説明

順路決定手段

【課題】観光客が複数の観光資源を巡回する場合に、該経路に関して、総巡回距離を最小にすることと、前記観光客の嗜好が反映されることに加え、各観光資源の営業時間や休日設定といった時間的な属性情報を反映することを可能にする。
【解決手段】目的地をリストアップするためのリストアップ手段と、該目的地の巡回にかかる総巡回時間を最小にするための最適巡回経路探索手段と、前記目的地のそれぞれの巡回可能時刻をデータとして所持するデータベースの時間情報を時間属性情報と、前記リストアップ手段によってリストアップされた巡回経路群の中から前記時間属性情報に合致しない巡回経路を除外する巡回経路絞り込み手段と、を持ち、前記巡回経路絞り込み手段によって絞り込まれた巡回経路群に対して前記最適巡回経路探索手段を適用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の訪問先が存在する場合において、最適な順路を割り当てる装置及びその方法に関する。

【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、複数の場所で作業をするときに、移動所要時間を最短にする最も効率的な巡回順路を設定する技術について記載されている。具体的には、構造物の位置や、点検期限などを考慮して、最も効率的な巡回順路を選択する。
【0003】
このような順路探索問題は古くから研究されており、例えばセールスマンが一度だけ訪問して巡回する距離を最小化する巡回路を発見する、いわゆる巡回セールスマン問題は、複雑な組み合わせ問題の代表例である。すべての組み合わせについて、しらみつぶしに距離計算を行い、最小距離の巡回路を決定していたのでは今日の計算機で実用的な時間内に答えを出すことはできない。
【0004】
セールスマンの巡回問題の解法の一例としては、例えば特許文献2が提案されている。これはカオス理論を用いて最適ルートを求めるものであり、最適化問題の対処方法としてこのように人工知能を用いる例は多い。
【0005】
最適な経路を得る要求としては、他にも、観光地における観光客の巡回ルートを最適化するものが考えられる。つまり、例えば京都観光において、観光客は複数の神社仏閣を巡回する。また、代官山観光において、観光客は複数のインディーズブランドショップを巡回する。
【0006】
このような巡回問題においては、最適な順路は、利用者の嗜好も満たさなければならないという条件があるのが特徴である。つまり、セールスマンの巡回問題のように最短時間であれば良いというものではなく、利用者が観光したい観光地をリストアップしなければならない。
【0007】
従来は、時間的な最適化では公共交通機関が提供する経路探索プログラムを用い、また、嗜好的な最適化では近似検索や協調フィルタリングといった手段が用いられていた。協調フィルタリングは、多くのユーザの嗜好情報を蓄積し、あるユーザと嗜好の類似した他のユーザの情報を用いて自動的に推論を行う方法論であり、趣味の似た人からの意見を参考にするという口コミの原理に例えられることが多い。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−007600号公報
【特許文献2】特開平11−212959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかるに前記の手段によれば、嗜好を元に観光資源をリストアップすることや、観光資源の結びつきを距離で表現することや、あらかじめ順序が決められた観光資源あるいは経由ポイントのリストを元に順路を求めることしかできないといった課題があった。
【0010】
このような条件のみで順路を決定した場合、訪れたものの該観光地が営業時間外である場合も多く、距離や嗜好のみで最適経路を決めても、観光地を観光するという本来の目的を達成できないことがあった。

【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために本発明は、
目的地をリストアップするためのリストアップ手段と、該目的地の巡回にかかる総巡回時間を最小にするための最適巡回経路探索手段を持つ順路決定手段であって、
前記目的地のそれぞれの巡回可能時刻をデータとして所持するデータベースの時間情報を時間属性情報と呼ぶ場合に、
前記リストアップ手段によってリストアップされた巡回経路群の中から前記時間属性情報に合致しない巡回経路を除外する巡回経路絞り込み手段を持ち、
前記巡回経路絞り込み手段によって絞り込まれた巡回経路群に対して前記最適巡回経路探索手段を適用することを特徴とする順路決定手段である。
【0012】
また本発明は、前記時間属性情報は、前記目的地に関して、巡回を許可された時刻、または巡回を推奨された時刻、または利用者の平均滞留時間から成るデータベースであることを特徴とする順路決定手段である。
【0013】
また本発明は、前記時間属性情報は、順路決定装置が予めデータベースとして所持するものであり、またはネットワークを介して必要に応じて取得するものであることを特徴とする順路決定手段である。

