説明

顕微鏡、培養観察装置

【課題】培養容器中の試料を観察する際に培養液にレンズ効果が生じている場合でも、試料の良好な観察像を得ることが可能な顕微鏡、培養観察装置を提供する。
【解決手段】観察対象となる試料13と試料13を培養する培養液12とを保持する培養容器3内に、培養液12中に浸した状態で試料13を観察するための顕微鏡6において、試料13を第1の観察方法で観察するための第1光学系17,22と、試料13を第2の観察方法で観察するための第2光学系16,21と、を含む少なくとも2つの光学系を切替可能に有しており、培養容器3中の観察位置に応じて、前記少なくとも2つの光学系を切り替えて使用することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡、培養観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞等の試料を培養する際には、シャーレ(ディッシュ)やウェルプレート等の培養容器が使用されている。
シャーレは、ポリスチレン等の透明なプラスチック製で円形の皿部材と蓋部材とからなり、蓋部材を開けて試料と試料を培養するための培養液(培地)を注入して使用される。なお、このようなシャーレは、その径の大きさ等によって複数の種類、例えば35、60、100mmディッシュ等に分類される。
ウェルプレートは、シャーレと同様にプラスチック製で、試料を培養するための小さな円筒状の凹部(ウェル)が多数形成された板状部材と蓋部材とからなる。斯かるウェルプレートは、各ウェルに試料を注入して異なる培地等で同時に培養しながら実験を行うことができるため、取扱い易さや省スペース化の向上を図ることができる。なお、ウェルプレートには、1、6、24、96、384個等のウェルが形成されたものが知られている。特に、96個のウェルが形成された96ウェルプレートは創薬現場等においてよく用いられている。
【0003】
ここで、上述のような培養容器、特にウェルの内径が小さな96ウェルプレート等においては、ウェルに培養液を注入すると、培養液の液面が表面張力によって湾曲し凹面を形成してしまう。このため、斯かるウェルプレートを顕微鏡のステージに載置して試料を観察する場合には、培養液の凹面で生じたレンズ効果(メニスカス効果)の影響によって試料の観察像が劣化してしまうという問題があった。
そこで、このような問題を解消するために、ウェルプレートと、ウェルプレートの各ウェルに対向するように配置された、培養液の凹面によるレンズ効果を打ち消すためのレンズアレイとからなる培養容器を備えた顕微鏡が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−4871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来の顕微鏡では、レンズ効果をレンズアレイによって効果的に打ち消すことができず、試料の良好な観察像を得ることができないという問題があった。
そこで本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、培養容器中の試料を観察する際に培養液にレンズ効果が生じている場合でも、試料の良好な観察像を得ることが可能な顕微鏡、培養観察装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、
観察対象となる試料と前記試料を培養する培養液とを保持する培養容器内に、前記培養液中に浸した状態で前記試料を観察するための顕微鏡において、
前記試料を第1の観察方法で観察するための第1光学系と、
前記試料を第2の観察方法で観察するための第2光学系と、
を含む少なくとも2つの光学系を切替可能に有しており、
前記培養容器中の観察位置に応じて、前記少なくとも2つの光学系を切り替えて使用することを特徴とする顕微鏡を提供する。
【0007】
また本発明は、
前記顕微鏡と、
前記顕微鏡を収納する筐体と、
前記筐体内に配置されており、前記培養容器を格納するための棚部と、
前記培養容器を前記棚部から前記顕微鏡まで搬送する搬送部と、
前記筐体内を所定の環境に維持するための環境維持部と、
を有することを特徴とする培養観察装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、培養容器中の試料を観察する際に培養液にレンズ効果が生じている場合でも、試料の良好な観察像を得ることが可能な顕微鏡、培養観察装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(a)は本発明の第1、第2実施形態に係る培養観察装置の外観を示す図であり、(b)はその構成を示す図である。
【図2】(a)は第1、第2実施形態に係る培養観察装置内の顕微鏡の構成を示す図であり、(b)は顕微鏡本体内の回転切替部の上面図である。
【図3】第1、第2実施形態における顕微鏡の新明視野照明部の構成を示す図である。
【図4】(a)乃至(d)は顕微鏡における新明視野照明部の可動絞りを光軸方向へ移動させた様子を示す図である。
【図5】第1実施形態に係る培養観察装置の観察方法切替ルーチンを示すフローチャートである。
【図6】第2実施形態に係る培養観察装置の観察方法切替ルーチンを示すフローチャートである。
【図7】第2実施形態に係る培養観察装置の補正情報算出サブルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
はじめに、ウェルプレートの各ウェルに注入された培養液の凹面で生じるレンズ効果について詳細に説明する。
