説明

顔料分散物、それを用いたインク組成物、硬化性組成物及び硬化性インク組成物

【課題】微細な顔料の分散性及び分散安定性に優れた顔料分散物を提供することを目的とする。
【解決手段】(a)顔料、および(b)主鎖にウレタン結合を含み、該(a)顔料の分子量に対し20質量%〜70質量%の分子量である該(a)顔料の部分骨格と同一または類似の骨格がペンダントされ、さらに、側鎖にポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、およびポリアルキレンオキシドからなる群より選択される少なくとも一つの高分子鎖を有する高分子化合物、を含有する顔料分散物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料分散物、それを用いたインク組成物、硬化性組成物、及び硬化性インク組成物に関するものである。詳しくは、顔料の分散性及び分散安定性に優れた顔料分散物、該顔料分散物を含み、高温条件での保存安定性に優れ、更に高画質の画像を形成することが可能なインク組成物および活性エネルギー線の照射により硬化しうる硬化性組成物およびそれを用いた高画質な画像を形成することが可能な硬化性インク組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
画像データ信号に基づき、紙やプラスチックシートなどの被記録媒体に画像を形成する画像記録方法として、電子写真方式、昇華型及び溶融型熱転写方式、インクジェット方式などがある。中でも、インクジェット方式は、安価な装置で実施可能であり、且つ、必要とされる画像部のみにインクを吐出して被記録媒体上に直接画像形成を行うため、インクを効率良く使用でき、ランニングコストが安く、さらに、非常に微小な液滴を打滴する事により高精彩な画像を記録できる点で優れている。
【0003】
インクジェット方式によれば、普通紙のみならずプラスチックシート、金属板など非吸液性の被記録媒体にも印字可能であるが、印字する際の高速化及び高画質化が重要な課題となっており、印字後の液滴の乾燥、硬化に要する時間が、画像の鮮鋭度に大きく影響する性質を有している。
インクジェット方式の一つとして、活性エネルギー線の照射により硬化可能なインクジェット記録用インクを用いた記録方式がある。この方法によれば、印字後直ちに放射線照射し、インク液滴を硬化させることで鮮鋭な画像を形成することができる。
このような硬化性インクジェットインク組成物は、発色性に優れた高精細画像の形成のため、高い顔料分散性が必要である。また、インクジェットインクにおいては細孔より微細なインクを高周波数で吐出するため、インクの粘度や表面張力を制御する事が重要である。
【0004】
インク組成物に鮮明な色調と高い着色力を付与するためには、顔料の微細化が必須である。特に、インクジェット記録用に用いられるインクでは、吐出されるインク液滴が画像の鮮鋭度に大きな影響を与えるため、吐出液滴も少量となり、且つ、該インクより形成されるインク硬化膜の膜厚よりも微細な粒子を用いることが必須となる。このように、高い着色力を得るために顔料粒子をより微細化していくと、微粒子の分散が困難になり、凝集体が発生しやすくなる。また、分散剤の添加により組成物の粘度が上昇するといった問題も生じる。顔料凝集体の発生やインク組成物の粘度上昇はいずれもインク吐出性に悪影響を与えるので、顔料の凝集や増粘などが生じたインク組成物をインクジェット記録用として用いるのは好ましくない。
【0005】
また、インク組成物をインクジェット記録用として用いる場合には、ヒートサイクル性に優れていなければならない。インク組成物はカートリッジ内に収納され、吐出時には液粘度を低下させるために加熱されるが、非吐出時、保存時には降温するため、加熱−冷却の繰り返し温度変化を受ける。この温度変化もまた、顔料分散性に悪影響を与え、経時的に顔料の分散性が低下し、顔料の凝集や増粘などが生じやすくなるという問題もあった。
【0006】
硬化性インクジェットインクでは、先鋭な画像を形成する硬化性や硬化後の膜物性も重要な因子となる。硬化性インクジェットインクでは放射線照射により速やかに硬化させることで画像の先鋭性を確保することから、硬化を阻害するような顔料分散剤、非硬化成分である溶媒を含む顔料分散剤、更に硬化膜と架橋せず表面タック性を低下させる顔料分散剤は硬化性を低下させ、にじみや生産性の低下の原因となるため、好ましくない。
【0007】
このような化合物が混入した場合、印字物を重ねて保存した場合に印字面と被記録体が接着し、記録物の印字面及び被記録体が汚損するいわゆるブロッキングが生じる問題があった。
従って、充分な流動性を有し、かつ微細化された顔料を安定に分散させ、さらに、硬化性に優れたインク組成物が求められている。安定な顔料分散物を得るための分散剤については、種々の提案がなされている。
【0008】
顔料との親和性を向上させるため、顔料誘導体を分散剤として使用したインク組成物(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)や、フタロシアニン、キナクリドン系などの特定の顔料に対し、分散剤として塩基性基を有するポリマーを用いたインク組成物(例えば、特許文献3参照。)、ポリ(エチレンイミン)−ポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)グラフトポリマーなどの分散剤と該分散剤を溶解させる特定のモノマーを含有する、有機溶剤を用いないインク組成物(例えば、特許文献4参照。)、ペンダントにカルボキシレート、ホスフェート、スルホネート、4級アンモニウムなどの中和塩を有するポリウレタンを分散剤として用いたインク組成物(例えば、特許文献5参照)、窒素原子含有ビニル重合性マクロモノマーを用いたグラフト共重合体を用いた非水系顔料分散組成物(例えば、特許文献6参照。)や、N−ビニルアミド、N−ビニルラクタム、ビニルまたはアリル置換窒素含有複素環を含むポリマーと別種のポリマーをグラフト鎖として有するポリウレタン分散剤(例えば、特許文献7参照。)が提案されている。
【0009】
これらの顔料分散剤やインク組成物を用いると確かに顔料を微細に分散でき、従来よりもインクの安定性は高まるが、インクジェット用などの低粘度なインク組成物においてはインクの高温安定性は十分ではなく、また、硬化型インク組成物を作成した場合には硬化感度や耐ブロッキング性が充分でなかった。
【0010】
また、顔料の有機色素原子団と3級アミノ基を有するアクリル共重合体により流動性、塗膜の鮮映性、光沢、着色力に優れたインキを得る方法が提案されている。(例えば、特許文献8参照。)しかしながら、インク媒体との親和性が十分ではなく、さらなる安定性が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−119414号公報
【特許文献2】特開2004−18656号公報
【特許文献3】特開2003−321628号公報
【特許文献4】特開2004−131589号公報
【特許文献5】特表2002−503746号公報
【特許文献6】特開2007−277506号公報
【特許文献7】特表2002−526254号公報
【特許文献8】特許第2993088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、微細な顔料の分散性及び分散安定性に優れた顔料分散物を提供することを目的とする。
また本発明は、該顔料分散物を含有し、鮮明な色調と高い着色力を有する高画質の画像を形成することができ、インクジェット記録用として好適なインク組成物を提供することを目的とする。
更に本発明は、該顔料分散物を含有し、活性エネルギー線の照射により硬化しうる硬化性組成物および硬化性インク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、顔料分散剤として、特定の共重合体を使用することにより、顔料分散性に優れ、また、長期の保存、或いは、繰り返し温度変化を経た後でも分散安定性の低下が効果的に抑制され、かつ、光硬化性にも優れた顔料分散物および、それを用いたインク組成物、更に硬化性組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
前記課題を解決する手段としては、以下の通りである。即ち、
<1>(a)顔料、および(b)主鎖にウレタン結合を含み、該(a)顔料の分子量に対し20質量%〜70質量%の分子量である該(a)顔料の部分骨格と同一または類似の骨格がペンダントされ、さらに、側鎖にポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、およびポリアルキレンオキシドからなる群より選択される少なくとも一つの高分子鎖を有する高分子化合物、を含有する顔料分散物。
【0015】
<2>前記<1>に記載の顔料分散物を含有するインク組成物。
<3>インクジェット記録用である前記<2>に記載のインク組成物。
【0016】
<4>前記<1>に記載の顔料分散物と、(c)重合性化合物と、を含有する硬化性組成物。
<5>前記<4>に記載の硬化性組成物を含有する硬化性インク組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、微細な顔料の分散性及び分散安定性に優れた顔料分散物を提供することができる。
また本発明によれば、該顔料分散物を含有し、鮮明な色調と高い着色力を有する高画質の画像を形成することができ、インクジェット記録用として好適なインク組成物を提供することができる。
更に本発明によれば、該顔料分散物を含有し、活性エネルギー線の照射により硬化しうる硬化性組成物および硬化性インク組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[顔料分散物]
本発明における顔料分散物とは顔料が媒体に均一に分散されている組成物であり、媒体としては液体、固体のいずれもが使用可能である。本発明の顔料分散物は分散安定性が良好であるため、媒体として低粘度な液体を用いた場合にも粘度上昇や凝集を起こすことがない。
本発明の顔料分散物は、(a)顔料、および(b)主鎖にウレタン結合を含み、該(a)顔料の分子量に対し20質量%〜70質量%の分子量である該(a)顔料の部分骨格と同一または類似の骨格がペンダントされ、さらに、側鎖にポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、およびポリアルキレンオキシドからなる群より選択される少なくとも一つの高分子鎖を有する高分子化合物(以下適宜、(b)特定高分子化合物と称する。)、を含有する。
即ち、本発明に係る(b)特定高分子化合物は、以下の3つの条件を満たす高分子化合物である。
(b−1)主鎖にウレタン結合を含む。
(b−2)共存する前記(a)顔料に対して、該顔料が部分構造として含む部分骨格と同一または類似の骨格が主鎖にペンダントされている。この顔料が含む部分骨格と同一又は類似の骨格の分子量は、前記(a)顔料の分子量の20〜70質量%である。
(b−3)側鎖にポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、およびポリアルキレンオキシドからなる群より選択される少なくとも一つの高分子鎖と、を有する。
【0019】
本発明の顔料分散物は、顔料分散剤としての(b−1)〜(b−3)の条件を満たす特定高分子化合物の作用により顔料が安定に分散されている。
(b)特定高分子化合物は、ペンダントに顔料の部分骨格と同一または類似の骨格を有しているため、顔料への吸着性が良好であり、(b)特定高分子化合物が効果的に(a)顔料を被覆できるため、顔料の凝集を防止することができる。
【0020】
また、(b)特定高分子化合物の吸着性が優れているため、特に高温で保存した場合の脱着が少なく、高温での分散安定性が保たれると考えられる。また、(b)特定高分子化合物の側鎖に好ましく導入されるポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリアルキレンオキシドからなる群より選択される少なくとも一つの高分子鎖は、媒体への親和性の優れた部分構造を導入することにより、液性媒体中で広がり、優れた立体反発効果を発現する。これらの作用により、本発明の顔料分散物は、顔料分散剤が脱着しやすい高温度化においても優れた分散安定性を示すことができる。
【0021】
以下、本発明の顔料分散物に含有される成分について説明する。
<(b−1)主鎖にウレタン結合と、(b−2)ペンダントに前記(a)顔料の分子量に対し20質量%〜70質量%の分子量である(a)顔料の部分骨格と同一または類似の骨格と、(b−3)側鎖にポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、およびポリアルキレンオキシドからなる群より選択される少なくとも一つの高分子鎖と、を有する高分子化合物>
本発明の顔料分散物に含まれる(b)特定高分子化合物は、(b−1)主鎖にウレタン結合と、(b−2)ペンダントに前記(a)顔料の分子量に対し20質量%〜70質量%の分子量である(a)顔料の部分骨格と同一または類似の骨格と、(b−3)側鎖にポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、およびポリアルキレンオキシドからなる群より選択される少なくとも一つの高分子鎖と、を有する高分子化合物である。
【0022】
ペンダントされているとは、主鎖を形成するポリウレタンから連結基を介して、(a)顔料の部分骨格と同一または類似の骨格が導入されている形態であり、ポリウレタンのウレタン結合を連結する主鎖構造に顔料が有する部分骨格と同一または類似の骨格が導入されている形態を含まない。
【0023】
(a)顔料の部分骨格と同一または類似の骨格は、炭素数1〜20の置換基を有していてもよい連結基を介して、(b)特定高分子化合物に導入されていることが好ましい。このような連結基であると分子の運動性に優れ、顔料への吸着に有利に働き得る。
【0024】
本発明の(b)特定高分子化合物に含まれる(a)顔料の部分骨格と同一または類似の骨格とは、顔料分散物中に含まれる(a)顔料の分子構造の一部を占める部分構造からなる構造や該部分構造と類似の構造であることが好ましい。顔料の骨格としては、2つ以上の環からなる縮合環構造であることが好ましく、縮合環は2または3個の環から形成されている構造がより好ましい。
【0025】
顔料と同一または類似の骨格を有する部分構造における光吸収が、380nm〜800nmの間にある場合は、顔料に由来する顔料分散物の色相を変化させる可能性がある。したがって(a)顔料の部分骨格と同一または類似の骨格は、顔料が十分な発色を示すのに必要な発色団の構造そのものではなく、色濃度を十分に得られない部分構造であることがより好ましい。このため、例えば、アセトロン系顔料やナフトロン系顔料を用いた場合には、(b)特定高分子化合物にペンダントされる部分構造は、発色団であるアゾ構造ではなく、例えばベンズイミダゾロン構造のような発色団ではない構造であることが好ましい。同様に、キナクリドン系顔料ではアクリドン構造、ペリレン系顔料ではフタルイミド構造、アントラキノン系顔料ではアントラキノン構造、ナフトールAS顔料ではアゾ置換基を有していないナフタレン構造、ジオキサジンバイオレット顔料ではカルバゾール構造が好ましく用いられる。
【0026】
本発明の(b)特定高分子化合物に含まれる(a)顔料の部分骨格と同一または類似の骨格の分子量は、(a)顔料の分子量に対して20質量%〜70質量%の範囲であることが好ましく、30質量%〜65質量%の範囲であることがより好ましい。当該範囲であると、顔料分散物において目的とする(a)顔料が呈する色相への色相変化を及ぼすことなく、顔料への充分な親和性、吸着性を発現させうる。
【0027】
本発明で用いられる(b−2)共存する(a)顔料の部分骨格と同一または類似の骨格の具体例を、併用される(a)顔料の構造とともに、以下に示す。かっこ書きの割合は、(a)顔料の分子量に対する、該(a)顔料の部分骨格と同一または類似の骨格(b−2)の分子量の割合を示す。これらは、(a)顔料と、(b)特定高分子化合物にペンダントされている部分構造の好ましい組み合わせの例を示したものであるが、本発明は例示した具体例に限定されるものではない。
【0028】
【化1】

