説明

頭皮・毛髪処理方法

【課題】 本発明の解決すべき課題は、毛髪処理時には均一系を維持し、濯ぎ時にはコアセルベートを形成して有効成分の毛髪への残存率を向上させえる毛髪処理組成物を提供することである。
【解決手段】
毛髪処理組成物を頭皮ないし毛髪に塗布し、25〜50℃の温水で頭皮ないし毛髪をすすぐ頭皮・毛髪処理方法であって、
前記毛髪処理組成物は、(a)カチオン性高分子、(b)アニオン性界面活性剤、(c)ノニオン性または両性界面活性剤を含み、
水によって5〜10倍に希釈したときに二相への分離温度が25〜50℃であることを特徴とする、頭皮・毛髪処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は頭皮・毛髪処理方法、特にその相構造変化による使用性の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘアシャンプー、ヘアリンス、コンディショニングに代表される毛髪処理組成物は、一般にアニオン性界面活性剤、カチオン性ポリマー、両性またはノニオン性界面活性剤を含んでおり、毛髪を濯ぐ際にこれら3つの成分が不溶性コンプレックス(コアセルベート)を形成し、これを毛髪に吸着させてなめらかな感触を出すことも可能である(特許文献1)。
【0003】
一方、毛髪処理組成物により毛髪を処理する際には、毛髪を適度に湿らせ、組成物原液を塗布する。この際には、組成物成分が毛髪全体に満遍なく行き渡り、しかもその際の指どおりがよいことが要求される。したがって、処理時には組成物希釈系においても均一な状態を維持していることが好ましく、処理時にコアセルベートが形成されてしまうと、系が不均一になるため毛髪上でムラが生じやすく、しかも使用感にも欠ける。しかしながら、処理時に均一系となる組成物であると、さらに希釈が進む濯ぎ時に組成物成分がすべて流出してしまい、洗髪後の滑らかな感触を出させることができない。
【0004】
さらに、コアセルベートの吸着量は毛髪の状態によって変化し、健常毛とダメージ毛では、同一組成の毛髪処理組成物であっても感触に大きな差がある。これらの欠点を補うべく、従来の毛髪処理組成物は毛髪の状態によって組成を変化させて提供せざるを得ない。しかしながら、毛髪の状態は日々変化するものであり、その都度使用する毛髪処理組成物を変えることは現実的ではなかった。
【特許文献1】特開2006−274016
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記従来技術に鑑みなされたものであり、その解決すべき課題は、毛髪処理時には均一系を維持し、濯ぎ時にはコアセルベートを形成して有効成分の毛髪への残存率を向上させ得る毛髪処理組成物を提供することである。
【0006】
前記目的を達成するために本発明者らは鋭意研究を行った結果、コアセルベートの形成が温度依存性を有する組成を用いることで、処理時および濯ぎ時のそれぞれに適正な相状態とすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、毛髪処理組成物を頭皮ないし毛髪に塗布し、25〜50℃の温水で頭皮ないし頭髪をすすぐ頭皮・毛髪処理方法であって、
前記毛髪処理組成物は、(a)カチオン性高分子、(b)アニオン性界面活性剤、(c)ノニオン性または両性界面活性剤を含み、
水によって5〜10倍に希釈したときに二相への分離温度が25〜50℃であることを特徴とする。
また、前記方法において、希釈液の二相分離温度が30℃〜45℃であることが好適である。
【0007】
また、前記方法において、カチオン性活性剤がカチオン化セルロースもしくは下記化学式1に示すポリ塩化ジメチルメチレンピペリジニウムであることが好適である。
【化3】

【0008】
また、前記方法において、アニオン性界面活性剤がラウリル硫酸ナトリウムもしくはラウリルエーテル硫酸ナトリウムであることが好適である。
また、前記方法において、ノニオン性または両性界面活性剤が下記化学式2に示すt−オクチルフェノキシポリエトキシエタノールもしくはヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインであることが好適である。
【0009】
【化4】


また、前記方法において、下記式1で定義されるアニオン比Yが0.3〜0.5であることが好適である。
Y=アニオン性界面活性剤/(アニオン性界面活性剤+ノニオン性界面活性剤+両性界面活性剤) …式1

