEtの割合。tは音圧透過率)を最大(τ≒1)、つまり、スピーカやマイクロホンの直前に設置した場合の挿入損失(試料が無いときとある時のレベル差(dB))を最小にでき、全音響透過性に近い条件が実現できることがわかったわけである(図12参照)。
【0011】
更に、自立性を有する材料においては、十分な音響透過性を得るためには、使用する材料の空隙率だけでなく、その厚みとの関係が重要であることを見出し、更に、空隙率が高く、所定値以下の厚みの材料であれば、十分に高い音響透過性を発現することを見出した。
【0012】
すなわち、本発明(1)は、繊維が互いに交絡してなる音響透過性材料であって、
前記音響透過性材料は、テーバーこわさが5mN・m以上、曲げ抗力が100mN以上、空隙率が50%以上、且つ、厚みが3mm以下であることを特徴とする音響透過性材料である。
【0013】
本発明(2)は、前記繊維が、金属繊維である、前記発明(1)の音響透過性材料である。
【0014】
本発明(3)は、挿入損失が63Hz〜8kHzの各1/1オクターブ帯域で5dB以下である、前記発明(1)又は(2)の音響透過性材料である。
【0015】
本発明(4)は、前記音響透過性材料が、金属繊維を圧縮成形して得られる材料である、前記発明(1)〜(3)のいずれか一つの音響透過性材料である。
【0016】
本発明(5)は、前記発明(1)〜(4)のいずれか一つの音響透過性材料(例えば、図1における音響透過性材料2)と、
その背面に設置された吸音性構造及び/又は反射性構造を有する音響調整機構(例えば、図1における音響調整機構3)と
を備える、音響調整面構造(例えば、図1における音響調整面構造1)である。
【0017】
本発明(6)は、前記音響調整機構が、吸音性構造及び/又は反射性構造の配置比率を変化させることが可能な可変音響調整機構である、前記発明(5)の音響調整面構造。
【0018】
本発明(7)は、建物の壁面及び/又は天井の内装における音響調整面構造であって、
前記音響透過性材料が、前記建物の壁面及び/又は天井との間に空間が形成されるように配置され(例えば、図3における音響透過性材料2)、
前記可変音響調整機構(例えば、可変音響調整機構610)が、前記空間に配された、開閉可能に構成されたカーテン又は吸音ブラインドを有し(例えば、カーテン613)、
前記カーテン又はブラインドの開閉よって面の吸音特性を調整する、前記発明(6)の音響調整面構造(例えば、残響可変壁600)である。
【0019】
本発明(8)は、建物の壁面及び/又は天井の内装における音響調整面構造であって、
前記音響透過性材料が、前記建物の壁面及び/又は天井との間に空間が形成されるように配置され(例えば、図4における音響透過性材料2)、
前記音響調整機構は、前記空間に配された、吸音性構造及び/又は反射性構造を有する(例えば、吸音材701、空気層702、合板704、空間A)、前記発明(5)の音響調整面構造(例えば、残響調整壁700)である。
【0020】
本発明(9)は、前記発明(5)〜(8)のいずれか一つの音響調整面構造を有する、建築物の内装構造である。
【0021】
本発明(10)は、マイクロホンの風切音を軽減するためのマイクロホン用風防において、
前記風防が、マイクロホンに対する風を遮る位置に配された音響透過性材料を有し、
前記音響透過性材料が、前記発明(1)〜(4)のいずれか一つの音響透過性材料である、マイクロホン用風防である。
【0022】
本発明(11)は、マイクロホン又はスピーカの前面に配置される保護用グリルにおいて、
前記グリルが、前記発明(1)〜(4)のいずれか一つの音響透過性材料で構成されている、保護用グリルである。
【0023】
本発明(12)は、前面投影型の映写投射面を有し、該映像投射面の背後にスピーカを配置して音が出るように構成して使用される音響透過性映写スクリーンにおいて、
少なくとも前記映像投射面が、前記発明(1)〜(4)のいずれか一つの音響透過性材料で構成されている、音響透過性映写スクリーンである。
【0024】
本発明(13)は、スピーカボックス、及び、ウーハユニットを有するスピーカにおいて、
前記発明(1)〜(4)のいずれか一つの音響透過性材料、前記音響透過性材料の背後に配置された多孔質吸音材料からなる吸音材、及び、前記吸音材の背後に配置された空気層を有する吸音構造を前記スピーカボックス内に備え、前記吸音構造が前記スピーカボックスの内壁に設けられていることを特徴とする、スピーカである。
【0025】
本発明(14)は、前記スピーカが、密閉型である、前記発明(13)のスピーカである。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る音響透過性材料によれば、テーバーこわさが5mN・m以上、曲げ抗力が100mN以上、空隙率が50%以上、且つ、厚みが3mm以下とすることによって、自立性を有すると共に高性能な音響透過性を有する材料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1(a)は本発明の音響調整面構造の断面図であり、図1(b)は本発明の音響調整面構造の分解図である。
【図2】図2は、音響調整面構造を建築内装に使用した場合を示す概略構成図である。
【図3】図3は、外観が変化しない残響可変壁600の概略構成図である。
【図4】図4は、外観が変化しない残響調整壁700の概略構成図である。
【図5】図5は、音響透過性材料を用いた球形風防(音場マイクロホン用)の概略構成図である。
【図6】図6は、円筒形風防付き表面音圧測定用マイクロホン装置の概略構成図を示す。
【図7】図7は、測定方法1における音響透過性を評価するための挿入損失△(dB)測定方法の概要を示す。
【図8】図8は、測定方法2に関する補助説明図である。
【図9】図9は、音響透過性材料(TTP)有りと無しによる背後吸音材(GW)の吸音率α0の比較試験の結果を示す。
【図10】図10は、各試料の音響透過性を測定方法2において測定した結果を示す。
【図11】図11(A)は風切音低減試験を行った系統の概略を示し、図11(B)は風切音低減試験の結果を示すグラフである。
【図12】図12は、背後に抜ける音響エネルギーの量に関する補足説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、繊維が互いに交絡してなる音響透過性材料である。すなわち、本発明の音響透過性材料は、テーバーこわさが5mN・m以上、曲げ抗力が100mN以上である。当該範囲であることによって音響透過性材料は、自立性を有する。また、このように、自立性を有する音響透過性材料において、空隙率を50%以上、厚さ3mm以下に設定することで、高い音響透過性を有する材料が得られる。
