説明

頭蓋骨補填人工骨の設計方法、頭蓋骨補填人工骨の設計装置、及びプログラム

【課題】皮膚萎縮或いは脳の切除により生じた領域としての空隙を正確に埋めることが可能な人工骨を形成し、死腔の発生を防止する。
【解決手段】人工骨外形データ取得部22は、頭蓋骨101の欠損部101aに対応する人工骨外形データ31を取得する。皮膚形状データ取得部23は、頭部100の断面画像における皮膚部分103に対応する画素濃度の部分に基づいて、皮膚部分103における皮膚表面の皮膚形状データ32を取得する。人工骨内面形状データ形成部24は、皮膚形状データ32に基づいて、欠損部101aの表面における皮膚表面の形状に沿った人工骨の内側の面の人工骨内面形状データ33を形成する。人工骨厚みデータ形成部25は、人工骨外形データ31と人工骨内面形状データ33とに基づいて、人工骨の外形と人工骨の内側の面との間を埋める人工骨の厚みデータ34を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭蓋骨における欠損部を補填する人工骨を設計するための、頭蓋骨補填人工骨の設計方法、頭蓋骨補填人工骨の設計装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、事故や疾病の治療のために頭蓋骨の一部が欠損し或いは切除されて頭蓋骨に欠損部が発生した場合に、その頭蓋骨における欠損部を補填する人工骨が用いられている。このような頭蓋骨における欠損部を補填する人工骨を設計するための設計方法或いは設計システムとして、特許文献1或いは特許文献2に開示されたものが知られている。
【0003】
特許文献1に開示された設計方法においては、まず、頭蓋骨の複数の断層データを基に頭蓋骨の三次元データが作成される。そして、その三次元データにおいて、対称面で分割したときに得られる欠損部を有する半体と欠損部を有さない半体とが仮想される。更に、欠損部を有さない半体を上記対称面を中心とした面対称な位置に反転させたときに欠損部を有する半体と重ならない部分を抽出することで、欠損部に対応する人工骨の外形が決定される。また、人工骨の厚みについては、欠損部を有さない半体の厚みをもとに予測される。そして、欠損部付近の軟部組織の形状データと、欠損部を有さない半体で欠損部と対称な位置に存在する部分の付近の軟部組織の形状データとのうちの少なくとも一方を利用して、人工骨の厚みを厚くする或いは薄くするといった補正が行われる。
【0004】
特許文献2に開示された設計システムにおいては、まず、頭部における複数の断層位置での断層画像のそれぞれにて、予め定められた濃度レベルの画素領域が頭蓋骨の骨部候補領域として抽出され、骨部候補領域のうち面積最大のものが確定骨部領域として選択される。そして、その確定骨部領域のうち、人体外面側に臨む外形線のみを用いて、最終的に骨部として定めるべき領域の外形線情報である骨部外形線情報が生成される。更に、各断層位置毎の骨部外形線情報に基づいて、頭蓋骨の欠損部の三次元形状データが生成される。そして、欠損部が頭蓋骨を左右に二分したうちの片側にのみ存在する場合であれば、鏡像コピーによる欠損部復元が行われるように、欠損部の三次元形状データの生成が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−160646号公報
【特許文献2】特開2001−92950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
頭蓋骨の一部の欠損或いは切除によって頭蓋骨に欠損部が発生した場合には、特許文献1或いは特許文献2で開示されたような方法或いはシステムなどによって設計された人工骨が補填されることになる。そして、欠損部に人工骨を補填した際においては、皮膚萎縮或いは脳の切除により生じた領域としての空隙が、死腔として、人工骨の内側に発生し易い。このような死腔の発生は、感染のリスクを高める可能性がある。
【0007】
