説明

顔面検出装置

【課題】 回路コストを低減し、少ない画素で確実に顔面の中心を演算することができる顔面検出装置を提供すること。
【解決手段】 顔面から放出される赤外線を帯状に分布して検出する複数のサーモパイル素子721と、検出結果から温度分布を演算するIR温度検出部2及び温度分布補完部3と、温度分布の微分値から顔面中心を演算する顔位置演算部4とを備え、顔位置演算部4は、複数のサーモパイル素子721のうち、顔面の温度分布を検出した数により顔面全体の位置を演算した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に車両の乗員の顔面中心を、顔面から放出される赤外線を検出し、そのデータから演算により求める顔面検出装置の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来では、マトリクス状に配置された多数の赤外線センサにより、車両の乗員の有無と位置を検出している(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平11−295440号公報(第2−7頁、全図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の顔面検出装置にあっては、画素数が多く、処理演算も複雑になる。そのため、回路コストが高価になってしまっていた。
【0004】
この点について詳しく説明する。
本発明は、上記問題点に着目してなされたもので、その目的とするところは、回路コストを低減し、少ない画素で確実に顔面の中心を演算することができる顔面検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、顔面から放出される赤外線を帯状に分布して検出する複数の素子と、検出結果から温度分布を演算する温度分布演算手段と、温度分布の微分値から顔面中心を演算する顔面中心演算手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明にあっては、回路コストを低減し、少ない画素で確実に顔面の中心を演算することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の顔面検出装置を実現する実施の形態を、請求項1から請求項4に対応する実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
まず、構成を説明する。
図1は実施例1の顔面検出装置をドアミラー角調整装置に応用したシステムブロック図である。
ドアミラー角調整装置1は、IR温度検出部2、温度分布補完部3、顔位置演算部4、ドアミラー回転角演算部5、ドアミラーモータ制御部6を主要な構成にしている。
【0009】
図2は実施例1の顔面検出装置のIR温度検出部2とサーモパイルモジュール7のブロック図である。
サーモパイルモジュール7は、レンズ71、サーモパイルユニット72、スキャン部73、増幅部74、を主要な構成とする。
レンズ71は、サーモパイルユニット72の前方に配置され、検出エリア8から放射される赤外線をサーモパイルユニット72に集光する。
サーモパイルユニット72は、赤外線を検出するサーモパイル素子721を、マトリクス状に配置したものである。
【0010】
スキャン部73は、サーモパイル素子721からの出力信号をアドレス信号によって選択する。
増幅部74は、スキャン部73で選択される素子の出力信号を増幅する。
【0011】
IR温度検出部2は、信号出力部21、マルチプレクサ22、AD変換部23、温度演算部24を備えている。
信号出力部21は、所定のタイミングでスキャン部73にサーモパイル素子721のマトリクス配列のアドレス信号を出力する。
マルチプレクサ22は、増幅部74からの出力信号を受け取り、サーモパイル素子721のマトリクス状の選択・切替を行う。
AD変換部23は、マルチプレクサ22で選択される素子の増幅された信号をAD変換する。
温度演算部24は、AD変換された測定値から測定温度を演算する。なお、マルチプレクサ22の選択・切替により、温度演算部24は温度分布を演算することになる。
【0012】
温度分布補完部3は、離散温度から温度分布を補完する。
顔位置演算部4は、顔の位置及び顔の中心位置を演算する。
ドアミラー回転角演算部5は、演算した顔の位置に合わせたドアミラーの回転角を演算する。
ドアミラーモータ制御部6は、演算したドアミラーの回転角に従って、ドアミラーのモータを駆動制御する。
【0013】
次に作用を説明する。
[顔の位置に合わせたドアミラーの角度を変更する処理]
図3に示すのは、実施例1の顔面検出装置を用いて、ドアミラーの角度を変更する処理の流れを示す説明図である。
まず、IR温度検出部2により、温度が検出され、内部離散データが生成されると、離散温度から温度分布を補完する。
次に、補完された温度分布から顔の位置、及び顔の中心位置を演算し、演算結果の顔の位置、顔の中心位置からドアミラーの角度を変更する。
その後は、ドライバが左に移動すると、これにより内部離散データが変化し、温度分布が再度補正される。
【0014】
[顔の位置検出作用]
図4に示すのは、実施例1の顔面検出装置において、顔の位置を検出する状態の説明図である。
