説明

顔の肌色の白さ評価方法並びにその方法を用いたプログラム及び肌色測定機器

【課題】人間が感じる肌色の白さに一致する指標を導き、より人間の感覚に合致した肌の白さを計測して、肌の白さを評価する方法並びに該方法を使用するプログラム及び肌色測定機器。
【解決手段】肌色の明度(L)を、色相角(hab)、彩度(Cab)及び明度(L)の分布幅に基づく明度(L)補正量で補正することによって、顔の肌色の白さにより近似する指標を得ることにより評価されることによって、顔の肌色の白さを評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌の白さを評価する方法に関し、より詳細には、特に、顔の肌色に関する白さを評価する方法並びにその方法を用いたプログラム及び肌色測定機器に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、顔の肌色に合わせたファンデーションや美白化粧品の効果検証のため、化粧品販売店等では、肌色の測定・診断が行われている(図1参照)。このときに用いる機器として、色彩計や、それに順ずる計測器、またはデジタルカメラのような画像撮影装置を改良したものなどがある。色彩計やそれに順ずる計測器では、顔のある狭い範囲の輝度に関連する指標(L、Value、Yなど)を求め、それによって肌色の白さを表している。また、デジタルカメラのような画像撮影装置を改良した機器では、顔全体を平均した明度や輝度に関連する指標(L、Value、Yなど)を求め、それで肌色の白さを表している。
【非特許文献1】吉川拓伸ほか、肌の明るさ評価への色みの影響〜肌および肌色色票の評価解析〜、カラーフォーラムJAPAN2005、論文集、p27−30、(2005)
【非特許文献2】桂重仁ほか、肌の明るさ評価への色みの影響〜肌画像の評価解析〜、カラーフォーラムJAPAN2005、論文集、p31−34、(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、肌色の知覚メカニズムは非常に特殊であり、色彩計などによる計測結果が人間の感覚と一致しない例があった(例えば、色彩学的に青の領域ではないのに、「顔色が青い」と感じるなど)。
【0004】
この不一致は肌色の白さでも生じる現象である。肌の白さはファンデーションの色選びや美白化粧品の効果検証に重要であるが、機器から得られる明度や輝度に関連する指標(L、Value、Yなど)では、うまく説明できないことが経験的に分かっている。
【0005】
この原因を探り、機器から得られる値を補正することによって人間が感じる肌色の白さに近い指標を開発できれば有用である。
【0006】
したがって、本発明は、上述に鑑みてなされたものであり、人間が感じる肌色の白さに一致する指標を導き、より人間の感覚に合致した肌の白さを計測して、肌の白さを評価する方法並びに該方法を使用するプログラム及び肌色測定機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、色相角(hab)の違いや彩度(Cab)の違いが顔の肌色の白さ感に影響を与えているとの仮定に着目することで、鋭意検討した結果、本発明を開発するに到った。
【0008】
すなわち、本発明は、肌色の明度(L)を色相角(hab)、彩度(Cab)及び明度(L)の分布幅に基づき、下記の補正式によって得られた各明度(L)補正量で補正することによって、顔の肌色の白さにより近似する指標を得ることにより達成される。明度(L)補正量は、下記式から得られることを特徴とする。
【0009】
明度(L)補正量=−0.1214*(色相角(hab)−54)−0.1857 R=0.944
明度(L)補正量=−1.05*(彩度(Cab)−24) R=1.000
明度(L)補正量=0.1033*(明度(L)分布幅−37.52)−0.55 R=0.939
式中、L、Cab、habはD50光源での計算値を用いる。
【0010】
なお上記Rは2つの変量の関係の強さを表す相関係数であり、1.0または−1.0に近いほど両変数の関係が強い。したがって上記補正式は実験データを精度良く表現している。
【0011】
また本発明は、上記記載の明度補正式を用いるプログラムによって達成される。これによって、化粧品販売店等のコンピュータに組み込むことによって、店頭カウンセリング機器などのコンピュータ装置によって、簡便で容易に顔の肌色の白さにより近似する指標を得ることができる。
【0012】
