説明

顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置

【課題】封入剤パターンのバラツキを小さくし、長さの異なるカバーガラスを自在に用いることができ、小型化を図り得る顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置を提供する。
【解決手段】スライドガラスに添着された顕微鏡標本の試料に分注された封入剤上に、カバーガラスを載置・貼着する顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置であって、該試料が添着されたスライドガラスを搬送する搬送プレ−ト64を具備する搬送手段と、所定位置に搬送プレート64に搬送されたスライドガラスに添着された試料に封入剤を分注する分注ノズル72を所定方向に移動する移動装置を具備する分注手段と、ホルダ容器84内に積層されたカバーガラスのうち、最上位に位置するカバーガラスを吸着して取り出し、分注手段によって分注された封入剤上に載置して貼着する吸着パッド90を所定方向に移動する移動装置を具備するカバーガラスの取出・載置手段とが設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置に関し、更に詳細にはスライドガラスに添着された顕微鏡標本の試料に滴下された封入剤上に、カバーガラスを載置し貼着する顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
顕微鏡標本として顕微鏡下で観察する試料、例えば患者の患部から切り取った組織片を顕微鏡標本とするには、図17に示す様に、組織片を薄切して形成した試料10をスライドガラス12に添着し、脱脂、染色処理した後、スライドガラス12に添着された試料10上に溶剤含有の封入剤を滴下(分注)し、試料10に沿って所定パターンに形成された封入剤パターン140上にカバーガラス16を載置する。その後、封入剤に含有されている溶剤が蒸発し封入剤が固化してカバーガラス16が貼着される。
かかる顕微鏡標本を作成する一連の作業の自動化は、多数の顕微鏡標本を短時間で作成する必要の病院等では強く要請されている。
【0003】
ところで、顕微鏡標本を作成する一連の作業のうち、スライドガラス12に添着された試料10に溶剤含有の封入剤を分注する作業の自動化を図る装置として、特許文献1、特許文献2において、図18に示す分注装置が提案されている。この分注装置は、溶剤含有の封入剤が充填された容器100の上部空間に、コンプレッサー102で圧縮された圧縮空気が加圧管104の圧力調整弁106を経由して供給される。容器100の封入剤は、容器100の上部空間に送られた圧縮空気によって、容器100の下部に端部が挿入された吐出管108を経由して受容器112に送られ、分注ノズル114からスライドガラス12の試料上に分注される。分注量は、所定の時間間隔で開閉する制御弁110によって制御され、且つスライドガラス12が載置された台116は、矢印方向にスライドするため、適当量の封入剤を試料10に沿って分注して所定パターンの封入剤パターン140を形成できる。
【0004】
また、スライドガラス12に添着された試料10に分注されて形成された封入剤パターン140上に載置するカバーガラス16は、通常、複数枚のカバーガラス16がホルダー容器内に積層されて積層体を形成している。このため、積層体の最上位に位置するカバーガラス16をホルダー容器から取り出すことが必要である。しかし、カバーガラス16は、厚さが0.06〜0.25mm程度で且つ積層面が平坦面であり、積層体を構成するカバーガラス16同士は互いに強固に密着している。かかる積層体の最上位に位置するカバーガラス16をホルダー容器から取り出す取出装置として、特許文献3には、図19に示す取出装置が提案されている。この取出装置では、昇降可能に設けられた昇降部材202に、バネ203によって先端部205が下方に付勢されて押圧体204が軸通されていると共に、吸着パッド206が固着されている。かかる装置を用いてホルダー容器200内に収容された、複数枚のカバーガラス16、16・・が積層された積層体の最上位に位置するカバーガラス16aを取り出す際には、昇降部材202を降下させてカバーガラス16aの一端部を、押圧体204の先端部205で押圧すると共に、カバーガラス16aの他端部を昇降部材202に装着された吸着パッド206で吸引する。この際、押圧体204の後端部は昇降部材202の上方にバネ203の付勢力に抗して突出する。次いで、昇降部材202を上昇させ、図18に示す様に、吸着パッド206で吸引したカバーガラス16aの他端部が先に持ち上げ、カバーガラス16aを下方に湾曲させて積層体から分離し、一枚のカバーガラス16をホルダー容器200から取り出すことができる。
【0005】
