説明

顔料溶液、それを用いた有機顔料ナノ粒子の製造方法、及びそれにより得られた有機顔料ナノ粒子

【課題】従来溶解させることが困難であった難溶性顔料であても均一に溶解し、再沈法等の微粒子製造方法に用いうる有機顔料種の幅を広げた顔料溶液を提供する。また、上記の優れた特性を有し、ナノメートルサイズの顔料微粒子を得る再沈法に好適に用いることができる粘度を低く抑えた顔料溶液、それを用いた有機顔料ナノ粒子製造方法、及びそれにより得られる有機顔料ナノ粒子を提供する。
【解決手段】有機顔料と、塩基と、比誘電率50以上の高誘電率有機溶媒とを少なくとも含む微粒子製造用の顔料溶液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料溶液、それを用いた有機顔料ナノ粒子の製造方法、及びそれにより得られた有機顔料ナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、着色材としての顔料は、鮮明な色調と高い着色力、耐候性を有し、多くの分野で広く使用されてきている。これらの顔料の中でも実用上重要なものは、一般に、微細な粒子のものが多く、該顔料の凝集を防ぎ微細化することによって鮮明な色調と高い着色力とが得られる。
このような微細な有機顔料は、例えば塗料、印刷インク、電子写真用トナー、インクジェットインク、カラーフィルタ等を用途としてあげることができ、非常に重要な化合物となっている。中でも高性能が要求され、実用上特に重要なものとしては、インクジェット用顔料及びカラーフィルタ用顔料が挙げられる。
インクジェット用インクの色材については、従来、染料が用いられてきたが、より高い耐水性や耐光性を有する顔料が用いられるようになってきている。換言すると、顔料インクにより得られた画像は、染料系のインクによる画像に比べて耐光性、耐水性に優れるという利点を有する。ただし顔料は染料に対して紙への密着性が低く、これを改善するために紙表面の微細な凹凸や空孔に速やかにムラなく滲みこませることを考慮し、顔料を微細化することが考えられる。しかし、顔料を例えばナノメートルサイズで均一に微細化(すなわち単分散化)することは難しい。
またデジタルカメラの高画素化に伴い、CCDセンサーなどの光学素子や表示素子に用いるカラーフィルタの薄層化が望まれている。これに対し、カラーフィルタには有機顔料が用いられており、上記フィルタの厚さは有機顔料の粒子径に大きく依存する。そのため、顔料をナノメートルサイズレベルでしかも単分散で安定な微粒子として製造することが上記画像関連機器の高性能化のために切望されている。
近年、粒子を微細化する種々の取り組みがなされており、特に粉砕法、析出法などでは製造することが困難なナノメートルサイズ(例えば、10〜100nmの範囲)にまで小サイズ化する研究が進められている。さらに、ナノメートルサイズに小サイズ化し、しかも単分散な粒子とすることが試みられている。その中の1つである析出法として、良溶媒に溶解した試料を貧溶媒に注入することにより、ナノ粒子を得る再沈法が開示されており(特許文献1及び2参照)、またそこに所定の高分子化合物等を用いる方法が挙げられる(例えば特許文献3及び4参照)。
【特許文献1】特開2004−123853号公報
【特許文献2】特開2003−336001号公報
【特許文献3】国際公開第WO2006/121016号パンフレット
【特許文献4】特開2004−043776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の再沈法で作られた粒子は単分散性が良く、分子レベルから粒子を作る(ビルドアップする)ためより微細な粒子ができることが期待される。しかし、有機溶剤に対して難溶である有機顔料はそもそも溶かすことが難しく、用いうる有機顔料は限られる。さらに、このとき用いる溶媒は顔料を溶かすことができればどのようなものでもよいということではない。顔料種によっては分解もしくは反応が進行してしまったり、粘性が高くなりすぎたりすることがある。
本発明は、従来溶解させることが困難であった難溶性顔料であっても均一に溶解し、再沈法等の微粒子製造方法に用いうる有機顔料種の幅を広げた顔料溶液の提供を目的とする。また、上記の優れた特性を有し、ナノメートルサイズの顔料微粒子を得る再沈法に好適に用いることができる粘度を低く抑えた顔料溶液、それを用いた有機顔料ナノ粒子製造方法、及びそれにより得られる有機顔料ナノ粒子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題は、下記の手段によって達成された。
(1)有機顔料と、塩基と、比誘電率50以上の高誘電率有機溶媒とを少なくとも含む微粒子製造用の顔料溶液。
(2)(1)記載の顔料溶液を、前記塩基及び前記高誘電率有機溶媒の混合溶媒に相溶し前記有機顔料に対して貧溶媒となる溶媒と混合して前記有機顔料の微粒子を析出させる工程を少なくとも含む有機顔料ナノ粒子の製造方法。
(3)前記顔料溶液に高分子化合物を含有させることを特徴とする(2)記載の有機顔料ナノ粒子の製造方法。
(4)前記有機顔料に対して貧溶媒となる溶媒に高分子化合物を含有させることを特徴とする(2)または(3)記載の有機顔料ナノ粒子の製造方法。
(5)有機顔料と塩基と比誘電率50以上の高誘電率有機溶媒とを少なくとも含む顔料溶液を、前記塩基及び前記高誘電率有機溶媒の混合溶媒に相溶し前記有機顔料に対して貧溶媒となる溶媒と混合して前記有機顔料を析出させたナノメートルサイズの微粒子であることを特徴とする有機顔料ナノ粒子。
【発明の効果】
【0005】
本発明の顔料溶液は、従来溶解させることが困難であった難溶性顔料であっても均一に溶解し、再沈法等の微粒子製造方法に用いうる有機顔料種の幅を大幅に広げるという優れた作用効果を奏する。
また、本発明の顔料溶液は上記の優れた特性を有し、しかも粘度が低く取扱い性に優れ、ナノメートルサイズの顔料微粒子を得ることができる再沈法に好適に用いることができ、微粒子形成の効率及び制御性を大幅に高めるという優れた作用効果を奏する。
