説明

顕微観察方法

【課題】 観察対象物を構成する各材料を視覚的に確認できる顕微観察方法を提供することを課題としている。
【解決手段】 光学顕微鏡によって観察対象物を観察するための顕微観察方法であって、複数種の構成材料を含む観察対象物の表面に少なくとも光を吸収又は散乱する薄膜を形成する薄膜形成工程を実施することにより観察用試料を作製し、さらに、該観察用試料を光学顕微鏡によって観察する観察工程を実施する顕微観察方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察対象物を光学顕微鏡によって観察するための顕微観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の顕微観察方法としては、様々な方法が知られており、例えば、表面に凹凸がありアルミナセラミックのみからなる均質な集積回路用基板を観察対象物として、該基板上に金の薄膜を形成して観察用試料を作製し、該観察用試料を光学顕微鏡によって観察する方法などが知られている(特許文献1)。
斯かる顕微観察方法によれば、均質な観察対象物における表面の凹凸を確認することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59−168339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これに対して、観察対象物表面の凹凸を確認できるだけではなく、複数種の構成材料を含む観察対象物の各材料を視覚的に確認できる顕微観察方法が要望されている。
【0005】
本発明は、上記の観点等に鑑み、観察対象物を構成する複数種の材料を視覚的に確認できる顕微観察方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく、本発明に係る顕微観察方法は、光学顕微鏡によって観察対象物を観察するための顕微観察方法であって、複数種の構成材料を含む観察対象物の表面に少なくとも光を吸収又は散乱する薄膜を形成する薄膜形成工程を実施することにより観察用試料を作製し、さらに、該観察用試料を光学顕微鏡によって観察する観察工程を実施することを特徴とする。
【0007】
上記構成からなる顕微観察方法においては、観察対象物が複数種の構成材料を含むことから、前記観察工程で得られる観察像において、各材料の屈折率又は反射率の違いが明暗の差となって表される。また、前記薄膜形成工程で形成された薄膜が光を吸収又は散乱できるため、観察用試料表面で反射した光の一部が吸収又は散乱され、観察用試料表面において正反射した光が抑制され得る。即ち、観察を妨げる正反射された光を抑制することができ、観察における意図しない光を抑制できる。従って、顕微観察方法においては、観察対象物を構成する各材料を視覚的に確認することができる。
【0008】
本発明に係る顕微観察方法は、前記観察対象物の表面を平滑に研磨する研磨工程と、研磨した観察対象物の表面に前記薄膜を形成する前記薄膜形成工程とを実施することにより観察用試料を作製することが好ましい。
【0009】
本発明に係る顕微観察方法は、前記観察工程において、光学顕微鏡の光源として着色光を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明に係る顕微観察方法は、観察対象物を構成する複数種の材料を視覚的に確認できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1における観察像の写真。
【図2】実施例2における観察像の写真。
【図3】実施例3における観察像の写真。
【図4】実施例4における観察像の写真。
【図5】比較例1における観察像の写真。
【図6】実施例5における観察像の写真。
【図7】実施例6における観察像の写真。
【図8】比較例2における観察像の写真。
【図9】実施例7における観察像の写真。
【図10】実施例8における観察像の写真。
【図11】実施例9における観察像の写真。
【図12】実施例10における観察像の写真。
【図13】比較例3における観察像の写真。
【図14】実施例11及び12における観察像の写真。
【図15】比較例4における観察像の写真。
【図16】実施例13〜15における観察像の写真。
【図17】比較例5における観察像の写真。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る顕微観察方法の実施形態について説明する。
【0013】