【発明の効果】
【0010】
以上のように本発明によれば、温度応答性コアセルベートを用いることにより、毛髪を湿らせ組成物を塗布し処理を行う際には、比較的温度が低いためコアセルベートが形成されず、良好な塗布性および使用性が確保され、また濯ぎ時には温湯を使用するため、コアセルベートが形成され、有効成分の流出が抑制される。さらに、同一組成であっても濯ぎの温度を変化させることによって常に満足な使用感触を与えられる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者等は、頭皮・毛髪処理組成物の使用性と、有効成分の残存性を両立させる為、コアセルベートの形成温度を調整することに着目した。
まず、本発明者等は温度により相状態の変化する毛髪処理組成物の調製を試みた。すなわち、ポリ塩化ジメチルメチレンピペリジニウム(カチオン性高分子)を3g/Lとなるように、20mM t−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(ノニオン性界面活性剤)/0.4M塩化ナトリウム溶液に溶解し、これに60mMラウリル硫酸ナトリウム(アニオン性界面活性剤)/0.4M塩化ナトリウム溶液を滴下した。そして、溶液の濁度を測定し、相状態の変化を調査した。この場合、t−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(ノニオン性界面活性剤)はミセルを形成しており、滴下されたラウリル硫酸ナトリウム(アニオン性界面活性剤)は前記t−オクチルフェノキシポリエトキシエタノールのミセルに取り込まれる。したがって、ラウリル硫酸ナトリウムの滴下は、界面活性剤ミセルの表面電荷を調整することになる。
【0012】
一方、ポリ塩化ジメチルメチレンピペリジニウムはカチオン性を有するため、前記界面活性剤ミセルのアニオン性が増加し一定レベルに達すると、図2に示すように該ミセルと静電的な結合を生じる。これが二層分離の原因となると考えられる。
結果を図3に示す。
同図において、縦軸は濁度を、横軸Yはラウリル硫酸ナトリウム量/総界面活性剤量(ミセル表面荷電に比例)を示している。
同図より明らかなように、Y=0.3〜0.45付近で濁度が急激に上昇し、0.5付近で一度濁度が低下した後、0.55以上で急激に再上昇する。この濁度の上昇領域でコアセルベーションが形成されていると考えられる。
【0013】
したがって、このアニオン界面活性剤ミセルとカチオン性高分子の結合状態を温度に依存して変化するようにすれば、温度応答性コアセルベートが形成されることになる。
そこで、本発明者等は、さらに図4に示すように、図3と同様の試験系で且つ温度を変化させて相変化を調査した。
この結果、低温(5℃)時にはコアセルベートが形成されず、室温(22〜27℃領域)でコアセルベートを形成させ得ることが確認された。
しかしながら、シャンプーの使用温度を考えると、常温(25℃以下)と、温水使用時(30℃以上)で相変化を生じることが好ましい。
そこで本発明者等は電解質である塩化ナトリウムの添加量を調整し、温度に依存して相変移をする領域を検討した。
基本処方を次の表1に示し、処理組成物で実際に洗髪を行うことを想定し、評価は5倍希釈液で行った(表2)。
【0014】
【表1】

