説明

顔料誘導体の選択又は設計方法及びそれを用いて製造された顔料誘導体

【課題】顔料を顔料誘導体で実際に処理して顔料組成物を得て、その顔料組成物を評価してみなくても、分散性や分散後の保存安定性に優れた顔料誘導体を選択でき又は設計できる方法を提供することにあり、またその方法を用いた顔料誘導体の製造方法、及びその方法を用いて得られた顔料誘導体を提供すること。
【解決手段】顔料に顔料誘導体を処理してなる顔料組成物において、分散性の良好な顔料組成物を与える顔料誘導体の選択又は設計方法であって、
顔料誘導体の双極子モーメントを測定又は計算する工程と、
該測定又は計算された双極子モーメントの数値から顔料誘導体を選択、又は、該双極子モーメントの数値から顔料誘導体を設計する工程と、
を含むことを特徴とする顔料誘導体の選択又は設計方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料誘導体の選択又は設計方法に関し、更に詳しくは、「顔料に顔料誘導体を処理してなる顔料組成物」の分散性や貯蔵安定性を良好にするような顔料誘導体の選択又は設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、顔料は、ビヒクルと呼ばれる液相成分に混合分散させて用いられている。しかし、処理されていない顔料を、ビヒクルに混合分散させる際には、顔料を安定してビヒクル中に分散させることが難しく、ビヒクル中に一旦分散した微細な顔料粒子は、そのビヒクル中で凝集する傾向があり、その結果、顔料が分散されたビヒクルの粘度の上昇、又は、該顔料が分散されたビヒクルを使用した「インキ、塗料等の着色組成物」の着色力の低下を生ずることとなる。そのため、該顔料を安定に分散させる目的で顔料分散剤が多種上市されているほか、顔料に対しても、例えば、ロジン処理、顔料誘導体処理等のように、顔料の表面を「分散性を改良する物質」で修飾しているのが一般的である。
【0003】
なかでも、顔料誘導体は、顔料骨格の一部に置換基が導入されている化合物であり、該置換基と顔料分散剤との間に相互作用が発生する。顔料誘導体が顔料表面に吸着されることにより、顔料誘導体と相互作用している分散剤の静電的若しくは立体的反発作用が働き、これが顔料の凝集を防ぎ、顔料が安定に分散される。
例えば、特許文献1には、塗料、インキ、インクジェットインク、カラートナー、カラーレジスト等のビヒクル中における有機顔料の凝集に対し、顕著な改善効果を与える顔料誘導体について記載されている。
【0004】
しかしながら、顔料誘導体は、顔料表面に吸着して初めてその性能を発揮するものであるため、顔料誘導体の善し悪しは、実際に顔料誘導体で処理した顔料を分散してみて、得られた分散液や「その分散液を用いた着色組成物」を評価して判断をせざるを得なかった。この評価方法としては、例えば、分散された顔料の平均粒径測定;分散液を用いてのペーパークロマトグラフィー、粘度等の測定;分散液や着色組成物の紙等の媒体への着色力の測定;着色されたものの光沢、コントラスト等の測定等が挙げられるが、このように、実際に分散して得られた結果物を評価する方法しかなかった。
【0005】
例えば、特許文献2には、顔料分散系の凝集の検出法として、ペーパークロマトグラフィーを用いることによって、顔料組成物の凝集程度を評価することが記載されている。
また、特許文献3には、顔料分散液から塗膜を作製し、塗膜光沢を測定することによって、顔料が微分散されていることを評価することが記載されている。
また、特許文献4には、表面処理顔料や樹脂等から塗料を作製し、塗料の粘度を測定することや、該塗料をPETフィルムに展色し、焼き付けた塗膜の光沢を評価することが記載されている。
【0006】
また、顔料表面への顔料誘導体の吸着状態について、その見積りはこれまで検討されてこなかった。現状は、経験に頼ったり、顔料誘導体の顔料骨格部分の化学構造の類似性等で推測したりするしかなく、故に、顔料誘導体の選択や設計に関しては、膨大な量の合成作業や検証を必要としてきた。
【0007】
一方、例えば、特許文献5及び特許文献6では、顔料のコンディショニングに関して双極子モーメントの概念を用いてはいるが、溶剤の双極子モーメントの値を定義しており、顔料及び顔料誘導体の双極子モーメントに関する記載はない。
【0008】
また、特許文献7には、塩基性染料と酸性染料の電気的な引き合いを防ぐため、酸性染料の双極子モーメントを15デバイ以下にしたインクジェット記録用水性インクが記載されているが、顔料組成物の製造方法に関しても、顔料や顔料誘導体に関しても、その物質が持つ双極子モーメントの値を用いている例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−235337号公報
【特許文献2】特公昭63−033899号公報
【特許文献3】特許第4196418号公報
【特許文献4】特開2002−317126号公報
【特許文献5】特開2000−066022号公報
【特許文献6】特許第4236931号公報
【特許文献7】特許第3901110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、顔料を顔料誘導体で実際に処理して顔料組成物を得て、その顔料組成物を評価してみなくても、分散性や分散後の保存安定性に優れた顔料誘導体を選択でき又は設計できる方法を提供することにあり、またその方法を用いた顔料誘導体の製造方法、及びその方法を用いて得られた顔料誘導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の課題を解決し、顔料誘導体の性能を発現させるべく、顔料表面への顔料誘導体の吸着に関して鋭意検討を重ねた結果、顔料と顔料誘導体とは互いに化学構造が似ていないと顔料表面への顔料誘導体の吸着性、付着性等の相互作用が劣るという従来の技術常識が必ずしも正しくないことを見出した。そして、むしろ顔料誘導体分子の双極子モーメントが顔料表面への吸着、付着等に大きく影響していることを見出した。
【0012】
すなわち、顔料誘導体分子が持つ双極子モーメントが大きいほど、結果として顔料を分散性良く安定にビヒクル中に分散させることが可能となることを見出した。具体的には、特に双極子モーメントが、好ましくは3デバイ(Debye)以上の値を示す顔料誘導体は、顔料表面に吸着し易い性質を持つことを見出して、本発明を完成するに至った。
【0013】
<1>すなわち、本発明は、
顔料に顔料誘導体を処理してなる顔料組成物において、分散性の良好な顔料組成物を与える顔料誘導体の選択又は設計方法であって、
顔料誘導体の双極子モーメントを測定又は計算する工程と、
