説明

顕微鏡及び対物レンズの結露防止方法

【課題】 対物レンズの結露を防止し、良好な顕微鏡画像を得ることができる顕微鏡および対物レンズの結露防止方法を提供する。
【解決手段】 相対湿度90〜100%で、且つ所定の気体温度に制御された高湿度空間を有する細胞培養装置3にヒータ22を有する対物レンズ1を配置し、この対物レンズ1により細胞培養装置3で培養される細胞12を観察するとともに、この対物レンズ1の温度が高湿度空間の気体温度より高くなるようにヒータ22を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養装置に用いられる顕微鏡および対物レンズの結露防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生物学等の分野では生体の機能解析のために、動物や植物の生体細胞を適当な条件下で生かし続け、生体細胞の挙動観察が一般に行われている。
【0003】
このように生体細胞の挙動観察には、一定な環境条件下で細胞を生かし続けるための細胞培養装置が用いられている。
【0004】
従来、細胞培養装置で生かし続けられる培養細胞を顕微鏡で観察するものとして、特許文献1の「顕微鏡観察用培養器」に開示されるように倒立型顕微鏡のステージ上に細胞の培養器を積載して観察する方法が知られている。
【0005】
この場合、培養器内の細胞が設置されている細胞培養空間は、温度、湿度、CO2濃度が一定条件に制御されており、例えば、温度37℃、湿度100%、CO2濃度5%に保たれている。そして、このような培養器による一定な環境条件下で細胞を生かし続けながら顕微鏡下で細胞の経時変化などを観察している
ところで、培養器内部の空間は、完全に外気から断熱されているわけでなく、例えば、対物レンズについては、対物鏡筒部が培養器の外気側に配置され、先玉(先端レンズ)が培養器内部に細胞と近接して配置されている。
【0006】
この場合、対物レンズとして、、WDの短いものを用いると、細胞が接着されているカバーガラスと対物レンズの先玉表面との距離は0.1〜0.2mm程度となる。このため、一般的なドライタイプの対物レンズの場合は、カバーガラスと先玉表面との間に空気が満たされているので、比較的断熱効果が期待できるものの、液浸タイプの対物レンズの場合は、カバーガラスと先玉表面との間に水やオイルで満たされているので、この間の断熱効果が著しく低下する。つまり、0.1〜0.2mm程度のわずかな空間に介在される水やオイルを介して外気にさらされる対物レンズに対し、細胞を接着したカバーガラスが配置されるため、オイルや水を介して対物レンズから細胞の熱が奪われてしまい、このため、特に外気温度が低い場合には、細胞を37℃に保つことが難しくなっていた。
【0007】
このような問題を解決する手段として、特許文献2の「「レンズヒータ及びレンズヒータ付き顕微鏡観察用加温装置」に開示されるようにニクロム線から発せられる熱によって対物レンズを暖める方法や、特許文献3の「顕微鏡」が開示されるように所定温度の水を流通させることにより液浸対物レンズを所定温度に温める方法など、対物レンズを加温するための手段を付加する様々な方法が考えられている。そして、培養器の細胞培養空間を加温するための加温手段と共に、対物レンズを加温する対物加温手段を制御することにより、細胞が所望の温度(例えば、37℃)を維持できるようにしている。
【特許文献1】特開2004−141143号公報
【特許文献2】特開2002−250869号公報
【特許文献3】実開平7−36118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、このような特許文献1乃至3については、以下のような様々な問題がある。
【0009】
つまり、培養器の細胞培養空間は、温度37℃、湿度100%の環境に維持されるのに対し、対物レンズの温度は、20℃程度の室温環境になっている。このため、この状態のままピントを合わせる為に対物レンズを細胞に近づけると、温度の低い対物レンズの温度が急に高まり、湿度も高い環境にさらされるので、このときの温度差により対物レンズの先玉表面が結露して曇ってしまう。この場合、顕微鏡に用いられている対物レンズのNAが大きいと、わずかな曇りでも顕微鏡画像の劣化につながり、満足の行く観察ができないことがある。また、倒立型顕微鏡において高NAでWDの短い対物レンズを使用しているような場合、観察したい部位を変更するため、細胞と共に培養装器をステージにより移動させなくてはならない関係で、培養器底面に穴部が設けられることがあるが、このような構成のものでは、対物レンズが細胞培養空間から漏れてきた高温高湿度の空気にさらされ、さらに先玉が曇り易い状況になる。また、WDが短いことで、先玉は温度の高い細胞に、さらに近づくようになり、これも先玉が曇り易い要因となっている。
【0010】
そこで、特許文献2や特許文献3に開示されるように、対物レンズ1を加温することで、先玉の結露を防止できるようにしているが、これらの特許文献2や特許文献3のものは、細胞の温度が常に37℃を保つように対物レンズを加温制御したものである。このため、対物レンズの先玉は37℃近くに制御されるようになるが、培養器の細胞培養空間内の温度や外気の温度によっては、37℃よりも低い36.9℃程度又はそれ以下の温度になってしまうことがある。例えば、細胞培養空間の気体温度は38℃、細胞は37℃、対物レンズの先玉は36℃、外気温は35℃でそれぞれ安定するといったケースが考えられる。
【0011】
このような状態では、細胞培養空間の湿度が100%なので、細胞培養空間の気体温度38℃よりも先玉の温度が0.1℃でも低いと、先玉の外側表面には結露が生じることがあり、この結露により、対物レンズによる顕微鏡画像が大きく劣化してしまうという問題を生じる。
【0012】
また、一般的な対物レンズでは、対物鏡筒部の金属製の中枠に対して先玉を接着やカシメ等の方法により固定している。このため、先玉が湿度100%の細胞培養空間にさらされると、細胞培養空間の水蒸気が接着部を透過したり、カシメ部の数μm程度のわずかな隙間から漏れ出し、対物レンズの内部に徐々に溜まっていくことがある。このような状態で、仮に、対物レンズの内部温度が細胞培養空間の気体温度とほぼ同じ37℃であれば、対物レンズ内部は、いずれは湿度が100%となり、また、対物レンズ内の温度ムラによりわずかに37℃よりも低い部位や低い場所があれば、その部分が結露を始める。そして、対物レンズ内のいずれかのレンズに結露が発生し、上述したと同様に顕微鏡画像の劣化を招き、満足の行く観察ができないことがある。
【0013】