特許文献1に開示された設計方法では、人工骨の厚みは、頭蓋骨における欠損部が無い部分の厚みをもとに予測され、欠損部付近の軟部組織、或いは、欠損部と対称な位置の部分の付近の軟部組織の形状データを利用して、厚くする或いは薄くするといった補正が行われる。このため、特許文献1の設計方法は、人工骨の厚みを増減する補正が行われるにとどまる方法のため、皮膚萎縮或いは脳の切除により生じた領域としての空隙を正確に埋めることが可能な人工骨を形成することが困難であり、人工骨の内側に死腔が発生し易いという問題がある。
【0008】
また、特許文献2に開示された設計システムでは、各断層位置毎の骨部外形線情報に基づいて欠損部の三次元形状データが生成され、欠損部が頭蓋骨の左右の片側に存在する場合は、鏡像コピーによる欠損部復元により、欠損部の三次元形状データの生成が行われる。このため、特許文献2の設計システムは、鏡像コピーによる欠損部復元によって欠損部の三次元形状データの生成が行われるにとどまるため、皮膚萎縮或いは脳の切除により生じた領域としての空隙を正確に埋めることが可能な人工骨を形成することが困難であり、人工骨の内側に死腔が発生し易いという問題がある。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、皮膚萎縮或いは脳の切除により生じた領域としての空隙を正確に埋めることが可能な人工骨を形成でき、死腔の発生を防止することができる、頭蓋骨補填人工骨の設計方法、頭蓋骨補填人工骨の設計装置、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための第1発明に係る頭蓋骨補填人工骨の設計方法は、頭蓋骨における欠損部を補填する人工骨を設計するための、頭蓋骨補填人工骨の設計方法に関する。そして、第1発明に係る頭蓋骨補填人工骨の設計方法は、患者の頭蓋骨の欠損部に対応する人工骨の外形のデータである人工骨外形データを取得する、人工骨外形データ取得ステップと、前記患者の頭部の断面画像における皮膚部分に対応する画素濃度の部分に基づいて、当該皮膚部分における皮膚表面の形状データである皮膚形状データを取得する、皮膚形状データ取得ステップと、前記皮膚形状データに基づいて、前記欠損部の表面における皮膚表面の形状に沿った前記人工骨の内側の面の形状データである人工骨内面形状データを形成する、人工骨内面形状データ形成ステップと、前記人工骨外形データと前記人工骨内面形状データとに基づいて、当該人工骨外形データが取得された前記人工骨の外形と当該人工骨内面形状データが形成された前記人工骨の内側の面との間を埋める前記人工骨の厚みデータを形成する、人工骨厚みデータ形成ステップと、を備えていることを特徴とする。
【0011】
この発明によると、頭部の断面画像における皮膚部分に対応する画素濃度の部分に基づいて皮膚表面の形状データが取得され、それに基づき、欠損部の表面における皮膚表面の形状に沿った人工骨の内側の面の形状データが形成される。そして、それらの形状データに基づき、人工骨の外形と人工骨の内側の面との間を埋める人工骨の厚みデータが形成される。このため、皮膚萎縮或いは脳の切除により生じた領域としての空隙を正確に埋めることが可能な形状の人工骨を形成することができる。これにより、死腔の発生が防止されることになる。
【0012】
第2発明に係る頭蓋骨補填人工骨の設計方法は、第1発明の頭蓋骨補填人工骨の設計方法において、前記皮膚形状データ取得ステップにおいて、前記患者の頭部の平行な断面における複数の前記断面画像毎に、前記患者の頭蓋骨中における所定の一点である中心位置から放射状に延びる複数の仮想の線と前記皮膚部分における皮膚表面とが交わる交点を曲線で連続させて形成した曲線データを取得することで、前記皮膚形状データが取得されることを特徴とする。
【0013】
この発明によると、断面画像毎に頭蓋骨中の中心位置から放射状に延びる仮想の線と皮膚表面とが交わる交点を曲線で連続させることで得られる曲線データを取得することで、皮膚形状データを容易に取得することができる。
【0014】