更に、ホルダー容器200から取り出したカバーガラス16を、スライドガラス12に添着された試料10に分注されて所定パターンに形成された封入剤パターン140上にカバーガラス16を載置・貼着する載置・貼着装置として、特許文献4には、図20に示す載置・貼着装置が提案されている。この載置・貼着装置は、上下動可能に設けられた保持体300に、バネ302によって先端部304が下方に付勢された押圧体306が軸通されていると共に、吸着パッド308が固着されている。かかる装置を用い、スライドガラス12に添着された試料10に分注されて形成された封入剤パターン140上にカバーガラス16を載置・貼着する際には、カバーガラス16の一端部を吸着パッド308で吸着する。この際、カバーガラス16の他端部は押圧体306の先端部304で下方に押圧され、カバーガラス16は他端部が一端部よりも下方となる傾斜状態で保持される。次いで、台310上に水平に載置されたスライドガラス12の方向に保持体300を降下し、カバーガラス16の他端部がスライドガラス10の一端部上面に当接させる。更に、保持体300を降下させることによって、カバーガラス16の一端部側が次第にスライドガラス12の上面に近接する。このため、カバーガラス16は、封入剤パターン140をスライドガラス12の他端部側に押し広げつつ、封入剤パターン140上に載置でき、スライドガラス12とカバーガラス16との間に介在する気泡は、カバーガラス16の押し付けによって押し出される。
尚、カバーガラス16の押し付けが終了したとき又は終了の直前に、吸着パッド308の吸着を停止すると共に、保持体300を上昇させることによって、カバーガラス16をスライドガラス12上に載置できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−157533号公報
【特許文献2】特開昭61−66141号公報
【特許文献3】実開昭58−30636号公報
【特許文献4】特公平3−40367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等は、顕微鏡標本を作成する一連の作業の自動化を図るべく、前述した封入剤の分注装置、カバーガラスの取出装置、及びカバーガラスの載置・貼着装置を組み合わせた顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置を試作した。
かかるカバーガラス貼着装置によれば、スライドガラスに添着された試料に分注された封入剤上にカバーガラスを載置し貼着する一連の作業を自動化することはできる。
しかし、例えば試料に分注する封入剤の分注量やスライドガラス上に形成される封入剤パターンがバラツキ易かったり、装置が大型化し易いこと、或いは一定長以上のカバーガラスを使用できないこと等の種々の課題が判明した。
そこで、本発明の課題は、長さの異なるカバーガラスを自在に用いることができ、小型化を図り得る顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、スライドガラス上の封入剤の分注を開始する位置で分注ノズルの移動を一旦停止して封入剤の分注を開始してから分注ノズルをスライドガラス面に沿って移動することによって、形成された封入剤パターンのバラツキも小さくできることを見い出した。
更に、ホルダ容器内に複数枚のカバーガラスを傾斜状態で積層することによって、積層体の最上位に位置するカバーガラスの傾斜側の一端側を把持した把持具を回動する回動角を小さくできることを見い出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、顕微鏡標本用の試料が添着された複数枚のスライドガラスが収納されたバスケット容器と、前記試料上にカバーガラスが載置されたスライドガラスが収納されるラックとの間に設けられ、水平状態で載置された前記スライドガラスを間欠的に前記ラックの方向に移動する搬送プレートを具備する搬送手段と、前記バスケット容器から取り出した一枚のスライドガラスを、前記搬送プレートの所定の箇所に水平に載置するスライドガラス取出手段と、前記スライドガラス取出手段によって水平状態に載置され且つ前記搬送手段によって所定箇所に搬送されたスライドガラスに添着された試料上に、プランジャポンプ等の定量給液装置によって送液された封入剤を分注する分注ノズルと、前記封入剤の所定量が試料に沿って分注されるように、前記分注ノズルを所定方向に移動する移動装置と、前記スライドガラス上に封入剤の分注を開始する位置で前記分注ノズルの移動を一旦停止し、封入剤の分注を開始してから前記分注ノズルをスライドガラス面に沿って移動するように、前記移動装置及び定量供給装置を制御する制御部とを具備する分注手段と、複数枚のカバーガラスが傾斜状態で積層されてホルダー容器内に収容されている積層体の最上位に位置するカバーガラスを、その傾斜側の一端側を把持した把持具を回動し、下方に凸状に湾曲させて他のカバーガラスから剥離して前記ホルダー容器から取り出すカバーガラスの取出装置と、前記把持具に一端部が把持されたカバーガラスの他端側から一端側の方向に、前記搬送手段によって所定箇所に搬送された前記スライドガラスの試料上に分注された封入剤上に、前記カバーガラスを徐々に載置するカバーガラスの載置装置とを具備するカバーガラスの取出・貼着手段とが設けられていることを特徴とする顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置にある。