さらに、培養器には、細胞が入った培養容器を細胞培養空間から取り出して交換したり、新たに入れたりするため蓋部や同様の機能を有する扉などが設けられている。このため、これら蓋部や扉を開閉した際に、温度の低い外気が細胞培養空間に侵入し、対物レンズの先玉に触れて対物レンズが急激に冷やされ、対物レンズ内部に溜まった水蒸気が結露し、上述したと同様に顕微鏡画像の劣化を招き、満足の行く観察ができないことがある。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、対物レンズの結露を防止し、良好な顕微鏡画像を得ることができる顕微鏡および対物レンズの結露防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1記載の発明は、標本を培養するための相対湿度90〜100%で、且つ所定の気体温度に設定された高湿度空間と、前記高湿度空間に配置され、該高湿度空間の標本を観察可能とした加温手段を有する対物レンズと、前記対物レンズの温度が前記高湿度空間の気体温度より高くなるように前記加温手段を制御する制御手段とを具備したことを特徴としている。
【0016】
請求項2記載の発明は、標本を培養するための高湿度空間と、前記高湿度空間にあって、該高湿度空間を相対湿度90〜100%に保持するため所定温度の加湿水と、前記高湿度空間に配置され、該高湿度空間の標本を観察可能とした加温手段を有する対物レンズと、前記対物レンズの温度が前記加湿水の温度より高くなるように前記加温手段を制御する制御手段とを具備したことを特徴としている。
【0017】
請求項3記載の発明は、標本を培養するための相対湿度90〜100%に設定された高湿度空間と、前記高湿度空間に配置され、該高湿度空間の標本を観察可能とした加温手段を有する対物レンズと、前記高湿度空間を外気と連通可能とする開閉手段と、前記開閉手段の開閉を検出する開閉検出手段と、前記開閉手段の開放時間に応じて特定時間だけ前記対物レンズの温度を上昇させるように前記加温手段を制御する制御手段とを具備したことを特徴としている。
【0018】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、さらに高湿度空間には、標本と、該標本を載置するとともに、前記標本を前記対物レンズの光軸からずらす方向に移動可能としたステージを有し、前記制御手段は、前記対物レンズの前記加温手段による温度制御を前記標本を前記光軸からずらした位置で行なうことを特徴としている。
【0019】
請求項5記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の発明において、対物レンズは、加温手段としてヒータを内蔵したことを特徴としている。
【0020】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明において、前記ヒータは、電流の供給により発熱する熱線、又は加温された液体を循環可能な流路の少なくとも一方で構成されるとともに、前記熱線へ電流を供給するためのケーブル又は、前記流路へ液体を供給するチューブを備え、前記ケーブル又はチューブを前記対物レンズを保持する対物レンズ保持部材の内部を通すように配置したことを特徴としている。
【0021】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明において、前記対物レンズ保持部材は、複数の対物レンズを保持し、これら対物レンズを選択的に光軸上に切換えるレボルバーを有することを特徴としている。
【0022】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の発明において、前記ケーブル又は、チューブは、前記レボルバーの回転軸近傍に沿って形成された内部空間に配置されることを特徴としている。
【0023】
請求項9記載の発明は、請求項5記載の発明において、前記ヒータは、対物レンズのレンズ表面に直接配置される透明ヒータであることを特徴としている。
【0024】
請求項10記載の発明は、請求項1記載の顕微鏡に適用され、前記対物レンズの温度を前記高湿度空間の気体温度よりも0.1℃〜2℃高くなるように制御することを特徴としている。
【0025】
請求項11記載の発明は、請求項2記載の顕微鏡に適用され、前記対物レンズの温度を前記加湿水の温度よりも0.1℃〜2℃高くなるように制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、対物レンズの結露を防止し、良好な顕微鏡画像を得ることができる顕微鏡および対物レンズの結露防止方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を図面に従い説明する。
【0028】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態が適用される倒立顕微鏡の概略構成を示している。
【0029】
図1において、11は顕微鏡本体で、この顕微鏡本体11上には、ステージ2が配置されている。このステージ2は、不図示のステージハンドルを操作することで、XY方向の水平移動を可能にしている。ステージ2上には、標本としての培養細胞12収容した細胞培養装置3が載置されている。この細胞培養装置3については、後で詳述する。
【0030】
顕微鏡本体11には、ステージ2上方に向け照明支柱11aが設けられている。この照明支柱11aは、先端部をほぼ直角に折り曲げられ、この先端部がステージ2面に対して水平方向に配置されている。
【0031】
照明支柱11aには、透過照明用の光源4が設けられている。この光源4には、ハロゲンランプや水銀ランプなどが用いられる。また、光源4から発する光の光路上には、透過照明光学系5aを介してコンデンサ5が配置されている。コンデンサ5は、ステージ2上の細胞培養装置3の真上に配置されるもので、光源4からの照明光を培養細胞12に集光させるようにしている。
【0032】
ステージ2の下方には、対物レンズ1が配置されている。対物レンズ1は、倍率の異なる複数本(図面では1本のみを示している。)がレボルバー29に保持されている。レボルバー29は、回転操作可能になっていて、複数本の対物レンズ1を択一的に光軸55上に切換えるようになっている。また、レボルバー29は、顕微鏡本体11に対物レンズ保持部材28を介して保持されるとともに、焦準ハンドル10の操作により光軸55に沿って上下動され、ステージ2と対物レンズ1との相対距離を変化させ、培養細胞12のピント合わせを可能にしている。
【0033】
レボルバー29下方の光軸55上には、反射ミラー8aが設けられている。反射ミラー8aは、培養細胞12を透過し対物レンズ1より拡大された観察像を斜め上方向(水平に対し45°の角度)に反射させるようにしている。
【0034】
そして、反射ミラー8aで反射された観察像は、リレー観察光学系8でリレーされ、観察手段として接眼レンズ9に入射し、観察者により目視観察可能になっている。
【0035】