該測定又は計算された双極子モーメントの数値から顔料誘導体を選択、又は、該双極子モーメントの数値から顔料誘導体を設計する工程と、
を含むことを特徴とする顔料誘導体の選択又は設計方法を提供するものである。
【0014】
<2>また、本発明は、上記<1>記載の顔料誘導体の選択又は設計方法を使用して顔料誘導体を選択又は設計することを特徴とする顔料誘導体の製造方法を提供するものである。
<3>また、本発明は、上記<1>記載の顔料誘導体の選択又は設計方法を使用して選択又は設計された顔料誘導体を顔料に処理する工程を含むことを特徴とする顔料組成物の製造方法を提供するものである。
【0015】
<4>また、本発明は、上記<3>記載の顔料組成物の製造方法を使用して製造された顔料組成物で着色することを特徴とする着色組成物の製造方法を提供するものである。
<5>また、本発明は、上記<4>記載の着色組成物の製造方法を使用して製造された着色組成物を少なくとも含むことを特徴とするカラーフィルターの製造方法を提供するものである。
【0016】
<6>また、本発明は、上記<1>記載の顔料誘導体の選択又は設計方法を使用して選択又は設計されたものであることを特徴とする双極子モーメントが3デバイ(Debye)以上である顔料誘導体を提供するものである。
<7>また、本発明は、上記<3>記載の顔料組成物の製造方法を使用して製造されたものであることを特徴とする顔料組成物を提供するものである。
<8>また、本発明は、上記<7>記載の顔料組成物で着色されたものであることを特徴とする着色組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、前記問題点と上記課題を解決し、顔料の表面に付着又は吸着させて分散性が良好な顔料組成物を与える顔料誘導体の選択又は設計方法を提供することができる。特に微細な顔料を分散する際、その分散液の貯蔵安定性に優れた顔料組成物を得ようとしたとき、分散性の良好な顔料組成物を与える顔料誘導体の選択又は設計方法を提供することができる。
【0018】
すなわち、従来の顔料誘導体の選択又は設計方法が、トライ&エラーであったのに対し、本発明の双極子モーメントの数値を使った選択又は設計方法は、実際に分散してみなくても、分散性、分散安定性、貯蔵安定性等を予想して、優れた顔料誘導体を選択又は設計できる。
【0019】
また、特許文献2には、「(分散性を良くするには、顔料誘導体に)顔料誘導体と強い親和性を持ち顔料に強固に吸着する成分を持つ必要があり、そのために骨格成分は被吸着顔料に限りなく似た構造を持つ必要がある」との記載があり、それが従来は技術常識であった。しかしながら、本発明によれば、同じ顔料から置換基導入等により得た顔料誘導体から、トライ&エラーで良い顔料誘導体を選択していた現状と異なり、骨格成分が顔料に限りなく似た構造を持たない、更には似た構造すら持たない顔料誘導体を選択又は設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】顔料誘導体の双極子モーメントと分散粘度の関係を示すグラフである。
【図2】顔料誘導体の分極率と分散粘度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的形態に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
【0022】
<顔料誘導体の選択又は設計方法>
本発明の顔料誘導体の選択又は設計方法は、
顔料に顔料誘導体を処理してなる顔料組成物において、分散性の良好な顔料組成物を与える顔料誘導体の選択又は設計方法であって、
顔料誘導体の双極子モーメントを測定又は計算する工程と、
該測定又は計算された双極子モーメントの数値から顔料誘導体を選択、又は、該双極子モーメントの数値から顔料誘導体を設計する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0023】
本発明において、顔料組成物とは、顔料に顔料誘導体を処理してなるものである。
【0024】
本発明における顔料としては、特に限定されないが、例えば、アゾ系顔料、不溶性アゾ顔料のジスアゾ系顔料及びモノアゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、キレート系顔料、キナクリドン系顔料、チオインジゴ系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、キノフタロン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、インジゴ系顔料、ピランスロン系顔料、アンスアンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、イソインドリン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、アンスラキノン系顔料等の有機顔料、カーボンブラック、その他無機顔料が挙げられる。
【0025】
上記顔料の具体例としては、例えば、C.I.ピグメントレッド9、11、81、97、122、123、146、149、168、177、180、192、209、213、215、216、217、220、223、224、226、227、228、240、242、254、255、264、269、270、272、48:1、48:2、48:3、48:4、57:1、53:1;C.I.ピグメントイエロー1、12、13、14、17、20、83、86、93、97、109、110、117、125、137、138、139、147、148、150、153、154、166、168、185;C.I.ピグメントブルー1、15、15:2、15:3、15:4、15:5、15:6、22、60、64;C.I.ピグメントグリーン7、36、58、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50;C.I.ピグメントオレンジ36、43、51、55、59、61、71、81;C.I.ピグメントブラウン23、26;C.I.ピグメントブラック7等が挙げられる。
【0026】
本発明における「顔料誘導体」とは、顔料の表面を改質し、顔料のビヒクル内での分散性、分散安定性、分散液の貯蔵安定性等を向上させるために用いられるものである。顔料分子に、以下に限定されるわけではないが、分散剤との親和基;イオン性基;カルボキシル基やスルホン基等の酸性基;アルキルアミド基等の塩基性基;フタルイミドメチル基等の官能基;等が導入された化合物をいう。また、顔料の表面の「改質」とは、顔料の表面に顔料誘導体が付着や吸着すること、又は、ファンデルワールス力等で相互作用することが含まれる。
