説明

顕微分光測定装置

【課題】視野絞りの開口形状による制限を受けることなく、様々な形状を測定範囲としてその測定範囲の分光スペクトルを測定することを可能とする。
【解決手段】測定試料1を撮像して測定範囲のカラー画像情報を取得する撮像手段41と、カラー画像情報を画像処理することにより、測定範囲から複数の色領域11を抽出する画像処理手段68と、画像処理手段68により抽出された色領域の一部を照射範囲として照明光を照射する照明光学系29と、照射範囲に照射された照明光による反射光により色領域11の一部の分光スペクトルを取得する分光スペクトル取得手段51とを備える。照明光学系29及び分光スペクトル取得手段51により複数の色領域11それぞれの一部の分光スペクトルを取得し、前記複数の色領域11それぞれに対応した領域面積及び一部の分光スペクトルに基づいて、測定範囲全体の分光スペクトルを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定試料の一部を測定範囲としてその測定範囲の分光スペクトルを測定するための顕微分光測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、対物レンズにより測定試料の拡大像を得て、その拡大像の分光スペクトルを測定するための顕微分光測定装置が提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。この顕微分光測定装置は、測定試料に照明光を照射する照明光学系と、照明光による測定試料からの反射光を分光して、その分光された光の強度を波長ごとに検出して分光スペクトルを取得する分光器とを備えている。
【0003】
このような顕微分光測定装置により目的とする測定範囲内の分光スペクトルのみを測定するうえでは、一般に、照明光学系の光路中や、測定試料から分光器に至るまでの光路中に配置された視野絞りが用いられている。この視野絞りの開口径を調整することにより、測定範囲のみが照射されるように照射範囲を調整したり、測定試料からの反射光から測定範囲外の光を遮蔽するように調整することが可能となり、これによって測定範囲からの反射光のみを分光してその測定範囲の分光スペクトルのみを取得することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−230829号公報
【特許文献2】特開2000−356588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、分光スペクトルを測定しようとする測定範囲の形状は様々であるのに対して、視野絞りの開口形状は、多角形からなる略円形状であったり、細長の矩形状等であったりと、ある程度定まった形状とされている。このため、測定範囲の形状に合わせて適切な視野絞りの開口形状に調整することが困難となり、所望とする測定範囲の分光スペクトルを得られない場合があるという問題点があった。
【0006】
また、測定試料からの分光スペクトルの取得範囲を測定範囲に対して小さな微小な範囲として、測定範囲全体を二次元的に走査することによりその微小範囲毎の分光スペクトルを取得し、各微小範囲の分光スペクトルの光強度を波長成分毎に加算することにより測定範囲全体の分光スペクトルを演算値として算出する方法も考えられる。しかしながら、このような方法によると、測定範囲全体に亘って二次元的に走査することによりその測定範囲内の微小範囲毎の分光スペクトルを取得する必要があるため、測定時間が過度に増大してしまうという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、視野絞りの開口形状による制限を受けることなく、様々な形状を測定範囲としてその測定範囲の分光スペクトルを測定することを可能としつつ、その測定範囲内の測定を短時間で完了させることのできる顕微分光測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上述した課題を解決するために、鋭意検討の末、下記の顕微分光測定装置を発明した。
【0009】
第1発明に係る顕微分光測定装置は、測定試料の一部を測定範囲としてその測定範囲の分光スペクトルを測定するための顕微分光測定装置において、前記測定試料を撮像して前記測定範囲を含む撮像範囲のカラー画像情報を取得する撮像手段と、前記カラー画像情報を画像処理することにより、前記測定範囲から色に応じて区分けされる複数の色領域を抽出するとともに、前記複数の色領域の領域面積を算出する画像処理手段と、前記画像処理手段により抽出された色領域の一部を照射範囲として照明光を照射する照明光学系と、前記照射範囲に照射された照明光による反射光又は透過光により前記色領域の一部の分光スペクトルを取得する分光スペクトル取得手段と、前記色領域の領域面積と、前記色領域の一部の分光スペクトルとに基づき演算処理を行なう演算処理手段とを備え、前記照明光学系及び前記分光スペクトル取得手段により前記複数の色領域それぞれの一部の分光スペクトルを取得し、前記演算処理手段は、前記複数の色領域それぞれに対応した領域面積及び一部の分光スペクトルに基づいて、前記測定範囲全体の分光スペクトルを算出することを特徴とする。