【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、例えば、観光客が複数の観光資源を巡回する場合に、該経路に関して、総巡回距離を最小にすることと、前記観光客の嗜好が反映されることに加え、各観光資源の営業時間や休日設定といった時間的な属性情報を反映することが可能になる。

【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】無規則な巡回路決定例を示した図である。
【図2】観光資源間の距離を踏まえた順路決定例を示した図である。
【図3】観光資源間の移動時間を示した表である。
【図4】4つの観光地に関する時間属性情報の一例を示した図である。
【図5】本発明にかかる最適巡回路決定の過程の一例を示した図の1である。
【図6】本発明にかかる最適巡回路決定の過程の一例を示した図の2である。
【図7】観光地のリストアップ手段の一例を示した図である。
【図8】時間属性情報による巡回経路の絞り込みの一例を示した図である。
【図9】絞り込まれた巡回経路から最適巡回経路を決定する手段の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0016】
本発明の好適な実施の形態について、図を参照して説明する。本実施例では、巡回先として、寺院や遊興施設などの観光資源を用いており、旅行者(ユーザ)が複数の観光資源を巡回する場合を想定している。
【0017】
しかし本発明における巡回路決定の対象は、いわゆる観光資源に限定するものではなく、例えば食事どころ巡りや電器店巡りや、また、セールスマンの巡回問題のような場合にも適用できる。
【0018】
図1は無規則な巡回路決定例を示した図である。つまり、ユーザによって観光資源のリストとして観光資源A(101a)、観光資源B(101b)、観光資源C(101c)、観光資源D(101d)がリストアップされた場合に、無規則にその巡回路を決定している。この場合はそれぞれの観光資源間の距離等は考慮に入れておらず、一般に最適巡回路決定手段を持たないユーザはこの手段によることが多い。
【0019】
図2は観光資源間の移動時間を考慮した巡回路決定例を示した図であり、図3は各観光資源間について、具体的な移動時間の一例を示したものである。また、図2と図3においてユーザと記したのは、ユーザのホームポイントであり、それは自宅やホテルであったり、駅や空港であったりしてもよく、ユーザの出発点あるいは帰着点である。
【0020】
この場合は、全巡回パターンに対するそれぞれの所要時間を調べることにより、「ユーザ→B→A→D→C→ユーザ」あるいは逆のパターンであるところの「ユーザ→C→D→A→B→ユーザ」が最適な巡回路であることがわかる。
【0021】
なお、このような最適巡回路を計算によって求める手段あるいはプログラムとしては、様々な方法が考えられるが、本発明においてはこれをなんら限定するものではない。
【0022】
本発明の要旨は、リストアップされた観光資源間の所要時間を元に最適巡回路を決める前記のような方法によると、各観光資源がそれぞれ持っている営業時間などの時間属性情報を反映させることができず、現地に到着したら営業時間外だったという事態を防ぐことを目的としている。
【0023】
時間属性情報とは、こういった営業時間情報以外にも、例えば特定の時間帯のみ入館料が割引されるといった時間割引情報や、該観光地に関する平均閲覧時間なども含み、ユーザが安心して巡回路を観光する場合において、時間属性情報は非常に重要な決定要因である。
【0024】
こういった時間属性情報を加味した巡回路決定手段によれば、巡回路における各地の順番のみではなく、各対象地への到着時間や出発時間も事前に決めることが可能になる。このように、本発明では、最適巡回路を得るにあたって、観光資源間の移動時間に加えて前記時間属性情報を用いることで、前記目的を達成するものである。
【0025】
図4は時間属性情報の一例を示したものであり、前記4つの観光地に関し、それぞれ403a、403b、403c、403dとして閲覧可能時刻と平均閲覧時間が記されている。なお、出発時刻401は、最適巡回経路を決定する情報処理装置にユーザが直接入力してもよいし、あるいは、該情報処理装置が推奨出発時刻を表示するものであってもよい。
【0026】
本発明は、図2に示した経路パターンに関して、図4に示した時間属性情報によってパターンの絞り込みを行い、その中から図3に示した移動時間の総和を最小にする経路を解とするものである。
【0027】
つまり図5に示すように、嗜好により観光地をリストアップして(501)、時間属性情報によって経路パターンを絞り込んで(503)、移動時間によって最適巡回路を決定する(505)のである。
【0028】
また逆に、図2に示した経路パターンに関して、図3に示した移動時間の総和を小さい方から順に並べ、図4に示した時間属性情報を満足する最小の巡回経路を解とする方法も考えられる。
【0029】
つまり図6に示すように、嗜好により観光地をリストアップして(601)、移動時間によって巡回経路の候補を選んで(603)、時間属性情報によって該候補の中から最適巡回路を決定する(605)のである。
【0030】
次に、好適な実施の例として、図5に示した処理手順について説明する。図5においては、時間属性情報によって経路パターンを絞り込むこと(503)が本発明の主旨であり、観光地のリストアップ(501)と最適巡回路の探索(505)は任意であり、その手段を限定するものではない。
【0031】
まず、ユーザは自分の嗜好に基づいて観光地をリストアップする。このリストアップ手段として5種の例を図7に示す。図7はユーザの動作と情報処理装置の動作に分けて記載している。なお、情報処理装置は、人気の観光地や観光地の分類表といったデータベースを事前に持っている場合や、あるいは必要に応じて該データベースに関してネットワークを参照する機能を持っている。
【0032】