一方、6はハロゲンランプ、水銀等による落射照明用の光源で、この光源6から発せられる光の光路上には、落射照明光学系7を介して光学素子切換え手段としてのターレット状のミラーユニットカセット7dが配置されている。このミラーユニットカセット7dは、励起フィルタ7a、ダイクロイックミラー7b、吸収フィルタ7cを有するとともに、回転軸7eを中心に回転可能に設けられており、この回転軸7eを中心とした回転により励起フィルタ7a、ダイクロイックミラー7b、吸収フィルタ7cを光源6からの光路と光軸55との交点に配置させるようになっている。図1では、この状態を示している。なお、ミラーユニットカセット7dは、不図示の空穴も有している。
【0036】
このように構成された倒立顕微鏡では、透過照明観察の場合、ミラーユニットカセット7dの不図示の空穴を光路上に位置させる。この状態で、光源4より照明光が発せられると、透過照明光学系5aを介してコンデンサ5より培養細胞12に照射される。培養細胞12からの観察光は、対物レンズ1により結像され、反射ミラー8aで反射し、リレー観察光学系8を介して接眼レンズ9により目視観察される。
【0037】
なお、位相差観察の場合は、透過照明光学系5aに配した不図示のリングスリットを対物レンズ1内の位相膜に投影する。また、DIC観察の場合は、透過照明光学系5a、リレー観察光学系8に不図示の偏光板やDICプリズムを配置する。
【0038】
次に、蛍光観察の場合は、ミラーユニットカセット7dにより励起フィルタ7a、ダイクロイックミラー7b、吸収フィルタ7cを光路上に位置させる。この状態で、光源6より照明光が発せられると、照明光は、落射照明光学系7により集光され、培養細胞12に染色された蛍光色素に最適な励起波長になるように励起フィルタ7aにより波長選択され、ダイクロイックミラー7bで反射され、対物レンズ1を透過して培養細胞12に照射される。培養細胞12から発した蛍光は、対物レンズ1を透過し、ダイクロイックミラー7bを透過して吸収フィルタ7cにより観察に必要な蛍光波長のみに選択される。そして、反射ミラー8aで反射し、リレー観察光学系8を介して接眼レンズ9により目視観察される。
【0039】
図2は、第1の実施の形態の細胞培養装置3を含む要部の概略構成を示している。
【0040】
図において、16は、細胞培養装置3を構成する保温箱で、この保温箱16は、上方を開口したもので、底面をステージ2上に載置されている。保温箱16底面には、ステージ2への熱の伝導を抑制する断熱部材からなる底板18が設けられている。
【0041】
保温箱16底面には、底板18を貫通して透孔20が設けられている。この透孔20は、対物レンズ1の先端を挿入可能としたもので、高NAでWDの短い対物レンズ1でも、培養細胞12に対するピント合わせを可能にしている。この場合、透孔20は、ステージ2を動かしても、その内壁が対物レンズ1と干渉しないように、少し大きめな径に形成されている。
【0042】
保温箱16の内部には、ガラスボトムディッシュ14が配置されている。このガラスボトムディッシュ14は、底面に孔部14aが形成されている。ガラスボトムディッシュ14の底面は、培養細胞12を載置したカバーガラス13が貼り付けられている。この場合、ガラスボトムディッシュ14にカバーガラス13を貼り付けた状態で、カバーガラス13上の培養細胞12が孔部14a内に位置するようになっている。
【0043】
保温箱16底面には、底板18との間に熱線からなるヒータ17が配置されている。このヒータ17は、ガラスボトムディッシュ14を介して培養細胞12を加温するためのものである。
【0044】
保温箱16には、上方を開口部を覆うように窓部15が設けられている。この窓部15は、透過照明光が透過するような透明な部材で形成されている。
【0045】
保温箱16底面には、透孔20を介して対物レンズ1が配置されている。この対物レンズ1は、先玉1aを透孔20内まで挿入して培養細胞12に対するピント合わせを可能にしている。また、対物レンズ1は、加温手段として外周にシート状の熱線からなるヒータ22が巻き付けられている。このヒータ22は、対物レンズ1を加温するためのものである。
【0046】
ヒータ22、17は、ケーブル23、24を各別に介して制御手段としての温度制御装置25に接続されている。
【0047】
保温箱16内部には、気体温度センサ56aが設けられている。気体温度センサ56aは、細胞培養空間21の気体温度を検出するものである。ガラスボトムディッシュ14には、細胞温度センサ56bが設けられている。この細胞温度センサ56bは、培養細胞12の温度を検出するものである。さらに、対物レンズ1の先端部には、対物温度センサ56cが設けられている。この対物温度センサ56cは、先玉1aの温度を検出するものである。
【0048】
これら気体温度センサ56a、細胞温度センサ56bおよび対物温度センサ56cは、ケーブル57a、57b、57cを各別に介して温度制御装置25に接続されている。
【0049】
温度制御装置25は、これら気体温度センサ56a、細胞温度センサ56bおよび対物温度センサ56cの温度情報に基づいて、ヒータ17、22をON/OFFさせて、培養細胞12および対物レンズ1をそれぞれ所定の温度に制御するようにしている。
【0050】
保温箱16内部には、ガラスボトムディッシュ14の周りに沿って複数のバス19が配置されている。これらバス19には、加湿水19aが充填されている。加湿水19aは、適度に蒸発するとで保温箱16内の細胞培養空間21の相対湿度を100%に保って高湿度空間とし、ガラスボトムディッシュ14内の培養液14bの蒸発を抑えるようにしている。
【0051】
さらに、保温箱16には、側壁を貫通してチューブ26が設けられている。このチューブ26は、CO2ボンベ27に接続され、CO2ボンベ27からのCO2ガスを細胞培養空間21に供給し、例えばCO2濃度を5%、培養細胞12のphを7.2〜7.4程度に維持するようにしている。
【0052】
このように構成した細胞培養装置3では、気体温度センサ56a、細胞温度センサ56bおよび対物温度センサ56cからのそれぞれの温度情報が温度制御装置25に与えられる。温度制御装置25は、これらの温度情報に基づいてヒータ17、22をON/OFFさせる。この場合、ヒータ17により培養細胞12の温度を37℃に制御し、ヒータ22により対物レンズ1の先端部の温度が37.1℃〜39℃の範囲になるように制御する。具体的には、例えば、オイル対物レンズや水浸対物レンズのように培養細胞12と対物レンズ1との間の熱抵抗が比較的小さい場合は、対物レンズ1の先端部を37.05℃、培養細胞12を37℃、細胞培養空間21の気体温度を36.95℃程度に制御する。また、ドライ対物レンズのように培養細胞12と対物レンズ1との間の熱抵抗が比較的大きい場合は、対物レンズ1の先端部を38℃、培養細胞12を37℃、細胞培養空間21の気体温度を36℃程度に制御する。