第2発明に係る顕微分光測定装置は、第1発明において、前記演算処理手段は、前記分光スペクトル手段により取得された前記色領域の一部の分光スペクトルに基づき単位面積当たりの分光スペクトルを算出し、その算出した色領域の単位面積当たりの分光スペクトルと当該色領域の領域面積を乗算して当該色領域全体の分光スペクトルを算出し、前記複数の色領域それぞれの分光スペクトルを加算して前記測定範囲全体の分光スペクトルを算出することを特徴とする。
第3発明に係る顕微分光測定装置は、第1発明又は第2発明において、前記撮像手段により撮像された画像を表示する表示手段と、前記表示手段により表示された画像から前記測定範囲を設定する設定手段とを更に備えることを特徴とする。
第4発明に係る顕微分光測定装置は、第1発明〜第3発明の何れかにおいて、前記照明光学系から照射される照明光の前記測定試料に対する照射範囲を範囲調整及び位置調整する照射範囲調整手段を更に備え、前記照明範囲調整手段は、前記画像処理手段により抽出された色領域に基づき、その色領域の一部に照明光が照射されるように前記照射範囲を範囲調整及び位置調整することを特徴とする。
第5発明に係る顕微分光測定装置は、第4発明において、前記照明光学系は、前記照明光を射出する光源と、前記光源から射出された照明光の前記測定試料の測定面における照射範囲を範囲調整する視野絞りとを備え、前記照明範囲調整手段は、前記照明光の光軸と直交する方向に一体的に移動可能な前記光源と前記視野絞りとから構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明〜第5発明によれば、視野絞りの開口形状による制限を受けることなく様々な形状を測定範囲としてその測定範囲の分光スペクトルを測定することが可能となる。また、測定範囲の分光スペクトルを測定するうえで、測定範囲から複数の色領域を画像処理することにより抽出し、その抽出した複数の色領域それぞれの一部について分光スペクトルを取得した後に演算処理を行うのみで足りるため、測定範囲内の測定を短時間で完了させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明において分光スペクトルを測定する対象となる測定試料を撮像した画像の一例を模式的に示す図である。
【図2】第1実施形態に係る顕微分光測定装置の概要を示す概要図である。
【図3】第1実施形態に係る顕微分光測定装置で用いられる中央制御装置の構成を示すブロック図である。
【図4】(a)は第1実施形態に係る測定試料の赤色領域の一部の分光スペクトルを示す図であり、(b)はその測定試料の青色領域の一部の分光スペクトルを示す図である。
【図5】(a)第1実施形態に係る測定試料の赤色領域全体の分光スペクトルを示す図であり、(b)はその測定試料の青色領域全体の分光スペクトルを示す図である。
【図6】第1実施形態に係る測定試料の測定範囲全体の分光スペクトルを示す図である。
【図7】第1実施形態に係る顕微分光測定装置の動作について説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した顕微分光測定装置を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
まず、本発明において分光スペクトルを測定する対象となる測定試料について説明する。
【0014】
測定試料1は、図1に示すように、分光スペクトルを測定しようとする測定範囲S1内において複数の色領域11を有するものが対象となる。ここでいう色領域11とは、色相、彩度、明度等により表された色に応じて区分けされる領域のことをいい、単一の色領域11は、後述の撮像装置41により取得したカラー画像において、似通った色相、彩度、明度を有する画素群から構成される。
【0015】
測定試料1は、第1実施形態において、白色光の照射により発色する発色体が埋め込まれたガラス基板から構成されている。測定試料1は、第1実施形態において、赤色に発色する正方形状の赤色領域11Aと、青色に発色するL字状の青色領域11Bとにより、正方形状の範囲が赤色と青色との混合色で発色するものを例示している。以下においては、この混合色で発色する正方形状の範囲が測定範囲S1であるものとして説明する。なお、この測定範囲S1は、例えば、縦横長さが10μm×10μm以下の大きさとなり、その測定範囲S1の形状は、特に限定されるものではなく、正方形状等の多角形状の他、円形状、不定形状等に形成される。
【0016】
次に、第1実施形態に係る顕微分光測定装置3について説明する。
【0017】