本発明の有機顔料ナノ粒子製造方法によれば、従来再沈法に適用することが困難であったものを含め広い有機顔料種において、ナノメートルサイズに微細化した有機顔料ナノ粒子を、効率良くかつ純度良く得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で用いられる有機顔料としては、塩基と比誘電率50以上(以後、比誘電率をεで表すことがある。)の高誘電率溶媒とで溶解しうるものであればいかなるものでも使用でき、色相的に限定されるものではない。例えば、ペリレン、ペリノン、キナクリドン、キナクリドンキノン、アントラキノン、アントアントロン、ベンズイミダゾロン、ジスアゾ縮合、ジスアゾ、アゾ、インダントロン、フタロシアニン、トリアリールカルボニウム、ジオキサジン、アミノアントラキノン、ジケトピロロピロール、インジゴ、チオインジゴ、イソインドリン、イソインドリノン、ピラントロンもしくはイソビオラントロン化合物顔料、またはそれらの混合物などが挙げられる。
更に詳しくは、たとえば、ピグメントレッド190、ピグメントレッド224、ピグメントバイオレット29等のペリレン化合物顔料、ピグメントオレンジ43、もしくはピグメントレッド194等のペリノン化合物顔料、ピグメントバイオレット19、ピグメントバイオレット42、ピグメントレッド122、ピグメントレッド192、ピグメントレッド202、ピグメントレッド207、もしくはピグメントレッド209のキナクリドン化合物顔料、ピグメントレッド206、ピグメントオレンジ48、もしくはピグメントオレンジ49等のキナクリドンキノン化合物顔料、ピグメントイエロー147等のアントラキノン化合物顔料、ピグメントレッド168等のアントアントロン化合物顔料、ピグメントブラウン25、ピグメントバイオレット32、ピグメントオレンジ36、ピグメントイエロー120、ピグメントイエロー180、ピグメントイエロー181、ピグメントオレンジ62、もしくはピグメントレッド185等のベンズイミダゾロン化合物顔料、ピグメントイエロー93、ピグメントイエロー94、ピグメントイエロー95、ピグメントイエロー128、ピグメントイエロー166、ピグメントオレンジ34、ピグメントオレンジ13、ピグメントオレンジ31、ピグメントレッド144、ピグメントレッド166、ピグメントレッド220、ピグメントレッド221、ピグメントレッド242、ピグメントレッド248、ピグメントレッド262、もしくはピグメントブラウン23等のジスアゾ縮合化合物顔料、ピグメントイエロー13、ピグメントイエロー83、もしくはピグメントイエロー188等のジスアゾ化合物顔料、ピグメントレッド187、ピグメントレッド170、ピグメントイエロー74、ピグメントイエロー150、ピグメントレッド48、ピグメントレッド53、ピグメントオレンジ64、もしくはピグメントレッド247等のアゾ化合物顔料、ピグメントブルー60等のインダントロン化合物顔料、ピグメントグリーン7、ピグメントグリーン36、ピグメントグリーン37、ピグメントブルー16、ピグメントブルー75、もしくはピグメントブルー15等のフタロシアニン化合物顔料、ピグメントブルー56、もしくはピグメントブルー61等のトリアリールカルボニウム化合物顔料、ピグメントバイオレット23、もしくはピグメントバイオレット37等のジオキサジン化合物顔料、ピグメントレッド177等のアミノアントラキノン化合物顔料、ピグメントレッド254、ピグメントレッド255、ピグメントレッド264、ピグメントレッド272、ピグメントオレンジ71、もしくはピグメントオレンジ73等のジケトピロロピロール化合物顔料、ピグメントレッド88等のチオインジゴ化合物顔料、ピグメントイエロー139、ピグメントオレンジ66等のイソインドリン化合物顔料、ピグメントイエロー109、もしくはピグメントオレンジ61等のイソインドリノン化合物顔料、ピグメントオレンジ40、もしくはピグメントレッド216等のピラントロン化合物顔料、またはピグメントバイオレット31等のイソビオラントロン化合物顔料が挙げられる。中でも、キナクリドン、ベンズイミダゾロン、アゾ、フタロシアニン、ジオキサジン、アントラキノン、ジケトピロロピロール化合物顔料が好ましく、キナクリドン、ベンズイミダゾロン、フタロシアニン、ジオキサジン化合物顔料がより好ましい。また、これらの有機顔料は、単独で用いても、または2種類以上併用して用いてもよい。
【0007】
塩基としては、上記高誘電率溶媒と組み合わせて、所望の有機顔料を可溶化するものであれば、どのようなものでもよい。具体的には有機塩基、無機塩基が好ましく、有機塩基がより好ましい。
有機塩基の例としては、第1級アミン類、第2級アミン類、第3級アミン類、第4級アミン類、アニリン類、ピペリジン類、ピペラジン類、アミジン類、フォルムアミジン類、ピリジン類、グアニジン類、モルホリン類、含窒素複素環類、金属アルコキシド類等があげられるがこれらに限定されるものではない。これらの中でも、第3級アミン類、第4級アミン類、モルホリン類、含窒素複素環類、金属アルコキシド類等が好ましい。
具体的には、アニリン、2−クロロアニリン、3−フルオロアニリン、2,4−ジフルオロアニリン、2−ニトロアニリン、N,N−ジエチルアニリン、2,6−ジエチルアニリン、2,4−ジメトキシアニリン、p−フェニレンジアミン、ピリジン、2−アミノピリジン、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、2,2−ジピリジル、ピロリジン、ピペリジン、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、オキサゾール、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン、ジアザビシクロオクタン、1−シアノグアニジン、N,N‘−ジフェニルグアニジン、シクロヘキシルアミン、ブチルアミン、シクロプロピルアミン、t−ブチルアミン、ベンジルアミン、ジイソプロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、テトラヒドロキノリン、フェニルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、モルホリン、チオモルホリン、N−メチルモルホリン、ヘキサメチルホスホルアミド、1−メチル−4−ピペリドン、N−(2−アミノエチル)ピペラジン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ビス−(3−アミノプロピル)エーテル、ソジウムメトキシド、ソジウムエトキシド、ソジウム−t−ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウム−t−ブトキシドなどが挙げられる。