さらに、本発明は、上記プログラムを有する店頭カウンセリング機器などによって達成される。これによって、カウンセラーがカウンセリングする際に、容易に顔の肌色の白さにより近似する白さを評価できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上記明度(L)補正量で補正した明度(L)を得ることによって、より人間の感覚に合致した肌の白さ計測ができ、肌色の白さを評価することができる。よって、本発明の方法により求めた、人間が感じる肌色の白さに一致する指標を採用することで、化粧品販売店等では、より正確な顔の肌色の白さの測定・診断を行うことができ、その評価に基づいて、個人の肌色に合わせたファンデーションの選択や美白化粧品の効果検証が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に添付図を参照しながら本発明を説明する。
【0015】
本発明の顔の肌色の白さの評価方法は、顔の肌色の色相角(hab)、彩度(Cab)及び明度の分布幅で補正した顔の肌色の明度(L)を新たな肌色の白さを表す指標として評価することを特徴とする。
【0016】
つまり、色相角(hab)の違い、彩度(Cab)の違い及び明度の分布幅の違いによって、顔の肌色の白さに影響を与えているために、これら色相角(hab)、彩度(Cab)及び明度の分布幅の平均からの差を求めて、明度(L)値に反映することで、人間が感じる肌色の白さが計測できる。
【0017】
以下に、新たな肌色の白さを表す指標としての明度(L)を求めるための説明をする。
【0018】
また、本発明の評価方法では、顔画像を用いて評価する。
【0019】
上述したように、通常、顔の肌色の白さを評価するためには、図1に示すような機器を用い、そこに組み込まれているプログラムにしたがって導かれた明度(L)によって、顔の肌色の白さを評価している。
【0020】
そこで、本発明では、上記明度(L)をさらに顔の肌色の色相角(hab)、彩度(Cab)及び明度(L)の分布幅で補正した、人間が感じる肌色の白さに一致する明度(L)を導く。
【0021】
まず、本発明の顔の肌色の白さを評価する色相角(hab)、彩度(Cab)及び明度の分布幅の基準として、色相角(hab)、彩度(Cab)及び明度(L)の分布幅の平均をそれぞれ54、24及び37.52とした。ここで、色相角(hab)及び彩度(Cab)の平均は、日本人女性560人分の肌色を基にして、額・目の下・ほお・首の4部位平均データから求めた。明度(L)の分布幅は、一般的な写真撮影法により得られた顔画像より求めた。
【0022】
上記顔画像に対して、明度(L)・彩度(Cab)・明度(L)の分布幅を固定し、色相角(hab)を変化(刺激:7)させた評価画像を平均色相と明度の分布幅を持ち色白から色黒までの顔の肌色の自然な変化を再現するように明度と彩度(Cab)を変化させた17枚のスケール画像を作成した。10人の評価者が評価画像と同程度の白さを感じるスケール画像を選ぶ実験を行い、マッチングされたスケール画像の明度をその評価画像の白さとして、図2のグラフを得た。
【0023】
さらに、上記で求めた平均彩度(Cab)に対して、明度(L)・色相角(hab)・明度(L)の分布幅を固定し、彩度(Cab)を変化(刺激:3)させた評価画像を作成し、10人の評価者が評価画像と同程度の白さを感じるスケール画像を選ぶ実験を行い、マッチングされたスケール画像の明度をその評価画像の白さとして、図3のグラフを得た。
【0024】
さらに、上記で求めた明度(L)の分布幅の平均に対して、明度(L)・色相角(hab)・彩度(Cab)を固定し、明度(L)の分布幅を変化(刺激:5)させた評価画像を作成し、3人の評価者が評価画像と同程度の白さを感じるスケール画像を選ぶ実験を行い、マッチングされたスケール画像の明度をその評価画像の白さとして、図4のグラフを得た。
【0025】
図2、3及び4において、横軸は各パラメータの平均値からの差分、縦軸は評価画像の実測された明度(L)とマッチングされたスケール画像の明度(L)との差分である。なお、スケール画像の段階的な変化のバリエーションは、細分化されることが好ましいが、一つの画像が細分化される程度は、特に制限されない。
【0026】
なお、図2において、色相角(hab)を変化させた場合、赤みより(つまり、図2の横軸で左側)の色相角(hab)にすると、平均明度(L)が同じであってもマッチングされるスケール画像の明度(L)値が高く、つまり、白く感じた。また逆に、黄色みより(図2の横軸で右側)にすると、黒く感じた。
【0027】
また、図3において、彩度(Cab)を変化させた場合、彩度(Cab)を低くする(つまり、図3の横軸で左側)と白く、高くする(図3の横軸で右側)と黒く感じた。
