説明

顔料水性分散体組成物および水性インキ組成物

【解決課題】臭いがなく、作業環境や、インクや塗料に用いた場合の取り扱いの安全性に優れ、有機溶剤型着色材に比べ、製造時に防爆設備、排気設備、有機溶剤回収装置などの特別な装置が要らず製造コストが安価であり、優れた分散性を発揮する顔料水性分散体組成物を提供するとともに、得られる塗膜が優れた画像濃度および隠蔽性を示すとともに優れた光沢を示す水性インキ組成物を提供する。
【解決手段】分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン分散樹脂(A)、顔料(B)および分散剤(C)を含むことを特徴とする顔料水性分散体組成物、並びに上記顔料水性分散体組成物を含むことを特徴とする水性インキ組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料水性分散体組成物および水性インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水性インキはその安全性と環境負荷が少ないことから幅広い分野で有機溶剤系インキに取って代わり普及している。特にビジネス用途などではオフィス
において各種印刷に使用されるインクとして臭いのない水性色材が必要不可欠であり、産業用途でも作業環境、インクや塗料の取り扱いの安全性、廃液処理の問題から有機溶剤の使用量をできる限り少なくする傾向が強まっている。また、水性着色材は、有機溶剤型着色材に比べ、製造時に防爆設備、排気設備、有機溶剤回収装置などの特別な装置が要らず製造コストが安価であることも普及の要因となっている。
【0003】
水性着色材としては主に染料と顔料の二つが用途に応じて使い分けられており、染料は階調性に優れ高解像度の画像形成がしやすい反面、耐光性が低く実用上問題がある。これに対して、顔料は、耐水性、耐光性が極めて優れていることから、現在では、顔料インクが数多く提供されるようになっている。
【0004】
印刷製版を経て印刷されるグラビアインキ、オフセット印刷用の水性リキッドインクも開発されているが、水性インクを用いるオフィス向けの記録方法として最も普及し始めているものはインクジェット記録方法である。
【0005】
インクジェット記録方法は、微細なノズルヘッドからインク液滴を吐出して、文字や画像を紙などの記録媒体の表面に記録する方法であり、非接触で記録することにより、普通紙をはじめ多種多様な記録媒体にフルカラーで印刷版をおこすことなくオンデマンドで容易に印刷可能であることから広く普及し始めている。
【0006】
インクジェット記録方法を採用したインクジェットプリンターは、微細なノズルヘッドからインク液滴を吐出して、文字や画像を紙などの記録媒体の表面に記録する方法であり、代表的な記録方式としてバブルジェット(登録商標)方式とピエゾ方式とがある。前者はノズルヘッドまで導いたインクをヒーターで瞬間的に加熱して泡を発生させ、その泡による体積膨張でインク液を断続的に吐出する記録方式であり、後者は電歪素子(圧電素子)を用いて電気信号を機械信号に変換し、ノズルヘッド部分に貯えたインク液滴を断続的に吐出する記録方式である。
【0007】
一方、上述したように、顔料は、染料に比べ耐光性に優れるものの、顔料粒子間の凝集力に比べて他の物質、例えば有機高分子、水および有機溶剤等との親和性が低いために分散性が低く、通常の混合または分散条件では、均一に混合または分散することが極めて困難である。
【0008】
このため、例えば黒色顔料の分散性を向上させる方法として、特許文献1(特開平8−218015号公報)には、黒色顔料表面全体に、各種の界面活性剤等からなる分散剤を吸着させて、他成分との親和性を高めたインクジェットインク組成物が提案されている。
【0009】
さらに、得られる塗膜の耐擦過性、耐マーカー性等の性能を上げるために、樹脂エマルション等の水性樹脂を配合したインクジェットインク組成物が検討されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−218015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、インクジェットインク組成物中の樹脂の配合比が顔料の配合比よりも高くなると、得られる塗膜の光沢は向上するが画像濃度(色濃度)や塗膜の隠蔽性は低下してしまい、インクジェットインク組成物中の顔料の配合比が樹脂の配合比よりも高くなると、得られる塗膜の画像濃度や隠蔽性は向上するが、光沢は低下して、耐擦過性や耐マーカー性も低下してしまう。上記画像濃度(色濃度)、塗膜の隠蔽性、光沢等の特性は特にカラー印刷用の有機顔料を用いたインクジェットインク組成物において重要であり、実用性能を考慮した場合は耐擦過性や耐マーカー性も重要となる。
【0012】
本発明は、このような二律背反する関係を改善するためになされたものであり、優れた分散性を発揮する顔料水性分散体組成物を提供するとともに、得られる塗膜が優れた画像濃度および隠蔽性を示すとともに優れた光沢を示す水性インキ組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明者等が鋭意検討したところ、分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン分散樹脂(A)、顔料(B)および分散剤(C)を含むことを特徴とする顔料水性分散体組成物により上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、
(1)分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン分散樹脂(A)、顔料(B)および分散剤(C)を含むことを特徴とする顔料水性分散体組成物、
(2)前記分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン分散樹脂(A)が、下記一般式(I)
【化1】


(ただし、RおよびRは、水素原子であるか炭素数1〜6の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、RおよびRが結合して環状構造を成していてもよい。Rは、炭素数1〜22のアルキレン基、Rは、炭素数0〜22のアルキレン基である。)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)をモノマー原料としてウレタン反応させてなるものである上記(1)に記載の顔料水性分散体組成物、
(3)前記分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン分散樹脂(A)が、さらに下記一般式(II)
【化2】


(ただし、RおよびRは、水素原子であるか炭素数1〜6の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、RおよびRが結合して環状構造を成していてもよく、Rは、炭素数1〜22のアルキレン基である。)で表わされる環状イミドモノオール化合物(a2)をモノマー原料としてポリウレタン主鎖の側鎖または末端にウレタン反応させてなるものである上記(2)に記載の顔料水性分散体組成物、
(4)前記顔料(B)がフタロシアニン系顔料である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の顔料分散体組成物、
(5)前記顔料(B)を3〜35質量%含むとともに、
固形分換算で、前記顔料(B)100質量部に対し、前記分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン分散樹脂(A)を2〜200質量部、前記分散剤(C)を1〜30質量部含む上記(1)〜(4)のいずれかに記載の顔料水性分散体組成物、
(6)上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の顔料水性分散体組成物を含むことを特徴とする水性インキ組成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン分散樹脂(A)と、顔料(B)と、分散剤(C)とを含むものであることにより、優れた分散性を発揮する顔料水性分散体組成物を提供するとともに、得られる塗膜が優れた画像濃度および隠蔽性を示すとともに優れた光沢を示す水性インキ組成物を提供することを目的とするものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の顔料水性分散体組成物は、分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン分散樹脂(A)、顔料(B)および分散剤(C)を含むことを特徴とするものである。
【0017】
本発明の顔料水性分散体組成物において、分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)としては、分子鎖の側鎖や末端に環状イミド基を有するものが好ましく、このような水性ポリウレタン樹脂としては、下記一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物をモノマー原料としてウレタン反応させてなるものや、下記一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)をモノマー原料としてウレタン反応させた上で、さらに後述する一般式(II)で表わされる環状イミドモノオール化合物(a2)をモノマー原料としてポリウレタン主鎖の側鎖または末端にウレタン反応させてなるものが挙げられる。
【0018】
本発明の顔料水性分散体組成物において、分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)としては、下記一般式(I)
【化3】