第3発明に係る頭蓋骨補填人工骨の設計装置は、頭蓋骨における欠損部を補填する人工骨を設計するための、頭蓋骨補填人工骨の設計装置に関する。そして、第3発明に係る頭蓋骨補填人工骨の設計装置は、患者の頭蓋骨の欠損部に対応する人工骨の外形のデータである人工骨外形データを取得する、人工骨外形データ取得部と、前記患者の頭部の断面画像における皮膚部分に対応する画素濃度の部分に基づいて、当該皮膚部分における皮膚表面の形状データである皮膚形状データを取得する、皮膚形状データ取得部と、前記皮膚形状データに基づいて、前記欠損部の表面における皮膚表面の形状に沿った前記人工骨の内側の面の形状データである人工骨内面形状データを形成する、人工骨内面形状データ形成部と、前記人工骨外形データと前記人工骨内面形状データとに基づいて、当該人工骨外形データが取得された前記人工骨の外形と当該人工骨内面形状データが形成された前記人工骨の内側の面との間を埋める前記人工骨の厚みデータを形成する、人工骨厚みデータ形成部と、を備えていることを特徴とする。この第3発明によると、第1発明と同様の効果を奏することができる。
【0015】
第4発明に係るプログラムは、頭蓋骨における欠損部を補填する人工骨の設計を、コンピュータによって実行するためのプログラムに関する。そして、第4発明に係るプログラムは、前記コンピュータに、患者の頭蓋骨の欠損部に対応する人工骨の外形のデータである人工骨外形データを取得する、人工骨外形データ取得ステップと、前記患者の頭部の断面画像における皮膚部分に対応する画素濃度の部分に基づいて、当該皮膚部分における皮膚表面の形状データである皮膚形状データを取得する、皮膚形状データ取得ステップと、前記皮膚形状データに基づいて、前記欠損部の表面における皮膚表面の形状に沿った前記人工骨の内側の面の形状データである人工骨内面形状データを形成する、人工骨内面形状データ形成ステップと、前記人工骨外形データと前記人工骨内面形状データとに基づいて、当該人工骨外形データが取得された前記人工骨の外形と当該人工骨内面形状データが形成された前記人工骨の内側の面との間を埋める前記人工骨の厚みデータを形成する、人工骨厚みデータ形成ステップと、を実行させることを特徴とする。この第4発明によると、第1発明と同様の効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、皮膚萎縮或いは脳の切除により生じた領域としての空隙を正確に埋めることが可能な人工骨を形成でき、死腔の発生を防止することができる、頭蓋骨補填人工骨の設計方法、頭蓋骨補填人工骨の設計装置、及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態に係る頭蓋骨補填人工骨の設計装置を示すブロック図である。
【図2】頭蓋骨に欠損部が発生した状態の患者の頭部を示す模式図である。
【図3】図2に示す患者の頭部における頭蓋骨を示す模式図である。
【図4】図1に示す設計装置の作動フロー及び本実施形態における頭蓋骨補填人工骨の設計方法を示すフロー図である。
【図5】図1に示す設計装置の作動及び本実施形態の設計方法におけるCT画像データ取得ステップで得られるデータを説明するための図である。
【図6】図1に示す設計装置の作動及び本実施形態の設計方法における人工骨外形データ取得ステップで得られる人工骨外形データを説明するための図である。
【図7】図1に示す設計装置の作動及び本実施形態の設計方法における皮膚形状データ取得ステップで得られる皮膚形状データを説明するための図である。
【図8】図1に示す設計装置の皮膚形状データ取得部における皮膚形状データが取得される処理を説明するための図である。
【図9】図1に示す設計装置の皮膚形状データ取得部における皮膚形状データが取得される処理を説明するための図である。
【図10】図1に示す設計装置の作動及び本実施形態の設計方法における人工骨内面形状データ形成ステップで得られる人工骨内面形状データを説明するための図である。
【図11】図1に示す設計装置の作動及び本実施形態の設計方法における人工骨厚みデータ形成ステップで得られる厚みデータを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。本発明は、頭蓋骨における欠損部を補填する人工骨を設計するための、頭蓋骨補填人工骨の設計方法及び頭蓋骨補填人工骨の設計装置として、また、頭蓋骨における欠損部を補填する人工骨の設計をコンピュータによって実行するためのプログラムとして、広く適用することができるものである。
【0019】