ウェルプレートで培養した試料を顕微鏡で明視野観察、位相差観察、或いは微分干渉観察等する場合、試料を透過照明することが必須である。しかしながら、ウェル内の試料を透過照明した際には、照明光が培養液の凹面のレンズ効果によって屈折してしまう。このため、屈折した照明光で照明された試料からの透過光は、対物レンズへ入射することができなくなってしまう。或いは、屈折した照明光がウェルの壁面で反射又は透過してしまい、ウェル内の試料を均一に照明することができなくなってしまう。
ここで、培養液の凹面によるレンズ効果の影響は、凹面の曲率半径が小さく、また当該凹面に対する照明光の入射角度が大きいほど大きくなる。また、ウェルの壁面近傍では、培養液の液面が表面張力によってせり上がるように湾曲するため、凹面の外周部分は略非球面形状となる。したがって、凹面の外周部分におけるレンズ効果の影響は非常に大きくなり、試料の観察がより困難になってしまう。
また、培養液の凹面でレンズ効果が発生すると、顕微鏡で得られる試料の観察像のコントラストが視野内の位置によって反転してしまう。具体的には、視野内の中心部では観察像が黒色で背景が白色であるのに対して、視野内の周辺部では観察像が白色で背景が黒色となり、視野内の周辺部にある試料を観察することが困難になってしまう。また、このように観察像の見え方が視野内の位置によって一様でないため、細胞カウンティング等の画像解析が困難になり、正確な解析及び培養の自動化システムの作成も阻害されることとなってしまう。
【0011】
以上のような現象は、ウェルプレートに限られず殆ど全ての培養容器において発生する。そして、培養容器の試料を注入する凹部の径が小さいものほど、培養液の液面の湾曲した部分の占める割合が大きくなるため、視野内で観察困難な領域が大きくなる。特に、96ウェルプレートにおいては、各ウェルの内径はΦ6.4mm程度であるが、ウェル内において観察が容易な領域は中心部のΦ2mm程度の範囲となってしまう。
また、レンズ効果を引き起こす培養液の凹面は、次のような要因によってその形状が変化する。
1)培養容器の種類(1〜384ウェルプレート、35〜100mmディッシュ)
2)培養液の組成
3)培養容器の材質や培養容器表面のコーティング処理
4)培養液の量
特に、96ウェルプレートにおいては、培養液の凹面の曲率半径が4.0〜10.0程度まで変化し、ウェルの壁面近傍では上述のように凹面の外周部分が略非球面形状となる。
【0012】
また近年では、iPS細胞やES細胞の研究が進み、再生医療に向けた研究が盛んになりつつある。斯かる研究においては、細胞が均一で純粋な、1つの細胞から増殖した細胞群を用いることが必要である。このような純化された細胞群を得るためには、培養容器中に細胞をまいてコロニーを形成させ、良好なコロニーのみを培養容器中からピックアップしなければならない。このため、顕微鏡を用いて培養容器の全域から良好なコロニーを探索する必要があり、斯かる作業のスループット向上のためには広視野での観察が可能な顕微鏡が求められることとなる。しかしながら、広視野即ち低倍率でレンズ効果のある培養容器を観察することは、視野内でレンズ効果の影響を受ける領域の割合が、狭い視野即ち高倍率で観察する場合よりも増えるということであり、レンズ効果の影響がより顕著になってしまう。したがって、前述のスループット向上のためには、広視野でありながらレンズ効果の影響を解消可能な顕微鏡が必要となる。
また、培養容器において細胞が注入される凹部は、通常、円筒形状である。このため、ユーザーが培養容器を手で持ち運ぶ際には、凹部内の培養液に凹部の中心を軸とした渦が生じてしまう。そしてこの渦の影響により、凹部内の細胞の生え方が一様でなくなってしまい、特に、凹部の壁面近傍に細胞が多く生えることとなる。このため、凹部内の細胞の数を精度良く確認するためには、凹部内の中心部だけでなく、凹部の壁面近傍に生えている細胞の数まで確認しなければならない。しかしながらこのように凹部の全域にわたって細胞の数を確認することは、上述したレンズ効果によって困難であった。
【0013】
以上をまとめると、従来の顕微鏡は、培養容器における培養液の凹面のレンズ効果によって、容器内の試料を透過照明して観察する、特に視野内の全域で観察することが困難になる。具体的には、次の5つの不具合が挙げられる。
1)培養容器の凹部の壁面へ向かってシェーディングが生じるため、視野の明るさが均一でない。
2)培養容器の凹部の壁面近傍には、照明光が全く届かない暗黒領域が発生し、試料が全く見えなくなってしまう。
3)培養容器の凹部の中心部に位置する試料と壁面近傍に位置する試料では、観察像のコントラストが反転してしまうため、画像解析を行うことが困難である。
4)レンズ効果の大きさは、培養容器の種類、培養液の組成、培養容器の材質、及び培養液の量等によって様々であるため、試料の観察条件が一様でない。
5)観察の精度を確保しながらスループットの向上を図るために、広視野で試料を観察することが望まれるものの、広視野の観察においてはレンズ効果の影響が顕著になる。
【0014】
また近年では、複数の試料を観察位置の再現性を保持しながら顕微鏡によるタイムラプス観察やライブ観察を行うことが可能な培養観察装置が提案されている。この培養観察装置は、複数の培養容器に配した試料を培養したり、培養中の試料を培養環境下で自動観察及び自動撮影することが可能であり、これによって次のようなメリットを有している。
1)培養環境下での試料の観察が可能であるため、顕微鏡観察時の環境暴露による試料へのダメージが少ない。
2)培養中の試料の観察、記録、及び管理を自動で行うことが可能であるため、使用者の負担を軽減することができる。
しかしながら、斯かる培養観察装置においても、培養容器中の培養液にはレンズ効果が発生してしまう。特に、培養観察装置によって試料を自動で撮影する場合には、撮影された試料の画像を後で使用者が判断することとなるため、次のような問題が生じる。