【0029】
【化2】

【0030】
本発明に用いられる(a)顔料の部分骨格と同一または類似の骨格は、ポリウレタン結合を含む主鎖構造にペンダントされるため、前記(a)顔料の部分骨格と同一または類似の骨格および1個〜2個の水酸基またはイソシアネート基を有する誘導体を用い、他の水酸基及び/またはイソシアネート基を有する化合物と反応させることによりポリウレタンを合成することで、容易にこの構造がペンダントされている高分子化合物を得ることができる。本発明で好適に用いられる(a)顔料の部分骨格と同一または類似の骨格および1個〜2個の水酸基またはイソシアネート基を有する化合物の具体例を以下に示す。尚、本発明は以下に挙げる具体例に限定されるものではない。
【0031】
【化3】

【0032】
本発明の(b)特定高分子化合物は、側鎖にポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリアルキレンオキシドからなる群より選ばれる少なくとも一つの高分子鎖を有する分岐高分子である。
【0033】
本発明の(b)特定高分子化合物は、(i)(a)顔料の部分骨格と同一または類似の骨格、および、1個〜2個の水酸基またはイソシアネート基を有する誘導体、(ii)末端に1個〜2個の水酸基を有するポリエステル、末端に1個〜2個の水酸基を有するポリ(メタ)アクリレートまたは末端に1個〜2個の水酸基を有するポリアルキレンオキシド、および(iii)2官能以上のイソシアネート化合物、を有機媒体中で反応させることにより得られる。
有機媒体としては原料および生成するポリマーが溶解し、かつイソシアネート化合物と反応しないものであれば、特に限定はなく公知の有機媒体が使用できる。有機媒体としては、ケトン類、エステル類、アミド類、スルホキシド類、エーテル類などが好ましく用いられる。本発明の顔料分散物を硬化性組成物として用いる場合、有機媒体としてエチレン性二重結合を有する重合性化合物、所謂ビニルモノマーも好ましく用いることができる。本発明の(b)特定高分子化合物を合成する際にアルキルアミンやジブチル錫ジラウレート、ビスマストリオールなどの触媒を加えてもよい。
【0034】
前記ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリアルキレンオキシドからなる群より選択される高分子鎖は、媒体との親和性を付与するための成分であり、溶媒との親和性に合わせて選択され、親和性のよいものであればいずれも使用できる。これらのポリマー鎖の末端に1個または2個の水酸基を導入することにより、イソシアネート化合物との反応が可能となるため、容易に(b)特定高分子化合物への導入が可能となる。
【0035】
また、本発明の(b)特定高分子化合物はポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、およびポリアルキレンオキシドからなる群より選択される高分子鎖を有する分岐高分子であればよく、その導入方法は官能基化ポリウレタンを合成後、ポリウレタン中の官能基と、前記ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、およびポリアルキレンオキシドからなる群より選択される高分子鎖の反応性末端基を反応させることにより導入することもできる。
【0036】
本発明で用いられるポリエステルは、媒体親和性の観点から運動性の高い脂肪族ポリエステルが好ましい。脂肪族ポリエステルはラクトン類の開環重合により合成可能であり、例えばε−カプロラクトンや、γ−ブチロラクトンや、バレロラクトンなどの異なるモノマーを共重合することにより溶媒親和性の異なる脂肪族ポリエステルを合成することができる。ポリアルキレンオキシドは例えばエチレンオキシドやプロピレンオキシド、オキセタン化合物やテトラヒドロフランのような環状エーテルの開環重合により得られ、異なる環状エーテルを共重合することにより媒体に適した親和性に調整することができる。このようにして得られたポリエステルやポリアルキレンオキシドはグリシドール等と反応させることで末端にジオール基を導入することができる。
またポリ(メタ)アクリレートは(メタ)アクリレートと、水酸基を有するメルカプト化合物と反応させることで容易に合成可能である。このように本発明に好適に用いられる連鎖移動剤の化合物例を以下に示すが、本発明の目的とする重合体が得られるものであれば、特に限定はなく使用することができる。例えば鎖末端に1つの水酸基を導入できる連鎖移動剤としては2−メルカプト−1−エタノール、3−メルカプト−1−プロパノール、3−メルカプト−3−メチルブタン−1−オール、6−メルカプト−1−ヘキサノール、11−メルカプト−1−ウンデカノールなどが上げられる。鎖末端に2つの水酸基を導入できる連鎖移動剤としては、1−チオグリセロールなどがあげられる。
【0037】
ポリ(メタ)アクリレートのエステル置換基(例えば、ポリアルキルアクリレートの場合には、当該アルキル基を意味する。)としては、何れも官能基で置換されていてもよい炭素原子数1から20のアルキル基または炭素原子数6から20のアリール基が好ましく用いられる。アルキル基の置換基としては、アシル基、炭素原子数6から10のアリール基、炭素原子数1から8のアルコキシ基、グリシジル基、炭素原子数2から10のアルケニル基などが挙げられる。
【0038】
以下に、末端に1個または2個の水酸基が導入されたポリエステル、末端に1個または2個の水酸基が導入されたポリ(メタ)アクリレート、および末端に1個または2個の水酸基が導入されたポリアルキレンオキシドの好ましい具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
【0039】
【化4】