【0028】
また、図4において、明度(L)の分布幅を変化させた場合、分布幅を広く、つまり明度コントラストを上げる(つまり、図4の横軸で右側)と白く、逆に分布幅を狭める(図4の横軸で左側)と黒く感じた。
【0029】
これによって得られた関係より、明度(L)の補正量を求める下記補正式を得た。
【0030】
明度(L)補正量=−0.1214*(色相角(hab)−54)−0.1857 R=0.944
明度(L)補正量=−1.05*(彩度(Cab)−24) R=1.000
明度(L)補正量=0.1033*(明度(L)分布幅−37.52)−0.55 R=0.939
なお、式中、L、Cab、habはD50光源での計算値を用いる。
【0031】
したがって、上述の補正式により、評価者の色相角(hab)、彩度(Cab)及び明度(L)の分布幅からそれぞれの明度(L)補正量を導きだし、それらの明度(L)補正量によって補正することで、真の肌色の白さである明度(L)が得られる。つまり、本発明で用いる肌色測定機器等に組み込まれた、従来の手段で得られる補正前の明度(L)に対して、上述の補正式によって得られた明度(L)補正量を反映したものが、本発明でいうところの肌の白さを表す、明度(L)となる。
【0032】
なお、本発明の顔の肌色の白さを評価する方法は、化粧品販売店等で、カウンセラーがコンピュータに上記補正式を組み込んで行うこともできる。
【0033】
また、本発明で用いる肌色測定機器は、肌色が測定できる機器ならどのような形態でもよく、例えば、色彩計(刺激値直読型、分光測色型のどちらでもよい)やデジタルカメラを用いた簡易色彩計、LEDとフォトダイオードを用いた小型の色彩計などを用いてよい。
【0034】
また、本明細書でいう「色」とは、色彩学で一般的に用いられている、XYZやRGB、HVC、Lや分光反射率R(λ)やこれらから算出される種々の値、官能評価により評定尺度法を使って求めた評価値など肌色を一意的に表すことができる値ならば任意のものでよく、特に限定されない。
【0035】
最終的に、得られた顔の肌色の白さの評価によって、ファンデーションの色選びや美白化粧品の効果検証に有用である。
【0036】
したがって、本発明において、以上により得られた補正式をコンピュータソフト化しておくことで、化粧品販売員の化粧品販売時のカウンセリングなどに役立つ。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
【0038】
19〜64歳の東京近郊在住の女性120名のほお部を色彩計により測色し、得られた明度を上述の手法にしたがって補正をした。つまり、同部位の白さを肌の評価に慣れた女性6名が評価し、その平均値の明度(L)と、色相角(hab)と彩度(Cab)を考慮して、本発明により補正した明度(L)との比較を行った(図5及び6)。この比較により本発明による手法の方がより人間の感覚に一致した白さを算出可能であることがわかる。
【0039】
なお、明度(L)の分布幅を考慮してもよく、この場合、さらに、明度(L)の分布幅の差による、明度(L)補正量をも加味した明度(L)が導き出され、より人間の感覚に一致した白さが算出できる。
【0040】
最終的に、それらの明度(L)補正量で補正した明度(L)が、より人間の感覚にあった肌色の白さ指標となった。
【0041】
図5及び6の結果から分かるように、色相角(hab)と彩度(Cab)を考慮した明度(L)で顔の肌色の白さを評価する場合、視感評価値との相関係数Rが向上しており、より人間の感覚と一致した白さを評価できることが分かる。これは、図5及び6のそれぞれのRが、0.764と0.663となり、図5の方がより1に近い値を示しているためである。
【0042】
例えば、赤み肌の女性と黄み肌の女性を同じ露出で撮影した顔写真を図7に示す。この赤み肌の女性と黄み肌の女性は、ほんの一例であるが、顔の肌色を視感的に評価すると、赤み肌の方が白い肌色に感じるものである。
【0043】
上記実施例を、これらの赤み肌と黄み肌で実施した場合の数値で具体的に説明する。
【0044】
従来の手法の場合、赤み肌は、ほおで明度(L):63.4 彩度(Cab):20.1 色相角(hab):36.8であった。また、目の下で明度(L):60.5 彩度(Cab):22.9 色相角(hab):33.4であった。黄み肌は、ほおで明度(L):64.1 彩度(Cab):24.3 色相角(hab):56.6であった。また、目の下で明度(L):61.6 彩度(Cab):25.4 色相角(hab):50.5であった。この段階では、赤み肌と黄み肌の顔の肌色は、ほぼ同じ明度(L)、つまり、赤み肌も黄み肌も同じ肌色の白さ、であった。