701は情報処理装置の入力装置を用いてユーザが観光地名を直接入力する手段である。また、703は情報処理装置の表示装置に表示された地図上の観光地アイコンをユーザがクリックして選択する手段である。
【0033】
また、705は例えば寺院やショッピングセンターといった観光分野をユーザが情報処理装置の入力装置を用いて入力し、情報処理装置が該入力に応じた観光地名を提示し、ユーザがそれを承認する手段である。
【0034】
また、707は情報処理装置が人気の観光地名を保持し、それを情報処理装置の表示装置に提示し、ユーザがそれを承認する手段である。
【0035】
また、709は決定したリストアップ内容を元に、情報処理装置が、さらにその内容に関連する観光地名を提示し、ユーザがそれを承認する手段である。なお、709の手段は、例えば最適巡回路を決定したものの、途中で空き時間がある場合に、さらに観光地を増やす場合において特に有効である。
【0036】
次に、前記リストアップされた観光地に関して、時間属性情報によって、情報処理装置が経路パターンを絞り込む処理を行う。時間属性情報とは図4に示したような閲覧可能時刻や平均閲覧時間、あるいは閲覧料金の時間割引情報などを含むデータベースであり、情報処理装置が予めデータベースとして所持していてもよいし、適宜ネットワークを介してデータベースを参照して取得してもよい。
【0037】
時間属性情報による巡回経路パターンの絞り込みの様子を図8に示す。一例としてユーザの出発時刻を8:00とする。なお、観光地間の所要移動時間は図3に、時間属性情報は図4に示すものとする。
【0038】
図3によれば、スタート地点から観光地A、B、C、Dに直行した場合のそれぞれの到達時刻は11:30、8:30、10:00、12:00となる。観光地Aに着目すると、閲覧可能時刻が15:00から20:00であり平均閲覧時間は30分であるから、観光地Aの閲覧時刻は15:00から15:30となる。
【0039】
次に観光地Aから観光地B、C、Dに直行した場合のそれぞれの到達時刻は16:30、18:30、17:00となる。この時点で観光地CとDは閲覧可能時刻を過ぎているため、(スタート地点→A→C)と(スタート地点→A→D)の巡回経路は観光出来ないために実現不可能となる。
【0040】
次に観光地Bから観光地C、Dに直行した場合のそれぞれの到達時刻は19:00、20:30となる。同様にこの経路も観光地CおよびDの閲覧可能時刻を過ぎているため実現不可能となる。従って、(スタート地点→A)という経路は観光地B、C、Dを全て巡回することが不可能であり、採用することができない。
【0041】
このように、時間属性情報を加味して巡回経路を探索すると、所要時間のみに着目して探索された巡回経路では為し得なかった、実際に閲覧が出来るのかどうかといった事象を満たすことが可能となる。図5の503ではこのような全ての閲覧を完遂できる巡回経路を絞り込む処理を行う。
【0042】
前記のような処理を行うことにより、全観光地の閲覧が可能になるパターンは、パターン1(スタート地点→C→D→A→B→スタート地点)、パターン2(スタート地点→C→D→B→A→スタート地点)、パターン3(スタート地点→D→C→A→B→スタート地点)、パターン4(スタート地点→D→C→B→A→スタート地点)の4パターンに絞り込まれ、この絞り込み手段が本発明に掛かるものである。
【0043】
次に図5の505では、これら絞り込まれたパターンの中から、最適巡回経路を探索する。なお、最適巡回経路の決定に至る指針は複数考えられる。つまり、帰着時刻が最も早いパターンや、総移動時間の短いパターンや、場合によっては移動を楽しむユーザなどは、総移動時間の最も長いパターンを欲することも考えられる。
【0044】
従って最適巡回経路決定の指針をどうするかは、事前にユーザが情報処理装置に入力しておかねばならない。ただし、前記指針の入力が無い場合には、標準選択方法として帰着時刻が最も早いパターンを選択するといった決定方法も考えられる。
【0045】
例えば帰着時刻の早さで最適巡回経路を決定するならば、図9に示すように、パターン1の帰着時刻が最も早いため、パターン1を最適巡回経路と決定する。同様に、総移動時間が最も短いパターンを最適とするなら、これもパターン1を最適巡回経路と決定する。さらに、総移動時間が最も長いパターンを最適経路と定義付けるならば、パターン4が最適巡回経路と決定付けられる。
【0046】
以上は図5のような順序で最適巡回経路を決定する場合の実施例であるが、図6のような順序で最適巡回経路を決定する場合は、まず帰着時刻や総移動時間を探索し、この結果を順番に並べておき、時間属性情報を満たす最も上位の経路を最適巡回経路とすればよい。
【0047】
本発明によれば、以上のように、従来手法であるところの総移動時間のみによる巡回経路の探索の欠点であるところの、立ち寄ったが営業時間外だったといったことを避けることが可能となり、実際に全ての閲覧を完結させるという条件を満たした上で最適巡回経路を決定することが可能になる。
【0048】
なお、本発明は巡回の対象を観光地として説明したが、対象は観光地に限定するものではなく、セールスマンの巡回問題のような場合など、複数の訪問対象が存在する経路探索においてはいかなる場合にも適用できる。対象数に関しても本実施例では4カ所を例としたが、これをなんら制限するものではない。
【0049】
また、最適巡回経路として複数の候補が同順位で見つかった場合の処理手段についてはこれを限定するものではなく、該当する全ての候補を提示してもよいし、ランダムに提示してもよいし、あるいはそれを1つに決定するための任意の設問を追加してもよい。
【0050】
また、本発明で用いた情報処理装置は、これを何ら限定するものではなく、パーソナルコンピュータでもよいし、カーナビゲーションシステムや携帯端末でもよい。従って、最適巡回経路を決定する環境は、自宅などにおける固定端末でもよいし、車中などにおける移動端末でもよい。同様に情報処理装置へのユーザの入力手段に関しても、キーボードやタッチパネルによるものなど種々の方法が考えられ、これを何ら限定するものではない。