尚、本実施形態の設計方法(頭蓋骨補填人工骨の設計方法)は、本実施形態の設計装置(頭蓋骨補填人工骨の設計装置)が作動することによって実施されることになる。また、本実施形態のプログラムは、頭蓋骨における欠損部を補填する人工骨の設計をコンピュータである本実施形態の設計装置によって実行するためのプログラムとして構成されている。そして、本実施形態では、本実施形態のプログラムが本実施形態の設計装置によって実行されることによって、本実施形態の設計方法が実施されることになる。
【0020】
図1は、本発明の一実施の形態に係る頭蓋骨補填人工骨の設計装置1(以下、単に「設計装置1」ともいう)の構成を模式的に示すブロック図である。また、図2は、事故や疾病の治療のために頭蓋骨の一部が欠損し或いは切除されて頭蓋骨に欠損部が発生した状態の患者の頭部100を示す模式図である。そして、図3は、図2に示す患者の頭部100における頭蓋骨101を示す模式図である。
【0021】
図1に示す設計装置1は、図3に示すように欠損部101aが発生した頭蓋骨101に関して、その欠損部101aを補填する人工骨を設計するための装置として用いられる。尚、図2に示すように、頭蓋骨101における骨の一部が欠落した部分である欠損部101aの表面は、皮膚で覆われた状態となっている。
【0022】
設計装置1には、図示しないCPU(Central Processing Unit)、メモリ等の記憶装置、入出力インターフェース、等が設けられている。これにより、設計装置1においては、図1に示すように、CT画像データ取得部21、人工骨外形データ取得部22、皮膚形状データ取得部23、人工骨内面形状データ形成部24、人工骨厚みデータ形成部25、記憶部26、等が備えられている。尚、CT画像データ取得部21、人工骨外形データ取得部22、皮膚形状データ取得部23、人工骨内面形状データ形成部24、人工骨厚みデータ形成部25は、CPUとメモリ等の記憶装置に格納された所定のプログラムとによって構成される。そして、設計装置1のCPUが、CT画像データ取得部21、人工骨外形データ取得部22、皮膚形状データ取得部23、人工骨内面形状データ形成部24、人工骨厚みデータ形成部25として機能し、処理を行うことになる。また、設計装置1におけるメモリ等の記憶装置が、記憶部26として機能することになる。
【0023】
設計装置1は、図示しないユーザによる入力装置12からの入力操作に基づいて処理を開始し、設計装置1の処理が実行されることで、人工骨の設計が行われることになる。尚、設計装置1は、入力装置12及び表示装置13に接続されている。
【0024】
入力装置12は、ユーザによる設計装置1に対する操作を入力するための装置である。入力装置12は、例えば、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、等の入力機器として設けられる。ユーザは、入力装置12を用いて、設計装置1に対して、人工骨の設計に必要な所定のデータを入力することができるとともにその設計装置1の操作を行うことができる。また、表示装置13は、例えば、表示画面を備えたディスプレイ装置として設けられ、設計装置1の制御に基づいて処理結果を表示する。
【0025】
以下、設計装置1におけるCT画像データ取得部21、人工骨外形データ取得部22、皮膚形状データ取得部23、人工骨内面形状データ形成部24、人工骨厚みデータ形成部25、記憶部26での処理について、設計装置1が作動することで実施される本実施形態の設計方法とともに説明する。
【0026】
図4は、設計装置1の作動フロー及び本実施形態の設計方法を示すフロー図である。本実施形態の設計方法は、CT画像データ取得ステップS101、人工骨外形データ取得ステップS102、皮膚形状データ取得ステップS103、人工骨内面形状データ形成ステップS104、人工骨厚みデータ形成ステップS105、等を備えて構成されている。
【0027】
本実施形態では、設計装置1におけるCPUにより、設計装置1のメモリに記憶された本実施形態のプログラムが読みだされて実行される。これにより、本実施形態のプログラムが、コンピュータである設計装置1に上記の各ステップ(S101〜S105)を実行させ、本実施形態の設計方法が実施される。
【0028】