【0053】
従って、このようにすれば、対物レンズ1の温度を高湿度空間である細胞培養空間21の気体温度よりも常に高くなるように設定したので、仮に細胞培養空間21の気体が対物レンズ1側に侵入しても、対物レンズ1内部の結露を確実に防止することができ、対物レンズ1内部の結露に原因する顕微鏡画像の劣化を確実に防止することがができる。具体的には、対物レンズ1の温度が細胞培養空間21の気体温度よりも常に0.1℃〜2℃程度高くなるように設定することで、仮に、湿度100%の細胞培養空間21の気体が対物レンズ1内部に侵入しても結露を生じることがなくなり、顕微鏡画像の劣化を防止することができる。
【0054】
また、対物レンズ1の温度を、細胞培養空間21の気体温度よりも0.1℃〜2℃程度だけ高くしたので、培養細胞12の温度を上げ過ぎることがなく、細胞の活性を安定して維持することができる。
【0055】
例えば、対物レンズ1の温度を細胞培養空間21の気体温度よりも1℃高くすることで、対物レンズ1内部に湿度100%の細胞培養空間21の気体が侵入しても湿度を95%程度にまで下げることができるので、このことからも結露を防止できる。
【0056】
また、対物レンズ1が下方に位置している状態から、培養細胞12に対するピント合わせのために対物レンズ1を上方に移動させて培養細胞12に近づけても、このときの対物レンズ1の温度が細胞培養空間21の温度よりも高くなっているので、対物レンズ1の先玉1aの外表面が結露することもない。これにより、結露による画像劣化のない鮮明な顕微鏡画像を取得することができる。
【0057】
(第2の実施の形態)
次に本発明の第2の実施の形態を説明する。
【0058】
図3は、本発明の第2の実施の形態の要部の概略構成を示すもので、図1および図2と同一部分には、同符号を付している。
【0059】
この場合、対物レンズ1は、先玉1aと、その他のレンズ群1a1がそれぞれ筒状の中枠1bの開口部に接着固定されている。これら中枠1bは、筒状の中間枠1dの中空部に嵌合で落とし込まれ、押さえ管1cにより固定されている。中間枠1dの外周には、電熱線を有するシート状のヒータ22が接着固定されている。また、ヒータ22の外周は、中間枠1dに対してねじ込み固定される外枠1eで覆われている。
【0060】
そして、このように構成した対物レンズ1は、外枠1eの下方に設けられたネジ部1fを介してレボルバー29に着脱可能に取付けられている。
【0061】
一方、レボルバー29は、対物レンズ保持部材28に対して、ボール29bを介して回転軸29aを中心に回転可能に保持され、その回転操作により所望する対物レンズ1を光軸55上に配置させるようになっている。
【0062】
対物レンズ保持部材28は、回転軸29a近傍に沿って内部空間として貫通穴28aが形成されている。そして、ヒータ22の電熱線へ電流を供給するためのケーブル23を、ヒータ22からレボルバー29のネジ部1fを通し、対物レンズ保持部材28の貫通穴28aを通して温度制御装置25に接続するようにしている。
【0063】
従って、このようにすれば、対物レンズ1内にシート状のヒータ22を内蔵しているので、対物レンズ1に対して確実に熱を伝導でき、時間的、空間的にきめ細かな温度制御を行なうことができる。
【0064】
また、ヒータ22のケーブル23は、対物レンズ保持部材28のレボルバー29の回転軸29a近傍に沿って形成された貫通穴28aを通るようになるので、レボルバー29を回転しても、ケーブル23の回転範囲を最小限にでき、ケーブル23ががレボルバー29に絡まったりすることがなく、容易にレボルバー29を回転できる。
【0065】
さらに、ピント合わせの際に、対物レンズ1と共に、ケーブル23が上下しても、ケーブル23は、対物レンズ保持部材28の貫通穴28a内でたわむことで吸収できるので、ケーブル23が引っ掛かったりすることもない。
【0066】
さらに、対物レンズ1のヒータ22は、金属製の中枠1b、押さえ管1c、中間枠1d、外枠1eに接していることで、熱伝導効率がよく、時定数も短くできるので、時間的にも空間的にも細かく温度制御が可能となる。これにより、不必要な培養細胞12への加温を防止することができ、培養細胞12の活性を維持し易くもできる。
【0067】
なお、この実施の形態では、対物レンズ1にシート状の熱線からなるヒータ22を内蔵させ、このヒータ22にケーブル23を介して電流を供給するようにしたが、対物レンズ1に外部で加温された液体を供給する流路により構成してもよい。この場合は、ケーブル23に代わって液体を供給するチューブが用いられ、このチューブを対物レンズ保持部材28内部を通すようになる。
【0068】
(第2の実施の形態の変形例1)
次に、本発明の第2の実施の形態の変形例1を図4に従い説明する。
【0069】
この変形例1は、第2の実施の形態で述べたレボルバー29を廃止して、対物レンズ1を直接、対物レンズ保持部材28にねじ込み固定するようにしたもので、以下に、その特徴的な部分に関してのみ説明を行う。
【0070】
この場合、対物レンズ1およびヒータ22の構造については、図3と全<同じである。また、対物レンズ1は、1本のみ用いられ、外枠1eのネジ部1fを介して対物レンズ保持部材28にねじ込み固定されている。また、ヒータ22のケーブル23は、レボルバー29を介することなく、ネジ部1fより対物レンズ保持部材28の貫通穴28aを通して温度制御装置25に接続するようにしている。
【0071】
この場合、対物レンズ保持部材28は、側面に貫通穴28aに連通する作業穴28bが設けられている。また、ケーブル23の途中には、コネクタ57が設けられ、このコネクタ57の着脱操作により温度制御装置25への接続又は、切離しを可能にしている。また、このコネクタ57の操作は、対物レンズ保持部材28の作業穴28bから行なえるようになっている。
【0072】
このようにすれば、上述した第2の実施の形態では、対物レンズ1をレボルバー29にねじ込む際に、ヒータ22のケーブル23も一緒に回転してしまうため、ケーブル23が絡まる可能性があったが、ケーブル23の途中をコネクタ57を介して切離し可能に接続してあるので、まず、コネクタ57を切離した状態で、対物レンズ1を対物レンズ保持部材28にねじ込み固定し、その後、対物レンズ保持部材28の作業穴28bから手を入れて、コネクタ57を接続すれば、ケーブル23が絡まるようなことを防止できる。また、作業穴28bからケーブル23の弛み状態などを調整できるので、誤ってケーブル23が光路に入ってしまい顕微鏡画像を劣化させるようなことも防止できる。
【0073】
なお、この変形例1では、コネクタ57によるケーブル23の着脱で、ケーブル23の絡まりを防止しているが、例えば、ケーブル23の間を摺動可能な電気的接点を用いて切離し可能に接続するようにしてもよい。