【0029】
本発明の音響透過性材料のテーバーこわさは、5mN・m以上であり、8mN・m以上が好適であり、10mN・m以上がより好適である。テーバーこわさの上限値は特に限定されないが、例えば、100mN・mである。当該範囲のテーバーこわさを有することにより、自立性を有する材料が得られる。テーバーこわさは、JIS−P8125に従って測定する。なお、テーバーこわさの値は、当業者の知識に基づいて、使用する繊維の硬さや、音響透過性材料の密度や、圧縮成形における圧力によって調整することができる。
【0030】
本発明の音響透過性材料の曲げ抗力は、100mN以上であり、150mN以上が好適であり、200mN以上がより好適である。曲げ抗力の上限は特に限定されないが、例えば、2000mNである。当該範囲のテーバーこわさを有することにより、自立性を有する材料が得られる。曲げ抗力は、JIS−P8125のテーバーこわさ試験に従って測定して得られた値である。なお、曲げ抗力の値は、当業者の知識に基づいて、使用する繊維の硬さや、音響透過性材料の密度や、圧縮成形における圧力によって調整することができる。
【0031】
本発明の音響透過性材料の空隙率は、50%以上であり、60〜90%が好適であり、70〜90%がより好適である。空隙率の上限は特に限定されないが、例えば、95%である。繊維が交絡してなる材料において、空隙率が当該範囲内に含まれる材料を選択することによって、自立性を有しつつ、音響透過性が担保されるという効果を奏する。また好適な範囲、より好適な範囲においては空隙率が高すぎないため、壁材などとして用いた場合にも、音響透過性材料を介して反対側が透視できないようにすることができる。
【0032】
音響透過の角度依存性を考慮すると、音響透過性材料の空隙率は、80〜90%であることが特に好適である。このような範囲とすることで、材料に対する音の入射角度に依存ほとんど依存しない、高い音響透過性を発揮することができる。
【0033】
空隙率は、音響透過性材料の体積に対して繊維が存在しない空間の割合で、音響透過性材料の体積と重量及び繊維素材の比重から算出される。
空隙率(%)=(1−音響透過性材料の重量/(音響透過性材料の体積×繊維の比重))×100
なお、空隙率の値は、当業者の知識に基づいて、使用する繊維の太さ、量や、繊維が交絡した材料の密度や、圧縮成形における圧力によって調整することができる。
【0034】
ここで、音響透過性材料の厚さは、3mm以下であり、50μm〜2000μmがより好適であり、100μm〜1500μmが更に好適であり、500μm〜1000μmが特に好適である。上記の空隙率を有する材料において、当該範囲の厚みとすることにより、高い音響透過性を有する材料が得られる。
【0035】
本発明に係る音響透過性材料は、繊維を交絡させてなる。音響透過性材料に用いられる繊維としては、金属繊維、又はフッ素繊維が挙げられる。これらの中でも、金属繊維を用いることにより、自立性を担保しやすくなる。
【0036】
金属繊維としては、特に限定されないが。ステンレス、アルミニウム、真ちゅう、銅、チタン、ニッケル、金、白金、鉛等の金属材料を素材とする繊維から選択される1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0037】
フッ素繊維としては、熱可塑性フッ素樹脂から選択されることが好適であり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)、パーフルオロエーテル(PFE)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー(FEP)、テトラフルオロエチレンとエチレン又はプロピレンとのコポリマー(ETFE)、フッ化ビニリデン系樹脂(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)、フッ化ビニル系樹脂(PVF)が挙げられる。
【0038】
また、本発明の音響透過性材料に用いられる繊維の径は、特に限定されないが、例えば、0.1〜100μmが好適であり、0.5〜50μmがより好適であり、1〜40μmが更に好適である。このような範囲の繊維径とすることにより、繊維の強度を高めることができると共に、適度な音響透過性を得やすくなる。
【0039】
当該音響透過性材料は、繊維を圧縮成形する方法や、繊維を含んで構成される原料を湿式抄造法で抄紙することによって得られる。
【0040】
圧縮成形により、金属繊維又はフッ素繊維を用いて本発明の音響透過性材料を製造する場合には、まずは繊維をまとめ、予備的に圧縮等することでウェブを形成する。または繊維間の結合を付与するために繊維間にバインダーを含浸させてもよい。かかるバインダーとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤などの有機系バインダーの他に、コロイダルシリカ、水ガラス、ケイ酸ソーダなどの無機質接着剤を用いることができる。なお、バインダーを含浸する代わりに、繊維の表面に熱接着性樹脂を予め被覆しておき、金属繊維の集合体を積層した後に加熱し接着してもよい。バインダーの含浸量は、シートの面重量1000g/m2に対して、5〜130gが好適であり、20〜70gがより好適である。
【0041】
金属繊維の集合体を加熱下で加圧してシートが形成される。加熱条件は使用するバインダーや熱接着性樹脂の乾燥温度や硬化温度を考慮して設定されるが、加熱温度は通常50〜1000℃程度である。加圧圧力は繊維の弾力性、音響透過性材料の厚さ、音響透過性材料の光透過率を考慮して調節される。なお、スプレー法によりバインダーを含浸させる場合には、スプレー処理する前に金属繊維層をプレス加工等により所定厚さに成形するのが好ましい。
【0042】
金属繊維を用いた場合の音響透過性材料は、金属繊維を含んで構成されるスラリーを湿式抄造法によりシート形成することができる。なお、金属繊維を含むスラリーを製造する場合、金属繊維の水中での分散性が悪くなることがあるので、増粘作用のあるポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の高分子水溶液を少量添加してもよい。また、抄造方法は、例えば、長網抄紙、円網抄紙、傾斜ワイヤ抄紙等、必要に応じて種々の方法を採用することができる。
【0043】
