説明

頭部損傷および低血液循環を処置するためのベンチレータおよび方法

或る実施形態において、本発明は、頭蓋内圧または眼圧を低下させる装置を提供する。この装置は、個人の気道とつなぐべく適合された流入開口部と排出開口部を設けたハウジングを備えている。この装置はさらに、自発的または人工的な吸気の最中に、ハウジングを通り、個人の肺内へ流入する呼吸ガスの流れを規制するべく動作可能な弁システムを備えている。この弁システムは、頭蓋内圧または眼圧を低下させるべく頭部から血液を送り出して静脈血管内の圧力を反復的に低下させるために、各吸気の最中における胸郭内圧の低下を補助する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連特許)
本願明細書は、2003年4月28日付け提出の米国特許明細書第10/426、161号の一部係属出願である、2003年6月11日付け提出の米国特許明細書第10/460、558号の一部継続出願である、2003年9月11日付け提出の米国特許明細書第10/660、462号の一部継続出願であり、本願明細書中ではこれら特許明細書の完全な開示を参照により援用している。
【0002】
本願明細書はさらに、2004年1月26日付け提出の米国特許明細書第10/765、318号にも関連しており、また、本願明細書中ではこの特許明細書の完全な開示を参照により援用している。
【0003】
(技術分野)
本発明は、概して頭蓋内圧および眼圧の分野に関する。より詳細には、本発明は、例えば外傷性頭部損傷および他の損傷によって生じた頭蓋内圧、眼圧、動脈系統圧を低下させ、生命維持に必要な臓器潅流を上昇させる装置および方法に関する。
【背景技術】
【0004】
一般に、頭部外傷および脳震盪は、米国における小児および若者の罹病率および死亡率の主要原因と考えられている。頭部への外傷は脳の肥大を生じる場合が多い。頭骨は拡大が不能であるため、脳内で上昇した圧力により死または重大な脳障損傷を引き起こす可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
脳肥大を低減するための、過換気およびステロイドを含む数多くの治療が評価されてきた一方で、頭蓋内圧の効果的な治療方法は依然として重要な医学的課題のままである。同様に、頭部外傷に関連した多臓器損傷、またはこれ以外の生命維持に必要な臓器の損傷は、脳内圧の上昇と生命維持に必要な臓器の潅流の低下に関連している。これらの患者の死亡率は非常に高く、これも依然として主要な医療課題のままである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
或る実施形態において、本発明は、頭蓋内圧または眼圧を低下させ、系統的血圧および臓器潅流を上昇させる装置を提供する。この装置は、個人の気道とつなぐよう適合された流入開口部と排出開口部を設けたハウジングを備えている。さらのこの装置は、自発的または人工的呼吸の最中に、ハウジングを通り、個人の肺内へ入る呼吸ガスの流れを規制するべく動作可能な弁システムを備えている。人工的吸気を必要とする人物には、この弁システムを真空源に取り付けることができる。この弁システムは、呼吸を活発に送っていない状態での自発的吸気の最中の胸郭内圧の低下、および同状態での無呼吸患者の胸郭内圧の低下を助けることにより、頭部から血液を搬送する静脈血管内の圧力を連続的または断続的に低下させて、頭蓋内圧または眼圧を低下させ、系統的な血圧を上昇させる。これに加え、本発明は、陽圧換気が供給されていない場合に、左心および右心内の圧力を低下させることで、効果的な心機能の増加を助ける。したがって、本発明は、頭蓋内圧および眼圧の上昇、循環系の虚脱、心停止、心不全を含む、しかしこれらに限定されない多数の疾病状態を患っている患者の治療に使用できる。
【0007】
さらにこのような装置は、脳髄腋の移動を促進するためにも使用できる。この場合には、頭蓋内圧をさらに低下させる。そのため、このような装置を、頭蓋内圧の上昇に関連した頭部外傷を患う人物、さらに頭蓋内圧を上昇させる心臓疾患を患う人物に対して使用することができる。
【0008】
或る態様では、この弁システムは、頭蓋内圧または眼圧を低下させるために、陰の胸郭内圧が約−2cmH2O〜約20cmH2Oの範囲の圧力に達すると、呼吸ガスが個人の肺に自由に流れるべく開放するように構成されている。こうすることで、陰の胸郭内圧が、閾値圧力に達するまで低下され、この時点で弁が開放する。このサイクルを連続的または定期的に繰り返すことで、胸郭内圧が反復的に低下する。この装置は、胸部を圧迫することで血液循環不良または心停止状態にある患者身体内の血液循環を向上させる手段を設けていてよい。この圧迫は自動胸部圧迫、胸囲ベスト、その他によって達成できる。これにより、血液循環不良状態にある患者の心臓および脳への血流が改善される。
【0009】
さらにこの装置は、弁システムを介して人工的に吸気させる手段を備えることができる。例えば、この装置は電極、鉄の肺人工呼吸装置、胸部上昇装置、ベンチレータ、その他を利用できる。
【0010】
別の実施形態では、装置は、気道内に真空を付与することで胸郭内圧を低下させる手段を備えていてよい。真空は、周波数、振幅気管に関連して調整できる。これにより、頭蓋内圧が、付与された真空の程度に比例して低下する。したがって、胸郭内圧を低下させるべく単純に気道圧を操作することで、頭蓋内圧を下げることができる。さらに、胸郭内に生成された真空によって心臓へ戻る静脈血流が増大し、同時に、心拍数および系統的な生命維持に必要な潅流が増加する。
【0011】
さらにこの装置は、弁システムのインピーダンスレベルを変更する機構を備えている。これは、個人の少なくとも1つの生理学的パラメータを監視するよう構成された、少なくとも1つの生理学的センサと組み合わせて使用することができる。こうすることで、インピーダンスレベルを変更する機構を、センサから信号を受信するように、また、この信号に基づいて弁システムのインピーダンスレベルを変更するように構成できる。使用できるセンサの例には、呼吸量、胸郭内圧、気管内圧、血圧、心拍数、終末呼気炭酸濃度、酸素レベル、頭蓋内潅流、頭蓋内圧を測定するセンサが含まれる。
【0012】
或る態様において、結合機構は、弁システムを個人の気道と結合するべく使用することができる。結合機構の例には、マウスピース、気管内チューブ、フェースマスクが含まれる。
【0013】
個人の胸郭内圧を低下させるために、幅広い範囲の弁システムを使用することができる。例えば、使用できる弁システムには、ばね付勢された装置を備えるもの、弁穴を開閉するための自動、電子的または機械的システムを備えるもの、ダックビル弁、ボール弁、これ以外の、自発的呼吸および/または胸郭内圧を操作する外部システム(例えばベンチレータ、横隔膜神経刺激装置、鉄の肺、その他)によって誘発された低圧差分に晒されると閉鎖した弁を開放できる感圧弁システムが含まれる。
【0014】
別の実施形態では、本発明は頭蓋内圧または眼圧を低下させる方法を提供する。この方法によれば、弁システムが個人の気道に結合され、また、個人の肺への呼吸ガスの流入を少なくとも定期的に低減する、または防止するように構成されている。気道に結合した弁システムを使用すれば、個人の陰の胸郭内圧が反復的に低下され、次にこれが、頭部から血液を搬送する静脈血管内をより低い圧力へと反復的に低下される。この場合、頭蓋内圧および眼圧が低下する。このような方法はさらに脳髄腋の移動を促進する。この場合、頭蓋内圧がさらに低下する。この方法はさらに、頭蓋内圧の上昇に関連した頭部外傷を患う個人、および頭蓋内圧を上昇させる心臓疾患、例えば心房細動や心不全を患う個人の治療に使用できる。
【0015】
個人の負の胸郭内圧は、個人が弁システムを介して繰り返し吸気を行う際に、反復的に低下させることができる。これは個人が自己努力(自発的呼吸と呼ぶ)で、または弁システムを介して患者に人工的に繰り返し吸気させることで行う。例えば、横隔膜神経を繰り返し刺激すること、鉄の肺人工呼吸装置で胸部を操作すること、ベンチレータを用いて胸郭内に陰圧を生成すること、胸郭内に弁システムで規制できる真空を付与すること、約200〜約2000回/分の速度で高周波ベンチレータを供給すること、またはその他により、個人に弁システムを介して人工的に吸気させることが可能である。
【0016】
別の態様では、弁システムのインピーダンスのレベルを固定または可変にすることができる。可変にする場合には、個人の少なくとも1つの生理学的パラメータを測定し、測定したパラメータに基づいてインピーダンスレベルを変更することができる。
【0017】
マウスピース、気管内チューブ、フェースマスク、その他を使用する様々な技術を用いて、弁システムを気道に結合することができる。さらに、弁システムが呼吸ガスの肺への流れを許容する、約0cmH2O〜約−25cmH2Oの範囲の陰の胸郭内圧に達するまで、弁システムを介した呼吸ガスの肺への流入を阻止することができる。