1)オートフォーカスで自動撮影を行うが、レンズ効果の影響によってピントがボケてしまう。
2)レンズ効果によって視野の中心部又は周辺部で露光ムラが発生し、細胞が見えなくなってしまう。
3)前記1)、2)の影響により、細胞カウンティング等の画像解析が不能になってしまう。
【0015】
次に、本発明の各実施形態に係る培養観察装置について添付図面を参照して説明する。
(第1実施形態)
図1に示すように、第1実施形態に係る培養観察装置1は、箱状の第1筐体2aとその下方に配置された箱状の第2筐体2bとからなる。
第1筐体2a内には、複数の培養容器3を格納するストッカー4、培養容器3をストッカー4から顕微鏡6まで搬送する搬送装置5、環境維持部13、及び顕微鏡6の照明装置7とステージ20が備えられている。なお、環境維持部13は第1筐体2a内の温度、湿度、二酸化炭素濃度、及び酸素濃度等を調整するものであり、これによって第1筐体2a内を所定の培養環境に維持することができる。また、第1筐体2aには扉8が設けられており、扉8の外面にはタッチパネルの機能を有する表示モニタ9が備えられている。
第2筐体2b内には、搬送装置5、環境維持部13、及び顕微鏡6等を制御するための制御部10、及び顕微鏡本体11が備えられている。なお、制御部10には、後述する記憶部10aが備えられている。
【0016】
図2に示すように顕微鏡6は、培養容器3の凹部3aに培養液12とともに注入されている試料13を観察するものであり、照明装置7とステージ20と顕微鏡本体11とからなる。
顕微鏡本体11は、位相差観察部16と新明視野観察部17を切替可能に保持する回転切替部18と、撮像部19とを有している。
なお、回転切替部18には、制御部10からの指示により回転切替部18を軸Oを中心に回転させるための不図示の駆動部が備えられており、これによって位相差観察部16と新明視野観察部17を切り替えて選択的に光路中に配置することができる。また、位相差観察部16と新明視野観察部17の構成については後述する。
撮像部19には、2/3インチCCDカメラが備えられている。
【0017】
照明装置7は、位相差照明部21と新明視野照明部22を切替可能に保持する回転切替部23と、光源25とを有している。
なお、回転切替部23には、制御部10からの指示により回転切替部23を軸Qを中心に回転させるための不図示の駆動部が備えられており、これによって位相差照明部21と新明視野照明部22を切り替えて選択的に光路中に配置することができる。また、位相差照明部21と新明視野照明部22の構成については後述する。
光源25には、コヒーレント性の高い赤色LED(発光ダイオード)が用いられている。これにより、照明の均一化と長寿命化を図ることができる。また、培養液12内のフェノールレッド等の栄養素が培養液12の劣化に伴って変色し、これが可視広域の光を吸収してしまうため、培養状態によって観察像の明るさが変化してしまうという影響を解消することができる。
ステージ20には、ステージ20を駆動するための不図示の駆動部と、当該駆動部によって駆動されたステージ20の位置情報を検出するための不図示の位置検出部が備えられている。
【0018】
ここで、位相差観察部16は、ステージ20側から順に、対物レンズ26、及び結像レンズ27を有する。また、対物レンズ26の瞳面には、リング形状の位相膜(不図示)が配置されている。
位相差照明部21は、ステージ20側から順に、コンデンサレンズ27、リング形状の開口が形成されたリング絞り(不図示)、及びコリメートレンズ(不図示)を有する。なお、リング絞りは、位相差観察部16の対物レンズ26中の位相膜に対して共役となるように配置されている。
斯かる構成の下、回転切替部18,23によって位相差照明部21と位相差観察部16を光路中に配置した際には、培養容器3の凹部3a中の試料13を位相差観察することが可能となる。
【0019】
新明視野観察部17は、図2に示すように、ステージ20側から順に、第1対物レンズ30、及び第2対物レンズ31を有する。
第1対物レンズ30は、培養容器3の凹部3aの底面から射出された光を略漏れなく集光するための高い開口数(NA)を有する対物レンズであり、本実施形態においてはΦ6.4mm程度の実視野を実現するために、倍率が1.25倍、開口数が0.25以上のものが用いられている。また、第1対物レンズ30には、第1対物レンズ30を光軸方向へ移動させるための不図示の駆動部が備えられている。このため、当該駆動部によって第1対物レンズ30を光軸方向へ移動させることで合焦位置を変更することができる。
【0020】
新明視野照明部22は、図3に示すように、ステージ20側から順に、コンデンサレンズ33、開口絞り34、可動絞り35、及びコレクタレンズ36を有する。
可動絞り35は、培養容器3の凹部3aの底面を略均一に照明するための所謂低NAの照明光を生成するための絞り部材である。本実施形態において可動絞り35には、新明視野照明部22から射出される照明光の実効的なNAが0.1以下となるように、絞り径や光軸上の位置等が予め設計された絞り部材が用いられている。ここで、照明光の実効的なNAとは、新明視野照明部22から射出される照明光のうち、新明視野観察部17の第1対物レンズ30に入射する観察光を形成する照明光のNAをいう。なお、斯かる可動絞り35は、照明光が凹部3aの壁面で反射又は透過することを防止するために、照明光の光束が凹部3aの内径よりも小さくなるように照明光の照射領域を絞る役割も果たしている。
