説明

頭髪改質剤及び頭髪改質方法

【課題】髪の毛や頭皮へダメージを与えることなく、縮毛矯正を行うことができ、髪の毛の体積増加にも適した頭髪改質剤及び頭髪改質方法を提供する。
【解決手段】ほぼ中性のエルゴチオネインの水溶液を髪の毛に塗布することで、水溶液中でチオール構造をとるエルゴチオネインが、髪の毛中のジスルフィド結合間に割り込んで置換反応を起こし髪の毛の三次元構造を改変させるため、ペプチド結合への影響を与えずに縮毛矯正効果が得られる。また、髪の毛中に存在しているジスルフィド結合に関与していないシステイン残基との間には、新たなジスルフィド結合を生成する。このような新たに髪の毛中に生成したジスルフィド結合の末端であるエルゴチオネインの双性イオン部同士や、前記双性イオン部とエルゴチオネインあるいはアミノ酸の結合により、髪の毛中の空間が増大するため、髪の毛の体積増加を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縮毛矯正や頭髪の体積増加に適した頭髪改質剤及び頭髪改質方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
髪の毛(頭髪)とは、各種のアミノ酸のアミド結合により生成したペプチドである。ここで、他のペプチドと異なる髪の毛特有の特徴(例えば、弾性,天然パーマなど)といったものは、髪の毛の構成要素であるアミノ酸に存在するシステイン残基間のジスルフィド結合(架橋構造)に強く依存することが広く知られている。従来の縮毛矯正は、アルカリ剤によりジスルフィド結合を還元し、開裂させることにより髪の毛の三次構造を変化させる方法が取られていた(例えば、下記特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−45802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の縮毛矯正で用いられるアルカリ剤は、一般的にpH9〜14程度の強アルカリ性であるため、ジスルフィド結合以外の結合も開裂させてしまい、髪の毛や頭皮へのダメージが回避できないという不都合があった。
【0005】
本発明は、以上のような点に着目したもので、髪の毛や頭皮へダメージを与えることなく、縮毛矯正を行うことができる頭髪改質剤及び頭髪改質方法を提供することを、その目的とする。他の目的は、縮毛の矯正のみならず、髪の毛の体積増加を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の頭髪改質剤は、エルゴチオネインを含有する動・植物由来の抽出物,エルゴチオネイン,エルゴチオネインの誘導体のいずれかを、髪の毛中の結合に作用して頭髪を改質する有効成分として含むことを特徴とする。主要な形態の一つは、前記有効成分による頭髪の改質が、縮毛の矯正又は頭髪の体積増加の少なくとも一方であることを特徴とする。他の形態は、前記頭髪改質剤中におけるエルゴチオネインの濃度が、3〜65ppmであることを特徴とする。
【0007】
本発明の頭髪改質方法は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の頭髪改質剤を髪の毛に塗布することを特徴とする。本発明の前記及び他の目的,特徴,利点は、以下の詳細な説明及び添付図面から明瞭になろう。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水溶液中でほぼ中性を示すエルゴチオネインを髪の毛に塗布することで、溶液中でチオール構造をとるエルゴチオネインが髪の毛の中のジスルフィド結合間に割り込んで置換反応を起こすため、ペプチド結合への影響を与えずに縮毛矯正効果を得ることができる。また、髪の毛中に存在しているジスルフィド結合に関与していないシステイン残基との間には、新たなジスルフィド結合を生成する。このような髪の毛とジスルフィド結合を行っているエルゴチオネインの双性イオン部同士の結合,あるいは、新たに髪の毛中に生成したジスルフィド結合の末端であるエルゴチオネインの双性イオン部への、エルゴチオネイン又はその他のアミノ酸の結合により、髪の毛中の空間を増大して体積が増えるため、縮毛矯正効果とともに髪の毛の体積増加を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例の頭髪改質剤による縮毛矯正効果を示す図であり、(A)は使用前の状態,(B)は使用後の状態を示す。
【図2】本発明の実施例の頭髪改質剤による髪の毛の体積増加の効果を示す図であり、(A)は使用前の状態,(B)は使用後の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0011】
最初に、図1及び図2を参照しながら本発明の実施例1の頭髪改質剤について説明する。本実施例の頭髪改質剤は、エルゴチオネインを有効成分として含有するものであり、主に縮毛矯正剤として使用されるものであるが、必要に応じて髪の毛の体積増加を目的としても利用可能である。エルゴチオネインは水溶性の物質であり、その水溶液はほぼ中性である。そして、ジスルフィド結合間に割り込み、置換反応を起こすことができるため、ペプチド結合へ影響を与えずに縮毛矯正効果を得ることが可能である。以下で、その機構について説明する。
【0012】
まず、エルゴチオネインの結晶構造は、下記式(1)で示される。
【化1】