【0045】
これに対し、本発明の方法で補正した場合、赤み肌は、ほおで補正後明度(L):69.4であり、目の下で補正後明度(L):63.9)であった。また、黄み肌は、ほおで補正後明度(L):63.3であり、目の下で補正後明度(L):60.4)であった。
【0046】
補正後の段階では、赤み肌の補正後明度(L)は、黄み肌の補正後明度(L)より高く、これは視感的な感覚と一致した。
【0047】
したがって、本発明の方法により、色相角(hab)、彩度(Cab)及び明度(L)の分布幅に基づく明度(L)補正量で補正した明度(L)を得ることによって、より人間の感覚に合致した肌の白さ計測ができ、肌色の白さを評価することができる。
【0048】
なお、これらの一連の操作は、化粧品販売店の店頭カウンセリングにて、カウンセラーが手動で実施することができるが、通常、図1に示したような計測器などのコンピュータのプログラムとして実行される。また、本発明は、化粧品販売店の店頭カウンセリング機器にプログラムされて行うことができ、店頭カウンセリング機器としては、例えば、肌色測定機器が用いられる。
【0049】
したがって、本発明によると、化粧品販売店の店頭などにおいて色彩計やそれに順ずる計測器によって顔のある狭い範囲の肌色を測定し、その結果から、顔の肌色の白さを伝えることができる。さらに、その白さを元にファンデーションなどのベースメーキャップ化粧品又は口紅などのポイントメーク化粧品を推奨する際に、明度(L)や輝度に関連する指標(L、Value、Yなど)をそのまま使わずに、明度(L)と同時に得られる色相角(hab)や彩度(Cab)を用いて補正した補正した明度(L)を用いることができる。
【0050】
また、色彩計等で顔の複数個所を測定したり、カメラ型の計測器により明度の分布幅が得られる場合には、色相角(hab)、彩度(Cab)に加えて、明度(L)の分布幅(明度コントラスト)も追加して補正した明度(L)を顔の肌色の白さとして評価することもできる。
【0051】
以上本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】顔の肌色を測色するための計測器を示す図である。
【図2】明度(L)・彩度(Cab)・明度(L)の分布幅を固定し、色相角(hab)を変化させて得たグラフを示す図である。
【図3】明度(L)・色相角(hab)・明度(L)の分布幅を固定し、彩度(Cab)を変化させて得たグラフを示す図である。
【図4】明度(L)・色相角(hab)・彩度(Cab)を固定し、明度(L)の分布幅を変化させて得たグラフを示す図である。
【図5】本発明の評価方法で行った顔の肌色の白さ評価を示す図である。
【図6】比較例として、従来の手法で行った顔の肌色の白さ評価を示す図である。
【図7】同じ露出で撮影した赤み肌の女性と黄み肌の女性の顔写真を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肌色の明度(L)を、色相角(hab)、彩度(Cab)及び明度(L)の分布幅に基づく明度(L)補正量で補正することによって、顔の肌色の白さにより近似する指標を得ることにより評価されることを特徴とする顔の肌色の白さ評価方法。
【請求項2】
前記明度(L)補正量は、下記式から得られることを特徴とする請求項1に記載の顔の肌色の白さ評価方法。
明度(L)補正量=−0.1214*(色相角(hab)−54)−0.1857 R=0.944
明度(L)補正量=−1.05*(彩度(Cab)−24) R=1.000
明度(L)補正量=0.1033*(明度(L)分布幅−37.52)−0.55 R=0.939
式中、L、Cab 、habはD50光源での計算値を用いる。
【請求項3】
請求項1または2に記載の顔の肌色の白さ評価方法を用いるプログラム。
【請求項4】
請求項3のプログラムを有する肌色測定機器。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−286649(P2008−286649A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−132131(P2007−132131)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年11月28日 光学四学会幹事会主催の「カラーフォーラム JAPAN2006」に文書をもって発表
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】