【0027】
「顔料誘導体」における「顔料」(誘導体化される顔料)は、前記したように、その「顔料誘導体」を用いて表面を改質しようとする顔料(以下、「被吸着顔料」と略記することがある)には限定されない。「顔料誘導体」における「顔料」(誘導体化される顔料)と、被吸着顔料は、互いに化学構造が異なっていてもよく、互いに上記した顔料系のうち同系の顔料同士である必要もなく、更に、互いに色が異なるものであってもよい。従来は、顔料表面への付着性等が大きいと考えられていたため、また、顔料誘導体の付着により特に顔料の色目を変える必要もないため、被吸着顔料をそのまま誘導体化して顔料誘導体を合成していた。本発明は、優れた顔料誘導体や、被吸着顔料と顔料誘導体の相性は、その化学構造の類似性よりも、むしろ顔料誘導体の双極子モーメントの数値に依存することを見出したことによってなされたものである。
【0028】
本発明において、顔料誘導体は、少なくとも、
顔料誘導体の双極子モーメントを測定又は計算する工程(工程(1))と、
該測定又は計算された双極子モーメントの数値から顔料誘導体を選択又は、該双極子モーメントの数値から顔料誘導体を設計する工程(工程(2))
によって選択又は設計される。
【0029】
<<工程(1)>>
顔料誘導体の双極子モーメントを測定又は計算する方法は、特に限定されないが、例えば測定方法としては、誘電率を測定し、そこから算出する方法、シュタルク効果の測定から算出する方法、UV−visスペクトル測定からマクレーの式を用いて算出する方法等が用いられる。
【0030】
顔料誘導体の双極子モーメントの計算方法としては、特に限定はなく公知のものが用いられるが、ab initio分子軌道法、経験的分子軌道法である拡張ヒュッケル法、半経験的分子軌道法であるPPP近似や、ハミルトニアンとしてCNDO/2、INDO、MINDO、MNDO、AM1、PM3、PM5等を用いた計算方法が好ましい。特にハミルトニアンとして、AM1、PM3、PM5を用いた計算方法が、株式会社菱化システムが扱う「MOPAC2009」、富士通株式会社が扱う「SCIGRESS」等、対応する分子軌道計算ソフトが多い点において好ましい。ハミルトニアンとしてAM1、PM3、PM5を用いた計算方法では、それぞれ扱う計算法が違うため異なる計算結果が出るが、複数の化合物の計算結果の比較を扱う場合は、単一の計算方法にしなければならない。
【0031】
計算方法の違いにより、求められる双極子モーメントの値はやや異なるが、同じ計算方法で双極子モーメントを求めれば、計算結果による誘導体の順列は変わらないので、計算された双極子モーメントの数値から顔料誘導体を選択又は設計することが可能である。
【0032】
実験を行わずにすむ点で、測定はせずに計算で双極子モーメントを算出する方法が好ましい。測定で双極子モーメントを求めるためには実際に顔料誘導体を合成する必要があるが、計算で双極子モーメントを求めれば、合成にかかる莫大な時間を節約できる。
【0033】
本発明の顔料誘導体の選択又は設計方法においては、選択や設計の基準となる値として、上記双極子モーメントの数値は、処理しようとする顔料の種類(具体的分子構造)、顔料誘導体の種類(誘導体化前の顔料、官能基等)および分子量、目標とする分散の程度、顔料の粒径、用いる分散剤の種類、分散媒の種類、着色組成物の種類、用途や目的等に応じて適宜設定することができる。
例えば、分散の要求度合いが低い場合には双極子モーメントの低い顔料誘導体も選択可能と判断し、顔料組成物や顔料分散液の設計の自由度を広げて考えることができる。あらかじめ顔料誘導体の双極子モーメントの値を測定または計算しておくことは、分散安定性を見込んだ上で顔料組成物や顔料分散液の設計を行なうことができるので、効率的な設計作業ができるようになり、有益である。
【0034】
分散性、分散安定性、貯蔵安定性等の良好な顔料組成物を与える顔料誘導体を選択又は設計するためには、双極子モーメントは3デバイ(Debye)以上が好ましく、4デバイ(Debye)以上がより好ましく、4.5デバイ(Debye)以上が特に好ましく、5デバイ(Debye)以上が更に好ましい。双極子モーメントが上記値より小さい場合は、顔料凝集防止効果、分散液粘度低下効果等が十分に得られない場合がある。また、双極子モーメントの上限は15デバイ(Debye)以下が好ましい。15デバイ(Debye)を越える顔料誘導体は、作成するのが難しい場合がある。以下、グラフ等で、単位「デバイ(Debye)」を、単に「D」と略記する場合がある。
【0035】
本発明における顔料誘導体の顔料骨格部分が被吸着顔料と相互作用を持ち、本発明における顔料誘導体の「官能基等の誘導体化部分」が分散剤や樹脂と相互作用を持ち、それによって、分散剤や樹脂の存在下に、本発明における顔料誘導体は、分散性、分散安定性、貯蔵安定性等の良好な顔料分散液や着色組成物を与える。顔料誘導体の双極子モーメントの数値が高いほど、非吸着顔料への配向性は強くなるので、分散性、分散安定性、貯蔵安定性等が向上するものと考えられる。
【0036】
上記した好ましい範囲の双極子モーメントの具体的数値は、半経験的分子軌道法における、ハミルトニアンとしてAM1を用いた計算方法で求めた数値である。詳しくは、Fujitsu SCIGRESS MO Compact(富士通(株)製)を用いて算出する。
【0037】
<<工程(2)>>
上記双極子モーメントの数値から顔料誘導体を選択又は設計する方法は、特に限定されなく、特定の双極子モーメントの値を持つものを選択すればよい。また、ある顔料誘導体双極子モーメントを測定又は計算してみて、その結果を参考に、別の顔料誘導体の化学構造を設計することも本発明の「選択又は設計する方法」に含まれる。このような、設計方法としては、例えば、顔料誘導体の置換基を変えたものについて双極子モーメントを計算し、その中より最適なものを選択する方法等が挙げられる。
【0038】
<顔料誘導体の製造方法>
本発明の顔料誘導体の製造方法は、上記の顔料誘導体の選択又は設計方法を使用して顔料誘導体を選択又は設計することを特徴とする。このため、顔料誘導体は、従来のようにトライ&エラーで選択又は設計する必要はなく、得られるはずの顔料組成物の分散安定性を予想し選択又は設計できる。また、双極子モーメントの数値から顔料誘導体を選択又は設計するため、従来のように顔料誘導体の骨格成分が被吸着顔料に限りなく似た構造を持つ必要はない。更には、顔料誘導体の骨格成分が被吸着顔料の骨格成分と非類似であっても、分散性等に優れた顔料組成物が存在することが分かったので、広い範囲から最適な顔料誘導体を選択又は設計することができる。
【0039】