また、可動絞り35には、可動絞り35を光軸方向へ移動させるための不図示の駆動部と、可動絞り35の絞り径を変更するための不図示の調整機構とが備えられている。これにより、前記駆動部によって可動絞り35を光軸方向へ移動させることで、照明光の実効的なNAを変更するとともに照明光の主光線の方向を変更することができる。また、前記調整機構によって可動絞り35の絞り径を変更することで、照明光の実効的なNAを変更することができる。
【0021】
斯かる構成の下、回転切替部18,23によって新明視野照明部22と新明視野観察部17を光路中に配置した際には、光源25から発せられた照明光は、コレクタレンズ36を経て可動絞り35と開口絞り34を通過した後、コンデンサレンズ33によって集光されて、培養容器3の凹部3a中の試料13に培養液12を介して照射される。なお、斯かる照明光は、可動絞り35を通過することで実効的なNAと主光線の方向が適切に制御され、実効的なNAが第1対物レンズ30の開口数よりも小さくなっている。
ここで、培養容器3の凹部3a中の培養液12の液面は上述のように凹面となってレンズ効果を生じる。そこで、このような液面に対して実効的なNAの小さな照明光を照射することで、照明光が当該液面で屈折しても、凹部3aの壁面で反射又は透過することを防止することができる。詳細には、照明光の主光線の方向は可動絞り35の光軸上の位置に応じて変化する。このため、本実施形態において可動絞り35の光軸上の位置は、照明光の主光線が培養液12の液面で屈折される方向を考慮し、培養液12の液面で屈折された照明光の主光線の方向が光軸に対して前記屈折される方向と逆方向へ向くように予め設定されており、これによって照明光が凹部3aの壁面で反射又は透過することを防止することができる。したがって、照明光が凹部3a内のみを進行することとなり、凹部3aの底面をムラなく略均一に照明することが可能となり、また、凹部3aの底面から射出された光を第1対物レンズ30へ入射させることが可能となる。
【0022】
そして、以上のように第1対物レンズ30の開口数よりも実効的なNAの小さな照明光で照明された試料13からの光は第1対物レンズ30に入射する。ここで、第1対物レンズ30は上述のように開口数が十分に大きいため、凹部3aの底面から射出された光を略漏れなく集光することができる。このようにして第1対物レンズ30によって集光された光は、第2対物レンズ31を介して撮像部19の撮像面上に試料13の観察像を形成する。詳細には、上述のように実効的なNAと主光線の方向を適切に設定した照明光によって、凹部3aの壁面での反射光即ちノイズ光の発生を抑えながら凹部3aの底面を略均一に照明することで、試料13の背景(バックグラウンド)からの光(直接光)のNAが小さくなるため、斯かる直接光と試料13で回折された回折光とが干渉してコントラストの良好な観察像が形成されることとなる。このようにして形成された試料13の観察像は撮像部19で撮影され、表示モニタ9や不図示のパーソナルコンピュータのモニタに表示されて使用者に観察されることとなる。なお、以上のように新明視野照明部22と新明視野観察部17を用いて行う観察を新明視野観察と称する。
【0023】
上述のように、培養液12のレンズ効果の大きさは、培養容器3の種類や材質、培養液12の組成や量等によって様々に変化する。特に、培養容器3の種類によって培養液12の凹面の直径は異なり、これによって凹面の曲率半径は大きく変化し、レンズ効果も大きく変化することとなる。そして、レンズ効果が大きく変化すれば、培養容器3の凹部3aの底面を略均一に照明することが困難になってしまうおそれがある。
そこで、本実施形態における顕微鏡6は、培養液12のレンズ効果の変化に応じて、可動絞り35を光軸方向に移動させたり、可動絞り35の絞り径を変更することで、照明光の実効的なNAや照明光の主光線の方向を変更することができる。これにより、培養液12のレンズ効果が変化した場合でも、これに対応する実効的なNAと主光線の方向を設定した低NAの照明光によって凹部3aの底面を略均一に照明することができ、レンズ効果の影響を解消した試料13の観察像を取得することができる。
【0024】
ここで、可動絞り35を光軸方向へ移動させることによる照明光の主光線の方向の変更について具体的に説明する。
図4(a)に示すように、培養容器3の凹部3a中の培養液12の凹面の曲率半径が小さい、即ち培養液12のレンズ効果が大きい場合、斯かる培養液12に主光線の方向を光軸と略同じ方向とした照明光を照射すれば、凹面で屈折した光は、凹部3aの壁面で反射又は透過することはないものの、第1対物レンズ30に入射することができなくなってしまい、所謂、視野欠けを招くこととなってしまう。
このため、図4(b)に示すように、可動絞り35を光源25側へ移動させて光軸に対する照明光の主光線の角度を大きくすることで、凹面で屈折した光は、凹部3aの壁面で反射又は透過することなく、第1対物レンズ30に漏れなく入射することができ、これによりレンズ効果の影響を解消した試料13の観察像を取得することが可能となる。
【0025】
また、図4(c)に示すように、培養液12の凹面の曲率半径が大きい、即ち培養液12のレンズ効果が小さい場合には、斯かる培養液12に光軸に対して主光線の角度を大きく傾けた照明光を照射すれば、照明光の一部が凹部3aの壁面に外側から直接照射されてケラれてしまうため、視野内にシェーディングが生じることとなってしまう。
このため、図4(d)に示すように、可動絞り35をステージ20側へ移動させて光軸に対する照明光の主光線の角度を小さくすることで、照明光が凹部3aの壁面でケラれることを防止でき、レンズ効果の影響を解消した試料13の観察像を取得することが可能となる。