湿式抄造法を用いる際には、網上の水分を含んだシートを形成している前記金属繊維を互いに交絡させる繊維交絡処理工程を経て製造されることが好適である。ここで、繊維交絡処理工程としては、例えば、抄紙後の金属繊維シート面に高圧ジェット水流を噴射する繊維交絡処理工程を採用するのが好ましく、具体的には、シートの流れ方向に直交する方向に複数のノズルを配列し、この複数のノズルから同時に高圧ジェット水流を噴射することにより、シート全体に亘って金属繊維同士を交絡させることが可能である。
【0044】
また、金属繊維材料の製造方法は、上述した湿式抄造工程後、得られた金属繊維材料を真空中または非酸化雰囲気中で金属繊維の融点以下の温度で焼結する焼結工程を含むことが好ましい。金属繊維が交絡しているので、焼結後の金属繊維材料の強度を高めることが可能となる。
【0045】
フッ素繊維を用いた場合の音響透過性材料の製造方法は、フッ素繊維と自己接着機能を有する物質とを湿式抄造法により混抄し乾燥して得たフッ素繊維混抄紙材料を、フッ素繊維の軟化点以上で熱圧着してフッ素繊維の繊維間を熱融着させた後、自己接着機能を有する物質を溶媒により溶解除去し、必要により再乾燥することにより製造することができる。ここで、自己接着機能を有する物質としては、通常製紙用として用いられる木材、綿、麻、わら等の植物繊維からなる天然パルプ、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエステル、芳香族ポリアミド、アクリル系、ポリオレフィン系の熱可塑性合成高分子からなる合成パルプや合成繊維、更に天然高分子や合成高分子からなる製紙用紙力増強剤等を用いることができるが、自己接着性の機能があってフッ素繊維と混在して水に分散できるものであればこれらに限定されるものではない。
【0046】
(物性)
音響透過性
本発明に係る音響透過性材料は、以下の測定方法1に従い測定された周波数特性の差(以下、「挿入損失」とする。)が中心周波数63Hz〜8kHzの各1/1オクターブ帯域で5dB以内(好適には2dB以内)となる性質を有することが好適である。なお、音響透過性材料は、中心周波数31.5Hz〜16kHzの各1/3オクターブ帯域で6dB以内(好適には3dB以内)、であることが好適である。連続正弦波スイープを用いる場合は1/3オクターブ帯域で評価する場合に準じるものとする。
【0047】
音響透過性に関する評価方法としては、種々の方法が想定される。より具体的には、無響室、或いは高度吸音性の室に、マイクとスピーカを前者が後者に対し直接音領域(直接音が間接音(反射音・残響音)より十分大きい音源近領域)になるように対向して設置し、その間に当該試料を基準線(マイクとスピーカを結ぶ線)に直角に置いた時と、試料を置かない時の、スピーカに対するマイクの応答のレベル差(dB)を挿入損失△(dB)として評価する。因みに、スピーカから発音する信号は正弦波・ピンクノイズ・震音(FM音)のいずれでも良く、また継続時間についても連続・短音のいずれでも良く、更には、帯域制限するためのフィルタは音源側でも受音側でも、或いは短音でも連続周波数スイープ音でも良い。同時に、試料の位置もスピーカ直前・マイク直前・両者中間のいずれでも良く、これらは測定系を線形系とみなす限りほぼ同一の結果となる性質のものである。因みに、ここでは試料は基準線に直角において評価するよう規定したが、必要に応じて試料を基準線に対し角度を持たせて設置し、その角度依存性を評価することもできる。なお、測定方法により結果に違いが生じる場合には、明細書における音響透過性においては、下記の測定方法1の方法により得られた結果を優先することとする。
【0048】
測定方法1:挿入損失を最も簡便に測定する方法としては、無響室、またはこれに準じる高度吸音性の室において、スピーカとマイクを結ぶ軸(以下「スピーカ‐マイク軸」とする。)と、音響透過材料の法線方向のなす角度θ=0°(図7のような状態を角度θ=ゼロとする。)として、20Hzから20kHz間の連続正弦波スイープ音(バックグラウンドノイズに対してS/N比で20dB以上の音)を放射し、このスピーカから数10cm〜数m(好適には30cm〜5m程度)離隔した位置に設置されたマイクロホン、または騒音計などで受音した後、レベルレコーダなどに記録した時の周波数応答特性と、スピーカ或いはマイクロホンの直前、または両者の中間に該部材を設置した場合の周波数応答特性の差を測定し、これを挿入損失△(dB)とする。
【0049】
本発明に係る音響透過性材料は、以下の測定方法2に従い測定された挿入損失により評価することで、音の入射角の依存性を評価することができる。
【0050】
測定方法2:スピーカ‐マイク軸と、音響透過材料の法線方向のなす角度θ(図7のような状態を角度θ=ゼロとする。)とし、θ=0〜90度の任意の角度ごとに挿入損失△(dB)を測定したり、代表角度θiごとに隣接±△θ内に含まれるn個の挿入損失のエネルギー平均値(dB平均)をもってその角度ごとの平均挿入損失△(―)i(dB)としたりすることもできる(図8)。これにより角度による挿入損失の依存性を評価できる。例えば、i=15度,45度,75度の各角度の隣接±10度ごとの3角度のエネルギー平均値(dB平均)をとる場合は、下記式(a)〜(c)又は(d)〜(f)により求めることができる。
【数2】
【数3】
(上記式(e)〜(f)において、L’5、L5等はそれぞれθ=5度における該部材を設置した時のマイクの周波数応答(dB)、設置前の周波数応答(dB)である。)この例では、様々な角度から評価することができるので、本発明に係る材料の評価には好適である。
【0051】
風切音低減効果
本発明に係る風防は、風切音低減効果評価方法において、風速2.7m/sの風に対し、1/1オクターブ帯域でΔ20dBA以上の風切音低減効果を有することが好適である。ここで、風切音低減効果評価試験では、無響室において送風機などから2.7m/sの風速(風切音の発生が認められ、または風切音の低減が観測できる範囲)で風を送り、風防無しで観測されるマイクロホン出力応答に対し、当該風防を装着した状態で測定した応答が騒音レベル(dBA)でS(dBA)低減した場合、風切音低減効果△S(dBA)とする。
【0052】
(建築物の内壁に用いられる音響調整面構造)