顔料誘導体は、被吸着顔料の表面を改質するものであれば特に限定はないが、顔料に、官能基、分散剤との親和基、酸性基、塩基性基、イオン性基等を導入して製造されたものであることが好ましい。具体的には、カルボキシル基、スルホン基等の酸性基、アルキルアミド基等の塩基性基、フタルイミドメチル基、ニトロ基、スルホンアミド基等の基を導入して製造されたものであることが好ましい。また、顔料誘導体には、上記した酸基や塩基性基に対イオンが付いた塩も含まれる。
【0040】
顔料誘導体としては、特に限定はされないが、双極子モーメントの数値が3デバイ(Debye)以上の例としては、ピグメントレッド254のスルホン酸モノ置換体、ピグメントレッド264のスルホン酸モノ置換体のアルミニウム塩、ピグメントイエロー138のスルホン酸モノ置換体、ピグメントレッド255のスルホンアミド置換体等が挙げられる。
【0041】
<顔料組成物の製造方法>
本発明の顔料組成物の製造方法は、上記の顔料誘導体の選択又は設計方法を使用して選択又は設計された顔料誘導体を顔料に処理する工程を含むことを特徴とする。すなわち、本発明の顔料組成物は、被吸着顔料に上記顔料誘導体を処理することによって得られる。
【0042】
「処理」には、被吸着顔料の表面に、顔料誘導体を、物理的・化学的に付着・吸着させること;ファンデルワールス力等の相互作用によって被吸着顔料の表面を改質することが含まれる。
【0043】
なお、顔料メーカーは、本発明における「顔料組成物」を「顔料」と称して市販することもあり、「顔料」と称して市販されているものは、顔料単身ではなく、該被吸着顔料の表面を顔料誘導体で処理された顔料組成物であることが多い。
【0044】
本発明において、被吸着顔料に上記顔料誘導体を処理する具体的方法としては、以下の(1)ないし(6)のいずれかひとつの方法を有する方法であることが好ましい。
(1)少なくとも、水溶性有機溶剤、顔料、顔料誘導体及び水溶性無機塩を混練した後、水で水溶性無機塩を除去する方法、
(2)少なくとも、顔料及び顔料誘導体、任意成分として有機溶剤を、混練・混合・摩砕する方法、
(3)少なくとも、顔料誘導体をアルカリ性水溶液に溶解させ、更に顔料を加えて混練する方法、
(4)少なくとも、有機溶剤、顔料、顔料誘導体及び高分子分散剤を含む組成物をメディア式分散機及び又はメディアレス分散機で分散する方法、
(5)少なくとも、顔料、顔料誘導体及び高分子分散剤を含む組成物をロールミルで混練する方法、
(6)少なくとも、顔料、顔料誘導体、バインダー樹脂を含む組成物をロールミルで混練する方法、
【0045】
<<(1)の方法>>
(1)の方法における「水溶性有機溶剤」としては、特に限定はないが、メタノール、エタノール、プロピレングリコール、プロパノール、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、液体ポリエチレングリコール、液体ポリプロピレングリコール、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−ブタノール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、N−メチルピロリドン等が挙げられ、「水溶性無機塩」としては、食塩や水酸化カリウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0046】
また、「混練」には、ニーダー、プラネタリーミキサー(井上製作所製)、ミラクルKCK(浅田鉄工製)、トリミックス(浅田鉄工製)による混練等、公知の方法が用いられる。
【0047】
<<(2)の方法>>
(2)の方法における「有機溶剤」としては、特に限定はなく、例えば、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン系溶剤、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶剤、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶剤等が挙げられる。これらは単独であっても、複数の種類を用いてもよい。
【0048】
「混練・混合・摩砕する方法」としては、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、アトライター、ニーダー、プラネタリーミキサー(井上製作所製)等、公知の方法が用いられる。
【0049】
<<(3)の方法>>
(3)の方法における「アルカリ性水溶液」としては、特に限定はなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の水溶液が挙げられる。
【0050】
<<(4)の方法>>
(4)の方法における「高分子分散剤」としては、特に限定はなく、一般に市販されているものが挙げられる。また、「メディア式分散機」としては、特に限定はなく、ビーズミル、ボールミル、アトライター、グレンミル等が挙げられる。「メディアレス式分散機」としては、高圧分散機、超音波分散機等が挙げられる。
【0051】
<<(5)の方法>>
(5)の方法における「高分子分散剤」としては、特に限定はなく、一般に市販されているものが挙げられる。また、「ロールミル」としては、二本ロール、三本ロール等が挙げられる。
【0052】
<<(6)の方法>>
(6)の方法における「バインダー樹脂」としては、特に限定はなく、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアルキレン系樹脂等のビニル系樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;フェノール系樹脂;エポキシ樹脂;硝化綿樹脂;ポリウレタン樹脂等が挙げられる。また、「ロールミル」としては、二本ロール、三本ロール等が挙げられる。
【0053】
本発明において、上記被吸着顔料に顔料誘導体を処理する量としては、被吸着顔料100質量部に対して、顔料誘導体1〜100質量部が好ましく、1〜30質量部がより好ましく、3〜15質量部が特に好ましい。顔料誘導体の量が少なすぎる場合には、充分な顔料組成物の凝集防止効果、分散液粘度低下効果、貯蔵安定性向上効果が得られず、顔料誘導体の量が多すぎる場合には、顔料組成物の色合い、電気特性、耐熱性等に問題が生じる場合がある。
【0054】
<着色組成物の製造方法>