(ただし、RおよびRは、水素原子であるか炭素数の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、RおよびRが結合して環状構造を成していてもよい。Rは、炭素数1〜22のアルキレン基、Rは、炭素数0〜22のアルキレン基である。)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)をモノマー原料としてウレタン反応させてなるものが好ましい。
【0019】
上記一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)において、RおよびRは水素原子または炭素数1〜6の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、RおよびRが結合して環状構造を成していてもよい。
、Rの炭素数は、1〜6であり、RおよびRの炭素数は、同一であっても異なっていてもよい。
【0020】
、Rが採り得る置換基の形態としては、直鎖状または分岐鎖状の脂肪族炭化水素基や、RおよびRが結合して環状構造を成した脂環族炭化水素基や、RおよびRが結合して環状構造を成した芳香族炭化水素基を挙げることができる。
上記R、Rが直鎖状または分岐鎖状の脂肪族炭化水素基である場合、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基を挙げることができる。
およびRが、両者が結合して環状構造を成した脂環族炭化水素基である場合、具体的には、隣接する環状イミド基とともに、3、4、5、6−テトラヒドロフタルイミド基を構成してなるものが挙げられる。
また、RおよびRが、両者が結合して環状構造を成した芳香族炭化水素基である場合、具体的には、隣接する環状イミド基とともにフタルイミド基を構成してなるものが挙げられる。
【0021】
上記一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)において、RおよびRは、両者が結合して環状構造を成した脂環族炭化水素基や、両者が結合して環状構造を成した芳香族炭化水素基であることが好ましい。
【0022】
上記一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)をモノマー原料としてポリイソシアネート化合物とウレタン反応させた場合、環状イミド基を側鎖に有するポリウレタン樹脂を形成する。
上記ポリウレタン樹脂において、環状イミド基は高い極性を示す一方、R、Rからなる脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基等の炭化水素基は極性が低いことから、ポリウレタン樹脂内で極性差を生じ、この極性差が顔料(B)の分散性に寄与すると考えられる。
また、R、Rからなる脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基等の炭化水素基により、本発明の顔料水性分散体組成物をインクジェットインキ組成物や塗料組成物に用いたときに、得られる塗膜が優れた光沢を発揮すると考えられる。
【0023】
上記一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)において、Rは、炭素数1〜22、好ましくは炭素数1〜18、より好ましくは炭素数1〜12のアルキレン基であり、Rは、炭素数0〜22、好ましくは炭素数0〜18、より好ましくは炭素数0〜12のアルキレン基である。
【0024】
で表わされるアルキレン基として、具体的には、メチレン、エチレン、トリメチレン[propane-1,3-diyl]、テトラメチレン[butane-1,4-diyl]、ペンタメチレン[pentane-1,5-diyl]、ヘキサメチレン[hexane-1,6-diyl]、ヘプタメチレン[heptane-1,7-diyl]オクタメチレン[octane-1,8-diyl]、ノナメチレン[nonane-1,9-diyl]、ドデカメチレン[dodecane-1,12-diyl]、オクタデカメチレン[octadecane-1,18-diyl]、ドコサメチレン[docosane-1,22-diyl]等を挙げることができる。
【0025】
また、Rで表わされるアルキレン基として、具体的には、メチレン、エチレン、トリメチレン[propane-1,3-diyl]、テトラメチレン[butane-1,4-diyl]、ペンタメチレン[pentane-1,5-diyl]、ヘキサメチレン[hexane-1,6-diyl]、ヘプタメチレン[heptane-1,7-diyl]、オクタメチレン[octane-1,8-diyl]、ノナメチレン[nonane-1,9-diyl]、ドデカメチレン[dodecane-1,12-diyl]等を挙げることができる。
【0026】
上記一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)は、水性ポリウレタン樹脂(A)において、ポリマー鎖の主鎖を構成する化合物として好ましく使用することができる。
【0027】
上記一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)としては、例えば、R、Rが環状を成したヘキサヒドロ無水フタル酸とアミンジオールから導入される化合物が挙げることができ、具体的には、下記式(I’)で表わされる化合物(1−(ヘキサヒドロフタルイミド)−2,3ヒドロキシプロパン)を挙げることができる。
【0028】
【化4】