【0074】
(第2実施の形態の変形例2)
次に、本発明の第3の実施の形態の変形例2を図5に従い説明する。
【0075】
この変形例2は、変形例1で述べたヒータ22を廃止し、レンズ表面に直接、透明ヒータを配置するようにしたもので、以下、その特徴的な部分に関してのみ説明を行う。
【0076】
この場合、対物レンズ1は、中枠1bの開口部に接着固定される先玉1aの外側表面と内側表面に透明電動膜で構成された透明ヒータ59がコーティングされている。この透明ヒータ59については、特許文献1にも開示されており、ここでの詳細な説明は省略する。また、透明ヒータ59は、対物レンズ1の結像性能を劣化させない程度の光学的な均質性をも兼ね備えている。
【0077】
また、透明ヒータ59へ電流を供給するケーブル23は、対物レンズ1の中枠1bに設けられた貫通穴1b1、中間枠1dに設けられた貫通穴1d1を通り、さらに中間枠1dと外枠1eの間の隙間を通って、対物レンズ保持部材28の貫通穴28aに導かれ、温度制御装置25へ接続されている。
【0078】
このようにすれば、変形例1で述べたヒータ22の代わりに透明ヒータ59を制御することで、第2の実施の形態と同様の対物レンズ結露防止効果を期待することができる。
【0079】
また、対物レンズ1の先玉1aの表面に透明ヒータ59を直接配置したので、最も結露防止したいレンズ表面をダイレクトに加温でき、必要な温度(例えば、37.1℃〜39℃)にするための加熱量を必要最小限に押さえることができる。これにより、対物レンズ1の加熱による、培養細胞12の温度上昇も最小限に押さえることができ、培養細胞12の活性低下を防止することもできる。
【0080】
(第3の実施の形態)
次に本発明の第3の実施の形態を説明する。
【0081】
上述した第1および第2の実施の形態では、倒立型顕微鏡のステージ2上に載置される細胞培養装置3において、対物レンズ1を加温することにより、対物レンズ1の結露を防止するものについて述べたが、この第3の実施の形態では、対物レンズを含んだ顕微鏡のほぼ全体を細胞培養空間に配置して保温可能にした細胞培養装置付き顕微鏡について述べている。
【0082】
図6は、第3の実施の形態にかかる細胞培養装置付き顕微鏡の要部の概略構成を示すもので、図2と同一部分には同符号を付している。この場合、細胞培養装置付き顕微鏡は、大きく分けて、
(a)温度、湿度、CO2濃度を制御している細胞培養空間37、
(b)温度のみが制御されている、対物レンズ1を含む顕微鏡の観察空間38、
(c)温度、湿度、CO2のいずれも制御をしていない外気と同一空間で、結像レンズ52、CCD53および透過照明用の光源54を設けた空間381、
の3つの空間を有している。
【0083】
(a)の細胞培養空間37は、内部に断熱用の空間30aを設けた開閉手段としての上箱30により覆われている。上箱30の内側壁には、細胞培養空間37を加温するためのヒータ32が設けられている。また、上箱30は、細胞培養空間37から培養細胞12を出し入れするため蝶番36を回転中心として回転して開閉できるようになっている。図6中の2点鎖線は、上箱30が開いた状態を示している。上箱30の開閉に連動して、この開閉状態を検出する開閉検出手段としてのスイッチ42が設けられている。このスイッチ42の状態、つまり上箱30の開閉状態は、温度制御装置25で監視している。
【0084】
細胞培養空間37には、上述した第1の実施の形態と同様に、複数のバス41が配置されている。これらバス41には、細胞培養空間37を加湿するための加湿水41aが充填されている。また、上箱30には、側壁を貫通してチューブ26が設けられている。このチューブ26は、CO2ボンベ27に接続され、CO2ボンベ27からのCO2ガスを細胞培養空間37に供給し、培養細胞12のphを一定に保つようにしている。
【0085】
この場合、細胞培養空間37は、観察空間38と仕切板35により仕切られている。仕切板35は、細胞培養空間37より観察空間38へ水蒸気やCO2が漏れないように、Oリングのようなシール材34でシールされている。
【0086】
細胞培養空間37には、気体温度センサ56aが設けられている。気体温度センサ56aは、細胞培養空間37の気体温度を検出するものである。ガラスボトムディッシュ14には、細胞温度センサ56bが設けられている。この細胞温度センサ56bは、培養細胞12の温度を検出するものである。対物レンズ1の先端部には、対物温度センサ56cが設けられている。この対物温度センサ56cは、先玉1aの温度を検出するものである。さらに、バス41の加湿水41a中には、加湿水温度センサ56dが設けられている。この加湿水温度センサ56dは、加湿水41aの温度を検出するものである。これら気体温度センサ56a、細胞温度センサ56b、対物温度センサ56cおよび加湿水温度センサ56dは、ケーブル57a、57b、57c、57dを各別に介して温度制御装置25に接続されている。
【0087】
温度制御装置25は、これら気体温度センサ56a、細胞温度センサ56b、対物温度センサ56cおよび加湿水温度センサ56dの温度情報に基づいて、ヒータ32や後述する他のヒータをON/OFFさせて、各部の温度に制御するようにしている。
【0088】
上箱30の上部には、培養細胞12を観察する際の照明用の光源54が設けられている。この光源54からの光は、上箱30に開けられた穴部30bを透過して光軸55上の培養細胞12を照明できるようになっている。
【0089】
細胞培養空間37内には、培養細胞12を搭載した不図示のカバーガラスを貼り付けたガラスボトムディッシュ14が複数個配置されている。これらガラスボトムディッシュ14は、ステージ43上に設けられた複数(図示例では4個)の穴部43a内に載置され、光軸55に垂直な面内で移動可能になっている。
【0090】
ステージ43は、仕切板35にぶら下がった状態で支持され、回転軸60を中心に回転(今後Θ方向と呼ぶ)するとともに、図示左右の矢印a方向(今後R方向と呼ぶ)に直線移動するようになっており、これらΘ方向とR方向の極座標の動きを可能にしている。
【0091】
さらに、詳しく説明すると、仕切板35には、L型状の固定ガイド45が固定されている。この固定ガイド45には、可動ガイド46が支持され、また、可動ガイド46を図示左右の矢印方向に移動させるためのRモータ44が固定されていて、このRモータ44により可動ガイド46をR方向に移動できるようにしている。可動ガイド46には、ベアリング47を介してステージ43が回転可能に保持されている。ステージ43の回転軸には、可動ガイド46に設けられたΘモータ48が接続され、このΘモータ48によりステージ43を回転できるようにしている。
【0092】