これらの中でも、アニリン、2,4−ジフルオロアニリン、ピリジン、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン、ジアザビシクロオクタン、トリエチルアミン、テトラヒドロキノリン、フェニルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、N−メチルモルホリン、N−(2−アミノエチル)ピペラジン、ソジウムメトキシド、ソジウムエトキシド、ソジウム−t−ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウム−t−ブトキシドが好ましく、2,4−ジフルオロアニリン、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン、テトラヒドロキノリン、フェニルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、N−メチルモルホリン、ソジウムメトキシド、カリウム−t−ブトキシドがより好ましい。
無機塩基の例として、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩、ほう酸塩、りん酸塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、酢酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等が挙げられる。これらの中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、がより好ましい。
【0008】
本発明において、塩基は1種類単独で、もしくは2種類以上を併用して使用することもできる。また、上記塩基の使用量は特に限定されるものではないが、溶解させる対象の顔料に対して等モル量以上用いることが好ましく、1〜10モル当量用いることがより好ましい。
なお、顔料がアルカリ性で解離可能な基を有するとき通常塩基で溶解させることができ、この観点から本発明に用いる顔料としては例えば、ジケトピロロピロール系顔料、アゾ顔料、ジスアゾ縮合顔料、キナクリドン系顔料が好ましい。また、本発明においては塩基を用いるため酸に比べて用いる装置に対する付加が軽減される。
【0009】
本発明の顔料溶液において、塩基と混合して用いる有機溶媒は、比誘電率が50以上の有機溶媒であればいかなるものでも使用可能であるが、上記の塩基と均一に混合するものが好ましい。本発明において「比誘電率」とは、特に断らない限り真空の誘電率に対する有機溶媒の誘電率の比をいい、室温で液体の有機化合物については室温における値を、室温で固体の有機化合物については有機顔料の溶解に用いるときの温度における値をいう。
【0010】
本発明の顔料溶液に用いられる有機溶媒の比誘電率としては、化学便覧基礎編II(日本化学会編、改訂3版、5版)を参照すると、例えば、ホルムアミド(ε=111.0,20℃)、スクシノニトリル(ε=62.6,25℃)、p−ニトロアニリン(ε=56.3,160℃)、N−メチルアセトアミド(ε=179.0,30℃)、N−エチルアセトアミド(ε=135.0,20℃)などが挙げられる。これらは単独で用いても、2種類以上併用して用いてもよい。またこれらの溶媒は、水を含有しないことが好ましい。本発明の顔料溶液に用いられる高誘電率有機溶媒は上述のとおり、比誘電率が50以上のものであれば特に限定されないが、この比誘電率は高ければ高いほど好ましい。
【0011】
本発明の顔料溶液において、混合溶媒を構成する塩基と高誘電率有機溶媒との割合については、塩基、高誘電率有機溶媒がそれぞれ含まれてさえいればよいが、塩基と高誘電率有機溶媒が相溶する、あるいは均一に混ざる量であることが好ましい。ただし、顔料の溶解性を考慮すると、高誘電率有機溶媒100質量部に対して、塩基を1質量部以上加えることが好ましい。また、顔料溶液の粘度などを考慮に入れると、高誘電率有機溶媒100質量部に対して、加える塩基の量は10000質量部以下であることが好ましい。
【0012】
本発明において、有機顔料を溶解させるのに用いる高誘電率の溶媒は、上記塩基と組み合わせず単独で、上記有機顔料を溶解する溶解度が0.2質量%以上のものであることが好ましく、0.5質量%以上のものであることがより好ましい。この溶解度は特に上限は無いが、通常用いられる有機顔料を考慮すると50質量%以下であることが実際的である。また顔料を溶かす際には、あらかじめ上記高誘電率溶媒と塩基とを含有する溶媒を調製してから顔料を加え溶かしてもよいし、顔料と塩基とをあらかじめ加えてから高誘電率有機溶媒を加えてもよいし、顔料と高誘電率有機溶媒をあらかじめ加えた後に塩基を添加していってもよい。また顔料を混合溶媒に溶かす際には、熱をかけてもよいし、超音波を使って溶かしてもよい。
本発明において、有機顔料を溶解するときの温度は特に限定されないが、0〜100℃であることが好ましく、20〜80℃であることがより好ましい。
【0013】
本発明の顔料溶液には有機顔料が所望量均一に溶解させられている。この溶解量は顔料種や顔料溶液の用途等により適宜定めればよいが、再沈法において高い収率で有機顔料微粒子を得ることを考慮し、0.01〜30質量%の顔料溶解量とすることが好ましく、0.1〜20質量%の溶解量とすることがより好ましい。なお、本発明において均一に溶解ないし均一に混合とは、可視光線下で観測した場合にほとんど濁りが観測されない溶液であり、本発明では1μm以下のミクロフィルタを通して得られる溶液、または1μmのフィルタを通した場合に濾過される物を含まない溶液を均一に溶解した溶液と定義する。
【0014】