CT画像データ取得部21は、CT画像データ11を取得するように構成されている。そして、設計装置1にてCT画像データ取得部21としての処理が行われることで、CT画像データ取得ステップS101が実行されることになる。
【0029】
尚、CT画像データ11は、X線CT(Computed Tomography)装置による患者の頭部100の断層撮影によって得られ、患者の頭部100の上下方向に垂直な断面であって互いに平行な断面における複数の断面画像のデータとして構成されている。そして、このCT画像データ11は、例えば、CF(Compact Flash)及びSD(Secure Digital)等の半導体記憶デバイス、フレキシブルディスク(Flexible Disk)等の磁気記録媒体、又はCD−ROM(Compact Disk Read Only Memory)等の光学記録媒体に記録された状態でこれらの記録媒体等から読みだされ、CT画像データ取得部21によって取得される。或いは、CT画像データ11は、上記の各断面画像のフィルム等からイメージスキャナ(図示せず)を介して画像データとして読み取られ、CT画像データ取得部21によって取得される。
【0030】
図5は、CT画像データ取得部21によって取得されたCT画像データ11における1つの断面データを説明するための図であって、その断面データとして、対応する断面画像を模式的に例示した図である。尚、図5の模式図に示す断面は、頭蓋骨101の欠損部101aに対応する位置での断面を示している。そして、図5に示すように、断面画像には、欠損部101aが開口した頭蓋骨101、頭蓋骨101の内部に配置される脳102、欠損部101aも含めて頭蓋骨101の周囲を覆う皮膚部分103の断面が表れている。
【0031】
図6は、人工骨外形データ取得部22によって面形状データとして取得された人工骨外形データ31を説明するための図であって、その人工骨外形データ31を含む図5に対応する断面データとして、対応する断面画像を模式的に示す図である。人工骨外形データ取得部22は、患者の頭蓋骨101の欠損部101aに対応する人工骨の外形データである人工骨外形データ31を取得するように構成されている。そして、設計装置1にて人工骨外形データ取得部22としての処理が行われることで、人工骨外形データ取得ステップS102が実行されることになる。
【0032】
尚、人工骨外形データ取得部22では、例えば、頭部100を左右方向において中央位置で二分する仮想の中央面C(図6にて中央面Pの位置を一点鎖線Cで示す)を想定し、中央面Pにて分離される頭蓋骨101のうち欠損部101aが無い無欠損部分101bの骨の外形に基づいて、人工骨外形データ31が取得されてもよい。この場合、無欠損部分101bの外形を中央面Cにて面対称位置に反転させた仮想の骨外形線を想定し、この骨外形線における欠損部101aを塞ぐように配置される部分に基づいて、人工骨外形データ31が取得されてもよい。また、上記の骨外形線における欠損部101aを塞ぐように配置された部分について、更に、図6の断面における縦横比を変更する等によって補正が行われ、人工骨外形データ31が取得されてもよい。
【0033】
図7は、皮膚形状データ取得部23によって取得された皮膚形状データ32を説明するための図であって、その皮膚形状データ32を含む図6に対応する断面データとして、対応する断面画像を模式的に示す図である。皮膚形状データ取得部23は、患者の頭部100の断面画像における皮膚部分103に対応する画素濃度の部分に基づいて、皮膚部分103における皮膚表面の形状データである皮膚形状データ32を取得するように構成されている。そして、設計装置1にて皮膚形状データ取得部23としての処理が行われることで、皮膚形状データ取得ステップS103が実行されることになる。
【0034】
図8及び図9は、皮膚形状データ取得ステップS103を実行する皮膚形状データ取得部23における皮膚形状データ32が取得される処理を説明するための図である。皮膚形状データ取得ステップS103においては、患者の頭部100の平行な断面Pにおける複数の断面画像毎に、患者の頭蓋骨101中における所定の一点である中心位置Mから放射状に延びる複数の仮想の線である放射線Rと皮膚部分103における皮膚表面とが交わる交点Qを曲線で連続させて形成した曲線データが取得される。そして、各断面Pに対応する各曲線データにおいて、頭部100の上下方向に沿う方向で隣り合う曲線データにおける隣接する交点Q同士が結合されことで、面形状データとして皮膚形状データ32が取得されることになる。
