説明

顔料分散体

【課題】 高い防黴性能を有する顔料分散体を提供すること。
【解決手段】 カーボンブラック、疎水性構造及び水素結合を形成できる構造を有する防黴剤、並びに有機化合物を含有する顔料分散体であって、前記有機化合物が、ヒドロキシル基及びアミノ基から選ばれる官能基を2つ以上有し、かつ、炭素数が7以下の有機化合物であり、前記防黴剤の含有量(質量%)が、顔料分散体の全質量を基準として、0.10質量%以上であり、顔料分散体の全質量を基準とした、前記防黴剤の含有量(質量%)が、前記カーボンブラックの含有量(質量%)に対して、質量比率で0.06倍未満であり、顔料分散体の全質量を基準とした、前記有機化合物の含有量(質量%)が、前記防黴剤の含有量(質量%)に対して、質量比率で1.0倍以上であることを特徴とする顔料分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は顔料分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
顔料分散体やインクは有機物を含有するため、黴などの微生物(以下、単に「黴」という)による汚染を受けやすいことが知られている。特に、顔料分散体やインクを長期にわたって保管すると、黴が発生しやすく、これを解決する方法として、顔料分散体やインク中に防黴剤である1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オンを含有する方法が一般的となっている。特許文献1及び2には、顔料及び1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン(プロキセル)を含有するインクが開示されている。特許文献1においては、カーボンブラックの含有量が5質量%であり、プロキセルの含有量が0.3質量%であるインクが例示されている。特許文献2においては、カーボンブラックの含有量が25質量%であり、プロキセルの含有量が0.2質量%である顔料分散体が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−178491号公報
【特許文献2】特開2001−026736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らの検討によると、顔料としてカーボンブラックを用いたときに、インク中に防黴剤である1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン(プロキセル)を含有しているにも関わらず、黴が発生してしまう場合があることが分かった。本発明者らが検討したところ、特許文献1のインクは黴の発生が確認されなかったが、特許文献2の顔料分散体は防黴剤を含有しているにも関わらず、黴の発生が確認された。
【0005】
したがって、本発明の目的は、顔料としてカーボンブラックを用いたときに、安定的に高い防黴性能を有する顔料分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明にかかる顔料分散体は、カーボンブラック、疎水性構造及び水素結合を形成できる構造を有する防黴剤、並びに有機化合物を含有する顔料分散体であって、前記有機化合物が、ヒドロキシル基及びアミノ基から選ばれる官能基を2つ以上有し、かつ、炭素数が7以下の有機化合物であり、前記防黴剤の含有量(質量%)が、顔料分散体の全質量を基準として、0.10質量%以上であり、顔料分散体の全質量を基準とした、前記防黴剤の含有量(質量%)が、前記カーボンブラックの含有量(質量%)に対して、質量比率で0.06倍未満であり、顔料分散体の全質量を基準とした、前記有機化合物の含有量(質量%)が、前記防黴剤の含有量(質量%)に対して、質量比率で1.0倍以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高い防黴性能を有する顔料分散体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、好適な実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。本発明の顔料分散体は、カーボンブラック、疎水性構造及び水素結合を形成できる構造を有する防黴剤、並びに有機化合物を含有し、前記有機化合物が、ヒドロキシル基及びアミノ基から選ばれる官能基を2つ以上有し、かつ、炭素数が7以下の有機化合物であり、前記防黴剤の含有量(質量%)が、顔料分散体の全質量を基準として、0.10質量%以上であり、顔料分散体の全質量を基準とした、前記防黴剤の含有量(質量%)が、前記カーボンブラックの含有量(質量%)に対して、質量比率で0.06倍未満であり、顔料分散体の全質量を基準とした、前記有機化合物の含有量(質量%)が、前記防黴剤の含有量(質量%)に対して、質量比率で1.0倍以上であることを特徴とする。
【0009】