【0010】
かかる本発明において、分注ノズルの移動装置には、前記分注ノズルを昇降する昇降装置と、前記分注ノズルをスライドガラスに添着された試料に沿ってスライドし且つ前記スライドガラスの外方までスライド可能とするスライド装置とを設けることによって、分注ノズルをスライドガラスの外方に位置する除去部材の近傍にスムーズに移動することができる。
更に、スライドガラスの外方で且つ分注ノズルの先端部が挿入可能の位置に、封入剤の固化を防止する溶剤が入れられた容器を設けることによって、長時間の休止中でも、分注ノズルの先端部を容器内に挿入しておくことにより、分注ノズルの閉塞を防止できる。
特に、封入剤の分注処理の開始前、休止中、或いは終了後に、分注ノズルの先端部を、封入剤の固化を防止する溶剤が入れられた容器内に挿入するように、分注ノズルの移動装置を制御する制御部を設けることによって、分注処理の休止中等において、分注ノズルの閉塞を容易に防止できる。
【0011】
また、カバーガラスの取出・貼着手段に、複数枚のカバーガラスが傾斜状態で積層されてホルダ容器内に収容されている積層体の最上位に位置するカバーガラスを、その傾斜側の一端側を吸着して把持する吸着具と、前記カバーガラスの他端側を前記ホルダー容器の内壁面に当接させて湾曲状に変形するように前記吸着具を回動する回動装置とを具備し、且つ前記カバーガラスが湾曲状に変形されたとき、前記カバーガラスの一端が当接して下方に曲げられて前記カバーガラスがS字状に変形されるように、前記吸着具の近傍にピンを設けることによって、長いカバーガラスでも容易にホルダー容器から取り出すことができる。
更に、分注手段に、封入剤の分注を停止してから分注ノズルのスライドガラス面に沿った移動を停止するように、前記分注ノズルを移動する移動装置及び前記封入剤を分注ノズルに送液する定量供給装置を制御する制御部を設けることによって、カバーガラスを載置して貼着したとき、カバーガラスとスライドガラスとの間に気泡が混入することのない封入剤パターンとすることができる。
かかる顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置において、試料上にカバーガラスが載置されたスライドガラスが収納されるラックを構成するスライドガラス収納部を形成する支承部に、収納されたとき、前記スライドガラスの側面が当接する当接端を傾斜面に形成することによって、ラックに収容されたスライドガラスの側面に付着した封入剤のスライドガラスの裏面に回り込むことを防止できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置によれば、封入剤パターンのバラツキも小さくでき、且つ長さの異なるカバーガラスを自在に用いることができ、小型化を図り得る顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置を提供できる。その結果、多数の顕微鏡標本を短時間で作成する病院等で好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置の一例の外観を示す斜視図である。
【図2】図1に示す操作パネルの正面図である。
【図3】図1に示す顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置の概略を説明するための概略図である。
【図4】図3に示すバスケット容器34を説明する説明図である。
【図5】図3に示すラック36の構造を説明する部分断面図である。
【図6】図1に示す顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置を説明するための部分斜視図である。
【図7】図1に示す顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置の分注手段を説明する概略図である。
【図8】図1に示す顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置の分注手段を説明する部分斜視図である。
【図9】複数枚のカバーガラスが収容されるホルダー容器の斜視図である。