第1実施形態に係る顕微分光測定装置3は、図2に示すように、ステージ20上に載置された測定試料1に照明光を照射する照明光学系29と、測定試料1に照射された照明光による反射光の分光スペクトルを取得する分光スペクトル取得手段としての分光器51と、測定試料1を撮像してカラー画像情報を取得する撮像装置41と、分光器51や撮像装置41を制御する中央制御装置61とを備えている。
【0018】
照明光学系29は、第1実施形態において、照明光を射出する光源30と、光源30から射出された光が対物レンズ36を介して測定試料1の測定面1aに導かれるまでの光路中に順に配置されたコレクタレンズ32と、視野絞り33と、フィールドレンズ35とを有している。また、照明光学系29は、第1実施形態において、光源30からフィールドレンズ35を介して射出された照明光を反射させて、対物レンズ36を介して測定試料1の測定面1aに導く第1ハーフミラー37を更に有している。また、照明光学系29は、光源30から射出された照明光を伝搬させる光ファイバ31を更に備えている。光ファイバ31の出射端31aは、照明光を射出する二次光源として機能しており、その出射端31aから射出された照明光がコレクタレンズ32等を介して測定試料1の測定面1aに導かれる。
【0019】
光源11は、例えば、ハロゲンランプ等の白色光を出射するものから構成される。
【0020】
照明光学系29は、第1実施形態において、視野絞り33と測定試料1の測定面1aとが共役な位置に配置されており、これにより、視野絞り33の像が測定試料1の測定面1aに結像されるよう構成されている。これにより、視野絞り33を調整することにより測定試料1の測定面1aに照射される照明光の照射範囲の範囲調整を行うことが可能となる。
【0021】
また、照明光学系29は、第1実施形態において、光ファイバ31の出射端側とコレクタレンズ32と視野絞り33とが支持ホルダー34により一体的に移動可能に支持されている。支持ホルダー34は、図示しない駆動用モータにより、光軸と直交する面内における二方向に駆動可能に構成されている。また、光ファイバ31の出射端31aと、視野絞り33と測定試料1の測定面1aとは共役な位置に配置されている。これにより、支持ホルダー34を光軸と直交する方向に移動させることにより、測定試料1の測定面1aにおける視野絞り33の像の位置を移動させること、即ち、照明光の照射範囲の位置調整を行うことが可能となる。また、光ファイバ31の出射端31aを二次光源として、その光ファイバ31の出射端31aと共役な位置に配置された測定試料1の測定面1aを照射することとしているので、光ファイバ31を用いない場合よりも測定試料1の測定面1aを均一に照射することが可能となる。
【0022】
なお、照明光学系31は、光ファイバ31を用いないこととしてもよい。この場合、測定試料1の測定面1aを均一に照射するため、光源31と対物レンズ36の入射側瞳位置36aとを共役な位置に配置して、いわゆるケーラー照明を構成することとしてもよい。また、この場合、照明光の照射範囲の位置調整を行ううえでは、光源30と視野絞り33とが支持ホルダー34等により一体的に移動可能に構成されていればよい。
【0023】
第1実施形態に係る顕微分光測定装置3は、測定試料1に照明光を照射することにより得られる反射光が、対物レンズ36を介して第1ハーフミラー37を透過して第2ハーフミラー38に導かれ、一部の光が第2ハーフミラー38を反射して第1結像光学系39に導かれ、残りの光が第2ハーフミラー38を透過して第2結像光学系40に導かれるように構成されている。
【0024】
第1結像光学系39は、測定試料1の測定面1aの像を撮像装置41が有する撮像素子43の撮像面43aに結像するように構成されている。なお、第1結像光学系39は、測定試料1の測定面1aの像を撮像素子43の撮像面43aに結像可能であればよく、上述の構成に限定されない。
【0025】
第2結像光学系40は、測定試料1の測定面1aの像を分光器51の入射口52に結像するように構成されている。なお、第2結像光学系40は、測定試料1の測定面1aの像を分光器51の入射口52に結像可能であればよく、上述の構成に限定されない。
【0026】
撮像装置41は、CCD等の撮像素子43を有している。撮像装置41は、第1結像光学系39を通して入射される測定試料1からの反射光を撮像素子43の撮像面43a上に結像させて、その像の光による明暗を電荷の量に光電変換して、二次元的な画像信号を取得するものとして機能する。
【0027】
撮像装置41は、測定試料1を撮像することによりカラー画像情報を取得可能に構成されている。第1実施形態においては、撮像素子43の撮像面43aの各画素に対応する位置にベイヤ配列のRGB原色フィルタが設けられおり、これにより、各画素毎にRGB値により表されたRGB画像を取得可能となる。撮像装置41により取得されたカラー画像情報は、中央制御装置61のCPU62による制御の下でROM64に出力されて記憶される。撮像装置41によりカラー画像情報を取得するうえでは、公知の如何なる方法を採用してもよく、RGB原色フィルタの代替として、例えば、各種の補色フィルタが用いられていてもよい。
