説明

顔料のイミドアルキル化誘導体の製造方法。

【課題】精製時間を短縮し、廃液量を減少させながら、顔料のイミドアルキル化誘導体を高純度で得られる、顔料のイミドアルキル化誘導体の製造方法を提供する。
【解決手段】硫酸存在下で、顔料に環状イミド類を反応させて、顔料に下記式(I)で表される環状イミドアルキル基を導入する工程(1)と、前記工程(1)により得られた反応混合物を水中に投入し、反応生成物を析出させ、析出物を濾過する工程(2)と、前記工程(2)により得られた析出物を、洗液のpHが2.0以上となるまで水で洗浄した後、乾燥前に、顔料のイミドアルキル化誘導体が実質的に溶解しない有機溶剤で洗浄する工程(3)とを有することを特徴とする、顔料のイミドアルキル化誘導体の製造方法。


(式中の記号は、明細書に記載の通りである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料のイミドアルキル化誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピューターの発達、特に携帯用パーソナルコンピューターの発達に伴って、液晶ディスプレイの需要が増加している。家庭用の液晶テレビの普及率も高まっており、益々液晶ディスプレイの市場は拡大する状況にある。また、最近においては、自発光により視認性が高い有機ELディスプレイのような有機発光表示装置も、次世代画像表示装置として注目されている。これらの画像表示装置の性能においては、コントラストや色再現性の向上といったさらなる高画質化や消費電力の低減が強く望まれている。
これらの液晶表示装置や有機発光表示装置には、カラーフィルタが用いられる。例えば液晶表示装置のカラー画像の形成は、カラーフィルタを通過した光がそのままカラーフィルタを構成する各画素の色に着色されて、それらの色の光が合成されてカラー画像を形成する。また、有機発光表示装置では、白色発光の有機発光素子にカラーフィルタを用いた場合は液晶表示装置と同様にカラー画像を形成する。
このような状況下、カラーフィルタにおいても、高輝度化や高コントラスト化、色再現性の向上といった要望が高まっている。特に最近、テレビ用途に対しても、バックライトの消費電力低減やLEDバックライトの特性に起因して、高輝度化の要望が高くなっている。
【0003】
ここで、カラーフィルタは、一般的に、透明基板と、透明基板上に形成され、赤、緑、青の着色パターンからなる着色層と、各着色パターンを区画するように透明基板上に形成された遮光部とを有している。
このような着色層の形成方法としては、顔料分散法、染色法、電着法、印刷法などが知られている。中でも、分光特性、耐久性、パターン形状及び精度等の観点から、平均的に優れた特性を有する顔料分散法が最も広範に採用されている。
【0004】
顔料分散法に用いられる顔料分散液は、顔料の分散性、分散安定性の向上の他、カラーフィルタの高輝度化、高コントラスト化等、多くの要求を実現するため、顔料や分散剤等の構成成分が広く検討されている。その試みの一つとして、顔料誘導体を用いる方法が挙げられる。
【0005】
特許文献1では、結晶化改質剤として、キノフタロン誘導体が開示されており、キノフタロン誘導体の一つとして、C.I.ピグメントイエロー138のフタルイミド化誘導体の合成方法が記載されている。しかし、この方法では、水を大量に使用して洗浄するにもかかわらず、得られたC.I.ピグメントイエロー138のフタルイミド化誘導体の純度は低いものであった。
【0006】
特許文献2では、顔料粒子の凝集を防止し、流動性に優れ、安定したインキなどの製造を可能にする顔料分散剤として、フタルイミドメチル基を導入した、イオン性基を有するキノフタロン化合物が記載されており、その前駆体として用いられるC.I.ピグメントイエロー138のフタルイミドメチル化物の合成方法が記載されている。しかし、この方法で得られたC.I.ピグメントイエロー138のフタルイミド化物の純度は低いものであった。
【0007】
特許文献3では、良好な一般特性、例えば、高い着色強度、良好な分散性、良好な耐ワニス性、耐移行性、耐熱性、耐光性、耐候性及び良好な光彩を得る手段として、ピロロピロール化合物を含有する組成物が開示されている。当該ピロロピロール化合物の一つとしてフタルイミドアルキル基を有する化合物が記載されており、その合成方法が開示されている。しかし、特許文献3に開示された合成方法では、副生成物が多く、純度が低いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−501911号公報
【特許文献2】特開2008−95007号公報
【特許文献3】特開昭62−149759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、純度の高い顔料のイミドアルキル化誘導体を用いると、純度の低いものを用いた場合と比較して、カラーフィルタのコントラストが向上するとの知見を得た。このため、純度の高い顔料のイミドアルキル化誘導体の製造方法が求められていた。
【0010】