【図10】図1に示す顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置のカバーガラスの取出・貼着手段分注を説明する概略図である。
【図11】図7に示す分注手段の動作を説明する説明図である。
【図12】図7に示す分注手段の動作を説明する説明図である。
【図13】図11に示す分注手段の動作で形成される封入剤パターンの形状を説明する平面図である。
【図14】図10に示すカバーガラスの取出・貼着手段によるカバーガラスのホルダ容器84からの取出動作を説明する説明図である。
【図15】図10に示すカバーガラスの取出・貼着手段によるカバーガラスのスライドガラス12上に載置動作を説明するための説明図である。
【図16】図7に示す分注手段の動作を説明する説明図である。
【図17】顕微鏡標本の作成工程を説明するための説明図である。
【図18】従来の分注手段を説明するための概略図である。
【図19】従来のカバーガラスの取出手段を説明するための説明図である。
【図20】従来のカバーガラスの載置手段を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置を図1に示す。このカバーガラス貼着装置には、その本体部20に透明カバー22が開閉自在に設けられており、本体部20に操作パネル24が設けられている。更に、本体部20には、封入剤が入った容器26が挿入されている。かかる操作パネル24には、図2に示す様に、操作工程等を表示する表示画面28と各操作のスタートボタン及び停止ボタン、確認ボタン等が設けられており、封入剤の吐出量を調整する吐出量調整ツマミ30及びカバーガラスの載置速度を調整する封入速度調整ツマミ32が設けられている。
この図1に示すカバーガラス貼着装置の本体部20には、図3に示す様に、顕微鏡標本用の試料が添着された複数枚のスライドガラスが収納されたバスケット容器34と、この試料上にカバーガラスが載置されたスライドガラスが収納されるラック36とが設けられている。
【0015】
このバスケット容器34には、図4に示す様に、試料が添着されたスライドガラス12が垂直に挿入された複数個のバスケット38が収容されている。かかるバスケット容器34は、モータ40によって駆動されるワイヤ42により移動可能に設けられている。
また、ラック36は、複数枚のスライドガラスを順次収容すべく、モータ37によって上下方向に移動可能に設けられており、ラック36のスライドガラス収納部には、図5に示す様に、収容されるスライドガラス12の両端部を支承する支承部44が設けられている。かかる支承部44の先端部46は、L字状に曲折されてラック36が傾いてもスライドガラス12が滑り落ちることを防止している。更に、支承部36の奥部48は傾斜面に形成されており、支承部36に挿入されたスライドガラス12の側面が奥部48に当接しても、スライドガラス12の側面に付着した封入剤が、スライドガラス12の側面と支承部36の奥部48との間の隙間を経由してスライドガラス12の裏面側に回り込むことを防止できる。
【0016】
かかるバスケット容器34とラック36との間には、バスケット38からスライドガラス取出手段50によって取り出されたスライドガラス12を間欠的にラック36の方向に移動する搬送手段60が設けられている。
ここで、スライドガラス取出手段50には、垂直にバスケット38に収容されているスライドガラス12の一端部を吸着する吸着パッド52が固着された部材53を上下方向に移動可能とするモータ54と重り56とが設けられている。この部材53には、図6に示す様に、吸着パッド52を回動可能とすべく、本体部20の内壁面に形成されたガイド溝57に沿ってガイドされるガイド棒55が設けられている。このため、モータ54及び重り56によって、吸着パッド52で一端部が吸着されて垂直状に引き上げられてきたスライドガラス12が水平状態となるように、吸着パッド52を回動することができる。
尚、吸着パッド52は、真空吸引機等に一端が接続されたホースの他端に接続されている。
【0017】
この様に、水平状態で取り出されて水平状態のスライドガラス12は、取出手段50の近傍に位置し、スライドガラス12の両端部を支承する支承部材62に形成された凹状の第1ステーション62aに載置される。この支承部材62には、取出手段50からラック36の方向に所定間隔を置いて凹状の第2ステーション62b、第3ステーション62c、第3ステーション62dが順次形成されている。
この第1ステーション62aに水平状態に載置されたスライドガラス12は、搬送手段60を構成する搬送プレート64によって、第2ステーション62b、第3ステーション62c、第3ステーション62dと順次搬送される。かかる搬送プレート64の上面には、複数個の凹部64aが取出手段50側からラック36側の方向に形成されており、その下部には、下方に突起する突起部65が形成されている。この突起部65は、モータ66によって駆動される駆動プーリ67と従動プーリ68a、68b、68cとの間に掛け渡されたベルト69に連結されていると共に、モータ70によって駆動されるカム71によって上下動する。従って、搬送プレート64は、所定位置で上昇して所定方向に水平移動した後、所定位置で下降して反対方向に水平移動することができる。