本発明の着色組成物の製造方法は、上記の顔料組成物の製造方法を使用して製造された顔料組成物で着色することを特徴とする。上記顔料組成物を分散媒に分散した「分散液」が、そのまま着色組成物となってもよく、上記顔料組成物を分散媒に分散して一旦「分散液」を調製し、その分散液を用いて、要すれば他の成分を加えたり、攪拌、加熱、硬化、塗布、乾燥等を行ったりして着色組成物としてもよい。また、分散液ではなく、「顔料組成物が樹脂中に分散された分散体」(以下、単に「分散体」と略記する場合がある)が着色組成物であってもよいし、「顔料組成物が樹脂中に分散された分散体」に更に上記操作を加えて着色組成物としてもよい。
【0055】
着色組成物は、上記顔料組成物を分散媒等に分散した「分散液」若しくは「分散体」そのものであったり、又は、「分散液」若しくは「分散体」から製造されたりするが、「分散液」若しくは「分散体」は、更に分散剤及び/又は補助樹脂(分散樹脂)を含有することが好ましい。分散剤としては、特に限定はないが、負の電荷と疎水基部分を有するアニオン性化合物、正の電荷と疎水基部分を有するカチオン性化合物が挙げられる。また、電荷がなくイオン解離しないが顔料親和性基と樹脂親和性基を併せ持つ、具体的には、親水性がある水酸基やエーテル結合を有する非イオン性化合物等が挙げられる。また、分散剤としては、低分子量の化合物又は重量平均分子量が数千から数万の化合物が挙げられ、公知の顔料分散剤を使用することもできる。
【0056】
分散剤としては、具体的には、例えば、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、変性ポリエステル、変性ポリアミド等の高分子分散剤;リン酸エステル等の界面活性剤;等を挙げることができる。
【0057】
本発明においては、これらの中でも、高分子分散剤が好ましく、具体的な商品名としては、EFKA−4046、EFKA−4047、EFKA−4300、Ciba EFKA−4330、Ciba EFKA−4340(以上、BASFジャパン社製)、Disperbyk111、Disperbyk161、Disperbyk165、Disperbyk182、Disperbyk2000、Disperbyk2001(以上、ビックケミー社製)、SOLSPERSE24000、SOLSPERSE27000、SOLSPERSE28000(以上、ルーブリゾール社製)、アジスパーPB821、アジスパーPB822(味の素ファインテクノ(株)製)等を挙げることができる。
【0058】
補助樹脂(分散樹脂)は、特に限定はなく、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアルキレン系樹脂等のビニル系樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;フェノール系樹脂;エポキシ樹脂;硝化綿樹脂;ポリウレタン樹脂;等が挙げられる。
【0059】
本発明の顔料誘導体の選択又は設計方法、及び、顔料組成物の製造方法を使用して得られた顔料組成物は、それを分散媒に分散した「分散液」の分散性、分散安定性、貯蔵安定性等に優れている。それは、本発明で得られた顔料組成物が、凝集防止効果、分散液粘度低下効果、顔料微細化効果、等に優れているからだと考えられる。分散媒に分散した「分散液」に関し、分散性、分散安定性、貯蔵安定性等が優れていれば、一般に、その顔料組成物は、樹脂に対する分散性にも優れている。
【0060】
本発明における顔料誘導体の顔料骨格部分が被吸着顔料と相互作用を持ち、本発明における顔料誘導体の「官能基等の誘導体化部分」が分散剤と相互作用を持ち、それによって、分散剤の存在下で、顔料分散液や着色組成物の分散性、分散安定性、貯蔵安定性等が良好なものとなる。
【0061】
上記の製造方法を使用して製造される着色組成物としては、特に限定はないが、画像形成材料、インクジェット用インク、カラーフィルター用着色組成物、トナー、筆記用材料等が挙げられ、特に、カラーフィルター用着色組成物が好適なものとして挙げられる。
【0062】
<カラーフィルター用着色組成物>
カラーフィルター用着色組成物としては、インクジェット方式用熱硬化性インク、インクジェット方式用感放射線性インク、フォトリソグラフィー方式の顔料分散型着色組成物等が好ましく挙げられる。本発明のカラーフィルター用着色組成物は、上記した本発明における顔料組成物を少なくとも含みさえすればよく、公知の組成が用いられる。すなわち、少なくとも、上記した本発明における顔料組成物、分散剤、溶剤、バインダー樹脂等を含むものが好ましく用いられ、更に、1つの分子に2つ以上のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物、光重合開始剤を含むものも好ましく用いられる。
【0063】
本発明における顔料組成物、分散剤、溶剤は上記記載のものが好ましく用いられ、バインダー樹脂は、補助樹脂(分散樹脂)と同様のものが好ましく用いられる。フォトリソ方式の顔料分散型着色組成物としては、アクリル系アルカリ可溶性樹脂が好ましく用いられ、1つの分子にカルボキシル基等の酸性基とエチレン性不飽和二重結合を併せ持つ化合物、及び、これに重合可能なエチレン性不飽和二重結合を持つ化合物の共重合体が好ましく、更に、該共重合体に、1つの分子にエチレン性不飽和二重結合とエポキシ基を有する化合物を付加反応させた共重合体も好ましく用いられる。
【0064】
本発明のカラーフィルター用着色組成物の製造方法は、上記した本発明における顔料組成物を少なくとも含んで製造されればよく、公知の製造方法が用いられる。すなわち、本発明のカラーフィルター用着色組成物は、公知の混合機や分散機により混合分散することによって得られる。該混合分散は、例えば、ビーズミル、ボールミル、ディゾルバー、ニーダー等を使用して行なわれ、好ましくはビーズミルを使用して行なわれる。着色組成物全体を混合分散してもよいし、例えば、本発明の顔料組成物、溶剤、分散剤、及び、任意成分として補助樹脂(分散樹脂)を配合、混合・分散して、顔料分散液を作成し、更に、残りの分を添加、混合分散して該着色組成物を製造してもよい。
【0065】
<カラーフィルター>
本発明のカラーフィルターは、基板上に少なくとも着色層を備えてなり、該着色層が本発明の着色組成物を使用し、要すれば硬化させて形成したものである。カラーフィルターの一例としては、カラーフィルター用ガラス基板に所定パターンで形成されたブラックマトリックスと、該ブラックマトリックスに一部重ねて形成した画素部と、該画素部を覆って形成した保護膜を備えた構造を挙げることができる。インクジェット方式で画素を形成する場合には、必要に応じて、ブラックマトリックス層の幅方向中央に、該ブラックマトリックスより狭い幅で、撥インク性隔壁を画素形成前に形成し、備えてなる。更に、必要に応じて、保護膜上に液晶駆動用透明電極、及び/又は、保護膜あるいはブラックマトリックス上に柱状スペーサーを備えてなる。