本実施形態の顕微観察方法は、光学顕微鏡によって観察対象物を観察するための顕微観察方法であって、複数種の構成材料を含む観察対象物の表面に少なくとも光を吸収又は散乱する薄膜を形成する薄膜形成工程を実施することにより観察用試料を作製し、さらに、該観察用試料を光学顕微鏡によって観察する観察工程を実施するものである。
【0014】
好ましくは、前記顕微観察方法においては、複数種の構成材料を含む観察対象物の表面を平滑に研磨する研磨工程と、研磨した観察対象物の表面に少なくとも光を吸収又は散乱する薄膜を形成する薄膜形成工程とを実施することにより観察用試料を作製し、さらに、該観察用試料を光学顕微鏡によって観察する観察工程を実施する。
【0015】
前記観察対象物は、異なる屈折率又は異なる反射率を有する複数種の構成材料が混在したものである。
前記観察対象物としては、例えば、セメントが水和反応したセメント水和物と骨材とが少なくとも構成材料として混在しているセメント硬化物が挙げられる。
該セメント硬化物の原料であるセメントとしては、例えば、JIS R5211〜5213により規定されるセメントが挙げられる。具体的には、高炉スラグを含む高炉セメント(JIS R5211)、シリカを含むシリカセメント(JIS R5212)、フライアッシュを含むフライアッシュセメント(JIS R5213)などが挙げられる。
また、前記セメント硬化物としては、セメント水和物と細骨材とが混在したモルタル、又は、セメント水和物と粗骨材と細骨材とが混在したコンクリート、セメント水和物とガラス繊維と細骨材とが混在したガラス繊維強化セメント(GRC)等が挙げられる。
さらに、前記観察対象物としては、具体的には例えば、粘板岩を薄い板状に加工したスレート、石膏ボード、ピータイル等が挙げられる。
【0016】
前記顕微観察方法において、視覚的に確認できる観察対象物の構成材料としては、具体的には、例えば、セメント水和物などのセメント由来物質、結晶性シリカや非結晶性シリカなどのシリカ材料、ガラス材料、アスベスト、高炉スラグ、フライアッシュ(石炭灰)、骨材などが挙げられる。
【0017】
なお、前記顕微観察方法においては、観察像において観察される材料の形状から、観察対象物に含まれている材料を確認することができる。具体的には、観察像においては、アスペクト比の大小により、例えば、ガラス材料としてのガラス粉やガラスファイバーを確認できる。
また、前記顕微観察方法においては、前記観察工程にて5000倍程度の倍率で観察することにより、セメント水和物の種類、即ち、原料として用いられたセメントの種類が確認され得る。
【0018】
前記研磨工程では、通常、光学顕微鏡によって観察する観察対象物の表面を物理的に平滑に研磨する。斯かる研磨を行うことにより、観察対象物表面の凹凸が抑えられ、観察対象物表面の凹凸の影響を受けた反射光又は屈折光が抑制される。凹凸の影響を受けた反射光又は屈折光が抑えられる分、観察対象物を構成する各材料それぞれの反射率又は屈折率の影響を受けた反射光又は屈折光が、観察像において直接的に認識され得る。そして、各材料の反射率又は屈折率に対応して反射又は屈折した光が、明暗等の差となって観察像に表され得る。このように、前記研磨工程を実施することにより、観察対象物表面の凹凸により生じ得る悪影響、即ち、観察対象物表面における光の拡散反射などを抑えることができる。
【0019】
前記研磨工程では、物理的な研磨方法として、例えば、バフ研磨方法を採用することができる。
また、前記研磨工程では、必要に応じて、エッチングなどの化学的な研磨を行うことができる。
【0020】
前記研磨工程では、JIS B0601(1994)に規定される算術平均粗さ(Ra)が5μm未満となるように観察対象物の表面を研磨することが好ましく、1μm以下となるように観察対象物の表面を鏡面研磨することがより好ましい。
なお、前記研磨工程は、従来公知の方法により、一般的な装置を用いて実施することができる。また、算術平均粗さ(Ra)は、市販の表面粗さ計を用いて測定することができる。
【0021】
前記薄膜形成工程では、観察対象物における研磨した表面上に、少なくとも光を吸収又は散乱する薄膜を形成する。研磨した観察対象物の表面に該薄膜を形成することにより、試料表面における光の正反射が薄膜によって抑制される。従って、観察を妨げる光の正反射が抑制され、観察像が見やすいものになる。
前記薄膜は、少なくとも光を吸収又は散乱するものである。光の散乱としては、具体的には、例えば、光の反射又は屈折が挙げられる。また、前記薄膜は、さらに光を回折する性能を有していてもよい。