【0018】
別の実施形態では、本発明は、頭蓋内圧の上昇に関連した頭部外傷を患う個人を治療する方法を提供する。この方法によれば、個人に陽圧呼吸が送られる。陽圧呼吸に続いて、胸郭内真空を生成するべく個人の気道から呼吸ガスが排出される。これにより、頭部から血液を送り出す静脈血管内の圧力が低下することで、頭蓋内圧が低下する。陽圧呼吸を送るステップと、呼吸ガスを排出するステップを繰り返すことで治療を継続する。
【0019】
或る態様では、陽圧呼吸の送達と呼吸ガスの排出は機械的ベンチレータを用いて行われる。呼吸ガスは、一定の排出またはパルスされた排出によって排出できる。
【0020】
さらなる態様では、呼吸は約250ミリ秒〜約2秒の範囲内に1回送ることができる。さらに、呼吸は約0.1リットル/秒〜約5リットル/秒の範囲内の速度で送ることができる。別の態様では、真空を、約0mmHg〜約−50mmHgの範囲のレベルの圧力にて維持できる。真空は、負の流れを伴って、または流れを伴わずに維持することができる。呼吸ガスを排出する時間に関連した陽圧呼吸を供給時間時間は約0.5〜0.1の範囲内であってよい。
【0021】
機械的ベンチレータ、横隔膜神経刺激装置、ベンチレータバッグ、気道装置に取り付けた真空、鉄の肺人口呼吸装置、その他を含む様々な器具を用いて呼吸ガスの排出を行うことができる。いくつかの場合では、閾値弁も個人の気道に結合できる。この閾値弁は、成人の負の胸郭内圧が約−3cmH2Oを越えると開放するように構成することが可能である。小児科で使用する場合は、圧力が約−2cmH2O〜約−5cmH2Oを超えると弁が開放するようにできる。こうすることで、個人が息を吸い込むと負の胸郭内圧を低下するようになる。
【0022】
様々な方法を用いて呼吸ガスの送達および排出を行える。例えば、約−5mmHg〜約−10mmHgの圧力を達成し、次の陽圧呼吸までこの圧力をほぼ一定に維持するために、呼吸ガスを排出することができる。別の例として、陽呼吸をゆっくりと送り、胸郭内圧を約−10mmHg〜約−20mmHgの圧力へと急速に低下させた後に、約0mmHgへと徐々に低下させることができる。さらなる例として、胸郭内圧を約−20mmHgの圧力へゆっくりと低下させることができる。
【0023】
さらなる実施形態では、本発明は、胸郭内圧を低下させる装置を提供する。この装置はハウジングを備えており、このハウジングは、ハウジングを個人の気道に結合するべく適合されたインターフェースを設けている。負の胸郭内圧を生成し、これを定期的に位置するべく、個人の肺および気道から呼吸ガスを排出するために、真空源がハウジングと流体連通している。真空制御装置を使用して、患者の肺および気道から呼吸ガスの排出を規制する。さらに、個人に断続的に陽圧呼吸を供給するために、陽圧源がハウジングと流体連通している。このような装置を使用して、頭蓋内圧の上昇に関連した頭部外傷、低血圧、血液循環の不良、低い血液容量、心停止および心不全を含む様々な疾病を治療することができる。
【0024】
いくつかの場合において、陽圧呼吸を送っている最中に呼吸ガスの排出を停止するために、スイッチング機構を使用できる。機械的装置、磁気装置、電子装置のような様々なスイッチング機構の使用が可能である。さらに、機械的ベンチレータ、真空制御装置による真空、横隔膜神経刺激装置、胸郭外ベスト、ベンチレータバッグ、鉄の肺人工呼吸装置、吸引ライン、酸素タンクに取り付けたベンチュリ装置、その他を含む様々な真空源を使用して、呼吸ガスの排出を行うことができる。
【0025】
真空を規制するために、閾値弁を個人の気道と流体連通させて配置できる。この閾値弁は、個人の陰の胸郭内圧が約−3cmH2O〜約−20cmH2Oに達すると開放して、個人の気動内に呼吸ガスが流れられるように構成することができる。さらに、機械的ベンチレータ、ハンドヘルド式弁蘇生器、マウス・トゥ・マウス、または断続的な陽圧換気を供給する手段のような様々な圧力源を使用して、陽圧呼吸を送ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は、幅広い意味において、頭蓋内圧力と眼圧を低減する装置および技術を提供する。このような装置および技術は、外傷性脳損傷を負った患者や、血流状態と血圧が低い患者に特に役立つ。頭部内の圧力を低下させながら、組織圧力を維持または増加させる1つの方法は、個人の気道に結合させ、胸郭内圧を低下させるために使用される弁システムを用いるものである。こうすることで、弁システムを、脳からの静脈血液の除去を加速させ、結果的に頭蓋内圧および眼圧を低下させるように使用することができる。同時に、静脈血が心臓への戻りが増加することで組織圧力が上昇する。また、例えば胸郭内に断続的に真空を作り出すといった、これ以外の技術を使用することも可能である。頭蓋内圧を低下させることにより、脳髄液の移動も拡大する。これを実行する上で頭蓋内圧がさらに低下するため、頭部外傷を負った患者の治療も向上する。場合によっては、さらに弁システムを使用して、頭蓋内圧の上昇を招く心臓疾患(心房細動、心不全、心タンポナーデ、その他)を患っている個人の脳機能を治療することもできる。このような心臓疾患には、例えば心房細動または心不全が含まれる。頭蓋内圧を低下させることで、脳髄液の移動および変位が増加し、脳機能の高まりを助ける。
【0027】
頭蓋内圧は、頭部への動脈血圧、頭蓋骨内圧、脳から血流を排出する静脈系統内の圧力によって決定される脳潅流圧量によって制限されている。本発明の装置および方法は、脳から排出される静脈血の出口を拡大して、頭蓋内圧を低下させるために使用できる。この装置および方法は、自然な呼吸ができる患者、換気時に補助が必要な患者に使用することができる。この場合、患者が息を吸う度に(無呼吸患者の場合には、操作によって胸郭内の圧力が大気圧未満に低下する度に)胸郭内の真空効果を増大させることで、胸郭内、および脳から血液を排出する静脈血管内の圧力が、毎回吸気しようとする度に低下するよう本装置および方法を使用する。これにより、本装置および方法を用いない場合よりも多量の静脈血が頭部から排出され、その結果、頭蓋内圧と眼圧が低下する。さらに、陰の胸郭内圧が発生する度に心臓へ戻る静脈血が増加することで、生命維持に必要な臓器への循環が増加するため、心拍出量が増加し、生命維持に必要な臓器の潅流が向上する。そのため、本発明は、低心拍出量状態および低血圧を患っている患者を助けるために使用することができる。
【0028】
呼吸ガスが肺から流出することを防止または阻止するために、様々な阻止または防止機構を使用でき、これらの機構には以下に示す文献に記載されているものが含まれ、本願明細書ではこれらの完全な開示を参照により援用している:米国特許第5、551、420号;第5、692、498号;第6、062、219号、第5、730、122号;第6、155、257号;第6、234、916号;第6、224、562号、また、2002年8月19日付けで提出の米国特許明細書第10/224、263号(“Systems and Methods for Enhancing Blood Circulation”事件番号第16354−000115号)、2003年3月28日付けで提出の第10/401、493号(“Diabetes Treatment Systems and Methods”事件番号第16354−000116号)、2001年9月28日付けで提出の第09/966、945号、2001年9月28日付けで提出の第09/967、029号。弁システムは、患者が息を吸い込んでいる最中に患者の体内に呼吸ガスが流入することを完全に防止する、またはこれに抵抗するように構成することができる。呼吸ガスの流れを完全に阻止する弁システムの場合には、閾値の陰の胸郭内圧に達すると開放する圧力反応弁として構成することができる。
【0029】
例えば、呼吸気流入への抵抗を約0cmH2O〜約25cmH2Oに設定でき、また、この設定を可変あるいは固定にすることができる。より好ましくは、弁システムを、陰の胸郭内圧が約−2cmH2O〜約−20cmH2Oの範囲内である場合に開放するように構成できる。さらに、弁システムは連続的または可変ベースで使用できる。例えば、弁システムを通常の呼吸1回おきに使用することが可能である。
【0030】
限定を意図するものではないが、頭蓋内圧および眼圧を低下させるために使用される特定タイプの阻止弁には、弁穴を開閉するばね付勢型装置、自動/電子手段および機械手段、ダックビル弁、ボール弁、さらに、自然な呼吸および/または胸郭内圧を操作する外部手段のいずれかによって誘発された低圧差に晒されると開閉するこれ以外の感圧弁システム(例えば、ベンチレータ、横隔膜神経刺激装置、鉄の肺、その他)が含まれる。
【0031】