本発明における防黴剤は、疎水性構造及び水素結合を形成できる構造を有する。このような、防黴剤の代表例として1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン(以下、単に「BIT」ともいう)が挙げられる。以下、BITを用いて本発明を説明する。
【0010】
本発明者らは先ず、顔料としてカーボンブラックを用いたときに、防黴剤である1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オンを含有しているにも関わらず、顔料分散体としての防黴性能が低くなる場合があることの原因を検討した。
【0011】
1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オンは、以下の式(1)のような構造の化合物であり、防黴剤として働く。一般的に顔料分散体としての防黴性能を得るためには、少なくともBITの含有量(質量%)が、顔料分散体の全質量を基準として、0.10質量%以上である必要がある。
【0012】
【化1】

【0013】
BITは上記式(1)の構造から明らかな通り、「疎水性構造」であるベンゼン環を有する。一方、顔料であるカーボンブラックも、強い疎水性を有している。したがって、カーボンブラック及びBITを含有する顔料分散体においては、疎水性相互作用によりBITはカーボンブラックの表面に吸着しやすい。BITは顔料分散体中で遊離している状態で防黴剤としての性能を示すものであるから、カーボンブラック表面に吸着したBITが多くなると顔料分散体としての防黴性能が低くなる。本発明者らが検討したところ、BITの含有量が同一である顔料分散体においては、この現象は特に、カーボンブラックの含有量が多いときに顕著に発生した。これは、上記のメカニズムからも明らかな通り、カーボンブラックの含有量が多くなることで、カーボンブラック表面に吸着されるBITも多くなり、遊離しているBIT、即ち、防黴剤として働くBITの量が少なくなるためである。本発明者らが検討したところ、顔料分散体の全質量を基準とした、BITの含有量(質量%)が、カーボンブラックの含有量(質量%)に対して、質量比率で0.06倍未満のときに、上述した顔料分散体としての防黴性能が低下する現象が発生した。0.06倍以上だと、カーボンブラックに一部のBITが吸着したとしても、吸着されずに遊離しているBITも十分に存在するため、上述した防黴性能が低下するという課題自体が発生しない。
【0014】
以上の検討をふまえて、上記特許文献1及び2に関して防黴性能の検証を行った結果を以下に示す。特許文献1においては、カーボンブラックの含有量が5質量%であり、BITの含有量が0.3質量%であるインクが例示されている。この場合、BITの含有量はカーボンブラックの含有量に対して0.06倍であり、上述の通り、防黴性能が低下するという課題自体が発生しない。一方、特許文献2においては、カーボンブラックの含有量は25質量%であり、BITの含有量は0.2質量%である顔料分散体が例示されている。この場合、BITの含有量はカーボンブラックの含有量に対して0.008倍であり、上述の通り、防黴性能が低下する現象が発生した。
【0015】
以上より、本発明者らが更に検討を行ったところ、顔料分散体が、ヒドロキシル基及びアミノ基から選ばれる官能基を2つ以上有し、かつ、炭素数が7以下の有機化合物を更に含有することで、上述した防黴性能が低下する現象を抑制できることが分かった。このメカニズムを以下に詳述する。
【0016】
前記防黴性能が低下する現象は、上述のメカニズムの通り、カーボンブラック表面にBITが吸着することが原因で発生する。そこで、本発明者らは、BITのカーボンブラックの表面への吸着を阻害するような物質を添加することが重要であると考え、検討を行った。その結果、ヒドロキシル基及びアミノ基から選ばれる官能基を2つ以上有し、かつ、炭素数が7以下である特定の有機化合物を更に含有するという本発明の構成に至った。上記式(1)の構造から明らかな通り、BITは「水素結合を形成できる構造」であるアミド構造(−NHCO−)を有する。したがって、前記特定の有機化合物は、その構造中の一部のヒドロキシル基やアミノ基において、BITのアミド構造の窒素原子や酸素原子と水素結合を形成することで、BITと複合体を形成することができる。更に、水素結合を形成していない、その他のヒドロキシル基やアミノ基の影響により、前記複合体は親水性を有する。つまり、BITは、前記特定の有機化合物との複合体として存在することで、BIT単独では有さなかった、親水性を有するようになる。その結果、上述した疎水性相互作用によりBITがカーボンブラックに吸着する現象が抑制され、BITが顔料分散体中で遊離して存在することができるため、防黴剤として有効に働く。このようにして、前記防黴性能が低下する現象が抑制されるのである。
【0017】