【0040】
ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、またはポリアルキレンオキシドの好ましい数平均分子量は350〜15000であり、より好ましくは500〜12000であり、更に好ましくは1000〜10000である。当該範囲とすることで、充分な立体反発効果が得られ、特定高分子化合物(分散剤)の粘度上昇を抑制することができる。
【0041】
本発明の(b)特定高分子化合物を合成するためには、2官能以上のイソシアネート化合物を用いるのが好ましい。
イソシアネート化合物のイソシアネート基の数は2〜6個であることが好ましく、2または3個がより好ましい。イソシアネート基の数が2〜6個の化合物としては、例えば、有機ポリイソシアネートが挙げられる。
【0042】
有機ポリイソシアネートとしては、従来公知のいずれのものも使用できるが、芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4−もしくは2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、m−もしくはp−フェニレンジイソシアネート、1,3−もしくは1,4−キシリレンジイソシアネート(XDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、および3,3′−ジメチル−4,4′−ビフェニレンジイソシアネート(TODI)などが挙げられる。
脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水添MDI(H12MDI)、およびイソホロンジイソシアネート(IPDI)などが挙げられる。
これらジイソシアネートのプレポリマー型、ヌレート型、ウレア型カルボジイミド型変性体なども本発明に好ましく用いることができる。またこれらのジイソシアネートまたは変性体の2種以上混合して用いることも可能である。
【0043】
本発明の(b)特定高分子化合物は、少なくとも(a)顔料が有する部分骨格と同一または類似の骨格および水酸基を有する化合物と、水酸基を有するポリエステル、水酸基を有するポリ(メタ)アクリレート、および水酸基を有するポリアルキレンオキシドからなる群より選択される重合体と、2官能以上のイソシアネート化合物と、の3成分を反応させることで得ることができるが、該(b)特定高分子化合物の合成に際しては、必要に応じて顔料と、塩基性官能基または酸性官能基および1つもしくは2つの水酸基または1級アミノ基を有する化合物と、を使用することができる。塩基性官能基または酸性官能基をポリマー鎖中に導入することで、顔料と酸塩基相互作用が生じ、(b)特定高分子化合物の(a)顔料への吸着が促進され好ましい。
【0044】
本発明では公知の塩基性官能基または酸性官能基および1つもしくは2つの水酸基または1級アミノ基を有する化合物を使用することができる。
塩基性官能基または酸性官能基および1つもしくは2つの水酸基または1級アミノ基を有する化合物としては、例えば、N,N−ジメチルエタノールアミン、N、N−ジエチルエタノールアミン、3−ジメチルアミノ−1−プロパノール、1,3−ビス(ジメチルアミノ)−2−プロパノール、ピロリジノ−1,2−プロパンジオール、1−(2−アミノエチル)ピロリジン、ヒスタミン、1−(3−アミノプロピル)イミダゾール、2,6−ピリジンジメタノール、4−ピリジンプロパノール、乳酸、10−ヒドロキシデカン酸、4−(ヒドロキシメチル)安息香酸等が挙げられる。
【0045】
本発明の(b)特定高分子化合物には、反応性や重合体の物性を調整するために、必要に応じて鎖延長剤を使用することができる。鎖延長剤としては、従来既知のいずれのものも使用できるが、低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼン、2,2′−もしくは、4,4′−ジヒドロキシジフェニルメタン、および2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等が挙げられる。また低分子量ジアミンとしては、たとえばエチレンジアミン、プロピレンジアミン、m−またはp−フェニレンジアミン、1,3−または1,4−キシリレンジアミン、およびイソホロンジアミン等が挙げられる。
【0046】
分散剤としての(b)特定高分子化合物の合成に使用される(i)(a)顔料が有する部分骨格と同一または類似の骨格と1個〜2個の水酸基またはイソシアネート基を有する誘導体、(ii)末端に1個もしくは2個の水酸基を有するポリエステル、末端に1個もしくは2個の水酸基を有するポリ(メタ)アクリレート、または末端に1個もしくは2個の水酸基を有するポリアルキレンオキシド、(iii)2官能以上のイソシアネート化合物の割合は、(b)特定高分子化合物全質量中、(i)化合物を2質量%〜40質量%、(ii)化合物を50質量%〜95質量%、(iii)化合物を3質量%〜50質量%とするのが好ましく、(i)化合物を3質量%〜30質量%、(ii)化合物を50質量%〜80質量%、(iii)化合物を4質量%〜40質量%とするのがより好ましい。
【0047】
本発明の(b)特定高分子化合物の重量平均分子量は、5000〜200,000の範囲であり、10,000〜200,000であることがより好ましく、15,000〜180,000の範囲であることが更に好ましい。分子量が当該範囲であると、顔料分散物の粘度が抑制され、分散安定性が良好である。
【0048】
本発明に用いられる(b)特定高分子化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
【表1】

【0050】
上記表において、M−1〜M−7およびB−1〜B−6は前述した例示化合物である。またTDIはトリレンジイソシアナート、マイテックGP770Aは3官能イソシアナート(トリレンジイソシアナート3量体、三菱化学社製)、DEGはジエチレングリコール、PDMは2,6−ピリジンジメタノール、HMBAは4−(ヒドロキシメチル)安息香酸を示す。
【0051】
上記表に記載の特定高分子化合物例(P−1〜P−6)の繰り返し単位の構造を下に記す。尚、ポリマーは斜線の左側に示してあるジオール由来の繰り返し単位と、斜線の右側に示してあるイソシアネート由来の繰り返し単位と、が任意の順序及び向きで交互に結合した構造と推定される。
【0052】
【化5】