以上より、本実施形態における顕微鏡6では、培養液12の凹面の形状、即ちレンズ効果の大きさに応じて、当該レンズ効果の影響を解消することに最適な位置に可動絞り35を配置することが好ましい。なお、可動絞り35の絞り径を変更して照明光の実効的なNAを変更する際にも、レンズ効果の大きさに応じて適切に設定することが好ましい。
【0026】
以上に述べた新明視野観察によれば、全域にわたって明るさの略均一な視野を実現し、コントラストの良好な試料13の観察像を得ることができる。具体的には、次の5つの効果を奏することができる。
1)培養容器3の凹部3aの壁面へ向かってシェーディングが生じることを解消し、全域にわたって明るさの略均一な視野で試料13を観察することができる。
2)培養容器3の凹部3aの底面を略均一に照明することができるため、視野の全域で、コントラストの一様な試料13を観察することができる。
3)前記1)、2)の結果、ソフトウェア等によるセルカウンティング等の画像解析を行うことが容易になる。
4)培養液12のレンズ効果が変化した場合でも、可動絞り35を光軸方向へ移動させること等により、レンズ効果の影響を解消した試料13の観察像を取得することができる。また、受精卵観察用培地ドロップ等のように培養液12の凹面形状が逆転する観察対象にも対応することができる。
5)後述のように広視野で試料13を観察することができるため、観察の精度を確保しながらスループットの向上を図ることができる。
【0027】
ここで、上述のように再生医療の研究等において培養した細胞を観察する際には、低倍率で視野の全域を観察することが求められており、培養液のレンズ効果の影響を考慮しながら視野の全域で観察を行うためには、第1対物レンズに0.25相当の開口数と1.25倍程度の倍率が必要となる。
そこで、本実施形態における顕微鏡6は、上述のように照明光の実効的なNAを0.1以下、第1対物レンズ30の倍率を1.25倍、開口数を0.25以上とすることで、視野の全域(Φ6.4mm程度の実視野)での新明視野観察を実現している。また、上述のように96ウェルプレートにおけるウェルの内径はΦ6.4mm程度であるため、培養容器3に96ウェルプレートを用いる場合には、2/3インチCCDカメラを備えた撮像部19によって、96ウェルプレートのウェルの底面全域を1枚の画像として撮影することができる。即ち、最大限のスループットでレンズ効果の影響を解消した試料13の観察像を取得することが可能となる。
【0028】
一方、本実施形態の顕微鏡6において、培養容器3に内径の大きなウェルが形成されたウェルプレート(例えば、6ウェルプレート等)を用いて新明視野観察を行う場合、培養液の液面は、ウェルの壁面付近で湾曲し、ウェルの中心付近では略平坦となる。このため、ウェルの壁面付近を新明視野観察すれば画質の改善を実現できるものの、ウェルの中心付近を新明視野観察すれば画質の劣化(特に、画像の明るさムラ等)が発生してしまうおそれがある。このことは、96ウェルプレート等のようにウェルの内径が小さい場合、即ち培養液の液面全体が湾曲し、レンズ効果が液面全体で発生する場合には問題とならない。なお、斯かる問題は、ウェルプレートに限られず、ディッシュ等のその他の培養容器を用いて新明視野観察を行う際にも同様に生じるものである。
【0029】
そこで、本実施形態に係る培養観察装置1は、培養容器3の凹部3a中の観察位置に応じて観察方法を自動的に切り替えて試料13を自動的に撮影するための観察方法切替ルーチンを実行可能に構成されている。
図5に示す本実施形態の観察方法切替ルーチンは、使用者が表示モニタ9を操作して本ルーチンの開始の指示を制御部10へ入力することで開始される。なお、使用者は、本ルーチンを実行するにあたり、位相差観察部16の対物レンズ16や位相差照明部21のリング絞り等の情報を制御部10へ予め入力しておく。
ステップS1:制御部10が、ステージ20に培養容器3が載置されているか否かを判定する。ステージ20に培養容器3が載置されている場合はステップS2へ進み、そうでない場合は本ステップS1を再度実行する。
【0030】
ステップS2:制御部10が、使用者によって各種情報が制御部10へ入力されているか否かを判定する。各種情報が制御部10へ入力されている場合はステップS3へ進み、そうでない場合は本ステップS2を再度実行する。ここで、本実施形態において各種情報とは、培養容器3の種類(6〜384ウェルプレート、35〜100mmディッシュ、受精卵観察用培地ドロップ等)、培養容器3の材質とコーティング、培養液12の組成、培養液12の量、及び試料13として観察する細胞の種類(大きさや形状)等である。
ステップS3:制御部10が、各種情報に基づくシミュレーションによって培養容器3の凹部3a中の培養液12の液面の形状(具体的には、曲率半径)を算出し、算出した液面の形状に基づいて、凹部3a中の観察位置に応じて観察方法を切り替えるための基準となる切替位置情報を算出する。ここで、切替位置情報とは、培養液12の液面の凹部3aの壁面付近の湾曲部分と中心付近の平坦部分との境界を規定し、当該平坦部分の範囲(例えば、培養容器3に6ウェルプレートを用いた場合、培養液12の液面において曲率半径が100以上となる凹部3aの中心から半径12mmの円形の範囲等)を示すものである。なお、斯かる範囲を切替範囲と称する。
ステップS4:制御部10が、使用者又は制御部10の指示によってステージ20が操作されたか否かを判定する。ステージ20が操作された場合はステップS5へ進み、そうでない場合は本ステップS4を再度実行する。
【0031】
ステップS5:制御部10が、不図示の位置検出部で検出されたステージ20の位置情報に基づいて、使用者が観察しようとしている凹部3a中の観察位置を算出し、当該観察位置がステップS3で求めた切替範囲外にあるか否かを判定する。観察位置が切替範囲外にある場合、言い換えれば観察位置に対応する培養液12の液面の形状が湾曲している場合はステップS6へ進む。一方、観察位置が切替範囲内にある場合、言い換えれば観察位置に対応する培養液12の液面の形状が略平坦である場合にはステップS7へ進む。