【0035】
尚、図8においては、面形状データとして得られる皮膚形状データ32について、頭部100における一部に対応する部分のみを二点鎖線で模式的に示している。また、図8では、放射線Rについては、頭部100の上下方向に対して垂直な方向に延びる一部の放射線Rのみを模式的に図示しており、他の放射線Rの図示を省略している。また、図9では、図7に示す断面における放射線Rと交点Qとの関係を示しており、放射線Rについては、図9に示す断面に対しては交点Qにて斜めに交差するため、図9における断面に対する投影図として図示している。また、図9では、無欠損部分101b側において皮膚部分103と交差する放射線R及び交点Qの図示を省略している。また、図8及び図9では、断面P、放射線R、及び交点Qについては、分かりやすく示すため、実際に設定される断面P、放射線R、及び交点Qの数よりも数を減らして図示している。
【0036】
尚、人工骨外形データ取得部22が人工骨外形データ31を取得する処理についても、上記の皮膚形状データ取得部23に関して図8及び図9にて説明した処理と同様に行われてもよい。この場合、図8及び図9にて説明した処理と同様の処理によって無欠損部分101bの骨の外形の形状データが取得される。そして、無欠損部分101bの骨の外形の形状データに基づいて、中央面Cにて面対称位置に反転させて欠損部101aを塞ぐ部分を抽出し、人工骨外形データ31が取得される。
【0037】
図10は、人工骨内面形状データ形成部24によって形成された人工骨内面形状データ33を説明するための図であって、その人工骨内面形状データ33を含む図7に対応する断面データとして、対応する断面画像を模式的に示す図である。人工骨内面形状データ形成部24は、皮膚形状データ32に基づいて、欠損部101aの表面における皮膚表面の形状に沿った人工骨の内面の面の形状データである人工骨内面形状データ33を形成するように構成されている。そして、設計装置1にて人工骨内面形状データ形成部24としての処理が行われることで、人工骨内面形状データ形成ステップS104が実行されることになる。
【0038】
尚、人工骨内面形状データ形成部24では、例えば、人工骨内面形状データ33の中央部分の形状データは、皮膚形状データ32のうち欠損部101aに対応する皮膚表面に沿った部分の形状データによって形成される。そして、各断面P(図8を参照)における人工骨内面形状データ33の端部近傍の形状データは、頭蓋骨101における欠損部101aの縁部分に対して連続するとともに、人工骨外形データ31とも連続するように補正されて形成される。
【0039】
図11は、人工骨厚みデータ形成部25によって形成された厚みデータ34を説明するための図であって、その厚みデータ34を含む図10に対応する断面データとして、対応する断面画像を模式的に示す図である。人工骨厚みデータ形成部25は、人工骨外形データ31と人工骨内面形状データ33とに基づいて、人工骨外形データ31が取得された人工骨の外形と人工骨内面形状データ33が取得された人工骨の内側の面との間を埋める人工骨の厚みデータ34を形成するように構成されている。そして、設計装置1にて人工骨厚みデータ形成部25としての処理が行われることで、人工骨厚みデータ形成ステップS105が実行されることになる。尚、図11に示す断面では、厚みデータ34の断面について、斜線でハッチングをした領域として図示している。
【0040】
記憶部26は、CT画像データ取得部21、人工骨外形データ取得部22、皮膚形状データ取得部23、人工骨内面形状データ形成部24、人工骨厚みデータ形成部25にてそれぞれ取得又は形成されたデータを記憶するように構成されている。そして、設計装置1においては、記憶部26に記憶されたデータが設計装置1の制御に基づいて表示装置13の表示画面に表示され、ユーザが確認できるように構成されている。
【0041】
