説明

顕微鏡システム

【課題】それぞれリアルタイムの蛍光画像と可視光画像を同時に重ね合わせて表示することができる顕微鏡システムを提供する。
【解決手段】蛍光プローブが投与された患部に照射して所定波長の蛍光を発光させる励起光の波長領域を含む照明光を照射する単一の光源と組み合わせ自在で、外部に取り出された観察光束を2つに分岐する分岐光学手段7と、分岐光学手段の一方に接続される蛍光撮像手段10と、分岐光学手段の他方に接続される可視光撮像手段9と、蛍光撮像手段で撮像された蛍光画像と可視光撮像手段で撮像された可視光画像とを重畳して表示する表示手段とを備える顕微鏡システムであって、前記分岐光学手段7が観察光束の同軸上で可視光から所定波長の蛍光のみを分岐する界面8を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は顕微鏡システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の医学において、患者に蛍光プローブと称される蛍光物質を投与し、患部への集積が進んだ段階で、その蛍光プローブを励起できる波長の励起光を照射し、患部だけを蛍光させると共に、その蛍光だけを透過する光学フィルターを介して、患部の蛍光観察を行う技術が知られている。
【0003】
蛍光物質としては、5−アミノレブリン酸(5−ALA)、タラポルフィンナトリウム(登録商標レザフィリン)、インドシアニングリーン(ICG)などが知られている。5−アミノレブリン酸は、波長380nm付近の励起光を受けて、波長620nm付近の蛍光を発する。タラポルフィンナトリウムは、波長664nm付近の励起光を受けて、波長672nm付近の蛍光を発する。インドシアニングリーンは、波長805nm付近の励起光を受けて、波長835nm付近の蛍光を発する。インドシアニングリーンが最も赤外側(長波長側)である。
【0004】
この種の蛍光観察の場合、蛍光だけの観察だと、患部の中における蛍光部分がどの位置か特定できないため、その周辺部も可視光により観察できれば好ましい。
【0005】
そのため、従来は患部から発せられた蛍光と、患部で反射された可視光の両方を透過する光学フィルターを備えた一台の撮像装置を備え、その撮像装置により、蛍光画像と可視光画像を切り替えながら撮像し、それを表示装置に重ね合わせて表示している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−14868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような従来の技術にあっては、一台の撮像装置により、蛍光画像と可視光画像を切り換えながら撮像し、それを表示装置において重ね合わせて表示しているため、どちからの画像にタイムラグが生じ、両方ともリアルタイムの画像ではない。そのため手術中の患部など、動きのある画像には不向きであった。
【0008】
本発明は、このような従来の技術に着目してなされたものであり、それぞれリアルタイムの蛍光画像と可視光画像を同時に重ね合わせて表示することができる顕微鏡システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、蛍光プローブが投与された患部に照射して所定波長の蛍光を発光させる励起光の波長領域を含む照明光を照射する単一の光源と組み合わせ自在で、外部に取り出された観察光束を2つに分岐する分岐光学手段と、分岐光学手段の一方に接続される蛍光撮像手段と、分岐光学手段の他方に接続される可視光撮像手段と、蛍光撮像手段で撮像された蛍光画像と可視光撮像手段で撮像された可視光画像とを重畳して表示する表示手段とを備える顕微鏡システムであって、前記分岐光学手段が観察光束の同軸上で可視光から所定波長の蛍光のみを分岐する界面を有する光学ブロックであることを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明は、前記単一の光源がキセノンランプであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の発明によれば、観察光束を蛍光画像と可視光画像に分岐して、重畳して表示するため、それぞれリアルタイムの蛍光画像と可視光画像を重ね合わせて表示することができる。観察光束の分岐を光学ブロックにより同軸上で行うため、蛍光画像と可視光画像とは視野及び倍率などが一致して合成画像が得やすい。合成画像では蛍光の周辺の状態も可視光により確認することができるため、動きのある患部の状態も正確に観察することができる。
【0012】
請求項2記載の発明によれば、光源がキセノンランプであるため、蛍光プローブとして広く使用されているインドシアニングリーンの励起光としての波長領域と、可視光画像用の通常照明としての波長領域の両方を含み、光源が単一で済む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る顕微鏡システムを示す概略図。
【図2】顕微鏡システムの撮像装置部分を示す概略図。
【図3】蛍光画像と可視光画像の合成を示す模式図。
【図4】キセノンランプの放射スペクトル分布を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1〜図4は、本発明の好適な実施形態を示す図である。手術用の顕微鏡1は、手術室内において、図示せぬスタンド装置のアームにより支持されている。顕微鏡1は、2つの接眼部を有する立体顕微鏡で、内部にはフォーカスレンズやズームレンズが設けられ、それらにより左右2系統の光路が形成されている。
【0015】