ステップS6:制御部10が、回転切替部18,23を回転させて新明視野照明部22と新明視野観察部17を光路中に配置する。これによって顕微鏡6は新明視野観察を行うことが可能な状態になる。
ステップS7:制御部10が、回転切替部18,23を回転させて位相差照明部21と位相差観察部16を光路中に配置する。これによって顕微鏡6は位相差観察を行うことが可能な状態になる。
ステップS8:制御部10の指示の下、撮像部19が試料13の画像を撮影する。
ステップS9:制御部10が、表示モニタ9に文字情報「撮影終了?」を表示させ、使用者によって撮影を終了する旨の指示が制御部10へ入力されているか否かを判定する。撮影を終了する旨の指示が制御部10へ入力されている場合には本ルーチンが終了し、そうでない場合にはステップS4へ戻る。
【0032】
以上より、本実施形態に係る培養観察装置1は、上記観察方法切替ルーチンを実行することで、培養容器3の凹部3a中の観察位置に対応する培養液12の液面が湾曲している場合には新明視野観察によって試料13を撮影し、また、観察位置に対応する培養液12の液面が略平坦である場合には位相差観察によって試料13を撮影することができる。したがって、観察位置に対応する培養液12の液面の形状に関わらず、明るさムラ等のない良好な画質で試料13を撮影することができる。
【0033】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る培養観察装置は、上記第1実施形態と基本的に同様の構成であるため、図1乃至図3を参照して説明する。
上述のように、培養液12のレンズ効果の大きさは、培養容器3の種類や材質、培養液12の組成や量等によって様々に変化する。そして、培養液12のレンズ効果が変化すれば、新明視野観察において、培養容器3の凹部3aの底面を略均一に照明することが困難になり、また、撮影時にピントボケや露光ムラが生じてしまうおそれがある。
そこで、本実施形態に係る培養観察装置は、培養容器3の凹部3a中の観察位置に応じて観察方法を自動的に切り替えることに加えて、新明視野観察を行う際には、自動的に凹部3aの底面の略均一な照明を実現しながらピントボケと露光ムラを解消するための観察方法切替ルーチンを実行可能に構成されている。
【0034】
なお、本実施形態において、制御部10内の記憶部10aには、培養液12の液面の形状に応じて、新明視野照明部22と新明視野観察部17を構成する光学要素の補正を行うための複数の補正情報が予め記憶されている。なお、この複数の補正情報は、各種情報(培養容器3の種類(6〜384ウェルプレート、35〜100mmディッシュ、受精卵観察用培地ドロップ等)、培養容器3の材質とコーティング、培養液12の組成、培養液12の量、及び試料13として観察する細胞の種類(大きさや形状)等)に対応しており、補正情報テーブルとして記憶部10aに記憶されている。
具体的には、記憶部10aは、前記補正情報として、培養液12の液面の形状に応じて照明光の実効的なNAと主光線の方向を変更するための可動絞り35の光軸上の位置情報を記憶している。この位置情報に基づいて可動絞り35を光軸方向へ移動させて照明光の実効的なNAと主光線の方向を適切に設定することで、培養容器3の凹部3aの底面の略均一な照明を実現することが可能となる。
また、記憶部10aは、前記補正情報として、培養液12の液面の形状に応じて合焦位置を変更するための第1対物レンズ30の光軸上の位置情報を記憶している。この位置情報に基づいて第1対物レンズ30を光軸方向へ移動させて合焦位置を補正することで、撮影時のピントボケを解消することが可能となる。
また、記憶部10aは、前記補正情報として、培養液12の液面の形状に応じて露光量を変更するための露光情報(具体的には、撮像部19の感度情報)を記憶している。この感度情報に基づいて撮像部19の感度を変更して露光量を補正することで、撮影時の露光ムラを解消することが可能となる。
【0035】
斯かる構成の下、図6に示す本実施形態の観察方法切替ルーチンは、上記第1実施形態の観察方法切替ルーチンと同様に、使用者が本ルーチンの開始の指示を制御部10へ入力することによって開始される。なお、使用者は、本ルーチンを実行するにあたり、位相差観察部16の対物レンズ16や位相差照明部21のリング絞り等の情報を制御部10へ予め入力しておく。
ステップT1:上記第1実施形態の観察方法切替ルーチンのステップS1と同様。
ステップT2:上記第1実施形態の観察方法切替ルーチンのステップS2と同様。
ステップT3:上記第1実施形態の観察方法切替ルーチンのステップS3と同様。
ステップT4:上記第1実施形態の観察方法切替ルーチンのステップS4と同様。
ステップT5:上記第1実施形態の観察方法切替ルーチンのステップS5と同様。
ステップT6:上記第1実施形態の観察方法切替ルーチンのステップS6と同様。
ステップT7:制御部10が後述する補正情報算出サブルーチンを実行する。
ステップT8:制御部10が、ステップT7で得られた補正情報に基づいて、可動絞り35を光軸方向へ移動させて照明光の実効的なNAと主光線の方向を適切に設定し、第1対物レンズ30を光軸方向へ移動させて合焦位置を補正し、撮像部19の感度を変更して露光量を補正する。そして制御部10が撮像部19に試料13の画像を撮影させる。
ステップT9:上記第1実施形態の観察方法切替ルーチンのステップS7と同様。
ステップT10:制御部10が撮像部19に試料13の画像を撮影させる。