過去には、このような閾値弁システムは、続いて起こる心臓収縮での胸郭内真空を増大させる効果があるため、心臓への静脈プレロードを増加させるべく、また、心拍量、拍出量、血圧を上昇させるべく使用されてきた。これに対し、本発明の技術は、脳の静脈側からの血液の除去を促進することで機能する。このような弁システムを使用した場合、心臓から生命維持に必要な臓器(脳を含む)へ排出される血流は増加するであろうが、頭蓋内圧を低下させる上での弁システムの効果は、脳への血流が増加することがわかっていただけに、実際のところ予期しないものであった。しかしながら、弁システムを使用した場合に脳から除去される静脈血圧量が著しい点は変わらなかった。したがって、脳内の血流を増加しながらも、頭蓋内圧を低下できるという弁システムの総効果が得られる。
【0032】
弁システムを個人の気道に結合させた状態で、弁システムを介して息を吸い込むと、陰の胸郭内圧が拡大する。個人が自発的に呼吸をしている場合には、単純に弁システムを介して呼吸することができる。個人が無呼吸状態にある場合には、隔膜への電気刺激、ボディキュイラスまたは鉄の肺のような陰圧ベンチレータ、やはり陽圧ベンチレータ間に真空を生成する陽圧ベンチレータを含む様々な技術を用いて人工的に吸入を誘発することができる。一例として、個人に弁システムを介して息を吸い込ませるべく、少なくとも数本の呼吸筋、また特にこれらの呼吸筋を刺激して繰り返し収縮させることで、陰の胸郭内圧の程度を上げ、その期間を延長させることが可能であり、つまり、呼吸筋への刺激によって、周辺の静脈血管系内の圧力に対して胸郭内圧が低下または陰となる期間と程度が増大する。呼吸筋が収縮すると、一般に患者の呼吸は「促拍」する。これらの技術は単独で、または弁システムと組み合わせて使用できる。
【0033】
呼吸筋の中でも、刺激を与えて収縮させることができるのは、肋間筋および腹筋を含む、隔膜、胸壁筋である。刺激を与えて収縮させることができる特定の胸壁筋には、本願明細書中でその完全な開示を参照により援用しているLeslie A. Geddes著、“Electroventilation − A Missed Opportunity?”, Biomedical Instrumentation & Technology, 1998年7月/8月号、401〜414頁に記載されているように、斜角筋および胸鎖乳突筋を含む、上肋骨を上昇させるもの、僧帽筋、菱形筋、肩甲骨角挙筋を含む、肩胛帯を固定するべく機能するもの、鋸先大筋、大胸筋および小胸筋を含む、肋骨を上昇させるべく機能するものが含まれる。呼吸筋の、2つの半横隔膜および肋間筋が、吸気と呼気への最も大きな貢献であると考えられる。呼吸筋は様々な方法によって収縮するべく刺激することができる。例えば、刺激を受けると隔膜を収縮させる様々な神経または筋肉束に電流または磁場を供給することによって、隔膜を刺激して収縮させることができる。類似の技術を使用して、胸壁筋を刺激して収縮させることもできる。刺激を行うために、様々なパルストレイン、パルス幅、パルス周波数、パルス波形を使用できる。さらに、電極の場所とパルス伝播のタイミングを変更することも可能である。ある特定の態様では、電流勾配または磁場を提供することで、横隔膜神経を直接または間接的に刺激している。
【0034】
吸入モータ神経に電気刺激を与えるためには、首の側面上の横隔膜神経の部分、下方胸骨のちょうど側方にあたる胸部面上に電極を配置して、電流が隔膜の、上方胸部の直前部に入り次第、横隔膜神経に電流を伝達して、喉の口咽頭領域、または喉頭自体において胸郭神経を刺激できるようにすることが好ましい。しかし、これ以外の電極部位を採用できることも理解されるだろう。例えば、或る実施形態では、胸郭の前広背筋縁に沿った経皮電極衝撃によって呼吸筋を刺激している。また或る実施形態では、気管内チューブまたは咽頭チューブに取り付けた1つまたはそれ以上の電極を使用して呼吸筋に刺激を与えることで呼吸を誘発している。隔膜を刺激するためには、C3〜C7付近、例えばC3、C4、またはC5の間の首範囲において、または横隔膜神経が隔膜に入る場所において横隔膜神経を刺激することができる。隔膜収縮を刺激する別の技術には、隔膜または横隔膜神経の磁場刺激が含まれる。磁場刺激を用いて胸壁筋を刺激することもできる。隔膜または胸壁筋の電場刺激は、1つまたはそれ以上の電極を皮膚上の、好ましくは首または胸郭下部付近(これ以外の場所でもよい)に配置し、経皮電流を含んだ電圧勾配を電極間に供給することで、呼吸筋を刺激して収縮させる。またさらに、経皮電極を使用して呼吸筋収縮を刺激することもできる。これ以外の技術は米国特許第6、463、327号に記載されており、本願明細書ではこの完全な開示を参照により援用している。
【0035】
弁システムは固定作動圧を有することもできるし、あるいは、所望の陰の胸郭内圧に達した場合に流れへの抵抗を減らすことができるように可変式にすることもできる。さらに、本発明の弁は、手動または自動で動作する可変式に構成することができる。流れへの抵抗の大きさは、治療中の個人に関連した1つまたはそれ以上のセンサによって測定した生理学的パラメータに基づいて変更することが可能である。このように、流れへの抵抗を、個人の生理学的パラメータが許容範囲内に収まるように変更することができる。自動システムを使用する場合には、参照により援用した参考文献に記載されている流入弁の抵抗または作動圧力を変更する1つまたはそれ以上の機構を制御するべく採用した制御装置を、このようなセンサと接続してもよい。
【0036】
したがって、本発明の弁システムは、胸郭内圧または他の生理学的パラメータを検出するべく使用されるセンサを組み込む、またはこのようなセンサと関連させることができる。或る態様では、センサを、測定した信号を、制御装置と通信している遠隔の受信機へ無線送信するように構成できる。本願明細書中で参照により記述または援用している弁システムの動作を変更する信号を測定するために制御装置を使用することも可能である。例えば、血圧、心臓内の圧力、胸郭内圧、呼気終末陽圧、呼吸速度、頭蓋内圧、眼圧、呼吸流、酸素送達、温度、血液pH、終末呼気炭酸濃度、組織内炭酸濃度、血液酸素、心拍出量、その他を感知するためにセンサを使用することができる。これらのセンサからの信号は受信機へ無線送信される。次に、制御装置がこの情報を使用して、本願明細書中で参照により援用している参考文献に記載されているとおりに、流入弁の作動圧力または抵抗を制御できる。
【0037】
頭蓋内圧を低下させる技術は様々な設定において使用できる。例えば、自発的に呼吸をしている個人、無呼吸状態にあるが心臓は鼓動している個人、心停止状態にある個人に対してこれらの技術を用いることが可能である。後者の場合では、心肺機能蘇生(CPR) 胸郭内に断続的に真空を作り出すための手段と共にこれらの技術を使用できる。これは、弁システムまたは他の何らかのタイプの圧力操作システムを使用して行える。さらに、このようなシステムは、個人が呼吸をしている場合といった別の設定においても使用できる。
【0038】
図1は、頭蓋内圧または眼圧を低下させる1つの方法を示す流れ線図である。ステップ10で示すように、工程は、弁システムを個人の気道に結合させることで開始する。例えばマウスピース、気管内チューブ、フェースマスク、その他による任意のタイプの結合機構を使用できる。さらに、本願明細書中で参照により記述または援用している任意の弁システムを使用することができる。ステップ20では、(人工的または自然な呼吸により)個人の陰の頭蓋内圧が反復的に低下する。陰の頭蓋内圧を人工的に低下させる技術の例には、鉄の肺人工呼吸器、陰圧の生成が可能なベンチレータ、毎分約200〜約2000の速度の高周波振動の供給が可能なベンチレータ、横隔膜神経刺激装置、その他の使用が含まれる。弁システムを気道と結合している間に個人の陰の頭蓋内圧が反復的に低下すると、血液を頭部から排出させる静脈血管内の圧力も低下する。こうすることにより、頭蓋内圧と眼圧が低下する。
【0039】
ステップ30に示すように、個人の様々な生理学的パラメータを任意で測定できる。このようなパラメータの例には、呼吸速度、胸郭内圧、気管内圧、頭蓋内圧、頭蓋内血流、眼圧、血圧、心拍数、終末呼気炭酸濃度、酸素飽和度、その他が含まれる。さらに、ステップ40に示すように、弁システムの作動閾値レベルは、測定した物理パラメータに基づいて任意で変更することができる。これは、脳から引き出す血液量を最大化ために、または、患者が安定状態を維持できるよう、単純に患者の状態を監視するために実施できる。
【0040】
図2は、弁システム200と結合するフェースマスク100を示す。マスク100は、口と鼻を保護する目的で、患者の顔面に固定されるよう構成されている。マスク100と弁システム200は、胸郭内圧を低下させることで、頭蓋内圧と眼圧を低下させるために使用する1タイプの器具の例である。しかし、例えば上述にて参照したこれ以外の弁システム、これ以外の結合配置の使用も可能であることが理解されるだろう。したがって、本発明は、特定の弁システム、および以下に記述するマスクに限定されることを意図したものではない。