本発明は、このような状況下になされたものであり、精製時間を短縮し、廃液量を減少させ、且つ顔料のイミドアルキル化誘導体を高純度で得られる、顔料のイミドアルキル化誘導体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、顔料のイミドアルキル化誘導体の製造工程において、特定の洗浄方法により洗浄を行うことで、従来の製造方法と比較して、精製時間を短縮し、廃液量を大幅に削減し、且つ、著しく純度が向上することを見出した。
本発明は、係る知見に基づいて完成したものである。
【0012】
本発明は、硫酸存在下で、顔料に環状イミド類を反応させて、顔料に下記式(I)で表される環状イミドアルキル基を導入する工程(1)と、前記工程(1)により得られた反応混合物を水中に投入し、反応生成物を析出させ、析出物を濾過する工程(2)と、前記工程(2)により得られた析出物を、洗液のpHが2.0以上となるまで水で洗浄した後、乾燥前に、顔料のイミドアルキル化誘導体が実質的に溶解しない有機溶剤で洗浄する工程(3)とを有することを特徴とする、顔料のイミドアルキル化誘導体の製造方法を提供する。
【0013】
【化1】

(式(I)中、Rは、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、Xは、アリーレン基を表し、当該アリーレン基は、ハロゲン原子、アリールスルホニル基、アシル基、又は−(C=O)−C−(C=O)−により置換されていても良い。)
【0014】
本発明に係る顔料のイミドアルキル化誘導体の製造方法においては、前記工程(3)における水の温度が、40℃以上であることが、得られる顔料のイミドアルキル化誘導体の純度を向上できる点から好ましい。
【0015】
本発明に係る顔料のイミドアルキル化誘導体の製造方法においては、前記有機溶剤の、溶解度パラメータ(SP値)が8.5〜13.0(cal/cm1/2及び/又は誘電率が2.3〜25.0 F/mの有機溶剤であることが、得られる顔料のイミドアルキル化誘導体の純度を向上できる点から好ましい。中でも、前記有機溶剤が、炭素数2〜3のアルコール、酢酸エチル、トルエン、メチルエチルケトン及びアセトンからなる群より選択される1種以上であることが得られる顔料のイミドアルキル化誘導体の純度を向上できる点から、より好ましい。
【0016】
本発明に係る顔料のイミドアルキル化誘導体の製造方法は、キノフタロン系顔料のイミドアルキル化誘導体の製造に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、精製時間を短縮し、廃液量を減少させ、且つ顔料のイミドアルキル化誘導体を高純度で得られる、顔料のイミドアルキル化誘導体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】C.I.ピグメントイエロー138のフタルイミドメチル化誘導体とC.I.ピグメントイエロー138のスルホン酸誘導体の混合物の可視吸収スペクトルである。
【図2】実施例1及び比較例1〜4の可視吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る顔料のイミドアルキル化誘導体の製造方法は、硫酸存在下で、顔料に環状イミド類を反応させて、顔料に下記式(I)で表される環状イミドアルキル基を導入する工程(1)と、前記工程(1)により得られた反応混合物を水中に投入し、反応生成物を析出させ、析出物を濾過する工程(2)と、前記工程(2)により得られた析出物を、洗液のpHが2.0以上となるまで水で洗浄した後、乾燥前に、顔料のイミドアルキル化誘導体が実質的に溶解しない有機溶剤で洗浄する工程(3)とを有することを特徴とする。
【0020】
【化2】

(式(I)中、Rは、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、Xは、アリーレン基を表し、当該アリーレン基は、ハロゲン原子、アリールスルホニル基、アシル基、又は−(C=O)−C−(C=O)−により置換されていても良い。)
【0021】
本発明に係る顔料のイミドアルキル化誘導体の製造方法は、工程(2)により得られた析出物を、水で一定のpH値以上となるまで洗浄し、乾燥前に、更に顔料のイミドアルキル化誘導体が実質的に溶解しない有機溶剤で洗浄することにより、精製時間を短縮し、廃液量を減少させながら、顔料のイミドアルキル化誘導体を高純度で得ることができる。顔料のイミドアルキル化誘導体は、例えば対応する顔料が結晶を析出しやすい場合に、結晶析出抑制剤として機能するが、このように純度が高い誘導体を用いると、結晶析出を抑制する効果が高くなる。
また、乾燥前に有機溶剤で洗浄するため、揮発性の高い有機溶剤を用いると乾燥時間が短くなるというメリットもある。
【0022】
上記製造方法により、上記のような効果を発揮する作用としては、未解明ではあるが、以下のように推定される。
乾燥する前に、反応生成物を含む析出物を水による洗浄に続いて、顔料のイミドアルキル化誘導体が実質的に溶解しない有機溶剤で洗浄することにより、顔料の環状イミド類等、水に対して難溶性である不純物であっても有機溶剤に容易に溶解し、目的物を更に高純度化できるものと推定される。また、前記有機溶剤で洗浄することにより、洗浄効率が上がるため、従来行われていた水で中性になるまで洗浄する工程が不要となり、pHが2.0以上となるまで水で洗浄すれば十分である。これにより、廃液量を大幅に減らすことが可能となり、精製時間も短縮することが可能である。