【0028】
分光器51は、入射口52を通過した反射光を分光する分光部53と、分光部53において分光された光の強度を波長ごとに検出する光検出部57とを有している。分光部53は、第1実施形態において、反射光を凹面鏡54により平行光とし、平行光を回折格子55により回折させて分光させ、分光させた各光束を凹面鏡56により集光させて光検出部57の検出面57aに結像させるものから構成されている。光検出部57は、第1実施形態において、ラインセンサから構成されており、分光された各波長の光の結像位置での強度がその検出面57aにおいて検出される。これにより、照明光学系29により照射範囲S3に照射された照明光による反射光の分光スペクトルを取得可能となる。分光部53は、この他にも、プリズム、分光フィルタ等により分光させるものから構成されていてもよい。
【0029】
中央制御装置61は、顕微分光測定装置3全体の動作を制御するためのCPU(Central Processing Unit)62と、各種情報の処理に使用する作業領域としてのRAM(Random Access Memory)63と、各種情報を記憶するためのROM(Read Only Memory)64と、ユーザが各種指令を入力するためのキーボード、マウス等からなる操作部65と、各種情報を表示するためのディスプレイ等からなる表示部66とを有する。これらはデータバス67に接続されている。ROM64には、撮像装置41により撮像された画像情報の画像処理を実行する画像処理部68と、測定範囲S1全体の分光スペクトルを演算処理により算出する演算処理部69とが格納されている。ROM64は、例えば、ハードディスク、CD−ROM等の記録媒体から構成される。
【0030】
次に、第1実施形態に係る顕微分光測定装置3による動作の基本的なコンセプトについて説明する。
【0031】
図1に示すような測定試料1を測定対象とした場合、赤色領域11Aの一部を照射範囲として照明光を照射すると、その照明光による反射光からは、例えば、図4(a)に示すような、600nm〜670nmの赤色波長域にピーク波長λ1を有する分光スペクトルSp1を取得できる。また、青色領域11Bの一部を照射範囲として照明光を照射すると、その照明光による反射光からは、例えば、図4(b)に示すような、420nm〜480nmの波長域にピーク波長λ2を有する分光スペクトルSp2を取得できる。なお、図中における斜線部は分光スペクトルを取得した範囲を示している。
【0032】
ここで、単一の色領域の一部を照射範囲として得られた反射光から取得できる分光スペクトルの光強度は、照射範囲からの反射光に含まれる各波長成分の光量を表しており、照射範囲の面積に比例していると考えることができる。そこで、本発明においては、単一の色領域の一部を照射範囲として得られた反射光から取得した分光スペクトルに基づき単位面積当たりの分光スペクトルを算出し、その単位面積当たりの分光スペクトルに色領域11の領域面積を乗算して色領域11全体の分光スペクトルを算出することとしている。
【0033】
これにより、第1実施形態において、赤色領域11Aについては、図5(a)に示すような、ピーク波長λ1を有し、各波長成分の光強度の割合が分光スペクトルSp1と同様の分光スペクトルSp1´が演算値として算出され、青色領域11Bについては、図5(b)に示すような、ピーク波長λ2を有し、各波長成分の光強度の割合が分光スペクトルSp2と同様の分光スペクトルSP2´が演算値として算出される。
【0034】
また、測定範囲S1全体の分光スペクトルは、その測定範囲S1を占める各色領域11全体の分光スペクトルの合計値であると考えることができるので、本発明においては、複数の色領域11全体の分光スペクトルを加算することにより、その測定範囲S1全体の分光スペクトルを演算値として算出することとしている。これにより、第1実施形態において、図6に示すような、ピーク波長λ1、λ2を有する分光スペクトルSp3が演算値として算出され、測定範囲S1全体の分光スペクトルが得られることになる。
【0035】
次に、上述の顕微分光測定装置3を用いて測定範囲S1の分光スペクトルを測定するための顕微分光測定方法について説明する。なお、以降の各ステップは、第1実施形態において、中央制御装置61のCPU62による制御の下で行われる。
【0036】
まず、ステップS11においては、図1に示すように、測定試料1を撮像することにより、測定範囲S1を含む範囲を撮像範囲S2として、その撮像範囲S2内のカラー画像情報を取得する。
【0037】
次に、ステップS12においては、ステップS11において取得した画像を中央制御装置61の表示部66に表示し、その表示された撮像範囲内の画像から測定範囲を設定する。測定範囲の設定は、例えば、撮像範囲を撮像した画像をユーザが中央制御装置61の表示部66で確認しながら、その表示部66の画像に表示されたポインタを操作部65により操作等することにより行われる。