【0022】
前記薄膜の材質としては、少なくとも光を吸収又は散乱するものであれば特に限定されず、金(Au)、白金(Pt)、白金−パラジウム(Pt−Pd)合金などの金属、二酸化ケイ素(SiO2)や二酸化チタン(TiO2)などの無機酸化物、又は炭素(C)等が挙げられる。なかでも、薄膜の材質としては、薄膜の成膜性及び安定性に優れるという点で、前記金属又は炭素(C)などの導電性物質が好ましく、金(Au)がより好ましい。
また、前記薄膜としては、例えば、所定の屈折率を有する樹脂、微粒子が分散されて所定の屈折率を有するように調整された反射防止塗料などの塗料、又は、光学顕微鏡の技術分野において一般的に用いられている浸液、屈折率調整液、屈折液等の観察用液体を用いて形成したものを採用することができる。
【0023】
前記薄膜は、可視光などの光が透過できる厚みに形成する。該薄膜の厚みは、特に限定されないが、通常、1nm〜1μmである。
なお、前記薄膜の厚みによって、観察される観察像の色が変わり得る。具体的には、光源として可視光の白色光を用いた場合、金で形成された薄膜の厚みが変わることにより、観察像全体の色調が、例えば黄系、オレンジ系、又は緑系の色になり得る。
【0024】
前記薄膜形成工程では、前記薄膜を従来公知の一般的な方法によって形成することができる。具体的には、例えば、蒸着によって金(Au)や炭素(C)の薄膜を形成することができる。
【0025】
前記薄膜形成工程において行う蒸着としては、物理的蒸着、化学的蒸着などが挙げられ、観察対象物を変質させるおそれが小さいという点で、物理的蒸着が好ましい。
前記物理的蒸着としては、抵抗加熱蒸着や電子ビーム(EB)蒸着などの真空蒸着、イオン化蒸着、スパッタリングなどを採用することができる。前記物理的蒸着としては、より簡便に行うことができ、しかも観察対象物表面における凹凸を覆うように成膜できるという点で、抵抗加熱蒸着や電子ビーム(EB)蒸着などの真空蒸着が好ましい。
なお、前記薄膜形成工程においては、電気鍍金や化学鍍金によっても薄膜を形成することができる。
【0026】
前記薄膜形成工程は、同種の薄膜材料を用いて、又は、異種の薄膜材料を用いて、複数回実施することができる。即ち、前記薄膜形成工程を複数回実施することにより、同種の又は異種の膜が複数積層したものを形成することができる。複数の膜が積層していることにより、特定の屈折率を有する材料を確認することがより確実に行えるという利点がある。
具体的には、例えば、細骨材とガラス粒子とが混在した観察対象物に対して、二酸化ケイ素の薄膜を形成した後に金の薄膜を形成した観察用試料を作製した場合、光学顕微鏡を用いた観察において白色光を光源として用いることにより、より確実に細骨材を確認することができる。詳しくは、二酸化ケイ素及びガラスの屈折率が近似しているため、観察像において、ガラス粒子の形状が確認できなくなる。また、二酸化ケイ素の薄膜表面からの反射光は、外側に積層された金の薄膜によって吸収させることができる。従って、観察像において、ガラス粒子が確認できなくなる分、細骨材をより確実に確認することができる。
【0027】
前記観察工程では、光源として、紫外光、赤外光、又は可視光を用いて、上述のごとく作製した観察用試料を光学顕微鏡によって観察する。
【0028】
前記光学顕微鏡としては、観察用試料に対する光の反射又は屈折を利用して観察できるものであれば、特に限定されるものではなく、従来公知の一般的なものを用いることができる。
前記光学顕微鏡としては、具体的には、例えば、実体顕微鏡、偏光顕微鏡、金属顕微鏡、コンフォーカル(共焦点)顕微鏡、レーザー顕微鏡、CCDカメラ付き顕微鏡、C−MOSカメラ付き顕微鏡等が挙げられる。
なお、光源として可視光以外の紫外光又は赤外光を採用しても、上記のCCDカメラ付き顕微鏡を用いることなどにより、観察像を視覚的に認識することができる。
【0029】
前記光源としての紫外光は、10nm以上360nm未満の波長の光を含むものである。また、前記光源としての赤外光は、700nm以上1000μm以下の波長の光を含むものである。また、前記光源としての可視光は、360nm以上700nm未満の波長の光を含むものである。
【0030】
前記可視光としては、具体的には例えば、波長の異なる可視光が混在する白色光を用いることができる。また、可視光としては、白色光の他、青色光、赤色光、緑色光などの着色光を用いることができる。即ち、前記観察工程では、これら各色の可視光を光源として用いることができる。
【0031】