本発明において、溶媒を構成する塩基と高誘電率有機溶媒との組み合わせは、お互いに相溶する、あるいは均一に混ざるものであればどのようなものでもよい。例えば、組み合わせの例として、ソジウムメトキシドとN−メチルアセトアミド、ソジウムメトキシドとN−エチルアセトアミド、ソジウムメトキシドとホルムアミド、ソジウムメトキシドとスクシノニトリル、ジアザビシクロウンデセンとN−メチルアセトアミド、ジアザビシクロウンデセンとN−エチルアセトアミド、ジアザビシクロウンデセンとホルムアミド、ジアザビシクロウンデセンとスクシノニトリル、ジアザビシクロノネンとN−エチルアセトアミド、ジアザビシクロノネンとN−メチルアセトアミド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドとN−エチルアセトアミド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドとN−メチルアセトアミド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドとホルムアミド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドとスクシノニトリル、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドとN−エチルアセトアミド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドとN−メチルアセトアミド、カリウム−t−ブトキシドとN−エチルアセトアミド、カリウム−t−ブトキシドとN−メチルアセトアミド、カリウム−t−ブトキシドとホルムアミド、カリウム−t−ブトキシドとスクシノニトリル、N−メチルモルホリンとN−エチルアセトアミド、N−メチルモルホリンとN−メチルアセトアミド、テトラヒドロキノリンとN−メチルアセトアミド、テトラヒドロキノリンとN−エチルアセトアミド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドとN−エチルアセトアミドとN−メチルアセトアミド、などが挙げられる。
これらの中でも、ソジウムメトキシドとN−メチルアセトアミド、ソジウムメトキシドとN−エチルアセトアミド、ジアザビシクロウンデセンとN−メチルアセトアミド、ジアザビシクロウンデセンとN−エチルアセトアミド、ジアザビシクロノネンとN−エチルアセトアミド、ジアザビシクロノネンとN−メチルアセトアミド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドとN−エチルアセトアミド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドとN−メチルアセトアミド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドとN−エチルアセトアミド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドとN−メチルアセトアミド、カリウム−t−ブトキシドとN−エチルアセトアミド、カリウム−t−ブトキシドとN−メチルアセトアミドが好ましく、ソジウムメトキシドとN−エチルアセトアミド、ジアザビシクロウンデセンとN−メチルアセトアミド、ジアザビシクロウンデセンとN−エチルアセトアミド、ジアザビシクロノネンとN−エチルアセトアミド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドとN−エチルアセトアミド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドとN−メチルアセトアミド、カリウム−t−ブトキシドとN−エチルアセトアミドがより好ましい。
【0015】
次に、本発明の有機顔料ナノ粒子の製造方法について説明する。
本発明の製造方法においては、上記の顔料溶液を、該溶液中に溶解した有機顔料に対しては貧溶媒となる溶媒と混合して、有機顔料微粒子を析出させる。
顔料溶液と混合させることにより有機顔料を析出させる貧溶媒については、特に限定されないが、貧溶媒に対する有機顔料の溶解度が0.02質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましい。有機顔料の貧溶媒への溶解度にとくに下限はないが、通常用いられる有機顔料を考慮すると0.0001質量%以上が実際的である。
【0016】
また、貧溶媒は上記塩基及び高誘電率溶媒の混合溶媒と相溶するものであり、ここで貧溶媒と混合溶媒とが相溶するとは両者の少なくとも一部が均一に混合することをいう。具体的に混合溶媒の貧溶媒に対する溶解量が30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。混合溶媒の貧溶媒に対する溶解量に特に上限はないが、任意の割合で混じり合うことが実際的である。
【0017】
本発明の製造方法に用いられる貧溶媒としては例えば、水、アルコール化合物溶媒、ケトン化合物溶媒、エーテル化合物溶媒、芳香族化合物溶媒、二硫化炭素溶媒、脂肪族化合物溶媒、二トリル化合物溶媒、エステル化合物溶媒、スルホキシド化合物溶媒、アミド化合物溶媒、ハロゲン化合物溶媒が挙げられ、1箇所、または数箇所が不飽和結合であっても、あるいはハロゲン化されていてもよい。これらの中でも、水、アルコール化合物溶媒、エステル化合物溶媒、ケトン化合物溶媒であることが好ましく、水、アルコール化合物溶媒、エステル化合物溶媒であることがより好ましい。これらの溶媒は2種以上の混合溶媒としてもよい。
【0018】
上記溶媒の具体例としては、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、酢酸エチル、乳酸エチル、2−(1−メトキシ)プロピルアセテート、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジクロロメタン、トリクロロエチレン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、ピリジン、キノリン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
本発明の製造方法において、有機顔料溶液に用いた塩基と高誘電率有機溶媒との混合溶媒と貧溶媒とで同じ溶媒を用いることはない。採用する各有機顔料との関係で上記混合溶媒に対する溶解度が、貧溶媒に対する溶解度より十分高ければよい。例えばその溶解度差が0.2質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。有機顔料の混合溶媒に対する溶解度と貧溶媒に対する溶解度との差に特に上限はないが、通常用いられる有機顔料を考慮すると50質量%以下であることが実際的である。
【0020】
貧溶媒の状態は特に限定されず、常圧から亜臨界、超臨界条件の範囲を選択できる。常圧での温度は−30〜100℃が好ましく、−10〜60℃がより好ましく、0〜30℃が特に好ましい。顔料溶液の温度は−50℃〜100℃が好ましく、0℃〜100℃がより好ましい。また顔料溶液の粘度は0.5〜80.0mPa・sであることが好ましく1.0〜50.0mPa・sであることがより好ましい。
【0021】