【0018】
この様な、搬送手段60においては、図3に示す様に、モータ37、40、54、66、70は、制御部1によって制御されている。この制御部1によれば、スライドガラス取出手段50によって第1ステーション62aに水平状態で載置されたスライドガラス12は、上昇した搬送プレート64の凹部64aによって支承部材62よりも上方に上昇し、この状態を保持しつつ第2ステーション62aの位置まで水平移動した後、降下する搬送プレート64に伴って降下し、第2ステーション62bの位置に水平状態で載置される。降下した搬送プレート64は、第1ステーション62aの方向に水平移動し、次のスライドガラス12を搬送する。この様にしてスライドガラス12は、順次各ステーションに搬送された後、ラック36に順次収納される。
かかる各ステーションのうち、第2ステーション62aは、図6に示す様に、封入剤を分注する分注ノズル72の近傍に位置し、第3ステーション62cは、カバーガラスを吸着する吸着パッド90の近傍に位置する。
【0019】
この分注ノズル72を含む分注手段には、図7に示す様に、一端部が分注ノズル72に連結された連結部材73aの他端部に、分注ノズル72を水平移動するスライド装置を構成するモータ73が連結され、且つ連結部材73aの途中に、分注ノズル72を昇降する昇降装置を構成するソレノイド74から延出されたロッド74aが連結されている。かかるモータ73及びソレノイド74は、制御部2によって制御されており、分注ノズル72は、水平方向及び上下方向に移動可能である。かかる分注ノズル72には、容器26の封入剤が定量給液装置としてのプランジャポンプ76によって供給される。このプランジャポンプ76のプランジャ76aを駆動するモータ76bも制御部2によって制御されている。
かかる分注手段によれば、分注ノズル72は、水平状態に載置されたスライドガラス12の長手方向に水平移動しつつ封入剤を分注できる。しかも、プランジャポンプ76は、封入剤の定量性も良好であり、封入剤の分注量のバラツキを小さくできる。
図6に示す分注ノズル72は、スライドガラス12の外方まで水平移動可能に設けられており、スライドガラス12の外方で且つ分注ノズル72が移動可能の範囲内に、廃液トレー78及び封入剤の固化を防止する溶剤が入れられた容器80が設けられている。かかる廃液トレー78には、図8に示す様に、分注ノズル72の先端から垂下された封入剤の液滴(後述する)を除去する板状の除去部材82が立設されている。
尚、容器26から分注ノズル72に至る配管の途中には、封入剤の逆流を防止すべく、チェックバルブ75、77が配設されている。
【0020】
また、第3ステーション62cの近傍には、図6に示す様に、カバーガラスを吸着する吸着パッド90と複数枚のカバーガラスを積層状態で収容するホルダ容器84が設けられている。このホルダ容器84は、水平面内で回動可能に設けられたホルダ容器台85に載置されている。かかるホルダ容器84内には、複数枚のカバーガラスが傾斜状態で積層されて収容されており、積層体の最上位に位置する一枚のカバーガラス16aを、把持具としての吸着パッド90によってホルダ容器84から取り出される。
この吸着パッド90は、図10に示すカバーガラスの取出・貼着手段を構成する。かかる取出・貼着手段には、吸着具としての吸着パッド90が一端部に装着されたアーム86を、その他端部の軸86aを中心にして回動するモータ87と、アーム86が装着されたアーム部材88を上下動するモータ89とが設けられている。更に、アーム部材88には、吸着パッド90の近傍にピン92が装着されている。このモータ87、89は、制御部3によって制御されている。
尚、吸着パッド90は、真空吸引機等に一端が接続されたホースの他端に接続されている。
【0021】
図7及び図8に示す分注手段によれば、水平状態で第1ステーション62aの位置に載置されたスライドガラス12は、搬送プレート64によって第2ステーション62bの位置に搬送され、添着された試料に封入剤が分注される。その動作は、ソレノイド74、モータ73、76bを制御する制御部2によって制御されており、図7及び図8に示す分注手段の動作を図11によって説明する。