【0053】
【化6】

【0054】
【化7】

【0055】
本発明の顔料分散物には(b)特定高分子化合物を1種のみ添加してもよく、2種以上を併用してもよい。顔料分散物中の(b)特定高分子化合物の含有量は、顔料の添加量に対し、1〜100質量%が好ましく、5〜50質量%であることがより好ましい。
なお、本発明のインク組成物には、効果を損なわない限りにおいて、本発明の(b)特定高分子化合物に加えて、公知の顔料分散剤を併用することができる。併用する場合の顔料分散剤の添加量としては、本発明の(b)特定高分子化合物の50質量%以下であることが好ましい。
【0056】
<(a)顔料>
顔料は、前記顔料分散物、後述するインク組成物および硬化性組成物の色材として機能する。本発明においては、粒径の微細な顔料が、(b)特定高分子化合物の機能により分散物中に均一、且つ安定に分散される結果、後述する本発明のインク組成物は発色性に優れ、鮮鋭かつ耐候性に優れる画像が形成可能となる。
【0057】
本発明に用いる(a)顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、顔料と顔料分散剤の構造の類似性の観点から公知の有機顔料が好ましく挙げられる。なお、前記顔料としては、例えば、伊藤征司郎編「顔料の辞典」(2000年刊)、W.Herbst,K.Hunger「Industrial Organic Pigments」、特開2002−12607号公報、特開2002−188025号公報、特開2003−26978号公報、特開2003−342503号公報に記載のものなども挙げられる。
【0058】
前記有機顔料としては、例えば、イエロー顔料、マゼンタ顔料、シアン顔料、緑色顔料、オレンジ顔料、茶色顔料、バイオレット顔料、黒色顔料などが挙げられる。
【0059】
前記イエロー顔料は、イエロー色を呈する顔料であり、例えば、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、非ベンジジン系アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、酸性染料レーキ顔料、塩基性染料レーキ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料、ピラゾロン顔料、アセトロン顔料、金属錯塩顔料、ニトロソ顔料、金属錯体アゾメチン顔料、ベンズイミダゾロン顔料などが挙げられる。これらのうち、本発明で好ましく使用できる顔料として、例えば、C.I.ピグメントイエロー(以下PYと略称する)1、PY3、PY12、PY13、PY14、PY16、PY17、PY18、PY24、PY60、PY74、PY83、PY93、PY94、PY95、PY97、PY100、PY109、PY110、PY115、PY117、PY120、PY128、PY138、PY139、PY150、PY151、PY153、PY154、PY155、PY166、PY167、PY173、PY175、PY180、PY181、PY185、PY194、PY213、PY214、PY219等が挙げられる。
【0060】
前記マゼンタ顔料は、赤あるいはマゼンタ色を呈する顔料であり、例えば、モノアゾ系顔料、β-ナフトール顔料、ジスアゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、酸性染料レーキ顔料、塩基性染料レーキ顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ顔料、ペリノン顔料、ペリレン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、アリザリンレーキ顔料、ナフトロン顔料、ナフトールAS系レーキ顔料、ナフトールAS顔料、ジケトピロロピロール顔料等が挙げられる。
これらのうち、本発明で好ましく使用できる顔料として、例えば、C.I.ピグメントレッド(以下PRと略称する)1、PR2、PR3、PR4、PR5、PR6、PR21、PR38、PR42、PR53:1、PR57:1、PR52:1、PR46、PR48、PR81、PR83、PR88、PR144、PR149、PR166、PR179、PR178、PR190、PR224、PR123、PR224、PR19、PR122、PR202、PR207、PR209、PR180、PR83、PR170、PR171、PR172、PR174、PR175、PR176、PR177、PR179、PR185、PR194、PR208、PR214、PR220、PR221、PR242、PR247、PR254、PR255、PR256、PR262、PR268、PR264、PR269、PR272等が挙げられる。
【0061】
前記シアン顔料は、青あるいはシアン色を呈する顔料であり、ジスアゾ系顔料、フタロシアニン顔料、酸性染料レーキ顔料、塩基性染料レーキ顔料、アントラキノン系顔料、アルカリブルー顔料等が挙げられる。本発明で好ましく使用できる顔料としてはPB1、PB15、PB15:1、PB15:2、PB15:3、PB15:4、PB15:6、PB16、PB18、PB24、PB25、PB60、PB79等が挙げられる。
【0062】
前記緑色顔料は、緑色を呈する顔料であり、フタロシアニン顔料や金属錯体顔料などが挙げられる。本発明で好ましく使用できる顔料としてはPG7、PG8、PG10、PG36などが挙げられる。
【0063】
前記オレンジ顔料は、オレンジ色を呈する顔料であり、例えば、イソインドリン系顔料、アントラキノン系顔料、Β-ナフトール顔料、ナフトールAS顔料、イソインドリノン顔料、ペリノン顔料、ジスアゾ顔料、キナクリドン顔料、アセトロン顔料、ピラゾロン顔料などが挙げられる。本発明で好ましく使用できる顔料としてはPO2、PO3、PO4、PO5、PO13、PO15、PO16、PO22、PO24、PO34、PO36、PO38、PO43、PO48、PO49、PO51、PO55、PO60、PO61、PO62、PO64、PO66、PO72、PO74等が挙げられる。
【0064】
前記茶色顔料は、茶色を呈する顔料であり、例えばPBr25、PBr32等のナフトロン顔料等が挙げられる。
前記バイオレット顔料は紫色を呈する顔料であり、例えばナフトロン顔料、ペリレン顔料、ナフトールAS顔料、ジオキサジン顔料等が挙げられる。本発明で好ましく使用できる顔料としてはPV13、PV17、PV19、PV23、PV29、PV32、PV37、PV50等が挙げられる。
【0065】
前記黒色顔料は、黒色を呈する顔料であり、例えば、インダジン顔料、ペリレン顔料等が挙げられ、本発明ではPBk1、PBk31、PBk32等が挙げられる。
【0066】
これらの顔料の中でも、PY120、PY151、PY154、PY180、PY181、PY194、PO36、PO62等のアセトロン顔料、PR170、PR187等のナフトールAS顔料、PV19、PR42、PR122、PR202、PR209、PR46等のキナクリドン顔料、PR251、PR177、PB60、PY108等のアントラキノン顔料、PV23等のジオキサジン顔料等がより好ましく用いられる。
【0067】
本発明に用いる顔料の平均粒径は小さいほど発色性に優れるため、0.01μm〜0.4μmであることが好ましく、より好ましくは0.02〜0.3μmの範囲である。最大粒径は3μm以下、好ましくは2μm以下となるよう、(a)顔料、(b)特定高分子化合物、分散媒の選定、分散条件、後処理工程の条件を設定する。
【0068】
本発明の顔料分散物をインクジェット用インク組成物として用いた場合、この粒径によってインクヘッドノズルの詰まりを抑制し、インクの保存安定性、インク透明性および硬化感度を維持することができる。本発明においては分散性、分散安定性に優れた(b)特定高分子化合物を用いるため、微粒子顔料を用いた場合でも、均一で安定な分散物が得られる。
【0069】
顔料分散物またはインク組成物中における顔料の粒径は、公知の測定方法で測定することができる。具体的には遠心沈降光透過法、X線透過法、レーザー回折・散乱法、動的光散乱法により測定することができる。
【0070】
顔料の分散には、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、ジェットミル、ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ニーダー、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル等の公知の分散装置を用いることができる。
顔料の分散を行う際には、前記(b)特定高分子化合物を添加することが好ましい。また、顔料を添加するにあたっては、必要に応じて、分散助剤として、各種顔料に応じたシナジストを用いることも可能である。分散助剤は、顔料100質量部に対し、1〜10質量部添加することが好ましい。
【0071】
本発明の顔料分散物において、顔料などの諸成分の分散媒としては、溶剤を添加してもよく、また、無溶媒で、低分子量成分である重合性化合物を分散媒として用いてもよい。
分散媒として溶剤を用いる場合、溶剤としては、公知のアルコール系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、炭化水素系溶剤などが好ましく用いられる。具体的には、アルキレンオキシドモノアルキルエーテル、アルキレンオキシドモノアルキルエーテルアセテート、アルキレングリコールジアセテート、ジカルボン酸ジエアルキルエステル、(メタ)アクリレート類、ジビニルエーテル類などが好ましい。
また、この顔料分散物を後述する放射線硬化型のインク組成物に適用する場合には、インクを被記録媒体上に適用後、硬化させるため、無溶剤であることが好ましく、そのような場合、重合性化合物を分散媒として使用することもできる。
分散媒としては、重合性化合物を用い、中でも、最も粘度が低い重合性化合物を選択することが分散適性やインク組成物のハンドリング性向上及びインクジェット吐出適性の観点から好ましい。本発明の(b)特定高分子化合物は、重合性組成物中で製造することも可能であるため、製造後精製工程を加えることなく使用することができる。一方、重合性化合物中での製造が困難な例えばビニル重合体は、無溶剤系での重合を行うか、溶媒除去工程を加える必要があり、製造適性の観点で好ましくない。
【0072】
顔料は顔料分散物中、固形分換算で1〜40質量%添加されることが好ましく、1.5〜30質量%がより好ましい。また、本発明の顔料分散物をインク組成物として用いた場合、顔料は顔料分散物中、固形分換算で1〜20質量%添加されることが好ましく、1.5〜15質量%がより好ましい。
【0073】
本発明の顔料分散物は、顔料分散剤と親和性のある有機溶剤及び/または水性媒体や、用途に応じた添加剤と混合することでインク組成物として用いることもできる。本発明の顔料分散物は、顔料を微細に分散可能であるため発色性に優れ、また、低粘度な分散が可能であるため優れた流動性を示す。さらに、沈降、凝集も少ないため保存安定性も良好である。これらの性能から、本発明の顔料分散物はインクジェット用インク組成物、筆記用インク用インク組成物、捺染用インク組成物等の画像や文字を描画する用途のインク組成物に好適に用いられる。本発明の顔料分散物を用いると低粘度かつ粘度安定性の優れたインク組成物を製造できるため、厳密な粘度管理が必要となるインクジェット用のインク組成物として用いることが好ましい。
【0074】
[インク組成物]
本発明のインク組成物は、前述した本発明の顔料分散物を含有する。
本発明の顔料分散物を含有するインク組成物としては、着色剤として顔料を含有するものであれば、いずれの形態のインク組成物にも適用することができる。
【0075】
[硬化性組成物]
前述した本発明の顔料分散物を用いるとエチレン性二重結合や環状エーテルなどの重合性官能基を有する所謂重合性化合物中でも、顔料を微細かつ安定に分散可能であり、硬化性組成物としても好適に用いることができる。
【0076】
硬化性組成物は熱や光などのエネルギーを付与することで硬化する組成物である。硬化性組成物中には重合開始剤を含むことが好ましく、熱重合開始剤を含むと加熱することで良好に硬化し、また、光重合開始剤を含むと、活性エネルギー線の照射により硬化する。
【0077】
ここで、活性エネルギー線とは、その照射により硬化性組成物中において開始種を発生させうるエネルギーを付与することができるものであれば、特に制限はなく、広くα線、γ線、X線、紫外線、可視光線、電子線などを包含するものであるが、なかでも、硬化感度及び装置の入手容易性の観点から紫外線および電子線が好ましく、紫外線がより好ましい。したがって、本発明の硬化性組成物としては、放射線として、紫外線を照射することにより硬化可能なものが好ましい。紫外線の光源としては水銀灯、メタルハライドランプ、発光ダイオード(LED)、半導体レーザ、蛍光灯等が用いられる。本発明では、水銀灯、メタルハライドランプ、発光ダイオードを光源として用いることが好ましく、300nm〜400nmに発光波長を有することがより好ましい。
以上に挙げた特徴より本発明の顔料分散物は硬化性インク組成物、特に硬化性インクジェットインク用組成物として用いる事が最も好ましい。
【0078】
本発明の硬化性組成物は、前述した本発明の顔料分散物と、(c)重合性化合物を含有する。
<(c)重合性化合物>
本発明で用いる重合性化合物は、何らかのエネルギー付与により重合反応を生起し、硬化する化合物であれば特に制限はなく、モノマー、オリゴマー、ポリマーの種を問わず使用することができるが、特に、所望により添加される重合開始剤から発生する開始種により重合反応を生起する、光ラジカル重合性化合物、光カチオン重合性化合物として知られる各種公知の重合性のモノマーが好ましい。
【0079】
重合性化合物は反応速度や、インク物性、硬化膜物性等を調整する目的で1種または複数を混合して用いることができる。また、重合性化合物は単官能化合物であっても、多官能化合物であってもよい。
【0080】
本発明においては、重合性化合物として光ラジカル開始剤から発生する開始種により重合反応を生じる各種公知のラジカル重合性化合物を使用することもできる。
【0081】
本発明で用いられる公知のラジカル重合性化合物としては、例えば特開2008−208190号公報や同2008−266561号公報に記載の(メタ)アクリレート化合物、(メタ)アクリルアミド化合物、ビニルエーテル化合物、スチレン化合物、N−ビニル化合物などが挙げられる。なお、本明細書において「アクリレート」、「メタクリレート」の双方或いはいずれかを指す場合「(メタ)アクリレート」と、「アクリル」、「メタクリル」の双方或いはいずれかを指す場合「(メタ)アクリル」と、それぞれ記載する。
【0082】
これらのうち、本発明におけるラジカル重合性化合物としては、(メタ)アクリレート化合物、(メタ)アクリルアミド化合物、ビニルエーテル化合物、およびN−ビニル化合物から選ばれる1種または複数のモノマーを用いることが好ましい。硬化速度、インク組成物の粘度、印字サンプルの膜物性の観点から、重合性官能基を複数有する多官能の重合性モノマーと単官能の重合性モノマーを併用することも好ましい。
【0083】
本発明において重合性化合物として用いられるカチオン重合性モノマーとしては、例えば、特開平6−9714号公報、特開2001−220526号公報、同2001−40068号公報、同2001−55507号公報、同2001−310938号公報、同2001−310937号公報、同2001−220526号公報、同2001−31892号公報、同2003−341217号、同2008−266561などの各公報に記載されているエポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物などが挙げられる。
【0084】
本発明の硬化性組成物には、カチオン重合性モノマーとして、化合物を1種のみを用いても、2種以上を併用してもよいが、インク硬化時の収縮を効果的に抑制するといった観点からは、少なくとも1種のオキセタン化合物と、エポキシ化合物及びビニルエーテル化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物とを併用することが好ましい。
【0085】
硬化性組成物中の重合性化合物の含量は、組成物全量中50〜95質量%が好ましく、より好ましくは60〜92質量%、更に好ましくは70〜90質量%の範囲である。当該範囲とすることで、良好な硬化性が得られる。
【0086】
本発明の硬化性組成物には、硬化感度向上の観点から、重合開始剤を併用することが好ましい。
<重合開始剤>
本発明の硬化性組成物には、ラジカル重合、またはカチオン重合の重合開始剤を含有することが好ましく、光重合開始剤を含有することがより好ましい。
本発明における光重合開始剤は、光の作用、または、増感色素の電子励起状態との相互作用を経て、化学変化を生じ、ラジカル、酸および塩基のうちの少なくともいずれか1種を生成する化合物である。
光重合開始剤は、照射される活性光線、例えば、波長が400〜200nmの紫外線、遠紫外線、g線、h線、i線、KrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光、電子線、X線、分子線又はイオンビームなどに感度を有するものを適宜選択して使用することができる。
【0087】
光重合開始剤としては、当業者間で公知のものを制限なく使用でき、例えば、Bruce M. Monroeら著、Chemical Revue,93,435(1993).や、R.S.Davidson著、Journal of Photochemistry and biology A :Chemistry,73.81(1993).や、J.P.Faussier ”Photoinitiated Polymerization−Theory and Applications” :Rapra Review vol.9,Report,Rapra Technology(1998).や、M.Tsunooka et al.,Prog.Polym.Sci.,21,1(1996).に多く記載されているものを使用することができる。また、有機エレクトロニクス材料研究会編、「イメージング用有機材料」、ぶんしん出版(1993年)、187〜192ページ参照に記載されている化学増幅型フォトレジストや光カチオン重合に利用される化合物を使用することができる。さらには、F.D.Saeva,Topics in Current Chemistry,156,59(1990).、G.G.Maslak,Topics in Current Chemistry,168,1(1993).、H.B.Shuster et al,JACS,112,6329(1990).、I.D.F.Eaton et al,JACS,102,3298(1980).等に記載されているような、増感色素の電子励起状態との相互作用を経て、酸化的もしくは還元的に結合解裂を生じる化合物群も知られる。
【0088】
光重合開始剤としては、例えば特開2008−208190号公報や同2008−266561号公報に記載の光重合開始剤を用いることができ、芳香族ケトン類、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物等が好ましく、芳香族ケトン類、ケトキシム塩化合物、芳香族オニウム塩化合物が特に好ましい。
【0089】
重合開始剤としての光重合開始剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0090】
硬化性組成物中の光重合開始剤の含有量は、硬化性組成物中に、0.1〜20質量%の範囲であることが好ましく、0.5〜15質量%であることがより好ましく、1〜10質量%であることが更に好ましい。
【0091】
(その他の成分)
(増感色素)
本発明の硬化性組成物には、光重合開始剤の感度を向上させる目的で、増感色素を添加してもよい。増感色素としては、以下の化合物類に属しており、かつ350nmから450nm域に吸収波長を有するものが好ましい。
増感色素としては、例えば、多核芳香族類(例えば、ピレン、ペリレン、トリフェニレン、アントラセン)、キサンテン類(例えば、フルオレッセイン、エオシン、エリスロシン、ローダミンB、ローズベンガル)、シアニン類(例えばチアカルボシアニン、オキサカルボシアニン)、メロシアニン類(例えば、メロシアニン、カルボメロシアニン)、チアジン類(例えば、チオニン、メチレンブルー、トルイジンブルー)、アクリジン類(例えば、アクリジンオレンジ、クロロフラビン、アクリフラビン)、アントラキノン類(例えば、アントラキノン)、スクアリウム類(例えば、スクアリウム)、クマリン類(例えば、7−ジエチルアミノ−4−メチルクマリン)が挙げられる。
【0092】
また、増感色素としては、下記一般式(IX)〜(XIII)で表される化合物がより好ましい。
【0093】
【化8】