図1は、本発明の音響調整面構造の概略構成図である。図1(a)は、本発明の音響調整面構造の断面図であり、図1(b)は、本発明の音響調整面構造の分解図である。本発明の音響調整面構造1は、化粧板として用いられる板状に成形された上記の音響透過性材料2と、当該音響透過性材料の背後に配された吸音性構造及び/又は反射性構造を有する音響調整機構3とを有する。音響調整面構造の化粧板として本発明の音響透過性材料を使用することによって、音響透過の特性のみならず、その材料自体が自立性を有するため表面は硬質無孔板と同等の質感を呈し、いわゆる「固い吸音材」の成果を提供し、美術館の壁面などへ適用して静謐な空間を構成することができる。また、必要に応じては当該音響透過性材料の背後に、ハニカム構造やエクスパンドメタル等の金属メッシュなど音響透過性に影響が及ばないような材料・構造により補強を行っても良い。
【0053】
音響調整機構3における吸音性構造は、例えば、吸音材を配置することによって実現できる。吸音材としては、公知の材料を用いることができるが、例えば、グラスウール、ニードルフェルト、ウレタンフォーム、スポンジ、岩綿板等を用いることができる。また、吸音性構造は、吸音材及び該吸音材の背後に配置された空気層を有していても良い。このように空気層を設けることによって、低音域まで吸音力を拡張することが可能となる。
【0054】
音響調整機構3における反射性構造は、例えば、何も配置しない又は反射材を配置することによって実現できる。反射材としては、公知の材料を用いることができるが、例えば、合板、石膏板、コンクリート板、フレキシブルボード等、孔が形成されていない板が挙げられる。
【0055】
これらの音響調整面構造は、その構造を支えるため、音響調整機構3を収納する空間41と、音響透過性材料2を固定するための固定面421が形成された支柱42と、を有する骨格4を更に有していることが好適である(図1(b))。このようなパネル化により、例えば鳴き竜のような音響障害が起きている室に後付けで簡易に取り付け、問題解決を図ることができる。
【0056】
また、骨格4が設けられている場合、音響調整面構造1は、骨格4と、当該骨格4の空間41内に収納された音響調整機構3と、骨格の支柱42の固定面421に装着された音響透過性材料2とを有する。骨格4には、必要に応じて中間に胴縁43や間柱44を設け全体を補強しても良い(図2参照)。この場合も上記と同様、吸音材の背後に適宜、空気層を設けても良い。
【0057】
本発明の音響調整面構造の作用としては、音は、本発明の音響調整面構造に到達して、音響透過性材料透過し、吸音性構造に到達して吸収される、又は、反射性構造に到達して反射される。この際、本発明の音響透過性材料を用いることで、壁面表面での音の跳ね返りを防ぐことができるため、音響透過性材料の背後に配置された物の音響特性を反映させやすくなるため、オフィスビルの会議室の音響障害を簡易に解決できる音響改善パネルや、住宅のオーディオルーム・AVルームなどにおける音場調整パネルとして有効に利用することができる。
【0058】
本発明の音響調整面構造1は、例えば、建築物の内装構造として使用することにより従来に無かった「固い吸音面」を提供し、平坦で硬質の内装面が必要な空間を効果的に吸音処理することができる。
【0059】
図2は、本発明の音響調整面構造1を使用した建築物の内装構造の概略構成を示す図である。内装構造6は、音響調整面構造1が横に並べられた構造を有し、必要に応じて中間に胴縁43や間柱44を設け全体を補強しても良いし、また上記のように吸音材の背後に空気層を設けて低域側へ吸音力を伸ばしても良い。
【0060】
内装構造6は、例えば、壁面を構成することができ、音響調整面構造1の高さを、壁面の床端Fから天井端Rまでの長さとしてもよい。本発明の音響透過性材料を用いることでこのように連続して形成される面が大きくなる場合であっても、自立性を有するため施工しやすく、また、施工後もシワやタルミが形成されにくくなる。
【0061】
当然のことながら、当該音響調整面構造の表面は連続していても良い。中間に本発明の音響透過性材料を用いた全く同じ表面を持ち、且つ背後に吸音材を持たない反射性の構造(図9(0)参照)、或いは表面化粧材としての本発明の音響透過性材料の背後に合板や石膏板などの材料を置いた反射性の構造、などの面を配して室内の総吸音力を調整することにより、室内意匠を全く変えることなく室の用途に応じた最適な残響特性を提供することができる。
【0062】
また、内装構造6の背後吸音材を省略し、図3のように表面材、即ち本発明の音響透過性材料のみで構成し、背後にカーテンや吸音ブラインド(吸音ルーバー)などの可変吸音機構を設け室内意匠を全く変えることなく残響可変壁や残響可変天井を構成し、室内の残響特性を自在に変化させるように構成してもよい。室内意匠が変化しないため、在室者や(ホールの場合など)観客・演奏者に違和感を与えることがないので、音響効果の可変手段としてはまことに好適である。
【0063】
より具体的には、図3は、本発明の音響透過性材料を表面材として利用した音響調整面構造の応用例として、残響可変壁600を示す。図3は、ホールや住宅のAVルーム、或いは録音スタジオや音楽リハーサル室などでの利用を意図した、残響可変壁の例である。表面部材として本発明の音響透過性部材を用いているので、表面の意匠を変えることなく背後の可変音響調整機構を操作して壁面・天井面の吸音力を変化させ、室の残響時間特性を変化させることができる。当該構造によれば、音響条件が変化するのに表面の意匠が変わらないという効果を奏する。
【0064】
さらに詳細には、図3に残響可変壁600の概略構成図を示し、当該図は、部屋の上方視点から見た断面図である。残響可変壁600は、壁面一面に設けられた音響透過性材料2と、当該音響透過性材料の背後に配置された可変音響調整機構610とを有する。
【0065】
可変音響調整機構610は、例えば、前記音響透過性材料2の背後の空間の天井部に設けられたカーテンレールに取り付けられた音吸収性を有するカーテン613と、前記カーテンを収納するカーテンボックス615と、を有する。カーテン613は、電動で開閉可能にする開閉機構を有していてもよい。
【0066】
上記の可変音響調整機構610は、音響透過材料の背後に配されたカーテン613を開閉することによって、壁面の音響特性を変化させることができる。すなわち、壁面の見た目は、音響透過性材料の存在により、変わらないにもかからず、カーテンが開け閉めされることによって吸音性の材料の占める面積が変化するため、残響可変壁600の音響特性が変化する。すなわち、従来は、音響特性を変化さるためには、吸音材や、反射材を設置しなければならず、外観が大きく変化したが、外観を変化させることなく音響特性を変化させることができる。当該残響可変壁600は、特に、コンサートホール、映画館などの外観のデザインに制約される空間において、高い効果を発揮する。