一方、仕切板35には、垂直方向に配置された固定ガイド49が設けられている。この固定ガイド49には、図示上下の矢印b方向(Z方向)に移動可能な可動ガイド50が設けられている。この可動ガイド50には、対物レンズ1が設けられるとともに、Zモータ51が接続されている。Zモータ51は、可動ガイド50を矢印b方向(Z方向)に移動させるもので、このときの可動ガイド50の移動により対物レンズ1を上下方向に移動させ、対物レンズ1とステージ43の相対距離を変化させ、培養細胞12のピント合わせを可能にしている
なお、ステージ43と仕切板35の隙間や対物レンズ1と仕切板35との隙間は、細胞培養空間37から観察空間38へ水蒸気やCO2が漏れないように、Oリングなどのシール材34で摺動可能にシールされている。
【0093】
これらシール材34により細胞培養空間37と区分される観察空間38は、内部に断熱用の空間31aを設けた下箱31により周囲を覆われている。この観察空間38には、上述したステージ43の駆動部や対物レンズ1を上下移動させる焦準駆動部が配置されている。
【0094】
下箱31の内側壁には、上箱30と同様にヒータ33が設けられ、さらに仕切板35の下面にも、対物レンズ1に近傍してヒータ33が設けられ、これらヒータ33により観察空間38を対物レンズ1と共に加温するようにしている。
【0095】
この場合、上述したように、対物レンズ1先端部に設けられた対物温度センサ56cからの温度情報に基づいて温度制御装置25によりヒータ33をON/OFFFして温度制御を行なうようにしている。
【0096】
観察空間38に位置する仕切板35下面には、加湿水41aの近傍に、他のヒータ58が設けられている。このヒータ58は、上述した加湿水温度センセ56dからの温度情報に基づいて温度制御装置25により制御され、加湿水41aの温度を一定に保つようにしている。なお、このヒータ58については、ヒータ33とは別系統で制御されている。
【0097】
観察空間38の底面には、ベース39が配置されている。このベース39には、脚部40が設けられている。脚部40は、ベース39および下箱31とともに、細胞培養装置付き顕微鏡全体を支えている。
【0098】
ベース39の下面には、対物レンズ1の光軸55上に結像レンズ52と撮像手段としてのCCDカメラ53が配置されている。結像レンズ52は、対物レンズ1により無限遠に投影された培養細胞12の観察像をCCDカメラ53の撮像面に結像するものである。CCDカメラ53は、撮像面に結像された観察像を撮像する。
【0099】
このような構成において、まず、顕微鏡観察をする場合を説明する。
【0100】
この場合、まず、上箱30を開け、培養細胞12の入ったガラスボトムディッシュ14をステージ43の所定の穴部43aにセットし、その後、上箱30を閉める。
【0101】
次に、不図示の顕微鏡制御装置により光源54を点灯し、続けてRモータ44とΘモータ48を駆動してステージ43をΘ方向とR方向に移動させ、培養細胞12の観察したい位置を光軸55上へ移動させる。そして、不図示の顕微鏡制御装置によりZモータ51を駆動し、対物レンズ1をZの方向に移動させて培養細胞12にピントを合わせる。
【0102】
これら培養細胞12の観察したい部位の位置決め、ピント合わせは、不図示の顕微鏡制御装置により制御されたCCDカメラ53で撮像されたライブ画像を見ながら行う。
【0103】
このようにして、不図示の顕微鏡制御装置により複数の観察部位やピント位置を設定し、さらに観察時間のインターバルを設定した後、不図示のスタートボタン等を押すことにより、予め設定された観察時間になるとCCDカメラ53で静止画を撮影し、培養細胞12の経時変化が自動的に観察される。この場合、光源54は、ライブ画像を観察する時と、経時変化を追う際のCCDカメラ53の撮影時にのみ点灯するようになっている。
【0104】
なお、細胞の経時変化の観察が3日以上の長期間に渡る場合には、適宜、上箱30を開けて培養細胞12を取り出し培地を交換する。
【0105】
次に、細胞培養環境や顕微鏡の温度制御について説明する。
【0106】
まず、CO2濃度は、不図示のCO2センサと不図示の制御装置により、CO2ボンベ27の電磁弁などのON/OFFを行い、細胞培養空間37のCO2が、例えば5%になるように制御する。これにより、培養細胞12を浸してある培地のphが7.2〜7.4を保つようになり、細胞の活性を維持できる。
【0107】
次に、各部の温度制御は、気体温度センサ56a、細胞温度センサ56b、対物温度センサ56cおよび加湿水温度センサ56dの温度情報に基づいて、温度制御装置25によりヒータ32、33、58をON/OFFして各部の温度を一定に維持するようにしている。この場合、対物レンズ1を含む観察空間38を37℃、培養細胞12を37℃、細胞培養空間37の気体温度を37℃、加湿水41aの温度を35℃〜36.9℃程度に制御する。
【0108】
このようにすれば、対物レンズ1の温度が加湿水41aの温度よりも0.1℃〜2℃程度高くなるように設定されるので、細胞培養空間21の気体が対物レンズ1内部に侵入しても結露を生じることがなくなり、顕微鏡画像の劣化を防止することができる。また、対物レンズ1の温度が加湿水41aの気体温度よりも1℃高ければ、対物レンズ1内部に加湿水41aの気体が侵入しても湿度を95%程度にまで下げることができるので結露することがない。
【0109】
なお、本実施の形態では、細胞培養空間37の温度を観察空間38と同一の温度37℃にしているので、細胞培養空間37の温度も加湿水41aの温度よりO.1℃〜2℃程度高く、その温度差によって細胞培養空間37の相対湿度が90〜99%程度になる。これにより、培養細胞12の培地の蒸発を抑えることができる。また、培養細胞12の内外の浸透圧変化を少なくしたい場合は、加湿水41aの温度を高めの、例えば36.9℃にすればよい。この時には細胞培養空間37の相対湿度は99%程度になるので、培地の蒸発を抑えることができ、細胞の活性が維持しやすい。
【0110】
一方、細胞培養空間37の結露発生を抑えることを優先したい場合は、例えば、35℃にすれば良い。この時の細胞培養空間37の相対湿度は約90%程度になるので、細胞培養空間37の温度ムラで温度の低い部位が発生しても、その温度が35℃以上であれば、結露する心配がなく、細胞培養空間37の温度制御が容易になる。
【0111】
また、シール材34の周辺などはどうしても外気から熱を奪われやすくなるが、加湿水41aの温度を少し低めに設定すれば、結露の問題は回避できる。よって、加湿水41aの温度を35℃〜36.9℃、つまり、細胞培養空間37の湿度を90〜99%の範囲で、細胞の浸透圧変化の過敏性と、細胞培養空間37の結露の発生し易さに応じて加湿水41aの温度設定を変更すればよい。
【0112】