【0094】
式(IX)中、Aは硫黄原子または−NR50−を表し、R50はアルキル基またはアリール基を表し、Lは隣接するA及び隣接炭素原子と共同して色素の塩基性核を形成する非金属原子団を表し、R51およびR52はそれぞれ独立に水素原子または一価の非金属原子団を表し、R51、R52は互いに結合して、色素の酸性核を形成してもよい。Wは酸素原子または硫黄原子を表す。
【0095】
式(X)中、Ar及びArはそれぞれ独立にアリール基を表し、−L−による結合を介して連結している。ここでLは−O−または−S−を表す。また、Wは一般式(IX)に示したものと同義である。
【0096】
式(XI)中、Aは硫黄原子またはNR59を表し、Lは隣接するA及び炭素原子と共同して色素の塩基性核を形成する非金属原子団を表し、R53、R54、R55、R56、R57及びR58はそれぞれ独立に一価の非金属原子団の基を表し、R59はアルキル基またはアリール基を表す。
【0097】
式(XII)中、AおよびAはそれぞれ独立に−S−、−NR62−または−NR63−を表し、R62およびR63はそれぞれ独立に置換若しくは非置換のアルキル基、又は、置換若しくは非置換のアリール基を表し、LおよびLはそれぞれ独立に、隣接するA、A及び隣接炭素原子と共同して色素の塩基性核を形成する非金属原子団を表し、R60およびR61はそれぞれ独立に、水素原子または一価の非金属原子団であるか又は互いに結合して脂肪族性または芳香族性の環を形成することができる。
【0098】
式(XIII)中、R66は置換基を有してもよい芳香族環またはヘテロ環を表し、Aは酸素原子、硫黄原子または−NR67−を表す。R64、R65及びR67はそれぞれ独立に水素原子または一価の非金属原子団を表し、R67及びR64と、R65及びR67とは、それぞれ互いに脂肪族性または芳香族性の環を形成するため結合することができる。
【0099】
一般式(IX)〜(XIII)で表される化合物の好ましい具体例としては、以下に示す例示化合物(A−1)〜(A−24)などが挙げられる。
【0100】
【化9】