また、記憶部26に記憶された人工骨外形データ31、人工骨内面形状データ33、厚みデータ34については、設計データ14として外部の記録媒体等に出力されて記録される。この設計データ14に基づいて、セラミックス或いはポリエチレン(PE)等の医療材料を用いた成形体が製造され、更に、その成形体の加工が行われることで、患者の頭蓋骨101における欠損部101aを補填する人工骨が、製造されることになる。
【0042】
尚、本実施形態のプログラムは、上述したCT画像データ取得ステップS101、人工骨外形データ取得ステップS102、皮膚形状データ取得ステップS103、人工骨内面形状データ形成ステップS104、及び人工骨厚みデータ形成ステップS105を設計装置1に実行させるように構成されていればよい。そして、本実施形態のプログラムが、設計装置1等のコンピュータにインストールされ、実行されることによって、本実施形態の設計方法が実施されることになる。
【0043】
また、本実施形態のプログラムは、記録媒体に記録された状態で流通しても良いし、インターネット上でデータとして流通してもよい。また、記録媒体の具体例としては、CF(Compact Flash)及びSD(Secure Digital)等の汎用的な半導体記憶デバイス、フレキシブルディスク(Flexible Disk)等の磁気記録媒体、又はCD−ROM(Compact Disk Read Only Memory)などの光学記録媒体が挙げられる。
【0044】
以上説明したように、本実施形態の設計装置1、設計方法、及びプログラムによると、頭部100の断面画像における皮膚部分103に対応する画素濃度の部分に基づいて皮膚表面の形状データ(皮膚形状データ31)が取得され、それに基づき、欠損部101aの表面における皮膚表面の形状に沿った人工骨の内側の面の形状データ(人工骨内面形状データ33)が形成される。そして、それらの形状データ(31、33)に基づき、人工骨の外形と人工骨の内側の面との間を埋める人工骨の厚みデータ34が形成される。このため、皮膚萎縮或いは脳の切除により生じた領域としての空隙を正確に埋めることが可能な形状の人工骨を形成することができる。これにより、死腔の発生が防止されることになる。
【0045】
また、本実施形態の設計装置1、設計方法、及びプログラムによると、断面画像毎に頭蓋骨101中の中心位置Mから放射状に延びる仮想の放射線Rと皮膚表面とが交わる交点Qを曲線で連続させることで得られる曲線データを取得することで、皮膚形状データ32を容易に取得することができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、次のように変更して実施してもよい。
【0047】
(1)前述の実施形態では、頭部の断面画像データとしてCT画像データが用いられる形態を例にとって説明したが、この通りでなくてもよく、頭部の断面画像データとしてCT画像データ以外のデータが用いられる形態であってもよい。例えば、頭部の断面画像データとしてMRI(Magnetic Resonance Imaging)によって得られた画像データが用いられる形態であってもよい。
【0048】
(2)また、人工骨内面形状データの中央部分の形状データについては、皮膚形状データに基づいて形成されるものであればよく、前述の実施形態のように皮膚形状データのうち欠損部に対応する皮膚表面に沿った部分の形状データによって形成される形態でなくてもよい。この場合、例えば、人工骨内面形状データの中央部分の形状データが、皮膚形状データのうち欠損部に対応する皮膚表面に沿った部分の形状データに対して一定のギャップを介して広がる形状として形成されるような形状データであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、頭蓋骨における欠損部を補填する人工骨を設計するための、頭蓋骨補填人工骨の設計方法、頭蓋骨補填人工骨の設計装置、及びプログラムとして、広く適用することができるものである。
【符号の説明】
【0050】
1 頭蓋骨補填人工骨の設計装置
22 人工骨外形データ取得部
23 皮膚形状データ取得部
24 皮膚内面形状データ形成部
25 人工骨厚みデータ形成部
100 頭部
101 頭蓋骨
101a 欠損部