【0029】
上記一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)が上記式(I’)で表わされる化合物である場合、ヘキサヒドロフェニル構造が低極性の親油性構造であり、イミド基は極性が高い構造であるため、この極性の低い構造および極性の高い構造が顔料(B)の分散性に寄与すると考えられ、また、ヘキサヒドロフェニル構造により、本発明の顔料水性分散体組成物をインクジェットインク組成物や塗料組成物に用いたときに、得られる塗膜が優れた光沢を発揮すると考えられる。
【0030】
上記一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)は、酸無水物と分子中に一級アミノ基と水酸基を2個有するアミノジオールとを反応させることにより作製することができる。
【0031】
上記酸無水物としては、無水フタル酸などの芳香族酸無水物や、1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、3,4,5,6−テトラヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物などの脂環族無水物、3−オクテニル無水コハク酸、3−ドデセニル無水コハク酸などの脂肪族酸無水物等を挙げることができる。
【0032】
分子中に一級アミノ基と水酸基を2個有するアミノジオールとしては、例えば1−アミノプロパンジオールが挙げられる。
【0033】
上記反応によって酸無水物が開環してアミノジオールの一級アミノ基と反応し、アミド基とカルボキシル基を有するアミック酸を生成し、生成したアミック酸を脱水閉環することで目的とする環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物を得ることができる。上記アミック酸の生成反応は発熱反応であり、トルエン等の有機溶剤を用いて酸無水物を分割して徐々に加えて反応温度を90℃以下に制御しつつ反応させることが望ましい。アミノジオールの一級アミノ基と当量の酸無水物を加えた後、徐々に昇温して、上記有機溶剤がトルエンである場合は、その沸点付近(110℃付近)で縮合水を除去しながら脱水閉環反応させることが好ましい。
【0034】
脱水閉環反応は無触媒で行うか、あるいは公知任意の脱水縮合を促すとされるジルコニウム系、チタン系、錫、アルミ系のポリエステル用触媒を用いて行うことができ、テトライソプロポキシチタン等を用いて行うことが好ましい。
【0035】
脱水閉環反応は、窒素ガス吹き込みをしながら環流温度に保温して、脱水反応を促進させることが好ましい。閉環するとアミック酸のカルボキシル基が減るため酸価を測定することにより反応率を求めることができる。すべてのアミック酸が閉環してイミド基になると酸価が0mgKOH/gになる。
【0036】
例えば、上記一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)が、上記一般式(I')で表わされる1−(ヘキサヒドロフタルイミド)−2,3ヒドロキシプロパンである場合、ヘキサヒドロ無水フタル酸と1−アミノプロパンジオールとを反応させて(酸無水物と一級アミンとを反応させて)アミック酸を生成し、得られたアミック酸を脱水閉環することにより、作製することができる。
【0037】
本発明の顔料水性分散体組成物は、分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)を構成する環状イミド基自身が極性の低い構造部分と極性の高い構造部分を有するため、分散性を向上させることができ、また、インキ組成物や塗料組成物に用いたときに、被印刷物、被塗装物に対する接着性や、顔料に対する濡れ性を向上させることができ、特に分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)が、上記一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)に由来する構成単位を有するものである場合、上記効果を容易に発揮することができる。
【0038】
本発明の顔料水性分散体組成物において、分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)は、上記一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)とともに、さらに極性分子鎖を有するポリオール化合物(a3)と、低極性分子鎖を有するポリオール化合物(a4)とをモノマー原料としてウレタン反応させてなるものであることが好ましい。
【0039】
極性分子鎖を有するポリオール化合物(a3)としては、少なくとも水性媒体に分散し得る官能基又は分子鎖を有し、2個以上の水酸基を有するポリオール化合物を挙げることができ、2個の水酸基を有するジオール化合物であることが好ましい。
【0040】
少なくとも水性媒体に分散し得る官能基又は分子鎖を有し、2個の水酸基を有するジオール化合物としては、最終段階でポリウレタン樹脂を水性媒体中に転相させる塩を形成し得る官能基を有するものが好ましく、具体的には、三級カルボキシル基含有ジオール化合物を挙げることができる。
【0041】
三級カルボキシル基含有ジオール化合物としては、三級カルボキシル基含有ジオール化合物を挙げることができる。
例えば、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロール酢酸、ジメチロール酪酸、ジメチロール吉草酸、ジメチロールカプロン酸等のジヒドロキシカルボン酸類を挙げることができ、これ等のうち、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等のジヒドロキシモノカルボン酸が好ましい。
上記化合物が有する三級カルボキシル基は、ポリイソシアネート化合物等との反応性が極めて低いことから、ウレタン結合反応を阻害することなく、目的とするポリウレタン樹脂を効率よく生成することができる。
【0042】
また、極性分子鎖を有するポリオール化合物(a3)としては、ノニオン性の分子鎖を有するジオール化合物を挙げることができる。ノニオン性の分子鎖を有するジオール化合物としては、ポリエチレングリコールジオール(PEG)や、ポリエチレングリコールジオール(PEG)、ポリプロピレングリコールジオール(PPG)およびポリブチレングリコールジオール(PBG)の共重合ジオールに代表されるポリアルキレングリコールジオールを挙げることができる。
【0043】
上記三級カルボキシル基含有ジオール化合物の配合量を制御することにより、得られるポリウレタン樹脂の酸価を制御することができ、酸価を調整するために、上記三級カルボキシル基含有ジオール化合物以外に、更にノニオン性の分子鎖を有するジオール化合物を適宜使用することもできる。
【0044】
低極性分子鎖を有するポリオール化合物(a4)としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,8 −オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、シクロヘキシルジメタノールなどのジオール類を挙げることができ、さらに低極性分子鎖を有する高分子ポリオールを挙げることができる。
【0045】
高分子ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートジオール、ポリラクトンジオール、ポリエーテルポリオール、ブタジエンジオールなどの高分子ジオールや、ロジン骨格又は水添ロジン骨格を有する化合物のポリマージオールが挙げられる。
高分子ポリオールは、数平均分子量が300〜5000の範囲のものが好ましく、数平均分子量で500〜3000のものがより好ましい。
【0046】
ポリエステルポリオールとしては、以下のポリオール、ポリオール同効成分のうちの1種以上と、多塩基酸及びそれら無水物等のうちの1種以上とを縮合反応することによって得られるものが挙げられる。
【0047】
ポリエステルポリオールの原料ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,8 −オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、ひまし油変性ジオール、ひまし油変性ポリオール等を挙げることができる。
【0048】
ポリエステルポリオールの原料である、ポリオール同効成分としては、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル及びステアリルグリシジルエーテル等のアルキルモノグリシジルエーテル類や、アルキルグリシジルエステル(例えば、シェルジャパン社製カージュラE10)等のモノエポキシ化合物のうちの1種以上が挙げられる。
【0049】
ポリエステルポリオールの原料である、多塩基酸及びそれらの無水物としては、琥珀酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸及びダイマー酸等の脂肪族二塩基酸並びにそれらの無水物、ドデセニル無水琥珀酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸及び無水トリメリット酸等の芳香族多塩基酸並びにそれらの無水物、無水ヒドロフタル酸及びジメチル−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族多塩基酸並びにそれらの無水物等が挙げられる。
【0050】
ポリカーボネートジオールとしては、1,4ブタンジオール、1,6ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオールなどのジオールを原料にしたポリカーボネートジオールが挙げられる。
【0051】
ポリラクトンジオールとしては、上記ポリオール、上記ポリエステルポリオールなどの水酸基末端化合物を出発物質として、ε−カプロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトンなどのラクトン環を持つモノマーの開環付加重合によって得られるポリラクトンジオールが挙げられる。
【0052】
ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコールジオール(PEG)、ポリプロピレングリコールジオール(PPG)、ポリブチレングリコールジオール(PBG) に代表されるポリアルキレングリコール類や、ビスフェノールA、ビスフェノールF、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールFなどを出発物質として、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン、ブチレンオキサイドを付加させたポリエーテルポリオールが挙げられる。
【0053】
ポリブタジエンジオールとしては、下記式:
【0054】
【化5】

【0055】
(ただし、k=0.2、l=0.2、m=0.6で、nは正の整数である。)で表されるポリブタジエンジオールPoly bdR−15HT、R−45HT(出光興産社製)や、ポリイソプレンジオールPoly ip(出光興産社製)や、下記式
【0056】
【化6】

【0057】
(式中、nは正の整数を示す。)
で表わされるα、ω―ポリブタジエングリコールG−1000、G−2000、G−3000(日本曹達社製)などが挙げられる。
【0058】
ロジン骨格又は水添ロジン骨格を有する化合物のポリマージオールとしては、パインクリスタルD−6011、D−6240(荒川化学工業社製)が挙げられる。
【0059】
本発明の顔料分散体組成物において、分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)は、上記一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物とともに、さらに下記一般式(II)
【0060】
【化7】