【0101】
【化10】

【0102】
【化11】

【0103】
(共増感剤)
さらに、本発明の硬化性組成物には、感度を一層向上させる、あるいは酸素による重合阻害を抑制する等の作用を有する公知の化合物を共増感剤として加えてもよい。
このような共増感剤としては、アミン類、例えば、M. R. Sanderら著「Journal of Polymer Society」第10巻3173頁(1972)、特公昭44−20189号公報、特開昭51−82102号公報、特開昭52−134692号公報、特開昭59−138205号公報、特開昭60−84305号公報、特開昭62−18537号公報、特開昭64−33104号公報、Research Disclosure 33825号に記載の化合物等が挙げられ、より具体的には、トリエタノールアミン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ホルミルジメチルアニリン、p−メチルチオジメチルアニリン等が挙げられる。
【0104】
他の共増感剤としては、チオールおよびスルフィド類、例えば、特開昭53−702号公報、特公昭55−500806号公報、特開平5−142772号公報記載のチオール化合物、特開昭56−75643号公報のジスルフィド化合物等が挙げられ、より具体的には、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプト−4(3H)−キナゾリン、β−メルカプトナフタレン等が挙げられる。
また他の共増感剤としては、例えば、アミノ酸化合物(例、N−フェニルグリシン等)、特公昭48−42965号公報記載の有機金属化合物(例、トリブチル錫アセテート等)、特公昭55−34414号公報記載の水素供与体、特開平6−308727号公報記載のイオウ化合物(例、トリチアン等)、特開平6−250387号公報記載のリン化合物(ジエチルホスファイト等)、特願平6−191605号記載のSi−H、Ge−H化合物等が挙げられる。
【0105】
本発明の硬化性組成物には、上述した顔料、特定高分子化合物および重合性化合物の必須成分、好ましい任意成分である前記重合開始剤、重合開始剤とともに用いられる増感色素、共増感剤に加え、目的に応じて種々の添加剤を併用することができる。例えば、得られる画像の耐候性向上、退色防止の観点から、紫外線吸収剤を用いることができる。また、インク組成物の安定性向上のため、酸化防止剤を添加することができる。
以下に、本発明の硬化性組成物に用いうる添加剤を挙げる。
【0106】
本発明の硬化性組成物には、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤、射出物性の制御を目的としたチオシアン酸カリウム、硝酸リチウム、チオシアン酸アンモニウム、ジメチルアミン塩酸塩などの導電性塩類、被記録媒体との密着性を改良するため、極微量の有機溶剤を添加することができる。
【0107】
本発明の硬化性組成物には、膜物性を調整する目的で、各種高分子化合物を添加することができる。高分子化合物としては、アクリル系重合体、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、シェラック、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類、その他の天然樹脂等が使用できる。また、これらは2種以上併用してもかまわない。
本発明の硬化性組成物には、液物性調整のためにノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤や、有機フルオロ化合物などを添加することもできる。
また、この他にも、必要に応じて、例えば、レベリング添加剤、マット剤、膜物性を調整するためのワックス類、ポリオレフィンやPET等の被記録媒体への密着性を改善するために、重合を阻害しないタッキファイヤーなどを含有させることができる。
【0108】
このようにして得られた本発明の硬化性組成物は、着色剤としての顔料が均一、且つ、安定に分散された着色硬化性組成物であり、微細な顔料であっても経時的な凝集や沈殿を生じることなく均一に分散し、その効果が持続するために、優れた発色性を得ることができる。従って、このような着色硬化性組成物は、良好な発色性を必要とする用途、耐光性の着色剤を必要とする用途、例えば、硬化性インク組成物、ナノインプリント組成物、表面コート剤等の広範な分野に好適に使用しうる。
【0109】
[硬化性インク組成物]
本発明の硬化性組成物の最適な用途である硬化性インク組成物について説明する。本発明の硬化性インク組成物は、前記本発明の硬化性組成物を含有する。
前記硬化性組成物を適用してなる硬化性インク組成物は、活性エネルギー線により高感度で硬化するとともに、顔料の分散安定性の低下に起因する増粘や着色性の低下の懸念がないため、後述するように、粘度安定性を要求されるインクジェット記録方法に適用されるインクジェット用インクに好適に使用される。
【0110】
本発明の硬化性インク組成物をインクジェット記録方法に用いる場合には、インク組成物の射出性を考慮し、射出時の温度でのインク粘度が30mPa・s以下であることが好ましく、20mPa・s以下であることがより好ましく、前記範囲になるように適宜組成比を調整し決定することが好ましい。
なお、25℃(室温)でのインク粘度は、 0.5mPa・s以上200mPa・s以下、好ましくは 1mPa・s以上100mPa・s以下であり、より好ましくは 2 mPa・s以上50mPa・s以下である。室温での粘度を高く設定することにより、多孔質な被記録媒体を用いた場合でも、被記録媒体中へのインク浸透を防ぎ、未硬化モノマーの低減、臭気低減が可能となり、更にインク液滴着弾時のドット滲みを抑えることができ、その結果として画質が改善される。25℃でのインク粘度が200mPa・sより大きいと、インク液のデリバリーに問題が生じる。
【0111】
本発明の硬化性インク組成物の表面張力は、好ましくは20〜40mN/m、より好ましくは23〜35mN/mである。ポリオレフィン、PET、コート紙、非コート紙など様々な被記録媒体へ記録する場合、滲み及び浸透の観点から、20mN/m以上が好ましく、濡れ性の観点から35mN/m以下が好ましい。
【0112】
このようにして調整された本発明の硬化性インク組成物は、インクジェット記録用インクとして好適に用いられる。インク組成物をインクジェットプリンターにより被記録媒体に印字し、その後、印字されたインク組成物に放射線を照射して硬化して記録を行う。
このインクにより得られた印刷物は、画像部が紫外線などの放射線照射により硬化しており、画像部の強度に優れるため、インクによる画像形成以外にも、例えば、平版印刷版のインク受容層(画像部)の形成など、種々の用途に使用しうる。
【0113】
次に、本発明の顔料分散物を含有する硬化性インク組成物は、インクジェット用インクに好適に用いることができる。この場合に採用され得るインクジェット記録方法およびインクジェット記録装置について、以下説明する。
【0114】
(インクジェット記録方法)
インクジェット記録方法においては、上記インク組成物を40〜80℃に加熱して、インク組成物の粘度を30mPa・s以下とした後、射出することが好ましく、この方法を用いることにより高い射出安定性を実現することができる。
一般に、放射線硬化型インク組成物では、概して水性インクより粘度が高いため、印字時の温度変動による粘度変動幅が大きい。このインク組成物の粘度変動は、そのまま液滴サイズ、液滴射出速度に対して大きな影響を与え、これにより画質劣化を引き起こすため、印字時のインク組成物温度はできるだけ一定に保つことが必要である。インク組成物温度の制御幅は設定温度±5℃とすることが好ましく、設定温度±2℃とすることがより好ましく、設定温度±1℃とすることが更に好ましい。
【0115】
インクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置には、インク組成物温度の安定化手段を備えることが一つの特徴であり、一定温度にする部位はインクタンク(中間タンクがある場合は中間タンク)からノズル射出面までの配管系、部材の全てが対象となる。
【0116】
温度コントロールの方法としては、特に制約はないが、例えば、温度センサーを各配管部位に複数設け、インク組成物流量、環境温度に応じた加熱制御をすることが好ましい。また、加熱するヘッドユニットは、装置本体を外気からの温度の影響を受けないよう、熱的に遮断もしくは断熱されていることが好ましい。加熱に要するプリンター立上げ時間を短縮するため、あるいは熱エネルギーのロスを低減するために、他部位との断熱を行うとともに、加熱ユニット全体の熱容量を小さくすることが好ましい。
【0117】
本発明のインク組成物に前記重合開始剤としての光重合開始剤を添加することで、活性エネルギー線硬化型のインク組成物となる。
このようなインク組成物における活性エネルギー線の照射条件について述べる。基本的な照射方法は、特開昭60−132767号公報に開示されている。具体的には、ヘッドユニットの両側に光源を設け、シャトル方式でヘッドと光源を走査する。照射は、インク着弾後、一定時間をおいて行われることになる。更に、駆動を伴わない別光源によって硬化を完了させる。WO99/54415号では、照射方法として、光ファイバーを用いた方法やコリメートされた光源をヘッドユニット側面に設けた鏡面に当て、記録部へUV光を照射する方法が開示されている。本発明においては、これらの照射方法を用いることが可能である。
【0118】
また、本発明のインク組成物を用いた場合、インク組成物を一定温度に加温するとともに、着弾から照射までの時間を0.01〜0.5秒とすることが望ましく、好ましくは0.01〜0.3秒、より好ましくは0.01〜0.15秒後に放射線を照射することにある。このように着弾から照射までの時間を極短時間に制御することにより、着弾インクが硬化前に滲むことを防止するこが可能となる。
また、多孔質な被記録媒体に対しても光源の届かない深部までインク組成物が浸透する前に露光することができる為、未反応モノマーの残留を抑えられ、その結果として臭気を低減することができる。
前記インクジェット記録方法と本発明の硬化性インク組成物とを併せて用いることにより、大きな相乗効果をもたらすことになる。特に、25℃におけるインク粘度が200mPa・s以下のインク組成物を用いると大きな効果を得ることができる。
このようなインクジェット記録方法を取ることで、表面の濡れ性が異なる様々な被記録媒体に対しても、着弾したインクのドット径を一定に保つことができ、画質が向上する。なお、カラー画像を得るためには、明度の低い色から順に重ねていくことが好ましい。明度の低いインクを重ねると、下部のインクまで照射線が到達しにくく、硬化感度の阻害、残留モノマーの増加および臭気の発生、密着性の劣化が生じやすい。また、照射は、全色を射出してまとめて露光することが可能だが、1色毎に露光するほうが、硬化促進の観点から好ましい。
【0119】
本発明に用いられるインクジェット記録装置としては、特に制限はなく、市販のインクジェット記録装置が使用できる。即ち、本発明においては、市販のインクジェット記録装置を用いて被記録媒体(印刷物)へ記録することができる。
前記好ましい射出条件によれば、本発明のインク組成物は加温、降温を繰り返すことになるが、前記顔料分散剤の機能により、このような温度条件下で保存された場合でも、顔料分散性の低下が抑制され、長期間にわたり優れた発色性が得られ、且つ、顔料の凝集に起因する吐出性の低下も抑制されるという利点をも有する。
【0120】
(被記録媒体)
本発明のインク組成物を適用しうる被記録媒体としては、特に制限はなく、通常の非コート紙、コート紙などの紙類、いわゆる軟包装に用いられる各種非吸収性樹脂材料あるいは、それをフィルム状に成形した樹脂フィルムを用いることができ、各種プラスチックフィルムとしては、例えば、PETフィルム、OPSフィルム、OPPフィルム、ONyフィルム、PVCフィルム、PEフィルム、TACフィルム等が挙げられる。その他、被記録媒体材料として使用しうるプラスチックとしては、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ABS、ポリアセタール、PVA、ゴム類などが挙げられる。また、金属類や、ガラス類も被記録媒体として使用可能である。
【0121】
(印刷物)
本発明の硬化性インク組成物をインクジェットプリンターにより被記録媒体に印字し、その後、好ましくは、印字されたインク組成物に活性エネルギー線を照射して硬化することで、印刷物を得ることができる。本発明の硬化性インク組成物により作製された印刷物は、画像形成に用いられるインクが微細な顔料粒子を均一、且つ、安定に分散して含むため、発色性と鮮鋭度に優れた高品質な画像を有し、画像の耐候性にも優れることから、広汎な分野に適用しうる。
【実施例】
【0122】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例における形態に限定されるものではない。
【0123】
なお、下記に示す合成例中のポリマーの分子量は、重量平均分子量を表し、GPC(東ソー製 GPC HLC−8220GPC)にて測定した。また、このGPC測定は、カラムとして東ソー製TSKgel SuperAWMHHを3本連結して用い、N−メチルピロリドン(NMP)を溶離液とし、40℃、0.5mL/秒の流量で測定を行った。また、分子量は標準ポリスチレンとの比較により算出した。
【0124】
(合成例1:M−1化合物の合成)
9(10H)アクリドン(和光純薬社製)15g、水酸化ナトリウム(和光純薬社製)3.4gをジメチルスルホキシド(和光純薬社製)84gに溶解させ、45℃に加熱する。これにCMS−P(クロロメチルスチレン、セイミケミカル製)17.6質量部を滴下し、50℃でさらに5時間加熱攪拌を行う。この反応液を蒸留水30g、メタノール(和光純薬社製)30gの混合溶液に攪拌しながら注ぎ、得られた析出物を濾別、蒸留水、メタノールを同質量ずつ混合した溶液300gで洗浄した。得られた固体を減圧乾燥することで淡黄色固体の10−[(スチレニル)メチル]−9−アクリダノン17.5g得た。10−[(スチレニル)メチル]−9−アクリダノン17.5gとチオグリセロール60.9g(Aldrich社製)にN−メチルピロリドン(和光純薬社製)175gを加え窒素雰囲気下で65℃に加熱し、30分撹拌した後、V−65(和光純薬社製、2,2‘−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.14gを加え2時間撹拌した。反応溶液に水/メタノール混合溶媒(質量比1:1の混合物)を500g加え、晶析された結晶をろ別し、メタノール100gを用いて洗浄した。得られた固体を減圧乾燥し、淡黄色固体のM−1を22.0g得た。
【0125】
(合成例2:M−6化合物の合成)
N−ビニルカルバゾール(東京化成工業社製)10.9gとチオグリセロール60.9gにN−メチルピロリドン175gを加え窒素雰囲気下で65℃に加熱し、30分撹拌した後、V−65(和光純薬社製、2,2‘−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)を0.14g加え2時間撹拌した。反応溶液に水/メタノール混合溶媒(質量比1:1の混合物)を550g加え、晶析された結晶をろ別し、メタノール100gを用いて洗浄した。得られた固体を減圧乾燥し、白色固体のM−6を14.0g得た。
【0126】
(合成例3:B−1化合物の合成)
DBE di basic ester(CHC(CHCOCH n=2〜4)120g(インビスタジャパン社製)、メチルメタクリレート100g(和光純薬社製)、チオグリセロール2.2gを窒素置換した三口フラスコに導入し、攪拌機(新東科学(株):スリーワンモータ)にて攪拌し、窒素をフラスコ内に流しながら加熱して105℃まで昇温する。VA−086(2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド](和光純薬社製)を0.262g加えた後、2時間攪拌した。さらにVA−086を0.131g添加し、115℃にて4時間加熱攪拌を行った。反応溶液を室温で放冷後、DBE 100gを加え、6000gのn−ヘキサン中に注ぎいれた。沈殿した固体を濾別し減圧乾燥することで、末端にジオールを有するポリ(メチルメタクリレート)(B−1)99.1gを得た。(重量平均分子量6,000)
【0127】
(合成例4:B−5化合物の合成)