【0038】
次に、ステップS13においては、ステップS11において取得したカラー画像情報を画像処理することにより、ステップS12において設定された測定範囲S1から複数の色領域11を抽出する。複数の色領域11を抽出する処理は、例えば、下記のような手順に沿って行われる。
【0039】
まず、サブステップS21においては、得られた画像情報についてノイズ除去のために平滑化処理等の前処理を行なう。
【0040】
続いて、サブステップS22においては、RGB値等の色情報により表現されるカラー画像を、公知のアルゴリズムにより輝度値、色度値等の濃淡値により表現されるグレースケール画像に変換する処理を行なう。この処理は、例えば、各画素のRGB値からNTSC係数による加重平均法により輝度値を表す重み付け平均値を算出して、その算出値を各画素の輝度値とする処理が挙げられる。
【0041】
続いて、サブステップS23においては、公知のアルゴリズムによりグレースケール画像のエッジを抽出する処理を行なう。このエッジ抽出処理は、例えば、Sobel、Prewitt等の一次微分フィルタ、Laplacian等の二次微分フィルタを用いた処理が挙げられる。
【0042】
続いて、サブステップS24においては、公知のアルゴリズムによりエッジの抽出されたエッジ抽出画像を二値化する処理を行なう。二値化処理を行なうことにより、エッジ抽出画像のエッジのみ、即ち、複数の色領域の輪郭線のみが描かれた二値化画像を取得する。この二値化処理で用いられるアルゴリズムとしては、例えば、二値化するための閾値を自動的に算出することが可能な大津の方法が挙げられる。
【0043】
以上により、撮像された画像情報から測定範囲S1から複数の色領域11が抽出される。なお、ステップS11において取得したカラー画像情報を画像処理することにより複数の色領域11を抽出するためのアルゴリズムは、上述の方法に限定されない。
【0044】
また、上述のステップS13においては、ステップS11において取得したカラー画像情報を画像処理することにより、抽出した複数の色領域11の領域面積を算出しておく。ここでいう領域面積とは、測定範囲S1内において複数の色領域11それぞれが占める面積のことをいう。領域面積は、例えば、上述のサブステップS24において取得した二値化画像における複数の色領域11の輪郭線内の画素数に基づき算出される。
【0045】
次に、ステップS14においては、ステップS13において抽出した色領域11の一部を照射範囲S2として照明光学系29により照明光を照射する。このステップS14は、照明光学系29による照明光の照射範囲S2を視野絞り33により拡大又は縮小するとともに、二次光源となる光ファイバ31の出射端31aと視野絞り33とを光軸と直交する方向に移動させることによって、色領域11の範囲内に照射範囲S2が収まるように範囲調整及び位置調整するステップが含まれる。このように、ステップS13において画像処理により色領域11を抽出しているので、このステップS14において複数の色領域11のうちの単一の色領域11のみが照射範囲S2となるように容易に調整できる。
【0046】
次に、ステップS15においては、ステップS14において照射範囲S2に照射した照明光による反射光により、その照射範囲S2、即ち、色領域11の一部の分光スペクトルを分光器51により取得する。これらステップS14、ステップS15により、照明光を照射している単一の色領域11の分光スペクトルのみが取得できる。
【0047】
ステップS14及びステップS15は、測定範囲S1内の複数の色領域11それぞれの一部の分光スペクトルを取得するまで繰り返し行う。
【0048】
次に、ステップS16においては、複数の色領域11それぞれに対応した領域面積及び分光スペクトルに基づいて、その測定範囲S1全体の分光スペクトルを算出する。
【0049】
具体的には、まず、ステップS15において取得した単一の色領域11の一部の分光スペクトルに基づき、その色領域11の単位面積当たりの分光スペクトルを演算値として算出する。単位面積当たりの分光スペクトルは、ステップS14において調整して得られた照明光学系29による照射範囲S2の面積により色領域11の一部の分光スペクトルの各波長成分毎の光強度を除算して算出する。
【0050】
続いて、色領域11の単位面積当たりの分光スペクトルとその色領域11の領域面積を乗算して色領域11全体の分光スペクトルを演算値として算出する。色領域11全体の分光スペクトルは、色領域11の単位面積当たりの分光スペクトルの各波長成分毎の光強度とその色領域11の領域面積を乗算して算出する。
【0051】
続いて、測定範囲S1を占める各色領域11全体の分光スペクトルを加算して、その測定範囲S1全体の分光スペクトルを演算値として算出する。測定範囲S1全体の分光スペクトルは、複数の色領域11全体の分光スペクトルの各波長成分毎の光強度を加算して算出する。