【0061】
(ただし、RおよびRは、水素原子であるか炭素数1〜6の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、RおよびRが結合して環状構造を成していてもよく、Rは、炭素数1〜22のアルキレン基である。)で表わされる環状イミドモノオール化合物(a2)をモノマー原料としてポリウレタン主鎖の側鎖または末端にウレタン反応させてなるものであることが好ましい。
【0062】
上記R、R、Rとしては、それぞれ、上述した一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)を構成するR、R、Rと同様のものを挙げることができる。
なお、本発明の顔料分散体組成物において、分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)が、上記一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物に由来する構成単位とともに、上記一般式(II)で表わされる環状イミドモノオール化合物(a2)に由来する構成単位を有する場合、上記一般式(II)で表わされる環状イミドモノオール化合物(a2)を構成するR、R、Rは、それぞれ、上述した一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)を構成するR、R、Rと同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0063】
上記一般式(II)で表わされる環状イミドモノオール化合物(a2)は、上記一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)の作製方法において、分子中に一級アミノ基と水酸基を2個有するアミノジオールに代えて分子中に一級アミノ基と水酸基を1個有するアミノアルコールを用いる以外は同様の方法で反応させて作製することができる。
【0064】
上記酸無水物としても、上記一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物の作製に用いるものと同様のものを挙げることができる。
【0065】
分子中に一級アミノ基と水酸基を1個有するアミノアルコールとしては、例えば、モノエタノールアミン、3−アミノプロパノール等のアミノアルコールが挙げられる。
【0066】
上記酸無水物が開環してアミノアルコールの一級アミノ基と反応し、アミド基とカルボキシル基を有するアミック酸を生成し、生成したアミック酸を脱水閉環することで目的とする環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物を得ることができる。上記アミック酸の生成反応は発熱反応であり、トルエン等の有機溶剤を用いて酸無水物を分割して徐々に加えて反応温度を90℃以下に制御しつつ反応させることが望ましい。アミノジオールの一級アミノ基と当量の酸無水物を加えた後、徐々に昇温して、上記有機溶剤がトルエンである場合は、その沸点付近(110℃付近)で縮合水を除去しながら脱水閉環反応させることが好ましい。
【0067】
脱水閉環反応は無触媒で行うか、あるいは公知任意の脱水縮合を促すとされるジルコニウム系、チタン系、錫、アルミ系のポリエステル用触媒を用いて行うことができ、テトライソプロポキシチタン等を用いて行うことが好ましい。
【0068】
脱水閉環反応は、窒素ガス吹き込みをしながら環流温度に保温して、脱水反応を促進させることが好ましい。閉環するとアミック酸のカルボキシル基が減るため酸価を測定することにより反応率を求めることができる。すべてのアミック酸が閉環してイミド基になると酸価が0mgKOH/gになる。
【0069】
本発明の顔料分散体組成物において、分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)は、上記一般式(II)で表わされる環状イミドモノオール化合物(a2)をモノマー原料としてポリウレタン主鎖の側鎖または末端にウレタン反応させてなるものであることが好ましく、モノマー原料の添加順序等を制御することにより、上記一般式(II)で表わされる環状イミドモノオール化合物(a2)をポリウレタン主鎖の所望位置にウレタン反応させることができる。
【0070】
本発明の顔料分散体組成物において、分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)は、ポリウレタン主鎖の末端に上記一般式(II)で表わされる環状イミドモノオール化合物(a2)以外のモノオール化合物(a5)をウレタン反応させてなるものであってもよい。
上記モノオール化合物(a5)としては、末端NCO基と反応するヒドロキシビニル化合物を挙げることができ、具体的には、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のモノヒドロキシモノ (メタ)アクリレート、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、ライトエステルG−201P(共栄社化学製)、ライトエステルG−101(共栄社化学製)などのグリセリンジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0071】
分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)が、上記一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)等をモノマー原料としてウレタン反応させてなるものである場合、上記ウレタン反応には、通常、ポリイソシアネート化合物が用いられる。
ポリイソシアネート化合物としては、分子中にイソシアネート基を2以上含有するものであれば特に限定されず、目的に応じてジイソシアネート化合物またはイソシアネート基を3以上含有するポリイソシアネート化合物を用いることができる。
【0072】
ジイソシアネート化合物としては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下MDIと略記)、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート、トリレンジイソシアネート(以下TDIと略記)、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(以下IPDIと略記)、ヘキサメチレンジイソシアネート(以下HDIと略記)、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート等を挙げることができる。
また、ポリイソシアネート化合物としては、上記これらジイソシアネート化合物のイソシアネート基の一部をビューレット、アロファネート、カルボジイミド、ウレトンイミン、オキサゾリドン、アミド、イミド、イソシアヌレート、ウレトジオン等に変性したものが挙げられる。
これらのポリイソシアネート化合物は、必要に応じて、1種以上を併用することができる。
【0073】
分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)は、上記一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)をポリイソシアネート化合物とウレタン反応させることにより、作製することができる。
また、分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)は、上記一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)とともにさらに極性分子鎖を有するポリオール化合物(a3)である極性分子鎖を有するジオール化合物(a3)と、低極性分子鎖を有するポリオール化合物(a4)である低極性分子鎖を有するジオール化合物(a4)とをモノマー原料とし、ポリイソシアネート化合物とウレタン反応させることにより作製することもできる。
さらに、分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)は、上記一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)をポリイソシアネート化合物とウレタン反応させてなるポリウレタン樹脂や、上記一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a)とともにさらに極性分子鎖を有するジオール化合物(a3)と、低極性分子鎖を有するジオール化合物(a4)とをモノマー原料としてポリイソシアネート化合物とウレタン反応させてなるポリウレタン樹脂において、ポリウレタン主鎖の末端のイソシアネート基にさらに一般式(II)で表わされる環状イミドモノオール化合物(a2)をウレタン反応させることによっても、作製することができる。
このように、本発明の活性エネルギー線硬化性ポリウレタン樹脂は、各化合物を種々の順番で逐次反応させることにより作製することができる。
【0074】
分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)が、両末端にイソシアネート基を有するものである場合、例えば、環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)に対し、適宜極性分子鎖を有するジオール化合物(a3)と、低極性分子鎖を有するジオール化合物(a4)を混合し、次いで、得られたジオール化合物の混合物に対し、該混合物を構成する全ジオールのモル数よりもモル数が多くなるようにポリイソシアネート化合物であるジイソシアネート化合物を加えてウレタン反応させることにより、目的とする活性エネルギー線硬化性ポリウレタン樹脂を調製することができる。
上記反応において、上記ジオール混合物を構成する全ジオールのモル数をnとした場合、ポリイソシアネート化合物であるジイソシアネート化合物を(n+1)モル加えることにより、両末端にイソシアネート基を有する水性ポリウレタン樹脂を調製することができる。
【0075】