また、第1の実施の形態とは異なり、対物レンズ1を含む観察空間38と、細胞培養空間37を同一の温度37℃にして装置のほぼ全体を保温状態で加温しているので、対物レンズ1内部にも温度ムラが少なく、より結露発生がしにくい。つまり、加湿水41aの温度を高めに設定できるので、前述の説明の通り、培地の蒸発が抑えられ、細胞の活性をも維持しやすい。
【0113】
さらに、対物レンズ1が下方に位置した状態から、ピント合わせのために対物レンズ1を上に上げて培養細胞12に近づけても、対物レンズ1の温度と細胞培養空間21の温度が同じなので、対物レンズ1の先玉1aの外表面が結露することもなく、結露による画像劣化のない鮮明な顕微鏡画像を取得することができる。
【0114】
さらに、対物レンズ1を含む顕微鏡の観察空間38の温度を一定に保っているので、準焦部の熱膨張によるピントズレや、対物レンズ1の温度変化によるピントズレの心配もない。
【0115】
第1の実施の形態のように対物レンズ1の先端と培養細胞12との間のわずかな空間で急激な温度差を保つことは制御自体が難しくなるが、この第3の実施の形態では、対物レンズ1の温度と培養細胞12の温度と細胞培養空間37の温度が同じなので、温度制御も容易であり、対物レンズ1内の結露を防止しつつ、培養細胞12を37℃に維持して細胞の活性状態を良好に保つことができる。
【0116】
ここで、光源54とCCDカメラ53は、温度制御空間外の外気と同一空間に配置してあるが、光源54は、その発熱により細胞培養空間37への悪影響を防ぐために外気空間に配置してある。また、CCDカメラ53は、温度が上昇するとノイズを発生しやすいので、通常37℃よりも温度が低い外気空間に配置している。さらに、結像レンズ52も外気空間に配置してあるが、結像レンズ52は、対物レンズ1よりも比較的温度変化によるピントズレの影響を受けにくいので問題がない。もちろん結像レンズ52を一定の温度状態の観察空間38に配置してもよい。
【0117】
次に、培地交換のために培養細胞12を細胞培養空間37から出し入れする場合を説明する。
【0118】
第3の実施の形態では、装置のほぼ全体を保温、加温しているので、対物レンズ1内部の結露の心配はないが、例えば、培地交換などで上箱30を開けることがあり、この場合は通常37℃よりも低い外気が細胞培養空間37に流入し、対物レンズ1を冷却することがある。対物レンズ1は、通常37℃に保たれているので、その表面が結露することはないが、対物レンズ1の内部は、湿度を抑えているといっても湿度90%程度になっているので、冷たい外気に急激にさらされ対物レンズ1の温度が急激に下がると、対物レンズ1内部が結露する可能性がある。
【0119】
このような問題を生じさせないために、上箱30の開閉をスイッチ42で検出し、上箱30が開いている状態では、スイッチ42の出力を受けて温度制御装置25によりヒータ33の出力を通常よりも大きく設定し、対物レンズ1の急激な冷却に負けない程度の加熱を行うことで、対物レンズ1を37℃に維持して結露を防止する。また、上箱30を開けている時間が長い場合は、上箱30を閉じても、なかなか温度が元の37℃に復帰しずらいので、スイッチ42の出力から上箱30を開けている時間を温度制御装置25により監視し、上箱30を開けていた時間に応じて、ヒータ33に対し通常よりも大きい出力を出す時間を変更し、上箱30を閉じてもしばらくは多めにヒータ33で加熱するようにしている。
【0120】
なお、このようなことは、対物温度センサ56cで温度低下を検出することで、同様のことができなくはないが、温度センサの場合は、急激な温度変化に追従できない場合が多く、スイッチ42により監視したほうが、よりスピーディに対物レンズ1の温度低下を防止し、結露を防ぐことができる。
【0121】
なお、あまりにも長時間、上箱30を開けた状態にすると、ヒータ33で急激に加熱された熱が上箱30を閉めた後に、時間的に遅れて培養細胞12に伝わり、培養細胞12の温度を37℃よりも高くしてしまう場合も生じる。このようなことを避けるために、上箱30を開けている時間がある所定時間以上になった場合は、通常よりもヒータ33の出力を上げている間、ステージ43を回転させて、培養細胞12を対物レンズ1の光軸55以外の所に退避させ、対物温度センサ56cが安定して37℃を示すようになってから、培養細胞12を光軸55上に戻すようにする。これらの連携は、前述の図示していない顕微鏡制御装置と温度制御装置25によって制御されている。
【0122】
次に、スイッチ42が何らかの異常で故障した場合や、あまりにも外気の温度が低く急激に対物レンズ1が冷却された場合に、仮に対物レンズ1内部が結露してしまった場合には、その結露による顕微鏡画像の劣化をCCDカメラ53で検出し、前述の結露防止の場合のヒータ33の通常よりも大きい出力よりもさらに加熱し、結露を解消させるようになっている、CCDカメラ53で結露の解消が確認されたら、加熱は減らして、上箱30が閉まった状態の通常の制御に戻す。この時、前述と同様に培養細胞12の過熱を防止する為に培養細胞12を退避させておいてもよい。
【0123】
従って、このようにすれば、対物レンズ1の温度を加湿水41aの温度よりも高くなるようにしたので、対物レンズ1内部に侵入した水蒸気が飽和することがなく、つまりは結露するのを確実に防止することができ、対物レンズ1内部の結露に原因する顕微鏡画像の劣化を確実に防止することがができる。具体的には、対物レンズ1の温度を加湿水41aよりも0.1℃〜2℃高くしたので、対物レンズ1内の結露を防止でき、さらに、培養細胞12の温度を上げ過ぎることもなく、細胞の活性を安定して維持することができる。
【0124】
また、高湿度空間である細胞培養空間37と外気を通気可能な上箱30を開いている時間に応じて、特定の時間だけ対物レンズ1の温度を上昇させるようにしたので、対物レンズ1の温度低下による対物内部の結露を防止することもできる。
【0125】
さらに、長時間、上箱30を開いていたような場合で、通常よりもヒータ33の出力を上げるような場合は、培養細胞12を対物レンズ1の光軸55上から外した状態にして、対物レンズ1の温度を上昇させるようにしたので、対物レンズ1の加温によって培養細胞12まで加温されることがなくなり、培養細胞12へのダメージを軽減することもできる。
【0126】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものでなく、実施段階では、その要旨を変更しない範囲で種々変形することが可能である。例えば、上述した実施の形態では倒立型顕微鏡に関して説明したが、正立型顕微鏡に適用することができる。また、ステージ43は、極座標のR、Θステージではなく、直交座標のXYステージでもよい。また、上述した実施の形態によっては、対物レンズを1本で説明したが、複数でもよいい。また、細胞培養環境はCO2濃度5%で説明したが、細胞や培地によっては異なる濃度設定にしたり、O2、N2やこれらの混合ガスなどの異なる気体を使用してもよい。また、培養細胞12を入れる容器もガラスボトムディッシュ14に限定されることはな<、プラスチックディッシュや、マルチプレートなどであってもよい。