顔料溶液と貧溶媒とを混合する際、両者のどちらを添加して混合してもよいが、顔料溶液を貧溶媒に液中添加することが好ましく、この際噴流して混合することがより好ましく、さらにその際に貧溶媒が撹拌された状態であることが特に好ましい。撹拌速度は100〜10000rpmが好ましく150〜8000rpmがより好ましく、200〜6000rpmが特に好ましい。添加にはポンプ等を用いることもできるし、用いなくてもよい。また、液中添加でも液外添加でもよいが、液中添加がより好ましい。さらに供給管を介してポンプで液中に連続供給することが好ましい。供給管の内径は0.1〜200mmが好ましく0.2〜100mmがより好ましい。供給管から液中に供給される速度としては1〜10000ml/minが好ましく、5〜5000ml/minがより好ましい。
【0022】
顔料溶液と貧溶媒との混合に当り、レイノルズ数を調節することにより、析出生成させる有機ナノ粒子の粒子径を制御することができる。ここでレイノルズ数は流体の流れの状態を表す無次元数であり次式で表される。
Re=ρUL/μ ・・・ 数式(1)
数式(1)中、Reはレイノルズ数を表し、ρは顔料溶液の密度[kg/m]を表し、Uは顔料溶液と第2溶媒とが出会う時の相対速度[m/s]を表し、Lは顔料溶液と第2溶媒とが出会う部分の流路もしくは供給口の等価直径[m]を表し、μは顔料溶液の粘性係数[Pa・s]を表す。
【0023】
等価直径Lとは、任意断面形状の配管の開口径や流路に対し等価な円管を想定するとき、その等価円管の直径をいう。等価直径Lは、配管の断面積をA、配管のぬれぶち長さ(周長)または流路の外周をpとすると下記数式(2)で表される。
L=4A/p ・・・ 数式(2)
配管を通じて顔料溶液を貧溶媒中に注入して粒子を形成することが好ましく、配管に円管を用いた場合には等価直径は円管の直径と一致する。例えば、液体供給口の開口径を変化させて等価直径を調節することができる。等価直径Lの値は特に限定されないが、例えば、上述した供給口の好ましい内径と同義である。
【0024】
顔料溶液と貧溶媒とが出会う時の相対速度Uは、両者が出会う部分の面に対して垂直方向の相対速度で定義される。すなわち、例えば静止している貧溶媒中に顔料溶液を注入して混合する場合は、供給口から注入する速度が相対速度Uに等しくなる。相対速度Uの値は特に限定されないが、例えば、0.5〜100m/sとすることが好ましく、1.0〜50m/sとすることがより好ましい。
【0025】
顔料溶液の密度ρは、選択される材料の種類により定められる値であるが、本発明の製造方法に好ましく用いられる材料の範囲では、例えば、0.8〜2.0kg/mであることが実際的である。また、顔料溶液の粘性係数μについても用いられる材料や環境温度等により定められる値であるが、その好ましい範囲は、上述した顔料溶液の好ましい粘度と同義である。
【0026】
レイノルズ数(Re)の値は、小さいほど層流を形成しやすく、大きいほど乱流を形成しやすい。例えば、レイノルズ数を60以上で調節して有機ナノ粒子の粒子径を制御して得ることができ、100以上とすることが好ましく、150以上とすることがより好ましい。レイノズル数に特に上限はないが、例えば、100000以下の範囲で調節して制御することで良好な有機ナノ粒子を制御して得ることができ好ましい。あるいは、得られるナノ粒子の平均粒径が60nm以下となるようにレイノルズ数を高めた条件としてもよい。このとき、上記の範囲内においては、通常レイノルズ数を高めることで、より粒径の小さな有機ナノ粒子を制御して得ることができる。
【0027】
顔料溶液と貧溶媒との混合比は体積比で1/50〜2/3が好ましく、1/40〜1/2がより好ましく、1/20〜3/8が特に好ましい。
有機微粒子を析出させた場合液中のナノ粒子濃度は特に制限されないが、溶媒1000mlに対して有機粒子が10〜40000mgの範囲であることが好ましく、より好ましくは20〜30000mgの範囲であり、特に好ましくは50〜25000mgの範囲である。
また、顔料ナノ粒子を生成させる際の調製スケールは、特に限定されないが、貧溶媒の混合量が10〜2000Lの調製スケールであることが好ましく、50〜1000Lの調製スケールであることがより好ましい。
【0028】
有機粒子の粒径に関しては、計測法により数値化して集団の平均の大きさを表現する方法があるが、よく使用されるものとして、分布の最大値を示すモード径、積分分布曲線の中央値に相当するメジアン径、各種の平均径(数平均、長さ平均、面積平均、質量平均、体積平均等)などがあり、本発明においては、特に断りのない限り、平均粒径とは数平均径をいう。本発明において、有機顔料ナノ粒子(一次粒子)の平均粒径はナノメートルサイズであり、平均粒径が1nm〜1μmであることが好ましく、1〜200nmであることがより好ましく、2〜100nmであることがさらに好ましく、5〜80nmであることが特に好ましい。なお本発明の製造方法で形成される粒子は結晶質粒子でも非晶質粒子でもよく、またはこれらの混合物でもよい。
【0029】
また、粒子の単分散性を表す指標として、本発明においては、特に断りのない限り、体積平均粒径(Mv)と数平均粒径(Mn)の比(Mv/Mn)を用いる。有機ナノ粒子の(一次粒子)の単分散性、つまりMv/Mnは、1.0〜2.0であることが好ましく、1.0〜1.8であることがより好ましく、1.0〜1.5であることが特に好ましい。
【0030】
有機粒子の粒径の測定方法としては、顕微鏡法、重量法、光散乱法、光遮断法、電気抵抗法、音響法、動的光散乱法が挙げられ、顕微鏡法、動的光散乱法が特に好ましい。顕微鏡法に用いられる顕微鏡としては、例えば、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡などが挙げられる。動的光散乱法による粒子測定装置として、例えば、日機装社製ナノトラックUPA−EX150、大塚電子社製ダイナミック光散乱光度計DLS−7000シリーズなどが挙げられる。
【0031】
本発明の製造方法では、顔料ナノ粒子を析出させ分散液を調製するに当り、顔料溶液及び貧溶媒の少なくとも一方に高分子化合物を含有させることが好ましい。このとき少なくとも顔料溶液に高分子化合物を含有させることが好ましい。
予め高分子化合物により表面処理を施された顔料粒子を用いることも好ましく、顔料粒子には高分子化合物の吸着を促進し得るような表面処理が施されていてもよい。高分子化合物は(1)析出した顔料表面に素早く吸着して、微細なナノ粒子を形成し、かつ(2)これらの粒子が再び凝集することを防ぐ作用を有するものである。