【0041】
さらに図3〜図5を参照しながら、弁システム200についてさらに詳細に説明する。弁システム200は、換気チューブ208のボール206を受容するソケット204を具備した弁ハウジング202を備えている。こうすることで、換気チューブ208が水平軸周囲で回転し、垂直軸に対して旋回することができる。換気バッグのような呼吸源を管208と結合して、換気を補助することができる。換気チューブ208内には、ダックビル弁212の上に離間して設けられたフィルタ210が配置されている。隔膜216を保持するための隔膜保持装置214がハウジング202内に設けられている。弁システム200はさらに、第2ハウジング220によって適所に保持される患者ポート218を備えている。ハウジング220は、弁システム200とフェースマスク100の結合を促進するタブ222を便宜的に設けている。さらにハウジング220内には、ばね224a、リング部材224b、Oリング224cを具備したチェック弁224が設けられている。ばね224aは、患者ポート218に対してリング部材224bを付勢する。患者ポート218はバイパス開口部226を備え、このバイパス開口部226は、ばね224aを圧縮するべく患者ポート218内の圧力が閾値陰圧に達するまで、チェック弁224のOリング224cで被覆される。
【0042】
患者が活発に換気を行うと、換気チューブ208を通って呼吸ガスが強制流入される。この気体はフィルタ210を通って流れ、ダックビル弁212を通り、ポート218から気体を排出させる隔膜214を通って強制的に上昇する。これにより、単純にチューブ208を介して呼吸ガスを強制流入して、いつでも患者に換気を行えるようになる。
【0043】
1呼吸サイクルの呼気段階の最中に、吐き出された気体がポート218を通り、隔膜214を持ち上げる。次に、この空気が換気チューブ208内の通路227内を流れ、開口部229を介してシステムから排出される(図3を参照)。
【0044】
1呼吸サイクルの吸気段階の最中に、閾値の陰の胸郭内圧レベルを超えるまで、弁システム200が呼吸空気の肺内への流入を阻止する。この圧力レベルを超えると、ばね224aが圧縮されてチェック弁224が下方へ引き下ろされ、これにより、呼吸ガスが開口部226を通り、先ず最初に管208とダックビル弁212を通過することで患者の肺へ流れる。弁224は、陰の胸郭内圧が約0cm H2O〜約−25cm H2Oの範囲内、より好ましくは約−2cm H2O〜約−20cm H2Oの範囲内にある場合に開口するように設定することができる。これにより、患者が弁システム200を使用して吸気している最中に、陰の胸郭内圧の度数と期間を拡大することができる。胸郭内圧が閾値未満に低下すると、反跳ばね224aがチェック弁224を再度閉鎖する。この場合、脳から血液を送る静脈血管内の圧力も低下する。こうすることで、より多くの血液が脳から引き出され、頭蓋内圧と眼圧を低下することができる。
【0045】
ここで説明している任意の弁システムは、図6に示すように、治療システム300内に組み込むことができる。システム300は、フェースマスク100と弁システム200を便宜的に備えることができるが、個々で説明した任意の弁システムまたは連通機構、あるいはその他を使用することが可能である。弁システム200は制御装置310と便宜的に結合していてよい。制御装置310は、ここで記載および援用されている任意の実施形態と類似した方法で弁システム200のインピーダンスレベルを制御するべく使用できる。インピーダンスのレベルは、物理パラメータの測定値に基づいて、またはプログラムされた変更スケジュールを用いて変更できる。システム300は、ここで記述した任意の物理パラメータを測定するための、幅広い種類のセンサおよび/または測定装置であってよい。これらのセンサまたは測定装置は、弁システム200またはフェースマスク内に一体形成あるいは結合するか、もしくは別個に設けることが可能である。
【0046】
例えば、弁システム200は、(例えば胸郭内圧、頭蓋内圧、眼圧のような)圧力測定を行うための圧力トランスデューサ、肺に対して流出入する空気の流量を測定する流量測定装置、または吐き出された二酸化炭素を測定する二酸化炭素センサを備えていてよい。
【0047】
他のセンサまたは測定装置の例には、心拍数センサ330、血圧センサ340、温度センサ350が含まれる。これらのセンサはさらに制御装置310と結合し、測定値を記録できるようになっている。さらに、これ以外の測定装置を使用して、例えば酸素飽和度および/または血液レベルO2、血中乳酸値、血液pH、組織中の乳酸値、組織pH、血圧、心臓内の圧力、胸郭内圧、呼気終末陽圧、呼吸速度、頭蓋内圧、呼吸流、酸素搬送、温度、終末呼気炭酸濃度、組織炭素濃度、心拍出量、その他といった様々な物理パラメータを測定することができる。
【0048】
いくつかの場合においては、制御装置310を使用して、弁システム200の制御、任意のセンサまたは測定装置の制御、測定値の記憶、任意の比較の実施を行うことができる。あるいは、1組のコンピュータおよび/または制御装置を組み合わせて使用して、このような作業を実施することもできる。この器具には、適切なプロセッサ、ディスプレイ画面、入力装置および出力装置、エントリ装置、メモリまたはデータベース、ソフトウェア、その他システム300を動作するために必要な機器を設けることができる。
【0049】
個人に人工的に呼吸させるために、さらに様々な装置を制御装置310に結合することも可能である。例えば、このような装置は呼吸器360、鉄の肺人工呼吸装置370または横隔膜神経刺激装置380を備えることができる。呼吸器360は、個人の身体内に陰の胸郭内圧を作り出すものであってよく、また、毎分約200〜約2000回の振動の生成が可能な高圧呼吸器であってよい。
【0050】
例1
以下は、本発明に従って頭蓋内圧を低下させる方法を示す非限定的な例である。この例では、体重30kgの豚にプロポフォルで麻酔を施した。硬膜下に挿入した、先端にマイクロマノメータを取り付けたMillar社製電子カテーテルを使用して、自発的に呼吸をしている豚の頭蓋内圧を継続的に測定した。気管内の胸峰の高さに配置したMillar社製カテーテルを使用して、胸郭内圧(ITP)を記録した。豚の血圧を安定化した後に、0mH20呼吸インピーダンスで、その後5、10、15、20cmH2Oの呼吸インピーダンスで、心拍数、呼吸量、頭蓋内圧(ICP)、胸郭内圧を記録した。呼吸インピーダンスは、図2〜図5で説明したとおりに、インピーダンス閾値弁(ITV)を使用して達成された。
【0051】
底部における頭蓋内圧は約8/4mmHgであった。図7に示すように、呼吸インピーダンスの量を増加すると、これに比例して頭蓋内圧が低下した。豚が20cmH2Oのインピーダンスを吸い込んだ場合の頭蓋内圧は6/−2mmHgであった。これらの結果は複数の豚研究において観察されており、また、再生可能である。豚の脳内にMillar社製カテーテルを3cm挿入した。プローブの挿入に関連した外傷によって頭蓋内圧が二次的に上昇した。新規の基準にて頭蓋内圧が25/22mmHgに増加した。次に、インピーダンス閾値弁を、異なる抵抗レベルにて評価した(図8)。ここでも、呼吸インピーダンスの度数に比例して頭蓋内圧が低下した。
【0052】
例2
この例では、心停止からの回復の設定において頭蓋内圧が増加した。この例では、心室細動を6分間患った後に、心肺蘇生術を6分間実施し、除細動を行った豚モデルを使用した。動物は、例1と類似の弁システムを使用し、10cmH2O呼吸インピーダンスを介して呼吸を行った際に、自発的な呼吸により、頭蓋内圧が最大50%にまで低下した。
【0053】
上述の全ての例では、胸郭内圧が他の身体部位に関連して低下したことで、脳から血液を排出させる静脈血管内の圧力を低下させる吸引効果が生じ、その結果頭蓋内圧が低下した。
【0054】