分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)が、両末端に水酸基を有するものである場合、例えば、上記と同様の方法によって両末端にイソシアネート基を有する活性エネルギー線硬化性ポリウレタン樹脂を作製して、これをポリウレタン樹脂中間体とし、その後、該中間体の末端イソシアネート基に対し、一般式(II)で表わされる環状イミドモノオール化合物(a2)や上記一般式(II)で表わされる環状イミドモノオール化合物(a2)以外のモノオール化合物(a5)を、該末端イソシアネート基と当モル量になるように反応させることにより、目的とする両末端に水酸基を有する水性ポリウレタン樹脂を調製することができる。
上記反応において、一般式(II)で表わされる環状イミドモノオール化合物(a2)や上記一般式(II)で表わされる環状イミドモノオール化合物(a2)以外のモノオール化合物(a5)は、上記中間体1モル(中間体の両末端イソシアネート基(NCO基)2モル)に対して、2モルで等当量となり、両末端にモノオール化合物由来の構成単位が導入された活性エネル水性ポリウレタン樹脂を調製することができる。
【0076】
また、分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)の作製に際しては、モノマーおよびポリイソシアネート化合物を段階的に(多段的に)投入してイソシアネート末端オリゴマーを合成し、分子量を段階的に上昇させることにより、分子量分布のばらつきの少ない水性ポリウレタン樹脂(A)を得ることができる。
【0077】
水性ポリウレタン樹脂(A)の合成原料として、三官能以上のポリオール化合物やポリイソシアネートを用いてもよいが、得られる水性ポリウレタン樹脂(A)が三次元化(ゲル化)する場合があることから、上述したように、合成原料としてジオール化合物およびジイソシアネート化合物を用いることが好ましい。ジオール化合物およびジイソシアネート化合物から合成された水性ポリウレタン樹脂(A)は、優れた光沢や顔料分散機能を容易に発揮することができる。
【0078】
上記ウレタン反応においては、一般的な反応温度を採用することができ、反応温度60〜100℃が適当であり、60〜80℃がより適当である。上記反応温度が高すぎるとアロファネート結合等の副反応が生じ、低すぎると反応時間が長くなり、製造効率が低下する。
【0079】
また、上記ウレタン反応において、反応溶媒としては、無溶媒下において、イソシアネート基と反応しないものから選定することができる。反応溶媒として、反応後に除去し得るものを選定する場合には、沸点が70℃以上110℃未満のポリウレタン樹脂の良溶媒の中から選ぶことが好ましい。反応溶媒として、具体的には、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アセトニトリル等を挙げることができる。
【0080】
上記ウレタン反応において、反応触媒としては、公知任意のウレタン反応触媒から選定することができる。代表的なものとしては、ジブチル錫ジラウリレート、オクチル酸第一錫等の錫系触媒、有機チタン、ジルコニウム触媒等の金属系触媒、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの3級アミン、トリエチレンジアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7及び中和塩などのアミン系触媒を挙げることができる。
【0081】
分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)は、ポリウレタン樹脂を構成する全てのポリオール化合物に由来する構成単位に対し、環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)および環状イミドモノオール化合物(a2)に由来する構成単位を合計で5〜100モル%有するものであることが好ましく、10〜90モル%有するものであることがより好ましく、15〜80モル%有するものであることがさらに好ましい。
【0082】
分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)は、ポリウレタン樹脂を構成する全てのポリオール化合物に由来する構成単位に対し、極性分子鎖を有するポリオール化合物(a3)に由来する構成単位を0〜50モル%有するものであることが好ましく、5〜45モル%有するものであることがより好ましく、10〜40モル%有するものであることがさらに好ましい。
【0083】
分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)は、ポリウレタン樹脂を構成する全てのポリオール化合物に由来する構成単位に対し、低極性分子鎖を有するポリオール化合物(a4)に由来する構成単位を0〜50モル%有するものであることが好ましく、5〜45モル%有するものであることがより好ましく、10〜40モル%有するものであることがさらに好ましい。
【0084】
二官能を超えるポリイソシアネート化合物を用いてポリウレタン樹脂を調整する場合には、P.Jフローリーのゲル化式等を参考にそのモル分率を調整しゲル化を抑制することが望ましい。
【0085】
分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)において、ウレタン樹脂を構成する、環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)に由来する構成単位、極性分子鎖を有するポリオール化合物(a3)に由来する構成単位および低極性分子鎖を有するポリオール化合物(a4)に由来する構成単位の含有割合は、ウレタン反応に供する各ジオール化合物の割合を調整することにより制御することができる。ポリウレタン反応は逐次反応であることから、上記各化合物に由来する構成単位数のコントールは容易に行うことができる。
【0086】
ウレタン反応終了後、得られた水性ポリウレタン樹脂(A)を適宜水性媒体に転相する。
水性媒体としては、水や、水を主成分として若干の有機溶媒を加えたものを挙げることができ、水が好ましい。
水性ポリウレタン樹脂(A)が三級カルボキシル基含有ジオール化合物等に由来する構成単位を有するものである場合、水性ポリウレタン樹脂(A)を水性媒体に転相する際に、対イオンとなる化合物にて適宜中和することが好ましい。
対イオンとなる化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機アルカリ、テトラメチルアンモニウイムハイドライドなどの4級アミントリエチルアミン、トリメチルアミン、N−メチルモルホリン、トリブチルアミン、N−メチルピラジン、メチルイミダゾール等の3級アミンが挙げられる。
【0087】
分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)は、環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)に対して、極性分子鎖を有するジオール化合物(a3)と低極性分子鎖を有するジオール化合物(a4)とをポリイソシアネート化合物であるジイソシアネートで繋いだブロック共重合ポリマーの分子形態を採ることが望ましく、さらにポリウレタン主鎖の末端に環状イミドモノオール化合物(a2)をポリイソシアネート化合物であるジイソシアネートで繋いだブロック共重合ポリマーの分子形態を採ることが望ましい。このような分子形態を採ることにより、顔料(B)の分散性を更に向上させることができる。
ポリウレタン反応は逐次反応であることから、極性の異なるジオール化合物をポリイソシアネート化合物で繋ぐことにより、ブロック的な構造を有するポリウレタン樹脂を容易に得ることができる。
【0088】
分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)が、環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)に由来する構成単位を有するものである場合、ジオール化合物(a1)の環状イミド基が側鎖として櫛の歯状に設けられてなり、このような櫛の歯状の構造が顔料(B)の分散性を向上させると考えられるが、極性分子鎖を有するポリオール化合物(a3)と低極性分子鎖を有するポリオール化合物(a4)に由来する極性の異なる分子鎖がブロック的に繋がることにより分散効果をさらに高めることができると考えられる。
【0089】
分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)は、水性ポリウレタン樹脂(A)1kg中に環状イミド基を0.5モル以上有するものであることが好ましく、1モル以上有するものであることがより好ましい。
【0090】
分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)の数平均分子量は、特に制限されないが、インクジェットインキに用いる場合には、数平均分子量が1000〜15000であることが適当であり、1300〜10000であることがより適当であり、1600〜8000であることがさらに適当である。
上述したポリウレタン反応は逐次反応であることから、本発明の活性エネルギー線硬化性ポリウレタン樹脂の数平均分子量も、各反応成分(モノマー)の量を調整することにより容易に調整することができる。
【0091】
分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)が、上記一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)をモノマー原料としてウレタン反応させてなるものである場合、その数平均分子量は、以下の方法により算出することができる。
【0092】
水性ポリウレタン樹脂(A)の数平均分子量=nA’+(n+1)B’
(ただし、n:モノマーとして用いた全ジオ−ル化合物の総モル数、A’:モノマーとして用いた全ジオール化合物の数平均分子量、B’:ジイソシアネート化合物の数平均分子量である。)
【0093】
水性ポリウレタン樹脂(A)は、酸価が20〜120KOHmg/gであるものが好ましく、30〜110KOHmg/gであるものがより好ましく、35〜100KOHmg/gであるものがさらに好ましい。
【0094】
水性ポリウレタン樹脂(A)の酸価が上記範囲内にあることにより、水等の水性媒体への顔料(B)の分散性を向上させることができる。
上記酸価は、例えば、水性ポリウレタン樹脂(A)を構成するモノマーとして三級カルボキシル基含有ジオール化合物を採用し、そのモル数を調整することにより制御することができる。
【0095】
なお、水性ポリウレタン樹脂(A)の酸価ANは、以下の方法により算出することができる。
【0096】
【化8】