それに対して、工程(2)により得られた析出物を乾燥してから洗浄する場合には、不純物が凝集し、或いは、不純物が目的物である顔料のイミドアルキル化誘導体に付着して乾燥しているため、有機溶剤で洗浄しても、再溶解が進みにくく、洗浄効率が低下するものと推定される。本発明では、前記反応混合物を乾燥させる前に、水で水溶性の不純物を除去した後、引き続き有機溶剤で洗浄するため、有機溶剤に溶解する不純物の凝集が進まず、有機溶剤に容易に溶解し、効率良く除去が可能となるものと推定される。
【0023】
なお、本発明において純度とは、得られた固形物の全質量に対する、目的物の質量の割合のことをいう。本発明において目的物とは、顔料のイミドアルキル化誘導体であるが、当該顔料のイミドアルキル化誘導体は、顔料に環状イミドアルキル基が1つ導入されたものに限られず、顔料に環状イミドアルキル基が2つ以上導入されたものが含まれる。従って、本発明における純度とは、単一成分の割合を表すものに限られない。
以下、本発明に係る顔料のイミドアルキル化誘導体の製造方法について、工程(1)〜工程(4)の順に説明する。
【0024】
<硫酸存在下で、顔料に環状イミド類を反応させて、顔料に式(I)で表される環状イミドアルキル基を導入する工程(1)>
本発明における工程(1)は、顔料に環状イミド類を反応させて、顔料のイミドアルキル化誘導体を生成させる工程であり、硫酸存在下で行われる。
【0025】
[硫酸]
本発明において工程(1)は、硫酸存在下で行われる。本発明において硫酸は、溶剤として且つ触媒として用いられるものであり、濃硫酸の他、濃硫酸に三酸化硫黄を吸収させた発煙硫酸が含まれる。濃硫酸を用いる場合、当該濃硫酸の濃度は特に限定されないが、通常90質量%以上であり、中でも、顔料のイミドアルキル化が進みやすい点から、95質量%以上であることが好ましい。発煙硫酸を用いる場合、顔料のイミドアルキル化が進みやすい点から、濃硫酸中の三酸化硫黄の含有量が、0.1〜65質量%であることが好ましく、1〜25質量%であることが、より好ましい。
【0026】
[顔料]
本発明において顔料は、特に限定されず、所望の顔料を用いることができる。中でも、環状イミドアルキル基の導入が容易である点から、芳香環を有する顔料が好ましく、例えば、キノフタロン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、アントラキノン系顔料、アゾ系顔料等が挙げられる。
中でも、得られる顔料のイミドアルキル化誘導体が結晶析出抑制剤として有効な点から、キノフタロン系顔料又はジケトピロロピロール系顔料を用いることが好ましく、中でも、顔料のイミドアルキル化誘導体をより高純度で得られる点から、キノフタロン系顔料を用いることがより好ましい。
キノフタロン系顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー138等が挙げられる。
【0027】
[環状イミド類]
本発明において環状イミド類とは、前記顔料と反応させて、後述する環状イミドアルキル基を形成する化合物である。環状イミド類としては、例えば、下記化学式(II)で表される環状イミドや、下記化学式(III)で表されるヒドロキシアルキル環状イミドが挙げられる。
【0028】
【化3】

(式(II)及び、式(III)中、Rは、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、Xは、アリーレン基を表し、当該アリーレン基は、ハロゲン原子、アリールスルホニル基、アシル基、又は−(C=O)−C−(C=O)−により置換されていても良い。)
【0029】
式(II)及び、式(III)中のR及びXは、後述する化学式(I)で表される環状イミドアルキル基におけるR及びXと同様のものとすることができる。
【0030】
(顔料と化学式(II)で表される環状イミドとの反応)
本発明において、顔料に化学式(II)で表される環状イミドを反応させて、顔料に式(I)で表される環状イミドアルキル基を導入する方法は特に限定されないが、例えば、以下の方法で反応させることができる。
30〜50℃の前記発煙硫酸中に、攪拌下、化学式(II)で表される環状イミドとパラホルムアルデヒド、ホルマリン又はトリオキサンを添加する。この混合物を40〜70℃とし、20〜60分間、更に攪拌する。次に、この混合物に、顔料を加え、攪拌下加熱することにより、顔料に式(I)で表される環状イミドアルキル基を導入することができる。
【0031】
上記反応において、化学式(II)で表される環状イミドの使用量は、導入する環状イミドアルキル基の数により適宜調整されれば良い。例えば、顔料1分子中に1つの環状イミドアルキル基を導入する場合は、副生成物を抑制し、目的物の純度を向上できる点から、顔料1モル当量に対して、1.0〜2.0モル当量であることが好ましく、1.1〜1.5モル当量であることがより好ましく、更に1.2〜1.4モル当量であることがより好ましい。