分注ノズル72に一端部が連結された連結部材73aの他端部に設けられたモータ73及び連結部材73aの途中に設けられたソレノイド74によって、分注ノズル72は、スライドガラス12の試料上に封入剤を分注しつつスライドガラス12の長手方向(スライドガラス12の外方の廃液トレー78から離れる方向)に移動する〔図11(a)〕。分注ノズル72がスライドガラス12の所定位置に到達したとき、プランジャポンプ76による封入剤の分注を停止すると共に、分注ノズル72のスライドガラス12の長手方向への移動を停止して分注ノズル72を上昇し、廃液トレー78の方向に移動する〔図11(b)〕。分注ノズル72が廃液トレー78の位置まで移動したとき、再度、分注ノズル72を降下させて廃液トレー78から離れる方向に移動する〔図11(c)〕。
【0022】
この際、図11(c)に示すA部の拡大図である図12に示す様に、封入剤の分注を停止している分注ノズル72の先端には、分注ノズル72等に溜まっている封入剤が液滴Bとして垂下されることが多い。かかる液滴Bを付けた状態で封入剤の分注を再開すると、スライドガラス12上に分注される封入剤量にバラツキが発生し易い。このため、分注ノズル72の先端を、廃液トレー78に立設された板状の除去部材82上を通過させ、液滴Bと除去部材82の先端とを接触させることによって、液滴Bを除去する。
次いで、スライドガラス12の所定位置に到達した分注ノズル72から封入剤の分注を再開することによって、スライドガラス12に分注する封入剤の分注量のバラツキを可及的に小さくできる。
かかる封入剤の分注量の調整は、図2に示す操作パネル24に設けられた吐出量調整ツマミ30によって調整できる。
【0023】
図11及び図12では、封入剤の分注を停止している分注ノズル72の先端から垂下された液滴Bを除去した後、分注ノズル72の先端がスライドガラス12の所定位置に到達したとき、封入剤の分注を開始し、分注ノズル72がスライドガラス12の所定位置に到達したとき、分注ノズル72からの封入剤の分注を停止すると共に、分注ノズル72のスライドガラス12の長手方向への移動を停止して上昇させる。
この様な分注ノズル72の移動及び封入剤の分注では、封入剤の種類、例えば低粘度の封入剤によっては、図13(b)に示す如く、スライドガラス12に形成される封入剤パターン14′は、封入剤の分注開始端部Cが先細状となり、封入剤の分注停止端部Dが玉状の太い形状となる場合がある。かかる図13(b)の封入剤パターン14′の形状は、封入剤パターン14′上に分注開始端部Cからカバーガラスを載置して貼着したとき、カバーガラスとスライドガラス12との間に気泡が混入し易い形状である。
この封入剤パターン14′の分注開始端部Cは、封入剤の分注を開始する際に、分注ノズル72内に封入剤が充填されておらず、送液された封入剤が分注ノズル72内に充填されて滴下されるまでに時間が掛かるため、先細状となる。
一方、封入剤パターン14′の分注停止端部Dは、封入剤の分注を停止する際に、分注ノズル72のスライドガラス12の長手方向への移動も停止しているため、分注ノズル72内の封入剤がスライドガラス12上に流出し、玉状の太い形状となる。
【0024】
図13(b)に示す形状の封入剤パターン14′が形成されるような封入剤を用いる場合には、分注ノズル72を所定方向に移動するソレノイド74及びモータ73、及び分注ノズル72に封入剤を送液するプランジャポンプ76の駆動用のモータ76bを制御する制御部2によって、スライドガラス12上に封入剤の分注を開始する位置で分注ノズル72の移動を一旦停止し、封入剤の分注を開始してから分注ノズル72をスライドガラス面に沿って移動するように、ソレノイド74、モータ73,76bを制御する。かかる制御によって、封入剤の分注開始端部Cを、図13(a)に示す様に、太部とすることができる。
更に、制御部2によって、封入剤の分注を停止してから分注ノズル72のスライドガラス12に沿った移動を停止するように、分注ノズル72を所定方向に移動するソレノイド74及びモータ73、及び分注ノズル72に封入剤を送液するプランジャポンプ76の駆動用のモータ76bを制御することが好ましい。この制御によって、封入剤の分注停止端部Dを、図13(a)に示す様に、先細状とすることができる。
図13(a)に示す封入剤パターン14の形状は、封入剤パターン14上に分注開始端部Cからカバーガラスを載置して貼着したとき、カバーガラスとスライドガラス12との間に気泡が最も混入し難い形状である。
【0025】
この様に、第2ステーション62bの位置に載置され、添着された試料に封入剤が分注されたスライドガラス12は、搬送プレート64によって第3ステーション62cに搬送され、図10に示すカバーガラスの取出・貼着手段によって、ホルダ容器84から取り出されたカバーガラスが封入剤パターン14上に載置される。その動作は、モータ87、89を制御する制御部3によって制御されており、図10に示すカバーガラスの取出・貼着手段の動作を図14によって説明する。