本発明はさらに、脳髄腋(CFS)の流体移動を促進することにより頭蓋内圧(ICP)を低下させる技術および装置を提供する。ICP増加の原因は多数あるが、例えば、頭部損傷、虚血、オスモル濃度の不安定、脳浮腫、腫瘍、透析困難症、感染症、発作、高血圧性危機が含まれる。これらの各々はどれも、ゆっくりとしたICPの上昇、場合によっては急激な上昇を引き起こす可能性がある。脳内容物の固体は、頭蓋骨によって封鎖された内容物の約80〜85%を占める。大脳血液容量が3〜6%、CSFが5〜15%の割合を占める。本願明細書中でその完全な開示を参照により援用している、Anesthesia,Third Edition Editor,Ron Miller. Chapter authers: Shapiro and Drummond. Chapter 54(1990)を参照のこと。CSFは、脳内におけるその生成部位から、脳内へ再吸収される部位へと、通常の生理学的状態の下で、阻害されることなく移動する。脳内容物は実質的に圧迫不能であるため、3つの主要な構成要素(脳物質、血液容量、CSF容量)の任意の1つの容量が変化することで、他の2つの要素の一方または両方にも相対的な変化が生じてしまう。非CSF構成要素(単数または複数)の増加に伴い二次的に脳の容量が増加すると、CSFのうちのいくらかが、大後頭孔(頭蓋骨を、脊髄が位置する空間と接続している頭蓋骨内の孔)を含む別の部位へ強制移動され、さらに、脊髄を包囲しているCSF空間内へと強制移動される。非CSF構成要素の容量とサイズが拡大すると、頭蓋内圧が上昇する。不活発状態での通常のICPレベルは10〜15mmHgである。15〜20mmHgよりも高いレベルでは、圧迫およびその結果の組織虚血(適度な血流の欠如)に伴い二次的に脳に損傷が生じる可能性がある。ICPレベルの低下は、水摂取規制、排尿促進、ステロイド、過度呼吸、脳静脈圧、冷却法、CSF排出、および外科手術による減圧を含む多数の臨床的介入によって達成することが可能である。
【0055】
ICPの上昇により、CSFの流体移動および変位が生じる。ICPの上昇に関係なく、CSFの腋生成は概して一定(約150ml/日)のままである。ICPを上昇させることにより、CSFの腋再吸収を遅速化することができる。ここで説明した弁システムを使用することで、中央静脈圧を低下させることができる。これによりICPが低下し、CSFの流体移動または変位および再吸収が増加する。その結果、さらにICPが低下する。
【0056】
本発明の弁システムは、自然に呼吸を行っている個人、陰圧換気で換気を行っている患者、呼吸サイクルの少なくとも一部分について中央静脈圧を低下させるベンチレータで換気を行っている患者に使用することができる。本発明の弁システムにより胸郭内圧が低下する度に、これに随伴してICPが低下し、CSFの流体移動が増加する。換言すれば、弁システムを使用する場合に、ICP波形の頂点と谷の間の差異が拡大する。静脈血管を介して脳へ送られた胸郭内の圧力が変化するために、自然に呼吸をしている人物に正弦移動が生じる。通常、不規則に動いているCSF圧力(呼吸の度に圧力が上昇、低下する)が、弁システムによって変更される。より詳細には、弁システムが下方トラフ弁を作ることで、呼吸する度にICPに総体的な変化が生じる。無呼吸状態にある患者の場合は、鉄の肺、横隔膜神経刺激装置(例えば、本願明細書で参照により援用している米国特許第6234985号;6224562号、6312399号に記載されているもの)、胸部を定期的に拡大するために使用する胸部上の吸引カップ、その他を含む様々なベンチレータと共にこの弁システムを使用することで、類似の効果を生むことが可能である。
【0057】
CSF流体移動が増加することで、脳の代謝状態が全体的に向上する。これを図9A、図9Bに概略的に示す。図9A中において、脳400は通常の状態にある。脳400は、現部位404にて生成されたCSF402で包囲されている。さらに、CFSは頭蓋骨406で包囲されている。血液が動脈408を通って脳400に入り、静脈410を介して脳から出る。さらに、静脈410はCFSを排出する部位412を含んでいる。図9Aでは、排出時のCFSの流動方向を示す矢印を示している。脳400からは、大後頭孔416で包囲された脊髄414が延びている。
【0058】
図9Bでは、脳400が著しく肥大したために、CFSが入っている空間402が減少している。脳400の肥大によって、矢印418で示すように、脊髄414へ流れるCSFの流れが阻止されてしまう可能性がある。さらに、頭蓋骨406から出るCSFの移動を阻止するための部位412へのCSFの移動が減少する。
【0059】
上述した全ての条件に関連して上昇したICPをここで説明した弁システムを使用して治療することで、脳の肥大を減少させることができる。これにより、同じ条件下でCFSの移動および流体変位が増加する。その結果、CSFが再び移動できるようになると、頭蓋内圧がさらに低下する。
【0060】
次に図10を参照しながら、心臓の心房の収縮がICPに及ぼす効果について説明する。図示にあるように、心房の収縮によりICPが段階的に移動する。これは、心臓の心室細動の最中に最も明白に実証することができる。この設定において、多くの場合、心房は自然に鼓動し、収縮および緩和波形の各々の圧力が脳へ迅速に伝播され、ほぼ同一の波形にてICPに反映される。本発明の発明者は、流体システム(静脈血管およびCSF)どうしを非常に接近してつながれているために、心律動の僅かな変化によってもCSF圧力に即座に変化が生じる。そのため、著しい心律動または著しい心不全を患っている患者によっては、これらの状況によって生じた右心圧が上昇した結果ICPが上昇する場合がある。このようなICPの上昇により脳潅流を低下させることができるが、これは、脳潅流が、脳に流入する血液の圧力(平均動脈圧)から脳から出る血液の圧力(ICPおよび中央静脈圧)を引いた数値により決定されるためである。ここで説明した弁および胸郭内真空システムを使用することで、胸郭内圧が低下する。図10に示すように、下方に向いた矢印は、弁システムを介した各々の吸気のタイミングを示している。基準状態において、心房細動開始前に、吸入(短い矢印)毎にITPが低下し、右心圧が低下し、中央静脈圧が低下し、その後、即座にICPが低下する。心房細動が開始すると、頭蓋内圧が上昇し、ICP振幅変化の正弦パターンが減衰する。動物が、−10cmH2Oの吸入インピーダンスを介して吸気を開始し次第、胸郭内圧(ITP)が迅速に低下し、右心(RA)圧が迅速に低下し、また、各吸気毎にICP内の正弦波動が回復するに従って、頭蓋内圧(ICP)が迅速に低下する。ICPが上昇した状態では、阻止手段を介して息を吸うことによりICPが低下し、脳髄腋の流れが増加し、脳潅流の増加に伴って二次的に脳虚血が減少する。このように、これらの弁システムは、心房細動のような心律動を患っている患者、またはICPの上昇を伴う心不全を患っている患者に対して、ICPを低下させ、CSFの流体移動および変位を増加させ、さらに最終的にはこれらの患者の脳機能の改善を助ける目的で使用することができる。
【0061】
したがって、吸気抵抗の量、または陰の胸郭内圧生成(様々な技術を用いて生成することができる)を、ICP、血圧、呼吸速度、またはこれ以外の物理パラメータの測定値のフィードバックによって制御または規制することができる。このようなシステムは閉鎖ループフィードバックシステムを含んでいる。
【0062】
図11は、頭蓋内圧の上昇を伴った頭部外傷を患う患者を治療するための別の方法を示すフローチャートである。このような技術は、とりわけ低血圧または心停止を患う患者の治療にも適用可能である旨が理解されるだろう。これらの技術は、個人が無呼吸状態にある場合に特に有用であるが、場合によっては呼吸をしている患者にも使用することが可能である。
【0063】
幅広い意味で、頭部外傷を患う患者を治療する場合、個人の胸郭内圧を低下させることで頭蓋内圧が低下する。これが二次的な脳への損傷の低減の補助となる。ステップ500に示すように、個人に器具を結合することで、個人の胸郭内圧の低下を補助することができる。米国特許第6、584、973号に記載されているような、呼吸ガスの排出が可能な機械的ベンチレータ、米国特許第6234985号;第6224562号;第6312399号;第6463327号に記載されているような横隔膜神経または他の筋肉刺激装置(米国特許第5、551、420号;第5、692、498号;第6、062、219号;第5、730、122号;第6、155、257号;第6、234、916号;第6、224、562号に記載されている阻止機構の使用の有無に拘わらない)、鉄の肺装置、胸壁を外方へ引いて、鉄の肺の効果と類似の胸郭真空を作り出すことが可能な胸部ベスト、本願明細書と同日の2003年9月11日付けで提出の米国特許明細書第10/660、366号(事件番号第16354−005400号)に記載されているような換気バッグ、その他の使用を含む幅広い範囲の器具および技術を使用して胸郭内圧を低下させることができる。本願明細書中ではこれら全ての参考文献を参照により援用している。呼吸をしている患者の場合には、上述したような、また、吸入時に約5cmH2Oが生成された際に開放するように設定された閾値弁を使用することで、その人物の陰の胸郭内圧を増加させることができる。
【0064】
個人が無呼吸状態にある場合には、ステップ502に示すように、個人に陽圧呼吸を送る。これは、機械的ベンチレータ、換気バッグ、マウス・トゥ・マウス式人工呼吸、その他を用いて行うことができる。この実施後、胸郭内圧が迅速に低下する。これは、ステップ504に示すように、患者の肺から呼吸ガスを排出または排除することで実施できる。上述した技術のいずれも、胸郭内圧を低下させるべく使用することができる。このような胸郭内圧の低下によって、さらに中央静脈圧および頭蓋内圧も低下する。