上記反応において、パラホルムアルデヒド、ホルマリン又はトリオキサンの使用量は、副生成物を抑制し、目的物の純度を向上できる点から、化学式(II)で表される環状イミド1モル当量に対して、1.0〜2.0モル当量であることが好ましく、1.1〜1.5モル当量であることがより好ましく、更に1.2〜1.4モル当量であることがより好ましい。
また、上記反応における発煙硫酸の量は、特に限定されない。顔料の種類によっても異なるが、通常、顔料1モル当量に対して、発煙硫酸は30〜50モル当量であり、35〜45モル当量であることが好ましい。
上記反応において、顔料を加えた後の反応温度は、特に制限は無いが、通常90〜120℃程度であり、副反応を抑制する点から95〜105℃であることが好ましい。また、上記反応の反応圧力に特に制限は無いが、常圧〜0.1MPaが好ましく、常圧がより好ましい。また、上記反応における反応時間は、合成量や反応温度等により変動する場合があるので一概にはいえないが、通常2〜5時間、好ましくは2.5〜4.0時間の範囲に設定される。
【0032】
(顔料と化学式(III)で表されるヒドロキシアルキル環状イミドとの反応)
本発明において、顔料に化学式(III)で表されるヒドロキシアルキル環状イミドを反応させて、顔料に式(I)で表される環状イミドアルキル基を導入する方法は特に限定されないが、例えば、以下の方法で反応させることができる。
40〜70℃の前記濃硫酸中に、攪拌下、顔料を添加し溶解させる。次に、化学式(III)で表される環状イミドを添加する。この混合物を加熱することにより、顔料に式(I)で表される環状イミドアルキル基を導入することができる。
【0033】
上記反応において、化学式(III)で表されるヒドロキシアルキル環状イミドの使用量は、導入する環状イミドアルキル基の数により適宜調整すればよい。例えば、顔料1分子中に1つの環状イミドアルキル基を導入する場合は、副生成物を抑制し、目的物の純度を向上できる点から、顔料1モル当量に対して、1.0〜2.0モル当量であることが好ましく、1.1〜1.5モル当量であることがより好ましく、更に1.2〜1.4モル当量であることがより好ましい。
また、上記反応における濃硫酸の量は、特に限定されない。顔料の種類によっても異なるが、通常、顔料1モル当量に対して、濃硫酸は30〜50モル当量であり、35〜45モル当量であることが好ましい。
上記反応において、反応温度は特に制限は無いが、通常80〜120℃程度であり、副反応を抑制する点から95〜105℃であることが好ましい。また、上記反応の反応圧力に特に制限は無いが、常圧〜0.1MPaが好ましく、常圧がより好ましい。また、上記反応における反応時間は、合成量や反応温度等により変動する場合があるので一概にはいえないが、通常2〜6時間、好ましくは2.5〜4.0時間の範囲に設定される。
【0034】
前記化学式(II)で表される環状イミドは、所望の構造が市販で入手可能ならば、市販品を用いることができる。また、所望の構造を有する酸無水物誘導体と、アンモニア又は炭酸アンモニウムから、公知の方法により合成して得ることができる。
【0035】
前記化学式(III)で表されるヒドロキシアルキル環状イミドは、所望の構造が市販で入手可能ならば、市販品を用いることができる。また、公知の方法により合成して得ることができる。
例えば、前記化学式(II)で表される環状イミドと、パラホルムアルデヒドを水存在下で反応させることにより前記化学式(III)におけるRの炭素数が1のヒドロキシアルキル環状イミドを得ることができる。
また、前記化学式(III)におけるRが2以上のヒドロキシアルキル環状イミドは、例えば、特開2001−81073号公報に記載の方法により、前記化学式(II)で表される環状イミドと、モノアルキルアミンとを反応させることにより得ることができる。
【0036】
[環状イミドアルキル基]
本発明において導入される環状イミドアルキル基は、下記式(I)で表される基である。
【0037】
【化4】

(式(I)中、Rは、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、Xは、アリーレン基を表し、当該アリーレン基は、ハロゲン原子、アリールスルホニル基、アシル基、又は−(C=O)−C−(C=O)−により置換されていても良い。)
【0038】
化学式(I)中、Rの炭素数1〜6のアルキレン基としては、炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキレン基が挙げられ、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、各種ブチレン基等が挙げられる。中でも、製造が容易な点から、アルキレン基としては、メチレン基であることが好ましい。
【0039】
化学式(I)中、Xは、アリーレンを表し、1,2−フェニレン、1,2−ナフチレン、2,3−ナフチレン、1,8−ナフチレン、及び2,2’−ビフェニレン等が挙げられる。化学式(I)中のXとしては、フタルイミドとなる1,2−フェニレン、及び、ナフタルイミドとなる1,8−ナフチレンが好ましい。
【0040】
化学式(I)中、Xのアリーレン基に置換されていても良いハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子が好ましい。