また、顕微鏡1には、外部光源装置2から照明光Rが導入され、その照明光Rは顕微鏡1に導かれ、顕微鏡1から患部Pに照射される。外部光源装置2には、光源としてキセノンランプ3が収納されている。
【0016】
キセノンランプ3の照明光は、図4に示すように、蛍光プローブとしてインドシアニングリーンを使用する場合の励起波長(805nm)を含んでいる。従って、キセノンランプ3により、インドシアニングリーンを励起させることができると共に、可視光による通常照明も行える。
【0017】
顕微鏡1の側部には撮像装置4が取り付けられている。この撮像装置4には、顕微鏡1内の二系統ある光路のうちの一系統が分岐されて導入される。この撮像装置4の内部には、2つのプリズム5、6を組み合わせた光学ブロック(分岐光学手段)7が設けられている。2つのプリズム5、6の界面8は光学多層膜となっており、インドシアニングリーンの蛍光(835nm)だけを選択的に反射し他の波長成分はそのまま透過させる機能を有する。
【0018】
光学ブロック7の界面8は顕微鏡1から取り出された観察光束Lの光軸上に存在するため、観察光束Lは、界面8を通過する可視光画像L1と、界面8で反射される蛍光画像L2に同軸上で分岐される。可視光画像L1は界面8を通過した後に一方のプリズム5側に設置された可視光撮像手段としてのカラーCCDカメラ9で撮像される。界面8で分岐された蛍光画像L2は他方のプリズム6における別の面で反射された後に蛍光撮像手段としての高感度カラーCCDカメラ10で撮像される。
【0019】
各CCDカメラ9、10で撮像されたデータは画像合成処理装置11で合成される。画像合成処理装置11で合成された画像は表示装置(表示手段)12に送られ、そこで可視光画像L1と蛍光画像L2を重畳した状態で表示することができる。可視光画像L1と蛍光画像L2は、同軸から分離されたため、両者が同視野及び同倍率で表示される。
【0020】
しかも、可視光画像L1び蛍光画像L2の両方とも、リアルタイムで同期した状態で表示され、実際の患部の状態との間にタイムラグがない。
【0021】
例えば、患部Pにおいて、リンパ管Aと静脈血管Bの吻合手術を行う場合、予め患者に、インドシアニングリーン(ICG)を注入する。ICGはリンパ管Aだけに流れ、照明光Rを照射することにより、照明光R中の励起波長(805nm)に励起されて、波長835nm付近の蛍光を発する。静脈血管BにはICGが流れないため、静脈血管Bは蛍光を発しない。
【0022】
皮膚切開した患部P中に、図3に示すように、複数のリンパ管Aと静脈血管Bが密接していても、その中からリンパ管Aだけを蛍光画像L2により特定することができる。リンパ管Aが特定できれば、リンパ管Aでない管は静脈血管Bなので、可視光画像L1において、リンパ管Aと静脈血管Bを正確に区別して認識することができる。従って、顕微鏡1でリンパ管Aの手術を行う場合など、手術処置によりリンパ管Aが視野の中で動いても、その状態を表示装置12においてリアルタイムで正確に観察することができる。従って、術者だけでなく助手なども患部Pの状態を正確に把握することができる。
【0023】
尚、インドシアニングリーンはリンパ管Aの他にも、センチネルリンパ節などのリンパ節を検出することができる。センチネルリンパ節は、腫瘍から癌細胞がリンパ流によって最初に到達する部分であり、このセンチネルリンパ節に癌細胞の転移が認められなければ、他臓器への転移がないと考えられる。そのため、このセンチネルリンパ節の蛍光画像を可視光画像中で確実に特定できる意味は大きい。
【0024】
以上の実施形態では、2つのプリズム5、6を組み合わせた光学ブロック7により、可視光の光束から1つの蛍光を分離する例を示したが、3つのプリズムを組み会わせてより、1つ可視光から2つの蛍光を分離しても良い。
【符号の説明】
【0025】
1 顕微鏡
3 キセノンランプ(光源)
7 光学ブロック(分岐光学手段)
8 界面
9 カラーCCDカメラ(可視光撮像手段)
10 高感度カラーCCDカメラ(蛍光撮像手段)
12 表示装置(表示手段)
A リンパ管
B 静脈血管
P 患部
R 照明光
L 観察光
L1 可視光画像
L2 蛍光画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光プローブが投与された患部に照射して所定波長の蛍光を発光させる励起光の波長領域を含む照明光を照射する単一の光源と組み合わせ自在で、外部に取り出された観察光束を2つに分岐する分岐光学手段と、
分岐光学手段の一方に接続される蛍光撮像手段と、
分岐光学手段の他方に接続される可視光撮像手段と、
蛍光撮像手段で撮像された蛍光画像と可視光撮像手段で撮像された可視光画像とを重畳して表示する表示手段とを備える顕微鏡システムであって、
前記分岐光学手段が観察光束の同軸上で可視光から所定波長の蛍光のみを分岐する界面を有する光学ブロックであることを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項2】
前記単一の光源がキセノンランプであることを特徴とする請求項1記載の顕微鏡システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−3495(P2013−3495A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137110(P2011−137110)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(390013033)三鷹光器株式会社 (114)
【Fターム(参考)】