(ただし、a1はジメチロールプロピオン酸などの三級カルボキシル基含有ジオール化合物のモル数、A1はジメチロールプロピオン酸などの三級カルボキシル基含有ジオール化合物の分子量であり、a2、a3・・・anはその他のジオールのモル数、A2、A3・・・Anはその他のジオールの分子量である。また、b1,b2,b3・・・bnはジイソシアネート化合物のモル数、B1,B2,B3・・・Bnはジイソシアネート化合物の分子量である。)
【0097】
分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)は、環状イミド基自身が極性の低い構造部分と極性の高い構造部分を有する基であるため、優れた分散性を発揮するとともに、インクジェットインキ組成物や塗料組成物に用いたときに得られる塗膜が優れた画像濃度および隠蔽性を示すとともに優れた光沢を発揮し得る顔料分散体組成物を提供することができる。
さらに、水性ポリウレタン樹脂(A)が、一般式(I)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)に由来する構成単位や、一般式(II)で表わされる環状イミドモノオール化合物(a2)に由来する構成単位を有し、ポリウレタン樹脂の側鎖や末端に環状イミド基を有する櫛の歯状の構造を有するものであることにより、上記特性を効果的に発揮することができる。
【0098】
本発明の顔料水性分散体組成物は、上記分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン分散樹脂(A)とともに、顔料(B)および分散剤(C)とを含む。
【0099】
顔料(B)としては、不溶性アゾ顔料、溶性アゾ顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、イソインドリン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、ピランスロン系顔料、チオインジゴ系顔料、キノフタロン系顔料等の有機顔料を挙げることができ、これ等の有機顔料のうち、フタロシアニン系顔料が好適である。
フタロシアニン系顔料としては、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等を挙げることができ、フタロシアニンブルーが好適である。
フタロシアニンブルーとして、具体的には、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:2、15:3、15:6から選ばれる少なくとも1種以上を挙げることができる。
【0100】
本発明の顔料水性分散体組成物は、シナジストを含んでもよい。
シナジストとしては、フタロシアニン系シナジスト(フタロシアニン骨格を有する化合物からなるシナジスト)が好ましく、フタロシアニンスルフォン酸系シナジスト、フタロシアニン燐酸系シナジスト等のフタロシアニン骨格を有するとともにスルフォン酸基や燐酸基等の酸基が導入された化合物からなるシナジストがより好ましい。
フタロシアニンスルフォン酸系シナジストとして、具体的には、Lubrizol社製Solsperse 12000を挙げることができる。
本発明の顔料水性分散体組成物がシナジストを含む場合、水性分散体組成物の粘性を低下させて顔料(B)の溶媒(ビヒクル)への分散性を向上させることができる。
【0101】
本発明の顔料水性分散体組成物は、顔料(B)としてフタロシアニン系顔料を含み、シナジストとしてフタロシアニン系シナジストを含むものである場合に、特に粘性を低下させて顔料(B)の水など溶媒への分散性を好適に向上させることができる。
【0102】
分散剤(C)としては、水系溶媒等の溶媒への親和性と顔料への親和性を有するものであれば特に制限されず、例えば水系用分散剤、界面活性剤等として市販されているものを適宜使用することが使用でき、その中で特に好ましい例として、 Lubrizol社製Solsperse43000、44000、46000、BYK社製Disperbyk−190、191、194、2010等水系用途の分散剤を挙げることができる。
【0103】
本発明の顔料分散体組成物は、顔料分散体組成物100質量%中に、顔料(B)を3〜35質量%含むものであることが好ましく、3〜25質量%含むものであることがより好ましく、3〜20質量%含むものであることがさらに好ましい。
【0104】
本発明の顔料分散体組成物は、分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン分散樹脂(A)を、固形分換算で、顔料(B)100質量部に対して、2〜200質量部含むものであることが好ましく、3〜150質量部含むものであることがより好ましく、5〜100質量部含むものであることがさらに好ましい。
【0105】
本発明の顔料分散体組成物が上記シナジストを含むものである場合、固形分換算で、顔料(B)100質量部に対して、上記シナジストを、1〜30質量部含むものであることが好ましく、1〜20質量部含むものであることがより好ましく、1〜15質量部含むものであることがさらに好ましく、1〜10質量部含むものであることが一層好ましい。
【0106】
本発明の顔料分散体組成物は、分散剤(C)を、固形分換算で、顔料(B)100質量部に対して、1〜30質量部含むものであることが好ましく、1〜20質量部含むものであることがより好ましく、1〜10質量部含むものであることがさらに好ましい。
【0107】
本発明の顔料分散体組成物は、分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン分散樹脂(A)、顔料(B)および分散剤(C)を上記割合で含むものであることにより、優れた分散性を発揮するとともに、インクジェットインキ組成物や塗料組成物に用いたときに得られる塗膜が優れた画像濃度および隠蔽性を示すとともに優れた光沢を示すことができる。
【0108】
本発明の顔料分散体組成物は、水性媒体中に、分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン分散樹脂(A)と、顔料(B)と、分散剤(C)とを所望の含有割合になるように配合した上で、分散ミル等を用いて混合、分散することにより調製することができる。
水性媒体としては、水や、水を主成分として若干の有機溶媒を加えたものを挙げることができ、水であることが好ましい。
【0109】
本発明の顔料分散体組成物は、コーティング剤等を調製するための塗布材料予備混合物(ミルベース)であってもよい。
【0110】
本発明の顔料水性分散体組成物は、分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン分散樹脂(A)と、顔料(B)と、分散剤(C)とを含むものであることにより、優れた分散性を発揮することができ、水性インキ組成物に用いたときに、得られる塗膜が優れた画像濃度および隠蔽性を示すとともに優れた光沢を示すことができる。
【0111】
次に、本発明の水性インキ組成物について説明する。
本発明の水性インキ組成物は、本発明の顔料水性分散体組成物を含むことを特徴とするものである。
【0112】
本発明の水性インキ組成物としては、水性インクジェットインキ組成物、水性塗料組成物、紫外線硬化型水性インクジェットインキ、紫外線硬化型水性塗料、紫外線硬化型水性コーティング剤等を挙げることができる。
【0113】
本発明の水性インキ組成物がインクジェットインキ組成物である場合、本発明の顔料分散体組成物、すなわち分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン分散樹脂(A)、顔料(B)および分散剤(C)を所望の含有割合になるように分散させた分散体組成物に対し、さらに必要に応じ、攪拌しながら、上記シナジストや、公知任意の保湿剤、防腐剤、乳化剤、pH調整剤、消泡剤塗膜表面平滑剤等の添加剤、水溶性樹脂、水に分散したワックス、樹脂エマルションなどを添加して、攪拌し、必要に応じて水や水溶性有機溶媒を加えて粘度調整することにより製造することができる。
【0114】
また、顔料を均一に分散させるために界面活性剤を添加することも好ましく、界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性材、カチオン系界面活性材のいずれも使用することができる。例えば、アニオン系界面活性剤としては、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩等、ノニオン系界面活性剤としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル等、カチオン系界面活性剤としてはアルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩等を例示することができる。
【0115】
上記各成分を添加し、攪拌した後、適宜公知任意の濾過方法により濾過することが好ましい。
例えば、顔料スラリー中に大きな未分散塊や粗粒が存在する場合には、遠心分離や濾過などの方法により除去することが好ましく、未分散塊や粗粒を除去することにより、得られる水性顔料分散体組成物の粒度分布を制御することができ、水性顔料分散体組成物をインクジェットプリンター用インキ組成物に使用したときに、印刷時におけるノズルの目詰りの発生を抑制することができる。
【0116】