化学式(I)中、Xのアリーレン基に置換されていても良いアリールスルホニル基としては、フェニルスルホニル基、及び、置換されたフェニルスルホニル基、例えば、p−トリルスルホニル基、p−クロロフェニルスルホニル基、p−ブロモフェニルスルホニル基等を挙げることができる。
化学式(I)中、Xのアリーレン基に置換されていても良いアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ベンジル基等を挙げることができる。
【0041】
<前記工程(1)により得られた反応混合物を水中に投入し、反応生成物を析出させ、析出物を濾過する工程(2)>
本発明において工程(2)は、前記工程(1)により得られた反応混合物を水中に投入することにより、顔料のイミドアルキル化誘導体を含む反応生成物を析出させ、濾過することにより当該析出物を得る工程である。
【0042】
工程(2)において用いられる水の量は、特に限定されない。顔料の種類によっても異なるが、通常、工程(1)で用いた顔料1質量部に対して、水は10〜50質量部であり、20〜40質量部であることが好ましい。
また、当該水の温度は、特に限定されないが、通常0〜20℃であり、0〜5℃であることが好ましい。
【0043】
工程(2)において、析出物を濾過する方法は、特に限定されない。常圧による自然濾過の他、減圧濾過や加圧濾過等を用いることができる。また濾過に用いられる濾材は、特に限定されず、例えば、濾紙やメンブレンフィルター等を用いることができる。
【0044】
<前記工程(2)により得られた析出物を、洗液のpHが2.0以上となるまで水で洗浄した後、顔料のイミドアルキル化誘導体が実質的に溶解しない有機溶剤で洗浄する工程(3)>
本発明において工程(3)は、工程(2)により得られた析出物を、乾燥前に洗浄することにより、不純物を洗浄液に容易に溶解させることができる。特に、顔料のイミドアルキル化誘導体が実質的に溶解しない有機溶剤で洗浄することにより、更に不純物を除去し、純度の高い顔料のイミドアルキル化誘導体を得ることができる。また、洗液のpHが2.0以上となるまで水で洗浄すれば、後の有機溶剤洗浄と組み合わせて高純度で顔料のイミドアルキル化誘導体が得られるため、従来のように、中性になるまで水で洗浄する必要がなく、廃液量を大幅に削減することができる。
【0045】
工程(3)において、まず、工程(2)により得られた析出物を、乾燥前に、水で洗浄する。これにより、硫酸の他、水に溶解する不純物を除去することができる。
工程(3)において、水による洗浄方法は特に限定されない。例えば、水に前記析出物を投入し、攪拌洗浄する方法や、濾材上に置いた前記析出物に水を注いで洗浄する方法等が挙げられる。
洗浄に用いる水の温度は特に限定されない。洗浄効率を向上させる点からは、水の温度が40℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましい。水の温度の上限としては、70℃以下であることが好ましい。
【0046】
本発明において、洗液のpHは、JIS Z 8802「pH測定方法」に記載のガラス電極法を用いて測定することができる。ここで、洗液とは、析出物を水で洗浄した後に、得られた液体をいう。洗液の少なくとも一部を採取し、上記pH測定方法により洗液のpHを測定する。測定したpHの値が2.0未満である場合には、水による洗浄を再度行う。一方、測定したpHの値が2.0以上であれば、水による洗浄を終了して、後述する顔料のイミドアルキル化誘導体が実質的に溶解しない有機溶剤による洗浄を行う。
【0047】
前記析出物は、水による洗浄後、更に、顔料のイミドアルキル化誘導体が実質的に溶解しない有機溶剤で洗浄する。これにより、水に不溶又は難溶の不純物を除去することができる。
【0048】
本発明において、顔料のイミドアルキル化誘導体が実質的に溶解しない有機溶剤とは、顔料のイミドアルキル化誘導体を投入して、攪拌しても着色が認められない有機溶剤をいい、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、トルエン、ヘキサン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
前記有機溶剤は洗浄効率を向上できる点から、中でも溶解度パラメータ(SP値)が8.5〜13.0(cal/cm1/2及び/又は誘電率が2.3〜25.0 F/mの有機溶剤を用いることが好ましい。ここで溶解度パラメータ(SP値)とは、分子凝集エネルギー密度の平方根で表される値で、R.F.Fedors,Polymer Engineering Science,14,p147〜154(1974)に記載の方法で計算することができる。このような有機溶剤としては、例えば、エタノール(SP値12.7、誘電率25)、イソプロピルアルコール(SP値11.5、誘電率18)、アセトン(SP値10.0、誘電率19.5)、メチルエチルケトン(SP値9.3、誘電率15.5)、酢酸エチル(SP値9.0、誘電率6.4)、トルエン(SP値8.8、誘電率2.3)等が挙げられる。
中でも、前記有機溶剤が水と分離しない溶剤であることが、水で洗浄した後に前記反応混合物を乾燥させずに有機溶剤を用いても、当該有機溶剤と水が分離することなく洗浄することができ、洗浄効率が向上する点から好ましい。