尚、ヒドロキシル基及びアミノ基から選ばれる官能基を2つ以上有する化合物の炭素数が、7より大きい場合は、化合物自体が水に溶けにくいため、上記BITのカーボンブラックの表面への吸着を抑制する効果は得られない。また、上記メカニズムから明らかな通り、ヒドロキシル基及びアミノ基から選ばれる官能基を1つのみ有するような化合物では水素結合により形成したBITとの複合体は親水性を持たず、上記BITのカーボンブラックの表面への吸着を抑制する効果は得られない。
【0018】
本発明者らが更に検討をしたところ、前記特定の有機化合物の含有量(質量%)が、BITの含有量(質量%)に対して、質量比率で1.0倍以上のときにのみ、上記カーボンブラックの表面へのBITの吸着の抑制効果が得られることが分かった。1.0倍より小さい場合は、前記特定の有機化合物と水素結合を形成できるBITが少なく、多くのBITがカーボンブラックの表面に吸着してしまうため、防黴性能が低下する。
【0019】
また、上記メカニズムから明らかな通り、「疎水性構造」及び「水素結合を形成できる構造」を共に有している防黴剤であれば、BITの場合と同様に、防黴剤がカーボンブラックの表面へ吸着してしまう現象を抑制し、防黴性能を高めることができる。本発明者らが検討したところ、BITの他に、ソルビン酸及びその塩、安息香酸及びその塩、プロピオン酸及びその塩、チアベンダゾールなどでも、本発明の効果が得られることが分かった。
【0020】
以上のメカニズムのように、本発明の各構成が相乗的に働くことで、上記本発明の効果を達成することが可能となるものである。
【0021】
<顔料分散体>
本発明の顔料分散体は、インクに用いることが可能である。以下、本発明の顔料分散体を構成する各成分について、それぞれ説明する。
【0022】
(カーボンブラック)
本発明の顔料分散体に使用するカーボンブラックは、従来、顔料分散体に一般的に用いられているものを何れも用いることができる。具体的には、ファーネスブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ランプブラックなどが挙げられる。更に具体的には、下記に挙げるような市販のカーボンブラックを用いることができる。例えば、レイヴァン1500(コロンビア製)、モナク:800、900、1100(以上、キャボット製)、プリンテックス:85、95(以上、デグッサ製)、No.900、No.1000、No.2200B、No.2300、No.2350、No.2400R、MCF−88(以上、三菱化学製)などが挙げられる。無論、本発明のために新たに調製したカーボンブラックを用いることもできる。
【0023】
本発明において、カーボンブラックの分散方式としては、例えば、分散剤として樹脂を用いる樹脂分散方式(樹脂分散剤を使用した樹脂分散顔料、顔料粒子の表面を樹脂で被覆したマイクロカプセル顔料、顔料粒子の表面に樹脂を含む有機基が化学的に結合した樹脂結合型自己分散顔料)や顔料粒子の表面に酸性基が直接又は他の原子団を介して結合した自己分散方式(自己分散顔料)が挙げられる。無論、分散方式の異なるカーボンブラックを併用することも可能である。
【0024】
また、本発明において、カーボンブラックの含有量(質量%)は、顔料分散体の全質量を基準として、10.0質量%以上30.0質量%以下であることが好ましい。また、カーボンブラックの平均粒径は、50nm以上150nm以下であることが好ましい。尚、本発明において顔料の平均粒径は、マイクロトラックUPA−EX150(日機装製)を用いて、体積平均粒径の50%累計値により求められる平均粒径である。
【0025】
(疎水性構造及び水素結合を形成できる構造を有する防黴剤)
本発明の顔料分散体は、疎水性構造及び水素結合を形成できる構造を有する特定の防黴剤を含有する。本発明において、「疎水性構造」としては、具体的に、ベンゼン環などの芳香環などが挙げられる。また、「水素結合を形成できる構造」としては、アミド構造、カルボニル基、エーテル基、アミノ基、ヒドロキシル基などが挙げられる。本発明の顔料分散体に用いることができる前記特定の防黴剤としては、1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン、ソルビン酸、安息香酸、プロピオン酸、チアベンダゾールが挙げられる。また、ソルビン酸、安息香酸、及びプロピオン酸は、それらの塩も前記特定の防黴剤として用いることができる。塩としてはナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩を用いることが好ましい。これらの防黴剤の中でも、1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オンが、顔料分散体に用いる他の成分との相性が良いため好ましい。
【0026】
上述の通り、本発明において、前記特定の防黴剤の含有量(質量%)は、顔料分散体の全質量を基準として、0.10質量%以上である必要がある。また、前記特定の防黴剤の含有量は、5.0質量%以下であることが好ましい。5.0質量%より大きいと、防黴剤が析出してしまう場合がある。更には、2.0質量%以下であることがより好ましい。
【0027】