【0066】
<カラーフィルターの製造方法>
本発明のカラーフィルターの製造方法は、上記記載の着色組成物の製造方法を使用して製造された着色組成物を少なくとも含むことを特徴とする。カラーフィルターの製造方法は、上記した本発明における着色組成物を少なくとも含みさえすれば、その製造方法は公知のものが使用できる。
【0067】
該製造法としては、カラーフィルター用ガラス基板に該ブラックマトリックスを公知の方法で所望のパターンに形成し、必要に応じて撥インク性の隔壁を形成し、該ブラックマトリックス間、又は該撥インク性の隔壁間に、例えば、赤色、緑色、青色の熱硬化性、又は感放射線性のインクジェットインクを吐出した後、熱及び/又は放射線照射で塗膜を硬化させる方法;該ガラス基板に公知の方法で該ブラックマトリックスを形成し、例えば、赤色感放射線性着色組成物をスピンコーター、ダイコーター等で塗布し、減圧乾燥、プレヒート、マスクを介して露光、アルカリ現像、ポストベイクを行なって、いわゆるフォトリソグラフィーの手法によって赤色画素を作成し、同様の方法で、緑画素、青色画素を順次形成する方法;等を挙げることができる。更には、上記いずれかの方法で画素を形成後、熱硬化型、あるいは感放射線型の保護膜層を形成し、必要に応じて、柱状スペーサーを形成する。
【0068】
上記の製造方法を使用して製造されたカラーフィルターは、特に限定されないが、液晶表示装置等の画像出力装置用、固体撮像素子等の画像入力装置用、有機EL表示装置等の画像出力装置用等に好適に用いることができ、液晶表示装置等の画像出力装置用であれば特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0069】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。なお、下記、顔料誘導体A〜Eは公知の方法で合成した。
【0070】
実施例1
水酸化ナトリウムを用い、pH11.5に調整した水溶液110質量部に、下記式(1)で示される顔料誘導体A(ピグメントレッド254のスルホン酸モノ置換体)1質量部を溶解させた。この水溶液に、被吸着顔料としてイルガジンDPPレッドBTR(ピグメントレッド254、BASFジャパン(株)製)10質量部を加え撹拌を行ない、被吸着顔料を顔料誘導体Aで処理した。
【0071】
【化1】

【0072】
得られた「顔料組成物が分散された液」を濾過・洗浄し、顔料組成物8gを得た。これを顔料組成物Aとする。
【0073】
実施例2
顔料誘導体Aを下記式(2)で示される顔料誘導体B(ピグメントレッド264のスルホン酸モノ置換体アルミウム塩)に変更した以外は、実施例1と同じ操作を行った。得られたものを顔料組成物Bとする。
【0074】
【化2】

【0075】
実施例3
顔料誘導体Aを下記式(3)で示される顔料誘導体C(ピグメントレッド255のスルホン酸ジ置換体)に変更した以外は実施例1と同じ操作を行った。得られたものを顔料組成物Cとする。
【0076】
【化3】

【0077】
実施例4
顔料誘導体Aを下記式(4)で示される顔料誘導体D(ピグメントレッド177のスルホン酸ジ置換体)に変更した以外は実施例1と同じ操作を行った。得られたものを顔料組成物Dとする。
【0078】
【化4】

【0079】
実施例5
顔料誘導体Aを下記式(5)で示される顔料誘導体E(ピグメントイエロー138のスルホン酸モノ置換体)に変更した以外は実施例1と同じ操作を行った。得られたものを顔料組成物Eとする。
【0080】
【化5】

【0081】
評価例1
<双極子モーメントの計算方法>
双極子モーメントの計算は、Fujitsu SCIGRESS MO Compact(富士通(株)製)を用いて、ハミルトニアンにAM1を用いる方法で行った。
【0082】
<評価方法>
[分散液の調製方法]
実施例1〜5で得られた顔料組成物A〜Eをそれぞれ5質量部、分散剤としてディスパービック2001(ビックケミー社製)を3質量部、補助樹脂(分散樹脂)としてアクリキュアーBMX72(日本触媒社製)を1質量部、及び、分散媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを41質量部、以上をガラス瓶に充填し、直径0.1mmのジルコニアビーズを加え、ペイントコンディショナーで6時間分散を行い、分散液を得た。得られた分散液を以下の評価方法で評価した。結果を表1に示す。
【0083】
[分散性の評価方法]
得られた分散液の粘度を、分散1日後に、それぞれ、振動式粘度計SV−10(エーアンドデイ社製)で、常法に従って「25℃での分散粘度(mPa・s)」の測定を行った。以下の基準で判定を行った。「分散粘度(mPa・s)」は低いほど分散性が良い。
【0084】
<分散性の判定>
◎:20mPa・s以下
○:20mPa・sより大きく40mPa・s以下
△:40mPa・sより大きく60mPa・s以下
×:60mPa・sより大きい
【0085】
[貯蔵安定性の評価方法]
得られた分散液を、25℃条件下、1週間保存したものについて、その粘度を先に示した方法で測定した。分散1週間後の粘度と分散1日後の粘度との粘度の比(1週間後の粘度/1日後の粘度)で貯蔵安定性を判定した。
【0086】
<貯蔵安定性の判定>
○:粘度の比が1.3未満
△:粘度の比が1.3以上、2倍未満
×:粘度の比が2倍以上
【0087】
比較評価例1
評価例1において、双極子モーメントに代えて、以下の方法で分極率を計算した以外は、評価例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0088】
<分極率の計算方法>
分極率の計算は、Fujitsu SCIGRESS MO Compact(富士通(株)製)を用いて所定の方法で行った。
【0089】
【表1】

【0090】
<評価例1と比較評価例1のまとめ>
横軸に、実施例1〜5の顔料誘導体A〜Eの双極子モーメント(デバイ(Debye))をとり、縦軸に分散粘度の対数をとってプロットすると、図1に示したように、極めて良い相関があった。Rは0.8595であった。Rは相関係数と呼ばれ、Rは決定係数と呼ばれるもので、決定係数Rが大きいほど相関が強いことを表し、決定係数Rが0.7以上又は0.8以上であるとき、強い相関関係があると判断できる。
【0091】
一方、横軸に、実施例1〜5の顔料誘導体A〜Eの分極率(×10−24cm)をとり、縦軸に分散粘度をとってプロットすると、図2に示したように、相関があるとは言えず、Rは0.2658であった。
【0092】