モータ89によって、吸着パッド90が一端部に装着されたアーム86を降下し、吸着パッド90及びピン92をホルダ容器84に積層されたカバーガラスの積層体の方向に降下する〔図14(a)〕。降下した吸着パッド90は、ホルダ容器84内に収容されている積層体の最上位に位置するカバーガラス16aの傾斜側の一端側を吸着する〔図14(c)〕。かかる吸着パッド90と共に降下したピン92の先端は、吸着パッド90が吸着した位置よりもカバーガラス16aの傾斜端側の上方に位置している。
【0026】
次いで、モータ87(図10)によってアーム86を回動し、カバーガラス16aの他端側をホルダー容器84の内壁面に当接させつつ、カバーガラス16aを湾曲状に変形する〔図14(c)〕。この際、湾曲状に変形されたカバーガラス16aは、その一端がピン92の先端部に当接して下方に曲げられてS字状に変形される。この様に、カバーガラス16aをS字状に変形することによって、単に湾曲状に変形しても他のカバーガラスから剥離することが困難な長いカバーガラスでも容易に剥離できる。従って、カバーガラス16aを単に湾曲状に変形することによって、他のカバーガラスから容易に剥離できる短いカバーガラスの場合には、湾曲状に変形されたカバーガラス16aの一端が、先端部に当接しない位置にピン92を設けてもよい。
【0027】
この様に、ホルダ容器84内から取り出されたカバーガラス16aは、吸着パッド90に一端部が吸着されて傾斜状態で取り出され、モータ87及び89によって、図15に示す様に、支承部材62の第3ステーション62に載置されているスライドガラス12に、カバーガラス16aの他端側から当接し、カバーガラスの一端側の方向に徐々に載置されるように、アーム86を回動する。この際、アーム86の回動速度をモータ87の回転速度を調整することによって調整できる。この調整は、図2に示す操作パネル24に設けられた封入速度調整ツマミ32によっても行うことができる。
また、アーム86の回動速度を、カバーガラス16aの他端側が当接した後、封入剤の特性や分注速度等の関係からカバーガラス16aとスライドガラス12との間の空気を追い出し易いように、徐々に遅く或いは徐々に速くするように、モータ87の回転速度を調整してもよい。
【0028】
以上、説明してきた顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置において、バスケット容器34のスライドガラス12の封入が完了し、次のスライドガラス12を装着する等の場合、封入剤の分注を一時休止する。かかる場合、分注ノズル72内の封入剤中の溶媒が飛散して分注ノズル72が閉塞するおそれがある。このため、図7及び図8に示す分注手段では、制御部2によって、図16に示す様に、スライドガラス12の外方で且つ分注ノズル72が移動可能の範囲内に設けられた、溶剤が入れられた容器80内に分注ノズル72の先端部を挿入する。封入剤の分注の休止が比較的短い場合、分注ノズル72の先端部は、溶剤の液面と容器80の口との間の空間部に挿入しておくことで分注ノズル72の閉塞を防止できる。この空間部は溶剤雰囲気となっているためである。
一方、封入剤の停止期間が長期間、例えば一週間以上となるような場合、分注ノズル72の先端部を溶剤の液中に浸漬することが好ましい。
【0029】
従来、分注処理の休止中や終了時、分注ノズルの先端部を放置しておくと固化し易いため、分注ノズルの先端部を手動によって溶剤の液中に浸漬していたが、極めて煩わしい作業であった。
この点、図7及び図8に示す分注手段では、溶剤が入れられた容器80内に分注ノズル72の先端部を自動的に挿入できるため、煩わしい手動作業を自動化できる。
また、従来は、短時間の休止中でも、分注ノズルの固化防止のため、分注ノズルの先端部を溶剤の液中に浸漬していたが、分注開始の際、分注ノズルの先端部に進入した溶剤を封入剤で置換する置換作業が必要であった。
この点、図7及び図8に示す分注手段では、封入剤の分注の休止が比較的短い場合、分注ノズル72の先端部を、溶剤の液面と容器80の口との間の空間部に挿入して固化防止を図るため、この置換作業を不要とすることができ、封入剤の無駄をなくすことが可能となった。
尚、以上の説明では、図1〜16に示すカバーガラス貼着装置を制御部1〜3によって制御しているが、一つの制御部で制御してもよいことは勿論のことである。
【符号の説明】
【0030】
10 試料
12 スライドガラス
14 封入剤パターン
16、16a カバーガラス
36 ラック
37、40、54、66、70、76b,87,89 モータ
50 スライドガラス取出手段
60 搬送手段
62 支承部材
64 搬送プレート
72 分注ノズル
74 ソレノイド
76 プランジャポンプ
80 溶剤が入れられた容器
82 除去部材
84 ホルダ容器
90 吸着パッド
92 ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡標本用の試料が添着された複数枚のスライドガラスが収納されたバスケット容器と、前記試料上にカバーガラスが載置されたスライドガラスが収納されるラックとの間に設けられ、水平状態で載置された前記スライドガラスを間欠的に前記ラックの方向に移動する搬送プレートを具備する搬送手段と、