上記の性質を満たす、好ましい溶剤としては、炭素数2〜3のアルコール及びアセトンが挙げられる。これらの有機溶剤は、揮発性が高いため、後の乾燥工程の時間を短縮できる点でも好ましい。
有機溶剤は、1種単独でも、2種以上混合して用いても良い。
【0050】
工程(3)において、洗浄に用いられる有機溶剤の量は、特に限定されない。顔料の種類や、用いる有機溶剤の種類によっても異なるが、通常、析出物1質量部に対して、有機溶剤は5〜30質量部であり、10〜20質量部であることが好ましい。
【0051】
工程(3)で洗浄された反応生成物は、通常、その後乾燥される。
乾燥の方法は、公知の方法を適宜用いればよく、特に限定されない。例えば、乾燥機内で、常圧又は減圧下で加熱乾燥する方法の他、乾燥剤と共にデシケータ内で乾燥する方法等を用いることができる。中でも、真空乾燥機を用いて加熱乾燥することが好ましい。
加熱する場合、その加熱温度は通常60〜100℃であり、中でも、70〜80℃であることが好ましい。
【0052】
本発明に係る製造方法により得られた顔料のイミドアルキル化誘導体は、純度が高く、公知のあらゆる用途に用いることができる。中でも、カラーフィルタ用途として好適に用いることができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。
【0054】
(実施例1)
25℃、3.6質量%発煙硫酸560質量部中に、攪拌下、フタルイミド25.5質量部及びパラホルムアルデヒド7.4質量部を添加した。この混合物を50℃に加熱し、30分間攪拌した。次に、C.I.ピグメントイエロー138を100質量部加え、100度に加熱し、攪拌下、3時間反応させた。得られた反応混合物を、3500質量部の水に加えたところ、一部が析出した。濾過により当該析出物を得た。乾燥前の当該析出物に、60℃の水2000質量部を加え、30分間攪拌した後、濾過し、濾物を得た。濾液のpHが2.0以上となるまでこの水洗浄の操作を繰り返した。濾液のpHが2.0以上であることを確認後、乾燥前の濾物にエタノール1500質量部を加え、30分間攪拌した後、濾過し、得られたウェットケーキを90℃の真空乾燥機で乾燥し、実施例1のC.I.ピグメントイエロー138のフタルイミドメチル化誘導体を得た。
なお、濾液のpHは、HORIBA製:ガラス電極式水素イオン濃度指示計により測定した。
【0055】
(比較例1)
実施例1において、反応後、乾燥前の析出物に、60℃の水3500質量部を加え、30分間攪拌した後、濾過し、濾液のpHが7となるまで水による洗浄を繰り返した。濾液のpHが7であることを確認し、得られたウェットケーキを90℃の真空乾燥機で乾燥し、比較例1のC.I.ピグメントイエロー138のフタルイミドメチル化誘導体を得た。
【0056】
(比較例2)
実施例1において、反応後、乾燥前の析出物に、水洗を行わず、エタノール1500質量部を加え、30分間攪拌した後、濾過し、得られたウェットケーキを90℃の真空乾燥機で乾燥し、比較例2のC.I.ピグメントイエロー138のフタルイミドメチル化誘導体を得た。
【0057】
(比較例3)
実施例1において、反応後、乾燥前の析出物に、60℃の水2000質量部を加え、30分間攪拌した後、濾過し、濾物を得た。濾液のpHが1.8である時点で水洗浄を止めた後、乾燥前の濾物にエタノール1500質量部を加え、30分間攪拌した後、濾過し、得られたウェットケーキを90℃の真空乾燥機で乾燥し、比較例3のC.I.ピグメントイエロー138のフタルイミドメチル化誘導体を得た。
【0058】
(比較例4)
実施例1において、反応後、乾燥前の析出物に、60℃の水2000質量部を加え、30分間攪拌した後、濾過し、濾物を得た。濾液のpHが2.0以上となるまでこの水洗浄の操作を繰り返した。濾液のpHが2.0以上であることを確認後、乾燥させた後、濾物にエタノール1500質量部を加え、30分間攪拌した後、濾過し、得られたウェットケーキを90℃の真空乾燥機で乾燥し、比較例4のC.I.ピグメントイエロー138のフタルイミドメチル化誘導体を得た。
【0059】
[純度の評価]
(可視吸収スペクトルの測定)
実施例及び比較例の純度を評価するために、目的物となるC.I.ピグメントイエロー138のフタルイミドメチル化誘導体をN−メチルピロリドン(NMP)に溶解し、紫外可視分光光度計(装置名:(株)島津製作所製、紫外可視分光光度計UV−2550)を用いて、可視吸収スペクトルを測定した。また、おもな不純物であるC.I.ピグメントイエロー138のスルホン酸誘導体を混合して同様に、可視吸収スペクトルを測定した。
当該可視吸収スペクトルを図1に示す。C.I.ピグメントイエロー138のスルホン酸誘導体の存在比が増えるに従って、可視吸収スペクトルは、図の矢印の向きに変化した。
【0060】