【0013】
このエルゴチオネインは、溶液中では、下記式(2)に示すように、チオール構造との互変異性体となることが知られている。
【化2】

【0014】
このチオール構造が、下記式(3)に示すように、髪の毛中に存在しているジスルフィド結合に割り込み、髪の毛の三次構造を改変させ、縮毛を矯正する。
【化3】

【0015】
または、前記チオール構造は、髪の毛中に存在していたジスルフィド結合に関与していないシステイン残基との間に、下記式(4)に示すように新たなジスルフィド結合を生成する。
【化4】

【0016】
このような機構により、エルゴチオネインを用いた場合、髪の毛中のジスルフィド結合のみをターゲットとして開裂(置換)させることができ、その結果、縮毛が矯正される。更に、上記式(3)及び(4)により、新たに髪の毛中に生成したジスルフィド結合の末端は双性イオンであるため、このような髪の毛とジスルフィド結合を行っているエルゴチオネインの双性イオン部同士が、下記(5)式に示すように、塩結合又は水素結合を作る。
【化5】

【0017】
このように髪の毛の立体構造に大きく関与していたジスルフィド結合にエルゴチオネインが置換することによって、髪の毛の体積が増え(髪の毛が太くなり)、天然パーマ等のクセは緩やかになる。しかしながら、このような結合が行われた場合は、間にエルゴチオネインを2つ挟んではいるものの、髪の毛中のジスルフィド結合が新たに増えることとなるが、エルゴチオネインのα及びβ位の炭素はsp混成軌道であるため、結合間の回転能力が保障され、髪の毛の三次構造への影響力はそれほど大きくない。従って、上記(5)式に示した結合が行われた時は、髪の毛の体積増加の効果の方が大きいことになる。なお、前記式(5)では、髪の毛とジスルフィド結合を行っているエルゴチオネイン同士の結合を示したが、前記(3)式又は(4)式で示される新たに髪の毛中に生成したジスルフィド結合の末端であるエルゴチオネインの双性イオン部に、エルゴチオネイン又はその他のアミノ酸が塩結合又は水素結合を行うことでも、同様に髪の毛中の空間を増大して体積増加を図ることができる。
【0018】
本実施例の頭髪改質剤に含まれるエルゴチオネインは、エルゴチオネイン又はその誘導体のほか、エルゴチオネインを含有する動・植物由来の抽出物を用いてもよい。本実施例では、例えば、植物由来のエルゴチオネイン抽出液(例えば、濃度68.4ppm)を、体積比5〜90%となるように、水とエタノールの混合溶液(体積比1:1)で希釈して利用する。前記抽出液を5%,20%,90%に希釈すると、それぞれエルゴチオネインの含有量は、3.42ppm,13.68ppm,61.56ppmとなる。なお、前記エタノールは、防腐剤及び速乾性を与えるために添加しているものであって、エルゴチオネインの効果を左右するものではない。このようなエルゴチオネイン抽出液の希釈液を、1回あたり2〜10cc程度(髪全体が軽く濡れる程度)を髪の毛全体に塗布する。そして、手指で軽く髪の毛になじませ、自然乾燥する。この手順を繰り返し行うことにより、上述した縮毛矯正効果及び髪の毛の体積増加効果が得られる。
【0019】
<具体例>・・・次に、図1及び図2も参照しながら、本実施例の具体例について説明する。図1は、本実施例の頭髪改質剤による縮毛矯正効果を示す図であり、(A)は使用前の状態,(B)は使用後の状態を示している。図2は、本実施例の頭髪改質剤による髪の毛の体積増加の効果を示す図であり、(A)は使用前の状態,(B)は使用後の状態を示している。まず、縮毛矯正の効果を検討するために、上述したエルゴチオネイン抽出液が60%となるように希釈したサンプル1を用意した。該サンプル1に含まれるエルゴチオネインの濃度は約41ppmとなる。このサンプル1を、1日4回(朝,昼,夕方,就寝前)、1回の塗布量を4ccとして約2ヶ月半連続使用した。使用前の状態である図1(A)と使用後の状態である図1(B)を比較すると、明らかに髪の毛の縮れが緩やかになっているのが確認できる。
【0020】
次に、髪の毛の体積増加の効果を確認するために、上述したエルゴチオネイン抽出液が20%となるように希釈したサンプル2を用意した。該サンプル2に含まれるエルゴチオネインの濃度は約14ppmとなる。このサンプル2を、1時間おきに1日10回、1回の塗布量を2ccとして1ヵ月連続使用した。使用前の状態である図2(A)と使用後の状態である図2(B)を比較すると、明らかに髪の毛の体積が増しているのが確認できる。なお、この実験では、髪の毛の体積増加の効果を確認するために、髪の毛の癖がほとんどない人をサンプル2の使用者としたが、縮毛の人が使用すれば、体積増加とともに、縮毛矯正の効果も得られると考えられる。