ステップT11:上記第1実施形態の観察方法切替ルーチンのステップS9と同様。
【0036】
図7に示す補正情報算出サブルーチンは、上記観察方法切替ルーチンにおいて新明視野観察を実施するにあたって、ステップT2で得られた各種情報に基づいて補正情報を算出するためのものである。
ステップP1:制御部10が、ステップT2で得られた各種情報を参照して、当該各種情報に対応する補正情報(可動絞り35の光軸上の位置情報、第1対物レンズ30の光軸上の位置情報、及び撮像部19の感度情報)を記憶部10aの補正情報テーブルから読み出す。
ステップP2:制御部10が、ステップP1で読み出した補正情報を前記各種情報と関連付けて記憶部10aに登録する。
ステップP3:制御部10が、表示モニタ9に文字情報「ライブ観察を実行?」を表示させ、使用者によってライブ観察を実行する旨の指示が制御部10へ入力されているか否かを判定する。ライブ観察を実行する旨の指示が制御部10へ入力されている場合、新明視野観察による試料13のライブ画像が表示モニタ9に表示され、顕微鏡6は使用者が試料13をライブ観察しながら可動絞り35の光軸上の位置、第1対物レンズ30の光軸上の位置、及び撮像部19の感度を自ら補正することが可能な状態となり、ステップP4へ進む。一方、ライブ観察を実行しない旨の指示が制御部10へ入力されている場合には、本サブルーチンを終了して上記観察方法切替ルーチンへ戻る。
【0037】
ステップP4:制御部10が、表示モニタ9に文字情報「新たな補正情報を登録?」を表示させ、使用者が補正した可動絞り35の光軸上の位置、第1対物レンズ30の光軸上の位置、及び撮像部19の感度を新たな補正情報として登録する旨の指示が使用者によって制御部10へ入力されているか否かを判定する。新たな補正情報を登録する旨の指示が制御部10へ入力されている場合はステップP5へ進み、そうでない場合は本ステップP4を再度実行する。
ステップP5:制御部が、使用者が補正した可動絞り35の光軸上の位置、第1対物レンズ30の光軸上の位置、及び撮像部19の感度を、新たな補正情報として前記各種情報に関連付けて記憶部10aに登録する。
【0038】
以上より、本実施形態に係る培養観察装置は、上記観察方法切替ルーチンを実行することで、上記第1実施形態の観察方法切替ルーチンの奏する効果に加えて、新明視野観察を行う際には、培養容器3の凹部3aの底面の略均一な照明を実現しながらピントボケと露光ムラを解消してより良好な画質で試料13を撮影することができる。
【0039】
なお、上記各実施形態の観察方法切替ルーチンでは、上述のように制御部10が各種情報に基づいて培養容器3の凹部3a中の培養液12の液面の形状を算出し、さらに液面の形状に基づいて切替位置情報を算出する構成である。しかしこれに限られず、予め制御部10内の記憶部10aに各種情報に対応する複数の切替位置情報が切替位置情報テーブルとして記憶されており、斯かる記憶部10aから制御部10が切替位置情報を適宜読み出す構成とすることもできる。
また、上記各実施形態の観察方法切替ルーチンでは、上述のように凹部3a中の観察位置が切替範囲内にある場合には位相差観察が実施される。しかしこれに限られず、観察位置が切替範囲内にある場合には、制御部10が各種情報のうちの試料13の種類の情報を参照して、試料13が受精胚である場合にはホフマンモジュレーション観察、試料13が薄い細胞である場合には微分干渉観察、試料13が標準的な厚みの細胞である場合には位相差観察、試料13が厚い細胞である場合には斜光照明観察を実行する構成としてもよい。なお、斯かる場合には、顕微鏡6の回転切替部18,23に各々の観察方法に必要な照明部と観察部をそれぞれ追加すればよい。
【0040】
また、上記第2実施形態の観察方法切替ルーチンでは、記憶部10aが補正情報として培養液12の液面の形状に応じて照明光の実効的なNAを変更するための可動絞り35の絞り径情報をさらに記憶しており、この絞り径情報に基づいて可動絞り35の絞り径を変更して照明光の実効的なNAをより適切に設定する構成としてもよい。これにより、培養容器3の凹部3aの底面のより均一な照明を実現することができる。
また、上記各実施形態の観察方法切替ルーチンでは、観察位置、撮影回数、インターバルタイム、総時間等の撮影条件を制御部10に予め入力することで、タイムラプス撮影を実施することもできる。この場合、オートフォーカスで自動撮影を行う際のピントボケを解消し、露光ムラによって試料が見えなくなることを解消することができるため、観察像の品質を効果的に向上させることができる。またこれにより、細胞カウンティング等の画像解析を正確に実施することも可能となる。
また、上記各実施形態の観察方法切替ルーチンは、制御部10によって実行される構成であるが、これに限られず顕微鏡本体11内に備えられた不図示の制御部によって実行される構成とすることも勿論可能である。
【0041】
以上、上記各実施形態によれば、培養容器中の試料を観察する際に培養液にレンズ効果が生じている場合でも、試料の良好な観察像を得ることが可能な顕微鏡とこれを備えた培養観察装置を実現することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 培養観察装置
3 培養容器
6 顕微鏡
10 制御部
10a 記憶部
12 培養液
13 試料
16 位相差観察部
17 新明視野観察部
20 ステージ
21 位相差照明部
22 新明視野照明部
AX 光軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察対象となる試料と前記試料を培養する培養液とを保持する培養容器内に、前記培養液中に浸した状態で前記試料を観察するための顕微鏡において、