【0067】
本発明の音響透過性材料を表面材として利用した音響調整面構造の応用例として、残響調整壁を示す。図4は、本発明に係る残響調整壁700の概略構成図である。当該構成により、表面の意匠を統一したまま完全反射面から完全吸音面までを提供することができる。
【0068】
残響調整壁700は、壁の前面に空間を形成して配された音響透過性材料2と、音響透過性材料の背後に形成された前記空間に配された吸音性構造及び/又は反射性構造とを有する。例えば、音響透過性材料2の背後に吸音材701及び空気層702からなる吸音性構造を配することにより、吸音面を形成することができる。また、音響透過性材料2の背後に合板704からなる反射性構造を配することにより、強反射面を形成することができる。あるいは、音響透過性材料2の背後に反射性構造として空間A(背後材料を省略する)を配することにより、弱反射面を形成することができる。このようにして音響透過性材料の背後の材料を選択することにより、意匠性を考慮することなく自在の吸音特性を実現することができる。なお、吸音面の背後に、空気層はあってもなくても良いが、設けることにより吸音面の吸音性をより低音域まで拡張することができる。
【0069】
(マイクロホン用風防)
本発明の音響透過性材料は、その特殊な構造により、電気信号の直流成分に相当する風は効果的にブロックし、交流信号に相当する音響信号はその主旨に沿いロス無く通過させるハイパスフィルタのような機能があるので、効果的にマイクロホン用風防(windscreen)を構成することができる。マイクロホン用風防は、マイクロホンに対する風を遮るものであれば、その構造は特に限定されない。本発明の音響透過性材料は、テーバーこわさ、曲げ抗力、空隙率、厚みが所定の範囲であることにより、自立性及び音響透過性を両立できるが、これにより風切音を効果的に低減することができる。更に、当該材料が自立性を有することで、従来のような(スポンジ製やウレタン製の)充填型風防ではなく、球形・直方体・円錐形・球欠体型・流線型などの形態の表面に本発明の音響透過性材料を配することにより、中空構造の風防を構成することができる。
【0070】
中空構造の風防200の概略構成図を図5に示す。中空構造の風防200は、本発明に係る音響透過性材料により構成されるスクリーン部210と、防水保護用キャップ部220とを有する。このようにスクリーン部210と防水保護用キャップ部220とを組み合わせて風防200を構成する(図5(b))。このように構成して、防水保護用キャップ部220にマイクを挿入して使用する。
【0071】
防水保護用キャップ部220は、本発明に係る音響透過性材料から構成されるマイクロホンの集音部を覆う先端キャップ部221と、金属筒等の硬質の円筒形材料で構成されており、且つ、マイクロホンの胴体部に密着する胴体キャップ部222とを有する。また、胴体キャップ部222の周囲には、スクリーン部210の位置を定めるための円形鍔223が設けられていても良い。
【0072】
当該風防を用いたマイクロホン装置250は、円筒状の胴体部2511を有し、該胴体部の先端に集音部2512が形成されているマイクロホン251と、当該マイクロホンを覆う防水保護用キャップ部220と、少なくとも前記集音部2512を覆う中空構造のスクリーン部210と、前記スクリーン部210と、スクリーン内部に気密性を持たせるための気密ゴムパッキン253と、前記スクリーン部210と、防水用キャップ部220とを前記ゴムパッキンを介して固定する金属プレート254とを有する(図5(a))。
【0073】
また、本発明に係る音響透過性材料を用いる場合、上記のように自立性を利用した中空型の風防を構成することができるので、中でも特に、表面音圧測定用マイクロホンの風防として使用されることが好適である。本発明の音響透過性材料を用いることで、風速の大きな強風下でも表面の防風層がはためいたり、共鳴したりすることなく効果的に風の侵入を低減〜遮断することができるので、特に低音域の風防、強風下で使用する風防を構成するのに最も好適である。
【0074】
(円筒形風防付き表面音圧測定用マイクロホン装置)
図6は、本発明に係る円筒形風防付き表面音圧測定用マイクロホン装置300の概略構成図である。本発明に係る表面音圧測定用マイクロホン装置300は、枠体321と、当該枠体の上面に形成された音響透過性材料322とを有する風防320と、当該風防の内部に設けられたマイクロホン330とを有する。また、枠体321の外縁には、風を滑らかに流動させるため流線縁部323が設けられていてもよい。ここで、枠体321の形状は、特に限定されないが、例えば円筒形状等が挙げられる。また枠体321の高さhは特に限定されないが、これまでの研究(川上福司,稲本進,寺薗信一,井上保雄,佐野隆之「低周波音測定用の防水型風防の開発」日本音響学会研究発表会予稿集,2011.03,頁36,(1-12-23))から円形(球欠体の場合)や円筒の直径dには最適なバランスがあり高さh=10mmの場合はd≒70mm前後が最適であることがわかっている。低域まで風防効果を延長したい場合は、特に他の理由が無い限り、この基本バランス(高さh:直径d=1:7)を保ったままd,hを1オクターブ(低域まで効果延長)あたり倍増する形で大きくするのが好適である。
【0075】
一般的な用途では、筒の高さhは、1mm〜数10mmの範囲が好適であり、1mm〜50mmの範囲がより好適であり、10mm〜30mmの範囲が更に好適である。また高さhが、1mmより低い場合には風切音防止効果が十分に得られないため好ましくない。また高さhが数10cmより高い場合には、風防周辺部で空気の乱流により新たな風切音が発生したり、いわゆる障壁効果(防音塀効果)における経路差(障壁がある場合と無い場合の音源から受音点にいたる距離の差)が生じ、挿入損失が拡大したり、音源位置つまり入射角により異なることになり、結果として指向性が発生してしまったりするため好ましくない。このため、周辺部の形状は直角三角形や1/4円の断面を持つ粘土などの充填型傾斜材〜コーキング処理により図6の流線縁部323のように流線形の断面にすることが好ましい。この措置を講じた場合は、特に、枠体の高さを10mm前後、或いはそれ以上とすることによって、マイクロホンと風防との間に適切な空間が形成されて風切音が顕著に低減されることが確認されている。また、本発明に係る枠体321を複数重ね合わせることによって、当該高さを調整することができる(図6(a)〜(c))。
【0076】