ε−カプロラクトン200gに2−エチルヘキサノール22.8g、モノブチル錫オキシド0.1gを加え、窒素雰囲気下5時間間撹拌する。その後110℃に昇温し、1時間撹拌後した。室温に戻した後、アセトン800gを加え、水/メタノール混合溶媒(質量比1:1の混合物)10kg中に再沈殿した。得られたポリマーをろ別し、B−5を150g得た。
【0128】
B−6化合物としてポリエチレングリコールモノステアレート(25EO) (和光純薬社製)を用いた。
【0129】
(合成例5:特定高分子化合物(P−1)DVE−3溶液の合成)
DVE−3(トリエチレングリコールジビニルエーテル、BASFジャパン社製) 195g、M−1 9.0g、B−1 64.3g、TDI 18.0g(トリレンジイソシアナート、東京化成工業社製)、PDM(2,6−ピリジンジメタノール、Aldrich社製)3.1g、DEG(ジエチレングリコール、和光純薬社製)5.7gを混合し60℃で撹拌した。さらに5gのDVE−3に溶解させたスタノクト(オクチル酸第一錫、エーピーアイ コーポレーション社製)0.04gを加え4時間攪拌することで特定高分子化合物(顔料分散剤)P−1DVE−3溶液を得た。(重量平均分子量120,000)
【0130】
(合成例6:特定高分子化合物(P−3)DVE−3溶液の合成)
DVE−3 195g、M−1 7.7g、B−5 44.2g、マイテックGP77OA(3官能イソシアネート、三菱化学社製)38.5g、PDM7.2g、DEG2.3gを混合し、マイテックGP77OA中の溶媒を減圧留去後、60℃に昇温し、5gのDVE−3に溶解させたスタノクト0.04gを加え、4時間攪拌することで特定高分子化合物(顔料分散剤)P−3DVE−3溶液を得た。(重量平均分子量45,000)
【0131】
(合成例7:特定高分子化合物(P−5)DVE−3溶液の合成)
DVE−3 195g、M−6 7.1g、B−6 24.5g、マイテックGP77OA 49.3g、HMBA(4−ヒドロキシメチル)安息香酸、Aldrich社製)11.5g、DEG 7.5gを混合した。マイテックGP77OA中の溶媒を減圧留去後、60℃に昇温し、5gのDVE−3に溶解させたスタノクト0.04gを加え、4時間攪拌することで特定高分子化合物(顔料分散剤)P−5DVE−3溶液を得た。(重量平均分子量60,000)
【0132】
(合成例8:比較重合体(P−8)DVE−3溶液の合成)
DVE−3 195g、B−6 24.9g、マイテックGP77OA 55.5g、HMBA12.6g、DEG7.0gを混合した。マイテックGP77OA中の溶媒を減圧留去後、60℃に昇温し、5gのDVE−3に溶解させたスタノクト0.04gを加え、4時間攪拌することで顔料の部分骨格を有しない顔料分散剤である比較重合体P−8DVE−3溶液を得た。(重量平均分子量42,000)
【0133】
(合成例9:比較重合体(P−9)DVE−3溶液の合成)
DBE(和光純薬社製)100g、スチレン 100g(和光純薬社製)、チオグリセロール2.2gを窒素置換した三口フラスコに導入し、攪拌機(新東科学(株):スリーワンモータ)にて攪拌し、窒素をフラスコ内に流しながら加熱して105℃まで昇温した。VA−086(2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド](和光純薬社製)を0.262g加えた後、2時間攪拌した。さらにVA−086を0.131g添加し、115℃にて4時間加熱攪拌した。反応溶液を室温で放冷後、DBE 100gを加え、6000gのn−ヘキサン中に注ぎいれた。沈殿した固体を濾別後、減圧乾燥することで、末端にジオールを有するポリスチレン(B−8化合物)75.2gを得た。(重量平均分子量4,600)。次いで、DVE−3 195g、M−1 10.6g、B−8 58.0g、TDI 21.2g、PDM 3.1g、DEG 6.7gを混合し60℃で撹拌した。さらに5gのDVE−3に溶解させたスタノクト(オクチル酸第一錫、エーピーアイ コーポレーション社製)0.04gを加え4時間攪拌することでポリスチレンを側鎖に有するポリウレタングラフト共重合体である比較重合体P−9DVE−3溶液を得た。(重量平均分子量52,000)
【0134】
(合成例10:比較重合体(P−10)DBE溶液の合成)
DBE200g、10−[(スチレニル)メチル]−9−アクリダノン 10.0g、1−ビニルイミダゾール(Aldrich社製)5.0g、AA−6(末端メタクリロイル化ポリ(メチルメタクリレート)、東亞合成社製)85.0gを窒素雰囲気下65℃で混合撹拌し、10−[(スチレニル)メチル]−9−アクリダノンの溶解を確認後、V−65(和光純薬社製、2,2‘−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル) 1.0gを加えた。2時間反応後、V−65 1.0gを加え更に4時間撹拌することでウレタン構造を有しない比較重合体P−10DBE溶液を得た。(重量平均分子量120,000)
【0135】
(合成例11:比較重合体(P−11)DVE−3溶液の合成)
DVE−3 195g、Disperse Red 13 3.9g(Aldrich社製)B−1 70.1g、マイテックGP77OA 20.3g、PDM 4.4g、DEG 1.2gを混合した。マイテックGP77OA中の溶媒を減圧留去後、60℃に昇温し、5.0gのDVE−3に溶解させたスタノクト0.04gを加え、4時間攪拌することで顔料のPigmentRed 4の分子量80質量%の骨格を有する顔料分散剤である比較重合体P−11DVE−3溶液を得た。(重量平均分子量35,000)
【0136】
(実施例1)
<顔料分散物1の調製>
(a)顔料Cinquasia Magenta RT355D(マゼンタ色、PR42:2,9−ジクロロキナクリドン、キナクリドン混晶)20g、(b)特定高分子化合物 P−1DVE−3溶液 20g、DVE−3 60gの混合物をモーターミルM50(アイガー社製)に入れて、直径0.65mmのジルコニアビーズを用い、周速9m/sで3時間分散を行い、顔料分散物1を得た。
<インク組成物1の調製>
顔料分散物1 20g、(c)重合性化合物 1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(SR238、サートマー社製)31.5g、ジプロピレングリコールジアクリレート(SR508、サートマー社製)27g、ポリエステルアクリレート(Ebecryl657、ダイセル・サイテック社製)8g、重合開始剤 1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)2.5g、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(Lucirin TPO、BASFジャパン製)7g、ベンゾフェノン(和光純薬製)3.9g、界面活性剤 BYK307(ビックケーミー社製)0.1gを混合した後、これをメンブランフイルターで加圧濾過し、実施例1のインクジェット用インク組成物1を得た。
【0137】
(実施例2)
<顔料分散物2の調製>
(b)特定高分子化合物としてP−1DVE−3溶液の代わりにP−3DVE−3溶液を用いた以外は顔料分散物1の調製と同様にして顔料分散物2を調製した。
<インク組成物2の調製>
顔料分散物1の代わりに顔料分散物2を用いた以外は、インク組成物1の調製と同様にして、実施例2のインクジェット用インク組成物2を得た。
【0138】
(実施例3)
<顔料分散物3の調製>
(a)顔料HOSTAPERM VIOLET RL−NF(バイオレット色、PV23、ジオキサジンカルバゾールバイオレット、クラリアント社製)15g、(b)特定高分子化合物 P−5DVE−3溶液 20g、DVE−3 65gの混合物をモーターミルM50(アイガー社製)に入れて、直径0.65mmのジルコニアビーズを用い、周速9m/sで3時間分散を行い、顔料分散物3を得た。
<インク組成物3の調製>
顔料分散物3 10g、(c)重合性化合物 1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(SR238、サートマー社製)31.5g、ジプロピレングリコールジアクリレート(SR508、サートマー社製)40g、ポリエステルアクリレート(Ebecryl657、ダイセル・サイテック社製) 5g、重合開始剤 1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)2.5g、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(Lucirin TPO、BASFジャパン製) 7g、ベンゾフェノン(和光純薬製)3.9g、界面活性剤 BYK307(ビックケーミー社製)0.1gを混合した後、これをメンブランフイルターで加圧濾過し、実施例3のインクジェット用インク組成物3を得た。
【0139】
(比較例1)
<比較顔料分散物1の調製>
(b)特定高分子化合物としてP−1DVE−3溶液の代わりにP−5DVE−3溶液を用いた以外は、顔料分散物1の調製と同様にして比較顔料分散物1を調製した。
<比較インク組成物1の調製>
顔料分散物1の代わりに比較顔料分散物1を用いた以外は、インク組成物1の調製と同様にして、比較インク組成物1を調製した。
【0140】
(比較例2および比較例3)
<比較顔料分散物2および比較顔料分散物3の調製>
(b)特定高分子化合物としてP−1DVE−3溶液の代わりにそれぞれP−9DVE−3溶液、P−10DBE溶液を用いた以外は、顔料分散物1の調製と同様にして比較顔料分散物2及び3を調製した。
<比較インク組成物2および比較インク組成物3の調製>
顔料分散物1の代わりにそれぞれ比較顔料分散物2、比較顔料分散物3を用いた以外は、インク組成物1の調製と同様にして、比較インク組成物2、比較インク組成物3を調製した。
【0141】
(比較例4)
<比較顔料分散物4の調製>
(b)特定高分子化合物としてP−5DVE−3溶液の代わりにP−8DVE−3溶液を用いた以外は、顔料分散物3の調製と同様にして比較顔料分散物4を調製した。
<比較インク組成物4の調製>
顔料分散物3の代わりに比較顔料分散物4を用いた以外は、インク組成物3の調製と同様にして、比較インク組成物4を調製した。
(比較例5)
<比較顔料分散物5の調製>
(a)顔料Hansa Red R(赤色、PR4、クラリアント社製)15g、比較重合体 P−11DVE−3溶液 20g、DVE−3 65gの混合物をモーターミルM50(アイガー社製)に入れて、直径0.65mmのジルコニアビーズを用い、周速9m/sで2時間分散を行い、比較顔料分散物5を得た。
<インク組成物5の調製>
比較顔料分散物5 10g、(c)重合性化合物 1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(SR238、サートマー社製)31.5g、ジプロピレングリコールジアクリレート(SR508、サートマー社製)40g、ポリエステルアクリレート(Ebecryl657、ダイセル・サイテック社製) 5g、重合開始剤 1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)2.5g、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(Lucirin TPO、BASFジャパン製) 7g、ベンゾフェノン(和光純薬製)3.9g、界面活性剤 BYK307(ビックケーミー社製)0.1gを混合した後、これをメンブランフイルターで加圧濾過し、比較例5のインクジェット用インク組成物5を得た。
【0142】
<顔料分散物の評価>
各顔料分散物を下記の方法に従って評価した。その結果を表2に示す。
−構造類似性−
(a)顔料の分子量に対する、(b)特定高分子化合物または比較重合体中の(a)顔料と同一または類似の骨格の分子量の割合を構造類似性として評価した。尚Cinquasia Magenta RT355Dは、キナクリドン(分子量312.3)と、2,9−ジクロロキナクリドン(分子量381.2)の混晶であるため、各分子量の平均値である346.8を使用した。
【0143】
−粒子径−
各顔料分散物の粒子径を光散乱回折式の粒度分布測定装置(LB500、(株)堀場製作所製)を用いて評価し、以下のランクに分類した。Aが最も良い評価である。
顔料がCinquasia Magenta RT355Dの場合(実施例1、2および比較例1〜3)
A:メジアン径が80nm以上120nm未満
B:メジアン径が120nm以上170nm未満
C:メジアン径が170nm以上
【0144】
顔料がHOSTAPERM VIOLET RL−NFの場合(実施例3および比較例4)
A:メジアン径が50nm以上100nm未満
B:メジアン径が100nm以上150nm未満
C:メジアン径が150nm以上
【0145】
顔料がHansa Red Rの場合(比較例5)
A:メジアン径が150nm以上200nm未満
B:メジアン径が200nm以上300nm未満
C:メジアン径が300nm以上
【0146】
−粘度−
各インクジェット用インク組成物の25℃における粘度をE型粘度計(東機産業(株)製、RE−80L)を用いて測定し、以下のランクに分類した。Aが最も良い評価である。
A:500mPas未満
B:500mPas以上1200mPas未満
C:1200mPas以上(分散中に顔料分散物の循環が停止するレベル)
【0147】
<インク組成物の評価>
各インクジェット用インク組成物を下記の方法に従って評価した。その結果を表2に示す。
【0148】
−粒子径−
各インクジェット用インク組成物の粒子径を光散乱回折式の粒度分布測定装置(LB500、(株)堀場製作所製)を用いて評価し、以下のランクに分類した。Aが最も良い評価である。
顔料がCinquasia Magenta RT355Dの場合(実施例1、2および比較例1〜3)
A:メジアン径が80nm以上120nm未満
B:メジアン径が120nm以上170nm未満
C:メジアン径が170nm以上
【0149】
顔料がHOSTAPERM VIOLET RL−NFの場合(実施例3および比較例4)
A:メジアン径が50nm以上100nm未満
B:メジアン径が100nm以上150nm未満
C:メジアン径が150nm以上
【0150】
顔料がHansa Red Rの場合(比較例5)
A:メジアン径が150nm以上200nm未満
B:メジアン径が200nm以上300nm未満
C:メジアン径が300nm以上
【0151】
−粘度−
各インクジェット用インク組成物の25℃における粘度をE型粘度計(東機産業(株)製、RE−80L)を用いて測定した。
A:30mPas未満
B:30mPas以上50mPas未満(吐出時にノズルつまりが発生し始めるレベル)
C:50mPas以上(ノズルつまりが多く発生し、問題のあるレベル)
【0152】
−安定性−
各インクジェット用インク組成物を25℃で4週間保存後、および60℃で1週間保存後のそれぞれの分散状態を目視および粘度変化により評価した。
A:沈殿物の発生がなく、粘度の増加が5%未満で安定性が高いレベル
B:沈殿物の発生がなく、粘度の増加は5%以上10%未満で吐出性に問題ないレベル
C:沈殿物の発生なはいが、粘度の増加が10%以上であり吐出性が低下し、実用上問題になるレベル
D:沈殿物の発生や液別れが認められ、実用上問題になるレベル
【0153】
−ノズル欠−
各インクジェット用インク組成物を、25℃から60℃の昇温・降温サイクルを10回繰り返した後、ピエゾ型インクジェットノズルを有するインクジェット記録実験装置(印字密度300dpi、打滴周波数4kHz、ノズル数64)でA4サイズのベタ印字を3枚行い、ノズル欠の有無について観察し、以下の基準で評価を行った。
A:ノズル欠が発生せず高品質の画像が形成された
B:一部でサテライトが発生し、画像欠陥が観察された
C:ノズル欠が発生し、画像欠陥が著しい
【0154】
−硬化性、耐ブロッキング性−
前記インクジェット記録実験装置で塩化ビニル製シート上にベタ印字したサンプルをDeep UVランプ(ウシオ製、SP−7)で3000mJ/cmのエネルギーとなる条件で露光し、印字サンプルを得た。実施例及び比較例の各インク組成物においても良好に硬化し、硬化皮膜を指で触れた際にべたつきは観察されなかった。
また、印字サンプルを3枚重ね、1(g/cm)となるように錘を置き、6時間後に印字面がそれと重なったシートとどの程度接着するかを評価する耐ブロッキン性試験も実施したが、耐ブロッキング性は良好であり、いずれの印字サンプルも接着は見られなかった。
【0155】
【表2】