【0065】
呼吸段階中における真空効果は一定なもの、時間によって変化するもの、またはパルスされたものであってよい。真空を作るための異なる方法の例については、後に図12A〜図12Cに関連して記述している。最初の陽圧呼吸が約250ミリ秒〜約2秒、より好ましくは約0.75秒〜約1.5秒の時間だけ供給される。陽圧呼吸の時間呼吸ガスが約0.5〜約0.1の時間〜陽圧呼吸の時間だけ抽出される。陽圧呼吸は、約0.1リットル/秒〜約5リットル/秒の流量、より好ましくは約0.2リットル/秒〜約2リットル/秒の流量で送ることができる。呼気の流れ(例えば、機械的ベンチレータ)は約0.1リットル/秒〜約5リットル/秒、より好ましくは約0.2リットル/秒〜約2リットル/秒の範囲内であってよい。真空は負の流れと共に、または単独で維持することができる。真空は約0mmHg〜約−50mmHg、より好ましくは約0mmHg〜約−20mmHgの範囲内であってよい。
【0066】
ステップ506に示すように、陽圧呼吸を送り、その後胸郭内圧を迅速に低下させる工程を、頭蓋内圧を制御するために必要なだけ繰り返すことができる。これが終了すると、ステップ508にてこの工程は完了する。
【0067】
陽圧呼吸と真空を作成する方法は、特定の用途に従って異なっていてよい。これらは異なる期間と傾斜を有する様々な波形にて付与することができる。例として、平方波、2位相性(この場合、真空作成後に陽圧が続く)、減衰(この場合は、真空が作成された後に減衰が可能になる)、その他を使用するものが挙げられる。図12A〜図12Cにおいてその発生の様子の3つの例を示しているが、これ以外のものも可能である。説明の簡便性の目的で、陽圧呼吸が発生する時間を吸気段階に関連して定義し、胸郭内圧が低下する時間を呼気段階に関連して定義する。陽圧呼吸は約10〜約16回/分の呼吸において発生し、この場合、吸気段階は約10〜約1.5秒間継続し、呼気段階は約3〜約5秒間継続する。図12Aに示すように、呼吸ガスは最大約22mmHgの圧力まで高速供給される。これが、約−10mmHgの陰圧に迅速に反転される。サイクルが繰り返される場合、この圧力は、呼気段階が終了するまで比較的一定に維持される。
【0068】
図12Bでは、陽圧はよりゆっくりと付加される。圧力が約10〜約15mmHgに達すると、この圧力が約−20mmHgの陰圧に迅速に反転される。呼気段階の最後において、この陰圧が約0mmHgにまで徐々に減衰する。その後、このサイクルが繰り返される。そのため、図12Bに示すサイクルでは、図12Aのサイクルよりも陽圧が低く、また、陰圧については最初は図12Aよりも低いが、徐々に上昇できるようになっている。この技術は、起こり得る気道のつぶれの低減を補助するべく設計されている。
【0069】
図12Cでは、陽圧が約20mmHgにまで上昇され、その後、約0mmHgにまで急速に低下されている。次に、陰圧が、呼気段階が終了するまでに、約−20mmHgにまで徐々に上昇される。このサイクルは、起こり得る気道のつぶれの低減を補助するべく設計されている。
【0070】
図13A、図13Bは、無呼吸状態にある患者の、より低い胸郭内圧にて使用できる装置500の或る実施形態を概略的に示している。装置500はハウジング502を備えており、このハウジング502は、任意タイプの患者インターフェースを使用して患者の気道に直接または間接的に結合できるインターフェース開口部504を具備している。ハウジング502はさらに、真空の生成が可能な任意タイプの装置またはシステムと流体連通していてよい真空源インターフェース506を備えている。ハウジング502にはさらに、真空を規制するための手段、例えば反応弁システム508が結合している。装置500は、さらに、真空を付与しない場合に必要に応じて患者に呼吸を供給するための換気インターフェース510を備えている。
【0071】
この実施形態では、真空は本質的に任意タイプの真空源によって提供することができ、また、制御装置は阻止弁を備えていてよく、この阻止弁は、米国特許第5、551、420号;第5、692、498号;第6、062、219号;第5、730、122号;第6、155、257号;第6、234、916号;第6、224、562号;第6、234、985号;第6、224、562号;第6、312、399号;および第6、463、327号に記載されているもの、また本願明細書中に記載のこれ以外のものであってよい。呼吸を送るためには、インターフェース510と結合した例えばバッグ弁蘇生器のような様々な換気源を使用することができる。装置500はさらに、バッグ弁蘇生器から患者に呼吸を送る際に真空を防止するための機構512を備えていてよい。呼吸が送られると、機構512が、胸郭内に真空を再付与できるようにするべく動作する。この機構512は真空源のオフ、オンを切り換えるために使用され、また、図13に示すように、真空源を備えているハウジング500内で分岐部分を閉鎖するべく運動するスライダスイッチを設けることができる。しかし、これ以外のタイプのスイッチまたは機構の使用も可能である。いくつかの場合においては、真空源は、呼吸実行時に真空を遮断することで、機構512が不要になるように構成された制御装置を備えていてよい。さらに、制御装置によって機構512を適切に動作できるよう、呼吸が送られ、停止された時を感知するための制御装置および適切なセンサを使用することもできる。呼吸が送られると、機構512が図13Aに示す位置へ戻り、患者に真空を供給できるようになる。真空が閾値量に達すると、規制装置508が、真空レベルをほぼ閾値量に維持するよう動作する。
【0072】
図14A、図14Bは、患者の治療に使用できる装置530の別の実施形態を示す。装置530は、図13A、図13Bに示した装置500と同様の原理を用いて動作する。装置530は、患者の気道に結合できる患者インターフェース534と、真空源と結合できる真空インターフェース536とを設けたハウジング532を備えている。ハウジング532はさらに換気インターフェース538を設けており、これを介して陽圧呼吸が供給される。さらにハウジング532には、患者に供給する真空量を規制するための真空制御装置540が結合している。使用できる流れ規制装置の一例を、以降で図15A、図15Bを参照して記述している。しかし、ここで記述した流れ規制装置のいずれを使用してもよい旨が理解されるだろう。ハウジング532内には、ハウジング532を通って流れる気流を編成するための流れ制御装置542が配置されている。流れ制御装置542は円筒形部材544を備えていてよく、この円筒形部材544は、ハウジング532内を滑動でき、流れ制御装置542が図14Aに示す位置に或る場合にインターフェース534と536の間に気体が流れるようにするための流路546を設けている。便宜的に、ばね548または他の付勢機構によって、流れ制御装置542が図14Aに示す基本位置に保持される。流れ制御装置542はさらに、図14A中に矢印で示した、規制装置540とインターフェース536の間に気体が流れるようにするための流路550を備えている。そのため、基本位置にて、真空がインターフェース536を介して供給され、これにより個人の胸郭内圧が低下する。真空が大きくなると、規制装置540を介して気体が流れ、真空量を低下させる。
【0073】
図14Bに示すように、流れ制御装置542はさらに、インターフェース538からインターフェース534へ延びた流路552を設けている。これにより、インターフェース538を介して陽圧呼吸を患者に供給することが可能になる。より詳細には、インターフェース538を通って気体が注入されると、この気体が制御装置542内を流れ、これにより制御装置542がハウジング532内で移動し、ばね548を圧縮する。この時、流路546は、ハウジング532によって遮断されるようになると閉鎖する。さらに流路550は、呼吸ガスが患者へ流れるようにする流路552のみを残して閉鎖する。陽圧呼吸が停止すると、ばね548が流れ制御装置を強制的に基準位置に戻し、この位置にて再び患者に真空が供給される。
【0074】
したがって、インターフェース536から真空が付与されると、阻止弁540の吹き出し圧に達するまで、インターフェース534を介して患者から空気が引き出される。この時点で、空気が、インターフェース538における換気源から阻止弁540を通って流れ、これにより、患者の身体内に作成する真空の限度が設定される。インターフェース538における換気源から陽圧換気が送られると、内部スライダスイッチシリンダ542が下方へ移動して真空源を閉鎖し、これにより、患者に呼吸を供給するために或る量の陽圧を供給できるようになる。流れ制御装置542は、供給された最小の力に沿った装置542の移動を助けるカップ型開口部556を備えていてよい。呼吸が到達し、また、換気源から装置542へ正の力が伝播されていない場合には、ばね548が上方へ押し上げ、再び患者が真空源に晒される。