【0032】
高分子化合物としては、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合物、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、他にもアニオン性、カチオン性、両イオン性、ノニオン性もしくは顔料誘導体の高分子化合物を使用することができる。
高分子化合物としては、その質量平均分子量が1,000〜500,000であることが好ましく、10,000〜500,000であることがより好ましく、10,000〜100,000であることが特に好ましい。なお本発明において単に分子量というときには質量平均分子量を意味し、特に断らない限りゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(キャリア:テトラヒドロフラン)により測定したポリスチレン換算の分子量を用いる。
【0033】
具体的には、BYK Chemie社製「Anti−Terra−U(ポリアミノアマイド燐酸塩)」、「Anti−Terra−203/204(高分子量ポリカルボン酸塩)」、「Disperbyk−101(ポリアミノアマイド燐酸塩と酸エステル)、107(水酸基含有カルボン酸エステル)、110(酸基を含む共重合物)、130(ポリアマイド)、161、162、163、164、165、166、170(高分子共重合物)」、「400」、「Bykumen」(高分子量不飽和酸エステル)、「BYK−P104、P105(高分子量不飽和酸ポリカルボン酸)」、「P104S、240S(高分子量不飽和酸ポリカルボン酸とシリコン系)」、「Lactimon(長鎖アミンと不飽和酸ポリカルボン酸とシリコン)」が挙げられる(いずれも商品名)。
【0034】
また、Efka CHEMICALS社製「エフカ44、46、47、48、49、54、63、64、65、66、71、701、764、766」、「エフカポリマー100(変性ポリアクリレート)、150(脂肪族系変性ポリマー)、400、401、402、403、450、451、452、453(変性ポリアクリレート)、745(銅フタロシアニン系)」、共栄社化学社製「フローレン TG−710(ウレタンオリゴマー)、「フローノンSH−290、SP−1000」、「ポリフローNo.50E、No.300(アクリル系共重合物)」、楠本化成社製「ディスパロン KS−860、873SN、874(高分子分散剤)、#2150(脂肪族多価カルボン酸)、#7004(ポリエーテルエステル型)」が挙げられる(いずれも商品名)。
【0035】
さらに、花王社製「デモールRN、N(ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩)、MS、C、SN−B(芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩)、EP」、「ホモゲノールL−18(ポリカルボン酸型高分子)、「エマルゲン920、930、931、935、950、985(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)、「アセタミン24(ココナッツアミンアセテート)、86(ステアリルアミンアセテート)」、ゼネカ社製「ソルスパーズ5000(フタロシアニンアンモニウム塩系)、13240、13940(ポリエステルアミン系)、17000(脂肪酸アミン系)、24000、32000」、日光ケミカル社製「ニッコール T106(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート)、MYS−IEX(ポリオキシエチレンモノステアレート)、Hexagline 4−0(ヘキサグリセリルテトラオレート)」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0036】
他にも、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド、ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール−部分ホルマール化物、ポリビニルアルコール−部分ブチラール化物、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンオキシド/プロピレンオキシドブロック共重合体、ポリアクリル酸塩、ポリビニル硫酸塩、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリ(4−ビニルピリジン)塩、ポリアミド、ポリアリルアミン塩、縮合ナフタレンスルホン酸塩、セルロース誘導体、澱粉誘導体などが挙げられる。その他、アルギン酸塩、ゼラチン、アルブミン、カゼイン、アラビアゴム、トンガントゴム、リグニンスルホン酸塩などの天然高分子類も使用できる。なかでも、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチルが好ましい。これら高分子化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、また、低分子量の化合物を組み合わせて用いてもよい。顔料の分散に用いる高分子化合物に関しては、「顔料分散安定化と表面処理技術・評価」(化学情報協会、2001年12月発行)の29〜46頁に詳しく記載されている。
【0037】
アニオン性高分子化合物(アニオン性界面活性剤)としては、N−アシル−N−アルキルタウリン塩、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等を挙げることができる。なかでも、N−アシル−N−アルキルタウリン塩が好ましい。N−アシル−N−アルキルタウリン塩としては、特開平3−273067号明細書に記載されているものが好ましい。これらアニオン性高分子化合物は、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
カチオン性高分子化合物(カチオン性界面活性剤)には、四級アンモニウム塩、アルコキシル化ポリアミン、脂肪族アミンポリグリコールエーテル、脂肪族アミン、脂肪族アミンと脂肪族アルコールから誘導されるジアミンおよびポリアミン、脂肪酸から誘導されるイミダゾリンおよびこれらのカチオン性物質の塩が含まれる。これらカチオン性高分子化合物は、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