【0156】
表2より、実施例の顔料分散物は顔料が微細化され、かつ粘度が低いため良好に分散されていることがわかる。また実施例の顔料分散物を用いて調整されたインク組成物は、放射線の照射に対して高感度で硬化し、べたつきのない高画質の画像を形成することができ長期間保存した場合も、顔料の分散性低下に伴う増粘が生じることなく、顔料の分散性、分散安定性のいずれも良好であった。また、耐ブロッキング性ノズル欠が発生せず、高品質な画像が得られることがわかる。
一方、比較例1および4の如く顔料と類似の骨格を有さない高分子分散剤を用いた場合や、比較例5の如く顔料との類似性が非常に高い高分子分散剤を用いた比較例は、低粘度な顔料分散物が得られず、それを用いて調製されたインク組成物は、特に高温条件下での保存性(安定性(60℃))が劣り、実用上問題となるレベルであり、画像欠陥も観察された。
また、顔料と類似の骨格を有するが、側鎖がポリスチレンである比較例2や、ウレタン結合を有さない比較例3は顔料が微細に分散された顔料分散物が得られず、高温条件下での保存性(安定性(60℃))やノズル欠が発生し、実用上問題となるレベルであった。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明のインク組成物は、通常の印刷に使用して、発色性に優れた鮮鋭な画像を形成し、高品位な印刷物が得られるのみならず、レジスト、カラーフィルター、光ディスクの製造にも好適に使用することができ、光造形材料としても有用である。
また、インクジェット記録方法を適用することで、非吸収性の被記録媒体上にも、高品質の画像をデジタルデータに基づき直接形成しうることから、本発明のインク組成物は大面積の印刷物の作製にも好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)顔料、および(b)主鎖にウレタン結合を含み、該(a)顔料の分子量に対し20質量%〜70質量%の分子量である該(a)顔料の部分骨格と同一または類似の骨格がペンダントされ、さらに、側鎖にポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、およびポリアルキレンオキシドからなる群より選択される少なくとも一つの高分子鎖を有する高分子化合物、を含有する顔料分散物。
【請求項2】
請求項1に記載の顔料分散物を含有するインク組成物。
【請求項3】
インクジェット記録用である請求項2に記載のインク組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の顔料分散物と、(c)重合性化合物と、を含有する硬化性組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の硬化性組成物を含有する硬化性インク組成物。

【公開番号】特開2010−222460(P2010−222460A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70746(P2009−70746)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】