また、適宜顔料スラリーを中和してもよく、スラリーの中和処理を行った場合は、中和処理により生じた塩類(中和剤の酸化物)を除去することが好ましく、限外濾過膜(UF)、逆浸透膜(RO)、電気透析膜などの分離膜により除去することが好ましい。
【0117】
水性インクジェットインキ組成物の顔料濃度は、公知のインクジェットインキ組成物と同様の濃度にすることができ、顔料の種類などによって相違するが、顔料濃度は2〜15質量%程度であることが適当である。
【0118】
本発明の水性インキ組成物は、本発明の顔料水性分散体組成物を含むものであることから、得られる塗膜が優れた画像濃度および隠蔽性を示すとともに優れた光沢を示す。
【実施例】
【0119】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0120】
<分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)の合成>
(1)環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)の合成
撹拌、乾燥窒素吹き込み管および縮合水トラップ付き冷却管をセットしたフラスコ内に、ダイセル化学工業社製1−アミノプロパンジオール92質量部、トルエン79.4質量部を仕込んで攪拌し、さらに新日本理化社製リカシッドMH−700[4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸/ヘキサヒドロ無水フタル酸=70/30]164質量部を5分割した上で温度が90℃を上回らないように冷却しながら投入した。
リカシッドMH−700を全量仕込んだ後、90〜95℃で15分間保ち、テトライソプロピルチタン0.5質量部を加えた。次いで反応温度を徐々に上げて、110〜115℃のトルエン環流温度にて脱水反応を行った。
脱水量が18質量部に達したら酸価を測定し、酸価1.5[反応率99%相当]以下になるまで反応させることにより、環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)を得た。更に反応溶媒を70℃で減圧溜去し固形分が99%以上になるまで脱溶媒した。
【0121】
(2)環状イミドモノオール化合物(a2)の合成
撹拌、乾燥窒素吹き込み管および縮合水トラップ付き冷却管をセットしたフラスコ内に、広栄化学工業社製3−アミノプロパノール92.9質量部、トルエン74.4質量部を仕込み、さらに無水フタル酸148質量部を5分割した上で温度が90℃を上回らないように冷却しながら投入した。
無水フタル酸を全量仕込んだ後、90〜95℃で15分間保ち、テトライソプロピルチタン0.5質量部を加えた。次いで反応温度を徐々に上げて、110〜115℃のトルエン環流温度にて脱水反応を行った。
脱水量が18質量部に達したら酸価を測定し、酸価1.7[反応率99%相当]以下になるまで反応させることにより、環状イミドモノオール化合物(a2)を得た。更に反応溶媒を70℃で減圧溜去し固形分が99%以上になるまで脱溶媒した。
【0122】
(3)分子中に環状イミド基を有するイソシアネート末端水性ポリウレタン樹脂(A)の合成
撹拌、窒素ガス吹き込み管、玉入れ冷却管付きのフラスコ内に、酢酸エチル150質量部、ジメチロールブタン酸を34.5質量部、住化バイエルウレタン社製ディスモジュールI(イソホロンジイソシアネート)59.5質量部、住化バイエルウレタン社製ディスモジュールW(水添MDI)97.3質量部を加えて67℃で5時間反応した後、豊国製油社製ひまし油ELA−DRを40.3質量部、旭化成せんい(株)製PTXG1800(数平均分子量1791.8)を76.8質量部、上記(1)で得た環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)を41.4質量部、酢酸エチル116質量部を加え、83℃にて5時間反応させ(このときの反応溶液のイソシアネート基質量%は1.7質量%)、次いで、上記(2)で得た環状イミドモノオール化合物(a2)50.2質量部、酢酸エチル134質量部を加えて83℃で更に5時間反応させ(このときのNCO%は0.01%)、35℃まで冷却した後、さらに、トリエチルアミンを41.2質量部加えて30分間攪拌することにより、側鎖および末端に環状イミド基を有するイソシアネート末端水性ポリウレタン樹脂(A)(以下、「ポリウレタン樹脂1」と称する)の含有液を得た。
得られたポリウレタン樹脂1の含有液は、不揮発分含有割合が50.0質量%、ガードナー気泡粘度がZ3−4で、ポリウレタン樹脂1は、GPC測定(ポリスチレン換算ゲルパーミエーションクロマトグラフ)による数平均分子量が4080、重量平均分子量が13100であるものであった。
【0123】
(実施例1)フタロシアニン系顔料水性分散体αの調製
上記ポリウレタン樹脂1(不揮発分50.0質量%)を20質量部、DIC社製Fastgen Blue FA5380(銅フタロシアニン)を20質量部、BYK社製Disperbyk−192を1.2質量部、BYK社製Disperbyk−198を4.8質量部、日信化学工業社製オルフィンAK02を0.8質量部、イオン交換水53.2質量部をマヨネーズ瓶に入れ、0.6mmφジルコニアビーズ150質量部を加えて浅田鉄工社製ペイントシェーカーで3時間分散処理した後、ビーズと分散液を濾別して、分散液中の酢酸エチル(ポリウレタン樹脂の反応溶媒)を減圧蒸留して溜去することにより、フタロシアニン系顔料水性分散体αを得た。
得られたフタロシアニン系顔料水性分散体αは、不揮発分含有割合が27.9質量%、粘度が5.7mPa・s、フタロシアニン濃度が15.5質量%であり、固形分換算で、分散体中に含まれるフタロシアニン系顔料100質量部に対して、ポリウレタン樹脂1を50質量部、分散剤を24質量部含むものであった。
【0124】
(実施例2)フタロシアニン系顔料水性分散体βの調製
上記ポリウレタン樹脂1(不揮発分50.0質量%)を20質量部、DIC社製Fastgen Blue FA5380(銅フタロシアニン)を20質量部、ルーブリゾール社製Solsperse−46000を2質量部、ルーブリゾール社製Solsperse−12000を0.5質量部、日信化学工業社製オルフィンAK02を0.8質量部、イオン交換水56.7部をマヨネーズ瓶に入れ、0.6mmφジルコニアビーズ150質量部を加えて浅田鉄工社製ペイントシェーカーで3時間分散処理した後、ビーズと分散液を濾別して、分散液中の酢酸エチル(ポリウレタン樹脂の反応溶媒)を減圧蒸留して溜去することにより、フタロシアニン系顔料水性分散体βを得た。
得られたフタロシアニン系顔料水性分散体βは、不揮発分含有割合が26.5質量%、粘度が2.92mPa・s、フタロシアニン濃度が16.3質量%であり、固形分換算で、分散体中に含まれるフタロシアニン系顔料100質量部に対して、ポリウレタン樹脂1を50質量部、シナジストを2.5質量部、分散剤を10質量部含むものであった。
【0125】
(比較例1)比較フタロシアニン系顔料水性分散体γの調製
比較用水性ポリウレタン樹脂として、DIC社製ポリウレタン樹脂ディスパージョン ハイドランHW−163(不揮発分含有割合33質量%、粘度34mPa・s)を30.3質量部、DIC社製Fastgen Blue FA5380(銅フタロシアニン)20質量部、ルーブリゾール社製Solsperse−46000を2質量部、ルーブリゾール社製Solsperse−12000を0.5質量部、日信化学工業社製オルフィンAK02を0.8質量部、イオン交換水46.4部をマヨネーズ瓶に入れ、0.6mmφジルコニアビーズ150質量部を加えて浅田鉄工社製ペイントシェーカーで3時間分散処理した後、ビーズと分散液を濾別して、不揮発分含有割合を27質量%に調整した、粘度が22.6mPa・s、フタロシアニン濃度が16.6質量%である比較フタロシアニン系顔料水性分散体γを得た。
【0126】
(実施例3)リキッドインキ1の調製
実施例1で得たフタロシアニン系顔料水性分散体αを32.3質量部とイオン交換水67.7質量部とを混合することにより、リキッドインキ1を得た。
【0127】
(実施例4)リキッドインキ2の調製
実施例2で得たフタロシアニン系顔料水性分散体βを30.7質量部とイオン交換水69.3質量部とを混合することにより、リキッドインキ2を得た。
【0128】
(実施例5)リキッドインキ3の調製
実施例2で得たフタロシアニン系顔料水性分散体βを30.7質量部と、DIC社製ポリウレタン樹脂ディスパージョン ハイドランHW−163(不揮発分含有割合33質量%、粘度34mPa・s)を3.0質量部と、イオン交換水66.3質量部とを混合することにより、リキッドインキ3を得た。
【0129】
(比較例2)比較リキッドインキ1の調製
比較例1で得た比較フタロシアニン系顔料水性分散体γを30.1質量部とイオン交換水69.9質量部とを混合することにより、比較リキッドインキ1を得た。
【0130】
(比較例3)比較リキッドインキ2の調製
比較例1で得た比較フタロシアニン系顔料水性分散体γを30.1質量部と、DIC社製ポリウレタン樹脂ディスパージョン ハイドランHW−163(不揮発分含有割合33質量%、粘度34mPa・s)を3.0質量部と、イオン交換水66.8質量部とを混合することにより、比較リキッドインキ2を得た。
【0131】
(比較例4)比較リキッドインキ3の調製
市販シアンインクジェットインキとして、(株)エコリカ製ECI−E47Cカートリッジからシアンインクを取り出して、比較リキッドインキ3とした。
【0132】
上記リキッドインキ1〜3の組成を表1に示すとともに、比較リキッドインキ1〜3の組成を表2に示す。
【0133】
【表1】