【0075】
装置530はさらに、任意圧力ポップオフ規制装置560を備えていてよい。真空源が大き過ぎる場合には、ポップオフ規制装置560が開放し、圧力が所望の真空圧力よりも上で緩和される。ポップオフ規制装置560は、約20〜約100mmHgよりも高い圧力で開放するように構成することも可能である。
【0076】
図13、図14に示す装置は、機械的スイッチング機構を設けている状態で示されているが、これ以外の、例えば磁気的、電子的、電気的スイッチング機構の使用も可能である。使用可能な他のタイプのスイッチには、ボール弁、フラッパ弁、フィッシュマウス弁、またはこれ以外の、換気源から陽圧呼吸が到達すると真空を一時的に禁止するための、ソレノイドを含む機械的手段および電気または電子弁システムが含まれる。さらなる規制装置を真空源上に追加して、真空の流れまたは力を規制することができる。例えば、真空源を、閾値レベルに到達後は一定の真空を供給するように構成することができる。さらに、真空制御装置および阻止弁508、530は可変のものであっても、あるいは固定の阻止レベルに設定されたものであってもよい。真空源はさらに、吸引ラインであっても、酸素タンクに取り付けた危険装置から取ったものであってもよく、これら両方は患者と真空源に酸素を供給するものである。また、本発明は、ここで示した、真空を規制するための阻止弁の使用に限定されるものではない。代わりに、複数のスイッチング手段および規制手段の使用が可能である。さらに換気源も限定されるものではなく、また、マウス・トゥ・マウス式人工呼吸器、バッグ弁蘇生器、自動ベンチレータ、その他を備えていてよい。
【0077】
図15A、図15Bは、流れ規制装置540をより詳細に示している。規制装置540は、患者ポート572と換気ポート574を設けたハウジング570を備えている。任意で、補助の酸素ポート576を備えることもできる。気体が、2本の流路の一方を通ってハウジング570内を流れる(ポート572と574の間)。第1流路は、チェック弁ガスケット580とばね582を設けた一方向チェック弁578によって遮断される。第2流路は隔膜584によって遮断される。
【0078】
動作時に、ポート536にて真空源が真空を引き出すと、患者ポート572にて真空が経験される(図14Aを参照)。真空が閾値レベルに達すると、ばね582が圧縮されてガスケット580を下方へ移動させ、これにより、図15Bに示すように流路が作成される。真空が引き出されると、隔膜584が閉鎖し、空気が別の流路に入って流れることを防止する。真空が閾値レベルにある限り、ガスケット580は開口部から離間した状態に維持される。こうすることで、規制装置540が一定レベルの真空を維持することが可能になる。
【0079】
患者の換気準備ができると、真空が停止され、ポート574および/またはポート576に呼吸ガスが注入される。これらの気体が隔膜584を持ち上げることで、気体が患者へ流れることができるようになる。
【0080】
例3
例3は、本発明の或る態様に従って、頭蓋内圧および胸郭内圧を低下させ、収縮期動脈圧を上昇させる様子を示す、別の非限定的な例である。この例では、体重30kgの豚にプロポフォルで麻酔をかけた。無呼吸状態にある豚を用いて、先端にマイクロマノメータを取り付けたMillar社製の電子カテーテルを硬膜下で2cmだけ挿入して使用し、頭蓋内圧を測定した。気管内の胸峰の高さに配置したMillar社製カテーテルを使用して胸郭内圧(ITP)を記録した。収縮期中に、Millar社製カテーテルで収縮期動脈血圧(SBP)を測定した。胸郭内圧を規制するために、図14A、図14B、図15A、図15Bと類似のシステムを、吸気インピーダンス(約30L/分の流量で−8cmH2O)と共に使用した。自動搬送ベンチレータを用いて、1.0秒間に約400mlの一回換気量にて、呼吸10回/分の速度で陽圧換気が供給された。以降に、これら新規の心肺・頭蓋相互作用を記述する目的、方法、結果、結論について要約する。
【0081】
この例の目的は、心停止と固定出血低血圧ショックによる連続的傷害を与え、呼吸停止状態にある豚モデルの胸郭内圧(ITP)と頭蓋内圧(ICP)を低下させると同時に平均動脈圧(MAP)、心臓潅流圧(CPP)、大脳潅流圧(CerPP) を上昇させるために制御された、しかし連続的な真空(CV)源を制御するように取り付けられた新規の吸入インピーダンス閾値装置(ITD)の重要な使用を評価することである。この動物モデルは、心停止後のICPの上昇と出血後の顕著な低血圧の両方に関連している。
【0082】
この例では、ポロポフォルで麻酔をかけ、正常二酸化炭素状態および90%未満のO2飽和を維持するべく挿管および換気を施した6匹の雌の農場豚(28〜32kg)を使用した。心室細動の誘発後、無処置状態を6分間設け、標準のCPRを6分間施し、その後除細動を行った。自発的な循環が戻った後、また、呼吸10回/分での機械的換気の最中に、血液容量の35%が60cc/分の速度で移動した。その5分後、ITD−CVを5分間適用すると同時に、100%の酸素を10bpmの速度にて陽圧換気を行った。次に、ITD−CVを取り除き、呼吸10回/分の速度で陽圧換気を再度適用した。ITD−CV適用の前、最中、後に、血行力学的パラメータと動脈血液気体を評価した。+/−ITD−CV使用を比較するために、対応のあるt検定とANOVAによって統計的な分析を実施した。
【0083】
この結果を以下の表に要約する。表に示すように、胸郭圧を制限することで、ITD−CVの使用によりITPおよびICPが即座に低下し、同時にMAPが急速に上昇し、CerPPが著しく上昇する。したがって、低血圧症、震盪症、大脳高圧症の治療にITD−CVを使用することができる。
【0084】
【表1】

ここまで、本発明を、明確化し、理解を深める目的で詳細に説明した。しかしながら、付属の特許請求項の範囲内で特定の変更および改良の実施が可能であることが理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】図1は、本発明による頭蓋内圧および眼圧低下させる1つの方法を示すフローチャートである。
【図2】図2は、本発明による、頭蓋内圧および眼圧の低下に使用できるフェースマスクと弁システムの実施形態の斜視図である。
【図3】図3は、図2の弁システムの斜視図である。
【図4】図4は、図3の弁システムの断面図である。
【図5】図5は、図3の弁システムの展開図である。
【図6】図6は、本発明による頭蓋内圧および眼圧を低下させるシステムの略線図である。
【図7】図7は、動物研究における頭蓋内圧の低下を示す一連のグラフである。
【図8】図8は、別の動物研究における頭蓋内圧の低下を示す一連のグラフである。
【図9A】図9Aは、通常の状態にある個人の脳の略線図である。
【図9B】図9Bは、肥大を増大させた状態の、図9Aの脳を示す。
【図10】図10は、頭蓋内圧および右動脈圧への胸郭内圧の低下の効果を例証する3つのグラフを示す。
【図11】図11は、本発明による頭蓋内圧と眼圧を低減する別の方法を示すフローチャートである。
【図12】図12A、図12B、図12Cは、本発明による、陽圧呼吸を送り、呼吸ガスを排出するためのパターンを例証する3つのグラフを示す。
【図13】図13A、図13Bは、本発明による、無呼吸状態の患者に胸郭内圧を低下させるべく使用できる或る装置を概略的に示す。
【図14】図14A、図14Bは、本発明による、無呼吸状態の患者に胸郭内圧を低下させるべく使用できる別の装置を示す。
【図15】図15A、図15Bは、図14A、図14Bの装置と共に使用できる閾値弁システムの或る実施形態を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトを処置するための医療方法であって、該方法は:
該ヒトに陽圧呼吸を送る工程;
陽圧呼吸の後に、真空を用いて該ヒトの気道から呼吸ガスを排出することで、胸郭内真空を作り出し、これにより心臓内の圧力を低下させ、心臓へ戻る血流を増加させる工程;および
陽圧呼吸を送る工程と呼吸ガスを排出する工程を繰り返す工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記ヒトが、頭蓋内圧の上昇に関連した頭部外傷、低血圧、血行障害、少ない血液容量、心停止、心不全から成る群から選択された疾患を患っている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
さらに、前記ヒトの気道と流体連通している閾値弁を使用して、胸郭内真空の量を制御する工程を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