前記白色光及び着色光は、JIS Z8110「色の表示方法−光源色の色名」に従って決められるものである。
具体的には、前記白色光は、上記JIS規格における「基本色名」の白に該当するものである。また、前記着色光は、上記JIS規格における「基本色名」の白以外に該当するものである。
また、前記着色光としての前記青色光は、上記JIS規格における「基本色名」の青緑、青、青紫に該当するものである。前記着色光としての前記赤色光は、上記JIS規格における「基本色名」の赤、黄赤に該当するものである。前記着色光としての前記緑色光は、上記JIS規格における「基本色名」の緑、黄緑に該当するものである。
【0032】
前記観察工程では、白色光によって観察を行った場合、例えば金の薄膜で反射された光は、光学顕微鏡観察において、黄系の色となって認識される。
具体的には、前記観察工程では、セメント水和物、高炉スラグ、細骨材、及び粗骨材が混在したコンクリートを観察対象物として、該コンクリートの表面に金の薄膜を形成した観察用試料を、光源として白色光を用いて光学顕微鏡によって観察すると、セメント水和物が黒系〜濃いオレンジ系の色となって確認でき、高炉スラグがオレンジ系の色となって確認できる。また、細骨材及び粗骨材がオレンジ系の色となって確認できる。
【0033】
前記観察工程では、観察対象物の各構成材料がより確認されやすくなるという点で、光学顕微鏡の光源として着色光を用いることが好ましい。詳しくは、光源として白色光を用いると、前記薄膜にて反射又は屈折された光が着色した光になり得る。このような場合、前記薄膜にて反射又は屈折された光が白色に近い色になるように、光源として着色光を用いることにより、観察像がより見えやすくなる。
具体的には、前記観察工程では、例えば、青色光によって観察を行うことにより、金の薄膜で反射された光が白色に近い色となって認識され、光学顕微鏡観察において観察対象物の各構成材料がより確認されやすくなる。
【0034】
前記着色光としては、具体的には、金の薄膜で反射された光が白色に近い色となって認識されるという点で、青色光を用いることが好ましい。
【0035】
なお、前記観察工程では、得られた観察像をさらに画像処理し、例えばコントラストを上げることなどにより、観察対象物を構成する複数種の材料をより確実に確認することができる。また、色温度補正フィルタ(NCBフィルタ)、単色フィルタ(GIFフィルタ)、又は減光フィルタ(NDフィルタ)などを用いることにより、観察対象物を構成する複数種の材料をより確実に確認することができる。
【0036】
本発明は、上記例示の顕微観察方法に限定されるものではない。
また、一般の顕微観察方法において用いられる種々の態様を、本発明の効果を損ねない範囲において、採用することができる。
【実施例】
【0037】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
まず、以下に示すようにして、観察用試料を作製した。
【0039】
(作製例1)
観察対象物として、高炉スラグ、セメント水和物、細骨材、及び粗骨材を含むコンクリート(セメント硬化物)を用いた。
コンクリートを40mm×40mm×10mmの直方体状に切り出し、その1面を、平面研磨装置(マルトー社製 機器名「MG−403」カップ刃を改造したもの)及び回転式乾式鏡面研磨装置(ムサシノ電子社製 機器名「MA−300D」)を用いて、算術平均粗さ(Ra)が5μm未満となるように平滑に研磨することにより、研磨工程を行った。
次に、研磨面に対して、抵抗加熱方式の真空蒸着装置(日本電子社製 製品名「JEE−4X」)を用いて金を蒸着し、厚み100〜500オングストロームの範囲となるように薄膜を形成し、薄膜形成工程を行った。なお、真空度1×10-6torrの蒸着条件とし、45°傾斜させた被蒸着試料を回転させながら蒸着を行った。このようにして観察用試料を作製した。
【0040】
(作製例2)
薄膜形成工程において炭素を蒸着した点以外は、作製例1と同様にして観察用試料を作製した。
【0041】
(作製例3)
薄膜形成工程を行わなかった点以外は、作製例1と同様にして観察用試料を作製した。
【0042】
続いて、光学顕微鏡を用いて、作製した各観察用試料を観察した。
【0043】
(実施例1)
作製例1の光学顕微鏡観察用試料を、光学顕微鏡(CCDカメラ付きデジタルマイクロスコープ キーエンス社製 製品名「VHX−500」)を用いて観察し、観察工程を実施した。なお、光源として白色光を用い、倍率を100倍とした。
【0044】
(実施例2)