【0134】
【表2】

【0135】
上記リキッドインキ1〜3および比較リキッドインキ1〜3の光沢、画像濃度(OD)、分散性を以下の方法で評価した。各リキッドインキの分散性は顔料の隠蔽力や着色力と関係することから、リキッドインキの分散性を評価することにより、顔料の隠蔽力や着色力を評価することもできる。これらの評価結果を表3に示す。
【0136】
<光沢評価>
各インキを、ドローダウンロッドNo.6にて、東レ(株)製75μm厚ポリエステルフイルムに表面処理を施したパナック社製ACL75TACXに塗布した後、5分間100℃の送風乾燥機で乾燥させ、得られた塗膜の60°光沢をBYK−Gardner GmbH社製光沢計(製品名:micro−gloss60°)で測定し、以下の基準で評価した。
○:60°光沢測定値が80以上
△:60°光沢測定値が70〜79
×:60°光沢測定値が60〜69
【0137】
<画像濃度(OD)評価>
各インキをドローダウンロッドNo.6にて普通紙に塗布した後、5分間100℃の送風乾燥機で乾燥させた、得られた塗膜の反射光学的濃度(OD値)をX−rite社製色差計X−Rite−528で測定し、以下の基準で評価した。
○:OD値1.0以上
×:OD値1.0未満
【0138】
<分散性の評価>
動的光散乱粒度測定機(マイクロトラック社製UPA−EX150)を用い、各インキの体積基準積算粒度分布を測定し、以下の基準で評価した。
○:粒度分布が正規分布で、積算粒度で50%の粒径(平均粒径D50)が100〜120nmである。
△:粒度分布が正規分布で、積算粒度で50%の粒径(平均粒径D50)が120nmを超え150nm未満である。
×:積算粒度で50%の粒径(平均粒径D50)が150nm以上であるか、または粒度分布が正規分布でなく2以上のピークを有する。
【0139】
【表3】

【0140】
表3より、本発明に係る顔料水性分散体組成物を含むリキッドインキ1〜3は、得られる塗膜が優れた光沢および画像濃度(OD)を示すとともに、顔料の分散性に優れるものであることが分かり、また、顔料の分散性に優れることから、顔料の隠蔽性や着色性に優れるものであることも分かる。
これに対して、比較リキッドインキ1〜3は、本発明に係る顔料水性分散体組成物を含まないことから、得られる塗膜の光沢が劣ったり(比較リキッドインキ1〜3)、画像濃度(OD)が十分なものでなかったり(比較リキッドインキ3)、顔料の分散性が不十分で、顔料の隠蔽性や着色性に劣るものである(比較リキッドインキ1〜2)ことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明によれば、優れた分散性を発揮する顔料水性分散体組成物を提供することができるとともに、得られる塗膜が優れた画像濃度および隠蔽性を示し、更に優れた光沢を示す水性インキ組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン分散樹脂(A)、顔料(B)および分散剤(C)を含むことを特徴とする顔料水性分散体組成物。
【請求項2】
前記分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン分散樹脂(A)が、下記一般式(I)
【化1】


(ただし、RおよびRは、水素原子であるか炭素数1〜6の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、RおよびRが結合して環状構造を成していてもよい。Rは、炭素数1〜22のアルキレン基、Rは、炭素数0〜22のアルキレン基である。)で表わされる環状イミド基を側鎖に有するジオール化合物(a1)をモノマー原料としてウレタン反応させてなるものである請求項1に記載の顔料水性分散体組成物。
【請求項3】
前記分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン分散樹脂(A)が、さらに下記一般式(II)
【化2】


(ただし、RおよびRは、水素原子であるか炭素数1〜6の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、RおよびRが結合して環状構造を成していてもよく、Rは、炭素数1〜22のアルキレン基である。)で表わされる環状イミドモノオール化合物(a2)をモノマー原料としてポリウレタン主鎖の側鎖または末端にウレタン反応させてなるものである請求項2に記載の顔料水性分散体組成物。
【請求項4】
前記顔料(B)がフタロシアニン系顔料である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の顔料分散体組成物。
【請求項5】
前記顔料(B)を3〜35質量%含むとともに、
固形分換算で、前記顔料(B)100質量部に対し、前記分子中に環状イミド基を有する水性ポリウレタン分散樹脂(A)を2〜200質量部、前記分散剤(C)を1〜30質量部含む請求項1〜請求項4のいずれかに記載の顔料水性分散体組成物。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の顔料水性分散体組成物を含むことを特徴とする水性インキ組成物。

【公開番号】特開2013−53200(P2013−53200A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191420(P2011−191420)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000219576)東海カーボン株式会社 (155)
【Fターム(参考)】