両イオン性高分子化合物は、前記アニオン性高分子化合物が分子内に有するアニオン基部分とカチオン性高分子化合物が分子内に有するカチオン基部分を共に分子内に有する高分子化合物である。
【0039】
ノニオン性高分子化合物(ノニオン性界面活性剤)としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステルなどを挙げることができる。なかでも、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルが好ましい。これらノニオン性高分子化合物は、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
顔料誘導体型高分子化合物とは、親物質としての有機顔料から誘導され、その親構造を化学修飾することで製造される顔料誘導体型高分子化合物、あるいは化学修飾された顔料前駆体の顔料化反応により得られる顔料誘導体型高分子化合物と定義する。例えば、糖含有顔料誘導体型高分子化合物、ピペリジル含有顔料誘導体型高分子化合物、ナフタレンまたはペリレン誘導顔料誘導体型高分子化合物、メチレン基を介して顔料親構造に連結された官能基を有する顔料誘導体型高分子化合物、ポリマーで化学修飾された顔料親構造、スルホン酸基を有する顔料誘導体型高分子化合物、スルホンアミド基を有する顔料誘導体型高分子化合物、エーテル基を有する顔料誘導体型高分子化合物、あるいはカルボン酸基、カルボン酸エステル基またはカルボキサミド基を有する顔料誘導体型高分子化合物などがある。
【0041】
高分子化合物として、アミノ基を含有する高分子化合物を用いることも好ましい。ここで、アミノ基とは一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基を含み、アミノ基の数は一つでも複数でもよい。顔料骨格にアミノ基を有する置換基を導入した顔料誘導体化合物でも、アミノ基を有するモノマーを重合成分としたポリマー化合物でもよい。これらの例として、例えば、特開2000−239554号公報、2003−96329号公報、2001−31885号公報、特開平10−339949号公報、特公平5−72943号公報、特願2006−129714号明細書の段落0047〜0113、国際公開第WO2006/121017号パンフレットの段落0018〜0033に記載の化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
高分子化合物の含有量は、顔料ナノ粒子の均一分散性および保存安定性をより一層向上させるために、顔料100質量部に対して0.1〜1000質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜500質量部の範囲であり、さらに好ましくは5〜20質量部の範囲である。0.1質量部未満であると顔料ナノ粒子の分散安定性の向上が見られない場合がある。また、高分子化合物は、単独で用いても、複数のものを組み合わせて用いてもよい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」「部」は質量基準である。
【0044】
[実施例1]
有機顔料(PR254)2部に、ポリビニルピロリドン(K−25、商品名、和光純薬社製)2部、37%テトラブチルアンモニウムヒドロキシドメタノール溶液(東京化成社製)4.7部、N−エチルアセトアミド(東京化成社製)200部を加え、顔料溶液S−1を得た。これとは別に貧溶媒として、1mol/l塩酸4部を含有した水1500部を用意した。ここで、18℃に温度コントロールし、GK−0222−10型ラモンドスターラー(商品名、藤沢薬品工業社製)により500rpmで攪拌した貧溶媒の水1500部に、顔料溶液S−1をNP−KX−500型大容量無脈流ポンプ(商品名、日本精密化学社製)を用いて注入した。顔料溶液の送液配管の流路径及び供給口径を0.5mmとし、その供給口を貧溶媒中に入れ、流速50ml/minで100部注入することにより、有機顔料粒子を形成し、顔料分散液A−1を調製した。
【0045】
[実施例2〜41]
実施例1において、顔料溶液の組成を下記表1に示す以外は、実施例1と同様に顔料溶液S−2〜S−41を調製し、実施例1と同様の条件で有機顔料粒子を形成させ、顔料分散液A−2〜A−41を得た。
【0046】
【表1】

【0047】
[比較例1]
有機顔料(PR254)2部に、ポリビニルピロリドン(K−25、商品名、和光純薬社製)2部、ジアザビシクロウンデセン2.8部(東京化成社製)、メタノール200部を加え、顔料混合液T−1を得た。このとき顔料はほとんど溶解していなかった。
【0048】
[比較例2〜4、比較例6〜9]
比較例1において、成分組成を下記表2に示すようにした以外は、比較例1と同様に顔料混合液T−2〜T−4、T6〜T9を得た。これらの混合液において顔料はほとんど溶解していなかった。
【0049】
[比較例5]
有機顔料(PR254)2部に、ポリビニルピロリドン(K−25、商品名、和光純薬社製)2部、37%テトラブチルアンモニウムヒドロキシドメタノール溶液(東京化成社製)200部を加え、顔料溶液T−5を得た。1mol/l塩酸334部を含有した水1500部を用意した。ここで、18℃に温度コントロールし、GK−0222−10型ラモンドスターラー(商品名、藤沢薬品工業社製)により500rpmで攪拌した貧溶媒の水1500部に、顔料溶液T−5をNP−KX−500型大容量無脈流ポンプ(商品名、日本精密化学社製)を用いて注入した。顔料溶液の送液配管の流路径及び供給口径を0.5mmとし、その供給口を貧溶媒中に入れ、流速50ml/minで100部注入することにより、有機顔料粒子を形成し、顔料分散液T−5を調製した。
【0050】
【表2】

【0051】
<評価>
各顔料溶液、及び顔料分散液について評価を行った。結果を表3、4に示す。
(溶解性)
顔料溶液を偏光顕微鏡(OPTIPHOT−POL(商品名)、ニコン社製)を用いて観察し、不溶物の有無を確認した。
○ :完溶
× :一部もしくは全量不溶
(粘度)
各分散液の25℃における粘度を、粘度計(VICOMATE MODEL VM−10A(商品名)、CBC社製)を用いて測定し、下記の基準で評価した。
A:6mPa・s未満
B:6mPa・s以上、20mPa・s未満