これより、顔料組成物の分散性は、顔料誘導体分子の同じような物性を表すと思われる分極率とは相関がないのにもかかわらず、顔料組成物の分散性は、顔料誘導体分子の双極子モーメントとは極めて強い相関があることが分かった。従って、顔料誘導体の双極子モーメントを測定又は計算すると、その顔料誘導体で被吸着顔料の表面を処理してなる顔料組成物の分散性の予想がつくことが分かった。
【0093】
そして、顔料誘導体の双極子モーメントは大きいほど、顔料組成物の分散性が良好であることが分かった。特に、顔料誘導体の双極子モーメントが3デバイ(Debye)以上であると、その顔料誘導体で処理した顔料組成物の分散性が良好であることが分かった。
また、顔料誘導体の双極子モーメントは大きいほど、顔料組成物の貯蔵安定性が良好であることが分かった。特に、顔料誘導体の双極子モーメントが3デバイ(Debye)以上であると、その顔料誘導体で処理した顔料組成物の貯蔵安定性が良好であることが分かった。
【0094】
また、骨格成分が被吸着顔料と同じである顔料誘導体Aよりも、骨格成分が異なる顔料誘導体Eの分散粘度が低いことから、従来言われている「(顔料誘導体の)骨格成分は、被吸着顔料に限りなく似た構造を持つ必要」はないことが明らかになった。本発明の顔料誘導体の選択又は設計方法は、被吸着顔料の化学構造に縛られないので、顔料誘導体の選択幅を極めて広くとることができるという顕著な効果を有する。
【0095】
評価例1において、貯蔵安定性を上記方法で評価したところ、実施例1〜5の顔料誘導体A〜Eの双極子モーメント(デバイ(Debye))と、粘度の比(1週間後の粘度/1日後の粘度)との間には、極めて良い相関があった。これより、顔料誘導体の双極子モーメントは、顔料組成物の分散性のみならず、貯蔵安定性とも極めて良い相関があることが分かった。
【0096】
また、従来の顔料誘導体の選択方法がトライ&エラーであるのに対し、本発明の双極子モーメントを使った選択又は設計方法は、実際に分散しなくても、分散性や貯蔵安定性を予想でき、顔料誘導体を選択又は設計できる。
【0097】
また、従来は「顔料組成物の分散性を良くするには、顔料誘導体に、被吸着顔料と強い親和性を持ち被吸着顔料に強固に付着若しくは吸着する成分を持つ必要があり、そのために顔料誘導体の骨格成分は被吸着顔料に限りなく似た構造を持つ必要がある」とされていたが、本発明によって、顔料誘導体の骨格が被吸着顔料と同じであっても分散粘度が特に低いわけではない、言い換えると分散性が特に良いわけではないことも分かった(実施例1の顔料誘導体A)。
【0098】
一方、本発明によって、顔料誘導体の骨格が被吸着顔料と全く異なっていても、分散粘度が低い、言い換えると分散性が極めて良い顔料誘導体があることが分かった(実施例5の顔料誘導体E)。また、被吸着顔料はピグメントレッド254で赤色であるが、顔料誘導体Eの官能基を反応させる前の顔料はピグメントイエロー138で黄色である。すなわち、色目が被吸着顔料とは異なっていても、良好な顔料誘導体となり得るものがあることも分かった。
【0099】
実施例6
以下のようにして、カラーフィルター用着色組成物Aを調製した。すなわち、実施例1で得られた顔料組成物Aを、評価例1の[分散液の調製方法]と同様に分散させ顔料分散液Aを得た。
【0100】
この顔料分散液Aを51.4g、下記で合成されたバインダーポリマーの溶液を8.9g、モノマーとしてアロニックスTO−1382(東亞合成(株)製)を5.3g、開始剤として2−メチル−1−モルホリノプロパン−1−オン(商品名 IRGACURE907、BASFジャパン社製)を1.1g、及び、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1(商品名 IRGACURE369、BASFジャパン社製)を1.1g、溶剤として3−メチル−3−メトキシブチルアセテートを20.5g、及び、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを11.4g、添加剤としてシランカップリング剤(商品名 KBE−503、信越化学社製)0.3gを配合し、ディゾルバー型高速撹拌機で均一に撹拌し、カラーフィルター用着色組成物Aの溶液を得た。得られたカラーフィルター用着色組成物Aの固形分は18質量%であった。
【0101】
<バインダーポリマーの合成>
ベンジルメタクリレート30gとスチレン38gとメタクリル酸18gとt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(日本油脂製 パーブチルO)10gとの混合液を、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート150gを入れた重合槽中に、窒素気流下100℃で、3時間かけて滴下した。滴下終了後、更に3時間加熱することによりバインダーポリマー溶液を得た。このバインダーポリマーの重量平均分子量はポリスチレン換算で8000であった。
【0102】
次に、得られた重合体溶液に、グリシジルメタクリレート14g、トリエチルアミン0.2g、p−メトキシフェノール0.05gを加え、110℃で10時間加熱して、反応を行った。得られたポリマー溶液は固形分38質量%、酸価75mgKOH/g、重量平均分子量はポリスチレン換算で10000であった。
【0103】
実施例7
実施例6において、実施例1で得られた顔料組成物Aに代えて、実施例2で得られた顔料組成物B、実施例3で得られた顔料組成物C、実施例4で得られた顔料組成物D、実施例5で得られた顔料組成物Eをそれぞれ用いた以外は、実施例6と同様にして、それぞれのカラーフィルター用着色組成物B〜Eの溶液を得た。得られたカラーフィルター用着色組成物B〜Eの溶液の固形分は、いずれも18質量%であった。
【0104】
評価例2
得られたカラーフィルター用着色組成物の溶液について、溶液調製直後の粘度と溶液保存後の粘度とを測定し、「着色組成物溶液の貯蔵安定性」を評価した。
【0105】
[着色組成物溶液の貯蔵安定性の評価方法]
粘度は、トキメック社製B型粘度計を用いて、25℃で測定した。「着色組成物溶液の貯蔵安定性」は、5℃暗所条件下、2週間保存したものについて、その粘度を上記方法で測定した。カラーフィルター用着色組成物溶液を調製してから2週間後の粘度と調製直後の粘度との「粘度の比」(2週間後の粘度/直後の粘度)で「着色組成物溶液の貯蔵安定性」を判定した。
【0106】
<着色組成物溶液の貯蔵安定性の判定>
○:粘度の比が1.1未満
△:粘度の比が1.1以上、1.3未満
×:粘度の比が1.3以上
【0107】
【表2】

【0108】