枠体の形状は円筒状であることが好適であり、円筒の直径dは、特に限定されないが、上記のように高さhに応じ略相似形態を保ちつつ用途(低域の風切音低減限界)に合わせ変化させることが好ましい。一般的には5mm以上が好適であり、30mm以上がより好適であり、70mm以上が更に好適であるが、径の拡大に応じて高さhも大きくするのが好ましい。円筒径の上限は特に限定されないが、例えば、200mm程度である。
【0077】
本発明に係る表面マイクロホン装置300は、自動車や、飛行機などの機体や車体の表面Bに貼り付けて移動中の騒音を測定することができるほか、ダクト管壁表面に設置して、風切音の影響を受けずにダクト伝播騒音を収音できるため、ANC(アクティブノイズコントロール)などに用いた場合、効果的な制御・大きな騒音低減効果を提供することができる。
【0078】
本発明に係る音響透過性材料は、マイクロホン又はスピーカの前面に配置される保護用グリルとして使用することができる。また、スピーカに前面に配置する場合、スピーカのみならず、前面バッフルに形成されているバフレスポート等の穴や、可変アッテネータのノブを隠す化粧板として使用してもよい。
【0079】
また、音響透過性及び自立性を利用して、本発明に係る音響透過性材料を映画用のスクリーンとして使用することができる。この場合、本発明に係る音響透過性材料により、前面投影型の映写投影面を形成して、当該音響透過性材料の背後にスピーカを配置して使用することが好適である。このようにして、スクリーンの背面にスピーカを配置しても、本発明に係る音響透過性材料を用いることで遮音されず、音が透過するため、音の定位性が高まる。
【0080】
本発明に係る音響透過性材料を利用して、低音域の吸音構造を構築することができる。すなわち、当該吸音構造は、本発明の音響透過性材料、前記音響透過性材料の背後に配置された多孔質吸音材料からなる吸音材、及び、前記吸音材の背後に配置された空気層を有する。従来のグラスウール単体では低音域の吸収は難しかったが、このような構造を有することによってさらに低音域までの吸音が可能となる。なお、多孔質吸音材料としては、グラスウール、発泡ウレタン等が挙げられる。
【0081】
密閉型、或いはこれに準じる形態のスピーカボックスを有するスピーカにおいて、従来はグラスウールなど中高音域の吸音にしか寄与しなかったボックス内の吸音材に代わり、本発明の音響透過性材料で中空構造、或いはその内部をグラスウールなどの多孔質吸音材で充填した構造を採用することにより、主として低音域において大きな吸音力を有し前面から放出される音の質(音質)、量(音量)の向上を図ることができる。ここで、低音域とは、スピーカにおいて放出される音の音域において、特に、スピーカユニット(例えばウーハユニット)前面から出る音(ここでは仮に順相音とする)と、スピーカユニットの背面から出る音(ここでは仮に逆相音とする)とで干渉による打ち消しあいが問題となる音域を意味し、より具体的には、例えば500Hz以下の音域を意味する。このように低音域においては、スピーカ背面から放出される逆相音は、密閉型スピーカボックス内では、音の反射や回り込みによって、スピーカユニットのコーン等の要素を介して前面に放出されるといわれている。この場合には、スピーカユニット前面から放出される順相音と、逆相音が交わり、音を打ち消しあうことになる。本発明に係る吸音構造をスピーカボックス内に配置することによって、逆相音が吸音されるため、順相音との干渉による打消しを防止して、音の量感及び質を高めることが可能となる。
【0082】
より具体的には、スピーカボックス、及び、ウーハユニットを有するスピーカにおいて、本発明の音響透過性材料、前記音響透過性材料の背後に配置された多孔質吸音材料からなる吸音材、及び、前記吸音材の背後に配置された空気層を有する吸音構造を前記スピーカボックス内に備える。当該吸音構造は、前記スピーカボックスの内壁に設けられており、スピーカの内壁から、空気層、吸音材、音響透過性材料の順に積層されている。
【0083】
その他、本発明に係る音響透過性材料はその音響透過性を利用して、様々な分野での使用が可能である。
【実施例】
【0084】
実施例1
ステンレスAISI316Lの線径30μmの繊維を使用し、それを均一になるように重ね合わせて綿状のウェブを作成した。このウェブを目付けが950g/m2になるように量り取り、厚みが800μmになるように平板間で圧縮した。この圧縮し、板状になったものを焼結炉に入れ、真空雰囲気中で1100℃に加熱し、焼結させサンプルとした。
【0085】
実施例2
ステンレスAISI316Lの線径6.5μmと12μmの繊維を使用し、それぞれを実施例1と同様にウェブを作成した。このウェブを7:3の重量比で表裏に合わせる。この表裏を合わせたウェブを目付けが850g/m2になるように量り取り、厚みが400μmになるように平板間で圧縮した。これらの条件以外は実施例1と同様の工程でサンプルを作成した。
【0086】
実施例3
銅の線径30μmの繊維を使用し、実施例1と同様にウェブを作成した。このウェブを目付けが1100g/m2になるように量り取り、厚みが800μmになるように平板間で圧縮した。この圧縮し、板状になったものを焼結炉に入れ、真空雰囲気中で900℃に加熱し、焼結させサンプルとした。
【0087】
実施例4
アルミニウムの線径30μmの繊維を使用し、実施例1と同様にウェブを作成した。このウェブを目付けが800g/m2になるように量り取り、厚みが1000μmになるように平板間で圧縮した。この圧縮し、板状になったものを焼結炉に入れ、水素雰囲気中で800℃に加熱し、焼結させサンプルとした。
【0088】
比較例1
アルミニウムを原料とし、溶融紡糸法で線径100μmの繊維を作成し、この繊維の場合は、繊維作成時に綿状になるため、その綿状のものを目付けが1650g/m2になるように量り取り、厚みが5000μmになるようにロール間で圧縮しサンプルとした。
【0089】
比較例2
アルミニウムの線径100μmの繊維を使用し、実施例1と同様にウェブを作成した。このウェブを目付けが1500g/m2になるように量り取り、厚みが1000μmになるように平板間で圧縮した。この圧縮し、板状になったものを焼結炉に入れ、真空雰囲気中で900℃に加熱し、焼結させサンプルとした。
【0090】
比較例3
フッ素繊維シート「トミーファイレックF」R-250 (新巴川製紙所 製)をサンプルとした。
【0091】
比較例4
ステンレス繊維シート「トミーファイレックSS」SS8-50M (新巴川製紙所 製)をサンプルとした。
【0092】
【表1】
【0093】
(自立性)