図4において、サーモパイル素子721の横方向の画素数をNとし、N画素での温度検出幅をWとする。また、顔fの幅を300mmとし、顔の温度分布検出画素数をMとすると、W:300=N:Mとなり、M=300N/Wとなる。
このことから、画像処理によりMの温度分布を検出すれば顔の位置を算出することができる。これにより、顔の位置が演算で算出される。
【0015】
[顔の中心位置検出作用]
図5に示すのは、実施例1の顔面検出装置において、顔の中心を検出する際の微分値の状態を示す説明図である。
実施例1では、サーモパイル素子721の数を横に8画素配置したものとする。
顔の中心を検出するには、まず、ワーキング領域を確保するために、8画素(#1〜#8)の場合、#1から#8の温度データを格納した後、#8の隣のワーキング領域(メモリ)に内気温を格納しておく。
次に、温度分布の微分値を算出する。この際には、計算量を減らすため、隣の画素との差分を微分とする。
微分値を#1から探索し、微分値(閾値)が+(プラス)から−(マイナス)に変化している(室温が顔温度より低い場合)区間を検出し、0クロス点を算出し、顔中心位置とする。なぜならば、微分係数0は温度極大となるからである。つまり、図5において、0+{a/(a+b)}×(p−0)となる。
このようにして、実施例1では、サーモパイル素子721の数を少ないものにしながらも、顔面中心を連続値で示される位置として確実に得ることができる。
【0016】
図6はサーモパイルモジュール7の#1〜#8までの各画素の温度分布測定値と、その微分値を4つの場合に関して示すグラフ図である。
図6(a)は人が居ない場合であり、図6(b)は人が左寄り中央に居る場合、図6(c)は人が右寄り中央に居る場合である。図6(b),(c)に示すように微分値の0クロス点により、サーモパイル素子#5の中心位置に対してサーモパイル素子間となる左寄り位置、右寄り位置が精度よく演算で得られる。図6(d)は#8方向に居る場合である。
【0017】
[ドアミラーの移動角度算出作用]
図7(a)に示すのは、ドライバが顔を正面から左に移動させた状態の演算の説明図である。
図7(a)において、ドライバの顔がIRセンサ正面のX1から左方向のX2へ移動したとする。Lをサーモパイルモジュール7からドライバ顔面までの距離とする。なお、このLは、ドライビングポジションセンサから取得するのが望ましい。さらに、θ0を温度分布から得られたドライバの方向とする。上記説明のMは、M=L×tanθ0より算出される。
ここで、右ミラーの移動角度をθ1とし、図7(b)に示すようにθ2、θ3、L2、M2を設定すると、θ3=tan-1(M2/(L+L2))、θ2=tan-1((M2+M)/(L+L2))となり、θ1は、θ1=θ3−θ2より算出される。
よって、ドライバの顔がIRセンサ正面のX1から左方向のX2へ移動した場合、右のドアミラーを駆動するモータをθ1だけ回転させることで、対応できる。
【0018】
[ドアミラーの角度が顔の位置に応じて変化する作用]
実施例1のドアミラー角調整装置1では、ドライバの顔位置に対して、8画素のサーモパイル素子721(IRセンサ素子)が図3、図4に示すような測定範囲により、温度分布の測定を行う。
この場合には、顔全体の位置、顔中心の位置が測定される。ドアミラーの制御には、顔中心の位置を用いるが、ノイズ等の異常に対しては、顔全体の位置を検出していることにより、データが信頼性高く用いられる。
【0019】
ここで、顔中心について説明しておく。実施例1での測定の範囲は、おおむね顔の額から鼻ぐらいまでとなる。すると、鼻すじと左右、もしくは鼻すじを境に左右で、温度の変化が大きくなる。その理由は、日光の当たり方などによるものである。そのため、温度分布の微分値の0クロス点を取ると顔中心が精度よく求められる。これにより、測定する画素数が少なく、顔中心が画素中間にあっても精度よく顔中心位置が求められるのである。なお、顔中心は、両目の間を意味するものとすることができるため、アイポイントを求めるのと同等の効果を得ることができる。実施例1のように、ドアミラーを制御するのは、顔中心をアイポイントに等しいとする用い方である。
【0020】
実施例1では、ドライバが顔位置を変更すると、その顔中心の変化量が演算され、ドアミラー角度が変更されることにより、ドライバは、顔の位置を変更する前と同様に後方を見ることができるのである。
例えば、狭い道路を通る場合、余裕なく対向車とすれ違う場合、駐車の場合など、よく見るために顔を左右に移動させたような場合、従来にあっては、ドアミラーの角度は変わらないため、後方をドアミラーで容易に確認することができなかった。顔をもとの位置に戻して後方を見るか顔を後方に向けるしかなかった。そのため、狭い道路を通る場合、余裕なく対向車とすれ違う場合、駐車の場合などの場合には、顔を頻繁に動かして確認しながら運転しなければならなかった。
【0021】
しかしながら、実施例1では、顔を左右位置に動かした状態において、そのままの位置でドアミラーを見れば、後方がよく確認できるのである。そのため、困難な状況の運転が非常に容易になる。
【0022】
次に、効果を説明する。
実施例1の顔面検出装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。なお、(1)〜(4)は、それぞれ請求項1〜4に対応している。