実施例1及び比較例1〜4で得られたC.I.ピグメントイエロー138のフタルイミドメチル化誘導体をそれぞれN−メチルピロリドン(NMP)に溶解し、紫外可視分光光度計(装置名:(株)島津製作所製、紫外可視分光光度計UV−2550)を用いて、可視吸収スペクトルを測定した。得られた可視吸収スペクトルを図2に示す。おもな不純物である、C.I.ピグメントイエロー138のスルホン酸誘導体由来のピーク(450nm)に着目すると、pHが2.0になるまで水洗し、乾燥前にエタノールで洗浄した実施例1が最も吸光度が低く、純度が高くなっていることが分かった。従来の方法である比較例1では、有機溶剤で洗浄しないため、純度が低かった。また、水で洗浄していない比較例2や、pHが1.8までで水での洗浄を止めた比較例3及び、水で洗浄した後乾燥してからエタノールで洗浄をした比較例4は、実施例1と比べて吸光度が高く、純度が低いことがわかる。
【0061】
(ネガ型レジスト組成物の調製)
225mLマヨネーズ瓶中に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)75.2質量部、顔料分散剤として(BYK−LPN6919、ビックケミー社製)7.45質量部、バインダー樹脂6.82質量部、フェニルホスホン酸(商品名:PPA、日産化学社製)0.53質量部をそれぞれ溶解させた。ここに、C.I.ピグメントイエロー138 9.7質量部、実施例1で得られたC.I.ピグメントイエロー138のフタルイミドメチル化誘導体を0.3質量部加えて混合し、ペイントシェーカー(浅田鉄工社製)にて2mmジルコニアビーズで1時間、さらに0.1mmジルコニアビーズで24時間分散し、黄色顔料樹脂組成物を得た。
上記黄色顔料分散液66.7質量部と下記バインダー組成物53.3質量部を混合し、加圧濾過を行って、カラーフィルタ用黄色ネガ型レジスト組成物を得た。
【0062】
・アルカリ可溶性樹脂(分子量8400、固形分44重量%):4.28質量部
・3〜4官能アクリレートモノマー(商品名:アロニックスM305、東亞合成(株)製):4.39質量部
・光重合開始剤:2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン(商品名:イルガキュア907、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)):0.47質量部
・光重合開始剤:2,2’−ビス(o−クロロフェニル)−4,5,4’,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール(商品名:ビイミダゾール、黒金化成(株)製)):0.94質量部
・光重合開始剤:2−メルカプトベンゾチアゾール(東京化成(株)製):0.15質量部
・光増感剤:2,4ジエチルチオキサントン(商品名:カヤキュアーDETX-S、日本化薬(株)製):1.57質量部
・溶剤:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA):41.5質量部
【0063】
上記ネガ型レジスト組成物の調製において、実施例1で得られたC.I.ピグメントイエロー138のフタルイミドメチル化誘導体に代えて、比較例1〜4で得られたC.I.ピグメントイエロー138のフタルイミドメチル化誘導体をそれぞれ用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1〜4のC.I.ピグメントイエロー138のフタルイミドメチル化誘導体を用いた、ネガ型レジスト組成物をそれぞれ得た。
【0064】
[輝度及びコントラストの評価]
実施例1及び比較例1〜4を用いて調製されたネガ型レジスト組成物を、それぞれ、厚み0.7mmのガラス基板(NHテクノグラス(株)製、「NA35」)上に、スピンコーターを用いて塗布した。その後、80℃のホットプレート上で3分間加熱乾燥を行った。超高圧水銀灯を用いて60mJ/cmの紫外線を照射することによって硬化膜(黄色着色層)を得た。乾燥硬化後の膜厚は目標色度y=0.506になるように調整した。黄色着色層が形成されたガラス板をそれぞれ230℃及び260℃のクリーンオーブンで30分間ポストベーク(PB)し、得られた黄色着色基板のコントラスト、色度(x、y)及び輝度(Y)を測定した。コントラストは壺坂電気(株)社製「コントラスト測定装置CT−1B」を用い、色度及び輝度はオリンパス(株)社製「顕微分光測定装置OSP−SP200」を用いて露光(Exp)後及びポストベーク(PB)後の黄色着色層をそれぞれ測定した。
結果を表1に示す。
【0065】
(露光後の輝度及びコントラストの評価基準)
○:輝度又はコントラストが高く良好であった。
△:輝度又はコントラストが不十分であった。
(ポストベーク後の輝度及びコントラストの評価基準)
○:Exp後からの低下が小さかった。
△:Exp後からの低下があった。
×:Exp後から著しく低下した。
【0066】
[耐熱性の評価]
実施例1及び比較例1〜4を用いて調整されたネガ型レジスト組成物を、それぞれ、厚み0.7mmのガラス基板上に、スピンコーターを用いて塗布した。その後、80℃のホットプレート上で3分間加熱乾燥を行った。この着色層にフォトマスクを介し、超高圧水銀灯を用いて60mJ/cmの紫外線を照射した。その後、上記着色層が形成されたガラス板を、アルカリ現像液として0.05重量%水酸化カリウム水溶液を用いてシャワー現像し、パターンの形成された黄色着色基板を得た。
パターンの形成された黄色着色基板を240℃のクリーンオーブンで30分間ポストベークし、パターン塗膜上に顔料凝集体の析出の有無を確認した。
(耐熱性評価基準)
○:析出しなかった。