前記バスケット容器から取り出した一枚のスライドガラスを、前記搬送プレートの所定の箇所に水平に載置するスライドガラス取出手段と、
前記スライドガラス取出手段によって水平状態に載置され且つ前記搬送手段によって所定箇所に搬送されたスライドガラスに添着された試料上に、プランジャポンプ等の定量給液装置によって送液された封入剤を分注する分注ノズルと、前記封入剤の所定量が試料に沿って分注されるように、前記分注ノズルを所定方向に移動する移動装置と、前記スライドガラス上に封入剤の分注を開始する位置で前記分注ノズルの移動を一旦停止し、封入剤の分注を開始してから前記分注ノズルをスライドガラス面に沿って移動するように、前記移動装置及び定量供給装置を制御する制御部とを具備する分注手段と、
複数枚のカバーガラスが傾斜状態で積層されてホルダー容器内に収容されている積層体の最上位に位置するカバーガラスを、その傾斜側の一端側を把持した把持具を回動し、下方に凸状に湾曲させて他のカバーガラスから剥離して前記ホルダー容器から取り出すカバーガラスの取出装置と、前記把持具に一端部が把持されたカバーガラスの他端側から一端側の方向に、前記搬送手段によって所定箇所に搬送された前記スライドガラスの試料上に分注された封入剤上に、前記カバーガラスを徐々に載置するカバーガラスの載置装置とを具備するカバーガラスの取出・貼着手段とが設けられていることを特徴とする顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置。
【請求項2】
ラックを構成するスライドガラス収納部を形成する支承部には、収納されたとき、前記スライドガラスの側面が当接する当接端が傾斜面に形成されている請求項1記載の顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置。
【請求項3】
分注手段には、封入剤の分注を停止してから分注ノズルのスライドガラス面に沿った移動を停止するように、前記分注ノズルの移動装置及び前記封入剤の定量供給装置を制御する制御部が設けられている請求項1又は請求項2記載の顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置。
【請求項4】
分注ノズルの移動装置には、前記分注ノズルを昇降する昇降装置と、前記分注ノズルをスライドガラスに添着された試料に沿ってスライドし且つ前記スライドガラスの外方までスライド可能とするスライド装置とが設けられている請求項1〜3のいずれか一項記載の顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置。
【請求項5】
スライドガラスの外方で且つ分注ノズルの先端部が挿入可能の位置に、封入剤の固化を防止する溶剤が入れられた容器が設けられている請求項1〜4のいずれか一項記載の顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置。
【請求項6】
分注手段には、封入剤の分注処理の開始前、休止中、或いは終了後に、分注ノズルの先端部を、封入剤の固化を防止する溶剤が貯留された容器内に挿入するように、前記分注ノズルの移動装置を制御する制御部が設けられている請求項1〜5のいずれか一項記載の顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置。
【請求項7】
カバーガラスの取出・貼着手段には、複数枚のカバーガラスが傾斜状態で積層されてホルダ容器内に収容されている積層体の最上位に位置するカバーガラスを、その傾斜側の一端側を吸着して把持する吸着具と、前記カバーガラスの他端側を前記ホルダー容器の内壁面に当接させて湾曲状に変形するように前記吸着具を回動する回動装置とを具備し、
且つ前記カバーガラスが湾曲状に変形されたとき、前記カバーガラスの一端が当接して下方に曲げられて前記カバーガラスがS字状に変形されるように、前記吸着具の近傍にピンが設けられている請求項1〜6のいずれか一項記載の顕微鏡標本のカバーガラス貼着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−217936(P2010−217936A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156403(P2010−156403)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【分割の表示】特願2000−76477(P2000−76477)の分割
【原出願日】平成12年3月17日(2000.3.17)
【出願人】(000148025)サクラ精機株式会社 (28)
【Fターム(参考)】