【0127】
さらに、上記実施の形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示されている複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出できる。例えば、実施の形態に示されている全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題を解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出できる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】本発明の第1の実施の形態が適用される倒立顕微鏡の概略構成を示す図。
【図2】第1の実施の形態の細胞培養装置を含む要部の概略構成を示す図。
【図3】本発明の第2の実施の形態の要部の概略構成を示す図。
【図4】第2の実施の形態の変形例1の要部の概略構成を示す図。
【図5】第2の実施の形態の変形例2の要部の概略構成を示す図。
【図6】本発明の第3の実施の形態の要部の概略構成を示す図。
【符号の説明】
【0129】
1…対物レンズ、1a…先玉、1a1…他のレンズ群
1b…中枠、1b1…貫通穴、1c…押さえ管
1d…中間枠、1d1…貫通穴
1e…外枠、1f…ネジ部
2…ステージ、3…細胞培養装置
4…光源、5…コンデンサ
5a…透過照明光学系、6…光源
7…落射照明光学系、7a…励起フィルタ
7b…ダイクロイックミラー、7c…吸収フィルタ
7d…ミラーユニットカセット、7e…回転軸
8a…反射ミラー、8…リレー観察光学系
9…接眼レンズ、10…焦準ハンドル
11…顕微鏡本体、11a…照明支柱
12…培養細胞、13…カバーガラス
14…ガラスボトムディッシュ、14a…孔部
14b…培養液、15…窓部、16…保温箱
17…ヒータ、18…底板、19…バス
19a…加湿水、20…透孔、21…細胞培養空間
22…ヒータ、23.24…ケーブル
25…温度制御装置、26…チューブ
27…ボンベイ、28…対物レンズ保持部材
28a…貫通穴、28b…作業穴
28…対物レンズ保持部材、29…レボルバー
29a…回転軸、29b…ボール
30…上箱、30a…空間、30b…穴部
31…下箱、31a…空間、32.33…ヒータ
34…シール材、35…仕切板、37…細胞培養空間
38…観察空間、381…空間、39…ベース
40…脚部、41…バス、41a…加湿水
42…スイッチ、43…ステージ、43a…穴部
44…Rモータ、45…固定ガイド
46…可動ガイド、47…ベアリング
48…Θモータ、49…固定ガイド
50…可動ガイド、51…Zモータ
52…結像レンズ、53…CCDカメラ
54…光源、55…光軸、56a…気体温度センサ
56b…細胞温度センサ、56c…対物温度センサ
56d…加湿水温度センセ、57a.57b、57c…ケーブル
57…コネクタ、58…ヒータ
59…透明ヒータ、60…回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本を培養するための相対湿度90〜100%で、且つ所定の気体温度に設定された高湿度空間と、
前記高湿度空間に配置され、該高湿度空間の標本を観察可能とした加温手段を有する対物レンズと、
前記対物レンズの温度が前記高湿度空間の気体温度より高くなるように前記加温手段を制御する制御手段と
を具備したことを特徴とする顕微鏡。
【請求項2】
標本を培養するための高湿度空間と、
前記高湿度空間にあって、該高湿度空間を相対湿度90〜100%に保持するための所定温度の加湿水と、
前記高湿度空間に配置され、該高湿度空間の標本を観察可能とした加温手段を有する対物レンズと、
前記対物レンズの温度が前記加湿水の温度より高くなるように前記加温手段を制御する制御手段と
を具備したことを特徴とする顕微鏡。
【請求項3】
標本を培養するための相対湿度90〜100%に設定された高湿度空間と、
前記高湿度空間に配置され、該高湿度空間の標本を観察可能とした加温手段を有する対物レンズと、
前記高湿度空間を外気と連通可能とする開閉手段と、
前記開閉手段の開閉を検出する開閉検出手段と、
前記開閉手段の開放時間に応じて特定時間だけ前記対物レンズの温度を上昇させるように前記加温手段を制御する制御手段と
を具備したことを特徴とする顕微鏡。
【請求項4】
さらに高湿度空間には、標本と、該標本を載置するとともに、前記標本を前記対物レンズの光軸からずらす方向に移動可能としたステージを有し、
前記制御手段は、前記対物レンズの前記加温手段による温度制御を前記標本を前記光軸からずらした位置で行なうことを特徴とする請求項3記載の顕微鏡。
【請求項5】
対物レンズは、加温手段としてヒータを内蔵したことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の顕微鏡。
【請求項6】
前記ヒータは、電流の供給により発熱する熱線、又は加温された液体を循環可能な流路の少なくとも一方で構成されるとともに、前記熱線へ電流を供給するためのケーブル又は、前記流路へ液体を供給するチューブを備え、
前記ケーブル又はチューブを前記対物レンズを保持する対物レンズ保持部材の内部を通すように配置したことを特徴とする請求項5記載の顕微鏡。
【請求項7】
前記対物レンズ保持部材は、複数の対物レンズを保持し、これら対物レンズを選択的に光軸上に切換えるレボルバーを有することを特徴とする請求項6記載の顕微鏡。
【請求項8】
前記ケーブル又は、チューブは、前記レボルバーの回転軸近傍に沿って形成された内部空間に配置されることを特徴とする請求項7記載の顕微鏡。
【請求項9】
前記ヒータは、対物レンズのレンズ表面に直接配置される透明ヒータであることを特徴とする請求項5記載の顕微鏡。
【請求項10】
請求項1記載の顕微鏡に適用され、前記対物レンズの温度を前記高湿度空間の気体温度よりも0.1℃〜2℃高くなるように制御することを特徴とする対物レンズの結露防止方法。
【請求項11】
請求項2記載の顕微鏡に適用され、前記対物レンズの温度を前記加湿水の温度よりも0.1℃〜2℃高くなるように制御することを特徴とする対物レンズの結露防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−126481(P2006−126481A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−314253(P2004−314253)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】