【0023】
(1)顔面から放出される赤外線を帯状に分布して検出する複数のサーモパイル素子721と、検出結果から温度分布を演算するIR温度検出部2及び温度分布補完部3と、温度分布の微分値から顔面中心を演算する顔位置演算部4とを備えるため、回路コストを低減し、少ない画素で確実に顔面の中心を演算することができる。
【0024】
(2)顔位置演算部4は、複数のサーモパイル素子721のうち、顔面の温度分布を検出した数により顔面全体の位置を演算するため、顔面全体の位置範囲を把握することができ、顔面中心の演算値を補助することが、少ない画素の検出で達成できる。
【0025】
(3)顔位置演算部4は、温度分布の微分値が0とクロスする位置から顔面中心を演算するため、容易で確実な演算判定により、回路コストを低減し、少ない画素で確実に顔面の中心を演算することができる。
【0026】
(4)IR温度検出部2、温度分布補完部3、顔位置演算部4は、ドアミラー角調整装置1を構成するものとして、車両に設けられるものであって、顔面中心位置とドアミラーの位置から、顔面位置の移動があった際のドアミラーの移動角度を演算するドアミラー回転角演算部5を設けて、顔面位置を移動しても最適なドアミラー角度が得られるようにしたため、駐車等のドアミラーを用いる場合の運転が容易になるよう補助することができる。
【0027】
以上、本発明の顔面検出装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
赤外線を帯状に分布して検出する複数の素子は、素子を1列又は複数列に並べたものでよく、また、くし歯状に並べたものであってもよい。
実施例では、右側のドアミラーについて説明しているが、顔面の位置移動に応じて、左右のドアミラーの角度を変えるのが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本願の顔面検出装置は、車の座席のように人が座る場合や、決められた位置に立つ場合など、有る程度、顔面の位置がわかる場合に容易に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1の顔面検出装置をドアミラー角調整装置に応用したシステムブロック図である。
【図2】実施例1の顔面検出装置のIR温度検出部とサーモパイルモジュールのブロック図である。
【図3】実施例1の顔面検出装置を用いて、ドアミラーの角度を変更する処理の流れを示す説明図である。
【図4】実施例1の顔面検出装置において、顔の位置を検出する状態の説明図である。
【図5】実施例1の顔面検出装置において、顔の中心を検出する際の微分値の状態を示す説明図である。
【図6】サーモパイルモジュールの#1〜#8までの各画素の温度分布測定値と、その微分値を4つの場合に関して示すグラフ図である。
【図7】ドライバが顔を正面から左に移動させた状態のドライバ方向、ドアミラー移動角度の演算の説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1 ドアミラー角調整装置
2 IR温度検出部
21 信号出力部
22 マルチプレクサ
23 変換部
24 温度演算部
3 温度分布補完部
4 顔位置演算部
5 ドアミラー回転角演算部
6 ドアミラーモータ制御部
7 サーモパイルモジュール
71 レンズ
72 サーモパイルユニット
721 サーモパイル素子
73 スキャン部
74 増幅部
8 検出エリア
f 顔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔面から放出される赤外線を帯状に分布して検出する複数の素子と、
検出結果から温度分布を演算する温度分布演算手段と、
温度分布の微分値から顔面中心を演算する顔面中心演算手段と、
を備えることを特徴とする顔面検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の顔面検出装置において、
複数の前記素子のうち、顔面の温度分布を検出した数により顔面全体の位置を演算する顔面全体位置演算手段を設けた、
ことを特徴とする顔面検出装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の顔面検出装置において、
前記顔面中心演算手段は、
温度分布の微分値が0とクロスする位置から顔面中心を演算する、
ことを特徴とする顔面検出装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3に記載の顔面検出装置は、車両に設けられるものであって、
顔面中心位置とドアミラーの位置から、顔面位置の移動があった際のドアミラーの移動角度を演算するドアミラー移動角度演算手段を設けて、顔面位置を移動しても最適なドアミラー角度が得られるようにした、
ことを特徴とする顔面検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−51922(P2007−51922A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−237066(P2005−237066)
【出願日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】