5cm角の試料の端部を持って逆の端部を持ちあげて、折曲がらない場合には自立性「有」とし、折れ曲がる場合には自立性「無」として評価した。
【0094】
(テーバーこわさ・曲げ抗力)
テーバーこわさ試験(JIS−P8125)に従って測定した。
【0095】
(厚み)
マイクロメーターにて測定した。
【0096】
(空隙率)
試料の外寸から算出した体積と、試料全体の質量と繊維の比重から、下記の式より空隙率を算出した。
空隙率(%)=(1−音響透過性材料の重量/(音響透過性材料の体積×繊維の比重))×100
【0097】
(音響透過性)
測定方法1
本願明細書中で説明した測定方法1に基づいて、音響透過性を評価した。伝送周波数特性については連続正弦波スイープ・FM短音・定常態ピンクノイズ・FM震音を用いるなど種々の方法があるが、ここでは図7に示すように、有効径10数cmのスピーカaを取り付けた約2250cm3の発音装置から連続正弦波スイープ音を放出し、その前面に、各実施例及び各比較例の音響透過性材料bを設置して、スピーカa前面より約1500mmの位置に設置したマイクcで測定される音圧応答の実効値を伝送周波数特性としレベルレコーダ等に記録した。その状態で音響透過性材料bの有り、無しの変化を挿入損失△(dB)として測定・確認した。スピーカaから放出した音源には、20Hzから20kHzまで、周波数変調を掛けない連続正弦波スイープを信号として用いた。ここで使用する音は、バックグラウンドノイズに対してS/N比で20dB以上とした。挿入損失は下記の式により求めた。
挿入損失△(dB)=試料の無い時のマイクロホンの周波数応答(dB)−試料を置いた時の周波数応答(dB)
【0098】
ここで、音の透過性は、挿入損失△(dB)が中心周波数63Hz〜8kHzの各1/1オクターブ帯域で2dB以内の場合、または、中心周波数31.5Hz〜16kHzの各1/3オクターブ帯域で3dB以内の場合は「良」、それぞれ5dB以内、6dB以内のいずれかである場合は「やや劣る」、それぞれ5dB越え、及び6dB越えである場合には「劣る」とした。また、連続正弦波スイープを用いたので上記1/1及び1/3オクターブ帯域で評価した。
【0099】
測定方法2
スピーカ‐マイク軸と、音響透過材料の法線方向のなす角度θ=0°,15°おける音響透過性の評価を、当該角度及び音源としてFM短音を用いた以外は上記測定方法1と同じ条件で、下記の音響透過材料P〜Rを用いて行った。結果を図10に示した。ここで使用した音響透過性材料P〜Rの詳細は以下の通りである。
【0100】
P: 実施例1の音響透過性材料を用いた。
Q: 空隙率が74%、厚さが1.10mmとした以外は実施例1と同様の方法で作成した音響透過性材料を用いた。
S: 実施例2の音響透過性材料を用いた。
R: 空隙率が65%、厚さが1.03mmとした以外は実施例1と同様の方法で作成した音響透過性材料を用いた。
【0101】
なお、上記のQ、Rと表記したサンプルについては、音響透過性材料に加えて、金属メッシュを張り付けて補強した材料を使用した。
【0102】
測定方法2による音響透過性評価の結果、試料Pにおいては、θ=15°の場合であっても、高い音響透過性を示すことが分かった。すなわち、実施例1の材料は、音響透過性において、音響の入射角度の依存性がほとんど見られないことが分かった。
【0103】
(吸音構造の実施試験:音響透過性材料(TTP)有りと無しによる背後吸音材(GW)の吸音率α0の比較)
試料は約1mm厚の音響透過性材料(実施例4)及びグラスウール(GW)を用いて吸音試験を行った。結果を図9に示す。ここで、横軸は周波数(Hz)、縦軸は垂直直入射吸音率α0である。
[a]は30mm厚グラスウール(GW)単体の音響透過性材料(TTP)無し(1)・有り(2)のα0実測値を示す。
[b]は25mm厚グラスウール(GW)単体のTTP無し(1’)・有り(2’)のα0実測値を示す。ここで本構造においては、TTPとGWの間に空気層5mmを形成した。
これらの結果によれば、表面に本発明の音響透過性材料(TTP)を配した(2)(2’)共に、GW単体の(1)(1’)と同等、或いはそれ以上の値を示し、全音響透過性を有していることを示唆している。因みに、(0)はTTP単体のα0で0.2以下、反射性の部位として残響可変に利用できる。
【0104】
(風切音低減試験)
図11(A)に示した系統で、風切音低減試験を行った。なお、ここでは風速は、2.7m/sとした。ここで、風切音低減効果評価試験では、室内の風の跳ね返りを無視できる程度に壁から離れた位置において送風機(FAN)から風を送り、風防無しで観測されるマイクロホン出力応答に対して、当該音響透過性材料で製作した風防を装着した状態で測定した応答の低減度S(dB)を1/1オクターブ帯域ごとに求め、これを風切音低減効果△S(dBA)と示すことにした。結果を図11(B)に示した。また、実施例1〜4、比較例1〜4の試料においても(b1)に示す系統で同様に風切音低減試験を行った。表1中の評価で、「優」は、Δ30dBA以上、「良」はΔ20dBA以上、「劣る」は、Δ20dBA未満とした。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明によれば、自立性を有しつつ、高い音響透過性を有する材料が得られるので、吸音性の壁面構造の表面部材などとして使用することができる。産業上の利用可能性の一例として、マイクロホン用風防、保護用グリル、音響透過性映写スクリーン及びスピーカを示した。
【符号の説明】
【0106】
1 : 音響調整面構造
2 : 音響透過性材料
3 : 音響調整機構
4 : 骨格
41 : 空間
42 : 支柱
421: 固定面
6 : 内装構造
300 : 表面音圧測定用マイクロホン装置
600 : 残響可変壁
700 : 残響調整壁
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維が互いに交絡してなる音響透過性材料であって、
前記音響透過性材料は、テーバーこわさが5mN・m以上、曲げ抗力が100mN以上、空隙率が50%以上、且つ、厚みが3mm以下であることを特徴とする音響透過性材料。
【請求項2】
前記繊維が、金属繊維である、請求項1記載の音響透過性材料。
【請求項3】
挿入損失が63Hz〜8kHzの各1/1オクターブ帯域で5dB以下である、請求項1又は2記載の音響透過性材料。
【請求項4】
前記音響透過性材料が、金属繊維を圧縮成形して得られる材料である、請求項1〜3のいずれか一項記載の音響透過性材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項記載の音響透過性材料と、