また、上述の通り、本発明において、顔料分散体の全質量を基準とした、前記特定の防黴剤の含有量(質量%)は、カーボンブラックの含有量(質量%)に対して、質量比率で0.06倍未満である必要がある。更には、0.01倍以上であることが好ましい。
【0028】
(ヒドロキシル基及びアミノ基から選ばれる官能基を2つ以上有し、かつ、炭素数が7以下の有機化合物)
本発明の顔料分散体は、ヒドロキシル基及びアミノ基から選ばれる官能基を2つ以上有し、かつ、炭素数が7以下の特定の有機化合物を含有する。具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,1−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオールなどの炭素数1乃至7の直鎖又は分岐アルカンジオール;グリセリン、1,4,7−ヘプタントリオールなどの炭素数1乃至7の直鎖又は分岐アルカントリオール;エチレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、3−メチル−1,5ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミンなどの炭素数1乃至7の直鎖又は分岐アルカンジアミン;1,2,3−プロパントリアミン、1,4,7−ヘプタントリアミンなどの炭素数1乃至7の直鎖又は分岐アルカントリアミン;2−アミノ−1,3−プロパンジオール、5−アミノ−1−ペンタノールなどの炭素数1乃至7の直鎖又は分岐アミノアルコールが挙げられる。これらの中でも、炭素数が2又は3のものが、前記特定の防黴剤と前記特定の有機化合物との複合体の親水性をより高めることができるため好ましい。具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、エチレンジアミン、2−アミノ−1,3−プロパンジオールが好ましい。
【0029】
また、本発明においては、前記特定の有機化合物が有する全てのヒドロキシル基又はアミノ基が同一の炭素原子に結合していないことが好ましい。前記特定の有機化合物が有する全てのヒドロキシル基又はアミノ基が同一の炭素原子に結合している、とは例えば、1,1−ブタンジオールのようなものである。このような場合、化合物が有する全てのヒドロキシル基又はアミノ基が防黴剤と水素結合してしまい、親水性を有さない複合体が多く存在するようになるため、防黴性能の向上効果が十分に得られない場合がある。更には、前記特定の有機化合物が有するヒドロキシル基又はアミノ基が、それぞれ異なる炭素原子に結合していることが好ましい。
【0030】
顔料分散体の全質量を基準とした、前記特定の有機化合物の含有量(質量%)が、カーボンブラックの含有量(質量%)に対して、質量比率で1.0倍以下であることが好ましい。1.0倍より大きいと、顔料分散体中の顔料が凝集して析出する現象、所謂、ソルベントショックが起こることで、顔料分散体の保存安定性が十分に得られない場合がある。更には、0.05倍以上であることがより好ましい。0.05倍より小さいと、前記特定の有機化合物と水素結合できない防黴剤の含有量が多くなり、防黴性能の向上効果が十分に得られない場合がある。
【0031】
顔料分散体の全質量を基準とした、前記特定の有機化合物の含有量(質量%)が、防黴剤の含有量(質量%)に対して、質量比率で10倍以上であることが好ましい。10倍以上であると、前記特定の有機化合物と防黴剤が効率的に水素結合するため、カーボンブラックの表面に吸着してしまう防黴剤が少なくなり、防黴性能がより向上する。更には、30倍以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に詳細に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。尚、以下の実施例の記載において、「部」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。尚、明細書及び表中の略称は以下の通りである。
EG:エチレングリコール
Gly:グリセリン
14BD:1,4−ブタンジオール
15PD:1,5−ペンタンジオール
MPD:3−メチル−1,5−ペンタンジオール
16HD:1,6−ヘキサンジオール
17HD:1,7−ヘプタンジオール
14BDA:1,4−ブタンジアミン
APD:2−アミノ−1,3−プロパンジオール
11BD:1,1−ブタンジオール
BO:1−ブタノール
TEGmB:トリエチレングリコールモノブチルエーテル
18OD:1,8−オクタンジオール
CB:カーボンブラック
BIT:1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン
【0033】
[顔料分散体の調製]
<顔料>
顔料として、表面にカルボキシルフェニル基が結合した自己分散カーボンブラックである顔料A、表面が修飾されていないカーボンブラックである顔料B、及び、表面にスルホフェニル基が結合したC.I.ピグメントレッド122である顔料Cを用意した。顔料Bを用いる場合は、樹脂分散剤として、酸価が150mgKOH/g、重量平均分子量9,000のスチレン−アクリル酸共重合体を用いた。