103 皮膚部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭蓋骨における欠損部を補填する人工骨を設計するための、頭蓋骨補填人工骨の設計方法であって、
患者の頭蓋骨の欠損部に対応する人工骨の外形のデータである人工骨外形データを取得する、人工骨外形データ取得ステップと、
前記患者の頭部の断面画像における皮膚部分に対応する画素濃度の部分に基づいて、当該皮膚部分における皮膚表面の形状データである皮膚形状データを取得する、皮膚形状データ取得ステップと、
前記皮膚形状データに基づいて、前記欠損部の表面における皮膚表面の形状に沿った前記人工骨の内側の面の形状データである人工骨内面形状データを形成する、人工骨内面形状データ形成ステップと、
前記人工骨外形データと前記人工骨内面形状データとに基づいて、当該人工骨外形データが取得された前記人工骨の外形と当該人工骨内面形状データが形成された前記人工骨の内側の面との間を埋める前記人工骨の厚みデータを形成する、人工骨厚みデータ形成ステップと、
を備えていることを特徴とする、頭蓋骨補填人工骨の設計方法。
【請求項2】
請求項1に記載の頭蓋骨補填人工骨の設計方法であって、
前記皮膚形状データ取得ステップにおいて、前記患者の頭部の平行な断面における複数の前記断面画像毎に、前記患者の頭蓋骨中における所定の一点である中心位置から放射状に延びる複数の仮想の線と前記皮膚部分における皮膚表面とが交わる交点を曲線で連続させて形成した曲線データを取得することで、前記皮膚形状データが取得されることを特徴とする、頭蓋骨補填人工骨の設計方法。
【請求項3】
頭蓋骨における欠損部を補填する人工骨を設計するための、頭蓋骨補填人工骨の設計装置であって、
患者の頭蓋骨の欠損部に対応する人工骨の外形のデータである人工骨外形データを取得する、人工骨外形データ取得部と、
前記患者の頭部の断面画像における皮膚部分に対応する画素濃度の部分に基づいて、当該皮膚部分における皮膚表面の形状データである皮膚形状データを取得する、皮膚形状データ取得部と、
前記皮膚形状データに基づいて、前記欠損部の表面における皮膚表面の形状に沿った前記人工骨の内側の面の形状データである人工骨内面形状データを形成する、人工骨内面形状データ形成部と、
前記人工骨外形データと前記人工骨内面形状データとに基づいて、当該人工骨外形データが取得された前記人工骨の外形と当該人工骨内面形状データが形成された前記人工骨の内側の面との間を埋める前記人工骨の厚みデータを形成する、人工骨厚みデータ形成部と、
を備えていることを特徴とする、頭蓋骨補填人工骨の設計装置。
【請求項4】
頭蓋骨における欠損部を補填する人工骨の設計を、コンピュータによって実行するためのプログラムであって、
前記コンピュータに、
患者の頭蓋骨の欠損部に対応する人工骨の外形のデータである人工骨外形データを取得する、人工骨外形データ取得ステップと、
前記患者の頭部の断面画像における皮膚部分に対応する画素濃度の部分に基づいて、当該皮膚部分における皮膚表面の形状データである皮膚形状データを取得する、皮膚形状データ取得ステップと、
前記皮膚形状データに基づいて、前記欠損部の表面における皮膚表面の形状に沿った前記人工骨の内側の面の形状データである人工骨内面形状データを形成する、人工骨内面形状データ形成ステップと、
前記人工骨外形データと前記人工骨内面形状データとに基づいて、当該人工骨外形データが取得された前記人工骨の外形と当該人工骨内面形状データが形成された前記人工骨の内側の面との間を埋める前記人工骨の厚みデータを形成する、人工骨厚みデータ形成ステップと、
を実行させることを特徴とする、プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−135411(P2012−135411A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289323(P2010−289323)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.COMPACTFLASH
【出願人】(504418084)京セラメディカル株式会社 (106)
【Fターム(参考)】