カラーフィルター用着色組成物の溶液の調製直後の粘度は、カラーフィルター用着色組成物Cが最も高く、次いで、カラーフィルター用着色組成物Dが高かった。顔料誘導体の双極子モーメントが大きいカラーフィルター用着色組成物A、B、Eは、いずれも5.5(mPa・s)と小さく分散性が良好であった。また、貯蔵安定性は、「A、B、E」、「D」、「C」の順に良好であった。カラーフィルター用着色組成物溶液の段階でも、顔料誘導体の双極子モーメントが大きい方が貯蔵安定性に優れることが分かった。カラーフィルター用着色組成物の溶液の貯蔵安定性と、そこに含まれる顔料組成物の分散液の貯蔵安定性には相関がある。
【0109】
評価例3
[現像性と塗布ムラの評価方法]
実施例6、7で得られたカラーフィルター用着色組成物の溶液について、現像性と塗布ムラを評価した。
清浄なカラーフィルター用ガラス基板に、実施例6、7で得られたカラーフィルター用着色組成物A〜Eを、ポストベイク後の膜厚が1.9μmになるように回転数を調整してスピンコーティングした後、減圧乾燥機で0.2Torr(27Pa)まで減圧乾燥させ、更に80℃のホットプレート上で3分間プリベイクさせ、乾燥塗膜を形成した。得られた乾燥塗膜基板で「塗布ムラ」を評価した。
【0110】
この塗膜を、超高圧水銀灯を用いて、60mJ/cmでマスク露光し、0.05質量%のKOH(水酸化カリウム)を含むアルカリ現像液で60秒間スプレー現像し、更に純水で洗浄して現像性を評価した。パターン形成された基板を230℃のオーブン内で30分間ポストベイクして膜厚が1.9μmの硬化パターンを得た。カラーフィルター用着色組成物A〜Eのそれぞれの硬化パターンはいずれも欠け等の大きな欠点はなかった。
【0111】
<現像性の判定>
○:30秒以内にパターンが形成された
△:30秒以内にパターンが形成されなかったが、60秒以内にパターンが形成された
×:60秒以内に、パターンが形成されなかった
【0112】
<塗布ムラ>
上記の通り、カラーフィルター用着色組成物の乾燥塗膜基板を作製し、該基板を干渉縞検査灯(ナトリウムランプ)を用いて観察し、塗膜に発生する塗布ムラを目視で観察した。
○:塗布ムラが全く認められなかった
△:塗布ムラがわずかに認められた
×:塗布ムラが多く認められた
【0113】
【表3】

【0114】
実施例のカラーフィルター用着色組成物のうち、双極子モーメントが大きい顔料誘導体と被着顔料からなる顔料組成物を用いた着色組成物(A、B、D、E)は、カラーフィルターを製造したところ、現像性、塗布ムラについて問題がなかった。しかし、実施例3の顔料組成物Cを用いた場合は、着色組成物にやや凝集傾向が認められ、粘度が高いほか、塗布ムラがわずかに見られた。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の顔料誘導体の選択又は設計方法を用いて選択又は設計された顔料誘導体は、顔料を分散する際の、分散性、分散安定性、貯蔵安定性等に優れているため、顔料に顔料誘導体を処理してなる顔料組成物、該顔料組成物で着色された、画像形成材料、インクジェット用インク、カラーフィルター用着色組成物、トナー又は筆記用材料等の着色組成物等に広く利用されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料に顔料誘導体を処理してなる顔料組成物において、分散性の良好な顔料組成物を与える顔料誘導体の選択又は設計方法であって、
顔料誘導体の双極子モーメントを測定又は計算する工程と、
該測定又は計算された双極子モーメントの数値から顔料誘導体を選択、又は、該双極子モーメントの数値から顔料誘導体を設計する工程と、
を含むことを特徴とする顔料誘導体の選択又は設計方法。
【請求項2】
上記測定又は計算された双極子モーメントの数値が3デバイ(Debye)以上である顔料誘導体を選択する請求項1に記載の顔料誘導体の選択又は設計方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の顔料誘導体の選択又は設計方法を使用して顔料誘導体を選択又は設計することを特徴とする顔料誘導体の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の顔料誘導体の選択又は設計方法を使用して選択又は設計された顔料誘導体を顔料に処理する工程を含むことを特徴とする顔料組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の顔料組成物の製造方法を使用して製造された顔料組成物で着色することを特徴とする着色組成物の製造方法。
【請求項6】
上記着色組成物が、画像形成材料、インクジェット用インク、カラーフィルター用着色組成物、トナー又は筆記用材料のいずれかである請求項5に記載の着色組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の着色組成物の製造方法を使用して製造された着色組成物を少なくとも含むことを特徴とするカラーフィルターの製造方法。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載の顔料誘導体の選択又は設計方法を使用して選択又は設計されたものであることを特徴とする双極子モーメントが3デバイ(Debye)以上である顔料誘導体。
【請求項9】
顔料に顔料誘導体を処理してなる顔料組成物であって、該顔料誘導体が、双極子モーメントが3デバイ(Debye)以上のものであることを特徴とする顔料組成物。
【請求項10】
請求項4に記載の顔料組成物の製造方法を使用して製造されたものであることを特徴とする顔料組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の顔料組成物で着色されたものであることを特徴とする着色組成物。
【請求項12】
上記着色組成物が、画像形成材料、インクジェット用インク、カラーフィルター用着色組成物、トナー又は筆記用材料のいずれかである請求項11に記載の着色組成物。
【請求項13】
上記着色組成物が、カラーフィルター用着色組成物である請求項11に記載の着色組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−77192(P2012−77192A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223308(P2010−223308)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000183923)株式会社DNPファインケミカル (268)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】