光源として青色光を用いた点以外は、実施例1と同様にして観察工程を実施した。
【0045】
(実施例3)
作製例2の光学顕微鏡観察用試料を用いた点以外は、実施例1と同様にして観察工程を実施した。
【0046】
(実施例4)
作製例2の光学顕微鏡観察用試料を用いた点、光源として青色光を用いた点以外は、実施例1と同様にして観察工程を実施した。
【0047】
(実施例5)
倍率を1000倍とした点以外は、実施例1と同様にして観察工程を実施した。なお、観察部位は、実施例1と異なる。
【0048】
(実施例6)
倍率を1000倍とした点、実施例より白色光の強度を大きくして顕微鏡のCCD感度を落とした点、顕微鏡付属の画像処理機能によりホワイトバランスを調節した点以外は、実施例1と同様にして観察工程を実施した。なお、観察部位は、実施例1と異なる。
【0049】
(実施例7)
倍率を1000倍とした点以外は、実施例1と同様にして観察工程を実施した。
【0050】
(比較例1)
作製例3の光学顕微鏡観察用試料を用いた点以外は、実施例1と同様にして観察工程を実施した。
【0051】
(比較例2)
倍率を1000倍とした点以外は、比較例1と同様にして観察工程を実施した。なお、観察部位は、比較例1と異なる。
【0052】
実施例1〜7及び比較例1及び2において観察して得られた観察像を図1〜図9に示す。
詳しくは、実施例1〜4の観察像をそれぞれ図1〜4に示す。また、比較例1の観察像を図5に示す。また、実施例5及び6の観察像をそれぞれ図6及び7に示す。また、比較例2の観察像を図8に示す。なお、図6〜8は、観察用試料の同じ部分の観察像である。
実施例7の観察像を図9に示す。
【0053】
金の薄膜を形成した試料(作製例1)を白色光によって観察した図1の観察像(実施例1)においては、オレンジ系の色となった部分が骨材2であると確認でき、黒系の色となった部分がセメント水和物1であると確認できる。
一方、金の薄膜を形成した試料(作製例1)を青色光によって観察した図2の観察像(実施例2)においては、白系の色となった部分が骨材2であると確認でき、黒系の色となった部分がセメント水和物1であると確認できる。
また、炭素の薄膜を形成した試料(作製例2)を白色光によって観察した図3の観察像(実施例3)においては、白系の色となった部分が骨材2であると確認でき、黒系の色となった部分がセメント水和物1であると確認できる。
また、炭素の薄膜を形成した試料(作製例2)を青色光によって観察した図4の観察像(実施例4)においては、青系の色となった部分が骨材2であると確認でき、黒系の色となった部分がセメント水和物1であると確認できる。
これに対し、薄膜を形成しなかった試料(作製例3)を白色光によって観察した図5の観察像(比較例1)においては、骨材2及びセメント水和物1を確認することが困難である。なお、濃い黒系の色となっている部分は、空隙4である。
【0054】
金の薄膜を形成した試料(作製例1)を白色光によって観察した図6の観察像(実施例5)においては、オレンジ系の色となった部分が骨材2であると確認でき、黒系の色となった部分がセメント水和物1であると確認できる。
また、金の薄膜を形成した試料(作製例1)を、上述のごとき観察条件で観察し、画像処理によりホワイトバランスを調節した図7の観察像(実施例6)においては、図6の観察像よりも、骨材2における色がより白系に近い色になっている。
これに対し、薄膜を形成しなかった試料(作製例3)を白色光によって観察した図8の観察像(比較例2)においては、骨材2及びセメント水和物1を確認することが困難である。
【0055】
金の薄膜を形成した試料(作製例1)を白色光によって観察した図9の観察像(実施例7)においては、オレンジ系の色となった部分が骨材2であると確認でき、黒系の色となった部分がセメント水和物1であると確認できる。また、鋭角を有しオレンジ系の色を有する多角形状物が高炉スラグ3であると確認できる。
【0056】
(実施例8〜10)
それぞれ光源として白色光、赤色光、緑色光を用い、実施例1における光学顕微鏡観察用試料の観察部分とは異なる部分について実施例1と同様にして観察工程を実施した。
【0057】
(比較例3)
作製例3(薄膜形成工程なし)の試料を用い、実施例8〜10の観察部分に相当する部分について、実施例1と同様にして観察工程を実施した。
【0058】
実施例8〜10の観察像をそれぞれ図10〜12に、また、比較例3の観察像を図13に示す。