【符号の説明】
【0051】
101a〜101d…観光資源、
201…ユーザのホーム位置、
401…ユーザのホームポイントにおける時間属性情報、
403a〜403d…観光地における時間属性情報、
501…観光地のリストアップ、
503…時間属性情報による絞り込み、
505…移動時間による最適巡回路決定、
603…移動時間による絞り込み、
605…時間属性情報による最適巡回路決定、
701…リストアップ手段の例1、
703…リストアップ手段の例2、
705…リストアップ手段の例3、
707…リストアップ手段の例4、
709…リストアップ手段の例5、











【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的地をリストアップするためのリストアップ手段と、該目的地の巡回にかかる総巡回時間を最小にするための最適巡回経路探索手段を持つ順路決定手段であって、
前記目的地のそれぞれの巡回可能時刻をデータとして所持するデータベースの時間情報を時間属性情報と呼ぶ場合に、
前記リストアップ手段によってリストアップされた巡回経路群の中から前記時間属性情報に合致しない巡回経路を除外する巡回経路絞り込み手段を持ち、
前記巡回経路絞り込み手段によって絞り込まれた巡回経路群に対して前記最適巡回経路探索手段を適用することを特徴とする順路決定手段。

【請求項2】
請求項1に記載の時間属性情報は、前記目的地に関して、巡回を許可された時刻、または巡回を推奨された時刻、または利用者の平均滞留時間から成るデータベースであることを特徴とする順路決定手段。

【請求項3】
請求項1あるいは請求項2のいずれか一項に記載の時間属性情報は、順路決定装置が予めデータベースとして所持するものであり、またはネットワークを介して必要に応じて取得するものであることを特徴とする順路決定手段。

















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−227827(P2011−227827A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99056(P2010−99056)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】