【0034】
<顔料分散体の調製>
表1に示した各成分を混合し、顔料が水中に分散された顔料分散体を得た。このとき、顔料Bを用いる場合は、顔料の含有量に対して20質量%となるように樹脂分散剤(酸価が150mgKOH/g、重量平均分子量9,000のスチレン−アクリル酸共重合体)を更に混合した。尚、表中において、ヒドロキシル基及びアミノ基から選ばれる官能基を2つ以上有し、かつ、炭素数が7以下の有機化合物を「化合物X」と表記した。
【0035】
【表1】

【0036】
[評価]
(防黴性能)
上記で得られた顔料分散体をそれぞれ、サンプル瓶に密閉し、25℃で4週間保存した。保存試験後の顔料分散体について、サンアイバイオチェッカーFC(三愛石油製)を用いて、総細菌数を測定し、防黴性能の評価を行った。評価基準は以下の通りである。評価結果を表2に示す。
A:総細菌数が10未満であった
B:総細菌数が10以上10未満であった
C:総細菌数が10未満であった。
【0037】
(遊離BITの残存率の確認)
上記で得られた顔料分散体をそれぞれ、サンプル瓶に密閉し、25℃で4週間保存した。保存試験の前後の顔料分散体について、顔料に吸着せずに顔料分散体中に遊離しているBIT(遊離BIT)の濃度をそれぞれ測定した。その値から遊離BITの残存率(%)[=(保存試験後の遊離BITの濃度)/(保存試験前の遊離BITの濃度)×100]を算出し、顔料に吸着せずに顔料分散体中に遊離しているBITが保存試験の結果、どの程度顔料分散体中に残存しているかを確認した。以下に、遊離BITの濃度の測定方法を示す。顔料分散体1gを水で40倍に希釈し、撹拌した後、この希釈溶液1gを採取し、13,000rpmで2時間、遠心分離を行った。このとき、顔料に吸着したBITはカーボンブラックと共に分離し、一方、顔料に吸着せずに遊離しているBITは上澄み液に残る。そこで、上澄み液0.7gを採取し、水で2倍に希釈したものを液体クロマトグラフ質量分析装置(ウォーターズ製)にて測定し、遊離BITの濃度を定量した。この際、BITの濃度が既知の溶液(0.01質量%及び0.1質量%)を用いて作成した検量線を用いた。尚、上述のメカニズムから明らかな通り、遊離BITの残存率と防黴性能は相関しており、遊離BITの残存率が低いと、防黴性能は低くなる。評価基準は以下の通りである。評価結果を表2に示す。
AA:遊離BITの残存率(%)が50%以上であった
A:遊離BITの残存率(%)が45%以上50%未満であった
B:遊離BITの残存率(%)が40%以上45%未満であった
C:遊離BITの残存率(%)が40%未満であった。
【0038】
(顔料分散体の保存安定性)
上記で得られた顔料分散体をそれぞれ、サンプル瓶に密閉し、25℃で4週間保存した。保存試験後のサンプル瓶の底に沈殿物が付着しているか否かを目視で観察して、顔料分散体の保存安定性の評価を行った。評価基準は以下の通りである。評価結果を表2に示す。
A:沈殿物がなかった
B:沈殿物が若干あった
C:沈殿物があった。
【0039】
【表2】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラック、疎水性構造及び水素結合を形成できる構造を有する防黴剤、並びに有機化合物を含有する顔料分散体であって、
前記有機化合物が、ヒドロキシル基及びアミノ基から選ばれる官能基を2つ以上有し、かつ、炭素数が7以下の有機化合物であり、
前記防黴剤の含有量(質量%)が、顔料分散体の全質量を基準として、0.10質量%以上であり、
顔料分散体の全質量を基準とした、前記防黴剤の含有量(質量%)が、前記カーボンブラックの含有量(質量%)に対して、質量比率で0.06倍未満であり、
顔料分散体の全質量を基準とした、前記有機化合物の含有量(質量%)が、前記防黴剤の含有量(質量%)に対して、質量比率で1.0倍以上であることを特徴とする顔料分散体。
【請求項2】
顔料分散体の全質量を基準とした、前記有機化合物の含有量(質量%)が、前記カーボンブラックの含有量(質量%)に対して、質量比率で1.0倍以下である請求項1に記載の顔料分散体。
【請求項3】
顔料分散体の全質量を基準とした、前記有機化合物の含有量(質量%)が、前記防黴剤の含有量(質量%)に対して、質量比率で10倍以上である請求項1又は2に記載の顔料分散体。
【請求項4】
前記防黴剤が、1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オンである請求項1乃至3の何れか1項に記載の顔料分散体。


【公開番号】特開2013−40227(P2013−40227A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175980(P2011−175980)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】