【0052】
なお、ステップS16において算出された測定範囲S1全体の分光スペクトルは、例えば、中央制御装置61の表示部66に表示されたり、中央制御装置61のROM64に記憶される。
【0053】
以上によれば、視野絞りの開口形状による制限を受けることなく様々な形状を測定範囲S1としてその測定範囲の分光スペクトルを測定することが可能となる。また、測定範囲S1の分光スペクトルを測定するうえで、測定範囲S1から複数の色領域を画像処理することにより抽出し、その抽出した複数の色領域それぞれの一部について分光スペクトルを取得した後に演算処理を行うのみで足りるため、測定範囲S1内の測定を短時間で完了させることが可能となる。
【0054】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明したが、前述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0055】
例えば、上述の実施形態においては、分光器51により照明光による反射光の分光スペクトルを取得するものとして説明したが、分光器51により照明光による透過光の分光スペクトルを取得するものから構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 :測定試料
3 :顕微分光測定装置
11 :色領域
20 :ステージ
29 :照明光学系
41 :撮像装置
43 :撮像素子
51 :分光器
61 :中央制御装置
S1 :測定範囲
S2 :照射範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定試料の一部を測定範囲としてその測定範囲の分光スペクトルを測定するための顕微分光測定装置において、
前記測定試料を撮像して前記測定範囲を含む撮像範囲のカラー画像情報を取得する撮像手段と、
前記カラー画像情報を画像処理することにより、前記測定範囲から色に応じて区分けされる複数の色領域を抽出するとともに、前記複数の色領域の領域面積を算出する画像処理手段と、
前記画像処理手段により抽出された色領域の一部を照射範囲として照明光を照射する照明光学系と、
前記照射範囲に照射された照明光による反射光又は透過光により前記色領域の一部の分光スペクトルを取得する分光スペクトル取得手段と、
前記色領域の領域面積と、前記色領域の一部の分光スペクトルとに基づき演算処理を行なう演算処理手段とを備え、
前記照明光学系及び前記分光スペクトル取得手段により前記複数の色領域それぞれの一部の分光スペクトルを取得し、
前記演算処理手段は、前記複数の色領域それぞれに対応した領域面積及び一部の分光スペクトルに基づいて、前記測定範囲全体の分光スペクトルを算出すること
を特徴とする顕微分光測定装置。
【請求項2】
前記演算処理手段は、前記分光スペクトル手段により取得された前記色領域の一部の分光スペクトルに基づき当該色領域の単位面積当たりの分光スペクトルを算出し、その算出した色領域の単位面積当たりの分光スペクトルと当該色領域の領域面積を乗算して当該色領域全体の分光スペクトルを算出し、前記複数の色領域それぞれの色領域全体の分光スペクトルを加算して前記測定範囲全体の分光スペクトルを算出すること
を特徴とする請求項1記載の顕微分光測定装置。
【請求項3】
前記測定範囲を設定する設定手段を更に備えること
を特徴とする請求項1又は2記載の顕微分光測定装置。
【請求項4】
前記照明光学系から照射される照明光の前記測定試料に対する照射範囲を範囲調整及び位置調整する照射範囲調整手段を更に備え、
前記照明範囲調整手段は、前記画像処理手段により抽出された色領域に基づき、その色領域の一部に照明光が照射されるように前記照射範囲を範囲調整及び位置調整すること
を特徴とする請求項1〜3の何れか1項記載の顕微分光測定装置。
【請求項5】
前記照明光学系は、前記照明光を射出する光源と、前記光源から射出された照明光の前記測定試料の測定面における照射範囲を範囲調整する視野絞りとを備え、
前記照明範囲調整手段は、前記照明光の光軸と直交する方向に一体的に移動可能な前記光源と前記視野絞りとから構成されていること
を特徴とする請求項4記載の顕微分光測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−189342(P2012−189342A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50884(P2011−50884)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(592253736)シグマ光機株式会社 (46)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】