その背面に設置された吸音性構造及び/又は反射性構造を有する音響調整機構と
を備える、音響調整面構造。
【請求項6】
前記音響調整機構が、吸音性構造及び/又は反射性構造の配置比率を変化させることが可能な可変音響調整機構である、請求項5記載の音響調整面構造。
【請求項7】
建物の壁面及び/又は天井の内装における音響調整面構造であって、
前記音響透過性材料が、前記建物の壁面及び/又は天井との間に空間が形成されるように配置され、
前記可変音響調整機構が、前記空間に配された、開閉可能に構成されたカーテン又は吸音ブラインドを有し、
前記カーテン又はブラインドの開閉よって面の吸音特性を調整する、請求項6記載の音響調整面構造。
【請求項8】
建物の壁面及び/又は天井の内装における音響調整面構造であって、
前記音響透過性材料が、前記建物の壁面及び/又は天井との間に空間が形成されるように配置され、
前記音響調整機構は、前記空間に配された、吸音性構造及び/又は反射性構造を有する、請求項5記載の音響調整面構造。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか一項記載の音響調整面構造を有する、建築物の内装構造。
【請求項10】
マイクロホンの風切音を軽減するためのマイクロホン用風防において、
前記風防が、マイクロホンに対する風を遮る位置に配された音響透過性材料を有し、
前記音響透過性材料が、請求項1〜4のいずれか一項記載の音響透過性材料である、マイクロホン用風防。
【請求項11】
マイクロホン又はスピーカの前面に配置される保護用グリルにおいて、
前記グリルが、請求項1〜4のいずれか一項記載の音響透過性材料で構成されている、保護用グリル。
【請求項12】
前面投影型の映写投射面を有し、該映像投射面の背後にスピーカを配置して音が出るように構成して使用される音響透過性映写スクリーンにおいて、
少なくとも前記映像投射面が、請求項1〜4のいずれか一項記載の音響透過性材料で構成されている、音響透過性映写スクリーン。
【請求項13】
スピーカボックス、及び、ウーハユニットを有するスピーカにおいて、
請求項1〜4のいずれか一項記載の音響透過性材料、前記音響透過性材料の背後に配置された多孔質吸音材料からなる吸音材、及び、前記吸音材の背後に配置された空気層を有する吸音構造を前記スピーカボックス内に備え、前記吸音構造が前記スピーカボックスの内壁に設けられていることを特徴とする、スピーカ。
【請求項14】
前記スピーカが、密閉型である、請求項13記載のスピーカ。
【請求項1】
繊維が互いに交絡してなる音響透過性材料であって、
前記音響透過性材料は、テーバーこわさが5mN・m以上、曲げ抗力が100mN以上、空隙率が50%以上、且つ、厚みが3mm以下であることを特徴とする音響透過性材料。
【請求項2】
前記繊維が、金属繊維である、請求項1記載の音響透過性材料。
【請求項3】
挿入損失が63Hz〜8kHzの各1/1オクターブ帯域で5dB以下である、請求項1又は2記載の音響透過性材料。
【請求項4】
前記音響透過性材料が、金属繊維を圧縮成形して得られる材料である、請求項1〜3のいずれか一項記載の音響透過性材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項記載の音響透過性材料と、
その背面に設置された吸音性構造及び/又は反射性構造を有する音響調整機構と
を備える、音響調整面構造。
【請求項6】
前記音響調整機構が、吸音性構造及び/又は反射性構造の配置比率を変化させることが可能な可変音響調整機構である、請求項5記載の音響調整面構造。
【請求項7】
建物の壁面及び/又は天井の内装における音響調整面構造であって、
前記音響透過性材料が、前記建物の壁面及び/又は天井との間に空間が形成されるように配置され、
前記可変音響調整機構が、前記空間に配された、開閉可能に構成されたカーテン又は吸音ブラインドを有し、
前記カーテン又はブラインドの開閉よって面の吸音特性を調整する、請求項6記載の音響調整面構造。
【請求項8】
建物の壁面及び/又は天井の内装における音響調整面構造であって、
前記音響透過性材料が、前記建物の壁面及び/又は天井との間に空間が形成されるように配置され、
前記音響調整機構は、前記空間に配された、吸音性構造及び/又は反射性構造を有する、請求項5記載の音響調整面構造。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか一項記載の音響調整面構造を有する、建築物の内装構造。
【請求項10】
マイクロホンの風切音を軽減するためのマイクロホン用風防において、
前記風防が、マイクロホンに対する風を遮る位置に配された音響透過性材料を有し、
前記音響透過性材料が、請求項1〜4のいずれか一項記載の音響透過性材料である、マイクロホン用風防。
【請求項11】
マイクロホン又はスピーカの前面に配置される保護用グリルにおいて、
前記グリルが、請求項1〜4のいずれか一項記載の音響透過性材料で構成されている、保護用グリル。
【請求項12】
前面投影型の映写投射面を有し、該映像投射面の背後にスピーカを配置して音が出るように構成して使用される音響透過性映写スクリーンにおいて、
少なくとも前記映像投射面が、請求項1〜4のいずれか一項記載の音響透過性材料で構成されている、音響透過性映写スクリーン。
【請求項13】
スピーカボックス、及び、ウーハユニットを有するスピーカにおいて、
請求項1〜4のいずれか一項記載の音響透過性材料、前記音響透過性材料の背後に配置された多孔質吸音材料からなる吸音材、及び、前記吸音材の背後に配置された空気層を有する吸音構造を前記スピーカボックス内に備え、前記吸音構造が前記スピーカボックスの内壁に設けられていることを特徴とする、スピーカ。
【請求項14】
前記スピーカが、密閉型である、請求項13記載のスピーカ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図10】
【公開番号】特開2013−61406(P2013−61406A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198418(P2011−198418)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【Fターム(参考)】
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