前記試料を第1の観察方法で観察するための第1光学系と、
前記試料を第2の観察方法で観察するための第2光学系と、
を含む少なくとも2つの光学系を切替可能に有しており、
前記培養容器中の観察位置に応じて、前記少なくとも2つの光学系を切り替えて使用することを特徴とする顕微鏡。
【請求項2】
前記培養容器中の観察位置に対応する前記培養液の液面の形状に応じて、前記少なくとも2つの光学系を切り替えて使用することを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡。
【請求項3】
前記培養容器中の観察位置に対応する前記培養液の液面の曲率半径に応じて、前記少なくとも2つの光学系を切り替えて使用することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の顕微鏡。
【請求項4】
前記第1光学系は、開口絞りとコンデンサレンズとを有する照明光学系と、対物レンズを有する観察光学系とを有し、前記培養液の液面の形状に応じて、前記照明光学系から射出される照明光の実効的なNAが前記対物レンズの開口数よりも小さくなっており、
前記第2光学系は、前記試料を位相差観察するための光学系であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の顕微鏡。
【請求項5】
前記照明光の実効的なNAは0.1以下であり、前記対物レンズの開口数は0.25以上であることを特徴とする請求項4に記載の顕微鏡。
【請求項6】
前記第1光学系は、前記照明光学系に可動絞りを有し、前記可動絞りを光軸方向へ移動させることで前記照明光の実効的なNAを変更することを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の顕微鏡。
【請求項7】
前記培養容器中の観察位置に応じて前記少なくとも2つの光学系を切り替えるための基準となる前記培養容器中の切替位置情報を求め、前記観察位置と前記切替位置情報に基づいて前記少なくとも2つの光学系の切り替えを行う制御部を有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の顕微鏡。
【請求項8】
前記切替位置情報を複数個記憶した記憶部を有し、
前記制御部は、前記培養容器の種類、前記培養容器の材質、前記培養液の組成、及び前記培養液の量のうちの少なくとも1つの情報に基づいて前記記憶部から前記切替位置情報を取得することを特徴とする請求項7に記載の顕微鏡。
【請求項9】
前記制御部は、前記培養液の液面の形状に応じて前記第1光学系を構成する光学要素の補正を行うための補正情報を求め、前記補正情報に基づいて前記光学要素の補正を行うことを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の顕微鏡。
【請求項10】
前記記憶部は、前記培養液の液面の形状に応じて前記照明光の実効的なNAを変更するための前記可動絞りの光軸上の位置情報を前記補正情報として複数個記憶しており、
前記制御部は、前記培養容器の種類、前記培養容器の材質、前記培養液の組成、及び前記培養液の量のうちの少なくとも1つの情報に基づいて前記記憶部から前記可動絞りの光軸上の位置情報を取得し、前記可動絞りの光軸上の位置情報に合わせて前記可動絞りを光軸方向へ移動させることを特徴とする請求項9に記載の顕微鏡。
【請求項11】
前記試料の画像を撮影するための撮像部を有し、
前記記憶部は、前記培養液の液面の形状に応じて露光量を変更するための露光情報を前記補正情報として複数個記憶しており、
前記制御部は、前記培養容器の種類、前記培養容器の材質、前記培養液の組成、及び前記培養液の量のうちの少なくとも1つの情報に基づいて前記記憶部から前記露光情報を取得し、前記露光情報に合わせて前記撮像部の感度を設定することを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の顕微鏡。
【請求項12】
前記記憶部は、前記培養液の液面の形状に応じて合焦位置を変更するための前記対物レンズの光軸上の位置情報を前記補正情報として複数個記憶しており、
前記制御部は、前記培養容器の種類、前記培養容器の材質、前記培養液の組成、及び前記培養液の量のうちの少なくとも1つの情報に基づいて前記記憶部から前記対物レンズの光軸上の位置情報を取得し、前記対物レンズの光軸上の位置情報に合わせて前記対物レンズを光軸方向へ移動させることを特徴とする請求項9から請求項11のいずれか一項に記載の顕微鏡。
【請求項13】
使用者が前記第1光学系によって前記試料をライブ観察して前記光学要素の補正を行い、新たな補正情報を前記記憶部に記憶させることを特徴とする請求項9から請求項12のいずれか一項に記載の顕微鏡。
【請求項14】
請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の顕微鏡と、
前記顕微鏡を収納する筐体と、
前記筐体内に配置されており、前記培養容器を格納するための棚部と、
前記培養容器を前記棚部から前記顕微鏡まで搬送する搬送部と、
前記筐体内を所定の環境に維持するための環境維持部と、
を有することを特徴とする培養観察装置。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−13888(P2012−13888A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149471(P2010−149471)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】