閾値が、前記ヒトの陰の胸郭内圧が約−3cmH2O〜約20cmH2Oに達すると開放して、呼吸ガスが該ヒトの気道内に流入できるように構成されている、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
さらに、スイッチング配置を使用して陽圧呼吸を付加する際に真空の付与を停止する工程を包含する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
機械的ベンチレータ、ハンドヘルド式バッグ弁蘇生器、マウス・トゥ・マウス、または断続的な陽圧換気を供給する手段から成る群から選択された源を使用して陽圧呼吸が送られる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
一定の排除、時間に対して変化する排除、またはパルスの排除によって呼吸ガスが排出される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
呼吸が、約250ミリ秒〜約2秒の範囲の時間で送られる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
呼吸が約0.1リットル/秒〜約5リットル/秒の範囲の速度で送られる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
真空が、約0mmHg〜約−50mmHgのレベルの圧力で維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
真空が、負の流れにて、または流れることなく維持される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
呼吸ガスが排出される時間に関連して陽圧呼吸が供給される時間が、約0.5〜約0.1の範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
機械的ベンチレータ、真空制御装置による真空、横隔膜神経刺激装置、胸郭外ベスト、ベンチレータバッグ、鉄の肺人工呼吸装置から成る群から選択された器具を使用して呼吸ガスが排出される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
呼吸ガスが、約−5mmHg〜約−10mmHgの胸郭内圧へ低下され、その後、次の陽圧呼吸までほぼ一定に維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
陽呼吸がゆっくりと送られ、呼吸ガスが、約−5mmHg〜約−20mmHgの胸郭内圧にまで迅速に低下し、その後、約0mmHgへ向けて段階的に低下する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
呼吸ガスが、約−5mmHg〜約20mmHgの圧力へとゆっくりと低下される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
胸郭内圧を低下させる装置であって、該装置が:
患者の気道とつなぐ手段と;
陰の胸郭内圧を作り出し、これを定期的に維持するために、患者の肺および気道から呼吸ガスを繰り返し排出する手段と;
患者の肺および気道内の呼吸ガスの排出を繰り返し制御する手段と;
呼吸ガスの吸気を定期的に供給するために、陽圧呼吸を送る手段とを備える装置。
【請求項18】
呼吸ガスを排出する手段が、酸素タンクに取り付けた吸引ラインまたはベンチュリ装置から成る群から選択された真空源を備える、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
陽圧呼吸を送っている最中に呼吸ガスの排出を停止するスイッチング機構をさらに備え、このスイッチング機構が、機械装置、磁気装置、および電子装置の群から選択される、請求項17に記載の装置。
【請求項20】
呼吸ガスを排出する手段が、機械的ベンチレータ、真空制御装置による真空、横隔膜神経刺激装置、胸郭外ベスト、ベンチレータバッグ、鉄の肺人工呼吸装置から成る群から選択される、請求項17に記載の装置。
【請求項21】
前記制御手段が、前記ヒトの気道と流体連通した閾値弁を含む、請求項17に記載の装置。
【請求項22】
閾値が、前記ヒトの陰の胸郭内圧が約−3cmH2O〜約20cmH2Oに達すると開放して、呼吸ガスが該ヒトの気道内に流入できるように構成されている、請求項21に記載の装置。
【請求項23】
陽圧呼吸を送る手段が、機械的ベンチレータ、ハンドヘルド式バッグ弁蘇生器、マウス・トゥ・マウス式人工呼吸、または断続的な陽圧換気を提供する手段から成る群から選択される、請求項17に記載の装置。
【請求項24】
胸郭内圧を低下させる装置であって、該装置が:
ハウジングをヒトの気道と結合するよう適合されたインターフェースを設けるハウジングと;
陰の胸郭内圧を作り出し、これを定期的に維持するべく、該ヒトの肺および気道から呼吸ガスを繰り返し排出するためにハウジングと流体連通している真空源と;
該ヒトの肺および気道からの呼吸ガスの排出を制御するための真空制御装置と;さらに、
該ヒトに陽圧呼吸を断続的に供給するべくハウジングと流体連通している陽圧源とを備える装置。
【請求項25】
頭蓋内圧または眼圧を低減するための装置であって、該装置が:
ヒトの気道とつなぐべく適合された流入開口部と排出開口部を設けるハウジング;
自発的または人工的な吸気の最中に、ハウジング内を通り、該ヒトの肺内に流入する呼吸ガスの流れを制御するべく動作可能な弁システムであって、該弁システムが、頭蓋内圧または眼圧を低下させるべく、頭から血液を送り出す静脈血管内の圧力を反復的に低下させるために、各吸気の最中に胸郭内圧の低下を補助する弁システム
を備える、装置。
【請求項26】
弁システムが通常は閉鎖しているが、頭蓋内圧または眼圧を低下させるべく、陰の胸郭内圧が約0cmH2O〜約−25cmH2Oの範囲内の圧力に達すると、呼吸ガスが前記ヒトの肺へと自由に流れらように開くように構成される、請求項25に記載の装置。
【請求項27】
弁システムを介して前記ヒトに人工的に吸気させる手段をさらに備える、請求項25に記載の装置。
【請求項28】
前記ヒトに人工的に吸気させる手段が、電極、鉄の肺人工呼吸装置、胸部を上昇させる装置、ベンチレータから成る群から選択される、請求項27に記載の装置。
【請求項29】
弁システムのインピーダンスレベルを変更する機構をさらに備える、請求項25に記載の装置。
【請求項30】
前記ヒトの少なくとも1つの生理学的パラメータをモニターするよう構成された少なくとも1つの生理学的センサをさらに備えており、前記インピーダンスのレベルを変更する機構が、センサから信号を受信するよう、また、この信号に基づいて弁システムのインピーダンスのレベルを変更するよう構成されている、請求項29に記載の装置。
【請求項31】
センサが、呼吸量、胸郭内圧、気管内圧、血圧、心拍数、終末呼気炭酸濃度、酸素レベル、頭蓋内圧群から選択されたパラメータを測定するよう構成されたセンサから成る群より選択されている、請求項30に記載の装置。
【請求項32】
弁システムを該ヒトの気道と結合するよう構成された結合機構をさらに備える、請求項25に記載の装置。
【請求項33】
前記結合機構が、マウスピース、気管内チューブ、およびフェースマスクから成るグループから選択されている、請求項32に記載の装置。
【請求項34】
前記弁システムが、フィッシュマウス弁、ばねポペット弁、ボール弁、可撓性プラグ弁、溝付き気道抵抗弁、ばね付勢された弁、可動ディスク弁、圧縮可能な気道弁、アイリス弁、自動弁、および連続的な調整弁から成る弁グループより選択された流入弁を備えている、請求項25に記載の装置。
【請求項35】
頭蓋内圧を低下させる方法であって、該方法が:
頭部から血液を送り出す静脈血管内の圧力を低下させて、頭蓋内圧を低下させるために、該ヒトの陰の胸郭内圧を活発に低下させる工程を包含する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2006−524543(P2006−524543A)
【公表日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−513187(P2006−513187)
【出願日】平成16年4月20日(2004.4.20)
【国際出願番号】PCT/US2004/012294
【国際公開番号】WO2004/096109
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(304013087)アドバンスド サーキュレートリー システムズ, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】