【0015】
【表2】

【0016】
前記表1に示す結果より明らかなように、本試験例においては塩化ナトリウムを1.38%となるように添加することで、高温(50℃)では2相、すなわち不溶性コンプレックスを形成し、毛髪への吸着とともに、水相の粘度低下によりすすぎ洗いも容易になる。
これに対し、室温前後では1相を維持し、髪全体に均一に適用することが容易で、しかも使用感に優れている。
【0017】
なお、本発明においては、毛髪処理組成物に通常使用される界面活性剤を本発明の効果を損なわない範囲で配合することもできる。
アニオン界面活性剤の具体的な例としては、例えば、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、高級脂肪酸塩、アルキルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、N−アシルサルコシン塩、N−アシルイセチオン酸塩、N−アシルグルタミン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、アルキルエーテル酢酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩等が挙げられる。
【0018】
非イオン界面活性剤の具体的な例としては、例えば、アルカノールアミド、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビット脂肪酸エステル、ソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、テトラポリオキシアルキレンエチレンジアミン縮合物類、ポリオキシアルキレンエーテル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸アミド、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンひまし油誘導体、ポリオキシアルキレン硬化ひまし油誘導体、アルキルポリグルコシド等が挙げられる。
【0019】
両性界面活性剤の具体的な例としては、例えば、アルキルイミダゾリニウムベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、アルキルアミノカルボン酸、アルキルスルホベタイン、アルキルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタイン、アルキルベタイン等が挙げられる。
【0020】
本発明の毛髪処理組成物には、前記必須成分に加えてシリコーンエマルジョンを配合することができる。本発明におけるシリコーンエマルジョンは、水不溶性のシリコーンオイルの液滴粒子が分散液滴として水中に存在するエマルジョンある。
シリコーンエマルジョンの配合により、重厚感のあるベルベット様の感触を損なわずに、さらさら感を付与することができる。また、泡切れの早さが一段と優れたものとすることができる。
【0021】
前記シリコーンエマルジョン中のシリコーンオイルとしては特に限定されず、具体的にはメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等が挙げられる。本発明においては不揮発性のシリコーンオイルが好ましく、メチルポリシロキサンが特に好ましい。シリコーンエマルジョンは、1種または2種以上から任意に選択されて配合することができる。
【0022】
本発明のシリコーンエマルジョンは、シリコーンエマルジョンとして市販されているので市販品を用いることができ、効率的である。市販品の例としては、例えば、ジメチルシリコーンエマルジョンBY22−007(ジメチルポリシロキサン50質量%含有)、同BY22−009(超微粒子化メチルポリシロキサン20質量%含有)、同BY22−029(高重合メチルポリシロキサン50質量%含有)、同BY22−019(高重合メチルポリシロキサン及びデカメチルシクロペンタシロキサン50質量%含有)、同BY22−034(高重合メチルポリシロキサン及びメチルポリシロキサン50質量%含有)、同BY22−020(高重合メチルポリシロキサン及び軽質流動イソパラフィン50質量%含有)(以上、東レ・ダウコーニング株式会社製)等が挙げられる。
【0023】
シリコーンエマルジョンの配合量は、特に限定されないが、組成物全量中シリコーンオイル量として0.0005〜5質量%が好ましい。さらに好ましくは組成物全量中0.25〜2.5質量%である。
【0024】
本発明の毛髪処理組成物には、上記成分の他に、通常毛髪処理組成物に用いられる他の成分を必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。配合可能な他の成分としては、例えば、油分、パール化剤、保湿剤、多価アルコール、高分子系粘度調整剤、アミノ酸類(グルタミン酸、アルギニン等)、香料、色素、紫外線吸収剤、酸化防止剤、殺菌剤、抗炎症剤、防腐剤、金属イオン封鎖剤、水等が挙げられる。
【0025】
油分の具体的な例としては、例えば、スクワラン、オリーブ油、ホホバ油、ヒマシ油、ラノリン、流動パラフィン、セタノール、ステアリルアルコール等が挙げられる。パール化剤としては、ジステアリン酸エチレングリコール、スチレンポリマー等が挙げられる。
【0026】
保湿剤の具体的な例としては、例えば、ポリエチレングリコール、グリセリン、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジグリセリン、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム等が挙げられる。

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明にかかる処理組成物の調製工程の説明図である。
【図2】本発明において、コアセルベートが形成される機構の説明図である。
【図3】混合ミセルのアニオン性とコアセルベーション形成状態の説明図である。
【図4】温度応答性コアセルベーションの相変化状態の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛髪処理組成物を頭皮ないし毛髪に塗布し、
25〜50℃の温水で頭皮ないし毛髪をすすぐ頭皮・毛髪処理方法であって、
前記毛髪処理組成物は、(a)カチオン性高分子、(b)アニオン性界面活性剤、(c)ノニオン性または両性界面活性剤を含み、
水によって5〜10倍に希釈したときに二相への分離温度が25〜50℃であることを特徴とする、頭皮・毛髪処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、希釈液の二相分離温度が30℃〜45℃であることを特徴とする頭皮・毛髪処理方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、カチオン性活性剤がカチオン化セルロースもしくは下記化学式1に示すポリ塩化ジメチルメチレンピペリジニウムであることを特徴とする頭皮・毛髪処理方法。
【化1】

【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法において、アニオン性界面活性剤がラウリル硫酸ナトリウムもしくはラウリルエーテル硫酸ナトリウムであることを特徴とする頭皮・毛髪処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法において、ノニオン性または両性界面活性剤が下記化学式2に示すt−オクチルフェノキシポリエトキシエタノールもしくはヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインであることを特徴とする頭皮・毛髪処理方法。
【化2】

【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載の方法において、下記式1で定義されるアニオン比Yが0.3〜0.5であることを特徴とする頭皮・毛髪処理方法。
Y=アニオン性界面活性剤/(アニオン性界面活性剤+ノニオン性界面活性剤+両性界面活性剤) …式1

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−221163(P2009−221163A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68164(P2008−68164)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】