C:20mPa・s以上
×:顔料が不溶の為、測定不能。
(平均粒径)
顔料粒子の粒子径は、支持膜を張ったメッシュ上に顔料粒子分散液を滴下、乾燥したものを試料として、透過型電子顕微鏡(日本電子社製JEM−2010、商品名)を用い、加速電圧100kVで観察を行った。続いて、測定した写真の粒子を1つずつ100個以上画像処理を行って、その粒子径の平均を出した。その平均粒径を下記の基準で評価した。
A:平均粒径が50nm未満
B:平均粒径が50nm以上、100nm未満
C:平均粒径が100nm以上
×:顔料が不溶のため、粒子形成不能
【0052】
[表3]
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
実施例 溶解 粘度 平均粒径
(顔料溶解液)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
1(S−1) ○ A A
2(S−2) ○ A A
3(S−3) ○ A A
4(S−4) ○ A A
5(S−5) ○ A A
6(S−6) ○ A A
7(S−7) ○ A A
8(S−8) ○ A A
9(S−9) ○ B A
10(S−10) ○ A A
11(S−11) ○ A A
12(S−12) ○ A A
13(S−13) ○ A A
14(S−14) ○ A A
15(S−15) ○ A A
16(S−16) ○ B A
17(S−17) ○ A A
18(S−18) ○ A A
19(S−19) ○ A A
20(S−20) ○ A A
21(S−21) ○ A A
22(S−22) ○ A A
23(S−23) ○ A A
24(S−24) ○ B A
25(S−25) ○ A A
26(S−26) ○ A A
27(S−27) ○ A A
28(S−28) ○ A A
29(S−29) ○ A A
30(S−30) ○ A A
31(S−31) ○ A A
32(S−32) ○ A A
33(S−33) ○ A A
34(S−34) ○ A A
35(S−35) ○ A A
36(S−36) ○ B A
37(S−37) ○ A A
38(S−38) ○ A A
39(S−39) ○ A A
40(S−40) ○ A A
41(S−41) ○ A A
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0053】
[表4]
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
比較例 溶解 粘度 平均粒径
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
1(T−1) × × ×
2(T−2) × × ×
3(T−3) × × ×
4(T−4) × × ×
5(T−5) ○ B C
6(T−6) × × ×
7(T−7) × × ×
8(T−8) × × ×
9(T−9) × × ×
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0054】
上記比較例においては、顔料微粒子の形成に使用しうる顔料種が限定されしまった。これに対し、本願発明によれば上記実施例で用いたすべての顔料を溶解させることができ、多様な顔料を溶解させることが可能であった。この結果から、本発明によれば、溶解させることができる有機顔料種の幅が格段に広がり、多様な顔料種において再沈法により高性能の顔料微粒子を得られることが分かる。
【0055】
さらに、これらの顔料溶液は低粘度であり、再沈法における取扱い性が格段に向上した。すなわち、例えば、顔料溶液をポンプを用いて貧溶媒に注入して有機顔料粒子を形成する際、低粘度であればポンプに掛かる負荷が減り、小さな流量はもとより大きな流量であっても送液することが可能となる。そのため、低粘度の顔料溶液を用いることで、例えば顔料溶液と貧溶媒とを混合する際のレイノルズ数をより広範囲にわたって調節することができ、微粒子形成条件の制御性が大幅に向上する。
【0056】
また、この顔料溶液を良溶媒として用い、貧溶媒と混合して粒子形成を行ったところ、比較例においては十分微細な顔料微粒子は得られなかった。これに対し、本発明の顔料溶液によれば平均粒径50nm未満にまで微細化した顔料粒子を得ることができた。この結果から、本発明の顔料溶液は再沈法に特に好適に用いることができ、先端画像関連機器等に求められる厳しい要求を満足しうる、多様な色相の顔料種において微細な顔料ナノ粒子が得られることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機顔料と、塩基と、比誘電率50以上の高誘電率有機溶媒とを少なくとも含む微粒子製造用の顔料溶液。
【請求項2】
請求項1記載の顔料溶液を、前記塩基及び前記高誘電率有機溶媒の混合溶媒に相溶し前記有機顔料に対して貧溶媒となる溶媒と混合して前記有機顔料の微粒子を析出させる工程を少なくとも含む有機顔料ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記顔料溶液に高分子化合物を含有させることを特徴とする請求項2記載の有機顔料ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記有機顔料に対して貧溶媒となる溶媒に高分子化合物を含有させることを特徴とする請求項2または3記載の有機顔料ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
有機顔料と塩基と比誘電率50以上の高誘電率有機溶媒とを少なくとも含む顔料溶液を、前記塩基及び前記高誘電率有機溶媒の混合溶媒に相溶し前記有機顔料に対して貧溶媒となる溶媒と混合して前記有機顔料を析出させたナノメートルサイズの微粒子であることを特徴とする有機顔料ナノ粒子。

【公開番号】特開2009−84412(P2009−84412A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255500(P2007−255500)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ナノテクノロジープログラム「ナノテク・先端部材実用化研究開発」/「有機顔料ナノ結晶の新規製造プロセスの研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】