【0021】
このように、実施例1によれば、ほぼ中性のエルゴチオネインの水溶液を髪の毛に塗布することで、水溶液中でチオール構造をとるエルゴチオネインが髪の毛中のジスルフィド結合間に割り込んで置換反応を起こすため、縮毛の原因となっていた架橋構造が崩れ、ペプチド結合への影響を与えずに縮毛矯正効果を得ることができる。また、髪の毛中に存在しているジスルフィド結合に関与していないシステイン残基との間には、新たなジスルフィド結合を生成する。このような新たに髪の毛中に生成したジスルフィド結合の末端であるエルゴチオネインの双性イオン部同士の結合や、新たに髪の毛中に生成したジスルフィド結合の末端であるエルゴチオネインの双性イオン部へのエルゴチオネインやアミノ酸の塩結合又は水素結合により、髪の毛中の空間が増大するため、縮毛矯正効果とともに髪の毛の体積増加を図ることができる。
【0022】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例では、植物由来のエルゴチオネイン抽出液を利用したが、これは一例であり、動物由来の抽出液を利用してもよい。あるいは、公知の手法で製造されたエルゴチオネイン又はその誘導体を利用してもよい。
(2)前記実施例で示したサンプル1及び2の濃度,使用量,使用頻度,使用期間は一例であり、使用者の髪質,長さ,毛量に応じて適宜変更してよい。
(3)前記実施例では、植物由来のエルゴチオネイン抽出液を水とエタノールの混合液で希釈することとしたが、これも一例であり、水のみで希釈してもよいし、他の溶剤や添加物などを加えてもよい。また、その希釈度も一例であり、エルゴチオネイン抽出液,エルゴチオネイン又はその誘導体は、必要に応じて溶媒に溶かして使用すればよい。
(4)前記実施例では、縮毛矯正効果と髪の毛の体積増加効果をそれぞれ別個に確認したが、本発明の頭髪改質剤を、縮毛矯正と体積増加の双方を目的に使用することを妨げるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明によれば、水溶液中でほぼ中性を示すエルゴチオネインを髪の毛に塗布することで、溶液中でチオール構造をとるエルゴチオネインが髪の毛の中のジスルフィド結合間に割り込んで置換反応を起こすため、縮毛矯正剤の用途に適用できる。また、髪の毛中に存在しているジスルフィド結合に関与していないシステイン残基との間には、新たなジスルフィド結合を生成する。このような髪の毛とジスルフィド結合を行っているエルゴチオネインの双性イオン部同士の結合,あるいは、新たに髪の毛中に生成したジスルフィド結合の末端であるエルゴチオネインの双性イオン部へのエルゴチオネイン又はその他のアミノ酸の結合により、髪の毛中の空間が増大するため、髪の毛の体積増加剤としての用途にも適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エルゴチオネインを含有する動・植物由来の抽出物,エルゴチオネイン,エルゴチオネインの誘導体のいずれかを、髪の毛中の結合に作用して頭髪を改質する有効成分として含むことを特徴とする頭髪改質剤。
【請求項2】
前記有効成分による頭髪の改質が、縮毛の矯正又は頭髪の体積増加の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1記載の頭髪改質剤。
【請求項3】
前記頭髪改質剤中におけるエルゴチオネインの濃度が、3〜65ppmであることを特徴とする請求項1又は2記載の頭髪改質剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の頭髪改質剤を髪の毛に塗布することを特徴とする頭髪改質方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−144136(P2011−144136A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6511(P2010−6511)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(508118625)
【出願人】(510014766)
【Fターム(参考)】