図10〜12に示すように、実施例8〜10の観察像においては、黒系の色で表されたセメント水和物1及び白系の色で表された骨材2を確認することができる。一方、図13に示すように、比較例3の観察像においては、セメント水和物1及び骨材2を確認することが困難である。比較例3の観察像においては、観察対象物表面における光の正反射により、セメント水和物1及び骨材2を確認することが困難になっていると考えられる。
【0059】
続いて、ガラス繊維を含む観察対象物を用いて観察用試料を作製し、作製した試料を用いて観察工程を実施した。
【0060】
(作製例4)
観察対象物として、セメント水和物とガラス繊維と細骨材とが混在したガラス繊維強化セメント(GRC)を用いた点以外は、作製例1と同様にして観察用試料を作製した。
(作製例5)
薄膜形成工程を行わなかった点以外は、作製例4と同様にして観察用試料を作製した。
【0061】
(実施例11)
作製例4の観察用試料を用いた点以外は、実施例1と同様にして観察工程を実施した。
【0062】
(実施例12)
作製例4の観察用試料を用い、光源として可視光の青色光を用いた点以外は、実施例1と同様にして観察工程を実施した。
【0063】
(比較例4)
作製例5の観察用試料を用いた点以外は、実施例1と同様にして観察工程を実施した。
【0064】
実施例11及び12の観察像をそれぞれ図14(a)、図14(b)に示す。また、比較例4の観察像を図15に示す。
図14(a)、図14(b)に示すように、実施例11及び12の観察像においては、白く表されたガラス繊維5を確認することができる。一方、図15に示すように、比較例4の観察像においては、ガラス繊維5を確認することが困難である。
【0065】
(実施例13)
作製例4の観察用試料を用いた点、倍率を1000倍とした点以外は、実施例1と同様にして観察工程を実施した。
【0066】
(実施例14)
作製例4の観察用試料を用いた点、光源として青色光を用いた点、倍率を1000倍とした点以外は、実施例1と同様にして観察工程を実施した。
【0067】
(実施例15)
作製例4の観察用試料を用いた点、減光フィルタ(ND16)を用いた点、倍率を1000倍とした点以外は、実施例1と同様にして観察工程を実施した。
【0068】
(比較例5)
作製例5の観察用試料を用いた点、倍率を1000倍とした点以外は、実施例1と同様にして観察工程を実施した。
【0069】
実施例13〜15の観察像をそれぞれ図16(a)〜図16(c)に示す。また、比較例5の観察像を図17に示す。
図16(a)〜図16(c)に示すように、実施例13〜15の観察像においては、白く表されたガラス繊維5を確認することができる。一方、図17に示すように、比較例5の観察像においては、ガラス繊維5を確認することが困難である。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の顕微観察方法は、観察対象物を構成する材料を視覚的に確認でき、例えば、様々な無機物質材料が混在した複合物の分析のために使用され得る。具体的には、例えば、透明材料、又は、モルタルやコンクリートの簡易的材料分析において好適に使用される。
【符号の説明】
【0071】
1:セメント水和物、 2:骨材、 3:高炉スラグ、 4:空隙、 5:ガラス繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学顕微鏡によって観察対象物を観察するための顕微観察方法であって、
複数種の構成材料を含む観察対象物の表面に少なくとも光を吸収又は散乱する薄膜を形成する薄膜形成工程を実施することにより観察用試料を作製し、さらに、該観察用試料を光学顕微鏡によって観察する観察工程を実施することを特徴とする顕微観察方法。
【請求項2】
前記観察対象物の表面を平滑に研磨する研磨工程と、研磨した観察対象物の表面に前記薄膜を形成する前記薄膜形成工程とを実施することにより観察用試料を作製する請求項1記載の顕微観察方法。
【請求項3】
前記観察工程では、光学顕微鏡の光源として着色光を用いる請求項1又は2記載の顕微観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−215386(P2012−215386A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78898(P2011−78898)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【出願人】(594018267)株式会社中研コンサルタント (10)
【Fターム(参考)】