△:わずかに析出した。
×:析出した。
【0067】
【表1】

【0068】
[結果のまとめ]
実施例1の製造方法により得られた顔料のイミドアルキル化誘導体であるC.I.ピグメントイエロー138のフタルイミドメチル化誘導体は、洗液のpHが2.0以上となるまで水で洗浄し、更にエタノールで洗浄しているため、純度が高かった。
また、実施例1の製造方法により得られた、純度の高いC.I.ピグメントイエロー138のフタルイミドメチル化誘導体を含む顔料分散液を用いて作成された塗膜は、輝度及びコントラストが高く、加熱工程によっても、顔料の凝集体は析出せず輝度及びコントラストは低下しなかった。
比較例1は、従来の製造方法であり、有機溶剤による洗浄を行っていないため、得られたC.I.ピグメントイエロー138のフタルイミドメチル化誘導体の純度が低かった。また、洗液のpHが7となるまで水での洗浄を繰り返したため、大量の洗液が生じ、また時間がかかった。比較例1のC.I.ピグメントイエロー138のフタルイミドメチル化誘導体用いて作成された塗膜は、230℃の加熱に対しては、コントラストは低下しないものの、260℃で加熱した場合には、コントラストが低下し、結晶析出抑制効果が不十分であった。
比較例2は、水での洗浄を行わなかったため、得られたC.I.ピグメントイエロー138のフタルイミドメチル化誘導体の純度が低く、これを用いて作製された塗膜は、コントラストが低く、加熱によって結晶が析出した。
比較例3は、水での洗浄を行っているが、不十分であったため、得られたC.I.ピグメントイエロー138のフタルイミドメチル化誘導体の純度が低く、これを用いて得られた塗膜は、230℃の加熱に対しては、コントラストは低下しないものの、260℃で加熱した場合には、コントラストが低下し、結晶析出抑制効果が不十分であった。
比較例4は、水での洗浄の後、結晶を乾燥してから有機溶剤で洗浄したため、結晶に不純物が付着し、有機溶剤による洗浄が不十分となったため、得られたC.I.ピグメントイエロー138のフタルイミドメチル化誘導体の純度が低く、これを用いて得られた塗膜は、結晶析出抑制効果が不十分であった。
従来の製造方法である比較例1では、洗浄に用いた水及び溶剤の使用量の合計は、13.5Lであり、精製に要した時間は6.0時間であった。一方、実施例1では、洗浄に用いた水及び溶剤の使用量の合計は6.5Lであり、精製に要した時間は4.5時間であった。
以上より、本発明の製造方法によれば、精製時間を短縮し、廃液量を減少させ、且つ顔料のイミドアルキル化誘導体を高純度で得られることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸存在下で、顔料に環状イミド類を反応させて、顔料に下記式(I)で表される環状イミドアルキル基を導入する工程(1)と、
前記工程(1)により得られた反応混合物を水中に投入し、反応生成物を析出させ、析出物を濾過する工程(2)と、
前記工程(2)により得られた析出物を、洗液のpHが2.0以上となるまで水で洗浄した後、乾燥前に、顔料のイミドアルキル化誘導体が実質的に溶解しない有機溶剤で洗浄する工程(3)とを有することを特徴とする、顔料のイミドアルキル化誘導体の製造方法。
【化1】

(式(I)中、Rは、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、Xは、アリーレン基を表し、当該アリーレン基は、ハロゲン原子、アリールスルホニル基、アシル基、又は−(C=O)−C−(C=O)−により置換されていても良い。)
【請求項2】
前記工程(3)における水の温度が、40℃以上であることを特徴とする、請求項1に記載の顔料のイミドアルキル化誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶剤が、溶解度パラメータ(SP値)が8.5〜13.0(cal/cm1/2及び/又は誘電率が2.3〜25.0 F/mの有機溶剤であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の顔料のイミドアルキル化誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶剤が、炭素数2〜3のアルコール、酢酸エチル、トルエン、メチルエチルケトン及びアセトンからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の顔料のイミドアルキル化誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記顔料が、キノフタロン系顔料である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の顔料のイミドアルキル化誘導体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−233050(P2012−233050A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101554(P2011−101554)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)